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頂き物の小説
第五話『突然の休日と噂のあの娘』



俺と恭文がここ、機動六課に来てもう2週間が経とうとしていた


季節は11月へと突入して、ミッドの暦の上ではもう冬である


その間にも、色々なことがあった……


シャーリーとデバイスについて語り合ったり、ヴァイスや整備員の人達に異常なノリで、恭文ともども歓迎されたり


食事中、恭文が生トマトをリインに押し付けようとしたり、俺が生トマトを残そうとしたら、なのはとフェイトとヴィヴィオに『好き嫌いしたらいけません』と怒られたり


あと、俺はなのはと話す場を改めて設けて、力になることを約束したり……


スバルの姉、ギンガが突然六課に来たり、そこで俺は軽く挨拶したな


恭文が人前でティアナのことを大声で『ティアナ様〜♪』と呼んで切れられたり……


恭文とスバル、そして俺とシグナムの模擬戦で賭けをしていたヴァイスを含めた整備員の方々が、シグナムに追っかけまわされて、危険を感じた俺は即座に隠れたのだが……恭文はそのまま何故か一緒に追いかけられて大混乱になったりと


……まぁ、少し大変なことも混じっているが、至って平穏に過ごせたのは言うまでもない


というわけで、そんな楽しくも騒がしい日常を過ごしたあとから今回の物語は始まる




魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常〜異邦人と古き鉄〜


第五話『突然の休日と噂のあの娘』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「それでは、ティアの執務官補佐試験終了と……」


「遅くなりましたが、なぎ君とアルトアイゼン、レイ君とラミアが私達の新しい仲間になってくれたことを祝って……」


『かんぱーい』



そう言って、みんなでコップを合わせて乾杯する。まー、あれですよ。紙コップだから音はでないけどね


さて、僕が今何をしているかというと、六課隊舎の談話室で、お菓子とジュースでパーティー


メンバーはシャーリーにアルトさんルキノさん。それにスバル達フォワード4人にレイ……あのさ、フリード



「きゅく?」


「そろそろ頭から降りてくれない? ほら、ジュースあげるから」


「きゅくー♪」



僕が差し出したオレンジジュースを、嬉しそうにごくごくと飲むと、満足そうにして一鳴き


………………………継続かいこらぁぁぁぁぁぁっ!!

アレか? 僕が差し出した

ジュースは飲むだけ飲んで終了かっ!? なんなんだそれっ!!



「まぁまぁ……。アレだよ、フリードも、恭文とアルトアイゼンが六課に来てくれて、すっごく楽しいんだよ」


「きゅくー♪」


「楽しくて幸せらしいぞ」


《よかったではないか、恭文殿》


「嬉しさを表現するのに、頭の上に乗るのかこやつはっ!? ……キャロ、お願い。なんとかして」


「ほら、フリード。恭文さんの迷惑だから……」


「きゅく……」



残念そうに、フリードがようやく頭から降りてくれた。あー、首がきつかった。まぁ、アレだよフリード


「きゅく?」


「ずっと占領しないんだったら、たまには乗っていいからね」


「きゅくー♪」



あー、嬉しそうに鳴いてるわ。なんかいいことをしたような気がしてくるから不思議だね……レイ、なにニヤニヤしてるのさ



「いんや……なんでもないさ」



だったらその顔はなにさ……


ふぅ、でも……ティアナすごいなぁ



「なにがよ」


「だって、自己採点だと、満点に近かったんでしょ? アレ、そこそこ難易度高いのに……」



アレというのは、執務官補佐資格の考査試験である。なんとまぁこのお姉さんは、合格どころか、もしかしたら見事に満点取ったかもしれないのだ


うむぅ、すごい。本当にそう思う……



「あくまでも自己採点だけどね。つか、あんなのちゃんと勉強してれば楽勝よ」


「確かにその通りだな」


「でしょ?」


「いやいや、あれは難しいって。現に僕はギリギリだったし」


《あぁ、そうでしたね。必死に勉強してギリギリでしたから。ドラマティックなレベルでしたね》



でしょ? 頭の出来の差かもしれないけど、ほんとにあの時は大変で……



「ちょぉぉぉぉっとまったぁぁぁぁっ!!」


「どうしたんですかアルトさん、そんな力んで」


「いや、あの……なぎ君。今なに言った?」



どういうわけか、スバル達と、アルトさんが僕をじっと見ている。……あぁ、知らなかったんだ



「えっとねアルト。なぎ君持ってるんだよ」


《なにをですか?》


「アルトアイゼンじゃないからっ! というか、今分かってて返事したでしょっ!?
だから、なぎ君は執務官補佐の資格持ってるんだよ」


『えぇぇぇぇぇぇっ!?』



みんなの叫びが、休憩室に木霊した。あー、耳痛い。隣りのスバルがやたら大声で叫ぶから……って、なにレイは安全圏でジュース飲んでるわけ?



「……ホントだ、執務官補佐資格って書いてる。というか、恭文すごいじゃんっ!」


「なぎ君、これ、偽造じゃないよね?」


「そんなわけないでしょうがっ! ちゃんと試験を受けて取ったんです」



アルトさんとスバル達が、興味津々に僕のIDカードを覗く。まぁ、あんま気分のいい光景でもないけど、身内だし大丈夫でしょ



「というか、知らなかったんだね……」


「私、てっきり知ってるものだと思ってたよ」


《まぁ、アレですよ。マスターの悲しい歴史の1ページと思ってください》



そうだね。今のところ全く出番の無い資格だよ……



「どうして?」


「まぁ……ねぇ……」


「つか、アンタ執務官志望とかじゃないわよね? どうして補佐官の資格なんて取ったのよ」


《そこに触れますか。……泣きますよ、きっと。マスターが》


「いや……聞く俺達も悲しくなるぞ?」


「泣かれると困るけど……というか聞く私達もって……。とにかく答えなさい。気になるじゃないのよ」



ちびっ子2人も同じらしいので、説明することにする。……話は、4年ほど前に遡る


フェイトが中学校を卒業する少し前、僕も暇な時などは、その仕事を手伝っていたのだけど、どうしても不満が出てきた


当然といえば当然だけど、執務官や、補佐官の権限がないと触れない書類というものがあるのだ


ちょうど使い魔兼助手であり、補佐官資格も取っていたアルフさんが引退した直後で、フェイトの仕事量も半端じゃなく多かった

でも、僕ではそれを解消できなかったのだ



「あ、ひょっとしてそれで取ろうと思ったの?」



スバルの言葉に頷く。そう、補佐官資格を取ることにした。フェイトに内緒で



「なんで内緒なのよ」


「いや、ビックリさせたくて」


《あれですよ、その時にアレコレやりたかったんです》



とにかく、クロノさんの補佐官でもあったエイミィさんの協力のもと、秘密裏に勉強をし、試験を受けて……みごと合格したのだ


まぁ、フリーの魔導師をやめる気はなかったけど、フェイトの忙しさが緩和されるまでは付き合う気満々で、意気揚揚とフェイトに合格の報を伝えようと思った


ところが……。ある一つの驚愕の事実を告げられた



「……補佐官、スカウトしたって」


「えぇっ!?」



そう、補佐官をスカウトしたのだ。もちろん、そこで苦笑いなんぞしている、僕のオタク友達であるシャーリーだ


当然といえば当然だけど、当のフェイトがそんな事態を問題に思わないはずはない。それを解消する手段を打ち立てるのは当然だった



「で、でも補佐官は何人も抱えてOKなんだし……」


「……断られた」



その瞬間、全員が口をつぐんだ。若干、悲しい何かを見るような目で僕を見始めたのは、気のせいじゃないだろう……レイは憐れむように見てくるし……


もちろん、僕もそう言って、補佐官として仕事を手伝うと言ったのだけど、フェイトに断られたのだ。ちなみに、理由としては……


『あの、もちろん手伝ってくれるのはすごく嬉しいよ? でも、私のことは気にしないで、自分のやりたいこと、通したい事をやって欲しいな』……だそうだ



《強くなることを目標と掲げているマスターを、自分の都合で事務仕事をさせているのが、やはり心苦しかったんでしょう。現場に連れて行くのも躊躇いがあったようですし。
そのせいもあって、補佐官を早急に探してたようですね》

「フェイトさん、優しいですから……」


「そうだね、100%善意だったよ。で、逆にへコんださ」


「で、でもっ! 困ってるときには、資格もあるし助けてあげられるよっ!?」



スバルのフォローが、なぜか遠く聞こえる。あぁ、それか。大丈夫だった。だって……



「あははは……。ごめん」



そう、シャーリーが補佐官だったからだ


シャーリーの能力は半端ではなかった。というか、凄まじかった


事務や渉外関係のみならず、デバイスマイスターとして、バルディッシュのサポートなどもこなせるシャーリーに、戦闘バカの僕が勝てるはずがない


もちろん、ワーカーホリック気味だったフェイトの職場環境が、一気に改善されていったのは言うまでもないだろう


そして、鉄火場でも、フェイトほどの戦闘能力があれば、大抵の事はなんとかなった。現地の部隊ともちゃんと協力体制を結んだりもしてたし


なので、今の今に至るまで、スバルが言ったような事態に、なるわけもなかった


かくして、僕が取得した資格は……いい感じでIDカードのコヤシに……


あぁ、もう貝になりたい。いいですか? いいよねっ!?


