[携帯モード] [URL送信]

頂き物の小説
第17話「話してわかることがある。一日一緒にいても、見てるだけじゃわからないこともある」:1












「…………さて、と」

 午前中にクロスフォーマーの二人と、昼からメルトダウンとゴチャゴチャやり合ったあの慌しかった一日から早数日が経過……とりあえず、その数日は平穏な感じで過ぎていた。

 うん、ホントに平穏な感じ。特に事件が起きるでもなく、おかげで恭文ものんびりできてる。相変わらずフェイトとオレは何かにつけてモメてるけど。



 ともかく、そんな感じなものだから、オレもこうしてみんなの訓練の相手もしてやるような余裕があったりするワケで……



「……ま、今日はこのくらいかな?」



『…………あ、ありがとうございましたぁ……』



 告げるオレの目の前に転がってるのは、こんがりとイイ感じに焼き上がったトランスデバイス一同だ。

 相棒達がそれぞれなのは達にしごかれてる間、コイツらだけでのコンビネーションも練習させた方がいいだろうということで相手をして――その結果がコレである。



 まぁ……コンビネーション自体は悪くない。むしろいい。

 互いが互いの得意な分野をしっかりと抑えて、仲間の不得意な分野をきっちりカバーしてる……なのはのヤツ、ホントいい仕事してやがる。

 これでムチャだの魔王化だの、人格面での問題点がなければ、アイツは文句の付け所のない最高の教官なんだけどねー……





 ……どこかから「お前には言われたくない」とか電波が飛んできたけど、いいんだよ。オレは好きで問題児やってんだから。





「ま、お前ら、昼からはシャーリーのトコでメンテだろ?
 オレも昼からはちょっと出るから、今のダメージもガッツリ診てもらえ」

「あれ、ジュンイチ、出かけるの?」

「あぁ。
 イクトの話じゃ、どーも最近、下級瘴魔がクラナガンを多数うろついてるらしくってさ。かるーく調べに行ってくる」



 アイゼンアンカーにそう答えて、オレは軽くため息をつく――











 瘴魔というのは、オレ達の地元の世界で相手にしていた……まぁ、魔物とかそんな類のもの。

 簡単に言うと、人間の怒りとか恐怖とか、“負”の感情をエネルギー源にしている連中で、そういった感情が積もり積もったものが、近くにいた動物やら、捨てられていた何かしらに込められた残留思念やらを取り込むことでモンスター化したのが“瘴魔獣”や、瘴魔獣になりきれなかった“下級瘴魔”。

 あとは、それを統率する者として、イクトのように人間が瘴魔の力に適応した統率者的な存在、“瘴魔神将”……と、これが瘴魔の大体の分類だね。



 で、コイツら……さっき「オレ達の地元の世界で」と言ったとおり、本来ならクラナガンで、というかミッドチルダで自然発生するような存在じゃない。

 あの“JS事件”の中、最高評議会のヤツらが瘴魔の力に目をつけて、昔オレ達が倒した瘴魔神将のひとりを蘇生、自分達の部下として利用しようとしたために、瘴魔という存在がこのミッドチルダに持ち込まれてしまったのだ。

 おかげで連中を倒した後も、こうして瘴魔の自然発生、なんて事態が起きてしまっているワケで。こーゆーのも外来種汚染って言うのかね?



 ともかく、その瘴魔の中でも下っ端中の下っ端、下級瘴魔と思われる目撃情報が、最近増えてきているらしい。

 そこで、方向音痴で外回りの調査ではまるで役に立たないイクトに代わって、オレが調査に出ることになったワケだ。











「……ってなワケで、今日の昼から、数日かけて実態調査だ。
 一応、はやてが隊長格の誰かを補佐でつけてくれるらしいんだけど……」

「へー……」



 オレの説明に、ロードナックル(シロ)が絶対よくわかってなさそうな感じで返事して――その時だった。



「ジュンイチさん」

「あん………………?」



 聞こえてきたのはよく知っている――けど、今は六課にいないはずの相手の声だ。不思議に思いながら振り向いて、尋ねる。



「どーしたよ、ギンガ?
 お前が六課まで顔出してくるなんて」

「えっと……実は、ジュンイチさんにお願いがあって……」



 そう。やってきたのはマックスフリゲートでナンバーズの更生プログラムに携わっているはずのギンガだ。

 オレに反応してもらえたのがうれしかったのか、笑顔で駆け寄ってくる……うん、子犬だったら絶対尻尾とか振ってるね。



「振ってませんっ!」



 まぁいいや。で? 何の用さ?



「いや、だからお願いが……」

「その内容を聞いてるんだよ。
 仕事の依頼か? 悪いけど、昼から予定が入ってるから……」

「あぁ、それまでにはなんとかなりますから」



 そう答えると、ギンガは真剣な表情で告げた。



「ジュンイチさん……」























「なぎくんに、仕事を引き受けさせてほしいんです」























 ………………はい?











 ギンガの言葉に思わず首をかしげて――今回のお話の本番は、それから数日経ってから始まるのです、まる。











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第17話「話してわかることがある。一日一緒にいても、見てるだけじゃわからないこともある」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……帰りたい。





