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頂き物の小説
第四話『仲の良さの基準なんて、誰もわからない……でも、微笑ましく見えるのは俺だけだろうか?』



……早朝、俺と恭文は日課のランニングをし終えてから、軽い打ち合いをしている


「……休むように言われてたけど大丈夫なのか?」

「平気平気、軽くなら大丈夫だよ。これがシグナムさんだったらお互いに加減が利かなくなりそうだけど、レイなら大丈夫だろうし。
それにレイにも言えるでしょ、それは」


ふむ、バトルマニア故の性か。俺も戦うのは好きだが、これでも状況は選ぶからな。それに、俺に関してはもう疲労なんて無いから大丈夫だし……さて


「そうか。まぁ、今日はこれくらいにしよう。じゃないと、飯食ってる時間がなくなるしな」

「そうだね、それじゃ僕は自転車で行くけどレイは?」

「俺も自転車で行くよ。俺のレアスキル、知ってるだろ?」

「……あぁ、アレね。便利だよね、アレは……チートだとも思うけど」


それは俺も思う。俺の持つレアスキルは『想像具現化』という名前で登録されている。他にも複数レアスキルとして登録されているのはあるが、今は別にいいだろう

『想像具現化』というスキルは、術者が想像した物体を、魔力を材料に具現化させるという内容で登録している

実際は違うが、管理局にレアスキルとして登録するのにはこちらの方がなにかと都合がいい

実際は何かって?
術者が一度視たモノを魔力を材料に完全再現する能力だ、簡単に説明すればだけどな

使いようによってはかなりチートになる。なにせ、ロストロギアも視ただけで複製しちゃうんだから。外部に……それも犯罪者に情報が漏れたりしたら厄介極まる能力だ

その為に俺に関するデータは、管理局が保有するデータの中で最重要機密になっており、難解で複雑なプロテクトを設置している。設置したのは俺だがな

厄介事は極力少ない方がいいし、管理局のネット関係は穴だらけというのもプロテクトをかけた大きな理由だ。ちなみにプロテクトを設置した方法はハッキングとなる


話がずれたが、俺はこの能力を使って、恭文の自転車を複製した。これで大丈夫だな

さて、仕事に向かいますかね。その前に朝食だけどな


魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝

とある魔導師と機動六課の日常〜異邦人と古き鉄〜


第四話『仲の良さの基準なんて、誰もわからない……でも、微笑ましく見えるのは俺だけだろうか?』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

自転車を飛ばして8時前に隊舎に到着した俺達は一旦自転車を止めた


「それじゃ、俺は食堂に直に行くから」

「……なんで? ……あぁ、そういえば想像具現化で出したのって魔力で出来てるから消せるんだっけ?」

「そういうこと。だから、置きに行く手間が省けるんだよ」

《……少しセコいですけどね》

《中尉、それを言ってやるな……これでもマスターは気にしているのだからな》


アルトアイゼン、セコいって言うな……それと、ラミア。これでもとはなんだ、これでもとは……


「とにかく……恭文は置いてこいよ、席なら俺が確保しとくから」

「うん、それじゃ頼んだよ」


恭文とは別れて、俺は自転車を構成する魔力を拡散し消した

無論、周囲に誰も居ないことを確認した上でだけどな

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

隊舎に入ったあと、食堂に向かっていると、ちょうど右の通路から赤髪の少年と白き竜を従える少女が歩いてくる所だった


「キャロ、エリオ……それとフリードもおはよう」

『あ、レイさん。おはようございます』

「キュクル〜」


元気に返してくれた。うん、子供はこれくらい元気でないとな


「レイさん、こんな朝早く……まだ仕事の時間には早いですよね?」

「そうだね。どうしたんですか?」

「キュク?」

「あ〜、冷蔵庫が空でな……飯食いに来たんだよ」

「キュクキュク?」

「お、良いのか?」

「え、フリードの言葉解るんですか!?」


あ……しまった。つい反応しちまった


「あー、隠しても仕方ないよな。解るぞ、普通にな」


読者の諸君にはただ『キュクキュク』言ってるだけにしか解らないだろうが、俺にしたら『僕らと一緒に食べる?』という言葉に聞こえるのだ

一応これもレアスキルとして登録してはいる。切り替えが出来ないから、すべての生物の言葉が常時わかるのだ

まぁ、普通に変な人に見られるから普段はあまり意識してないがな


「一応レアスキルだ。『言語の統制』という名前で登録してある」

「言語の……統制、ですか?」

「そうだ。簡単に言えば、すべての生物の言葉を人語に変換する能力だよ」


本当は、すべての言葉を日本語に統一するという能力だ。つまり、スワヒリ語だろうが猫語だろうがすべて日本語に変換される

逆に俺の話す言葉をそれぞれの生物が理解できる言葉に変換もされている

言葉は世界の数だけ存在しているから、現地での捜査任務とかにとても重宝している

それはさておき……


「キャロもフリードと話せるんだろ? 特に驚くことじゃないと思うが?」

「あ、そうでした」


うむ、素直に納得したか。まぁ、召喚師の対話スキルとは違うけど、俺もよく理解してないから助かった


「改めてフリードに誘われたけど、一緒でいいか?」

『はい!』

「キュクキュク!」

「んじゃ、よろしく。恭文も遅れて来るから、席確保しとかないとな」

『はい!』

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

マスター含め、チビッ子三人組が歩いている。ふむ、マスターも楽しそうだ……

ん?
右側から誰か来たようだな……マスターのことだ、どうせ気付いているだろう


「ティアナ、おはよう」

「ん? ああ、おはよう。エリオもキャロもフリードもおはよう」

「はい、おはようございます!」

「おはようございます、ティアナさん!」

「キュク〜!」

「どうした、考え事か?」


マスター、上目遣いで……って身長差からそうなるのは仕方がないが、首を傾げて聞いてやるな

ティアナ殿が顔を赤らめているではないか……あぁ、そういえばマスターは自分の容姿や行動などが他人に与える影響にはとことん無頓着だったな


「な、なんでもないわよ。レイこそどうしたのよ? こんな朝早く……」

「恭文のとこに泊まったはいいんだが、冷蔵庫の中が空でな。朝飯を食いに来たんだよ」

「アイツと同じか……そりゃそうよね、一緒に帰ったんだから。さっきアイツと会ってね、私とスバルも一緒に食べる事になったから」

「そうか。みんな一緒に座れる場所確保しとかないとな」


マスターとティアナ殿は楽しそうに会話を続けているな……エリオ殿とキャロ殿も二人で今日は何を食べるか話し合っている

食堂に着いた時、スバル殿も合流し、席を無事に確保して恭文殿のメニューはマスターが選んで準備が整った

あとは、中尉と恭文殿が来るのを待つばかりとなったが……少し遅くはないだろうか?

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……お待たせー!」

《すみません、遅くなりました。マスターがグズグズするから》


とりあえず、アルトのつっこみはスルー


《それはいかんぞ、恭文殿。ティアナ殿とスバル殿と一緒に食べる約束をしたのだろう?
こんな素敵なレディを待たせるなど言語道断だ》


って、ラミア!?
スバルも顔を赤くするんじゃない! とにかく、スルーだよスルー!

レイも苦笑するだけじゃなくて、ラミアを止めてよ……


「恭文さん、おはようございます!」

「おはようございます」

「キュクルー」


僕とアルトが自転車を置いて、食堂へつくと、昨日知り合ったばかりのちびっこコンビ

エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ。チビ竜のフリードリヒもスバルとティアナと一緒にいた

……あと、レイがフリードを撫でてる。それは幸せそうに……そういえば君、小動物系が好きだったね


「うん、エリオもキャロも、フリードもおはよう」

《おはようございます》


とりあえず、みんなが取っていてくれた椅子に座る。なんと、僕の分のご飯まで確保してくれていた。うん、ごめんね。手間かけさせちゃって


「ううん、大丈夫だよ」

「それで良かったよな?」


レイが選んでくれたのか……お互い嫌いな物が同じ同士、気を遣ってくれたんだろうな


「それじゃあ全員揃ったからみんな一緒に……」

『いただきまーすっ!』


……いやぁ、朝から運動したし、空きっ腹にこのご飯の美味しさが身にしみるわぁ


《慌てずによく噛んで食べて下さいね》

「うぃうぃ」

「そうだ、恭文」


スバルが、やったら嬉しそうな表情でそう言ってきた。ん、なにが?