「……もう嫌だ。人生なんて……人生なんて……」


「や、恭文、元気だして? ほら、きっといいことあるからっ!!」


「ま、まぁ……あれよ。私が執務官の試験に合格したら、雇ってあげるわよ。だから、元気出しなさい。アンタだって、いちおう今日の主役なんだからね?」


「そうだぞ。それにすぐ使いたいなら俺の補佐官として雇ってやるから……な、元気だせって……」



なんか、ティアナにまで心配をかけているようなので、復活することにしたんだけど……レイの言葉にまたも周囲の空気が止まった

あれ、まさかレイが執務官の資格持ってることも知らない……はっ!?



『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』


「ぎゃぁぁぁぁぁ、耳がぁぁぁ!? 耳がぁぁぁぁ!?」


「や、恭文!? 大丈夫か!」



僕は左右から浴びせられた叫び声に両耳を押さえながらもがき苦しんだ……レイはこの後、みんなに質問責めをされ、レイの二つ名を聞いて大騒ぎになった……


お願い……レイだけじゃなくて、誰か僕の心配して……


騒ぎも治まり、この後は楽しくお菓子とジュースで大いに騒いで、楽しい時間を過ごした。で、その後はと言うと……



「……いや、悪いねエリオ」


「大丈夫ですよ。さ、上がってください」



そう、エリオである。エリオは一人部屋だそうなので、ちょっと泊まらせてもらうことにしたのだ。当然、寝巻きも準備。レイ?


レイなら僕の家に帰ってるよ。ラミアを改良するプランを一人で考えたいんだってさ



「でもさ、こう……こざっぱりしてるね」


《本当ですね。聖○太子じゃなくてもそう言いたくなりますよ》



なんというか、ゲーム機や漫画の類とかがない


僕の想像では、コロコ○とか、ボンボ○とか置いてあると思ったのに



「でも、やっぱりちゃんと勉強したいですから」



本棚には、ベルカ関連の書物やら、戦闘教本やらがぎっしり。……うわ、10歳でこれ?


だめだ。この子は道を踏み外しかけている。子供らしさがカケラもないっ!!



「……エリオ、それは違うよ」


「えっ!?」


「漫画やアニメと言った類が、強くなるために邪魔だと思ってるなら、それは違うと言っているの。いや、むしろ……」



僕は、三回転ひねりでエリオをビシっと指差すと、断言した



「漫画やアニメも見ないようなやつは、間違いなく強く……なれないっ!!」


「えぇぇぇぇっ!? いや、でもさすがにそれは……」


《残念ながら、事実です》


「えっ!?」



まー、これは僕の実体験だけど、漫画やらアニメやらゲームやらでの魔法や、戦闘に関しての技能の使い方っていうのは、意外と参考になるのだ


例をあげると……スレイヤー○っ!! リ○の魔法の使い方は、賞賛に値する。むしろ、尊敬する魔導師と聞かれたら、即答で名前をあげたいね


現に、僕はその辺りを参考にいくつか魔法組んでたりするし。まぁ、特性の問題上で使えるのは限られてるけど



「あと、これが一番重要なんだけど……。どうしてもこういうものを読みがちになると、視野が狭くなるんだよ。教本どおりというか、型にはまった使い方っていうかさ」


「型にはまった……」


「まぁ、なんて言えばいいのかな。あれこれ見てみることで、これは使えるんじゃないか、こういう使い方があるんじゃないかってのを考えて、頭を柔らかくするの。
そのためにも……」


「教本だけじゃなくて、そういう娯楽物での戦闘も見るのはいいこと。ですよね?
発想力を鍛えて、教本どおりの戦い方だけが全部じゃないのを、忘れないようにする」


「そうそう」


《魔法という能力は、とても幅の広いものです。その応用を考えるのは、とても楽しいです。というか……マスターは楽しそうです》



まーね♪ 遠距離攻撃の適正がもっとあれば、僕も色々やりたいんだけどなぁ。……はぁ


正直、エリオが羨ましいよ。遠距離攻撃への適正もありそうだし、魔力もあるし、電気変換資質もあるし



「でも、そういう本が手元に無いですし……」


「なら、明後日にでもなんか持ってくるよ。エリオの参考になりそうなのを。
まぁ、そういうのは抜きにして、お勧めの漫画やディスクや小説をね」


「いいんですか?」


「もちもち。楽しく読んで、大事に扱ってくれれば、問題ないし」


「ありがとうございますっ!」



あはははは、そんな力いっぱいお辞儀しなくても……
うーん、このエリオやキャロのかたっくるしいのは何とかしないとなぁ。ちょっとやりづらい


というか、子供なんだからもうちょっと柔らかくなってもいいのに……。チームメイトのスバル達にまで敬語だし。フェイトの影響か?


とにかく、そんな話をしつつもベッドを借りて、僕はエリオと一緒に眠りにつく


……実は、泊まらせてもらったのは、一つの理由がある。エリオには話してあるから、明日の朝早く………だね

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

恭文がエリオの部屋で眠りについた頃、俺は恭文の家で様々な作製図やプログラムと睨み合っていた



「あー、どれもしっくりこない……ラミアはどうだ?」


《……どれもこれもありきたりではないか? それと、なぜレイジングハート殿に搭載されているブラスターのデータまであるのか、大いに疑問なのだが?》


「んあ? シャーリーに頼んでデータを貰ったんだよ。完成した時に真っ先に教えることを条件にな。
しっかし、このブラスターシステムは負担が凄まじいな……その分、能力は飛躍的にあがるが……」


