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頂き物の小説
第十一話『らんぶる・かたすとろふ…………地獄絵図?』



俺がデバイスルームに通い、ラミアの改良と新機能の開発に専念してかなりの日数が経過した


その間に色々なことが起こった


スバルが恭文のクレイモアなどの攻撃力特化の魔法や戦い方をやめようと言い、恭文との間に微妙な距離が出来たり……


俺に、なんで恭文はあんな魔法を使うようになったのか……壊したいものを壊すために戦うという考えが嫌だとも言ってきた


……もちろん、俺は本人が話すまで待てと言っておいたが、あれは納得してないな


俺もクレイモアに似た魔法もあのお仕置きの時に使ったんだが……なんで恭文だけなんだ?


まぁ、絆の差と納得しとこう(実際はなのは達に禁止と言われて頷いたかららしい)



そして、恭文が隔離施設に呼ばれた時に俺も連れられて行ったが、そこで恭文がシングルマザーにフラグを成立させたり……

その娘に何教えてると言いたいバカセに関しては……放置でいいか


あとは聞いた話だが、恭文の家にリンディ統括官が息子のクロノと喧嘩して押し掛けてきたようだ

なんで、こうも問題が次々増えてくんだ? おかしいだろ……


しかし、恭文と他数名が聖王教会に出掛けていった日に、積み上がっている問題の一つが動くのだった




魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常〜異邦人と古き鉄〜


第十一話『らんぶる・かたすとろふ…………地獄絵図?』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

それは、突然の来訪


恭文やなのはさん達が、聖王教会に出稽古に行って、私やヴィータさんやフェイトさんにヴィータ副隊長が、午前の訓練を終えた時の事



「……いやぁ、なんか悪いね。突然押しかけたのにご飯までごちそうになっちゃって」


「つか、やっさん居るかどうか確認しとけばよかったな。どーも、アイツに対してはその辺りを気にしなくていい感じがしてさ」



そう、恭文の友達という、技術開発局のお友達が、突然やってきたっ!!


なんでも、恭文が乗っている車……例のミニパトのメンテに来たとか

というか、無用心過ぎるよ。だって、恭文は歩きのときもあるのに……



「いや、私の勘だと、今日は車って感じがしたんだよね」


「……いや、確かにその勘は正解ですよ?」



現に、乗ってきてるもんね。トゥデイ



「だけどアイツ、誰に対してもそういう認識持たれてるんですね」


「だからこそのなぎさんなんですね」



……まぁ、私とティアも同じだけどさ。休みの最終日とか



「というか、すみません。ヤスフミ、今日は朝から出かけてて……」


「いや、なんつーかすみませんでした」


「あぁ、いーよいーよ。連絡しなかったうちらもあれなんだし。……で、おたくがヴィータちゃん」



そう言って、お友達の一人……ヒロリスさんが見るのは、ヴィータ副隊長。あ、なんか照れてるのかな? じっと見られて、もじもじしてる



「……はい」


「……いやぁ、噂では聞いてたし、やっさんからも話は聞いてたけど……会いたかった。うん、結構マジでね」



ヒロリスさんが、すごくまじまじとヴィータ副隊長を見る。かなり真剣に。え、えっと……これは……



「いや、悪いねヴィータちゃん。こいつ、あのやっさんが師匠って呼んでる子がどんな感じか、気になってたのよ」


「あぁ、納得です。まぁ、アタシはこんな感じなんですが……」


「いや、納得したよ。まさにやっさんの師匠だ。うん、わかった」



なんかわからないけど、ヒロリスさんは納得したらしい



「つかヒロリスさん」


「何?」


「いや、バカ弟子のデンバードやらトゥデイやら見て思ってはいたんですけど、アイツの趣味関連で知り合ったって……ことですよね」


「あぁ、そうだね。簡単に言っちゃうと……」



その話に、私とヴィータ副隊長は驚くほかなかった。というか……あれ? みんな普通っ!? どうしてっ!!



「あぁ、私はアイツから聞いてたから」


「私とエリオ君、フェイトさんも休み中にですね」


「私も、ヒロさんとは2回ほどお話したから」



嘘、私は知らなかったのにっ! というか、恭文は本当に聞き出さないと話さないなぁ……



「そっか、なら納得だ」



ヴィータ副隊長、納得しちゃうんですかっ!? おかしいじゃないですかこれっ!!



「いや、普通ならな。だけど、アイツはまたそんな引きを……」


「……あの、ヴィータ副隊長。またってことは、よくあるんですか? こういうの」


「かなりな」



……恭文、なんなんだろう。すごいというか、ちょっと呆れる



「やっさんはそういう奴だよ。いろんな意味でふざけたやつなの。ま、そのおかげで死に掛けたりしても、生き残れてるけどね」


「ヒロ、お前にやっさんを『ふざけた』とか言う資格はない。つか、似たもの同士だろうがっ!!」


「うっさいねぇ、私はアイツくらいの年はもうちょい落ち着いてたよっ! でも、話聞いてるとあいつは昔からあんな感じだったそうじゃないのさっ!!」



昔からあぁだったんだ。……おかしいよね。それって



「そうだよね、フェイトちゃん、ヴィータちゃん」


「……まぁ、そうですね」


「基本ラインは、変わらないですね。あの感じです」



……なら、聞いてみようかな



「あの、みなさん。少しお願いがあるんです」


「なんだ?」


「恭文の昔のこと、教えてもらえませんかっ!? その、魔導師になった頃のこととか」


「ダメ」



その言葉は、誰でもない、ヒロさんの言葉だった


え、即答っ!? というか、どうしてっ!!



