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頂き物の小説
第1話「始まりはいつも突然、旅立ちはいつも必然……たまには偶然があったっていいじゃないか」
















ーこれから語られる物語は、きっとどこにでもあるお話ー





ー古き鉄を受け継いだ少年が少女達と紡ぐドタバタした日常のお話ー





ーそして、その中で出会う、「守護者」の名を持つ勇者とのつながりのお話ー







ー勇者と少年が願うことはただひとつー











ー平和に過ごさせて。お願いだからー











「はぁ……これから2週間、書類の海で溺死する状態が続くのか……
 グッバイお休み。グッバイ『さ○ば電王』……」

《そう思うなら話を受けなければよかったじゃないですか》

「あの流れで断れるはずがなかったってわかった上で言ってるよね? それ」



 話を終え、時空管理局・本局のとある部屋から出ると同時、僕、蒼凪恭文はその場に崩れ落ちた。落ち込んだ気分のまま、パートナーデバイスであるアルト――正式名称はアルトアイゼン――と言葉を交わす。

 そりゃ落ち込むよ。何しろここしばらく休みナシだったところにある部隊への出向依頼。そしてそのための準備期間すら、今残してある書類仕事を後腐れなく処理するために費やさなければならないんだから。

 おかげで『さ○ば電王』を完全にあきらめるハメになった。うん、きっとグレてもバチは当たらないと思うんだ。



 というか、せめて休みはちょーだいよっ! リアルに過労死できそうな勢いなんですけどっ!?



「こういう時、パートナーのトランスフォーマーがいる人はいいよね。
 何だかんだで手伝ってくれるんだろうから」

《いるじゃないですか。
 エクシゲイザーとかブレイズリンクスとか……》

「どっちも仕事で一緒になって共闘しただけでしょ。
 しかもどっちも正パートナーいるんだし。すずかさんとか知佳さんとか」



 そんな話をしながら、僕はなんとか立ち上がり、トボトボと廊下を歩いていく。



「こうなったら、僕も探そうかな? パートナートランスフォーマー」

《そして二人して書類の海におぼれるワケですか。
 忘れていませんか? パートナーになれば、相手の方にも仕事は割り振られるんですよ》

「だよねー……」













 今から10年くらい前、僕達の暮らしていた世界は劇的な変化を遂げた。

 街中の車や飛行機――乗り物に擬態して、人間社会に溶け込んで暮らしてきたロボット生命体“トランスフォーマー”の存在が全世界に対して明らかになったのだ。



 当然、そんなのが身近に隠れ住んでいたのがわかって、パニックにならないはずがなかったけど……その混乱はあっけなく終息した。

 理由は簡単。

 そんなことを気にしてられない、もっとシャレにならない事態がその後に起きたからだ。





 全宇宙を飲み込みかねないトンデモ現象“グランドブラックホール”の出現だ。





 しかもそこには、ちょっと厄介な事情がからんでいた。

 僕らの生まれた宇宙――第97管理外世界にはプライマスとユニクロンっていう、対になったトランスフォーマーの神様がいたんだけど、その一方、ユニクロンが自分の力を増大させるために惑星そのものを食べようとして、その惑星を引き寄せる手段としてそのグランドブラックホールを利用していたんだ。

 その結果、グランドブラックホールの被害は自然現象の域を超えて拡大。僕らの住んでいた地球だけじゃない。トランスフォーマーの暮らしていた別の星、セイバートロン星やスピーディア、アニマトロスにギガロニア……いろいろな星がその猛威にさらされ、滅びそうになった。セイバートロン星やアニマトロスなんか、一時はホントに飲み込まれた。

 そんな、そこらの三文SFも真っ青な、言葉そのままの意味の“全宇宙の危機”に、人間とトランスフォーマーは一致団結。なんとかグランドブラックホールを消滅させ、グランドブラックホールを悪用したユニクロンも倒すことができた。





 とはいえ、僕はそのあたりのことを詳しくは知らない。

 何しろ、僕がこっちの世界に関わり始めたのはその後の話だから。当時は完全にカヤの外で、情報もろくにないまま事態を見守る側の人間だった。
 けど……関わり始めて、いろんなことがあって、いろんな人達や、いろんなトランスフォーマーと知り合いになった。

 まぁ、さらにいろんなことがあって、結局僕はトランスフォーマーのパートナーがいないままなんだけど……

 ……とりあえず、さっきからモノローグに「いろんな」を乱発してるのは勘弁ね? それくらい「いろんな」ことがあったんだから。





 けど……さっき話したユニクロンの一件、そこで完全にすべてが終わったワケじゃなかった。





 つい先日……次元世界の中心、ミッドチルダでひとつの事件が起きた。

 公式には“JS事件”“レリック事件”と呼ばれているそれだ。

 簡単に言うと、広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティが管理局に対してかちこみをかました事件なんだけど……そこにユニクロンに仕えていたトランスフォーマーの残党が横槍を突っ込んできたせいで、事件は最後の最後でとんでもないどんでん返しを迎えることになった。

 スカリエッティが持ち出してきた巨大戦艦“聖王のゆりかご”。ユニクロン軍はそれをユニクロンの新しい身体として再利用しようと考えたのだ。

 おかげで不完全とはいえユニクロンはミッドチルダに降臨。ミッド地上を舞台に、みんなは神様を相手に大ゲンカを繰り広げるハメになった。

 ちなみにその残党さん達は途中から暴走を始めたユニクロンに食われてあっけなく途中退場。まったく、しでかしたことの責任も取らないで途中退場なんて、いい迷惑にもほどがあるよ。

 まぁ、ユニクロンの復活が不完全だったおかげで、なんとか再び倒すことができたんだけど。





 ちなみに、僕はこの一件にも直接関わっていない。

 ……いや、裏側ではちゃんと関わってたのよ? この一件に絡んでバチバチやり合ってたのよ。ただ、みんなの見えるところで暴れてなかっただけで。





 そして今回もトランスフォーマーのパートナーはできないまま。相手の中にはトランスフォーマーもいたっていうのに、ガチでやり合うハメになった。勝ったけど。





 でも……最近、トランスフォーマーのパートナーを持つのも悪くないかな、と思うこともないワケじゃない。

 いればいろいろ便利だろうし。移動とか……あと書類仕事だとか。





 今度の出向先にフリーのトランスフォーマーがいたら、ちょっと声かけてみようかな……?


















とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第1話「始まりはいつも突然、旅立ちはいつも必然……たまには偶然があったっていいじゃないか」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 さて、それはともかくとして……さっきのやりとりだけじゃ、何がどーなって僕が頭を抱えるハメになったのか、詳しくわからない人もいると思う。

 そういう人のために、少しばかり時間をさかのぼって語らせてもらうと――





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……ここは時空管理局・本局の中にある部屋のひとつ。





 それは提督用の執務室――要するにえらーい人の専用オフィス。

 部屋の中には机がひとつ。書類などを補完する棚が二つ。

 あとは、来客用のソファーと机なんてのも置かれている。

 ただ……どこの温泉のステッカーですかそれは? 前々から思ってたけど、仮にも提督権限持ってる人間のオフィスにそんなの置かないでくださいよ。






 つーかなんでオフィスの中にししおどしがあるんですか。確か艦長時代はアースラの中の部屋にも設置してましたよね?

 艦船って水の管理がデリケートなんですからやめましょうよ。きっとみんな泣いてますよ?





 などと考えつつも、表情は真剣だったりする。

 ……いや、話の内容自体はマジメだしね。そこは真剣にやらないといけません。





 相手のこの部屋の主であるえらーい人……ようするに提督さんだね。で、その提督さんは仕事用の机に座って、僕の目を見ながら詳細説明の真っ最中。

 僕はというと、その前で直立不動で話を聞いている。





 普段ならジーンズにジャケットという格好でもいいのだけど、一応お仕事モードで提督さんに会うので今日は仕事着。

 武装隊の男性用アンダーウェアを着ている。あ、色は青ね?

 一般の武装局員はこの上からバリアジャケットを着たりするので、アンダーウェアとはいえ一応戦闘用なのだ。

 そういうこともあり、この服も特殊素材で出来ていて防御能力はそこそこ。このまま戦闘してもいいくらいである。っつーかできる。





 そして何より……かっこいいっ!

 男の子である以上この問題は不可避! 何よりも最重要事項!

