頂き物の小説
第5話『アレとかソレとか、よく言っていると、老化を心配される。そして、○○○って付いてるからって、変な意味とは限らない・・・はずだ』
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ティアナとの事で整備員の人達に追っかけまわされてやむを得ず戦ったら、シャマルさんにとても怒られた。
・・・いや、正当防衛は許してくださいよ。
・・・とまぁ、いろいろなことがあった休みも終わって・・・俺とヤスフミは無事に訓練や模擬戦に復帰できることになった。
その時になのはさんの事で問題があったが、なのはさんの決意に胸をうたれた・・・なら、精一杯サポートするだけだ。ユーノさんの為にもな。(ついでに、ユーノさんがなのはさんと会えなくて寂しいという事を伝えておいた。ユーノさんと俺が知り合いという事に驚いていたが、話を聞いて顔を赤らめていた・・・これは脈アリか?)
・・・ただ、スバル達の訓練に対しての姿勢が、ちょうど俺達の健康診断以後から明らかに変化した事が気になる・・・変化したといっても、いい方向にだが。
・・・・・・ひょっとして、スバル達に、なのはさん達の事気づかれたか?・・・・・・・・・まさかな。
さて、今回は俺とヤスフミに非常にめんどくさい事が降りかかろうとしているところから始まる・・・・・・
とある魔道師と軌道六課の日常・外典
第5話『アレとかソレとか、よく言っていると、老化を心配される。そして、○○○って付いてるからって、変な意味とは限らない・・・はずだ』
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「・・・とにかく、色々と心配してくれているのはありがたい。考えていてくれたのもうれしい。
だけどっ! 僕になんの事前相談も無しに決めるのは本当にやめてっ!!」
「そうですね・・・これには納得できません。」
ミーティングルームの机をドンっと叩いて、ヤスフミが断言する。隊長陣の反応は・・・・どこ吹く風ですか。いや、本気で怒りますよ?
「まぁそう言うな。嘱託魔導師の試験以来、そういったものを受けていないだろう。
あの頃から考えても、お前は随分成長しているからな。きっと必要なことだ。それに、フレイホークも試験は受けていないだろう?お前にも同じことが言えるぞ。」
お茶を飲みながらそうなだめるのは、烈火の将であるシグナムさん。
・・・それはそうですが・・・だからと言って勝手に決めないでください。
「そうだよ恭文君、ジン君。能力にあったランクの保有は、ある意味義務みたいなものなんだから。
・・・あの、なんでそんな怖い目で睨むの?」
「なのは、睨まれない要素が一つでもあると?」
「ありません・・・。でもっ! ちゃんとそういうのはしておかないと、仕事にだって差し障るよっ!!」
「むしろ、取った方が差し障るでしょうが・・・そもそも、僕が昇格試験を今まで受けなかったのにはいくつか理由があるんですよ。
1・めんどくさい。
2・興味ない。
3・やる気が無い。」
「・・・なぁ、ほんまにその性格直そうや。つーか、どれも同じ意味やんっ!!」
「これから言うのが重要なんだよ。
・・・Sランクになったら、間違いなく能力制限にひっかかるレベルでしょうが。そんなのやりにくくてしょうがない」
そう・・・例えば、部隊に正式な局員として入った場合、Sランク保有というのは、間違いなく足かせになる。
1部隊が保有出来る魔導師の能力には、制限がある。と言っても、六課みたいな無茶な編成でもない限り問題のないレベルのものだ。
ただ、なのはさん達のようなSランクor二アSランクと言ったレベルとなると、1部隊では一人か二人くらいしか保有することができない。
そんな事、面倒で仕方が無い。
あと、これが一番重要なんだが・・・リミッターをかけられることで、魔力が少なくなるのが痛い。俺もヤスフミも、一般的な魔力保有量なのだから。
・・・いや、俺に関して言えば、魔力の保有量はヤスフミよりも少ない。バルゴラのバックアップと並列・分割処理能力、訓練で鍛えた高速詠唱と必要最小限の魔力運用で何とかなっているに過ぎない。
そんな状態でリミッター?ますます仕事に影響出るんですが・・・
「あー、それがあったなぁ・・・それに、ジンに関してはめんどいなぁ」
「でしょ?」
「分かっていただけたんなら・・・取り消してくれます?」
「まぁ、その辺りはアタシやなのはが対策考えといてやるよ。・・・つーか、師匠命令だ。ゴタゴタ言わずに受けろ。」
「師匠、悪いですけど今回ばかりは、はいそうですかって言う具合には聞けません。」
≪珍しく強気に出ましたね。マスター≫
「・・・ヴィータさんの言い分がそれなら、俺は関係ないですよね?俺はヴィータさんの弟子ではありませんから。」
≪そうだな、そういうことになる。≫
「・・・お前は揚げ足とんなって・・・」
「ヤスフミ・・・。どうしても、嫌なの?」
少しだけ、悲しい色を秘めた瞳でヤスフミに聞いてきたのは・・・フェイトさんだった。
「事前に相談しなかったことは、その、悪かったと思うよ。
でも・・・はやても、ヴィータもシグナムも、もちろんなのはだって、ヤスフミやジン君のこと心配して言っているのは、分かってほしいな。」
「分かってるよそれは。だけど・・・僕自身に降りかかることだもの。最終決定権くらいは、僕に預けてほしかった」
≪まぁ、それは私も同意見ですね。マスターはあなた方と違って、決して全てにおいて恵まれた資質を保有しているわけではありません。むしろ、歪です。
制限をかけられる立場に立つという事は、色々な状況で苦しくなるのは明白ですから≫
・・・・・・そんな中、フェイトさんが口を開く。
「うん、それはわかるよ。わかるの。だけど・・・」
「だけど、なに?」
「それでも、うちらの意見としては取るほうがえぇんやないかと思ったんや。もちろん、アンタ達に降りかかることや。うちらはそれでなんも助けてやれんかもしれん。
これからアンタらが進む道には、Sランクなんて単なるお飾りにしかならんかもしれん。けど・・・精一杯努力して、得られる一つの結果になるのは間違いないと思う」
珍しく真剣な顔ではやてさんがそう口にする。周りを見ると、みんなも同じ表情。つまり・・・同じ意見のようだ。
「まぁ・・・アレだ。確かにアタシ達もちょっと急すぎた。そこは悪いと思ってる。でもよ、はやての言うとおり、何かしらの結果だったり、成果は得られるはずだ。
だから、受けてみねぇか? ランクどうこうは関係ねぇ。お前とアルトアイゼン、ジンとバルゴラの今までの成果・・・・・・試験にぶつけてみろよ」
ヤスフミがため息をつく・・・・・・って事は、お前は決めたんだな。
まったく・・・・・・そういう言葉が言えるなら、最初から話してくださいよ・・・・・・信頼されてないみたいで悲しいんですよ。
「二つ条件があります」
≪そうですね≫
「まず一つ。試験の後、僕とアルトが取得したランクを、返却しようがずっと持ってようが何一つ文句を言わない事。
ようするに、ランクの扱いは僕達の勝手にさせてもらいます」
一応、ランクや資格は、個人の事情での返却が認められている。・・・まぁ、審査と面接があるが。
というより、ランクや資格は正式な局員であれば出世や待遇に直結する。普通はやろうとはしない。
だけど、ヤスフミ達はそれでもやるらしい。
≪それが飲めないのであれば・・・残念ですがこの話は平行線です。
私も、マスターのやる気がないのに無理に勧めるようなことはしたくありませんから≫
「ヤスフミ、アルトアイゼン。さすがにそれはないよ。みんなの気持ちを・・・」
「あぁ、別にかまわねぇぞ」
どうやら、ヴィータさんはヤスフミの言いたい事を理解したらしい。だけど、一人分かってない人間がいた。そう、フェイトさんである。
「ヴィータっ!」
「いいんだよ」
「よくないよっ!!」
「・・・フェイトちゃん、話聞いてなかったやろ? フェイトちゃん以外はみんな今の一言で納得したで」
「え?」
はやてさんが若干呆れ気味で、興奮しかけたフェイトを止める。いや、それはフェイトさん以外の全員が同じ。
・・・察しが早くて助かるって顔をしているなヤスフミの奴・・・
「いいかテスタロッサ。今こいつらは、資格の保有のどうこうは自分達に任せろと言った。つまり・・・」
「恭文君も、アルトアイゼンも、『後の事はともかく、試験は受ける。そして絶対に合格する』って言ってるんだよ?
