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頂き物の小説
第20話「男には、無意味とわかっていても通さなきゃならない筋がある」:2



あー、ヒマやー。つか、うちの末っ子はホンマに……





「主、仕方ないかと。リインは蒼凪を心から好いていますから。
 元祖ヒロインとしては、危機感を持つのでしょう。出番が欲しいと泣き出しましたし」

「アンタいつからそんな軽い言い回しするようになったんやっ!?
 いや、まぁ……そりゃわかるで? なんやかんやであの子、登場回数少ないしなぁ」





 部屋で、ザフィーラとヴィータと一緒に夕飯を頂きながら、そんな話をしとる。議題は、海鳴に男追っかけて休みとったうちの可愛い末っ子。

 まだ8歳とかそこらなのに……育て方、間違えたんかなぁ。





「はやて、ザフィーラのセリフじゃねぇけど、バカ弟子とリインは、本当につながりが深いんだ。ヘタすると、アタシら以上にな」

「……せやなぁ。リインは、祝福の風であると同時に、古き鉄の一部やしな」

「それに、高町とヴィヴィオのことも気になったのでしょう。
 第三者であり、普段から可愛がられている自分がいれば、多少なりとも棘が立つのを防げると考えたのでは?」

「あー、それがあったか。いや、しかしなぁ……」





 なーんか、私はちとヤキモチ妬いとる。相手は恭文。原因は、リインとの絆の深さや。

 もちろん、リインと恭文は出会い方が出会い方やし、つながり深いのはわかるで?

 あの子にとっては、自分の命を守ってくれた恩人でもあるしな。



 恭文も、リインを妹か何かみたいに思うてるし、リインも、兄っちゅうか、大事な存在として思うとる。ある意味相思相愛や。



 それにや、どんな理不尽な状況も覆せる、あの二人にしか切れない、最高の切り札があるしな。それもあるから、余計にそうなるのもわかる。

 せやけど、主としては危機感覚えるんよー! いや、マジメな話やでっ!?





「……よし、今度リインと一緒に休みとって、好感度アップのためにがんばるわ。つか、私は努力が足りんのかもしれん」

「主、がんばってください」

「まかせてーなっ! ふふふふ……恭文には負けんでー!」

「バカ弟子も大変だな……」










 私は、窓から見える月を見上げて、心から思うた。そうや、私は主人公のひとり。せやから……恭文には、負けんっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 というワケで……久々にやってきました海鳴・スパ・ラクーアッ!





 早速、僕達は男湯組と女湯組へと分かれて入ることになった。いや、楽しみだなぁ。











 なんて言いながらも、服を脱いで、タオルを巻いて浴場内に入ると……うん、懐かしい気持ちになった。





 だって、去年の年末の時と変わってなくて、逆に安心した。これで絢爛豪華にだったらどうしようかと……



「そうだね。
 ……あ、でも変わってることがひとつあるかな」

「何?」

「恭文とジュンイチさんが一緒ってこと。前回は、男で一緒だったのはイクト兄さんとマスターコンボイとジャックプライムの三人だけだったから」

「そういえばそうですね。それで、エリオはみんなから『一緒に入ろう』って言われてたです」





 ここは「うらやましい」って言うのが正直な反応なのだろう。だけど、僕の口から出てきたのは……ひとつの言葉だった。





「エリオ、大変だったんだね……」

「ありがとう……というか、アレ逆セクハラだよねっ!? 僕、完全にアウェイだったよ……
 イクトさんが助けてくれたからいいようなものの、マスターコンボイは見捨ててさっさと先に行っちゃうし、ジャックプライムは助けてくれないし……」

「お前らなぁ……」

「…………ゴメン」

「知るか」





 いろいろ大変だったんだね。うん、よくわかるよ……それはさておき。





「それじゃあ、思いっきり楽しむか。今回は僕らもいるしね」

「うんっ!」

『おぉーっ!』

「楽しむですよー♪」











 そうして、僕達はお風呂巡りへと繰り出したのだった。



















「……………………………………………………ちょっと待ってっ!」



















 そのまま、歩き出した僕達を呼び止める声……エリオだった。



















「エリオ、どうしたですか?」

「どうしたじゃないですよっ! なんでリインさんがこっちにいるんですかっ!」





 そう、ここは男湯。リインも来ていたのだ。というか、最初から。リインの衣類は、男湯のロッカーにある。

 というか、このタイミングでツッコむのか。もうちょい早く来ると思ったのに。





「そういうことじゃないよっ! だって、リインさん女の子だよっ!?」

「リインは、11歳以下ですから、大丈夫ですよ?」

「そういうことじゃなくてっ! その、平気なんですかっ!?」

「当然です。まぁ、エリオはちょこっとアウトですけど」

「なんでボクっ!?」



 なんでだろうね。うん、僕にはわかんない。



「それなら、恭文はどうなるんですかっ!」

「いや、特に気にならないし。だって、リインとお風呂入るし」

「恭文さんとは、何回もお風呂入ってるから、大丈夫ですよ♪」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」










 そう、僕とリインは、出会った当初から一緒によくお風呂に入っている。

 ……いや、出会った本当に最初の頃は、リインが大きくなれなかったから、僕がフォローしないと危なかったんだけどね。

 で、それはリインがフルサイズになれるようになった今も変わらない。

 泊まりに来た時は、一緒にお風呂に入って、頭を洗ったり背中を流したり、お風呂の中で一緒に100まで数えたりするのだ。










「というか……リインさんはいいんですか、それ?」

「大丈夫ですよ。恭文さんとは、長い付き合いですし。
 というか、今はこういう場所ですからバスタオルしてますけど、本当ならいらないですよ?」

「あぁ、そうだね。僕もつけないしね」

「おかげで、モザイク入るですよ」



 リイン、その表現はいろいろアウトだよ? いや、こち○とか、お風呂のシーンで湯気とかじゃなくて、ガチなモザイク入ったアニメ多いけど。

 あ、じゃあ今の僕もモザイク? いや、それはさすがにリリカルなのはじゃないって〜♪



「そんな表現しないでくださいっ! というか、恭文も、そんな楽しそうに笑わないでっ!」



 なお、僕も腰にタオルを巻いてるので、モザイクはありません。



「エリオ、私と恭文さんは、これくらい普通です」

「とにかく、せっかくのお風呂、楽しまないとね。いこうか、リイン」

「はいです♪ さ、エリオも来るですよ〜」

「……これ、本当に普通なんだよね?」

「残念ながら普通なんだよねー」

「そのようだな……」





















「…………なぁ、リイン。
 ちなみにオレ達はどうなるんだよ?」

「平気ですよー。ジュンイチさん達のことは別にどうでもいいですから」

「お前、休み明けに説教な」

「リインの口がすべりましたっ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……私、リインちゃん見習って行ってこようかな? ほら、最近カップル風呂ってできたし」

「美由希ちゃん、シャレにならないからほんとにやめてね。つーかカップルじゃないでしょカップルじゃっ!」

「いやだなぁエイミィ、わかってるって。冗談冗談」





 そう言いながら笑って手を振るけど……どうだか。美由希ちゃん、恭文くんのこと本当に可愛がるもの。というか……好き?