 どんな不文律もこれの前には全て無に帰るのですよ。うんうん。





 正直な話……僕としては陸海空のどの制服よりもかっこいいし、素敵だと思う。

 そういう事もあって、仕事をする時はいつもこの服を身につけている。即戦闘でも問題ないしね。





 もちろん、“ちゃんとした形で”部隊に所属していたら、こんなことは許されない。

 同じ制服を階級による装飾の差はあっても全員が身につけるというのは、規律を守るという意味でも必要なのだ。“統一の美”とか何とか言うらしいけど。

 ただし……僕はその限りではない。

 理由は簡単。“ちゃんとした形で”部隊に所属しているワケではないからだ。





 こんなモノローグをやりつつも……僕と目の前にいる人との話は結論に入ろうとしていた。





「……というわけですので、嘱託魔導師・蒼凪恭文さん。
 あなたに時空管理局・遺失物管理部“機動六課”への出向を依頼します」





 今、僕にそう告げたのはひとりの女性。

 翡翠色の長く潤いのある髪を後ろに束ねており、とてもではないけど二人の孫がいるとは思えないほどの美貌の持ち主。





 この人の名はリンディ・ハラオウン。さっきも言ったけど、管理局・本局務めの提督さんという偉い人だ。

 僕が公私共に長年お世話になっている人のひとり。世間様で言う所の保護者というか身元引受人というか……まぁ、そんな感じ。





 で、僕はリンディ提督直々に仕事を依頼されているワケだ。しかも、内容もなかなかすごい。





 内容は、ある部隊への出向命令。ようするに「その部隊で働いてね」ってお願いである。





 その部隊の名は“時空管理局・遺失物管理部・機動六課”。

 今年の4月に発足され、あの“JS事件”を解決へと導いた奇跡の部隊である。



 ただ……“JS事件”を解決させたはいいけど、その事後処理やら何やらで通常業務が少々滞っており、それを解消するために、そこに出向しろというのだ。

 ……まぁ、一応、あの部隊には知り合いもいるのでそこそこやりやすいと思う。

 加えて、先ほどリンディさんから提示された報酬金額もかなりのもの。これで引き受けない手はない。

 まぁ、そういうのを抜きにしても、リンディさんには魔導師になってからずいぶんお世話になっているので、その辺りも考えると答えはひとつだった。
















「お断りします」
















 その瞬間、世界が凍りついたのは言うまでもない。

 リンディさん、お願いだからそのフリーズした顔はやめてください。そしてため息を吐かないでください。



 でもね、聞いてください。僕の話を聞いてください。5分だけでもいいから聞いてください。断るのにはちゃんと理由があるのよ。

 こっちは、あの楽しい楽しい祭りが終わるまで、これまた某提督さんの依頼で仕事してたのよ。休みなしでね。

 わかりやすく言うと……今日の時点で、大体一ヶ月くらい休みなし?

 そんなワケですから、お願いですから、しばらく休ませてください。いや、ホントに。買って開封してないゲームとかもあるんですから。



 そういうのは抜きにしても、しばらくは平和に過ごしたいのよ。

 戦いを終えた戦士には休息って必要でしょ? ほら、仮面○イダーしかり、ウル○ラマンしかり、セー○ー戦士しかり。ちゃんと休まないと、戦えないのよ。

 それなのに、なんで休みなしのぶっ続けでそんなイワク付きな部隊に突っ込んでいかなきゃならないのさっ!? おかしいでしょどう考えてもっ!



 ……いや、仕事するのがイヤとかじゃないの。うん、そこは本当。

 ただ……部隊に常駐って好きじゃないの。何より『今行く』のがイヤなの。

 あれだよ、どうしてもって言うなら、年明けからとかならいいよ? 充分休めるだろうし。



 つか、嘱託魔導師ってどっかのカラス傭兵ばりに自由なくせして、なぜか福利厚生の対象にもなっているのよ。

 なので、あんまり休みとか取ってなかったり、有給も消費していないと人事の人とかに怒られるし。といいますかついさっき顔見せたら泣かれたし。あれじゃどこぞの横馬と変わらないよ。

 なので、僕としてはぜひ今日からその辺りにしっかりと協力を……




















「それで、六課への出向の日程ですが……」





 シカトする気かい。





「すみませんが、今回はお断りさせていただきますので」

「向こうは出来るだけ早く来てほしいとの事で……」

「行きませんから」

「とは言え、あなたの都合ももちろんあると思います。なので」

「ムリですって」

「遅くとも、二週間後には向かってもらうことに」

「では、そういうことなので失礼しましたっ!」



 そう言うと、180度回れ右して早足で部屋を立ち去ろうとする。



 けど――ドアが開いて部屋を出ようとした瞬間、誰かに肩をつかまれた。

 ……って、誰かなんて考えるまでもないけど。



「待ちなさいっ! まだ話は終わっていませんよっ!?」

「話も何も、行かないって返事したじゃないですか。
 『依頼の承諾の判断は、各個人に委ねられる』って局のマニュアルにも書いてますよね?」

「ただ行きたくないと言われただけで納得できると思いますか? ちゃんと理由を言ってください」

「部隊に常駐なんてイヤです。めんどくさいの嫌いなんです」

「却下します。仕事に忌避は持ち込んではダメよ」



 あぁ、なんつーもっともらしいことをっ! そう言われたら反論できないじゃないのさっ!

 ……仕方ない、マジな話をしよう。



「……休ませてください」

「……………………はい?」

「ほんとに休みたいんです。リンディさんも知ってるじゃないですか。僕この数ヶ月ホントに頑張ったんですよ?
 必死ですよ? 全力全開ですよ? そしてスルーですよっ!?」

「最後のひとつは関係ないでしょっ!? フェイトさんに言ってちょうだいっ!」

「気にしないで下さいっ!」

「するに決まってるでしょっ!?
 というか、それを言うならジュンイチくんなんて自分を見てる子達全員分をまとめて総スルーよ!? 私やクイントさんが今まで何人から相談を受けたと!?」

「あの人はあらゆる意味で規格外じゃないですかっ!
 そもそもあの人はそれこそ今の話と関係ないしっ!」



 むむ……ヤバイ、話が脱線してきた。

 別にこのまま話をそらして逃げてもいいけど、この状況でヘタにうやむやにすると、そのうやむやさにつけ込んで受けたことにされてしまう可能性の方がはるかに高い。

 なので、逃げは却下。きっちり言うことは言って、断ることにする。



「……まぁ、そことか目立ったところは、憎たらしいことに全部六課のあやつらに持っていかれたこととかはいいですよ。
 僕が言いたい事は……ただひとつだけです」



 思いっきり頭を下げる。というか、泣く。



「お願いします、休ませてください。本当に休ませてください。つーかこれ以上未開封のゲーム増やしたくないんです……」



 軽く涙目になってきた僕の様子にため息をつきつつ、リンディさんはこう言った。



「わかりました」

「え? いいんですかっ!?」



 やったー! これでゲームが出来るし、たまったアニメや特撮も見れる〜♪

 あ、『さらば電○』、もう公開されてるし、地球に行ってくるかな? よし、けってーい♪





「六課部隊長には、定期的に休みを出すように私からお願いしておきます。
 向こうはレリック事件が解決して、24時間体制も解除になると思いますし、大丈夫でしょう」





 違あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうっ!



 そういうことじゃないよっ! 頼むから一ヶ月とか呑気に隠匿生活を送らせてくれって言ってるんですけどっ!?

 そして、それだと『さらば○王』見れないじゃないかよっ! モモ達の最後のクライマックス見たいんだよこっちはっ!





「ですから、二週間後に出向してくださいと言っています。……それだけあれば休みとしては十分でしょ?」



 ええい、そんな魅力的なウィンクしても今回はだまされんぞっ!

 幾度となくそれに振り回された経験が告げてるのよっ! 絶対に引き受けるなとっ!



「どこがですかっ! 大体、僕の方だって自分の後処理やらがまだ済んでないんですよっ!?
 それを放り出してなんて、それこそナンセンスでしょうがっ! しかもあの人、遠慮なしに追加の報告書の作成とか命じるしっ!
 それ終わらせて、準備して……なんてやってたら完全に休みなしじゃないですかっ!」



 アンタ死ねと? 僕に死ねというのかっ!? こっちは現時点で書類に溺れて溺死しそうなんだよっ!



「なら仕方ありませんね。提督権限で強制的に出向してもらいましょうか。今日からお願いしますね」

「……リンディ提督、人間、権力を盾にかざすようになったらおしまいですよ。
 つか、僕は言いましたよね? 『そんなマネしたら、暴れますよ?』と。ということは、現段階で交渉決裂ですね。
 うし、いくか。僕が暴れるのとジュンイチさんに言いつけてあの人に暴れてもらうのと、どっちがいいですか?」

「……あの、お願いだからその眼はやめてくれないかしら?
 というか、セットアップしようとするのはやめてほしいわ。ウィンドウ通信の回線を開くのもやめてくれないかしら?
 安心して。さすがにそんなことしないから」



 気にしないでいただきたい。つーか、そんなマネはぜひ止めてほしいです。はい。権力者として超えちゃいけない一線ですよ?



