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頂き物の小説
第11話「とある魔導師と守護者と暴君の休日・最終日」






 ……ありえへん。



 スバルとアルフさんを言葉巧みに追い出し……げほごほ。

 もとい、買い物組への援軍に送り出した後、私とリンディさんとティアとリインはこの家のガサ入れとしゃれ込んだんや。





 そこまではよかった。





 でも……この家はありえへん。とてもやないけど18歳の男の子が独り暮らししている部屋とは思えへん。

 ん? なんでそう思うかやて? そんなん決まっとるっ!





 そう、ないんやっ! アレがっ!




















「……ないわねぇ〜」

「だから言ったですよ……」

「いや、一応あったじゃないですか。それも堂々と」

「あんなん『あった』なんて言わへんっ! どこの世界に独り暮らしの部屋に“R18コーナー”なんて作っとるバカがおるんやっ!」





 そう、私らが捜しとったのは、恭文がいろいろとお世話になっているであろうエッチな本やディスクの数々。





 で、一応その手の本はあった。確かにあったんやけど……あんなん認められへんって。

 私らがそれを見つけたのは、恭文が一部屋丸々使っている、漫画やらゲームやらアニメor特撮物のDVDやらの保管庫。

 そして、そこにアレはあった。でも……ちょっちおかしかったんや。





 まぁ、なんつうかアレや。よくビデオ屋さんとかで、『18歳未満お断り』みたいな垂れ幕下がっとる一角があるやろ? まさにアレや。

 漫画やらを置いてある棚の、ほんまにちっちゃい一角に、あの垂れ幕がかかっとった。





 で、私らがアイツの神経を疑いながらその中を見たら、ちょっとエロかったりちょっとエグかったりブラックな漫画やゲームやアニメDVDがいろいろ。

 ふたりエ○チやDM○や○ミキスやらがあったなぁ。ただ、その中にほんまにアダルトな本やゲームや映像ディスクの類はあらへんかった。





 ……なんやねんアイツ、私らの期待を裏切りおってっ!

 ガサ入れする私らにこれを見て「見つけたどー!」と喜べと? そんなんやれるかっちゅうねんっ!

 くぅーっ! 知っとったけど、あいかわらず性格悪いで恭文っ!





 ちなみに垂れ幕には『フェイトはR28になります』という注意書きまであった。

 ……まぁ、これはフェイトちゃんには見せられへんなぁ。フェイトちゃんの性格を考えると刺激強すぎるもん。

 特にふたりエッ○とDM○。D○Cは、読んだらフェイトちゃん発狂するんやなかろうか?





 で、それに呆れつつ、まぁまぁその手の物を隠すのにお決まりなコースを捜したんや。

 あの性悪剣士のことやから、あの垂れ幕にあるので全部とか思わせといて、本命はもっと別のところに……というのを考えたんやけど……





 いろいろ捜したんやで? 本棚の裏とかキッチンの奥とか、パソコンの方に接続しとらんドライブでもあるかと思ったんやけどそれもなし。

 それでここならと思って、パソコンにその手のサイトにアクセスした履歴が残っとるんやないかと思って見てみたんやけど、履歴が全部消されとる。

 アルトアイゼンの仕業やなこれ。いくらなんでも綺麗過ぎるわ。





 それにそれに、私が以前、事あるごとに恭文を動かすために譲渡した、フェイトちゃんのドキドキスクリーンショットもあらへん……

 アイツ、さては携帯端末、もしくは見た瞬間に消去して脳内に保存しとるな? なんちゅう用心深いヤツや。

 そんなワケで今回のガサ入れは収穫はなしというワケに……ムカつくーっ!










「恭文さん、前にはやてちゃんが遊びに来た時にそういうの見つけられて、大騒ぎになったの大分気にしてましたから。
 というか、かなり恨んでましたから……」

「それで、二アそれっぽいのはコーナー作って、あえてわかりやすいようにしておいて、ストライクなのは完全排除ってワケですか。
 ……確かに、リイン曹長も泊まりに来るから、そういうのは置けないって言ってましたけど、だからと言って普通ここまでやります?」





 ティアはそないなこと言うてるけど、私は確信している。アイツはやる。

 人が中途半端なモヤモヤ抱いてイラついてるのを想像して楽しんでたんや。自分の愉しみより、そういうのを遠慮なく取るタイプや。

 まぁ、それだけやないけどな。ティアの言う通り、リインが遊びに来た時に備えてのことやろ。アイツ、リインのこと妹みたいに可愛がっとるし。



 ……いや、それでもやで。アイツの年齢考えたら、これはないと思うんよ。さすがにもうちょっとなんとかしてほしいなと。





「……はやてさん、あなた一体何をしたんですか?」

「いや、なんにもしてませんって。
 ただ、なのはちゃんやフェイトちゃんや家の子達に教えて、ちょぉーっと緊急サミットが開かれたくらいで……ははははは」





 あぁ、みんなの視線が痛い。みんな、なんでそないな諦めるような瞳で私を見るん?私、特に何もしてないで。





「緊急サミットはともかく……あの子、フェイトさんの事好きだもの。そのフェイトさんにそんな部分を見られたんだから、こうなるのは仕方ないと思うけど?」



 リンディさんが、呆れ気味な顔でそう口にする。あぁ……確かになぁ。そう考えるとちょっと悪い事したかもしれへんなぁ。あははははは。



「……アイツ、やっぱりフェイトさ……フェイト執務官のこと好きなんですね」

「『フェイトさん』でいいわよティアナさん。今は私もあなたも仕事ではないんですから」

「あ、はいっ! 失礼しました」

「そうやなぁ。恭文、アレな性格に似合わず、思い込んだら一途やし」

「出会った時はちょこっとだけやり合ったんですけど、でも、すぐに仲良くなったです。
 それで……」

「今までずっと……ですか?」





 ティアの言葉に、リインがうなずく。そう、アイツは8年間ずっと片想いや。そして、すごくがんばっとった。

 とは言え……アレは見込みないからなぁ。フェイトちゃんはあくまでも弟としてしか見てへんし。

 正直、恭文がそれを突きつけられて凹んどるのは見ててキツイんよ。アイツ、平気な顔する分押さえ込む方やから……





 ……どっかから『自分の事はどうなった?』なんていう電波が届いたけど……無視や!





「それじゃあ、今はあくまでも姉弟みたいな感じってことですか?……少なくともフェイトさんは」

「そうなるわね……
 一時期、思い詰めて、あっちこっちの世界の呪術や黒魔術の資料を買い漁るくらいにがんばってたのに、それでダメってどういうことかしら」

「それはがんばる方向性が間違ってませんかっ!? つか、そんなに追い詰められてたんですね……」

「そうやなぁ、追い詰められてたで。でも、私ら全員で、泣いて止めたけどな。惚れ薬の材料探しのために旅に出る準備までしてたし。材料のありそうな場所聞かれたジュンイチさんも心底困っとったし。
 といいますか、もうこの際フェイトちゃんは忘れて、スバル辺りとくっついてもええかなぁっと」

「って、なんでそこでスバルの名前が出てくるですっ!?」



 私の言葉にリインもティアも、リンディさんまで驚いとる。あれ? 私、そんなおかしいこと言うたかな?



「確かに、恭文さんとスバルはすっごく仲が良いみたいですけど。まぁ、さっきはちょっとケンカしてましたけど……」



 あー、リインがちょっと凹んどる。あー、リインはやっぱり元ヒロインとしていろいろ考えるんやろうなぁ。

 あと……スバルも凹んでたなぁ。そんな状態やったから、話す機会ができればと思ってスバルも買い物班に送ったんやけど、恭文怒らすと怖いからなぁ。



 どれくらい怖いかというと、一回クロノ君と仕事絡みで口喧嘩した時の話を例に挙げようか。

 ……一時間後にクロノ君が『生まれてきてごめんなさい』と鬱な表情で連呼しているくらいかなぁ。つまり、容赦をまったくしなくなる。



 いつぞやは、仕事で同席してた執務官がケガさせられたのにキレて、犯人グループを潰したこともあったな。

 奥の手やら切り札やら切りまくってフルパフォーマンスで大暴れしたもんやから、現場がすごい事に……



 私はその現場写真しか見てないんやけど、アイツの保有火力の高さに恐怖したで。ある意味なのはちゃん2号とかジュンイチさん2号やもん。



 しかも、今回はアイツだけやなくてジュンイチさんまでキレとる。本気で火消ししとかんと……大変なことになる。

 うん、それは間違いない。実際、ジュンイチさんは“JS事件”中で、方針の違いから私ら六課と対立して、隊長格を真っ向から打ち破ってる。しかもみんなの弱点をロコツについた、非常に屈辱感あふれる形で。