「違う違う。弟として可愛がってるだけだって。いや、反応が可愛くてさ〜♪」

「本当に? いや、私は時々怪しく思うよ」





 よく抱きついたり撫でたりしてるし。あぁ、いつかはお姫様抱っこした時もあったなぁ。恭文くんが風邪引いて倒れたからだけど。



 それで、恭文くんもやっぱり男の子なのですよ。えぇ、間違いなく。

 美由希ちゃんみたいに可愛くてスタイルのいい女の子にそういう事をされて、口ではなんだかんだ言いながらも、本能的な部分では悪い気はしない。



 というか、強く言うと泣きそうになるので、あまりハッキリとした拒絶ができない。

 なんていうかさ……不憫だよね。どうしてこれがフェイトちゃんにできないのか……





「でも、私は大人だもの。ちゃんと分別はつけてやってるつもりだよ? 優しくするばかりじゃなくて、ちゃんと厳しくもするし」

「いや、見ててそうは思えないんだけど」





 厳しくするっていうのは、恭文くんが迂闊なこと言う度にアイアンクローや当て身を食らわせるのとは違うと思うよ?

 しかも、その後は痛い思いさせた分だけすっごく優しくするじゃないのさ。今日だって、膝枕して告白紛いなこと言ったっていうし……





「飴と鞭の使いようと言ってほしいなぁ」

「いや、飴が多いからっ! 9:1くらいの割合で多いからっ! うちの末っ子を糖尿病予備軍にするつもりなのっ!?」

「そんなことないと思うんだけどなぁ……じゃあ、そういうエイミィはどうなの? 私からするとエイミィこそ甘いと思うけどな」

「まぁ……ね。でも、美由希ちゃん達ほどじゃないよ。あくまでも、末っ子として可愛がってるだけだし」





 そりゃあ、ついつい頭を撫でたりしてしまうけど……あの撫でられて、文句言いながらも照れてる顔がまた可愛いんだよね〜。

 声も顔立ちも身長も女の子みたいだしさ、あの年であれは反則だって。

 クロノくんだって昔はそうだったけど、今の恭文くんの年には、身長も伸びて声変わりもしてたよ。



 でも、変わりないようで安心した。

 そりゃあ、通信とかメールはしてたけど、やっぱ心配だったんだ。あの子、こうと決めたら誰にも止められないもの。

 アルトアイゼンもそうなんだよね。本気の古き鉄は、だーれも止められない。敵も、味方も。



 だから……ちょこっとだけ、不安だったりする。



 いや、例外はリインちゃんか。あの子は蒼天を行く祝福の風であると同時に、古き鉄の一部だから。言うなれば、緊急ストッパーだね。



 ……でもさ、いつか、フェイトちゃんやなのはちゃんでも届かないようなところに、フラって飛んでいっちゃうんじゃないかって、思うのよ。

 本当に、ちょこっとだけ。





「……ま、あの子は自由に、自分のために戦うのが性にあってるだろうしね。または、フェイトちゃんやリインちゃんを守るため」

「やっぱり、御神の剣士から見ても、そう思う?」

「思う思う。あの子は不特定多数のために命張るような子じゃないって。
 ジュンイチくんと一緒。世界なんてどうでもいい。でも、たったひとりの大切な人のためなら、命だって賭けるタイプだよ」





 あぁ、それは正解だね。私もそう思う。現にフェイトちゃんにそれだし。





「フェイトちゃんやリインちゃんっていうストッパーがなかったら、多分エイミィの危惧どおりになると思うな。
 ……命を賭けた戦いが嫌いでもないみたいだし、不安はよくわかる。恭ちゃんをちょっと危なくするとアレで、もっと危なくなるとジュンイチくんだよ」



 ……そこまで言いますか。



「まぁ、先輩剣士としてはね。それに、今だって完全に、局の中に入ってるワケじゃないんでしょ?」

「そうだね。やっぱり……美由希ちゃんも知ってると思うけど、昔のことがあるから。局の正義とかに背中は預けたくないみたい」

「だろうね。見てて変わってなかったから、そうだろうなって思った。
 ……やっぱり、ちゃんとしてほしい? そんなこと言わないで、局のこと完全に信じて、重いものとか預けて、役職とかにもついて貰って……って」

「……うーん、どうだろ。半分半分ってとこかな。恭文くんの、そうしたいっていう気持ちはわかるから。
 私も、美由希ちゃんと同じ意見だし」





 実際、なのはちゃん達が今回関わった事件だって……局上層部の不正と横暴。ぶっちゃけちゃえば腐敗が原因のひとつだしね。

 なんて言うかさ、私の周りには比較的まともな人間ばかりだったから、気づかなかった。

 でも、子育てし始めて、客観的に見る部分が増えて……気づいたよ。



 管理局って、まともじゃないよね。



 組織自体がさ、志のちゃんとしている人の数が多いから、なんとかなっているだけだと思う……身内擁護とか言わないでね?

 私、前にヘイハチさんが『こんな胡散臭い組織のために戦うのなんて、真っ平ゴメンじゃ』って言った時、頭きてたけどさ。

 だって、元はあの人だって局員なのに。



 でも、今ならその気持ち、なんとなくわかる。ジュンイチくんが本気でつぶしにかかるのもムリないと思う程度には。

 まぁ、それでもですよ……





「でも……家族としては、理屈抜きで心配なんだ。保証みたいなものがあるワケでもないしね。
 貯金とかはしっかりしてるみたいだし、あの子は、本当に人にも恵まれてるとは思う。だけど、保証のある生活してほしいなとか、ちょっと思ったり」

「……そっか。お姉ちゃんは大変だね」

「大変だよ〜。うちの末っ子とそのパートナーは、誰にも止められないし、答えも聞かないんだから」

「あ、それなのはも。というか、あの二人似てるよね」

「恭文くんの方が性悪だけどね。したたかで、狡猾で。まぁ……そんな子だから、多少は安心できるんだけど」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………あぁ、いいお湯だね。