「……お願い。出向の話を受けてくれないかしら?
 私個人としても、あなたが一番適任だと思うの」



 ……って、そんないきなりお仕事モードオフにしないでくださいよ。戸惑うじゃないですか。

 といいますか――



「僕がいてもそんなに役に立ちませんよ?
 事件は解決してるワケですし、なのは達だったらなんとかするでしょ。鉄火場とかならまた話は別ですけど」



 そう。そこが一番の疑問点。



 六課は相当のエリート部隊な編成になっている。なんか反則気味な最強チート部隊ともささやかれているくらいだ。

 実際、部隊が設立されたときには、あの方々がいれば世界のひとつや二つは救えるんじゃないかってウワサが飛び交うくらい位のノリで、戦力が整えられていた。



 確かに機動課というのは、“古代遺物(ロストロギア)”なんていう物騒なもんを扱うので、部隊員はエリートやら、特殊な能力持ちぞろいというのが定説。

 だけど、それすらブッチギリな勢いだったのだ。そんなウワサが飛び交うのも当然と思った。



 というか、本当に救って見せたし。いろんなところの助力を得てなんとか、だけど。

 冗談まじりで救えるんじゃないかって言ってたヤツが腰を抜かしたのは、言うまでもないだろう。



 とにかく、今はゴタゴタしていて仕事が滞っていると言っても、それくらい優秀な人間がどっさりいれば、近い内に業務は通常どおりになっていくだろう。

 戦闘要員だけじゃなくて、バックヤード……事務的なことを請け負う人間まで、未来のエリート揃いなんだから。逆に何の問題があるのかわからない。

 つまり……そこにフリーの魔導師ひとりをよこしてどうするのかがさっぱりわからないのだ。

 いや、現在進行中で事件が起きてるとかならわかるけど、解決直後だよ? ありえないって。



 もっとわからないのは、いくらあやつらと知り合いだからと言っても、僕をよこすことに何故にここまでこだわるのかが正直わからない。

 どうしても人が欲しいんならジュンイチさんとかに頼めばいいワケだし。あの人自身がチートが服来て歩いてるような人だし、それでなくても優秀な人材のあてなら山とあるはずだし。



「そんなことないわ」



 けど、僕の疑問に対し、リンディさんは首を横に振りながらそう言い、さらに言葉を続けた。



「あなたは確かに、ちょっとアレなところがあるけど……」



 さて、帰るか。書類片付けなきゃいけないし。それにジュンイチさんにもこの件は報告しておかないと。



 よし、すぐに地球に行くか。……時間の波を捕まえて〜♪ たどり着いたね、約束の〜場所♪

 以心伝心、もうま〜てな〜い♪



「お願いだから待ってっ! そして話は最後まで聞いてっ!?
 何よりジュンイチくんに言いつけるのはやめてっ!」

「答えは聞いてないっ!」

「何言ってるのあなたっ!?
 ……そうなのね、私のことが……嫌いなのねっ!?」

「そうですが何か?」



 あ、なんかうずくまった。

 ……あー、これフォローしなきゃいけないの? うん、いけないんだね。わかってた。



「お願いですから、泣かないでください。さすがに罪悪感がわいてきますから」

「……とにかくよ。あなたの実力は私も、そしてなのはさんにはやてさん、フェイトさんもアリシアさんもよく知ってる。もちろん、ジュンイチくんもね。
 あなたの実力は、決して彼女達に見劣りするものじゃないわ」

「魔導師ランクAですけど」



 なのはもフェイトもはやても、あと師匠達も、みんなSランクor二アSランク魔導師じゃないですか。

 そしてジュンイチさんは師匠達をネタ技まじりに一蹴できる実力者。足元にもおよびませんって、私。



「それを言うならジュンイチくんはランクなしよ?
 あなたや彼のランクが低いのは、二人して昇格試験を受けないからでしょ? 実際はそれより上なのはみんな知っていることよ。
 何より……本当にAランクレベルなら、そのSランク魔導師を相手に互角の戦いなんて、できるワケないもの。
 いえ――実際勝ってるわよね。何度も」



 だって、魔導師ランク上がっても嘱託魔導師の仕事にはあんま関係ないし。

 つか、「互角」って言うな。かなり苦戦するんだから。ひどい時には死にかけるんだから。

 あと、それでも勝ってるのは勝たなきゃ死ぬからだよ。人間死ぬ気になれば炎も出せるしオーバーSにも勝てるもんなの。

 よーするに、火事場のクソ力ってヤツですよ。おわかり?



「と言いますか、六課に行くのは事務仕事やるためってことですよね? それならなんでいきなり魔導師としての実力の話になるんですか」



 正直、それならどっか本局付きの事務員数人送ってほしい。

 ゴタゴタしててダメとかぬかすようならさっきみたいに“提督権限”使えばいいワケだし。

 それで僕の休みが確保されるならきっと素晴らしいことだと思う。



「……そうね。その通りだと思うわ」

「だったらそれで……」

「でも、そういうワケには行かないの」



 だから、なんでそうなるっ!? それじゃ振り出しでしょうが!

 ……そんな僕の疑問に対して、リンディさんはちゃんと答えてくれた。ただし、表情は重く、暗いものへと変化させてから。

 あー、ひょっとして地雷踏んだ? 失敗したかこれは。



「あの子達は今、とても傷ついているわ。
 “奇跡の部隊”なんて周りはもてはやすけど、実際はそうじゃない。
 今回の勝利は本当に……ギリギリで勝ち取ったのよ」



 傷……ついてる? ギリギリ……

 僕はその言葉の意味を考える。そして、ひとつの結論に達した。そして、頭が痛くなった。





「……リンディさん、正直に答えてくださいね?



 みんな……そんなにヤバかったんですか?」



 “JS事件”で管理局側の中核を担った六課は、当然のように相当な激戦を潜り抜けた。

 一応知り合いなので、その辺りはメディアなどで広報されているよりは……少しは詳しい形で知ってる。もちろん機密に触れない程度に、だけど。

 みんなは、その戦いのダメージがまだ抜けきってない。そういうこと?



 でも、みんなからのメールでは、大丈夫って……







 ……いや、あやつらのことだからそう言うに決まってるか。

 たとえ……身体がどんな状態でも。





「その通りよ」

「特になのはですか?」



 僕の知る限り一番ムチャするのはあの横馬だ。あとは……



「えぇ。あとヴィータさんも一時は……って、あなたは知ってるわよね」

「なかなかハデにケガしたけど、もう退院したから心配ないって本人から連絡来ました」



 そう、師匠だ。入院って聞いてちとびっくりしたよ。

 ま、事後連絡で有無を言わせないのが師匠らしいよ。おかげで見舞いにも行けないと来たもんだし。いや、行ける余裕すらなかったけど。



「あの子らしいけど……言っておくけど、ハデどころじゃないわ。危うく死ぬ所だったわ」

「はぁっ!?」



 なんでも、敵地内部に突入した師匠は、そこの動力炉破壊のためにハッスルしまくったらしく、パートナートランスフォーマーであるビクトリーレオの助けもない状況下で相当数のヤツをひとりで相手したそうだ。

 その結果――



「大ケガしたと。それも……瀕死の重傷」

「えぇ。
 傷自体は出動中に治癒魔法で処置を受けて、とりあえずは治ってるそうなんだけど……あくまでも“とりあえず”。傷はふさがっても体力面まではそうもいかない。完全回復するまでにはもう少しかかるそうなの。
 ただ、今はもう現場に復帰しているそうだから安心していいわよ?」



 そこまでの戦いだったんですかい。

 それならそうと言ってほしいんですが……ったくあの人は。



 うし、会ったら一言言ってやる。なんで黙ってたのかと。知ってたらアイス作って見舞いに速攻で行ったのにと。



「とにかく、もし“レリック事件”のような事に六課が対処する事になった場合、今のなのはさん達が本調子で対応できるかどうかは微妙なのよ」



 いや、対応できないでしょそれじゃ。そもそも本調子かどうかすら、考えるまでもないし。

 というか、そんな状態なのにまた何か起きたらあのチート部隊に頼るつもりですか? 局の上層部は。





 ……いや、頼るしかないのか。

 六課は人間勢だけでもなのはやフェイト、はやてに師匠達守護騎士さんもいるワケだから。

 そしてトランスフォーマー勢も、ビッグコンボイにスターセイバー、ビクトリーレオのようなサイバトロン元総司令官組を始めとして、誰も彼もが凄腕ぞろいときた。

 その上民間協力者で凄腕さんやら未来のエースさん達やらがゾロゾロと……現状で言うと、教導隊みたいな特殊なのを除くと、局内で一番戦力が整っている部隊なのだ。

 対し、一般的な地上部隊は事件のダメージでガッタガタ。これで何か起きても、機動六課以外はハッキリ言って戦力外もいいトコ。ろくに立ち直っていない部隊が大半なのだ。

 どのくらいひどいかっていうと……事件が起きて、出ていったところで返り討ちになって、被害が上積みされた上で六課に話が……なんて展開が簡単に予想できてしまうくらいに。



 ……いや、みんなだったら、そんなのとは関係なくなんとかしようとするに決まっている。なんていうか、お仕事大好きワーカーホリック的なんだよね。

 局員としての使命感とか、そういうのに燃えてるのよ。何人かは僕と同じ嘱託のクセして、それはもうすごい勢いで。



 マテマテ、そう考えると今の六課ってそうとう危ない状態なんじゃないのっ!?