「トレーニングウェア。すっごく綺麗に洗ってくれて、ビックリしたよ。シワ一つないんだもん」

《昨日帰ってから、一生懸命洗ってましたから。それから、乾かして、アイロンをして、匂いが気にならないか丹念にチェックして……》

「そこまでやってくれたんだ。……ありがと」


いや、いちおう借り物だしそれくらいはね。うん、ちゃんとしておきたかったの


《まぁ、匂いを丹念にチェックしてる辺りに、危なさを感じたのは内緒にしてあげますよ》

《まぁ、映像として記録しておいたがな》


……だったら口にしないでよ。いや、自分でも気になってたよ?
女の子の服を、ちゃんとした理由があるとはいえ、くんかくんかと匂いを嗅ぐのはどうなんだろうなって。というか、レイ……あとでちゃんと消しといてね、その映像

で、スバルはなんで僕に顔を近づけるっ!?


「うーん、恭文いい匂いだよ。朝にお風呂とか入った?」

「あぁ、朝風呂派だから……って、匂いを勝手に嗅ぐなっ!!」

「いや、そこまで気にするってことは、なにかあるのかなって思って」

《まぁ、それはないのですが……。いちおう女性というのがありましたから、ちょっと神経を使ってたんです。それとラミア、あとでその映像データ私にくださいね》

《心得ました、中尉》


アルトがそう言うと、スバルがなぜだか顔を赤くして黙った。……変な意味じゃないのは先に言っておくとして。
……レイ、今すぐその映像データ消して! アルトに渡る前に、お願いだから


「と、とにかくありがと。私、うれしかったから」

「うん、僕も昨日はありがとね。ウェア貸してくれて助かっちゃった」

「うんっ!!」

《これで、フラグ成立ですね》

《あぁ、マスターッ!? せっかくのデータを消さないで……くっ、せめて中尉に……なっ!?
送信不可だとっ!! どうしてデバイスの私よりも処理が速いんだっ!?》


レイ、よくやった……あぁ、アルトは気にしないでね

ほら、街中歩いてるとやたらイチャついてぶっ飛ばしたくなるカップルっているじゃない? あぁいうのを無視する感覚でいけばいいから


「なにげにヒドイよそれっ!? というかレイの指の動きが見えないんだけど!?」

《全くですよ。優しさが足りませんよ優しさが。レイさんは余計なことを……》


優しくして欲しいなら、まず僕に優しくしてよ。それと余計なことじゃないからね

で、みんなはなんでそんなに僕を見つめるの?


「いや、なんていうかさ。昨日から思ってたんだけど。……アンタのデバイス、アルトアイゼンだっけ? 本当によく喋るわよね。コイツのデバイスもよく喋るし」

「いや、普通だよ?」

「絶対普通じゃないからっ」

《そんなことは無いと思うのですが》

《そうだな、私も中尉と同じように普通だと思うのだが……》

「……いや、普通のデバイスはそんなに喋らないから。ラミアの製作者である俺がとやかく言えないことではあるんだがな……」


……まぁ確かに、アルトは無茶苦茶喋るしツッコむし

AI付きデバイスの中でもトップクラスっていわんばかりに感情表現豊かであるのは間違いないわな。ラミアも似たようなものだね


「なにか、特殊なデバイスなんですか?」

「あー、特殊って言えば特殊……なのかな」

「確かにアルトアイゼンは特殊ではあるな」

「もしよかったら、教えてもらえませんか? 興味ありますし」


……ちびっ子二人の瞳が痛い。だって、すっごく光輝いているんだもの


《といっても、たいした事ではありません。私は、みなさんより年上……稼動年数が26年というだけの話です》

「26年っ!?」

「ちょっとまって、アンタ17よね? なんでアンタが使ってるデバイスが、アンタより年上なのよ」

「そりゃあそうだよ。だって、アルトは元々僕のパートナーデバイスじゃないもの」


………まぁ、隠す必要があるわけでもないので説明すると、アルトは元々、僕の剣の師匠が一緒に戦っていたデバイスなのだ

僕と先生が出会って、剣術を教えてもらうことになった直後、剣術経験が無い僕のサポートのためという名目で、僕はアルトを使用して訓練や戦闘を行っていた

ちなみに、当のアルトはこの事に対してかなり不満タラタラだった

……いや、当然だけどね。自分のマスターの命令とは言え、戦闘経験がそれほどあるわけじゃないトーシローの世話を焼かなきゃいけなくなったんだから

それが紆余曲折あって、アルトが僕のことを『マスター』と呼ぶようになったのだ

それにともなって、元々のマスターである先生の事は『グランド・マスター』と呼ぶことになった。アルト曰く、やっぱり先生の方が立場は上にしたかったらしい。なので『グランド』

それから、アルトは正式に僕のパートナーとして戦うことになった

……これは、僕が魔導師になるきっかけとなった、ある事件が解決してしばらくして、リンディさんから聞いたこと

どうやら先生はアルトを僕のパートナーデバイスとして受け継いで欲しかったそうだ

老い先短い……いや、今でもピンピンしてるけどさ

とにかく、老い先短い自分が亡くなった時に、苦楽を共にしたパートナーの今後がどうしても気がかりだったそうだ

それで、大事にしてくれる人間を探していたときに、僕が現れた

で、いざヴィータ師匠と一緒に、剣術と魔法戦の技能を教えてみると、戦闘に関して天才……と言えるほどではないけど、それなりにセンスもあった

ということで即決して、その通りになったというわけである


「……なるほど、そういうことだったんだね」

「でも、AI搭載型デバイスは、普通は使用年数が増える事にその使用者の専用機体になっていくのに、よくあそこまで戦えるようになったわね」

《そうですね。この人の特性に擦り合わせていくのに、一ヶ月ばかりの時間はかかりました》

「一ヶ月って、また短い間に合わせられたわね」

「まー、その辺りは事情があってね。先生と僕って、魔力特性が凄く似てたんだよ」


魔力特性というのは、ぶっちゃけちゃえば、どういう魔法が得意かという先天的な適正みたいなものになる

例えばフェイト。フェイトは、魔力の圧縮。そして、先天的に備わっている電気性質への魔力変換を得意としている。逆に、誘導弾とかは苦手なんだよね

で、それと同じように、僕にも得意とする分野と不得意な分野がある。それと、先生の資質がとてもよく似ていたのだ

先生曰く、そういうのも僕に師匠と一緒に、魔法や剣術を教えようと思った動機らしい


《……今考えると、その辺りも含めて、最初の段階で私を付かせたのでしょう。なんというか、私の主人はどうしてこうも揃って性悪なのか》

「失礼な。先生はともかく、僕は違う」

「じゃあ……あの、アルトアイゼンさん」


いきなりさん付けっ!?