「本当です……」

「なのはママ、銭湯って……楽しいね」

「そうでしょ? 隊舎で入るのとは、また違うしね」

「うんっ!」



 確かにそうだね。色んな人がいるし、お風呂もいつもより広いし。

 あー、でもこの檜のお風呂は気持ちいいなぁ。凄く暖かくて、いい匂いで、安心する。



「あの……フェイトさん」



 聞いて来たのはキャロ。なんというか、すごく疑問顔。



「どうしたの?」

「エリオくん……はともかく、リインさんは向こうでいいんでしょうか?」

「そういえばそうだよね。リイン曹長、女の子だし」



 ……そっか、二人は知らないんだ。そう言えば、私も話してないし。



「あー、リインはあれでいいんだ。恭文くんとは、何回もお風呂に入ってるし」

「てゆーか、あの二人はいつもあんな感じよ? いつでもどこでもベタベタベタベタ」

「なんというか、付き合ってるみたいに見えるよね。私、時々リインちゃんが羨ましくなるよ。なぎくんと本当に仲良しさんなんだなって」





 そうだね。リインも、ヤスフミもなんだけど、互いに、相手に裸を見られても平気なくらいに、付き合いが深いから。

 海鳴で暮らし始めた頃は……週一かな。リイン、うちやハラオウン家に……ヤスフミのところにお泊りに来てた。一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、遊んで、寝て……



 そして、ヤスフミや私達がミッドの方に来てからも、それは変わらない。

 頻度はちょっとだけ少なくなったけど、それでも、一緒に過ごす時間は消えたりしない。もちろん、それまでの記憶も。





「だからはやて、ちょっとだけヤスフミにヤキモチ妬いてるんだ」

「八神部隊長がですか?」

「そうなの。なんだか、自分やヴィータやシグナムより、ヤスフミの方が、リインの正式なロードに見えるって」

「ロードって……アレだよね。アレをアレしてアレしちゃうの」

「ヴィヴィオ……その恭文くんやアルトアイゼンみたいな言い方はやめて」

「アイツ、こんな子供にナニ教えてんのよ……」



 あははは……ヤスフミと仲良くなってから、ヴィヴィオ、どんどん強くなっていくなぁ。うん、いいことなんだけど、ちょっと心配。



「でも、本当にそうですね。ご飯も、時間が合えば一緒に食べてますし」

「よくお話したり、一緒にお仕事したりしてるよね……あ、そう言えば、この間の、リイン曹長とのコンビ戦闘、凄かったね」

「そうだね。敵役として出てきたガジェット数十体が、3分とかからずに全滅だし」

「リイン曹長も恭文も、すれすれで攻撃するんだよね。それで、合図とかも全然交わさなくても、一発もミスショットなんてなくて……」



 そう、ヤスフミ……は、さすがにリインとの体格や装甲の厚さで差があるし、自分の攻撃力も考慮するから、そこまでギリギリにはやらないけど、リインはやる。



 そのスレスレの攻撃の合間を縫うようにして、ヤスフミが前線として攻撃。

 それで、リインが、ガードウィングみたいな感じかな。援護したり、入れ替わってフリジットダガ―で攻撃したり。

 二人で過ごしてきた時間と、その中で一緒に培ってきた記憶が、二人の呼吸を完璧なものにする。



 ……そういうのも、はやてやヴィータのヤキモチに拍車をかけるんだけどね。『うちらより上手いのはどういうワケやー!?』って。





「二人……というか、アルトアイゼンも入れて、三人は、最初から最後までクライマックスだったねっ!」

「うん、そうだね。恭文くんとアルトアイゼンとリインのチームは、最強かな。誰にも止められないの。実際、一緒に戦うとノリがすごいし」



 ……そうだね。あの三人は、本当に強い。

 息も相性もコンビネーションもピッタリ。まさしく、熟年夫婦だよ。あれが本当の古き鉄の姿なんだ。



 でも、「最初から最後までクライマックス」って、どういうことだろ。ヤスフミもよく言ってるし、最近なのはやヴィヴィオも口にしてるし……



「というか、なのはママ」

「ん、何?」

「恭文も一緒にお風呂入れないの、少し寂しいね……」



 そう、私やなのはと同年代であるヤスフミは、さすがにこちらには来られない。というか、来てもダメだよっ!

 私だけならともかく……あ、そういう意味じゃないよ? ヤスフミは変な事を強要したりしないってわかってるから。

 というか、なのはやアリサ、すずか達以外の、他の人もいるんだし……



「じゃあヴィヴィオ、後で一緒に男湯の方にいってみる? そうすれば、なぎさん達と一緒に入れるし」

「でも……なのはママとフェイトママが寂しいよね」

「ヴィヴィオ、私やなのはのことは気にしなくていいよ。大丈夫だから、ヤスフミのところに」

「……ヴィヴィオ、もしかして、みんなでお風呂に入りたいの? 恭文くんだけじゃなくて、エリオとも」





 なのはが、少しだけ真剣な顔で聞いてきた。え、なのはっ!?





「うん」

「よし、なら……ママに任せて」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いやぁ、いいお湯だね。エリオ」

「そうだね……このボコボコいうのって、クセになるね」

「なるですー。というか、日ごろのがんばりが癒されるですよ〜」

「まったくだ」

「そーいや、ガキの頃は面白半分に泡の出てるところの中心に入っていったりしてたよなー。
 イクトにも覚えないか?」

「そんなバカはお前だけだ」

「え!? そうなの!?」

「…………ジャックプライム……貴様も経験アリか……」





 さて、僕達は泡風呂で幸せに浸っていた。それはもう見事に。エリオも、リインがいることにだいぶ慣れたようだ。実に普通にしている。





「あー、そういやエリオ」

「何?」

「本当に慣れてるね。もうちょい緊張するかと思ってたのに」

「うん……前にみんなで入って、本当に楽しかったから」





 さて、一応補足。六課メンバーは、僕やなのはにフェイトが元々暮らしていたこの街、海鳴市に、出張任務で訪れたことがあるのだ。

 ロストロギアの回収任務だったらしい……いや、本当におかしいから。どうしてそんなことが起きるのさ。



 僕がいた時にも、何回かあって、巻き込まれたりしたしなぁ。大事にならなかったのが救いだったけど。



 とにかく、その任務の中で、みんなで海鳴のスーパー銭湯……つまり、ここに来た事があるのだ。





「あの時はキャロがこちらに突撃してきて茹蛸になってたですよ」

「……まー、アレだよエリオ。大変だったね」

「うん、大変だった……というか、恭文と仲良くなってから、最初から六課に恭文がいてくれたらって何度か思ったよ。
 だって、前線メンバーって、人間組に絞ると男は僕だけだよ? イクトさんは隊長格側だし、方向音痴が祟ってあまり前線には出てこれないし……」

