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頂き物の小説
第22話「平和な時間の中にいては、平和のありがたみはあまりわからない」:1



 ……さて、休みから帰ってきた僕とアルトは、さっそく訓練だったりします。





 だけど……











「いーじゃん♪ いーじゃん♪ すげーじゃんー♪」

「い〜じゃん♪ い〜じゃん♪ すげ〜じゃん〜♪」

「……あのさ」

「なーに? ツンデレ」

「な〜に? ツンデレさん」

「誰がツンデレよっ!? つかっ! ヴィヴィオもこの変なお兄ちゃんのマネしなくていいからっ!」



 ティアナ、何げに失礼なこと言わないでほしいよ。心が痛いじゃないのさ。ね、ヴィヴィオ。



「うん♪」

「……ヴィヴィオ、ずいぶんなぎさんと仲良くなったね」

「だって、恭文とアルトアイゼン、おもしろいもん」

「おもしろいって……それ、年上の評価としてどうなのかな?」



 ……いいよ、そこはもうさ。慣れてるから。



「あ、でもでも。おもしろいだけじゃなくて、すごく強くて、かっこよくて、ノリノリなのっ! 特に今日……は、残念だったね」

「ヴィヴィオ、その言い方やめてっ! ……まぁ、確かにね」



 そう言って、僕は思い出す……今日の、フェイトを相手取っての模擬戦闘。結果は、負け。それはもう見事に。



「映像で見せてもらったのと違ったね」

《……マスターの感覚、やっぱり不安定みたいですね》

「それって、あれだよね。どういう斬り方をすれば、物が斬れるかわかるっていうの」

《そういう言い方をするとまるで某魔眼のように聞こえるからやめてください。
 要するに、一瞬の裂帛の気合と踏み込みです……あの時のマスターは、それができていたのに》

「フェイトママのザンバ―斬ろうとして、カウンター喰らっちゃったもんね……」

「やはり、あの時と同じ条件で……ゴッドオン下でなかったのが影響しているのかもな。
 ゴッドオンしているかしていないかで、ゴッドマスターの周囲への知覚能力も変動するワケだしな」

「かもね……」



 あぁ、そうだったね。くそ、これじゃあダメだ。

 あの時、炎の渦を斬った時の感触。あれが……先生の言う境地。想いを込めた、今を覆す僕だけの切り札。



 でも……



 さて、一応補足です。

 今日の訓練終わり。ティアナ達とジェットガンナー達、マスターコンボイと、見学していたヴィヴィオと一緒に、お昼に戻る途中。

 だけど、僕はあれこれ反省中です……やっぱり、一流への道は遠いってことか。入り口が近づいてるように感じた分、キツイなぁ。





「でも、焦ってもしかたないと思うな。そういうのは、一朝一夕には物にできないって、シグナム副隊長も言ってたし」

《まぁ、じっくり行くしかないでしょ。それに何より、グランド・マスターだって、こんな簡単に境地についたりはしませんよ。道は長いんです》

「……そうだね」





 じっくり行くしかないか……うん、がんばろう。

 でも、やっぱり剣術の修行はもうちょっとしたいな。もっと言うと、技術的な部分の再確認的な意味での。

 魔法戦闘はなのはにフェイトや師匠とかがいるし、スバル達とやり合ってもいい感じになる。

 だけど、この手の修行となると……どうしても、シグナムさん頼みな部分が大きいしなぁ。



 だけど、シグナムさんは、何回か言っているけど参加の頻度がそれほど多いワケじゃない。

 シャマルさんに頼んで、ブレードさんを呼んでもらうか……いや、ダメだ。あの人は本能だけで剣を振ってるタイプだ。模擬戦ならともかく、今望んでる、技術を磨くための訓練の相手としては致命的なまでに向いてない。

 そうすると……うーん……



 やっぱり、二人に頼むしかないのかな。先生の弟子だし、剣術も含めた武術関係は相当。相談するなら、一番いい。

 でも、今は六課にいるから、あまり勝手もできないし……





「……ね、恭文」





 僕が、あれこれ考えながらも、日常をギャグ的色に染めていたいななどと思っている所に、いきなりシリアス色を持ってきたKYな女がいた。

 そう、最近この話のおかげで、一部でおバカなKYキャラを確立し始めているスバルである。(独断と偏見です)

 当然、スバルもさっきからいた。いや、文字媒体だからわからなかっただろうけど、そうなのよ?





