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頂き物の小説
第14話「忘れさせちゃいけないことがある。壊させちゃいけないものだってある」



……やっぱり痛い。

 朝、目が覚めてから、同じ部屋で暮らしている二人が寝ている内に、軽くウォーミングアップに出た。

 といっても、今日は早朝訓練はないから、こんな早くに起きてウォーミングアップしても意味はなかったりするけれど、一応確認したいことがあった。



 ストレッチを加えながら、少し気になる個所を重点的にチェック……痛い。

 身体の所々が、強めに刺激したりすると痛みが走るようになってしまっている。原因は……考えるまでもなかった。

 この痛みは、感じた途端に動けなくなるというほどじゃない。



 でも、戦闘中に激しく動いたりすれば、確実にこれは反応や動きを鈍くさせる。

 結果的にそれは……戦闘力の低下と無意味な事故につながる。あの時みたいに。



 ……はぁ、今日のシャマルさんの定期検診、気が重いなぁ。

 きっと『完全に治るまで仕事を休め』とか言われるんだろうし、今後は逆らえなくなりそうだよ。恭文くんじゃないんだけどな、私。





 でも、シャマルさんにそう言われたとしても、まだ空を飛ぶことから離れるワケにはいかない。





 まだやるべき事と、伝えなきゃいけない事があるから。それが終わるまでは……飛び続けなきゃいけない。











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第14話「忘れさせちゃいけないことがある。壊させちゃいけないものだってある」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 マスターコンボイとゴッドオンして、マスターギガトロンをぶちのめして……さて、今日はその翌日。

 結局、フェイト達が相手をしていたディセプティコン・メンバーにもそろって逃げられた。僕らがマスターギガトロンを返り討ちにしたのを知るなりスタコラサッサと逃げ出してくれたらしい。

 おかげで、こちらの戦果と言えば六課隊舎にけん制に来た連中の無人兵器“ドール”をイクトさんやビッグコンボイが薙ぎ払ったくらい……くそっ、もうちょっとマスターギガトロンをぶちのめしとくべきだったか。



 で……今日の予定は基本的に昨日やるはずだったことがそのまま先送りされた感じ。

 再開される訓練の見学があって、マスターギガトロンとの戦いについての報告は訓練の後の事務仕事タイムで、ってことになってて……僕は訓練の前、今から医務室でシャマルさんの定期検診。



 うーん……昨日思い切り暴れたからなぁ……疲労、たまり直してなきゃいいけど。



 そんな鬱な気持ちを抱えながら医務室に向かっていると、なーんか同じく鬱な空気を背負った人を見つけた。

 制服姿にサイドポニーが映える女性の後ろ姿。ここまで言えば、誰かなど考えるまでもないと思う。



「なのは、おはよう」

「あ、恭文くんおはよう。アルトアイゼンもおはよう」

《おはようございます。高町教導官》



 そう、六課の戦技教導官であり、僕の友達の中では、タヌキに比べるとはるかに良識的(魔王要素以外)である高町なのはがそこにいた。

 あ、そういえば……昨日言い忘れたけど、一昨日はありがとうね、楽しかったわ。



「ううん、こっちこそありがと。
 ヴィヴィオがね、寝つくまでまた行きたいって何度も言っててすっごく楽しかったみたいなんだ。
 あ、もちろん私も楽しかったよ?」

「そっか。また、事前連絡さえくれればいつでも来ていいよ?
 ヴィヴィオも、持っていったディスクの続きも見たいだろうしさ」

「うん、また寄らせてもらうね。
 でも……突然はダメなの?」

「ダメ」



 だって、同じ職場で働いてるワケだし特に苦じゃないでしょ? それに、僕がいない時とかに来ちゃったら待ちぼうけ食らわしちゃうかもしれないし。



「あ、そっか。別に引きこもりだからとかじゃなかったんだね」

「……なのは、僕のこと何だと思ってるの?」

「え? 恭文くんは恭文くんだよ。
 私のすっごく大事な、家族みたいなお友達」



 そっか。そう言ってくれるのはうれしいけど、僕の皮肉というか軽口にニッコリ笑顔でそういう返しはしないでほしいよ。

 なんというか……罪悪感がわいてくるからさ。



 まぁそれはそれとして、一体どうしたんだろ。さっきまで鬱な空気が全開だったし。



「……うん、シャマルさんの定期検診があってね」

「なのはもなの?」

「うん……え、恭文くんも?」



 僕はアレだよ。休み明けに疲労がどうなってるかをちゃんと確認したいからって言われた。なのに昨日思い切り動くハメになったりしたワケだけど。

 なのはも……同じか。なのはの方がシリアス色強いけどさ。



「うん。朝ね、軽く身体のチェックしてみたんだけど、あんまりいい感じじゃなかったから……」

「そっか……」



 なのはがそう口にしながらうつむくのを、暗い気持ちになりながら見ていた。

 僕も同じようなもんである。この休みは楽しかったと言えば楽しかった。

 ただ、ゆっくり休めたかといえば……多分休めてない。その上昨日の大立ち回りだ。

 休み前にシャマルさんの身体検診を受けているので、もし、もしもそれより体調が悪化していた場合、待っているのは死だ。

 物理的にじゃない、精神的に、死ぬ。



「いや、そこまでなのっ!?」

「そこまでなんだよ」



 シャマルさんは昔から僕の主治医的なポジションにいたから、僕の弱みとか一番知ってるんだよね。

 その中には僕の男の子の尊厳的なものも含まれてる……えぇ、メディカルチェックとかでしっかり確認されましたから。

 ヘタにシャマルさんを泣かせたらそのあたりの情報が“偶然”流出する。絶対に“偶然”流出する。



 狸や豆芝あたりはとりあえず口を封じるとしても、もしフェイトに知られたら……



「……恭文くん、大丈夫?」



 いつのまにか、自分を強く抱き締めながら、過去に思いを馳せていた僕の思考を現実へと引き戻してくれたのは、なのはの心配そうな声。

 声のする方へと目をやると、声と同じように心配で、不安そうな表情をしているなのはがいた。

 ……大丈夫、ちょっと考え事してただけだから。だから、そんな顔しなくても大丈夫。



「そう? それならいいんだけど」



 よくわからないというような表情を浮かべる教導官様。うん、わからないでいいよ。できれば一生理解できないとこちらとしてもありがたい。

 そんな会話をしつつ、実は六課最強なのではないかと思われる医務官が待ち受ける断罪の部屋へとビクビクとおびえつつ歩を進める僕となのはであった。





















 ……この空気イヤだ。



 なのは共々軽く鬱な気持ちで医務室に来たところ、朝も早いというのに既にお待ち頂いていた医務官のシャマルさんによって、定期検診を受けていた。

 まずは僕の方からやってもらって、今はその結果待ちなのだけど……

 もう一度言う、この空気イヤだ。



 シャマルさんは向こうで医療機材からプリントされてきた僕のメディカルデータを真剣な表情で見てるし。

 なのははなのはで自分の番が来た時の事を考えているのか緊張しまくってる。



 その上、アルトもさっきから黙りっぱなしでしゃべって気を紛らわすこともできない。というかおいそれと話せる空気ではない。



「……恭文くん」

「は、はいっ!」



 シャマルさんがこちらに歩み寄りながら声をかけてきた。

 け、結論が出たってことだよね? どっちだ? 生存か、死亡かっ!?



「……データを見る限りでは、休み前よりは改善できているみたい。
 忙しかったって言っても、こういうのは気持ちの部分も大きいから、三日間仕事を離れられたのは大きかったのね。
 昨日の大立ち回りによる疲労を差し引いても、ここまで回復していれば十分ね。
 これなら私からは特に言うことはありません。通常業務も、訓練も、模擬戦も、許可できます」

「ファイナルアンサー?」





















 そこ溜めないでぇぇぇぇっ! スパっと行きましょうよスパっとっ!



「ごめんなさい、ついつい恭文くんが不安そうな表情してたから、からかいたくなって」



 舌を出して右目でウィンクしながらそう言ってくるシャマルさん。

 ……なんというか、可愛いと言えば可愛いけど、からかわれてると思うと軽くムカツクのはなんでだろう?



 まぁそれはそれとして、これで生存ルート確定かっ! いやっほーっ!





「恭文くん、おめでとうっ!」

《マスター、おめでとうございますっ!》

「なのはもアルトもありがとうっ!
 うぅ、生きてここを出られるとは思わなかった……」

「……なんで泣くの? というか『生きて出られるとは』ってナニっ!?
 シャマル先生こんなに優しいのに……あたっ!?」



「よく言うよ。
 オレがムチャした時だってそうとうおかんむりだったクセしてさぁ」



 文句を言いかけたシャマルさんを小突いて現れたのはジュンイチさん……どうかしたの?