《……エリオさん、普通に呼び捨てで構いません。確かに私の方が年上かも知れませんけど、どうにもさん付けは慣れません》

「う、うん。それじゃあ、アルトアイゼン」

《はい、なんでしょうか?》

「恭文さんのことを『マスター』って呼ぶようになったのって、なにがきっかけだったの?」


……きっかけか。うん、痛かったなぁ


《……とても簡単です。とある違法行為を行っていたSランク魔導師を相手にして、ぎりぎりだったときにこのバカは、擬似的にマスター権限を強行して、私を待機状態に戻したんです》

「えぇっ!?」

「アンタ、なんでまたそんなことしたのよ!」


とりあえず、視線が痛いから睨むのはやめてくれるとありがたいよ。ちゃんと説明するから。そしてアルト、マスターを指してバカって言うな


《仕方ないでしょう、バカはバカなんですから。それも年々悪化してますし》

「……おのれは」

「まぁまぁ……。それで、恭文はどうしてそんなことしたの?」

「……その時のアルトは先生から預かっていた形だったからさ。正直、勝つためにちょっと無茶しなきゃいけなくて」

「それで、アルトアイゼンをその無茶に巻き込みたくなくて、待機状態に戻したと」


まぁ、それでも勝つ算段はつけられてたからだけどね


《……なにが算段ですか。相打ち同然に決着をつけて死にかけて、二週間意識不明の重体。完治までにはそこから一ヶ月もかかったじゃありませんか》


うん、死にかけた。これ以上無いっていうくらい


《あの時、リインさんやフェイトさんがどれほど心配して、泣いたと思ってるんですか?
勝つと言うのは、相手を完膚なきまでにぶっ飛ばしても、自分は無傷という結果の事を言うんです。勘違いにも程がありますよ》

「ねぇアルトアイゼン、その考え方もどうなのかな?」

「つか、そんな大怪我してまでやることじゃないわよ……」


まぁ、あの時は色々あってそう思っちゃったんだからしかたない

あの時は、アルトは僕と戦うことに関しては、本当に不満タラタラだったし。それで命を賭けろとはいえなかった。アルトは先生のこと、大好きだしね


「それで、アルトアイゼンは恭文さんをマスターって呼ぶようになったんだね」

《キャロさん正解です。色々と不満があったのは確かですが、目の前で死なれても気分が悪いですし。
それに……》

「それになによ?」


アルトを、みんながじっと見つめる。何を言い出すのかと言わんばかりに


《マスターがあの時、怪我と無茶をしたのは、私が信頼関係を結ぼうともしなかったからです。
なら、マスターでもご主人様でもおにいたまでもいい。しっかりとした関係を作っていくしかない。……同じ間違いを、繰り返したくはありませんでしたから》

「そっか。なんか、アンタも大変だったのね」

《分かっていただけるとありがたいです》


……みんなが感心してるなか、僕はどうしても釈然としないものを感じていた。アルト、おにいたまってなに? 可愛くないからそれはやめて


「恭文、ホントにだめだよ? こんないいデバイスに心配ばかりかけちゃ」

《全くです》

「だから、自分で言ったら説得力ないから……」

「それはそうだけど、心配をかけちゃいけないのは間違いないよ? あの時、アルトアイゼンすっごく落ち込んでたんだから」

「そうだな。自分の態度がいけなかったと、お前の目が覚めるまで反省しきりだったからな」

……………………え?

突然、後ろから声が聞こえた。僕がよく知る声が二つ。で、後ろを振り向くと……居た


「恭文君、久しぶり。……過労だって聞いたけど、身体大丈夫?」

「問題ないよ。てーか、なのはおひさ。なんか元気そうじゃないのさ」

「うんっ!!」


そう、そこにいたのは……シグナムさんと、もう一人

高町なのはが、そこに居た


「なのはさんっ! あ、シグナム副隊長もおはようございますっ!!」

『おはようございますっ!!』

「うん、みんなおはよう」

「みんな、なのはにそんなに気を使わなくてもいいのに……」

「アンタは少しは気を使いなさいよっ!」

「嫌だ」


……あれ? どうしてみんなそんなビックリしたような顔で僕を見るの?
あと、レイ……お前は顔背けて肩を揺らすな


「あの、恭文。なのはさんって、一応上の立場なんだよ? さすがにそれは……」

「あぁ、大丈夫だよみんな。恭文君は、どこでもこんな感じだし」

「実際、蒼凪に上下関係を盾に命令すると恐ろしいことになるからな」

「ですね。……相変わらずだよ。逆に安心しちゃったよ」

「この二人は、それが相変わらずなんですね」


スバルもティアナもチビッ子コンビも、なんでそんな残念そうな目で僕達を見る?

で、僕のことはいいよ。なーんでなのはがこんな朝早くにいるのかが疑問だ


「しかし、随分早く戻ってきたね。病院にお泊りだったんじゃないの?」

「うん。でも……恭文君に会いたかったから」


ニッコリと笑顔でなのはが口にする。……そうなんだ


「僕は……会いたくなかった」

『…………………え?』

「だって……若○ボイスで話し掛けられても嫌だし」

「そんな声でないよっ!」


いや、勝手に変換されてるから


「されてないよっ!!」

「僕とアルトの脳内のことにとやかく抜かすな」

《まったくですよっ!》

「逆ギレっ!?」


………さて、この高町なのはという女性について説明しておこう

時空管理局の叩き上げ戦闘集団と言ってもいい『航空戦技教導隊』所属の空戦魔導師だ

僕やはやてと同じ地球の出身で、9歳の時に、とある事件に巻き込まれて魔法の力に目覚めた

そこからは……途中で大怪我して、リハビリのためにブランクこそあったものの、教導隊に所属した。僕と出会ったのも、ちょうどそれくらい

そこでどんな仕事をしているかというと………最新鋭の戦闘技術や戦術の構築。新装備の開発などだ

あとは、要請のあった部隊に赴き、そこの武装局員に極めてレベルの高い戦闘技術の教導などの仕事もこなしている。そういや、六課でも主な仕事はそれになるのか

こやつは、そんな結構エリート街道まっしぐらな生き方をしているために、ミッドでもかなりの有名人

『エース・オブ・エース』なんていうぶっ飛んだ二つ名まで持っている。……そこはうらやましいよ

ほら、二つ名って憧れるし。僕も『赤い彗星』とか『ライトニング・バロン』とか『阿修羅すらも凌駕する』とか言われてみたいし

………しかし、それはあくまでも表向きの顔だ

裏の顔は語るのも恐ろしい

こやつを一言で言うなら、そう……魔王っ!

ちなみに『冥王』『悪魔』『鬼畜』『作画崩れ』でも正解とする

こやつの戦闘スタイルは、大量の誘導弾と高威力・高出力の砲撃を用いた遠・中距離戦

ここまでなら、普通の射撃での支援型だろう。ただし……その攻撃の威力が半端じゃないのだ

一発撃つだけで大地は割れ、海は避け、そして世界は震える

どっかの惑星をぶっ壊したことも数知れず

その純白を思わせるバリアジャケットは、実は敵の返り血を全く浴びてないからというのが通説

そして……恐ろしいのはその手口だ

一撃で倒せるはずなのに、じわじわとなぶり殺しにするような手口で戦う

……信じられないかもしれない。だけど……これが高町なのはだっ!!


「そんなわけないからぁぁぁぁぁっ! というかというかっ! なんでいきなりそんな話になるのっ!?」

「いや、説明って大事でしょ?」

《そうですよ。あなたが誤解されないようにと気を使ったんです》

「使い方が間違ってるよ。それだけじゃなくて、またそんな風に魔王って言うっ!!」

「だって、魔王じゃないのさ」

《そうですよ》

「違うもんっ!!」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

……さっきから何時気付くか待ってるんだが、恭文とアルトアイゼンの対処で俺に気付かないみたいだな

声を掛けるか? ……いや、もう少し様子見るか。どうせなら完全に気配を消すか?

魔力を抑えれば自然と気配が薄くなるのは便利だよな。ラミア、黙ってろよ?


“了解した。マスターもつくづく人が悪い”


ほっとけ、別に恭文を見て俺もからかいたくなったんじゃないんだからなっ!


