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頂き物の小説
第十話『世の中は思い通りにはならない。だけど、報われる時もある……でも、またもや語らないことだってあるはずだ 前編』



………神は居た


色々と辛い思いをした僕を、神は見捨てはしなかった。そう、神はいたのだっ!!


なんやかんやで、本日はお休み当日。今日から三日間は僕はフリーダム。そして幸せの時間だ


……幸せの時間っていうと、なんかドロドロしてエロな感じがするけど、そんなことはない


だって、今の僕の心は、この空と同じように、清々しいまでに晴れ渡っているからっ!!



「……なぎさん、私達より嬉しそう」



白いワンピースに、ピンクの上着。まるでどっかのお嬢様ルックなキャロが何を言おうと、まったく気にならない



「というか、さっきからはしゃぎまくりだよね……」



エリオは、ジーパンジージャンに白シャツ。僕とほぼ同じ格好。ま、僕は黒の無地だけど



「でも、そんなに喜んでもらえると、誘った甲斐があったな。ヤスフミ、三日間よろしくね」


「うん、よろしくフェイト〜♪」



黒の薄手のカーディガンに、黄色いワンピースを着ているフェイトの声に、楽しげに返事


あぁ、なんていうか……



“エリオ、キャロ、ありがとう。本当に感謝してるよっ!!”


“なぎさん、それもう94回目……”


“一日20回近く言ってるよ……”



だって、そんな気持ちなんだよっ!


三日間フェイトと一緒……うぅ、一緒に暮らしてたというのに、これで感激するのは色々間違っているのだろうけど、そこはいいっ!!


とにかく……楽しむぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!



《……いや、あなたいい加減落ち着いてくださいよ。なんで頭から『♪』マークが出まくってるんですか?》


「気にしないで」



……とまぁ恭文がフェイト達と旅行に行くみたいではしゃいでいるが、君らはまたもや脇役だから



「《えっ、マジ(本当ですか)!?》」



そうなのだ。答えはきいてない!!



「《ちょっ!? 待って(待ってください)!?》」



魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常〜異邦人と古き鉄〜


第十話『世の中は思い通りにはならない。だけど、報われる時もある……でも、またもや語らないことだってあるはずだ 前編』

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……シャーリー。これなら文句はないだろう?」


「なのはさんのブラスター3と同じ負担ですか……まぁ、最初の頃と比べるとマシですね」



今俺は、シャーリーに改良に改良を重ねた『DTD』システムの詳細を見せている。最初の予定よりも能力が格段に低下したが、なんとか判定はセーフらしい



「OKが出たばかりだが、実戦データを集めたいから模擬戦してもいいか?」


「ええ。いきなり本番よりは大丈夫でしょうから、私からは何も言いません」


「じゃ、ヴィータにでも相談してくるよ」


「あ、はい!」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

俺がデバイスルームから退室したあと、ヴィータを探し演習場に行くと発見した



「ヴィータ、ちょっといいか?」


「おう、なんだ?」



ヴィータにさっそく、ラミアに搭載した新しいモードの実戦データが欲しいと掛け合った。つまりは模擬戦だな



「そうか。ちょうどティアナとスバルの基礎訓練をやるつもりだったが、そればかりもいけないからな……模擬戦に変更してやるよ」


「助かる。で、どんな地形でやる予定だったんだ?」


「廃棄都市部だ。それで、ティアナとスバル、どっちとやるんだ?」



廃棄都市か……。障害物が多数の場所なら色々と試せるな……相手なら



「2人同時で頼む」


「おいおい、いいのか? アイツら組ませると厄介だぞ、負けても知らねぇからな」


「負けたのなら改善点が見つかるし別に構わないさ。勝ち負けよりもデータが欲しいからな」



さて、話は決まった。あとはあの2人が……



「あれ? レイどうしたの〜?」


「ほんとだ。今日はデバイスの調整があるって言ってなかった?」



どうやら来たようだな

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

場所は移り、廃棄都市のフィールドに変わった演習場内……俺達は互いにバリアジャケットを装備して対峙していた


今回の俺は『アンジュルグ』だ

俺が任務とかで良く使うフォームで、試すならやはり多用するフォームの方がいいという判断からだ


対面にはとっても楽しそうに準備運動をしているスバル。バトルマニアの素質バッチリだわ……



「レイ。ほんとに2対1でいいわけ?」


「ああ。俺の仕事柄、一対多数の状況が多いからな。それを想定しようにも2人は少ないくらいだが、ティアナとスバルの連携力を考慮したらいいデータが手に入ると思うし、本気で相手してくれないとテストにならん」



ティアナとスバルの恭文との模擬戦。それを見る限り、相当の実力者だ

特に2人の連携力が高いとなのはがこの前話してたしな


試運転の相手としては申し分ない



『おめぇら、準備はいいか?』



レイ達が準備を整え終えたくらいに、空間モニターが現れ、ヴィータが映し出された



「ああ、俺はいつでもいい」


「私も大丈夫です!」


「もちろん、私も」


『そうか。降参または気絶した時点で終了。いいな?』


『はい!』


「ああ」


『こっちでもデータ取ってるからいつでも始めてくれて構わねぇよ』



そう言って空間モニターが消えた



「さて、準備はいいな。―――来い!」



俺の声を皮切りにスバルが突っ込んでくる事で模擬戦が始まった


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ヴィータ。訓練だったのではないのか?」



私があいつらの模擬戦を見ていると、シグナムが訝しげに近寄ってきた



「そうだったんだが、レイの奴が模擬戦やりたいっていうんでな。いい機会だから、スバル達とやってもらってる」


「ふむ……成程な」



シグナムが顎に指を添え、模擬戦が行われているフィールドを眺める


ティアナの的確な魔力弾、スバルの拳……そしてそれらを交えた連携を、レイは剣だけで捌いている



「さすがはレイだ。フフ、私もまた手合わせしたいものだ」



隣で笑うバトルマニアに、少しは自重というものを覚えて欲しいと思うのは間違いではないと思う


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


スバルもティアナもいい腕前だ。この歳でここまで出来るんだ、将来が本当に楽しみだよ


でも、そろそろ準備運動は終わらせますかね、派手に


俺はウィングロードを突き進んでくるスバルを視界におさめ……



「えっ!?」



瞬動でスバルの懐に潜り込み、思い切り蹴り飛ばした



「ぐぅ!?」


「スバルっ!!」



蹴られた反動で飛ばされていくスバルに、俺はすぐに瞬動を使い追い付き、剣を構えた



「――ミラージュ」



さらに高速移動魔法を駆使してスバルを全方向から斬り、さらに宙に上げていく


まぁ、さほど威力も高くないし、スバルも全方位のバリアを展開して堪え忍んでる


だが、これでも耐えきれるかな?



