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頂き物の小説
第18話「結局、男はいくつになってもガキ大将」



……目覚ましなしでも、決まった時間に目が覚める。きっとそれはいいことなのだと思う。

 まぁ、その時刻が5時っていうのは……やっぱ若者としてダメなのかな? もう5時間くらいプラスで寝てもいいと思ったりする。



《それでは遅刻ですよマスター》

「ま、そうなんだけどね……ふぁぁぁぁぁっ!」



 ここは、ナカジマ家のリビング。昨日の捕り物を終えてからここに直行して、夕飯とお風呂をいただいてから、休ませてもらっていた。


 パジャマがちょっと少女趣味なんだけど……スバル、こういうのが好きなんだね。

 口に出したらなんで知ってるのかってツッコまれそうだから、記憶の中に留めておくよ。





「………………ん」





 ……っと、マスターコンボイ、起こしちゃったかな?

 おはよ、マスターコンボイ。





「……んー………………ん」





 …………前言撤回。身体は起きたけど頭はまだ寝てるや、コレ。



 生暖かく見守る僕の目の前で、マスターコンボイは足取りもおぼつかないままフラフラとリビングを出てい……こうとして扉の脇の壁に激突。そのままコテンとひっくり返ってしまった。



「んー………………」



 ………………とりあえず、顔でも洗えば起きるかな?





 転んでもなおボケーッとしているマスターコンボイを立たせ、そのまま背中を押して洗面所へ。



 昨日の夜お風呂に入った時に、ギンガさんにお客さん用のタオルや石鹸や歯ブラシなどなどの場所は教えてもらっている。

 それで、顔を洗って歯を磨いて……いや、寝ている間に虫歯菌繁殖してるだろうし。



 そんなことをしていると、後ろから足音が近づいてくる……ゲンヤさんかな?





「お、早いな」



 ……ゲンヤさんだった。



「お前、今失礼なこと考えなかったか?」

「いえいえ何も。それはそうと、ゲンヤさんおはようございます」

「おう、おはよう。夕べはよく眠れたか?」



 ゲンヤさんは、僕のとなりに来て、洗面台の蛇口をひねりながら聞いてきた。



「えぇ、まぁ。
 マスターコンボイは……見ての通りですけど、僕はよく眠れましたよ」

《寝言で『フェイト……』と言ってましたが》

「ほぉ」



 ……アルト、ウソだよね? 僕、そんな夢みた記憶ないんだけど。



《そうですね。今日はウソです》

「『今日は』って言うなっ! それだといつも言ってるみたいじゃないかよっ!」

「お前、いい度胸してるな。あんな可愛い嬢ちゃんとデートしたその日に、夢で別の女と逢瀬か?」

「ゲンヤさんいきなり何言い出すんですかっ!? つか、アレはデートじゃないしっ!」



 いや、確かに楽しかったしドキドキしたけど。



「そりゃそうだけどよ、やってることはデートじゃねぇか」

「だったら、報告書の作成はしなくていいんですね? デートが仕事なワケありませんから」



 うん、僕にとってはそうよ? たとえそれっぽくても。というか……アレを仕事として処理するのは、なんか……ちょっとためらいがある。

 昨日とは違う。だって、ティアナがいろいろ気を使ってくれたおかげで、楽しかったし。



「いや、それは困る……まったく、お前はあいかわらず口先で動くな」

「それが取り得です」



 とか話しながら、ゲンヤさんは顔を洗う。

 別に、そういうつもりはティアナもないと思うんだけどなぁ。ティアナなら、僕よりいい相手たくさんいるでしょ。あれだけ可愛けりゃ。

 つか、僕はそれほどモテる要素があるとは思えないし。何より、そういうのならフェイトとしたいかなって。



《マスター、気持ちはわかりますが……あの人、手強すぎますよ》

「……うん、わかってるよ。なんていうか、難易度高すぎだよ。SSSだよ。何周すれば攻略条件がオープンになるのさ」



 フェイトと僕は、よく似ているところがある。

 性格とかそういうんじゃない、背負っている傷や痛み。その質が似ている。



 そういう事もあって、フェイトは僕にとって、リインやアルトや師匠、先生と同じくらいの理解者になった。



 他のみんなに言えないことでも、フェイトに対しては言えるようになって……僕がハラオウン家だけでなく高町家でもお世話になるようになったのも、それが大きい。



 そう、僕はフェイトが……好きだ。その気持ちは、今も変わってない。



 そりゃまぁ、たまにケンカしたりもする。年がら年中仲が良いワケじゃない。スルーされて、凹むこともある。

 だけど、それでも……なんというか、日々更新されてく感じで好きが深まってるのですよ。



「そのあたりは八神から聞いてるぞ」

「あのタヌキ、許可なしに人の事をペラペラしゃべるなよ……」

「まぁそう言うな。アイツはアイツなりに心配して、オレに相談に来たんだからな」

《具体的にはどんなことを相談されたのですか?》

「あぁ、お前さんが、お嬢にご執心で姉離れができないって話をな。
 お嬢以外の女の子に興味を持つようになるにはどうしたらいいのかって聞かれたんだよ」



 男二人(寝ぼけてる誰かさんは勘定に入れない)、洗面台で歯磨きしながらこんな話をしていると、友情が生まれそうな感覚がしてくる。

 まぁ、男同士が仲良くなるためには、女の子の話をするっていうのが手っ取り早いそうだしね。

 というかはやて、そんな心配をするなら、ドキドキスクリーンショットとか渡して僕を動かそうとするのはやめてほしいよ。

 いろいろとダメでしょそれは。



「オレも同じことを言ったぞ」

「……そうですよね。まったくその通りですよね」

《そして、それ故の8年ですよ》

「らしいな。八神もそう言ってたぞ?」

「あの似非ラブクイーンは……」

「まぁそう言うな。
 恋愛経験があればいろいろとやれることがあるんだろうけど、ないからどうしたらいいのかわからないって言ってたしな」



 ……はやて、そこまで言ってたんだ。仕方ない、今度何かやらかしても、少し優しくしてあげることにしよう。



「とにかく、お前さんもいろいろあるとは思うが、もう少しお嬢以外の女にも目を向けてみろ」

「いや、目を向けてるつもりですよ?」

「じゃあ、誰か興味のある女はいるのか?」

「うーん……興味……うーん、いないですね」



 ゲンヤさん、ため息吐くのやめてください。なんか、僕が悪いみたいじゃないですか。



《すみませんゲンヤさん、こういう人なんです。バカじゃないのかって言うくらいにフェイトさんが好きなんですよ》

「いや、だって……僕は……」

「でもよ、さすがにそれはどうなんだ? 8年ってのは重いが、お前さんは若いんだ。新しい恋に走ったって損はないだろ」





 ゲンヤさんの言葉に、僕は黙るしかなかった。

 ……そりゃあ、それは考えなかったワケじゃない。

 周りに、素敵だなキレイだなって思うのはたくさんいるけど、でも……惹かれて、好きだなって思う相手は、いない。

 僕は……僕が好きなのは……



「なら、これからそういう相手を見つけてみればいいんじゃねぇか?
 お嬢みたいに、自分と同じ物を持っていなくても、自分とはまったく違うタイプだったとしても、お前さんが大事だと思える相手はきっといるさ。オレにとっての、クイントのようにな」



 どこか遠い目をして、そう語るゲンヤさんを、僕はただ見ているしかできなかった。

 ギンガさんとスバルの母親で、ゲンヤさんの奥さんであるクイントさんがどういう亡くなり方……ううん、連れ去られ方をしたのかは聞いている。

 その頃のゲンヤさんがどんな感じだったのか、当事知り合いじゃなかった僕には知る良しもないけど……ジュンイチさんがゲンヤさんを心配していた様子から、そうとうに凹んでいたのはなんとなく想像できる。



 それはつまり、ゲンヤさんがどれだけクイントさんを愛しているのか、その何よりの証拠――そんな二人の事に対して僕が、おいそれとコメントしてはいけないような気がしたからだ。



 そんな僕の様子に気づいたのか、ゲンヤさんがバツが悪そうな顔をして、それから笑いながら言葉を続けた。





「そういうワケだからよ。魔導師の修行ばかりじゃなく、そっちの方も修行してみろ。もちろん、ムリのない程度にな。
 ……あぁ、なんだったらうちの娘達でもかまわねぇぞ?」

「……ゲンヤさん、父親っていうのは、そういうのに対して否定の言葉をぶつけていくものじゃないんですか? 『お前に家の娘はやらんっ!』とか言って」

《マスターには落とせないということでしょうか?》

「それはそれで失礼だねおいっ!」

「そうじゃねぇよ。いやな、父親としてやっぱり心配なんだよ。ギンガはお前さんと同じく、ジュンイチ相手に恋の敗残兵状態だろ?
 で、スバルもスバルじゃねぇか。見合いのひとつでもあればさせたいくらいなんだよ。なぁ、オレはアレらに対してどうりゃいいんだ? 頼む、教えてくれ……」