 正直に言おう。帰りたいです。ていうか、もう引きこもりたいです。自宅警備員になりたいです。





 僕の今の気分は最悪。天気予報で言うなら、こないだのジュンイチさんとフェイトの如く大嵐だ。あー、ドタキャンしたい。





 さて、そんな気持ちを抱えつつ僕は、首都クラナガンにある、待ち合わせでよく使われる広場にいた。





 時刻は、もうすぐ午後6時になろうかという時間。さすがに日が沈みかけて、少し辺りが薄暗い。

 だけど、街の街頭とイルミネーションが辺りを彩り、明るくさせている。ここだけ昼みたいなノリだ。



 ……ここには、ひとつの逸話がある。それは、新暦が始まって間もなく、首都の治安が今のようによくなかった頃の話。

 はぐれた主人をこの場所で、一途にずっと待ち続けていた一匹のフェレットがいたそうだ。



 ここまで言えばもうおわかりかと思うけど、そのフェレットと、主人が待ち合わせ場所として決めていた場所がここになる。



 だからね、あるのよ。広場のど真ん中に、実寸の何倍の大きさだって言いたくなるようなフェレットの石像が。



 なお、この話は、ミッドでは絵本やら映画やらアニメやらにもなっているほど有名な話で、ここに住む人間ならば知らない人はいないくらいだ。

 なんでも、ユーノ先生が変身魔法でフェレットに変化しようと思ったのは、子供の頃にこの話が好きだったからだとか……人に歴史ありだね。





 そういうワケで、この場所は首都ではかなり有名な合流スポットとなっている。で、僕が何のためにここにいるかというと……










「ごめん、待たせちゃったわね」










 ……どうやら、待ち人が来たようである。



 僕を呼ぶのは、オレンジ色の髪をしたひとりの女性。今日は……いつもツインテールな髪をストレートに下ろしている。





 そう、ティアナだ。僕はティアナと待ち合わせしていたのだ。





 ……なぜ、僕とティアナが、こんな場所で待ち合わせをすることになったのか。疑問に思う方々もいるだろう。

 それは……冒頭、ジュンイチさんがギンガさんの珍妙な依頼に首をかしげていた、あのシーンの少し後まで時間を巻き戻さなければならない。



 と、ゆーワケで回想シーン、いってみよーっ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………えっと……」



 うん。目の前の状況がわからない。ほんっとーにわからない。



 わからないので……事情を知ってそうな人に聞いてみる。



「あの……ジュンイチさん。
 どうしてギンガさんがほどよく焦げてるワケ? 具体的にはジュンイチさんの“ギガフレア三連”のツッコミバージョンを喰らった後みたいな感じで」

「自分でやりゃいいものを、オレに押しつけようとしたからだ」



 …………うん。やっぱりわからない。

 まぁ、気にしないでおこう。きっとそれが、みんな幸せでいられる一番の方法だと思うから。



 この場には、僕とジュンイチさんとギンガさん。そしてフェイトやティアナもいる。

 なんでも、僕に頼みたいことがあるとかで……フェイトやティアナはなんでいるんだろ?



「なんでも、ギンガが声をかけたらしいけど……
 で? 肝心の、恭文への依頼ってのは何なんだよ?」

「あぁ、はい」



 えっと……つまり、ギンガさんがここにいるのは、僕に依頼があって来た、ってこと?

 で、どういうワケか直接僕のところに来なくて、ジュンイチさんを間に置こうとした、ってことか……



 ……仲介頼もうとした時点で、イヤな予感がバリバリするんですけど。

 まぁ、そこは依頼の内容を聞いてからだね。





「実は首都でね、カップルを中心に狙っている強盗が出没しているんだけど……なかなか捕まえられなくて。
 見回りも強化してるんだけど、効果がないの」





 ……それならいーよ。





「ダメっ! というか、なぎくん。なんで私の方を見てくれな……え?」

「いや、だから、そういうことならいいよって答えたんだけど。
 つか、真っ直ぐに目を見据えて話してるじゃないのさ」

「ヤスフミ……どうしたのっ!? あの、ひょっとして具合悪いのかな? ……ティアっ! すぐにシャマル先生呼んで来てっ!」

「わ、わかりましたっ! アンタ、気をしっかりもちなさい? 大丈夫、すぐによくなるからっ!」

「………………………………………………………………クレイモア撃っていいかな?」

《まぁ、当然ですよね》

「元々お前がゴネること前提だったっぽいしなー……」





 さて、この後皆が落ち着くのに、数分かかった。

 つーか、どうしてみんなそうなるのさ。やっぱり僕がゴネるとか思ってたワケですか。





「あ、あのね……なぎくん、お願いだから、ちゃんと話を聞いてくれないかな」

「いや、聞いてるじゃないのさ。それでいいって言ってるんだけど」

「ヤスフミ、ちゃんとした話なんだから、最後まで聞いて。というか、ギンガがどうしてほしいのか、ヤスフミわかってるの?」

「え、わかってて言ってるんだけど」

「えぇっ!?」



 なんで驚くのさ……とにかく、話はわかったのである。



「よーするに、その犯人を僕が捕まえろってことでしょ。
 そういうことならいいよ、やってやろうじゃないのさ。つか、もっとややこしい依頼かもと思って身がまえた自分がバカみたいじゃないの。
 フフフ……あの魔法とかこの魔法とかの実験体にしてやる」



 そうして、僕は席を立ち上がって外に出ようとした。だって、引き受けるって決めたから……なぜだかギンガさんに手をつかまれたけど。



「お願い、話は最後まで聞いてくれないかなっ!?」

「いや、聞いたでしょっ!? なんの問題があるとっ!」

《というか、何が信じられないんですか何が》

「うんとね、なんていうか、不埒な発言するし……そこはいいよ。
 とにかく、詳しい状況を最後まで説明するからちゃんと聞いてっ!」



 ……ということらしいので、聞くことにしたワケですよ。



「とにかく、さっき話したような感じで、パトロール強化をしても、根本的な解決にはならない。
 だから、なぎくんが女の子と私服で夜の街をうろついていれば、強盗の方から来ると思うの」



 そこを一網打尽。ようするに囮捜査というワケですか。うん、まったく予想通りだよね。なので……



「その程度でいいなら引き受けましょ。
 まぁ、実験体はいいとしようじゃないのさ。さーて、がんばるかな〜」



 いやぁ、これでようやくって……フェイト、お願いだから手をそんなに強く握らないで。どんな愛情表現なのさ。



「ヤスフミ、お願い……お願いだから、ちゃんと私達の話を聞いて」

「いや、聞いたじゃないのさ。そしてOKって言ったのに、どうしてこうなるのっ!?」

「必要あるよっ! あの、ヤスフミ……どうしちゃったの? あの、私達が何かしたなら謝るからっ!」

「……あの、僕をなんだと思ってますかあなた方。
 だってこれ、部隊の命令なんでしょ? 仮にも所属してる僕が従わないでどうするのさ」



 ……あれ、なんでみんなそんなに苦い顔するのさ。ジュンイチさんまで。

 イヤだなぁ、僕なんか間違ったこと言ってる? お願いだからそんな残念そうな目で僕を見ないでよ。まるで僕が悪いみたいじゃないのさ。



「確かに……そう言われると、間違ってはないと思うんだけど……」

「あの、私もフェイトさんも、そんなに素直に引き受けてくれるとは思わなくて……」

「何が不満なのさ一体……」

「常日頃からオレと一緒に局関係のアレコレぶっちぎってるからだろ。
 つか、今の依頼の内容じゃ、お前が断ると思ってもムリないわ。どうりでオレを間に立てようとするはずだ」



