頂き物の小説
第9話 『らんぶる・かたすとろふ・・・そして・・・更なる混乱』:1
ふっふふ〜ん♪いよいよお兄ちゃんに会えるんだね、楽しみだな〜♪
「メイル、あんまりはしゃぐと、愛しのお兄ちゃんに嫌われちゃうぞ?」
「え〜、そんなのイヤだっ!!」
「じゃあ、ちゃんとおとなしくする事・・・いいね?」
「は〜い・・・」
「・・・なんか、二人とも親子みたいだな・・・」
ガンッ!!
・・・うん、今のはサリが悪いね。
「なんでだよっ!?」
「うっさいよバカ・・・私にこんなでかい子が居てたまるもんですか。私はこの子の姉貴分なんだよ。」
「そうだよ?ヒロはアタシのだ〜いじなお姉ちゃんなんだから!!」
「・・・じゃあ俺は?」
・・・そうだなぁ・・・サリは、おじさん・・・かな?アタシのお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけだもん♪
「・・・なんで俺だけそんな扱い?」
サリがなんか言ってるけど気にしな〜い♪しつこいと、ど〜せいしているお姉ちゃんに嫌われちゃうよ?
そして、アタシ達は目的地に辿り着く・・・そこは、『奇跡の部隊』って言われている機動六課の隊舎・・・ここに、お兄ちゃんがいるんだ・・・
よぉし・・・待っててね、お兄ちゃん♪
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第9話 『らんぶる・かたすとろふ・・・そして・・・更なる混乱』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
はぁ・・・これで午前の訓練は終了か・・・
今日はフォワード陣と俺が、フェイトさんとヴィータさんに訓練を見てもらっていた・・・ちなみに恭文はなのはさん達と聖王教会に出稽古に行ってる。
・・・で、最近やけに無口だけど・・・どうしたんだバルゴラ?
≪・・・いや・・・考え事をしていてな・・・ハイ・マスターは、私の機能を封印してあると言っていた・・・だが、実際に封印されていたのはカートリッジシステムだけで、残りはシステムが抜かれている・・・お前はどう考える?≫
・・・その事か・・・
≪・・・ハイ・マスターは、お前に私の全機能を使わせる事を望んでいない・・・私は、そう考える≫
・・・そう思う心当たりがあるのか?
≪・・・心当たりはある、とだけ言っておこう・・・≫
・・・そっか・・・くそっ、頭が痛くなる・・・面倒な事は山ほどあるってのに・・・
試験の為にやっている訓練はまだいいとして、スバルは前よりもヤスフミの戦闘方法に口を出して、それでヤスフミがいらいらしているし・・・俺、ひょっとして対応間違えたか?
・・・・・・ヤスフミの家にいるリンディ提督の事は、気にしないでおこう・・・ヤスフミにゃ悪いが、アレはリンディ提督とクロノ提督の問題だしな・・・・・・
「・・・ちょっと、どうしたのよ?」
「ジンさん・・・具合でも悪いんですか?」
俺とバルゴラが考え込んでいると、ティアナとエリオが声を掛けてくる・・・いや、なんでもないよ。
俺は二人に笑みを見せると、そのまま訓練場から出ようとした・・・・・・
『・・・フェイトさん、ヴィータさん・・・ちょっといいですか?』
「うん、どうしたの?」
「なんかあったのか?」
すると、フェイトさん達のところにモニターが浮かび、アルトさんの声が聞こえてくる・・・どうしたんだ?
『えぇと・・・なぎ君の知り合いがこちらに来ているんですけど・・・どうしましょう?』
・・・・・・はい?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
う〜ん、お兄ちゃんまだかなぁ・・・もう、アタシの心はどきどきしているのに・・・
「はいはい、だから落ち着きなっていってるだろ?」
「そうそう、ジン坊は逃げたりしないから、大丈夫だよ。」
うん・・・そうだね・・・
すると、なにやら騒がしい音がして、奥からいろんな人が出てくる・・・
その中に・・・居たぁっ!!
アタシは立ち上がると、走り出しておにいちゃんに飛びつく。
「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁんっっっっっっ!!」
やっと・・・やっと会えたよ、お兄ちゃんっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁんっっっっっっ!!」
・・・・・・それは、突然の出来事だった。ロビーのソファーで待っていた人達のうち、1人の女の子が立ち上がると、俺に向かって飛びついてきた・・・
・・・・・・・・・いや、何これっ!?しかも、女の子はなんか泣いてるしっ!?というか、お兄ちゃんってどういう事!?
「・・・・・・ジン・・・・・・その子、だれなのかな、かなぁ・・・?」
・・・後ろでは、ティアナが単色つや消しアイで見つめてくる・・・・・・いや、俺にもわかりませんよっ!?
「嘘だっ!!」
だから、ひ○らしはやめてぇっ!?!?俺の妹は、故郷の墓で父さん達一緒に眠っているはずだし・・・マジで誰だっ!?
「えへへぇ・・・お兄ちゃ〜ん♪」
誰か、この状況をどうにかしてぇぇぇぇぇっっっっっっ!?
「・・・はいはい、その辺にしときなよメイル?大体、いきなり飛びついたって訳わかんないに決まってるでしょうが?」
「・・・久しぶりだなジン。元気にしてっか?」
「はぁ〜い・・・」
その時、俺の耳に聞き覚えのある声が入ってきて、俺に抱きついていた女の子は声のほうへ走っていく・・・俺がそっちに顔を向けると、そこには、俺もよく知っている一組の男女が居た・・・
「お久しぶりですね、ヒロさん、サリさん・・・・・・」
・・・白い髪をおさげにしている女性はヒロリス・クロスフォード、黒いざんばら髪の男性はサリエル・エグザ。ヤスフミの友達でもあり・・・俺の先生の同期でもある。
・・・でも、なんでここに?
「ちょっとやっさんに用事があってね・・・ほら、メイルも挨拶しな。」
「わかった・・・」
そして、改めて女の子の容姿を見ると、俺の顔は驚愕に包まれる。他の皆は不思議そうな顔をしているが、ティアナも若干驚きを見せる・・・ショートカットの水色の髪に、赤い瞳・・・その容姿は、俺の先生に瓜二つだった。
「改めてはじめまして・・・メイル・スノウレイド、13歳です・・・よろしくね、お兄ちゃん♪」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それは、突然の来訪。
恭文やなのはさん達が聖王教会に出稽古に行って、私達やジン、フェイトさんにヴィータ副隊長が、午前の訓練を終えた時の事。
「・・・いやぁ、なんか悪いね。突然押しかけたのにご飯までごちそうになっちゃって」
「つか、やっさん居るかどうか確認しとけばよかったな。どーも、アイツに対してはその辺りを気にしなくていい感じがしてさ」
そう、恭文の友達という、技術開発局のお友達が、突然やってきたっ!!しかも、ジンの事をお兄ちゃんという子まで連れてっ!!