「何?」

「恭文のクレイモアって……“見せ技”としての部分も大きいんだよね?
 ハッタリって言うか、相手に『こういうのもあるんだぞ』って、警戒させるための……」

「うん」



 そう。僕がクレイモアを手札に加えているのにはそういう意味合いもある。

 保持している。そして、人に撃つのをためらわない部分も見せる。これって、相手方からすると結構なプレッシャーらしいのよ。

 大量の魔力の散弾は、非殺傷設定だと、直撃すれば容赦なく相手方の魔力を削る。なんにしても、一撃必殺の攻撃だ。だからこそ、そういう手札を持っていること、そしてそのことが知られていること。それ自体が相手に対するハッタリになるのだ。



「それがどうかしたの?」

「うん……
 あたしも、そういうの持ってた方がいいのかな、って……」

「クレイモアを?」

「いや、そうじゃなくて……恭文にとってクレイモアがあるように、あたしにもそういう、相手を警戒させるための見せ技、みたいなものを持っておいた方がいいのかな、って」

「ひょっとして……今日の模擬戦のこと言ってる?」

「うん」



 今日の訓練、スバルはジュンイチさんと模擬戦をした。

 で……大方のみなさんは予想がついてると思うけど、結果はスバルの負け。しかも惨敗。

 ジュンイチさんの炎に接近を阻まれて、得意の打撃戦に持ち込むことすらできずに撃墜と相成ったのだ。



 本来、スバルや僕の務めるフロントアタッカーは突撃して、道を切り拓くのがお仕事。多少の攻撃なんかものともせず、僕のようにかわすなりスバルのように防ぐなりして懐に飛び込まなければならない。

 けど……そんなのあの人が許すはずがない。スバル版ディバインバスターを始め、スバルの魔法の届かない距離から、回避もできないほど広く、防御も意味を成さないほどの火力を叩き込まれては、スバルに成す術はなかった……というか、あんなのやられたら僕も、そして多分師匠も撃墜必至だ。



「けど、お兄ちゃんがあぁいう戦法を取れた一番の理由は、あたしに遠距離で強力な手札がないって知ってたから……
 もちろん、フロントアタッカーのあたしに強力な砲撃は本来ならいらないけど……」

「単独戦闘では、そうも言っていられない……だよね?
 実際、今日の模擬戦でジュンイチさんに墜とされたのがそれだし」

「うん。
 だから、必殺の一撃、とまで磨き上げなくてもいいから、『あたしは砲撃も持ってるんだぞ。うかつに離れたらズドンといくぞ』って相手に思わせるようなのがあったらなー、って」



 んー、なるほど。言いたいことはなんとなくわかるかな。

 見せ技に限らず、持ち技が多ければそれだけ戦い方のバリエーションも増える。そうすれば、今日の模擬戦でも、勝てないまでももう少しくらいは抵抗できたかもしれない。







 さて……読者のみなさんの中には、この会話に不吉な予感を抱いた人もいるかもしれない。



 だって、以前ティアナが自分の成長に行き詰まって先走った挙句、なのは達と大いにもめた、あの一件と似たような流れだから。







 けど、幸いと言うべきか、今回はあの時みたいなことは多分ない。

 あの一件はなのは達にも非があったこと、そしてその辺りはすでにお説教済みなこともあるけど、何より……



「スバル、なのはにはもう相談してみたのか?
 もしくはヴィータ・ハラオウンか」

「なのはさん達に?」

「実はさ、なのはも、今日のスバルの模擬戦を見て頭抱えてたんだよ」

「そうね。
 突破力はアンタの一番の持ち味だけど、逆に言えばそれが封じられたら何もできなくなる……それが図らずも証明されちゃったワケだしね」



 そう。なのはと師匠、ホントに頭抱えてた。

 だって、二人がスバルに叩き込んできた防御のいろはも回避機動も、ジュンイチさんにまとめて吹き飛ばされたようなものだから。



 多分にジュンイチさんの力押しだった感がある今回の模擬戦だけど、ジュンイチさんの場合、与えられた火力を最大限に活かすから凶悪な威力を発揮するだけで、実際の火力は意外なことになのは以下だったりする。つまり、他の人間に同じことができないとは言い切れないのだ。



 そして、そんな相手が次元犯罪者として今のスバルの前に立ちふさがったら……今日の模擬戦の結果がスバルの生死に直結することになるのは言うまでもない。



「だから……二人も何か、打開策を考えてると思う。
 一度二人に相談してみたら? 二人にしても、当事者の意見はすごく貴重だと思うし」

「うーん……そうしてみる」

「まぁ、ホントに新しく砲撃魔法組むことになったら、手伝ってあげるわよ。
 あたしもコイツも、なのはさんみたいな魔力量任せの砲撃は撃てないからね……省エネでやりくりするプログラムの組み方なら、けっこう自信あるわよ?」

「うん! ありがとう、ティア!」



 うんうん、ティアナが補足してくれるのは非常に助かる。最近……というか、ティアナと囮デートをしてから、どうも話しやすい感が増えてる。

 実際、二人で訓練やらについて、あーでもないこーでもないと議論したりするし。プライベートな事もちょこちょこ話すようになった。



 きっと、これが平和な時間なのだろう……あぁ、なんかいいなぁ。このまま何事もなく時間が過ぎてほしい。











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第22話「平和な時間の中にいては、平和のありがたみはあまりわからない」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 みんなで、朝の訓練についてあーでもないこーでもないと反省会をしつつご飯を食べていると……いきなり呼び出された。

 呼ばれたのは僕……あと、どうにもついでっぽい感じでスバルとマスターコンボイも。



「……よし、シチュー食べてから行こうか」

「何言ってるのよこのバカっ! ほら、すぐに行って来るっ!」

「だって、シチュー冷めちゃうじゃないのさっ!」

「アンタ、シチューと呼び出しとどっちが大事だと思ってるのっ!?」

「シチュー」



 僕が即答すると、みんなが呆れるような顔をした。



 ……だってそうでしょ? 人間は少し待たせても問題ないけど、シチューは待たせたら冷めるんだよっ!?



