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頂き物の小説
第16話「『気が合わない』と『息が合わない』は意味が違う」



『ブラックシャドー達が、フェイトさん達を!?』

「うん。
 今日……というかついさっき、出先でアイツらに襲われた」



 通信の向こうで驚いているのは、1年前に一緒にアイツらと戦った大切な仲間のひとり。

 さっきいきなり通信してきて……話を聞いたら、ブラックシャドーとブルーバッカスがヴェートルの軌道拘置所を脱獄したって。

 それで、僕らに復讐するためにミッドへ来てるんじゃないかと思って、心配して連絡してきてくれたのだ。







 けど……その報せは一足遅かった。

 だって、もうすでにアイツらがフェイト達を襲った後だったから。







『そっか……間に合わなかったか……』

「まぁ、いつものようにジュンイチさんがなんとかしてくれたんだけど」

『相変わらず、ご都合主義も真っ青なくらいに“ヒーロー”やってるわね』

「僕としては大いに文句を言いたい。
 つか言ってもいいよね? 答えは聞かないけど」

『ハハハ、ヤスフミとしてはやっぱり自分が助けに入りたかったよね?』



 うん……そんなとこ。

 やっぱり、フェイトのことが好きな身としては、フェイトの危機には自分が助けに入りたいんだよ。

 アイツらの出現、予想しろって方がムリな話だったけど……それでも、やっぱり悔しい。

 だって、“JS事件”の時も助けに入れなくて、六課で一緒になって、今度こそと思ってたらこれだもの。



 しかも、今回はそのジュンイチさんの登場だってたまたま居合わせた、正真正銘、本気で偶然の賜物だって言うし。

 今回、フェイトはそれほど追い込まれなかった、追い込まれる前にジュンイチさんが出てきたらしいけど……アイツらの強さを知ってる手前、どうしても楽観視はできなかった。

 もし、ジュンイチさんがいなかったら……フェイトとジャックプライム、危なかったかもしれない。きっと、ジュンイチさんもそれがわかったからさっさと乱入したんだろう。



『気を落とさないでね、ヤスフミ。
 きっと挽回できるチャンスはあるわよ』

「うん。わかってる。
 僕だって、いつまでもジュンイチさんにオイシイところは持って行かせないよ」



 ……っと、そろそろ現場検証が終わって、こっちに報告が入る頃かな?



『そうなの?
 マズイ時間に連絡しちゃったかな?』

「ううん、心配してくれてありがとう。
 じゃ、もう切るけど……アンジェラやアレクによろしくね」

『うん、伝えとく。
 ……あ、そうだ。アンジェラで思い出した。あの子からジュンイチさんに伝言があるんだ』

「アンジェラから……ジュンイチさんに?」

『そう。
 「“メルティ仮面”のマスク、大事にしてるのだー」って』

「うん。絶対に伝えないでおく。
 あの人がそのことを知ったら、マスクを処分するためだけにアンジェラのところに強襲かけそうだから」



 そんなボケをかましつつ、最後に軽くあいさつを交わして、通信終了。

 さて、それじゃあ報告会と対策会議とまいろーか。







 今度こそ、アイツらをまとめてブッ飛ばす。



 そのためにも、今後の対策、しっかり立てておかないとね。











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第16話「『気が合わない』と『息が合わない』は意味が違う」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『…………ダメだね。
 その……ブラックシャドーとブルーバッカスだっけ? その子達の痕跡を示すものは何も残ってないよ』

「だろーねー。
 アイツらがそんな凡ミスするとも思えねぇしな」



 現場検証に立ち会っていたあずささんからの報告はある意味予想通り――ジュンイチさんもそれがわかってるから、あっさり答えて肩をすくめるばかりだ。



「じゃあ、話を続けよか」



 そしてそれは、今まで僕らからある程度の説明を聞いていたはやても同じだ。ため息まじりにうなずき、ウィンドウの画面を切り換える。



「ブルーバッカスとブラックシャドー。
 素性不明の傭兵コンビ“クロスフォーマー”。1年前のヴェートルでの動乱で、ダンケルクやキュベレイとは別口で公女を狙った……」

「で、ジュンイチさんにボコられた末にフェイト達に逮捕されて、懲役刑をくらってたはずなんだけど……」

「つい先日脱獄。
 行方知れずになっていたところ、先ほどテスタロッサ達を襲ったことで所在が判明、と……」



 はやてに答える僕にビッグコンボイが答える……うん、だいたいの経緯はこんなところだね。



「あのシンジケートの情報……事実は事実だったワケだな。
 ブラックシャドー達が、オレ達が連中を追っているのを知って、自らのワナに利用したといったところか……」

「ナメたマネしやがって……
 フェイト達を動揺させるためだけに何人もミンチにしやがって」

「犯罪者とはいえ、なんとむごいマネを……っ!
 次出てきたら、我らの手で今度こそ」



 一方、師匠やシグナムさんはフェイトを不意討ちするために組織をひとつ皆殺しにした残酷な手口に怒り心頭だ。スターセイバーの言葉に、もうすっかり殺る気マンマンといった感じで応えるけど……























「いや、オレの考えじゃヤツらは当分出てこないよ」























 ジュンイチさんのあっさりした言葉がそんな二人の動きを停止させた。



 うん。僕も同意見だ。きっとアイツらは当分出てこない。



「どうしてですか?」

「アイツらがプロだからだよ」



 尋ねるなのはに答えると、ジュンイチさんは一同を見回した。現場写真のグロさに吐き気を覚えてるエリオやスバル、ティアナに気遣わしげな視線を一瞬だけ向けて、それから口を開く。



「アイツらは多少手段を選ばないところはあるけど、だからってバカってワケじゃない。
 むしろギガトロンと一緒さ。十分な勝算を確保してからじゃないと動きゃしない。
 今回の奇襲にしくじった以上、連中はオレ達が自分達の襲撃に備えるであろうことも計算に入れて襲撃プランを構築するはずだ。
 できれば、その前に連中をつぶしておきたかったんだけどな……」



 言って、ジュンイチさんが視線を向けるのはフェイトだ。

 なんでも、ジュンイチさんがフィニッシュを決めようとした瞬間、フェイトが乱入して台無しにしてしまったらしい……フェイトもそれを自覚しているのか、悔しそうに唇をかむ。

 そんなフェイトからすぐに視線を戻して、ジュンイチさんが続ける。



「まぁ、そこを今さら言ってもしょうがない。
 それに手段が変わるだけで、こっちの基本方針は変わらない……すなわち“先手必勝”だ」

「相手の準備へが整わないうちに、こちらからしかける……ということか?」

「ジェットガンナー正解。
 連中はオレ達の防御まで計算に入れて襲撃計画を立てる……迎え撃とうとしても裏をかかれるだけだ。何しろ、こっちの防御を打ち破ることが向こうの計画の大前提なんだから。
 これについては、お前らも地上本部攻防戦で思い知っているはずだ」

「…………せやね。
 返す言葉もないわ」

「だから、こっちから仕掛ける。
 全力でアイツらの行方を追う。そして見つけ次第――電光石火の速攻で、叩きつぶす」



 多少乱暴に聞こえるかもしれないけど、ジュンイチさんの言っていることは間違ってない。

 アイツらのことだ。僕らを万全の状態で攻撃するために、徹底的に情報を集めて、弱点を洗い出して、そこを抉る作戦を考えてくるはず。

 けど……そんなのをわざわざ待ってやる必要なんかない。その前に見つけ出して、ブッ飛ばしてしまえばそれで僕らの勝ちになる。



 ただ……問題がないワケじゃない。



「けど……どうやってブラックシャドー達を見つけるつもりなんですか?」

「ま、そうだよな。
 まずアイツらの居場所がわからなきゃ、先手必勝もクソもねぇだろ」

「だいじょーぶ。手ならあるさ」



 その“問題”を指摘するなのはとビクトリーレオだけど、ジュンイチさんはあくまで余裕だ。



「まず、話の流れを整理しよう。
 アイツらはオレやフェイト達をおびき出すために、恭文達がギガトロンとぶつかる原因になった“レリック”を密輸していたシンジケートのアジトを突き止めた。
 そして、アイツらを皆殺しにした上で、オレ達をそこにおびき出してまとめて吹っ飛ばそうとした……」