「まぁ、聞くってことはだ。やっさんは話してないんでしょ?」


「……はい」


「なら、うちらも細かいことは教えらんないよ。ほら、フェイトちゃんやヴィータちゃんも同じくって感じみたいだよ?」



見ると、2人も確かに苦い顔をしていた。話せない、言えないというニュアンスが、ありありと見て取れる。あの、でも……その……



「私、仲間で友達ですから、大丈夫ですっ!!」


「……どんな根拠さそれは。つか、ダメ。仲間だからって、全部を知らなきゃいけないってルールはないよ?
ひぐら○でも、やっさんに声がよく似た部長さんが言ってるでしょうが。アンタ、なんか勘違いしてる」


「勘違いじゃ……かもしれないです。でも、あの……その……」



確かにその通りだ。でも、どうしても……



「あー、すみません。この子には私から言って聞かせますから。スバル、この話は終わり。いいわね?」


「ティアっ!」


「あー、いいからいいから。……ね、スバルちゃん。どうしてやっさんの過去が気になるの?」



え? ……ヒロリスさんが、私の目を見る。さっきまでの少しフランクな感じとは違う。こう、真剣な色が見えた



「いやさ、気になるからには、当然理由があるでしょ。一応、それは聞くよ。話すかどうかは別問題だけどね」


「……はい」



そして、私は話した。恭文の過激な行動。私達に隠し事が多いこと。すごく、不満があると


もちろん、恭文の資質や、仕事の都合上のこともある。これらは仕方ないかもしれない。……ううん、きっと仕方ないことなんだ


ティアの言うように、私達はずっと一緒じゃ……ないんだから


だけど、どうしても納得が出来ないことがある。恭文は普通なのに、普通じゃないところ。絶対に、今のままなんて嫌なところ



「……恭文、たまに言うんです。壊したいものを壊すために戦うって。それが、嫌なんです。
でも、恭文に聞いても、はぐらかされたり、ボカされたりして……」


「それで、やっさんの過去の話にヒントがあるのではないかと……」



私は、その言葉にうなづく。勝手なこと言ってるのはわかってるん。でも、仲間で友達で……



「……スバルちゃん」


「ヒロリスさんの言ったこと、わかってます。そんなルール、どこにもありません。あっていいはずが無いです。
だけど、嫌なんです。今のままは……嫌なんです」



嫌だ。私は、恭文がそういうことに疑問がある。認めるのも、否定するのも、もっと恭文を知らなきゃいけない


だけど、どうしたら恭文がそれをちゃんと話してくれるのかわからなくて、ぶつかってもダメな感じがして。それで……



「……わかった。じゃあ、教えてあげるよ」


「……え?」


「だから、やっさんの昔のことだよ」


『えぇぇぇぇぇっ!?』



そのヒロさんの言葉に、全員が驚く。いや、だってさっきはあぁ言ったのにっ!!



「あ、あの……ヒロっ!?」


「いいよ。つか、本気で心配してくれてるみたいだしさ。まぁいいんじゃないの? こじれてもアウトだし」


「いや、そういう問題じゃないだろっ!!」



……いいんですか? 私、すごくわがまま言ってるのに



「いーよ。ただ、話聞いてやっさんと付き合い方変えるってのをなしにするのが条件だけどね。約束、出来る?」


「……はい、約束します」



うん、約束出来る。だって、恭文は友達で仲間だから。……何があっても、絶対にそれで何かを変えたりなんて、しない



「あの、ヒロさん? ヤスフミの居ないところでそれはないです。勝手に話を進めないでくださいっ!!」


「仕方ないでしょ。やっさんには私から謝っておくよ」


「そういうことじゃないですっ! というより、ヤスフミの事どれだけ知ってらっしゃるんですかっ!?」


「8年前の一件、最初から最後までの全部」



その瞬間、凍った。私達じゃない。フェイトさんと、ヴィータ副隊長が。理屈じゃない。2人が、一瞬凍った



「……失礼ですが、それはどこで聞いたんですか」



なんだろう、フェイトさんの視線が厳しい。とても、怖いものを感じる



「……2人ともなんか勘違いしてるみたいだけど、私らはやっさんから直接聞いた。もちろん、無理やりじゃないよ。
まぁ、あの一件でそういう子が居たっていうのは、噂話程度には聞いてたけどね」


「噂話っておっしゃりますけど、あの一件は……」



フェイトさん、いつもと違う。こう、厳しい視線はそのままだけど、どこかで困惑してる


……待って、恭文の過去って、そこまでのことなのっ!?



「やめとけ。お前の言いたいことはわかるけど、アレだよ。人の口に戸は立てられない……つーことですよね?
アイツ、保護された当初から本局の医療施設で騒ぎ起こしてましたし」


「そうだね。俺らはその頃には、本局勤めだったし。もちろん、ヒロが言うように無理やり聞いても居ないし、興味本位で調べてもいない。
俺だって、やっさんがその当の本人だっていうのは、ダチになって初めて知ったくらいだ」


「そう……ですか」



……覚悟、決めよう。きっと、すごく重いことなんだ。だけど……ごめん。私のわがまま、通すね。嫌いになられても……しかたないよね


ティアやエリオ達は、さっきから黙ってる。ティアにいたっては、睨んでる……ごめん。でも、やっぱりなの


大好きな友達が、壊すために戦う必要があるのかどうか、ちゃんと、知りたいの。今のままじゃ、否定も、認めることも出来ないの



「うし、つーわけだから、スバルちゃん、移動しようか。あ、フェイトちゃんもヴィータちゃんも、準備よろしく♪」


『……え?』



いや、あの……準備ってなにっ!? というか、移動ってどこへいくんですかっ!!



「……まぁ、アレだよスバルちゃん。何事も対価って必要だと思わない?」


「それは……まぁ」


「うちらは、本来ならやっさんの許可なく話す義理立てはない。だからさ、対価として、まずアンタ自身を見たいのよ」



私……自身



「アンタが、やっさんのことを変えたい。傷に触れてでも、真意を……本当の気持ちを知りたい。そう思う気持ちの強さと、覚悟を見たい。なので……」



ヒロリスさんは、そこまで言うと右手の人指し指を一本立てた



「私と模擬戦するよ。その中で、アンタ自身を見極めさせてもらう」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

……準備はした。スバルもやる気十分。だけど……だけどこれはなにっ!? いきなりすぎてわけがわからないよっ!!



「あー、大丈夫大丈夫。怪我もしないしさせないから」


「……いや、ヒロ。たぶんそういうことを言ってるんじゃないから。
つか、俺もわけわかんないよっ! なんだよこれっ!? 頭おかしいだろお前っ!!」


「失礼な。やっさんよりマシだよっ!!」



それどういう意味ですかっ!?



「あの、とにかく模擬戦なんてやめてくださいっ! つい押されて準備しちゃいましたけど……許可できませんっ!!」


「どうして?」



………………………………………………………………………………………ヤスフミ、私の気のせいなのかな?


なんだかね、この人から無茶苦茶する時のヤスフミと同じオーラを感じるんだ



「どうしてって……! ヒロさんは魔導師でもなんでもないじゃないですかっ!!」


「……いや、止めても無駄な感じがするのはわかるんですよ。でも、やめてもらえますか?
スバルも、最近は結構やるようになってきましたし」



私達がそう言うと、2人はぽかーんとした。え、どうしてっ!?



