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頂き物の小説
第一話『始まりはいつも突然であり、放っておけないのもいつもの事』



―これから始まる物語は、古き鉄を受け継ぐ少年が…―

―他人と心を通わせ、時には喧嘩し、それでも楽しく過ごすお話―

―そこに気紛れを起こし、自ら巻き込まれた少年が干渉することにより…多少変化した物語―

―そして物語は、古き鉄を受け継ぐ少年が書類の海で溺死しかけている所から始まる―

「はあぁ、なんで片付けた傍から追加されてくのよ…」

《マスター、口を動かす暇があるなら手を動かして下さい。私も手伝っているんですから早く終わらせますよ》

「でも、この量はありえないって…猫の手も借りたいってこういう時に使うんだろうね」

《そんな都合よく手伝ってくれる人が来るはずないでしょう? ほらほら、後がつかえてるんですから》

「うぅ…行くって言わなければよかった。そうすればもう少しゆっくり片付けられたのに…」

《仕方がないですよ、マスター。それにあなたは行くと言ったのでしょう? なら、この書類の海をさっさと片付けて電○見に行きましょう》

「そうだね…これを早く終わらせれば見に行けるかもしれないもんね!」

ミッドチルダにある自宅で、書類の海の中で希望を胸に頑張っているのは僕…蒼凪 恭文(あおなぎ やすふみ)は、相棒のデバイスであるアルトアイゼン―僕はアルトって呼んでる―に叱咤されながらいっこうに減らない書類を片付けていく

…でも、『さらば電○』を見るために頑張らなきゃね。ヒロさんもサリさんも一緒に行こうって言って待っていてくれるし。
でも、せめてこの書類の量をどうにかしたい…自業自得と言われたらそれまでだけど、全然減らないなんておかしいからっ!? これだけでも軽く死ねるよっ!!

そんな時、突然呼鈴が鳴った

「誰だろ…」

《そうですね。フェイトさんやなのはさんは来られるはずがありませんし、リンディさんには昨日会ったばかりですから来るはずないですよね?》

「まぁ、出てみればわかるでしょ」

僕は外を確認するためにモニターを見ると、懐かしい顔が映っていた

「珍しいな…うちに来るなんて」

《開くの待っているようですし、とにかく出ましょう》

「そうだね」

僕はすぐに玄関に向かい扉を開けると、訪ねてきた相手は笑顔を浮かべて、素敵なお言葉を仰有っていただきました

「手伝いに来てやったぞ、恭文。それとケーキ作ってきたから一緒に食べよ」

…その言葉を聞いて僕は

「え、ちょっと…なんで泣く!? えっと、俺って変なこと言ったか?」

涙が溢れてしまった。だって、だって…まさか手伝いに来てくれるなんて思わないじゃない?
今目の前にいる彼は三年前になんやかんやあって知り合った友達…確か、どこかの管理世界で行方不明者の捜索の助っ人として雇われたってメールで言ってたけど…解決したのか?

「その仕事ならなんとか片付けたよ。…それで帰って来てみれば、恭文が書類に溺れてるって聞いて、心配でさ」

その気遣いが嬉しすぎる…。うぅ、かなり助かるよ…

《まぁ、立ち話もなんですし…上がってください》

「じゃあ、お邪魔します」

中に招いたあと、僕は紅茶を用意して、彼が持ってきてくれたケーキを皿に移した

「相変わらずきれいに作るよね」

「恭文が淹れてくれた紅茶も相変わらず美味しいよ」

お互いに褒めあったあと、僕は目の前の…ブルーベリーのミルフィーユを小さく切り分けて口に運んだ。彼も、同じように食べる

「……はふぅ、美味しい。癒されるわぁ♪」

「それは何より。作ってきた甲斐があるよ」

短い時間、紅茶とケーキを堪能したあと…仕事を手伝ってもらいました

いや、驚いたね。僕のサインが必要じゃない書類を次々に終わらせてくんだもん。僕が直接処理しなくちゃいけない書類はきちんと仕分けされてるし…

大助かりだよ。ただ、単色のつや消しな眼で作業しないで欲しい…集中してるからだって分かってても怖いのよ

作業をあらかた終わらせた時には、すでに陽も落ちて夜…

夕食まで作ってくれてる…僕は出来上がるまでに少しでも書類を無くそうと頑張ってる

う〜ん、良い匂いがしてきたからもうすぐできるかな?
楽しみだなぁ♪

《いや、どこの夫婦ですか? 彼、男ですよ? いくら外見が女の子にしか見えないからって、マスターと同性ですよ? まさか、フェイトさんにスルーされ続けて自暴自棄にでもなりましたか?》