 そこで一度言葉を切ると、ジュンイチさんの口元にニヤリと笑みが浮かんだ。



 あー、ジュンイチさんの悪いクセが出たね、コレは。



「さて、ここで問題だ。
 アイツら……どうして恭文達がギガトロンとぶつかったってことや、その原因が“レリック”の密輸だったって知ったんだろうな?」



 やっぱりか。



 この人、話を進める中で、時々もったいぶって聞き手に謎かけかましたりするところがあるんだよなー。



「え…………?
 それは、やっぱりあの戦いをどこかから見ていた、とか……」

「言ったでしょ? 『アイツらは勝算がなきゃ出てこない』って。
 オレ達を襲うための情報収集のために、戦いの現場まで出てくるようなマネはやらないよ」



 答えるティアナの案はあっけなく一蹴された。



「間違いなく、アイツらは安全圏から情報を得ていたはずだ。
 となると、手段は自然と限られてくる」

「そうか……ハッキング!
 アイツら、ウチのデータベースに侵入したんか!」



 まぁ……はやての想像した通りだろうね。

 アイツらは管理局の……というより、僕やジュンイチさん、フェイト達と怨敵が顔をそろえるこの機動六課のデータベースにアクセスして、ワナを張るのにちょうどいいネタを探し出したんだ。

 そして、そのネタ……あのマスターギガトロンとの戦いのことを知ってワナを張った……ってことか。



「そういうこった。
 それを足がかりにして……アイツらを崩す」

「そう簡単にいくでしょうか?
 相手のプロなら、そう簡単に痕跡を残すはずが……」

「別に、痕跡を追っかける必要はないさ。
 アイツらは、今後オレ達と戦うために、オレ達のデータを……今度は六課のみんなの分まで欲しがるはずだ。
 そして……アイツらの欲しいデータは、この六課のデータベースにある」

「ち、ちょっと待って!」



 グリフィスさんに答えるジュンイチさんの言葉に、フェイトはあわてて待ったをかけた。

 さすがと言うべきか、ジュンイチさんの狙いに気づいたみたいだ。



「まさか、ジュンイチさん……アイツらに、もう一度ここをハッキングさせるつもりですか!?
 そんなこと……っ!」

「敵の欲しいものを見切り、それを利用してワナを張る。
 戦略の初歩だよ、ワトソンくん♪」

「誰がワトソンくんですかっ!」



 茶化すジュンイチさんの言葉に、さっそくフェイトがキレた。テーブルをダンッ! と叩いてジュンイチさんをにらみつける。



「わかってるんですか?
 そんな、局のデータベースにわざとハッキングさせるなんて……っ!
 犯人逮捕のためだからって、さらに罪を犯させるつもりですか!?」

「他に連中を速やかに見つけ出す方法があるならやらないけど?」



 相変わらず激しくかみつくフェイトだけど、ジュンイチさんも相変わらずだ。平然とフェイトの剣幕を受け流しながらそう答える。



「それがないなら黙ってろ。
 “JS事件”の時にも言っただろ――代案もなしに頭ごなしに反対するだけじゃ、地団駄踏んでるガキのかんしゃくと変わんねぇんだよ」

「だからってこんなやり方!」

「だったらどうしろって?
 手がかりもないまま街中探し回って、片っ端から各個撃破されろとでも?」

「――――――っ!」



 ジュンイチさんの言葉に、フェイトの中で何かがキレたのが傍から見てもわかった。止める声を上げるよりも早く、フェイトの右手がポケットの中のバルディッシュに伸びて――











「もうえぇ!」











 間一髪のところでフェイトを止めたのは、我らが部隊長様の鶴の一声だった。



「話はわかった。
 ジュンイチさん……お願いできますか?」

「はやて!」

「ただし……こっちとしても、職務上情報を奪われるワケにはいきません。
 それ相応の対策は立ててもらいます。それができんかったら、この作戦はナシということで」

「あぁ、それなら問題ない。
 これでも、スカと情報戦やってる中で情報戦はしこたま鍛えられたからな。アイツのところのクソ秘書やクソメガネ以上のハッカーでもねぇ限り、オレの目を抜くことなんかできねぇよ。
 何なら、手口とか説明してやるけど?」

「それには及びませんよ。
 どうせ私には半分も理解できへんでしょうから」

「わかってる」

「即答で断言っ!?」



 ジュンイチさんの言葉にタヌキが悲鳴を上げるけど、いつものことなので無視しておく。

 それはともかく……うん、とりあえず方針決定、かな?



「はやて、本当にそれでいいの?
 わざとこっちをハッキングさせるなんて……」

「ある意味、ジュンイチさんの言うことも外してへんからな」



 けど、フェイトは相変わらず食い下がる。はやてもさすがに、そんなフェイトには呆れ気味だ。



「ジュンイチさんや恭文の話の通りなら、アイツらは勝算がなければ出てこない……けど、それは逆に言えば、勝算があれば出てくる、っちゅうことや。
 闇雲に街に出て追跡しようものなら、各個撃破のちょうどいい的や。さっきのジュンイチさんのたとえ話がマジ話になりかねへんよ」

「だけど……」

「何が不満なんだよ?
 よーするに囮捜査でしょうが。お前ら管理局だってよくやる手法だろ?」

「その“囮”に問題があるんですよ!
 いくら偽のデータだからって、局のデータベースへのハッキングを許すなんて!」

「だったら何を囮にしろって?
 一番見た目的に弱く見えるエリオやキャロにでも街に出てってもらって、襲われてもらうか?」











 ――――――パンッ……











「………………オレの言いたいこと、わかった?」



 そう静かにフェイトに尋ねるジュンイチさんの頬は赤い。

 言うまでもなく――今この瞬間、フェイトに思い切り張られたからだ。

 けど、それでもジュンイチさんは態度を変えない――ふてぶてしく、平然としてるもんだから、今ごろフェイトの腹の中はますます煮えくり返っているに違いない。



「そういうことをしたくないから、データをエサにするんだよ。
 情報のガードならきっちりやってやるから、お前はとりあえず安心だけしてろ」

「………………っ」



 ジュンイチさんのその言葉に、フェイトは小さく歯がみしながらミーティングルームを出ていってしまった。



「ち、ちょっと待ってよぉっ!」



 で、そんなフェイトを追って、ジャックプライムもあわてて飛び出していく。一方、取り残された僕らは誰も、何も言えなくて――



「……はたかれちゃった♪」

「そんなかわいく言わんでください。26歳のいい大人が」



 笑顔で口を開くジュンイチさんに、はやてが深く、本当に深くため息をつく。



「柾木……少し調子に乗りすぎだ。
 それでなくても、テスタロッサは貴様に対しては著しく沸点が低いんだ」

「心配しなくても、あの程度の怒りなら受け慣れてるよ」



 同じくため息をつくのはシグナムさん。たしなめるけど、ジュンイチさんも相変わらず平然としたものだ。



「ジュンイチさん、そうやって何でもかんでも受け流しちゃうからねー、フェイトもますますムキになっちゃうワケだよ」

「宮仕えじゃない身の上で出しゃばりまくってるからね。このくらいじゃないと、いちいち先方のやっかみにつまずいて面倒なだけなんだよ。
 嘱託とはいえ、一応は局勤めのお前らにゃ、縁のない苦労だろうけどさ」



 アリシアに対してもそう答えて――そこでジュンイチさんの表情がようやく曇った。ため息をつき、バツが悪そうに頭をかきながら、



「とはいえ……今回はさすがに怒らせすぎたかね?
 あそこまで行くと、今度は暴走を招きかねないや」

「ふむ、さすがにやりすぎたって自覚はあったようだな」

「うるせいやい。
 それよりフェイトだ……どうする? 恭文。フォローするか?」



 マスターコンボイのツッコミに口を尖らせつつ、ジュンイチさんが尋ねてくる……ふむ、どうしたものか。



 そりゃ、僕だってフェイトの力になりたいよ。ここ最近、ぜんぜんフェイトのこと守れてないし。

 けど……フェイトにとって僕はジュンイチさん派だ。その僕が何を言っても、フォローになるとは思えない。むしろ悪化させる可能性すらある。



「そっか……
 じゃあ、イクトさんは? エリオやキャロのことでフェイトちゃんと仲いいし」



 って、ちょっと待たんか、この横馬がっ!

