★ スタホ殺人事件 ★
刺客A
ゴール前の4頭の争いは激しかったが、タニノギムレットが一番不利に見えた。
大画面モニターで見る限り、『レッドブルータス』は『レジェンドレクイエム』に差し返されているように見えた。
大外突っ込んできた『ピンクサファイヤ』が勢いは一番いい。
隣で居闇が「ガッ」という何とも言えない奇声をあげた。
『レッドブルータス』は頭が垂れていたらアウトの位置。スロー再生が始まる。
完全に首の上げ下げ勝負だったが、首が伸び切っていたのが『レジェンドレクイエム』、首が上がっているのが『レッドブルータス』、首を伸ばしかけているのが『ピンクサファイヤ』。
ゴール板では『レジェンドレクイエム』がハナ差前、外からハナ先伸ばした『ピンクサファイヤ』がA着、『レッドブルータス』はハナ差−ハナ差のB着だった。
『うがーっ』
居闇が写真判定を見て唸り声を上げてサテを右の手のひらで叩く。
「バチーンッ」
一際大きな音がして、サテに座っていたプレイヤーの殆どが後ろを振り向いた。
駿介にも居闇がサテを叩き割ったのかと思えるほどの大きな音だった。
居闇はみんなの視線を気にする風もなく、憮然とした表情でサテを睨みつけ、両腕を組んでいた。
駿介はすぐに振り返り、居闇から視線を伊井に移した。
伊井は右手を握りしめて「どうだやったぜ」と言わんばかりの表情と態度を駿介に示した。
駿介は思わず頬の筋肉が緩んだ。
駿介の視界に亞穂菜の姿が映る。
亞穂菜は前回と違い、満面の笑みで伊井に
『悔しい〜でもすごく興奮するレースだったね。もうゴール前叫びそうになっちゃった。』
と話し掛けた。
『亞穂菜ちゃんも勝ちたかったよね、ダービー。ごめんね。』
伊井の鼻の下が伸びているのが駿介にはわかった。
「伊井、デレデレ情けない顔してんなよ。」
と頭の中で思いながら伊井と亞穂菜の会話を聞いていた。
「案外、この2人って相性良いんじゃないの?」
そんなことをあれこれ思うと、駿介は吹き出しそうになる。
「いやいや、伊井と亞穂菜ちゃんだろ?完全オヤジ化している伊井が、結構美人系のキリッとしている亞穂菜のストライクゾーンに入っているとはとても思えないよなぁ…。」
あれこれ余計なことを考えてしまう駿介。
「俺があと少し若かったら、亞穂菜ちゃんは彼女候補だったかもな…。いやいや、あのキツい性格は俺には無理だ…。」
そんなことをボーっと上の空で考えていたら、突然目の前に亞穂菜の顔が飛び出してきた。
『どうしたの?』
不思議そうな表情で亞穂菜が駿介をのぞき込んできたのだった。
『うっ、うわっ』
思わず声をあげた駿介は、座っていたサテでずりさがって驚いた。
『ひど〜い、あたしの顔見てなんでそんなにずっこける訳?信じらんな〜い』
亞穂菜の頬がぷくっと膨れる。
『い、いや、考えごとしてたら、突然亞穂菜ちゃんの顔がバーンと目の前に来たから驚いたんだってば』
駿介は本当に心臓が止まるかと思ったほどだった。
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