「サイン……!」



スバルのバリアは未だに残っている。だが、その身体は空中に巨大な赤黒い魔法陣によって、その場に縫い付けられている……俺はスバルの直上に上がり、一気に降下、その勢いのまま……



「――ブレイクッ!!」



魔法陣ごとスバルを叩き斬った。次いで爆発……


俺は地面すれすれまで急降下し、翼と姿勢制御の魔法を巧く使って直角に地面と平行に飛ぶ……腹が掠りかけたから、超低空飛行だ


そして、ティアナの狙いから逃げるように、翼を力一杯羽ばたかせて上空に無理矢理急上昇する

俺にかかるGは半端ないが、耐えられないほどじゃない



《スバル殿は無事のようだぞ。ウィングロードに着地したのを確認した》


「そうかい。なら、リミット・ブレイク」


《Limit Break》



俺は、スバル達から充分に距離を取ったのを確認し、剣から弓に持ち代えた

そして、魔力を高密度に圧縮した矢を弦にセットし、引き絞る



「行け! ファントム・フェニックス!!」


《Code,Phantom Phoenix》



俺はラミアの声を聞いた瞬間に、引き絞った弦を解き放った


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


スバルを叩き斬ったレイは、ものすごい速度で間合いを開けていく。というか、なんて速さなのよっ!?

あんなの狙えるわけないでしょうがっ!!



“スバル、大丈夫あんた?”


“う、うん……なんとか……”



スバルもなんとか無事でよかった。滅多斬りにされて、最後にキツいの食らってたし、心配したわよ



《――ッ!? 魔力反応増大、砲撃です》



そんな思考をしていたため、反応が遅れた……
私はクロスミラージュの警告に数瞬遅れて、レイが飛び去った方向を見た

すると、そこには弓矢を構えるレイの姿を確認できた。と言っても、かなりの遠距離でかろうじで判別できたんだけど……


あの身体の向きから狙いはスバル……そこで私はアイツとの囮捜査を思い出した


最後抵抗しようとしていた魔導師を射抜いた矢……それがスバルを狙っているのは明白、てことはマズいっ!!



「スバル! すぐに物陰に隠れなさい!!」


「ほぇ?」



私の叫びと、レイが矢を放つのは同時だった


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ティアの声にビックリした私は、ティアの向いている方向へと顔を向けた――すると……



「と、とりぃぃぃぃっ!!?」



大きな炎の鳥がこっちに突っ込んでくる光景だった。私はすぐに鳥とは逆方向にウィングロードを走らせ、逃げる



「わ、わ……わわ………わぁぁぁぁぁっ!? ティ、ティアぁ〜! なんとかしてぇぇぇぇぇ!!」



私は右に左、上や下と逃げ回るが、どこまでも追いかけてくる……なにこれなにこれっ!? 誘導弾!?



「わかってるわよっ!! クロスファイア……」



ティアは私を追ってきている鳥に向かい……



「シュート!!」



砲撃を放ってくれた。鳥と砲撃がぶつかり爆発が起こる。それで多少体勢が崩れたけど、なんとかティアの場所にまで辿り着けた



「あ、ありがとティア!」


「いいわよ、お礼なんて」



う〜ん、相変わらずのツンデレだなぁ〜



「誰がツンデレよっ! バカスバル!」



あいたっ!? ティアに叩かれたよぉ〜、なんで?



「お前ら……模擬戦中だって忘れてないか?」



ティアに叩かれたおでこをさすっていると、レイがゆっくりと私達の前に降りてくるところだった。なんか、昔テレビで見た天使みたい



「ま、準備運動はこれくらいにして……そろそろ俺本来の目的を果たさせてもらうぞ♪」



だけど、その笑みは怖いよ?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ラミア……モード、DTD発動」


《Consent of Dust To Dust》



俺のバリアジャケットは、外見はそのままに、黄金へと色を変えた



「色が変わるのは想定外だが……パワーアップって感じでこのままでいいか。ラミア、調子はどうだ?」


《ん〜、ボクはだんぜん絶好調〜♪ ガンガン行っちゃうよぉ〜!》


「……………は?」



いかん、空耳か?
徹夜続きだったし、疲れがまだ溜まってるのかなぁ……



《マスター、そんな遠い目してどうしちゃったのかなぁ〜? このラミアちゃんに相談するのにゃ!》



いやいやいや、ちょい待てラミア!?
キャラ変わりすぎだぞ!