「ごめんなさい。僕が果てしなく悪かったような気がするので、泣くのはやめてください」











「………………んー……」











 そしてマスターコンボイはいい加減起きようか、うん。











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第18話「結局、男はいくつになってもガキ大将」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 なんてバカをやりつつ、ようやく目を覚ましたマスターコンボイと共に歯磨きと洗顔を済ませてリビングへと戻ると、ギンガさんが朝食の準備にとりかかっていた。

 クイントさんとホクトは、昨夜は結局帰ってこなかった。ゲンヤさんが言うには、クイントさんは更生プログラムの絡みでマックスフリゲートに、ホクトは父親であるジュンイチさんのところに遊びに行って、そのまま泊まりだったとか。

 おはようとあいさつしてから、ギンガさんを僕が手伝って、ティアナもそれに途中参加。ご飯ができ上がると昨日と同じように五人で食事。

 それが終わって、後片づけが済んでから、ゲンヤさんの運転する車で職場へと向かう。



 そう、陸士部隊・第108部隊の隊舎へとだ。今日の僕のお仕事は、ティアナやマスターコンボイと一緒に、昨日の一件の報告書を作成すること。

 けっこう変則的なミッションだけど……いつもどおり、きっちりしっかりやっていきましょ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 陸士部隊・第108部隊。



 ミッドチルダ西部にその隊舎を置く、ミッド地上部隊のひとつになる。

 ミッド地上の、ロストロギアやら薬物やらその他いろいろな密輸事件なんかを主として扱っている部隊。

 部隊長であるゲンヤさんの人柄故か、縄張り意識やらでガチガチな動きになりやすい地上部隊の中でも、優秀なのだ。

 僕の知る限りでも、指折りの柔軟性と思考を兼ね備えた部隊である。





 僕の悪友でありオタク仲間である、八神はやては2、3年ほど前の話になるけど、この部隊で仕事をしていた。

 そしてゲンヤさんは、はやてにとって師匠と言える存在になる。



 で……その時にジュンイチさんに修行をつけてもらって、ついでにトラウマまで植えつけられたらしいけど、そこはまぁ、いい。



 そして、そんなはやてに誘われて、とあるロストロギアの密輸事件の捜査……

 というか、黒幕連中のアジト壊滅に協力するために、僕が少しだけお世話になった部隊でもある。





 その後も、何かある度に(もっぱら荒事)ゲンヤさんなりギンガさんなりに呼び出されて、ごひいきにしてもらっていたのだ。

 うーん、六課の次くらいに居心地がいい部隊だったなぁ。やっぱり、上が柔軟だとそうなるんだよ。

 大体の部隊は、ガチガチになりすぎててそれで円滑に物事を進められなくなったりしてたし。





「六課の次って……」

《いや、言いたいことはわかりますが》

「あー、ギンガさん気にしないで。六課の雰囲気が異常なだけだと思うから……はぁ〜」

「アンタ、なに朝からため息吐いてんのよ」

《人生の不条理に悩んでいるんですよ》



 ティアナがわからないという顔をしているけど、とりあえずそこはいい。なんというか、悩みは尽きないなぁ。



《いいじゃないですか。平和なればこそです。ここ最近は忙しかったですし》

「そうなの?」

「囮捜査の事前準備やらがあったからね。通常業務も合わせると、けっこうやることがあったのよ〜」

「それ、あたしにも言ってたけど、具体的には何やってたのよ?」



 はやてとシャーリーのコーディネイトとか。あれが一番ウザ……もとい、大変だった。なかなか決まらないし。僕の意見は全却下だし。

 あと、フェイトとマジックカードに入れる雷撃呪文の構築。これが大変だった。

 カードの容量ギリギリに収まるようにして、構築させようと思うと中々に骨が折れたよ。



「そっか……いろいろ考えてくれたんだね」

「そりゃね。
 仕事なんだもの。そこはきっちりやらないと」



 ……さて、僕達がどこでこんな会話をしているかというと、108部隊隊舎の通路。

 ゲンヤさんは、部隊長室へと向かうので隊舎入り口で別れて、僕達は、隊舎のオフィスの方へと向かっていたのだ。で……到着と。





「それじゃあ、とっとと書類作っちゃおうか」

「そうね、しっかりやりましょ」

「おぅ」

《がんばりましょう。マスター、ティアナさん、マスターコンボイ》





 そんなワケで、オフィスでギンガさんとティアナとマスターコンボイとアルトと一緒に作業を開始。



 昨日、どういうルートを回って、どの辺りで連中にエンゲージされたのか。

 そして、どこに連れ込まれて、連中が何をして、どういうぶちのめされ方をして、どういう感じで護送されたのか。

 結果、現場の状況はどうなったのかなどを、けっこう細かく打ち込んでいく……



 僕とティアナ、そして捕り物のくだりからはマスターコンボイも加えて、それぞれの認識に差異がないかどうか、細かく相談しながら作業を進めて……そして。





「……これでOKかな?」

「そうね。大丈夫だと思うわ」





 報告書は完成に至った……いやぁ、つかれたー!

 最近、訓練やらが中心で、デスクワークは少なめだったしなぁ。肩とか凝ってしかたないや。

 みんな優秀だから、僕が六課に来た当初に遅滞していた分はすでに取り返しているしね。

 そんなワケで、僕がいるロングアーチの仕事は、僕が加わっていることで相対的に仕事量は少なくなり、けっこうヒマだったりする。



 ま、だからこそ、週の半分使って、訓練したり、ギンガさんの捜査協力の依頼を受けたりできるんだけど。





「なぎくん、デスクワーク優秀だものね」

「そうなのよね。意外と手際いいからビックリしたわよ」

《ヴィータ師匠に叩き込まれましたから》

「アイツにか?」

「そ。
 『デスクワークは、どこの部署に行っても必須なんだから、ちゃんとできるようになっとけ』って言われてね。
 練習と称して自分の仕事手伝わせるんだもの。そりゃあ上手にもなるよ」





 ……ギンガさんの前だからこれは口には出さないけど、師匠の了承を得た上で、師匠のサインが必要な書類の処理をこなしたことも……けっこうある。

 いや、最近はないよ? ただ、本当に師匠ひとりだけじゃあ手が回らない状況で、どうにもならなくなった時にね。



 なーんか知らないけど、師匠なりシグナムさんって、上から扱いが悪いというか、イビられてる部分があったのよ。

 そのせいでムチャな仕事を振られたりとかね。ま、最近はもうないけど、そのあたりのフォローをしていたのだ。



 筆跡? そんなもの練習して真似られるようになったに決まってるじゃないのさ。筆跡鑑定もパスできるくらいの仕上がりのものをね。

 もちろん、書いた後で師匠にはちゃんと内容をチェックしてもらっているけど。





「それじゃあ、これは部隊長の方に送信して……はい、終わりっと」

「これで、ここでの仕事は終わりかぁ」

「なんか、あっという間だったわね」

「ギンガさんが手伝ってくれたしね。ありがと」

「ううん、大丈夫だよ。それじゃあそろそろお昼にしましょうか」



 ギンガさんにそう言われて、端末の画面にある時計に目をやる……あ、ホントだ。もうこんな時間なんだ。

 どーりでお腹が空いてると思ったさ。



「だね。丁度お昼時だし」

《なら、マスター。私をゲンヤさんの所まで連れて行ってもらってもいいでしょうか?》

「あ、将棋指すんだっけ?」

《はい》

「なら、部隊長室へ寄ってからにしましょうか」



 そうして、僕達は端末の電源を落として、部隊長室へと向かい、部屋へと入った。



「……失礼しまーす。ゲンヤ部隊長、将棋の相手を連れてきました」

「あら、恭文くんにアルトアイゼン。それに……ティアナちゃんにマスターコンボイもっ! 久しぶり〜」

「マリエル技官っ!」





 部屋に入った僕達を待っていたのは、当然部隊長であるゲンヤさん。そしてあともうひとり……



 緑色のショートカットの髪。本局の青い制服に白衣。眼鏡越しの明るい笑顔が印象的な女性。

 いつぞやのギンガさん達の定期検診の時に再会した、マリエル・アテンザさんがそこにいたのだ。



「マリエルさん、しばらくぶりです」

「うん、しばらくぶり。
 聞いたよ、昨日はまたムチャしたらしいね?」

「えっ!?
 ……ゲンヤさん、何を話したんですか」

「いや、お前がティアナと楽しそうに囮捜査をしたって話をな……」

「また変なことを……」



 ティアナの前なんだから、よけいなことを言わないでください。つか、顔が見れないし。



「で、マリエルさんは、どうしてここに?」

「あ、うん。
 ホクトの身体のことで、ちょっとね」

《ホクト……といえば、この間一緒にお会いした、ジュンイチさんの娘さんでスバルさんとギンガさんの妹さんですよね?
 どこか悪いんですか?》

「あぁ、そういうワケでもないんだけどね。
 ほら……あの子、遺伝しいじくられてるジュンイチさんの細胞も持ってるでしょ? そのパワーをあの小さな身体で制御しなくちゃならないから、身体への負担とか、スバル達以上に気にかけてないといけないのよ。
 そんなワケで、ホクトについてはこまめにゲンヤさん達とお話を……ってワケ。
 あぁ、ちなみに現状は異常なし。元気いっぱいの健康体だから、安心していいわよ、ギンガ」