《それを長時間使ったなのは殿の身体に与える負担は……容易に想像できるな》



まったく、よくこんなものを搭載しようと考えたものだ。魔導師の肉体への負担、デバイスの強度限界ギリギリでの酷使……俺だったら自分で使うデバイスにしか組み込まんぞ


だが、うまく改良すれば……



《マスター? その表情からして……ブラスターを改造して組み込もうなどと考えているのではあるまいな?》



フッ……さすがは我が相棒。よくわかってるじゃないか


さて、作業に取りかかりますか

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

チュンチュン……


うむ……徹夜してしまった。眠い……



《マスター、貴方はバカか? なぜ7時間足らずでシステムの大部分が完成している? それに、負担がブラスターの比ではないぞ……》


「熱中するとどうにもな……それにまだ完成じゃないんだ。
ここから負担を出来るだけ軽くする作業に移るんだからな。とにかく、飯食って六課に行くぞ」



俺は眠い眼を擦りながら目玉焼きとご飯という定番な朝食を食べたあと、身支度を整えて六課に向かった



そして、着いてみると……シグナムと恭文がバインドで拘束されて、近くに……鬼か修羅かと言いたくなるような表情のシャマルがいた



「あ〜、ラミア。見なかったことにして行くか……」


《それが賢明だろう……》



俺とラミアはもちろん、見なかった事にして隊舎に入っていった。なんか後ろから名前を呼ばれたが、俺自身の安全のために無視させてもらう……

恭文、シグナム……強く生きろ

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「学校見学?」


「俺と恭文も?」


「うん。もしよかったらなんだけど、恭文君とレイ君に付き合ってほしいなって」


恭文が部隊長室から帰ってきたあと、ロングアーチのオフィスで仕事を一緒にしていたら……なのはから話があると言われた


で、恭文と2人で仕事をきっちり終わらせてから話を聞くと、びっくりした


恭文だけならまだしも、ヴィヴィオの学校見学に、俺も一緒に付き合って欲しいと言われたのだ



「……どうする、アルト?」


《やめておきましょう》


「だね」


「どうしてっ!?」



なんか、恭文とアルトアイゼンの考えが手に取るようにわかる……



「魔王育成のための虎の穴なんて行きたくないし」


《全くです。か弱いか弱い子羊の我々に死ねと? 生贄になれと言うのですかっ!?》



はあ、やっぱりか。まあ、冗談なんだろうけど……



「そんなとこ行かないからっ! 2人ともか弱くないからっ!! といいますか……また魔王って言うー!!」


「冗談はこれくらいにして、なんでまた僕とレイに? というかレイ一人でよくない?」


「切り替え早すぎるよ! ……えっと、今度私とスバルとティアはお休み取るでしょ?」


「確か、3日間だっけ?」


「……この間、騒いでたな……あの2人」


「うん、その時にヴィヴィオが通う予定の学校を見に行くんだけど、恭文君とレイ君にも付き合って欲しいの」


「何故に僕とレイの2人?」


「だって、2人とも力になるって言ってくれたよね」


「あー、ごめんなのは。あの約束はクーリングオフしちゃったから……」


「約束にそんなのないよっ! なんでレイ君はそれで笑えるの!?」


「……いや、すまん」


「と言いますか……僕とレイには仕事あるでしょうが……」


「俺は今日の分で任せられた仕事は終わるが?」


「早すぎでしょ!?」


「いや、暇だったし……」



恭文が呆れを隠さず俺を見る……だって、仕方ないだろう。単純な作業なんだから、俺にとっては暇潰しと変わらないんだよ


そんなやりとりをしていた俺と恭文を見て、なのははニッコリ笑顔で、こう告げた



「あ、それなら大丈夫。恭文君とレイ君も、私達と同じスケジュールで休み取ることに決まったから」


「ああ、そうな「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


「いっつぅ〜。耳元で叫ぶな恭文!」



色んな事が決まったのだが、恭文のせいで耳が痛ぇ……
とにかく、休みが決まったなら少しでも予定を立てないとな

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

管理局に所属する武装局員の朝と言うのはとにかく早い……そして、例外として研究畑の人間もある意味では早い


なにせ、研究中の代物を完成させるために徹夜を何日も繰り返す場合もあるのだ


俺はラミアに搭載する特殊なシステムによって、ラミアにかかる負担を軽くする為に六課のデバイスルームを借り徹夜で作業していた……ちなみに、シャーリーに手伝ってもらった


一人でも大丈夫だったんだが、シャーリーがどうしても手伝うと聞かなかったのだ……今は新たに搭載するシステムの詳細を見たシャーリーに、鬼気迫る表情で詰め寄られている……なんでさ?



「わからないんですかッ!? このDTDというモードは危険すぎです! なんですか、この規格外な能力と異常な負担はっ!!」



DTDとはラミアに新しく搭載したモードで、徹夜して負担を下げていたシステムだ


なのはのブラスターシステムを改造し、俺とラミアに適合するように調整してある……名前は気にしないでくれ

どうせなら関連がある名前がいいじゃないか


とにかく、今はシャーリーをどうにかしないと……



「負担は確かに異常だ。だから六課の機材を借りて、この能力を維持したまま負担を下げる調整をしたんだ。
実際に調整前と比べると負担は大幅に軽減されているんだ」


「これで軽減されてるんですか!?」


「ああ。調整前はこれより酷かったぞ。これを何回か繰り返して……せめて、なのはのブラスター3くらいまで下げる予定だ」



ちなみにDTDの負担の大きさはブラスター3の3倍となる……あ、詰め寄るのも仕方ないか



「それでも負担は大きすぎますよ。せめて、向上する性能をある程度犠牲にしてでも減らしませんか?」


「それだと、どうもな〜。搭載した意味がないし……とにかくこれからヴィヴィオの学校見学に付き合う約束があるし、休み中に検討してみるよ。それでいいか?」


「……はぁ、わかりました。とにかく、デバイスマイスターとしてこのようなデバイスにも魔導師にも大きな負担……というよりも消耗品のような扱いを強いるシステムを認めるわけにはいきません。
それだけは覚えておいて下さい」


「了解、善処しよう」



俺はそう言ってシャーリーと別れを済まし、待ち合わせ場所に急いだ

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

サンクト・ヒルデ魔法学校。僕とアルト、レイとラミア。それに高町親子がやってきた場所である


ここは、古代ベルカの英雄と称される、聖王を信仰するする巨大宗教組織・聖王教会系列のミッション・スクールである(多少、乱暴な説明です)


初等教育を行う5年制の初等部、中等教育をおこなう2年制の中等部の二つで構成されている学校だ


更に上位の教育も、本人の希望次第で2年おきに進学が可能であり、最終的には学士資格までも取得可能という、ミッドでも有数の大型学院がここである


……まさか、ここにヴィヴィオを入学させようとするとは、なのはも思い切ったな。無茶苦茶名門校じゃない



「まだ、正式ってわけじゃないけどね。まずは今日ここを見てみてからってことで。さ、行こっかヴィヴィオ」


「うん」


「元気だな……」



僕が急いで隊舎の玄関まで行くと、すでに2人の女神様と友人はお待ちでした


2人して『女の子を待たせるなんて最低〜♪』などとお冠でした


なので、下僕の私めとしてはただただひたすらに平謝りいたしまして、ようやく許しを得られて向かう事になった次第であります。はい


その間レイは腹を抱えて笑ってらっしゃいました……覚えてろよ


ちなみに、今の僕の格好はジーンズ生地の上着にパンツ、黒のインナーという格好である


レイは黒い半袖のシャツに黒のジーパンとすっごくラフな格好だ。最初なぜか白衣を着てたのは驚いたけど……その白衣をレイは腰に巻いているバックの中にしまっている



《それよりもマスター、あなたはヴィヴィオさんよりも下の位置にいるのですね》



それを言わないで。なんか悲しくなってくるから



「恭文、アルトアイゼン、なにしてるの〜?」


「遅いと容赦なく置いてくぞ!」


「って、待って。おいてかないでー!」



とりあえず、僕の上下関係については置いておいて、テクテクと歩いていくなのはとヴィヴィオとレイを追いかけて、駆け出すのであった……

なんか、レイの方が立場上のような感じだけど気にしない事にしよう。じゃないと、泣けてくる



「ようこそいらっしゃいました。なのはさん、ヴィヴィオ」


「こんにちはシャッハさん。今日はお世話になります」


「シスター、お世話になります」



なのは親子が、今日一日学校を案内してくれるというシスターに挨拶をしている。お辞儀したので、僕とレイもそれに習いお辞儀



「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。それはいいのですが、なんであなたがいるんですか?」


「……久しぶりに会ったのに、いきなりな挨拶ですねシャッハさん」



清楚なシスター服に身を包む、ショートカットで長身なこの女性はシャッハ・ヌエラさん


聖王教会に所属するシスターなのだけど、教会のトップの補佐役兼秘書としても働く才女


でも、それだけが彼女の姿ではない陸戦魔導師ランクAAAを保持する、近代ベルカ式魔法の使い手

聖王教会では、『教会騎士』と呼ばれている猛者。それが、この女性のもう一つの姿である


その腕前は、あのシグナムさんに『模擬戦をやって楽しい相手』と言わしめるほど。まー、多少暴力的なところがあるのがタマにきずだったりするけど


で、なぜそんな女性と僕が知り合いかと言うと……



「以前、クロノ提督経由で、騎士カリムの護衛要員として仕事を依頼したことがあるんです」


「で、その時に知り合ってね。それ以来、聖王教会絡みの仕事の時はお世話になってるの」



2人で、僕とシャッハさんが知り合いだという事に驚いているなのはに、簡単に事情説明。……つーか知らなかったのね



「そうだったんですか……って、恭文君、そうならそうでなんで教えてくれなかったの?」


「一応、守秘義務とかが発生するような案件になっちゃったから、誰と会ったとか何がどうなったとかは簡単に話せなかったのよ。
というか、なのは。カリムさんと僕が知り合いだって知ってるでしょ?」