「いや、ザフィーラさんいるじゃないのさ」

「でも、ザフィーラは狼だし、どっちかっていうと隊舎でずっといる方が多いし」





 ………………………………ん? まてまて、なーんかイヤな予感が。






「あー、エリオ。ひとつ質問」

「何?」

「ザフィーラさんが、人の姿になれるって知ってる?」

「……………………………………………………………………え?」











 その時のエリオの顔が、非常におもしろいものだったのは付け加えておこう。





















「……じゃあ、ザフィーラさんがずっと狼形態なのは」

「はい。はやてちゃん達と一緒に暮らし始めた時、自分だけ男の人だったので、まだ小さかったはやてちゃんに気遣ってのことだったそうです」

「で、局に勤め初めてからは、はやてやシャマルさんの護衛につくことが多かったんだって。
 その時、あの形態だとやりやすいそうなんだよ。あと、狼形態だと、人材制限に引っかからないとか」





 要するに、六課が所有する隠し手のひとつになっているワケですな。



「あまり役に立ってない、立っても気づいてもらえない隠し手だけどな」



 …………ジュンイチさん、言わないであげて。



 しかしビックリした。ここまで一度も人の姿になってなかったなんて……





「……うん。というか、僕はザフィーラが始めてしゃべれるって知った時もビックリしたよ」

「でもさ、それでようやく納得できた。なーんでスバルやエリオがザフィーラさんのこと呼び捨てにするのかわからなかったんだけど、理解した」

「……今からさんづけにした方がいいかな?」

「しなくていいと思うよ? あの人、そういうこと気にする人じゃないから。むしろ親近感持ってくれてうれしいんじゃないかな」

「ですです。だから、大丈夫ですよ?」



 僕とリインの言葉に、ようやく安心した顔を浮かべたエリオを見ながら思った。

 ザフィーラさん、なんというか……“盾の守護獣”が、“影の(薄い)守護獣”になってませんか?











 ………………シャレにならないっ!

 自分でネタふっといてなんだけど、想像してみるとシャレにならないっ!



 ザフィーラさん、帰ったら僕も何か考えてあげますから、今からでももう少し目立つこと考えた方がいいですよっ!





「あの、話を戻すけど、男が僕ひとりって、やっぱりいろいろ大変だよ」

「あー、確かになぁ。そこに僕がいれば、まだ中和されるもんね」

「でしょっ!? 本当に大変だったんだからっ! 特にスバルさんっ!
 よく抱きつかれたり、お風呂に連れて行かれそうになったり……」





 ……スバル、どんだけフリーダムなんだよ。つか、10歳児にそんな感想を持たれるって大概だよ?





「最近はそうでもないの?」

「そうだね。恭文の方に興味が出てきたみたいで、僕にはあまり」

「……その言い方は誤解を招くからやめて」

「でも、恭文」

「ん?」





 エリオが、僕の顔を見て、少し真剣な顔と声をぶつけた。

 本当に、真っ直ぐに。





「ありがと、六課に来てくれて」

「……またいきなりだね。どうしたのさ」

「なのはさんの身体のこととかがあったかもしれないけど、恭文が来てくれてよかった。みんな、本当に楽しそうに過ごしているから」





 …………………………………………………………まて。今、凄まじく引っかかるフレーズが聞こえたよっ!?





「あの、エリオ? 今言ったのって、どういうことですかっ!?」

「まさか貴様……知っていたのか!? 蒼凪がどうして六課に来たのか!?」

「……休み明け、僕達訓練の前に、医務室に行ったんです。訓練用のファーストエイドキットを補充するために」

「……エリオ、盗み聞きは関心しないよ?」





 ホントだよ。つまり六課のフォワード陣は、あの僕達……僕とアルト、ジュンイチさん、なのはとシャマルさんの会話を聞いてたワケだ。



 なるほど、それで納得したよ。

 ここ最近の気合の入り具合や、スバルやティアナがやたらとなのはの身体を気遣っていたのは、あれが原因か。





「あの、ごめん。僕達、聞くつもりじゃなかったんだ。ただ、話が聞こえてきて……」

「そのまま最後まで同席しちゃったと……」

「バレてたですか……あのエリオ、その話は他の誰かにしたりとかはないですか?」

「それはないです。相談して、話すのはやめておこうと……話されても、困るよね?」

「まーね、部隊の士気に関わるし。つか、どうしてその話を今?」





 正直、僕も気づいてなかったから、このまま知らないことにしてもいいと思うのに。





「フェイトさんからね、恭文が、本当にがんばってここに来てくれたって聞いてたから、どうしても……言いたかったんだ。
 ありがとう、僕達のこと、助けに来てくれて。すごく、うれしい」





 ……エリオ、とりあえず頭を上げて。つか、顔がお湯に浸かってるからっ!





「あははは……ごめん」

「……礼なんていいよ。僕は、自分の好きでここにいるしね。まー、それに意外と楽しんでるから」

「……そっか」

「そうだよ……あ、ひとつ確認。僕達に話してるのは、スバル達は知ってるの?」

「ううん、知らない。僕が言いたかっただけだから」





 その言葉に、僕らは顔を見合わせ、うなずく。そういうことなら、しかたないでしょ。





「……スバル達には、そういう体で接することにするよ。まったく、エリオのおかげで秘密がまたひとつ増えたじゃないのさ」

「あー……うん、ごめん」











「エリオくーんっ! 兄さーんっ! リインさんっ!」

「恭文ー♪ パパーっ!」





 ……ん? この声は……キャロか。それに……ヴィヴィオっ!?



 声のした方を見ると、身体にバスタオルを巻いて、キャロがヴィヴィオと手を繋いで、ゆっくりと歩いてくる。

 あ、そうか。エリオも女湯に入れるけど、キャロも男湯に入れるんだ。もちろんヴィヴィオも。





「…………イクトさん。
 僕ら、呼ばれなかったね……」

「気にするな、ジャックプライム。
 オレ達は影だ。裏方だ。潜むことに徹するんだ」



 あー、はいはい。無視された二人は少し落ち着こうか。





「二人とも、どうしたよ? ……あ、エリオとリインを呼びに来たとか?」

「うん、二人もなんだけど、なぎさん達も呼びに来たの」

「恭文、一緒にお風呂入ろう〜」

「よし、二人を連れて行って戻りなさい、早く。つーかとっとと戻れ」

「そして二度と来るな。来たらギガフレアと思っとけ」





 二人が泣きそうな顔になったけど気にしては負けだ。

 普通に入るならともかく、呼びに来たって言ったのがポイント。つまり、ここじゃない何処かへ入ろうという話だ。

 ……あのね、僕はまだ死にたくないのよ。確かにこの外見だけど、一応男で18歳よ?