……いや、さすがに男と恋愛なんて考えたことないよ。

それそのものを否定する気はないけど、僕には無理
それに、僕はフェイトと恋人になるの諦める気はさらさらないしね

書類を処理し続けている僕を呼ぶ声に気付き振り向くとテーブルの上に、出来上がった料理が置かれていた

「恭文、もう出来たから食べようぜ。出来立ての方が美味いんだから」

「わかった…で、なに作ったの?」

「ペペロンチーノに鮭のムニエル…それと海老ドリアだ」

「うん、どれも美味しそうだね」

「そうだろ? さ、冷めないうちに食って、それから少し寛いでから仕事を再開しような」

ここまで手伝ってくれたんだ、さっさと終わらせないとね

でも、まずはこの美味しそうな料理を堪能しますか

―そう…今から考えるとこれが切っ掛けだったんだろう―

―俺が恭文と共に機動六課へ配属されたのは、そして…俺の秘密を…過去を話せる存在を恭文以外に得ることができたのは―

―恭文といると予想外なことが起こってくれるよ…ほんと―

―それが楽しくもあり、大変なんだがな。これからはほんとに楽しくなる…だって大切な人もできたんだから―

―俺と彼女が共に手を取り合えた切っ掛けを与えてくれた恭文にはいつか、礼がしたいな―


魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝

とある魔導師と機動六課の日常〜異邦人と古き鉄〜

第一話『始まりはいつも突然であり、放っておけないのもいつもの事』

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

―二週間後―

なんとか、遅刻せずに到着できてよかった

しかし、綺麗なところだ。JS事件の時にボロボロに壊れたとは思えないほどだ

「なにそこでほさっと立ってるのさ。早くしないと遅れるよ?」

《そうですね。あと10分で始まりますし…5分前には到着していなければ》

…とまぁ、そんな事を言いながら目の前を歩くのは蒼凪恭文と、その相棒であるアルトアイゼンだ

今、俺達は六課に続く道を歩いている。しかし、書類の片付けを手伝いに行ったときはまさか、俺も六課に出向することになるとは思わなかったな

まぁ、それはいいんだ…なんで次から次へと書類が追加されてくんだ?
思い出すだけで頭が痛くなる…

「さて、恭文が一緒なんだ…何も起こらないってことはないだろ、楽しみだ」

「レイ、なに立ち止まってるんだ? 置いてくよ」

「すまん、すまん…置いてくのはやめてくれ」

俺と恭文は並んで『機動六課』に足を踏み入れた

そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前はレイ・カストール。恭文と同じくフリーの嘱託魔導師で、ランクは空戦B+。歳は…様々な事情で言えないが、恭文より歳上だと言っておこう

…ん?
恭文は幾つかって?
恭文は17だよ。見えないって言ってやるなよ?

結構身長とか体型のこと気にしてるんだから。まあ、俺も気にしてないって言えば嘘になるけど…恭文ほど気にしてないけどな

身長も込みで俺は俺って考えがあるからね。ちなみに恭文より俺の方が6cm低い

彼女は恭文共々、まだ居ない。恭文と知り合った時のことは、今はいいか…

詳しく話そうものなら一日消費しちゃうよ

まあ、衝撃的な出会いだったと言っておくよ。それから色々とあって、趣味とかでも意気投合したりして仲良くやってるよ

さてっと、説明とかしてる間に俺達の出番になったからここまで

さあ、行こうか…恭文

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「さて、湿っぽいのはここまでにしましょう。…実は、今日から私たちの新しい仲間として、一緒に仕事をしてくれる方がおります。では、こちらに」

先程まで挨拶をしていた八神部隊長の言葉で、心地よい緊張感の中…俺は、って恭文…そんなに急いだら…

あ、こけた。俺はどう反応したらいいんだ?
痛い沈黙が漂うが、恭文はなんとか起き上がって挨拶しようとする

うわぁ、恥ずかしさで焦ってるよ。そんなに早足だと…

ドーンッ!!

心配した通り、前に行き過ぎて壇上から落ちた。それはものの見事に…

この後に、自己紹介なんてかなり辛いぞ?