何が原因だ?
言語機能に影響を与えるプログラムなんて組んでないぞ。もしかして……いや、まさかな

でも、それしか考えられないし……よし



「ラミア……正直に答えろ。熱暴走とか起きてないよな?」


《ちょっち待っててね〜♪ ―――――アハ〜、してるっぽいね♪》



やっぱりか、こんちくしょう!
アシェンと同じ症状かよ。いくら共通点があるからってこれはないだろ!
いや、まあ……うん。造ったの俺なんだけどな、これは予想外すぎる……


ハッ……ティアナとスバルは……


いかん、呆然としてる。ラミア、このモードの時はもう喋るなよ



「……気を取り直して。スバル、ティアナ……行かせてもらうぞ!」



俺は、魔力刃のサーベルを構え普通に……そう、いつもと同じように宙を駆けた


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイのバリアジャケットが金色になった瞬間、私とティアの周りだけじゃなく演習場全体を風が荒れ狂い吹き荒ぶ……



「な、なんなのよ……このバカ魔力は……」



そう、それだけじゃない。レイの魔力がすごいことになってる。詳しい数値はわからないけど……肌で感じるこの威圧感は相当だ


何かラミアと話してるようだけど、風の音で聞き取れない……だけど



「――――行かせてもらうぞ!」



この一言だけは妙にはっきりと聞こえた。でも、この言葉を聞いた瞬間、レイの姿が消え……



『……え?』



私とティアは一瞬呆けた声を漏らし、私の記憶はそこで途切れた


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


っと、普通の移動が高速移動魔法と同じくらいか……いつもと同じ感覚だと危ないな、気をつけとかないと。それより……



「ラミア」



《2人はダイジョ〜ブイ! 安心してね、マスター♪
気持ちよ〜く寝てるだけだから》


「そ、そうか。とにかく、DTD解除、それと待機形態に」


《オッケ〜♪》



ラミアはすぐにDTDを解除して、待機状態に移った。なんとか、データは録れた。あとはこれを基に色々しよう


まずは、熱暴走をどうにかしないとな


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あのあと、俺は気絶したティアナとスバルを魔法で浮かして一先ず医務室に直接連れていった。シャマルに頼んだし、大丈夫だろ


それから、ヴィータに礼を言いに行ったときが大変だった。模擬戦中に計測された俺の魔力値がBランク魔導師の常識を著しく超える数値が出たらしい


なんとかDTDの説明と、ラミアに掛けられたリミッターの話をして、納得してもらった


マンションに帰るのも、徹夜を何回もした俺にしたら、帰宅する気力もなく……用意してもらった部屋で、気を失うかのように眠りについた


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


翌日、隊舎寮で俺は惰眠を貪っていた。ちょうど今日は休日なのだ……思いっきり寝倒そうという予定である


でも、ある人物2人の訪れによってその計画は崩れた



「なのは、ヴィヴィオ……おはよう。こんな朝早くにどうした?」


「おはよう、レイ君」


「おはよう!」



そう、なのはとヴィヴィオがやって来たのだ。なのはは私服なのでどこかに出掛けるみたいだが、なぜ俺のところに?



「レイ君今日お休みだよね? ヴィヴィオを連れて実家に行くんだけど、一緒にどうかなって思って」


「一緒に行こ〜♪」



ふむ、海鳴か……まあ、寝倒すつもりだっただけで、予定なんて入ってないしな



「わかった。付き合うよ……もう出るのか?」


『うん!』



元気よく頷く2人に、苦笑が洩れる。ほんとうに帰郷が楽しみなんだろう。そこに俺も行っていいのか迷うが、誘ってくれているのに無下に断るのも忍びない


俺は、2人に部屋の外で待ってもらい着替え、なのはとヴィヴィオの2人と一緒に海鳴へ向かうのだった


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あー、助かった。つか、予想はしていたけど、まさかあそこまでとは………


えー、すずかさんとは何にも無いんだよ? いや、真面目によ


…………………………………………………すみません、ちょっとありました。えぇ、ありました


すずかさんと、そのお姉さんの忍さんの出自関連に、海鳴に来たばかりの僕は巻き込まれて少しだけ、ゴタゴタした


なぜだか魔法絡みじゃないのに、アルト使って戦いました。はい、やりあっちゃいました


それ以来かな。すずかさんが僕に対してああいうことをするようになったのは。まぁ、その……うれしいですよ?


好きって言ってもらえるし、僕にはもったいないくらいだし。でもその……フェイトが居るから


というか、ちゃんと断ったりもしてるんだけど『友達同士のスキンシップとしてやってるから、大丈夫だよ?』というお返事が……


うぅ……どうしよう。やっぱ、早々にフェイトフラグを成立させるしかないのかな


とにかく、そんな話をしながらも僕達は海鳴の町を歩く。一応、顔を出しておかねばならないところがあるのだ


そして到着したのは……一件の家


中に入ると、純和風の佇まい。道場があったり、庭に池があったり。僕はよく出入りをしていた場所


僕達は、インターホンを鳴らすと……中から足音がする。一人じゃない、複数の足音。そうして、引き戸式の扉が開く


そこに居たのは、一人の黒髪の男性。その傍らに栗色の長い髪の女性



「士郎さん、桃子さん、ご無沙汰しています」


「いや、本当にお久しぶりです」


「フェイトちゃん、恭文くんもお帰り」


「いや、しばらく会わない間に……伸びてないな」


《士郎さん、言わないであげてください》



この人たちは、男性は高町士郎。女性は高町桃子。僕は士郎さんと桃子さんと呼んでいる


ここまで言えばわかると思うけど、ここは高町家。つまり……なのはの実家なのだ


僕とフェイト達は、日ごろお世話になっているお2人に挨拶に来たというわけである。そして………



「あの、初めましてっ! エリオ・モンディアルですっ!!」


「キャロ・ル・ルシエですっ! 初めましてっ!!」


「あぁ、あなた達が……。はい、初めまして。エリオ君とキャロちゃんね」


「……君達、うちのなのはは厳しいかな。向こうの世界で、悪魔とか魔王とか言われてるんだろ?」



その瞬間、そう口にした士郎さん以外の全員が僕を見る


だけど、僕の視点は既に空へと向いている。なんの問題もないのだよ。あぁ、いい天気だなぁ〜



「あ、あの……そんなことないですから。なのはさんは、すごく優しい方です」


「いつも、私達のことを気遣ってくれています。魔王っていうのは、性悪なぎさんの、不器用で意固地な意地悪なんです」


「それもヒドくないっ!?」


「まぁまぁ。とにかく、みんな中へ入って。お茶とお菓子も用意してるから、それでも食べながら話を聞かせてくれ」



そして、士郎さんの先導で、僕達は高町家へと入る。……いや、ここも久し振りだよね。うん、本当に帰って来た気持ちになるよ


そして気づく。リビングの方から話し声が聞こえることに。……ん?