「……あぁ、やっさんから聞いてなかったのね。私ら、魔導師よ?」


『え?』

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

俺はヒロとサリが六課に来ていることに気付けていなかった


新機能の開発で少し行き詰まっており、首を捻っていた



「うぅむ……ここをこうしたら、ここにエラー起きるし……。」


《先ほどから同じ箇所ではないか……ここはこうすればいいのではないか?》



横からラミアがプログラムを弄る……あぁ、成る程!

で、ここをこうすれば……よし♪



「ラミア、ナイス!」


《当然だ》



こうして、止まりながらも確実に作業をこなしていく


周囲の嵐に置いてかれているとも知らずに……

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

まーさか向こうさまがそんな楽しい状況になっているとは露知らず、僕はある人とガチにやりあっていました


そう、その人とは……



「……それでは、この辺りにしましょうか」


「はい……。おつかれ……さま……でした。ありがとうございました」


《シャッハさん、ありがとうございました》


「いえいえ。こちらこそ、いい経験をさせていただきました」



そう、紫色のショートカットの髪に、手に持つのは二本のトンファー


みなさまご存知、聖王教会の戦うシスター。シャッハ・ヌエラさんその人だ


午前中いっぱい、必死こいて斬りあってたわけだけど……いや、楽しかったー!!


やっぱり、僕の中でのガチにやりあって楽しい人ランキングベスト5に入っているだけのことはあるわ



「それは私もです。やはり、あなたと剣を交えるのは……心が躍ります。シスターとしては、少しだけ不謹慎ですけどね」


「にゃははは……」


「恭文さん、おつかれさまです〜」



互いに息を整えつつ話していると、後ろからリインが飛んできた。手にはタオルを持って。というか、二つ


必死に持ってきたそれを、僕とシャッハさんに手渡す


それで、僕たちは体を止めたことで噴出した汗をふき取る。いや、あぢー。楽しいけどあぢー



「ありがとうございます。リインさん」


「はいです。というか、2人ともがんばってたですね〜」


「まぁ、聖王教会なんて滅多に来れないしね」


《……いや、そういう意味じゃないですから》



ほえ?



「お昼、もう過ぎてるですよ?」



この瞬間、シャッハさんと顔を見合わせて、すぐさま時間を確認する。……あ、もう午後1時だ


えっと、ここに来たのが9時で、組み手始めたのが……10時



「すみません、ついつい楽しくなってしまって……」


「……シャッハさん、それ……というか、僕たち、どうなんでしょ」



あ、なんかお昼なのに、カラスの声が聞こえる。あれだよ『アホー!』って言ってる声が



《すさまじく楽しそうでしたね。2人して》


「リインだけじゃなくて、なのはさん達も止めるのが忍びないって言ってたです……」



……まじめに思う。お昼ぶっちぎりで楽しく三時間斬り合いって、人生の楽しみ方間違えてる気がする


もっと、平和的な楽しみを見つけてもいいんじゃなかろうか?



「あぁ、それならもちろんありますよ」


「そうなんですか。……例えば?」


「そうですね。魔法学院の子供たちと戯れる時や、信者の方々とたわいもない会話をしている時。
あとは、騎士カリムとの紅茶の時間……などでしょうか。こう言った時には、心が落ち着きます」


『なるほど……』



確かに、武闘派シスターっていうのは、シャッハさんの一面だしなぁ


心を落ち着けて、静かに過ごす時間だって、当然ある。いや、無きゃいけない


それが無いと、戦えないもの。いろんな意味でね



「あなたにもあるでしょう? そういう時間が」



シャッハさんが、僕を見てそう聞いてきた。……うん、ある


今という時間そのものもそうだし、みんなと馬鹿をやったり、騒いだり。そんな守りたい時間、ある



「私もです。……それが守れるなら、どんな戦いであろうと身を投じ、剣を振るう。そんな覚悟が出来る時間が、あります」


「……そうですね。僕も、同じです」


「まぁ、あなたは誰よりも、フェイト執務官との時間を守りたいんでしょうけど」



そう言われた瞬間、思考が固まった。だって……シャッハさんにその話してないから


まてまて、情報源は誰だっ!? シグナムさん? いや、あの人はそんなぺらぺらしゃべる人じゃない


なら、はやてかっ!! あれならありえる



「違います。というより、あなたとフェイト執務官の2人でいるところを見れば、誰であろうとわかりますよ」


《……そうですよね。わかりますよね、普通は》



うん、そうだよね。普通は分かるんだよね



「……でも、それが当の本人には伝わらないんですよ。あの、アレはまじめにどうすればいいんですか?
最近、もう押し倒すしかないのかなって、本気で考え始めてるんですけど……」


「や、恭文さんっ!? お願いですからうずくまらないでくださいですー! 泣くのもだめですよー!!」


「あの、それはやめなさいっ! そんな真似をしてあの方の心を射止められるわけが……。
あぁ、本当にそうなのですね。騎士カリムから聞いたとおりですよ」



……カリムさん、意外とおしゃべりだな。まぁ、いいや。とりあえず……そこはいい



「あとは、色々とシグナムや八神部隊長からも聞いていますよ。あなたが、フェイト執務官を守る騎士として、戦い続けていると」



結局話してるんじゃないのさっ! なんなのさ一体っ!?



「……僕は騎士なんてガラじゃありませんよ」



そう、僕は自分の勝手で戦ってる。局とか世界とか、そういうもんのためじゃない


ぶっちゃけ、戦って命賭けるのも、嫌いじゃないしね



「ガラなどは関係ありませんよ」


「え?」



シャッハさんが、微笑む。僕を見て、柔らかい表情で。だけど、瞳には、とても強い力がこもっていた


それが、僕の心を射抜く。そして……続ける



「守りたいものがある。そのために剣を振るい、業を背負う覚悟があるなら……ガラなどは関係ありません。
それが出来るものは、皆、等しく騎士です」



守りたいものがある。業を背負う覚悟……か



「……なら、恭文さんは騎士……ですね。全部に当てはまりますから」


「……そうかな?」


「そうですよ。愛する女性を守りたいと、力になりたいと願い、進み続ける。それは、紛れも無く騎士の所業ですよ。
私としては、なぜあなたが騎士の称号を取らないのか、非常に疑問です」



……そういうガラじゃない。というのが理由だった。だけど……違う。そうじゃない


僕の性格どうこうじゃなくて、僕がしてきたこと。それが……騎士の行動なんだ。それは、盲点だったな



《……シャッハさん。シグナムさんやはやてさんから、何か聞いてるんじゃないですか?》


「さぁ、どうでしょう。まぁ、あなたはロッサと同じく自由過ぎる傾向が……」


「恭文君っ!!」



僕が少し考え込んでると、その思考はある声によって中断された。そこを見ると……なのはとシグナムさんとシャーリーが走ってきていた


というか、なんか慌ててる?