そして、資格の返上なんてしないで、ずっと保持するっていう選択肢だって考えてくれるんだから」
「・・・ヤスフミ、そうなの?」
「そーだよ。なのはの言う通り、絶対に合格する。で、ランク保持も検討しようじゃないのさ。結果は保証しないけど」
≪解散までのいい暇潰しにはなるでしょうね≫
「だね。つか、そうじゃなきゃやる意味ないし」
「ふっ、ようやくやる気になったようだな。では・・・」
「アタシ達が責任もってみっちりシゴいてやる。覚悟しとけよ」
「はい、よろしくおねがいします。師匠」
・・・それがお前の答えか・・・
「で、もう一つの条件はなんだ?」
「あ、簡単です。試験は、Sランクじゃないの受けたいんですよ」
『・・・はぁっ!?』
「空戦AAAっ! あ、僕の場合はプラスが付くのか」
「・・・えっと、ヤスフミ。なんでSランクが嫌なの?」
「だって、AAAの方がかっこいいじゃないのさ。最初から最期までクライマックスって感じだし」
≪あぁ、やっぱりそういうことですか≫
「あと、Sランクになるの、なーんか抵抗があるの。だって、師匠はAAAなわけでしょ?」
「・・・なるほど、ヴィータに一回でも勝たないとやる気が起きん言うわけか。ランク的には、師匠より上になってまうしな」
「弟子なりの意地と言った所か? 超えるべきところを超えずして、そのような真似は出来ない」
「シグナムさん正解です」
「お前・・・。そんなこと気にする必要ねぇだろうが。アタシはともかく、Sランクのシグナムやフェイトともいい勝負できるようになってんだしよ」
「そんなの関係ありません。だって、僕は師匠の弟子ですよ? 通すべき所を通してないのに、なんで受けなくちゃいけないんですか」
・・・お、ヤスフミの奴いい事言う・・・
「・・・わかったよ。ま、そう言ったことを後悔するなよ? 一生そのまんまかもしれねぇしな」
「さぁ、どうでしょ〜。意外と早く世代交代するかもしれませんよ?」
「バーカ。そんな簡単にやらせねぇよ。アタシだって、これからが伸び盛りなんだからな」
などと言いながら、ヤスフミはヴィータさんと二人で見つめあい、不敵に笑いあう。・・・なんか楽しそうだな・・・
「でもね、ヤスフミ。それは無理だよ。もう手続きしてるし・・・」
「なんとかしてね♪」
「あの、恭文君。気持ちはわかるけど、納得して・・・」
「・・・聞こえなかった? なんとか、してね。じゃないと、僕はやらない。絶対に」
ヤスフミはにっこり笑顔で言い切る。・・・ヤスフミ、怖いからなそれ。
「テスタロッサ。なのはもそうだが、諦めろ。言うことは分からなくはないからな。師弟関係というのは、理屈では語れん」
「・・・俺も試験は受けます・・・ただ、受ける試験はAA−ランクでお願いできませんか?」
「・・・ジンはなんでそのランクなんや?」
「・・・ヤスフミと同じ理由ですよ。俺の先生は魔導師ランクAA+でした・・・今はまだ、それ以上のランクを受ける気にはなりません・・・」
≪・・・マスター・・・≫
・・・・・・そう。あの人に追いつくことは出来ても、追い越すなんて出来る訳がない・・・・・・俺の力は、まだ先生に届いていないのだから。
「・・・わかった。フェイトちゃん、なのはちゃん・・・ジンの分もよろしく頼むな。」
「「・・・はい」」
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・・・権力というのはすばらしいものである。どんな無茶な状況でも覆せるんだから。ある意味最強の切り札だね。
とにかく、僕は空戦AAA+、ジンは陸戦AA−の試験を受けることになった。もちろん、Sランク試験はキャンセル。
ちなみに、手続きの主だったところを担当していたフェイトやなのはの二人は、担当者からお小言を食らったらしい。
受験者に意思確認もしないで何してるのかと。当然自業自得なので、放っておく事にする。
しかしさ・・・・涙出てくるんですけどっ!?
「恭文さん、大丈夫ですか?」
「お前・・・ボロボロじゃねぇか」
「あぁ、大丈夫です・・・。タマネギはどうもなれなくて」
「ヤスフミ、私手伝うよ」
「あぁ、大丈夫だから。フェイトはそこに居ていいよ」
さて、ここが今どこかというと・・・僕の自宅。で、今返事したのは、師匠とリイン。そしてフェイト。
三人を夕食に招待して・・・・というより、師匠に『アレ』を作って欲しいと頼まれたので、そのついでに僕が夕飯を用意しているのだ。
ま、師弟とパートナーと、片思いのお姉さんで、あれこれお話も交えつつ・・・という感じである。
今日のメニューは、スーパーにつくまでに色々と考えたのだけど、やはりここは王道で行くことにした。
メインディッシュはお肉。今日は、師匠とリインの好きなハンバーグにした。
ひき肉と今の今まで刻んでいたタマネギ、その他の材料をしっかりと混ぜる。
味付けのための調味料を入れてからフライパンに投入。時間をかけてじっくり焼く。焼き色がついたら、蓋をして蒸し焼きっと・・・。
あー、レンジメイ○やっぱ買うかな。一人分しか作れないけど、ハンバーグとかでも、面倒少ないし。
それと同時進行で、ハンバーグ用の和風ソースと、お味噌汁を作る。
ソースは、海鳴在住時代に桃子さんから教わった、醤油ベースの自信作。まぁ、ハンバーグのレシピもそうなんだけどね。
お味噌汁は、ジャガイモとタマネギに細かく賽の目切りしたお豆腐を入れる。
これだと、タマネギから甘味が出て、それをジャガイモが吸って・・・で、とても美味しくなるのよ。これが大好きなんだよね〜。
あとは野菜だけど、適当に作ってる。
ごぼうとこんにゃく、人参を細切りにして、それを炒め煮。醤油と日本酒とみりんでさっと味付ける。
味見・・・・うん、少し甘めな味付けだけど、ご飯は進むな。
ご飯は真っ白いご飯。シンプルにして、濃い目の味付けのおかずにあわせるのである。
キッチンに広がる香ばしい匂い。あぁ、おなかすいてくるなぁ。・・・っと、そうだ。
「三人とも、出来上がるまであと10分くらいかかるから、それまでテレビでも見てて・・・」
「おう、勝手に見せてもらってるー」
「ですー♪」
「あははは・・・。ごめん」
・・・そうでしたね。ここはあなた方のセカンドハウスでしたよね。というか、リインと師匠のね。忘れてましたよ私。
人の家ということを忘れて、のんきにくつろぐ二人(フェイトは普通)に苦笑しつつ、ハンバーグを焼く。
そして、味噌汁を温めて、合間合間に野菜の炒め煮を盛り付けて、ご飯をお茶碗についで・・・・・などとしているうちに準備は完了。
こうして、食卓に並ぶオカズの数々。いやぁ、我ながらがんばったわ。
「うわ、すげぇなおいっ! お前、昼間に出かけてたりしたみてぇだけど、無理したんじゃないだろうな?」
「いや、してないですよ? 師匠が久々に来るんで、ちょっとだけ張り切りはしましたけど」
≪ヴィータ師匠は、しばらく来ませんでしたから、マスターも嬉しいんです。気にしないで下さい≫
「そっか。・・・悪かったな、しばらく来れなくてよ」
「いいですよ別に。師匠もみんなも、一生懸命だったんですから。
さ、話は食べながらにしましょ。リインも・・・って、またフルサイズになってるし」
いつのまにか、また僕のパジャマを借りて10歳児な姿になっているリインがいた。いつのまに・・・。
「恭文さんの家では、これがスタンダードなんです♪」
「リイン、ヤスフミとはやっぱり仲良しさんだね」
「はいです♪ ヒロインですからっ!!」
何に対してのヒロインっ!?