 ただでさえこの一件で管理局の威厳ガタ落ちだし、そのせいで犯罪率も少し上がっているって言うし。



「その通りよ。
 ……あの子達、本当にムチャするから」



 あー、そうですね。僕も人の事言えないですけどなんていうか……一般人が止められないレベルでムチャしますからね。

 正直アレは迷惑なんで止めて欲しいですよ。



 特に今だよ今っ! 主に僕に迷惑かかってるし。





「まぁ、今ので理解出来ました。
 ……万が一に備えて、戦力補強のために、今回の件で特にその手のダメージが残ってない僕を六課に仕向けるってことでいいですよね?
 で、この話は他の部隊員には、当然内緒……と」



 ようやく意図を悟った僕の言葉に、リンディさんがうなずく。

 なるほど、後処理の手伝いってのは表向きの理由ってことですか。この話が六課の部隊員にバレると、色々と面倒そうだし。



 でも、それなら僕より強いヤツを何人か送るとかした方がいいんじゃ?

 正規の局員でいるでしょ。あとは、ちょいムリだけど教導隊とか“Bネット”とかならゴロゴロと。



「正規の局員を増援として送るのは今は難しいわ。あなたも知っていると思うけど、まだどこの部署も事件のせいでゴタゴタしているもの。
 特に地上部隊は、実質のトップがいなくなった事が大きいわ」



 それは知っている。実際、今の僕がかなり大変な事になっているのだ。

 特に、地上部隊の最終的なトップであった最高評議会が壊滅したこと。

 そして、彼らが今回の一件に一枚かんでいたというスキャンダルによって地上部隊の大半はガタガタだ。さっきの話とは別の意味で。



 ……確かに、そんな状態で各部隊から腕利きの人間を呼んで仕向けるっていうのは、厳しいかもしれない。

 ここまでの状況だと、きっと運営体制やら戦力やらの見直しも行われるだろうし、その時にそういう人間がその見直し計画の一部に入らないワケがない。



「その通りよ。
 それに、あなたの言う通りに教導隊から何人も『事務仕事の手伝いのために来ました』なんて……送れないでしょ? いくらなんでもムリがありすぎるわよ。
 “Bネット”に至っては管理外世界の組織なワケだし、ますます『事務仕事のために』なんて名目は使えないわ」



 まぁ、そうですよね。つまり、対外的に強いのが有名なのとか、外部の組織である“Bネット”の人達とかは送れないってことか。だって、送ったらバレるし。

 どっか呆れ気味なリンディさんの言葉に、僕は一応同意しておく。



 休み……無しなのかな……いや、まだっ!

 ここであきらめてなるものかっ! あきらめたらそこで試合終了! 人の歩みを止めるのは絶望じゃなくあきらめ!



「その点あなたなら、立場上すぐに動けるし、あの子達とも知り合いでやりやすい。
 そこにさっき言った通り、実力はあるときているんですもの」



 そうして、リンディさんの顔が近くなる。というか、まっすぐに見つめてくる。



「恭文くん、お願い。あなたの事情も理解はしてるの。だけど、今、なんとか出来るのはあなたしかいないの。
 あの子達の力になってくれないかしら」



 いや、だから僕は仕事が……書類の海はどうしろと言うんですか。



「それなら問題ないわ。
 実を言うと、あなたの今の依頼主……というか、クロノの方にはもう話していてね。
 許可ももらってるの。書類の方も、多少だけど大目に見てくれる話になってるから」

「……しっかりと退路を断つのは止めてほしいんですけど?」



 リンディさん、舌をぺロっと出してもだまされませんよ? 可愛いとは思いますけど。

 っつーか……奥の手あっさりつぶされたしっ!



 くそ、いざとなったらクロノさんに、ここ数ヶ月の労働基準法無視な僕の働き振りとかを盾に休みを要求しようと思ったのに。

 もしくは、あの告白してきた女性局員の事。市井の人々やエイミィさんや師匠やアルフさんにバラすとか言って、守ってもらおうと思ったのに……

 あれですか、そんなに僕を働かせたいのかハラウオン家はっ!?



「だって、あなたはこうでもしないと動いてくれないでしょ?
 ……もちろん、休みについては貴方の要望に出来る限り応えられるようにするから」



 僕の事をじっと見つめ、そう言ってくるリンディさん。

 瞳と表情に、懇願するようなものが見えるのは気のせいじゃない。というか、辛い。



 ……あぁもうっ!





「リンディさんってほんとにずるいですよね」

「ちょっと、いきなりひどいわねっ!?」

「だってそうじゃないですかっ!
 そんな話をされて、根回しまでしっかりとされて、僕が断れると思いますっ!?」

「……なら、六課への出向。受けてくれるの?」



 ……ぶっちゃけ、イヤです。単発ならともかく、六課は解散まであと半年近くある。それまでずっと常駐なのだ。

 行動に制限は付くだろうし、自由は効かなくなるだろうし……気が重いのも事実。



「でも、この状況じゃあ、もうそうするしかないでしょう?
 それに……そんな状態のなのは……はまぁいいや」

「ちょっとっ!?」





 どーせひとりで突っ走ってムチャしたに決まってるんだし、自業自得もいいとこだよ。というワケでなのははどうでもいいっ!



 あ、どうでもよくないか。絶対フェイトや師匠に心配かけたに決まってるし、会ったらいじめておこう。

 あれだよあれ。魔王呼ばわりしてやる。そして泣かせてやる。僕の休みが無くなったという悲しみの涙に溺れさせてやる。



「フェイトや師匠は絶対に放っておけないですし」

「……なのはさんは放っておいてもいいのね?」

「いや、そんなことしませんよ? フェイトと師匠に怒られるに決まってますし。
 ってーか、なのはの場合僕がほっといても周りがほっとかないでしょう?」



 ……リンディさん、なんでそんなに呆れたような顔するんですか?



「いえ、あなたとなのはさんがそういう付き合い方しているのは知っていたけど……
 怒られなければ……放っておいていいの?」

「まぁ、信頼関係にヒビが入らない程度に。
 彼女ってワケでもないのに、深いとこまで面倒見切れませんから。
 そういうのはユーノ先生とか“世話焼き・オブ・世話焼き”のジュンイチさんに丸投げですよ丸投げ」



 さて、頭を抱えたリンディさんは放っておくとして、これでいよいよ引けなくなった。



 どこまで出来るかは分かんない。あんまり気が進まないのも事実。



 でも、だけど……



「やれるだけのことはやります。でも、リンディさんも六課へのフォローよろしくおねがいします。
 ……僕ひとりに全部押しつけたら、本気でしばらく行方くらませますからね? そしてジュンイチさんに言いつけますからね?」



 モモ達の劇場でのクライマックスを見逃すことが決定したのだ。それくらいのことはしてもらわなきゃ……ごめん、やっぱり泣いていいかな?



「わかったわ。こちらもできる限りの事をします。
 ……恭文くん。ありがとうね」

「いいですよ別に。その代わり……」



 僕は、右手の人差し指を一本、上にピンと立てて、言い切った。



 そう、これで確定。後戻りなどできなくなった。



 だから、しっかりと念を押しておく。





「これが終わったら、たっぷりと休暇をもらいますから」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 そんなワケで。

 ようやく手にしたつかの間の平和を享受するヒマなんてなく、僕はまた新しい戦いに赴くことになった。



 そう、僕は足を踏み入れたのだ。



 勝利を勝ち取った次元世界の女神達と共に戦う道へと……



 そして、彼女達を支えた勇者と共に歩んでいく道を……





 ……あ、女神ってのはなのは以外ね? あやつは魔王であり冥王であり若○ボイスの似合う女ですよ。うんうん。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「つまり……新メンバー、か……?」

「うん」



 今聞かされた話を頭の中でまとめ、確認を取るオレの言葉に対し、高町なのはは鼻をこすりながらそう答えた。

 なお、鼻をこすっているのはちょうど直前にくしゃみをしたからだ。体調でも崩したのかと聞いたら、「誰かがウワサしてるのかも」とのこと……だと思う。

 「とのことだ」と断定できないことを責めるなよ。いきなり「また意地悪されたような気がしたの。またね、魔王とか……冥王とか……若○ボイスが似合うとか言われたの」とか言われたら、貴様らとてリアクションに困るだろう?