 まったく……一応はやてやみんなの力になると言ってここにいる以上、引き受けないワケにはいかないって話なのに。

 ……まぁ、不満はありますよ? 結構イラってくるのが。

 でもまぁ、これも仕事……というか、もっと上のレベルで仕事できるようになるための勉強と思えば、まぁいいのではないかと。



「あ でもね。はやての許可をもらって、嘱託としての正式な依頼で処理するから、報酬なんかもできうる限りのこともさせてもらうし……」

「いいよそんなの。ただでさえここの部隊は、いろいろ言われる材料あるのに、そんなことして足引っ張りたくないし。
 …………あぁ、ひとつだけ報酬ほしいな」

「何かな?」



 僕は、指を一本立てて、フェイトとギンガさんに宣言した。



「美味しいケーキ、おごってね。それでいいよ」

「……なぎくん、本当にいいの?」

「イヤな思いさせるから、ちゃんと報酬で見返りを出すようにしていくよ? 準備もしっかりしてるし……」

「そうだな。こればっかりはオレもフェイトに同感だ。
 お前、これについてはもっとワガママ言う権利あるぞ?」

「……あの、フェイトさん。いや、ギンガさんもなんですけど、どうしてそこまでコイツに気を使ってるんですか?
 しかもジュンイチさんまで一緒になって……」

「……なぎくん、絶対に引き受けてくれないと思ってたの。なぎくんは、自分の体型にコンプレックスがあるから」



 あー、一応説明しておくと、僕は自分の身体というのが……好きじゃない。ぶっちゃけると嫌いだ。

 身長も低い。顔立ちや体型は女性的。声だって、言うなれば少年……というか、女の子と言ってもいい。エリオよりも高いしね。



 その僕が女の子と歩けば……どうなるだろうか?

 まぁ、この場合は、担当捜査官のギンガさんなり、六課の捜査担当であるフェイトだろうけどさ。とにかく、強盗から見れば絶好のカモと見えるだろう。

 はっきり言って、鍛えに鍛えていて、ガタイのいい人達の多い108部隊の男どもの誰かといるよりは、狙われやすいと思う。

 ギンガさんが僕に頼もうとしたのも、それが大きいだろう。ただ、やっぱり好きになれない。





 普通にしている分には、弱そうに見えるし、まったく男としては見られない。

 そんな自分の身体があまり好きではないから。昔のケガの代価と言えなくもない成長しない身体はけっこう、辛い。

 それに……もし身長があれば、目の前にいる人も、僕を弟としてではなく、男として見てくれるのかなと、考えたりするのだ。





 とはいえ……だよなぁ……







「ギンガさん」

「あ、うん」

「そこまで僕が素直に引き受けるのが信じられないって言うなら、ひとつだけゴネてやろうじゃないのさ。
 ……確認させて。どーして僕に依頼しようとしたの?
 適任と言っても、他の人員が、全部ダメなワケじゃないでしょ。僕が小さくて狙われやすい……言っちゃえば、確率論の話になるだけなんだから」

「どうして……か。そんなの、理由はひとつだけだよ」

「というと?」

「……友達として、一緒に仕事して……なぎくんの仕事ぶりは知ってる。なぎくんだったら、なんとかしてくれるかなって、そう思ったの」



 真っ直ぐに僕を見て、そう口にするのはギンガさん。瞳に、嘘偽りの色はない。本当にそう思ってくれているのが、伝わった。

 まぁ、このおねーさんウソつけるタイプじゃないしね。



「……なるほど。つまり、ギンガさんとしては、僕に頼みたいのは局員としてじゃない?」

「そうだね。友達として、頼りたいっていうのがあった。というか、今まで依頼したのだって、全部そうだったよ?
 なぎくんがいると、安心できるもの……暴走するのはやめてほしいけどね」



 微笑みながらギンガさんがそう言ってきた。最後だけ余計だね。うん。

 ふむ、なるほどね。そうすると……やっぱりか。

 まぁ、本心を言えば、僕は今回の一件はできうることなら引き受けたくない。体型のこと持ち出されたのはやっぱりイヤだから。





「でも、3年来の友達が、僕を信頼してくれた上での頼みじゃ……引き受けないワケにもいかないでしょ」

《ま、それもそうですね。というかマスター、完全に局員権限で押しつけようとしたら、断ってたでしょ?》

「そんなの当たり前じゃん。でも、そういうワケじゃなさそうだしね」

「あの、なぎくん。それってつまり……」

「だーかーらっ! 何回言わせるっ!? 引き受けるって言ってるのっ!
 ……ただし、礼はしてもらうから。報酬はさっき言った通り。OK?」

《さすがマスターです。素晴らしいドSツンデレですね》



 ……アルト、それ違わない? つか、ドSツンデレってどんだけピンポイントなのさ。







「…………つかさ、ギンガ」







 ………………あれ? ジュンイチさん、なんか空気重くなってない?