そう、3人が3人とも、慌てた様子だった。そして……開口一句、とんでもない言葉が出てきた



「恭文君の友達が模擬戦してるって……どういうことっ!?」


『……はぁっ!?』

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ヒロさんとサリさんが六課に来て……」


《話の流れでスバルさんとヒロさんが模擬戦……》


「ヒロリス……。またそんな真似を」


「え? シスターシャッハ、恭文君の友達を知ってるんですかっ!?」



そりゃそうだよ。だって、ヒロさん……ヒロリス・クロスフォードは……



「昔から、騎士カリムを妹のようにかわいがってくださっていたんです。私もその関係で」


「えぇっ!?」



……あー、細かい説明が必要だよね。うん


ヒロさんの実家のクロスフォード家……クロスフォード財団は、以前も話したけどミッドでは有名な資産家


ヒロさんはそこの分家筋の出身で、その分家は、聖王教会の活動を支持し、そのスポンサーも勤めてる


2人はその関係で、子供時代に知り合ったそうだ


なお、以前少しだけ話したカリムさんと縁を持つことになった護衛の仕事も、実はヒロさんからの推薦で、クロノさん経由で回ってきた話だったりする



《まぁ、そこはいいでしょう。……しかし、どうします?》



みんなで遅いお昼を頂きながら、アルトが横でぷかぷか浮きながらなんか言ってるけど、正直どうしようもない


だって、僕たち六課にいないんだもん


とりあえず、サリさんから送ってきたメールを見るに……わけわからないよっ!


どうしてそれで模擬戦っ!? いや、言ってることはまともだけど、行動がおかしいからっ!!



「……とりあえず、ヒロさんとサリさんには戻ってから話そう。まぁ、フェイトと師匠、レイが居るんだし、いつもみたいなことには……ならな……い……よね?」


「誰に対して聞いてるのっ!? というか、どういうことっ! いろんな要素が詰め込まれすぎててわけがわからないよっ!!」


「あぁ、お願いだから落ち着けっ!! ……ひとつずつ説明するから」



とにかく、説明だよね。うんうん

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「えっと、出会い方は……かくかくしかじか……というわけだったの」


「……なぎ君」


「そんな呆れた目で僕を見るなっ! つか、僕だって驚いたんだからっ!!」



そう、あの時の衝撃は、多分一生忘れられそうに無い。だって……思いっきり関係者だったんだもん

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……というわけで、いろんな意味で置いてけぼりな僕はその場から、近くのご飯の美味しいカラオケ屋さんに連行されたの。で……」


「お2人があのお方の弟子だったという話と、その時にアルトアイゼンと知り合っていたという話を聞いたわけか」


「そうですね。それで、僕の現状とかを話したら、色々戦闘技能やらなんやらを見てくれるという話になって……」



そのまま、付き合いは今に至るというわけである


そう、僕が何回か話に出した教導隊出身の友達とは、あの2人のことでもあったのだ


先生と会う少し前に、席を置いていたらしい


なお、2人は先生から受け継いだ技能をさび付かせるのも嫌だと、訓練は仕事の合間を縫うようにして継続中


実力的には一線級。ぶっちゃけ、なのはやシグナムさん達より強いと思う。だって、僕はまだ一回も勝ったことないし


JS事件の時も、協力してもらって、一緒に暴れたりしたしねぇ……


あはは、バレたら絶対怒られるな。対外的には引退してる人たち引っ張りだしてるんだから



「……ねぇ、恭文君」


「なに?」


「なんでそうなのっ!? 訳分からないよそれっ!!」


「やかましいっ! 僕だって同じだよっ!! つか、なんで六課隊舎に来ているのかもイミフだしっ!!」



とにかく、2人のことは次回だ。もう僕たちにはどうしようもない



「で、なんやかんやとまた修練場に来ましたけど、午後はなにするんですか?」


「……お前。まぁいいだろう。向こうは向こうで楽しくやっているだろうしな」



……うん、楽しくね。つか、スバルはそこまで僕のこと気にしてたのか……。やっぱ、真面目に話さないとだめか


覚悟、決めてる。だけど、ちょっと躊躇ってた。多分、聞いたら……ショック受けるだろうし。でも、話さないのもアウトだ


メールでサリさんに、僕がちゃんと話してないのが原因なんだから、自分で始末つけろと言われてしまった


まぁ、しゃあないか。帰って、話せる状態なら、ちゃんと話そう


……スバル、死なないでね?



「午後の修練は……私とシスターシャッハと、全力全開でやってもらう」


「………………………………………マテ」



まぁ待ちましょうよ。落ち着いていきましょうよお2人さん。なんか楽しそうにしてますけど、僕は意外と必死ですよ?


アンタら2人を相手取れって……あれですか? 死ねと言っているのか貴様らっ!!



「問題は無い」


「いや、大有りですからっ! 一人ならともかく2人っ!? 間違いなく死亡コースでしょっ!!」


「問題は無い。それに言ったはずだ。全力全開だとな。それには、リインも一緒だ」



……あ、そういうことか。なら大丈夫だ



《それでリインさんを連れてきたのですね》


「そういうことだ。六課でもいいとは思ったが、せっかくだしな」



だ、そうだけどリイン、どうするさ?