「一応、なのはが“ゆりかご”決戦でムチャやらかしたのはオレのせいでもあるからさ。これでも責任感じてんだぜ。
 だから訓練の時も、一応様子は見ててさ……今回の診断、その辺の話も含めて総合的に判断したいってんで、事情聴取に呼ばれたワケだ」



 あー、そうなんだ。



 とにかく……僕は祝・生存っ! いやぁ、ごめんねなのは、先に一抜けさせてもらうわ。



「ううん、私もうれしいよ。この調子なら私も生存ルート確定だと思うしっ!」

《確かに、マスターの嵐のような三日間でもなんとかなったのですから、しっかりとお休みしていた高町教導官ならば、楽勝といったところですね》







「……悪いけどアルトアイゼン、なのはちゃんは簡単にはいかないわよ?」







 僕達の勝利前祝いムードをぶち壊しにしてくれたのは、他ならぬシャマル様。このつないだ両手の行き場がないのはどうすりゃいいのさ?

 なんというか、また医務官モード発動で表情が真剣である。だいたいの想像がついているのか、となりのジュンイチさんも渋い顔してるし……あぁ、自分の話じゃないのに恐怖がよみがえってくるっ……!





「それじゃあ、なのはちゃんの番だから、上着を脱いでこっちに来て。あと……ジュンイチさんだけじゃなくて、恭文くんも同席してくれるかしら?」

「へ?」

「ちょっ、検査にも同席しろってか?」

《待ってくださいシャマルさん。さすがに女性の診療中にジュンイチさんやマスターがいるのは……》



 そうだよ、服を脱いだりしたら僕らはどこに目をやればいいのよ? いちおー僕だって男ですよ?





「私は別に平気だけど。ジュンイチさんと恭文くんだし」





















「とりあえず、医務室だっつーことで薬品に配慮して熱量0バージョンにしといてやったぞ。
 オレって奥ゆかしいよなぁ」

「本当に奥ゆかしい人はそもそも屋内で零距離砲撃撃ったりしませんよっ!」



 間髪入れずに吹っ飛ばされたなのはが、壁にぶつけた後頭部をさすりながらジュンイチさんに反論してるけど、お前にそんなこと言う資格はないわい。



「……シャマル先生。あの2mまで伸びるフォーク型デバイス、どこにしまってます?」

「そこの棚の上から二番目よ。
 でも、あまり乱暴に使わないでね。大事なものだから」

「わかってますって。一撃加えられればそれでいいですから……あ、シャマル先生も参加します?」

「あぁ、それもいいわね。最近使ってなかったし」

「なのは……少し、プスって刺されようか? シャマルさんにぶちまけられようか?」

「ちょ、ちょっと待ってーっ!」



 で、当然僕やシャマルさんも同意見。

 あれだよ、男としてまったく見られてないっていうのが激しくムカツク。とりあえずフォークで一撃必倒にしてやる(もちろん冗談)。



「さて、冗談はこのくらいにしておいて、別に服を脱ぐワケじゃないから大丈夫よ。
 ジュンイチさんはともかく、恭文くん達もなのはちゃんのダメージの具合をしっかり知っておいた方がいいと思うの。
 あなたがここに来た理由、忘れたワケじゃないわよね?」



 ……ボケた方が色々と受けはいいのだろうが、そんな空気ではないのでシャマルさんの言う通りにすることにした。

 そうして、僕とアルトは、改めて知ることになった。今、なのはが置かれている現実と、それでもなお、なのはが通したいと思う想いの強さとその重さを……





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「進路希望調査ねぇ……
 やりたいことはわかるけど、まったく、どこの中学校よ」

「チュウガッコウ……?」

「あー、こっちじゃ馴染みのない言い方か。
 中等部……それかジュニアハイ、で通じるかな?」

「あぁ、それならわかります」

「地球の日本じゃ中学校、っていうのよ」



 首をかしげるエリオに答えるあず姉が言っているのは、今朝ヴィータ副隊長から言われたこと。

 六課は試験部隊。あらかじめ決められていた運用期間が過ぎれば、存続に足る理由がない限りは解散することになる。

 そして……その六課の解散の後、自分達が進みたい進路を改めて報告してほしいんだそうだ。日頃公言しているものよりもずっと具体的に。

 前の部隊でもこういうのがあった。隊員の身上把握の一環で、人事の方に報告する必要があるんだって。



「で、進路の話に戻すけど……ティアちゃんとスバルが執務官志望。
 フェイトちゃんの本試験も近いし……スバルは補佐官試験、次のを受けるんだよね?」

「う、うん……
 あず姉、勉強教えてね」

「お任せ♪」



 次の試験で受かろうと思ったら相当気合入れてかからないと……時間ないしね。



「あずささんは、アリシアさんと一緒に大学に戻るんですよね?」

「ティアちゃん正解。
 あたし達は元々大学の研究室からの出向、って形で六課に来てるワケだし。
 最初はお兄ちゃんの“計画”の手伝い、その下準備で通い始めた大学だけど……通っててけっこう楽しかったんだよね。だから、六課の運用期間が終わったら戻りたいな、って」

「エリオとキャロはどーすんの?」

「はい、わたしとエリオくんは、わたしが元々いた自然保護隊の方に行くことになると思います」



 お、二人はやっぱり仲良しさんかぁ。

 六課で覚えたスキルを活かすためにっていうのと、フェイトさんを安心させるため……だよね?



「はい、保護隊の方々も歓迎してくれるそうで……がんばっていきます」

「そっか。
 エリオくんもキャロちゃんも、ファイトだよっ!」

『はいっ!』

「マスターコンボイさんはあたしと一緒だよね!?」

「当人の意思表明も待たずに当然のように言うなっ!
 完全フリーの民間協力者に進路希望もクソもあるかっ!」



 え!? マスターコンボイさん、一緒についてきてくれないの!?



「まだ決めてない、ということだ。
 少なくとも……当分は自らの鍛え直しが中心になる。そのために行く必要があるところに……という形になるだろうな。
 いつまでも、ゴッドマスターがいなければまともに戦えない状態からも脱却しなければならんしな……実際、昨日の戦いも恭文とのゴッドオンができなければ危なかった」

「そっか……
 ミッドに帰ってきたんですよね、あの人達……」



 あー、そういえばその問題もあったね。

 2ヶ月ぶりに姿を現したディセプティコン。あたしは定期検診に捕まって出動できなかったけど、マスターコンボイさんや恭文は単独でマスターギガトロンに襲われてかなり危なかったらしい。



 で……その戦いの中でマスターコンボイさんと恭文が友達になって、ゴッドオンできるようになったとか。





 うーん、仕方ないとはいえ、またマスターコンボイさんとゴッドオンできる子が増えちゃったなぁ。

 マスターコンボイさんのパートナーはあたしなのに……





「……そういやさ、アイツはどうするんだろ」



 あー、そういえばそうだね。正式な依頼として六課に来てる以上、そういうの考えないとダメだよね。やっぱり。



「アイツ?……なぎさんの事ですか?」

「そうそう……って、キャロ、『なぎさん』って何よ?」

「休み中に色々とありまして、そう呼ぶようにと……」

「僕も、『恭文』と呼ぶようにと……」

「なるほど。
 でも、どうするんだろうね? またフリーで仕事するとか言いそうだけど、ちょっともったいないかな」



 きっと、恭文だったら部隊の中でもすごいことになると思うんだけどなぁ。すぐにエースとかストライカーとか言われてさ。



「なんか、想像できますね。アルトアイゼンも一緒に、いつも大騒ぎして……やっぱり、もったいないですね」

「そうだよね。戦闘スキルは高いみたいだし、補佐官資格を取れるくらいに事務関係も優秀。
 それなのに、それでどこの部隊にも所属せず、決まった役職にも就かないなんて……」

「実は、あたしもちょっと気になって、アレコレ調べてみたのよ。
 それでわかったんだけど、アイツとアルトアイゼン、大小問わず色々な一件に巻き込まれては暴れてるみたいなのよ」