シャッハさんは、カリムさんの身の回りのことも請け負っているというのに。なぜにそこで気付かないのさ



「あぁ、そうだったね。なんか、こう……驚いちゃって」


「ところで……この方は?」



シャッハさんが今まで蚊帳の外になっていたレイに視線を向けて僕に聞いてきた。レイは欠伸なんかしてるし……



「俺か? 俺はレイ・カストール。恭文となのはの友達で、今は出向という扱いで六課の一員になってる。俺のことは気軽にレイって呼んでくれ」


「そうですか、私はシャッハ・ヌエラと申します。私のこともお好きにお呼び下さい」


「ん、そうさせてもらう」



シャッハさんとレイがお互いに自己紹介を終えると……



「それで、なんであなたがここに居るんですか?」


「いやだなぁ、付き添いですよ付き添い。それ以外に何の用があると?」



なーんかシャッハさんが僕を睨んでるけどとりあえず気にしない。さ、学校見学のスタートだー♪



「さ、ヴィヴィオ。学校見てまわろうか〜。友だち出来るといいねぇ」


「うん♪」


「って、あなた方どこへ行くんですかっ!? そっちは違います逆方向です!!」


「恭文君とまってー! 勝手にヴィヴィオを連れて行かないでー!!」


「おいおい……大丈夫か?」



さて、こんな感じで学校見学はスタートした


途中、学園の子供達に連れられて、ヴィヴィオはその子達の案内で学校を見て回ることになった


僕となのはとレイは、シャッハさんと大人のお話である


学校のこととか、制度などについてシャッハさんから説明を受けた。当然、疑問があればツッコむ


シャッハさんがそれに答えて……ということを繰り返していると、突然通信が飛んできた



『なのはさん、ごきげんよう』


「騎士カリムっ!」


「あ、カリムさん。どうも」


『恭文君……と、あら? 初めての方もいるみたいね』


「初めまして、恭文となのはの友人のレイ・カストールです」


『初めまして、聖王教会・騎士のカリム・グラシアです。ようこそ、恭文君も来ていて驚いたわ』



はい。お久しぶりです



「恭文さん、あなたまた……」


「お願いだから、レイ君みたいにちゃんと挨拶してよ。私、この間すっごくビックリしたし、恥ずかしかったんだから」



いや、僕とカリムさんはこれくらいの関係性だって。レイは初対面なんだから僕と違って当たり前だよ



《まぁ、いつものことですよね。カリムさん、お久しぶりです》


『えぇ、アルトアイゼンもお久しぶり』



突然の通信をかけてきたのは、金色のウェーブのかかったロングヘアーが眩しい1人の女性


この学校を作った組織でもある、聖王教会の理事を務めるカリム・グラシアさんだ


カリムさんとは、先ほど話した護衛任務の時に知り合い、紅茶やらお菓子の話で意気投合。それ以来、教会の方で何かあった時には呼んでもらっている


……ちなみに、僕の2人居る、紅茶の淹れ方の先生の1人である(かなりのスパルタ)



『六課に出向になったとはクロノ提督から聞いてたんだけど、その関係で?』


「はい。……そこの横馬から拒否権なしで誘われまして」


「横馬ってひどいよっ!」


『あらあら。女性には優しくしないとだめよ?』


「大丈夫です。なのはとはノンセクシャルな付き合い方をしていますから」



……なのは、なんでそんな不満そうな顔するのさ



「恭文君、優しくない」


「恭文が優しくないのはいつものことだろう。恭文はツンデレだからな、仕方ないよ。愚痴とか不満があれば俺が聞いてやるから」


「そうだね。恭文君ってツンデレだもんね、レイ君ありがと」



ちょっとまて、2人とも……誰がツンデレだ。それとなんでシャッハさんとカリムさんは僕を生暖かい目で見るんですか?



『レイ君となのはさんは、仲がいいのね』



そうだね、僕もそう思う



「そうですね。微笑ましいというか……」


《ユーノさんには悪いですけど、高町教導官にも春ですかね?》



ま、レイとなのはは放っておいて……



「カリムさんは、またどうして通信を?」


『ちょうど手が空いてね。今は学校見学の途中だと思ってかけてみたの』



あぁ、側近のシャッハさんが案内役だしな。カリムさんがスケジュールを把握してるのは当然か



『でも、安心したわ。あなたも変わりないようですし』


「さすがに一ヶ月やそこらで変わったりはしないですって」


《そうですね。特に重大イベントが起きたわけでもありませんし》


「私としては、少しは変わってほしいんですけど……」


「なのは、変わることはいいことだよ? でも……変わっちゃいけないものだってあるんじゃないかな」


「そんな真面目な顔して話しても、恭文君の意地悪は治すべきだっていうのは変わらないよっ!」



失礼な。僕は優しいというのに。そうですよね、カリムさん



『そうね、恭文君は優しいと思うわ。ただ、好きな子にはちょっとだけ素直になれないのよね?』


「いえ、僕はすっごく素直ですけど。フェイトとかリインとか」


《なかなかに強いですね。私はうれしいですよ》



というか、別になのはは友達ですから。好きとかそういう関係じゃないです


僕がそう言うと……みんな、どこか苦いものをかみ締めたような顔で僕を見る



『なんというか……なのはさんも大変ですね』


「もう慣れました」


「慣れたってなんだよ?」


「気にしなくていいよ?」


「じゃあそうする」



なのはが、なんか叫んでるけど当然スルー。レイが慰めだしたし、放っておいても大丈夫でしょ



「でも、ここはいいとこみたいですね」



唐突に話を変えてみる。いや、なのはこれ以上いじって泣かれても嫌だし


レイとなのは共々細かい説明は受けたし、ここに見学に行くというのを聞いてからも自分で調べたりした


なのである程度は知っていたのだけど、実際見てみて、また違う感想を抱いている


さっきヴィヴィオと話していた子ども達はノビノビと笑顔で過ごしていたし、ヴィヴィオも、そうだからなのか人見知りなんてせずに、すぐに溶け込んでいた


こういうところなら、本当に……うん、真っ直ぐに育ってくれるんじゃないかと思う



『そう言ってくれるとうれしいわ。私やシャッハ、それにロッサも、時期は違うけどここの卒業生だから、環境の良さは保証出来ます』


「なのは的にも、安心出来るでしょ?」


「そうだね。あとはヴィヴィオ次第だけど」


「そうだな。でもあの様子なら大丈夫だと思うぞ?」


「だね」


《子供達と楽しそうにしていましたしね。六課には同い年の子どもは居ないですから、そのせいもあるのでしょうが》


「だね……」



しかし……遅いな


ヴィヴィオとは、校門のところで合流という話をしていた。なのに……来ない


僕達はこんな話をしながらも歩いていたので、もう到着してるんだけど……よし



「なのは、ちょっとヴィヴィオ探してくるわ」


「あ、それなら私も行くよ」


「だめ」


「レイ君に待っていてもらえば行き違いには……」


「それだったら役割が違う。あの子の母親はなのはなんだから、もし行き違いになって、なのはが居なかったらヴィヴィオは悲しむぞ。俺じゃ役不足もいいとこだ」



だね。まー、僕ならアルトもいるし、なんとかなる。うん



「それに、俺も探すのを手伝うから安心しろ」


「わかった。それじゃあ悪いんだけど、お願いね」


「りょーかい。……それじゃあカリムさん、失礼します」


『はい、またね。あ、暇な時にはいつでも来てくれて構わないから。また、紅茶を飲みつつ色々とお話しましょうね』


「はい」


「じゃ、俺も失礼する」


『レイ君も、また機会があればお話ししましょうね』


「ええ、その時はよろしく」



そうして……僕とレイはヴィヴィオを探しに校舎を歩き回った


「迷った………」


《まぁ、当然ですよね》



あー、偉そうなこと言った手前、連絡とりづらいなぁ。レイともはぐれちゃったし、取らないと帰れないしなんて僕が悩んでいると、なにやらざわざわとした声が聞こえてきた。子供の声のようだけど、なんだろ?


その声に導かれるように、足を進めると、そこには子供の人だかり。……なんじゃありゃ



《マスター、あの子達は、先ほどヴィヴィオさんを案内してくれてた子供達です》



……まさか!


ヴィヴィオに何かあったのかと思って、駆け出してその人だかりのへ向かう。するとそこには………


ポーン! ベーン! ドォーン!!


椅子にチョコンと座って、ピアノに向かっているヴィヴィオが居た。うん、さっきの音はヴィヴィオの仕業か。……酷い音だったなぁ


あー、えーっと……。よしっ!



「ヴィヴィオ、なにしてるの?」


「あ、恭文ー!」



椅子を降りて、テクテクと僕の方へ歩いてくる。それを見てさぁ――っと間を空けてヴィヴィオ専用の道を作る人だかりの原因の子供達


……モーゼの十戒ですかこれは?



「こんなとこに居たの。だめだよ? ママ達ヴィヴィオが来ないって心配してたんだから」


「ごめんなさい……」


「大丈夫だよ。あとで、一緒に謝ってあげるから。
で、どうしたのこれ? なんでそんなに涙目なの」


「ピアノ……」



ピアノ? あぁ、さっきまで弾いてたこれか。これがどうしたんだろ?