「そうだね。
 じゃ、あたしも食べてから……」

「スバルもコイツに乗っからないのっ!」

「恭文、何か重要な用件かもしれないから……早く行ってきた方がいいと思うよ?」

「そうだよ。ね、フリード」

「きゅくきゅくっ!」

「シチューはあたしが食べといてあげるから。ほら、行った行ったっ!」

「くそぉ……ティアナを恨んでやる」

「どうしてよっ!?」

「ティアナなんて、僕らの分まで食べて、体重計の上で絶望に打ちひしがれればいいんだっ!」

「かなり生々しいから言わないでくれる!?」





 そんな会話をしてから、ホワイトシチューに別れを告げて応接室へと向かった。



 とりあえず……くだらない用件だったら八つ当たりすると誓いながら。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 そうして1時間後。僕らは……マックスフリゲートにいた。なんでっ!?





















「ごめんね、恭文くん。他にいなくて……」

「いえいえ。
 クイントさんは悪くないですから……もちろんギンガさんやマグナさんも」



 ……呼び出されて、言われるままに通信をつなげると、クイントさんが画面の中にいた。

 で、頼まれたのだ。更正プログラムの一環で、料理を作ることになったのだけど、自分やクイントさんだけでは手が足らないので手伝ってほしいと。



 なお、スバルとマスターコンボイはホントにオマケでした。スバルは「たまには家族で仲良く料理とかしてきい」というはやての暖かくも余計な気遣いで。そしてマスターコンボイは「恭文とスバルが行くんなら当然マスターコンボイもやろ」ということでした。

 うん、マスターコンボイ、完全に僕やスバルとセット扱いになってるよ?



「そうだな。
 今度、あのタヌキをしばいておくことにする」



 それがいいよ。あのタヌキ、実際に痛い目見せなきゃ反省しないし。





 それはともかく……



「ちなみにマグナさん、今日の品目は?」

「ショートケーキよ」



 待てマテっ! いきなりショートケーキってどういうことっ!?



「普通、粉吹き芋とか、チャーハンとか、そういうとこから始めない?」

「みんなのリクエストを取ったら、こうなったの」

「ウーノさん、どーして止めないのさ?
 そこにいるスカがあてにならない以上、あなたがみんなの舵を取ってくれなきゃさ」

「………………ごめんなさい。私も賛成したの」

「ちなみに私もだ。最近食べてないからね」



 って、スカもかい。



 ……あー、そういやみんな受刑者(お付き合い含む)だったなぁ。甘いもの、飢えてるのかな?



「うー、飢えてるっス〜。ぎぶみぃしょぉとけぇきっス〜」

「とりあえず、その表現は、いろんな意味でヤバイ気がするからやめようか」



 あー、とりあえずウェンディはアレだ。受刑者としての自覚がない。



「そんなことないっスよ。あたしはいつだってマジメっスっ!」

「あー、そうだね。うんうん、ウェンディはマジメで偉いね〜」

「……なんか手抜きっスね」

「うん、だって手抜いてるんだもん♪」



 なんかにらんでるのは置いておく。



「っていうか、そもそも誰なのさ? 最初にショートケーキなんて言い出したの」

「はーいっ! わたしだよーっ!」



 ………………うん。わかったからさ、自分でハードル上げたって自覚は持とうね、ホクトさんや。



 とにかく……まずは用意されたものの確認。



 えっと、材料はそろってるし、器具もOK。これなら……



「うん、私達で教えながらなら、すぐ作れると思うの」

「だね。
 よし、だったらささっと始めようか」

「……ギンガ」



 もう何を言ってもアレなので、気合を入れようとすると、ルーテシアが話しかけてきた。

 なーんか、真剣。うん、表情に変化がないように見えるけど、真剣な感じがする。



「どうしたの、ルーテシア?」

「……まだ来ない」

「あぁ、そういえばそうね」

「もうすぐのはずなんだけど……どうしたのかしら?」

「ギンガさん、クイントさん。来ないって誰? 他に増援呼んでるってこと?」

「ううん、そうじゃなくてね。えっと……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あー、すっかり遅くなっちゃったー!



 ルーテシアやみんな、待ってるわよね? もう、先生がもたもた検査してるからー!