「ティアさん、そうなんですか?」

「そーよ。公開非公開問わずね。で、スカウトとかもされてるんだけど、今に至るってワケ」



 そう、恭文の戦闘能力を買って、所属してみないかと声をかける部隊もあったそうだ。

 だけど、すべて断っている。自由気ままな魔導師の生活が性にあっているからと。



 これはギン姉から詳しく聞いたんだけど、恭文がフリーの魔導師でいるのは、いろいろな戦いができるというのが大きいらしい。

 魔導師戦や対人戦に限らず、観測世界なんかにいるドラゴンや巨大ミミズなんかを相手にも戦う。

 そういう風に色んな戦闘経験を積むことで、修行しているそうだ。恭文の先生みたいに強くなること夢見て。



「管理世界にはそういう生物が増えすぎてしまうこともあります。それを駆逐して減らしていくのも、局の大事な仕事ですから……」

「アイツの先生とやらが、今のアイツみたいな感じのことを、昔からしているそうなのよ。自分の意志で、自分のためにね」

「自分のために……ですか。でも、局員だったんですよね?」

「でも、そうみたいなんだ。あたしもギン姉やティアから聞いて知ったんだけど、恭文の先生……ヘイハチ・トウゴウさんって言うんだけどね」



 局に所属してた時から凄い問題児で、好き勝手しまくってたそうだ。それはもう凄い勢いで。

 規則違反なんて日常茶飯事。単独行動は大好きだし、問題行動の数々で査問にかけられたことも数知れず。

 作成した始末書の枚数で、局の裏ギネスに載ったこともあるらしい……というか、そんなことをギネスにしたことがビックリだよ。



 だけど、その高い戦闘技能で色々な事件や悲劇をつぶしてきたから、評価はすごく高い。あたし達は知らなかったけど、局の伝説になっているらしい。

 そして、そんな成果を出してきたからこそ、それだけの問題児でも局は解雇することなんてできなかった。



 ううん、むしろ解雇なんてしたくなかった。

 なんでも、ヘイハチ・トウゴウさんが局を辞めた事は、『100年にひとりの逸材を失った』と形容されるほどだったらしいから。



 ただムチャなだけじゃなくて、その行動にも、しっかりとした理論があったので、そこに惹かれた人達もいた。大小問わず理解者も多数だったらしい。



 そして……局を引退した今でも、それは変わらない。どこかの世界で、自分のために戦っているそうだ。



「いわゆる一昔前の英雄で、究極の自由人ってヤツよ。局員としての規則なんてガン無視で動いてたらしいし」

「そんなすごい人が恭文の先生だったんですか……でもそれって、ちょっとだけ恭文に似てますね」

「エリオくん、それ逆だと思う。たぶん、なぎさんがその先生に似てるんだよ」

「……そうだね。多分、すごく影響を受けてるんだと思う。
 フェイトさんも言ってたから。恭文とその先生は、そういうのを抜きにしてもすごく似てるって」



 でも……ちょっとだけ、イヤだな。あれだけの能力があれば、きっと部隊に入ったっていろんなことができる。

 いろんな人を助けていく事ができる。守ることができる。それを、自由と戦いのために捨てるなんて、ちょっとどうなのかなって思う。

 多分、先生の憧れからなんだろうけど、それだけが全部じゃないのに……



「スバル、それは違うよ」



 あず姉?



「恭文くんはね、今のままだからこそ……自由で、まっすぐで、いつだって自然体だからこそ、あんなに強いんだよ。
 お兄ちゃんやヘイハチさんと一緒で、恭文くんも、組織の中でやっていける性格してないもん。正式に局に入ったりしたら、きっと恭文くんの恭文くんらしさを殺しちゃう。
 恭文くんに活躍してもらうんだったら、今まで通り勝手気ままな自由人でいてもらうのが一番。実は局に入ってもらうのは逆効果のミスジャッジなんだよ」



 そうなの?

 ……でも、そうだとしたら、恭文は六課が解散になった後どうするんだろう……?



「まぁ、その話はいずれアイツから聞くとして、医務室入っちゃいましょ」

「あ、うん……あれ?」

「スバルさん、どうしました? エリオくんも」

「話し声が聞こえる。シャマルさんとなのはさん、ジュンイチさんに……」

「恭文?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……っ! シャマルさん、そこ、痛いです……」

「……やっぱり。恭文くん、次はここお願いできる?
 ジュンイチさんはしっかり押さえてて」

「ほいほい。それじゃあいくよ、なのは……それ」

「……っ! や、恭文くん、そこ、ちょっときつい」

《……マスター、シャマルさん、今までのデータを総合すると、これはかなりひどい状態です》

「そうね……ジュンイチさんもこんな状態でよく訓練なんか許可してたものよ」

「返す言葉もございません……」

「まったく、今回も長い治療になるわよ?」

「はい、ご迷惑おかけします……」



 なのはの定期検診に同席。

 というか、ジュンイチさんと二人でシャマルさんの助手みたいな形になって、なのはに対してアレコレと検査を行なったのだが……なんなんだこれっ!?



 アレコレ見せてもらったけど、普通のケガじゃない。てか、休み明けでこんな状態なんてありえない。

 確かにダメージが残ってるのは知ってた。だけど……確認してみて改めて思う。その残り方が明らかにおかしい。



「ねぇなのは、まさか事件が終わってからこんな状態で仕事やら訓練再開してたっての?」

「……うん」

「で、ジュンイチさんもそれを容認してた、と……この状態をわかってた上で」

「…………あぁ」

「ハッキリ言ってやる……バカじゃないのっ!?」

「二人も聞いただろうけど、“ゆりかご”決戦でのブラスターシステム解放……マスターギガトロンと、ジュンイチさんとの戦闘が原因よ。
 そして、事件から二ヶ月経っていて、三日間の完全休息を経てもなお、この状態なの。
 恭文くん、アルトアイゼン、ここまで聞いたあなた達の正直な意見を聞かせて?」



 意見も何もない。こんな状態を見たら、結論なんてひとつだ。何かあってからじゃ遅いワケだし。

 つか、余裕こいてた自分に腹が立つ。予想はしてたはずなのに、情報は知ってたはずなのに、見積もりが甘かった。



「……完全回復するまで休んでもらった方がいいと思います。
 通常業務も、スバル達への訓練も含めて全部です」

《私もマスターと同意見です。これはひどすぎます》

「そ、それはダメだよっ!」

「何がダメだよ。そうやってムリしてムチャして、もし墜ちたらヴィヴィオはどうなるの?
 ヴィヴィオのホントのママになるって約束は? いつも心配してくれているフェイトやはやて達の気持ちはどうなるのさっ!」



 まったく、何なんだこのワーカーホリックは。

 事情があったのもわかる。ヴィヴィオのこと大事だったのもわかる。

 でも……前にも言ったけどブラスターシステムなんて使うんじゃないよ。そんなに死にたいの?



 一応説明をしておくと、ブラスターシステムというのは、なのはとそのパートナーであるレイジングハートの最後にして最強の切り札。

 エクシード……エクセリオンを全力全開とするならば、ブラスターは言うなれば限界突破。

 本来のなのはとレイハ姐さんでは出せないような魔力出力を叩き出し、その圧倒的な力は単独で大帝クラスのトランスフォーマーすら凌駕する。





 ただし……代償は高い。





 その代価が何かなど、今、僕の目の前にいる無鉄砲な教導官を見れば一目瞭然である。





 待っている最悪な結末は……破滅だ。そうならなくても、長い時間をかけての休息が必要となる。今のなのはみたいに。





「ジュンイチさんもどうして止めなかったのさっ! なのはのこの状態をわかってたんでしょ!? 仕事できる体調じゃないってことまで含めてっ!」

《マスター、落ち着いてください。そんな一方的に言ってもどうにもなりませんよ?》

「……わかってるよ。ごめん二人とも、少し言いすぎた」

「いや、そこはいいよ。
 お前らに怒られてもしょうがないことしてたワケだし」

「心配かけちゃって、ごめんね」



 謝るなら、最初からこんなムチャはしないでほしい。というか、これじゃあ僕が悪者みたいだから、なのはもそんな泣きそうな顔でムリに笑うな。



「……でも、私も恭文くんとアルトアイゼンと同じ意見よ」



 真剣な顔で、シャマルさんはなのはにゆっくりと語りかける。医務官として、友として、今のなのはの現状をウソ偽りなくである。



「あなたの傷は、自分でもわかっていると思うけど相当深いものよ? ジュンイチさんが間に立っていなかったら、迷わずドクターストップをかけたいくらいに。
 例えば仕事を完全休職した場合、完治までには恐らく1年。場合によっては……3、4年は覚悟してもらいます」

「3、4年っ!? プータロー生活を送ってもそんなにかかるんですか?」

《高町教導官の現在まで治療データを確認してた時に見ましたが、魔力値が通常の最大値から8%も低下しています。
 そしてダメージの具合から考えるに、それくらいの時間は必要になります》



 マジですか……これは、ダメだ。

 これが高町なのはという人間じゃなければ、別に仕事をしながらでもいいと言うところだけど、でも、この僕の友達は高町なのはという人なんだ。



 なのはは、多分またムチャをする。



 そうしなくちゃいけない、やらなきゃいけない状況になったら、自分の身体の事なんて考えないで、表面上は平気な顔してまたムチャクチャするに決まってる。



 そんな人間に、命を賭ける場面もあるであろう武装局員の仕事をこなしながら治せなんて、言えるワケがない。

 医務室のベッドに腰掛けるなのはの両肩に優しく手を添えて、なのはの顔を真っ直ぐに見ながら、僕は自分の想いをぶつける。



 ……普段はともかく、ここは真剣に話さないといけない。絶対に。





「なのは、なのはが教導官としての仕事が本当に好きなのは知ってる。空を飛ぶ事が好きなのも。
 でも、今のまま続けて、また戦うことになったらどうするのさ……また、ブラスターシステムなんて使ったら、今度こそどうなるかわかんないんだよ?
 さっきも言ったけど、僕は身体がちゃんと完治するまで、休むのがいいと思う」

《私も同意見です。もしあなたに何かあれば、私とマスターを友達だと言ってくれた彼女が泣くことになります。
 そんな場面を、私はメモリーに焼きつけたくはありません》

「……ごめん。今、飛ぶのをやめるワケにはいかないの」



 なのはが、僕の目を、そして胸元にいる青い古き鉄をまっすぐに見据えてくる。

 その場しのぎの反論でできる目じゃない。強い、何かしらの決意が見える瞳……なんか理由があるってことだね?