「そっか、ヒロインなんだね。なら納得だ」
「フェイトも納得しないでっ!! ・・・まぁいいや、ほらほらみんな座って」
「よいっしょ・・・です」
「よっと。・・・さてと」
「それじゃあ、みんな一緒に・・・」
僕達四人がリビングのテーブルのイスに座って、ご飯の前に置かれたお箸をもって、一斉にこう口にした。
『いただきまーす!!』
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・・・しばらくぶりだな。お引越し祝いを持っていった時からだから・・・大体、2年ぶり? そんなになるんだ。
仕事でよく会ってたから、そんなに久し振りな感じがないんだよね。
実は、ちょっとだけ心配だった。なぎ君、ちょっと抜けてるところあるし、ミッドで一人暮らしなんて出来るのかなって。
だから、その時につい『変な訪問販売に引っかからないでね? 宗教とかも怪しいからダメだよ?』・・・なんて、お母さんみたいにしてしまった。
でも、スバルやティアの話だと部屋も綺麗にしていて、二アそれな物はあっても、本当にいかがわしい物はないらしい。
宗教なんかも断ってたって言ってたし・・・ちゃんとやってるってことだよね。よかった。
・・・私となぎ君は、3年前、私が在籍している108部隊が追っていたとあるロストロギアの密輸事件を通して知り合った。
当時、108部隊に在籍していた八神はやてさんの紹介で、犯人一味のアジトの強制捜査(鉄火場とも言う)の応援人員として呼ばれたのだ。
なんというか・・・最初はクセのある子だなと思っていた。パートナーデバイスであるアルトアイゼンもその彼のパートナーと言える印象を受けた。
それが、ちょっとしたケンカを経て、私は『なぎ君』とあだ名で呼び、なぎ君も『ギンガさん』と名前で呼んでくれるようになった。
それから、メールや通信で連絡を取りつつ、一緒に仕事をする時にも親交を深めて・・・もう3年。なんかあっという間だなぁ。
・・・うん、本当にあっという間だ。色んな事があって、だけど近くに居られる。きっと、すごくいいことなんだよね。
それはそれとして、しばらく来れないって言ったから、私が突然来たら、なぎ君びっくりするだろうな。
「・・・・・・あれ?確か・・・ギンガさん、でしたっけ・・・こんな時間にどうしたんですか?」
すると、私に声をかけてくる人がいる・・・振り向くと、そこには見覚えのある人がいた・・・たしか、なぎ君と一緒に六課に出向してくれた・・・ジン君。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・美味しいー!
いやぁ、自画自賛になるのは承知の上で言わせてもらうけど、ご飯が美味しい。なんというか・・・幸せだ。
でも、幸せはそれだけじゃない。
フェイトと師匠やリインが、『美味しい』と言って、美味しそうな顔して食べている姿にも幸せがある。
その姿を見ているだけで、僕まで幸せになってくるから不思議だ。
僕が料理を初めてしたのは、リインと出会ってからすぐの頃のこと、リインにご飯を作ってからの話だ。
最初は、ひどい腕前だった。それはもうすごい勢いで。僕はずっと一人だったから、出来合いのもので済ませてたしね。
だけど、それをリインが食べてくれて、『作ってくれてうれしかった』と言ってくれて・・・。
それがすごく嬉しくて、それを繰り返していると、どんどんと作るのが楽しくなっていった。
それからしばらくの後、ハラオウン家で暮らすようになって、魔導師の仕事が空いた時には、なのはの実家である翠屋に行って仕事を手伝うようになった。
これは、なのはのお母さんである桃子さんの鶴の一声で、翠屋の店員になったのが原因である。
というか、好きな子・・・フェイトを本気で捕まえたいなら、料理は出来たほうがいいとアドバイスされた。
・・・なんで桃子さんに話してもないのに、フェイトが好きだって見抜かれたんだろ。それも、初対面の段階で。
とにかく、それをきっかけにお菓子作りにも手を出したりするうちに、大抵のものなら時間さえかければ作れるようになっていったのだ。
それと同時にハラオウン家の家事のいっさいも手伝うようになった。だけど、これには一つの問題がある。
・・・女性物の服やら、肌着やらの洗濯の仕方まで熟知してしまったのは・・・人生を間違えたかと思うときがあるんだよね。
「・・・ごちそうさまでしたー! 恭文さん、すっごく美味しかったです♪」
「ご馳走様でした。・・・うん、美味しかった。なんというか、料理の腕は追い抜かれちゃったね」
「ごちそうさまでした」
うん、リインとフェイトは満足みたい。さて、僕としては師匠の反応が気になる。
なぜか? それは師匠だからだよっ!!
「・・・いや、こっちの方も腕上げたんじゃねぇのか? 前に食った時より美味しくなってるぞ」
「ホントですか? ・・・そう言ってもらえると作った甲斐があります」
「うむぅ、やっぱり恭文さんは、ヴィータちゃんの反応が気になるですね。リイン達はどーでもいいみたいです」
「いや、そんなことないからっ! リインやフェイトにも、美味しいって言ってもらえてうれしいし」
とにかく、みんな反応良好で、とても嬉しくなる。いや、師匠には色々作って試食してもらったりしたからなぁ。
やっぱり、誉められると嬉しいのである。
僕は、そんな気持ちを感じながら、食器を持ってキッチンのシンクに置く。それを水に浸して、スポンジに洗剤を垂らして、洗い物開始である。
・・・それほど汚れがこびりつくようなメニューにはしてないけど、それでもきっちり綺麗に洗いましょっと。
「師匠、洗い物済ませたら、アレを作りますね」
「お、待ってましたっ! あー、アタシも手伝ったほうがいいか?」
「いえいえ、師匠は今日はお客様なんですから、ゆっくりしててください。でも、寝たりしないでくださいよ?」
「子ども扱いするなっ! ・・・ったく」
あはははは、師匠だけじゃなくてリインやフェイトにも言ってるんですけどね。まぁ、さっとすませてデザートタイムとしゃれこみ・・・。
ピンポーーンッ!!
・・・あー、このパターンはトラウマが。正直出たくない。
≪とは言うものの、また居留守を決め込むと厄介だと思いますよ?≫
「うーん、またスバルとかだったら、怒られるのは目に見えてるしなぁ」
前回・・・というか一昨日はそれでえらい目にあったからなぁ。なんというか、アレは楽しかったけど前半は悪夢と言える出来事だったもの。
そうすると・・・対応するしかないか。とは言うものの、僕は洗い物中。ここは大人に頼むしかあるまい。
「師匠、すみませんけど応対お願いできませんか? 僕はこの通りなんで」
「仕方ねぇな。知り合いだったら入れてもかまわねぇのか?」
「師匠に任せます。わるーい顔してたらぶっ飛ばしてもかまわないですよ?」
「りょーかい」
「ダメだよヴィータっ! あ、私も出るね」
「うん、お願い」
振り向くと、ニヤニヤしながら玄関へと向かっていく師匠と、心配そうな顔したフェイトが見えた。
・・・ホントにやらないでくださいね? 最近は局員の不祥事とかにはうるさい風潮なんですから。
「・・・リイン、静かだけど寝てないよね? 寝てたらアレ食べ損ねるよ〜?」
「寝てないですっ! ちょっとだけ・・・和んでたです」
・・・危ないなこりゃ。早く洗い物終わらせてアレを作らないとアウトだ。
そう思うと、手を動かすスピードをアップさせて、眠りに落ちそうになっている祝福の風のためにもう一頑張りするのであった・・・・。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あー、満足だー! 恭文の料理むちゃくちゃ美味しかったしな。お袋の味化がまた進行してねぇか?
なんつうか、はやてには負けるけど、恭文の料理もなかなかだ。
海鳴に居て練習してたころは、リンディさんや桃子さんにあれこれ教わってたしよ。あの年でお袋な味だせる料理作る男なんてそうそういねぇよ。
そのお袋の味が、実の親じゃなくて、リンディさんや桃子さんから教わった味だっていうのは、気にしちゃいけねぇんだろうな。
人間ってやつは、3才の頃でも、味覚の記憶ってやつは覚えてるそうだ。だけど、恭文にはそれすらねぇ。
アイツ・・・実の親の味ってのを知らない。はやてだって、うっすら覚えてるってのに。なんだかなぁ。家族って、本当になんなんだろうな。
アタシらやはやてみたいなのも居れば、血が繋がっててもダメな場合ってのもあるし、ハラオウン家みたいなのも居るわけだし。
・・・やめとくか。もう昔のことだし、アイツはそれでも、ヘラヘラと笑って、楽しそうに生きてるんだからよ。
そんな事を考えながら、玄関のドアを開ける。・・・時刻はもうちょっとで八時だ。こんな時間に誰だ?
ドアを開けると、そこには一人の女がいた。アタシの知ってる顔だ。
なんつうか、アタシを見てびっくりした顔してる。それはアタシや隣りにいるフェイトもだけど、つか、なにしてんだよギンガっ!?