それになんとなく嫌なものを感じながら、リビングに入った。そして……僕は頭を抱えた



「恭文さん〜♪」


「やっと来たみたいだな、恭文」


「うん。フェイトちゃん、エリオとキャロも、遅かったね。あと、恭文君……お話しようね。お父さんになに言ってくれてるのかな?」



「はむはむ……。士郎さん、桃子さん、美味しいです♪ あ、恭文、フェイトママー!」




居たのは、空色のロングヘアーの10歳前後の女の子


6歳くらいの、アリサと同じ髪をしたこれまたロングヘアーで両サイドをリボンでちょこんと結んでいる小さな女の子


10歳前後な女の子にしか見えない、紫色の髪をポニーテールにした男の子


そして……魔王



「魔王じゃないもんっ!!」


「あぁ、神なんて居なかったんだっ! 魔王はどこへ行っても逃げられないんだっ!!」


「だからっ! 魔王じゃないよっ!! というか、私をそんな恐怖の代名詞みたいに言うのやめてよっ!!」


《Jack Pot!!》


「アルトアイゼンもなんで『大当たりっ!』って言ってるのっ! どうしてD○Cっ!?
あれかなっ! 青くて刀使いだからOKとか思ってるのかなっ!? でもそれはまちがいだよっ!!
というかっ! この状況でそれが飛び出す意味が分からないよっ!!」



つか、どうしてリインとなのはとヴィヴィオとレイがここに居るんだよっ! そっちの方がわからないからっ!!


てか、なんでアリサとすずかさんまでビックリしてるっ!?



「なのはっ!」


「なのはちゃんっ!!」


「アリサちゃん、すずかちゃんも久し振り〜」


「なのは、まってっ! どうしてここにっ!?」



やっぱり、魔王からは逃げられないから……



「違うからっ!!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「士郎さん達にヴィヴィオを紹介するために……」


「そうだよ。もちろん、事情は説明してたんだけど、ちゃんと会わせたくて。まぁ、フェイトちゃん達と違って、日帰りなんだけどね」


《ですが、どうやってこちらの世界へ? それとなぜラミアとレイさんまで?》


「フェイトさん達のスケジュールは知ってましたから、その前に、ハラオウン家のポートから跳んで、待ち伏せしてたですよ」


《そうして、私達をビックリさせようと……》


「それと俺とラミアはなのはとヴィヴィオに誘われたからだな。何でか知らないけど」



アルトの言葉に、リインが頷く。うん、納得した。レイの言葉になのはが顔を赤くしてたけど、いや……まさか。でも……なんでリインまで一緒っ!?



「そんなの、恭文さんに会いに来たからに決まってるですよー!」


「あぁ、それなら納得。リインは、ナギにとっての、元祖ヒロインだしね」


「はいです♪」



いや、それで納得するっておかしいからっ!!



「うぅ……リインちゃんは、やっぱり強力なライバルだね。よし、私もがんばらないとっ!!」


「すずかさんには負けないですよー!
元祖ヒロインには、元祖ヒロインとして、元祖ヒロインなりの譲れない、元祖ヒロインの意地があるですっ!!」


「はい、そこ変な対抗意識燃やさないでもらえるかなっ!? つか、何回も元祖ヒロインって言うなっ!!」


「恭文、もてもてだね〜♪」


「だな」



士郎さん達と楽しそうに談笑しながら、ヴィヴィオとレイが言ってきた。……うん、なんでかね


おかしいな。僕……フェイトが本命のはずなのに。公言しているのに、どうしてこうなるのっ!?



「あの、でも二股とかはダメだよ? ちゃんと、辛いかもしれないけど一人を選ばないと、リインやすずかが可哀想だよ」


「フェイトも誤解しないでっ! つか、二股かけるつもりもなければ2人とそうなる予定もないからっ!! 僕、本命一筋だよっ!?」


「なぎ君、ひどいよー!」


「ですー!」



……なんか聞こえてるけど、無視っ!



「……ということは、ヤスフミは本命がいるの?」


「……内緒」


「内緒って……そんなこと言わないで欲しいな。ほら、教えてくれれば、いろいろ力になれるかもしれないし……」



あの、なってない故の現状ってことに、そろそろ目を向けていただけるとありがたいんですけどっ!! レイもそんな哀れむような視線はやめてぇー!! 悲しくなってくるからっ!?



「……そういや士郎さん、美由希さんはどこに?」



もういい加減疲れてきたので、話を変える。頭を抱えながら、入ってきた時に気づいた疑問をぶつけることにした



「あぁ、美由希なら私用で出かけているよ。本当なら、君の出迎えがしたかったとゴネてたけどね」


《……想像出来ますね》


「僕、姿隠していいかな?」


「ダメ。お姉ちゃん、恭文君のこと本当に心配してたんだから。ちゃんと会ってあげて」


「ちくしょお……。魔王のバインドが僕を縛る」


「魔王じゃないもんっ!!」



こんな感じで、時間は過ぎ去り……



「過ぎ去らないわよっ! ……てか、なのは」


「なに?」


「いや、さっきから疑問に思ってたんだけど……このヴィヴィオって子、ぶっちゃけ何者?」


「そうだよ。フェイトちゃんのことをママとか言ったり、なのはちゃんのこともママって言ったり……」


「まぁ、そういうのはナギで慣れてるけどさ」



どういう意味よそれ



「ほら、気になってるから、とにかく説明して」


「あ、私の娘だよ」


「あの、初めましてっ! 高町ヴィヴィオですっ!!」



……………………あ、僕ちょっとトイレ



「待ちなさい」


「アリサ、どうして止めるの? 僕、公衆の面前でそういうのを晒す趣味は無いんだけど」


「なぎ君……あの、私……変になったのかな? すごく危険なフレーズが聞こえたんだけど」


「……ねぇ、なのは……はまぁいいわ。フェイト、ナギ、なのはとこの子は……なに?」



僕とフェイトは顔を見合わせて、一息に言い切った



『親子だよ』



……………その瞬間、高町家が震えた


……事情を予め聞いていた高町夫妻は、実に平和的にヴィヴィオを受け入れたそうだ


だけど、そんなの知らなかったアリサとすずかさんは当然混乱


なので……僕とフェイトが事情説明……って、僕は別になのはの恋人でも夫でもないんですけどっ!