 そりゃ、僕は今回向いてないかもと思ってたけど、だからってイクトさんに任せるなよっ! フラグ立ったらどーすんのさ!?



「あー、心配ない。
 イクトにも頼めないから」



 けど、そんな僕を止めたのはジュンイチさんだった。どこか気の毒そうな様子で視線を動かして――



「ハッキングの話になった辺りから、ついて来れずにオーバーヒート起こしとるから」

「相変わらず機械音痴だなぁ、イクトさん……」



 頭から蒸気なんか吹き出しながら思考を手放しているイクトさんの姿に、豆芝が思わず同意する。







 にしても……



 こないだ隊舎内ですら道に迷って出撃し損ねた、あの方向音痴といい……この人、直接戦えない場だとけっこうポンコツ?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「動かないで! 時空管理局です!」



 部隊のみんなを率いて、犯人のいる部屋に踏み込む……私、ギンガ・ナカジマを先頭に、驚いている犯人を一気に包囲する。



「プロメテウス・ブラック。
 違法な人体実験の容疑で、あなたを逮捕します」



 この男は、自分の開発した薬品を拉致した人間でテストしていた容疑がかけられている。しかもそれだけじゃなくて、この男が売りさばいた薬品で表社会だけじゃなく、裏社会の人間にも多数の薬害被害者が出ている。

 もちろん、そんな人間を野放しにするワケにはいかない。私達だけじゃなくて、地上部隊が総力を挙げてこの男を追いかけていた。

 そんな彼を、こうして追い詰めることができた。油断するつもりはないけれど、逮捕は時間の問題だろう。



 けど…………うん、情報がガセじゃなくてよかった。



 なぎくん達がディセプティコンとぶつかった先日の戦い――原因となった“レリック”の密輸シンジケートのアジトを見つけた私達の情報は、なぎくん達に恨みを持つトランスフォーマー達に利用された。

 そのせいで、フェイトさんやジャックプライムさんがそのトランスフォーマーに襲われたらしい。ジュンイチさんのおかげで何とかなったそうだけど。



 そんなことがあった後だ。今回の情報も利用されてる、という不安がないワケじゃなかったけど、ただの取り越し苦労だったみたいだ。



「早く連行して。
 それから、薬品もすべて押収してください」



 そのことを考えるのも、六課に連絡してフェイトさん達の無事を確かめるのも後。今は仕事が優先だ。隊のみんなに指示を出して、プロメテウスを連行していってもらう。





 けど……





「………………くそっ!」



 おとなしく連行されるかと思われたプロメテウスが突然暴れ始めた。連行していた局員を突き飛ばし、手錠をはめられたまま逃亡を図る。

 けど……研究ばかりでろくに身体も動かしていない技術者が、鍛え上げられた局員から逃げられるはずもない。取り押さえようとしたその腕をなんとかかわすものの、バランスを崩して自分の作った薬品の山の中に突っ込んでしまう。

 その衝撃で積み上げられていた薬品の山が崩れて、ケースの割れてしまった様々な薬品同士が混ざり合い、何かのガスを発生し始めて……って、いけない!



《有毒ガスの発生を確認。
 離脱を進言します》

「ブリッツキャリバー、でも……!」



 プロメテウスはあのガスの真っ只中だ。犯罪者だからと言って見捨てるワケにはいかない。



《しかし、状況からしてプロメテウスはあの薬品をまともに浴びたはずです。
 助けたところで、果たして無事かどうか……》



 ブリッツキャリバーの言っていることはわかる。けど……





「ナカジマ陸曹!」





 けど……事態は私達の考えているよりもさらに深刻なものになったみたいだ。誰かの上げた声を合図にしたようなタイミングで、有毒ガスの中で何かが起き上がった。

 プロメテウスは無事だったみたいだ。すぐに何人かがバリアでガスを防ぎながら確保に向かうけど……



「オォォォォォッ!」



 ガスの中でプロメテウスが吼えた。彼が腕を振るう動きにあわせて飛ばされた何かの粘液が、確保に向かった局員達に降りかかる。



『ぅあぁぁぁぁぁっ!』



 同時、悲鳴が響き渡る――粘液を受けた局員の皮膚が焼けただれ、手にしていたデバイスがまるで飴細工のように熔けていく!

 ブリッツキャリバー! これ……っ!



《強い酸性の溶解液のようです。
 早く手当てしなければ危険です》



 やっぱりそうか。すぐにここから連れ出さないと……



 けど、私が彼らのところに駆けつけることはできなかった。





 全身をあの粘液に包まれた怪人が、私の前に立ちふさがったからだ。





 この怪人……まさか、プロメテウス!?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ねぇ……フェイト、いい加減機嫌直してよ」



「………………」



 …………く、空気が重いっ!



 ジュンイチさんとケンカして、すっかり機嫌を損ねちゃったフェイトを連れて、気晴らしになればと思って外回りに出てみたんだけど……うん、ダメだ。フェイト、完全にヘソ曲げたままだよ。

 うーん……どうすればいいのさ、コレ?



「とにかく……一度戻ろう。
 あんな飛び出し方したら、きっとなのはだって心配するよ?」

「でも……」

「そりゃ、僕だってあのジュンイチさんの物言いにはカチンときたよ?
 でも……だからって、あんな別れ方は絶対にダメ」



 フェイトからの反応はない……けど、聞こえてるはず。だから、続ける。



「それに……ジュンイチさんはそういうことをしたくないから、エリオやキャロを囮になんかしたくないから、あぁいうことを言ったんだよ。
 そして、それは囮が他のみんなでも変わらない」

「………………」

「ジュンイチさんだって、ちゃんとみんなのことを心配してる。
 ただ……僕らとは、ちょっとその心配の仕方が違うだけだよ」

「だからって……あんなふざけた態度をとっていい理由にはならないよ」

「うーん、それは否定できないけど……」



 そうなんだよなー。

 日頃の態度を見ていればわかる……あの人、みんなのことを何よりも心配してる。みんなが守れれば自分のことなんかどーでもいい、とか平気で考えていそうなくらいに。



 それなのに、あの相手をバカにしたような態度がすべてをぶち壊しにしてるんだよねー。

 その結果が今のフェイトだ。まったく、周りで巻き込まれる僕らのことも考えてほしいよね……











「………………ジャックプライム!」











 そんな僕のモノローグを中断させたのはフェイトだった。いきなりブレーキを踏んで僕を急停車させる。

 ……って、一体どうしたのさ?



「アレ」



 答えて、フェイトが指さした先には、サイレンを鳴らして車道を駆け抜けていく管理局の緊急車両。それも一台や二台じゃない。

 ひょっとして……またまた何かあった?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「くぅ…………っ!」



 自分に向けてぶちまけられた溶解液から逃れ、距離を取る――狙いを外した溶解液は局の警邏車両にかかり、ドロドロに溶かしてしまう。



 局員はすでに車から降りていたけど、もし中に誰かいたら……背筋が凍りつくような悪寒を感じながら、私はプロメテウスと対峙する。





 けど……状況は何ひとつ好転していない。





 今のプロメテウスには、私の持ち技のほとんどが通じない。うかつに打撃を叩き込もうものなら、あの強力な溶解液で腕も、足も溶かされて終わりだ。



 そのために、足止めのひとつも満足にできない。なんとかしなければならないとわかっていても、コイツが市街地の方に向かおうとするのを止められない。私達の発揮できる最大限の機動性を発揮して、自分の身を守るので精一杯だ。





 せめて、ジュンイチさんやフェイトさん達のような火力が私にあれば……っ!







「ギンガ!?」







 この声…………ウソ、フェイトさん!?



「いったいどうしたの!?
 この騒ぎは……!?」

「って、ぅわ、何だよ、あの変なの!?」



 声を上げながらこちらに駆けてくるのは紛れもなくフェイトさんとジャックプライムさんだ。

 でも、どうしてここに……? 今の反応からして、プロメテウスのことを知っていて来てくれたってワケじゃないみたいだけど……



「うん、ちょっと近くに来てて……
 それで、アレは?」

「簡単に説明説明します。
 アレは、私達の追っていた犯罪者で……自分の作った薬品を何種類も浴びてしまった結果、身体が変異を起こして……」

「あんなドロドロになっちゃったワケだ。
 うん、了解っ! 事情は飲み込めた!」



 私の説明に納得するなり、ジャックプライムさんが愛用のデバイス、カリバーンをかまえる。そのままプロメテウスに向けて斬りかかって――って、待って!