「ん? どうしたんですか? ジュンイチさん」

「お前の今の話からすると……オレの、仕事は、信用できないと?」

「そ、そんなこと言ってませんよぉっ!」



 ぐわしっ! と頭をつかまれ、万力もかくやというバカ力で締め上げられる――ジュンイチさんにジト目で詰め寄られて、ギンガさんは涙目で弁明する。

 けど……まぁ、仕方ないよね。ジュンイチさんにとっては、目の前で僕に仕事をかっさらわれてるワケだし。



「ただ、今回はなぎくんの方が適任じゃないですか。
 ジュンイチさんだって、そこはそう思うでしょう?」

「………………まぁ、恭文がイヤがるってことを除けば、適任だとは思うけどさぁ……」



 ジュンイチさん、よーくわかってるじゃないですか。こう、鉄輝一閃からクレイモアにつなげたくなるくらいに。





 ……まぁ、いいか。とりあえず依頼は受ける方向で。

 あぁ、楽しいなぁ〜。久々の実戦だし、暴れないと損だよね……よし、アレとかコレとかの実験台になってもらおう。





「アンタ何するつもりっ!? つか結局実験にいきついてるしっ!」

「あの、ヤスフミ。さすがにそれは困るよ。お願いだからもっとちゃんと……」

「冗談だって。はやてに迷惑かけるようなマネはしたくないし……ただし、相手の出方によるよ?
 こっちの攻撃行動まで制限するつもりなら、僕は絶対に引き受けないから」



 これだけは譲れない。

 ……鉄火場で、手段を制限されて、なんにもできずに傷つくなど、僕はイヤなのだ。痛いの、嫌いだし。



「そこはオレも同感だ。
 相手が手を出してきても、それが思った以上の強敵だったとしても、それでも手段を選べっつーのはナシだろ。フツーに考えてさ」

「でしょ? ジュンイチさんもそう思うよね?
 と、ゆーワケだから……二人とも、それでいい?」



 僕の言葉に、フェイトもギンガさんも、どこか安心したような顔で……うなずいた。



「とにかく……ありがとうなぎくん。それにティアも、すごく助かる」

「別に。報酬が目当てだ……え?」

「あの、ギンガさん、待ってください。今……なんていいました?」



 えっと、すっごく気になる発言が聞こえたんだけど……いや、気のせいじゃないよね。これ。



「実は……あのね、囮捜査はなぎくんとティアにしてもらおうと思って」

『はぁぁぁぁぁぁっ!?』










 とりあえず……話を聞いてみるとこういうことだった。

 さっきギンガさんが言ってた「パトロールしても意味がない」というセリフ……あれは、実際にパトロールしてみて、それでもダメだったから出てきたセリフだったと。

 つまり、相手はこっちのパトロールを察して上手くやり過ごして犯行を重ねていた……となると、パトロールに参加していたギンガさんは、相手に顔が割れている可能性がある。

 そして、それは管理局の若手エースとして名を馳せているフェイトも同様……僕に依頼が来たのは、そういう側面もあったらしい。

 で、僕に協力してもらうのは決定として、自分達以外に僕の相手役にちょうどいい相手がいるかと考えて……ティアナならいいのではないかと思ったそうだ。いや、どうしてっ!?





「ティアなら、背丈とかも考えると、丁度いいと思うし。ほら、キスとかしてもヤスフミが背伸びしなくていいし……」

「お付き合いでも両思いな関係でもないのにするかボケっ! そして背伸びするのは僕かっ!?」

「でも、あのね。よく考えたら、私くらいだと、なぎくんとは身長差で恋人っていうよりは姉弟って感じになっちゃうんだよ……
 ジュンイチさんに頼めれば私が恋人役でも身長的にちょうどいいんだけど、さっきも言ったように私は顔を知られてるかもしれないし……
 もしジュンイチさんとできれば、それが最上だったんだけど。キスしようとして、背伸びしてこう……はぁ〜」

「ギンガさん、そこで凹まないでくださいっ! というか、あたしとコイツはそんなことしませんからっ!」

「そうだよっ! お願いだからキスすることを前提で話を進めるなっ! つか、頼まれても絶対やらないからねそんなのっ!
 理由はさっき言った通りっ!
 あー、引き受けなきゃよかった。やっぱ帰っていい? つか、キャンセルで」

「それはないだろ、恭文。依頼を受けたからにはきっちりやらなきゃ。
 どーせ、フェイトかギンガが相手をするとでも思ってたんだろ? 事前にその辺きっちり確認しなかったお前が悪いぞ」

「アンタさっきからどっちの味方だっ!?」

「オレの味方に決まってるだろっ!」

「あぁ、そう言うだろうと思ってたさっ!」

「ダメだよヤスフミっ! あの、大丈夫だよ? ティアとなら、お似合いだと思うよ。というか、恋人に見えるよっ!
 並んでると、すごくお似合いで、応援したくな……あれ? ヤスフミなんで泣くのっ! あの、私、変な事言ったかなっ!?」

「もう、イヤだ……今日はやっぱり厄日だ。殊勝な心がけなんかしなければよかったぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「……何なのよ、これ」










 ……とにかく、そこから話は実に早く進んでいった。

 実行日時とパトロールコースなどを打ち合わせしてから、迎えの車に乗って帰って行ったギンガさんを見送って、その日は僕も帰路についた。

 こうして、僕とティアナのデートを模した強盗ホイホイな囮捜査は、決行されることになったのだ。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………はい、回想終わり。





 ティアナがこちらへ走ってきた。で、それをなんともいえない心地で見ている。そんな状況。



「ティアナ、別に走ってこなくてもいいのに……待ち合わせの時間までまだ余裕あるよ?」



 具体的には15分くらいね。

 ちなみに僕は、今からさらに15分ほど前に来て、人の動きを見ながらぼーっとしていた。

 あのね、すごく気分が重かったの。さっきも言ったけど、帰りたいくらいに。

 ……フェイトとやりたいって提案したけど、断られたし。



 身長差なんて……身長差なんて。変身魔法使えばいいじゃないかよこのバカっ!(マテ)