 意見が食い違っただけでアレや。あの怒りを放置しとったら……絶対にロクなことにならん。

 さっきのお説教の様子を見る限り、ほんまにマジメに怒ったジュンイチさんにはスバルの存在も抑止力にはならんやろうし……



 とは言っても、ヴィヴィオの前でもあるワケやし、二人ともそないにメッタ叩きにはせぇへんやろ。恭文の場合はそこにさらにフェイトちゃんもおるしな。





「って、凹んでないですっ! というか、元ヒロインってなんですか元ってっ!? リインは今でも充分ヒロインですっ!
 それにそれにっ! 恭文さんとスバルがそうなる要因がわかりませんっ!」



 あぁ、そんな怒らんといて? 可愛い顔が台無しや。 それはそれとして……うーん、そうなる要因かぁ。あるやん、いろいろと。



「例えば、初日で模擬戦やらかして、お互いに普通に話するよりも理解深まっとるやろ。
 私の目から見てもホンマに仲のえぇ友達同士に見えるし、そこから発展していくのは想像に硬くないやろ?」





 恭文は、基本的に人付き合い下手やし、積極的な方やない。つか、慣れてない人間に対して、あれこれ手札さらすことを嫌う。



 にも関わらず、会ってまだ一ヶ月も経ってへんスバルに対して、あそこまで仲ようできる言うことは、結構心許してると思うんよ。



 ほんまにこういうんは珍しいんよな。無神経そうに見えて、意外と人との距離を測るタイプやから。

 あ、ひとつ訂正。『女の子に対して』やな。まぁ、フェイトちゃんがいるから仕方ないんやけど。フェイトちゃん、遠慮なく誤解するしな。





「そうね。それにスバルさんもいい子みたいだし、私としては歓迎だわ。あの子の手綱をしっかり握ってくれそうだもの」

「いきなり結婚みたいな話に飛んでるです……」

「あの……」



 私らが好き勝手な事を言っていると、ティアが遠慮しがちに話しかけてきた。なんやなんや? なんか私らの知らない秘密情報でもあるんか?



「実は、スバルとアイツって、メールでも連絡し合ってるみたいなんですよ。頻度はわからないんですけど」

「そうなの?」



 リンディさんの言葉にうなずくティア……そこまで行っとるんか。

 というか、あの恭文がこの短期間の間にアドレス教えたんか? あやつ、さっきも言うたけど、そんな積極的に踏み出すタイプやないのに。



「スバルが聞き出したとは言ってました。それで、スバルもプライベート用の連絡アドレスをアイツに教えたそうです」

「マジかっ!?」



 なんやなんや、そんなとこまでかい。というか、スバルの方が積極的に……ちゅうことか?

 ふふふふっ、やっぱ恭文呼んで正解やったわ。こんなおもしろい事になってくるんやからなっ!



「リイン、ティア、二人とも協力しい。恭文とスバルくっつけるでっ! あと、リンディさんもよろしくお願いします」

『いや、なんでそうなりますっ!?』



 まったく、3人ともわかってへんなぁ。ええか?



「スバルは、アクティブでどんどん外に出て行くタイプや。しかも、私らが来る前の話を聞く限り、あの引きこもりにしっかりと喝を入れられるときとる。
 その上、可愛いしスタイルもえぇし性格も○。セクハラしても怒らへんし、お胸も最近ぐんぐん成長しとるし触りごこちも抜群やっ!
 恭文にはこれ以上ない逸材やでっ!」



 つーか、私がどうにかしたいくらいや。恭文にはもったいなさ過ぎるで。

 それに、そうはならなくてもあやつがフェイトちゃん症候群から抜け出すキッカケになれば御の字や。一途過ぎて完全に引きずっとるしなぁ。



「いや、八神部隊長。それ半分以上は部隊長の要望ですよね?」

「なんか言うたかティア?」

「いえ、なんでもありませんっ!」

「なるほど……そういう事なら協力しましょう」

『いや、なんでそうなりますっ!?』



 いやぁ、リンディさんは話が早くて助かるわぁ〜。



「だって、楽しいじゃないこういうの。あ〜、クロノ達以来だからちょっと緊張しちゃうわー!」



 ティア、リイン、そんな呆れたような顔したらあかんで? 基本的にこの方はこれが地や。ティアはともかく、リインは知っとるやろ?



「それは……知ってるですけど……」

「そういうワケで、がんばりましょうはやてさん!」

「はい、リンディさん!」

『おーっ!』

「……もう止められないんですね」

「はいです……というか、ジュンイチさんに怒られたのにちっとも反省してないです。
 それで、私もティアも巻き込まれてるです……」

『はぁ〜』





 二人とも、ため息吐かんといてくれるかな? なんか私らが悪いみたいやんか。それはそうと、ジュンイチさんが戻ってくる前にさっそく作戦会議や!









 ……と、思ったんやけど……









「…………その前に、少しいいか?」



 突然声がかけられた……それまでブイリュウと二人して会話に加わらずに(というかついて行けずに)いたマスターコンボイや。



「どないしたん?」

「貴様らがバカをやりだす前に、聞いておきたいことがある。
 もっと言うなら……蒼凪恭文達が戻る前に」



 バカって何や、バカって。私らは真剣にアイツのためにやな……

 ……まぁ、そこはいいか。なんやマジメな話みたいやし。



 けど……何やろ? 恭文の帰りを気にするっちゅうことは恭文がらみやろうけど……



「で、何やの?
 恭文には聞かれたくない話みたいやけど」

「柾木ジュンイチのことだ」



 えっと……つまり、恭文が絡んだジュンイチさんの話……ってことか?



「そうだ。
 先ほどの説教を見て、少し気になってな」



 言って、マスターコンボイはティア……のとなり、ほんまやったら相棒の定位置と化しているその空間へと視線を向け、



「あの時……柾木ジュンイチはスバルに対しても貴様らと同じように怒りを爆発させた。
 本来なら、アイツにとっては何にも増して守るべき存在である義妹を、蒼凪恭文のために容赦なく糾弾した。
 つまり……ヤツにとって、蒼凪恭文はスバル以上に優先される存在だということになる」



 マスターコンボイの視線が私に向く――もうこの時点で、私にはマスターコンボイの聞きたいことがだいたい予想できていた。



「……あの二人の間に何があった?
 いったい何が、柾木ジュンイチにあそこまでさせる?」

「本人に聞けばえぇやん」

「話すと思うか? あの二人のあの性格からして」



 ……話さんやろーなぁ……



「だから貴様に聞いている。
 もちろん、語れない理由があるならムリには聞かんが……」

「あぁ、そういう心配はあらへんよ。
 後で話したことがジュンイチさんにバレても、照れ隠しのギガフレア一発我慢すれば終わるやろ」

「…………それ、耐える基準として間違ってないですか?」



 気にしたらあかんよ、ティア。

 さっきのジュンイチさんの登場見たやろ? あの人はツッコミ目的でも容赦なく戦闘スキル大盤振る舞いする人なんやから。

 しかも今の私達を見ればわかるとおり、後に引くダメージはまったくのゼロ。アレで非殺傷設定使えないっちゅうんやで、絶対何かズルしとるよな。



「まぁ、それでもできれば情報の出所は秘密にしてくれると助かるけどな。
 実はやな……」











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第11話「とある魔導師と守護者と暴君の休日・最終日」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 うー、重いよー。キツイよー! 恭文少し持ってー!






「ダメ、見てわかるでしょ? 僕だって手一杯なんだよ」

「だって、恭文は男の子でしょ? 女の子が困ってたら助けなきゃダメだよ」

「イヤだなぁスバル。僕が困ってた時に助けてくれた? 例えばさっきとか。
 つまり……そういうことだよ」

「……ゴメン」

「いいよ、謝らなくても。つか、今さら謝っても遅い。とりあえず、重いのはどうにもならないから我慢して」





 さっきからずっとこの調子。いつもより言葉に棘がある。

 いつもは……意地悪されてもそんなのまったく感じないのに……今はすっごく感じる。実弾で撃たれてるみたいな、心に突き刺さる痛みがあたしを支配する。

 恭文、怒るとこうなるんだ。それにお兄ちゃんまで怒らせちゃうし……あたし、何やってるんだろ。





 あたしは恭文達に追いついた後、近くのスーパーに行ってお昼用の食材の買い物をしてきた。





 途中、恭文が試食コーナーでウィンナーをヴィヴィオと一緒に美味しく食べてたのをなのはさんが引っ張ったり。

 恭文が籠に入れたトマトをさりげなく元の棚に戻そうとしたのをフェイトさんに見つかって怒られたり。

 恭文がアルフさんとドッグフードの美味しさについて語っていたのを見て軽く引いたり。

 恭文とお兄ちゃんが買うお肉の種類でモメて殴り合いになりそうになったのをあわてて止めたり。





 そんな事もありつつ買い物を終えて家に戻るところなんだけど……重いよーっ!





