★ スタホ殺人事件 ★
激震A
駿介がどこを捜しても『シグマヴォルテクス』の姿はなかった。
『どういうことだよこれ』
駿介は思わず声を荒げたが、どうにもならない現実がそこにあった。
『有り得ないだろう、誰かが抹消したとかじゃなきゃ。』
伊井が駿介のサテの横に立って覗き込む。
『なんてこった…』
駿介の身体から力が抜けてサテのシートに身体を深く沈めた。
ハッとして駿介が立ち上がり、カウンターに向かった。カウンターに着くと、先ほど言葉を交わした女性店員に
『今、スタホのサテ掃除していた店員とかいない』
と訊いた。
あまりに勢いよく駿介が訊いたので、カウンターで伝票を整理していた女性店員が驚いて「ヒャッ」と声をあげ、右手に持っていたボールペンを床に落とした。
『ごめんごめん、驚かしちゃって。』
駿介は謝ってからもう一度尋ねた。
『今の時間、スタホの担当は誰?』
女性店員がほっぺたをフグのように膨らませて
『もう驚かさないでくださいよ。心臓止まるかと思っちゃいましたよ。』
『本当ににごめん。』
『特にスタホの担当とかってないですけど、メダルエリアの担当は早間さんと鈴成さんのはずですよ。早間さんはたった今、お昼休みで外に出ちゃいましたけど。』
女性店員がにっこり笑って教えてくれた。
『ベルさんは?』
駿介が訊くと女性店員は訝しげに首を傾げた。
『あぁ、ごめんごめん、鈴成さんは?』
『な〜んだ、ベルさんて鈴成さんのことかぁ。鈴成さんなら今日は半日であがりましたよ。』
店員の鈴成さんは駿介のスタホ仲間で、駿介のサブ店舗で一緒にスタホをしていて、馬に「ベル」の2文字を使うのでベルさんと呼んでおり、ついついベルさんと言ってしまったのだ。
『ありがとう…』
右手を挙げてお礼を言って駿介はサテに戻りながら考えた。
「早間くんが戻ったら訊いてみるか…」
サテに腰をおろすと、駿介はなんとも言えない虚脱感を感じた。
『シグマヴォルテクス』を作るのにどれだけ我慢したんだろう…
連闘プレイヤーが勝ちまくる横でじーっと我慢してGUホールドで勝ち継承、残り漬けて120週継承。継承してまたGUホールドで勝ち継承の繰り返し。ほかのプレイヤーがGTやWBCで一喜一憂しているのを横目に見ながら、コツコツとライド餌を与え、怪物(下)からサラ(中)にランクダウンしてがっかりしたり、引き戻して喜んだり、牡牝の組み合わせが合わずに泣きそうになったり、全ては『シグマヴォルテクス』を生産するために我慢に我慢を重ねてきたのだ。
ようやく目指すべき状態に辿り着き、師匠であるザパンさんに掲示板に配合相談をして、「これでSS引けなかったら、スタホ嫌いになるよ。大丈夫、期待して配合ボタン押しましょう」のレスを見た時は涙が出そうになった。
そんな思い入れの詰まった『シグマヴォルテクス』が消えた。
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