「ダメです! ジャックプライムさん!
 彼の身体は……っ!」

「たぁぁぁぁぁっ!」



 私の制止の声も届かず、ジャックプライムさんの振るった一撃がプロメテウスを捉えた。一刀の元にプロメテウスを斬り捨てて――



「って、えぇっ!?」



 ダメになったのはカリバーンの刃の方。すっかりなくなりこそしなかったものの、ドロドロに溶かされた刀身を見て、驚きの声を上げる。



「カリバーン、大丈夫!?」

《大丈夫です。コアに破損はありません。
 しかし……》



 カリバーンの言いたいのはプロメテウスのことだ。刃を溶かされこそしたものの、ジャックプライムさんの一撃はプロメテウスを斬り裂いていた。



 けど……効いてない。非殺傷設定ではあったけど、そんなものとは別の意味で、効いてない。





 だって……今まさに、私達の目の前で、斬り裂かれた身体が元通りくっつきつつあるから。





「あの身体、中身まで完全に液化してる……!?」

「えぇ……
 あんなになって、生きていられること自体が異常なんですけど……」



 フェイトさんに答え、私達は改めて身がまえる……そんな私達へと、プロメテウスはゆっくりと一歩を踏み出した。踏みしめたアスファルトが、ジュウジュウと音を立てて溶けていく。



「プロメテウス・ブラック! 抵抗はやめておとなしくしなさい!」



「プロメテウス……今さら、そんな名前に用はない」



 投降を勧告する私だけど……プロメテウスはあっさりとそう答えた。



「そう。オレの名は……」











「メルトダウンだ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………っ」

「ジュンイチさん……?」



 結局、フェイトのことはフェイトの頭が冷えるまで保留、ということになった。

 まぁ、ジャックプライムが一緒だし、まさか午前中に襲われたばかりでまた襲われる、なんてこともないでしょ。



 そんなワケで、書類仕事も片づいてヒマを持て余した僕らは中庭でのんびりと昼下がりのお昼寝としゃれ込んでたんだけど……ジュンイチさんの電波な感覚が何かを捉えたみたいだ。



「そんな、オレがアレな人みたいな言い方はやめてもらえないかな?」

「別の意味でじゅーぶんアレな人でしょうに。
 で? 何受信したの?」

「…………まぁ、いいや。
 なんかさ、フェイトの魔力をちょっとばかりトレースしてたんだけど」

「フェイトの魔力を?」

「いや、怒らせた張本人としては、キレたアイツがバカやらないように監視してた方がいいかな、と」



 そう思うんなら、そもそも怒らせなきゃいいでしょぅが。



「うるへー。
 とにかく、そんな感じでアイツを追ってたんだけど……アイツの魔力出力が、いきなりふくれ上がった」

「それって……フェイトが魔力の出力レベルを上げたってこと?
 まさか……」

「どうも、その“まさか”みたいだ。
 オレ達で先行するぞ――はやて達には道中で知らせればいい!」



 えっ!? ちょっと、ジュンイチさん!?

 いきなり動いたジュンイチさんに抗議するヒマもなかった。僕の手を取るなり“装重甲(メタル・ブレスト)”を装着。飛行許可も取らないで空へと飛び立つ。



「ジュンイチさん、飛行許可!」

「とってるヒマなんかあるかっ!」

「みたいだねっ!
 で、フェイトがまた襲われてるっての!?」

「そういうことだっ!
 クソッ、犯罪者に襲われる趣味でもあるのか、あの小娘っ!?
 しかも、なんでかギンガまで近くにいるしっ!」



 えぇっ!? ギンガさんまで!?



「とにかく飛ばすぞっ!
 向こうに着いたらそのまま突っ込むっ! アルトアイゼンはセットアップしておけ!」



 なんか、ジュンイチさんがマヂモードだ。こりゃ、言うこと聞いといた方がいいみたいだね。



 つか……ジュンイチさんがこうまでなるって、フェイト達は一体誰と戦ってるのさっ!?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ジンジャー! バルディッシュ!」

《わかっていますっ!》

《Falcon lancer, shoot》



 私達の放った金色の楔が、プロメテウス・ブラック……ううん、メルトダウンに向けて飛翔する。



 けど……通じない。



 防がれたワケじゃない。かわされたワケでもない……私の魔力弾はメルトダウンの身体を確かに撃ち抜いた。

 でも、その傷がみるみるうちにふさがっていく……さっきからこの繰り返しだ。



「ムダだムダだ。
 そんな攻撃でこのオレは倒せない!」



 そして、メルトダウンの放った溶解液も私達には当たらない。私達にかわされ、狙いを外したそれがいたずらにアスファルトを溶かすばかりだ。



 お互いに決め手を欠いた状況……けど、戦いの流れは明らかにメルトダウンの方にかたむいている。



 理由は簡単。私達と違って、こっちの攻撃をかわさなくてもいいからだ。メルトダウンは、いくら攻撃を受けても液状の身体でいくらでも修復してしまう。けれど、私達がメルトダウンの攻撃を受ければ、それだけでアウトだ。

 おかげで、私やギンガはもちろん、ジャックプライムも攻めきれない。砲撃魔法クラスの攻撃を叩き込めればなんとかなるのかもしれないけど、そんなことをしてあの溶解液が周囲に飛び散ってしまう可能性を考えるとうかつには使えない。



 となると……



「バルディッシュ、ジンジャー。
 ザンバーなら、なんとかなるかな?」

《打撃の際に砲撃と同様の事態が想定されます。
 即時決行は避けるべきかと》

《バルディッシュの言う通りです。
 やはり、あの液状の体質をなんとかすることから始めるべきでしょう》



 これもダメか……



「とにかく、これ以上街中に進むことだけは避けないと!」

「…………っ!
 待って、ギンガ!」



 そんな中、業を煮やしたギンガがメルトダウンに突撃する……けど、うかつすぎるっ!



「わざわざ、自分から溶かされに来たか!」



 私の制止も聞かずに突っ込むギンガに向けて、メルトダウンが溶解液を飛ばす。対するギンガはサイドステップでそれをかわすけど――





「きゃあっ!?」





 ギンガが着地したのは、先にメルトダウンが溶解液で溶かした跡――地下に空洞があったのか、その場が崩落して口を開けた穴へと落下してしまう。



「バカめ! 袋のネズミだ!」



 当然、ギンガに生じたそのスキをメルトダウンが見逃すはずがない。穴の底にいるはずのギンガに向けて溶解液を――そんなこと、させない!



「ギンガ、危ない!」

《Defenser》



 とっさにギンガの落ちた穴の前に飛び出して、防御魔法で溶解液を受け止める。



 ギンガ! 今のうちに早く出て!



「ダメです、フェイトさん!
 そのまま防御していてください!」

「ギンガ!?」



 思わず声を上げるけど――すぐにギンガの言いたいことに気づいた。



 ギンガが落ちた地下の空洞というのは、送電線や通信ライン、水道など、ライフラインに関わる配線、配管を収めた共同溝だったのだ。

 もし、ギンガがここを離れたからといって私が防御をやめて離脱してしまっては、“壁”を失った溶解液は共同溝に流れ込むことになる。そうなったら……クラナガン全体とまではいかなくても、この区画は確実に被害を受ける!



「ジャックプライム!」

「うんっ!
 いっけぇっ! キングフォース!」



 となると防御している私とまだ共同溝から出られていないギンガは動けない。フォローを頼んだジャックプライムが、メルトダウンに向けて4基のビークル型パワードデバイス“キングフォース”をビークルモードで突っ込ませるけど、



「ジャマだ!」

「あぁぁぁぁぁっ!」



 メルトダウンの溶解液によって一蹴された、ドロドロに溶かされ、ただの金属の塊にされてしまったキングフォースの成れの果てに、ジャックプライムが声を上げる。



「次はお前だっ!」

「ぅわっと!?」



 さらに、メルトダウンはジャックプライム本人にも溶解液を飛ばした。あわててかわすジャックプライムだけど――



「――――――っ!?」



 そのヒザがガクンッ、と落ちた。

 見れば、右ひざの辺りが溶かされていて、関節の駆動に影響を与えている――溶解液、完全にかわしきれなかったんだ!



