★ スタホ殺人事件 ★
小さな変化
駿介がコーラ2本を持ってサテに戻る途中、トイレ行く伊井とすれ違った。
「先に行っておけよ。」
駿介は苦笑いしながらサテに戻った。
ステイヤーズステークスは3角を曲がったところだった。
「あれ?」
駿介は自分のサテに違和感を感じた。コーラを買いに席を立った時、自分はサテの画面を競馬場にしていたはずだ。しかし、今、駿介のサテには牧場画面が表示されている。
すぐに厩舎時間が経過し、競馬場画面に自動的に切り替わった。
「伊井が覗いたのか?」
一瞬そう考えたが、今まで伊井は一度も駿介のサテを勝手に触るなんてしたことはない。
「誰かが勝手に触ったのか?」
不安が広がる。
『お〜、危ねえ、危ねえ。』
伊井が走ってサテに戻ってくるなり駿介に話しかける。
『なんだよ、そんなに慌てて。』
『いや、だってWSJS出さないと。ゆっくり小便もしてらんねえ。』
『だから先に行っておけって。』
『やっと駿介とWSJSの勝利数並んだから、ここで抜いて狙うはホテルマンさんだからな。』
ブルースカイのWSJS勝利数は、1位がホテルマンさんの19勝、2位が駿介と伊井の17勝だ。先週の土曜までは駿介と伊井には3勝差がついていたのだが、駿介がプレイしていない日曜日と火曜日で、伊井が一気に3勝の固め撃ちをやってのけたのだった。
『今は馬よりWSJSの楽しみかよ。』
少し冷たい口調で駿介は伊井に返しながら買ってきたコーラを手渡した。
伊井は嬉しそうにしながら2人の騎手の登録を済ませた。
駿介も2人の騎手のうちメイン騎手だけ登録し、先程のサテ画面のことを思い出していた。
「一体誰が…俺が忘れたか?」
釈然とせず、何度もそのことを繰り返し考えていると、レースはあっと言う間にゴールデンブーツトロフィになっていた。
『リーチ、リーチ。』
伊井がやけにご機嫌だ。
ハッとして画面を見ると、伊井のメイン騎手「ナカザワ ユウコ」が36ポイント稼いでトップに立っている。しかも今回4.8倍のA番人気に騎乗している。
『何だよこれ!』
思わず駿介がサテを見て声をあげてしまった。駿介のメイン騎手「デビット イトウ」は3ポイントで108倍のL番人気に騎乗している。
あまりにもさきほどのことを気にし過ぎていたため、全くレースのことなど気にしていなかったのだ。今回L番人気騎乗で3ポイントということは、第1グループから第3グループまで騎乗した前3戦は全てK着以下ということだ。
厩舎画面に切り替えてメイン騎手の成績を見てみると
GスパーTH人気K着
GホイップTA人気K着
GサドルTD人気K着
まるで奇跡のような連続K着である。
「ご愁傷様。」という伊井の言葉に自嘲気味に笑ったあと、駿介はさきほどのことを思い出していた。
『うっそ〜!』
伊井の大声で駿介は我に帰った。
最後の直線、猛然と追い込んで来たのはデビット イトウ騎乗のL番人気の馬、ナカザワ ユウコ騎乗のA人気のP馬は首が垂れて馬群に沈んでいく。
『そ〜してそしてA着には○○○がくっついてきたぁ〜』
杉本アナの特殊実況を耳にした時に、駿介は自分の騎手から馬券を買わなかったことを思いっきり後悔していた。
「バカバカバカ…」
頭を抱え込んで悔しがるが後の祭り。
虚しく大画面モニターの左上にセガ的中の表示があがっていた。
隣の伊井は
『そんなぁ…』
とガックリと肩を落としていた。A着に来た横山典弘が、同点でナカザワ ユウコに並び、WSJSの優勝を攫っていったのだった。
駿介の頭からあのサテの画面が切り替わっていたことは、すっかり消えていた。
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