僕がそう思っていると、人だかりの中から1人の女の子がひょこっと出てきた



「私がピアノ弾いてたんだけど、ヴィヴィオちゃんもやりたいって言って」


「なるほど、それでやってみたんだけど、この子みたいに上手く出来なかったわけだ」


「うん……」



うーん、そうかぁ。さて、ここで上手く対処しないと、偉いことになるかもしれないな。お母さんに似てこの娘さんは強情そうだし



「ね、君はピアノ始めてどれくらい経つ?」


「うんと……1年くらい」


「そっか。ね、ヴィヴィオ、この子の演奏上手だった?」



僕のその言葉に頷くヴィヴィオ。ふむふむ、そうか。なら………



「この子だって、1年続けてたから、ヴィヴィオが聞いたみたいな上手な演奏が出来たんだよ?
ヴィヴィオは、ピアノ触ったの初めて……かな?」


「うん」


「なら、この子と同じように弾くのはちょっと無理だよ。もしこの子と同じようになりたいなら1年頑張らないとね」


「うん、わかった。練習するっ!」


《マスター、これは後々大変なことになるのでは……?》



あー、うん。そう思ったけど、他に言いようないしさ。うむぅ、失敗したなぁ。……仕方ない、少しだけフォロー入れるか。これで誤魔化せればOKなわけだし



「そうだヴィヴィオ、僕が少しだけ教えてあげるよ」


「……え?」


「ピアノだよピアノ。弾けるようになりたいんでしょ?」


「えー、お兄ちゃん弾けるのー?」


「ピアノってすっげぇ難しいんだぜー?」


「あの、無理なら無理で早めに申告したほうがいいと思うのですが……」


「そうだよー。大人が子供の期待を裏切っちゃいけないんだよー?」


「え? このお兄ちゃん大人なの? 私、てっきり初等部に転校してくる人かと思ってた」


「あ、それ私も思ってた」


「だって、背が低いし、声が女の子みたいだし、大人に見えないよねー」



アルト、怒っていいかな? いいよねっ! 答えは聞いてないっ!!



《ダメです。というか事実じゃないですか。なにを今さら……》



おのれもかぁぁぁぁぁぁっ! ええい、もうお前には頼まん。僕が直接天誅を……!!



《やっぱり止めたほうがいいんですよね、これ。……あー、あなた達も、そんなことを言わないであげてください。
マスターはピアノはちゃんと弾けますから》


「アルトアイゼン、ほんと?」


《えぇ、ホントですよ。それはもうすごい演奏ですから。なら、マスターのピアノを聴かせてあげましょう。
ほらほら、みなさんもちゃんと座って期待して聴いてください。……ヴィヴィオさん、お願いします》


「うん。……恭文、恭文のピアノ、聴かせてほしいな♪」



怒りに染まる僕の心を止めてくれたのは、相棒のやる気の無いフォローと、1人の少女の真っ直ぐな瞳と柔らかな声


……うーん、仕方ないなぁ。子供と相棒と美味しい食事に勝てるもの無しってね



「まぁ、アルトにヴィヴィオがそこまで言うならしかたないかぁ。……よし、とくと聞きなさい。今日は特別サービスだ、弾き語りで歌もつけてあげようっ!!」


『おぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


《マスターが単純でよかった……》


「よかったねぇ〜」


「アルト、ヴィヴィオもなにか言った?」


《いえいえ、しかしまたハードル上げましたね。まぁ、大丈夫だとは思いますが》


「恭文、頑張って!」



ふっ、任せてくれ。ここまで言われてはいそうですかで引き下がれるかっ! 大人の底力、みせてやろうじゃないのっ!!



「そういうわけだから、みんな座って座ってー。
……うんと、今から弾くのは、僕の生まれた世界での曲で、知らない人も多いとは思いますが、そんなことはまぁ気にせず聞いてくださいっ!」


《まぁ、多少乱暴な説明ですが、そんな感じなので、みんな心して聞くように》


『は―――い!!』



うむ、素直でよろしい。それじゃあ……いきますか!!


ヴィヴィオとチビッ子達がその場にペタンと座るのを確認してから、僕は10本の指を鍵盤に当てて……弾き出した


〜膝を抱えて、部屋の……〜


……あれ? そういやなんか忘れてるような。ま、いいかっ!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

くそ、恭文の奴どこ行った!?

講師に聞いている最中に居なくなりやがって……っとそんなこと言ってる場合じゃなかった。目の前のこの人をどうにかしないと……



「だから、俺はここの生徒じゃないんだって……」


「なら、なんで子供が校舎の中にいるの? あなたくらいの年齢なら学校に通っている時間ですよ」


「いやいや、俺こう見えても18だし。頼むから俺の話を信じてくれよ……」



生徒と勘違いされて、足止めをくらってる。くそぅ……こういうのは恭文の役目じゃないかよ……


いくら俺の背が低いからってこれはないだろう……ある意味あってるけど


ああ、なのはやシャッハに大見得切った手前、連絡とって証明してもらうという手が使いにくい……ホントどうするよ、この人



「あ、レイ君!」



ん?
うわ、なのは!? 助かったけど、これ無茶苦茶恥ずかしいぞ……



「あ、シスター・シャッハ。このお子さんとお知り合いですか?」


「え、えぇ。シスター・ミシャ、ここからは私が引き受けますので……」


「では、よろしくお願いしますね」



ミシャと呼ばれたシスターは、優雅に去っていった。はぁ……なんとか解放された



「助かったよ、ありがと」


「いえ、ところで恭文さんは?」


「そうだよ、恭文君と一緒じゃなかったの?」


「恭文なら、俺が人に聞いてる最中に居なくなったよ。で、恭文も含めて探していたらさっきのシスターに捕まったってところだな」



なのは、頼むからその気の毒そうな視線はやめてくれ……居心地が悪くなるから


それから、俺はなのはとシャッハと合流して、学校の中を回りだした

なのはとシャッハが入れない場所……男子トイレから、そこに向かうまでのルートや教室を探したが、恭文の姿はどこにもなかった



「恭文の奴……探しに出て行方不明になってどうするんだよ、まったく……」


「レイさんが言えたことではないと思いますが……」



シャッハ、それを言わないでくれ……ん?



「っと、どうしたの? レイ君」


「これは?」



俺はある部屋から流れる音楽を聞き取り足を止めた。どうやらシャッハもこれに気づいたようだ



「わかりました。おそらくあそこです」



そう言って指を指すのは、音楽が流れている一つの部屋。……あそこか、ということはこの曲は恭文か?



「今日のこの時間は、確か音楽室は使われていないはずなんです。つまり」


「なるほど」



俺達はその部屋の前まで行き、ドアに手をかけて開けると……



『始まりはいつも突然っ! 運命を……』



……は?


そこに映るのは、楽しく歌っている子供達とピアノを弾いている男。その傍にヴィヴィオもいる……見付けてたなら念話の一つくらい送れよ!


普通に見れば、音楽の授業か何かに見えるだろう。だが……ピアノを弾いているのは、教師でもなんでもない……


ポロ〜ン〜♪



『うわ―――!! すごい――!!』



隣でなのはが驚いてるよ……まぁ、俺も驚いてるんだけどさ



「いやー、さすがにこれはちかれた……」


「恭文、おつかれさま〜♪」


《おつかれさまでしたマスター。……しかし、なぜこの曲を?》


「うーん、強いて言うなら……ノリ?」


《そうですよね、あなたはそういう人でしたよね………》



これは、いったいどうなってこんな状況になったんだ?
というか電王かよ……どんだけ好きなんだ、恭文



「お兄ちゃんすごいよー!」


「うんうん、すっごく上手だった」


「なんというか、人は見かけによらないというのはこのことですね」


「あの、初等部の人とかいってごめんなさい………」


「お兄ちゃんはちっちゃくてもすごいよ!」


「そうだよ。さっきのゆっくりした曲も上手だったし、この曲弾けるなんて……」


「うんうん、この曲すっごく好きだから、楽しかった♪」


「あー、いやいや。喜んでもらえたみたいで嬉しいよ。にゃはははは〜!」



うわ、すごい人気だな。思いっきり子供達に担ぎ上げられてるよ……それにしても



「…………………貴方達」



うん、シャッハの纏う空気が……というか覇気?
真横だから、俺は見上げる形になる……先程まで騒いでいた子供達とヴィヴィオ、恭文もシャッハに注目する。あ、なのはも目を向けているな



「一体……なにをしているんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



シスターの叫びが、音楽室のみならず校内に響き渡ったのは言うまでもないと思う。というか、寸前で耳を塞いでよかった……じゃなかったら、考えたくもないな

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

いやぁ、ついついやりすぎてしまった


一曲ゆったりめなのを披露したら、子供達が食いついてきて大変大変


あれ弾いてこれ弾いてとリクエストを受けて、その中で知っていてみんながノリやすくてヴィヴィオにも分かりやすくて尚且つ僕が好きな曲を選んだらアレになった


でも……知ってはいたけどさ、次元世界でも大人気なんだね。仮面ラ○ダー電○って


大分前に、シャーリーとカラオケ行った時にも曲入ってたし、レンタルショップのWARAYAに行った時もお勧め作品になってたしなぁ


やっぱ○面ライダー○王は名作だよ。うんうん


きっといつまでも、時の中で、僕達の心の中で、みんなは騒ぎ続けるんだよね。あぁ、ごめん。なんか涙が……



「お兄ちゃん、どうしたの?」


「あぁ、ごめんね。なんか、思い出したら涙が……。また会えるのに、おかしいよね」


「ううん、おかしくないよ。なんだか、私も……。モ○ー!!」


『ウ○キ○リュ○ー!! 良太○ー!!』


「あなたたちっ!! ここは校内なんですから静かに……」



その瞬間、僕と子供達は全員シスターシャッハを凝視した。その瞳に、ある種の怒りが存在していたのは、言うまでもないだろう


そう、全員が瞳で語りかける。『少しは空気を読め』と。そんなんだから13話みたいなことになるんだと(八つ当たりだという意見はスルーします)