「逃げて、ジャックプライム!」

「お前は、黙っていろ!」



 声を上げる私に向けて、メルトダウンがさらに溶解液を放ってきた。防壁にベットリと溶解液がかけられ、私はうかつに防御を解くこともできない。



「さぁ、これで邪魔者はいなくなった。
 今度こそ――溶けてなくなれぇっ!」

「ち、ちょっとタンマぁっ!」



 あわてて声を上げるジャックプライムだけど、メルトダウンはかまうことなく溶解液を放ち――























《Icicle Cannon》























 ジャックプライムに降りかかろうとしていた溶解液が、突然飛来した青色の光に飲み込まれた。



 光が駆け抜けた後には、凍りついた溶解液の成れの果て――その場に落下して、音を立てて砕け散る。



 今のは……氷結属性を付加した砲撃魔法!?











「ジャックプライム、大丈夫!?」











 やっぱり……ヤスフミ!



「なんか、相当ヤバイ状況だったみたいだけど……うん、無事でよかった」

「ホントだよ……
 今ヤスフミがフォローしてくれなかったら、僕なんか今ごろスクラップだよ」



 ヤスフミが駆けつけてくれたことで安心したのか、ジャックプライムがその場にへたり込む――私も、ディフェンサーの防壁にかかった溶解液が完全に流れ落ちたのを確認して防御を解く。

 けど……ヤスフミ、どうして……それにどうやってここに?











「オレが気づいて、連れてきたからに決まってんでしょうが」











 その言葉はメルトダウンの背後から――同時、メルトダウンの身体が袈裟斬りに叩き斬られた。



 バシャリ、と水音を立てて、メルトダウンの身体が地面に崩れ落ちる、その向こうから姿を現したのは――



「ジュンイチさん……っ!」

「恭文に感謝しとけよー。
 アイツが先に飛び出したおかげで、“三戦連続でオレの乱入に助けられる”なんて不名誉な記録を打ち立てずに済んだんだからさ」



 思わず声を上げる私に、ジュンイチさんは軽く肩をすくめてそう答えた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 やれやれ。ギリギリセーフってところかな?



 まぁ、ピンチになってたのがフェイトじゃなくてジャックプライムだったってのがちょっとアレだけど……ちゃんと、登場キマってたよね?



《えぇ、そうですね。
 こんなカッコイイのはマスターじゃない! というくらいにはキマってましたね》



 あー、アルトさんや、それは一体どういう意味ですかな?



《まぁいいじゃないですか。
 それよりも今はこの状況を解決するのが先ですよ》



 それもそうか。今の話についてはまた後で、ということで。



「ギンガ、大丈夫か?」

「あ、はい……」



 そんな僕らをよそに、一緒に駆けつけてきたジュンイチさんはフェイトと一緒にいるギンガさんのところへ。地面に開いた穴に落ちていたギンガさんを引き上げるけど――



「何やってるんですか!?」

「いきなり罵声っ!?」



 そんなジュンイチさんにつっかかるのはもちろん我らがフェイトだ。



「自分が今、何をしたかわかってるんですか!?
 相手がどんな能力を持ってるかもわからないうちから、容赦なく斬り捨てるなんて……っ! 自分が非殺傷設定を使えないってことをわかってるんですか!?」

「その代わりに、“殺さない斬り方”ってモンをしっかり練習してんだけどねぇ、こっちは」



 そうだね。ジュンイチさんの能力ナシの戦闘技能は、言ってみれば御神の剣士の戦い方に銃器やら何やら近代兵器の扱いを足した感じだ。

 非殺傷設定が使えない代わりに、相手の急所を外し、死なない程度の深さで攻撃を叩き込む、そういう戦い方をミッチリとその身に叩き込んでいるのだ。



「それに、だ……大して効いてないと思うぞ、実際」



 なおも厳しい視線を向けてくるフェイトにジュンイチさんが答え――その時、ジュンイチさんがぶった斬った怪人が立ち上がった。

 しかも、ジュンイチさんに斬られたはずの背中の傷が、まるで映像を逆再生するように消えていく……どうなってるのさ、アレ?



「それだけじゃないぞ、恭文」



 と、ジュンイチさんはそう言いながら手にした愛刀、爆天剣を僕に見せる……何コレ!?

 爆天剣の刃がドロドロに溶けてる。まるで炎天下に放置したアイスキャンディみたいに。



「どうなってやがるんだ? アイツの身体……
 この剣、ブレイカーロボの装甲と同じ素材として“作って”るってのに……」



 ってことは、何ですか? アイツがその気になったら、ジュンイチさんの保有する巨大戦力、ブレイカーロボですら溶かせるってことか!?



《冗談じゃないですよ!
 そんなのが相手では、私の刀身ですら!》

「あぁ……アルトアイゼンだって、たまったもんじゃないだろうな。
 まったく……ぶん殴らなくてよかったぜ。爆天剣をこんなにするような身体を直接ぶん殴ったら、いくらオレの腕でもひとたまりもないや」

「トカゲの尻尾みたいに再生できるんだからいいじゃないですか」

「痛覚は普通にあるんだけどねぇ!?」

「と、ゆーワケでお任せしますんで取り押さえてきてください」

「あの溶解液を全身に浴びてこいってか!?」

「そこはジュンイチさんの理不尽パワーでなんとか」

「いくら何でもどうにもならんわ、あんなのっ!
 お前ら、オレのコトを何だと思ってる!?」





 ………………

 …………

 ……





「って、おいっ! なんで全員黙るんだよ!?
 恭文、ギンガ、ジャックプライム! フェイトもオレとケンカしてる身で何ノッてるんだよ!?」



 そりゃ、フェイトもジュンイチさんのチートぶりがいい加減理不尽なのがわかってるからでしょ。



 つかジュンイチさん、自分の腕をトカゲの尻尾扱いしたことはスルーですか。

 まぁ、それでいいならそれでもいいけど。



「何を、ゴチャゴチャやっている!」



 っと、アイツのことを忘れてた。無視して話している僕らに腹を立てたのか、両腕から溶解液をぶちまけてくるけど――



「やかましいっ!」



 ジュンイチさんが炎を放った。高温の炎にさらされて、溶解液は放たれたすべてが蒸発してしまう。

 ……っ、なんか刺激臭……ジュンイチさん、アイツの溶解液、あまり炎でどうこうしない方がいいかも。



「みたいだな。
 クソッ、斬るのもダメ、殴るのもダメ、焼くのもダメ……いっそ腕溶かされるの覚悟で、体内に手榴弾突っ込んでやろうか」

「あの溶解液周りにバラまくつもりかアンタわっ!」

「それに、爆発するよりも先に手榴弾を溶かされるかも……」



 なんか物騒なことを言い出したジュンイチさんをギンガさんと二人で止める。



「何考えてるんですかっ!
 手榴弾なんて……質量兵器ですよ!?」



 そして案の定、別のところに過剰反応するのはフェイトだ。「手榴弾」という単語が出ただけで、ものすごい勢いでジュンイチさんにくってかかる。

 あー、フェイト。少し落ち着こうか。今戦闘中だよ?



「けど、ヤスフミ……ちゃんと釘刺しておかないと、この人ホントに使うよ」



 ………………まったくもってその通りです。





「………………チッ」





 そしてジュンイチさんは舌打ちしないっ! そういう態度がフェイトの怒りを買ってるってわかってる!?