なんでも、恭文が乗っている車・・・例のミニパトのメンテに来たとか。というか、無用心過ぎるよ。だって、恭文は歩きのときもあるのに・・・。
「いや、私の勘だと、今日は車って感じがしたんだよね」
「・・・いや、確かにその勘は正解ですよ?」
現に、乗ってきてるもんね。トゥデイ。
「だけどアイツ、誰に対してもそういう認識持たれてるんですね」
「だからこそのなぎさんなんですね」
・・・まぁ、私とティアも同じだけどさ。休みの最終日とか。
「というか、すみません。ヤスフミ、今日は朝から出かけてて・・・」
「いや、なんつーかすみませんでした」
「あぁ、いーよいーよ。連絡しなかったうちらもあれなんだし。・・・で、おたくがヴィータちゃん」
そう言って、お友達の一人・・・ヒロリスさんが見るのは、ヴィータ副隊長。あ、なんか照れてるのかな? じっと見られて、もじもじしてる。
「・・・はい」
「・・・いやぁ、噂では聞いてたし、やっさんからも話は聞いてたけど・・・会いたかった。うん、結構マジでね」
ヒロリスさんが、すごくまじまじとヴィータ副隊長を見る。かなり真剣に。え、えっと・・・これは・・・。
「いや、悪いねヴィータちゃん。こいつ、あのやっさんが師匠って呼んでる子がどんな感じか、気になってたのよ」
「あぁ、納得です。まぁ、アタシはこんな感じなんですが・・・」
「いや、納得したよ。まさにやっさんの師匠だ。うん、わかった」
なんかわからないけど、ヒロリスさんは納得したらしい。
「つかヒロリスさん」
「何?」
「いや、バカ弟子のデンバードやらトゥデイやら見て思ってはいたんですけど、アイツの趣味関連で知り合ったって・・・ことですよね」
「あぁ、そうだね。簡単に言っちゃうと・・・」
その話に、私とヴィータ副隊長は驚くほかなかった。というか・・・あれ? みんな普通っ!? どうしてっ!!
「あぁ、私はアイツから聞いてたから」
「私とエリオ君、フェイトさんも休み中にですね」
「私も、ヒロさんとは二回ほどお話したから」
「俺も知り合いだし、この二人って聞いて納得した。」
嘘、私は知らなかったのにっ! というか、恭文は本当に聞き出さないと話さないなぁ・・・それと、ジンと腕を組んでいる子・・・メイルちゃんも気になる。たしか、あの苗字ってジンの先生のだったような・・・
「えへへぇ・・・お兄ちゃ〜ん♪」
「・・・なぁ・・・頼むから一旦離れてくれ・・・」
「・・・お兄ちゃん、アタシの事嫌い?」
「・・・・・・ジン?」
「ぐぅっ!?」
・・・ティア、怖いよっ!?
「ジン達は置いといて・・・・・・そっか、なら納得だ」
ヴィータ副隊長、納得しちゃうんですかっ!? おかしいじゃないですかこれっ!!
「いや、普通ならな。だけど、アイツはまたそんな引きを・・・」
「・・・あの、ヴィータ副隊長。またってことは、よくあるんですか? こういうの」
「かなりな」
・・・恭文、なんなんだろう。すごいというか、ちょっと呆れる。
「やっさんはそういうやつだよ。いろんな意味でふざけたやつなの。ま、そのおかげで死に掛けたりしても、生き残れてるけどね」
「ヒロ、お前にやっさんを『ふざけた』とか言う資格はない。つか、似たもの同士だろうがっ!!」
「うっさいねぇ、私はアイツくらいの年はもうちょい落ち着いてたよっ! でも、話聞いてるとあいつは昔からあんな感じだったそうじゃないのさっ!!」
昔からあぁだったんだ。・・・おかしいよね。それって。
「そうだよね、フェイトちゃん、ヴィータちゃん」
「・・・まぁ、そうですね」
「基本ラインは、変わらないですね。あの感じです」
・・・なら、聞いてみようかな。
「あの、みなさん。少しお願いがあるんです」
「なんだ?」
「恭文の昔のこと、教えてもらえませんかっ!? その、魔導師になった頃のこととか」
「ダメ」
その言葉は、誰でもない、ヒロさんの言葉だった。
え、即答っ!? というか、どうしてっ!!
「まぁ、聞くってことはだ。やっさんは話してないんでしょ?」
「・・・はい」
「なら、うちらも細かいことは教えらんないよ。ほら、フェイトちゃんやヴィータちゃんも同じくって感じみたいだよ?」
見ると、二人も確かに苦い顔をしていた。話せない、いえないというニュアンスが、ありありと見て取れる。あの、でも・・・その・・・。
「私、仲間で友達ですから、大丈夫ですっ!!」
「・・・どんな根拠さそれは。つか、ダメ。仲間だからって、全部を知らなきゃいけないってルールはないよ?
ひぐら○でも、やっさんに声がよく似た部長さんが言ってるでしょうが。アンタ、なんか勘違いしてる」
「勘違いじゃ・・・かもしれないです。でも、あの・・・その・・・」
確かにその通りだ。でも、どうしても・・・。
「あー、すみません。この子には私から言って聞かせますから。スバル、この話は終わり。いいわね?」
「ティアっ!」
「スバル、いい加減にしろ・・・ヒロさんの言う通りだ。」
「あー、いいからいいから。・・・ね、スバルちゃん。どうしてやっさんの過去が気になるの?」
え? ・・・ヒロリスさんが、私の目を見る。さっきまでの少しフランクな感じとは違う。こう、真剣な色が見えた。
「いやさ、気になるからには、当然理由があるでしょ。一応、それは聞くよ。話すかどうかは別問題だけどね」
「・・・はい」
そして、私は話した。恭文の過激な行動。私達に隠し事が多いこと。すごく、不満があると。
もちろん、恭文の資質や、仕事の都合上のこともある。これらは仕方ないかもしれない。・・・ううん、きっと仕方ないことなんだ。
ティアの言うように、私達はずっと一緒じゃ・・・ないんだから。
だけど、どうしても納得が出来ないことがある。恭文は普通なのに、普通じゃないところ。絶対に、今のままなんて嫌なところ。
「・・・恭文、たまに言うんです。壊したいものを壊すために戦うって。それが、嫌なんです。
でも、恭文に聞いても、はぐらかされたり、ボカされたりして・・・」
「それで、やっさんの過去の話にヒントがあるのではないかと・・・」
私は、その言葉にうなづく。勝手なこと言ってるのはわかってるん。でも、仲間で友達で・・・。
「・・・スバルちゃん」
「ヒロリスさんの言ったこと、わかってます。そんなルール、どこにもありません。あっていいはずが無いです。
だけど、嫌なんです。今のままは・・・嫌なんです」
嫌だ。私は、恭文がそういうことに疑問がある。認めるのも、否定するのも、もっと恭文を知らなきゃいけない。
だけど、どうしたら恭文がそれをちゃんと話してくれるのかわからなくて、ぶつかってもダメな感じがして。それで・・・。
「・・・わかった。じゃあ、教えてあげるよ」
「・・・え?」
「だから、やっさんの昔のことだよ」
『えぇぇぇぇぇっ!?』
そのヒロさんの言葉に、全員が驚く。いや、だってさっきはあぁ言ったのにっ!!