 そしてジュンイチさんは、それを理解してるからなのはをフォローすることを選んだ、と……



「それならそれで、やめるワケにはいかない理由を教えてよ。
 話だけは聞くよ。聞いて納得するかどうかは約束しないけど。
 ……あ、事前に言っとくけど、『ディセプティコンが帰ってきたからどうこう』っていうのは却下だからね。こういう時のために僕は六課に出向してきてるんだから」

「うん。わかってる。
 まだね、スバル達に伝えたいことがあるの。
 渡したいもの、たくさんあるの。だから……」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……なに? お兄ちゃんもなのはさんもシャマル先生もアルトアイゼンも恭文も、何の話してるの?



 医務室に、訓練で使うファーストエイドキットを取りに来て、そうしたら中から話し声が聞こえてきて……

 なのはさんのダメージが酷いとか、仕事を完全休職した方がいいとか、何これ、こんな話、あたし聞いてないっ!

 だって、なのはさんは元気で、部隊の中でヴィータ副隊長と同着一位で復帰して……なのに、なんでこんな話になるのっ!?



“バカスバルっ! あんた少し落ち着きなさい。エリオとキャロもいるんだから”



 突然入ってきた念話に、ハッとする。相手は、もちろん……



“ティア。でも……!”

“でもじゃないっ! そりゃあ、あたしだってビックリしてるわよ。
 でも、ここで騒いだら、なのはさん達に気づかれる。それに……”

“それに?”

“これで納得ができた。なんかね、ずっと引っかかってたのよ”

“『引っかかってた』って、何が?”



 ティアは、あたしの問いかけにすぐに答えてくれた。だけど、声は、少しだけ重いものだった。



“いくら部隊長達と友達で、すぐ呼べるヤツが他にいなかったからって、なんで、魔導師を送ってくる必要があるのかなって”

“それって……恭文のことだよね?
 でも、それは事後処理のためだって言ってたよ?”

“それ、もうほとんど片づいてるじゃないのよ。
 それに、それが理由だとしてもよ、全部事務仕事よ? それなら別にどっかの事務員とかでもいいワケじゃない。
 それなのに、アイツが来た。さっき言った感じの能力を持った、非常に優秀な魔導師を、事後の六課に送りつけてきた。
 それに、ジュンイチさんまで、予定よりもずっと早く自分の方の後始末を終わらせて復帰してきた……やっぱり、おかしいわよ”

“恭文が六課に来たのと、今のなのはさんの話と、関係があるってこと?”

“関係どころか、それが理由でしょうね”



 つまり恭文は、なのはさんのケガが原因で六課に来た? つまりそれって……!



“そーよ”



 あたしの思考を読み取ったかのようなタイミングで、ティアが肯定の言葉を投げかけてきた。そう、つまり恭文は……



“事後処理なんていうのは、表向きの理由。
 実際は、もし、六課でまた“レリック事件”のような事態に当たる場合に備えての、戦力増強よ。
 なのはさん……いえ、他の隊長陣もアレに近い状態の人間がいるとすれば、ありえない話じゃない”



 確かに、あの戦いではみんなが傷ついた。あたし達前線メンバーだけじゃ済まなくて、バックヤードスタッフの人達からも負傷者を何人も出してる。

 そうだ、なんで気づかなかったんだろう。なのはさんもそうだし、事件で負傷した人達に後遺症に近いものがあったって、おかしくないんだ……!



“今の六課は、本調子じゃない。アイツが来たのも、実力的にはアンタより上だし、アイツのランクなら、今の人材制限にも引っかからない。
 しかも、隊長陣とは昔からの友人で、理解も深い。まったくサラな奴が来るよりは、はるかにやりやすい。良いこと尽くめってワケよ”

“そういうことだ”



 そうティアにうなずいたのはマスターコンボイさん……って、まさか!?



“マスターコンボイさん……知ってたの!?”

“というより……そういうことだろうと当たりをつけていた。
 確認する機会は、未だに訪れてはいないがな”

“そんな……でも、それならどうして、あたし達に何も言ってくれなかったのっ!?
 マスターコンボイさんだけじゃない……お兄ちゃんもなのはさんも恭文もっ!”

“考えるまでもないでしょ。今のアンタと同じことになるからよ”



 そう言われて、身体が強張る。

 そうだ、あたし……つまり、他の部隊員の動揺を招かないために、内密にしてた?



“そういうことよ。
 だから……静かに、落ち着いて話を聞いてなさい。まだ続きがあるみたいだし……まぁ、盗み聞きは趣味が悪いけどね”

“……うん”





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……伝えたいことと渡したいものって、なに?」



 僕は、行儀が悪いと知りつつなのはが腰かけているベッドに腰かける。もちろん、なのはのとなりだ。

 なのはは、真剣な表情で、ゆっくりと語りだした。



「うん、端的に言っちゃうとね。戦うための力や技能に戦術なの。
 ……恭文くんは知ってるよね? 教導隊の教え方とそこに込められている意味については」



 その言葉に、僕はうなずく。うなずく体はないけど、アルトもきっと同じ反応だ。





 航空戦技教導隊は、以前も話したけど、武装局員の新しい魔法装備の開発や魔法戦闘の技術や戦術の構築が仕事となる。

 まぁ、他にも細々としているけど、この場では簡単な説明で終わらせてもらうことにする。



 そして、その他には教導も含まれる。

 要するに、今、なのはが六課で行なっているように、ある一定水準の技能を持った魔導師を生徒として、より高度な戦闘技術を教える仕事もあるのだ。



 でも、教導隊ではこういった教官としての仕事は、本来ならば今のなのはのように一年も出向して行なうものではない。

 前に聞いた話では……例えば3週間とか2ヶ月とか、そういった短期間の間に出向した部隊の武装局員相手に、高度な戦闘技術を叩き込むのだ。



 自分達の教えた事が、その局員の未来につながるように、通したい想いを通せるように、他者と自身を守る盾となるように。



 短い時間の中にそんな強い想いを込めて、自信が培ってきた力と技術を伝えていく……で、よかったっけ?





「うん、だいたいそんな感じ」

《マスター、よく覚えてましたね。この話を聞いた時はおなか一杯で、うつらうつらで聞いてたのに》



 うるへい。僕も伝えられた経験者だからわかるんだよ。

 師匠と先生、ジュンイチさん。それに優秀な師匠達が教えてくれた戦い方が、いつも僕を守ってくれてるんだから。

 そこで気づく……ひょっとして、スバル達にもまだ気持ちを込めて、技能として、力として伝えたいことがあるってこと?



「……うん」



 静かに、なのはがうなずく。そして、言葉を続けた。



「ムチャだムチャだって言われてきた……恭文くんにも『ずっと使わず墓の中に持っていけ』なんて言われたエクセリオンもどうにか安定して、スバルに渡すことができた。
 でも、まだまだだから、卒業までにしっかりと伸ばしたいの。ACSもバスターも、同じようにもっと伸ばせる」

「アレ以上伸ばされたら、僕としては辛いんですが?」

「なら、辛くなってもらおうかな? 恭文くんのおかげで、スバル、今まで以上にやる気になってくれてるから」

「おかげでオレも修行に付き合わされて大変だよ……ディセプティコン対策だってあるのに」



 あぁ、再戦の約束してるしなぁ。訓練見てても、シグナムさんに剣術の対処法とか教わってるみたいだったし。

 まぁ、簡単には勝たせないけどね。戒めありでもいろいろ対処できるように、手札が大量にあるんだから。



「なるほどね。で、ティアナ達にはないの?」

「もちろんあるよ。
 ティアはね、恭文くんは最近来たばかりで分からないだろうけど、最初の頃に比べると、本当に魔力制御が上手くなったんだよ。見違えるくらいなの。
 だから……六課が解散するまでに、集束系のキッカケを教えられそうなんだ。
 今なら、私以上に収束系が得意なジュンイチさんもいるしね」

「なるほど、そうなんだ……」













「…………………………アレ?」













 そこまで聞いて、引っかかるものがあった……集束系?