 なのは達に見つかったら、挿入歌の調べと共にフルボッコだよフルボッコ。





「別に女湯に入ろうなんて言ってないよっ!」

「そうだよ……恭文のエッチ」

「……ヴィヴィオ、正直に答えてくれるかな? その言い回し、誰から教わった?」

「スバルさんが言ってたよ?」

「あのバカタレが……っ!」





 ……よし、スバルは少し痛い目に合わせてやろう。グリグリがゲシゲシかガリガリのどれかの刑に処してやる。

 そう心に決めたと同時に、疑問が湧いてくる。女湯じゃないとすると……どこに入るのよ?





「家族風呂だよー♪」

『家族……風呂?』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 そうして、僕達は、二人の少女に連れられて、施設内のある一角にやってきた。



 ドアを開けると、そこは露天風呂。

 入り口からみんなで空を見上げると、泡風呂を堪能している間に、空は暗くなり、夜の色へと染まっている。



 ここから見上げる空は、星が見える。なんというか……綺麗だ。

 ……こんな所があったんだね。





「うん、今年の10月に新築されたんだって。それで予約式なんだけど、今日はたまたま空いていてすぐに入れたの」

「ママー! 恭文とエリオさんと、リイン曹長連れてきたよ〜」



 ……ま……ま……っ!?



「あ、来た来た。恭文くん、ジュンイチさん、マスターコンボイさん、こっちこっち〜」

「キャロ、ヴィヴィオ、案内ありがとうね。私達が男湯に入ると、大変なことになっちゃうから……」





 ……よし、今やるべきことはひとつだ。足を踏み出そう。そう、後ろへとっ!





「みんな、戻ろうか」

「ですです」

「恭文、なんか身体が熱いんだけど、どうすればいいの?」

「じゃあ、水風呂入りなさい。でも、急に入っちゃだめだよ? 心臓のところにまず水をかけて冷たさに慣らしてから、身体を入れるの。
 それをやらないで急に入って、ショック状態とかになって、病院に運び込まれた人もいるから」

「そっか、わかった。やってみるよ」





 あー、なんか『ちょっとまってー』とか聞こえてるけど気のせいだ。

 うん気のせいだ気のせいに決まっているっ! 頼むからそうだと言ってくれ神様っ!





 ……なんだこの状況はっ!?

 というか、なぜになのはとフェイトがバスタオル巻いて湯船に浸かってるんだよっ!

 エリオがまたもや茹蛸になってるじゃないかよっ!





「なのは……説明してくれるか?」

「えっとね、ヴィヴィオがみんなと一緒にお風呂入りたいって言い出したから、ここのこと、ロビーのチラシで見たの思い出して、お願いしてみたの」

「そうしたら、丁度予約が空いてたんだ。それで、せっかくだからみんなで入ろうって思って……」

「なるほど……事情はわかったけど、いいのか二人はっ!? 僕らはこれでも男なんですけど」





 一応ね、あなた方は鈍いからあれかも知れないけど、エリオはまだいいさ、子供なんだし。

 でも、僕に裸とか見られるのは……イヤじゃないの? まぁ、タオルは巻いてるけど、ラインとかはくっきりだよ?



 なのはは成長なくぺったんこかと思ったら、意外と着痩せしてるんだなとか。

 フェイトは……うん、すばらしい。ただただすばらしい……とか思ってしまったりしてるんです。というか、今朝感じてた柔らかさとぬくもりが……



 でも、当のなのはとフェイトは目を合わせて、クスリと笑った……何がおかしい?





「あぁ、ごめんごめん……私達は、そういうの気にしないから平気だよ?」

「気にしろよ19歳っ! つーかそういうのは彼氏に言え彼氏にっ! もっと言うなら僕のとなりの暴君にっ!」

「……あのねヤスフミ。私も大丈夫。
 みんなとは、付き合い長いんだもの。変なことしないっていうのは、わかってるから」

「そうだよ。だから、別にお風呂くらいはOKだよ? 裸はともかく、私もフェイトちゃんもこうやってタオル巻いてるんだし。
 ……あ、もしかして、私の事見て変なこと考えちゃうのかな? もう、恭文くんったら……そういうのはだめだよ。私にだって心の……イタッ!」





 なのはの一言に、手元にたまたたまあった風呂桶を手にとって、なのはの頭頂部目掛けてスローインしたとしても……きっとそれは罪などではない。



 そう、それは……正義だっ!





「痛いよやすふ……ごめんなさい。私が悪かったと思うのでその目はやめてください。泣きたくなってくるんです……うぅ」

「……ほう? だったら泣けっ! 泣いてしまえこのうつけがっ!」

「ヤスフミ、おさえておさえて……
 あ、もちろん、私もなのはも、ヤスフミを小さいからって男の子として見ていないっていうワケじゃなくてね。そのなんていえばいいのかな……あぅ……」





 僕が身長や体格を気にしているのを思い出したフェイトが浴槽の中でアタフタしている。

 その様子を見てたら、さっきまで動揺しまくってたのが馬鹿らしくなった。

 まったく、この二人は……





「あぁ、もういいから。それ以上小さいって言われるとムカツク」



 そう言いながら、軽くため息。

 そこまで言われちゃ、悪くないかな、とも、ちょっぴり思っちゃったりもするけど……



「けど……悪いがそれでもムリ。
 悪いが自重してくれるか?……最低限でもお前ら二人は」

「ジュンイチさん、どうしてですか?」

「ん」



 聞き返すなのはに対して、ジュンイチさんは足元を指さした。

 それに従う形で、みんなが足元を見下ろして……



「ぅわ、何この赤いの!?」

「まさか……血!?」

「そのまさかだよ」



 言って、ジュンイチさんは自分の背後へと振り向いて――



「て、テスタロッサが、高町が……っ!」

「い、イクトさん、しっかりっ!
 大丈夫だよっ! こんなのかすり傷だよっ!」

「気をしっかり持て、炎皇寺往人っ!
 めでぃっく! めでぃーっくっ!」



「………………あの異性免疫0の純情バカを失血死させたいなら、止めないけどさ」



 鼻血の海で溺死しかかっているイクトさんをジャックプライムとマスターコンボイが必死に介抱している姿に、なのはもフェイトも何も反論できなかったのは……まぁ、言うまでもなかったかな?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なのはママ、フェイトママ……」

「あきらめよう、ヴィヴィオ。
 イクトさんを死なせるワケにはいかないでしょ」

「………………うん」



 結局、なのはとフェイトにはあきらめて女湯に戻ってもらった――キャロに回復魔法を(もちろん、他のお客には見えないように極小の結界を張った上で)かけてもらっているイクトさんを尻目に説得する僕の言葉に、ヴィヴィオはなんとか納得してくれたみたいだ。