「人数分だとそうなるさ。だから、トマトを置いておこうって言ったんだよ。そうしたら軽くなるのに」

「ダメだよ、ヤスフミ」

「そうだよ、好き嫌いするから身長伸びないんだよ? ね〜、ヴィヴィオ」

「うん、好き嫌いはダメだよ恭文!」

「……はい」



 なのはさん、フェイトさん、ヴィヴィオに怒られてしょんぼりになる恭文……なんというか、弱いなぁ。



「まぁ、トマトは、恭文が食べやすいように何かしら手を加えて出すから」

「ホントにっ!? ありがとうアルフさんー!」

「ただし、残さずちゃんと食べろよ?」

「わかっていますって、生のがダメなだけで、そうじゃなければOKですから」



 そう言うと急にニコニコしだして鼻歌なんて歌いだした。



「っと、そうだ。スバル、荷物一旦下ろして」

「へ?」

「いいから早く」





 恭文に促されて、あたしは持っていた買い物袋を慎重に、ゆっくりと地面に下ろす。

 そうすると、恭文も同じように下ろして、あたしがさっきまで持っていた方の袋を持って……





「……うん。スバル、こっちは僕が持つから、スバルは僕が持ってたヤツ持って」

「え?」

「いいから……重いのキツイんでしょ?」





 そこまで言うと、プイっと先を歩いていたなのはさん達の方へ小走りで駆けて行く。

 よいしょっと。あ、少しだけ……本当に少しだけなんだけど、こっちの方が軽い……恭文。

 あたしも、さっきまで恭文が持っていた買い物袋を持って、なのはさん達の方へ駆け出した。そうして追いつくと、恭文のとなりに行って、また一緒に歩き出した。





「恭文」

「ん、何?」

「ごめん」

「あやまっても遅い」

「……ごめん」

「なんでそんなに何度も謝るの? 僕のこと嫌いなんだから、そんな必要ないでしょ」



 ……嫌いじゃ……ないよ。さっきはものの弾みで……

 ううん、そんなのきっと恭文には関係ない。悪いのはあたしなんだから、ちゃんと言わなくちゃ。



「だって、恭文、自分のことだけじゃなくて、あたしとティアの事も心配して、どうしようって考えてくれてたのに。
 フェイトさんに誤解とかされるのも、本当にイヤで……でも、あたし、何にもしてなくて……そんなの無視で責めたりしたし。あたし、謝ることしかできないから」

「……そうだねぇ。ま、僕はなのはみたいにまっすぐでもないし、スバルから見ればダメダメで嫌われて当然なのかもしれないけど」



 ……そんな……ことないから。あたし……ごめん。



「……ごめん、ちょっと意地悪しすぎた。もう僕は気にしないから」

「ホントに?」

「うん、ホントに」





 恭文は、あたしをじっと見てくれてる。いつもの、素直じゃないけど何処か優しさを感じる瞳。

 さっきまでの、イライラや棘は……そこには感じなかった。ありがとうね、恭文。





「まぁアレだよ、今度こんな事があったら、僕の話も少しは聞いてほしいかな……何回も言ったけど、結局僕ひとりで事情説明して、ジュンイチさんがまとめてくれて……でもスバルは立場気にして発言しないし」



 うん、しなかった。恭文やお兄ちゃんに全部押しつけてたよ。



「それなのに偉そうなこと言われたら、そりゃあムカつくさ。何様かと思うさ。フェイトやみんなの誤解を解くのがどれだけ大変だと思ってるの?
 いつもあんな感じなんだから、手間はかけさせないで欲しいよ」

「はい、反省してます……」

「ちゃんと解ってる?」

「解ってます……」

「うん、ならよろしい……スバル、ゴメン」

「え?」



 恭文が、あたしの方を真剣に見ながら、そう言ってきた。それだけ言うと、プイっと前を向いた。だけど……言葉は続いた。

 誰でもない。あたしに対してだけの言葉が。




「まぁ、僕もスバルに対して、ちょっとだけイヤなこと言ったしね。一応、謝っとく。
 ……ゴメン、スバル」

「あ、ううん。大丈夫だから。あの、その……うん、大丈夫だよ」

「なら、よかった。
 あー、スバル。ご飯美味しいの作るから、いっぱい食べていいよ。で、僕もいっぱい食べる。それで……仲直りかな?」

「うんっ!」





 そんな事を話している間に、家に到着した……もうすぐだね。なんか、ちょっとケンカしちゃったから……おなかペコペコだよー!





「あ、それと」

「なに?」

「……スバルだって、フェイトに負けないくらい魅力あるよ? 方向性が違うし、僕がフェイト以外アウト・オブ・眼中ってだけの話で、それを抜きにして見れば可愛いと思うし」

「えっ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



“……ねぇ、フェイトちゃん”



 スバル達には気づかれないように、念話で会話する。



“うん、何かな?”

“スバルと恭文くん、隊舎にいる時から思ってたんだけど、すごく仲良いよね”

“そうだね。やっぱり戦ってみて、いろいろと理解が深まったのが大きかったんじゃないかな? ほら、前衛系はそういうところあるし”

“そうかもしれないね。でも……”



 恭文くんとスバルの仲がいいのは、すっごくいいことだと思う。

 そういう関係に発展するかは別として、恭文くんは少し引っ込み思案なところがあるし、そんなあの子の交友関係が広がるのは友達としてうれしい。



 私達は大丈夫なんだけど、慣れていない人に対してはちょっとだけ距離を置くところがあるから……昔のことや、フェイトちゃんのことがあるから。

 というか、フェイトちゃん全然気づかないんだもん。私だって、気づいたっていうのに。





 でも私は、それでも少しだけ気にしていることがある。それは……





“スバルのことだよね”

“うん……”



 私やフェイトちゃんにはやてちゃん。あとフォワードのみんなは、スバルの身体のことはもちろん知っている。

 でも、恭文くんは……多分知らない。

 ジュンイチさんも、きっと教えてない……悪ふざけが過ぎるように見えても、あれですごく義理堅いところのある人だから、スバルも意思も確認しないで恭文くんに、っていうのはないと思う。

 まぁ、恭文くんなら大丈夫だとは思うんだけど、やっぱりどうなるのかが心配だったりする。



“なのは、ヤスフミは、多分そういうことは気にしないと思う”

“うん、絶対にそうだと思う。だとしたら、気にするのはスバルの方かな?”

“だと思うよ……どっちにしても、ヤスフミともスバルとも、一度ちゃんと話す必要があるよね”

“うん”



 フェイトちゃんと念話しながらも、私達はエレベーターに乗って、部屋のある6階に到着した。

 そうしてドアを開けると……え?



 なんか、すっごぉぉぉぉぉく甘ったるい空気が漂ってきてる……何これっ!?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あー、やっと帰って来た。ちかれたー。さて、お昼だーっ!

 などとスバルとヴィヴィオと一緒にウキウキしていたら、部屋の中がなんとも言えない空気で満たされている。なんですかこれ?



 ……まさかっ!



 僕は、荷物を持ったまま、リビングへと駆け出した!

 そうして見た光景は、想像を絶するものだった。





《マスター、これはまさか……?》





 アルトの言葉に僕はうなずく。ティアナが、リインが……悶絶している。





「あ、アイツ……こんな漫画、持ってるんじゃないわよ……」

「恥ずかしいです恥ずかしいです恥ずかしいです恥ずかしいです……」



 ……何やってるのあなた方。



《何をどうしたらこうなるのですかマスター?》

「僕が聞きたいよ」





 そう思いながら僕は食材の入った買い物袋をキッチンに下ろす。

 それからまたリビングへと戻り、もう一度リビングの床に突っ伏して悶絶している二人の周囲を見る。



 そうすると、単行本サイズの本が何冊か落ちていた。保管庫の漫画持ち出して読んでたのか。しかし、何読んでたんだ?

 ……あぁ、納得。これ読んでたのか。





 そして、二人が読んでいたであろう本を手に取る。そう……○ミキスのコミックを。





 これ、ほんとに甘ったるいもん。アレだよ、ボーイ○ビーとかと同じ甘さだよ。

 妄想全開なノリだったりするんだけど、こういうことあったらいいなぁとか思ってしまったりするところが恐ろしい作品なのだ。



 普通、こういうのは『こんなのあるワケねーよ!』とか言いながら読むものだったりするのに……真芯にきちゃいましたか。

 というか、キミ達こういうのに耐性なかったのね。特に、リインはまだまだお子ちゃまだしなぁ。



 あと……うわ、To LOVE○にいち○100%に初恋○定に……涼○も読んだのか。おもしろいけど、これらも破壊力大きいからなぁ……相乗効果って怖いよ。





「てか……そんなことしなくちゃダメなの……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

《マスター、この方々はどうしましょうか?》





 ……とりあえず、この方々をどうにかするのはなのは達に任せて、本を片づけるか。

 これらをヴィヴィオに見られでもしたら、なのはとフェイトが鬼になる。そして、それよりさらにジュンイチさんが怖い。



 そうこうしていると、なのは達もリビングに駆け込んできた。もちろん、買い物した荷物はしっかりと持ったまま。





「……リインにティアナも、どうしたのっ!?」

「あぁ、ティアナ〜。しっかりしてー!」

「と、とりあえず、右斜め45度で叩けば治るかもっ! えいっ、えいっ!」



 ゲシッ! ゲシッ!