 集束系というのは、空気中に漂っている微量な魔力を集めて、巨大な魔力エネルギーを構築するという魔力制御技術では奥義と言える高等技術である。

 習得難易度で言えば……Sクラス以上だね。

 そして、使えるようになっても、安心はできない。きっちりしっかり練習していかなきゃ、完全なものにはならないから。



 なお、この技能の利点としては、発動に必要な最低限なトリガー分を除けば、自身の魔力をほとんど消費することなく、強力な火力を得られること。

 魔力というのは、空気中に存在しているエネルギーだ。それを魔導師は、リンカーコアで自然吸収して、自身の魔力としている。

 そんなありふれたものを、一気に取り出して、一点に集めて、火力として使用するのが、集束系魔法なのだ。その威力は推して知るべし。



 それによってどんな魔法が撃てるかというと、代表格なのは……あ。





 ま、まさか、スターライトブレイカーっ!?





 なのは、まさかアレをティアナに教えるつもりなの?

 あの幾度となく演習場を使用不可能へと追い込んだ次元世界最大の凶悪魔法をっ!





「そ、そんなことないよっ!
 演習場を完全破壊したのだって、ほんの15、6回だし……というか凶悪魔法ってひどいよ!」

「いや、十分過ぎるくらいの回数だから。それにそれだけあれこれぶっ壊してれば立派な凶悪魔法でしょうが」





 ちなみに、なのはがスターライトでぶっ壊したのは別に演習場だけではない。

 ミッドの廃棄都市部で一緒にそこそこ腕の立つ違法魔導師連中とやりあったときは、犯人もろともビル郡をなぎ倒した。

 辺境世界でデカ物を相手にした時には、海は裂け大地は割れ、世界の叫びがこだました。

 なんていうか……ドラグス○イブですか? これだけ色々壊してきて、今までひとりとして死人が出てないのが不思議でならないよ。





「でも、なんでそれを?」

「ほら、ティアナは恭文くんと同じで魔力量が多くないから。それの補強のためにね。
 魔力量頼みの攻撃だと、ティアナとは相性がよくないから」



 魔力頼みの攻撃。わかりやすく言うと、なのはのディバインバスターのような魔法だ。


 術に使う魔力量=威力というわかりやすい術式。



 確かにそれは、なのはやスバルみたいな馬鹿魔力持ちとは相性がいいだろう。何発でも撃てる。威力も、消費魔力が多ければ多いほど上がる。

 だけど、僕やティアナみたいに魔力量が平均な人間があんなのを連続でぶっ放せば、あっという間にすっからかんである。

 あの手の攻撃は、自身の魔力質量を叩きつけるワケだから、下手に消費量を減らすと威力に直結する。

 確かに、ティアナには向いてないか。ただでさえ、幻術って言う消費カロリー多めなものがあるのに、そんなの使ってたらすぐに立ち行かなくなる。



 僕も、一応砲撃魔法は習得してるけど、いろいろ手段を講じて、なんとかその問題を解消してるし。



「集束系なら、火力は充分だし、周辺の魔力を使用すれば、トリガー分の魔力だけで発動できるし、向いてると思うの」

「なるほどね……でも、それだったら、僕がクレイモアを教えれば一発解決だよ」

「それは絶対にイヤっ!
 ティアが恭文くんみたいになったらどうするのっ!?」

「どういう意味だよっ!」

《その通りの意味でしょう……しかし、いいのですか? あの魔法は、あなたの技能を持ってしても制御の難しい術のはずです。
 そのうえ、威力が半端ではありません。教えたとしても、使いこなせるかどうかわかりませんよ?》

「それなら大丈夫。
 ティアなら使いこなしてくれると思うから。技術的な意味でも、精神的な意味でも必ず」



 力強く、大丈夫だからという表情のなのはを見て、この件は納得するしかないと思った。僕のことも含めて。

 ティアナについては、教導の中でちゃんと見ているだろうし、そのなのはがティアナなら大丈夫というんだ。絶対大丈夫なんでしょ。



「ジュンイチさんも……同意見ですか?」

「まぁ、な。
 単に魔力を集めてブッ放すだけじゃなく、収束系魔法で行なわれる魔力コントロールは様々な場面に応用が利く。
 たとえば……オレ達ブレイカーが日頃やってる、体内での“力”のブーストとかな」



 あぁ、あなたがよくやってる、ドラゴンボールちっくなアレですか。



「あずささんには、デバイスとの連携をもっと磨いてもらう。
 元々、あずささんは自身の能力の低さをデバイスの能力とその使いこなしで補ってるタイプだからね。デバイスとのつながりの深さが、あずささんの強さに直結する。
 ちょうど、恭文くんとアルトアイゼンみたいに」



 えっと……あずささんって、複数のデバイスを状況によって使い分けながら戦うタイプだったよね?

 それぞれのデバイスの使いこなしをもっと磨きながら、あずささんとデバイス達、あとはデバイス同士でも連携を強めていく……ってことか。



「それでね、エリオには射撃の基礎とチャージドライブを教えて、キャロには元々教えていたのに加えてシューターを教えたいなと思って。
 二人はスバル達と違って、発展形じゃなくて基本が中心になっちゃうんだけどね」

「ふむ、まぁチビッ子達は大きくなるに連れて、若干戦闘スタイル変わるかもしれないし、ポイントだけ抑えとけばいいんじゃないかな?」



 エリオは現状の戦い方に幅を持たせて、キャロはやられにくいフルバックって感じかな?

 といいますか……楽しそうだねなのは。こっちはなかなかにヒヤヒヤしてるんだけどさ。



「……恭文くんやアルトアイゼンにシャマルさん、それにフェイトちゃんはやてちゃんヴィータちゃん達が心配してくれてるのはわかる。
 それでこんなこと言うの……ひょっとしたら間違ってるかもしれない。でもね、スバル達に伝えたいの。
 私が飛べるうちに、全力で戦っていく中でしか教えられない事、私が持っている力と想いを、しっかりと受け取ってほしいの」

「なのは、そのために、なのはは飛べなくなるかもしれないんだよ? それでもいいっていうの?」



 ちょっとキツイかもしれないけど、それは事実だ。現に今だってみんなそれを心配している。



 僕の言葉に、なのはがうつむいて考え込むような表情を見せる。そして……こう切り出した。



「……よくないよ。よくないに、決まってるよ。
 もしかしたら、ずっと治らないかもしれない、飛べなくなるかもしれないって、考えたよ、たくさん。それは、すごく怖いよ」

「だったら、やめていいんだよ? つか、そんな本当に怖いって言わんばかりの表情するくらいなら、そうしなよ」



 何かあっても、こっちは困るのだ。自分でわかってるなら、やめてほしい。



「……うん、そうだね。でも、例えそうなっても、私が伝えた力と思いは、スバル達の中で生きてくれるの。
 そうして、スバル達が今よりも強くなったら、今度はスバル達が別の誰かにそれをきっと伝えてくれる。だからね、止められないの。
 飛べなくなった時のことより、飛べるうちに、なにが遺せるのか。そういうことなのかなって思うの。
 ジュンイチさんも、そんな私の話を聞いて、力を貸してくれてる。だから……」





 あー、ダメだ。これはもうダメだ。





「……はぁ〜」





 僕は大きくため息をついた。なんというか……ダメだこりゃ。

 このおねーさんはバカだ。それも正真正銘のバカだ。いや、砲撃魔法でしか対話できないと知った時点で気づいてたけどさ。





「……恭文くん?」

「シャマルさん、アルト、今の話聞いてどう思った?」

《……これはもう末期ですね。止めようがありません》

「ホントよ、困った患者さんにも程がありますっ!」



 うん、3人とも共通意見か。繋がっている感じがしてすばらしいねぇ〜

 まぁ、アレだよ。なのはがそこまで覚悟が決まってるんだ……僕達がどうこう言って止めることなんて、きっとできない。



「えっと、それってつまり……」

「わかったってこと。そんな願いを折ってまで、休めなんて言わない。なのはが納得するようにやればいいよ」

「みんな……」

《ただし、私もシャマル先生も、そしてマスターも。あなたを知る者として、譲れない一線があります。
 ……それはおわかりですね?》

「はい……」



 うつむき、申しわけなさそうな顔になるなのはを見て、僕は頭をクシクシにしてやる。

 身長差があるからあれだけど。なのはが抵抗しだしたので、ヘッドロックして頭部を固定。クシクシは止めてサイドポニーごと締めつけるっ!