 とにかく、覚悟を決めるために少しだけ、街の空気を吸いながらひとりでいたかったのだ。



 そうしていたら……決まる前にこの人来ました。



「アンタがもう来てるとは思わなかったのよ」

「リンディさんに『男の子は、待たせるんじゃなくて待つもの』って教わったし、これくらいは当然だよ」

「へぇ、意外とレディに気を使う教育受けてるのね。関心関心。
 ……あの、お願いだからもう少し楽しそうな顔してほしいんだけど」

「なるほど……整形しろってこと?」

「違うわよこのバカっ! ……そんなに気分ノらないの?」

「そういうワケじゃないよ。
 気分をノせようとしてたら、ノる前にティアナが来ちゃった、ってこと」

「わざわざノろうとしなきゃなんないワケ……?」



 気にしないでほしい。どーにもね、気が進まないのよ。

 あー、帰りたい。だけど……ねぇ、これも問題か。

 仕事どうこうって考えるからあれなんだ。うん、シャーリーの言うとおりに、普通に遊びに来たって考えれば……いいのかもしれない。

 いや、狙われる事前提な時点でおかしいけどさ。



「まぁ、素敵な彼女の前でこれってのもアウトだしね。こっからは勢い上げていきますか」

「そうしてくれると助かるかな。つまんなそうな顔されると、私も気分悪いし」





 さて、そんなことを言っているティアナを見ながら、今回の突発的なミッションの内容を反芻する。

 ギンガさんの話だと、強盗がよく出没する時間帯は、今くらいの時間帯から深夜11時にかけて。

 狙われているカップルも、それほど大人ではない。大体僕達と同い年くらいだ。

 要するに、終電はあきらめて、そのままご宿泊・ご休憩な所に入ってお泊りな関係ではない。



 健全な付き合い方をしている感じで、少し弱そうでちょっと脅せば簡単に言うことを聞いてくれるような組み合わせを狙っているということだ。

 ……なんていうかさ、三下の小物のやり口だね。



 こういう事件だと、胸糞の悪い話だけど女性が二次被害に遭う事も多い。

 今回の強盗事件では金品だけで、その手の事が起きてないのが救いだけど……だからってこのまま起きないとは限らない。

 ……しかたない。面倒事になって、胸糞悪くなる前に絶対に解決しよう。

 とにかくそんなワケで、僕も今回はちょぴっと弱そうな服装で来ている。とーぜん狙われるために。



 ちなみに、コーディネイトは、ギンガさんから話を聞いて今回のミッションについて知っている、はやてとシャーリーの二人にお願いした。

 ただ……いろいろゴタゴタしたのは、言うまでもないだろう。つか、あいつら、楽しんでやがったし。

 まぁ、それでも辛い僕の心情をフォローしてくれたのはありがたかった。



 とにかく、僕は黒のインナーに、薄手の白いパーカーを羽織り、ジーンズ生地のパンツ。スニーカーを履いている。

 そして……これははやての入れ知恵なんだけど、伊達で、フレームの細い眼鏡をかけている。(シャーリー印の特別品)

 なんていうか、弱そうっていうより秋○にいるオタクっぽい格好なんじゃないかとちょっと思う。

 ……あ、でも最近はそんなこともないのか。みんなかっこいい格好してたし。



 そして、今回の恋人役であるティアナの格好はというと……

 白のワンピースに、紺色の長袖で薄手な上着を羽織っている。髪型は、さっきも言ったけどストレートのロングヘアー。

 ……たぶんギンガさんだろうけど、いい仕事してるよ。いつもみたいなアクティブな服装じゃないのに、ぜんぜん違和感を感じない。それでいて普通に「カワイイ」と思えるくらいにティアナの魅力を引き出してる。





「それじゃあとっとと行きましょ」





 ギュッ!





「へっ! あの……ティアナっ!?」



 ティアナが、いきなり僕の左手をギュッと握ってきた。でも、ただ握るんじゃない。

 こう……五本の指と指を絡めて簡単には離せないようにして……いわゆる、恋人つなぎっていうヤツで握っている。



「こうして手をつないで、一緒に街を歩いていれば、恋人同士に見えるわよ」

「いや、それはそうかもしれないけど……」

「どうしたの? 顔、真っ赤だけど」

「な、なんでもないっ! なんでもないからっ!」



 うん、なんでもないからっ! ……まさか、ティアナにこんなアプローチされてドキドキしてるなんて……言えないし。

 内心、動揺しまくっている僕を、ティアナはキョトンとした顔でこちらを見ている。

 動揺してないのかな? まぁ、こういうことする相手がいたとしても不思議はないか。

 ……なんか、ちょっとムカつく。先を越されたみたいな気がするから。



「それで、これからどうするの?」

「……アンタ、デートプランの構築は、男の子の役目よ?」

「まー、それもそうか……とりあえずは打ち合わせどおり、ウィンドウショッピングをしている感じで、繁華街の方を回りましょ」

「了解」



 そうして、僕達は広場から、首都の繁華街へと歩き始めた……当然、手は恋人つなぎで。







 …………うん、やっぱりドキドキする。



 いや、ホント、ティアナはこの状況平気なワケ!?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……なんでよ。なんであたし、こんなにドキドキしてるの?



 表面上は平気な顔を装っているけど、身体の中がすごく熱い。いつ、コイツに悟られるんじゃないかってビクビクしてる。



 で、でも……八神部隊長とシャーリーさんから……これくらいしないとダメって言われたし。

 あたしも、実際そう思うし……ここでやめるワケにはいかないわよね。てか、成功って本当に何?





 コイツは……どうなのかな? 顔真っ赤にしてたし、やっぱり恥ずかしいのかな?