「……フェイト、それはいろいろと間違っていると思うよ?」

《同意見ですアルフさん》

「その通りだ、フェイト。そんなんじゃダメだ。
 ……やるならグーで」

「はいっ!」

「いやっ、そーゆー問題でもないからっ!
 そしてフェイトは少し落ち着いてっ! いつも目の敵にしてるジュンイチさんの指示にも反射的に従っちゃうくらいテンパってることに気づいてっ!
 何よりジュンイチさんは何をあおってますかっ!」

「何を言うか。
 メリケンサックを手渡さないだけまだ良心的じゃないか」

「比較しづらいシチュと比較すんなっ! てか持ってんのかメリケンサックっ!」

「はい」

「………………いや、僕が悪かったから『何言ってんだコイツ』みたいな顔しながら迷わず現物差し出さないで」



 まぁ、とりあえずフェイト、あんま殴らないようにね? やりすぎるとそれがとどめになるし。



「恭文、ご本片づけるの? ヴィヴィオも手伝った方がいい?」





 ヴィヴィオが僕の服をくいくいとひっぱってそう聞いてくる。うむぅ、目ざとい子だなぁ。

 ヴィヴィオの申し出はありがたいのだが、もちろん、断るしかない。こんなもんを見せた日には、さっきも言ったように、二人の鬼とひとりの破壊神を生み出すこととなる。そんなのはイヤだもん。





「あー、本は僕だけで片づけられるから、ヴィヴィオはあそこで伸びてるお姉ちゃん達を、ママと一緒に起こしてくれるかな?
 起こさないとご飯食べられないし」

「うん、わかったー」





 テクテクと歩きだしたヴィヴィオは、フェイトにならって右斜め45度でリインの頭を……あ、なのはが止めた。

 まぁ、こっちは放っておいても大丈夫でしょ。さ、お片づけお片づけ〜♪



 そう思って、僕は本を全部抱えて、保管庫に入ると……やっぱりここにいたか。





 リンディさんとはやて、それからブイリュウが保管庫を漁っていた。





「…………むぅ……よくわからん」



 そしてマスターコンボイ、キミもここにいたんかい。そして付き合わされてるのか。

 とりあえずマスターコンボイ、キミにふ○り○ッチはまだ早いよ。



 ……あ、投げ出した。で、R18コーナーの脇の全年齢コーナーに手を伸ばした。

 うーん、ジ○キとはお目が高い。今度18禁でゲーム出るけど、原作は一応全年齢対象だし……いや、単にロボットバトル漫画だから惹かれただけだろうね、マスターコンボイの場合。





 …………うん、話戻すか。





「リンディさん、はやてやブイリュウも、マスターコンボイ巻き込んで何してるんですか?」

「あ、恭文くんお帰り。
 いえね、何かおもしろい本でもないかと思って……何か借りていってもいいかしら?」

「かまいませんよ。ただ、人からの預かり物もありますから、扱いさえ気をつけてくれれば」





 僕の家の保管庫で眠っている漫画やDVDやゲームの類は、全部僕のものというワケではない。

 同じような趣味の友達が『部屋に置き場がない』という理由で、ここに持ち寄ってきてるのだ。



 一応、その友達一同には、『扱いさえ気をつけてくれれば、又貸しになってもかまわないから』という風に言われているので、貸しても問題はない。

 というか、ダメにしたら弁償してくれればいいからと言われている……何なんですかあの方達は?





「なぁ、それやったら私も何か借りてってもえぇかな? 意外と移動中がヒマな時多いんよ」

「それだったら、ライトノベルとかがあるからそれ持ってっていいよ。小説だったら時間つぶせるでしょ。
 あとは携帯ゲームとか。本体は貸せないけど、ソフトだったらOK」

「なるほど、そやったらええのあったら借りとくな」

「あ、ならオイラもーっ!」

「私も後で何冊か借りてくわね。そういえば、フェイトさん達も帰ってきてるの?」

「えぇ……リンディさんは平気だったんですか?」

「何が?」

「これですよこれ。相当破壊力強いはずなのに」



 持ってきた本を指差しながら聞いてみる……まぁ、答えは予想できるけどね。



「あら、それくらいは普通でしょ? 私、これでも子持ちでおばあちゃんなのよ?」



 そこまで言うと、リンディさんは軽くウィンクしてくる……やっぱりですか。いやまぁ、予想はしてたけどね。さすがに大人は強いよ。



「ただ、キミキ○はリアルな感じはしなかったかしら。こういう恋愛がしたいの?」

「いや、僕はもっと普通がいいです。さすがにこれは……ねぇ」



 うん、普通でいいです。もうちょいスローな感じじゃないとついていけない。例えば今日の現状とかさ。

 というか、リンディさん、To LO○Eるは普通に入るんですね? いや、管理局のテクノロジーとか考えるとわからなくはないですけど。



「……なぁ、私には聞かへんの?」

「何を?」

「いや、『大丈夫かー?』とか」

「必要ないでしょ。あなた僕と同類なんだしさ」



 つか、この保管庫の1割くらいはあーたとヴィータ師匠の物なんですけど、まさか忘れてないよね?

 ちなみに、はやては少女漫画やボーイズラブ系、師匠はゲームやアニメDVDの類とジャンルは分かれていたりする。



「……せやったな」

「むしろ、それを聞くならブイリュウだよ。同年代のリインは悶絶してたってのに」

「………………霞澄さんがジュンイチに送りつけてくるのに比べたらこの程度、ねぇ……」

「………………あー……」



 霞澄さんというのは、ジュンイチさんやあずささんのお母さん。

 で、この人……ジュンイチさんの朴念仁を何とかしようとしているのはいいんだけど、そのために「これで女心を勉強しろ!」とエロゲやエロ漫画を事ある毎に送りつけてくる悪癖があるのだ。

 うん。明らかに方向性間違ってるよね。というか、絶対自分の趣味も入ってるよね。

 ともあれ、そんな環境にずっといれば、ブイリュウだって耐性くらいつくか。





 などという会話をしている私に、僕は本をすべてR18コーナーへと戻し、リンディさん達も借りる物を決めたようなので、リビングに戻ると……





「ムリ、絶対ムリあんなの……」

「甘いです甘いです甘いです甘いです……」



 なのは達が、甘さ全開症候群にやられた二人の処置に追われていた……うん、決めた。



「ご飯作りましょうか」

「そうね、二人もこっちの世界へ戻ってきた頃にはお腹すかせてるでしょうしね」

「まぁアレや、こうやってゴタゴタした分、腕によりかけて作るから、期待しといてかまわへんで」





 そうして、この部屋に充満した甘ったるい空気を、窓を開けて換気しつつ、お昼の用意をることとなった。



 ちなみに、二人が復活したのは、作り始めた直後だったのを断っておく。

 意外と復活が早かったね。しっかし、なぜにアレらを読み始めたんだろ?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 うーん、難しい……


 ジャガイモむくのって、こんなに難しいの? 恭文はスルスルむけてるのに……



「当たり前だよ。僕はリンディさんやエイミィさんに散々仕込まれたんだから」

「あら、仕込んだなんて人聞きが悪いわね。うちに料理上手な息子がもうひとりできたらいいなぁ〜という希望をもって、教えたのに」

「リンディさん、それを仕込むって言うんですよ?」



 なんて言いながらも、恭文は自分の分のジャガイモを全部むき終わって、リンディさんはといえば、小麦粉から作る本格的なカレーペーストの仕込を続けている。



「恭文くん、野菜全部むき終わったら、全部切って、炒めといてくれるかしら? あとは肉の下ごしらえもお願いね」

「了解っすー。
 スバル、焦らなくていいからケガしないようにゆっくりね? 僕は他の野菜下ごしらえしとくから」





 うーん、なんか逆な気がする……



 普通、女の子が料理上手で、男の子が苦労しているのを『仕方ないなぁ』とか言いながら楽しく料理するのが図式だと思うのに。

 まったく逆ってどういうことなんだろう?