「問題ありません。かるーく捻ってみせましょうっ!!」



僕の隣に来て胸を張ってそう宣言するのは、祝福の風兼古き鉄。ま、そうだよね


僕達2人……いや『3人』が揃って、はいそうですかで負けるわけにはいかないでしょ



「リイン曹長、ずいぶんと強気ですね」


「蒼凪と絡むとこうです。お気になさらず。とにかく……始めるぞ」


「はい」



そうして、2人は互いの相棒を出し、構える


……さて、ちょこっと久しぶりだね。だけど、そんなのお構いなしで敵は強大だ


楽しいねぇ。楽しすぎて笑いが出そうだ



「ですね。でも……やれます」


《そうですね。それではマスター、見せるとしましょうか》


「りょーかい」



ま、毎度おなじみ電○ネタだけど、ノリよくいくとしようじゃないのさ



「……行くよ、本邦初公開っ!!」


「リイン達の本当の変身とっ!!」


《本当のクライマックスというものを……》


「見せてっ! あげるよっ!!」



僕は、右手を目の前に伸ばす。手のひらは上に、誰かの手を取るようにして


そして、リインは僕の右手の中指に、自分の右手を重ねて……叫ぶ



「ユニゾン・インっ!!」



その瞬間、僕とリインの身体を青い魔力の光が包み込む


そして、リインは僕の中へと入る。……そう、入るのだ


それから、バリアジャケットが変化する


青いジャンバーは消え去り、黒いインナーが、リインの甲冑と同型になる。ただし、白だった部分は青に変わる


ジーンズ生地のパンツは、少しだけ色を明るいものへと変える


腰元に、これまたリインと同型のフード、ブーツも、同じく同型を装着。フードの色は、青。ブーツは、黒色


左手のジガンスクードも、それまでの鈍い銀色から白銀へと色を変える。鮮やかな、雪を思わせるような輝きを放つ


そして、僕の髪と瞳は、色調を変えた空色へと変化する


……力が溢れる。理屈じゃない。理論じゃない。ましてや、データ的なものでもない


身体と心の奥から、力が溢れてくる。なんでも出来そうな気持ちになる


そう、この力は……未来を掴む、僕達3人の想いの力だ


光が散る。そしてそれらは、冷たい雪となって、僕達の周りを散る。これで、完了だ


これが……本当の古き鉄の姿。僕とリインのユニゾン形態っ!!



【……やっぱり、暖かいです】


「そうだね。僕も、心が暖かい」


【恭文さんとのユニゾンは、安心するです】



うん、そうだ。リインとのユニゾンは、安心する


どんな状況でも、どんな理不尽でも、覆せる。未来を、この手に掴めると、信じられる


本当に不思議だ。うん、不思議



【はい……】


《まったく、相変わらずラブラブですね》


【ヒロインですから♪】


「まだ言うのね、それ……」



……本来であれば、リインとのユニゾンは想定外。出来るわけがないもの


だけど、僕達は出来る。こうして一つになって、理不尽を覆せる


そうだ、僕達は……かーなーりっ! 強いっ!!



「……準備はいいですか?」



シャッハさんが、トンファー……ヴィンデルシャフトを構える



「遠慮なくやらせてもらう。全力で来い」



シグナムさんが、レヴァンティンを構える



……変だね。相手はオーバーSクラス2人。なのに、まったく負ける気がしないよ


あ、言っておくけど、能力どうこうじゃないよ?


リインと一つになって、アルトが居る。3人で戦える。これだけで……誰が相手だろうが、負ける気がしないっ!!



「いくよ。リインっ! アルトっ!!」


【はいですっ!!】


《さぁ、ここからが私達のクライマックスですよっ!!》


「覆すよっ! 今をっ!!」



そして、僕達は飛び出した。さぁ、一気に行くよっ!!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

……なに、これ?


全力でやった。ギア・エクセリオンも使った。ありったけをぶつけた。なのに……かすりもしてなかった


攻撃は全て避けられ、向こうの攻撃は当たる。防御もする。防げる時もあるけど、基本的には防げずに受けてしまう


くやしい……


なのはさんや隊長達とやってる時でさえ、こんなこと感じない。自分の力が、全く届かない。こんなの……悔しい……!!



「……動かない方がいいよ」


「まだ……やれ……」


「だーめっ!!」



立ち上がろうとした私を、あの人は押さえつけた


踏みつける感じじゃない。わがままを言う子供を、少しだけ乱暴にたしなめる感じで



「アンタ、私の斬撃何発食らった? 本来なら立てるはずじゃ……。そこまでして、やっさんを知りたいの?」


「はいっ!!」


「即答かい。……はぁ、しゃあないな。私の負けだよ」


「えっ!?」



だ、だって私負けてるし、攻撃なんて当てられてないし……



「正直さ、私はアンタを動けないようにぶちのめすことは出来ない。……もしこれが実戦なら、私はアンタを殺すって選択しかできないよ」



その言葉に、頭が冷めた。だってこの人、すごく簡単に……



「まぁ、アンタや、高町教導官やハラオウン執務官みたいにさ。ここ10年の間に魔導師やるようになった子にはわからないかもしれないけど……。
それより前はね、本当にヒドかった。私らが全盛期の頃なんて、殺す殺されるなんて、日常茶飯事だったんだよ」



そう口にするヒロリスさんの顔が、どこか寂しげだった。そして、悲しい色を秘めて、どこかを見ていた



「だから、ぶっちゃけちゃえば、私は殺すって選択を取れる。綺麗事抜かして、自分が死ぬのは嫌だから。
やらなきゃ、やられるんだよ。それが出来なかった仲間内は、何人か死んだりしてたしね」



……私も、魔導師だから知ってる。今がとても安定しているというのは。でも、そこまで昔はひどかったなんて



「……って、ごめん。話それちゃったね。私がなんで負けを認めたか、言わないといけなかったのに」


「あ、いえ……」


「私は、アンタの力に負けたんじゃない。……アンタの心に負けたんだよ。まっすぐに、やっさんを知りたいと願う心にね」



私の……心



「私の持ってる手札じゃ、それを覆すのは無理。殺す……ようするに、うちらがポーカーやってるテーブルをひっくり返すしか、手を思いつかない。
だけど、当然それはできない。だから、負けなの。……OK?」


「ヒロリスさん……」



なんだか、少しだけ納得が出来ない。でも……いいの、かな?