「あ、あの・・・ヒロっ!?」
「いいよ。つか、本気で心配してくれてるみたいだしさ。まぁいいんじゃないの? こじれてもアウトだし」
「いや、そういう問題じゃないだろっ!!」
・・・いいんですか? 私、すごくわがまま言ってるのに。
「いーよ。ただ、話聞いてやっさんと付き合い方変えるってのをなしにするのが条件だけどね。約束、出来る?」
「・・・はい、約束します」
うん、約束出来る。だって、恭文は友達で仲間だから。・・・何があっても、絶対にそれで何かを変えたりなんて、しない。
「あの、ヒロさん? ヤスフミの居ないところでそれはないです。勝手に話を進めないでくださいっ!!」
「仕方ないでしょ。やっさんには私から謝っておくよ」
「そういうことじゃないですっ! というより、ヤスフミの事どれだけ知ってらっしゃるんですかっ!?」
「8年前の一件、最初から最後までの全部」
その瞬間、凍った。私達じゃない。フェイトさんと、ヴィータ副隊長が。理屈じゃない。二人が、一瞬凍った。
「・・・失礼ですが、それはどこで聞いたんですか」
なんだろう、フェイトさんの視線が厳しい。とても、怖いものを感じる。
「・・・二人ともなんか勘違いしてるみたいだけど、私らはやっさんから直接聞いた。もちろん、無理やりじゃないよ。
まぁ、あの一件でそういう子が居たっていうのは、噂話程度には聞いてたけどね」
「噂話っておっしゃりますけど、あの一件は・・・」
フェイトさん、いつもと違う。こう、厳しい視線はそのままだけど、どこかで困惑してる。
・・・待って、恭文の過去って、そこまでのことなのっ!?
「やめとけ。お前の言いたいことはわかるけど、アレだよ。人の口に戸は立てられない・・・つーことですよね?
アイツ、保護された当初から本局の医療施設で騒ぎ起こしてましたし」
「そうだね。俺らはその頃には、本局勤めだったし。もちろん、ヒロが言うように無理やり聞いても居ないし、興味本位で調べてもいない。
俺だって、やっさんがその当の本人だっていうのは、ダチになって初めて知ったくらいだ」
「そう・・・ですか」
・・・覚悟、決めよう。きっと、すごく重いことなんだ。だけど・・・ごめん。私のわがまま、通すね。嫌いになられても・・・しかたないよね。
ティアやエリオ達は、さっきから黙ってる。ティアにいたっては、睨んでる・・・ごめん。でも、やっぱりなの。
大好きな友達が、壊すために戦う必要があるのかどうか、ちゃんと、知りたいの。今のままじゃ、否定も、認めることも出来ないの。
「うし、つーわけだから、スバルちゃん、移動しようか。あ、フェイトちゃんもヴィータちゃんも、準備よろしく♪」
『・・・え?』
いや、あの・・・準備ってなにっ!? というか、移動ってどこへいくんですかっ!!
「・・・まぁ、アレだよスバルちゃん。何事も対価って必要だと思わない?」
「それは・・・まぁ」
「うちらは、本来ならやっさんの許可なく話す義理立てはない。だからさ、対価として、まずアンタ自身を見たいのよ」
私・・・自身。
「アンタが、やっさんのことを変えたい。傷に触れてでも、真意を・・・本当の気持ちを知りたい。そう思う気持ちの強さと、覚悟を見たい。なので・・・」
ヒロリスさんは、そこまで言うと右手の人指し指を一本立てた。
「私と模擬戦するよ。その中で、アンタ自身を見極めさせてもらう」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・いや、この状況どうなってるの?俺の右腕にはさっきの女の子・・・メイルちゃんがくっついてるし、そのおかげでティアナの視線が痛い・・・俺が何したよ?
しかも、ヒロさんはスバルと模擬戦するって言うし・・・あの人マジで何考えてるのさ?
≪久しぶりに会ったというのに、あいかわらずなのだなヒロリス殿は・・・≫
「・・・ひょっとして、あなたがバルゴラ?アタシ、メイルって言うの・・・よろしくね♪」
≪・・・あ、あぁ・・・なんともやりづらい・・・ティアナも二重の意味でイライラしているようだし・・・≫
「・・・準備はした。スバルもやる気十分。だけど・・・だけどこれはなにっ!? いきなりすぎてわけがわからないよっ!!」
・・・フェイトさん、それはあそこにいる二人以外の全員が思っている事ですよ。
「あー、大丈夫大丈夫。怪我もしないしさせないから」
「・・・いや、ヒロ。たぶんそういうことを言ってるんじゃないから。
つか、俺もわけわかんないよっ! なんだよこれっ!? 頭おかしいだろお前っ!!」
「失礼な。やっさんよりマシだよっ!!」
いや、どっちもどっちですって。
「あの、とにかく模擬戦なんてやめてくださいっ! つい押されて準備しちゃいましたけど・・・許可できませんっ!!」
「どうして?」
はははははははは・・・・・・ヤスフミの影が見えるんだけど、気のせいか?
「どうしてって・・・! ヒロさんは魔導師でもなんでもないじゃないですかっ!!」
「・・・いや、止めても無駄な感じがするのはわかるんですよ。でも、やめてもらえますか?
スバルも、最近は結構やるようになってきましたし」
フェイトさん達がそう言うと、二人はぽかーんとした・・・・・・そういや、フェイトさん達は知らなかったっけ・・・・・・
「・・・あぁ、やっさんから聞いてなかったのね。私ら、魔導師よ?」
『え?』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まーさか向こうさまがそんな楽しい状況になっているとは露知らず、僕はある人とガチにやりあっていました。
そう、その人とは・・・。
「・・・それでは、この辺りにしましょうか」
「はい・・・。おつかれ・・・さま・・・でした。ありがとうございました」
≪シャッハさん、ありがとうございました≫
「いえいえ。こちらこそ、いい経験をさせていただきました」
そう、紫色のショートカットの髪に、手に持つのは二本のトンファー。
みなさまご存知、聖王教会の戦うシスター。シャッハ・ヌエラさんその人だ。
午前中いっぱい、必死こいて斬りあってたわけだけど・・・いや、楽しかったー!!