「……いや、まずスバルの料理スキルが0だってのが、どういうことって話になるから」

「ごもっともです……」



 だって、料理なんてする機会なかったんだもん。ずっと寮暮らしだし……



「リンディさん、ご飯炊けました」

「ありがとうティアナさん、それじゃあそれをおひつに入れておいて、またご飯を研いで炊いてもらえるかしら?」

「了解です」





 今、恭文の家のキッチンは戦場と貸している。お昼は、ヴィヴィオの要望でカレーライスに決定。「栄養バランスも考えなくちゃ」というリンディさんの提案でサラダもつけることになった……と、そこまではよかったけど、この人数。そしてあたしとお兄ちゃん、マスターコンボイさんはよく食べる。

 なので、大量のカレーとライスとサラダを仕込むのに四苦八苦している。



 カレー班はリンディさんが陣頭指揮をとって、恭文は副隊長みたいな感じ、あたしは恭文の下について野菜の下ごしらえ。

 ティアは、ひとり暮らし用の最大五合まで炊ける炊飯器をフル活用して、ご飯を大量に仕込んでいる。



 一方のサラダ班はジュンイチさんとマスターコンボイさん、ブイリュウの3人。

 レシピとしてはレタスをメインに刻みキャベツやコーン、ポテトサラダで彩るだけのシンプルなものにするらしいんだけど……それでも量が量。
 野菜を洗うにも流し台はあたし達カレー班と共用だし、なかなか作業は進まないでいるみたい。洗った後も包丁とまな板の取り合いになりそうだし。



 ちなみに、アルフさんとなのはさんとフェイトさんに八神部隊長とリイン曹長とヴィヴィオは、恭文秘蔵の映像ディスクを先立って見ている。



 料理を手伝うと言ってくれたのだけれど、あたしとティアが手伝うからと言って、ゆっくりしてもらってるのだ。ほら、一応あたし達部下だし。



 リビングを見ると、なんかみんな楽しそうだけど、おもしろいのかな? うる○いし○くちゃんって。





「おもしろいことはおもしろいけど、ヴィヴィオにあのノリは早い気がする……
 そういや、ティアナがご飯の研ぎ方知ってるなんてビックリしたよ。
 このご時世、僕らの世代じゃ知らない子達の方が多いのに……料理得意なの?」

「別に得意なワケじゃないわよ。
 ……訓練校のサバイバル訓練でちょっとやったことがあるくらいよ。どういうワケか、お米を研ぐことしかやらせてもらえなかったけどね」





 それは、野菜を切る時に力を入れすぎてまな板まで切ったり、危なっかしい姿勢でフライパン握ったりしていたからだと思う。





「ティアナまでそれなんだ。つか、よくそれでなのは達に下がっててとか言えたね……」

「そんな呆れ顔しないでよ。だって、私達はほら、部下なワケだし、ちゃんとしたいなって思って」

「いや、料理がちゃんとできなきゃ意味ないでしょうが」



 恭文の言うことは多分正論。だけど、それでも譲れない一線というのがある。局員は、大変なんだ。



「それに、あたしは大丈夫だよ? ギン姉がやってるの見てたしっ!」

「ねぇスバル。シューティングアーツは見てるだけで上手くなった? それと同じことだよ」

《さすがマスター。ツッコミが素晴らしいです》



 恭文の言葉が突き刺さる。でも、今こうしてやってるから、大丈夫だと、信じる。そう、自分を信じることが、未来を切り拓くから。



「いや、それは関係なくない? つか、アンタだって、包丁触らせてもらうことすらさせてもらえなかったじゃない」

「あー、ひょっとして『調理中に敵襲がくるかもしれないから、周りを巡回してくれ』とか言われたの?
 って、まさかそんなワケないか。あははははは」










「……そうだけど何か?」










「……あー、ごめんスバル。うん、僕が悪かったと思う」

「別にいいけどさ。
 実際、ほとんど料理とかしたことないし」

「ナカジマ家ではしてなかったの?」

「うん、お兄ちゃんやギン姉がいればアレコレできちゃってたから。
 というか……お兄ちゃんがいる時は実質キッチンはお兄ちゃんの固有の領土だから」

「ジュンイチさん……」

「いや、オレも最初は教えようとは思ってたんだよ、うん。
 けどさ、オレ自身料理するのは好きだし……クイントさんは譲ってくれてたけど、ギンガのヤツはオレをキッチンから追い出そうとしやがるんだよ。『自分がやるから』っつって。
 なのに、これ以上料理のできるヤツが増えるのはなー、って思って、その……」

「ぅわ、この人、自分の仕事取られたくなくてスバルに教えなかったのか」

《最低ですね》

「…………うん。後悔してる」



 なんて言いながら、やっとジャガイモをむき終わる……長かったよ〜。



「あー、安堵してるとこ悪いけどこれよろしく。むき方はさっき見せた感じでお願い。
 むいてくれたら、あとは僕がさっとみじん切りにするから」



 そう言って、恭文があたしの前にドンっと出してきたのは、タマネギが……15個? え、ちょっと待って。



「これ、あたしが全部やるの?」

「大丈夫、僕もにんじん終わりしだい手伝うから。できるとこまででいいよ」





 そう言って、優しくニッコリと恭文は微笑む……さっきのフォローのつもりなのかな。それで誤魔化されるほど、女の子は単純じゃないよ?

 でも……許してあげる。さっきはあたしがイヤなこと言っちゃったしね。あ、これでおあいこだからね?



 あたしがそんなことを思っている間にも、恭文は包丁で人参の皮を器用にむいて、みじん切りにしていく。うーん、やっぱり逆だよー。





《スバルさん、料理スキルを蓄えてから言ってください。というより、マスターと比べる方が間違ってます。
 愛のために努力したおかげで、無駄にスキル高いんですから。翠屋で鍛えられたのは伊達ではありません》

「愛のためって、アンタ……」

「うー、それはそうだけど……やっぱり悔しいー!」

「なら、スバルさんもティアナさんも、これから料理を始めればいいのよ。きっと必要よ?
 いずれは恋人や、旦那様を持つかもしれないんですから」

「へっ、こ、恋人……旦那様っ!?」



 カレーペーストを、額に汗を浮かべながら仕込み続けるリンディさんが、素敵な笑顔と共にあたし達にそう言ってきた。



 で、でもっ! 恋人とかってそんな簡単には……ねぇ? ティアは綺麗だけど、あたしはどうかわからないし。

 そりゃあ、『いつか母さんみたいに両手でリボルバーナックルの重さをしっかり背負えるようになる』って言ったけど、でも……早いような。





「あー、スバル。そんな顔真っ赤にしなくていいから。
 リンディさんが言ってるのは、そういう特別な人が、自分の手料理を食べて『美味しい』と言っているのを想像しながら作ると、腕が上がるって意味。
 僕も前におんなじこと言われたのよ。で、実際にその通りだった」

「な、なるほど……勉強になりますっ!」





 あぁ、ビックリしちゃったよ。いきなり恋人とかそういう話になるんだもの。でも……そういう相手に食べてもらうところを想像するか。

 うん、上達しそうな感じがするっ! だって……





「スバル、納得したからって、僕をガン見するな。
 けど……まぁ、スバルが今思ってることは事実かな。フェイトが美味しいって言ってくれるの、うれしかったし」

「そっか。うん、そうだよね。なんか解るよ」

「アンタ、意外と一途なのよね。ちょこっと話聞いたけど、ビックリしたわよ」

「よし、リンディさん。何話したんですか? つか、あの漫画読んでたのはそれが原因かっ!」

「……てへ♪」

《リンディさん、舌を出してそんなこと言うのはやめてください。それは、自分がロクでもない人間だと言ってるのと同じですよ?》



 アルトアイゼン、その発言もどうなのっ!?

 あたし達のそんな意見はともあれ、リンディさんはどこ吹く風で、カレーペーストを仕込み続けている……さすが恭文の保護責任者。すごく強い。



「……まぁ、それは置いといてだよ。
 確かにスバルやティアナみたいに、隊舎にいたらなかなか作るタイミングないよね。調理実習とかないかぎりはさ」

「確かにね……てーか、それはどんな学校よ? 前線メンバーの訓練に調理実習って」



 ティアがご飯の仕込を終えて、タマネギを一緒にむくために包丁を持って来てくれた……うふふ、あたしの方がまだ上手だ。



「なんか言ったバカスバル?」

「ううん、でも楽しそうだよ? みんなでアレコレいいながら作るのって。というか、今だって楽しいしさ、今度やってみようか?」

「別にいいけど……どこですんのよ?」



 え? もちろんここで。



「まて待てっ! なんでここっ!? 普通に隊舎の食堂の調理場使わせてもらえばいいじゃないのさ」

「そーよ、大体アンタやエリオはムチャクチャ食べるんだし、とてもじゃないけどここの設備じゃ足りないわよっ!」



 うー、二人してそんなに言わなくたっていいじゃん。いいアイディアだと思ったんだけどなぁ……



「いや、どこが?」

「とりあえず、ここで作るなら、量が必要じゃなくて、人に知られたくないものとかにしてよ。今だって四苦八苦してるのにこれ以上はムリだって」

「あ、じゃあ設備をここに持ち込んで……」



 あれ? 恭文とティアがため息を吐いてあたしから目をそらした。え、なんでどうして?