 今日の調理実習、私も参加させてもらうことにした。親と子のコミュニケーションも兼ねてね。あと、あの子達とも。





 まぁ……複雑よ? いろいろあったし。腹が立たないと言えばウソになる。あの子達は、私の昔いた部隊の子達の仇でもあるワケだしね。





 でも、少なくともルーテシアは、そういうのも含めてもあの子達を嫌ってはいない。むしろ、いろいろ教えてもらって、お世話にもなったと言っている。

 だったら、母親である私が器量の狭いところを見せちゃ、あの子の情操教育の妨げになるだけ。

 時間をかけて、あの子達のことを知っていくことにしたのだ。わだかまりも、その中で消していくことにした。





 あ、これは私の恩師でもあり友達でもあるヒロちゃんの助言ね?

 いやぁ、久々に話したら泣かれたし。ヒロちゃんの荒っぽいけど涙もろいところは相変わらずだったなぁ。

 で、いろいろ相談して、今みたいな結論に達した。明日は明日の風が吹くってことで、いいでしょ。うん。





 とにかく、もう到着はしてるし、急いで向かわないと……





 私は、急いで車椅子を走らせる。もう、どこかのイタズラ小僧かと言わんばかりに。





 まさか、子供の頃にイタズラで車椅子レースなんていうのを友達とやっていたのが、ここで役に立つとは思わなかったわ。

 あ、みんなはもちろんマネしちゃだめよ? うん、絶対に。車椅子はオモチャじゃないんですからねっ!





 自分はどうかと言われてしまえばそれまでだけど、こっちには大義名分がある。問題はないわっ!





 そうして見えてくる。受付が。私は、そこに向かって全速力で……





















 飛んだ。





















 多分、段差か何かがあったのだろう。私の身体は宙を舞い、見事に飛んだのだ。





 あぁ……やっぱり車椅子で敷地内で20キロとか出すものじゃないのね。ごめん、ルーテシア。





 お母さん……飛ぶわ。

 羽ばたいた鳥の歌を歌うわ。

 きっと将来は武道館よ。





 私が、落下の痛みを覚悟して目を閉じると……え?





 痛みはなかった。車椅子が落ちたガシャンという音は聞こえたけど。私は……誰かに抱きとめられた。











「あの、大丈夫ですか?」





 耳元から、くすぐるような声がする。柔らか味のある優しい声。でも、私の思考は別のところにあった。



 だって、この人……私の胸、触ってるんだもん。それも、思いっきり鷲づかみ。



 あぁ、どうしよう! なんでこんなベタなことになっているの? あ、でもこの感じはけっこうひさび……いやいやいやっ!

 で、でも……これも運命の出会いよ。旦那はとうの昔にいなくなったし、私はシングルマザーだし、ジュンイチくんと違って手を出してもギンガちゃんが怖くなることもないだろうし、問題はないはずっ!



 あぁ、自由恋愛バンザイよっ!



 さぁ、目を開けて、勇気を出して……!



 そうして私が目を開けると、そこにいたのは……栗色の髪と黒い瞳をした……え?





「女……の子?」

「……男の子です」





 あぁ、それなら安心だわ。さすがに百合の気はないし。

 ……ちっちゃっ! え、本当に男の子っ!?

 だって、よく考えたら声とか顔立ちとか女の子で通るし、身長だって、今はうずくまって抱きとめられているけど私より下よっ!?



 ……あれ? この子、もしかして。





「……なんか元気そうで安心しました。というか、思考が顔に出てますよ? というか、聞こえました」

「あ、ごめんなさいね。ところで……」

「はい?」

「ひょっとしてあなた、蒼凪恭文くん?」

「え、えぇ……」



 やっぱり。ルーテシアや、ヒロちゃんから聞いてた特徴と同じだったもの。



「あ、私はメガーヌ・アルピーノ。よろしくね……あの、ヒロちゃんから聞いてないかな?」

「えっと、メガーヌさんですよね。ヒロさんと友達だって言うのは本人から……」

「そうだよ」





 ヒロちゃんの一回り下の友達で、魔導師。なかなかに見所のあるおもしろい性悪な子ってほめてたわね……最後のもほめ言葉だそうよ?

 ルーテシアやジュンイチくんからも聞いていたし、あのヒロちゃんが共通の趣味があるとは言え、仲のいい友達と言ってたから、どんな子と思って期待してた。



 まぁ、それは置いといて。お姉さんはキミに言いたいことがあるわ。別にこのままでも……いいけど。でも……





「意外と大胆なのね。でもだめよ? いきなり初対面の女の子の胸を触るなんて……めっ!」





 そう言うと、その子は手元を確認した。私の胸を鷲づかみにしている自分の手に、そこでようやく気づく。





 すぐに顔を真っ赤にして、私の前でひたすらに土下座を繰り返して謝り倒した。





 あぁ、気づいてなかったのね……私、そこそこある方だと思うんだけどなぁ。ひょっとして、慌ててたのかな?