「すみません。私が悪かったと思うので、その空気を読んでいない人間を見るような目で私を見ないで下さい」


「いや、シャッハさんは空気読めない人じゃないですか」


『そうだよっ!!』


「あ、あなた達……」


《まぁ、仕方ありませんよ》



まぁ、それはそれとして、僕が今どこに居るかといいますと、学校内の中庭。つまりはもと居た場所だ


シスターシャッハに全員揃ってお説教を食らったのちに、結局皆揃って校門に戻る


その間に僕とヴィヴィオはこの子達とすっかり仲良くなったりして、お喋りデバイスことアルトアイゼンさんは子供達に大人気


そう、先ほどのように、僕達は熱い友情によって繋がれたのだ。いや、彼らは偉大だよ


そんな事をしているうちに、そろそろ帰る時間になったのでここへ戻ってきたのだ



「……それじゃあ、みんなごきげんよう」


「うん、ごきげんようヴィヴィオちゃん」


「また、一緒に遊ぼうね」


「春になって、一緒にお勉強するの待ってるからね〜」


「お兄ちゃんもありがとうねー! アルトアイゼンもありがとう。楽しかったよ!」


「またピアノ聴かせてね!」


「あ、お兄ちゃんもここに通いなよ。そしたら、毎日遊んであげるよ!」


「あぁ、それはいいアイディアですね」



……うん、前半はいい。でも後半はなんですかチビッ子どもよ


僕はこんなナリだし、声も女の子みたいだけれど、れっきとした大人ですから、さすがに初等部や中等部に入るわけには……ってレイ! 笑うんじゃないよ

おのれは生徒に間違われたんだから僕のこと笑えないでしょうがっ!!



「あぁ、それは本当にいいアイディアだね。どうでしょうかシスターシャッハ、ご迷惑はかけると思いますが、学校中が楽しくなると思いますよ?」


「……そうですね、いいかもしれません。私としても彼を更正させることが出来るいい機会かもしれませんから」


「いやいやいやいや、そこの大人2人同意しないでっ! 僕には仕事だってあるんだからっ!! というか、更正ってなにさっ!? それといい加減に笑うのはやめんか、おのれはっ!!」


『……お兄ちゃん、私達(僕達)と一緒なの……嫌なの?』



あぁぁぁぁっ! いやじゃない! いやじゃないけれど………でもそれはダメなのよ。頼むからそんな顔しないでー!


僕が頭を抱えて慌てると、その様子を見ながらみんな笑う。一名ほど笑いすぎなのもいるけど


……からかわれているのはむかつくけど、これはこれでいいのかもしれない


そんな事を思いながらも別れの時間は来た。そうして、シスターシャッハと、僕とアルト。レイにラミア(あれ? 今回喋ってない?)


それにヴィヴィオの友達と別れを告げて、僕達は帰路に着いたのだった……

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

帰り道、俺は唐突に恭文から



「そういえばさ……。ラミア一言も喋らなかったけど、どうしたのさ?」


《そうですよね。いつもなら何かしらあってもいいはずなのに、今回は一言も喋りませんっしたよね?》


「そういえばそうだよね。レイ君なんで?」


「ヴィヴィオも気になる!」



そう聞かれ、俺も『あれ?』っと思った。確かに俺が生徒と間違われた時にラミアが喋ればもっと早く解放されていてもおかしくないと考えに至り、確認してみた……あ!?



「あはは……強制スリープのままだったわ。昨日いろいろやってた時にスリープになってもらっていたんだけど……解除するの忘れてた」



そのたった一言に、恭文達に呆れられたのは言うまでもないだろう。そして、帰宅したあとに解除したらラミアに思いっきり愚痴られたのは余談だ

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……今日はありがとう。付き合ってくれて助かっちゃったよ」


「うん、恭文とレイありがとうね! アルトアイゼンもありがと〜♪」


「いやいや、あんま役に立てなかったかもしれないけど、そう言ってくれると嬉しいよ」


《マスターと同じくです。お役に立てれば幸いです》


「俺はホントになんの役にも立たなかったけどな……それに生徒に間違われて迷惑かけたし、すまん」


「……レイ君もそれはもういいから、私は気にしてないよ」


「そう言ってくれると助かる」



僕とアルトにレイ、それになのはにヴィヴィオは、あのあと軽くご飯を食べて、学院近くのターミナルへときたところだった時刻は15時。もう少し経てば夕方になろうとしている時間。……いやぁなんというか時間が経つのは早いね


チビッ子達やシャッハさんのおかげで楽しく見学出来たし、ヴィヴィオもあそこに通いたいって思ってるみたいだし、いい事づくめかな?



「これから2人は……小旅行だっけ?」


「うん! なのはママと一緒に、いっぱい遊ぶの〜」


「せっかくだし、ちょっと足を伸ばしてもいいかなって思っててね」


「そっか、楽しんできなよヴィヴィオ」


「なのはもな」



“なのは”


“ん? なにかな”



しゃがんでヴィヴィオとニコニコ話をしながら、なのはに念話を送る。……いやぁ、我ながら器用だわ



“前にも言ったけど、僕もアルトも力になる。でも、それだけじゃない。
フェイトにはやてに師匠達。それに、スバルにティアナ、エリオとキャロにシャーリー達だって力になってくれてる……”


“横からすまんが、俺も力になるからな”


“レイ君……”


“そうだったね、レイもいる……だから”


“うん!”


“なのはには信じて欲しいの、絶対にヴィヴィオとの約束を守れるって、ヴィヴィオのほんとのママになれるって。
例え他の人達がなんて言おうと、なのはだけは、それを全力全開で信じなきゃだめだよ?”



……一応ね、こういうのも必要かと



“そのなのはを信じて、みんな力を貸してくれようとしてるわけだからさ”


“そうだ。それに俺と恭文はどんな事態になったとしても力を貸す。だから、自分自身を信じて突き進めよ”


“まぁ、エース・オブ・エースな高町教導官には、釈迦に説法だと思うけど”


“ううん、そんなことない。……ありがと”


“別に礼なんていらない。大事な友達が泣く所を見たくないだけだし。
まぁ、言った以上はやれるだけの事はやらせてもらうから、大船に乗った気でいてくれたまへ”


“えっと……ドロ舟じゃなくて?”


“……なぁぁぁぁのぉぉぉぉはぁぁぁぁぁっ!!”



ニコニコしながら立ち上がって、とりあえず傍で見ていたなのはに飛び掛ってヘッドロックっ!!



「うにゃぁぁっ!? 痛い、痛いよ恭文君ー!」


“やかましいっ! 人がせっかくいい事言って締めくくろうとしていた時にボケかましおってからにっ!!
………天誅―――!!”


“……なのは。いくらなんでもあそこでそれはないわ……”



まったくこの横馬は……。どうしてこうも空気を読まないというかなんというかっ!! レイの言う通り、あそこでそれはないでしょっ!?



「あー、ヴィヴィオ気にしなくていいからね。これはなのはママと僕が仲良しだっていう証拠みたいなものなんだよ」


「そうなの? なのはママ」



ヴィヴィオがきょとんとした顔でこちらを見ているので、一応フォロー


まぁ、いくらこの横馬がKYだって言っても、自業自得な発言してるわけだし、そんな下手なことは……



「ヴィヴィオ……、恭文君がいじめるの。助けてー」



はぁっ!? なに言ってるそんな事を言うなっ! とことんKYかお前はぁぁぁっ!!


……あぁ、ヴィヴィオの表情が段々と怒ったような感じに、と言いますかなにか神々しいものが見えるんですけどっ!?



「……やーすーふーみ―――――!!」



ヴィヴィオが、僕の足元までテクテクと歩いてくる。こう……オーラを滲ませながら。……ゲシっ!!


いーたーい―――!!

そして、弁慶の泣き所に全力全開の蹴りをかました!


痛みでなのはを離して、そのまま転げまわる僕。それを見て、なのはとヴィヴィオが一言



「なのはママをいじめちゃだめなの―――!!」


「ヴィヴィオ、ありがと。ママ助かっちゃった。……さぁ、いじめっ子なわるーい恭文君に、なのはママと一緒にお仕置きしようか?」


「うんっ!」



……って、なにするの? いや、2人してそんなニヤニヤした顔で近づかないで、てーかやーめーて―――!!


その後、なのはにヘッドロック。ヴィヴィオには髪の毛をさんざん引っ張られたりクシャクシャにされたりした


つか、なのはが悪いのにこんな目に遭うなんて……理不尽だぁぁぁっ!!