「でもさ、ヴィヴィオ。なんで僕とそんなにお風呂入りたかったの?」

「うーんとね……」



 僕がそう聞くと、ヴィヴィオは少し考え込んだような顔をして……こう答えた。



「なのはママがね、一緒にお風呂に入ると、いっぱいお話して、いっぱい仲良くなれるって言ったの。
だから、恭文と一緒に入れば、もっと仲良くなれるかなって、思ったの」

「それは、私もかな……なぎさんの事、もっと知りたいなと思って。それでこんな感じに……
 なぎさん、前に言ってくれたでしょ? フェイトさんと家族なら、自分とも家族だって。
 だから、互いにいろんなこと話して、コミュニケーションしたいなと」





 そのヴィヴィオの言葉に乗っかったのはキャロだ。

 ……はやて、僕もコミュニケーション不足してたのかもしんない。ふと、そう思った。





「なるほど、納得したわ……ヴィヴィオ、湯当たりしない程度にお話しようか。もちろん、エリオとキャロともね」

『うんっ!』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あー、このマッサージ機はキモチいいねぇ〜」

「美由希さん、少しおばさんくさいですよ……」

「う……」

「でも、なぎくん……本当に元気そうでよかった」





 まぁ、アンタと美由希さんは、本当に心配してたしね。





「いや、家の末っ子が心配かけちゃってごめんね。あの子もそうだけど、相棒も止まんない子だからさ」

「あー、大丈夫大丈夫ー。なんとかなるって信じてはいたから」

「なぎくん、ここ一番では強いですから」





 そうよね。アイツ、普段はともかく、ここ一番の大勝負では凄まじく強いし。つか、あの引きはチートよチート。



 でもま、だからこそ少しは安心できるんだけどね……姉貴分としては、心配なのよ。あいつ、本当にフラっていなくなっちゃいそうだから。





「でも……フェイトちゃんとは、相変わらずみたいだね」

「そうですね……あたしがくっついても、フェイトちゃん、応援オーラとか出しちゃうし。ダメだよアレ。恭文くんが可哀想」

「あら、ひょっとして二人とも、それで恭文くんにくっついてるの?」

「まぁ、それも含めつつ……かな。恭文、反応可愛いし」

「恭文くんといるの、楽しいもんねー♪」

「いや、それっておかしくない?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 まぁ、こんな感じでスーパー戦闘……もとい、銭湯タイムは終了した。



 このあと、全員でハラオウン家へと向かった。ちょこっとだけ、エリキャロとヴィヴィオと仲良くなれたような気がして、うれしかった。





 ただし、ひとつの問題が……











「リンディさん、ただいま」

『ただいま戻りましたー!』



 なお、エリキャロはただいまと言うことにしようと、事前に取り決めていたそうだ。まぁ、正解だね。



『パパ、おかえりー!』



 そうして、リビングから僕の方へと駆け寄ってくるのは……一組の男女。というか、子供。



 同じ顔立ちで、ほぼ同じ髪型。ヴィヴィオよりも小さい身長のこの子達は、クロノさんとエイミィさんの子供。その名も、カレルとリエラ。



 そして、パパと呼ばれたのは……僕です。





「うん、ただいま。カレル、リエラ、元気だった?」

『うん♪』

《お二人とも、お久しぶりです。というか、まだパパなんですね》

「あるとあいぜんー♪ おひさしぶりー。というか、パパはパパだもんっ!」

「そうだよっ! パパには、パパって呼ばなきゃいけないんだよ?」





 ……さて、説明が必要? うん、そうだよね。エリオもキャロもヴィヴィオさえもぽかーんとしてるし。





「あのね、ヤスフミは、二人からパパって呼ばれてるんだ」

「いや、それは見ればわかるんですけど……」

「なぎさん、まさか……エイミィさんとそういう関係なのっ!?」

「んなワケあるかボケっ! まったくクリーンな関係だよっ!」



 あぁ、そうだそうだっ! これがあったんだっ! 仕方ない、ちゃんと……



「あー、それは私から説明するわ」



 ……エイミィさんが説明してくれるらしい。



「恭文くんね、この子達が生まれた時に、一年くらい魔導師の仕事休んで、私の子育て手伝ってくれてたのよ」

「あ、ひょっとしてそれでパパって呼んでるんですか?」

「うん……なんでか、うちの旦那様より先にね」





 あぁ、そうでしたね。その事実は忘れていたかった。



 ちなみに、原因と思われることはこれだけではない。





「それだけじゃなくて……まぁ、その。私の出産の時、恭文くんが最後まで立ち会ってくれたのよ。
 というか、出産してすぐ、私の次にこの子達抱いたの、恭文くんだよ?」

「なぎさん……」

「恭文、さすがにそれは……」

「待てっ! そんな非難の目で僕を見るなっ! つーか、クロノさん航海任務でいなかったしっ!
 あと、僕に子供抱かせたのは病院の助産婦さんだからっ! あの感動シーンで抱かないって選択肢はなかったんだよっ!」



 アレですよ。アレなんです。

 『よかったね。パパに抱いてもらえて』って、言われた時の居心地の悪さとクロノさんへの申しわけなさは、思い出すと頭痛がしてくるレベルです。



 実際、それからクロノさんはすごく凹んだ。僕を責めるようなことは言わないけど、凹んでた。



「まぁ……アイツの自業自得なところは、確かにあるかなー……」



 わかっていただけて何よりです、ジュンイチさん。



 なお、それだけで済めばよかったんだけど……

 僕がクロノさんより先にパパって呼ばれたもんだから、また凹んだ。



 一時期、本気で疑惑持たれてたし。何回ガチな家族会議が行われたと?





「……まぁ、実際問題として、恭文くんとエイミィには何もないんだけどね。ということで、みんなお帰り」

「ただいま、リンディさん」

『ただいまもどりました』

「リンディさん、ただいまです」





 エプロンで手を拭きながら再び出てきたのは、リンディさん。当然、この家の家主である。





「……ねぇ、恭文くん」

「ただいまです。リンディさん。あと、それはイヤです」

「まだ何も言ってないでしょっ!?」

「いや、なんとなくイヤな予感したんで。さ、とにかくあがりますね。つーか、ご飯ご飯♪」

「あぁん、いけずー。お願いだから一回くらい『お母さん』って言ってくれていいじゃないのよー!」





 ……言ったじゃないですか。ここにお世話になるようになってから、一回だけ。というか、気恥ずかしいので、後にする。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 とにかく、それから楽しくお食事会を済ませた。アリサにすずかさんも、ホクホク顔で帰っていった。



 そして高町家の面々やフェイト達も後片づけが済んだら高町家に帰る予定。今日はそれぞれの実家で家族水入らずですごす、ということで、ハラオウン家の僕と高町家のフェイト達はここで一旦別行動になるのだ。