「……なんというか、大変だね」

「まぁね、アンタも気をつけた方がいいわよ? 下手すると、模擬戦の二の舞だからさ」

「うん、そのつもり……
 さて、人参終わったからタマネギ手伝うよ。むいたヤツどんどん持ってきて」



 なんか、二人とも酷いよ。なんか……涙出てくるしさ。うん、きっとひどい……



「バカ、それはあたし達のせいじゃなくて……タマネギのせいよっ!」

「あー、やっぱこれ慣れないわ。涙が出てくる出てくる。悲しくもうれしくもないのに流れる涙。これいかにってか?」



 恭文、それよくわかんない……



「あ、包丁とまな板持ってっていいか?」

「あ、いいよー」



 と、そこにお兄ちゃん登場。どうも包丁とまな板を借りに来たみたい。

 うー、お兄ちゃん、こっちも少し手伝ってー。



「お断りだ。
 お前らじゃどうしようもないなら手を貸してやるけど、がんばりさえすれば、お前らだけでもできるんだ。手を貸してやる理由はねぇよ」



 あっさりと言い切って、お兄ちゃんは千切りにするキャベツをまな板の上に置き、手際よく真っ二つにする。



「あ、そうだ。
 マスターコンボイ、お前も料理初めてだろう? 試しにやってみるか? 少しだけでいいから」

「お、おぅ……」



 お兄ちゃんに声をかけられ、マスターコンボイさんは包丁を受け取るとキャベツの置かれたまな板の前に。

 ……ものすごく緊張してる。でも、お兄ちゃんの言う通り料理なんて初めてだろうから、当然か。



「…………いくぞっ!」



 意を決して切り始めるけど……それだっておっかなびっくり、といった感じだ。まぁ、あたしがやっても似たようなものだろうけど。



「………………ギブアップだ」

「あきらめ早くないか?」

「せめて後日練習してからにしてくれ。本番である今この時に挑戦して失敗したくはない」

「生野菜サラダなんだから気にしなくてもいいと思うけどなー」



 結局、10回も切らないうちからマスターコンボイさんはギブアップ。苦笑まじりのお兄ちゃんと交代して、ブイリュウと一緒にポテトサラダ用に向こうで確保していたジャガイモをつぶす作業に加わる。

 で、お兄ちゃんはマスターコンボイさんが切っていたキャベツの片割れを軽く左手で押さえる。そして――





 スタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ!





「って、早っ!」



 ティアが驚くのもムリないよ。

 だって、千切りにするお兄ちゃんの手の動きがまったく見えないから。まな板が包丁を叩く音だって、前の音に後の音が被さって聞こえるくらい間断がない。

 さすがお兄ちゃん。味つけ以外は全部八神部隊長に勝ってるって豪語するだけのことはあるよね。



「す、すっげー……」

「ほほぉ……大したものだ」

「相変わらず、すごい腕ね、ジュンイチくん」

「まーな。
 切るだの焼くだの、破壊に類することなら任せとけっ!」



 お兄ちゃん、それ絶対自慢の仕方間違えてる……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 スバルが言っていたけど、みんなでご飯をワイワイ言いながら作るのは確かに楽しい。

 でも、スバルはそういう空気がにじみ出てたけど、まさかティアナまで料理苦手だとは。



 でもさ、マジメな話するとアレだよ。



 男って単純だからさ、美味しい料理なりお菓子なり作って食べさせてくれる女の子にはコロリといっちゃうから、料理できた方がいいと思うよ?

 ……男は料理できてもそんな簡単にはいかないのに、なんか人生の不公平を感じてしまうのは僕だけだろうか?



「アンタだけよ、そんなこと考えるのは」

「……キツイなぁ」

「ね、恭文は、料理できる女の子が好きなの?」

「うーん、僕は食べさせる方が好きだからそういうワケじゃないけどね。
 でも、相手が料理ができたら、例えば一緒に暮らした時に家事とかが楽になりそうだなとは思うかな」

「なるほど……」

「でもでも、リインは知ってますけど、恭文さんは意外と尽くすタイプなんですよ?
 きっとそういう彼女ができても、ついつい甘やかして家事とか自分で全部やってしまうです♪」

『ほうほう……』



 いや、なんでそんなニヤニヤした表情で僕を見るの? 僕はアレですよ、尻にしいて亭主関白なタイプですから、お願いだからそんな目で見るな。



「……まぁ、そういう事にしときましょうか。ね、スバル」

「そうだねぇ。大丈夫だよ恭文。あたし達は、ちゃぁぁぁんと解ってるから♪」



 あー、なんだろう。今のこの二人はすっごいムカツク。ビークルモードのマスターコンボイに乗り込んだ後じゃなかたら蹴り飛ばしたいくらいだ。



 それはさておき、僕達がどこにいるかと言うと、マンションの公共ガレージの真ん前。



 あの後、みんなでがんばって作り上げたカレーとサラダを全員で食べたのだけど、その美味しさもあって、瞬く間に品切れとなった。

 そうやって食事を済ませてみると、時刻はなんだかんだでもうすぐ4時。二人はこのまま隊舎の方へ帰るというので、僕とリインは見送りにきたのだ。

 あと、高町親子とリンディさんにアルフさん、はやてとフェイトも出る準備ができ次第、下りてくる。

 ジュンイチさんとブイリュウはもう少し遅い時間まで大丈夫だからもうちょっといるとか。晩ご飯を作ってくれるつもりみたいで、ホント頭が下がるよ。



 なお、リインは今日はここにお泊り。明日僕と一緒に出勤すれば問題ないそうなので、久々に友情を確かめ合おうという話になった。



 でも、カレー、ホントに美味しくできたな。ヴィヴィオもすっごく美味しそうに食べてくれたし、スバルもいつに増しておかわり連発だったし……

 うん、業務用炊飯器の購入考えようかな? またみんなでこういう機会があるとも限らないし。



「そうして買った途端に、だーれも来なくなるってパターンは考えといた方がいいわよ?」



 マスターコンボイの運転席、運転手席からそう口にしたのはみなさんご存知の素直じゃないティアナさん。

 ……あぁ、わかってるよ。わかってるからそれに関しては口に出さないでほしい。



「あ、それなら今度は来るのを待つんじゃなくて、誰か呼んでみなよ。
 そしたら、業務用炊飯器買ってもムダにならないでしょ?」

「いや、誰を呼べと?」



 人を家に呼ぶのは勇気がいるのだよ。断られたら拭い去れない傷になりそう。

 そう考えると……エリオやキャロあたりか? この辺りなら年上の威厳を悪用してなんとか……



「アンタ、どんだけ引きこもり思考なのよ……」

「そうだよ。別に新しい人ってこだわらなくても、あたし達呼んでくれてもかまわないんだよ?」

「へ……?」



 スバルとティアナを? また来てもいいってこと? 僕は今日、二人のことを何ひとつもてなしてないですけど?

 スバルに至ってはケンカしたし。



「別にそんなの関係ないよ。すっごく楽しかったし。それに……友達だもん。ケンカくらいするよ」

「まぁ、あたしもスバルと同じかな? 部屋を見る限り、いかがわしい感じもなかったしね。アルトアイゼンもいるんだし、問題ないわよ」



 …………………………………………………………



「どうしたですか恭文さん?」

「……いや、なんかこう……恥ずかしい」



 うん、恥ずかしいってのとはちょっと違うけど、こうこそばいくてムズムズして居心地の悪い感じがする……なんだろ、これ?



“恭文さん、こういう時は、素直に『ありがとう』って言えばいいんですよ? 恭文さんは、今うれしいんですから”



 突然届いたリインの念話でのアドバイスに従い……ちとドキドキするけど、言ってみる。



「あの、スバル、ティアナも……ありがとう。そう言ってくれて、なんか……うれしい」



 僕がそう言うと、スバルとティアナがなんというか……

 なんだこれ、びっくりしたような拍子抜けしたような、よくわかんない表情になった。な、なにか変だったの今のっ!?



「いや、ごめん。なんか驚いちゃって。いつものアンタじゃなかったし」



 どういう意味だっ。あー、やっぱこの女ムカつくっ!



「まぁまぁ、別にお礼なんていいよ? また、美味しい物ご馳走してね。あたしも一緒に作るの手伝うから」



 そうニッコリ顔でスバルが笑う。

 ……まぁ、スバルと一緒に作るの楽しかったし……またこういう事があってもいいかな?

 あとは量だな。ここはなんとかクリアしないと。





「ごめん、おまたせー」

「おまたせー」

「いやぁ、すっかり長居しちゃったね〜」

「ほんとね、居心地良すぎて出る時に名残惜しかったわ……いっそここで暮らしちゃいましょうか?」

「あ、そりゃいいね〜。ここならフェイトにも頻繁に会えるし」

「お母さん、アルフも、さすがにそれは……」

「あぁ、せっかくやし私も暮らしたいなぁ。居心地はえぇし、本局行く時も楽やし」



 まてぃ提督さんに使い魔に部隊長。あなた達なにをさりげなくとんでも発言してますか?