 だとしたら……うん、可愛い♪







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………」

「どしたの? ジュンイチ」

「いや、恭文がどっかでフラグを立てたような気がして」

「何ソレ?」



 いや、オレにもよーわからん。

 首をかしげるブイリュウに対し、オレも首をかしげてみせる……うん、深く考えないでおこうか。





 さて、オレとブイリュウは、現在クラナガンの路地裏にいたりします。



 理由は、先日に引き続いての瘴魔退治……うん。まだ発生が続いていたりするのだ。

 今日も、さっき1体片づけたところ……またミールの下級瘴魔タイプだった。

 スカリエッティと相談した結果、この事態に何者かが関与してるのは間違いない、って結論に達してるワケだけど……ソイツ、クモに何か思い入れでもあるのか?



 ちなみに本日はやてがつけてくれたサポートは……





「なんかさー、オレ達、ついて来ただけで役に立ってねぇことないか?」

「だなだな」

「まぁ、ジュンイチさんが一緒ではな……」





 そう。おなじみガスケットやアームバレットの暴走コンビ、そして信号機からトランスフォームするシグナルランサー。市街地への出動時、一般市民の避難誘導を行なうことを役目とする、交通機動班の3名だ。

 …………本来の目的どおりに働いたこと、一度もないらしいけど。



「言わないでくれ。
 オレは任務を果たしたいんだ。けど、あの二人がちっとも仕事をしてくれないんだ」



 だろーねー。



 ガスケットは“JS事件”でオレのところに転がり込んでた時もけっこうなやんちゃ坊主だったし、その相方ってことはアームバレットも似たようなものだろう。

 そんな二人が、一般ピープルの避難誘導なんて地味な仕事、するワケがない。

 はやて……ぶっちゃけ、この二人を交通機動班に配置したのはミスジャッジだと思うぞ? 確かにこなせるだけの能力はある……んだけど、性格的に向いてなさすぎるぞ。



「はやて嬢も、そのことは早々に後悔していたぞ」

「そっか……って、『はやて“嬢”』?」

「あぁ、知らなかったのか?
 オレは見ての通り信号機からトランスフォームするんだが……10年前、地球に避難したばかりの頃、海鳴の住宅街に潜伏していたんだ。
 そこでずっと、人々の交通を見守り続けてきた……当然、彼女のことも幼い頃からな」

「なるほど、だから『嬢』なワケか。プライベートでも知り合いで、お前の方が年上だから」



 ……って、待て待て。話が脱線してる。



「とりあえず、お前らだって役に立てないワケじゃないぜ。
 ガスケットとアームバレットには機動性があるし、シグナルランサーには精度の高い広域サーチがある。瘴魔の探索能力は、決してオレに劣るものじゃない」



 そう……こいつらにだって、オレに勝るところはある。

 こういう機動性が命の広域活動は、移動速度に関してはそれほど速くないオレはどうしても動きが出遅れる。それを補えるコイツらの存在は、オレにとってもけっこうな助けになるのだ。



「それに……戦えば多分、お前らだって通用すると思うぜ。
 少なくとも、瘴魔獣クラスまでなら、お前らの火力でも十分力場は抜けるはずだ」

「それ、ホントなんだな?」

「戦いに関しちゃウソは言わねぇよ。
 ガスケットは、オレのそういうところ、知ってるだろ?」

「まーな。
 お前んトコに世話になってた時、言ってたっけな。『ヘタにフォローしていらん自信と共にムチャされないように、戦闘能力の評価は厳格でなければならない』……だっけか」



 まぁ……そういうことだ。

 自分の実力を正しく理解することは戦場において生死に直結する重要な要素となる。だからこそ、中途半端ななぐさめや励ましはしちゃいけないのだ。

 そんなワケで……お前らでも瘴魔に通用する、っていう評価は掛け値なしにマジモノだから、安心していいぞ、アームバレット。



「そうなんだな。
 おかげでやる気が出てきたぞぉっ!」



 オレの言葉に俄然やる気になったアームバレット……さて、それじゃあそろそろ動きますか。



「そんなワケだから、このまま引き続き頼りにさせてもらうぞ。
 オレとシグナルランサーはサーチで、ガスケットとアームバレットは機動性で瘴魔を探す。
 どこのどいつが瘴魔を大量生産してるかはわからねぇが、路地裏から表に出られる前にケリをつけるぞ!」

「おぅっ!」

「だなぁっ!」

「了解っ!」



 そして、オレ達は散開して瘴魔の探索を再開……





















『地上本部より各移動。地上本部より各移動』





















 ………………って、何だよ、これからって時に。





『多額窃盗事件発生。
 犯人は宝石店から宝石多数を窃盗、現在市街中心部を逃走中……』



「『窃盗』……?
 こんな真っ昼間に、強盗じゃなくて?」

「…………確かに。
 窃盗目的で忍び込んだにしても、こんな昼間じゃよっぽどうまくやらないと……」



 シグナルランサーの疑問はごもっとも。オレも同意して首をかしげるワケだけど……答えはすぐに出た。



『なお、犯人は高速移動魔法を使用。攻撃魔法の使用は現在のところ確認されず。繰り返す……』



 なるほどね。

 スピードにモノを言わせて、警備をかいくぐって宝石をかっさらったワケか。



 高速魔法は戦闘職の魔導師の間では補助系としての認識が強い。理由は言うまでもなく、戦闘職である以上、攻撃や防御のような主要な戦闘行動に主力の魔力を振り分ける必要があるからだ。