「ホントですかっ!?」



 ギンガさんが、部隊長をほっぽりだして、マリエルさんの一言に食いついてきた……いや、スバルへの態度でだいたいわかってたけど、やっぱりシスコンの気とかあるでしょ、あなたは。



「べ、別にそういうワケじゃないけど……」

「いや、あの食いつき方はそういう風に思わせるには十分だから」

「そうよ。
 スバルやホクトのことになると、とたんに目の色変えるのよ、この子。
 こないだだって、ホクトがアイス食べてお腹冷やしちゃって……」

「あああああ、マリエルさん、あの話はどうかっ!」



 マリエルさんに詰問されて、萎縮しきりのギンガさんを見て、僕は楽しい気持ちでいっぱいだった。

 ……あぁ、自分が説教受けないってだけでこんなに心安らぐのか。



「それは、お前さんがいつもやりすぎるからじゃねぇか」



 ……そんなことないと思うんだけどなぁ。



「あるわよ……まぁ、戦闘理論に関してはいろいろと理由があるみたいだけどね。
 その辺りのこと、今度絶対聞かせなさい。いいわね?」

「わかったよ。
 あー、マリエルさん。ここで立ち話もなんだから、食堂で話しませんか? ちょうど僕達ご飯を食べにいこうと思ってて」

「ご飯を? でも、それならなんで部隊長室に?」

《私がお願いしたのです。書類も片づきましたので、ゲンヤさんのお相手をしようかと》

「おぉ、そうかそうか。ならさっそくやろうぜ」



 ゲンヤさんが、楽しそうに机からけっこうな値段がしそうな将棋板を取り出した。

 ちなみに、どうやって打つかと言うと、ゲンヤさんは普通に、アルトはどこにどの駒を打つかをゲンヤさんに言って、駒を動かしてもらうのだ。



「もう、父さんったら……」

「なら、私はみんなと一緒に食事に行ってきますね。残りの報告はその後にでも」

「おう、ゆっくりしてきていいぞ。オレはコイツと楽しくしてるからよ」

「ゲンヤさん、アルトのことお願いします」

《マスターコンボイ、ティアナさん、ギンガさん、マリエルさん、マスターのことをよろしくおねがいします》



 僕とアルトがほぼ同時にそう言うと、なぜかみんなが笑ったのだけど、なんでだよっ!?

 とにかく、僕達は、将棋に夢中な子供二人を部屋に残し、食堂へと向かった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……六課で元気にやってるんだよね?」

「はい。どうにかこうにかですけど」



 食堂で、お昼を堪能する……うん、美味しいなぁ。ここの食事も久しぶりだから、なんか懐かしいや。



「そのあたりは、シャーリーから聞いてるよ。なんか大人気みたいだね」

「大人気っていうか……なぜかすごい勢いで馴染んでます」



 うん、みんな遠慮がなくなってきてるんだよね……たまに危険を感じるほどに。



「なぎくんが妙な事をしなければ問題ないんじゃないの?」

「ギンガさん、本当にそう思うの?
 今の六課には、あのジュンイチさんがいるっていうのに」























 ……目をそらすなぁぁぁぁっ!





「みんな、可愛がってくれてるんだから、いいことじゃない」

「まぁ、そうなんですけどね……」

「あ、そうだ。恭文くん、今度本局の方に来てくれないかな? アルトアイゼンと一緒に」

「それはかまいませんけど、どうしたんですか?」

「うん、アルトアイゼン、一回私の方でもメンテしたいなと思って。シャーリーががんばってくれるとは思うけど、やっぱり見てみたくてね。
 というか、ヘイハチさんの時からずっと見てきている可愛い子といろいろお話したくて。ほら、同い年でもあるし♪」

《ま、そういうことなんですよ》



 そう、マリエルさんは先生のパートナーだったころから、アルトのメンテを請け負っていた。なので……非常に仲がいいのだ。



「それと、そのついでって言ったらアレなんだけど特殊車両開発部の方にも顔出してもらえないかな?
 ヒロさんとサリさんが、恭文くん達は六課でどうしてるのかって心配してたから」

「あー、了解です。それじゃあ、作業中にでもちょっと顔出します」

「うん、そうしてあげて」



 しかし、けっこうな頻度で通信して連絡取ってるのに、心配って……いや、僕のいきなりな現状を考えれば仕方ないんだけど。

 出向が決まったって話した時も、ビックリ顔されたしなぁ。つか、死出の旅路とか、アレとかコレとか言うのはやめてほしい。アウトだから。



「なぎくん、あのお二人はお元気?」

「うん、すっごく。でも、最近は会えないんだよね。向こうも僕も仕事あるし」

「そっか」

「ね、その二人って誰なの?」

「貴様やギンガ・ナカジマの知り合いなのはわかったが……」



 さて、また説明である。

 今、マリエルさんが言ってた二人は、僕のオタク友達で本局の特殊車両開発部に勤める局員である。

 そう、以前話した、僕の誕生日にデンバードを送ってきた開発部の友達というのは、この二人なのだ。あと、最近だとトゥデイとモトコンポね。



 この二人との出会いは……偶然でした。僕がたまたま見ていた某ゲームの攻略サイトのチャットで知り合って、意気投合してオフ会。

 そのオフ会の中で、管理局仲間というのが判明して、それ以来いろいろと手助けしてもらっている。



 そう、いわゆるネットな関係から始まった友達付き合いなのだ。



 二人とも、僕よりも一回りほど年齢が上なのだけど、オタク趣味という素晴らしい共通点によって、その差は埋められ、素晴らしい関係を築けている。





「それって、すごい偶然よね。
 たまたま同じゲームをやってて、それで仲良くなって、オフ会しようって話になって、それで会ってみたら実は局の関係者同士で……」



 ティアナがわかりやすいくらいに驚いた顔をしている。いや、僕も実際驚いたからわかるけど。



「まぁね。なんていうか、うん、すごいと思う」

「それも、技術開発部の中でも有名な二人と知り合うんだもの。すごいと思うよ」

「あ、なぎくん。もし会ったらよろしく言っておいてくれないかな? 私も、しばらくお会いできていないし」

「りょーかい。ギンガさんがムチャ振りしてるってことだけ伝えておくよ」

「ちょっとっ!?」

「事実だろうが」





 ……なんていう会話をしつつ、お食事は終了。そうして、部隊長室に戻ってみると……地獄がそこにあった。





「待ったっ! 頼む、この一手は待ってくれっ!」

《ゲンヤさん、待ったはなしですよ? ……これで詰みです》





 アルトが、容赦なくゲンヤさんを叩きのめしていた。空中にプカプカと浮かぶ青い宝石に頭を必死にさげる部隊長。





 絶対に部隊員には見せてはいけない光景が、そこには広がっていた。





 ……うん、アルトや、もうちょっと優しくしてあげようね?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて……これからどうする?」



 とりあえず、ゲンヤさんを凹ませたアルトを回収した僕にマスターコンボイが尋ねるのはこれからのこと。

 うーん、それなんだけど、マスターコンボイ、ロボットモードに戻ってくれる? もっと言うと、ビークルモード。



「なんだ、どこか行きたいところでもあるのか?」

「うん。あるの。
 ギンガさん、海上隔離施設って、これからアポなしで向かっても大丈夫かな?」

「え?」

「どうしたのよいきなり」



 いや……約束、守れてないなって思って。



「また会うって、約束したからさ。もし大丈夫なら、これから面会したいんだけど、どうかな?」



 そうして……とんとん拍子に話はまとまる。



 僕とギンガさんとティアナは、たまたま用事があって向かう予定だったマリエルさんと共に、ビークルモードのマスターコンボイに乗り込んでマックスフリゲートへと向かうことになった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……なぎくん、ちゃんと覚えててくれたんだね。

 ビークルモードで走るマスターコンボイの車内、後部指令コンテナの中で、楽しそうにアルトアイゼンやマリーさんと話しているなぎくんを見て、私はうれしい気持ちでいっぱいだった。