 この人達は本気でやりかねないし、ここは奥の手でいこう。



「アルト、クロノさんにシグナムさんに連絡を。引き取ってもらいに来て」

《クロノさんは今は航海任務の真っ最中のはずですが。シグナムさんも仕事中のはずです》



 そんなの知るか。多少脅してもいいからすぐに来てもらって。僕の安全の方が大事でしょうが。



「あー、それならオレがやるよ。
 『お前らが来ないならオレが殺る』とでも言っとけばすぐにでも来るだろ」

「ジュンイチ……容赦ないね……」



 甘いよ、ブイリュウ。ジュンイチさんが言うくらいやらないとこの人達は引き下がらないんだよ。



「イヤだわ、冗談に決まってるじゃない。ね、二、三日なら泊まっていってもかまわないかしら?」

「とっとと帰ってエイミィさんに僕が元気してたとか伝えてください」

《容赦ありませんね》

「あ、私はえぇやろ?」

「ジュンイチさんちで吊るされてろチビタヌキ」



 そう。リンディさんやはやて相手に容赦なんてしようもんなら、ホントにここをセカンドハウスにされる危険性が高い。



 例え今、二人がが悲しそうに涙を拭うような表情を見せたとしても、気を抜いてはダメなのである。

 さて、なのは達が降りてきたってことは、みんな帰る準備はオーケーってことだよね、忘れ物とかない?



「うん、大丈夫だよ。恭文くん、今日はありがと。また明日ね」

「また明日ね恭文♪」

「あたし達もそろそろ出るわね。それじゃあ、また隊舎で」

「あ、また明日ねっ!」

「そいじゃあリンディさん、あたしらもそろそろ……」

「そうね。
 恭文くん、今度はあなたが家に帰って来てね。みんな待ってるから」

「それじゃあ……また明日ね、ヤスフミ」

「リインのこと、お願いな〜」

「うん、みんな今日はありがとうね。すっごく楽しかった。あのさ、また……いつでも来てくれていいから」

『ホントにっ!?』



 ……あーいや、やっぱり事前連絡してもらえると助かるかな? 今度はちゃんともてなすから。

 いやいや、そんな全員そろって残念そうな顔しないでっ!? てーか、あなた方のノリ方ちょっと怖かったしっ!



 あ、でも……



「フェイトは連絡なしでいいよ? むしろ、また来てほしいな。今日はダメだったけど、アレコレ話したいし」

「うん、それじゃあまた来るね。あ、ヒマな時になっちゃうけど……」

「それでいいよ」



 みんなが、なぜだか生暖かい目で僕を見るけど、気のせいだ。

 それに、そんなことはどうでもいい。だって、フェイトと一緒の時間が作れるかも知れないんだから〜♪



「なぁ、それなら私かてえぇやろ?」

「そこのタヌキは予約センターから予約ね。ちなみに、一年先まで予約は満席だけど」

「なんでやねん自分っ! ちゅうかどこの人気ホテルやそれはっ!? あれかっ! そないにフェイトちゃんが大事かっ!
 そないにフェイトちゃんとラブラブしたいんかっ!」

「はやて、ラブラブってそういうのじゃないよ。私と恭文は姉弟だから、お話くらいはするよ?」



 ……その後、僕はうずくまって泣きました。フェイトはポカーンとしながらも、みんなと一緒に帰りました。



 そう、それぞれのいるべき場所に。

 ……てか、会おうと思わなくてもすぐ会えるんだけどね。なのはとヴィヴィオ、はやてにフェイト、それにスバルとティアナ、ジュンイチさんとブイリュウに至っては同じ部隊だし。



「……心が寒いから、早く入ろうか」

《マスター、そんなに凹まないでくださいよ。いつものことじゃないですか》

「そうですよ。いつものことじゃないですかっ! 何を今さら……」

「気にするなよ。いつものことなんだからさ」

「いつものことなんだから、いい加減に慣れなよ」

「お前ら僕になんか恨みでもあるんかいっ!? 『いつものこと』って連呼するなぁぁぁぁぁっ!
 それと三番目にほざいたジュンイチさんっ! アンタにそのセリフを吐く権利はないっ!」

「なんでっ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ジュンイチさんの作ってくれた夕食をありがたくいただき、ジュンイチさんとブイリュウも帰宅。さっきなのは達にそうしたように、それを見送った僕らとアルトとリインは部屋まで戻ってきた。



 そうして気づいた、先ほどまでとは変わってシンっとした部屋の様子に。





 ……よし、ホットミルクでも入れるか。





 アルフさんとジュンイチさんは買い物で、空っぽだった僕の食料品まで買い足してくれた。

 さすがに悪いと思って代金を払おうとしたのだが……これくらいはやらせてほしいとアルフさんにウィンク付きで言われてしまい、素直に好意を受け入れた。



 で、そんな差し入れの中に牛乳があった(「恭文の背が伸びますように」と書かれたジュンイチさんの短冊が付いてたけど迷わず破り捨てた)ので、それで暖かいホットミルクを作る。

 僕もリインも甘いのは好きだから、蜂蜜をたっぷりといれてうんと甘めに作る。



 それを僕はマグカップに、リインは……って、リイン?





「恭文さん、恭文さんの服借りても大丈夫ですか?」

「いや、それは構わないけど……あ、そっか」

「はいです……アウトフレーム、フルサイズっ!」





 僕の寝床である和室に飛んでいってからリインがそう叫ぶと、リビングとはドアなしでつながっている和室から、光がもれる。

 それを見て、僕は自分が使っているのと同じサイズのカップを取り出す。ちなみに、可愛いウサギの絵のプリント付きである。



 その二つのカップにホットミルクを注ぎ込んで、リビングのテーブルの上に運ぶ。



 すると、ダボダボのパジャマを着た、外見年齢にすると10歳前後のひとりの女の子が出てきた……リインである。



 リインは、いつもはあの妖精サイズの姿なのだけど、そのままでは不都合な場合というのも当然ある。

 例えば、僕やなのは達の出身世界である地球には、リインサイズの人間もプカプカ浮いている輩も……うん、いないはずだ。

 なんか海鳴に住んでるとその辺りに自信がなくなるけど……ないということにしておこう。



 とにかく、そういう世界で魔法文明や次元世界との交流などがない場合に備えて、リインには10歳前後の体格に変身できる能力があるのだ。

 ……てーか、泊まる時って、なんでかそのサイズの事が多いよね? 久々だったんで忘れてたよ。



《リインさん、気にしないでください。マスターはいろいろと鈍いんです》

「知ってるから大丈夫ですよアルトアイゼン」



 ……いきなり失礼な事を言うなぁ。そういう子にはホットミルクはあげませんけど?



「うー、別に失礼じゃないですっ! ……ホットミルク下さいです」

「仕方ないなぁ。はい」



 僕は、リインにホットミルクを差し出す。それをリインが慎重に受け取って、ゆっくりと飲み始める……美味しい?



「はいです。あー、身体が暖まります〜」

「ホントだね、ミッドは気候が年中安定してるからあんまわからないけどさ。もう冬なんだもんね」

「そうですね、六課が始まってもう半年過ぎてしまいましたです。
 ……始まった時は、1年は長いなと思ってたんですけど、ホントにあっという間にここまで来てしまいました」

「そっか……」



 そう言いながら、二人して静かに、ゆっくりとホットミルクを飲む。目が合えば、お互いに優しく微笑む。



 なんというか……リインとはいつもこんな感じだ。

 二人っきりでゆったりする時は、言葉を交わしたりとかはしないで、ただ、無言でお互いに神経を緩めて一緒にいる。





 ……なんか、どっかの熟年夫婦みたい。





「なんというか、恭文さんと二人でゆっくりする時は、あまり話す必要が無い感じがするです。何がしたいかとか、なんとなくわかりますし」

《それは間違いなく熟年夫婦の思考です》

「でも、それは付き合いが長いからだと思うですよ? 恭文さんと会って、もう7年とか8年近く経ちますし」



 そっか……そんなに経つんだね。いろいろなことがあったなぁ。

 あの頃は、自分がまさか異世界にいて、のん気にホットミルク飲んでるとは思わなかったよ。

 そんなことを思いながら、僕はホットミルクをまた一口飲む……うん、蜂蜜の程よい甘味がなんとも言えず美味しい。



「恭文さん」

「……どうしたのリイン?」



 リインが、真剣な顔で話し掛けてきた……なんだろ?



「……リイン、今日は恭文さんと一緒の、一緒のお布団で寝てもいいですか?」



 へ? 別にいいけど。といいますか、あなたここに泊まりに来る時は基本的にそんな感じですよね?



「そ、それはそうですけど……」



 ……おっきくなったリインと一緒に寝たり、お風呂に入るのも泊まりにきた時の恒例みたいなものだし、リインがわざわざ聞く意味がよくわかんない。

 といいますか、顔が真っ赤だけど大丈夫?



《リインさん、本当にすみません。マスターはとことん鈍いので……》

「……知ってますから大丈夫ですよ。アルトアイゼン」



 ……なんというか、失礼だなキミ達。さっきから鈍いとか鈍くないとか……なんなんですか本当に。

 ちょっと膨れつつ、ホットミルクをもう一口飲む……美味しい〜♪



「鈍い上に単純なのです」

《まったくです》





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 さて、今の時刻は午後10時になろうかという時間。ホットミルクを飲んだ後、リインとデリバリーのピザを食べつつ、アニメ鑑賞会をしていた。



 …………ジュンイチさん、以前言ってた目録ホントに作って帰っていった。まぁ、保管庫の管理に便利そうなので使わせてもらうけど。



 とは言え、明日からまた仕事なので、そろそろ寝ることにした。プレイヤーからディスクを取り出し、ケースに直してっと……

 それを終えてから、リビングの明かりを最低限まで落として、アルトにお休みを言ってから、僕とリインは布団に入る……もちろん一緒の布団に。

 なんというか、最初の頃はドキドキしたけど、今はちょっとちがう。別に普通になったとかじゃなくて、安心感が強いのかもしれない。

 リインも同じ……はずなんだけど、やっぱ顔が赤い。どうしたんだろ?