「や、恭文くんっ!? ダメだって、髪型くずれるー!」

「僕には下着姿とか見られても平気なんでしょ? だったらこれくらいはもーまんたいー♪」

「なんでそうなるのっ!? 私そんなこと言ってないよっ!」

「言ったっ! それに、どーせこれから散々心配かけまくるんだからこれくらいはいいでしょうが。
 ……いい? もう何言っても止まらないんだろうけど、それでもこれだけは言っておく。
 自分の身体が治らないなんて言うな。飛べなくなるなんて絶対に口にするな。そんな可能性、今すぐドブに捨てて」

「で、でも……」

「でもじゃないっ! なのはは覚悟があっていいかもしれない。けど、フェイトやスバル達はどうなるのっ!?」



 僕は、なのはの後頭部を見ながら、言葉を続ける。気持ちはわかる。だけど、この横馬がわかっていない事実を告げる。

 とても大事で、忘れちゃいけないことを。魔法の力を伝えることだけが、なのはの全部じゃないことを。



「なのはがケガを理由に飛べなくなったら……絶対に悲しむ。
 つか、自分の大事な物を伝えていくんなら、そんな理由では絶対に墜ちるなっ! 飛ぶことをやめるなっ!
 せっかくの力と想いがなのはの遺品みたいになるじゃないのさ……そんなもん渡されて、誰が喜ぶの?  少なくとも僕は、そんなの絶対にいらない」



 腕の中のなのはが、小さくうめく。



 そう、いらない。ほしいのは、そんなものじゃない。

 ほしいのはいつだって、すごく簡単なものだ。この横馬はどうしてそういうことに目がいかないのか……



「それになのは、もうひとつカン違いしてる。
 ジュンイチさんがなのはに力を貸してるのは、なのはのそんな覚悟を理解したからじゃない」

「え………………?」

「むしろジュンイチさんは僕ら側……なのはにもう墜ちてほしくない。飛べなくなってほしくない……だからなのはに力を貸してくれてる。
 なのはがムチャするのが止められない以上、ムチャしても帰ってこれるように、なのはの身体が治るまできっちり面倒を見ていく……そうですよね?」

「………………なんでバラすんだよ。
 なのはにゃ自分で気づいてほしかったのにさ」



 こりゃ失礼。

 けどね、ジュンイチさん……絶対照れくさいから黙ってた、って部分あるでしょ? 顔赤くしながらそっぽ向かれても、説得力に欠けるってもんだよ。



《……まぁ、結論はごくごく簡単なことですよ。
 スバルさん達への教導やヴィヴィオさんのことだけでなく、身体の治療のことも、全部今までのあなたでいけばいいんです》

「全力全開。手加減なしでね。なのはちゃん忘れたの? そんななのはちゃんに力を貸すために、恭文くんもアルトアイゼンもジュンイチさんもここにいるのよ。
 ううん、恭文くんだけじゃないわ。みんな力を貸してくれる。だから……もう二度と、治らないなんて言わないで。そんな後ろ向きなことは言わないで」



 そう、その通りだ。スバル達のことを、なのはが大事に思うように、フェイトもはやても師匠達も、そしてスバル達だって、なのはが大事なのだ。

 どうして、その中でなのはだけがつぶれてよしみたいな覚悟をしなきゃいけないのかがわからない。つか、つぶれたりなんて、させない。



「オレもさ、昔ムチャした時に恭文に言われたんだよ。
 『本当にみんなに笑顔でいてもらいたいなら、まずジュンイチさんが笑顔でいて。それも、痛みをこらえた作り笑いなんかじゃない。本当に心からの、掛け値なし100%の笑顔でね』……ってさ。
 今のお前はあの時のオレと同じだよ。アイツらにしっかり自分達の道を歩いてほしかったら、まずはお前が自分の道を歩き続けなきゃ。途中でリタイアなんかしてたら、アイツらに示しがつかないだろ」

「なのはが飛ぶことをやめるのは、ケガのせいなんかじゃない。
 五体満足で、笑顔で、自分をいっぱい誉めたくなるくらいにがんばってからだよ。そうじゃなきゃ怒るよ? 少なくとも、僕は怒る」



 僕は、なのはをヘッドロックする腕の力を、少しだけ強める。いや、強くなってしまう。多分、誰もなのはを怒らないから。

 悲しむけど、泣くけど、本気で責めたりなんて、怒ったりなんて、きっとしない。なのはを労わろうとする。だから、僕が怒る。



「誰もなのはのことを怒らなくても、僕は怒る。このバカって言って、罵って、ぶっ飛ばして、踏みつけてやるから。
 それで……許さない。どんなになのはが謝っても、フェイト達が何を言っても、そんなことになったら、僕だけは、絶対に許さないから」



 そこまで僕が言うと、抱えている頭が少しだけ震えている……なんで泣くのさ?



「恭文くん、私……」

「……しくしくと涙なんていらない。遺品みたいな力もいらない。そんなのがあっても、うっとおしい。欲しいのは、ひとつだけ。
 僕が……ううん、みんなが心から願っているのは、魔法の力とか、技術とかじゃない。いつもなのはが笑顔でいるっていう事実。ただそれだけなんだから」



 ……そう、たったそれだけだ。この横馬が落ち込んでるとこなんて、僕も見たくないし。

 そんなの、からかい甲斐がなくなるしね。



「なのは、約束して。もし、スバル達に伝えたいと思うなら、もう、つぶれるとか考えたりしないって。そんなこと、言わないって。約束、できる?」

「……する。約束、するよ」

「ならいいよ」



 そう言うと、僕はヘッドロックを外す。涙目な瞳を指で拭きながら、なのはが頭を上げる。そうして、僕にニッコリ笑うと……え?

 なのはがヘッドロックをかけてきたっ!

 あの、高町さん? なんか痛いっ! 痛い痛いっ! そしてやわらかいのが当たってるからっ! やめてーっ!



「だーめ! 私もすっごく痛かったんだから。それに、いらないいらないって連発したし……お返しだよっ!」

「ま、まって。ほんとに柔らかいのすごい当たってるから止めてっ!
 というかそれは……ごめん、本当に悪かったです言い過ぎましたからやめてぇぇぇぇっ!」

「あー、なんか言ってるみたいだけど聞こえないなぁ〜♪」

「無視っ!?」

「あ、胸が当たってるのは……私は気にしないよ? 恭文くんだし」

「気にしろよっ! ジュンイチさんだっているんだからさっ!
 てーかお願いだから僕のことを男として……ぐぎゃぁぁっ!」



 ヤバイ、この人僕の話を聞いてくれないっ! こうなったら……シャマルさん、アルト、ジュンイチさんも助けてっ!



「……微笑ましい光景ね」

《良い事を言ったにもかかわらず、こういう展開になるのがマスターらしいというかなんというか……
 まぁ、それらを全て帳消しにするような暴言を吐いたのですから、当然ですが》

「だよなー」



 いやいやあなた方、傍観してないで助けてほしいんですけどっ!?

 ジュンイチさんもそれでいいの!? フラグ立ってますよねっ!? これはいつものアレですか!? フラグ立てておいてスルーなんですか!? あぁそうですよね、そもそもフラグ立ててることすら気づいてないですよねアナタわっ!





















 そして……そんな時間を越えて、僕達は歩き出す。そう明日へ……





















 すみません、ウソつきました。まだ明日へは行きません。普通に外に出ただけです。





















「でも、頼むから自分の成長を考えてやってほしいよ。なのはが平気でも僕が平気じゃないんだからさ」

「うーん、でも私の中では恭文くんって仲良くなったころから変わってないんだよね。
 こう、たくさんじゃれ合える感じ?」

「なるほど、それは僕が成長してないと言いたいのかな?」

「いや、そうは言ってないんだけど……でも身長は変わってないよね?」

「ほう。よし、なのは。模擬戦やろうよ」

「どうしてっ!?」



 どうして? ほう、どうしてと聞くかお前はっ!



「当たり前だっ! 僕の身長の事まで持ち出しおってっ!
 ちょうどいい、今までの模擬戦の雪辱を今こそ晴らしてやるっ!
 今度は負けないからね」

「で、でもっ! 恭文くんだって喜んでたんだし別に……」

「別に喜んでないしっ! むしろジュンイチさんの目の前でやられて血の気が引いたわっ!」

「………………?
 なんでオレの目の前でやられると血の気が引くんだ?」



 はい、そこのニブチンは黙るっ! そーゆーこと言い出すだろうと思ってたからさっ!



「つーか、その男がアレな状況でアレした後に言うようなセリフをオノレが言うなっ! ファンがごっそり引くわっ!」

「だ、大丈夫だよ! 『リリカルマジ刈る♪』って言えばたちまちに急上昇して……」

「字が中途半端に間違ってる時点でダメに決まってるでしょうがぁぁぁぁぁっ!
 ……まぁ、そりゃあ? シャマルさんとかにやられたら大喜びだけど、なのはじゃ半減だよねぇ〜。ぺったんこだし」





 ピクッ。



 僕がそう口にした瞬間、なのはの周りの空気が変わった。

 そう、おどろおどろしい感じに……あー、アルトにシャマルさんにジュンイチさん、なぜにそんなに離れる?

 そして何でなのはをまるで魔……げほげほ、もとい、何か恐ろしいような物を見る目でなのはを見ているのかな?