“ツンデレ属性持ちとは……侮れんなマスター”


ここはスルーしよう。最近ラミアがアルトアイゼンの影響を多大に受けているように思えるが……まぁ、害はないだろ


「……えっと…ちょっと恭文っ!?」

「なにさ豆柴」

「犬じゃないよっ! というか……どうしてなのはさんにそんなこと言うの?」

「なにが?」

「なにがじゃないわよ。アンタ、よりにもよって魔王って……」

「恭文さん、それはヒドイですよ」

「なのはさんは魔王じゃないですよ」


スバル達が反論すると、恭文はため息を吐いてなのは達に向けてこう言った


「なのは、シグナムさん、心が痛まないんですか? こんないたいけな子ども達を騙して」

《そうですよ。良心の呵責というものに苛まれないんですか?》

「それはこっちのセリフだよっ!」

「むしろ、それはお前達に言ってやりたいぞ」


「本当だよ。なのはさんの事、さっきから魔王魔王って……」

「じゃあみんなに聞くけど、なのはが魔王じゃないって言い切れる?
心のそこから、嘘偽りなく、まっすぐに、僕の目を見て、天地天命に誓って、己の心に誇って、神やら仏やらにも誓って……言える?」

『………………………………………………………………………………………………………………………………もちろん!』


……そこで間を取っちゃいかんだろ。それは魔王だって認めてるようなもんだぞ


「なのは、みんなに感謝しときなよ? かなり間があったけど言ってくれたんだから」

「みんな、そんな風に思ってたんだね……」

「こ、これは違うんですっ! 恭文が変な念押しするからで」

「まぁおまえらもそういきり立つな」


まぁまぁと言ってきたのは、今まで話を聞いていたシグナムだった


「蒼凪のなのは隊長に対しての態度はいつものことだ」

「これ、いつものことなんですかっ!?」

「そうだ。まぁ、この二人なりのコミュニケーションと言ったところだ」

「コミュニケーションって言っても……これは……」


傍から見たら虐めてるように見えるからな……言葉を濁すのもわかる。だけど、俺にしたら微笑ましく見える


「でも、魔王っていうのはやめてほしいんだけど」

「魔王じゃなくなったと判断したら、やめてあげるよ」

「じゃあ、今からやめて?」

「……えっ!?」

《そんなっ!?》


……まだ引っ張る気満々だな、おい


「だって……現時点で魔王なのに今からやめろなんて」

「魔王じゃないよっ!」


そうして、なのはと恭文とアルトアイゼンは、あーだこーだと際限なく言い争う


「……シグナム副隊長」

「言いたい事は分かる。だが、普通のことだ」

「そう……ですか」

「あいつらなりの再会の挨拶と言った所だ。それに見てみろ」


シグナムに言われて、スバル達はなのはと恭文をもう一度見る。もう世間話に移ってるな


「なんだか……なのはさんも恭文さんも、楽しそうですね」

「ホントだ」

「あぁいう関係だ。お前らの言いたい事は分かるが、問題はない」

「確かに、そうみたいですね」

「うー、でもやっぱり魔王とかって言うのは納得できないー! なのはさんは魔王じゃないもんっ! ちょっとそれっぽいところはあるけど」


……それは否定してないぞ、スバル

これがなのはの耳に入らなくてよかったな……それはさて置き、いい加減気付けよ、なのは

仕方ない、声掛けるか


「お〜い、なのは!」


俺が恭文と楽しそうに近況を話しているなのはに声を掛けると、フォワード4人とシグナムが驚いた表情を浮かべる
無視して構わんだろ。なのはと恭文は俺の声に反応し、こちらに向いた

お、なのは驚いてるな


「……あれ? レイ君?」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

……ちょい魔って、じゃなかった待って……
なのはとレイって知り合い?


「久しぶりだな、なのは。よくも今まで気付かなかったな?」

「にゃ、にゃははは……ごめんね?」

「まぁ、構わんさ」

「もしかして、レイ君も出向?」

「その通りだ。無茶したって聞いて心配したぞ」

「ありがと、心配かけてごめんね」


2人だけで話を進めないで……えっと


「……ねぇ、レイ…なのは。2人が知り合いって僕、初耳なんだけど?」

「知らなかったのか? てっきりなのはから聞いてるもんだと思ってたが……」

「私はレイ君から聞いて知ってると思ってた」


どちらからも聞いてませんよ……真面目にビックリなんだけど!?


「改めて説明すると、レイ君は2年前に私が教導を担当した部隊に雇われてた嘱託魔導師で生徒だったんだ。
その時に恭文君と友達だって聞いて話が盛り上がっちゃって、それ以来私とレイ君は友達になったんだよ」


へぇ〜、そうなんだ……
レイにはなのはとは友達だって話してるし、仲良くなるのは納得だ


「まぁ、ほとんどは恭文の話ばかりだったけどな」

「うん、そうだねぇ〜」


ね、どんなこと話したのさ。気になるんだけど?