ちなみに、僕がこれから開放されたのは、駅員やらレールウェイの乗客の人やらの注目を集めていることになのはが気が付くまで、延々続いたことを付け加えておく……


ちなみにレイはと言うと、数mほど離れて他人のフリをしていた……助けんかいっ!!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

なのはとヴィヴィオと別れた俺と恭文、そしてアルトアイゼンは帰路についたんだが……



「それじゃ、僕はシグナムさんに呼ばれたから一度隊舎に寄ってから帰るよ」


「わかった」



そう、恭文がシグナムに呼ばれたのだ。なので、途中で別れることになった。で、さっさと恭文の家に帰ろうとしたんだが……



「そうそう、ヒロさんが隣の空き部屋使っていいってさ。ほい、鍵」



恭文が鍵を投げてきた……っておいおい



「俺なんも契約書とか書いてないけどいいのか?」


「あー、それなら後で必要な書類を送るって言ってたよ。だから書類は後でもいいってさ」


「それは助かるんだがな……今度菓子でも持ってくか?」


《そうですね。あの人も喜ぶでしょう》


「だね。ま、レイが今度お菓子を持ってきてくれるって伝えとくよ」


「なら明後日に行くって言っといてくれ。1年くらい顔も見せてないからな」


「そか、伝えておくよ」


「頼む。それじゃシグナムが待ちくたびれてるかもしれないから行った方がいいぞ」


「うん、そうする。じゃあね」


《おつかれさまでした》


「そっちもな!」



そして、俺は恭文とアルトアイゼンと別れて、マンションの恭文の部屋の隣り……『カストール』の標識がある部屋に鍵を使って入った


すると、家具が一通り揃ってあって驚いた



「ヒロに感謝だな。久々に菓子作り頑張るか」



俺はヒロに感謝しながら夕食を作り……ついつい作り過ぎたので帰宅してきた恭文を呼んで一緒に食べた


その時に作ったビーフシチューが入った鍋を恭文に全部あげたのは……なんというか、美味しいと誉められて嬉しかったからとしか言いようがない

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

翌朝、少し寝坊ぎみに起きた俺はインスタントのポタージュに買っておいたクロワッサンを並べて……11時と遅い朝食を食べる

なにせ、昨日は恭文と晩飯を食べたあとにラミアをスリープから解放したら、凄かった。それはもう愚痴が……


ラミアも楽しみにしていたらしく、それはもう責められた


結局、俺が居なくても自律行動が可能な外部端末を用意することで機嫌を直してくれた。まぁ、そのせいで寝坊しちまったんだがな……


さて、約束の時間までまだあるからメールのチェックしないとな


お、なのはとヴィヴィオからのメールだ。ほうほう……ほんと、俺は何の役にも立たなかったと思うのに……わざわざお礼メール送ってくれるなんてありがたいよ


えっと、他には……恭文か。あはは、一応朝声かけてくれたのか……寝てたからなぁ。他にはないし、返事書きますかね

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

時刻はお昼前、僕とアルトは無事に到着していた

いやぁ、結構かかっちゃったねアルト



《仕方有りませんよ。渋滞している個所がいくつかありましたから。むしろ、それを考えると早いくらいでしょう》


「まぁ、確かにね」



そうして、近くの警備員さんの方へ向かおうとしたら……



《マスター。レイさんからメールが来てますよ》


「え、レイから?」



レイからメールが来たらしい。朝声かけた時に無反応だったからメール送ったけど、その返事かな?



『件名:Re:おはよう

恭文、おはよう。と言ってももう昼か(笑)

すまんな、どうも休みって感覚で寝ると気が緩むのか長く寝ちまうみたいでな。確か今日は、シグナムからの頼みで隔離施設に行くんだったよな?

なら、あのバイクだろ?
ほんと、好きだよなぁ。そこはともかく安全運転で事故らずに帰ってこいよ

俺は今から無限書庫に行くけど、何か伝言はあるか?

それじゃ、頑張れよ』



《今、起きたんですね》


「みたいだね。まったく、休みになると朝が弱くなる癖……治ってなかったみたい。
さて、ユーノ先生に伝言か……今は特にないかな。強いて頼むなら仕事頑張ってください?」


《それが妥当でしょうね》



よし、ちゃちゃっと返信完了っと。さて、気を取り直して僕は近くの警備員さんに声をかけた



「あの、すみません。届け物で来たんですけど、ここからどうやって入れば?」


「あぁ、配達の方ですか?」


「あ、違います。……えっと、機動六課所属の嘱託魔導師で、蒼凪恭文と言います。
同じく六課所属のライトニング分隊・副隊長のシグナムさんから頼まれて来たんです。シグナムさんからは、話は通しておくと言われたんですけど」


「そうでしたか、これは失礼しました。少し待っていてくださいね……」



警備員さんが空間モニターを開いて、中の局員になにやら確認している


……うーん、大丈夫と分かっていてもこういうのは緊張するぞ



「……はい、確認できました。蒼凪さん……でしたよね?
それでは、あそこの角をを右に曲がってください。
そうすると、局員用の通用口がありますので、そこで用件を言ってください。そうすれば、すぐに入れますので」


「はい、分かりました。ありがとうございます」



警備員さんにお辞儀をして、駆け出す。そうして僕は、言われた通りに、施設の中へと入っていった

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ふわぁ〜あ……眠い……



《マスター、大きな欠伸だな》



仕方ないだろうが……昨日さんざんお前の愚痴聞いてたから寝不足なんだよ……



《それはマスターが私のスリープを解除するのを忘れたからだろうが……学校見学を楽しみにしていたというのに……はぁ》



そのことはもう何度も謝ったんだから、いい加減あからさまにため息を吐くのやめてくれ


今、俺は……時空管理局本局・無限書庫の前にいる。事前にアポ取ったけど……すごく喜んでいたなぁ

それに比例して背景に修羅場とか言いたくなるほど慌ただしかったけど


俺はアポを取った時の状況を思いだしため息を吐いた。そして、俺は気を取り直して警備端末のスイッチを押す。すると、聞き覚えのある女性の声が聞こえてくる



『はい、こちら無限書庫です』


「お、レヴィか? 久しぶりだな……嘱託魔導師のレイ・カストールだ。手伝いに来たぞ」


「え!? レイ君? 開けるから早く入って! こっちはもうクロノ提督からの調査依頼で忙しいんだから!」


「わかったから。ユーノにも言っとけよ。それじゃ、失礼しますっと」



開いた扉をくぐり抜けると、そこに広がるのは、無重力の空間と360度……無数に浮かぶ本の大群

ここは、時空管理局が誇る超巨大データベース『無限書庫』。次元世界の知識と歴史のすべてが存在しているとも言われている場所



「レイ君、おっそいよ! ユーノさんが作業をやめて待ってるんだから急いで来なさい!」



中を眺めている俺に声をかけてきたのは、無限書庫で司書長の補佐をしているレヴィ・ローズ副司書長だ。こいつとは2年前くらいに知り合って意気投合した俺の友人だ



「悪い悪い。相変わらず凄いところだと思ってな」


「まったくもう……ほら、ユーノさんはこっちで作業してたから行くわよ」


「ああ……そういえば進展したか?」


「……………聞かないで」


「……そうか」



ちなみに、レヴィはユーノに何年もの間片思いしているのだ。ある意味では第2の恭文と言える。長さ的には恭文を超えているが……


まぁ、恭文と違って他にフラグは立てないんだけどな



「ユーノさん、レイ君が来てくれたよ」


「うん、レヴィ。ありがと。久しぶりだねレイ君」


「ああ、久しぶりだなユーノ」



ちなみにユーノとは恭文経由で仲良くなった……レヴィもだがな。まあ、出会い頭に連行されてっていうのは情けなさ過ぎだがな



「さっそくで悪いけど、これお願いするね」


「……今日は一段と多いな」



さっそくということでモニターに映し出されるのは、検索対象の数々……この量を一気にやると、普通ならまともに動けなくなるんじゃないか?


仕方ない、ラミア。手分けしてやるぞ



《OK、マスター。今回こそ勝たせてもらう》



俺に勝てるかな?
さて、やりますか……


宙に浮かぶ鎖に通された指輪からミッド式の魔法陣が発生し、俺の足下からも同色の魔法陣が浮かび上がった

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

僕の目の前で、レイ君とラミアがたくさんの検索魔法をかなりの速さで処理していくのが見れる……


普通ならここまで速くたくさんの検索魔法を行えないのだが……レイ君はデバイスの補助無しで、デバイスの補助を受けている人よりも速くできるんだ

ラミアもそれに負けない速さで処理してるけど、レイ君と比べると遅い


相変わらず、デバイスよりも速く処理しちゃうなんて恐ろしいね。僕の幼馴染みのレヴィはそんなレイ君を見て呆れてるけど、僕は素直にすごいと思う

う〜ん、司書として欲しいけど嘱託が気に入ってるって言うし……仕方ないかな


ま、今回レイ君が来てくれたおかげで……徹夜を避けられるだけじゃなくて、定時で帰れるかも知れない!!


