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頂き物の小説
第22話「平和な時間の中にいては、平和のありがたみはあまりわからない」:2



 というワケで……ケーキ作りは始まった。



 僕とギンガさん、クイントさん、そしてマグナさんを先生として、あーだこーだ言いながら作っていく……うん。豆芝が生徒側なのは予想してた。



「恭文ひどいっ! あたしだってーっ!」



 うっさい。以前僕の家で見せたあの腕前じゃ先生役なんて務まるワケないでしょうが。

 マスターコンボイ共々、つくづく家事スキル0のコンビだなぁ、ホント。



「…………面目ない」







 …………さて。



 お菓子作りの基本は何か? そう、材料計算だ。



 お菓子は普通の料理と違って、材料の分量が少し違うだけでも、味わいや食感がかなり変わってくる。



 なので、そこから……きちんと計らなきゃいけないって言ってるのに何をやってんだそこのアホコンビっ!





「えー、だってめんどくさいじゃんそんなの」

「そうっスよ。というか、恭文は細かいこと気にしすぎっス。こういうのは勢いっスよ勢いっ!」

「お、おのれら……!
 ……はぁ、まぁいいや。とりあえず、僕の失敗談をひとつ話してやろう」

「なんっスか?」



 そう、アレは昔のこと。ものは試しと、今のアホコンビみたいなことをやったことがある。

 感性と計算、どっちが正しいのか試したくなったのだ。その結果……



「岩石よりもかたいクッキーができた。全部僕が食べたけどね。当然、翌日は顎が疲れてしゃべれなかったさ」

『う゛っ……』

「ちなみに、感覚器官が全部超高感度の生体センサーに置き換わってるジュンイチさんですら同じ失敗をやらかした」

『え゛……』

「で、そこを踏まえた上でひとつ質問。例えば、ケーキが恐ろしい出来になっても……二人は当然食べきれるんだろうね?」

「さ、計量しようかウェンディ」

「そうっスね。計量って大事っスよ。うんうんっ!」



 いやぁ、誠意ある説得っていうのはするもんだね。素直でいいことだよ。







 まぁ、その点スカリエッティが仕切る姉妹年長組はさすがにきっちり測ってるみたいだけど……







「ボール」

「はい」



「小麦粉」

「はい」



「よし、卵黄、摘出!」

「はい」







 ………………うん。







「待てやコラぁぁぁぁぁっ!」

「ん? どうしたんだい? 恭文くん」

「私達の調理に何か問題でも?」

「手順は間違いないはずだが」

「そうよね?」

「ドクターのやることに間違いなんかあるはずないじゃないの」

「うん。ちゃんとしてるし問題はないね!
 けどなんでここだけ空気違うのっ!? ここキッチンだよねっ!? 料理してるんだよねっ!?
 つかウーノさんもトーレさんも、ドゥーエさんも止めてよっ! クアットロはスカに対してイエスマンだから期待してないけどっ!」

「私だけ扱いひどくないっ!?」



 うっさい。まともに相手してもらえるだけでもありがたいと思ってよね、この駄メガネが。

 もっとも、やりとりがおかしい一番の原因はあんたらの家長さんなんだけど。アレですか? 食材を手術中だとでも言うつもりですか?



「とりあえずさすが年長組っつーか、調理の手際に問題はないから、指示だけ何とかしようか、うん」

「こちらの方がしっくりくるんだが……」

「聞いてる周りがしっくりこないからやめてくれって言ってるんだよっ!
 料理にまでマッド臭を持ち込まないでくれるかなっ!?」

「やれやれ。仕方ない。
 ここは講師役であるキミの顔を立てることにしようか」



 僕の顔でもクイントさんの顔でもいいから、さっさと立てておとなしくしててね、うん。



「まぁ……ウーノさんがいるから大丈夫だとは思うけど、何かあったら声をかけてくれればいいから。
 他のみんなも、なんか困ったことがあったらすぐに言ってね。助けるから」





 そう言って、周りを見る。



 セインとウェンディは、さっきの僕とのやり取りで様子を見に来たクイントさんに教えてもらいながら、あーでもないこーでもないと言いながら計量カップや計りと格闘している……あ、いつの間にかセッテが加わってる。



 ディエチはオットーやディードと一緒に、マグナさんの仕切りで別のスポンジ作りに苦戦中だ。

 なんか、ディエチは生地を混ぜるのが楽しいのか、妙にうっとりした表情を浮かべている……そういう属性持ちだったんだね。



 ノーヴェはスバルやマスターコンボイ、ホクトと一緒に、ギンガさんに教えてもらいながら奮闘中……何気にナカジマ四姉妹集結か。クイントさんかマグナさんが仕組んだかな?



 ルーテシアとアギトは……うん、チンクさんと、メガ―ヌさんと楽しそうに一連の作業をこなしながら、オーブンの調整なんてしてる。

 つか、あの人料理スキル高いのか。この中で一番進んでるでしょ。

 それに、チンクさんが、なんかいつもと違う。すごい柔らかい感じになってる。すごい人だ……



 ……なんかこっちみてニッコリと笑った。とりあえず、僕も返す。多分すっごく不自然な笑いになっていただろう。



 それにしても……こうして見ていると実感する。



 ……この子達は、本当に戦うこと以外のことを教えてもらっていないんだな。

 なんでジュンイチさんが“JS事件”中から彼女達のことを救おうとしていたのか、そしてクイントさんやギンガさんがどうして力になりたいと思ったのか、少しわかった気がする。

 きっと、こういうほんのちょっとのことの大切さを、教えたかったんだ。



 それが積み重なって、きっと日常は生まれるんだから。まぁ、僕だって戦うのは好きだし、楽しい。だけど、そればっかりなんてイヤかな?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おい、どうした?
 何がどうなってる?」