「いいよ。つか、自信持ちな〜? 私をそういう形で負かせたのは、アンタで3人目だ。ちなみに、レイとやっさんは無理だった」


「そうなんですかっ!?」


「……いや、アイツらとやると、私もどーもエンジンかかってさ。ついやりすぎちゃうのさ。やっさんが気絶するまでぶっ飛ばしたり、レイとは周りに止められるまでやっちゃうし」



あははは……。納得しました。というか、恭文、こんな強くて、凄い人と特訓してたんだよね。分かる


なのはさん達から見てもびっくりするくらいに、強くなった理由


きっと、いろんな形で、力を貸してくれたんだ。なんだか、分かる……まさかレイもなんて驚いたけど



「でさ、スバルちゃん。アンタ、いい勘してるよ」


「……というと?」


「やっさんが『壊したいものを壊すために戦う』っていうのはね、やっぱり過去のことが原因なんだよ」



……ほんとにそうだったんだ。私、結構なりふり構ってなかったのに



「アンタねぇ……。まぁ、アンタの経歴は、ちょこっと聞いた。だから納得できないのも分かる。つか、それは当然だろうね。
でね、やっさんの昔の事なんだけど……」


「……あの、ヒロリスさん」


「なに?」



どうしよう、言いにくい。だけど、ちゃんと言わなきゃ



「あの、なんていうか、わがまま言って申し訳ないんですけど……。やっぱり、聞かない……じゃ、ダメですか?」


「はぁっ!?」



あぁ、なんか怒ってるっ! やっぱり、ダメだよねっ!? ここまで私が騒ぎ起こしちゃったんだし……



「とりあえず、理由を言いなよ。じゃないと、私は納得できない」


「……恭文に、ちゃんとぶつかって聞いてみたいんです。ヒロリスさんにしたみたいに。というか、私、卑怯でした。今ここで聞いても、後悔しそうで……」


「やっさん、話さないかもしれないよ?」



……うん、そうかもしれない。今までは、そうだった。だけど、その……でも、やっぱりなんだっ!!



「それでも、もう一度、ぶつかってみます。私の我儘で、勝手。だけど、ちゃんと知りたい。
恭文と向き合いたい。だから……教えて。そう、言いたいんです」


「……スバルちゃん、アンタ……本当にバカだよね」



……はい、そう思います。心から思います。バカだなって、本当に。反論できません


きっと、ティアもみんなも呆れると思います。KYです。自分勝手です



「でもま、私の好みかな♪」


「えぇっ!?」


「……まぁ、あれだよ。実は、私もサリも、やっさんから相談されててさ。アンタに、ちゃんと話すべきかどうかってさ」



相談? えっと、私と恭文のことをっ!?



「そうなんだよ。つか、アイツからの六課での近況報告メール。フェイトちゃんとリインちゃんの次に出番多いの、アンタだよ?」



えぇっ! わ、私がっ!? どうしてっ!!



「アイツ、アンタのこと、一緒に馬鹿をやれて、喧嘩も出来て、心の許せる大事な友達だって、思ってるんだよ。そういう話ばっかり。
……ありがとね。あんなどうしようもない性悪相手に、ここまで向き合ってくれてさ」


「あ、いえ。というか、恭文は性悪じゃないですよっ!!」



意地悪で、ひねくれてて、全然まじめじゃなくて、ふざけてるように見える。だけど、それが全部じゃない


本当は、すごく優しくて、まっすぐで……。私、だめだな。ちゃんと分かってるつもりだったのに……わかって、なかったんだ


なんで、信じてあげられなかったんだろう。私が見てきた恭文のいい所、ちゃんと、もっと、信じればよかったんだ



「そっか、そう言ってくれると嬉しいわ。弟弟子ってのは抜きにしても、友達だからね。心配ではあるんだ」



そう口にしたヒロリスさんは、今まで見た中で、一番優しい表情をしていた。……きっと、この人もすごく優しい。間違いない



「でもさ、根が秘密主義の塊で、強がりが服着て歩いてるような奴でしょ? ここじゃあ普通にしてたみたいだけど、どうしようか悩んでたんだよ。
アンタとの微妙な距離、なんとかしたいって、ずっとね」



知らなかった。恭文、ずっと私の話、スルーしてばかりだと思ってたのに……。そうじゃ、なかったんだ


ちゃんと、考えててくれた。自分勝手な私の気持ちに、向き合おうとしてくれてたんだ



「たださ、アイツの過去は、やっぱり重いんだよ。相手を選ぶ話題なのは間違いない。だから……話すのに、少しだけ勇気が必要だったんだ。
せっかく出来た大事な友達と……アンタと距離が出来るようなことになるの、嫌だったんだよ」


「恭文……。あの、私……全然知らなくて……!!」


「そりゃそうさ。やっさんは話してなかったんだから。わからなくて当然。たださ、覚悟、決めてきてるから、もう少しだけ待ってやってくれないかな?」



……え? あの、どうして頭を下げるんですかっ!? 私が迷惑かけまくっているのにっ!!



「ま、一応ね。大事なことさ。……アイツは、アンタをどうでもいい存在なんて思ってない。むしろ、その逆だ。友達で、仲間で……大事だから、向き合おうとしてる。
だから、絶対にぶつかってくる。結局、アンタと同じで、アイツもバカだからね。そうするしか選択肢ないんだよ」


「……はい」



……そうだよね。私も、覚悟を決めよう


恭文だけじゃダメなんだ。私も、全力で、どんな話だろうと、受け入れる。最後まで聞く覚悟を、決めよう

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

……なんだろ、二昔前の青春映画であんなのなかったか? 殴り合って関係が深まるって、どんな体育会系だよ



「まぁ、いいんじゃねーですか? 当人同士が納得してるみたいだし」


「それもそうだね。ま、あとはやっさんとスバルちゃんの問題だ。あの様子なら、サクっと解決するでしょ」



アイツも、覚悟は決めてる。ただ、ちょっとだけ勇気が出せなかっただけだ


まったく、バカな奴だよ。他ならいざ知らず、スバルちゃんみたいな子なら、きっと受け入れてくれるだろうにさ



「あの、でも……」


「なに、フェイトちゃんは不満?」


「……やっぱり、重いことですから。ヤスフミに、無理をさせたくないんです」



……やっぱり白旗だよ。俺の出る領域じゃない。ただ……まぁ、楔は打っておくか


やっさん、一つ貸しだからな?



「大丈夫だよ、アイツは強くなった。もうガキじゃない。この程度のこと、自分で解決出来るさ」


「この程度のこと……! どうしてそんな風に言うんですかっ!? ヤスフミ、あの時すごく大変で……!!」


「そういうの、もうやめときなよ」



やばいな、ちょっと怒ってるのかも。まぁいいか。ちゃんと言わないと、このおねーさんは理解出来ない



「やっさんは、もうアンタが出会ったころのような子供じゃない。大人の男だよ。自分の傷のしょい込み方くらい、ちゃんとわかってる。
……アンタ、やっさんの家族だよな?」


「そうです。私は、ヤスフミの……」


「悪いけど、俺にはそうは思えない」



なんかぎゃーぎゃー言い出したけど、無視。俺の言いたいことは一つだからだ



「アンタ、今のやっさんを見てないだろ? つか、やっさんのことをまったく分かっていない」


「そんなことありませんっ! 私は、家族としてヤスフミのことを……」


「それがわかってないって言ってるんだよ。……今のアイツを見ていれば、さっきまでの子供扱いな言葉は出てこない」



まぁ、心配するなとは言わないさ


アイツの過去は、俺やヒロはともかくこの子の世代だと、やっぱり異常事態以外のなにものでもないと思うから


……時代なのかねぇ。色々置き去りにしてる感じがプンプンだけど



「それでもだ。アンタ、おかしいよ。ハッキリ言うと異常だ。
そういう、今のアイツの姿を、何一つ認識していない子供扱いが、やっさんを傷つけているって、少しは自覚しとけ」



なんか睨んできてるね。……はぁ、俺も相方のことをどうこうは言えないわ。次は俺の番か?