 実を言うと、ナンバーズの子達は、あの一回の交流で二人のことを相当気に入っていた。

 それで、次はいつ来るんだと聞かれてたんだけど……



 なぎくんとアルトアイゼンが、あの後AAA試験を受けることが決まったので、しばらくはムリそうだと思っていた。

 さすがに難易度は高いし、試験まで日もないし、終了までは訓練浸けだろうと話していた。

 もちろん、二人ならお願いすれば快く了承して来てくれる。だけど、大事な試験なワケだし、ジャマになるんじゃないかって思ってた。





 それで……その話をしたんだけど、デコピンをされた。





 そんな気を使う必要がないとハッキリ言われた。あの時のなぎくんを思い出す。怒ってて、だけどちょっとだけ呆れている顔。





「なぎくん……」

「僕とアルトが、自分のために約束したの。また会いに来るってね。その約束を守れなくなるような試験だったら、意味なんてないよ。それに……」

「それに?」

「ギンガさん、“先約優先”って言葉は知ってる? こっちの約束の方が先なんだから、優先するのは試験じゃなくて、チンクさん達の方でしょ」





 さすがに、それはどうなんだとティアは呆れていたけど、それでも……うれしかった。なんのためらいもなく、チンク達の方が大事だと言ったこと。

 もちろん、なぎくんは先約優先の理論のもとで言ったんだけどね。なんというか、なぎくんは……変わらない。

 ジュンイチさんと同じだ。二人がそろっているのを見ていると、まるで本物の兄弟みたい。



 やりすぎるところもある。ひねくれてて天邪鬼で性悪なところもある。だけど、それだけじゃない。

 いいところもいっぱいある。これだって、きっとそのひとつ。





 ……感謝しないといけないな。ありがとうね、なぎくん。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 そうして、マックスフリゲートに到着すると、マリエルさんは別行動。チンクさん達の検査があるんだって。

 そして僕らは……





「あの……なんでまたこないだのホールに?」



 ティアナやマスターコンボイと一緒に歩く僕の質問を受けるのは、ギンガさんではない。

 ギンガさんを傍らに、僕らを案内して先頭を歩く……クイントさんだ。

 けど、今回もまた通されるのは面会室じゃなくて前回みんなと面会したあの広間みたいだ。ちっとも面会室が活用されていない気がするのは僕の気のせいなのかな?



「ごめんごめん。
 今、ちょうどみんなは向こうにいるから……向こうの方が手っ取り早いと思ってね。
 ………………みんなの方が、ちょっと動ける状況じゃないし」



 最後にちょっと気になるフレーズが付け加えられたような気がしたんだけど……まぁ、その“現場”に向かってるらしいし、すぐに答えは出るか。



 そんなワケで、僕らはクイントさんの案内で広間へと入り……























「にゃあぁぁぁぁぁっ!?」























 ………………目の前を、ウェンディが錐もみ回転しながらすっ飛んでいきました。











 まるでコマのように回転しながら、ウェンディが頭から地面に突っ込んでいく……いや、いきなりこんな曲芸でお出迎えはレベル高すぎでしょ。























「………………あれ、恭文?」























 何してんのジュンイチさん?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 いやー、ビックリしたー。



 だって、ゲンヤのオッサンのところで囮捜査の報告書作ってたはずの恭文達がいきなりマックスフリゲートにやってくるんだもの。



「驚いたのはこっちだよ。
 何してるのさ?」

「修行」



 きいてくる恭文には迷わず即答……うん。修行だ。

 ウェンディと組み手して、零距離打撃でブッ飛ばして……恭文達が見たのはちょうどその場面だね。



 セイン、ノーヴェ、ウェンディ、ディード……ナンバーズの内、“JS事件”の間うちに転がり込んでいた面々はホクト達共々オレが修行を見てやった、言わばスバル達の妹弟子にあたる。

 なので、事件が解決した後、他の姉妹達に付き合って更生プログラムを受けている今でも、時折こうしてマックスフリゲートに来て修行をつけてやっているのだ。





 ちなみに、ウェンディ以外の3名+ホクトはすでにブッ飛ばし済み。見学者席のチンク達の手によって、現在絶賛お手当て中。

 まぁ、どーせこの後もう一戦ずつするから、改めてブッ飛ばされてまたケガをこしらえるんだろうけどね。





「みんな、いらっしゃい。
 今、ちょうどノーヴェ達の修行中でね……スポーツドリンクしかないけど、飲む?」

「あぁ、いただきます」



 で、オレだけじゃなくてマグナもいたりする――ノーヴェ達用にタップリと用意していたスポーツドリンクをコップに注ぎ、恭文に手渡している。





「相変わらず、ハードな修行してますねー」

「そっか?
 お前の時よりはマシだろ」



 同じくオレの修行を受けたことのあるティアナは苦笑い。まぁ、お前の時は超短期コースで徹底的にブッ飛ばしたからなー。



「って、ティアナ、ジュンイチさんの修行を受けたことあるの!?」

「あー……そういえばアンタには言ってなかったわね」

「恭文、貴様も六課のフォワード陣全員が何かしらの形でこの男と縁があったことは聞いているだろう?」



 あー、そのくらいは恭文も知ってるのか。

 実の妹のあずさ、妹同然のスバルとギンガ……この3人だけじゃなく、オレは残るフォワード3人とも、“JS事件”以前からつながりがあった。



 エリオは、捕まってた違法研究施設から助け出してやったし……その後の保護は管理局に、もっと言うならフェイトのヤツに丸投げしたけど。



 キャロは、一緒に仕事した時にフリード達を暴走させてくれた……まぁ、そっちは殺されかけただけで済んだんだけど、キャロ本人がそのせいで自暴自棄になりかけてたのでちょっぴり説教した。



 で……ティアナは、兄貴が死んで、その夢を継ぐために魔法学校に入ろうとしていた際に出会った。

 その縁とタイミングから、ティアナが学校に入るまでの短い間、コイツの修行をつけてやることになったんだ。



 …………こうやって考えると、通りすがり的につながった3人の中じゃ、ティアナが一番密度の濃いつながり方してるんだよな。



「そうなんだ……
 相変わらずの因縁磁石っぷりだね」

「因縁磁石……?」

「そ。
 まるで磁石みたいにいろんな因縁引き寄せてるから、因縁磁石」



 自分のつぶやきにくいついてきたディエチに、恭文が説明してるけど……失礼な。

 お前だって言えた義理じゃないでしょうが。クロスフォーマーの二人だって……



「……ジュンイチさんメインで狙ってきてますよね?」



 ……そうでした。



「マスターギガトロンだって、僕らの中で一番最初にブッ飛ばしたのはジュンイチさんだよね?」



 …………はい。



「瘴魔は、元々ジュンイチさんの世界の敵ですよね?」



 ………………おっしゃる通りです。



「挙句の果てに、メルトダウンなんてトンデモナイ相手まで……」

「ちょっと待て! メルトダウンの一件はオレのせいじゃないだろ!?」



 うん。メルトダウンは関係ない。オレは関係ないんだ。



 お前らだってそう思うよな?











 チンク。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 いきなり私に振るんじゃないっ!



 恭文と言い争っていた柾木からいきなり話を振られたものの、私は事情をそれほど把握していないんだ。答えられるワケがないだろ。











「………………チッ、使えねぇヤツだ」











 ほほぉ……上等だ。

 貴様、今すぐ表に出ろっ! その根性叩き直してくれるっ!



「ちょっ、落ち着きなさいよ、チンク。
 気持ちはわかるけど、更生プログラムを受けてる立場なんだし……」

「あぁ、いいのよ、ティア。
 ジュンイチさんとチンクのこれはいつものことだし」



 いきり立つ私の様子にあわてるティアナを、ギンガが手慣れた様子でフォローする……そう。残念ながら、不本意ながらいつものことだ。

 挑発する柾木に私かトーレか、もしくは両方が引っかかり、柾木に突っかかっていくのだが……柾木にあっさりといなされ、最終的にはコメディタッチの追いかけっこに落ち着いてしまうのがなんとも屈辱だ。



「フェイトさん達だけじゃなくて、アンタ達にもそうなんだ……」

「ほぉ、お嬢様もか。
 彼女の性格からして、相当頭にきているんじゃないか?」

「…………正解」



 やはりか。

 まぁ、この男もこれで分別はある。本気で相手に対して怒ったりしない限りは相手のトラウマを抉るようなえげつないマネはしないが……逆に言えばそうでなければとことん心の傷の浅いところばかりをついてくる、ということだ。

 怒り狂うほど怒ることがないだけに、ヤツがふざけているのがわかってしまって、受ける側としては余計に頭にくるのが困りものだ。



「まったく、人に対して言いたい放題だな、お前ら」

「言われるようなことしてるからだと思うけど……」



 私の傍らのオットーがサラリとツッコむが、どうせこの男には通じまい。これで通じるような男なら、とうの昔に態度を改めている。



「さすがは我がライバル。よくわかってらっしゃる♪」



 …………ほらな。











『………………やぁ、柾木ジュンイチ』











 そんな私達の会話の流れを断ち切って通信してきたのは、肉の薄い長身の身体を白衣に包んだ、目つきの悪いひとりの男。





 …………生みの親に対してひどい言い草のようだが、事実なのだから仕方ないと思ってもらおう。





 とにかく、私達を生み出したドクター、ジェイル・スカリエッティが、突然私達のやり取りの中に乱入してきたのだ。

 別室でウーノ達と共に何やら調べていたようだが……



「どしたい? スカリエッティ」

『おやおや、つれないねぇ。
 頼まれていた分析結果が出たから、早く知りたいだろうと思って連絡してあげたというのに』

「あ、そなの?
 さすが、仕事早いねー♪ 当てにして正解だったぜ。
 すぐ行くから待ってろ」



 何だ、柾木。ドクターに何か頼んでいたのか?