「わかんねぇよ。
 今、局員が路地裏に入ってアイツを探してるけど……」



 追いつき、尋ねるオレの問いに、その体格のせいで路地裏に入っていけず、待機しているガスケットが答える……はい。現在まだまだ窃盗犯の追跡中です。



「まぁ、あっちこっちから局員が入っていってるから、逮捕も時間の問題だと思うんだな」

「そうすんなりいけばいいけどな……」



 アームバレットの言葉にシグナルランサーがつぶやくけど……とりあえず。



「あー、シグナルランサー。
 そういう発言は慎もうか」

「何でだ?」

「こういう時のお約束として、そういう発言はホントに“すんなりいかない”事態を招き寄せるからさ……」



 うん。そういうのがお約束だ。

 そしてきっとそれは世の真理。だからこそ……





















『な、何だ貴様!?』

『止まれ! 止まらないと……!?』

『ぅわぁっ!?』



 ……などと不吉な通信が聞こえてきたりするんだよ。





















『………………』



 で、それを聞いたオレ達の視線が集まる先は一ヶ所しかない。すなわち……



「お、オレが悪いワケじやないよな、コレ!?」



 いや、シグナルランサーが悪い。そういうことにしておこうか、うん。



 まぁ、とにかく……



「あーあー、こちら路地の外の待機組。
 突入した人達。何があったの? 誰かやられた?」

『い、いや……
 こちらの被害は……0だ』



 はぁ? じゃあ今の悲鳴は何さ?



『ヤツが、何らかの強化服のようなものを!
 ……ダメだ、素早すぎて追いきれないっ!』

「強化服……?」

「そんなの持ってる風には見えなかったぜ」



 無線から帰ってきた答えに、アームバレットやガスケットが首をかしげる――ヤツをずっと追跡していた、ヤツをずっと視界に捉えていた二人が言うんだから、そこは間違いないだろう。



 だとすると、どこでそんなものを……いや、そこはいい。

 今問題なのは、その強化服とやらがどんなものなのか、だ。



 少なくとも攻撃能力はないだろう。そんなものがあったら今まで逃げ回っていた者の心理として、まず反撃に転じているはずだ。

 となると、強化の趣旨は補助系の能力の強化……さっきの無線からすると、スピードの強化と見て間違いはないだろう。





 ……くそっ、それって、まぢでマズくないかっ!?

 元々ガスケット達を振り回せるほどのスピードだったヤツが、その上さらにスピードアップしたってことなんだから。

 まさにスピードの王者……そうだな、スピードキングとでも名前を贈ろうか。

 少なくとも、突入していった連中じゃそんなヤツを捕捉するのはムリ……





『くっ、当たれ、当たれぇっ!』

『ダメだ! 速すぎる!
 目標は通常の3倍のスピード!』

『ヤツだ……ヤツがくる!
 赤い彗星だっ!』



『そんな!? オレが遅いっ!? オレがスロウリィ!?』



『速いっ!?』

『違うな、貴様が遅いだけだ』



『質量のある、残像だというのか!?』





 ……のはずなんだけど、地上部隊、何気に余裕ないか? ネタ発言飛び交ってんだけど。



 くそっ、オレのいないところでネタ祭りなんぞしやがって! オレも今すぐ行くから……



「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうがっ!
 ほら、追いかけないと!」



 ………………シグナルランサー、空気読もうよ。ここはボケるところだよ?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………様子はどうだ? ブルーバッカス」



 おや、ブラックシャドー。結局見に来たんだ。



「今いいところだぜ。
 ニノ・セクストンが例のスーツで逃走を再開した」

「ヤツは?」

「いる。
 六課のトランスフォーマーどもと一緒に、追跡に加わっている」

「まぁ、そうでなければ困るがな」



 そう。ヤツがいなければこんなお膳立てをした意味はない。

 すべては、ヤツの今の実力を測るために用意したシナリオなのだから。



「ヤツの能力の中で最も怖いのは、余りにも高い戦闘能力よりもそれを最大限に発揮する頭脳だ。
 ヤツの知恵があるからこそ、蒼凪恭文や他の仲間達も最大限に活きてくる」

「だからこそ、まずはそれを測る、か……」

「あぁ。今のニノ・セクストンのスピードは、あのフェイト・T・ハラオウンの最大速力すら上回る。
 それを、スピードで劣るあの男がどう捉えるか……」



 さぁ……柾木ジュンイチ。

 貴様がどうしのぐか……知恵で乗り切るかさらなる手札で真っ向から打ち破るか……貴様の手の内、しっかりと見せてもらおうか。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 さて、なんだかんだで焼成作業に突入である。



 みんなであれこれやりながらようやく生地は完成。オーブンは完全に暖まっていたので、その中に生地を注ぎ込んだ型を入れて焼く。



 大体、50分前後かな?





「長いっスよね〜。
 こう、アギトさんの炎熱魔法とかでぱーっとできないっスか?」

「あほかっ! 生地がダメになるでしょうがっ!
 ウェンディ、いいことを教えてあげる。空腹と待つことは、人を幸せにするのよ?
 こうやって待つことで、ケーキを食べた時の美味しさがまた倍増するんだから」

「そうよウェンディ。なぎくんは喫茶店でいろいろ手伝ってたんだから、説得力はあるよ?」

「ほう、恭文は飲食店勤務の経験があるのか。
 なるほど、道理で手つきにムダがないと思った」



 いや、それほどでも……最初はぶきっちょでしたよ?