やっぱり、僕の中でのガチにやりあって楽しい人ランキングベスト5に入っているだけのことはあるわ。
「それは私もです。やはり、あなたと剣を交えるのは・・・心が躍ります。シスターとしては、少しだけ不謹慎ですけどね」
「にゃははは・・・」
「恭文さん、おつかれさまです〜」
互いに息を整えつつ話していると、後ろからリインが飛んできた。手にはタオルを持って。というか、二つ。
必死に持ってきたそれを、僕とシャッハさんに手渡す。
それで、僕たちは体を止めたことで噴出した汗をふき取る。いや、あぢー。楽しいけどあぢー。
「ありがとうございます。リインさん」
「はいです。というか、二人ともがんばってたですね〜」
「まぁ、聖王教会なんて滅多に来れないしね」
≪・・・いや、そういう意味じゃないですから≫
ほえ?
「お昼、もう過ぎてるですよ?」
この瞬間、シャッハさんと顔を見合わせて、すぐさま時間を確認する。・・・あ、もう午後1時だ。
えっと、ここに来たのが9時で、組み手始めたのが・・・10時。
「すみません、ついつい楽しくなってしまって・・・」
「・・・シャッハさん、それ・・・というか、僕たち、どうなんでしょ」
あ、なんかお昼なのに、カラスの声が聞こえる。あれだよ、『アホー!』って言ってる声が。
≪すさまじく楽しそうでしたね。二人して≫
「リインだけじゃなくて、なのはさん達も止めるのが忍びないって言ってたです・・・」
・・・まじめに思う。お昼ぶっちぎりで楽しく三時間斬り合いって、人生の楽しみ方間違えてる気がする。
もっと、平和的な楽しみを見つけてもいいんじゃなかろうか?
「あぁ、それならもちろんありますよ」
「そうなんですか。・・・例えば?」
「そうですね。魔法学院の子供たちと戯れる時や、信者の方々とたわいもない会話をしている時。
あとは、騎士カリムとの紅茶の時間・・・などでしょうか。こう言った時には、心が落ち着きます」
『なるほど・・・』
確かに、武闘派シスターっていうのは、シャッハさんの一面だしなぁ。
心を落ち着けて、静かに過ごす時間だって、当然ある。いや、無きゃいけない。それが無いと、戦えないもの。いろんな意味でね。
「あなたにもあるでしょう? そういう時間が」
シャッハさんが、僕を見てそう聞いてきた。・・・うん、ある。
今という時間そのものそうだし、みんなと馬鹿をやったり、騒いだり。そんな守りたい時間、ある。
「私もです。・・・それが守れるなら、どんな戦いであろうと身を投じ、剣を振るう。そんな覚悟が出来る時間が、あります」
「・・・そうですね。僕も、同じです」
「まぁ、あなたは誰よりも、フェイト執務官との時間を守りたいんでしょうけど」
そう言われた瞬間、思考が固まった。だって・・・シャッハさんにその話してないから。
まてまて、情報源は誰だっ!? シグナムさん? いや、あの人はそんなぺらぺらしゃべる人じゃない。
なら、はやてかっ!! あれならありえる。
「違います。というより、あなたとフェイト執務官の二人でいるところを見れば、誰であろうとわかりますよ」
≪・・・そうですよね。わかりますよね、普通は≫
うん、そうだよね。普通は分かるんだよね。
「・・・でも、それが当の本人には伝わらないんですよ。あの、アレはまじめにどうすればいいんですか?
最近、もう押し倒すしかないのかなって、本気で考え始めてるんですけど・・・」
「や、恭文さんっ!? お願いですからうずくまらないでくださいですー! 泣くのもだめですよー!!」
「あの、それはやめなさいっ! そんな真似をしてあの方の心を射止められるわけが・・・。
あぁ、本当にそうなのですね。騎士カリムから聞いたとおりですよ」
・・・カリムさん、意外とおしゃべりだな。まぁ、いいや。とりあえず・・・そこはいい。
「あとは、色々とシグナムや八神部隊長からも聞いていますよ。あなたが、フェイト執務官を守る騎士として、戦い続けていると」
結局話してるんじゃないのさっ! なんなのさ一体っ!?
「・・・僕は騎士なんてガラじゃありませんよ」
そう、僕は自分の勝手で戦ってる。局とか世界とか、そういうもんのためじゃない。
ぶっちゃけ、戦って命賭けるのも、嫌いじゃないしね。
「ガラなどは関係ありませんよ」
「え?」
シャッハさんが、微笑む。僕を見て、柔らかい表情で。だけど、瞳には、とても強い力がこもっていた。
それが、僕の心を射抜く。そして・・・続ける。
「守りたいものがある。そのために剣を振るい、業を背負う覚悟があるなら・・・ガラなどは関係ありません。
それが出来るものは、皆、等しく騎士です」
守りたいものがある。業を背負う覚悟・・・か。
「・・・なら、恭文さんは騎士・・・ですね。全部に当てはまりますから」
「・・・そうかな?」
「そうですよ。愛する女性を守りたいと、力になりたいと願い、進み続ける。それは、紛れも無く騎士の所業ですよ。
私としては、なぜあなたが騎士の称号を取らないのか、非常に疑問です」
・・・そういうガラじゃない。というのが理由だった。だけど・・・違う。そうじゃない。
僕の性格どうこうじゃなくて、僕がしてきたこと。それが・・・騎士の行動なんだ。それは、盲点だったな。
≪・・・シャッハさん。シグナムさんやはやてさんから、何か聞いてるんじゃないですか?≫
「さぁ、どうでしょう。まぁ、あなたはロッサと同じく自由過ぎる傾向が・・・」
「恭文君っ!!」
僕が少し考え込んでると、その思考はある声によって中断された。そこを見ると・・・なのはとシグナムさんとシャーリーが走ってきていた。
というか、なんか慌ててる?