 で、日帰りな予定を組んでいたなのはとヴィヴィオ、リインは、このまますずかさんの家の転送ポートから、ミッドに戻るそうだ。で、泊まりの予定だったジュンイチさんとあずささんは高町家で空き部屋を使わせてもらうとか。

 ……ま、しばしのお別れってことで。



 で、僕はちょうどアリサやすずかさんのお見送りを済ませたところ……いや、楽しかったな。うん。



 家へと入ると、リンディさんとアルフさん、それにフェイトが、せっせとお食事会で使った食器などを洗っていた。

 ……すごい量。みんなよく食べて、よく飲んだしねぇ。



 それを見て、僕もキッチンへ行って食器清掃隊に加わる。





「あら、手伝ってくれるの?」

「別にいいぞ? 自動食器洗い機あるし、今あるのをぶちこめば終わりだしな〜」



 ……あー、そうだった。僕の家にはそういうのないからついつい。



《いつものクセみたいになっていますからね》

「だね……って、ずいぶん久しぶりに声を聞いた気がするよ」

「そうだね。海鳴に来てからは、ずっと黙ってたし」





 胸元から聞こえた声は、考えるまでもない。僕の大事なパートナーであるアルトアイゼンの声。

 ここは部屋の中だし、いる人間も次元世界絡みの人ばかり。アルトがしゃべっても問題はないのだ。





《……私だって好きでしゃべらなかったワケではありません。
 リンディさん、早くこの世界も管理世界になりませんかね? どうにもこうにもマスターたちの会話にツッコみたくて仕方ないんですが》



 いや、そんな理由でなったりしないから。次元世界をなめているよ、アルト。



「そうね。さすがにその理由だと……弱いわね」

「てゆうか、お前がおしゃべりしすぎなだけだぞ? フェイトのバルディッシュやなのはのレイジングハートを見てみろ。あれが標準だ」

「……でも、バルディッシュは無口な子だから。
 ちょっとだけ、アルトアイゼンとたくさんお話できるヤスフミがうらやましいな」



 まぁ、アルトと話すの楽しいけど、ツッコむの大変だよ?

 でも、バルディッシュはそこまで無口なのか。相当稼動年数多いはずなのに。



《……特に問題はありませんので。というより、アルトアイゼンがしゃべりすぎなだけかと》

「そうかもしれないけど、私としてはバルディッシュともっと話したいな。
 『Yes Sir』とか『問題ありません』ばかりじゃなくて、色んなことを」

「だ、そうだけど……どうする、バルディッシュ?」

《……善処しましょう》



 なんだか、照れたような顔が浮かぶような声に、僕とフェイトは顔を見合わせて笑う。

 ……うん、どっか対照的なのかも。フェイトとバルディッシュ、僕とアルトって。



《まぁ、バルディッシュはそれでもいいでしょ。フェイトさんは優秀ですから。私はマスターがへタレだから大変で大変で……》

「うっさいっ!」





 この後、みんなで少しだけあれこれ話した後、高町家組も帰っていった。



 で、僕達はそれぞれ寝室に入り、ゆっくりと眠りについた。

 僕が使っていた部屋はそのままにしてあったので、僕とアルトはそこで、マスターコンボイも床に布団をしいてお休みである。カレルとリエラが大きくなったら、片さなきゃいけないな。

 もう部屋に空きはないし、さすがにずっと親と同じ部屋ってのもあれでしょ。



 ……まぁ、帰るべき家に、自分の場所がなくなるってのは……ちょっとだけ寂しいけどさ。











 ………………うん。やっぱり、仕方ないよね。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………来たみたいだね。



 高町家に帰還すると、もういい時間だったのでエリキャロはおねむ。で、フェイトやあずさもそれに付き合う形で就寝と相成った。





 けど……オレは寝る前にまだやることがあった。だからこうして、高町家の道場の真ん中で待っていたんだけど……ようやく待ち人が現れた。





 士郎さんと、桃子さんだ。



「どうしたの? ジュンイチくん。
 こんなところに呼び出して……」

「腕試し……というワケではなさそうだな。それだと桃子も呼んだ意味がわからない」

「ちゃんと、お二人に話があって呼んだんですよ」



 尋ねる二人に笑顔で答え――ここからは真剣なお話。オレも表情を引き締めて再度口を開く。



「二人に、ちょっと聞きたいんだけど。
 もし、オレが……」





















「8年前のなのはの大ケガ……アレの原因だと言ったら……どうする?」





















 オレの強烈な先制パンチに、士郎さんと桃子さんが停止する――すぐに我に帰り、説明を求める二人に、俺はすべてを打ち明けることにした。











 そう。オレは、なのはが死にかけた、あの撃墜事件に深く関わっている。







 あの時、なのはは疲労のたまった状態で偶然遭遇したアンノウンの相手を引き受けて戦い、不覚を取っている。



 そしてその結果、なのはは何年もリハビリを必要とする大ケガをすることになった。



 それこそ、一時はもう二度と飛べなくなるかもしれないっていうくらいに。







 だが……そこで疑問には思わないだろうか?



 なのはの遭遇したアンノウンというのは、まだ当事悪人だったスカリエッティが使用していた、“ゆりかご”で作られていたオリジナルのガジェットだったワケだけど……





 そもそも、ガジェット達はどうしてあの場に現れたのだろうか?





 答えは簡単。







 あの時のあのガジェット達は、追いつめられて、あの場に逃げ込んできたのだ。



 そう……





















 オレの手によって。











 オレがスカリエッティを追跡する中で、ガジェットを発見。情報を得ようと追い回した結果、ガジェット達はよりによってなのは達の訪れていた遺跡に逃げ込んでくれたのだ。

 そして……その結果、なのはは墜ちた。











 オレが、なのは達があそこにいると知らないまま不用意に動いたことで、なのはに一生残る傷をつけてしまったのだ。



 いや……場合によっては死んでいたかもしれない。



 そう。オレは一歩違えばなのはを間接的に殺してしまうところだったのだ。







 それだけのことをしておいて……何も償わないというのも違うだろう。



 だから、オレはこうしてこの家を訪れた。

 なのはに同行するのにかこつけて……士郎さん達にこのことを伝え、謝るために。



「なるほど。
 それで、用意したのがこの場か」

「えぇ。
 あれから、もう8年――謝罪がここまで遅くなってしまった分も含めて、あなた達にはオレを責める理由がある。
 なのはには、もう話してる……けど、アイツの家族であるあなた達にも、話しておくべきだと思った。だからこうしてこの場を設けさせてもらったんだ」