「ということは、お菓子作りだけじゃなくて料理とかもできるの?
 例えば、喫茶店で出すような、パスタとかピザとか」

「軽食だけじゃなくて、和洋中の大体の料理はOKです。練習して、作れるようになったんです」





 ……まぁ、フェイトに食べてもらって『美味しい』って言ってくれるのがうれしかったからなんだけどね。

 みんなに涙ぐましい努力だと言われたのは、時の彼方に置いていこうと思う。



 そしてメガーヌさん、なんでそんなにニコニコしてるんですか。



「いえね、これはさらにいい感じだと思って〜」

「お母さん、なんかうれしそう」

「ねぇ恭文、ルーお嬢様のお母さんと何かあったの?」

「そうだぞ。お前、なんでルールー差し置いて仲良さそうなんだよ。なんか作業しながらやたらと笑いかけてたりしてたしよ」



 あー、みんなの視線が厳しい。いや、あったというかなかったというか……うん、こう、意気投合したのですよ。



「そうなの。運命的なものを感じるくらいに意気投合しちゃったのよ。ね?
 あと、私の昔からの友達が、恭文くんとも友達なの。そのおかげかな」

「そ、そうですね……」

「一応納得はできるっスけど……なんか気になるっスね」

「恭文、吐くなら今のうちだよ? あたしらだって鬼じゃないんだからさ。
 じゃないと、恭文の心にディープダイバーして、潜入しちゃうぞ〜?」

「誰が上手い事を言えといったっ!?」

《そうですよ。ただ、マスターの手が胸へと当たっただけです》





 その瞬間、世界が凍った。そして、僕は駆け出した。



 そう。僕の安全という名の自由を求めてっ!



 でも……外へは逃げられなかった。





 カンッ!





 横から飛んできたのだ。そう、フォークが何本も。僕の頬をかすめて、壁へと突き刺さる。



 後ろから、鬼の気配がする。いくつも……いくつも……





「……アルトアイゼン、こっちへ来てくれるか?
 被害を及ばないようにするのには少しばかり姉は怒りすぎた」

《了解しました》



 そう言って、アルトは後ろへ飛んでいく。って、おい逃げるなっ!





 こうなったら……マスターコンボイ!



「…………その話が事実だとしたら、討たれて当然と思うオレはおかしいのか?」



 裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!





『……少し、頭冷やそうか?』





 その瞬間、僕の未来は……決定した。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ガスケット! アームバレット!
 ヤツはどうした!?」

『くそっ、ダメだ、追いつくことすらできねぇ!
 視界に捉え続けるだけで精一杯!』

『アイツ、速すぎるんだな!』



 ダメか……ガスケット達でも追いつけないなんて、シャレになってないぞ。最高速度だけで言えばフェイトよりも足速いんだぞ、あの二人。



「ジュンイチ、どうするの!?
 あの二人で追いつけないんじゃ、捕まえられるほど速い人なんて六課にはいないよ!」

「さっきの誘導の通信もだんまりだ。
 このままでは……」



 わかってるよ。今考えてる!

 とはいえ、ブイリュウやシグナルランサーの言うとおり、手を打とうにも切れる手札がほとんどない。



 少なくとも、さっきやろうとした“監視カメラで動きを追って、局員達に回り込んでもらう”というのはナシだ。

 あのスピードでは回り込む前にすり抜けられるだろうし、そもそも速すぎて監視カメラの処理能力では、映像として捉えられるかどうかも疑問だ。



 フェイトを呼んで追いかけてもらうという案もあるけど……たぶん呼んでも状況は変わらない。

 さっきも言ったとおり、トップスピードはガスケット達の方が上回るのだ。小回りを活かして逃げ回ってるならフェイトにも勝ち目はあるだろうけど、単純なスピード勝負でガスケット達をぶっちぎるようなヤツが相手じゃ、さすがのフェイトもどうしようもない。



 アイツにスピードで比肩できそうなのは……エクシゲイザーかニトロコンボイくらいか。けど二人ともミッドには不在。いないヤツらをあてにしてもしょうがない。







 …………となると……





「ジュンイチ……?」

「何か思いついたのか?」



 思いついた、っつーか、切る手札を決めた……ってところかな。





 こうなったら、しょうがないや。



 疲れるから、あまりやりたくなかったんだけど……











 オレのフォームチェンジで、ぶっちぎるしかないっしょ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……なるほど、そういうことか」

「はい、そういうことです」



 なぜか正座なんてして、僕は先ほどのことを話した。ちなみに、触った時の感想まで吐かされました。



「ギンガ、この場合はどうすればいいのだろう?」

「とりあえず通報よね。あぁ、あと六課の方にも連絡を……」

「お願いだからそれは勘弁してぇぇぇぇっ! お願いっ! フェイトにはっ! フェイトには知られたくないのっ!」

「よし、フェイトお嬢さんに連絡だね。いや、よかったよかった」

「よくないわっ!」



 ヤバイ、この状況は敵しかいない。どうすりゃいいんだっ!?



《まぁ、自業自得ですよね》

「アルトのせいだよねっ!?」

「あー、みんな。私は大丈夫だから、気にしないでほしいな」

「ですけど、なぎくんがご迷惑をおかけしてるワケですし……」



 そんな、角の生えたギンガさんに怯えつつ、メガ―ヌさんがバツの悪そうな顔で、言葉を続けた。



「いや、私も車椅子で暴走したのが悪かったんだしね。恭文くんは、それを助けようとしてくれただけだもの。事故よ事故。
 それに……」

「それに?」

「他の男の人ならともかく、私は恭文くんにだったら、胸、触られても平気よ?」





 そのある意味核弾頭級の発言が場に飛び出した。

 その瞬間、ギンガさんとチンクさん、ディエチにノーヴェにセインにウェンディ、それに豆芝やアギトも顔を真っ赤にした。



 で、当然僕も真っ赤です。





 ……こらそこの年長者組。具体的にはクイントさんにマグナさんにウーノさん、ドゥーエさん……でもってスカと駄メガネ。あなた達だよ。

 何ですか、その何か言いたそうなニヤニヤ顔は。こっちはイヤな予感しかしないんだけど。





「ルーお嬢様のお母さん、もしかして恭文のこと……」



 ディエチのしぼり出すような問いかけに、メガーヌさんは顔をなんでか赤らめて、照れたように笑って……言い切った。



「うん、気に入っちゃった……♪ だって、今までを見るに、すごくいい子なのは確定なんですもの」



 い、いい子っ!?



「あぁ、運命の出会いってあるものなのねっ! 生きていてよかったわ。自由恋愛バンザイよっ!
 そういうワケだから恭文くん、シングルマザーだけど……いいわよね?」

「何がっ!? ……いや、そんな艶っぽい瞳で僕を見ないでっ!」





 な、なんだろう。あの人の後ろに美由希さんの影が見える……!





