★ スタホ殺人事件 ★
連打と恋心
WBCTがディープとハーツ、SWBCがバイアリーとダーレーのワンツーで決まり、馬券は一気に固くなりつつあり、場は平静さを取り戻しつつあった。
中山金杯は相変わらずプレイヤー馬が殺到する傾向にあるが、今回も7頭が出走している。
「バカのひとつ覚えかよ…」
居闇の隣、15番サテに座っている神戸と師匠面した居闇が2頭ずつ出走させている。
その4頭が4頭とも10倍以上のオッズだ。
駿介にはどうやったらこんなオッズでGVに出走できるのか理解できない。
9サテに座っている亞穂菜という女性のスウィートポテトが2.6倍で1番人気だ。
彼女のスウィートポテトは父がカーリアン、母がシーキングザパールのバリバリ初代馬である。
「彼女は初代馬でこのオッズだぜ。居闇の奴、何年スタホやってんだよ。」
駿介は頭の中で居闇の全く進歩のない育成スタイルに呆れていた。
レースも4角回って直線に入ると、左から「カチカチカチカチ」というペイボタンを連打する音が一斉に大きくなる。
居闇と神戸が必死になってペイボタンを連打している。
「あのね…」
駿介は呆れて2人を眺めていた。
直線に入って、先行したC馬とスウィートポテトに、2番人気のプレイヤー馬キャラメルラメラメがいい脚で迫り、杉本アナの「スウィートポテトはスピードがあるぞ」の連対確定実況が既に流れている。
それでも2人は顔を真っ赤にしてペイボタンを連打し続けた。
周りからしたらいい迷惑だ。勘違いも甚だしい。
「ボタン連打で馬が勝てるならみんなやってるし、そもそもスタホはボタンを叩くゲームじゃない。ボタンがそんなに叩きたいなら「DOC」でやってくれ。あれこそ叩かなきゃ馬はちっとも走らない。まさに君たちの求めるゲームだよ。」
そんなセリフが駿介の頭の中を一気に駆け巡った。
居闇と神戸の馬は掲示板に1頭も載らなかった。
『駿介さん、このあとどうしたらいいと思います?』
@着になったスウィートポテトのこのあとについて、亞穂菜が駿介に聞きにきた。
亞穂菜はスタホ2を始めたばかりだったが、初めてスタホしたときにたまたま隣に駿介が座っていて、亞穂菜にスタホの説明をしていた店員の早間くんが最後に手を抜いて「あとはこの人に教えて貰ってくださいね。」と断りもなく駿介を指差して仕事を放棄したため、駿介が亞穂菜のスタホの先生になってしまったのである。
『勝ったから引退して新しく馬を作ってもいいし、GUに格上げしてもいいんじゃない?』
『はい。じゃあ、GUに出してみます。』
嬉しそうに亞穂菜が自分のサテに戻っていった。
駿介はそもそもこうしたことが苦手だった。
スタホのプレイ中は自分のプレイに集中したい。
『駿介…。』
情けない声で伊井が声をかけてくる。
『わかってる、わかってるって…。』
実は伊井は亞穂菜に一目惚れしていたのだ。
駿介はその話しを先々週、スタホ後に『日高屋』でビールを飲みながら聞かされた。ちょうどビールを飲もうとしたところだったため、口に含んでいたビールを思い切り吹き出し、伊井の顔がビールまみれになったのだった。
駿介自身、2枚目のキャラでもないし、性格もいいとは思っていない。
その駿介から見ても、伊井が女性から好意をもたれる外見と性格だとは思えない。
そのことを考えると駿介の気持ちは一気に暗くなった。
「なんだかなぁ…」
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