 すべてを知り、息をつく士郎さんに対して、オレもまた静かにそう答える。





 これで、士郎さん達がオレを許さないのであれば、オレはおとなしく討たれてやる覚悟だってある。



 この、ちょっとやそっとでは死ねない身体で、何度だって……





















「…………ひとつだけ……きいてもいいかい?」





















 えぇ、どうぞ、士郎さん。



「どうして……8年間も謝らずにいたんだい?
 キミなら、最初になのはが墜ちた時点で謝罪に来ることはできたはずだ」

「それは……“JS事件”が未解決のままだったからです」



 そう。オレがなのはや士郎さん達に大使、すぐにでも自分のミスを謝罪しに現れなかった理由はそこにある。





 なのはがあんな目にあったのはオレのミスだ。


 けれど……いや、だからこそ、そのミスに落とし前をつけないうちから、許しだけをすんなりもらうワケにはいかなかった。





 だから……謝罪するのに今までかかってしまったのだ。





「ガジェットがなのは達のいる方向へ逃げ込んだのはただの偶然。オレは悪くない……そう片づけるのは簡単だった。
 けれど……オレはそうすることに納得できなかった。だから……」





「もういい」





 話し続けるオレの言葉をさえぎったのは士郎さんだった。桃子さんをその場に控えさせて、オレの方へと歩みを進める。



 途中、壁にかけてあった稽古用の刀のうち、迷うことなく真剣を選んで手に取る。

 …………こりゃ、討たれるコース確定かな?



 そんなオレに対して、士郎さんは……











「これが……答えだっ!」











 一瞬だった。

 オレが瞬きをしたかしないか、その一瞬の間に、多数の斬撃がオレの周りを駆け抜けたのがわかった。



 けど……その中の一発も、オレの身体を捉えることはなかった。





「キミの気持ちはよくわかった。
 なのはのために、そこまで責任を感じてくれる子を、一時の怒りだけで斬ることはできないさ」





 言って、士郎さんは刀をサヤに納める……やべ、動き、ぜんぜん見えなかった。





「キミはなのはのことで、この8年間ずっと苦しみ続けてきたはずだ。
 もう、やめにしないか?」



 桃子さんも…………同じ意見ですか?



「えぇ。
 あの子にも……なのはにも、そのことは話したんでしょう?
 その上で、あの子はあなたを受け入れている……あなたを許してる。
 当事者であるあの子があなたを許しているのに、私達が意固地になってもしょうがないでしょう?」



 そう答えると、桃子さんはオレの手を取って、



「あなたは、自分を許せないのかもしれない。
 けれど……それで自分を責め続けて、あなたが苦しむことはないわ」

「そういうことだ」



 桃子さんに同意すると、士郎さんはオレの方をポンと叩き、



「オレもキミと同じく戦闘者として生きてきた身だ。なのはを危険にさらした罪を、背負わずにはいられない気持ちも、少しはわかる。
 けどね……だからと言って、キミが幸せになってはならないということには、必ずしもならないと思うんだ。
 背負わなければならないとしても……背負った上で、キミは幸せになるべきだ」

「背負った上で……ですか」



 復唱するオレに対して、高町夫妻は迷いのないまっすぐな笑顔でうなずいてみせる。



 うーん……こういうところはさすがにあのなのはの両親だ。問答無用で許しに来たか。

 なまじ罪悪感が払拭されたワケじゃないだけに、ここでスッキリ許されるのはいい気分はしないんだけど……そういうのも受け入れて、その上でさらに幸せになれ……ってことなんだろうな。





 正直な話、オレは今までいろいろな“罪”を犯して、それを背負って生きてきた。背負った上で……なんて考えたこともなかったから、今の士郎さん達の話に納得できたワケじゃない。ないけれど……





「…………考えてみます」





 それでも……そういう選択もあるっていうことは、知っておくべきなのかもしれない。





 オレが、もしそれを実現させることができたなら、実現させる道を見出すことができたなら……











 オレとは別の形で、別のものを背負っているオレの友達も、きっと幸せにしてやれるはずだから……







(第21話へ続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!


エリオ「イクト兄さん、大丈夫ですか?」

イクト「あ、あぁ……すまない……」

ジュンイチ「ったく、だらしねぇなぁ、お前は」

イクト「貴様は貴様で平気すぎる。
 なんでそんなに免疫がついてるんだ。このムッツリスケベが」

ジュンイチ「………………ことある毎に実の母親からエロゲが送られてくる生活をしてればこうもなるよ」

イクト「………………オレが悪かった」





第21話「言うまでもないことだけど、三國無双のあの暴れっぷりは、現実的にはありえない」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《えー……みんなで仲良くお風呂タイム……と思いきや、最後の最後でミスタ・ジュンイチにメインを奪われる形になってしまった第20話をお送りしました》

Mコンボイ「本当にアイツはどこにでもしゃしゃり出てくるな……」

オメガ《いろいろと濃いキャラですからねぇ……ボスには負けますが》

Mコンボイ「いや待て。オレはあそこまでキャラクターは濃くないぞ?」

オメガ《自覚がないというのは、幸せなことなんですね……》

Mコンボイ「何か言ったか?」

オメガ《いえ何も。
 さて、次回は旅行も最終日なワケですけど》

Mコンボイ「予告のサブタイトルにアクションゲームのタイトルが入ってる辺り、またバトルがあると思っていいのか?」

オメガ《まぁ、期待くらいはしてもいいんじゃないですか?
 さて……それでは、恒例の『GM』シリーズ紹介ということで……》

Mコンボイ「今週は、以前泉こなたを紹介して以来ほったらかしになっている『らき☆すた』組から、こいつの登場だ」



名前:柊 かがみ

登場作品:らき☆すた

基本プロフィール:原作準拠。高校3年生時点の設定

魔導師ランク:ランク試験未受験

使用トランステクター:ライトライナー(500系新幹線型)

備考:こなたの親友であり、カイザーズのサブリーダー兼ライナーズのリーダー。コールサインは“ライナー1”。

 こなたに続いてゴッドマスターに覚醒。常識人ということもあり覚醒当初は戦いに対し消極的な姿勢を見せたことも。

 ツンデレ同士、ティアナとは心友として交流がある。



オメガ《やはり時代はツンデレですね、ツンデレ》

Mコンボイ「いや、今の紹介でツッコむところがそこなのか」

オメガ《自分だってツンデレのクセによく言いますね》

Mコンボイ「待て! オレは別にツンデレでも何でもないぞ!?」

オメガ《いや、ボスはもう立派なツンデレですから。
 ……さて、それはそうと、今週もそろそろお開きとさせていただきましょうか》

Mコンボイ「では、読者諸君。また次回会おう」





(おしまい)





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