「あ……そうなんだ。ふふ、それならそうだって言ってくれればよかったのに。
 大丈夫、私がいろいろ、お・し・え・て・あ・げ・る・か・ら♪」

「何を察したっ!? あんた一体何を察したっ!
 そして何を教えるつもりだ何をっ! つーか子供の前でそんな発言するなぁぁぁぁっ!」



 これはよい子でも読める小説なんだよっ! あーる18的な要素は極力排除していくんだよっ! お願いだからエロを持ち込むなぁぁぁぁっ!



「………………?
 おい、メガーヌ・アルピーノ。恭文に何を教えるつもりだ?」

「あら、わからない?
 それはね……」

「具体的なコメントを求めるんじゃないよ、マスターコンボイっ!
 メガーヌさんも答えようとしないでっ!」

「恭文……お父さん?」

「違うからっ! つか、ルーテシアもノらないでっ! 僕にはフェイトがいるんだからっ!」

《あぁ、誤解のないように言っておきますが、片想いです。それはもう完全無欠に》

「ほっとけっ! ……って、あれ?」





 ……え? なんでそんな目で僕を見るの?





「……へぇ、アレっスか。恭文はフェイトお嬢さんのことが……へぇ」

「なるほどな。それでさっき、あの人に知られたくないって騒いでたってワケか。そりゃ、知られるとマズいよな」





 ……ウェンディとノーヴェが、何やら鬼の首を取ったようなニヤニヤ顔で僕を見る。

 つか、ノーヴェ。そんな顔できたのね。ビックリだよ。あれかな、近代ベルカ式とかじゃないよね?





「そ、そうだよ……なんか悪い?」

「悪くなんてないっスよ。まぁ、どういう経緯でそう思ったのかは聞かせてほしいっスけどねぇ。ね、みんな?」





 そうして、みんながニコニコとうなずく……えっと、しゃべらないとダメ?





「そうだな、是非聞かせてくれ。姉としても、興味があるしな」

「興味あるんですかっ!?」

「……なぜ驚く。姉は少し傷ついたぞ。確かに姉はこういう体型だが、需要はあるんだ」

「その発言はやめてくださいっ! 危ないですからっ!
 というか、ごめんなさい……その、チンクさんはこういう話に、いの一番に首突っ込むイメージがなくて」

「謝ることはない……ネタばらしをするとだ。最近、そう言った情緒関係を勉強しているんだ。
 ギンガやクイント殿やマグナ殿、カルタス殿やナカジマ部隊長達を筆頭に、いろいろ聞き回っているというワケだ」

「あー、なるほd」

「その実、柾木ジュンイチのハートをキャッチするためのお勉強だったりするんだけどねー♪」











 間。











「余計なことは言わないでもらおうか、クアットロ」

「な、殴ったわね!?
 非格闘型のクセして、ノーヴェちゃんやトーレ姉様ばりの腕力でっ!」



 ………………とりあえず、チンクさんをジュンイチさんとの関係でからかうのはやめた方がいいというのはわかった。



 でないと……今のクアットロみたいになるから。





「と、いうワケで聞かせてもらおうか、恭文」



 あー、それはいいですけど、駄メガネのバカ発言で上がったテンション下げてもらえます? 近寄りがたいんですけど。



 さて、あとは周りの方々か。どうして僕を取り囲むのさ?



「あー、ごめんね恭文。実は私も……」

「あたしにも教えてほしいな〜。いろいろと気になるし」

「ディエチ、そんなに申しわけなさそうにしなくていいから。で、セイン。少しはディエチを見習って。なんで僕にマイク代わりにお玉向けてるのよ?
 ……とりあえず、正座を止めていいですか? それなら話しますよ」

「ルーテシア、ごめんね。お父さんゲットできなくなっちゃった」

「大丈夫だよお母さん。『男と女はラブゲーム。チャンスが有れば奪ってよし』って、ドクターが……」

「子供に何を教えてるのさそこのオレンジ畑っ!?」

「うーん、軽いジョークだったんだが」

「その前にそういうジョークが言えたことにビックリだよこっちはっ!
 つか、この年頃の子はジョークで言ったことでも素直に受け入れちゃうんだから、余計なこと言うなよぼけっ!」





















 とりあえず、正座だけはやめさせてもらった。それで、みんなの視線が集まる中、話した。





 まぁ……その……過去の話とかも絡んでくるので、その辺りも含めて、どうしてフェイトに惹かれたかという話を。

 ここで終われば、にこやかな笑みに囲まれた素晴らしい時間で終わったのだろう。





 だけど、そうはならなかった。アルトが過去にどういうスルーのされかたをしたのかをバラしたもんだから……大変なことになった。





















「……すまん、恭文。ハンカチを……ハンカチをくれ。姉は……涙が止まらん。恋とは……悲しいものなのだな」

「ハンカチは渡しますけど、泣くのはやめてください。悲しくなってくるじゃないですか。
 あと、これだけ悲しいのは僕だけです。いえ、それがまた悲しいですけど」

「これ、アレっスよね? 感動巨編ってヤツっスよ。もう、涙が……」

「あたしもだよ。
 恭文……何ならあたしが付き合おうか? ほら、あたしは特に嫌いとかじゃないし」

「なんの告白っ!? つーか泣くなポジティブコンビっ!
 あと、そういう言い方すると、まるで僕がフェイトに嫌われてるみたいじゃないのさっ!」





 他のメンバーも同様である。



 ギンガさんとマスターコンボイは僕と目を合わせてくれない。ディエチはひたすらに『ごめんなさい……』を繰り返し、テーブルに突っ伏し、声を殺し泣く。

 双子コンビやセッテ……ホクトも、今ひとつ理解できない様子だけど、話の重みは伝わったらしく表情が重い。



 アギトとノーヴェは……なんか横で僕の肩を叩きながら『女なんて、星の数ほどいるさっ!』って、泣きながら励ましてるし。



 ルーテシアもなんかかわいそうなものを見る目で、僕を見る。



 トーレさんとドゥーエさん、ウーノさんも僕に背を向けたまま……けど、プルプルと震える肩と時折鼻をすすっているその仕草がどういう状態なのかを明確に教えてくれる。





 つか……豆芝、スカ、駄メガネのKYトリオですら申しわけなさそうに顔をしかめてる時点で、アルトの話がみんなをどれだけ凹ませたか、察してくれると助かります、うん。





「……それなら、お母さんと付き合おうよ。お父さん」

「お父さんは決定っ!? いや、だから……そのね、フェイトが……好きだし……」

「でも、お父さんのこと見てくれないよ?
 それに、フェイトさんはいい人だと思うけど、お母さんだって負けていないと思う。フェイトさんと同じで胸も大きいし」



 お父さんはやめてくれないかなっ!? そして胸の話はしてやるなぁぁぁぁぁっ!