「・・・ヴィータ副隊長? それにフェイトさんもっ! あ、その、おつかれさまですっ!!」
「おう、おつかれさま。でも、こんな時間になにしてんだよお前?」
「・・・あ、ヤスフミになにか用かな?」
そう、こんな時間に恭文の家に来たのは、108部隊の捜査官でスバルの姉ちゃんのギンガ・ナカジマだった。
「えっと、なぎ君の様子を見にきたんです。・・・お邪魔でしたか?」
言っている意味がよくわからねぇが、アイツの事心配してくれて来てるんならここで追い返すのも野暮。入れてかまわないだろ。
「別に邪魔じゃねぇよ。ご飯食べただけだしな、まぁ入れ。恭文のやつも中にいるし、お前なら構わないだろ」
「きっと、ヤスフミも喜ぶと思うから、大丈夫だよ。さ、入って」
「そうですか? それじゃあ・・・お邪魔します」
そう言って、遠慮がちにギンガが上がってきた。
・・・恭文、お前六課にきてよかったな。
一昨日はスバル達も来てくれたって話だし、みんなが世話焼いてくれるなんてありがたいじゃねぇか。
お前の師匠としては嬉しいぞ。うんうん。
「・・・・・・ヴィータさん、俺も居るんですけど・・・・・・」
・・・・・・あ、ジンも来ていたのか・・・ま、上がっていけよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・おかしい。
さっきまでは結構幸せな感じだった。なのに、なぜに今はこんな緊張した面持ちで居なければならないのよ?
理由なんてわかっている。そう、目の前にいる女性だ。
陸士制服に柔らかな肢体を包み、ロングヘアーのつややかな髪。強い意思を感じさせる眼差し。
そう、彼女はギンガ・ナカジマ。僕と同い年で身長は僕より高いという理不尽な女である。
「・・・ずいぶんな言い草だね、なぎ君。せっかく見に来たっていうのに」
「地の文につっこまないでよ。とにかく、はいお茶。それと・・・ご飯食べるなら作るけど?」
「・・・というかヤスフミ、俺のこと忘れてねぇか?それと・・・ほら、これ。」
ギンガさんにお茶を出しながらそう言う。いや、お客さんだしもてなす必要あるかなって。
とは言っても、ギンガさんはスバルやエリオ並に食べるからなぁ。量では間違いなく満足させることは出来ないと思う。
余り物でさくっと炒め物でも・・・ってところかな?
・・・あと、ジンはなんかお菓子を買ってきてくれていた・・・ありがたく受け取っておくよ。
「あぁ、大丈夫。軽く食べてきたから。・・・ね、ミルクとお砂糖もらってもいいかな」
「そのまま飲んでください」
「おい、ギンガは客なんだからケチケチするなよ。それくらいあげてやれ」
「ですです」
「そうだよヤスフミ。せっかく来てくれたんだから、おもてなししなきゃだめだよ?」
「・・・え?これミルクと砂糖なんて使うの?」
・・・師匠、リインも、そしてフェイトも、わかってない。
あなた方があげろと言った、そのミルクと砂糖をどこに入ると思ってるんですか?
今、ギンガさんが飲もうとしている『日本茶』に入れるつもりでしょうが。
そんな飲み方、私は認めませんよ?
「・・・ギンガ、六課のスターズ分隊の副隊長としての命令だ。そのまま飲め」
「ですです・・・」
「ごめんねギンガ。お願い・・・出来るかな?」
ギンガさんがなんか『美味しいのに・・・』とか呟いてるけどスルーだ。そしてジン、お願いだから試そうとしないで。
まったく、リンディさんも頼むからこの妙なお茶の飲み方を世間に広めないでよ。アレ、マリエルさんも好きだって言うし・・・。
被保護者といたしましては、なのはのエクセリオンと同じで、墓の中まで持っていってほしいもんですよ。
≪それはそうとギンガさん、何かマスターに用があったのですか?≫
部屋の中で食事の間、ずっとプカプカ浮いていたアルトが疑問をぶつける。そうだよ、こんな時間にわざわざどうしたの?
「うん、なにかあるってわけじゃなくてね、時間が空いたからホントに様子を見に来ただけなの。
でも・・・あんまり心配ないみたいだね。スバル達の言う通りみたいだし」
「なるほど・・・」
どういう報告をしたのかはわかんないけど、この様子なら結構好意的な事を言ってくれたとみていいだろう。
いずれ二人にねまわ・・・じゃなかった。お礼をしとかなきゃ。
「それなら・・・師匠、せっかくだしギンガさんとジンの分も一緒に作ろうと思うんですけど大丈夫ですか?」
「おぉ、別にかまわねぇぞ。このままなんにもしないで返すのもあれだろ」
「ですです♪ ギンガ、ジン、一緒に食べるですよ」
うし、さっき確認したら、材料は二人の分が加わっても問題なし。
師匠達が来る前に練習がてら作った試作品一号と二号は問題なく作れたし、味も申し分なし。
これなら大丈夫でしょ。さっそく作業に取り掛かるから、みんなテレビでも見てゆっくりしててください
「おー、任せるぞー」
「恭文さん、リインは眠気覚ましに手伝いたいんですけど、いいですか?」
僕のダボダボなパジャマを着て、リインがそう言ってきた。
とりあえず、しゃがんで裾を捲ってあげる。危ないから。色んな意味で危ないから。
でも、リインが助けてくれるとありがたいかな。さすがに六人分はキツイかもだし。
「はいです。リインがんばるですよ〜♪」
「えっと・・・すみません、話が読めないんですけど?」
困惑気味な顔でギンガさんがそう言う。うん、これだけ聞くとさっぱり訳分かんないよね。というわけで教えてあげよう。
「今からね、ヤスフミがデザートを作るところだったんだ。ギンガさんも時間あるなら、食べていかない?」
「デザートですか。でも・・・いいんですか?」
「別にかまわねぇよ。コイツは嫌だったら最初にはっきり言うやつだし」
「ですです。ギンガにも食べてほしいから言ってるですよ♪」
「お〜・・・そういや、前に食べさせろって言ったな俺・・・」
・・・師匠、リイン、なんというか僕のことどう思ってるのかすっごい気になるんですけど?
そういや、ジンもそんな事言っていたね。すっかり忘れていたけど。
≪気にしてはだめですよマスター。
では、ギンガさん楽しみにしててください。マスターが作るアレ・・・・至高のアイスクリームは、ありとあらゆる相手を虜にしますから≫
「至高の・・・アイスクリームっ!?」
そう、事ある事にアレと言いつづけていたのは、アイスクリームだ。
といっても、特別な作り方をするわけでも特別な材料を使うわけではない。いたってシンプルなヴァニラアイスなのだけど・・・。
「ギガうまなんだよこれがな。とりあえず、楽しみにまってようぜ。それじゃあ、恭文、リイン、任せたからな」
「はいです。恭文さん、頑張るですよっ!」
「もちろん、美味しいアイス作るよっ!」
「「おーー!!」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・そういえば、ギンガ」
「はい」
なぎ君がアイスを作っている間、フェイトさんとヴィータ副隊長とお話している。・・・なんでアイスを作るのに魔力光が見えるんだろう。
「あぁ、アイツらアイス製作用の魔法組んでるからな」
「はいっ!?」
「と言っても、すごく簡易的なものだから、危険とかはないんだ。それで・・・身体の方は大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です。リハビリもしっかりやってますし」
・・・なんというか、こうやってフェイトさんの近くで、プライベートなことを話すって、初めてかもしれない。
やっぱり、六課に関わるまでは、憧れで遠い人だったから。というか・・・綺麗。
金色の髪に、優しいルビー色の瞳。肌が白くて、凄くスベスベしてそうで、それに・・・スタイルもいい。
私もいい方だと思うんだけど、うーん・・・やっぱり負けてる? はやてさんは、フェイトさんより大きいって言ってくれるけど。
「そうなんだ、ならよかった。あまり、無理しちゃだめだよ? リハビリは、やっぱり時間をかけてしていかなきゃいけないから」
「だな。アタシらもリハビリは付き添い経験あるけど、あんまりやりすぎても逆効果だ。ま、気長にいけ」
「はい。・・・お二人とも、ありがとうございます」
気長に・・・か。なんだか、また置いてかれちゃうな。ランクは同じなのに、どうしてこうも差が出来ちゃうんだろ。
いや、考えるまでもないんだけど。経験が倍くらい違うわけだし。
「ギンガ」
「はい?」
「あの、ヤスフミと仲良くしてくれてるんだよね。ありがとう。凄く助かってる」
「あ、いえ。私の方こそ、なぎ君にたくさん助けてもらっていますから」
うん、助けてもらっている。言葉に出来ないくらいに・・・たくさん。
「ほんとは、もっと前に言えたらよかったんだけど・・・ゴタゴタしちゃったでしょ?