 あたしは……恥ずかしい。別に、コイツとこうしているのがイヤっていう意味じゃない。なんていうか、少し不思議な感じ。

 やっぱり、初めて……だからかな? こんな風に、男の子と……その……恋人みたいな手のつなぎ方するのは。



 …………そう、なんだ。そういえば、初めてなんだよね。



 マスターコンボイと一緒にいる時も、こういうつなぎ方、したことないし。







 ……………………何だろう。今、ものすごく何かが引っかかった気がするんだけど。











 ……うん。気のせいだ。そういうことにしておこう。





 …………気のせいったら気のせいなのよっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「でやぁぁぁぁぁっ!」



 力強い咆哮と同時、振り下ろされるのは白銀の鉄槌――ヴィータのグラーフアイゼンの一撃を受けて、巨大なクモの化け物はあっけなく粉砕される。

 その身体を構成していた“力”が結合をほどかれ、霧散していく……このまま放置するとまた“力”を蓄えて強化復活しかねないので、オレが精霊力を放射して相殺していく。



「…………よし、終わり」

「悪いな、ジュンイチ。
 あたしの魔力量じゃ、ブッ倒すだけで浄化までできないからさ」

「そこはしょうがないさ。
 はやて達はもちろん、コイツらと同じ瘴魔力を使うイクトにも、この役目は任せられないからな」



 ヴィータに答えて、オレは軽く肩をすくめる……っと、ビクトリーレオから通信か。



『こちらビクトリーレオ。
 上空から確認した限り、発見された下級瘴魔はソイツで最後だ』

「そっか。
 じゃあ、ビクトリーレオもこっちに合流しろよ。一休みしようぜ」

『あぁ』



 ヴィータに答えて、ビクトリーレオが通信を終える……仲がいいことで何よりだ。



「まぁ、少なくともお前とフェイトよりは仲いいわな」

「それはそれは耳が痛い」

「ウソつけ」



 即答された。



「ったく……前々から思ってたけどさぁ、なんでお前、そんなに不器用なんだよ。
 あのシグナムを最初に口説き落とした男の生まれ変わりとは思えねぇぞ」

「るせー。アイツはアイツ、オレはオレだ」



 そう……アイツはオレじゃないし、オレもアイツじゃない。一緒にされても困るんだ。

 そして、それはシグナムやお前にも同じことが言える。あの頃のお前らは、まだ守護騎士でもなんでもなかったんだから。



「そのことは、お前ならよくわかってると思うんだがね」

「あたしだけかよ。シグナムは?」

「いや、わかってないだろ、アイツ。
 わかってないから、オレ達の“因縁”がわかった時、恭也さんや知佳さんとの仲が微妙になったんでしょうが」

「…………フォローのしようがねぇな、うちの将サマは……」

「だろ?」



 まぁ、そこはいい。

 今気にするべきはオレ達の前世じゃない。今この時の、この状況についてだ。



「………………?
 何かあるのか?」

「ヴィータ、お前……この数日オレにくっついて下級瘴魔を狩って回って、何も気づかなかったか?」

「何か……?
 ンなの、いきなり言われたってわかんねぇよ。
 とりあえず、数が多いなー、とは思ってたけど……」

「そこだ」



 そう。恭文がティアナとの擬装デートをすることになり、準備に追われていた数日間、オレは市街に発生していた下級瘴魔の調査とその“処理”を行なっていた。ヴィータとビクトリーレオはその補佐だ。もっとも、ヴィータはケガのリハビリという意味合いもあるんだけど。



 で……今ヴィータが叩いたので、今回の件でつぶした下級瘴魔はちょうど20体目だ。



「いくら何でも、数が多すぎる。
 自然発生にしては異常なくらいにな……」

「偶然とかなんじゃねぇのか?」

「何とも言えないな。
 こんだけたくさん生まれてるのに、質が落ちてるふうでもないし……」



 それに、気になっていることはまだある。



「それに、今まで叩いてきた下級瘴魔、みんなクモがベースだろ。
 他にもベースになる虫なんていくらでもいるはずなのに、それでもクモばっかり……」

「そういえば……」

「どっか、クモの多いところに“負”の思念の吹き溜まりができてる……とかなら、わからないでもないんだけどさ。
 とにかく、ビクトリーレオが戻ってきて、一息入れたら改めて調べてみようぜ」

「おぅよ」



 さて……この状況、果たしてどう転ぶかね……





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……手が熱い。心臓もバクバクいってる。ティアナには……伝わってるよね。手もつないでるワケだし。

 すずかさんや美由希さん。あと……フェイトと手をつないだりはしたことあるけど。でもですも……ドキドキしている。

 というか、傍から見て恋人同士に見えるように振る舞うってことは……それっぽい行動をしていくってことだよね?





 今さらだけど、ちょっとだけ後悔。いや、別にイヤってワケじゃなくて、なんというかその……恥ずかしい。





 そんな僕の心境は置いとくとして、僕達は首都クラナガンの繁華街の方へとやってきた。





 ギンガさんとの事前打ち合わせの中で、被害者の証言を見せてもらったのだけど、事件が発生する状況はまったく同じ。





 繁華街を歩いている時に、20代前半くらいの男連中5、6人にいきなり囲まれて、ナイフを突きつけられる。

 その後に裏路地へと連れ込まれて、男の方に殴る蹴るの暴行。

 そして、怯えきって抵抗の意思をなくしたカップルから金目の物を強奪して、バカにしたような笑いと共に立ち去る……という腐ったやり口である。



 そいつらだけでやってるってワケじゃなくて、8○3な方々とか、繁華街ではた迷惑な規模で吊るんで息巻いてる連中などがバックにいる可能性もある。



 だけど、それはシバキあげればすぐに吐くでしょ。というか、吐かせるし。

 そんなワケで、僕達はウィンドウショッピングなどをしながら、繁華街を歩いている。





 ちなみに、僕達が狙われなくても、他の人達が狙われる可能性もあるので、囮捜査と同時に、私服パトロールでもあったりするのだ。



「……真剣に見てるけど、欲しい服でもあるの?」



 ミッドではそこそこ有名な服のブランドのお店の前のショーウィンドウを見ているティアナにツッコむ。

 食い入るように見てたなぁ。僕は、それを横目で見つつ、それらしいヤツがいないかどうかをチェックしていた。



「そういうワケじゃないんだけど……いいなぁって思って」

「……あの服?」



 その言葉にティアナがうなずく。

 ティアナが見ていたのは、フリルの付いた、青いワンピース。

 これがはやて辺りだったら『相手いないでしょうが』とか言うとこなんだけど、今日は一応デートの振り。ちょっとは気遣っていかなきゃダメでしょ。



「ティアナなら似合うんじゃないの?」

「……そう思う?」

「うん。こう、今みたいに髪を下ろして、上に何か羽織ったりすれば十分」

「そっか、ありがとね」

「別に礼を言われるようなこと、言ってないけどなぁ……でも、ちょっと意外だった」

「何が?」

「いや、ティアナが、そういう可愛らしい感じの服が好みだったんだなって」



 えー、こういう不用意な会話だけはみなさん絶対にしてはいけません。

 なぜって? 両手を頬に添えられて……思いっきり引っ張られるからですよ。

 あー、頬が痛い。加減しないんだもの。つか、普段の服装ガチでアクティブ系でしょうが! あのイメージから言っただけなのに、なんでこれっ!?