「まーね。
 そんなワケで、ちょいと席外すわ」

「えー?
 パパ、行っちゃうの?」

「ちゃんと戻ってきてやるから安心しろ。
 じゃ、また後でな」



 口を尖らせるホクトをなだめるようにそう答え、その場を後にする柾木を見送ることしばし……







「………………円陣っ!」







 それは一体誰のかけた号令だったのか――とにかく私達は一糸乱れぬ動きで円陣を組んでいた。



「…………柾木がドクターに、何の用だと思う?」

「なんだ、チンク。貴様も聞いていないのか?」

「チンクだけではないぞ、マスターコンボイ。
 ここにいる全員が……ギンガも含めて何も聞いていない」

「まぁ、悪いことを企んでるワケじゃないとは思うっスよ。
 いくらジュンイチでも……」

「ジュンイチさんだよ、あの」







『………………』







 …………ウェンディに答えた恭文の言葉に全員が沈黙しても、それはきっと罪ではないと思う。



 柾木……この信用のなさだけは、少なくともなんとかした方がいいと思うんだがな?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………なんかどっかで、失礼なことを考えられたような気がする。



「何電波受信してるのさ?」



 うるさいよ。



 ため息をつくブイリュウを傍らに、現在オレはマックスフリゲート内のアナライズルームでスカリエッティと対面中。



 なぜいきなりブイリュウが場面に加わっているのか……理由は簡単。

 オレがスカリエッティの手伝いを頼んでいたからだ。



 だって、オレが頼んだ依頼が依頼だったからな。オレのパートナーであるブイリュウの助言はあった方がいいとの判断だ。



「まぁ、その判断は決して間違ってはいないね。
 いくら私が生命操作のプロフェッショナルと言っても、まったく未知の生物の生態まではフォローしきれないからね」



 いや、お前まで状況説明に乗っからなくていいから、本題に入ろうか。



「そうだね。
 キミの持ち込んでくれたサンプルと標準的な個体データ……その二つを照合してみた。
 これを見てくれたまえ」



 言って、スカリエッティが表示したデータは、二つのエネルギー波形データが重ねられたものだった。



 似ているようで微妙に違う二つの波形の重なった、そのデータの意味は……



「クモ種瘴魔獣……確か登録種別名はミール、だったかい? キミと蒼凪恭文が昨日倒したという個体の生体データと、キミの組織のデータベースから提供された標準的な生体データ……
 昨日の個体のデータの方が、やや安定性を欠いているのがわかるかい?」

「まぁ……な」

「まるで、昨日のヤツの波形は元気がよすぎて勢い余ってるみたいな感じよね」



 うなずくオレのとなりでつぶやくのは、“クソスパイ”ことナンバーズの次女、ドゥーエだ。



「で…………これ、どういうことなの?」

「あらあら、そんなこともわからないのかしら?」



 で、首をかしげるブイリュウにはナンバーズの四女、“クソメガネ”ことクアットロが答える。

 少なくとも、その能力は敵対していた頃からずっと警戒していたくらいに優秀だ。優秀ではあるんだけど……元々底意地が悪い上に“JS事件”の中で一番汚れ役な部分を引き受けたおかげで、周りからの評価はすこぶる悪い。



 なもんだから……



「がうっ!」

「あだっ!?」



 そんなバカにしたような物言いをしたりすれば当然怒りも買うワケで。ブイリュウに脳天から噛みつかれて悲鳴を上げてるけど、まぁ自業自得かね。



「あたた……やってくれるじゃないの。
 と、とにかく……あれはね、今のドゥーエ姉様のたとえが、あながち間違ってないってことを示しているのよ」



 涙目で答えるクアットロだけど……さすがは“JS事件”でスカ一味実動組の作戦指揮を執ってただけのことはある。ちゃんと見るトコ見てやがる……要するに正解だ。



「コイツ……瘴魔力を制御できてない。
 能力値的には標準的だけど、その力加減ができないでいる……だから、パワーが安定しない」

「さすがは本職。瘴魔のことをよくわかっているようね」

「でもないさ。
 確かに瘴魔のことにはそれなりの知識はあるけど、生物学的な意味での知識は専門外だ。
 だから、あんたらに解析を依頼したんだよ」



 スカリエッティの側近にしてナンバーズの長女、“クソ秘書”ことウーノにはあっさりとそう答える……あ、そうそう。



「おい、クソ秘書。
 グリフィスとの熱愛ってその後どうなってんのさ?」

「ねっ…………!?
 い、いいいいい、いきなり何を聞くの、あなたはっ!?」



 ………………あー、相変わらず全力全開でラブラブなワケですか。今のリアクションでよくわかったよ。



「そういうキミはどうなんだい?
 うちのウェンディがずいぶんと気に入っているようだけど」

「そりゃ、まぁな……
 だって、オレはアイツの師匠なんだし。弟子が師匠を慕ったって不思議な話じゃねぇだろ」





 ………………おいコラ、クソスカ。何ため息ついてやがる。



 で、ブイリュウとクソ秘書は頭を抱えるな。クソスパイ、「やれやれ」とでも言いたげに肩をすくめるんじゃない。でもってクソメガネ、てめぇは笑いをこらえるのに必死かよっ!?





 とりあえず足払いでクソメガネをひっくり返し、その背中を踏みつける――決して女の子がもらしちゃいけないようなつぶれた悲鳴が足元から聞こえるけど、まぁ気にしない。



「で、話戻すけど……スカリエッティはこれをどう見る?」

「あくまで仮定の話だけど、ね……」



 うん。クソメガネの惨状にスルーな辺り、慣れてきたねぇ。

 ともかく、スカリエッティはオレに対して話を続ける。



「これが単なる自然発生だった場合、ただの未熟な個体、というだけの話で片づけられる。
 ただし……キミの見解では、昨日の個体は自然発生の個体とは考えづらいんだろう?」

「まぁな。
 昨日のミールを叩く前に、オレとヴィータとビクトリーレオで、アイツの下位個体を20体以上もつぶしてる。
 つまり……昨日の時点で、20体以上の下位個体を生み出すだけの“負”の思念エネルギーがクラナガンで消費されていた、ってことだ。
 それだけ“負”の思念が消費された状態で、瘴魔獣クラスの個体が自然発生するとは、どうもね……」



 そう。オレにはそこが気にかかる。

 瘴魔獣だって無から生まれるワケじゃない。モチーフとなる存在はもちろんのこと、街に生きる人達がもらす怒りや不満、憎しみといった“負”の思念を吸収して生まれる……つまり、下級瘴魔だろうが、誕生すればそれだけ街にもれだした“負”の思念が消費されることになる。

 しかもそれが20体以上。チリも積もれば何とやらじゃないけど、街の“負”の思念は連中の奪い合い状態だったはずだ。

 そんな状態で、連中の上位種である瘴魔獣が生まれるほどの“負”の思念エネルギーが残されているとは、正直考えたくない。それはそれだけクラナガンの街が“負”の思念に満ちあふれている、それだけ“病んで”いるってことだから。



「それに……ヴィータにも話したんだけど、現れた瘴魔が全部が全部クモ種、ってこともね。
 虫だけに限定したって、クラナガンの街にはいくらでもいる……なのになんで、みんな示し合わせたみたいにクモばっかモチーフにしてるんだ? 不自然だろ」

「その通りだ」



 あっさりとうなずくスカリエッティ。

 その様子だと……



「あぁ。
 どうやら、考えていることは同じようだね」



 やっぱり。





「つまり……」







 昨日の個体は……









『何者かが、意図的に生み出した実験体』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………遅いな、ジュンイチのヤツ……」



 ジュンイチがスカリエッティに呼ばれてから、けっこうな時間が経ってる……その間、みんなで談笑タイムとしゃれ込んでたんだけど……どしたの? ノーヴェ。



「どうしたもこうしたもねぇよ。
 ジュンイチのヤツ……次はあたしとの2戦目だってのに」

「…………ねぇ、ギンガさん、クイントさん。
 ひょっとしてノーヴェも、強いヤツと戦いたくてしょうがないバトルマニアな類の人?」

「そんなワケでもないんだけどね……」

「言うまでもなく、ジュンイチさん相手にまだ一本も取れてないのよ、ノーヴェは。
 ウェンディ達はまぁ、納得してその上で追いかけてる部分はあるんだけど、ノーヴェの場合……」

「モロにムキになっちゃってるワケだ……」



 見るからに負けず嫌いな感じだもんね、ノーヴェって。

 けど……目標が高すぎるにもほどがあるでしょ。ジュンイチさんの“JS事件”での大暴れは、みんなの方がよくわかってるでしょ?