「だから……オレを無視して何をごちゃごちゃと!」



 そんな僕らに向けて上がる怒りの声――相変わらず無視されていることに腹を立てた怪人が、こちらに向けてまたもや溶解液をぶちまけてくる。



 さすがにジュンイチさんももう一度炎で迎撃するつもりはない。僕らは散開して(足をやられたジャックプライムはジュンイチさんが安全圏に強制転送)溶解液を回避する。



「くそっ、あの溶解液をなんとかしないと、ぶちのめすこともできやしないっ!」

「私達もそういう結論に達したんですけど、方法がなくて……!」



 同じ方向に飛んで溶解液をかわしたジュンイチさんにギンガさんが答える――そっか。フェイト達も同じように考えてたのか。



「ヤスフミの魔法でなんとかならないかな?
 ヤスフミ、凍結系が得意だから、アイツを溶解液ごと凍結させれば……」

「ゴメン、フェイト……たぶんムリ」



 提案してくるフェイトだけど……うん。たぶんやっても意味はない。



「凍結魔法を叩き込めば、動きを止めるくらいならできると思うよ。
 けど、外側から叩き込んだって、表面を凍らせるだけだよ。内側の溶解液に、凍らせた部分を溶かされて元通り……だよ」

「オレの炎で包囲して、放射熱で溶解液の水分だけ飛ばして乾燥させる……って方法もあるけど、同じ理由で無意味だろうな」



 ジュンイチさんも事実上の打つ手なし……さっきからのアレコレを考えるとそうだと思ってたけど、やっぱりか。



「乾燥させるにせよ凍結させるにせよ、やるとしたら表面からじゃなくて内側からにするべきだね」

「なぎくん、簡単に言うけど、内側から、って、電子レンジで暖めるんじゃないんだから……」











「………………あ」











 僕に答えるギンガさんの言葉に動きを止めたのはジュンイチさん……ひょっとして、何か思いついた?





「うん。思いついた。
 そんなワケで……」











「よろしく、フェイト」











「………………わ、私ですか!?」



 まさかこのタイミングで話を振られるとは――もっと言うなら、あからさまに態度のキツかった自分に話を振ってくるとは思わなかったのか、フェイトが思わず声を上げる。



「思いついたプランの実行には、オレ達で言うところの“光”属性……もっと言うなら電気系の能力者が最適だ。
 で、ここにいるメンツの中で電気系はお前だけ……お前を頼るしかない」



 ジュンイチさんの口調は、さっきまでの遊び半分で戦ってる時のものじゃない。真剣に――本気で言っているのがわかる。

 けど、フェイトはきっと――



「でも…………っ!」



 予想通り。

 フェイトの反応は鈍い――でも、それはきっと、さっきの驚きのせいじゃない。

 ジュンイチさんの案に乗るのを渋ってる……ジュンイチさんのこと、一方的に敵視してたからなぁ。今さら頼られても、ってところなんだろうね。



「あのさ、フェイト……」







「…………その程度かよ?」







 フェイトにフォローしようと口を開いた僕だけど……そんな僕の言葉に、ジュンイチさんの冷たい声がかぶせられた。



「オレの案だからノれないってか?
 オレの作戦だから従えないってか?
 だったらもういい――好きに戦えばいいさ。
 オレだって、そんな半人前のガキをあてにするつもりはないからな」

「ちょっ、ジュンイチさ――」

「半人前……私がですかっ!?」

「他に誰がいるよ?」



 いきなり暴言ぶちかましたジュンイチさんに驚くけど――今度はフェイトが僕のセリフをさえぎった。そんなフェイトに対して、ジュンイチさんはあっさりとうなずく。



「嫌いな相手だから言うこと聞けない……完全にガキの論理だろうが。
 お前は六課で何やってるんだ? 仲良しこよしの友達ごっこか?
 違うだろ――仕事をやってるんだろうが。
 仕事ってのはな、時には気に入らない相手とだって組まなきゃならないんだ。嫌いな相手とだって、協力して成果を出さなきゃいけない時だってあるんだ。
 そんな時に、相手が嫌いだからって手ェ抜くか? 仕事しないか?
 お前がやりたいのは、そんな中途半端かよ?」



 ジュンイチさんの言葉に、フェイトは何も言い返せない。

 まぁ、ムリもないよね……言い回しは冷たいけど、言ってることは間違ってないんだから。



「オレと仲良くなれ、なんてオレだって言わねぇよ。
 けどな……優先すべきものの順位を履き違えるんじゃねぇ。
 オレは履き違えねぇぞ――守りたいものを守るために、そのために必要なら何だってやってやる。
 余計なしがらみに縛られて、大事なヤツらが泣くのなんか見たくねぇ……みんなの笑顔を、オレは守る」



 フェイトの反応はない――うつむいて、ずっと押し黙ったままだ。



 僕も、ギンガさんも、怪人の動きを警戒しながらそんなフェイトを恐る恐る見守って……フェイトが口を開いた。











「………………プランは?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………わかった。
 ほな、私らは、ジュンイチさん達の戦ってるところに人を近づけんかったらえぇんやな?」

〈あぁ、頼む。
 うかつに近づいてきて、巻き込まれても責任持てないからな――スバル達、こっちに向かってんだろ? アイツらにでも交通統制やらせとけ。たまにゃ裏方の仕事も悪かねぇだろ〉



 フェイトちゃん達が戦ってるのはもう把握してる……シグナムの指揮でスバル達フォワード部隊を送り出し、到着を待つ間状況の把握に努めていた私のところにジュンイチさんから連絡が入ったのはつい今さっきのこと。



 ……というか……またえげつない方法考えますね。相手が普通の生き物やったら虐殺コース一直線やないですか。



〈普通の相手じゃないからいいんだよ〉



 いや、まぁ……ごもっとも。



〈んじゃ、任せたからな〉



 最後にそう締めくくって、ジュンイチさんの側から通信が切られる――息をついた私に、今回も(ドクターストップ的な意味で)二人して居残り組ななのはちゃんとヴィータが口を開いた。



「けど……決行するってコトは、フェイトちゃん、ジュンイチさんのこの作戦を了承したってコトだよね?」

「ジュンイチに対して敵意バリバリだったアイツが、よく承知したよな?」

「まぁ……意地を張るよりも戦ってる相手をどうにかせなあかん、ってところやろうな」



 特に相手がジュンイチさんやからな。そういう理屈にどうしてもなるやろ。

 あの人、ふざけてるようでいて、やらなあかんことはしっかり見据えとるからなぁ……その辺持ち出されたら、フェイトちゃんもうなずくしかないやろ。

 ホンマに、あのふざけた態度さえなかったら文句のつけどころのない完璧超人なんやけどなぁ……



「まぁ、そこを気にしても『今さらだろ』」



 ビクトリーレオ……ミもフタもないからそういうことは言わんでほしいんやけど。



「…………しかし……」



 ん? どないしたん? グリフィスくん。



「いえ、ずっと気になっていたんですけど……
 フェイトさんがジュンイチさんを目の敵にするのは、なんとなくわかるんです。性格といい物事の優先順位といい、徹底的にフェイトさんと正反対の人ですから。
 けど……どうしてまた、ジュンイチさんはそれをいちいち受けて立ってるんでしょうか……?
 あの人の性格を考えたら、売られたケンカは即座に万倍返しとかしそうな気がするんですけど」

「た、確かに……」



 グリフィスくんの言葉に、なのはちゃんが思わず苦笑しとるけど……私も同感や。グリフィスくん同様、ずっと気になっとった。



 確かに、フェイトちゃんに対する反応は、あの人の性格を考えるとおとなしすぎる部類に入る。いつもやったら、他の人やったらとっくにキレとるレベルのはずやのに。

 その辺、ビッグコンボイは心当たりとかないか?



「まぁ……いくつか思い当たるフシはあるな。
 まず、恭文に対する配慮……テスタロッサは恭文の想い人だからな。叩くにしても叩きすぎては恭文に飛び火するかもしれない、とかアイツが考えていたとするなら、対応もいつもより慎重になるんじゃないのか?」



 あー、なるほど。

 ジュンイチさん、恭文にはずいぶん気を遣っとるところがあるからなぁ。フェイトちゃんはどーでもよくても、そのとばっちりが恭文にいくのは避けたい、とか考えても不思議やないな。もっとも、本当に必要だと考えたら遠慮はせぇへんやろうけど。



「他には……アイツにとって、テスタロッサに嫌われている現状の方が都合がよかったとしたら……アイツのことだ。嬉々として火に油を注ぎに行くだろうな」



 えっと……つまり、ジュンイチさんにとって、フェイトちゃんには嫌われていた方が都合がえぇ、と?