つか、なんで当のなのはに聞かないっ!?



「いいから、説明しなさい。どーいうことよアレ」


「わ、わかった。えっと、つまりね……」



……ヴィヴィオが、なのは達の居た部隊……六課の事件で、偶発的に保護された女の子だということ


そしてヴィヴィオは、保護された当初から、どういうわけかなのはに懐いていた


なので……



「そのままの流れで、なのはが保護責任者と。
で、向こうの世界で法律関係に強い仕事をしていたフェイトが、2人の後見人って形になったのね」


「それで、フェイトママって呼んでたんだね」


「それで、なのはもなのはでヴィヴィオを娘みたいに思い始めたから……養子にしたと」



その言葉に僕は頷く


横目で、なんで僕が事情説明しなきゃいけないのかという恨みの視線を、横馬にぶつけながら



「まー、納得したわ。つか、考えたら当然よね。この子の年齢だと、なのははまだ13とか14だし」


「私達と一緒に居たときだから、もしそうだったら……気づくよね。
あ、もちろん、なのはちゃんとヴィヴィオがそうだから親子じゃないとは言ってないよ?」



ヴィヴィオの前だから、念押しするように補足を付け加えたのはすずかさん


まぁ、ビックリするよね。僕もビックリしたもん


だって、知り合いが3ヶ月とか半年とか、あんまり会わない間に、6歳前後の子どものお母さんになってたんだから



「……まぁ、あれよ。ヴィヴィオ」


「あ、はい」


「なのはって、無茶するし、色々心配しちゃうかもしれないけど……見捨てないであげてね。
アンタのこと、中途半端な気持ちで娘にしたんじゃないと思うし」


「……はい、大丈夫ですっ!」


「うん、いい返事だ」


「あ、アリサちゃん……。私のことなんだと思ってるのかな?」


「魔王よ」


「アリサちゃんまでヒドいよー!!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……とにかく、そんな感じで楽しく話しながら、時間は過ぎていった


今年起きたこと、ヴィヴィオのこと、六課でのこと、色々話した。レイとなのはの関係についても話した……レイは友達って伝えたらしいけど、本当なのか僕に確認って……


本当だと答えた時の士郎さんの落胆がすごかったし……


でも、凄く楽しくて、幸せで……平和な時間


うん、本当に帰って来たんだ。……よかった


そして、夕方になろうかという時間。……あのお方が来ました



「恭文――――!!」


「回避っ!!」



僕達が居たリビングのドアを開けて、僕の姿を確認した途端、いきなり抱きつこうとしてきた女性が出てきた


僕は、ソファーから即座に立ち上がり、背中に敷いていたクッションを、全力で分投げる。そして……飛ぶっ!!


跳躍した僕は、テーブルを飛び越え、部屋の真ん中に着地。そして、そのまま襲撃者がいる方向とは逆に、素早く数歩下がる


襲撃者は、僕のぶん投げたクッションをひらりと回避すると、僕へと迫ってきたが、間合いとタイミングをずらされて、その場に踏みとどまった


ちっ、さすがにこれでは崩れないか



「ひどいよ〜。久しぶりにあったのに、どうして逃げるの?」


「美由希さんがいきなり抱きつこうとするからじゃないですか。
というか、年齢を考えてくださいっ! 僕も大人だし、あなたも大人ですよっ!?」


「いいじゃない別に。恭文がちっちゃいのがいけないんだよ?」


「ちっちゃいって言うなぁぁぁっ! そしていけないってなんだよいけないってっ!?
謝れ! 全てのちいさな巨人達に頭を垂れろっ!!」



エリキャロとヴィヴィオとレイは驚いてるけど、他のみんなはいたって冷静。というか、桃子さんにいたっては、この襲撃者の応援までしてる


僕にいきなり抱きつこうとしてきたのは、一人の女性


黒髪を一つの三つ編みにして、眼鏡をかけている。そして、スタイルは……抜群にいい


多分、100人に聞いたら、90人くらいは美人と答えるだろう。僕も答える


……このお姉さんは高町美由希


なのはの姉さんで、僕とは10歳以上離れた友達……というかオモチャ。僕が美由希さんのね



「そんなこと思ってないよ〜。ただ、ちょっとからかって遊んでただけで……」


「それをオモチャと言うんですけど?」


「あ、それなら恭文も私のことそういう風にしていいよ?」


「はぁっ!?」



いきなりなにを言い出すんだこの人は



「いや、私からばっかり抱きついたりしてるから……たまには、いいよ? 恭文から抱きついても。
それ以外のことも、優しくしてくれるなら、なにしてもいいよ」


「謹んで遠慮させていただきますっ!」



なぜ『こんな美人の告白紛いの言葉を断るのか?』……だって?


簡単だよ。今のこの人の瞳の奥にある、妙に艶っぽい感覚に恐怖を覚えたからだよっ!


あと、何度も言ってるけど、僕はフェイトが本命だからっ!!



「なら仕方ないなぁ。私から抱きつくね」


「にこやかに笑って言うなぁぁぁぁっ! そしてなにが仕方ないんだよなにがっ!!」



そう言いながら、美由希さんは僕ににじり寄る


まずいな、身のこなしやらなんやらは美由希さんの方が上だし……どうすりゃいいのさこれ?