 いや、確かにこの女は魔王だと思うよ? 少なくとも今は。





「……いいよ。やろうよ、模擬戦。そんなセクハラ気味な発言するキミの頭を相当冷やさないといけないしさ」

「いや、自分の発言を省みてから言ってよ?
 ……まぁいいや。しかしさ、入局10年目だというのに、この程度の挑発に乗るとはまだまだ青いねぇ。まだ甘くはないちっぽけな青い果実だよ。
 なのは、僕の強さに泣かないでよ? 涙を拭くものはあげないから」

「それはこっちのセリフだよ。私だって強くなってるんだから、今の状態でも、まだまだ恭文くんには負けないよ?
 逆に泣かせてあげるよ」

「ほぉ、そりゃ楽しみだよ。そんな偉そうな事言ったのを後悔させてあげるから覚悟してるんだね」





 そう言って、にらみ合う不屈の心と古き鉄の主達。

 背中に、炎やら龍やら虎やらハブやらマングースやらの気配が感じられるのは、きっと気のせいだと思う。

 あー、言っておくけど、これ以上ケガが酷くならないように、お互い節度を守った上でやりますから、その辺りは心配不要です。はい。





《マスター達……飽きませんね》

「模擬戦やるのはいいけど、またあの時みたいにはならないでほしいわ。ホントに大変だったもの」

「オレとやるよりマシだろ」

「否定できないのがまた……ねぇ……」





 さて、僕達が今どこにいるかと言うと、隊舎の外に出て、訓練場に向かう途中の道すがら。

 そう、三日間の休息を終えて教導が再開されるのだ。

 なのはとジュンイチさんは当然教える側で、僕とアルトとシャマルさんは見学である。

 こんなこと楽しい感じのやりとりをしつつも、訓練場に到着する。

 その後は、僕達は見学スペースで、なのは達は訓練場に降り立って、先に来ていたスバル達と訓練を始める。



 これからも、訓練は続く。スバル達がなのはの気持ちに気づくか……いや、気づく必要ないか。

 伝えられて、受け継いだものは、きっとスバル達を守ってくれる。



 僕が、師匠とジュンイチさん、先生から同じ物をもらったように。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 まったくもうっ! せっかくいい感じでありがとうって気持ちで一杯だったのに、全部台無しにするんだもの。恭文くん相変わらずだよっ!



 そういうところが、恭文くんらしいって思ったりもするんだけどね。なんていうか、上げた分すぐに下げるの。



 でも、すごくうれしかった。



 私がケガを理由に飛べなくなったら、誰が怒らなくても、自分は怒るって言ってくれて。

 欲しいのは、魔法の力や、技術じゃなくて、私が笑顔でいる事実だけだって言ってくれて。



 ……恭文くん、天邪鬼だから、お礼なんて言ったら『僕はどうでもいいけど、フェイトが泣くのがイヤだし』とか、きっと言う。

 だから、心の中で言うね。ありがと。



 私、身体のことも、ヴィヴィオのことも、教導官も、全力全開でがんばる。



 恭文くんが、怒ったりしないように。辛い思い、させたりしないように。私も、恭文くんに笑顔でいてほしいから。











 ……そして……ジュンイチさんも。



 ジュンイチさん……私が飛べなくならないように、いつまでも笑顔でいられるように、ずっと見守っていてくれたんですね。

 なのに、「自分の気持ちをわかってくれてる」とか、自分勝手に決めつけて、厚意に甘えて……本当にごめんなさい。



 私……もう墜ちないから。

 ムチャするかもしれない。ブラスターだって、これから先使うかもしれない。それでも……絶対に帰ってくるから。

 帰ってきて、その先も飛び続けてみせるから。ジュンイチさんがそう願ったように、いつまでも笑顔でいられるように……





 ……でも、恭文くんと模擬戦か。ちょっと楽しみかな?



 スバルとの模擬戦では出さなかったけど、形状変換に切り札の錬度がどこまで上がってるのかも確認できるしね。



 あと、徹底的にわからせてあげる必要があるし。



 そりゃあフェイトちゃんやシグナムさんには負けるけど、私だって……そこそこ成長してるんだからっ!

 うー、くやしいー! そりゃあ……アレだよ? こう、お風呂とか入ってて、すずかちゃんとかフェイトちゃんとかを見ると……だなって思うよ。

 でも、私だってそこそこなんだよっ!? バランスが取れてて綺麗だって言われるんだからっ!



 それに、私がじゃれつくとすぐにジュンイチさんのことをやたらと気にするし。

 私とジュンイチさんは、別にそんな関係じゃないもんっ!

 ヴィヴィオのことで仲良くなって、一緒にスバルを鍛えるようになって……それだけなんだから。











 ………………うん。それだけだよ。それだけ…………………………だよね?



 うん! それだけだよ! それだけなんだからっ!











「と、いうワケでっ! 各自別れてそれぞれ先生について、訓練を開始しますっ!」

「はいっ!」



 スバル、気合入ってるね。でも、気負ってる感じはしない。いい傾向なのかな?



「スバルはマスターコンボイやロードナックルと一緒にオレと模擬戦な。で、なのははそれ見て、後からコメントくれ。
 手加減はいらねぇ……最初から全開で来いや」

「『全開』か……
 それはつまり……」

「とーぜん、使いたいと思えばハイパーゴッドオンもアリだ。トライファイター、オーバーホール終わってんだろ?
 ディセプティコン対策も兼ねて、ガッツリやるぞ」

「うんっ!」

「やってやろうぜ、スバル!」

《がんばるぞーっ!》

「さて、ティアナとジェットガンナーはあたしと休みに入る前にやってたとこの続きだ。魔力運用の基礎と応用っ!」

「はいっ! お願いしますっ!」

「よろしく頼むっ!」

「あー、二人してそんなでかい声出さなくていいから。つーかびっくりするからやめろ」

「それじゃあ、キャロとシャープエッジは私と射撃魔法の訓練だよ。シグナム、エリオとアイゼンアンカーのことお願いします」

「心得た。みんな、準備はいいな?」

「はいっ!」

「心得申したっ!」

「お願いしますっ!」

「めんどくさいけどりょーかいっ!」



 でも、それは他の皆も同じか。何かあったのかな?

 とにかく、今日はすごくよくなりそうだよ。



「それじゃあ、訓練開始っ!」

『はいっ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うわ、みんなすごい気合入ってるね……」

《なんですかあのバーストモード。背中に炎が見えますよ?》

「なのはちゃんもやで……恭文、自分一体何言ったんや」

「何故に僕っ!?
 いや、なのはにもスバル達にも、何も言ってないって。ただ、なのはには、あなたにヘッドロックされてもうれしくないねって話をしただけで」

「……なぎくん、それは本当に最低だから」

「せやで、自分かて知ってるやろ? 貧乳はステータスで希少価値や」



 シャーリーもはやても気にしないで。ついつい話の流れでカチンときて、模擬戦に持ち込もうとして軽く挑発しただけなんだから。

 でも、なのはと模擬戦か。楽しみだな。



 ……今まで何回かやって、色々と手を駆使しても9割方負けてるからなぁ。といいますか、結構久々?

 まぁ、やる度にあの魔王の砲撃やらなんやらで演習場が使用不可能になるから、準備が大変。



 やろうとするとまず『壊れてもいい場所探し』から始めなきゃいけないから……結構手間なんだよねぇ。

 とにもかくにもだ。六課にいる間に、なのはとは必ず決着をつけるっ!





 それはさておき、はやてにシャーリーにシャマルさんとアルトと一緒に訓練を見ているんだけど、すごい気合入ってるよな。

 なんというか、休暇前よりハングリーというか食いつきがいいというか、鬼気迫る何かがある。

 ……言っておくけど、休み前はそろいもそろってやる気がなかったって意味じゃないからね?



 こりゃあ、なのは達教えてて楽しいだろうなぁ。こういう時は結果どうこうよりその姿勢がうれしかったりするって前に言ってたし。





 ……お、ジュンイチさんとスバルがぶつかる。





 スバルがウィングロードを展開して、空中にいるジュンイチさんを追い詰める。

 ギア・エクセリオンを発動したスバルが、ジュンイチさんに対して、拳を振り上げる。



 でも、それじゃ終わらない。ジュンイチさんは左手であっさりとスバルの拳を受け止める――それも、ただ止めただけじゃない。

 間合いギリギリで捕まえたスバルの拳を、なんとスバルの拳の速さ、それ以上の速さで引き寄せることで衝撃を殺したのだ。もちろん、並の反応速度でできる芸当じゃない。

 さすが、日頃から「制空権内じゃフェイトよりも速い」って豪語してフェイトを挑発してるだけのことはあるよ。

 アレは口先だけじゃなかったか。もっとも、前々から口だけの挑発はしない人だったけどさ。



 けど……ジュンイチさんが戦ってるのはスバルだけじゃない。反対からオメガで斬りかかってきた、ロボットモードのマスターコンボイの斬撃を、ジュンイチさんは爆天剣で受け止める。

 スバルに続き、圧倒的な体格差から放たれた一撃を止めたのはすごいけど……さらにもうひとり。ロードナックル……人格はクロの方かな? 左右からの攻撃に動きを止めたジュンイチさんを狙って突撃する。