 なんでそんなマゾっ気出す必要があるんよ? あの人、どっちかって言うとバリバリのSやない。



「MとかSとか言う話じゃないさ。
 組織としてのあり方にこういうものがある――ただ唯一を妄信するのではなく、幾つもの事態を想定しておき、いざという時に対処できるようにしておくのが正しい危機管理のあり方だと」

「あ、ビッグコンボイが珍しく組織運用についてまともなことを」

「これでも元サイバトロンの司令官だぞ」

「単独行動ばっかでクビになったクセしてか」

「それでも訓練や教育自体はマジメに受けていたからな」



 あー、ビッグコンボイ、ヴィータとじゃれてへんで、話続けてもらってもえぇかな?



「っと、そうだな。
 要するに、だ。状況を想定する上で、いくつもの着眼点があった方が想定はしやすい。特にそれが、自分とは正反対の視点であればなおさらだ」

「つまり……ジュンイチさんは、フェイトちゃんにその“正反対の視点”を期待している、ってことですか?」



 気づき、確認するなのはちゃんに対して、ビッグコンボイの答えは……正解だったらしい。無言でうなずいてみせる。



「要するに、ヤツ自身、自らの力を万能だとは思っていないということだ。
 自分にだってできないことがある、見えないものがある……だからこそ、その穴を埋められる人材を欲した。
 そして……そんなジュンイチの求める条件に、テスタロッサはこの上なく最適な人材だったんだ。
 ヤツと正反対の視点と考え方を持ち、嫌っているからこそ堂々とものが言える……それは、あの男を認め、受け入れてしまったお前達には決して任せられない役回りだ」



 なるほど……それは確かに、私達にはできへん役回りやな。



 つまり、ジュンイチさんは、自分に対する試金石として、フェイトちゃんを必要とした……そして、そのためにはフェイトちゃんに自分を嫌い続けていてもらう必要があった……



 つまり……ジュンイチさんは大なり小なり、フェイトちゃんのことを認めとる、っちゅうことか。

 それだけの能力もなく、ただ嫌ってるだけじゃ、この役目は任せられへんからな。





 まったく……必要と判断したら、自分の認めた相手に嫌われることすらおかまいなしやなんて、どんだけ不器用なんですか。



 ホント、もう少し肩の力を抜いて生きられへんもんですかね、あの人は……





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さーて、はやてにフォローもお願いしたことだし、遠慮なくいくぜ!」

「はいっ!」



 はやてとの連絡を終えて、ジュンイチさんが自信タップリに怪人、メルトダウンをにらみつける――応えるギンガさんもまぁ、勇ましいこと勇ましいこと。

 もっとも、気合が入ってるのは僕らもだけど。僕はもちろん、フェイトもジュンイチさんへのアレコレを今は忘れてマジモードだ。



「フンッ、作戦会議は終わりか?
 なら、遠慮なく溶かしてやる!」



 一方、メルトダウンは相変わらず余裕だ。僕らに思い切り攻められる攻撃がないことをわかってるからだ。



 けど……悪いね、もうお前のターンは終わったんだよっ!



「んじゃ、やったるか!
 恭文!」

「はいはいっ!」



 ジュンイチさんの作戦、その初動は僕だ。ジュンイチさんの合図で地面に手をつき、魔法を発動。



「ブレイクハウトっ!」



 スレイ○ーズの魔法に憧れて、昔組んだことのあるこの魔法の効果は地面に対する各種の干渉。メルトダウンの周囲のアスファルトを隆起させて、柱でグルリと包囲する。



 次……ギンガさん!



「ブリッツキャリバー!」

《Absorb Grip》



 ブリッツキャリバーで疾走するギンガさんの手には、さっきギンガさんが落ちていたライフラインの共同溝、その整備資材保管庫にあった予備の送電線。僕の作り上げた柱に次々に巻きつけ、これまたメルトダウンを包囲していく。



「おいおい、何だ? これは。
 格闘技大会の、リングのつもりか? こんなもので、このオレを止められるとでも――」



「思っちゃってたりするんだな、これがっ!」



 メルトダウンに言い返したのはジュンイチさん。両手に“力”を蓄え――けれどお得意の炎として燃焼させることはせず、頭上に向けて告げる。



「準備万端っ!
 やったれ――フェイト!」

「はいっ!」



 そう。上空ではこの作戦の要、フェイトがすでに魔法のスタンバイを完了――ジュンイチさんの合図でバルディッシュを振りかざし、





「サンダー、レイジ!」





 魔法発動。放たれた雷撃が、メルトダウンに叩きつけられる!





「今だっ!」





 そして、それはジュンイチさんによる“最後の仕上げ”の合図でもある――ジュンイチさんが放った“力”が防壁となって、周囲の柱ごと“メルトダウンを包み込む”!



「なんだ、この程度の電撃!
 こんな包囲、簡単に溶かしてやる!」



 けど、メルトダウンはまだ動いてる。言いながら、こちらに向かって一歩踏み出して――



「む………………っ!?」



 その動きに変化が現れた。なんだか動きづらそうに、全身の動きがカクカクし始める。



「な、何だ……っ!?
 身体が、重い……っ!?」

「そうでもないさ。
 むしろ軽くなってるはずだぜ」



 驚き、うめくメルトダウンに、ジュンイチさんはしてやったりとばかりの満面の笑顔だ。



「だってさ……」











「今、お前の身体から、ものすごい勢いで水分が抜けてってるんだからな!」











「――――――っ!
 この電撃か!」

「そういうこった!
 フェイトの電撃の本命は、むしろ恭文とギンガが作った電線のリング――そこに通電、電磁場を発生させてる。
 そしてそれを、オレのフィールドで外に逃がさないように留め、お前に思い切り浴びせかけてる――言ってみれば、即席の巨大電子レンジってワケだ!」



 そう。ジュンイチさんの考えた作戦というのは、今僕らの目の前にある即席レンジで、メルトダウンの体内の水分を根こそぎ蒸発させて、溶解液を使えなくしてしまうというもの。

 ほら、ラップとかしないで冷めた料理を電子レンジで温めたりすると、水分が飛んでパサパサになっちゃったりするでしょ? アレと同じことが、今メルトダウンの身体に起きているのだ。



「てめぇの自慢の溶解液も、乾いちまったらどうしようもねぇだろ!
 残念ながら――チェックメイトだ!」

「お、の……れ……っ!」



 ジュンイチさんの言葉になおも抵抗しようとするメルトダウンだけど――もう満足に歩くこともできない。足をもつれさせて、その場にひっくり返ってしまう。



「まだ……終わるものか……っ!」



 それでも、メルトダウンはあきらめない。まだぎこちないながらもなんとか動く両腕で上半身を起こす――











「いやいや、終わりだよ」











 ――だから、僕がヤツの目の前に立ちふさがったるするワケだ。











 ジュンイチさんにフィールドを解いてもらって、アイツの目の前に――もちろん、アルトも一緒だ。



 だって――そうじゃなきゃ、コイツをブッ飛ばせないし。





 そんなワケで――





「ま、待て!
 オレが悪かった! だから――」







《問答――》



「無用ぉぉぉぉぉっ!」





 僕とアルトの一撃が、メルトダウンを豪快にブッ飛ばすのだった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「とりあえずは、これで一件落着……ですね」

「本当に“とりあえず”だけどな」



 カラカラに乾燥して、身動きすらできなくなったメルトダウンが局員によって運ばれていく――それを見送るギンガの言葉に、ジュンイチさんはあっさりとそう答える。



「ジャックプライム、足の修理があるから先に帰したよ。
 フェイトは大丈夫?」

「うん。ヤスフミとアルトアイゼンは?」

「僕ももーまんたい」

《おかげであのゲログチョをゲログチョなまま斬らずにすみましたから》



 そっか……よかった。

 ジャックプライムも、あの様子なら大丈夫だろう……息をついて、私が視線を向けたのはシグナム達と話しているジュンイチさんだ。

 私達がメルトダウンを“電子レンジ作戦”で倒している間、巻き込まれないようにジュンイチさんが下がらせていたらしいけど、今はこっちに合流して現場検証に加わっている――そんなシグナムと二人でスバル達に的確に指示を下しているその姿は、まるで生徒を引率する学校の先生だ。