「……ちょっとだけ、ドキドキしてるです。久しぶりですし」

「そっか、しばらくお泊りできなかったしね」



 僕が六課とは別行動だったこと。

 そして、リイン自身も部隊長補佐というけっこう重要な役職に就いたことから、ここ半年はメールや通信による連絡がもっぱらだった。



「……恭文さんも最初から六課に来ればよかったですよ。そうすれば毎日会えたのに」

「うー、ごめん」



 ……実は、僕も六課に来ないかという話をはやて達から受けていた。けど、僕はそれを断った。


 理由は簡単だ。ひとつの部隊で、一年間ずっと所属している。その響きに、どうしても辛いものを感じてしまったからだ。



 と言ってもそれが全部じゃない。



 その前にクロノさんから六課が関わることになる“レリック”とガジェットに関して事前に話は聞いていた。はやてが、それ対策で部隊を設立する動きがあることも。



 それで、もし所属するのが辛いと感じるようなら、自分の下で集中して、“レリック”やガジェット関連の調査を手伝わないかと誘われたからだ。

 そして僕は……部隊の中にいるみんなの手が回らないことをできればいいと思って、クロノさんの誘いを受けて、今に至る。



「謝らなくてもいいですよ。恭文さんにだって、ちゃんと理由があったんですから。
 でも、もし恭文さんがいたら、恭文さんだったらどう言うのかなって……考えることがたくさん、たくさんあったです」

「……そっか」



 右手を出して、すぐとなりにいるリインの頭を、そっと、優しくなでる。手のひらから、柔らかい髪の感触が伝わってくる。

 そうすると、リインの顔の赤みが更に深くなる。薄暗い部屋の中でもわかるほどに。



「……ホントに、最初から六課に来ればよかったね。ここまで居心地のいい部隊とは思わなかったからさ。
 うん、それは失敗だったな」

「ホントです。そうすれば、リイン……」



 そこまで言うと、リインがギュッと抱きついてきた……リイン、どうしたの?



「……寂しくさせた罰です。今日は、こうしてるですよ」

「寂しかったの?」

「当たり前です。寂しかったに決まってるじゃないですか。それにすごく、不安だったです。
 約束したのに、ちゃんと守れないくらいに離れちゃったんですから。恭文さんが危ない目にあってる時に、ちゃんと力になれなかったですから」

「そんなことないよ。それに、それを言ったら僕だって……」



 リインが傷ついた時、そこにいられなかった。守る事ができなかった。それを言うなら、僕だって同じだ。

 覚悟はしてたけど、約束を守れなかった。守ると約束したのに、それを守れなかったんだから。



「そんなの、関係ないですよ。というか、リインがこうしたいんです。絶対、絶対に……離さないですよ」

「……わかった」



 僕は、リインに腕を回して、ギュッと抱き締める。右の手のひらで、頭を優しく撫でるのも忘れない。

 ……リインは僕の胸に顔を埋めている状態で、顔色はわからないけど、きっと茹蛸みたいになってるんじゃないかな?



「なって……ないです」

「地の文にツッコむのはやめて欲しいんだけど?」





 そうして、リインを抱きしめながら頭を撫でているうちに、僕の意識はゆっくりと夢の中へと吸い込まれていった。





 腕の中に、柔らかく心地よい温もりを確かに感じながら……










 こうして、僕の三日間の休みは幕を閉じた。





 振り返ればまったく休みになってないような気がしなくもないけど、まぁまぁ楽しかったのでよしとする。シャマルさんの反応が怖いけど……





 でも、まだまだこの物語は終わらない。休日が終わろうとも、僕と機動六課の日常はまだまだ続くのだから。





 そして、翌日。



 僕にとって、そして機動六課にとってもひとつの大きな意味を持つ出来事が起こることになるけど、それはまた別の話とする。











(第12話へ続く)





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おまけその1:とある守護者のモノローグ



「………………ふぅ」



 あれから、オレ達――すなわちオレとスバル、ティアナ・ランスターの3人は無事六課へと帰り着いた。

 そしてスバル達と別れて宿舎へ。自室に戻り一息ついて、ロボットモードのオレのサイズに合わせたソファにその身を沈める――ただし、ヒューマンフォームで。



 実はこれ、オレの密かなお気に入りだったりする。身体と比して巨大なソファをひとりで独占する……というのがな。

 子供じみているとか言うな。オレにだってバカをやりたい時くらいあるんだ。



 そのまま、ソファの柔らかな感触にその身を委ね――



「……蒼凪恭文、か……」



 ふと、あの男の名が口をついて出てきた。





 “JS事件”で傷ついた六課の戦力補強のため、事後処理の手伝いという名目で出向してきた魔導師。

 オレとゴッドオンしたスバルを退け、なのはを始めとした隊長格も一目置くほどの実力の持ち主。



 そして……





 六課隊長格をも圧倒する実力を持った柾木ジュンイチが、唯一“友”として認めた男。





 今日の剣幕を見れば、柾木ジュンイチが蒼凪恭文にどれほどの信頼をもって対しているかは推察するまでもあるまい。

 少なくとも……スバル以上に重んじるに足る何かを、柾木ジュンイチは蒼凪恭文に見ている。

 そしてそれは、オレにあの男への興味を抱かせるには十分すぎるものだった。



 だからこそ、八神はやてからあの二人のつながりの根源を聞き出した。

 その上で感じたのは、蒼凪恭文の内側に隠された確かな信念……柾木ジュンイチに認めさせるには十分すぎるほどの強固な芯を垣間見ることができた。



 なるほど、アルトアイゼンを託されるはずだ……ヤツの名が意味する“古き鉄”、蒼凪恭文の“本質”はまさにそれだ。

 柾木ジュンイチも、その“本質”を知り、認めたからこそ、蒼凪恭文を“友”と呼ぶのだろう。



「…………“友”か……」



 正直な話、「“友”と呼べる者がいるか?」と聞かれたら答えは『NO』だ。

 スバルは“相棒”だし、なのは達は“仲間”だ。

 もっとも、“相棒”や“仲間”も、昔はいなかったのだが……未だ、“友”というカテゴリに入る者はオレにはいない。





 なんとなく、自分にないものを持っている蒼凪恭文や柾木ジュンイチがうらやましく感じられた休みの最終日だった。



 ……こんなこと、絶対に誰にも口外はできないがな。





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おまけその2:とある暴君の嵐の予感



「楽しかったねー、ジュンイチ!」

「まーな」



 自宅代わりのアジトに戻るなり、興奮冷めやらぬといった感じでソファにダイブするブイリュウにそう答え、オレは寝室に入って手早くブイリュウ専用のミニサイズベッドを整える。



「ほら、先に寝ちまえ。
 明日は六課に出向く前に、ホクトの定期健診の付き添いだからな」

「ホント!?
 やったーっ! ホクトと遊ぶの久しぶりーっ!」

「そう思うんならさっさと寝ちまえ。
 せっかくホクトと遊べても、眠くちゃ遊んでられないだろ」

「はーいっ!」



 上機嫌で寝室に向かうブイリュウを見送り、脳裏でホクトに謝罪する……すまん。明日は一日ブイリュウの相手してくれや。



「…………って、ジュンイチは寝ないの?」

「すぐにいくよ。
 その前に、ちょいと端末のチェックをな」



 もう一度寝室から顔を出すブイリュウに答え、オレは階段を下りて地下フロアへ。

 そこに用意された端末室で、メイン端末を起動。各種データをチェックする。

 フリーランス御用達の依頼仲介コミュニティは……うーん、目新しい依頼はないなぁ。

 社会情勢に関する情報にも、特に気を配るべきものはないか。

 じゃあ、最後に身内の情報網からの各種連絡……あ、母さんから2通も来てる。

 …………あのバカ母。仕事用の端末でエロゲの予約報告なんかすんなよっ! プライベートメールでやられてもムカつくけどっ!

 まったく、この分じゃ、もう一通もロクな内容……じゃ…………







 ………………おいおい……ちょっと待て……







 母さんからのもう一通のメールは、休日でリラックスしたオレの意識を吹っ飛ばすには十分すぎた。







 もし、この報せが本当なら……





 ……いや、そこは考えるな。





 オレはただ……いつも通りにやるだけだ。







 アイツらに……オレの身内に手ェ出すヤツぁ……





















 誰であろうが、叩きつぶす。











(本当に続く)







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あきゅろす。
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