遅くなってごめんね。というか、ヤスフミが色々迷惑かけちゃってるみたいで・・・」
「あの、大丈夫ですからっ! というか・・・迷惑じゃないです。友達ですから」
なぎ君が言っていた。迷惑をかけたり、かけられたり・・・。それが出来るのが友達だって。
だったら、問題はない。うん、私だってなぎ君に心配とか迷惑とか、いっぱいかけてるんだし。
「・・・ありがとう。そう言ってくれると、とても嬉しいよ」
「いえ・・・」
なんというか、本当になぎ君のお姉さん的な位置なんだね。
・・・スバルが言ってたなぁ。なぎ君と居る時のフェイトさんは、私に似てるって。うん、お姉さんなんだよね。
「でも、なにか大変なこととかあったら、いつでも言ってほしいな。
ヤスフミ、ちょっと不器用というか、暴走気味なところがあるから、ギンガに、必要以上に迷惑かけたりとかしてないか、心配で・・・」
「あの、大丈夫です。そういう時は、お説教してますしっ!」
「・・・アイツにそれは効果ねぇだろ。本気で悪いと思わないとよ」
「実を言うと・・・」
なぎ君は暴走して結果を出せるのが凄い。しかも、被害は犯人側にだけ拡大させるし。
おかげで、いつも結果オーライな感じになっている。はぁ、もっとちゃんとして欲しいんだけどなぁ。
・・・いや、今がちゃんとしてないってわけじゃない。ただ、例えば正式な局員になったりしたら・・・ダメかなって思う。
「・・・ゴメンねギンガ。ヤスフミって、その・・・ちょっとアレだから。
私も、たまにわからない時があるの。ノリとか勢いだけで戦うというか、行動しちゃうというか、なんというか」
「お前、家族としてその発言どうなんだよ。つか、戦いってのは、ノリのいい方が勝つんだよ」
「・・・うん、ヤスフミにも、前にそう言われた。どんな状況でも、自分を出せるくらいにそれが出来た方が勝つって。
あの、それはわかるよ? 私も、その言葉で戦えたから」
分かるんですねフェイトさん。・・・まぁ、間違ってはないのが、なぎ君クオリティというかなんというか。
「まぁ、アレだよギンガ」
「はい」
「アイツは、ああいう奴だけど、仲良くしてやってくれ。なんだかんだで、お前のことは好きみたいだからよ」
・・・え?
なぎ君が・・・私を好きっ!? え、でも、その・・・私にも心の準備が・・・。あぁ、別になぎ君が嫌とかじゃなくて・・・。
「・・・いや、そういう意味じゃねぇぞ。友達として、心許してるって意味だからな? 頼むからそんなに顔を赤くするな。
つーか、なんでフェイトまで顔赤くしてやがるんだよっ!?」
「え、違うのっ!? 私、ギンガだったらヤスフミのこと任せていいって思ったのに・・・。きっとお似合いだなって考えたりして」
「お前は・・・!」
そ、そういう意味だったんだ。あははは・・・。思いっきり勘違いしちゃったよ。
「頼むから、もう少しアイツの気持ちを考えてやれよ。お前が妙な勘違いする度に、へコんでるんだぞ?」
「そうなんですか?」
「あぁ。なのはが好きとかはやてが好きとか。アイツと女の子が仲良さそうだったら、片っ端から勘違いしていくんだよ。
・・・いつぞやは、アタシって言ったときもあったな」
「で、でも・・・本当にそう見えるんだよ?」
「勘違いだ」
「さすがにそれはひどいですよ・・・。なぎ君の気持ちだってあるわけですし」
「・・・でもギンガ、実際どうなのかな? ヤスフミ、悪い子じゃないと思うんだ。もしそうなら、私は応援するから」
・・・フェイトさん、私となぎ君は友達です。そんなガッツポーズで応援オーラを出さないでください。
それに・・・ヴィータ副隊長がグラーフアイゼンを出してますから。
「つかよ、お前はその対象が自分かもしれないって可能性は考えないのか」
「それはないよ。だって、私とヤスフミは家族だよ?」
ガンッ!!
話を聞いていたジン君が、テーブルに頭をぶつける。
なぜだろう。キョトンとした顔でそう口にするフェイトさんに対して、怒りを感じるのは。
なんで、私は左拳を握ってるんだろう。そして、ヴィータ副隊長はどうして頭を抱えてるんだろう。
「あ、もちろんヤスフミが好きじゃないとかじゃないよ?
特別で、大事で・・・大好きだって思ってるんだ」
「あぁ、わかったわかった。分かってるからそれ以上喋るな。・・・頭痛ぇ」
「私もです。どうしてか頭痛が・・・」
「正解だ。そして、8年間これだ」
「・・・ヤスフミの奴、よく8年間も耐えれるな・・・尊敬するぜ・・・」
・・・ひょっとしてフェイトさんって、凄い天然?
「正解だ。つか、仕事とプライベートで差が有りすぎるんだよ」
「ですよね・・・」
「いや、それでもあれはありえないですって。」
「あの、ヴィータにギンガ、ジンも、なに話してるの?」
「なんでもねぇよ。気にするな」
「そうですね。気にしないで下さい」
「えぇ。気にしないでください。」
「ギンガ、なんだかアタシはお前と今まで以上に仲良くなれそうな気がしてきたぞ。あとジン、さっきはすまなかったな。」
「奇遇ですね、ヴィータ副隊長。私もです。ジン君とも、仲良くできそうだね。」
「・・・ヴィータさん、ギンガさん、これからもよろしくお願いします。」
そう、きっと友情の始まりは・・・いつだってこうなんだよね。ちょっとしたことからのシンパシー。それが始まり。
置いてけぼりを食らって、またもやキョトンとしているフェイトさんはともかく、私と副隊長、そしてジン君は、強く・・・繋がったような気がしていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
というわけで、ここからはどこかで聞いたようなミュージックに乗せて、アイス作りに突入である。
「リイン、ここにお願いね」
そう言って、キッチンに二つの大きめのお櫃を置く。これで何をするのかって? ・・・こうするのだ。
「アイス・キューブっ!」
リインがそう唱えると、足元にベルカの魔方陣が浮かび上がり、お櫃の上からどこからともなく四角い氷が降り注ぐ。
それはちょうど、お櫃を一杯にするような量で降り止む。
この魔法は、至高のアイス製作のために、リインと半分冗談半分本気であーでもないこーでもないといいながら組み立てた魔法だ。
あ、もちろん僕も使えるよ。というか、氷結系への魔力の変換技術は、僕の持っている技能の一つだし。
と言っても、フェイトとエリオの電撃や、シグナムさんの炎熱みたいな先天的なものじゃない。勉強と修練により習得したもの。
これはクロノさんにも教えてもらったし、リインに付き合う形で、一緒に研究もしてたから。もち、戦闘レベルのものを使える。
そして、その氷の表面温度は氷点下20度前後になるように調整している。
この状態でうっかり素手で数秒触れば、氷と肌が仲良くディープキスするはめになる。なので・・・・。
「リイン、手を出して。・・・これでよしっと」
「はいです。ありがとうです恭文さん」
「どういたしまして。それじゃあさっそく・・・」
保険として、リインと手袋をつけ終わったら氷が溶けないうちに、僕とリインは金属で出来た、円筒形の容器を持つ。
この容器は、横にしても中身が漏れない密閉状態を作れるもの。それが・・・五つ。
多少、口が広い作りにはなってるけど、これ自体は普通だ。
その中にはアイスの材料・・・牛乳やバニラエッセンス、あとその他必要なものが既に入っている。
というわけで、これをゴリゴリして、アレしてコレして、数分後・・・。
「「出来たーーーー!!」」
二人して時間も考えずつい叫んでしまった。ま、別にいいでしょ。
「フェイト、師匠、ギンガさんもお待たせー! 出来たよー」
「恭文さんとリイン特製、至高のアイスクリームです〜」
「お、出来たか!」
「・・・あら、美味しそうね」
「ホントに美味しいんだよ。私もこれ、大好きなんだ」
「久しぶりだな・・・一度しか食べてないのに、あのおいしさは忘れたことはなかったぜ・・・」
ウキウキが体中からにじみ出てる師匠とフェイト、それにジン。
そして、まだこれが普通のアイスだと思っているのがありありと伝わるギンガさんが、リビングのテーブルによってくる。
・・・ふふふ、ギンガさんの反応が楽しみだねぇ。このアイスを初めて食べた人の反応がこれまた面白いのよ。
師匠の時はミ○ター味○子ばりのリアクションが見れたからね。そのおかげで部屋が散らかって掃除が大変だったけど。
「まぁ、とにかく溶けないうちに食べましょ」
みんなの前にアイスを置いて、スプーンも置いて・・・・それではみなさん、ご一緒に。
『いただきまーーーす』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・とりあえず、見た感じは普通のバニラアイスよね? 至高のっていうから、どんなものが出てくるのか思ってたんだけど。
とは言え、あのヴィータ副隊長に、フェイトさんまでが、すっごく楽しそうにウキウキしながら待っていたしろもの。ただのアイスとは思えない。
まずは、食べてみてからだよね。私は、スプーンでアイスを一すくいして、口へと運ぶ・・・パク。
結論から言えば、このアイスはおいしくはなかった。
だからと言って、マズイという意味ではない。
・・・美味。そう、これは言うならば美味っ!!(前になぎ君が、某小説で美味しいを越える表現として使っていたとおしえてくれた。)
なんなのこれっ!? こんなアイス食べたことがないわっ!!