そう、三人が三人とも、慌てた様子だった。そして・・・開口一句、とんでもない言葉が出てきた。
「恭文君の友達が模擬戦してるって・・・どういうことっ!?」
『・・・はぁっ!?』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・戦いは圧倒的だった・・・訓練場では、ぼろぼろになりながらも攻撃をしようとしているスバルに、ヒロさんが容赦なく斬撃を浴びせる・・・
「何よこれ・・・力の差がありすぎる・・・」
「こんな事って・・・」
「スバルさん・・・もう止めてくださいっ!!」
「まだ・・・まだぁ・・・ギア・・・・・・エクセリオンッ!!」
≪A.C.S. Standby≫
そのスバルの叫びと共に、マッハキャリバーから空色の4つの翼が現れ、辺りに羽が舞い散る。
「うぉおぉぉぉぉぉぉぉっ!!振・・・動・・・けぇぇぇぇんっ!!」
「はぁぁ・・・だからさ、見切ってるんだって。」
スバルは拳を振りかぶってヒロさんに突っ込むが、ヒロさんは冷静にスバルの突撃をかわすと、その手に持つ双剣でスバルを切り裂く・・・そして、スバルは地面に倒れこんだ。
・・・・・・ダメだ、戦闘経験が違いすぎる・・・・・・
「あのお姉ちゃん、ヒロの攻撃をあんなに喰らっちゃって・・・・・・そろそろ危ないよ?」
すると、隣で見ていたメイルちゃんがそう呟く・・・確かに、あれは危険だ・・・本来なら動けるはずがない。
「・・・動かない方がいいよ」
「まだ・・・やれ・・・」
「だーめっ!!」
立ち上がろうとしたスバルを、ヒロさんは押さえつけた。
踏みつける感じじゃない。わがままを言う子どもを、少しだけ乱暴にたしなめる感じで。
「アンタ、私の斬撃何発食らった? 本来なら立てるはずじゃ・・・。そこまでして、やっさんを知りたいの?」
「はいっ!!」
「即答かい。・・・はぁ、しゃあないな。私の負けだよ」
「えっ!?」
「正直さ、私はアンタを動けないようにぶちのめすことは出来ない。・・・もしこれが実践なら、私はアンタを殺すって選択しかできないよ」
その言葉に、スバルは顔が青ざめる・・・そりゃそうだよな。ヒロさん、簡単に殺すなんていうもの。
「まぁ、アンタや、高町教導官やハラオウン執務官みたいにさ。ここ10年の間に魔導師やるようになった子にはわからないかもしれないけど・・・。
それより前はね、本当にヒドかった。私らが全盛期の頃なんて、殺す殺されるなんて、日常茶飯事だったんだよ」
そう口にするヒロリスさんの顔は、どこか寂しげだった・・・俺はまだ、殺しってものを経験してないが・・・先生も、こんな感じだったんだろうか?
「だから、ぶっちゃけちゃえば、私は殺すって選択を取れる。綺麗事抜かして、自分が死ぬのは嫌だから。
やらなきゃ、やられるんだよ。それが出来なかった仲間内は、何人か死んだりしてたしね・・・って、ごめん。話それちゃったね。私がなんで負けを認めたか、言わないといけなかったのに」
「あ、いえ・・・」
「私は、アンタの力に負けたんじゃない。・・・アンタの心に負けたんだよ。まっすぐに、やっさんを知りたいと願う心にね・・・
私の持ってる手札じゃ、それを覆すのは無理。殺す・・・ようするに、うちらがポーカーやってるテーブルをひっくり返すしか、手を思いつかない。だけど、当然それはできない。だから、負けなの。・・・OK?」
「ヒロリスさん・・・」
スバルの奴、納得いかないって顔してるなぁ・・・・・・
「いいよ。つか、自信持ちな〜? 私をそういう形で負かせたのは、アンタで四人目だ。ちなみに、やっさんは無理だった」
「そうなんですかっ!?」
「・・・いや、アイツとやると、私もどーもエンジンかかってさ。ついやりすぎちゃうのさ。気絶するまでぶっ飛ばしちゃうの」
・・・・・・ヤスフミ、気のせいかな?お前の将来がヒロさんみたいにならないか、とても心配なんだけど。
「でさ、スバルちゃん。アンタ、いい勘してるよ」
「・・・というと?」
「やっさんが『壊したいものを壊すために戦う』っていうのはね、やっぱり過去のことが原因なんだよ」
「・・・ほんとにそうだったんだ。私、結構なりふり構ってなかったのに。」
「アンタねぇ・・・。まぁ、アンタの経歴は、ちょこっと聞いた。だから納得できないのも分かる。つか、それは当然だろうね。
でね、やっさんの昔の事なんだけど・・・」
「・・・あの、ヒロリスさん」
「なに?」
「あの、なんていうか、わがまま言って申し訳ないんですけど・・・。やっぱり、聞かない・・・じゃ、ダメですか?」
「はぁっ!?」
・・・・・・・・・はいっ!?いきなり何言い出すのこの子っ!?
「とりあえず、理由を言いなよ。じゃないと、私は納得できない」
「・・・恭文に、ちゃんとぶつかって聞いてみたいんです。ヒロリスさんにしたみたいに。というか、私、卑怯でした。今ここで聞いても、後悔しそうで・・・」
「やっさん、話さないかもしれないよ?」
「それでも、もう一度、ぶつかってみます。私の我儘で、勝手。だけど、ちゃんと知りたい。恭文と向き合いたい。だから・・・教えて。そう、言いたいんです」
「・・・スバルちゃん、アンタ・・・本当にバカだよね」
・・・確かに、スバルはバカだ。大バカで・・・・・・時々KYだ。でも・・・・・・なんとなく、好感は持てるかな?