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ふぅ、なんとか自己紹介を終え、さらに朝礼も終わってくれた
まだ、空気がなんとも言えないのが漂ってはいるが…

で、その空気を作った本人は…逃げてないか、恭文?

まぁ、俺が止めなくていいだろ。何故かって?
ピンクの魔神が居るからだよ、ほら…

「……どこへ行くつもりだ。蒼凪」

恭文に声をかけたのは、ピンクの髪をポニーテールにした凛々しい女性

彼女の名はシグナム。機動六課ライトニング分隊副隊長だ

「いや、その……ちょっとトイレに」

「……ここにもトイレはあるぞ?」

「嫌だなぁシグナムさん、まるで僕が逃げようとしてるみたいな言い方しないでくださいよ」

ちなみに恭文とは知り合いだ。俺か?
俺は彼女とは初対面さ…なぜ彼女の事を知ってるかは…禁則事項さ♪

それはさておき、恭文や…俺にはその後に続く言葉が何か予想がつくぞ

「残念ながら、君の行動は予測済みですよ」

「そうそう。きっとなぎ君のことだから…」

「『自宅のですが』……とか、考えてたでしょ?」

うん、俺が想像したのと一緒だな。まあ、図星でもこれで諦める恭文じゃないよな…

「…とにかく、帰ることは許さん」

「いや、だから僕はただトイレに行きたいだけで」

「グリフィス、シャーリー、ルキノ。すまないが蒼凪を部隊長室まで連行してくれ」

『はいっ!!』

「無視ってわりとヒドくないですかっ!? そして連行ってなんですかっ!?」

「シャーリー、ルキノ」

かなりの早業で、恭文は女性二人に腕を組まれて捕獲されていた。…連行される宇宙人を連想しちまった…

恭文に話したらキレるのは容易に想像できるな

「…これで大丈夫かと思われます」

「上出来だ。蒼凪、両手に華で楽しいだろう。そのまま部隊長室に挨拶してこい」

「え? ……あの、二人ともそんなにガンガン進まないでっ! お願いだから助けてー!」

逃がさないようにガッチリ組んでるなぁ

帰る素振りを見せた恭文が悪いということで助けないが

買収しようとしてるが、それで悩むって…

俺が恭文とシャーリーのやり取りに呆れていると、グリフィスと呼ばれた男性が近づいてきた

「カストールさん、あなたも一緒に来てもらえますか? 八神部隊長がお呼びなので」

やっぱり、俺もか。さっきのだと真面目そうに見えたが、実際はどんな性格なのか…

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

さて、連行されていく恭文の後に続いていき、八神部隊長の目の前にいるわけだが

「いやぁ、いきなりやらかしてくれたなぁ〜。やっぱ恭文に来てもらって正解やったわ。これから楽しくなりそうやなぁ」

…早速そのネタで弄るか。あ、恭文が悶えてる

なんか目を瞑りだした…現実逃避でもしだしたか?

「でも、それはただの現実逃避や」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

部隊長室に恭文の悲痛な叫びが木霊した

…無理もない。衆人環視の中であのドジは痛々し過ぎる

「すみません部隊長。今日はこのまま帰って自宅警備員のバイトに勤しみたいんですがよろしいでしょうか?」

その気持ちはわかる。あんなドジを盛大にやらかせば、俺も半年は自宅に引きこもりたくなる
「あかんで♪」

「大丈夫ですよ。ほんの半年ほど行ってくるだけですから、マグロ漁船よりは短期間ですよ。うぅ…」

「あぁもう、別に泣くことないやろ? うちは面白かったし、大丈夫や。あれで自分は愛すべきキャラとして認識されたはずや」

「…そう思うなら、お願い。僕と目を合わせて。なんで微妙に合わないの? 僕の髪とか耳とか見てるよね」

目の前で繰り広げられる八神部隊長と恭文のやり取りを、俺は眺めている。なんか、存在を忘れられているようだが、それはそれだ。芸人が漫才してるみたいに思えるから飽きない

「相変わらずわがままやなぁ。そんなんやと彼女できへんで?」

「いや、別に欲しくないし」

「嘘つき。フェイトちゃんにゾッコンLOVEやんか」

そうなんだよな。恭文はあの有名なフェイト執務官に片想いしている…8年間ずっと

いや、正直アルトアイゼンに話を聞くまで信じられなかったんだよな。だって、8年だぞ?