「恭文がどんな無茶したとか、どんなドジ踏んだとか……あとは恭文とは関係ないが、戦術についてくらいだな」

「レイ君って教導受けるの必要無いくらい色々知っててね、驚いちゃった。それにランクが低い理由聞いた時なんて恭文君の友達だなって思わず納得しゃったもん」


それ、どういうことさ?
僕はレイほど面倒くさがりじゃないよ

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

さて、今はお昼休み

あの後、みんなでご飯を食べてから、僕はロングアーチのオフィスでポチポチ書類など打ってた。まぁ、これが目的の半分だしね

しっかし……こりゃすごいな

今、僕が打っているのは、上への報告書。報告内容は、JS事件の最終局面。六課が関わったゆりかごの攻略戦やら、首都の防衛戦に関して

なんでも、暫定的な形では出していたのだけど、さすがにそれだとアウトなので……今、かなり詳細な物を纏めている最中だそうだ

その時に、管制をしていたシャーリーにあれこれ解説してもらいながら、その報告書作成の手伝いをしていたのだけど、激戦もいいとこじゃないのさ


「そりゃそうだよ。みんな頑張ってたしね」

「いや、頑張りようにも程があるでしょ」


特に目を惹いたのは、スバル達フォワード陣が主戦力を務めた、廃棄都市部での首都防衛戦。そこでの、対戦闘機人戦に関しての戦闘記録だ

その中の、ある廃ビルの中で行われた戦闘。絶望的とも言える状況を、持てる技能でひっくり返した女の子の戦い振りに、目を奪われていた

そう、ティアナである。……戦闘機人3人を1人で相手にして勝つって、すごすぎでしょ。それも足を怪我している状態で


《ティアナさんが提出したデータを見るに、対峙した三人は決して能力が低いわけではありません。まぁ、戦闘経験は少ないようですが》

「だね」

「能力が高かろうと最後に勝敗を決めるのは経験だからな……その分ティアナが多かったということだろう」

《力があってもその状況で活かせなければ何の意味もないからな……》

「その通りだ」


確か……戦闘機人、というかナンバーズには、互いの戦闘経験を共有するっていう能力があったはず

よーするに、長女がガチで戦えば、その経験を妹全員に等しくデータとして与えられるというものだ

とは言え、それはあくまでもデータ。戦いなんて言うのはそれでなんとかなるほど甘くない

鉄火場に立って、どれだけ敵の弾や斬撃や砲撃を避けて、一撃を入れられたかで経験って言うのは自分のものになるのだ

このティアナとやりあった連中は、その辺りが足りなかったってことでしょ

で、肝心のティアナはというと……うーん、ポジションはセンターガードで、ガンナーなのか。射撃と……幻術っ!? また渋いもん使ってるなぁ

どういう方向性で育ててるんだろ? あとでなのはに聞いてみるか


「やっぱり、そういうの気になるの?」


そう聞いてきたのは、ロングアーチスタッフ。アルト・クラエッタさん

なんでも、シグナムさんとは昔からの知り合いで、それが縁で六課に参加。ヘリパイロットの資格も持っているそうだ


「そりゃあ気になりますよ。いずれ模擬戦なんかで戦う相手なんですから、入手できる情報は多い方がいいですし」

「そういうことなのっ!?」

《それもありますが、やはり特化能力だけならオーバーSを記録出来る戦闘機人を複数相手にして、勝てるほどの実力者ですから。興味は尽きません》


正直、これで興味を持つなというのが無理である。ちょっと腕に覚えがあって戦うのが大好きな魔導師なら、よだれをたらして戦いたがる

……シグナムさんとかね。


「うー、早く訓練再開されないかなぁ。スバルは昨日ので分かったけど、他の3人が気になるよ」

《スバルさんの実力を考えると、あれと同程度なのは間違いないでしょうが》

「なぎ君は戦うの好きだもんね」


ちょっと呆れ気味な顔をしているのは、同じくロングアーチスタッフのルキノさん

クロノさんが艦長を勤めていた次元航行艦・アースラに乗艦していたのが縁で、とても仲良くなった

……まぁ、ルキノさんが艦船マニアなので、話にすごい付き合わされたというだけなのだけど


「そうなの?」

「まぁ、嫌いじゃないですね」


命がけで戦ってるのは、楽しいし満たされる。これは、先生にも言われたことだし、とある魔導師仲間にも言われた。完全無欠のバトルマニアだと

もちろん、そうだからと言って事件が年がら年中起きて欲しいとは思わないけど


「どういう風に戦えば勝てるか、どういう立ち回り方があるかとか考えるの、すっごく楽しいんですよね」

「なんというか……、なのはさん達の知り合いとは思えない発言だよね」

「でも、自重はしてるんです。痛いのはやっぱ嫌いですし」


戦うのは好きだけど、痛いのは嫌いだ

自分が痛いって話じゃない。……リインやフェイト、はやてになのは達が痛いのが嫌なんだ

朝に話した怪我の時、みんなにしこたま怒られたからなぁ。あの時に、ようやく認識出来た。僕が傷つくことで、理屈抜きで心を痛める人が出来たんだってことに

まぁ、そいつがどうでもいいなら、そんなのは無視するんだけど……みんなは僕にとって、そんな軽い存在じゃなかった。だから、楽しい気持ちは二の次にしているわけである


「なるほどねぇ……」

「あー、でもティアナは興味あるなぁ。幻術どんな風に使うんだろ……」

「ね、アルトアイゼン」

《なんですかアルトさん》

「なぎ君の言う興味って……魔導師としてだけ?」

《残念ながら、それがマスタークオリティです。女の子としては持っていないでしょう》

《それはこちらのマスターにも言えることだな》

「悪かったな……」


なにやら分からないことを話しているパートナーは放置。しかし……あー、どんな感じなんだろー!!

ちなみに、こんな話をしながらも手の動きは止めていない。目で資料を追い、それを頭の中でまとめて、ブラインドタッチで報告書を纏めていく

魔導師にとって、これくらいのマルチタスクは出来て当然である……レイみたいに画面が次から次に変わるほど高速じゃないけどね、あれは異常だ


「……さて、もうお昼だね。なぎ君とレイ君、なのはさんのとこ行くんだよね?」

「うん」

「そうだったな」

そんなことをしている間にもお昼休みの時間

僕とレイは、朝食の時になのはから自分の部屋に来るようにお願いされたのだ

とにかく……


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「それじゃ、また」

「うん、いってらっしゃい〜」


そうして僕とアルト、レイとラミアは、隊員寮のなのはの部屋へと向かっていった

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「シャーリーさん」

「どうしたの、2人してニヤニヤして」

「なぎ君とレイ君がなのはさんの部屋に呼ばれたのって……アレですよね?」

「アレ……だろうね。あー、私も一緒に行こうかな? 2人の驚く顔が見てみたいよー!」

「2人とも、やっぱ驚きますよね」

「驚くだろうね。なんせ……アレだもん」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「失礼しまーす」

《お待たせしました》

「邪魔するぞ」

《失礼しちゃったりなんかしますわ》


挨拶して、部屋に入る。まぁ、知ってるとは言え女の子の部屋だしね。ラミアの挨拶はスルーしよう……レイもしてるし


「蒼凪、待っていたぞ」

「あら、いらっしゃい」


…………………………………………………………誰?

僕達を明るい笑顔で向かえてくれたのは、ザフィーラさんと、青い髪をショートカットにした落ち着きのある大人の女性。まぁ、好みかといわれれば好み

ただ、僕の知り合いにこういう人はいない。というか、なのはとフェイトの部屋のはずなのに、なんでこの人は我が物顔で掃除してる?


「蒼凪、レイ。この方は六課の隊員寮の寮母をしてくださっているアイナさんだ」

「寮母?」


………あぁ、僕は隊員寮使わないから気にしてなかったけど、当然そういうお仕事の方もいるのか


「えぇそうよ。恭文君とレイ君でいいかしら?」

「はい」

「ああ」

「私は、ザフィーラさんが紹介してくれたけど、寮母のアイナ・トライトンです。アイナって呼んでね。
まぁ、あなたは寮生活は送らないから、あまり接点はないでしょうけど」

「あ、いえいえ。アイナさん、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼む」

《マスターともどもよろしくお願いします》

《うちのマスターの事もよろしくお願いしちゃったりするです》


うむぅ、僕の周りには居ないタイプだ。みーんなタヌキっぽくなってきてるしなぁ。こう、大人の女性という感じがする


「なのはさん達なら、すぐに戻ってくるから少しだけ待ってて」

「あ、はい」

「わかった」


というわけで、ソファーに座ってザフィーラさんを撫でたり……してるんだけど……


あぁ、撫で心地がいい

だって、ふさふさしてるんだもん。もうだめ、我慢出来ない


「ザフィーラさん、抱きついていいですか?」

「……別に構わんが、お前、我が男だということを忘れていないか?」

「いや、分かってるんですけど……こう……もふもふしててふさふさしてるんでつい」

「本当に変わっていないな」

《それがマスタークオリティです》


うー、そうは言うけどさ。ザフィーラさんの触り心地は最高じゃないのさ〜。前に、枕にして寝たときなんてもう…幸せが…

そう口にしようと思ったその時だった。部屋のドアが開いた


「ごめん! 恭文君お待たせっ」

「ごめんね、ちょっとかかっちゃった」


なのはとフェイトが走り込んできた


「あぁ、大丈夫。ザフィーラさん撫でて時間潰してたから」

「俺もだ。アイナとも有意義な話が出来たからな」


そういえば、料理談義に盛り上がってたね


「そうなんだ、よかった」

「あの、アイナさん、ありがとうございました」

「いいのよ。恭文君とレイ君とも挨拶できたし、レイ君のおかげでレパートリーが増えたから」


まー、軽くですけどね

……さて、なのは


「なに?」

《わざわざここに呼び出した用件はなんですか?》

「……ひょっとして、ついに結婚?」


まぁ……アレだよ。なのは


「フェイトを嫁にしたいなら僕を倒してからにして。というか……なのは、さようなら。なのはのことは30秒くらいは忘れないよ」

「違うからぁぁぁぁっ!! 私の存在はそんなに軽いのっ!?」

「そうだよヤスフミ。私となのはは……そんな………」


……フェイトが顔を真っ赤にしてる。あぁ、この光景を右から左へ流してしまいたい。とにかく、結婚じゃないならなに?

まぁ、想像はつくけど

実は、部屋に入ってきたのは、なのはとフェイトだけじゃなかった。あと一人だけ居た


歳のころなら……6歳前後。栗色の髪に、翠色と朱色両方の色を持つオッドアイの瞳をした女の子

栗色の髪は腰まで伸びており、耳の上の両サイドにリボンを使っておさげを作っている

可愛らしく、見ているだけで穏やかで優しい気持ちになれるような女の子が、フェイト達と一緒に来たのだ

えっと……ひょっとして、この子は……

とりあえず、立ち上がってその子へと近づいていく

うーん、ちょっと人見知りする子なのかな? 警戒されてるように感じる

なので、その子の前までくるとしゃがみこみ、二コリと笑って見せた


「こんにちは」

「こんにちはっ!」


女の子は元気に挨拶を返してくれた。それを見て、僕はまたにこやかに笑う。いや、作り笑いとかじゃなくて……本当に楽しくなってきたからだ

この小さい女の子の笑顔は、大人の心を優しいものにしてくれる。『子は鎹』とは、そういう意味を含めた言葉かもしれない


「初めまして。僕は蒼凪恭文って言うんだ。で、こっちが……」


僕は、胸元にかけていた相棒を外して、宙に浮かせる

女の子は、興味津々な顔でそれを見る


《初めまして。私はアルトアイゼンと言います》

「あると……あいぜん?」

「うん、そうだよ。僕のパートナーデバイス」

《まぁ、一応そういうことになってます》


一応って言うなっ!


《仕方ないではありませんか。まだまだグランド・マスターの域には辿りつけませんし、彼女も出来ませんし、思考はおかしいし、へタレは直らないし……》

「誰がヘタレだよっ!」

《マスターです》


こ、こいつは……!