……そうだっ!!



「美由希さん、重大な連絡事項があります」


「連絡事項? ……あ、そうだっ!」


「……ひどいなぁお姉ちゃん、なのはのことより恭文君が先なんだもの」


「なのはっ! フェイトちゃんも、久しぶりー!!」



そう言って、美由希さんはなのは達の方へと駆け寄っていく……


助かった〜、なのはが居てくれてよかったよ。たまには横馬も役に立つね


美由希さんに捕まったら、撫でられハグハグされて匂いをかがれて………すずかさんと同じようにされるからな


正直、大人の女性である美由希さんにそういうことをされると………本気で理性がぶっ飛ぶ



《フェイトさんはダメなのに、本命以外でこうなるというのが、マスタークオリティというかなんというか……》


「気にしないでアルト、つか、疲れた……」


「ナギ、アンタも色々と大変ね」


「そう思うなら助けてよアリサ」



というか、基本みんな傍観ってどういうことさ?


特に高町夫妻。年頃の娘が10歳近く歳が離れてる男の子を追っかけまわす事に対して、不安はないのか?



「無いそうよ?」


「あの人たちは……」


「あと、私に助けを求めないで、自分でなんとかなさい。例えば……誰か、フェイト以外の女の子でもいいから、恋人を作るとか」



『フェイト以外』の部分は聞き逃すことにした。まぁ、そこはいいさ。でも、確かにそれが一番良い方法か……



「そうすれば、美由希さんとすずかだって、さすがに自重するわよ。報告の時には、間違いなく修羅場になると思うけど。
……腕っ節の強い子と付き合ったほうがいいわよ? 突然お別れになりたくなかったらね」



かなり真剣な表情で、アリサが僕に語りかけてくる。……こやつは



「不吉なアドバイスありがとう。心から感謝するよ……。でも、相手居ないんだけど。というか、フェイト以外に興味無いし」


「アンタね……」



へたり込む僕の傍に来たアリサと、そんな会話をしつつも、美由希さんはヴィヴィオとさっそくスキンシップ。楽しそうな顔してるなぁ



「美由希さん、なのはのこと可愛がってたしね。年下にたいしてはついあぁなるんでしょ。てか、アンタに対してだってそれよ。美由希さん、弟は居ないんだし」


「……そうだね」



そう考えていると、携帯端末に通信が届く。……このアドレスは


通信モニターを……って、だめだめ。ここは管理外世界なんだから。端末を音声通話モードに切り替えて、回線を開く



「もしもし?」


『はろー!』


「……やっぱりエイミィさんか」


『なによー! なんか不満でもあるの?』


「だって、人妻だとロマンスに発展する可能性無いじゃないですか」


『……あの事、みんなにバラすよ? 君が私の着替え中に部屋に突撃して』


「ゴメンナサイ。チョットシタジョォクナノデ、ソレダケハユルシテイタダケルト、アリガタイデス」



僕に通信をかけてきたのは、エイミィ・ハラオウン


フェイトのお兄さんである、クロノ・ハラオウンの奥さんで、これまた昔からいろいろとお世話になっている人だ


今は、クロノさんとの間で生まれた双子の子供達『カレル』と『リエラ』のお母さん


なんというか……お母さんになってから、雰囲気がすっごく大人っぽくなったんだよね。それまではちょっとだけ子供なところがあったんだけど



『ちょっと、今なにか失礼なこと考えなかった?』


「いえ、なんにも」


『ホントに〜? まぁいいけどね。とにかく、恭文くん』


「はい」



……あれ? エイミィさんの声が、なんか真剣だぞ。僕なにかしたか?



『……おっかえり〜! いやぁ、久々の帰郷は楽しめてるかな?』


「なんで、いきなりいつもの調子に戻るんですかっ! ビックリしたじゃないですか」


『いやぁ、ついつい……ね。クロノ君から、相当危ない目に遭ったって聞いてたから、義姉としては、やっぱ心配だったのよ』


「すみません……」


『謝んなくてもいいよ。ちゃんと、フェイトちゃんや、リインちゃんとの約束、守れたんだしね』



本当にギリギリでしたけどね。というか、ちゃんと守れたのかどうか、やっぱり自信が無い



「ま、暗い話はおいといて……。それで、今はなのはちゃんち?』


「はい。皆でマッタリしてたとこです」


『そっかそっか。じゃあ……美由希ちゃんも帰って来てる?』


「えぇ、たった今。代わったほうがいいですか?」



今、使っている端末は、管理局印のものではあるけど、美由希さんはなのはの姉


その関係で、今まで散々魔法文明の物も見ているし、問題は特にない



『あー、なら代わってもらってもいいかな? ちょっと相談したいことがあるから』


「了解、ちょっと待っててくださいね……美由希さん、エイミィさんから電話です。ちょっと相談したいことがあるって」


「エイミィから? 分かった、ちょっとコレ借りるね」



僕から端末を借りて『もしもし?』と話し出した途端、すっごく楽しそうに喋りまくる



まぁ、仕方ないか。確か……10年来の大親友だっけ?


これは、美由希さんとエイミィさんの2人から直接聞いたのだが、2人はなのはとフェイトが友だちになって少し経ってから、なのは達が縁で出会ったそうだ


で、会った早々意気投合


一緒にお風呂で裸の付き合いを経た後に大親友となった……どんな体育会系ですか


それは、エイミィさんがクロノさんと結婚して、美由希さんが一人取り残された寂しさをかみ締める夜を経験したとしても変わることはなか………痛い!


痛いから美由希さん、アイアンクローはやめてっ! あなたの腕前でそれやるとシャレがきかないからっ!!