それぐらい長ければ結果が出てもおかしくないのに、気付いてすらもらえないで経過したなんて聞いたら……うん、あまりに不憫すぎて泣いたね、俺が

しかし、その言い回しは女性としてどうかと思うぞ、俺は。スルーするのが優しさだよな

「待て待て19歳っ! 絶対年齢詐称してるでしょっ!? いつの時代の言い回しだよそれっ!! なんで平成じゃなくて昭和の匂いがするのっ!? おかしいでしょうがっ!!」

「そないなこと気にしたらあかんよ。つか、それを抜いても前にうちが遊びに行った時に、あんな所にあんな本が…」

お、恭文の表情が変わった。というか引き攣った
よほど嫌な出来事があったと見る

「マッテ。その話はやめにしませんか?」

「えぇやんか。恭文かて男の子なわけやし、うちは別に軽蔑したりせぇへんよ? というか、一緒にその手の動じん読み漁った仲やんか。何を今さら…」

八神部隊長…その辺でやめといた方がいいと思うぞ。恭文の目が据わってるから

「…聞こえなかったかな? その話は、やめに、しようって言ってるんだけど」

「…なぁ。久しぶりに会ったんやから、そんな怖い目で睨むのはやめてな。うち、これでもか弱い女の子よ?」

「やかましい。僕の中でお前は女性の欄に入ってないのよ。つーかたった今除外した」

「自分酷いなっ!!」

「酷くなんかないわっ! ことある事にチクチクからかいやがってっ!! さっきの事で僕がどんだけヒドイ目に遭ったと思ってるんだよっ!?」

なんか、震えてるよ。そこまで酷い目に遭ったのか…大変だな

しかし…二人の会話がどんどんヒートアップしてるけど、誰が止めるんだ?

「そんなことする暇があったら、あのワーカーホリックな砲撃魔導師を見習って仕事しろ仕事っ! 仕事に溺れろっ!! もちろん倒れない程度にっ! 倒れられたら僕が困るからっ! つか、そんな余計なこと考えるからチビタヌキなんて言われるんだよっ!!」

「そういう事言う…? せやったら、出向祝いにフェイトちゃんのドキドキスクリーンショットをプレゼントしようかと思ってたんやけど、やめと」

「嫌だなぁ。ほんの出会い頭の小粋なジョークじゃないですか八神部隊長。私は貴女ほど素敵な女性と出会った覚えはありませんよ。タヌキなんてとんでもないっ! 誰ですか、そんなこと言ったの? 信じられませんよ。そいつの神経を疑いますね〜。まさに貴女は現代のジャンヌ・ダルクっ! ミロのヴィーナスっ! 小野小町か楊貴妃か、さてはクレオパトラかっ!! もう、こうして貴女の前で立っているだけで胸の鼓動が切なく高鳴っているんですよ?」

…あっさり…あっさり態度変えた上に、何…この歯の浮くような胡散臭い口説き文句は…

そこまでして欲しいのか…スクリーンショット…

「……自分、プライドないな」
八神部隊長はため息を吐きつつ、恭文に握られていた手を離す…呆れたか?

「まあ、ちょっとだけえぇ気分になれたから許したるわ」

あれで、なれるもんなのか?

「お望み通り、選りすぐりのをメールで送付しとくわ。楽しみにしとき」

「……恩に着るよ」

「まー、それはそれとして、冗談抜きで自宅警備員はホントにやめた方がいいと思うで?
フェイトちゃんやなのはちゃんが悲しむよ。二人とも今日はおらへんけど、恭文が六課に出向してくるって聞いて、やっぱり嬉しそうやったもん」

「そなの? ………そうなんだ、二人がそんなことを。あぁ、なのはは別にいいけどフェイトが……」

「……相変わらずなのはちゃんに対する扱いがひどいな」

「だって、なのはをからかうの楽しいし」

幼馴染みだからってそれはないとおもうぞ?
それに本人が居ない時くらいはもうちょっと扱いが良くたっていいと思うんだがな…

そういや、なのはは俺も六課に出向してること知ってるのか?
昨日のメールだと知ってるって感じじゃなかったし…知らないなら知らないで会ったときにでも驚かせばいいか

「まぁ、あれやで。あんまやり過ぎたらあかんよ? それと…多分、なのはちゃんは大事な友達と会えるのが嬉しいんやと思うし」

いい加減、俺も会話に入りたいんだが…というか俺が来た意味あるのか?