「ふぇ〜。お兄ちゃん、このデバイスさんたくさんおしゃべりするね」

「ん? ……あぁ、そうだね。アルトはすっごくおしゃべりなんだ」

《マスターがへタレだと、嫌でもこうなるんです。現に、高町教導官のレイジングハートや、フェイトさんのバルディッシュさんはこうではないでしょ?》

「まだ言うか」


僕がなのはとフェイトに話しかけようとすると……


「恭文……そろそろ俺にも自己紹介させろよ」


今の今まで忘れていたレイのことを思い出した……あははは、ごめん


「やれやれ……さて、初めまして。俺はレイ・カストールって言うんだ。そして、こいつが俺のパートナーデバイスの」

《ラミアと申しちゃったりしないかもですわ》

「レイお兄ちゃん? この子言葉が変だよ?」


なんか、女の子のレイの名前を聞いて何かに思い至ったみたいになったけど……なんでだろ?
その前にラミアの口調が気になったみたい


「こいつの言葉が変なのは……敬語というか丁寧語限定なんだ。そこは癖とでも思っていてくれ」

《そうですわ。だから気にしないで欲しゅうございますの》

「うん、わかった!」


にぱーと笑う女の子にレイの笑みも深くなる。レイも僕と同じ気持ちらしい、さて……


「ところでなのは、フェイト」

「なに?」


いや、こんな会話をしつつずっと気になってたんだけどさ


「……この子、どなた?」

《何を言ってるんですかマスター。高町教導官とフェイトさんのお子さんに決まっているじゃないですか》



「……あぁ、なるほどね。そういうことか。納得納得」


できるかぼけっ! どうしてそうなるっ!? つーか、この子の年齢を考えろ。僕知り合っているはずだよ? 二人のお腹が大きくなったところなんて見たことないわっ!


《もちろん冗談です。さすがにそんなわけは……》

「すごい、よくわかったねっ!」


……………………………………………………………………………………………え?

なのはとフェイトが……レイも、やたら感心した顔で僕とアルトを見る。いやいや。いやいやそんなわけが……てかなんでレイもその中に混じってるわけ!?

ま、まぁこれで、2人のことをママとか呼んだら信じなくちゃいけないけど。そうじゃないのに僕とアルトは信じませんよ


「なのはママ、フェイトママ、このお兄ちゃん達とデバイスさん達がもしかして……」

「そうだよ。恭文君はさっきお話した、なのはママのお友達で、フェイトママの家族なんだよ。レイ君も前から話してたと思うけど、なのはママの友達だよ。さ、挨拶してみようか」


……………………………………………………………………………………え?

まてまて、今なんて言ったっ!? フェイト……『ママ』に、なのは……『ママ』っ!?

いやいやいやいや、まてまてまてまてっ!!

おちつけ……。落ち着いていこうぜ僕。そしてアルトっ!


《残念ながら、今回ばかりは私もKOOLです 思わずラップを歌ってしまいそうです》


あぁ、僕と同じだね。あのキャラソン面白いし

いや、そうじゃないから。……落ち着こうぜ。COOLでいこうさ僕!

まぁ……これくらいは普通じゃない? いくらママと呼んだとしても、本当にそうかどうかなんて分からないわけだし

まぁ、この子が高町かテスタロッサかハラウオン性を名乗ったら、信じなくちゃいけないだろうけど


「うん! 初めまして、高町ヴィヴィオです」


…………………………なぁぁぁぁぁぁぁぁのぉぉぉぉぉぉぉぉぉはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!


「や、恭文君っ!? どうしたの……なんでそんな怖い顔で笑うのっ!?」

「……どういうことかな?」

「どういうことって……」

「どうして、この子はフェイトやなのはのことをママって呼ぶのかな? そして……なんで高町性を名乗ったのかな……?
この腐れ魔王が。フェイトに………フェイトに一体何をしたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「あの……それは…それはね……。お願いだから落ち着いてっ! アルトアイゼンをセットアップしようとしないでぇぇぇぇぇっ!! レイ君も、お願い笑ってないで助けてよぉぉぉぉぉっ!!」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

くっくっくっく……あ〜、笑った。恭文がこれほど取り乱すとはな……養子って考えにはいかないのか?
まぁ、フェイト絡みだしな……仕方ないとしても、これは……
まぁ、なんだ。あれから俺となのはの2人がかりで恭文を落ち着かせた。フェイトはって?
逆効果だったから数えてない

なんとか、JS事件中になのはから貰った相談のメールを見せたり、あたふたするフェイトにちゃんと事情を説明させたりして、やっと落ち着いてくれた

恭文からは知ってたなら教えてくれたっていいじゃないかと言われたが……聞かれなかったんだからしょうがない
恭文だって聞かれなきゃ何も答えないだろうし、お互い様だ

ただ、ちょい気になる事が……ヴィヴィオから『なのはママのことよろしくお願いします』って言われたんだが……なぜ、俺に限定してなんだ?
恭文はその時、なのはとフェイトの2人と話していて該当していないだろうし……うぅむ、わからん

まぁ、仕事についてだと思ったから、笑顔で了承したんだが……間違ってないよな? 後から考えると何か自信がない……

今、なのはとフェイトは恭文に詳しく事情説明に忙しそうだし、終わるまでヴィヴィオと話しているか……

俺も聞かなくていいのかって?
なのはからメールで相談されてたから、ある程度の事情は既に知ってるからな

しかし、ザフィーラの手触り……恭文じゃなくても癒されるなぁ〜

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

僕とアルトは、あの衝撃に満ち溢れたお昼休みを終えて、そこから本日の仕事を無事に終了。今は、六課隊舎の談話室でくつろいでいる所だった

そうして思い出すのは……あの衝撃の時間

いきなりかまされたダイレクトパンチはなかなかに強烈だったもの

なんてったって、フェイトはともかく、あの高町なのはをママと呼ぶ少女がいきなり現れたのだから

『マ』王や悪『マ』なら知ってるんだけど、『マ』『マ』で続けてくるとは………。しかもカタカナ。決して『魔魔』ではない。もちろん『魔々』でもない

いやぁ、『事実は小説より奇なり』とはよく言ったもんだよ、ウン

みんなになだめられて、なんとか落ち着いた僕は、その場で少女……じゃなかった、ヴィヴィオが何者であるかの説明を受けた……ってなんでレイは知ってるのさ?
事前に教えてもらえればここまで驚かなかったのに……というか、レイが知ってることフェイトも知らなかったみたい

とにかく……ヴィヴィオは、もともと自分たちが保護していた少女で、なのはが保護責任者。フェイトが後見人になっており、それで自分達のことをママと呼んでいるのだと説明された。レイもなのはからのメールの内容を見せてまで説明に加わっていたなぁ……やっぱり僕とアルトだけ知らなかったのはなんか悔しい

そしてその後、みんなで隊舎に戻って、お互いの仕事を再開したのだ

アルト、なのはがなんか必死だったけどどうして? すごい勢いで捲くし立てられたよ?

