★ スタホ殺人事件 ★
死体
轟が現場に到着すると、そこには幸町交番の巡査が現場保全の管理にあたっていた。
『鑑識は?』
轟が訊くが
『今、こちらに向かっているそうです。』
と緊張した面持ちで巡査が答えた。
『わかった。君は野次馬が中に入って来ないよう、入口で整理にあたってくれ。』
轟が巡査に指示すると、巡査は敬礼して廃工場の入口に向かった。
『轟さん、害者は犯人に左胸を一差しされたことによる出血死みたいですね。』
まだ刑事なりたての町田刑事が、被害者の様子を見て轟に報告する。
『そんなことは見ればわかる。だが、決めつけるのはどうかな?鑑識の結果も見てみないとな。』
『それはそうですが…。』
轟は下半身にブルーシートがかけられている死体を見つめながら腕組みして考えた。
「殺しの事件(ヤマ)はいつ以来になるだろう…」
轟が小田中南署に着任してから2年半になる。
東京への通勤可能なこの地域は、ベットタウンとしてここ数年急速に発展してきてはいるが、昔ながらの城下町の風情も残し、昔からの地元由来の人たちが多いこともあり、比較的平穏無事な毎日が続く、落ち着いた街である。
隣の小田中中央署は、特に近年の発展がめざましい地域を所轄していることもあり、一家4人殺人事件やシャブ中の人質立て籠もり事件など、テレビの全国ニュースになるような事件も発生している。
轟の前任地は、大都会のまさに繁華街を所轄しており、毎日右に左に飛び回っているような状態のところであったので、小田中南署に着任して暫くは平和過ぎて暇を持て余す毎日が続いていた。
間もなく鑑識チームが到着して、現場検証が始まった。
轟は暫く現場検証を見守ったあと、廃工場の外へ出た。
『愚連隊さん』
廃工場入口の立ち入り禁止のロープのそばまで来た時に、ロープの外で中の様子を窺っている男に声を掛けられて立ち止まった。
声に反応して振り返ると、そこには「日旬新聞社」の観音寺記者が立っていた。
『おいおい、その呼び方はやめてくれよ』
『すまんすまん。』
『流石に全国紙の「日旬新聞社」の敏腕記者は、事件となると早いねぇ〜、ダイエットさん。』
『わ、わかったから悪い悪い』
観音寺記者がしきりに頭を掻きながら轟に詫びた。
『ま、今はお互い仕事だから、頼んますよ、ホントに…。』
轟が半分冗談、半分本気の表情で観音寺に話し掛けた。
『どお?現場は。』
『あぁ、今現場検証中だからね。それ以外何も言えないよ。』
『相変わらずお堅いねぇ〜。』
『仕方ないだろう、仕事なんだから。』
『ハイハイ、わかりました、愚連隊どの('◇')ゞ』
『このぉ〜、そんな態度とると、シュアリーズンSWBC出した時に、アイシンクソーぶつけちゃうぞ』
『お〜怖い怖い、それは勘弁願いますわわかりましたよ〜。』
轟は「わかればいい」とにっこり笑ってから、現場検証中の廃工場の敷地奥へ戻って行った。
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