「あー、そうだよね。あの横馬は予想してた。で、フェイトは…」

「フェイトちゃんは自分の家族が来るのが嬉しいってとこやろうな。つか、覚悟しといた方がえぇよ?」

「なんで?」

「『いい機会だから、部隊の仕事を覚えて、局に入る気になってくれればいいな』…とか言うてたし」

「……マジですか。僕にそんな気は無いのに」

「マジや。ま、家族として心配なんよ。アンタの気持ちは分かるけど、少しは理解したり?」

「…だね。あー、またゴタゴタするのかな。よし、覚悟はしておこう」

「まぁ、それはヴィータやシグナム達もそうやし、うちも嬉しかったよ。…来てくれてありがとな」

そう言って、いきなり頭を下げる八神部隊長

恭文を見ると、辛そうな顔をしてる。そりゃそうだろうな、一度断ろうとしたって聞いたし

「まぁ、そこは気にせんでえぇで? 休みの要求は当然の権利やし。あと、もううちの事はいつも通り『はやて』でかまわんで。恭文に八神部隊長なんて言われたら、なにか気持ち悪くてかなわんわ〜」

「どういう意味だよ」

「そういう意味や。まぁ、これからよろしくな恭文」

「こちらこそ、よろしく。はやて」

なにか、綺麗に纏まったようだが…

「俺のこと、忘れてないよな?」

握手を始める二人に声をかければ、八神部隊長は笑顔を見せた

「あ、すまんな。忘れてたわけではないで? …カストールさん、あなたもよろしくお願いします」

そう言うと、八神部隊長は俺にも手を差し出してきた。俺はその手を握ると、返事を返した

「こちらこそ。俺のことはレイで構いませんよ、八神部隊長」

「ほんなら、うちのこともはやてでかまわんで。レイもよろしくな」

そう…この瞬間から、機動六課の一員として俺の生活が始まった

恭文がまた何かに巻き込まれて、連鎖的に俺も巻き込まれる予感がすごくするけどな…

恭文は恭文で、変なナレーションをしてる…

初っぱなから後悔前提っておかしくないか?

「違うですっ! なに失礼なナレーションつけてるですかっ!?」

「そうよっ! みんなあなたが来るのを楽しみにしてたのにっ!!」

「蒼凪、相変わらずだな」

「…いきなり前フリも無く出てきて、揃いも揃って地の文に突っ込まないで下さい」

いきなり現れたのはちっこい妖精サイズの少女にショートカットの金髪美女。それに青い狼…かな?

「そうだ、狼だ」

狼で合ってるみたいだな…

「恭文さんがいけないんですよっ!! せっかく久しぶりに会ったのにいきなりこれですかっ!? ……ひどいです」

「頼むからそんな恨めしい目で見ないでよ。僕が悪かったからさ」

「反省してますか?」

「もちろん、海よりも深く」

八神部隊…こほん、はやては反省してないだろって目で見てるな、俺もそう思うけど

「なら、許してあげるです。気を取り直して…恭文さん、久しぶりです♪」

そんな事は気にせずに、少女は恭文の胸に飛び込んで抱きつく。あの子が恭文とアルトアイゼンが言っていた―――か

「うん、久しぶりだね。リイン」

恭文はそう言うと彼女を優しく抱きしめる…微笑ましいな

「シャマルさん、ザフィーラさんも久しぶりです」

「お久しぶり、恭文くん」

「元気そうで安心したぞ」

「それとカストールさんでしたね。はじめまして、シャマルと言います」

「ザフィーラだ」

「リインはリインフォースUっていうです。よろしくです〜♪」

「こちらこそ、俺のことはレイでいいですよ」

三人ともが自己紹介してきたので、俺もそれに返す…リインはまだ恭文とハグしたままだけど

「あら、イヤだ。恭文くんったら、少し会わない間にずいぶん上手になって。…うん、いいわよ。あなたがその気なら、私はいつだって受け止めるわっ!!」

なんだろう…『次元世界でナンバーワンの呼び声も高い、自意識過剰な変なお姉さん』って声が頭に響いたぞ?