 だけど……戦闘に使うことを想定しない場合。つまり、戦闘行動に意識を向けず、加速だけに全ソースを振り分けた場合、その加速力はトンデモナイことになる。



 具体的に例を挙げるなら……フェイトのソニックムーブだ。アレをフェイトが戦闘を念頭におかず、加速だけに全力を注ぎ込んだとしたら、“200メートルトラックの周回走”で、“ライドインパルスを使った
クソスピードスター”
を3周以内に周回遅れにできるだろうね。





 たぶん、今逃走してる窃盗犯ってのはまさにそれをしているんだろう。だったら高速魔法ばっかりで攻撃してこないのも納得だ。攻撃魔法に使う分の魔力まで加速に注ぎ込んでるんだろうから。





「けど、オレ達の出先の付近で事件を起こしたのが運の尽きだな。
 こっちには、六課地上戦力のスピードスターが二人もいるんだからさ」

「へっ、そうこなくっちゃな」

「え? え? どうしたんだな?」



 オレの発言の意図を読み取り、早くも期待に胸を膨らませるガスケットに対して、アームバレットはあまりわかってないか……ま、そもそも考えるのを放棄してるだけだろうけど。



「要するに、お前らがその自慢のスピードでその窃盗犯ってヤツをとっ捕まえてやれってことさ」

「ってことは、暴れてもいいんだな?」

「もちろんだ」

「よっしゃ、待ってたんだな!
 アームバレット、トランスフォーム!」

「そんじゃオレもっ!
 ガスケット、トランスフォーム!」



 オレから出動を許可されて、アームバレットは喜び勇んでロボットモードにトランスフォーム。勢いよく走り出していく――っとと、言っとくことが残ってた。



「あー、こちらジュンイチ。
 すでに走り去った二人、応答しろーい」

『どしたい?』

『何だな?』

「攻撃するなら犯人視認してからにしろよー。
 犯人追跡しながらなら、被害が出ても『犯人逮捕のため』でかばってやれるけど、無差別攻撃で壊した分までかばってやれないからなー」

『了解なんだなっ!』

『合点承知っ!』



 すんなり納得してくれて、先行する二人は通信を終える。



 さーて、オレ達も……って、どーした? シグナルランサー。



「…………犯人見えたら、攻撃してもいいのか?」

「犯人退治のためなら、多少の犠牲は仕方ないのだよ♪」

「…………マスターギガトロンを倒すために旧地上本部ビルを丸ごと倒壊させたキミが言うと、その『多少』がかなり怪しく聞こえるのだが」

「気のせいだ」



 即答したらなぜかため息をつかれた……まったく失礼な話だね。



 さて、それはともかく……さっさとオレ達も追跡、行きますかね。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……ほら、そんなに落ち込まなくても大丈夫よ?」

「いや、でも……」

「むしろ、助けてくれたのがキミでよかったくらいだもの。
 あれがジュンイチくんだったら、空中で私を捕まえて、そのままキン肉バスターよ?」

「いや、いくらあの人でもさすがに……やりかねないか」





 僕が、ルーテシアの母親であるこの人、メガ―ヌ・アルビーノさんを迎えに行くと、いい感じで鳥人間になりかけているところに遭遇した。



 いや、まさか……あんなベタなことするとは。だって、慌てて気づかなかったんだもん。シャマルさんと、初めて会った時のことを思い出してしまったよ。

 ……気づいたとたんに感触が襲ってきたのですが、張りがありつつも柔らかったです。

 Eカップだという余分な情報までいただきました。つか、アルトがさっきから黙っているのが非常に辛い。





《大丈夫ですマスター、すべてのことには話すべき時というものがあります。それが来るまでは……内緒にしておきましょう》

「お願いだから一生内緒にしててくれないかなっ!?」

「そうね、それはお願いしたいかな? 私だって、女ですもの。殿方に身体を預けたことを広めてほしくはないわ」

「変な言い方しないでくださいよっ! そんないかがわしいことはしてないでしょうがっ!」



 いや、胸を触るのは充分にいかがわしいんだけど。



《……そういうことなら仕方ありませんね。まぁ、結婚式の話のタネにでも取っておきましょう》

「うん、おねがいね。スピーチは期待してるから。あ、それまでヒロちゃんには内緒にしてるね」



 一体何のお願いっ!? そして誰の結婚式っ! つーか、なんでそんなに意気投合してるっ!