口に入れたとたんに広がるヴァニラの風味と、仕事の疲れが吹き飛ぶような甘味。かなりのレベルだと思う。
でも、それがこのアイスの真価ではない。このアイスの凄いところは・・・食感だ。
口に入れて、溶けていく時の食感が、普通のアイスに比べてはるかに柔らかい。
あっさりとしていて、溶けてから名残惜しさを感じてしまうほど儚く、柔らかい口溶けの感触。
でもそれは、ソフトクリームのようなトロっとした感じではなくて、普通のアイスとソフトの中間とでも言うのか。
舌の上で氷の粒の一つ一つが踊るような・・・それらが私の舌を刺激して、なんともいえないハーモニーを・・・。
だめ、上手く言葉に出来ない。言葉にすればするだけ、嘘になりそうな感じ。
とにかく、このアイスの食感を知ると、普通のアイスの溶ける感じがどうにも硬く思えてしまう。これは・・・。
「ギガうまだろ?」
「えっ!? ・・・はい、ギガうまです。というかすごいです」
ニヤニヤしながら私のほうを見るヴィータ副隊長の言葉に、ただただ呆然としながら返事をする。
うん、なんというかほんとにすごい。そして美味しい。食感が変わるだけでここまで違うなんて・・・・。
「フフフッ。恭文さん、ギンガが感心してますよ?」
「だね。まぁ、喜んでくれたみたいでうれしいよ」
なぎ君とリイン曹長もニコニコと嬉しそうに私を見ている。もちろん、自分達の分を食べるのも忘れない。
それは・・・フェイトさんもか。すごく幸せそう。
「いやぁ、これが食べたかったんだよ。ありがとな恭文、これで明日からまた気合いれていけそうだ」
「リインも幸せです〜♪」
「そうだね。私も・・・こう、幸せだよ。凄く贅沢してる気分」
「なら、よかった。師匠、いつでも言ってくださいね。作りますから。あ、もちろん、リインとフェイトにも」
「おう」
「はいです♪」
「・・・私にはないの?」
「ギンガさんも、また食べたいの?」
なぎ君の言葉に、頷く。そう、私だってスバルほどじゃないけど、アイスは大好き。
これほどの物なら、是非また食べたい。というより・・・自分で作りたい。私の胃袋が満足するくらいに。
「いいよ〜。詳細なレシピ、あとでメールしとくから」
「うん、なぎ君助かる。これ、父さんにも食べさせたいから」
「・・・ね、ヤスフミ。それなら私にもレシピ教えて欲しいな。ヴィヴィオにも食べさせたいし。あ、もちろんヤスフミにも食べて欲しいな」
「そうなの? なら、楽しみにしてるね」
「うん、楽しみにしてて。とびっきり美味しいの作るから」
そう言って、みんなまたニコニコしながらアイスをほうばる。
・・・うん、幸せそうな顔してる。作ったなぎ君でさえ、どっかの世界にいっちゃいそうな顔してるし。
「・・・ね、なぎ君」
「ん、なに?」
「レシピ見れば分かるんだろうけど・・・気になるから先に教えてほしいな。このアイスって、どうやって作ったの?」
「うーんとね、普通に作った」
へぇ、そうなんだ・・・って、そんなわけないでしょ!?
普通に作ってこの味なら、これはどこでも食べられるはずだよ? でも、私はこんなアイス食べたことないもの。
「いやいや、本当に普通なんだって。ただし・・・」
そこまで言うと、なぎ君は人差し指をピンっと立てて、こう続けた。
「今のアイスの作り方じゃなくて・・・、昔の作り方なんだ」
昔の・・・作り方?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そう、僕が作ったアイスは、決して特別な方法では作っていない。
その昔、ミッドではどうかは知らないけど、僕が生まれた世界、地球では先ほど僕とリインがやっていたような作り方でアイスを作っていたそうなのだ。
材料を入れた金属の容器を横向きに氷の中に押し込んで、それからそこで回転させる。
僕達は魔法で氷を作ったけど、実際には、氷に塩を、氷3:塩1の割合でふりかけてからやる。
そうすると、化学反応で氷の表面温度が−20度以下になるのである。
そうすると、氷に触れて、同じくらいに温度が下がった容器の中に入った材料が、少しずつ凍っていくのだ。
回転させるのは、筒の中で材料が、均等な厚さでアイスになるようにするため。
横向きにおくと、中の材料は、筒の横側・・・下の部分に溜まる。そこから、材料を筒の中全体に回るように回転させると、均等に凍っていくのだ。
だから、氷の中で時計みたいに回転させるんじゃないよ? そんなことしても、ずーっと一部に溜まりまくりだし。
で、頃合を見て、容器の中にくっついたそれをスプーンなどでこそぎ落として、カップに盛り付ける。やったのはこれだけである。
「うん、それは作業をちょっと見てたから分かるんだけど、それだけじゃないよね?」
≪マスターは特別なことは何一つしていません。問題は、アイスが出来る時の温度なんです≫
実を言うとこの作り方は、翠屋の手伝いをしていた時に教えてもらって、物は試しと店主である士郎さんと桃子さん監修のもとにやってみたこと。
で、それを師匠やリインに食べてもらったところ、大好評だったので、定期的に作っているのだ。
士郎さんと桃子さん曰く、現在流通に回っているアイスは、長時間の運送や保存も考えて、必要以上に低い温度でアイスを作っているらしい。
「それが確か・・・氷点下40度前後だっけな。これは20度前後で固めちゃうから」
「でも、それだけでここまで違いが出るの?」
「アタシも初めて聞いた時はビックリしたんだけどよ。−40度まで下げちまうとだとアイスが硬くなりすぎるってんだよ」
「その通りです。つまり、その温度差が普通のアイスとこのアイスの違いになるのですよ」
そう、師匠も今言ったけれど、必要以上に低い温度で固められた今のアイスは、昔より硬い口どけになっているということだ。
このアイスは、それに比べると若干口当たりが柔らかく、その感触が心地よいだけである。他はそれほど変わっていない。
まぁ、あとは好みの問題だと思う。美味しいのは確かだけど、だからといって今あるアイスが美味しくないってわけじゃないしね。
・・・僕は好きよ? 100円のカップのアイスとか、モナカで真ん中に板チョコ入ってるやつとか、3○とかさ。
「なるほど・・・。納得した」
「まぁ、作る手間が少しかかるから、量は多く作れないってのが欠点だけどね」
例えば、このやり方のままで沢山の量を一度に作ろうと思ったら、大量の容器と氷を用意して、ゴリゴリゴリゴリしなければならない。
そんなの非効率なので、あれやこれやと対策を考えないといけないでしょ。
そんなわけで、ギンガさんやスバルやエリオみたいにビックバン盛りぺろりな方々を、量で満足させるのはちと難しいのだ。
まぁ、だからこそ・・・。今のように冷凍技術の発達してない時代では、アイスクリームは一部の特権階級だけが味わえるものだったんだけどね。
「でも、これだけ美味しいと山盛りで食べたくなっちゃうね。・・・挑戦してみない?」
「絶対に嫌です」
「ヤスフミ、せっかく美味しいって言ってくれてるんだし、もうちょっと善処してもいいと思うよ?」
いや、どうやって作れと? そりゃあ色々考えれば出来るかもしれないけど・・・。
温度調整とかどういう容器で作るとかの問題を解決しないと難しいって。
・・・つか、こういうのは本職の桃子さんやらお菓子会社の人の仕事だよ。
みんな、戦闘シーンとかほとんどないから忘れがちかもしれないけど、僕魔導師だよ?