「ひどーいっ!」

「それはこっちのセリフだよっ! なにしょっぱなから色んな事をぶっちぎってるのっ!? おかしいでしょうがっ!!」

「なに言ってるのっ!? あなたの主治医兼現ち」

「その呼称はお願いだから、今すぐ次元の狭間に捨て去れぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

そういえば、恭文って色んな所でフラグを建ててるんだよな…

本局の受付嬢が恭文の写真を大事そうに持ってたな…

なんで、こうも女性から人気が高いのに本命には通用しないんだ…

ザフィーラを見ると、ため息を吐いている…苦労してるんだろうな

「そうよ。私…本当に心配で…」

「だからといって蒼凪に抱きつこうとするのはやめろ」

「あら、いいじゃ…って、なんで恭文くんも逃げるのっ!?」

身の危険でも感じたとかそんな理由だろう…

「……というかザフィーラさん」

「なんだ?」

「元気そうってのはこっちのセリフですよ。リンディさんからみんなズタボロだって聞いてたんで」

…俺も一応、依頼を正式に受けにいった時にリンディ統括官から話は聞いている。恭文からある程度は聞いてたから、説明されるまでもなく受けるつもりだったけどね

恭文も無茶するから心配だってのも一つかな

「レイ…変なこと考えなかった?」

気のせいだ

「そうね…日常生活には問題ないレベルには、みんな回復してるわ。ただ…」

「我やヴィータ、そして高町など一部の人間は戦闘となると、まだ本調子でいけないのが現状だ」

「…そうですか」

「…せやな。リンディさんから聞いとるとは思うけど、今の六課主要メンバーの…と言うよりは、隊長陣の大半はこんな感じや」

全員ではないって事か…でも、隊長陣がこうって事は他の隊員達への負担が大きいだろうな

状況に応じてサポートに入ればいいか

「万が一に備えて、恭文とレイには休み返上で来てもらっとるし、残り半年近く、何がなんでもなんとかしていかないとあかん」

「はいですっ!!」

「恭文くん、レイさん、あなた方にはそういう事情で来て貰っているわけだけど、もちろんあなた方に全てを押し付けるようなことはしないわ」

「もし何か起こったとき、我らにお前達の力を貸してほしい。頼みたい事はそれだけだ」

「別に構いませんよ。そのためにここに来たわけですしね。…ただしっ! なんにも起こんなかったら、定期的な休みはきちんともらいますからねっ!?」

「こだわるところはそこなんですね」

「本当に変わってないな…」

…確かに、JS事件の時は色々あって話すことはできなかったけど、一年前からまったく変わってない

「俺もそのつもりで来たからな、構わないよ。恭文も、困ったことがあれば俺に頼ってくれていいからな?」

無茶して周りに心配かけるんだからな、こういう事でも言わないと一人で解決しようとしやがるしな

「わかったよ」

「あと、恭文の要望は叶えてやってくれよ?」

「それはもちろんや。リンディさんからもストライキとか起こされたくなかったら、そこはちゃんとするように言われてるしな」

「…あの人、僕のことをなんだと思っているんだろう…」

「可愛い問題児ってところかしら?」

「蒼凪なら実際ありえるしな」

「です…」

…すまん、恭文。否定できない

「まぁ…ストライキ起こせるなら起こしたかったけどさ」

『えっ!?』

「……さらば電○、見に行けなかった」

その言葉を聞いて俺は頬が引き攣るのがわかった

そうなんだ。恭文を手伝って必死に書類を片付けて、どうにか一日休みを取れたのに…。クロノ提督が追加の書類を出さなければ…恭文は『さらば電○』見に行けたのに

昨日? 転送ポートの使用許可が取れなくて…。落ち込む恭文の愚痴を聞いて、アルトアイゼンと一緒に慰めたっけな…

「……あぁ、自分ら好きやったな」

「ね、提督潰しても罪にならないよね? ジャスティスだよね?」

「お願いやからそれはやめてーなっ! 間違いなく罪になるからなっ!? ジャスティスちゃうからっ!!」

「嘘だッ!!」

「嘘ちゃうからッ! なんでいきなりひぐら○っ!? そしてちょっと涙目やめてくれんかなっ!! ……とにかく、休みは善処していくし、さらば電○もディスクが出たらプレゼントするから、元気出してくれへんかな?」

…恭文の発言に共感しながら、恭文が頷くのを見ていた

しかし、今思い出してもあれはないって…

確か…無限書庫で知り合ったユーノと知り合いって聞いたな…この調子で資料請求されたら大変だろうな…

まあ、喜びそうな例外もいるけど…

まぁ、この例外についてはあとに語るとして…

「…それはそうと、三人はどないしたん?」

「はいですっ! フフフッ!!」

はやてがリイン達が来た理由を聞くと、突然リインがニヤニヤと笑い出す

ちょっと怖いんだけど?