「こう、アルトアイゼンちゃんとは、気が合うの。ね〜♪」

《ね〜♪》

「そうか、そりゃなっと……できるかぼけぇぇぇぇぇっ!
 お前らおかしいよっ! つーか、なんで一瞬で2対1の図式が出来上がってるのっ!?」





 まぁ、そこはいいさ。よくはないけどいいさ。ただ、気になることがある。

 ……あの、お母さん。お願いだから上目で僕を見るのはやめてください。仕方ないんですけどね。でも、瞳が妙に艶っぽく感じるんです。





「お母さんなんて呼ばないで。メガ―ヌって……呼んでほしいな」

「だから、上目遣いはやめてください。いや、仕方ないですけど」





 メガ―ヌさんがまた暴走などしないように、僕がしっかりと後ろから車椅子を押している。

 なので、当然のようにメガ―ヌさんより僕の方が視点は上なので、そうなるのだ。



 ちなみに、車椅子の方はなんともなかった。傷がいくつかついただけである……丈夫なの使ってるなぁ。ひょっとしてあぁいう展開想定してた?

 しかし、この人は本当にあの物静かなお子様の親ですか? 行動と発言がぶっ飛びすぎでしょ。





「あ、ひょっとしてルーテシアとそういう関係なの? もう、それならそうと言ってくれればいいのに。
 大丈夫よ。私、そういうのには理解がある方だから。前の旦那がちょっとアブノーマルで、いろいろと大変だったのよ……」

「どうしてそうなるんですかっ! というかその話は知りたくないので、黙ってくれませんかメガ―ヌさんっ!?」

「あ、別にさん付けにしなくていいわよ? むしろ、呼び捨てにしてほしいかな」





 ダメだ。本能が告げている。この人には勝てない。絶対に、勝てない。



 多分リンディさんやレティ提督とかと同じタイプだ。いや、下にオープンな分、二人より凶悪かもしれない。強いて言うなら……霞澄さん寄り?

 下手な発言をすれば、僕の尊厳とか立場とか命が危ない。





「……そう。そうなんだね」

「へ?」

「こんなおばさんと話すのがイヤなのね。いいわ、それなら仕方ないわ。
 みんなに……というか、ヒロちゃんに、さっき私がされた辱めを伝えるから。あなたが……出会い頭に私の胸を……乳房を……っ!」



 やぁぁぁめぇぇぇてぇぇぇぇっ! ヒロさんにだけは言わないでっ! 正真正銘殺されちゃうからっ!

 あの人敵に回すなら、フェイトやジュンイチさんとガチにケンカする方が楽なんだよっ!



「……呼び捨てはいろいろと危険な気がするので、さん付けでガマンしていただけるとありがたいです。
 お願いします。それで手を打ってください。それ以上はムリなんです……」

「仕方ないなぁ。じゃあ、二人っきりの時は呼び捨てにしてね?」

「どこの恋人ですかそれはっ!?」





 何やら、秘密の関係というのも楽しそうとかどーとか言ってるけど、気にしないことにする。





「……あ、なぎくんおかえり」

「お母さんっ!」

「あー、ルーテシアごめんね〜」



 やっと……到着した。ち、ちかれた……



「ずいぶんとお疲れのようだな」

「あ、ありがとうございます」



 チンクさんが、コップに水を入れて持ってきてくれたので、それを飲み干す。あぁ、火照った身体に染み渡るわー。



「何かあったのか? 少し帰りが遅かったようだが」

「いえ、ちょっと話し込んじゃいまして……」

《ベタな出会い方をしたのでいろいろと大変だったのです。しかも、意外とオープンな方でしたし……》



 ツッコんでやりたい。だけど、ツッコんだら絶対にバレる。なので……ここは流すっ!

 でも、オープンというのは同意見。あんまりにもおっぴろげ過ぎて、対応に困ったもの。



 チンクさんが不思議そうな顔してるけど、とりあえずはOKである。でも……



「ルーテシア、やっぱり表情が明るいですよね」

「そうだな。母君と話している時は、いつもあぁだ」





 大人びていて、どこか達観してる印象を受けるんだけど、メガ―ヌさんと話しているルーテシアは、年相応の子供だ。

 エリオやキャロも、フェイトに対してあれくらいしてもいいのに……



 そこで気づく。チンクさんが、どこか辛そうで、すまなそうな顔をルーテシアとメガ―ヌさん、そしてクイントさんとギンガさんや豆芝に向けているのを。

 いや……チンクさんだけじゃない。トーレさんもだ。



 ……よし。





「チンクさん、エプロンずれてますよ?」

「え?」



 チンクさんの返事を待たずに、エプロンを直す。まぁ、ほとんどずれてないんだけどね。


「トーレさんは……うん、大丈夫かな」

「む…………?」

「それじゃあ、そろそろケーキ作り始めましょうか。さー、美味しいの作って、いっぱい食べるぞ〜♪ おー!」

「恭文……すまないな」

「何がですか? チンクさん」

「いや、なんでもない。
 そうだな、美味しいケーキを作るとするか」

「はいっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 追跡開始から15分。ガスケットから犯人発見の報せが入ってから10分……状況はどうなってる?