「アンタが悪いからでしょ? 女の子はね、みんな可愛いのが好きなのよ。あたしとの今後のために、覚えておきなさい。いいわね?」

「……はい」

「なら、よろしい。ほら、次行くわよ。この際だから、いろいろ見ておかなきゃ」



 そうして、また手をつないで歩き出す。なんというか、ちょこっと大丈夫になってきた。



「……でも、残念だね」

「何がよ?」

「ほら、都合が合えば、お店の中に入って試着とかできたのに」



 店の中にいたら襲われないしなぁ……いや、こういうこと言う時点でいろいろおかしいけどさ。



「ま、仕方ないでしょ。今度の休みにでも来るわよ」

「なら、僕もまた付き合おうかな。というか、プレゼントするよ」

「……いいわよ別に。まぁ、誕生日にでもおねだりさせてもらおうかな。それまで、貯金してなさいよ? 奮発してもらうから」

「りょーかい。お手柔らかにね」

「さーて、それはどうかしらね?」



 まぁ、恋人同士という設定なので。そして、そんな話をしながら、また繁華街を歩き出した。

 すると、クレープ屋を見つけたので、僕の提案で食べる事にした。

 だって、ずっと繁華街歩きっぱなしなんて行動を誰かに注目されたら、私服パトロールだって気づかれる可能性があるし。

 店の中には入れないけど、多少は緩急つけとかないとダメでしょ。



 ちょうど、その店の周りに椅子が置いてあったので、そこに腰を落ち着けて、周囲の様子に気を配りつつ、間食タイムとなった。



「……おいひー♪」

「ホントね。これは……レベル高いわ」



 クレープの味に、僕もティアナもご満悦だった。

 僕は、イチゴと生クリームたっぷりのものを。ティアナは、季節限定の栗とマロンクリームたっぷりのものを。

 いや、このクレープ屋さんは当たりだよ。仕事じゃなければ全メニュー制覇したい気分だ。



 生地はもっちりとしてて噛む度に心地のいい感触が口の中に広がる。

 イチゴや、生クリームも同様に素晴らしい。仕事の疲れも吹き飛ぶ甘さが素晴らしい。でも、しつこかったりはしない本当に程よい甘さ。

 それを、一緒に売っていたお茶と一緒にいただく。少しだけ冷たくなった風が肌寒い。だけど……なんだか心は温かい。



「……口元にクリームついてるわよ?」



 そう言われて、指でクリームを拭こうとする。でも、それはムリだった。



「これで取れたわよ」



 ティアナに、机に置いてあったティッシュで拭いてもらったからだ……ありがと。



「はい、どういたしまして」

「うむぅ……ティアナはこういうのないよね」

「何が?」

「口元に何かついてるーとかさ」



 見た記憶がない。そういうスキというか、ドジなところというか……なにげにシャーリーと同じで完璧超人?



「そんな、完璧超人なんかじゃないわよ? 普通にドジだってするし、スキだってあると思うけど」

「いや、見てるとそんなにないから」



 パートナーのスバルはスキだらけなんだよなぁ。というか、ツッコむ要素満載? 主に思考なんだけど、どうしてこうも違うのか……



「どうしたのよ?」

「ん? いや、ティアナのスキがないかなと観察してたの」

「もう、そんな簡単には出さないわよ」

「……ほら、出さないようにしてるんじゃないのよ。そういうのを完璧超人って言うんだよ」

「そうかしら?」

「そうだよ」



 二人でクレープを食べながら、そんな会話をしてると……なんでだろ? 後ろから気配が……



 試しに、なんの脈絡もなく、気配のする方をバッと見てみる……何もない。



「どうしたの?」

「あ、なんでもないない。ちょっと視線を感じたんだけど、気のせいだったみたい」



 真剣な顔で聞いてきたので、手を振りながら答える。

 もう一度気配を探ってみるけど……やっぱり感じない。



 犯人に目をつけられたのかな? それならそれでOKだけど、別口って可能性もある。一応、警戒だけはしとくか。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 うわ、危なかったー! 恭文、いきなり振り向いてくるんだもん。ビックリしちゃったよ。

 でも……あのクレープおいしそうだなぁ。マスターコンボイさん、後で食べに行こうか?



「知るか。
 というか……オレは今、この状況に対する説明を求めたい気持ちでいっぱいだよ。もちろんお前に、だが」



 えー? だって気になるもん。マスターコンボイさんだってそうでしょ?



 そう、あたしは、恭文とティアのデートを尾行中だった。だって、ティアがやたらめかし込んで出て行ったのが気になったんだもの。

 ちなみに……服装は、尾行していますーっていうそれっぽい服装になっている。ほら、コートにサングラスと帽子、っていうような感じの。

 で、一緒に来た、というかあたしが連れてきたマスターコンボイさんもヒューマンフォームで同じような感じ。



 でも、恭文とティア。お忍びデートって感じの格好だね。



 恭文は眼鏡かけてるし、ティアは髪を下ろして……おぉ、ストレートヘアーだね。『いつもと違う私を見て?』ってことなのかな?



 まぁ……ティアにそういう相手ができたのは、訓練校時代からの公認カップルとしてはちょっと寂しいけど。というか、二人ともひどいよっ!