「……またかよ」

「時間的には、リンディ提督が話をなされている頃だしな。十二分にあり得る」



 しかも、なのはと並び立つヴィータ・ハラオウンやシグナム・高町はその言葉にあっさりと納得してうんうんとうなずいていたりするし……うん。本当にワケがわからん。



 ……少し出遅れた感もあるが、とりあえずは自己紹介しておこう。

 オレの名はマスターコンボイ。第97管理外世界、セイバートロン星出身のロボット生命体“トランスフォーマー”だ。

 以前はなのは達ともいろいろあったワケだが、現在はなのは達と共にここ、機動六課に身を置き、この部隊のヤツらを守るために“コンボイ”をやっている。

 こら、そこで「名前がコンボイなのに『“コンボイ”をやる』っていうのは文法的におかしいだろ」とか思ったヤツ。そういうヤツらのために、もう少し捕捉してやろう。



 トランスフォーマーの社会は原則として民間人とそれを守る義勇兵によって構成される“サイバトロン”と軍用タイプを中心とした“デストロン”、この二つの勢力に別れている。

 その“サイバトロン”のリーダーの多くが名乗っているのが“コンボイ”の名なワケだが、その名には“守る者”、すなわち“守護者”という意味がある。

 つまり、“コンボイ”というのはそれぞれの所属するコミュニティを守る者が名乗る名であり、同時に役職、称号でもあるのだ。



 なお、本来ならコンボイを名乗る者は自分達の住まう星、世界全体を守るのが通例なのだが、オレは機動六課のヤツらだけに守る対象を絞っている。

 そう考えると他で大マジメにやっているコンボイ達ににらまれそうだが、顔も知らないヤツらのために命を賭けて戦う気になどなれないのだから仕方がない。

 見ず知らずの一億人よりもひとりの顔見知り。オレにとってはそれで十分だ。





 さて、話を戻すが……とりあえずなのは。最後のなんとかボイスについてはよくわからんが、“魔王”と“冥王”は否定できんと思うぞ。



「そんなことないよ!
 マスターコンボイさんも何気にひどいよ!」

「日ごろの戦いぶりがアレではそうも思う」



 オレの言葉になのははその場に崩れ落ちるが――悪いな。貴様の落ち込みに付き合うつもりはない。容赦なく話を進めさせてもらおう。



「それで? その新メンバーというのは?
 まさかとは思うが、またひよっこではあるまいな?」



 そう尋ねてオレが見やるのは、傍らで共に話を聞いていた“元”ひよっこ達だ。



 スバル・ナカジマ。

 ティアナ・ランスター。

 エリオ・モンディアル。

 キャロ・ル・ルシエ。



 他にもいるが、先日までさんざん戦いまくったツケで入院していたり、その後処理でよそに出向いていたり、事件に関わるためにずっと休んでいた学校に戻っていたり、といった具合でそれぞれに留守にしており、今同席しているのはこの4名だけだ。



 それはともかく、この4人。六課発足当初はまだまだ新人の域を出ないひよっこだったのだが……さまざまな戦いを経て、今ではいっぱしの戦力として場を任せられるまでに成長した。

 まぁ、その辺りの詳しいことはウチの作者のサイトで掲載してる『魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜』を読んでくれ。けっこう長い話だがな。



 閑話休題。



 結果として、新人どもはまだまだ教えることはあるものの、とりあえず現場で手がかからない程度には成長してくれた。

 なのに、せっかくこれから楽ができると思っていたところにまた新人、というのは勘弁してほしい。人に教えることを仕事にしているなのは達はよくてもオレがめんどうだ。

 だが――その心配は杞憂だったようだ。先ほどのオレの問いに、なのはは笑顔で答える。



「ううん。
 マスターコンボイさんの心配しているようなことはないよ」

「あたしらの知り合いに、そこそこ腕の立つフリーの魔導師がいてな。そいつを呼ぶことにしたんだ」

「本来であれば正規の局員を呼ぶのがいいのだろうが、お前達も知っている通り、今はどこの部隊もゴタゴタしているからな。
 手の空いていて、すぐに呼び出せて、その上能力もある人間というと……アイツしかいなかった」



 告げるなのはに付け加えたのはヴィータ・ハラオウンとシグナム・高町だ。うなずき、なのはが説明を引き継ぎ、続ける。



「蒼凪恭文くんっていう男の子でね。
 ヴィータ副隊長も言ってたけど、私達とはずっと前からの友達。
 それで後見人のリンディ提督から話を聞いて、すぐに準備してきてくれる話になってるの」



 話を要約するとこうだ。

 事件の事後処理の手伝いとして、知り合いの魔導師をひとり呼んだからよろしくしてやってくれ、と。



 なら、オレの答えは決まっている。
















「知ったことか」
















 …………うん。間違ったことは言っていないはずだ。

 いや、間違いか正しいかはこの際置いておくとしても、少なくともオレならそう答えるであろうことは容易に予測できたはずだ。ここにいる全員、それなりにオレの人となりはわかっているはずなのだから。

 だからなのは、固まっていないで戻ってこい。ヴィータ・ハラオウン、貴様も「やれやれ」と言わんばかりにため息をつくんじゃない。

 オレだって、別にそいつのことが気に食わないとかそういう理由で突き放しているワケじゃない。ちゃんと理由、基準があってのことなのだから。

 その理由とは――



「悪いがそいつについてどうこう考えるのは、そいつのことを知ってからだ。
 実力的にも人格的にも、オレはそいつのことを何ひとつ知らない。そんな段階から軽々しく判断など下せるか」



 ということだ。

 あいにくとオレはそのアオナギヤスフミとかいう男について何も知らないのだ。そいつとどう向き合うか、その判断を下すための材料が決定的に不足している以上、今の段階から判断を下すようなリスクを冒すつもりはない。



「容赦ないなー」



 オレの正パートナーとしてとなりに並び立っているスバルが苦笑するが、ここは譲るつもりはない。

 担当していた事件が解決し、今後大きな戦いはそうそうないとしても、それでもオレ達は“戦力”としてここにいる。すなわち“戦”う“力”だ。

 それはつまり、戦いの場で命をかける者だ、ということだ。自分の命がかかっているのに、どんな形であろうと信用のできないヤツに背中を任せる気になどなれるワケがなかろうが。

 「同じ局員なんだから」などというくだらない理由で信じるなんてつもりもない。そうやって無条件に身内を信じて事態が悪化した例だってあるのだ。

 具体的には周りのヤツらが過保護すぎたせいで増長したなのはがティアナ・ランスターともめにもめた一件とか。



「ま、まぁ、マスターコンボイの言うことも一理あるかな?
 実際、私達以外はヤスフミのことをぜんぜん知らないんだし」



 一方、そんなオレの言葉に苦笑しながらもそう答えてきたのはフェイト・T・高町だ。

 そう――フェイト・T・“高町”だ。フェイト・T・“ハラオウン”ではない。

 原作では“ハラオウン”姓のコイツが“高町”姓なのは……まぁ、この場では「いろいろあった結果」とだけ言っておこう。今までの流れがなのは達側の正史をそれはもう豪快に逸脱した展開を見せてくれたからな。これもそのひとつということだ。



 ちなみに、彼女について原作と違う点はもうひとつ。

 原作ではすでに執務官として第一線で活躍している彼女だが、こちらの歴史では執務官どころか嘱託のままだ。

 つまりヤツは嘱託のまま、この機動六課の捜査主任を務め上げたことになる――試験運用部隊ならではの柔軟な人事だとは思うが、今回の話とはあまり関係ないのでおいておく。



 では、なぜヤツが執務官になっていないのかというと……10年前の“GBH戦役”で名を売りすぎたのが直接の原因なんだそうだ。

 なのは達は当事のサイバトロン軍と協力し、グランドブラックホールとユニクロンの脅威からミッドチルダを始めとした多くの世界を救った――その実績を上層部の政争に利用されることを恐れたハラオウン家が、彼女やなのはの正式な局入りを渋ったのだ。

 スカウト魔として知られるハラオウン家家長、リンディ・ハラオウンがそういう決定をしたことは当時周りの人間を相当に驚かせたらしいが……それほどまでに事態は深刻だった、と解釈してもらえればいいだろう。

 多少解説が脱線したような気もするが……とりあえず、“こちらのフェイトは高町姓”、“まだ嘱託の執務官候補”という二点だけを理解しておいてもらえれば読者的には問題ないだろう。



 ………………よし、新規読者向けの補足完了。



「でも……ヤスフミはいい子だよ? そこは保証する。
 できれば、みんなとも仲良くなってもらいたいな」

「はい!」

「わかりました!」



 そんなフェイト・T・高町の言葉に対し素直に答えるのは新人どもの中でも年少組、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエだ。

 だが二人とも、今のオレの話を聞いていたか? アオナギヤスフミのことをオレ達は何も知らないということを話していただろうが。簡単に信用できるはずがないと話しただろうが。

 なのに自分の保護者が保証したとたんに即決か。相手が相手とはいえ無条件に信じすぎだ。そんなことでは社会にひとり立ちしたとたんにサギにあって無一文だぞ?