「フェイト、落ち着け。……つか、この人の言う通りだ」


「ヴィータっ!?」



お、さすがにやっさんが師匠と仰ぐことはある。俺の言いたいことを察してくれたようだ


うし、これでヒロにクレームつけられなくて済むな(ここ大事)



「ま、お前がおかしいのはいつものことだからいいとして」



……ヴィータちゃん、意外とひどい子なんだね。いや、びっくりしたよ俺は。フェイトちゃん、なんか突き刺さったよ?



「アイツは、もう大人だ。お前がそんなに心配する必要はねぇよ。大丈夫だ、ちゃんと背負い方を考えながら生きてるよ」



その通りだ。俺やヒロもいろいろ話をさせてもらってるしな。なんつうかさ、関心したくらいだ


俺らも同じ経験してるけど、あそこまできちんと考えていなかったと思う。背負えては、きっと居なかった


もうその時には局に勤めてたから、局のためとか、正義のためとか、言い切ってたな


……うん、目の前に居たら、ぶっ殺してやりたいよ。昔の自分を



「つか、アタシの目から見ても、本当に強くなった。ここ1、2年は特にだ。それを間近で見てたサリエルさんが大丈夫って言うんだ、問題ねぇよ。
……もうちょっと、信用してやれ。家族って言うなら、余計にだ」


「ヴィータ……」



……どうやら、楔は打ち込めたみたいだな


やっさん、お前……やっぱりすげーよ。このおねーさんにそこまで付き合えるんだからさ。悪手打ちというか、なんというか……だね



『あー、みんなちょっといいかな?』


「どーしたよヒロ?」


『いや、悪いんだけどさ。ちょっと暴れ足りないのよ。というか、エンジンかかって』


「……よし、今すぐに戻って来い」


『というわけで』


「無視するなよっ!!」


『スバルちゃんはもう休ませないとだめだから、他の3人、今すぐ準備させて。いい機会だから、私が鍛えてあげようじゃないのさっ!!』


「……お前、やっぱり頭おかしいだろっ!!」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……あのバカ」


「……あの、サリエルさん」



なにも言わないでくれ。頼む、お願いだから。つか、アイツの関係者として扱われることが、今はつらい


うちの馬鹿は、ティアナちゃん達3人を相手取った


まぁ、ここはいい。あの子たちは強いけど、3人じゃあうちの相方は抑えられない


ただ、俺がさっき余計な事を言ったせいか、若干ヒートアップしていたフェイトちゃんが、止めようと乱入してきたからさぁ大変


……あのバカ、出てきて、フェイトちゃんと何回か交差したかと思ったら、もういいやと言わんばかりに一撃入れて、空気読まずに墜としやがった


話し合い? そんなことをする知能が、戦ってる時のあいつにあるわけがないじゃないのさ


邪魔だと思ったら、遠慮なく撃つよ。そういうやつだ。やっさんと同じでね


いや、分かるよ? 確かにフェイトちゃんは強いけど、俺やヒロなら、あれくらいならなんとかなる


噂通りに速いし、攻撃が鋭いけど、こちらはヘイハチ先生とガチにやりあってた身。相当厳しくしごかれたし


エースって程度じゃ、俺達にはビビる理由にも、負ける理由にもならない。もっとヒドいのを知っているわけだし


なによりだ、修羅モードに入ったやっさんを相手取るのとどっちが楽かって言われたら、間違いなくこっちだ


だって、殺気はぶつけられないもん。あれは真面目に怖いもん。ヘイハチ先生の影を見るもん


で、その弔い合戦とばかりに、3人がヒロに突撃していって……。今、いい感じに演習場は修羅場になっております



「最初に言っておく。俺には止められない」


「……いや、わかってました。つか、あの人、バカ弟子と似てませんか?」


「正解だよ。空気読まずに勝つとことか、バトルマニアで挑発大好きでお話し合いが全くできないとことか。
正直やっさんにはああはなって欲しくない……」



いや、無駄な願いだけど


お願い。誰かアイツを何とかして。俺には無理だから


あぁ、やっさんとレイが居れ……ば……。そうだよ、レイがいるじゃないか!



「ヴィータちゃん、レイはっ!?」


「レイなら今日、デバイスルームにこもるって……」


「お願い、すぐに呼んでっ!!」



あいつには悪いがここは生贄になってもらおう……

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

俺が四苦八苦しながらも開発に取り組んでいると……



《マスター、ヴィータ殿から通信がきているぞ》


「繋げてくれ」



俺がプログラムを打ち込む片手間に開いた通信モニターを見た……



『レイッ! 頼む、ヒロを止めてくれ!』


「は……サリ? ヒロを止めろって……その前になんでヴィータの端末を……」


『アタシが貸したんだよ。悪いんだがよ、すぐに演習場に来てくれないか?』


『頼む!』



また、なんかやらかしたのか……仕方ない。保存とバックアップを録ってっと……



「出来るだけ急いで行くから」


『すまんな、レイ』


「気にするな」



そうして、俺はラミアを掴んでデバイスルームから隊舎の外へ……そして瞬動を使って現場へと急いで向かった

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

演習場について俺が最初に感じたことは……



「…………………なんだこれ」


「そうだよな……そう言いたくなるよな」



なんかサリが泣きそうな表情してるのは置いとこう……フェイトが撃墜されていたり、フリードが暴れ……え、竜魂召喚?