「……フェイトお嬢様はいくつなのかしら」

《サイズはわかりませんが、体型はギンガさんと同レベルですね》

「……うん、前に会った時も思ったけど、いい勝負してるわよ」



 はい、ウーノさんもアルトもクイントさんも、微妙な会話しないでください。ギンガさんの顔が赤いから。真っ赤だから。



「……恭文、マジメに聞いていいかな。やっぱり巨乳じゃなきゃダメなの?」



 セインがムチャクチャ真剣な顔で聞いて来た……うん、そうだよね。そう見えるよね。仕方ないと思う。でもね、そうじゃないからっ!



「いや、だから以前言った通りだって……
 セインは、充分可愛いし魅力的だよ。話してると楽しいし、気負わなくて済むし、一緒にバカもやれる感じだし。
 胸が大きかろうが小さかろうが、そこは変わんない。いや、マジメな話だよ? お願いです。信じてください。本当に違うんです……」

「あぁ、そんなに落ち込まなくていいよ。ごめん、ちょっと意地悪しちゃったね……ありがと。それ聞いて安心した」

「……というか、こんな答え方で大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」





 少し照れたように笑うセインの表情とは違って、僕の心は、少しだけ暗い気持ちだった。

 ルーテシアの言葉が心に突き刺さっていたから。その……通りだ。



 結構がんばってるのになぁ。ダメ……なんだよね。

 フェイトは、僕のこと弟としてしか見てくれなくて、正直どうしたらいいのかって、手詰まり感を覚えてる。

 いや、じっくりいくしかないんだけどさ。そりゃあ、前にゲンヤさんの言ってたことはわかる。でも……





「……まぁ、あれよ」



 メガーヌさんが、僕の傍まで来て、うつむいていた僕の頭に手をポンっと乗せてきた。

 柔らかくて、優しい暖かさが、頭と、心を支配する。



「とにかく、そろそろケーキも焼ける頃合だし、みんなで美味しく食べましょ?」

「……はい」

「あ、ごめんなさい。隊舎に連絡する時間なので、ちょっと出てきます。なぎくん、あとお願いできるかな?」

「うん、りょーかい」

「ごめんね、すぐに戻ってくるから」





 そう言ってギンガさんは調理室の外へと飛び出した。





“大丈夫よ”

“ふぇっ!?”



 思念通話っ!? あ、そっか。この人も現役時代はルーテシアに負けないくらいに優秀な召喚師だったっけ。できて当然か。



“今日会ったばかりの私が気に入るくらいなんだもん。保証できる。
 キミなら絶対に、その子のこと振り向かせることができるよ。大丈夫”

“……はい、ありがとうございます”

“そういうワケだから、あとでメールアドレス教えてね♪ まずはメル友って感じでっ!”

“はいっ!?”



 こ、この人もしかして……話を聞いてなかったっ!?



“もちろん聞いてたわよ? でもね……愛に障害は付き物なの。そして障害が有れば有るほど、愛は燃え上がるのっ!
 私、こう見えてもけっこうしつこいんだよ?”





 ……ダメだ。この人にはやっぱり勝てない。とりあえず、メールアドレスはちゃんと教えよう。じゃないと六課まで来そうだし。





“それに……”

“それに?”

“私、さっきも言ったけど、仮死状態も含めて、いろいろ経験はあるからさ。相談してくれるかな?
 話を聞くに彼女、相当な難物みたいだし”

“あの……でも……”

“いいから……キミ、本気でどうしたらいいのか、悩んでるんでしょ? そういう時くらいは人を頼りなさい”



 ほえ? あれ、なんか違う。さっきまでのぶっとびキャラと違う。こう、落ち着いた感じが……



“キミ、けっこう突撃タイプだってね。
 ジュンイチくんと一緒。ひとりで突っ込んだりとか、格上相手とやりあうことが多いとか”

“……そう、ですね”

“ま、ヒロちゃんからいろいろと聞いててね。その上で言わせてもらうけど、キミ……危ないね”



 メガーヌさんは、言い切った。僕が、危ないと。チンクさんや、ルーテシアといろいろと楽しく話しながらも、思念の声は、鋭く、真剣だった。



“一直線で、一途で、まっすぐで……だけど、それゆえに危ない。
 そういうところもジュンイチくんと同じ……とことん似た者同士ね、キミ達”

“……そんなことはないですよ? よく汚いと言われますし、痛いのも苦しいのも嫌いですし”

“それは一部だよ。本当のキミは、きっとすごく強い。痛くても苦しくても、迷ったり、止まったりしないで戦える。
 だけど……ううん、だからこそ、同じくらいにすごく危ないよ。死にそうなくらい傷ついてても、平気な顔して剣を振るう。大丈夫って顔して、戦おうとする”



 ……そうかも。戦いで迷ったりするの、嫌いだし。



“そう、見えます?”