「でもま、私の好みかな♪」
「えぇっ!?」
「・・・まぁ、あれだよ。実は、私もサリも、やっさんから相談されててさ。アンタに、ちゃんと話すべきかどうかってさ」
・・・へぇ・・・そんなことしてたんだアイツ。
「そうなんだよ。つか、アイツからの六課での近況報告メール。フェイトちゃんとリインちゃんの次に出番多いの、アンタだよ?」
「えぇっ! わ、私がっ!? どうしてっ!!」
「アイツ、アンタのこと、一緒に馬鹿をやれて、喧嘩も出来て、心の許せる大事な友達だって、思ってるんだよ。そういう話ばっかり。
・・・ありがとね。あんなどうしようもない性悪相手に、ここまで向き合ってくれてさ」
「あ、いえ。というか、恭文は性悪じゃないですよっ!!意地悪で、ひねくれてて、全然まじめじゃなくて、ふざけてるように見える。だけど、それが全部じゃない・・・
本当は、すごく優しくて、まっすぐで・・・。私、だめだな。ちゃんと分かってるつもりだったのに・・・わかって、なかったんだ。
なんで、信じてあげられなかったんだろう。私が見てきた恭文のいい所、ちゃんと、もっと、信じればよかったんだ。」
「そっか、そう言ってくれると嬉しいわ。弟弟子ってのは抜きにしても、友達だからね。心配ではあるんだ
でもさ、根が秘密主義の塊で、強がりが服着て歩いてるようなやつでしょ? ここじゃあ普通にしてたみたいだけど、どうしようか悩んでたんだよ。
アンタとの微妙な距離、なんとかしたいって、ずっとね」
・・・・・・アイツはアイツなりに、スバルの気持ちに向き合おうとしてたのか・・・・・・
「たださ、アイツの過去は、やっぱり重いんだよ。相手を選ぶ話題なのは間違いない。だから・・・話すのに、少しだけ勇気が必要だったんだ。
せっかく出来た大事な友達と・・・アンタと距離が出来るようなことになるの、嫌だったんだよ」
「恭文・・・。あの、私・・・全然知らなくて・・・!!」
「そりゃそうさ。やっさんは話してなかったんだから。わからなくて当然。たださ、覚悟、決めてきてるから、もう少しだけ待ってやってくれないかな?」
そういうと、ヒロリスさんはスバルに頭を下げた。
「・・・え? あの、どうして頭を下げるんですかっ!? 私が迷惑かけまくっているのにっ!!」
うん、スバルがびっくりするのも当然だ。俺もびっくりしてるもん。
「ま、一応ね。大事なことさ。・・・アイツは、アンタをどうでもいい存在なんて思ってない。むしろ、その逆だ。友達で、仲間で・・・大事だから、向き合おうとしてる。
だから、絶対にぶつかってくる。結局、アンタと同じで、アイツもバカだからね。そうするしか選択肢ないんだよ」
「・・・はい」
・・・さて・・・あとは、スバルとヤスフミの問題だな。
「・・・なんだろ、二昔前の青春映画であんなのなかったか? 殴り合って関係が深まるって、どんな体育会系だよ。」
「まぁ、いいんじゃねーですか? 当人同士が納得してるみたいだし」
「それもそうだね。ま、あとはやっさんとスバルちゃんの問題だ。あの様子なら、サクっと解決するでしょ」
サリさんとヴィータさんの声が聞こえてくる・・・さっさと解決して欲しいなぁ・・・
「あの、でも・・・」
「なに、フェイトちゃんは不満?」
「・・・やっぱり、重いことですから。ヤスフミに、無理をさせたくないんです」
・・・今の言葉で、ようやく俺はフェイトさんの違和感に気づいた。
・・・・・・フェイトさん、ヤスフミの事をちゃんと見ていない。これは、家族・・・いや、小さい子供に対するような・・・そんな感じだ。
「大丈夫だよ、アイツは強くなった。もうガキじゃない。この程度のこと、自分で解決出来るさ」
「この程度のこと・・・! どうしてそんな風に言うんですかっ!? ヤスフミ、あの時すごく大変で・・・!!」
「そういうの、もうやめときなよ・・・やっさんは、もうアンタが出会ったころのような子どもじゃない。大人の男だよ。自分の傷のしょい込み方くらい、ちゃんとわかってる。
・・・アンタ、やっさんの家族だよな?」
「そうです。私は、ヤスフミの・・・」
「悪いけど、俺にはそうは思えない」
「・・・・・・フェイトさん、どうしてそういうことが言えるんですか?アイツは・・・・・・もう子供じゃないですよ。」
突然割り込んできた俺の言葉に、サリさんは驚いた表情を見せるが、そのまま言葉を続けた。
「・・・ジンの言うとおりだ・・・アンタ、今のやっさんを見てないだろ? つか、やっさんのことをまったく分かっていない」
「そんなことありませんっ! 私は、家族としてヤスフミのことを・・・」
「それがわかってないって言ってるんだよ。・・・今のアイツを見ていれば、さっきまでの子ども扱いな言葉は出てこない・・・まぁ、心配するなとは言わないさ。
アイツの過去は、俺やヒロはともかくこの子の世代だと、やっぱり異常事態以外のなにものでもないと思うから。
それでもだ。アンタ、おかしいよ。ハッキリ言うと異常だ。そういう、今のアイツの姿を、何一つ認識していない子ども扱いが、やっさんを傷つけているって、少しは自覚しとけ」
なんかフェイトさんが睨んできてる・・・でも、俺はヤスフミがどんな思いなのか知っている・・・だから・・・変えなくちゃいけないんだ、フェイトさんを。
・・・ヤスフミは、余計なおせっかいだって言うかもしれないけどな。
「フェイト、落ち着け。・・・つか、この人やジンの言う通りだ」
「ヴィータっ!?」
「ま、お前がおかしいのはいつものことだからいいとして」
・・・直球来たな・・・フェイトさん、なんか胸にグサって刺さってますよ?
「アイツは、もう大人だ。お前がそんなに心配する必要はねぇよ。大丈夫だ、ちゃんと背負い方を考えながら生きてるよ
つか、アタシの目から見ても、本当に強くなった。ここ1、2年は特にだ。それを間近で見てたサリエルさんが大丈夫って言うんだ、問題ねぇよ。
・・・もうちょっと、信用してやれ。家族って言うなら、余計にだ」
「ヴィータ・・・」
・・・これで、少しは考えを変えてくれるといいんだけど・・・・・・
『あー、みんなちょっといいかな?』
「どーしたよヒロ?」
『いや、悪いんだけどさ。ちょっと暴れ足りないのよ。というか、エンジンかかって』
「・・・よし、今すぐに戻って来い」
『というわけで』
「無視するなよっ!!」
『スバルちゃんはもう休ませないとだめだから、他の四人、今すぐ準備させて。いい機会だから、私が鍛えてあげようじゃないのさっ!!特に、ジン坊は強制ねっ!!』
「・・・お前、やっぱり頭おかしいだろっ!!」
「え〜、ヒロばっかりずぅるぃい〜!!アタシも混ざる〜!!」
「そう・・・ちょうどいいわ・・・妙にイライラするから・・・アンタは私が叩き潰すっ!!」
「へぇ〜、やってみれば?」
・・・・・・いい感じで終わりそうだったのに、なんでこんな展開になるの?ティアナとメイルちゃんはなんかバチバチ視線がぶつかってるし・・・
「あ〜もう、しゃあねぇ・・・・・・ジン、コイツを持ってけ。」
そういうと、サリさんは小さなメモリースティックのようなものを投げてくる・・・なんですかこれ?
「フィーネから預かってたもんだ・・・ソイツをバルゴラに組み込みゃ、少しはマシになるだろ・・・後は、頑張れ。」
・・・・・・おし、バルゴラ・・・いくぞっ!!