 そういう関係なのに、あたしに内緒にしてるなんてさ。なんか疎外感感じちゃうなー。



「間違いなく、お前に知られたら話がややこしくなると考えたからだろうな」

「そんなことないよ。ちゃんと二人のことを祝福するのに」

「間違いなく、その“祝福”とやらが行き過ぎるから問題なんだろうが、貴様の場合……」



 もう、失礼しちゃうな。そんなことしないのに。



 とにかく、あたしは、ゆっくりと二人の跡を追跡した。

 ……本当に気をつけよう。恭文、妙にカンがいい時あるし、アルトアイゼンもいるし、気を抜いたらすぐに気づかれそうだよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………まったく、この相棒にも困ったものだ。



 スバルに引きずられる形で街まで来て、そのまま恭文とティアナ・ランスターの尾行に付き合わされているワケだが……うん。本当に困ったものだ。



 オレはオレで予定があったんだが……部屋で株の動向をチェックするという大事な予定が。



 しかし、それを言ったところで目の前の相棒が言うことを聞いてくれるとは思わない。ため息をつき、オレは先ほどコンビニで仕入れてきたあんパンをひとつ、ビニールの買い物袋の中から取り出すと包装を破いてかじりつく。





 しかし……あの二人、本当にそういう関係だったのか……?



 オレには、イマイチその辺りがよくわからないのだが。



「きっとそうだよ!
 マスターコンボイさんはわかってないなー」



 そう言うスバルも、わかっているようには見えないんだが。





 まぁ……スバルの「オレがわかってない」という指摘があながち的外れではないという自覚も、一応あるにはある。



 なにせ、オレには恋愛とやらの経験がまったくないからな……戦場育ちで、そういうことに意識を向ける余裕すらない生活だったせいでもあるんだが。



 おかげで、恭文がティアナ・ランスターと“そういう間柄”だと言われても……























 ………………得体の知れない不快感を感じるだけなんだが。























「へぇ……そうなんだ」



 おい、スバル。何だそのニヤニヤ笑いは。

 こっちは自分でもなんで不愉快なのかわからんのだ。ツッコみようがないだろうが。











 ………………ん?











「マスターコンボイさん?」

「スバル……近くに局員はいるか? もしくは詰め所」

「うん……となりのブロックに入ってすぐのところに派出所が」



「呼んでこい」



 端的にスバルに告げて、オレは意識をそちらに戻した。



 恭文とティアナ・ランスターではなく――











 すぐそばをうろついている、不愉快な気配の持ち主達へと。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 とりあえず、妙な追跡者の気配は感じない……やっぱ気のせいだったのかな?

 クレープを美味しく食べた後は、また手をつないで、くだらないことを話しながら繁華街をぶらぶらウィンドウショッピング。

 と言っても、僕達が管理局の人間だと気づかれそうな話題は避けている。

 事前にそういう取り決めをしていたからだけど、犯人達の耳に入って、気づかれる可能性もあるし。



 さっきから、またもやアルトが黙っているのが気になっている方もいると思うけど、それが理由である。

 ……管理局所属どうかはともかく、魔導師ってバレたら絶対に警戒されるし。まぁ、ちょっと楽しくなってきたね。

 そりゃあ僕だってお年頃。女の子と二人で出かけるっていうシュチュエーションは……今までもあった。











 すずかさんに休日にムリやリひっぱり出されて、ジャンクショップ回りに付き合ったり。

 ……10数キロって荷物を持たされて長時間歩いた時は、本気で暴れたくなったなぁ。いや、途中から肉体強化の魔法使ったけど。



 美由希さんの服の買い物に付き合わされたり。

 ……下着売り場に手を引かれて突撃させられそうになったのは、本気で抵抗したなぁ。ムダだったけど。

 しかも店員に女の子と間違われて、あやうく試着させられそうになったし。



 はやての……やめよう。あれは思い出すと頭が痛くなる。

 大晦日なのに、熱気ムンムンで人がゴミゴミしてて辛かったし。

 というか、12歳の男の子にあんな物買わせるなよ。そりゃあ八神家の自宅に帰りついた後に、はやての部屋で回し読みしたけど。











 でも。今ティアナといる時間は……それらとはちょっと違う。

 本格的にデートっぽい感じだからだろうなぁ。なのは達と出かけると、どうしてもギャグ臭が……

 あ、フェイトと出かける時とちょっと近いのかも知れない。こう、本当にデートしてる感じ。



 そう思った次の瞬間。それはやってきた。











 背中に、冷たい刃の感触。僕らを取り囲む、害意を持った気配……お客さんか。











“来たわよ”

“わかってる……こうも簡単に釣られてくれるとはね。間抜けを釣るのに餌はいらないってヤツ?”



 僕達二人を取り囲む六人の男。

 服装だけを見るなら、ちょっと素行の悪い若者といった感じのラフでパンクな若者だ。

 冷たい切っ先の感触が、少しだけ強くなる……恐らく、ティアナも同じ。



「死にたくなかったら、来い」



 耳元で聞こえた、不愉快な音程のしゃがれた声。

 明らかにこの状況を楽しんでいる。恐らく、僕に抵抗をされて、黙らせるために刺すことになったとしても、その心境は変わらないだろう。



 ……ヌルイね。ま、この場は抑えててあげるけど。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………ふむ。



 懸念はズバリ的中。恭文とティアナ・ランスターは、いかにも不良、といったいでたちの怪しい連中に連行されるかのように、路地裏へと消えていった。

 スバルを他所にやっておいて正解だな。アレを見たら真っ向から突撃しかねないからな、あの暴走特急娘は。



 しかし……恭文達はなぜ抵抗しない……?

 アイツらなら、あの程度、制圧するのはワケないはずなのに……何か事情でもあるのか?





 まぁ、そこはいい。

 どの道、見てしまった以上は首を突っ込まないワケにはいかないだろう。オレの“友達”が絡んでいる以上は、な。





 しかし……もし恭文とティアナ・ランスターの外出がスバルの読み通りだとすれば、オレがこのまま出ていっても気まずいだけか……

 やはり、正体は隠しておくのが無難というものか。





 何かないか? 何か、正体を隠せるものは……

 とりあえず周囲を見回して――オレは気づいた。



 自分が手にしていた、ロー○ンの買い物袋の存在に。






[*前へ][次へ#]

27/40ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!