ほら、タイトルにもあるじゃないの。いつからアイス職人になったのさ?
「まぁあれだ。このアイスは、量が多くなくてもいいんだよ。一口食べて、いっぱい幸せを感じることに意味があるんだからよ」
「さすが師匠。いいこといいますね〜」
でも・・・これがスバルだったら『やってみようよ恭文っ! 私も手伝うからっ!!』とか言って、ほんとに大量生産に着手するはめになりそうだよなぁ・・・。
スバルには食べさせないようにしとくか。主に僕の安全な生活を守るために。
「ダメだよヤスフミ。そんな意地悪なこと言ったら、スバルが可哀想だよ」
「なぎ君、スバルがもしそんなこと言い出したら、私も一緒に手伝うから。そんなこと、言わないで欲しいな」
「はい・・・って騙されるかっ! 手伝うってことは、大量生産着手は決定事項じゃないのさっ!!」
「あ、わかっちゃった?」
「当たり前だよ。おねがいだからそういう時はスバルを止めてよ・・・」
ニコニコと笑うギンガさんを見て、心からそう思う。本気でやることになりそうなのが怖いんですから・・・。
「・・・おかわり。」
「・・・ジン、話聞いてた?ないに決まっているでしょ。」
「・・・えぇぇぇ?・・・まぁいいか、ごちそうさん。」
そんな話をしつつも、みんな綺麗にアイスを完食してくれた。その様子に満足して、カップを洗ったあとはコーヒーを出す。
・・・まぁ、インスタントだけど、それでも日本茶よりはいいでしょ。これならミルクと砂糖を入れても問題ないし。
五人とも、ミルクとお砂糖をたっぷり目で頂いて少しまったり。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まったりしながらも、多少真面目な話をしつつ、そうこうしているうちに時刻はもう9時を回っていた。・・・やば、長居させすぎたかな?
「大丈夫だよ。近くにいる部隊員の人に迎えに来てもらうようにお願いしてるから」
「アッシーですか?」
「・・・そういう人聞きの悪いことを言う口は、これかな〜」
「い、いひゃいいひゃいひゃら、ひゃにゃひへ・・・」
・・・ここは、家の玄関。フェイト達は、保管庫で色々漁り中。せっかくだから漫画など借りることにしたらしい。
フェイトの車でみんな来てるから、下に下りればすぐ帰れる。ギンガさんだけ、別口だね。
・・・ちなみに、ジンは一足先に帰っている・・・ま、同じマンションに住んでいるからね・・・特に言う必要はないでしょ。
「ギンガさん、迎えの車って何時くるの? 時間かかるようだったら、中で待っててもらっても・・・」
「あ、大丈夫だよ。もう来てくれてるそうだから」
「また随分と手早いね。やっぱアッシーだよ」
「・・・なぎ君、私怒るよ?」
「嫌だなぁギンガさん。お願いだから・・・そんなに睨まないでほしいな。ほら、綺麗な顔が台無しだよ?」
「じゃあ、これ以上台無しにならないうちに、私の話を聞いてくれるかな」
お説教は嫌です。お願いですからやめてください。アイス食べてみんなでさようならでいいじゃないですか。
だけど、どうにもそういうわけじゃなかったらしい。
ギンガさんの表情が、少しだけ怒りを感じさせるものから・・・真剣な、お仕事モードを感じさせるものへと変わったからだ。
「・・・あのね、なぎ君にお願いしたい事があるの」
「なに?」
「六課解散後なんだけど、うちに来て欲しいの」
なーんか予想は出来ていた。やっぱり、きたか。
「ごめん、ギンガさん」
「・・・やっぱりだめなの?」
即効での返事に、ギンガさんの表情が曇る。
「お願いだから、少しでいいの。考えてもらえないかな?」
「でも・・・」
「もちろん、なぎ君がそういうのに苦手意識があるのも分かる。でも・・・やっぱり来て欲しい。決して悪いようにはしないから」
「ギンガさん・・・」
僕は、108部隊の方で仕事を引き受けていた時に、ギンガさん、それと部隊長であるゲンヤさんから、この話を何度もされていた。
うち・・・108部隊に所属してほしいと。
普通に依頼を受けてやるぶんならいくらでもかまわないのだけど、二人が望んでいることはそれではなかった。
今の僕は、半民間人半局員という、悪い言い方をすれば中途半端な立ち位置になる。
まぁ、だからこそ自由気ままな魔導師生活が満喫出来るわけだけど。
つまり、ギンガさんが今言ったうちにきて欲しいというのは・・・ようするに、正式な局員になって欲しいということだ。
とは言うものの、以前も話したとは思うけど、僕は自由気ままな嘱託魔導師としての生活が気に入っている。
もちろん、どこかの部隊に今みたいに常駐するのも楽しいと言えば楽しい。
それでも、自由でいたい。縛られたくないという思いが、心のどこかにある。
それに、先生のように、旅をするように色んなものを見たいし、色んな戦いがしたいのだ。
一つの部隊に所属すれば恐らく、それは難しくなる。
そういうこともあって、期待させてもアレだと思い今までは即答で断ってきたのだけど・・・。
「その気持ちは分かる・・・と言ったら変だね。私は、嘱託魔導師としてのなぎ君仕事をしたことが無いんだし。
でもね、私も、父さんも、それでもあなたに来て欲しいと思ってる。あなたの能力はよく知っているし、十分うちでやってもいけると思うの」
そんなことないと思うけどな。僕、問題児よ? 108部隊の人達は、叩き上げの方ばかりじゃないのさ。その中で僕なんて・・・。
「そんなことあるよ。・・・その、確かに、自由でいられる時間は、なぎ君が望むように色々なものに触れられることは、今までより少なくなると思う。
でも、もしかしたらそれ以上の物が得られるかもしれないよ。だから、考えて欲しいな」
ギンガさんやゲンヤさんが、僕を心配してる上で言ってくれているのは分かる。こんな僕の能力を買ってくれていることも。でも・・・。
「ごめん、やっぱり今の仕事が気に入ってるしさ」
「・・・そっか」
「ごめん、ギンガさん」
「謝るなら、何度も断らずにちゃんと引き受けて欲しいんだけどな?」
・・・はい、その通りです。なんというか、ごめん。
「もう、謝ってばっかりなんだから。大丈夫、これからも事ある事に勧誘するつもりだしね」
「うん・・・って、なんですかそれっ!?」
「それはそうだよ。自由に、色んな物を見るのも楽しいかもしれない。その中で、色んな戦いをしていくことも、確かになぎ君の性にあっているのかもしれない。
でも、・・・それでもね、やっぱりうちに来て欲しいってどうしても思っちゃうの。私も、父さんも。だって、なぎ君と仕事するの、楽しいから」
ニッコリと、そう言いながらギンガさんが笑顔を向けてくる。
その笑顔が、少しだけ寂しそうな色を含んでいたのは・・・きっと気のせいじゃない。
「それじゃあ、そろそろ私も帰るね。なぎ君、アルトアイゼン、また来るから」
「あ、うん。おやすみ、ギンガさん」
≪また近いうちに会いましょう。ギンガさん≫
「うん、二人ともおやすみ」
そう言って、手を振りながらギンガさんは帰っていった。・・・はぁ〜。
「なにため息吐いてるんだよ」
「気にしないで下さい。男心と秋の空っていうじゃないですか。人の心は、あの月のように移ろいやすいんですよ」
「詩人ですねぇ〜」
「男は生まれついての詩人なんだよ、リイン」
突然後ろからかかった声は・・・師匠とリイン。振り返ると、師匠に、元のサイズにもどったリイン。それとフェイトも居た。
というか、みんなしてその『仕方ないなぁ』って言わんばかりの顔はやめて。
「・・・ね、ヤスフミ。ひょっとしてギンガ、随分前からヤスフミのこと誘ってくれてるの?」
≪ギンガさんだけではなく、ゲンヤさんもですね。マスターの能力を買った上で、やってみないかと≫
「で、恭文さんは断り続けてるわけですか」
「・・・そーだよ。どうも性に合わないしね」
断る理由は・・・さっき言った通り。みんなも、それは察しが付いてるのか、どこか諦め顔。・・・いや、一人違う人が居た。
「・・・ね、まずやってみてから考えてもいいんじゃないかな?
ヤスフミの能力なら、108でも問題なくやっていけるだろうし、ギンガやナカジマ部隊長だって喜ぶし」
「・・・二人が喜ぶためにやるって、間違ってるから。それに・・・フェイト、知ってるでしょ?
