★ スタホ殺人事件 ★
墓穴
駿介と伊井は、何とも居心地の悪い時間を過ごしていた。
まるで異次元空間に迷い込んだかのように、自分が何をしたら良いのか、ちっとも思いつかない。
ここに似つかわしい話題など2人は持ち合わせていないのだ。
周りでは『昨日のNEWS格好良かった』とか『嵐がハチャメチャやってた』とか言っているが、台風の季節でもない。
そりゃ一応、山Pや松潤のいるジャニーズの話なのはわかるが、わかるのはそれくらいで、中身の話題になどはとても入れない。
駿介のジャニーズネタと言えば、櫻井くんの父親がかつて自分の上司だったことと、男組の誰だったかの親族の葬儀に焼香に行ったことくらいだ。
伊井に言わせると、それも熱狂的な追っ掛けのファンから見たら垂涎ものらしいのだが。
相変わらず亞穂菜はテーブルに乗ったパフェを美味しそうに頬張りながら幸せそうな顔を見せている。2人の存在などないかのように。
『はぁ…。』
駿介が深い溜め息を漏らすと
『あれ?駿介さん、苺大福食べないんですか?あたし、いただいちゃいますよ』
と嬉しそうに言うよりも早く右手が駿介の目の前の苺大福に伸びる。
『うん、いいよ。』
駿介は幸せそうに苺大福を頬張る亞穂菜を見ていると、呆れるのを通り越して何だか自分も少し嬉しくなってくるような気がした。
『なんだよ、亞穂菜ちゃんの顔見てニヤニヤして…。』
伊井に言われて駿介がハッとして言い返す。
『そ、そんなことねぇよ』
慌てて否定したが、内心ビクッとした駿介。
『何の話し?』
亞穂菜が2人のやりとりに割り込んできたが、駿介が
『な、なんでもないっ。』
と必死に否定した。
『だって、駿介さん、そんなに必死に否定するんだもん、なんか怪しい〜』
亞穂菜が興味深々、話題が何なのか食いついてくる。
『ホントに何でもないよ。』
駿介は自分でも情けないほどオロオロしているのがわかる。
一方で伊井は亞穂菜の関心が駿介に向いているのが気にくわないらしく、少しふてくされ気味に頬を膨らまして腕組みして2人のやり取りを見ている。
「この雰囲気は勘弁してよ…」
駿介は状況を打開するため
『亞穂菜ちゃん、次どこ行く?』
と話し掛けた。
途端に伊井がずっこける。
「おいおい、八兵衛はどうすんだよ」
伊井は頭の中で駿介に突っ込みを入れる。
『次?もちろん決まってるわよ。』
亞穂菜がさも当然といった表情で答える。
『き、決まってるんだ』
『うん、決まってる。』
駿介はようやく自分が墓穴を掘ったことに気がついて伊井に助けを請うべく視線を移すが、伊井は「おまえなぁ…」と明らかに呆れている様子の表情を見せた。
『あの…、ちなみに次ってどこ?』
恐る恐る駿介が亞穂菜に問い掛けると、「もうお腹一杯」といった態度を一瞬取った亞穂菜が
『内緒ですよ行けばわかります』
とニコニコしながら答えた。
恐らく2人には楽しくないところなんだろうと、駿介と伊井は思わず顔を伏せた。
[←][→]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!