 それにあの人、存在そのものがチートみたいなものなんだから、気にしたってしょうがないでしょ。



『………………確かに』



 “大暴れ”より“チート”の方に納得するんかい、みんなそろって。



「そこは……まぁ、な。
 それはそうと……蒼凪」



 はい? トーレさん、どうしたんですか?



「貴様らの目から見て、あの男の評価はどうなんだ?
 我々のような敵対者からはもちろん、他の一般的な部隊からの評価が悪いのは、すでに調べがついているのだが……ここで六課の人間から話を聞く限り、貴様らからの評価すらずいぶんと微妙なようなんだが」



 あー、そうだね。

 あの人、なぜか嫌われてないはずなのに評価悪いもんね。あんな人はそうはいないもの。そりゃ異性的な意味がなくても気になるか。





 でも、あの人の評価か……うーん……

 とりあえず、ティアナやクイントさん、ギンガさん、でもってマグナさんと顔を見合わせる。

 で……結論。



「えっと……性悪?」



「詐欺師?」



「いじめっ子?」



「朴念仁?」



 上からティアナ、マグナさん、クイントさん、ギンガさん……うん、ロクな評価じゃないね。




「言いたい放題だな………………否定できんが」



 ですよね。チンクさんもそう思いますよね?



「そりゃそうよね。
 正直な話……私も、最初はジュンイチのこと、あまり信用できなかったもの」



 え、マグナさん……そうなんですか?



「えぇ。
 だってあの子、人に信用させようとしてない……というかそもそも信用されようとすらしてなかったもの」



 ………………そういえば、僕と出会った時もそんな感じだったっけ。



 あの人は別に、相手のことが嫌いなワケでもないし、嫌われようともしていない。

 ただ……信用されなくてもかまわないだけ。



 自分の行動の結果、相手が自分を信用しようがしまいが自分には関係ない。ただそれだけなんだ。



 前に言っていたことがある。「信用なんて、されようと思ったらダメなんだよ。自分の行動を見た相手が、勝手に自分を信用する……それが一番理想の形だ」って。



「うん。私も同じこと言われた。
 あの子にとって、相手が自分のことをどう思うかは二の次なのよ。
 相手に好かれなくてもいい。自分が相手を大事に思っていればいい……それがあの子の考え方」

「だから、あの子は自分が『守る』って決めた相手を全力で守ることができる。
 相手の都合なんかこれっぽっちも考えないから、自分の『守りたい』って想いに忠実に行動することができるのよ」



 マグナさんやクイントさんの言葉に、僕らはじっと聞き入る……なんというか、その通り過ぎて口をはさめない。





 そう……“相手の都合なんか関係ない。自分が守りたいから守る”。それがジュンイチさんの考え方。

 自分が相手を守ることで、相手が感謝しようが「余計なことをするな」って怒ろうが、あの人にとってはなんの関係もない。ただ自分の「守りたい」という望みが叶えばそれで十分なんだ。



 まったく……人助けすら好き勝手って、究極的に自分勝手だよね、あの人。





「あ、いいね、それ。
 “人助けすら好き勝手”……うん。あの子を言い表すのにピッタリのフレーズだ」

「マグナさん、人のセリフ取らないでください」

「というか……聞けば聞くほど26の大人の取る対応じゃないな、あの男は」



 なんかマスターコンボイが呆れてるけど……あのさ、そんなの日頃のあの人の行動見てればわかることでしょ。

 あの人、基本的に行動パターンって子供だよ? ワガママだし、人をからかうことに全力だし、ホラー映画とか見せると夜ひとりじゃ寝られなくなるくらい怖がるし。





「……ほほぉ、それはいいことを聞いたっス。
 つまりホラー映画を見せれば添い寝も夢じゃないってコトっスね。フフフ……」



 ………………ウェンディにいらん知識を与えちゃったかもしれない。ゴメン、ジュンイチさん。





「そうか……柾木も怖い話はダメなのか……
 私だけではなかったか、うん」



 そしてチンクさんは別の意味でシンパシー感じてんですか。つまり同類なワケですか。





 で……セッテはさっきから何首ひねってるのさ?



「いえ……何か、今説明された柾木ジュンイチの人物像にピッタリの単語があったような……」



 ジュンイチさんの人物像にピッタリの言葉……?





《ひょっとして……「ガキ大将」ですか?》





 それだっ! あの人、まさにそれじゃないかっ!



「確かに。
 前にジュンイチさん、『これで歌がヘタだったらまんまジャイ○ンだ』って言われてたし」



 ギンガさん……誰ですか、そのあまりにも適切すぎるコメントの主は。



「ブリッツクラッカー。
 ちなみに言った後でジュンイチさんにブッ飛ばされてた」



 あー、そりゃそうでしょうね。

 つか、今の話だとジュンイチさんに直接言ったってことですか? なんてうかつな……



「それにしても、『ガキ大将』ね……
 フフフ、確かにあの子にピッタリだわ」

「今度あの子のことソレで呼んでみる?
 ううん、いっそのこと今すぐにでも」



 そしてクイントさんとマグナさん、あなた達も何言ってるんですか。

 そんなこと言えばどうなるかくらい、今の“実例”の話を聞けば一目瞭然でしょうに。それでも言う気ですか。マジですか。











 ………………マジなんだろーなぁ……























 とりあえず、マジだったか否か……結論は二言で事足りる。











 ……うん。たった二言。



 「ギガフレアが飛んできた」「僕ら男衆二人が盾にされた」の二言で。











 ちくしょうっ! なんで僕らが盾にされるのさっ!?



 スカリエッティとの面会を済ませて戻ってきたジュンイチさんに『いよっ! ガキ大将っ!』ってはやし立てたの、クイントさんとマグナさんとウェンディだよねっ!?



 「男の子は女の子を守るもの」とかいう気はさらさらないんだよ、こっちはっ! 素直にブッ飛ばされなさいよっ!





 おのれ、この怒り、一体誰にぶつけるべきかっ!

 とりあえず……帰ったらガスケットとアームバレットあたりにぶつけようっ! 八つ当たり? 知るかっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いやいやいやいやっ! そこは知っとけよっ!」

「だなだなっ!」

「…………二人とも、どうしたんだ?」

「あ、シグナルランサー。
 いや、なんかそうツッコんどかなきゃいけない気がして」

「なんだな」

「は?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……そんな感じで、面会時間は終わりを告げた。

 チンクさん達には、『また来ますから』という約束をして、その場を後にした。

 で……現在、六課に帰り着いて本部隊舎への道を歩いているところ。



 なお、ジュンイチさんは今日はこのまま直帰だとか。なので六課へは戻ってこないそうだ。

 なんか、スカリエッティとはマジメな話だったみたいだけど……結局、あの場でその話をすることはなかった。

 たぶん……理由はナンバーズのみんな。更生プログラムの真っ最中の子達に教えるべきか否か……じゃなくて、純粋にみんなを気遣って、巻き込まないために話さなかったんだと思う。

 だって、話してたら更生プログラム中のチンクさんはともかく、付き合いで参加してるノーヴェ達なんかは話によっては協力を申し出かねないし。なんだかんだで“JS事件”中、ジュンイチさんの戦いに付き合ってきた子達なんだから。



《そういうところは徹底しますからね、あの人は》

「だね……
 ま、僕も同意見だけど。プログラムが終わった後にそういう道を選ぶならともかく、今くらいはのんびりさせてあげたいもの」

《そうですね》

「……アンタ、本当に大丈夫なのね」

「何が?」

「ナンバーズの子達に対してのわだかまりとかそういうの、ないんだなって思って」





 ティアナがそう言いながら、真剣な表情でこちらを見てくる……いや、そんなことはないよ?