『絶対に変な誤解しないでね。お願いね。フェイトちゃんは後見人をしてくれているだけなんだよっ!?』って、しつこいくらいに念押しされたし


《気のせいですよ。高町教導官はいつもいつでも本気で生きているコイツ達みたいだからそう思えるんです》

「そっか。それなら納得だ」

《自覚、ないんですね》

「なんか言った?」

《いえ、別に》


そうして、さらに詳しいことも説明された……もちろん、僕とアルトにだけ。レイはその事も知ってたみたいでヴィヴィオとザフィーラさんと話してた


「……なるほどね。養子にしようとしているわけですか」

「うん。ヴィヴィオと約束したんだ。『私はヴィヴィオのほんとのママじゃないけど、ほんとのママになれるように努力する』って」

「そっか。ねぇ、なのは」

「なにかな?」

「色々と大変だったんでしょ?
だったら、ヴィヴィオとの約束をちゃんと守れるようにがんばらないとね。ま、出来る事があったら手伝うよ。もちろん有料で」

「ありがとうね。……って、有料っ!?」

「当然だよ。僕に対して依頼するなら、美味しいケーキくらいは奢ってもらわないとね」

「……そっか。うん、そうだね。だったら、とびっきり美味しいケーキをご馳走するから、なにかあった時には、助けてね」

「りょーかい」

「約束したからね? 破ったら許さないから」


そう言って、なのはは満面の笑みを浮かべてた

その時のなのはは、すっごく嬉しそう……とは違う、なんかいつものなのはとは違う感じがしたのだった

そりゃ色々とあるよなぁ。だって、なのはは未婚&未成年。それに輪をかけて、あの女は一回墜ちて大怪我してるわけだし

……それで子どもを一人引き取ろうっていうのは並大抵の決意じゃない

それをやってのけようとするだから、やっぱり高町なのはという女はすごいよ。ウン。絶対に口に出しては誉めてやらないけど


《でも、ヴィヴィオさんもとてもいい方でしたね》

「そうだね。素直そうで可愛くて、あーでもなんとなく強情そうな感じは受けたかな」

《それは仕方ないでしょう。なにしろ、あの高町教導官の娘さんなのですから》


その後、改めて僕とヴィヴィオは自己紹介をして、友達になった。それがどんな具合だったかと言うと……


「……恭文さん、レイさん、これからよろしくおねがいします」

「うん、よろしくねヴィヴィオ。あー、でも僕のことは呼び捨てでいいよ? 敬語も無し」

「俺も呼び捨てでいいぞ。敬語も無くていい」

「え? でも………」

「僕が年上とか、そういうのは気にしないで欲しいな。僕もアルトも、ヴィヴィオと友だちになりたいしさ。ね、アルト」

《そうですね、私もヴィヴィオさんと友達になりたいです。なので、気軽に呼んでください》

「俺も同じくだな。これから仲良くするなら、まず形からとも言うし……それに俺もヴィヴィオと友達になりたいしな」

《私もだ。中尉や恭文殿もこう言っているのだし、気軽に呼んでくれないか?》

「……なのはママ」

「うん、大丈夫だよヴィヴィオ。恭文君とレイ君のお願い、聞いてあげて欲しいな」

「……わかった。これからよろしくね恭文! レイ! アルトアイゼンとラミアもよろしくね!!」

「こちらこそよろしくねヴィヴィオ」

「よろしく」

《よろしくおねがいしますヴィヴィオさん》

《よろしくお願い致しますわヴィヴィオ殿》


以上、回想パート2お終い

しっかし、こうやって色々と振り返るとホントに色んな事があったよね。なんかちかれた……


《確かに、濃い二日目ではありましたね。でも、明日からも六課での日々は続きます。しっかり休んで、明日からも頑張りましょう》

「へいほーい、頑張るとしましょー。……アルト、その返し、明日も続けるつもり?」

《まぁ、私が飽きるまでは》


いつ飽きるのかトトカルチョしても面白いねぇ。まぁ、やる相手居ないけど……
ちなみにレイは談話室に来る前に……


「これからなのはと話すんだろ?」

「うん、そうだよ。レイも一緒に話す?」

「いや、俺はメールとかで色々話してるし、六課に居る間に話せる機会もまた持てるだろ。今回は遠慮しとく。
気兼ねなく話せるように、買い出しは済ませとくから安心しとけ、じゃ先帰るわ」


と言って自転車に乗り帰っていった。ちょっと心配だったから助かる

そんなことを考えていると……談話室のドアが開いた。そう、白いあのお方の再登場である


「ゴメンね二人とも、お待たせっ!!」

「なのは、デートに遅刻するのはマナー違反って知ってる?」

《全くです》

「デートじゃないよねこれっ!!」

「当然でしょ。つか、誘うならもうちょっと気の効いたとこ誘うし」

《全くです》

「……本当に相変わらずだよね。恭文君もアルトアイゼンも」


なのは、誉めるならもっとちゃんと誉めて欲しいよ。とりあえず、頭を抱えるのはやめて


「誉めてないから。……と言いますか、大事な話ってなに?」

「そうなんだよ。実はすっごく大事な話があってね」


そう、別にただくつろぐためにここに居たわけじゃない

……高町なのはにちょっとしたヤボ用があったのだ


「なのは、正直に答えて。今の身体の調子はどんな感じなの」

「え?」

「だーかーらっ! 僕とレイがここに来た理由、分かってるでしょ?」


そう、僕とレイがここに来たのは、目の前に居るバカが無茶やらかしてくれたおかげだ


「バカってひどいよっ!」

「ほう、じゃあバカと言われないようにしっかり配慮した上で無茶したのかな?」

「……ごめんなさい。配慮しませんでした。かなり無茶苦茶しました。謝るからそんな怖い目で私を見ないでください……うぅ」


まったく、最初から素直になればいいのである。ツインテールじゃないんだから、下手な反撃などしないでほしい

そこに萌えはないのだからっ!


「恭文君、久々なのに随分とひどいね……」

「嫌だなぁなのは。これが僕の愛なんだよ愛」

「もうちょっと優しいのが欲しいよ」

「ユーノ先生から貰えばいいじゃないのさ」


僕が今言ったユーノ先生というのは、現在、本局にある『無限書庫』という半端じゃなくデカイデータベースの司書長と、考古学者という二束のわらじを履いている人だ

ただ、司書としての仕事も、考古学者としての仕事も、どちらも局や外の評価は極めて高い、とても優秀な人なのだ

本人は、どっかの砲撃バカと違って控えめで温和な性格で、僕もその人柄に惹かれて、師匠と先生以外で尊敬し、『先生』と呼んでいる

つまり……教えを請うに相応しい人物として認識しているのだ


「そんなのダメだよ。ユーノ君は友達なんだし」


……補足事項を一つ。ユーノ先生は、高町なのはの事が好きです。ただし……

なのは本人は気付いていない。空気化というか、仲のいい友達としてしか認識していないのだ


「うん……そうだね。ごめん、忘れていたよ。ユーノさんだって年頃だし、他に相手居るかもしれないもんね」

「そうだよ。なんか最近他の司書の人と良い雰囲気だって噂を聞いたよ」


え、ちょっと待って。僕それは初耳なんだけど……まぁ、それは後でユーノ先生に訊くとして


「ユーノ先生の噂のことより、自分の身体のこと心配しなよ。で、どうなの?」

「あぁ、それならもう大丈夫だよ。うん、元気元気!」


そう言って、なのははガッツポーズなど笑顔でかます。……そうか、そうなんだ。それはよかった


「それならなのは、今から出す選択肢のうちどれか一つを選んで。
通常モードで斬られるか、僕の拳でどつかれるか。見よう見真似のサブミッションをかけられるか。さ、どれか一つだけ選んで」

「なんでいきなりそんな話にっ!?」

「当たり前じゃボケっ! 大丈夫の一言で済んだら、僕とレイがここに居るわけないし、そもそもリンディさんやはやてから出向の話なんで出るわけがないでしょうがっ!!
もし本当にそうなら今すぐトンズラこいてエーゲ海でバカンスかましたいんだよこっちはっ!!」


そんな対外的なこと聞くために、スーパーのタイムセールをレイに任せてまでここに居るわけじゃない。ちゃんとしておかなきゃ意味ないのよ

僕とレイが、これ以上なのはや師匠に無茶させないために居るってこと、忘れないでほしい


「……うん、そうだね。ごめん」

「謝らなくていいから選んで。……あぁ、なるほど。『アレ』で吹っ飛ばされるのがお好みなのかな?」

「『アレ』は本当にシャレが効かないからやめてっ! 正直に答えますからそれだけはやめてください……」


……まったく、最初から素直になっていれば、命だけは助けてやったものを


「どっちにしろ死亡確定っ!?」

「いいじゃん、人間いつかは死ぬ。これは真理なんだから」

「そんなもっともらしい事言ってもなにも変わらないからっ!!」


………こんな漫才をしつつもなのははちゃんと話してくれた

いかに自分が愚かでどうしようもなくダメな存在かという懺悔を


「そんなこと言ってない!」

「ブラスターシステムやら使って無茶しまくった人間に反論の余地はない。それもリミット3まで開放して長時間発動? ばっかじゃないのっ!?」

「う……」

《しかも、話を聞く限り相当無茶な使い方をしていますし。まぁ、あの後、ヴィータ師匠やシャーリーさん達から詳しい話を聞いたので、事情もある程度は把握しました。
ですが……自殺行為もいい所でしょう》