 けど……











 仕事である以上、時には気に入らない相手とだって組まなきゃならない。嫌いな相手とだって、協力して成果を出さなきゃいけない時だってある。



 そう告げるあの人の顔は、自分のするべきことをしっかり見据えた“プロ”の顔だった。



 優先すべきものの順位を履き違えるんじゃない。

 守りたいものを守るために、そのために必要なら何だってやってやる。



 そう告げたあの人の姿には、確かな信念と気概を感じた。

 かと思えば、一転してしまらず場を和ませる道化にもなったり……本当に、その行動が一貫していない。





 わからない。



 道化と戦士、どっちがジュンイチさんの素顔なのか……



 けど……その力だけは、認めてあげてもいいかもしれない。

 私達は、その力のおかげで何度も助けられたのだから……











「フェイトーっ! そろそろ帰るよー!」

「あ、うん……」



 気づけば、みんなはもう引き上げる準備に入っていた。ヤスフミに呼ばれて、私はあわててみんなのもとへと駆け寄るけど……



「あー、なんか時間も遅くなっちまったな。
 晩飯はどっか寄って食べるか?」

「でも、ジュンイチさん、勤務中の買い食いは……」

「けどな、ティアナ……今から帰って食おうとするとけっこうな時間になるぜ。
 間違いなく身体に“つく”……後々体重計の上で絶叫したいなら止めないけど」

「今すぐどこかで食べましょうっ!」

「ティア切り替え早っ!」

「フェイトもそれでいいな?」

「…………仕方ないですね」



 ………………うん。私も体重計の上で青ざめたくないし。

 そう考えた私がうなずいた瞬間――ジュンイチさんの顔が邪悪に歪んだ。



 あれ…………? ひょっとしてミスジャッジ?



「よーし、話は決まった。
 お前ら喜べ! 今夜はフェイトのおごりだぞ!」

「えぇぇぇぇぇっ!?
 ちょっ、ジュンイチさんっ! 何をいきなりっ!」

「そりゃこっちのセリフだぞ。
 日に2回も襲われやがって……助けたオレ達にメシおごったって、バチは当たらないだろ」

「そ、それはそうですけど……」

「よし、反論は封じた!
 これで財布の心配する必要はねぇっ! 全員思いっきり食っていいぞぉっ!」

「ま、待ってくださいって!
 さすがにこの人数で思いっきり食べられたら私のお財布だって!」

「10年間しこたま危険手当で稼いでるヤツが何ぬかすかっ!」

「貯金はあっても下ろしてなかったら意味ないと思いませんか!?」

「よし、メシの前にATMに寄ってくぞっ!」

「退路を断たれた!?」



 あぁ、せっかくさっき認めかけたものがガラガラと崩れていく……

 なんで戦闘能力とかいろいろなスキルに加えて職業意識まで軒並み高い水準にあるのに、身内の扱いだけがこうも悪い方向に突出してるの、この人はっ!?



「フェイト……気にしたら負けだよ、きっとね」

「………………うん……」



 ヤスフミのなぐさめが、とても虚しく感じた初冬の夕暮れ時でした。





(第17話へ続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!


フェイト「ねぇ、ヤスフミ」

恭文「どうしたの? フェイト」

フェイト「メルトダウン、全身が溶解液になっちゃったよね?」

恭文「あー、うん」

フェイト「ご飯とか……どうするんだろ……」

恭文「きっとそれは気にしちゃダメだよ。
 ほら、ウルトラ怪獣とかでも食べ物がわかってる怪獣の方が少数派なんだから」

フェイト「メルトダウン、怪獣扱いっ!?」





第17話「話してわかることがある。一日一緒にいても、見てるだけじゃわからないこともある」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



 



オメガ《…………はい。ミス・フェイトとミスタ・ジュンイチのケンカを軸に新キャラがボロボロ出てきた前後編もこれにて決着です》

Mコンボイ「決着……と言っていいのか?
 あの二人の確執は片づいていないし、前回登場した傭兵コンビについてもほったらかしのままだろう」

オメガ《まぁ、そこは仕方ないですよ。
 ミス・フェイトとミスタ・ジュンイチの確執はまだまだ続きますし、傭兵コンビについては、慎重派という設定ですから、それがわずか2話で決着、というのもありえないだろうという作者の判断で保留です。
 あ、今回出てこないのも同じ理由ですね。今回の前後編はひとまとめで1日のエピソードですから、午前中に襲撃に失敗したあの二人が昼過ぎてまた出てくるのはありえないだろ、ということで》

Mコンボイ「それならそれで、話の中で数日の間を空ければよかったんじゃないのか?」

オメガ《メイン二人の大ゲンカに数日間巻き込まれ続けていたいのなら止めませんが》

Mコンボイ「…………なしにしておこう」

オメガ《それが懸命です。
 で、今回登場のメルトダウンですが……》

Mコンボイ「作者提供の資料によれば、ヤツもいつぞやのラグナッツ、ロックダウンと同じ『アニメイテッド』からの登場キャラクターだな……トランスフォーマーですらないが」

オメガ《ですね。
 『アニメイテッド』はトランスフォーマー同士の戦いばかりというワケではありません。人間の悪人とも戦ってます。メルトダウンもそのひとりです》

Mコンボイ「ということは……他にも出てくるヤツがいる、と?」

オメガ《いるらしいですよ、作者的に出したい人》

Mコンボイ「やれやれ、また面倒なことになりそうだ……」

オメガ《まぁ、いつも通りブッ飛ばしていけばいいですよ。
 その方が私の出番も増えますし》

Mコンボイ「結局お前はそこなのか……」

オメガ《当然でしょう。
 さて、そんな誰が出てくるかもわからない先の話はおいといて……『GM』キャラクターの紹介にいきましょうか。
 今回も引き続きディセプティコン・メンバーの紹介ですね》

Mコンボイ「今回はブラックアウトに引き続き、オレ達の前に始めて現れた幹部クラス。
 幹部クラスの中では唯一飛べない、ジェノスクリームだ」

オメガ《ボス、それは言わないであげましょう。本人、自分だけ飛べないのをすっごく気にしてますから》





ジェノスクリーム

出身:ミッドチルダ

所属:ディセプティコン

トランスフォーム形態:T-REX型機動兵器(『ZOIDS』のジェノザウラーがモチーフ)

身長:5.5m

重量:15.8t

声のイメージ:鳥海浩輔(『電王』アントホッパーイマジン(アリ)、ピギーズイマジン(次男))

備考:ディセプティコンの四大幹部のひとり。
 冷静沈着な性格だが、軍人気質で頭の固いブラックアウトよりはやや柔軟な思考の持ち主。その性格上ブラックアウト以下マジメ組とジェノスラッシャー以下直情組の間を取り持つことが多く、実質的にマスターギガトロンに代わる構成メンバーのまとめ役。
 飛行能力を持たないためスバル達フォワード陣と交戦することが多く、なのはのディバインバスターにも匹敵する必殺武器ジェノサイドバスターを始めとした豊富な火力とビーストモードの高い格闘能力を武器に、“JS事件”ではスバル達に幾度となく苦戦を強いた。





Mコンボイ「一応、前作『MS』では、マスターギガトロンが登場するまでオレのライバル的な位置づけにいたのが、このジェノスクリームだ」

オメガ《どちらも陸戦の中核ですからね、どうしてもそうなるかと。
 で……それゆえに、ボスが成長するたびにブッ飛ばされる役回り、と》

Mコンボイ「オマケに、あのクセの強いディセプティコンのメンバーをまとめる役どころだったからなぁ……
 その一点だけは、十分に同情に値する」

オメガ《ボスもたいがい、クセの強いメンバーに苦労させられてますからねぇ》

Mコンボイ「今や貴様もその“苦労させているメンバー”に含まれつつあるんだがなぁ?」

オメガ《そうなんですか?》

Mコンボイ「自覚ゼロか、貴様っ!?」

オメガ《まぁ、自覚がない以上気をつけようもありませんね、うん》

Mコンボイ「しかも強引に決着つけたな、おいっ!?」

オメガ《(無視)では、そろそろお時間となりましたし、本日はこの辺で。
 みなさん、また次回お会いしましょう》

Mコンボイ「だから、マスターを無視するなぁ!」





(おしまい)





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あきゅろす。
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