「実際、最初に来た時は少しばかりあった。今でも……多分ある」

「なら、どうしてそんなに普通にしてられるのよ?」

「その場にいなかった僕が、アレコレ言えた義理じゃないってこと。文句言うなら、最初から六課に参加するべきだったんだし。
 自分がいなかった戦いに関して、あーだこーだと言いたくない」





 まぁ、先生の言葉だけど、自分が関わらなかった戦いについて、あれこれ言うのは嫌いなの。事後のことも含めてね。

 関わらないなら、その姿勢を貫く。できないなら、それを自分の内で罵りつつ関わる。

 ……そう言った時の先生の顔が、どこか悲しげだったのを、よく覚えてる。





「それに何より、一番ヒドイ目に遭ってるギンガさんや、それを間近で見ていたスバルやエリオ達が友達になっていこうとしてるんだもん。
 ティアナだって、そうでしょ?」

「……まぁね」

「なのにですよ。それを僕が空気読まずに、自分のわだかまりを理由にどうこういうのは間違いでしょ。
 僕はその件に関しては、完全に第三者なんだから」

《それならば、わだかまりは時間をかけて、話していく中で消していこう。そう思ったんです》



 だね。憎む人間なんて、ひとりもいない方が人生は幸せに生きられるんだから。



「なるほどね。納得だわ。
 …………うん。納得。あたしはそういう意味じゃ“悪い例”だから」

「そうなの?」

「そうなのよ。
 最初の頃、マスターコンボイに対して敵意むき出しでわだかまりバリバリに抱えてた。
 マスターコンボイが本当はあのマスターメガトロンで、グランドブラックホールの暴走でミッドチルダを被災させた張本人って知って……マスターコンボイだって、ユニクロンに利用された被害者だったのに、そんなことも知らずに、自分達が被災させられたってことだけで、恨んで、敵視して……」



 その言葉に、僕はマスターコンボイへと視線を向ける――軽く肩をすくめて肯定を示してくれた。



「おかげで、和解までだいぶかかっちゃった。
 そんなふうに失敗してるからね……アンタのその判断、まぁ、いいんじやないかと思うワケよ」

「そうなんだ。
 ……あ、もちろん、ナンバーズのみんながおもしろくていい子だなって思ったのが一番だけどね。そうじゃなきゃさすがにやらない」

「……まぁ、アレよ。アンタ達はけっこう気に入られてるみたいだし、ヒマな時はできるだけ顔出してあげてね?
 六課にいる間のことだけじゃなく、その先も。マスターコンボイにもだけど……これはお願いしたいかな」

「りょーかい」

《もちろんそのつもりです》

「ま、知らない仲でもなくなってしまったしな」

「うん、お願いね。
 ほら、行くわよ。部隊長に帰還報告しないと」

「あー、だね」

「その必要はあらへんで? 3人ともおつかれさん、ようやっと帰ってこれたなぁ」



 僕達が歩き出そうとすると、後ろから声をかけられた。その声の主は、六株部隊長のはやてだった……って、なんでここにいるのよっ!?



「ナニ言うてんの。部隊長の私がいるのは当然やろ?
 それに、ギンガから連絡もろうてな。そろそろ帰ってくる時間かと思って来てみたんよ」

「あぁ、なるほど……」

《納得しました》

「ならえぇわ。
 それじゃあ、恭文。アンタにお客さん来てるからロビーの方にすぐ向かってな」



 ……はい?



「はやて、ごめん。お客さんって誰?」

「とりあえず行けばわかるがな。
 ホラホラ、あんま待たせたらあかんよ? 行った行った」

「……というワケなので、ティアナ、マスターコンボイ。ちょっと行ってくるね。
 それじゃあ、お疲れさま」

「おぅ」

「えぇ、行ってらっしゃい……お疲れさま」











 3人と別れてから、疑問いっぱいな顔で六課のロビーへと向かった。そこにいたのは……











「ヤスフミ、お疲れさま」

「……え、フェイトってお客さんっ!?」

「はやて、どんな説明したの……とにかく、少し話があるんだ。さ、座って」

「あ、うん……」





 ロビーに設置してあるソファーに座っていたのは、フェイトだった。

 つか、客じゃないでしょ客じゃっ! 思いっきり関係者じゃないのさっ!?

 とにかく、フェイトはいつもの制服姿でそこに座っていたので、僕もそのとなりに腰かける。





《それでフェイトさん、話というのは何ですか?》

「うん、あのね……ヤスフミ、ティアとはどうだった?」

「……何もないからっ! 僕はティアナフラグなんて立ててないからっ!
 僕とティアナはそんな関係じゃないよっ! あぁ、シャーリーのヤツ何が『フォローする』だよっ!? 思いっきり誤解してるじゃないのさっ!」

「あ、あの……ヤスフミ? 大丈夫っ!? あの、そういうことじゃないのっ! お願いだから落ち着いてー!」





















《……いや、すみません。
 この人、昨日や今日とか、まるでティアナさんと今後もお付き合いしていくんだろうというような扱いでしたので、ちょっとキテたんですよ》

「そうなの? でも、ティアはすごくいい子だし、問題ないと思うんだけどな」

「ティアナどうこう以前の問題として、僕の気持ちに問題があるってことにそろそろ気づいてくれるかなっ!?
 あと、ティアナの迷惑も考えてっ! ティアナに好きな人とかいたらどうするのさっ!」





 あぁ、さっきまでの楽しい気持ちが後悔に変わるってどういうことさ?

 ちくしょー、シャーリーのバカっ! 全然フォローできてないじゃないのさっ!





「……ごめん。そうだよね、ティアの気持ちもあるの忘れてた」



 忘れないで。その極めて重要で大事な案件を。



「あの、それで、ティアとは仲良くできたかな?」

「……とりあえず、本当の彼氏彼女な関係に間違われるくらいにね」

「そっか、ならよかった」



 うん、僕としてはあんまよくないのよそれ?

 ……ま、楽しかったけどさ。でも、本命に誤解ばっかされるなら、ちょっとだけ、後悔に変わる。



「ヤスフミ、ティアと囮捜査するの、すごくイヤだったみたいだけど、何がそんなに不満だったの?」

「……フェイトとできなかったから」

「……それ、ティアに失礼だよ。
 ティアだって、すごく素敵だし、ヤスフミが機嫌悪いの知ってたから、すごく気遣ってくれてたはずだよ?
 それを……」

「そういうことじゃない」





 そう、そういうことじゃない。そんなことじゃない。

 確かに、ティアといる時間も楽しかった。それは間違いない。だけど……





「僕の身長じゃあ、ティアナくらいの女の子はOKで、フェイトやギンガさんくらいの身長だとダメって言われてるみたいで……イヤだった。
 その線引き内じゃなきゃ、好きな女の子は、振り向いてくれないのかなって、ちょっと……考えた」

「そうなの?」

《そうですよ。この人の体型コンプレックス、フェイトさんだって知ってるでしょ?》

「そっか……」





 もっと……身長があれば、体型が男の子であれば……

 考えても意味のないこと。だけど、考える。もしもの可能性を考えると、胸が、苦しい。





「あの、ヤスフミ……」

「なに?」

「その、大丈夫だよ。ヤスフミなら、そういう身長差も超えられるだろうし……」

「なら、フェイトが付き合ってよ」





 口をついたのは、多分、怒りの言葉。どうしても、フェイトのいう事に、怒りを感じた。





「えっ!? あの、それは……」

「……自分が、僕のことを男として見れないのに、そういうこと言うの?」

《……マスター、抑えてください。というか、それは八つ当たりですよ?》





 アルトのその言葉に、目が覚めるようにハっとなる。そうして目の前を見ると……フェイトが戸惑った顔してる。多分……今、僕すごくイヤな顔してる。

 そう、だよね。八つ当たりだ。

 そう思った瞬間に、胸の中で渦巻いてた黒い感情が、冷めていく。代わりに出てくるのは……後悔。





「……ごめん」

「あ、ううん。私の方こそ……ごめん」





 最低だ、僕。八つ当たりして……



《それでフェイトさん、マスターへの用事はそれだけですか?》

「あ、うん。ティアのことと……あともうひとつだけ。
 ほら、私達……ライトニング隊って、もうすぐお休み取るでしょ?」

《あぁ、スターズ分隊のお休みと同じですね》



 そういえば、僕の魔導師試験の受験が決まったりしたし、僕への訓練とかでゴタゴタして……伸びたんだっけ。



 僕、最低だな。フェイトに……好きな人に、迷惑ばっかかけてる。



「そうだよ。とりあえず、みんなで軽く旅行することになってるんだけど……ヤスフミ、お休み、一緒に過ごさない?」

《はい?》





 ……………………え?

 お休みって、僕と、フェイトと、エリオと……キャロとっ!?