「あー、ごめんねエイミィ。恭文が失礼なこと考えてたからお仕置きしてるの。
……え? いやだぁ〜、別にそんなんじゃないって」



あぁ、やばい。なんか痛みが強すぎてなんにも考えられなくなって……



「うん、わかった。それじゃあ時間は……うん、それくらいに行くね。
みんな大丈夫だと思うから。うんうん……それじゃあ後でね」



………あぁ………かわが………みえる……………



「ん? おい、なのは……恭文が……」


「え、ああっ!? お姉ちゃん。恭文君がっ! 恭文君がグッタリしてるからっ!!」


「え……? あぁっ!!」



薄れた意識の中で、美由希さんが手を離した感覚だけは分かった。でも、そのまま……


倒れこみそうになるが、美由紀さんがすぐに抱き寄せた。女性特有の柔らかい感触といい匂いが身体と鼻をくすぐる


……何回も抱きつかれたりしてるから知ってはいるけど、やっぱりこの感覚は慣れない。無意味にドキドキしちゃうもん



「や、恭文っ!? ごめん、加減忘れてたっ! ね、大丈夫? しっかりしてー!!」


「み、美由希さん……、そんなんだから結婚出来ないんですよ……?」


「……はい」


《マスター、その状態に追い込まれてもツッコミは忘れないんですね……》


「だね。……って、アルトアイゼンっ! 久しぶり〜。元気してた?」


《はい、マスター同様です。……なるほど》


「どうしたの?」


《いえ、美由希さんの中では、私は高町教導官より後に挨拶しても問題ない存在なんだと思いまして》


「へ!? いや、違うから。そんなことないよ?」


《いいんですいいんです。どうせ私なんて………》



……アルト、美由希さんからかうのも程ほどにしときなよ? 正直きつかったから、僕は止めないけど


とりあえず、ただただ平謝りな美由希さんの膝枕で(強引にこの状態に移行された)少し休憩しながら、感覚が元に戻るのを待つ


といいますか、あれは女性の握力じゃなかったって。強化魔法使ったベルカ式の魔導師とタメ張れるよ



「アンタ、それをやられた相手の膝枕を満喫しながら言うことじゃないわよ」


「……ほっといて。まぁあれだよ、心地よい感覚が悪いんだ」


「あははは。なら、これからず――っとしてあげようか?
恭文が膝枕好きなら、すぐに出来るように、私も向こうの世界に行って、そばに居るからさ」



美由希さんが、どこか艶っぽい瞳で僕を見つめながら、そう言ってくる


……からかわないでくださいよ。美由紀さんは僕のことそういう風には思ってないでしょ?



「思ってるって言ったらどうする?」


「……へっ!? いや、それはあの」



いや、別に美由希さんくらい綺麗だったら、僕みたいなのよりいいのがいくらでもいるだろうし



「そんなの関係ないよ。
というか、恭文は、私が好きでもない男の子に簡単に抱きつくような子だと思ってたんだ。なんか、ショックだな………」


「いや、思ってないですからっ!!」


「ホントに? ふふ、だったらいいよね〜♪」


「いやなにがっ!?」


「だって、私はずーっと恭文のこと見てたよ? 抱きつくのだって……そうだからなんだけどなぁ」



ヤバイ。この状況はヤバイ。というか、年齢が離れすぎてるような……



「あら、愛に年の差は関係ないわよ。ね、アナタ?」


「そうだな。恭文君、美由希は多少落ち着かないところがあるかもしれないが、いい子だと思う。
私としても、君が本当の息子になってくれるなら実にうれしいしな」


「……だそうだよ。どうする〜? 私は、別に構わないよ。
まぁ、フェイトちゃんには負けるかもしれないけど、私だってそこそこだと思うんだよね」



ニコニコしながらそう口にするのは、高町夫妻と当の美由希さん。いや、それはその……


というか、フェイトの前でそんなこと言うなっ! なんか応援オーラが出てるからぁぁぁぁぁっ!!


からかわれてるだけだと思うけど、でも、そうじゃなかったら美由希さんのこと傷つけるし……


だけどこのままだとほんとに高町家に婿入り……でも………どうすりゃいいんだよぉぉぉぉっ!!



「もうっ! みんなでからかっちゃだめだよっ!! 恭文君、すっごく困ってるよ?」


「そうですよっ! おじ様もおば様も自重してくださいっ!!」



助け舟を出してくれたのは、なのはとすずかさん


2人にそう言われて『はーい』と口を揃える女性二人と『すまんすまん』と平謝りの士郎さん


……助かったー! やっぱ神は居るんだ。ちゃんと僕を助けてくれるし



「それに、なぎ君は月村家に婿入りするという正式な約束があるんです。それを……」


「あるかぼけぇぇぇぇぇぇっ! なに勝手に人の進路決定してくれてるんですかアンタはぁぁぁぁっっ!!
そんな約束した覚えないわっ! つか、婿入りって誰の婿になるんですか誰のっ!?」


「え? そ、それは……当然、私の……」



顔を赤らめるなぁぁぁぁぁぁっ!!



「あ、あのすずか。ヤスフミは、ちょっとキツイところもあるけどいい子だから、仲良くしてあげてね?」


「うん♪」


「そこ勝手に話を勧めるなぁぁぁぁぁっ!!」


「ヤスフミっ! すずかのどこが不満なのっ!?」


「すずかさんというより、僕の意思とは関係のないところで話が進んでるのが不満なんだよっ! せめて、僕の許可を取れ僕の許可をっ!!
僕の意思は完全無視ってどういうことだよっ!!」



あぁ、疲れる


というか、ここでしっかりツッコまないと、本気でそうなりかねないのが辛い。あの、どうしてこんなことに? 僕はフェイト一筋なのに



「そうですっ! みんな好き勝手言いすぎですよっ!!」


「あ、リインさんが味方してる」


「やっぱり、なぎさんが大事なんですね」


「当然ですっ!!」



そりゃあまぁ、付き合い長いしね。こうなるのも当然。あぁ、ここはアウェイじゃなかった。そう、ここは天国だったんだっ!!