ま、まあ、ここもいい。エリオが叫びながら突撃して、ティアナがエリオの援護に忙しそうだ……エリオは錯乱してるな。これはチームとしてはダメだな



「サリ……なんでこれ?」


「それはな……」



説明された内容に俺は頭を抱えた。フェイトの無自覚を指摘して楔を打ち込んだことはこれからの恭文にとっては大きな助けとなるだろう……


でも、いくらなんでも一撃でフェイトを撃墜することはないだろ、さすがに……


まぁ、ここはもう過ぎたことだから何も言うまい


とにかく、呼ばれたからには俺の仕事をしますか



「サリ。ティアナ逹が下がれるように誘導を頼む」


「任せろ」


「ヴィータはフェイトを頼むな」


「応っ!」


「ラミア……」


《分かっている。Angelgg Set Up》



俺が纏うは黒き翼の騎士甲冑。さて、ヒロ相手だから実剣の方がいいな



「頼むぞ、レイ」



俺はティアナ逹を相手に暴れているヒロに一直線に飛び立った


(十二話に続く)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

おまけ:レイが止めに入った頃の恭文一行



『ごめんなさいっ!!』



全員で謝っています。相手は、シャッハさん。原因は簡単。修練場、本当にすごいことになりました


もうね、ひどい。形容出来ないくらいにひどい。とにかく……謝ってます。というか、もう一回……



『ごめんなさいっ!!』


「……あぁ、謝らなくていいですから。というより……」



え、なぜに僕を見る?



「あなたと、ヒロリスとサリエルさんの修練を見ていましたから、この程度のことは予測済みでした。
騎士カリムからも、何か起こったとしても、多少のことは大目に見ろと言われていますし」



……あぁ、カリムさん、ありがとうございます


というか、それを受け入れてくれたシャッハさんもありがとうございます。感謝するほかありませんよ



「……ただ、恭文さん」


「はい?」


「あなたは、このままお返しするわけにはいきません」



……なにやらされるんだろ。お説教かな? あ、修復魔法……うん、あれとかこれとか使えば、明日中には



「そういうことではありませんっ! 全く、あなたは本当にロッサと同じで自由すぎる傾向がありますね」



……今回は反論できません



「ただ、あなたに約束していただきたいことがあるだけです」


「約束?」


「はい」



シャッハさんはそう言うと、いったん呼吸を入れ替えた上で、真剣な瞳で僕を見つめて……話を始めた



「まず、AAAランクの試験に、絶対に合格するということ。
そして、あなたの戦う意味、強くなる理由。背負いたいもの。戒めているもの。それらを……信じてください」



ふぇ?



「大丈夫、あなたの想いは、間違っていません。誰がなんと言おうと、信じ抜いてください。それだけ、約束していただけますか?」



……シャッハさん


僕の返事は決まっていた。重いものをまた背負うのは決定済みだけど、それでもだ……ちゃんと、したい



「……はい、約束します」


「……なら、大丈夫です。今日のことがあなたの糧になるのであれば、この後の修練場の補修工事がどれだけ大変だろうと、耐えられます」



グサッ!!



「あと、早々に雑魚敵同然に退場させられたことも……きっと、私の明日への糧になるでしょう」



グサグサッ!!



《……シャッハさん、気にしていたんですね。というより、やはりいろいろ聞いてるんじゃありませんか?》


「さぁ、どうでしょう? とにかく、約束しましたからね。破ったら、私が直々に修正を加えてさしあげましょう」


「……そうならないように、頑張ります」



とにかく、これで全員が全員、無罪放免で帰れることが決定した


なので……僕たちはトゥデイに乗り込んで、六課隊舎を目指す


そして、駐車場から出したトゥデイの横に、シャッハさんが来てくれた。僕は、運転席から、顔を出す。挨拶は、大事なのだ



「……あの、シャッハさん。ありがとうございました」


「いえ。それでは、また来てくださいね。騎士カリムが寂しがっていますから」



……なのはの視線が厳しくなったけど、気にしてはいけない。というか、本当になんでもないって


友達兼紅茶の淹れ方の先生2号ってだけだよ



「そうですね。時間が出来次第、必ず」


「なら、安心です。……それでは、また。ごきげんよう」


「はい、また」



そうして、僕はトゥデイを発進させた。シャッハさんは、そのまま手を振って、ずっと見送っててくれた。なんか、ちょっとうれしい



「……蒼凪」



助手席のシグナムさんが、話しかけてきた。視線は、前を向いたまま



「お前は、お前だ」


「え?」


「……シスターシャッハの言われたこと、心に刻んでおけ」


「……はい」



やっぱり、いろいろ話してるみたいだね。間違いないわ。というか、心配……かけてるね。うん、すごくだ



《マスター》


「なに?」


《私も、同じです。あなたは、あなたですよ。他の人に合わせる必要なんて、ありません。大丈夫。私は、ずっと一緒ですから》


「リインもですよっ! 大丈夫です。恭文さんは、いつものノリでぶっ飛ばしていけばいいですよっ!!」



アルト、リイン……。なんか、相棒達にまで心配をかけていたらしい。うん、もうちょっとだけ、頑張ろう


視線の先に映るのは、ハイウェイと、緑の山々。このあたりは、自然が近いしね


そういや、明日か。うん、明日だ。もう明日で、11月も終わる。たった一ヶ月で、ずいぶん状況が様変わりしたけど……でも、いいよね


きっと、必要なことなんだ。これから、前に進むためには。きっと

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

あとがき

レイ「今回のあとがきは……」


ラミア《前々回振りのラミアとマスターだ》


レイ「さて、サリが株を上げた名シーンのある回だったが……」


ラミア《ほとんど変えてないな》


レイ「それには訳があるんだ。ルミナはこのシーンが大好きで、俺という異物を入れることをしたくなかったらしい」


ラミア《それでは異邦人編という意味がないではないか……DarkMoonNIght殿の所ではジン殿も関わっているというのに》


レイ「いや、作者的にはジン込みのあのシーンも好きらしいんだ。俺が介入した時を想定していろいろ言葉を考えたらしいんだが……」


ラミア《納得のいく言葉が思い付かなかったと……》


レイ「そういうことだ。で、結局そのままらしい」


ラミア《仕方がないと諦めよう。で、ヒロリス殿とマスターの戦いは描かれるのだろうな?》


レイ「さあ? ヒロとの戦いは難しいだろ。使用魔法も一部しかわからないし、ルミナもヒロとサリの登場シーンを読みまくってなんとかズレがないようにしようと必死だからな」


ラミア《あの2人に会いにいったときなど書いてる最中に自信がなくなってそうそうに切り上げたからな》


レイ「だな。さて、次回は……」


ラミア《恭文殿たちが帰ってきた時の話だ。マスターとヒロリス殿の戦いの決着は?》


レイ「楽しみにしててくれ」





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