「恭文さん、レイさん! あなた方を生まれ変わった機動六課隊舎見学ツアーにご招待に来たです〜♪」

『………はい?』

……声ハモったよ…というか、なんだそれ?

「はいですっ! 私、祝福の風・リインフォースUが責任をもってガイドするですよっ!」

「あぁ、つまるところオリエンテーション言うわけやな?」

「ですです♪」

自信満々に胸を張り、高らかに宣言するリイン

…恭文が睨まれた気がしたけどどうしたんだ?

「つかまてまてっ! 見学ツアーって、みんなが仕事してる中を跳梁闊歩するわけですか? それはないって…。といいますか、僕は小学生ですかっ!?」

まあ、地図を見れば大体把握できるけど…恭文と違って初対面が多いから俺は助かるな

「恭文くん、そう言わないであげて。リインちゃんったら、恭文くん達に早く六課に慣れてもらうんだって言って、昨日までアレコレ考えてたのよ?」

「そうなん? うち全然知らんかったんやけど」

「申し訳ありません主。リインに当日まで秘密にしておくようにと頼まれましたので」

恭文は納得するはずがないと考えているようだが…俺が把握した性格ならば…

「まぁ、そういうわけなら仕方ないなぁ。恭文にレイ、部隊長命令や。見学ツアー行っとき」

「ありがとうですっ!」

「納得したっ!? つーか即決だねおいっ!! 部隊長、一応確認。……仕事はいいの?」

なんか、はやてがニヤニヤしてるけど、いちおう正論だし気にしないでおこう

「別に今日一日くらいやったら構わんやろ。どっちにしてもオリエンテーションは必要やしな」

まぁ、恭文がメインだろうし…あのリインの喜びようを見たら微笑ましくて断る気が失せる

「というわけでリイン、見学ツアーは構わへんけど、二人を連れて改めて主要メンバーに挨拶させてな。さっきはアレやったし、何事も最初が肝心や」

「はいですっ!!」

「あの、少しばかり子ども扱いなのが気になるんです」

「諦めろ。蒼凪」

「そうそう、あなたは女の子の尻にしかれるタイプなんですもの。…レイさんはすみませんね」

「気にしなくていい。むしろ、助かるから」

「…なんか僕とレイで扱いが違うんじゃない?」

「そりゃそうだろ。恭文より背が低いからと言っても、お前と違って俺は初対面なんだからな」

「うん、そうだったね…とにかく、分かったよ。リイン、ガイドよろしくね」

「はいです♪」

「そう言えば、シャマルとザフィーラもツアーに同行するのか?」

いきなり呼び捨て、って呟きが聞こえたが気にしない。それが俺だしな

「いいえ、私達は違うわよ」

「別の用件だ」

「別の?」

「二人への挨拶ですよ」

リインがそこまで言うと、シャマルとザフィーラが俺達の方を向いて、柔らかい表情でこう切り出した

「恭文くん、レイさん、機動六課へようこそ。あなた達を新しい仲間として歓迎します。そして、来てくれてありがとう」

「まさか休みを返上してまで来てくれるとは思わなかったぞ。これから色々とあるとは思うが…なにかあればいつでも言ってくれ。必ずや我らが力になる」

「……こちらこそ、また面倒かけるとは思いますがよろしくお願いします」

「…俺も恭文程ではないにしろ面倒をかけるとは思うが、よろしく頼む」

恭文に睨まれているが、気にしない。これが俺の正直な気持ちだ、昔から恭文と仕事を共にすると始末書が大量にでて大変だからな

ま、恭文ってほっとけない弟って感じだしな。これ言うと斬りかかって来たことあるから言わないけど

そうして、まず最初の挨拶を無事に済ませた俺達はリインの先導のもと、機動六課隊舎見学兼挨拶参りツアーが始まった

「……リイン」

「はいです?」

「これからよろしくね。で、もし何かあったら…がんばろ」

「…もちろんです。リイン達が力を合わせれば、どんな理不尽も、きっと覆していけるですよ」

「うん」

……二人がいい雰囲気を形成し始めた…俺は邪魔かと思わないではないが…うん、気にしないでおこう

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

(第二話へ続く)