≪そうだなマスター・・・精一杯、ぼろぼろになろうではないか。≫
・・・・・・どことなく、俺の背中から哀愁感が漂っているのは、気のせいじゃないと思う。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・どうしてこんな事になっているのかなぁ・・・・・・
「・・・エリオ、あきらめろ・・・あの人がこうなったら、ほとんど止められない・・・」
僕とキャロ、そしてティアさんにジンさんは、バリアジャケットを装着してヒロリスさんと向かい合っている・・・
ヒロリスさんの隣には、メイルさんが立っている。その顔は、どことなく嬉しそうだ。
「・・・メイル、なんでアンタまでこっちにいるのさ?」
「だってぇ、アタシも一緒にやりたいもん!!それに、あそこのツンデレっぽい人にケンカ吹っかけられたし・・・」
「はぁ・・・分かったよ。じゃあ、アンタはチビッ子達とあそこのお姉さんをお願い・・・私は、ジン坊を集中的にやるから。」
・・・その言葉で、ジンさんの引きつるのが見える・・・スバルさんをあそこまで追い詰めたんだ・・・ジンさん、大丈夫かな?・・・ティアナさんの額に青筋が見えたのは、なんでだろう?
「・・・・・・止めてください・・・・・・こんな事・・・認められませんっ!!」
・・・・・・フェイトさんっ!?なんでフェイトさんまでバリアジャケットを着ているんですかっ!?
「・・・・・・あ〜、ジン坊。さっきなんかあった?」
「・・・サリさんと俺がヤスフミの事でいろいろ言いました・・・」
「そっか・・・でもさぁ、私達との模擬戦って、この子達にも得られる事は多いと思うんだけど・・・どうかな?」
「・・・なら・・・私があなたと戦いますっ!!」
そう叫び、フェイトさんはヒロリスさんに突っ込んでいく・・・
「しょうがないか・・・」
そして、ヒロリスさんはフェイトさんとぶつかり合う・・・すごいや・・・フェイトさんの攻撃を、難なくかわしている・・・
「それじゃ、こっちもはじめよ?・・・ガネット、セットアップ!!」
その言葉と共に、メイルさんの腕輪が輝いて体を光が包み・・・ジンさんのバリアジャケットを深紅に染めたようなデザインのバリアジャケットと、足にジンさんが使っているのと同タイプのブーツが装着され、右手に鈍い銀色の両刃剣が握られる。
「へっへ〜、お兄ちゃんとおそろい〜♪」
そう言って見せびらかすようにターンをしたメイルさんに、ティアさんの額に青筋が浮かぶ・・・なんでティアさんは怒っているんだろ?
「ねぇねぇ、そっちの赤髪君はどう思う?私に似合っているかなぁ?」
・・・え?なんで僕に・・・
「う、うん・・・似合っていると思うよ?」
「そっかぁ・・・よかった♪」
そう言ったときのメイルさんの顔は、とても可愛くて・・・思わず見とれてしまったんだ・・・
「・・・・・・エリオ君?」
「ど、どうかしたのキャロッ!?」
なんだろう・・・キャロの笑顔が、とても怖く感じるっ!?
「・・・そっちも準備はいいみたいね・・・なら、いくわよっ!!」
「お、おいっティアナッ!?」
そして、クロスミラージュをダガーモードにしたティアさんがメイルさんに向かって突撃していく・・・僕も行かなきゃっ!!
ドッゴォォォォォォォォォォンッッッッ!!
「う・・・うぅぅ・・・」
「・・・・・・はい、フェイトちゃんはこれで撃墜・・・・・・それじゃジン坊・・・かかってきな。」
・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・?
フェイトさんがヒロリスさんに向かっていって3分も立ってないのに・・・フェイトさんはぼろぼろになって、ビルに叩きつけられている・・・・・・
「・・・・・・・うああああああぁぁぁぁああっっっっっっ!!ストラーダァァァァッッッッ!!」
「落ち着けエリオッ!!」
ヒロリスさんに向かって突撃しようとする僕の肩を、ジンさんが止める・・・離して下さい!!
「だから落ち着けって言ってんだろ!?お前1人でヒロさんに敵うわけないだろっ!!お前とキャロはティアナの援護に行けっ!!」
で、でもっ!!
「・・・俺が時間稼ぎをしといてやるから、さっさとティアナを連れて来い・・・このまま戦力を分散させたら、各個撃破されて終わりだ・・・早く行けっ!!」
・・・ジンさんの言葉で頭が少しだけ冷える・・・確かに、一人で戦うよりも、皆で戦ったほうが勝機が生まれる・・・
「エリオ君・・・」
隣を見れば、キャロが何かを決意したような瞳で見つめてくる・・・そうだ、僕は一人で戦ってるんじゃない・・・こんなにも心強い仲間がいるじゃないかっ!!
「・・・ジンさん・・・僕達が戻って来るまで、耐えてくださいよっ!!」
ジンさんは、親指を立てて僕の言葉に答える・・・そして、僕とキャロ、フリードはティアさんの所に向かった・・・
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「へぇ・・・ずいぶん強気だね、ジン坊?」
「・・・いや・・・別にあなたに勝つとは言ってないじゃないですか・・・それに、メイルちゃんについても聞きたい事がありますしね・・・」
そう言うと、俺はティアナとガチにやりあってるメイルちゃんを見る・・・というか、なんで俺と装備がほとんど同じなんだ?いや、レオーを作ったのはヒロさん達だけど。
「あ〜、そういや言ってなかったねぇ・・・後で詳しい事は話すけど・・・あの子、2年位前に先生と暴れたときに拾ったんだ・・・で、最近になって先生から預けられたんだよ。」
・・・ヒロさん達に預けるって・・・なんか大変そうなんだが・・・
「うるさいよ・・・今言える事は、あの子は・・・フィーネの『娘』にあたる・・・って事くらいかな?」
「そうですか・・・じゃあ、そろそろ行きますよ・・・」
そう言うと、俺はサリさんからもらったメモリースティックをバルゴラに装填する・・・先生から預かった物なら、変なものは入ってない筈だ・・・
≪・・・システムの復元を確認・・・マスター、機能の90%が開放された。現在使用できない物は、フルドライブ機能のみだ。≫
・・・・・・なるほど、わざわざ3重にしてくれたのね・・・・・・有り難くって、涙が出そうですよ先生・・・・・・
「そう言わないの。フィーネの奴、アンタの為にいろいろ考えてたんだよ?」
「・・・なら、今でいろいろ試させてもらいますよ・・・バルゴラ、サイズフォルム!!」
≪了解した、マスター!!≫
すると、バルゴラの本体が回転し、ストックが前になる・・・そしてカバーが展開され、露出した部分から紺色の魔力刃が放出される・・・
これが、バルゴラの新しい姿・・・サイズフォルム!!
俺は左手で銃身の上部にある取っ手を掴むと、ヒロさんと向かい合う・・・しばらくにらみ合いが続いたかと思うと、俺とヒロさんは交錯し刃をぶつけ合った。
・・・エリオ、キャロ、なるべく早くティアナを連れてきてくれよ?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お姉ちゃん・・・すごいねっ!!アタシ、楽しくなってきちゃった!!」
「・・・くっ・・・!!」
今、私は目の前に居るガキンチョの攻撃を必死に避けているところだった・・・冷静に考えてみると、なんで私は接近戦を挑んでいるのかしらね?