『ダメだーっ! あんにゃろ、チマチマ小回り利かせやがって、こっちの脇をガンガンすり抜けていきやがるっ!』



 うーん、思ったよりも手間取ってやがるな。

 ガスケット達のスピードならさほど苦労はしないと思ったけど、ちょっと甘かったか。



「ガスケット、アームバレット、一応、追跡自体はできてるんだな?」

『あぁ、それについちゃ余裕余裕……って、アイツ!』

「どうした!?」

『ビルの間に逃げ込んじゃったんだなっ!』

『くそっ、アームバレットどころか、オレでも入っていけねぇっ!』



 そういうことか。

 敵さんもなかなかやってくれるね。自分の武器をよくわかってらっしゃる。





 こうなったら……



「どうした? ジュンイチ。
 いきなり足を止めて……追跡するんじゃないのか?」

「追いかけますよー。
 ただ……“足で”っつーワケじゃないってこと」



 シグナルランサーに答えて、オレはブイリュウを背中に負ぶったまま周囲を見回して……お、あったあった。



 オレが見つけたのは、道端に備えられた公衆端末。立ち上げると液晶画面に手を触れて……











「――――接続アクセス











 ホントは言葉にしなくてもいいんだけど、そこはまぁ、気分、ノリということで……ともかく、宣言と同時、オレの意識が一瞬だけ断ち切られる。

 それに伴い、オレの脳裏に大量の情報が流れ込んでくる――マルチタスクをフル回転。それらの情報をいるもの、いらないもので取捨選択、整理していく。



 オレの持つ能力のひとつ、“情報体侵入能力データ・インベイション”。触れたものの情報にアクセスし、ものによっては書き換えたり、操ったりもできる力だ。



 その能力を活かして、オレは街頭端末から街のセキュリティネットワークにアクセス。狙うは……



「………………よし、捕獲完了。
 街の防犯カメラの監視ネットワークのコントロールをいただいた。
 コイツで、犯人の位置を割り出せれば……」

「一応ツッコんでおくが……犯罪だぞ?」

「何を今さら」



 シグナルランサーのツッコミは一蹴。まずは犯人を捕捉して……ん?



「どうしたの?」

「いや……
 オレ以外にも、誰かが監視ネットワークにアクセスしてやがる」



 そう。オレがアクセスした監視システムの中に、誰かがアクセスしている様子がある。

 ただ……正規のルートじゃない。オレと同じく、ハッキングで入ってきてる。

 けど、何のために……?



『こちら、犯人の位置を捕捉した。
 誘導するので、追跡中の各移動は協力されたし。繰り返す……』



 この通信……ハッキングしてきてるヤツからのだ。

 ってことは……



「なるほど……奴さんのハッキングの目的はコレか」

「………………キミのやろうとしたこと、思いついたのはキミだけではなかったようだな。
 珍しく先を越されたようだな」



 やかましいわ棒立ち野郎が。



「それはオレが信号機だからかな!?」

「だと思うよ。うん」



 まぁ、それはともかくとして……もう先客がいるんなら、オレがアクセスする必要はないかな?









 …………けど……





 この誘導の声、どっかで聞いた覚えがあるんだよなぁ……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 くそっ、何だってんだ……!



 さっきまで、オレ様のスピードで簡単に振り回せていた管理局のヤツら、急にオレの行く先々に回り込んでくるようになった。


 このままじゃ、捕まってブタ箱行きだ。せっかく宝石を盗み出したってのに、こんなところで捕まってたまるかよっ!



 行く手に緊急車両のサイレンが聞こえてきた。すぐさま路地裏に逃げ込むけど……後ろからしつこく追いかけてきているトランスフォーマーの二人組にはバッチリ見られたはずだ。すぐに人間の局員が乗り込んでくるはずだ。



 くそっ、これからどうする……!?











『ニノ・セクストンだな?』











 ………………っ!? 誰だ!?



『オレが誰か……そんなことはどうでもいい。
 すまないが、貴様の前に姿を現すワケにはいかなくてな……局員を誘導して、貴様にここに逃げ込んでもらったワケだ』

「おいおい、じゃあこのヤバイ状況はお前のせいかよ!?」

『気にするな。
 すぐに問題にならなくなる』



 その言葉と同時、オレのすぐそば……ゴミの山の中からガスの抜ける音が。

 見ると、そこにはゴミの山の下に隠されたアタッシュケース……これ、お前が?



『そういうことだ。
 それがあれば……貴様は誰にも負けない』



 はっ、言ってくれるね。

 こっちは、まだてめぇが信用できるかどうかもわからねぇってのに。



『安心しろ。貴様にも選択肢はある。
 オレが信用できる可能性に賭けて、それを使って逃げ切るか……使わずこのまま捕まるかだ」



 それ……選択の余地はないって言わないか?



『気にするな。
 どちらにしても、選ぶのは貴様だ』



 ………………くそっ、わかったよ。



 上等だ……やってやろうじゃねぇかっ!






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あきゅろす。
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