「あー、まぁ、アレだ。
 アイツが何かやらかしたらあたしに言え。
 師匠のあたしから、キツイお灸をすえてやるからよ」

「はい」

「わかりました……って、『師匠』?」



 そんな微妙な空気を察したか、気を取り直してそう告げるヴィータ・ハラオウンだが、その中に気になる単語が混じっていた。まったく気づかなかったスバルのとなりで、ティアナ・ランスターが首をかしげる。

 そう、“師匠”――それを聞き、全員の視線が集まったのはスバルだ。

 なぜなら、スバルは一時期柾木ジュンイチのことをそう呼んでいたからだ。そこから導き出される結論は――



「つまり……そのアオナギヤスフミとやらは、ヴィータ・ハラオウンの教え子か?」

「そういうことだ。
 蒼凪は、魔導師になりたての頃にヴィータから、魔法戦の技能をヴィータから叩き込まれていてな」

「あ、それで師匠なんですね」

「そうだよ。
 ヴィータ副隊長が教官資格を取ろうと思ったのも、恭文くんに魔法を教えていたのがきっかけなんだ」

「そうなんですかっ!?」



 エリオ・モンディアルに答えたなのはの言葉に、スバルが声を上げる。

 そういえば、元々教導隊にいたなのはは当然として、そちら関係の職についていなかったヴィータ・ハラオウンも、なぜか最初から教官資格を持っていたな。

 資格は多いに越したことはない、くらいに思っていたのだろうと勝手に決めつけていたが、なるほど。そういった経緯があったのか。



「お前達に話さなかったのは、弟子などというものがいるとは、話しにくかったのだろう。
 とにかくだ、師匠という立場から見て、蒼凪が成長していく姿を見るのが楽しかったらしくてな。
 アイツがある程度出来るようになって、手を離れた途端に、猛勉強して意気揚々と取りに行ったんだ」

「なら、蒼凪さんという人は、わたし達の先輩で……」

「ヴィータ副隊長の最初の生徒というワケですね」

「うん、そうなるのかな。それに、恭文君と訓練している時のヴィータちゃん、すっごく楽しそうなんだ。
 見てるこっちが楽しくなるくらいに。ね、ヴィータちゃん?」

「バ、バカッ! ちげーよっ!
 アタシは、アイツの師匠として色々とだな……」



 エリオ・モンディアルやキャロ・ル・ルシエに答えたなのはに話を振られ、ヴィータ・ハラオウンが顔を真っ赤にして声を上げる。

 その光景に微笑ましげな視線を向けているスバル達だが……オレが抱いた感想はまったく違う。

 すなわち――



「…………いかん。不安になってきた」

「何でだよ、オイっ!?」

「いや、何で、と言われても……」



 オレのもらしたつぶやきに憤るヴィータ・ハラオウンだが、こちらとしてもちゃんとした根拠がある。



「貴様……“JS事件”で柾木ジュンイチにさんざんに弱点を暴き立てられた挙句に瞬殺された汚名、未だに返上できずにいることを忘れていないか?」



「………………ぅ」



 そう。

 あの事件の中でなのは以下六課隊長陣が柾木ジュンイチと対立したことがあったのだが……その際にこの娘、あの男に弱点を徹底的に指摘され、挙句挑発に乗って飛び込んだ末に返り討ちという醜態をさらしているのだ。

 そしてその後の“ゆりかご”での大捕り物では“ゆりかご”の駆動炉の破壊という裏方色の強い任務に回ったがために目立った活躍もなし。ヴィータ・ハラオウンには悪いが、彼女の株は急落したままというのが実情だ。



「だ、大丈夫だよ、マスターコンボイさん。
 恭文くん、すごく強いから。とっても頼りになるんだよ。
 まぁ……少しだけぶっ飛んでるの。頭のネジが外れかけてるの」

「最後の捕捉でフォローがぶち壊しだぞ、なのは。
 そして……」



 フォローに回ったつもりだろうがあまり効果の挙がらないことを言うなのはに答えると、オレは“そちら”へと視線を向けた。

 そして――なのはに指摘する。



「なのは、あたしについては何もなしかよ……」

「ヴィータ・ハラオウンへのフォローにはもっとなってないぞ」

「あぁっ! ヴィータちゃん、落ち込まないでぇーっ!」



 暗いオーラを放ち始めたヴィータ・ハラオウンの姿になのはがあわててフォローに回る――そんなスターズ分隊長二人を生暖かく見守りつつ、オレは軽くため息をついた。

 まぁ……株が暴落したとはいえコイツらの実力が一級品なことには変わりはないんだが、コイツらの場合、今のこの有様を見てもらえばわかる通りメンタル面がどうにも、な。

 実際、ティアナ・ランスターをつぶしかけた“前科”もある。そのコイツらの“友達”で、教え子となると……



「そう難しい顔しないの」



 そんな思考が顔に出ていたのだろうか。オレの心情を読み取ったかのように、ティアナ・ランスターはオレの肩をポンと叩いた。



「アンタはアンタで、宣言通り実際に見て確かめればいいじゃない。
 なのはさん達の知り合いだっていうそいつが、どれほどのものか……ね?」

「言われなくてもそのつもりだ」



 ティアナ・ランスターの言葉にそううなずき、オレは改めて息をついた。

 確かに彼女の言うとおりだ。

 オレはオレで、周りの評価に流されることなくそいつのことを評価すればいい。

 アオナギヤスフミ――どれほどのものか、楽しみにさせてもらおうか。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「恭文を六課に?」

『えぇ。
 二週間後に合流の予定よ』



 聞き返すオレに対して、目の前の空間に展開されたウィンドウに映し出されたリンディさんは優しげな笑顔でそう答えた。



『最初はかなり渋ってたけど、なんとか引き受けてくれたわ』

「そりゃ渋るでしょ。
 アイツだって今回の件の裏側じゃ鉄火場の連続だったんだから。
 それに現在進行形でクロノ名物“報告書地獄”の真っ只中だろ? 悪いがそれがオレでも渋るぞ」

『キミの場合渋る前にそもそも話すら聞こうとしないと思うんだけど』



 失礼な。

 ちゃんと話は聞くよ。聞いた上で一切の説得を拒否してぶっちぎりで断るだけだよ。



 さて、そんなことをリンディさんと話しているオレの名前は柾木ジュンイチ。

 魔導師、ってワケじゃなくて、いわゆる特殊能力者、ってヤツ。その辺はまた機会があったら……ね。

 歳は26。彼女はなし。まぁ、オレみたいなキャラの濃いヤツに惚れるような女の子もいないだろうし、自業自得っちゃあそうなんだけど。



 で、局に対するオレの立場は……うん。かなり微妙だね。

 一応、局の解決してきたいくつもの事件に首を突っ込んできた協力者、ではあるんだけど……今回の“JS事件”は少しばかり事情が違ったから。



 簡単に言うと……限りなく黒幕に近い立ち位置にいるのだ。



 今回の事件で、オレは事件そのものをオレの目的のために利用した。

 具体的に言うと、前々からミッド地上部隊の抱えていた問題点や裏側のドス黒い部分を洗い出すため、そして社会全体が管理局に頼りきりの世の風潮をぶち壊すために、わざと事件が大事になるのを放置。その結果生じた混乱に乗じて地上部隊内の大掃除に踏み切ったのだ。

 その結果、一番トップで悪いことをしていたじー様達は壊滅。その他その時点で証拠をつかんでいた不正も一切合財日の下に引きずり出して、やらかしていた人達をキレイサッパリ一掃した。

 けど……おかげで一掃された人達に付き従っていた連中からはすこぶる評判が悪いし、恐れられていたりもする。本局の一部官僚なんて「明日は我が身」とばかりに戦々恐々みたいだし。

 と、ゆーコトはソイツらは“心当たり”アリか。よし、後日きっちり丸裸にしてやろう。



 それはともかく、そんなこんなでオレは事件を思い切り利用したし、自分に都合のいいように流れを誘導したりもした。

 ね? ほとんど黒幕同然でしょう?

 まぁ、オレもそれは自覚してたから、やるからには徹底的に悪役を引き受けようと思ってた。

 そう。思ってたんだけど……ウチのバカ弟子どもにきっちり阻止されて、むしろ汚名を被りながらも管理局の不正と戦った“英雄”に祭り上げられちまって、現在に至る、と。



 それはともかく。



「まったく……余計なことしてくれちゃって。
 恭文の方の都合をまったく考えてないじゃないか」

『でも、あの子は一番ケガもしてなかったし……』

「ケガが少なかっただけでしようが。
 他の部分のダメージは六課の連中と変わらないってのに……」



 うめいて、オレは手元の作業画面に視線を落とし、進捗状況を確認する。



「…………オレだって、すぐに六課に合流できるワケじゃない。
 アイツに何かあっても、フォローの手がないんだぞ」

『ジュンイチくん……まだ合流できそうにないの?』

「えぇ。
 買い占めた株、さっさと市場に戻さなきゃならんでしょうが」



 オレが言っているのは、“JS事件”で地上本部のじー様達を追い込むために買い占めた、地上本部の全スポンサー企業の株のことだ。

 何年も何年も時間をかけて、ダミーの自動売買プログラムを大盤振る舞いして買い占めたおかげで、なんとかミッド地上部隊を経済的に掌握することができたワケだけど……それだけ買い占めれば、当然その株の量は膨大。