あとがき

レイ「さて、始まった『とある魔導師と機動六課の日常〜異邦人と古き鉄〜』…主人公その一のレイ・カストールだ」

《マスター。いよいよ始まったな》

(腕に銀の腕輪をはめた、40cmのボ○太くん人形がレイに視線を向ける)

レイ「なんでボ○太くん?」

《ルミナが好きだから、だそうだ。ルミナの中では最強の機体…スパ○ボで出た場合、フル改造をして無双をするのが好きらしい》

レイ「それは、また…。とにかく先に進めよう」

《まずはマスターのプロフィールから発表しようか》

レイ「次のようになる」

名前:レイ・カストール

書類上の年齢:18歳

実年齢:不明

身長:148cm

体重:身長に見合う程度

髪の色:明るめの紫

髪型:太ももにかかるくらいのロングヘアー。ストレートのままか、ポニーテールにする事もある

顔立ち:ふんわりとした印象を与える女性的な顔。傍目から見ても女の子にしか見えない

瞳の色:血を連想するような朱色

現在の職業:嘱託魔導師(執務官、執務官補佐、デバイスマイスター、通信士の資格をもつ。でも立場は嘱託なのは変わらない)

魔導師ランク:空戦B+(理由:試験を受けるのが面倒だから)

魔法形式:近代ベルカ式、ミッド式、不明な魔法式

魔力光:赤黒い色

魔力資質の傾向:書類として提出された内容として、測定された魔力に関してはAランク相当。魔力弾の大量生成が可能であり、それを自分の手足のように操るなど操作・制御能力がかなり高い。典型的な中・遠距離型ではなく、接近戦では近代ベルカ式を駆使して戦う為に理想的なオールラウンダー

主な戦闘スタイル:状況に応じた的確な魔法選択を行っての遠近双方からの殲滅戦。または、ミッドでもベルカでもない魔法を用いての大規模殲滅

好きな食べ物:甘いもの、和食、ワイン

嫌いな食べ物:トマト、炭酸系の飲み物

趣味:料理とロボット系やアクション系のゲームやアニメなど。ロボオタであり機械オタク

ちなみに料理の腕はかなり高く、一番好きなのはお菓子を作ること

性格:確固とした信念をもつ少年。たまに無意識で相手を動揺させる言動をすることもある

戦闘においては自分が楽しむ為に、相手の得意とする間合いで闘おうとして…たまにギリギリの戦いを強いられる時があるが自業自得とデバイスに叱られている

座右の銘:『人生、楽しまなきゃ損』


レイ「…まぁ、これを見れば大体は俺がどんなコンセプトで創られたキャラかは分かると思う」

《最強設定ではないか? 見た感じだと、魔力資質的には本家の主人公である恭文殿と比べると高い。書類を引き合いに出すということはそれ以上の力があると見ることが可能だ》

レイ「俺ってルミナのサイトの主人公の一人だしな。うちの作者が書いてる作品は最強設定と宣言しているから。それに隠すのは当たり前だ、最初から全能力をバラしちゃったらつまらないからさ」

《…責められるのではないか?》

レイ「それは俺も思ってる…というかルミナが少し怯えてる。最強は引っ込んでろとかマジでありそうだからな…うん、真面目に怖いな」

《うむ…まぁ、日常が基本に進む…さらに能力が勝敗を決めるとは決まってないからな。現にルミナの作品内で敵に敗北している》

レイ「…その前の戦闘でも全然役に立たず原作通りに進んだしな」

《ちなみに、この作品のマスターはルミナのサイトの未来の話になるから》

レイ「ルミナの連載のネタバレが多大に含まれてるな…まだ最初の話も終わってないのに」

《それだけ『とまと』に引き込まれたのだろう。とても素晴らしいからな…》

レイ「そうだな…それにキャラ視点の小説ってここが初めてらしいし。ルミナが書いてるのは基本神様(読者or作者)視点だからな、新鮮なんだろう」

《まぁ、色々な書き方を練習してスキルアップなんかも狙っているらしいからな。それに中尉や恭文殿のようなキャラの会話や反応に関して大変勉強になると言っているしな》

レイ「…ルミナって、ボケ体質だからツッコミは苦手なんだっけ…。ツッコミは出来はするけど笑い方面じゃなく、矛盾点とかを突く方のツッコミになるからな…」

《では、今回のあとがきはここまで。また次回お会いしよう》





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