「スバルとマスターコンボイにかかりきりで、オレの拳が受けられるかっ!?」

《やっちゃえ、クロちゃんっ!》



 肩のモニターに映る弟の声援と共に、クロが拳を繰り出して――



「受けられちゃったりするんだな――これがっ!」



 ジュンイチさんはその一撃も受け止めていた。



 飛んでいるがゆえに投げ出されていた両足を使い、ドロップキックのような形でクロの拳を受け止めたのだ。

 さらに、そんなクロの拳を足場に跳躍、スバルやマスターコンボイの挟み撃ちからも脱出する。



「さぁて、こいつぁお返s」

「たぁぁぁぁぁっ!」



 そのまま、反撃とばかりに炎を放とうとするけれど……これはスバルに止められた。放つよりも早くウィングロードでジュンイチさんの懐に飛び込み、ラッシュをかけて反撃を封じ込める。

 そんなスバルに対し、ジュンイチさんも真っ向から応戦。ウィングロードの上でラッシュの応酬が始まる。



 ……あーぁ、スバルのヤツ、完全にジュンイチさんにノせられちゃってるよ。ラッシュ合戦に応じたせいで足が止まって、持ち味の突破力が殺されてるのに気づいてないや。



「挑発に乗るな、スバル! ノせられているぞ!」



 けど、そんなスバルをフォローするのがマスターコンボイだ。背後から斬りかかられてジュンイチさんは素早く離脱。けどそこに飛び込んできたクロに殴り飛ばされて、スバル達との距離が開く。



 ……うん、ゴッドオンなしでのコンビネーションでもけっこうやるもんだね。マスターコンボイがスバルやクロの手綱をうまく引いて、自然とコンビネーションが成り立ってる。対コンビネーションにも精通してるジュンイチさん相手にここまでやれれば、実戦でも十分通用するよ。





「凄いですね……これならAランク昇格試験も楽々ですよ」





 各々のデバイスから、随時送られてくる訓練のデータをチェックしながら、シャーリーが興奮気味につぶやく。



 うん、それは思う。というかそれぞれの特化技能ならもうAクラス越えてるんじゃないの?

 ティアナのヴァリアブルシュートとか、スバル達の一撃必殺の打撃力とかさ。

 でも、それを否定する言葉が次の瞬間飛び出た。





「いや、Aランク昇格試験は受けへんよ?」



 はやてであった……へ? 昇格試験受けないの? 確かそのために密度濃く訓練してるって聞いたけど。



「みんな、飛び級で試験受けるんよ。
 スバルとティアとエリオは、陸戦魔導師AAランク受験や。キャロはAやけど、レアスキル持ちやらから総合で+がつくやろ」

「飛び級っ!? つか、AAってすごいじゃないのさ。シャマルさんやザフィーラさんと同ランクだしっ!」

「あぁ、あずささんはAAAやね。総合力的にはSでも行けそうやけど……ほら、あの人はデバイス頼みのスタイルやし、安全圏から一歩ずつ、っちゅうことで」

《マスターより上になるワケですか。これでマスターの立場が六課でワースト1になるのは決定ですね》



 失礼な。魔導師ランクなんて飾りみたいなもんだから別にいいのよ。

 大体、上がった所で部隊の能力制限に引っかかったりでいいことないじゃないさ。あと、本編での出番が減ったりとか。



「なぎくんだけだよ。そういうこと言うのは……」

「その向上心がカケラもないとこはほんまになんとかしてこうな?」

《まぁ、間違ってはいないんですね。現に減ってる人がいますし。原作アニメで変身シーンも無いって言うのは、悲しいですよね》

「そうだよね。なのはやフェイト、師匠にシグナムさんにシャマルさんには作られたっていうのに……
 その人さ、本編で回想除くと、ジャケット装着したのって……何回だっけ?」

《指折り数えて中指までで足りますね》

「こっちじゃこっちで、日常シーンばっかり出番が増えて、肝心要の戦闘じゃ完全にお飾りだしねぇ」

「……私かっ! 私のことかそれはっ!?」



 いや、他に誰がいるのさ? 少なくともクリリ○ではない。



「でもそうすると、体調管理がまた大変になりそうね。みんながんばりすぎちゃうから……」

「あー、シャマル。フォワードのみんなだけやのうて、このチビスケの体調管理もお願いな? こやつも十分ムチャするタイプやから」

「はい、それはもちろん」

「いや、僕はいつもどおりゆるーくさせてもらうし、そこまで気を使ってもらわなくても……」

「何言うとんねん。恭文も受験するんやから、気をつけとかんとあかんやろ」





















 ……………………へ?

 今、信じられないフレーズが飛び出たような気がするけど……気のせいだ、うん、そうに違いない。





 そうして、無事に訓練は終了した。そうして翌日のこと、僕は自宅にある人達を招いていた。そう、その人達は……





















「アホかっ! 何を一気にシーンを飛ばして何もなかったことにしようとしてるんやっ!」

「あ、はやておはよう。いやぁ、昨日の訓練は凄かったよね。なのはのシールドをスバルがぶっ壊してさぁ〜」

「せやな。確かにあれはすご……ってアホかっ! なんや昨日ってっ!? さっきから1分も経ってへんやないかっ!
 自分、どんな精神と時の部屋通ってきた人間やっ!」

「いいじゃん。ジャンプではよくあることだよ。
 実際、昨日の僕らはジャンプの世界の住人だったよ?」

「ジャンプちゃうやろこれっ! むしろ女神やっ! 女神でマガジンやないかっ! 何を楽しげにシカトしてくれてるんやほんまにっ!
 ……とにかくやっ! 気のせいやあらへんでっ!? 恭文も昇格試験受けるんやからなっ!」

「はやて、言っとくけど僕は陸戦魔導師じゃないから、スバル達と一緒に試験は受けられないよ」

「ちゃうちゃう、何言うてんねん」





 部隊長様が手を振りながら否定してきた。そうして、信じられないことを口にした。





















「ジュンイチさんと二人で、空戦魔導師ランクS+の昇格試験受けるに決まっとるやないか」





















 ……はい?





「えっと……次は1月に行なわれる試験の事ですよね?」





 シャーリーが訓練のデータを映し出しているウィンドウとは別に、もうひとつモニターを立ち上げつつ口にする。



 えっと……つまり……え?


 1月? Sってなにっ!? スーパーとかスペシャルとかじゃないよねっ! てーか決まってるって何さっ!



 つか、なんでジュンイチさんまで受けるのさ!? あの人、むしろバリバリのアンチ管理局なのにっ! そんな人が受験なんて、余計な波風立ちまくるだけじゃないのっ! そんなのに巻き込まれてたまるかっ!



 イヤだ、絶対に受けないからねっ!



 こう言ったら、他の魔導師連中には失礼だけど、魔導師ランクなんて僕にとっては飾りなんだよっ!

 ステータスも希少価値もないんだよっ! そして出番が減るのはイヤなんだよっ! 変身シーンもないなんて絶対にイヤなんだよっ!





「アホかっ! つか自分は主人公なんやから、問題ないやろっ! むしろそれは私のセリフやっ!
 ……まぁ、そう言わんといてな。せっかく六課に来てもろうたワケやし、何かひとつでもええから成果を出してもらおう思うて、あれこれ考えたんやから。
 あ、言うとくけど、拒否権ないで? つーか、もう受験手続済ませとるし」

「えぇぇぇぇぇっ!?」









「そらそらそらぁっ! もうギブアップかぁっ!?」

「そんなワケがなかろうがっ!
 スバル! ロードナックル! そっちからコンビネーションだっ!」

「了解だっ!
 いくぜ、スバル!」

「うんっ!
 名づけてっ! フォーメーション・コメットリボルバー! いっけぇぇぇぇぇっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「……ザフィーラ、このアニメね、恭文から借りてきたんだよ。すっごくおもしろいのっ! 一緒に見ようね〜」

「心得た……というか、このノリは……」

「ねぇ、おもしろいでしょ〜。このう○おいちゃんていうのがおもしろいのー!」



 なぜだ……? このピンク色のキャラクターがシャマルの姿に被る……いや、そんなワケはないか。きっと疲れているんだ。そうだ、そうに違いない。



「ザフィーラどうしたの?」

「いや、気にしないでくれ……そうだな、おもしろいな」

「うんっ! 恭文から、あとは電王っていうのも借りたから、これが終わったら一緒に見ようね♪」

「……心得た」



 高町なのは、お前はこれでいいのか? この調子で行くと、ヴィヴィオが蒼凪や柾木と同じになってしまうぞ。











 ー2時間後ー











「いーじゃん♪ いーじゃんすげーじゃん♪」



 うむぅ……意外とおもしろいな。ヴィータが好きそうな感じだ。

 しかし、ヴィヴィオはすっかりハマってしまったな。先ほどから夢中で見ている。



「ザフィーラ、電王っておもしろいね」

「そうだな。確かにおもしろい」



 まぁ、よしとしよう。ヴィヴィオが満足そうだしな。





















 ……さて、次を見なくてはな。





(第15話へ続く)






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あきゅろす。
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