 もう用がないし、別に地上部隊を支配したいワケでもないから手放しにかかったワケだけど、一度に大量に流せば市場を混乱させるだけ。

 したがって少しずつ市場に売りに出すしかなくて……結果、けっこう時間がかかってる。



「仕方ない。
 あずさにフォロー頼んどくか」

『ごめんなさいね』

「どーせ、オレをそう動かすために連絡してきたんだろうに、よく言うよ。
 それに、そのセリフはオレよりもウチの妹に言うべきだと思うんですが」



 あずさ、というのはオレの妹で、一応オレ側のエージェントとして六課に送り込んでたパイプ役でもある。

 その件に絡んで長いこと身分を偽らせたりもしてたし、できることならもう残りの六課運用期間はのんびりと楽させてやりたかったんだけど……恭文のフォローを頼めそうなのはアイツしかいない。

 はやて達はリンディさん側の意向で動きそうだしね。



 とにかく、あずさが動いてくれればなんとかなるだろう――リンディさんとの通信が終わったらすぐに連絡を入れよう。

 そして、オレもできるだけ早く六課に合流……したいんだけど、まずはこの大量の株式を処分しないと。

 くっそー、売っても売っても片づかねーっ! 誰かへるぷみーっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ーそれから二週間後ー






「そんなワケで、やってきました機動六課、と……」



 すべての準備をなんとか終わらせて、僕とアルトは機動六課へ。現在、二人で本部庁舎を見上げているところです。

 ……うん、きれいな隊舎だ。一から建て直したらしいからある意味当然なんだけど。



 さて、それはともかく、まずは部隊長室だね。

 嘱託とはいえ一応は局員待遇なんだから、部隊への着任挨拶とかは当然やらなくちゃならない。

 そして何より、言いたいことが山のようにある。もちろん文句が大半だ。

 今回のことで完全にモモ達のクライマックスを見逃したこともそうだけど……みんな、今の自分達の状態を隠してたのが気に入らない。

 いや、僕に心配かけまいとしたからっていうのはわかる。けど、それでも納得できないものはできないのだ。



 よし、とりあえずはやてをいじって遊ぼう。水臭いマネをしたことを後悔させてやる。

 そうと決まればさっそく――



「ヤスフミ?」



 突然かけられた声に振り向くと、そこには見知った顔がいた。

 と言っても人間じゃない。トランスフォーマーだ。

 うん、この人は元気そうだ。そもそもこの人がヘタレてたところを見たことないし。

 なので、僕も気がねなくあいさつを返す。



「やぁ。
 久しぶりだね、ガスケット」

「ホントだぜ。
 前に会ったのっていつだっけ?」



 僕のあいさつにそう返すのはガスケット。レースバイクにトランスフォームするトランスフォーマーで、僕とは以前からの知り合い。何度か事件で一緒になったことがある。

 そして二輪の免許を取った際には練習相手を務めてくれた。あの時は本当に助かったっけ。



 ……どうでもいいけど言いながら頭をなでないでほしい。子ども扱いされてるような気がしてヤだし、何より背の低さが強調されてちょっと殺意わくから。



「聞いたぜ。今日から六課に出向になるんだって?
 相変わらず苦労してんな、お前も」

「まったくだよ。
 おかげでモモ達のクライマックス見逃すし」



 ため息まじりに僕が答えると、それを聞いたガスケットの顔がほころんだ。

 何て言うか、こう……ぐにゃっ、って擬音が似合いそうな感じで、それはもう素晴らしい笑顔に。



「そいつぁ残念だったな。
 オレは初日から見に行かせてもらったぜ!」



 …………ほほぉ。



「いやー、あれぞまさに『クライマックス!』って感じだったな。
 モモ達のアクションがまたカッコイイのなんの、って……」



 と、言いかけたガスケットが動きを止めた。

 さっきまでの満面の笑顔が見事に引きつって、人間だったら冷や汗をダラダラと流していそうな感じでピクリとも動かない。

 どうしたのかな? 僕はただガスケットに向けてちょこぉーっと不満を表情に表しただけなのに。



「ど、どこがちょっとだよ!? ムチャクチャ殺気放ってるじゃねぇか!
 自慢して悪かったから、その殺気引っ込めてくれよ!
 新シリーズ早々吹っ飛ぶなんてヤだぜ、オレ! もう前作の1話目でやったネタなんだから!」



 失礼な。

 それじゃあ、モモ達のクライマックスを見に行けなかった僕が、見に行けたガスケットに八つ当たりしようとしてるみたいじゃないか。



「いや、実際しようとしてるだろ! 殺気全開じゃねぇか!
 ホントに悪かったからセットアップしようとしないでぇーっ!」



 まったく。最初からそうやって素直にしていればいいものを。

 それにしても……



「なんでガスケットがこんなところに?
 まるで門番みたいだけど……」

《あなた、六課の所属は確か交通機動班ですよね?
 ……追い出されましたか?》

「人聞きの悪いこと言うな!
 今、新しく入れたセキュリティセンサーのチェックで業者が入っててさ。
 その関係でこの辺のセンサーがオフになってるから、代わりに見張りに立ってるんだよ。
 おかげで今日の朝礼は不参加だぜ。お前の六課参加のあいさつだってあるのにな」



 いや、そこはスルーしてくれていいんだよ。

 六課のメンバー、顔見知りがとにかく多いんだから。着任のあいさつなんて恥ずかしくってしょうがない。見に来る知り合いはひとりでも少ない方が僕としてはむしろありがたいのだ。

 この感覚がよくわからないという人は、小学校の高学年くらいの頃の授業参観に親が来た時の感覚を思い出してもらえばだいたい正解だと思う。



 その後、軽く世間話をしてからガスケットと別れて、僕らは改めて六課の中へ。

 さて……正直気が進まなかった今回の話だけど、引き受けた以上、ここはきっちりやりますかね。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……やっと、帰ってきました」



 機動六課隊舎のロビー。そこに整列した部隊員達を前に、八神はやてがそう切り出すのを、オレは列中から無言で聞いていた。

 蒼凪恭文の合流は今オレ達のいるこの機動六課隊舎、そこにオレ達が戻ってくる日――すなわち今日に合わせてのことだという。となれば、この後にでもヤツの紹介があるはずだ。



 ちなみに、八神はやてのスピーチやオレのモノローグで「帰ってきた」「戻ってくる」という表現を使ったのには理由がある。

 つい先日まで、オレ達は部隊丸ごとこの隊舎を離れていたからだ。

 と言っても、別にこの拠点を放り出して全員で遠征に出ていたワケでは……いや、あるのか。部隊全体でここを離れていたワケだから。



 ただ……それはこの隊舎が使えない状況に陥ったから、というのが正しい。

 オレ達は“JS事件”の中で、敵対していたいくつもの勢力からこの隊舎への同時襲撃を受けた。

 いち早く気づいたオレ達が出動先から舞い戻り、応戦したが……結果としては惨敗。オレ達は皆重傷を負い、隊舎も焼失の憂き目にあった。

 そこで、隊舎再建までの間、八神はやてやなのは達が以前から懇意にしていた次元航行艦――正確には退役したその艦から使えるパーツを再利用して建造された新生艦――を拠点に事件の解決に務めることとなった。

 そして、事件が片づき、事後処理に追われる中で隊舎の再建が完了。今日という日を迎えた……というのが大まかな流れだ。



 さて、そんなことを回想しているオレだが、実はその姿はトランスフォーマーとしてのロボットモードではない。

 かと言って、ビークルモードでもない――“人間への擬態”とも言える第三の姿、その名も“ヒューマンフォーム”へと変身している。

 この姿、地球やミッドチルダのように人間とトランスフォーマーが元々共存していた世界において発達していた“プリデンター”と呼ばれる技術で、トランスフォームとはまた違う系統の技術によって人間へと擬態する。

 しかもその技術がけっこうなもので、斬られれば出血するし腹もすく。生物学的には生殖活動から可能らしい。正直やりすぎな気もするのだが、とにかくそこまで完璧に人間に擬態することができるのだ。



 まぁ、その辺りは別にどうでもいい――問題はヒューマンフォームとなったオレの姿だ。

 一言で言うなら“子供”なのだ。ハッキリ言ってひよっこどもの年上二人、スバルやティアナ・ランスターよりも背が低い。しかも頭二つ分ほど。

 今でこそ受け入れているが、それだって半分以上開き直りのようなものだ。最初の頃などは、変身するたびにずいぶんと神経をすり減らしていたものだ。

 ……そういえば、オレのヒューマンフォームをこの姿に設定したのは今壇上にいる八神はやてとその相方だったな。よし、今さらではあるがその内仕返しすることにしよう。



 そんなことをオレが考えている間に、八神はやてのあいさつは終わったようだ。



「さて、湿っぽいのはここまでにしましょう。
 ……実は、今日から私達の新しい仲間として、一緒に仕事をしてくれる方がおります。では、こちらに」



 となれば、いよいよ新入り、蒼凪恭文の紹介だ――八神はやてに促され、ソイツは緊張しながら壇上に上がってきた。

 背はヒューマンフォームのオレよりやや高いが……それでも世間一般から見れば「低い」と言われる程度の背丈しかない。それに顔立ちもまだ幼さが残っているような印象がある。まだ中学生と、いや、小学生と言っても通用するかもしれない。