“見える。ジュンイチくんっていう“前例”があるだけに、余計にね。
 だからね、相談してほしいな。人生の先輩として、いろいろと力になるよ。だから、覚えなさい。私が教えてあげる。
 苦しい時に、困った時に、誰かに甘えたり、頼ったりするのってね。恥ずかしいことでも、なんでもないんだよ?
 私はキミより年上だもの。年上のお姉さんの前では、甘えてもいいんだから”

“……ありがとうございます”





 この人、もしかしたらすごい人なのかも。会って数時間しか経ってないのに、ここまで……





“それに、一回練習はしておいた方がいいと思うんだよね。じゃないと、やっぱり緊張して上手くいかないだろうし”

“なんの練習っ!?”

“……もう、そんなことを女の口から言わせるつもり?”

“うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!”










 ダメだっ! この人やっぱり強すぎるっ! オーバーSとガチにやりあう方がまだ勝率あるよこれっ!?



 マスターコンボイも何とか言ってよっ! 色事に淡白なマスターコンボイならきっとこの人止められるからさっ!











 ………………って、どうしたの? マスターコンボイ。

 なんか、黙り込んじゃって、空中をじっと見つめて……まるで電波な人みたいに。





「最後の一言は余計じゃないか!?
 ……別に、大したことじゃない。
 柾木ジュンイチが……街のド真ん中で“力”を高め始めた」

「え………………?
 ……ホントだ。なんかお兄ちゃん、マヂっぽい」

「パパ、どうしちゃったんだろ……」



 え? マスターコンボイだけじゃなくてスバルやホクトまで?

 ギンガさん、この三人、いつの間にこんなに電波になっちゃったの?



「なぎくん、とりあえず電波から離れようか。
 スバル達なら大丈夫よ。ジュンイチさんほどの精度はないけど、ジュンイチさんみたいにみんなの“力”を知覚する技を身につけてるだけだから」



 うん。それが電波だと思うんだ。





 けど……マスターコンボイ達の知覚がホントなら、ジュンイチさんが何やら本気モードってことで……何かあったのかな?

 でも、あの人がマヂになるような事態なら、僕達に報せが来ないってのもおかしいし……





 …………うん。ホントに何してるの? ジュンイチさん。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 よーし、精霊力も十分高まったし、そろそろいくかっ!



 現在、オレはビークルモードでスピードキングを追跡しているアームバレットの車上で、精霊力を高め終えたところ。





 その目的は単純至極。



 そう……スピードキング撃破のためだ。





 ちなみに“装重甲メタル・ブレスト”も着装。爆天剣も用意して戦闘準備万端。その上で何をするかというと……





「フォースチップ、“スピーディア”!」





 その呼びかけに答えて、飛来するのはスピーディアのフォースチップ。オレの目の前に、一定の距離を保って舞い降りてくる。

 そう……フォースチップだ。マスターコンボイ達トランスフォーマーや、恭文達のようにプラネットフォースのある星に生まれ、その“力”の加護を受けながら育った者しか扱えないはずのそれだ。



 本来なら、プラネットフォースの加護を受けていないオレには扱えないはずのシロモノなんだけど……みんなが使ってるのを見て、どう呼び出してるのか、その際に“力”をどう行使しているのかを読み取って……そんな感じで、独学で呼び出し方を覚えたのだ。





 もちろん、オレにはチップスロットはないし、覚えた当時はデバイスだって持ってなかった。おかげで最初は大技を使う際のエネルギー源、くらいにしか使えなかった。

 なので、もっと効率的に使えないものかといろいろ試行錯誤を繰り返して……編み出したのがコレだ。





「イグニッションッ!」





 宣言と同時、オレは手にした爆天剣を思い切りフォースチップに突き刺した。それに伴って、フォースチップは元のエネルギーの塊に戻り、爆天剣を伝ってオレの周りにまとわりついていく。



 エネルギーは“装重甲メタル・ブレスト”に取り込まれ、その形状を変化させていく――そうして出来上がるのは、オレの“装重甲メタル・ブレスト”、ウィング・オブ・ゴッドの新たな姿。

 その名も――









「ウィング・オブ・ゴッド――モーメントフォーム!」









 この姿だ。



 余剰エネルギーを排出するマフラー、タイヤを模したエネルギー加速器……カーレースの星、スピーディアのフォースチップを使ってのフォームチェンジに相応しいデザインに仕上がった、オレの戦闘フォームのひとつ。



 その姿でどうするかっていうと――単純明快。



「待ち、やがれぇぇぇぇぇっ!」



 そう。追いかけるのだ、スピードキングを。

 左の腰に新設された鞘に爆天剣を納め、オレはアームバレットの上から飛び降ると前方を走るスピードキングの後ろ姿をにらみつけながら地面に着地――直後、オレの姿はすでに着地点にはなかった。





 だって――すでにスピードキングの真後ろに張りついてるから。



 これが、モーメントフォームの能力――“moment”、すなわち“一瞬”。その名に相応しく、火力もパワーも犠牲にして、ひたすらにスピードを追求した、スピード“だけ”の形態なのだ。





 それは、ちょうど目の前のスピードキングと同じ条件――オレに追いつかれたのに気づいて、あわてて逃げようとするけど、残念だったね。

 同じ条件だったら――





「基礎的なところでスペック勝ちしてるオレの方が……速く走れるに決まってるでしょうが!」





 そういうことだ。あっさりと追い抜いて、カウンターとばかりにそのお腹に回し蹴りを叩き込む!



 パワーに欠けるフォームで、しかもムリヤリ感タップリな姿勢からの蹴りだ。大した威力はないけれど……このスピードの中ではその程度の蹴りでも十分だ。バランスを崩して転倒……チッ、持ち直しやがった。



 けど、こっちだってフォースチップのバカデカいエネルギーをムリヤリ制御してる……要するにムチャクチャ疲れる状態で全力疾走してるんだ。長々と続けるつもりは毛頭ないんだよっ!



「フォースチップ――フルバースト!」



 だから、一気に決めに行く――フォースチップのエネルギーを全解放。最大速力でスピードキングを抜き去って、その前方に回り込む。



 腰の鞘に納めた爆天剣に手をかけ、何とかは急に止まれない状態で突っ込んできたスピードキングと――交錯っ!