 あ、ジャックプライムやアイゼンアンカーやシャープエッジもいるけど……いや、そこは今はいい。





《またそれはどうして?》

「うん、里帰りもする予定だから、ヤスフミも一緒に帰っておいでって、お母さんやリンディさんが言ってるの。だから、どうかなって思って」

「……いい、の?」





 僕がそう聞くと、フェイトがうなずいた。優しい笑顔で。

 いや、でも僕……さっき……





「あの、さっきのは大丈夫だよ?
 というか、私が悪かったから。身長を理由に、こっちが勝手に相手を選ぶようなことしたら、やっぱり、イヤだよね」

「……そうだね。少し、イヤだった。もちろん、ティアナと一緒にいたのは楽しかった。
 ティアナがすごくよくしてくれたし、本当に、捜査ってことを抜きにしても楽しかったよ?
 だけど……」

「ちょっとだけ、引っかかっちゃったんだよね。うん、やっぱり悪かったと思う。ごめん」

「あの、謝らなくていいから。というか、僕もさっきイヤなこと言ったし……うん、おあいこで、いいかな?」

「……うん。じゃあ、おあいこだね」



 そう言って、フェイトが笑ってくれた。それだけで、さっきまでの重い気持ちが、消えていくのがわかる。



 ……うん、やっぱり、僕はフェイトが好きだ。すごく、大事なんだ。

 あー、でも……ティアナ、ごめん。なんというか……ごめん。一応、今の態度が非常に悪かったように思うので、謝っておきます。はい。



「というか、それは抜きにしても僕がいていいの? だって、親子水入らずのお休みだし……」

「ヤスフミは、イヤ?」

「フェイト、そういう聞き方ずるいよ。そんなこと言われたら、イヤなんて言えないじゃないのさ」

「あ、そうだよね。
 というか、えっと……エリオとキャロが一緒に来てほしいって言ってくれてるの」

《お二人がですかっ!?》





 え、なんでっ!? 僕なんか……したかなぁ。

 ……あー、とりあえずエリオと軽く稽古したりしてるか。で、キャロもそれに付き合ったりしてるし。

 で、なんだかんだで呼び方も砕けた感じに変えてもらったし……あれ、意外につながり深まってる?





「というか、本当によくしてくれてるよね。最近、ヤスフミの話が多いんだ。
 一緒に訓練したり、遊んだり……本当に楽しく思ってるみたい」

「あー、いいよ。僕が楽しく遊んでもらってるくらいなんだから……エリオとキャロはいいとして、フェイトも、僕が一緒でも大丈夫?
 なんだったら、僕は海鳴に帰る時だけ、休み取るって方法もあるし」



 正直、それが心配だったりする。だって、僕がいたら、やっぱりエリキャロとの時間が減っちゃうし……



「そんなに気を使わなくても大丈夫だよ? というか、私も一緒にいてほしいな。ヤスフミと旅行なんて、しばらくぶりだし」

「……そっか。じゃあ、あの……参加、します」

《あ、私も行っていんですよね?》

「うん、アルトアイゼンも一緒だよ。8人……じゃなくて、9人だね。あ、バルディッシュやストラーダ達も入れたら……12人で旅行だね」



 そう考えると凄い大人数だよね。うん。



 エリオ、キャロ。ありがとう。きっと、すごい気遣ってくれてたんだよね……うん、ちゃんとお礼言わなきゃ。











 とにかく、こうして僕とアルトは、フェイトとチビッ子二人のお休みに参加することが決定した。

 そう、とある魔導師の休日、第2弾であるっ!























 …………………………って、アレ?











「ねぇ、フェイト」

「ん?」

「アルト達デバイス組を抜いたメンバー……8人って言わなかった?」

「うん、言ったよ?」

「僕と、フェイトと、エリキャロ。
 で、ジャックプライム、シャープエッジ、アイゼンアンカー……7人だよね?」

「あぁ、そうだね。
 まだ声はかけてないんだけど……イクトさんにも声かけようと思って」

「……………………え?」

「だって、イクトさんはエリオとキャロのお兄さん代わりだし。
 ……あ、そうなるとマスターコンボイも同じお兄さん代わりだし、呼んだ方がいいのかな? でも、スターズの時に休み取ってるし……」











「………………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」











(第19話へ続く)























◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



おまけ:とあるクラナガンの裏側にて



「………………姫」

「あぁ、戻ったか。
 して、様子はどうじゃった?」

「あれから、管理局に特別な動きはありません。
 戦闘跡の現場検証程度で、先日のミールの足取りを追うような動きも、今のところは……」

「ふむふむ。
 まだわらわ達のことには気づかれておらんようじゃな?」

「そこは間違いなく。
 しかし……まだミールが倒されて一日。この先彼らの捜査が進めば、アレが我らの手によるものだと気づかれるのも時間の問題かと」

「そうか……なら、どうすればよいと思う?」

「いっそ、こちらから先制打として宣戦布告するというのはどうでしょうか?
 我らの狙いはあくまであの部隊のみ。一気に仕掛けて相手の動揺を誘うのです」

「うーん……よくわからんが、お前がそれでいいと思ったのならそれでいいのじゃろう。
 うん、よきに計らうのじゃ」

「わかりました」

「ふぅ……難しい話をしたらお腹がすいたのじゃ。
 よし、ご飯を食べに行くのじゃっ! ホットケーキが食べたいのじゃーっ!」

「わかっております。
 では、今日もいつものファミレスへ」

「ごーごーなのじゃーっ!」





(本当に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!


ホクト「ねーねー、『がきだいしょー』って何? パパのことだよね?」

ウェンディ「『がきだいしょー』っていうのはね……いつも優しくしてくれて、おいしいオヤツをたくさんおごってくれて、好きなものたくさん買ってくれる人のことっスよ!」

ホクト「そうなの!?
 じゃあ、パパはおいしいオヤツとかいろんなものをたくさんくれるの!?」

ウェンディ「そうっスよ! だから今からたかりにいくっスよ!」

ホクト「おーっ!」

ジュンイチ「デタラメ教えてんじゃねぇっ!」





第19話「世の中は思い通りにはならない。だからこそ、報われた時はすごくうれしいと思えるんだ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《さーて、本家『とまと』で言うところの第14話後半戦。ナンバーズ再訪問のお話をベースにした第18話でした》

Mコンボイ「あー、久しぶりにバトルもなくのんびりできた話だった気がする……」

オメガ《そういえばそうですね。
 第15話からこっち、ずっとバトルものなお話ばかりでしたからね》

Mコンボイ「クロスフォーマーにメルトダウン、そしてチンピラどもに瘴魔獣……またバリエーション豊かな相手だったものだな」

オメガ《なので、とりあえず本家『とまと』の“日常”という部分に立ち返ってみたワケですが……やっぱり、本家『とまと』のストーリーラインと比べて様変わりしてますね》

Mコンボイ「まぁ、本家ではここで初対面だったノーヴェとは第9話ですでに対面しているし、本家では軌道拘置所に収監されているスカリエッティや上位ナンバーズもいるからな、そこはしょうがないだろう」

オメガ《ここでミス・ノーヴェに直接名前を教えてもらう、というイベントも起き得ないものとなってしまっていますしね。
 その代わりに語られたのが……》

Mコンボイ「クイント・ナカジマ以下、身内による柾木ジュンイチ評だな」

オメガ《えぇ。つくづく好評価のつけづらい彼についてのお話ですね》

Mコンボイ「まぁ、ヤツは問題児もいいところだしな……そこは仕方あるまい」

オメガ《それはそうなんですけど。
 とりあえず、結論としては、“問題は大きいけどいいところも大きい”ということで良かったですかね?》

Mコンボイ「まぁ、そんなところだろう。
 相変わらず評価が極端な男だな」

オメガ《まぁ、そこは“今さら”なのでツッコみませんが。
 さて、それでは恒例の『GM』シリーズキャラクター紹介です。
 引き続き、最近また影の薄いディセプティコンの紹介をさせていただきます》

Mコンボイ「今週は、幹部クラス最後のひとり、ジェノスラッシャーだな」





ジェノスラッシャー

出身:ミッドチルダ

所属:ディセプティコン

トランスフォーム形態:翼竜型機動兵器(『ZOIDS』のストームソーダーがモチーフ)

身長:5.0m

重量:12.3t

声のイメージ:鳥海浩輔(ジェノスクリームと同じです)

備考:ディセプティコンの四大幹部のひとりにして、ジェノスクリームの兄。
 元々はディセプティコンの古参メンバーのひとりだったが、戦力が整うまでの潜伏期間をガマンできず出奔。“JS事件”中に帰還する。
 独自に集めた部下を引き連れて鳴り物入りで出陣するも、戦力も把握しないままナンバーズに挑んでしまった油断から部下達は壊滅の憂き目にあい、一時はその復讐も考えたりしていた。
 ジェノスクリームと合体(リンクアップ)することで合体戦士グランジェノサイダーとなる。





オメガ《……とまぁ、合体以外に兄弟設定が活きることがまったくないジェノスラッシャーの紹介でした》

Mコンボイ「言われてみれば……兄弟であることが言及されているシーンがほとんどないものな」

オメガ《いい年して兄弟仲良しこよし、というのもアレなんで、まぁいいとは思うんですけどね。
 ……っと、そろそろお別れの時間のようですね。
 それではみなさん、また次回お会いしましょう》

Mコンボイ「では、次回また会おう」





(おしまい)






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あきゅろす。
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