 だが――オレ達は事前になのは達から「昔からの知り合いだ」と聞かされている。当然見た目どおりの年齢に見るつもりはない。

 先日なのはに確認を取ったところ歳は18だそうだ。18でその身長とは……人間でソレならば健康上大いに問題があると見るべきか。いかん。いきなり懸念材料が増えてしまった。



 ちなみに服装は陸士部隊の制服。卸したてを着ているのは普段は着ないからか、この異動に際して新調したか……おそらくは前者だろう。後者の「異動しますから制服新調させてください」などという理由では物資管理の出納官がいい顔をしないだろうから。

 ともあれ、蒼凪恭文はオレ達の目の前で壇上に上がり――





 転倒した。





 階段を踏み外し、顔面から壇に突っ込んだ――緊張していたのか、それはもう、見事なまでの転倒ぶりだ。周囲の沈黙が一瞬前とは違ったものになった中、なんとかヨロヨロと立ち上がり、あいさつしようとする。

 ……どうでもいいが、少し落ち着いた方がいいな。

 緊張と衆目の前で転倒した恥ずかしさから焦っているのだろう。早くあいさつをすませたいのだろうが、そんなにあわてて前に出ようとすると――





 ……あ、落ちた。





 前に出すぎて壇上から見事に転げ落ちた。なんというか……同情の余地の十分にある、そんな情けない落ち方で。



 蒼凪恭文のそんな醜態に、周囲は微妙な沈黙に包まれる。いや、確かにこれに対してどうリアクションを取ればいいのか、オレには皆目見当もつかないが。



 一方で、ヤツの知り合いだという連中のリアクションは様々だ。

 シャリオ・フィニーノにルキノ・リリエ、グリフィス・ロウランは笑っている。

 シグナム・高町はにらみつけている――まぁ、生真面目なヤツの性格からすれば、初日からこんな醜態をさらされれば機嫌も損ねるか。

 シャマルとザフィーラはいつも通り……ではないな。肩の震えで笑いをこらえているのがわかる。

 リインフォースUはやれやれ、といった感じで肩をすくめているが――顔が笑っているぞ。

 と言っても、ロングアーチの連中のような単純な笑いではない。なんというか……なのはやフェイト・T・高町がそれぞれの子供達に向けるような笑顔だ。優しげな笑み……と言えば読者諸兄には理解できるだろうか?

 そういえば、ヤツが六課に来ることが決まり、一番喜んでいたのが彼女だったな……あの男と何かあるのだろうか?



 とはいえ……この状況を放ってもおけんか。周りの沈黙が“痛い”ものに変わりつつあるようだからな。

 残念なことにヒューマンフォームのオレは先ほども述べたように背が低い。必然、整列すれば人間達の隊列の中でも前の方になる。

 なので――



「いつまで転がっている」



 楽に前に出て、倒れているソイツに声をかけることができた。



「蒼凪恭文……だな?」

「え…………?」



 今の空気の中で平然と声をかけてくる者がいるとは思っていなかったのだろう。蒼凪恭文は一瞬だが呆けた声を上げて――コクリとうなずいた。



「緊張が物腰にあらわれすぎだ。
 おかげで今の貴様の醜態……どう判断すればいいのか非常に困る。
 素でそうなのか、緊張のあまりの失敗なのか……な」



 そんな蒼凪恭文に告げ、オレはヤツの手を強引にとって立ち上がらせた。



「できれば、後者の理由であってくれ。
 貴様の実力が“それなり”なら、オレとしても非常に助かる」



 そう告げて、オレは相手の返事も待たず、きびすを返して列の中に戻った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「え…………何?」



 紹介の段階でいきなり転げ落ちるという醜態――正直、周りからの視線が痛かった。

 もっと言うと、オレンジとピンクの視線が痛い。

 そんな微妙な空気の中で声をかけてきたのは、僕よりも背の低い、けれどどこか偉そうな男の子。

 うん。面識のない顔です。向こうも僕の名前を確認してきたし、初対面っていうのは間違いないと思う。



“…………アルト”

“照合しています。
 …………出ました。フォワード部隊所属のトランスフォーマー、マスターコンボイですね”



 はい?

 トランスフォーマー、って、あの子が? どう見ても人間……あ、プリデンターってヤツか。



“えぇ、そうです。
 ジャックプライムやスタースクリーム、ブリッツクラッカーがやっていたでしょう。アレですよ”

“そっか……”



 思い出した。

 前にリインがメールで言ってたっけ……部隊に入ってくれたトランスフォーマーのヒューマンフォームをデザインしてあげたって。

 カワイイ男の子に仕上げてあげたって自慢してたから、きっと彼がそうなんだろう。

 …………にしても、コンボイでその姿かい。

 立たせてもらって気づいたけど、僕よりも背が低かった。うん。きっと気にしてるに違いない。なんていうか、他人事って気がしない。



“まぁ……彼については後でいいでしょう。
 とりあえずは今ですよ。どうするんですか? この空気”



 やかましいっ! 考えないようにしてたんだから、ツッコんでこないでよ!

 しょっぱなからこんな大ポカやらかして……どうしろっていうのさ!? なんかいきなり先行き不安なんですけどぉーっ!?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………ふむ。

 蒼凪恭文を立たせ、オレは未だ立ち直りきっていないヤツを残して列の中に戻った。



 そして――考える。

 今とったヤツの腕、筋肉のつき具合は申し分なかった。

 これは……ヤツの実力はそれなりに期待できそうだな。

 ヴィータ・ハラオウンの弟子ということで低めに想定していた評価も、この分なら早々に修正することになりそうだな。



 だが、それだけに引っかかる。

 “JS事件”は解決した。普通に考えれば、ここで武官を引き入れる理由はない。戦う理由が消滅したも同然なのだから。

 それなのに蒼凪恭文はこの六課にやってきた……これが何を意味するのか?

 旧知の仲であるなのはやフェイト・T・高町などは「一緒に仕事ができる」と素直に喜んでいたが、違和感に気づいてしまった今、ヤツらのようには考えられない。

 なぜ蒼凪恭文は機動六課にやってきた? 予測される戦闘能力を考えれば、明らかに戦力として呼ばれているはずだ。

 しかし、この機動六課の戦力は十分に強力なメンバーが顔をそろえている。今さら……



 と、そこで気づいた。



 “今さら”ではない――“今だから”蒼凪恭文は呼ばれたのだ。

 確かに機動六課のメンバーはエース級、ストライカー級がゴロゴロしている、かなりの充実ぶりだ。



 しかし、現状に目を向けた場合、話は大きく違ってくる。



 機動六課の実戦メンバー、その大半が先日までの戦いで傷つき、その傷も癒えていない状況だ。

 さらに言えば、周辺の状況も悪い。“JS事件”の影響で地上本部はズタズタ、かろうじて機能を維持している現場も、オレ達同様に先日の戦いで深く傷ついている。

 特に事実上のトップだった最高評議会、ヤツらが今回の事件の実質的な首謀者だったのが大きく響いている。おまけに最後に悪あがきをした結果評議会の連中は全員が討たれ、現在地上本部のトップは不在。それによって生じる指揮系統の混乱も、だいぶ下火になったとはいえ完全になくなったワケではない。



 そんな状況で事件が起きれば、傷ついてはいても強力な戦力のそろったウチに話が回ってくるのは確実――しかも、このお人よしどもは自分達がどれだけ傷ついていても迷わず周りの者達を守ろうとするだろう。

 蒼凪恭文を派遣してきた者、おそらく部隊の者の身内の誰かだろうが、そいつはそんな事態に備えようとしたのだろう。

 傷ついたこいつらにさらなる負担をかけることをよしとできず、彼女達を守る“力”として蒼凪恭文を呼び寄せた……出向というのは単なる建前か。やってくれる。



 だが……オレとしてもそういった配慮はありがたい。

 まともに戦えるメンバーのことを考えると、正直頭が痛かったのだ。オレ達フォワード陣はある程度負傷も軽かったからいいが、なのはやヴィータ・ハラオウンのダメージが深い。二人とも退院こそしているが、万全の状態とは程遠いのだ。

 おそらく、蒼凪恭文もそういった点を理解していたからこそ六課への出向を承諾したのだろう。合意の上なのだから、せいぜいがんばってもらうことにしよう。



 後は……



 トラブルなくすごしてくれるかどうか、だな。

 せっかく事件が解決したのだ。ここから先はのんびりとさせてもらいたいのだ、こちらとしては。









 だが――オレはこの時点ですでに、それが儚い願いになるだろうと考えていた。

 蒼凪恭文の参入によって、六課がますますにぎやかに――せわしなくなるであろう予感を、オレはこの時すでに感じていたのだ。



 そして――











 これがオレと蒼凪恭文の、切りようのない腐れ縁の始まりになるであろう予感も……







(第2話に続く)







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