僕は、組織のためや、世界のためとか、人のためとか・・・そんな理由に背中を預けて戦うの、嫌なの」
≪お二人にも、その話はしています。マスターはそんな大層なタマではないと。
ですが・・・それでも誘ってくれているのです。申し訳ないというか、なんというか・・・≫
「・・・そっか」
僕が戦うのは、自分が守りたいと思うものを守り、壊したいと思うものを壊すため。
簡単に言っちゃえば・・・自分のため。自分の勝手のため。それは、嘱託魔導師になってからも変わらない。
僕の、ずっと前から持っている戦う理由。通したい意地と理想。
組織に入ると・・・どうしてもね。今くらいが丁度いいのかもしれないと、常々思う。
「ま、それはお前が決めることだ。アタシらがとやかく言うことじゃないだろ」
「・・・ですね」
「まぁ・・・ただよ、恭文」
「はい・・・」
「詰まるようなら、アタシらに相談しろ。お前、一人で抱え込むとこあるからよ。
つか、抱え込んでるだろ」
・・・師匠は言い切った。迷い無くである。なんというか、やっぱり、師匠だね。うん。
「・・・はい」
「まぁ、お前はまず自分でアレコレやってみて・・・ってやつだからよ。無理には聞かねぇよ。
でも、本気で迷ったら相談してくれ。別に、アタシじゃなくてもいいから、ちゃんと誰かに相談しろ。いいな?」
「はい、約束します」
「ならいいよ。この話はここで終わりだ。また明日な、バカ弟子。・・・ほら、いくぞフェイト」
「あ、うん。それじゃあヤスフミ、また明日ね。夜更かししちゃ、だめだよ?」
「またですー♪」
そう言って、師匠達も帰って行った。・・・はぁ。
≪どうしました、マスター?≫
部屋に入り、大きなため息をつきながらリビングに寝転がると、アルトがそう聞いてくる。
「察しはついてるでしょ? どうせ」
≪ギンガさんの誘いを断ったことですよね≫
「そうだよ。なんていうか気が重くてさ」
≪それならば、引き受けてしまえばよかったんです。
そうすればギンガさんに寂しそうな顔をさせずに済んだし、マスターだってそんな気持ちにはなってないのですから≫
・・・分かってるよそんなことは。でも、それでも、どうしてもさ、躊躇うの。
一つの部隊に、正式な局員としてずっと所属している。その普通なことに、強い行き詰まりな感覚を覚えてしまうのだ。
ギンガさんもゲンヤさんも、僕がそういうある種の病気を抱えているのは知っている。それでも、何度断っても、誘ってくれるのだ。
さっきみたいに、そうじゃない。自由でいることより、楽しくて面白いことが見つかるかもしれないと、声をかけてくれている。
いるのに・・・何度も断っているんだから、ほんとになんだろ。これ?
「どうすりゃいいんだろうね、アルト」
≪私は、あなたが行きたいと思う道を共に進むだけです。そして、その中であなたを全力で守るだけです。あなたのパートナーとして、まぁ、照れくさいですけど・・・友として。
道は、迷ってもいいです。悩んでもいいですから、自分で決めてください。今までだってそうしてきたではありませんか≫
「・・・きついね。もうちょっと愚痴を聞いてほしいとこなんだけど」
≪それは可能です。ですが、一つだけ忘れないでください。・・・そうして得られるのは、誰のものでもない、あなたのための、あなただけの時間です。
そのあなたが決めないで、誰が決めるんですか? そんなことでは、最初からクライマックスなどにはなれませんよ≫
「・・・うん、そうだね」
六課解散後は、またフリーの魔導師として、自由にブラブラするつもりだった。
でも・・・ちょっとだけ、最近それでいいのか考えてしまった。
それで、本当に通せるのかと。僕の、戦う意味。守るべきものを守る、騎士としての理由。・・・魔導師だろというツッコミは無しで。
AAAランクの昇格試験も受ける。いい機会だし、それ以外の選択肢、108部隊に入るっていうのも含めて、考えてもいいかもしれないね。
≪それはいいことだと思いますよ。みなさんもきっと喜びます≫
「まぁ、あくまでも考えるだけだよ? 実際そうするかどうかはまた別の話だし」
≪それでも、そう考えるようになるというのは、大きな一歩だと思います。あの方たちとの約束を違えないためにも、きっと必要ですよ≫
・・・だね。なんというか、重いもん約束しちゃったなぁ。おかげでアレコレ悩むハメになってるし。
二人とも、とんでもないもん遺してくれたこと、恨みますよ? いや、真面目な話です。
僕は起き上がって、タンスの中からバスタオルとパジャマを取り出して・・・お風呂に向かう。
いつもは朝入ってるけど、なんというか、今日は今すぐ入りたい。そんなわけで、寝る前にリフレッシュといきますか。うん。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ふぅ〜、やっぱヤスフミのアイスはうまいな・・・
≪今日はいろいろ大変だったな、マスター。≫
・・・あぁ・・・昇格試験か・・・これは覚悟を決めてやるしかないな・・・
・・・そう、これは先生に近づく為に必要だと考えれば・・・乗り切れる気がしてきた・・・ただ、俺の脳裏には先生の姿が思い返される・・・
・・・大空を自由に舞い、バルゴラの性能を最大限に発揮して戦う先生の姿が・・・・・・・・・俺は、あの人に追いつけるのかな?
考えていても仕方がないか・・・今はただ、前に進むだけだ・・・バルゴラ、これからもよろしくな。
≪なんだいきなり?≫
・・・いや、なんとなくだよ。
(第6話に続く)
あとがき
ジン「・・・はい、今回の話はいかがでしたでしょうか?ジン・フレイホークです。」
バルゴラ≪そして、マスターとティアナがいつイチャイチャラブラブするか気になっているバルゴラだ。≫
ジン「・・・なんだその言い方?というか、俺とティアナはまだそんな関係じゃないっ!!それにほら、今回の話じゃティアナが出てきていないじゃないか!!」
バルゴラ≪なにをいまさら・・・それに、今回の話でティアナが出てこないのはマスターがヤスフミと行動を共にしているからだろう?次の話は、ヤスフミとティアナの模擬戦、そしてその次はあの二人のデートだぞ?≫
ジン「・・・それがどうしたんだ?」
バルゴラ≪以前にも言ったが・・・ここにマスターが関わらなくてどうする?ヤスフミにティアナフラグを持っていかれるぞ。≫
ジン「・・・確かにヤスフミは天然フラグメイカーだし、本家ではそこらへんでフラグが立っちゃったけど・・・」
バルゴラ≪そうだ。だからこそ・・・ここでマスターに引っ掻き回してもらわねば。なぁに、既に案は存在している!!≫
ジン「・・・なぁ、なんか嫌な予感がするのは気のせいか?」
バルゴラ≪・・・・・・フフフフフフフフフ♪・・・さて、アレを完成させねばな・・・≫
ジン「待て、なんだその含み笑いは。そしてアレってなんだよ!?前にお前が言っていたことと関係あるのか!?」
バルゴラ≪気にするな。それでは、また次回で会おう!!≫
ジン「だから気になるって言ってんだろぉぉぉぉぉぉぉ!?」
バルゴラ≪・・・・・・さて、どうやら拍手に感想が来ていたようなのでな・・・返事を行うぞ。感想を送ってくれて感謝する。≫
☆頂き物の小説の感想もここでいいよね?答えは聞いてな・・・くはないですけどとりあえずここで。
DarkMoonNightさんの投稿小説を読ませていただきました。ヒロインがティアナ・・・・・・・・・・・・・・・グッジョブ!!ですよ。
もちろん、私的にはコルタタさんのティアナ×ヤスフミ+リインも見たいですが(要望としては×フェイトは無しがいい)、ティアナヒロインは私的ジャスティスなのでとにかく楽しいです。頑張って書いていってください。わくわくしながら待ってます。
追伸 コルタタさんも超頑張ってくださいね。具体的にいえば、ティアナルート作成とか、ティアナルート作成とか、ティアナルート作成とか
by 通りすがりのティアナ派
ジン「え〜、感想ありがとうございます。楽しみに待っていてください。」
バルゴラ≪しかし、この感想を呼んでみると、ティアナの人気に支えられている部分もあるようだな・・・≫
ジン「・・・なんか複雑だな・・・でも、これから俺らのことを知ってもらえればいいな。」
バルゴラ≪そうだな。いかにマスターとヤスフミを弄くるのが楽しいか・・・皆さんに知ってもらわないとな!!≫
ジン「いや、それは知ってもらわなくていい。というかヤスフミも!?」
(本当に終わり)
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