「閃け、刃――」







「瞬刃殺」





 スピードキングがオレの脇を駆け抜けた時には、すでにオレは納刀のかまえに入っていた。振り抜いた爆天剣を静かに鞘に納める。



 納刀し、キンッ、と爆天剣の鍔飾りが音を立て――











「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」











 スーツがバラバラに斬り刻まれて、加速の術を失ったスピードキングは、マッパな姿で思い切り引っくりコケるのだった。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 さて、そんなこんなで……ケーキが焼き上がった……って、ギンガさん来ないし。



「……うん、いい焼き上がりよ。ギンガちゃんが来るまでに、私達だけで盛りつけしちゃおうか」

『おー!』



 焼き上がったそれぞれのスポンジケーキに、みんなが作った生クリームを塗っていく。



「できるだけ均等になるように塗るの。こんな感じで……」

「ほぇー、上手いもんっスねぇ〜」

「なのはさんの実家で働くと、こういうの作れるようになるのかな……」

「なのはの実家にこだわらなくても、これから実習とかで作っていけば、ディエチひとりでもきっと作れるようになるよ。
 まぁ、僕も多分また呼ばれるだろうし、その時にもいろいろ教えるよ」

「そっか。恭文、ありがと」



 クリームをきれいに塗ったら、次は盛りつけ。

 白い土台に、赤いイチゴを盛りつける。そうして、ケーキの上の隅に、クリームをしぼり出す。



「あー、これおもしろいなぁ」

「力入れすぎると一気に飛び出すよ?」

「うん、だいじょお……ぶはっ!」



 言った傍から……セインの顔がこう……絵的に表現できない状態になった。強いて言うなら、R18です。



 でも、とうのセインは、その顔に付着した生クリームを舐めて……



「うん、美味しいっ!」

「そりゃよかった……って、そのまま全部舐め取る気かいっ! いいから、早く顔洗ってきなよ」

《絵的にいろいろマズイですよソレ》

「えー、いいよ別に」

「……砂糖やらなんやら付着した状態でいるつもり? 舐めとっても、それは変わらないよ」

「そりゃマズイね……」



 あと、絵的にね。うん、いろいろと。



「でも、どうせならこう……悦に浸ったような表情で、息を荒めにして言わないとだめよ。そういうので男の子はクラっとくるんだから」

「ちょっとそこのお母さん? 変なアドバイスをしないでくださいっ!」

「お、おいしーよー?」

「セインもやらなくていいから……」



 さて、そんなこんなでやっているうちに……



「かんせーいっ!」

『おー!』




 ちょっとだけ歪だったり、盛りつけが下手なところがあるけど、これがハンドメイドのケーキの味なのだ。



 お店の完成されたケーキも確かにいい。だけど、こういうのは……とてもいい。



 さて……まだ来ないな。ちょっと呼びに言った方がいいかもしんないなコレ。





「ごめんね、遅くなっちゃって……って、もう出来上がってるのっ!?」

「とっくにだよ。みんなで盛りつけもしちゃったんだから」



 ウワサをすれば影ありとはよく言ったものだ。ギンガさんがようやく来た。



「ごめんなさい。つい……」

「何がついなのかを詳しく聞きたいよ。さ、早く食べよ? 暖かいものは、暖かいうちが美味しいってね〜」



 さて、ケーキを切り分け……うん、ディードに頼もうかな?



「わ、私ですか?」

「うん、半分お願い……あ、気合入れてやった方がいいよ? そこの欠食児童達が大きさにこだわるから」



 そう言って、僕はその“欠食児童達”を見る。

 スバルにノーヴェ、ホクトにポジティブコンビだ……はいはいそこ、ムダにこちらにプレッシャーをかけない。ちゃんと均等に分けるんだから。



『はーい(っス)』



 ケーキを均等に1ホール八等分に分ける。まぁ、人数分だと、2、3個とかだけど、それでも自分達が苦労して作ったもの。食べる瞬間はひとしおである。



 さて、出来はどうかな……ぱく!










『美味しい〜♪』










 うんうん、これはいけるわっ!



「ホントっスね。こう……心に染み渡る甘さっスよ」

「私達、受刑者だよね? こんな事してていいのかなっ!?」

「……なんか、いいよな。こういうの、アタシ達でもできるんだな」



 あー、つい疑問に思ってしまうけど、今日はいいじゃないのさ。じゃないと、僕が食べられないんだし。



「……美味しい」

「本当に。普通に食べるよりも……こう、美味しさが違います。上手くいえないんですけど」



 ケーキを一口食べる度に、幸せそうな顔をする双子コンビを見て、ちょっとうれしくなる。



「そうね。うん、なんか違うわ」

「……こういうことなのだろうな。きっと」



 ドゥーエさんやチンクさん……見れば、他の年長組も、あのスカや駄メガネでさえも幸せを実感している……っと、そうだった。



「はいみんな。紅茶も淹れたから、ケーキと一緒にどうぞ」



 そう、紅茶の準備をしていた。で、全員分淹れ終わったので、みんなに配る。



「アギトには……はい。アギトサイズのティーカップ」

「お、悪いな……うん、このお茶美味ぇなっ!」

「ほんとに? いやぁ、よかったよ」



 うむぅ、やっぱりおいしいって言ってもらえると、理屈を抜きでうれしい。うん、こういうのいいな。



「……うん、確かにこの紅茶はレベルが高い。これも、高町一等空尉の実家仕込みなのか?」

「そうです。あと……聖王教会のカリムさんにも教わりました。あの人も紅茶うるさいんですよ」

「あぁ……ほんとうにいい子なのね。自由恋愛バンザイよっ!」

「お母さん、やっぱりお父さんは捕まえないといけないね」

「そうね、お母さんがんばるわっ!」



 がんばらないでください。いや、心からそう思う。そして、お父さんはもう決定稿なんだね。うん、わかってたよ。

 でも、本当に美味しくできてよかった〜。食べてて幸せになるんだもん。



 美味しい料理は、人の心まで幸せにする。悲しい事があってもお腹は空く。

 そんな時に、美味しい物を食べると……問題が解決していなくても、なんとかなったような気がする。

 刃物を握る手で、人を幸せにできるのは、料理人だけだって言うしね。あ、これは天道さんの受け売りね。





 …………そういうの、ちやんとみんなに伝わったかな? うん。きっと伝わったはず。



 だって……みんな、すごく幸せそうに食べてるんだもの。





 少しだけ、役に立てたのかな……これだけでも、ここに来てアレコレした甲斐はあったかな。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「とりあえず、一件落着、っと……」