「そういう話はっ! この元祖ヒロインであるこの私、祝福の風・リインフォースUにきっちりしっかり事前に話を通してからにしてくださいっ!!
もちろん、全力で却下しますっ!!」


「お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「リイン曹長、恭文とラブラブだもんね〜」


「はいです♪」


「違うからっ!!」


「違わないですっ! リインと恭文さんは、アルトアイゼンも合わせて3人で古き鉄じゃないですかっ!!
どうしてそういうこと言うですかっ!? リインが……リインが嫌いになったですかっ!!」



そういう話じゃないからぁぁぁぁぁぁっ! つか、ラブラブって明らかに恋人空気じゃないのさっ!! おかしいからっ!!



《マスター、なにを今さら。リインさんが居たからこそ、今のマスターが居るんじゃないですか。
元祖ヒロインであるリインさんを無視して幸せになることなど、許されるはずがないでしょ》



くそ、言っていることがもっともらしいのが余計に腹立つっ! どうなってんのさこれっ!?



「……でも、よかった」


「え?」


「私……まぁ、すずかちゃんもそうだけど、結構心配してたんだ。少しだけ話は聞いてたから。
こうやって、恭文とまた会えて……本当によかった」



寂しそうな、悲しそうな色合いの瞳。それを見ていると、非常に申し訳のない気持ちになってくる


やっぱり、相当心配かけてたんだよね。なんというか……ごめんなさい



「いいよ。ちゃんと帰って来て、いつも通りの顔を見せてくれた。それだけで、私嬉しい。……恭文、お帰り」


「……ただいま、美由希さん」



僕がそう言うと、美由希さんは笑顔で応えてくれた。なんというか、お姉さんには勝てない。うん、そう思った瞬間だった



「そーだよ? お姉ちゃんは強いんだから」


「……よく知ってます」



ギンガさんもそうだしね。うん、あれも強いわ。あー、そういえば聞きたいことがあったんだ



「美由希さん、さっきはエイミィさんと何話してたの?」



膝枕な体制のまま、美由紀さんに聞いてみる


……瞳に先ほどまでの艶っぽい光は既になく、友だち……というかなのはを見る時のような優しい光を秘めて、僕を見ている


うーん、やっぱりさ。それはその……ちょち、恥ずかしいな



「あ、うん。もしよかったら、夕飯は家で食べないかって。なんかリンディさんが張り切って作ってるらしいんだよ」


「母さんが?」


「あー、フェイトと僕が帰ってくるってのもあるし、チビッ子2人がハラオウン家初上陸ってのもあるから、頑張りまくってるんでしょ」


「うん、そうみたい。あとね、その前に、みんなでスーパー銭湯に行かないかって」



ちなみに、海鳴のスーパー銭湯は僕も当然行ったことがある


何種類もお風呂があって、どれもこれも広くって楽しいんだよね〜


……このコミュニティの中で男が、僕と士郎さんと恭也さんとクロノさんとザフィーラさんくらいしか居ないってことを除けば


よくなのは達とつるんで暇があったのは僕だけだし、場合によっては一人ぼっちだよ? 仕方が無いとは言え寂しいって



「そういうわけだから、みんな、これからお風呂タイムに入るよっ!」


「んじゃ、寝てもいられないかな。よっと……」



美由希さんの膝枕から頭を離して、身体をゆっくりと起こす



「美由希さん、ありがとうね」


「いいよ別に。またして欲しくなったらいつでも言ってね」


「あ、なぎ君っ! 今度は私がしてあげるからっ!!」


「……謹んで遠慮させていただきます」



すずかさんがショックな顔してるけどそこは無視



「なら、私がしてあげるですよ〜♪」


「……重くない?」


「大丈夫ですよ」


「うん、なら今度お願いしようかな」



まぁ、リインとはあれこれしてるしね。それくらいは……



「……なぎ君、リインちゃんには優しいのに、私には冷たい」


「すずか、元祖ヒロインには勝てないのよ。諦めなさい」



元祖ヒロインって言うなっ!!



「当然です♪」


「当然じゃないからっ!!」



あー、最近リインがドンドン強くなってるような……



「……あ、士郎さんと桃子さんはどうします?」


「おじ様、おば様、せっかくですし一緒に行きませんか?」


「いえ、私達はこのままハラオウン家の方に向かうわ」


「そうだな。リンディさん達だけでは大変だろう。少し手伝ってくるよ。私達のことは気にしないで、みんなで楽しんできなさい」



ふむ……。なら、ちょっとだけ申し訳ないけど、楽しもうかな



「エリオ、キャロも、それで大丈夫かな?」


「はいっ!」


「前に入ったし、大丈夫ですっ!!」


「レイ〜。『せんとう』ってなにー?」



レイの手をくいくいひっぱってきたのは、今まで話を聞いていたヴィヴィオ。……あれ? ヴィヴィオって銭湯知らないの?



「知らないのか、ヴィヴィオ?」



「ヴィヴィオは、そういう施設に行ったことがないから」


「成程な……なら行きながら話そうか。銭湯っていうのはおっきなお風呂がある楽しい場所だよ。そうだろ、恭文」


「ほんと?」


「ほんとほんと」



レイが僕に話を振る。その言葉に反応してヴィヴィオが僕の方を向いて聞いてきた。僕がそれに同意するとヴィヴィオの顔が笑顔に染まる


……うん、ヴィヴィオにとっては始めての銭湯か。楽しくなるといいなぁ〜。でも、『戦闘』とは違うからね?



「わかってるよー。ヴィヴィオを子供扱いしないでー」


「あ、ごめんごめん。ヴィヴィオはもう立派なレディだもんね〜」


「はいはい、話はそこまでだよ。それじゃあ……準備出来次第、移動開始するよっ!」



美由希さんの号令をきっかけに、後片付けをささっと済ませていく


といっても、僕が膝枕してもらっている間に大体のことはすませていたので、最終確認くらいなんだけど


士郎さんがしっかりと施錠したのを確認してから、僕達は海鳴市が誇るスーパー銭湯へと向かうのであった………




(後編に続く)






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