ちなみに、恭文君とレイ君が一緒に無限書庫に来て作業を手伝ってくれたことがあったのだが……………


結果は定時より2時間早く勤務終了(しかも、クロノの無茶な資料請求があったにもかかわらず!!)という形になった


その時、無限書庫は歓喜の渦に包まれた……………うん、アレはいつ思い出してもすごいよ。涙が出るくらいに……


でも、何度思い出しても恥ずかしかったな。喜びが強すぎて思わずレヴィに抱きついちゃったから……うぅ、あれは恥ずかしかった


レヴィに怒られると思ったけど、笑って許してくれたからそれが救いかな。ホッとしてたらレイ君がなにか物言いたげにしてたけど……なんでかな?


とにかく、検索はレイ君とラミアが引き受けてくれる………後は、資料を探すだけだっ!! 皆、がんばってね!!


……………その時、無限書庫にいるすべての人の心が一つになった


…………今日は絶対に家に帰るんだ……

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

今、俺とユーノとレヴィは食堂で夕食を食べている。あのさ……涙目でご飯食べるのやめてくれないかな、2人とも……



「だって、レイ君。食堂でご飯を食べられるなんて……すごく久々なんだよ!!」


「そうよ、レイ君。本当に久しぶりなんだよ! それにユーノさんと一緒に食べるのなんて、何年振りか……レイ君が居なかったら2人っきりだったのに……」


「レヴィ、最後の方声が小さかったけど……なんて言ったの?」


「ううん、なんでもないよ。とにかく久しぶりに食堂で食べれる喜びを噛み締めて何が悪いの?」



ユーノとレヴィのやり取りに、俺は苦笑する。相変わらず、レヴィの想いは伝わってないんだなと再確認して、不憫に思ったが……表情には出さないでおく



「全然悪くない。だから、そう睨むなよ」



俺がそう言うと、レヴィは睨むのをやめてくれた。やれやれ、俺はそんな気持ちを込めてまた苦笑いを浮かべて、茶を一口含んで味わう



「そういえば……レイ君機動六課に配属されたんだね。なのはから聞いて驚いたよ」


「……なのはも驚いていたな。俺が配属されるの聞いてなかったみたいでな」


「うん……それもメールに書いてあったよ」



……ちなみに、なのはとユーノは友達だ。それも、10年近くの付き合いだ。……そして、ユーノはなのはに片想い中でもある


まぁ、俺はユーノから直接聞いてないから知らないって思ってるようだけど……バレバレだ



「……そうなんだ。……僕はほとんどなのはと会えないのに……いいなぁ」



この態度なら誰だって分かるというもの……俺はそんなユーノに顔を向けながら視線だけをレヴィに向けると……これたま寂しそうにユーノを見ていた


レヴィも分かりやすい……だけど、ユーノには気付かれてないなんて、悲しすぎる



「まぁ、なんだ……元気だしな。なのはには顔を出すくらいはしてやれって言っといてやるから……」


「……うん、ありがと」



ユーノはゆるゆると笑顔を向けてきた。少しは元気が出たようだ。さて……



“お前も元気だせ。諦めないんだろ?”


“も、もちろんよ! 気付いてもらえるまで頑張りますとも!!”



レヴィにもフォロー、というか声をかけるのも忘れない。レヴィはユーノが別の女性を想おうともいつか気付いてもらえる日まで頑張ると宣言している


それを俺はときには相談にのったり、愚痴を聞いたりと応援している……まぁ、未だに気付いてもらえていない。道のりは遠そうだ


そう俺が考えていると……食堂に司書の一人が駆け込んできた



「し、司書長! 大変ですっ、クロノ・ハラオウン提督から追加の資料請求が来ました!!」



その報告にユーノとレヴィは表情を引き攣らせた。俺は深くため息を洩らす



「……レイ君、手伝って……くれる?」



ここまで来たんだ、最後まで付き合うよ


俺とユーノとレヴィは夕食を食べ終わって頷き合うと、資料請求という強敵と戦うために無限書庫へと戻った


定時まで、あと2時間を切った時だった。……ちなみに、俺がラミアと競って検索魔法をし続けた結果


みごとに資料請求という強敵を打破し、ギリギリ定時で勤務が終了した……そして、ラミアとの勝敗は……



《あと、2つ……あと2つで……》


「俺に勝とうなんざ、まだまだ早い」



たった2つという調査量の差で俺の勝利となった。なんか、レヴィが呆れたように見てくるが無視でいいだろう


そして、無限書庫のみんなは約2週間振りに家に帰ることができたらしい……


俺は帰宅途中に色々と買い込んだあと、帰宅し落ち込むラミアをそっとテーブルに置いて、心地好い眠りについたのだった



(第六話に続く)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき

レイ「あれ? 今回は結構長いけど……ラミアも恭文とアルトアイゼンもあまり出なかったな……」

ラミア《私に関してはマスターがスリープモードを解除しなかったからだろう? しかし、なんだ……マスターは色々おかしいだろう!?》

レイ「どこが?」

ラミア《デバイスである私よりも処理が速いということだ。マスターがユーノ殿達と夕食を食べている最中も私は作業していたのだぞ!
それなのに、ゆったりしていたマスターの方が処理した数が多いというのは変だろうっ!!》

レイ「いや、単純な作業だし……集中すれば誰にだって」

ラミア《いや……あれは異常だ。我々デバイスの補助があればまだわかるが、補助無しでデバイスの処理速度を超えるなど異常だ》

レイ「……そう異常異常言うなよ。強いて言うなら昔取った杵柄だ。プログラム処理とか得意なんだよ。まぁ、俺のことはさておいて……オリキャラの紹介といこうか」

ラミア《ユーノ殿の幼馴染、レヴィ殿だな。紹介は次からとなる》



名前:レヴィ・ローズ


年齢:ユーノと同じ


性別:女性


身長/体重:154p/秘密


スタイル:ティアナと同じ


髪の色:赤


髪型:腰まであるストレートヘアー


顔立ち:かなりの童顔で、可愛い系


瞳の色:紫


現在の職業:無限書庫・司書長補佐であり副司書長


魔導師ランク:総合A+


魔法式:ミッド式


魔力光:青紫


魔力資質:完全な支援系。攻撃と防御よりも回復に特化しており、回復魔法の技術は高いが、攻撃魔法と防御魔法の適性がかなり低い……というか無い

その代わり、回復と補助魔法の適性が高く無限書庫ではユーノに次ぐ柱の一つに数えられる


主な戦闘スタイル:後方での回復担当


好きな食べ物:洋菓子、ラーメン


嫌いな食べ物:辛いもの全般


趣味:読書と、裏ルートから入手した『ユーノ・スクライア写真集』を眺めること


性格:活発で優しく気配りができる女性。とことん尽くすタイプ

恋心故かユーノに対して甲斐甲斐しく世話を焼きたがるが、そのすべてがただの親切と受け止められる可哀想な女性。レイに対しては遠慮なく接するほど仲がいいが、友情色が濃い


座右の銘:『万里の道も一歩から』


備考:ユーノ・スクライアとは15年来の付き合い。初恋の相手も当然ユーノで、14年もの間なんとか自然を装い何かと世話を焼いてアプローチをかけるも、すべて親切心からだと思われ気付かれていない

ユーノが高町なのはの事が好きだと知りつつも、諦めきれず苦悩の日々をしていたが、2年前に友達になったレイに話を聞いてもらったりする中で、吹っ切る事ができ振り向いてもらおうと努力を続けている

その結果なのか、周囲から良い雰囲気だと思われて噂が立ったりしているが……ユーノからは幼馴染みとしか見られていない


ラミア《これは……》

レイ「うん……何が言いたいのかわかる。でも、これは有り得る現実だよ。特にルミナが原作を見ていて感じたユーノ像って、天然でなのは一筋って感じだったらしいし」

ラミア《それで、これか? 恭文殿の影響も受けていると思うぞ?》

レイ「それは言わないで、細かなキャラ設定は、今回の話を書きながら考えて、あとがきで纏めたらしいから。今から変更して話を変える力が尽きたみたい」


ラミア《これも……叩かれる要因にならなければ良いのだがな……》

レイ「それは、俺も思う。さて、次回はいよいよ休日最終日……恭文にとって色々と精神的に疲れる一日になるだろう。まあ、俺は外出するし、本家よりも早く例の2人が登場する」

ラミア《部屋の提供のお礼だったな。本日はここまで》

レイ「では、また次回!」





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