「バリアブル・・・シュート!!」
「おっとぉっ!?」
すかさず距離をとって魔力弾を放つが、ガキンチョはレオーに似たデバイスのアンカージャッキを使って器用に攻撃を避けていく・・・そして、ビルの壁を使って、私にまっすぐ向かってきた。
「・・・ソニック・・・エッジッ!!」
魔力を帯びた斬撃がガキンチョの剣から放たれ、私に襲い掛かってくる・・・これは、回避っ!!
「それを・・・待ってたんだよ!!」
体制を崩した私に、ガキンチョは剣を振り降ろすが・・・私はとっさにクロスミラージュの魔力刃で受け止めると、もう片方でガキンチョの腹部に魔力弾を放った。
ガキンチョは少しよろめくが、その隙に私は再び距離をとった・・・まぁ、ダメージが少ないのは分かっていた事だけどね。
「さっすがだね・・・ところでさツンデレのお姉ちゃん、質問いいかな?」
ムカッ!!
・・・・・・なんで見ず知らずのガキンチョにまでツンデレ言われないといけないのよ・・・・・・で、何よ?手短にお願いね。
「うんとね・・・・・・ツンデレのお姉ちゃん、なんで私にケンカを吹っかけたの?」
・・・・・・今更何よ?
「だってぇ・・・アタシには心当たりがぜぇんぜぇんないもん♪」
・・・・・・このガキンチョ・・・・・・どこまで私の神経を逆なでするのよっ!?
・・・・・・あれ?・・・・・・どうしてここまでイラつくのかしら・・・・・・
≪・・・メイル、少々よろしいですか?≫
「な〜にガネット?」
≪そちらのレディが怒っている理由、なんとなく想像ができるのですが・・・≫
「ホントッ!?どんな理由かなぁ?」
・・・すると、ガキンチョのデバイスが突然喋りだす・・・あぁ、アンタもアルトアイゼンとかと同じ類な訳ね・・・というか、なんでアンタに私のイラつく理由が分かるのよ?
≪・・・・・・実に簡単な理由です・・・・・・そこのレディは、彼に恋しているのですよ。だから、メイルが抱きついた時に嫉妬していたのです。メイルはスタイルがいいですからね・・・ぱっとみても13歳には見えませんよ?≫
「そっかぁっ!!このツンデレお姉ちゃん、嫉妬していたんだ〜・・・やっぱりツンデレだねっ♪」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な・・・・・・なななななななななななあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!?!?!?
「あれ?なんかあのお姉ちゃん驚いているけど?」
≪・・・まさか、無自覚だったのですか?てっきり、自分の気持ちに気づいていると思ったんですが・・・≫
そんな言葉が聞こえたような気もするが、今の私には何も耳にはいらない・・・・・・
・・・・・・私が・・・アイツを・・・好き?・・・・・・いやいや、そんなんじゃなくて・・・
・・・なら、どうしてあのガキンチョが抱きついた時、私はイラついた?・・・それは・・・アイツが女の子と抱きついていたから・・・
なんで?別に付き合っている訳でもないんだから・・・・・・でも、アイツが他の女の子と一緒にいるのはイヤ・・・・・・
・・・って何考えてんのよ私はっ!?!?!?
「ねぇねぇ?それでさ、ツンデレお姉ちゃんはお兄ちゃんの事好きなの?」
ブチィィィィッッッッッ!!
「だ〜か〜ら〜・・・私はツンデレじゃないって言ってるでしょうがっ!!ジン?好きというよりむしろ大好きよっ!!文句あるかしらっ!?」
「・・・ティアさん、何言っているんですか?」
「・・・すごいね、フリード・・・うん、私もティアさん見たいに・・・」
「キュクル〜♪」
≪・・・Sir・・・私は嬉しいです。≫
・・・・・・・・・・・・あ、あれ・・・・・・どうしてエリオ達がいるのよっ!?というか、今私何を口走ったっ!?
「いや・・・援護しに来たんですけど・・・」
「ティアさん・・・・・・今の告白、演習場にいる人全員に聞こえたみたいですよ?」
・・・・・・え・・・・・・えぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!?!?!?!?
「プ・・・クククククク・・・アハハハハハハハハハッ!!お姉ちゃん、おっもしろ〜いっ!!」
≪・・・まさかこんなところで告白するなんて思いもしませんでしたよ。≫
・・・目の前では、ガキンチョが腹を抱えて爆笑している・・・そこまで笑う事ないでしょっ!?
あとそこのデバイス、それを思ってるのは私もだから。あぁ・・・恥ずかしくて死にそう・・・
≪Sir・・・・・・私は、あなたの事を応援しますよ。≫
「そうですよティアさん!!」
「私達だって、応援しています!!」
・・・うん、エリオ達止めて?その優しさがグサグサと私のハートに突き刺さっているから・・・・・・
というかクロスミラージュ、アンタなんか性格が変わってない?
≪気のせいです、Sir≫
・・・アルトアイゼンとかバルゴラの影響を受けたのかしら。絶対性格変わってるわ。
「というか、アンタはいつまで笑ってんのよガキンチョッ!?」
私の言葉に、ガキンチョは頬を膨らまして声を荒げる。
「むぅっ!?アタシにはメイル・スノウレイドって言う立派な名前があるんだよツンデレお姉ちゃん!!」
「だからツンデレ言うなっ!?私だって、ティアナ・ランスターって言う名前があるのよっ!!」
「そっかぁティアナって言うんだ・・・・・・改めてよろしくねティアお姉ちゃん♪」
そう言って純真無垢な笑顔を見せてくるガキンチョ・・・メイルに、私は今までの怒りが嘘のように静まっていく・・・はぁ、まったくなんだっていうのよ。
「ん〜と、お兄ちゃんも撃墜されちゃったみたいだし・・・どうしよっか?」
その言葉に私達が振り向くと、ヒロリスさんがジンを引きずってこっちに向かっているところだった・・・何やってんのよアイツはっ!?
≪・・・ティアナ、マスターが撃墜されたのは君の告白が原因なのだが?≫
「そうだよ〜?それで動きが止まっちゃったから、ついつい手加減無しの一撃を叩き込んじゃってさ・・・・・・ジン坊、気絶しちゃってんのよ。」
待機状態のバルゴラと、ヒロリスさんの言葉が私の胸に突き刺さる・・・・・・うぅぅ・・・・・・
「・・・まぁ、あんな後で戦うのもなんか変な気分だし・・・メイルも思いっきり暴れたでしょ?今日はこれで終了・・・後は、やっさんが戻ってくるのを待ちますか・・・いろいろ言いたい事もあるし。」
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