「……レイ君も聞いてた?」

「そりゃそうでしょ。レイも僕と同じ理由で出向してきたんだから。まぁ、その場に居なかった僕が言えた義理じゃないけど、そういう無茶は本当に自重して。
なのはがよくても、フェイトや師匠。はやて達が平気じゃないんだから」

「……はい」


本当にそうして欲しい。まぁ、止めてもまたやるべき時になったらやっちゃうんだろうけどさ

それでも……


「レイはともかく、僕が来た以上、そんなバカな真似したらどんな状況でも後ろからぶった斬って退場してもらうから」

「えぇぇぇっっ!?」

《当然です。……あなた、私とマスターの友達となった彼女を泣かせるつもりですか?》

「そんなことしないよっ!」

「なら、一人で突っ走らないで、もっと周りの人間を頼りなよ。
またいつぞやみたいに落ちるつもりがないなら余計に。アレだって、話に聞く限り今と状況似たり寄ったりでしょうが」

「恭文君……」

《マスター、そんな事を言っても仕方ないでしょう。怪我した以上、後の祭りなんですから》

「あぅ……」


はっきり言って、僕はいい。戦いの中で傷付くのは、ある意味じゃ当たり前の事なんだから

その場に居なかった戦いの傷について、あーだこーだは言いたくない

でも、フェイトやら師匠達が本気で心配していて、辛い顔を浮かべているのは、見てて気分がよろしくない

それだけじゃなく、アルトが言った通りに、あの可愛らしい女の子が泣くのはアウト。あんな事情があるなら余計にだ

……これは、ここに来るまでの間に、たまたまロングアーチのオフィスに来ていた師匠、それにシャーリーやアルトさん達からも詳しく聞いたこと。というか……確認?

なのはがこれだけの無茶をしたのは、ヴィヴィオを助けるためだったそうだ

六課隊舎が陥落したとき、保護されていたヴィヴィオは、スカリエッティにさらわれた

さらった理由は、ヴィヴィオが人造魔導師素体。ようするに、クローニング技術の応用で、人工的に生み出された存在だから

それも、元になった遺伝子は……300年前の古代ベルカの時代の人間

しかも、ヴィヴィオはその時代に存在していた、何かしらの固有スキルまで保持しているそうだ

それを狙って、ヴィヴィオをあの変態ドクター(友達談)がさらった

で、その時には母親としての情に目覚めていたなのはは、助け出すために無茶をして……ということだそうだ

レイもその話を僕と一緒に聞いていたのだが、すでに知っている事実を再確認しているような感じだったけど……

レイのことは置いといて、今のヴィヴィオにとって世界の大半は、なのはで出来ている。なのはが傷付くっていうのは、あの子の世界そのものが傷付くのと同意義だと思う

そういうわけだから……


「僕の平穏とフェイト達の笑顔、それになにより、ヴィヴィオとの約束を本気で守りたいと思うなら無茶は控えて。
まぁ、言った以上は僕もアルトも、なにかあったら必ず助けるし、守るから。これは六課に居る間だけじゃない。解散した後もだよ。……OK?」

「……わかった」

《なら、問題ありません》

「……恭文君、アルトアイゼン。来てくれてありがとう。正直、心強い」


そんなこと言うなんて……バカじゃないの


「当然でしょうが。友達なんだからね」

「うん!」


そうして、なのはとの緊急対談は終了した。ま、元気そうでちと安心したわ。そうでなくちゃいぢめ甲斐がないし

なにより、まだじーさんばーさんでもないのに、知り合いの葬式に出席なんてごめんだ

そのあと、僕は家に帰宅すると……レイが美味しい夕飯を用意して出迎えてくれた。うん、帰り際にスーパー覗いてみたけど食料品は全滅していたからレイに任せてホントによかったよ

でも、レイが少し疲れているように見えたけど……なんでだろう?


(第五話に続く)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

おまけ:恭文となのはが談話室で話している頃のレイ


『え〜、ただいまからお肉のとくばいを開始いたします。お買い求めのお客様、数に限りがございますので、購入されるのであればお急ぎください』


俺はタイムセール真っ最中のスーパーの中にいる。そして今、強者達がひしめく精肉売場前に立っている


「さて、今日は肉料理だ。気合い入れていきますか!」


そして、俺は戦場(精肉売場)に突っ込んだ


「がっ!? ぐっ!? ごふっ……」


肘が……おばちゃん達の肘が……背が低いせいか、おばちゃん達の肘が俺を襲う。……くそぅ、まだシグナムとの模擬戦の方が楽だぞ、これは……

俺は負けじと手を伸ばすのだが、そのことごとくがおばちゃん達に先に取られてしまう……うぅ。

疲れて帰ってくる恭文のためにも……!!

簡易に魔力で身体強化して…………捕ったっ!!って


「ぐほぉっ!?」


肉を掴んだ……まではよかった。でも、なんで吹っ飛ばされるのかな、俺が!?

まぁ、いい。肉は確保した。あの一瞬で3パック取れただけよしとしよう

次は野菜だ。今日の晩飯と朝飯の為に……敗けるわけにはいかない!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

あとがき

レイ「うぅ……どこの世界でもおばちゃんパワーには勝てない。というか身体強化して挑んだのに逆に返り討ちって……」

ラミア《お疲れ様だ、マスター。身体的に軽いのだから吹っ飛ばされても仕方ないと思うが……というかマスターのどこが最強だ?》

レイ「それを言うな。ルミナの中ではタイムセールのおばちゃん達の強さは無敵という観念があるんだ。最強でも無敵には敵わないって」

ラミア《それはいい。とにかく、2日目は無事終了したな。次は思いっきり飛ばすのだろう?》

レイ「そうだな。俺もシャマルからドクターストップかけられてるし、模擬戦するならまだしも、出来ないからな。書類整理と作成しか仕事ないし、書いてもなぁ」

ラミア《そうだな。次は本家と同じように休日についての話だったな》

レイ「ああ。と言っても恭文の家でゴロゴロしてるだけだろうがな……」

ラミア《それでは面白くないだろう、マスター。ここは、主人公の一人として何か重い過去の暴露か事件に巻き込まれろ》

レイ「いや、重い過去って……それに事件に巻き込まれたら休みじゃないだろうに。無限書庫に行くか?」

ラミア《ユーノ殿の手伝いか? 既に二番煎じなのだから、被り過ぎもよくないと思うが?》

レイ「そうは言っても、やることあまりないしなぁ……それに伏線を回収するって感じでいいんじゃないか? 一応それらしいのあったろ?」

ラミア《確かに、違う部分があるなら大丈夫……か。その前に宴会だったな》

レイ「恭文の悲しい歴史があきらかになった宴会な……」

ラミア《そ、そうだな……》

レイ「あの話聞いたとき、マジで泣いたね。俺についての裏設定も明らかになると予告しておこう」

ラミア《それでは、今回のあとがきはここまで。あまり今回出番が無いなと思っているラミアと……》

レイ「特売時のおばちゃん達は強すぎると声を大にして言いたいレイでした!」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

最後に能力解説

登録名:『想像具現化』

正式名:『想具』

能力:一度でも視たモノを魔力を使い完全再現する。ただし、再現したモノの大きさは好きに決めれる

消費魔力も大したことがなく、ロストロギアと呼ばれる代物でも極少量の魔力だけで完全に再現が可能

ただし、再現する事で能力者に害を与えるモノの場合は何の反応も示さない

備考:レアスキルとしては、初めて発見されたモノで今のところ無限書庫にもデータが存在せず、使い手はレイだけ。


登録名&正式名:『言語の統制』

能力:すべての言葉、文字を日本語に変換する

そして、能力者が話す日本語を他者に理解できる言葉に変換する能力

ただし、日本語に変換される前の文字を書くことが出来ない弊害が伴う

備考:レアスキルとしては最低ランクの希少価値しかない能力





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