「だなだな」

「無事解決して何よりだな」



 スピードキング改め窃盗犯ニノ・セクストンは無事局員に連行されていった……ガスケットの言うとおり一件落着、といったところだ。



 …………まぁ、窃盗罪に加えてわいせつ物陳列罪まで加わったのは……事故だったってことにしておいてくれるかな? オレだってしたくてマッパにしたワケじゃないんだ。





 つか……今はその辺の追及を受ける余裕も、それに返す余裕もない。





「…………大丈夫? ジュンイチ」

「しこたま疲れた……」





 ブイリュウの問いに、オレはそう答えるしかない……いや、ホントにそのくらいの余力しか残ってないのよ。





 今回使ったモーメントフォームを始めとした、フォースチップを使ってのフォームチェンジ、通称“イグニッションフォーム”の代償がこれだ。

 本来使えるはずのないフォースチップをムリヤリ呼び出した上、そのエネルギーをフルに取り込んで制御するのだ。その負担はハンパじゃない。



 その結果……使った後は今のオレのようになる。制御のために体力を使い切ってしまうワケだ。



 なお、そんな負担のデカイ形態だから、変身にも限界時間は当然ある。必殺技で残りエネルギーを使い切るとかしなければ、“JS事件”当時でだいたい1分前後。今で……だいたい1分15秒程度だ。ウルトラマンより制限シビアなのよ。





「まぁ……もう解決したから、いくらでもダレてくれていいんだけどね」



 やかましい……って、通信?





『あー、ジュンイチさん?』




 恭文……? どしたい?



『いや、マスターコンボイ達が、ジュンイチさんがマヂモードだとか電波なこと言い出したから、気になってさ』



 あー、そうなんだ。フォームチェンジの時のパワーの上昇、アイツらに感づかれてたか。



 まぁ、確かにちょっとがんばったけど、もう解決したから、アイツらにはもう大丈夫だって伝えてくれるかな?



『ならいいんだけど』

「それより、そっちはどうだったんだ?
 確か、マックスフリゲートでお菓子作りだったんだろ?」

『あぁ、そっちは問題なく……
 ………………問題はなかったってことにしてください』

「…………要するに何かあったワケな。
 その様子から見るに……またフラグ立てたな?」

『エスパーですかあんたわっ!』



 ………………図星かい。



『と、とりあえず……お土産に、残った食材で蒸しケーキでも作っておきますから』

「お、ジャストタイミング! ちょうど甘いものがほしかったんだ。
 じゃ、先帰って楽しみに待たせてもらうわ」

『はいはーい。
 それじゃ、また隊舎で』



 そんなこんなで、恭文との通信は終了。

 さて、お土産が待ってるし、犯人引き渡しも終わって用事の片づいたオレ達はさっさと退散しようかね。









 ………………けど。

 あのコソドロに強化スーツを渡してスピードキングに変えちまったのは一体誰だ……?

 そして……ヤツをスピードキングにして、何をさせるつもりだったんだ……?











 ヒントも何もない状況じゃ判断のしようもないんだけど……どうにもイヤな予感がする。一応、警戒はしておくべきだろうね。







 ただの気のせいであってほしい。何も起きないでほしいと思うけど……きっと何か起きるんだろうなー。なんてあっさり思えてしまう自分にちょっぴりため息。







 まぁ……何だ。気合入れて、これから起きる“何か”にしっかり対応していくしかないか。



 そうしなきゃ……守りたいもの、きっと守れないからさ。







 うん。しっかりやっていこう。今までどおり……これからも。







(第22話へ続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

恭文「うぅ……またフラグが立った……
 僕はフェイト一筋だってのに、どうしてこうなるのさ?」

ジュンイチ「だよなー。
 まぁ、オレはフェイトとの仲を応援してやるからがんばれよ」

恭文「自分の本命もきっちり定まってない人に応援されてもなー」

ジュンイチ「ムリ言うなよ。
 本命も何も、オレにはそんな相手はいないんだからさ」

恭文「………………ジュンイチさんのその発言で、向こうで何人か号泣してるんですけど」





第23話「人の善し悪しとセンスの良し悪しは無関係」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《さて、旅行編も終わって、再び六課が舞台だー、とか思ってたらいきなり六課の外で物語が繰り広げられた第22話でした。
 ……えぇ、ミス・メガーヌについてはツッコみません。ブッ飛び具合については本家『とまと』の踏襲ですし》

Mコンボイ「というか……オレ達がアレに触れても墓穴を掘り返すだけな気もするしな……
 ……まぁ、それはともかくとして、今回は恭文の視点と柾木ジュンイチの視点が並行する形だったな」

オメガ《そうですね。
 作者的には、最近ミスタ・恭文の周りに出没するパターンが定着してきた感のあるミスタ・ジュンイチを少しミスタ・恭文から離してみよう、というつもりだったらしいですね。
 後は、最近出番の少なかった暴走コンビやそもそも出番の少ないシグナルランサーをクローズアップしたかったとか》

Mコンボイ「なるほど……」

オメガ《まぁ、私としてはミスタ・恭文へのベッタリ度はボスの方が上なので、ボスこそ一度引き離してみるべきだと思うんですけど》

Mコンボイ「ベッタリとか言うなっ!」

オメガ《否定できないでしょうが、ボスの場合》

Mコンボイ「できるに決まってるだろうが!」

オメガ《自覚がないってすごいですね……
 まぁ、そんなこんなで今週はここまで。また次回お会いしましょう》

Mコンボイ「そうだな。また次回会おう」





(おしまい)






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