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頂き物の小説
第10話「とある魔導師と守護者の休日・最終日」



 前にも話したと思うけど、六課……というか管理局の人間の朝は早い。

 特に、魔導師などで身体が資本な人間はなおさらその傾向が強いように感じる。



 例えば、朝早く起きて、仕事に響かない程度に(ここ重要)自主トレに励んだりする人が大多数を占める。



 かく言う僕もそのひとり。休みだというのに、ついつい早く起きて早朝ランニング程度はしてしまうのが悲しいところである。



 そうして、早朝ランニングから帰ってきたら、ベランダに木刀を持ち出して素振りをこなす。

 その後にお風呂に入ってご飯。これまた昨日や一昨日と同じだけれども、ご飯のメニューは違う。



 今日のランニングの時に少し足を伸ばして、朝早くに開店している美味しいと評判のパン屋さんで調達してきたパンの数々がご飯になる。



 一応、がんばって目玉焼きなど焼いておかずにしたりする。

 バターロールにクロワッサン、ウィンナーロールに甘いのがほしかったのでブルーベリーデニッシュなど買っている。



 それをよくかんで、牛乳を飲みつつ食べる。食べる。とにかく食べる。

 一応食パンや、一緒に売っていた手作りジャムなども買っているので、お昼はそれになる。



 で、なんで昨日と比べて手抜き感が増えた食事になるかと言うと……





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『……無力が悪だというならば、力は正義なのか?』





 少年は問いかける。炎の中、自身に銃口を向ける人々を見つめながら。

 その問いかけは誰に対してなのか? その敵意……否、殺意を自身に向けている彼らに対して? このような状況に置かれている自分に対して?



 それとも……今、自分がいる世界に対してだろうか? その真意はわからない。それでも、少年は言葉を続ける。





『復讐は悪だろうか? 友情は正義足りうるだろうか?』





 少年の問いかけは更に続く。その問いかけに対して、銃口を向けている人々はあざ笑うような表情を見せる……彼は今、道を踏み間違えた。



 もし、彼がもう少し頭の血の巡りがよければ、気づいたかもしれない。



 今、自分が対峙している存在が、無力な少年などではなく……魔神だという事に。



 だが、彼は気づかなかった。だから道を「踏み間違えた」と言った。





 そして魔神は命じた。





 左眼に宿る力を使い、魔神は世界に再び、宣戦布告した。





 そう、魔神はこの瞬間、偽りに満ちあふれた眠りから目覚めたのだった……







「うむぅ、ルルーシュってやっぱいいね」

《マスター、お願いですから世界に宣戦布告などやめてくださいね?》

「……なぜにそうなる?」

《このアニメを見る度に、ルルーシュは共感できるいい主人公だなどと楽しそうに言っているのを見ていれば、イヤでもそうなります》

「……やっぱ危ないのかな?」

《かなり。
 特に、私達にはジュンイチさんという前例がありますし》

「あの人、ホントに宣戦布告したもんねー……しかも実質勝ったも同然だし」





 そう、せっかくの休日。未視聴のままになっていたアニメの鑑賞会としゃれこんだワケだ。

 ちなみに、今見ているのは先日……といっても、もう一ヶ月経つけど、地球の方で放映を終了した某作品の2期である。



 デンバードを作った開発局の友達経由で、映像ディスクの入手だけはしてたんだけど、事件の調査やらなんやらで結局1話もチェック出来てなかったのだ。



 ちなみに、1期は2期が始まる前に、その友達お手製の4時間に及ぶ特別編集版でチェック済み。





「でも、『世界に宣戦布告』って、響きが素敵な感じしない?」

《マスター……ホントにお願いですからやめてくださいね》

「は、ははは、わかってるって、リインやフェイトを泣かせたくないし。
 ……あ、そういえばこのアニメ、例の特別編集版のディスクをリインと見てた事があるんだけどさ」

《……私が本局でフルメンテしていた時に、リインさんが泊まりに来た時ですか?》

「そそ、六課が始動する少し前にね。
 ……で、ルルーシュの相方の翠髪の子と自分はそっくりだって言って、聞かなかったのよ。
 それで一時間くらい大喧嘩。僕も引かないけど向こうも引かないのよ」

《なんといいますか、それは申しわけないですがカン違いでは?》

「でしょ? まぁ、声は似てるけどね。あと大食いなとことかさ」

《声のことを言い出したら、ジュンイチさんのところのライカさんも似てるじゃないですか。
 あと大食いなところも……あぁ、あの人は美食なだけですか》

「正しくは“美味しいものに対してだけ大食い”ね。
 普通の食事との落差が5倍近いってどういうことだろ?」





 そんな会話をしている内に、1話目終了。うむぅ、いい感じだ。それじゃあ、第2話いってみよー!

 そう思って、ディスクプレイヤーのリモコンを手に持って次のチャプターへ……ごー!







 ピンポーンっ!







「……よし、無視だ」

《いいのですかマスター?》



 いいのいいの、どうせ神様は信じますかとかいう宗教の勧誘でしょ。今日の僕は引きこもりモード全開だから、外部とは一切接触をもちませーん。

 『知り合いじゃないの?』と考えるかもしれないけど、そう考えたそこのあなたは、まだまだ人生経験が足りない。

 僕の知り合いなら、予め連絡は入れてくるからだ。

 普段から、『待ちぼうけとかさせたくないから、来る時は必ず連絡ちょうだいね』と口をすっぱくして通達しているので、みんなそうしてくれている。



 ……一部例外がいるけど。







 ピンポーンっ! ピンポンピンポンピンポーンっ!







 ……だぁぁぁぁぁっ! しつこい、しつこすぎる!

 チャイムを無視して、第2話鑑賞を始めたのだが、チャイムがしつこくてテレビの音がまったく聞こえない!

 何なんだいったい? そんなに神様信じてほしいのかっ!? あいにく、僕は神様より信じられる友達や仲間がいるから必要ないってのに。



《それは違うと思いますが。マスター、とりあえず出た方がいいのでは?》



 えー、でもめんどくさいしさ。このまま放置しとけばあきらめるんじゃ……?







 ピンポーンッ! ピンポンピンポンピンポンピンポーンッ!







 ……ダメだなこりゃ。





《一応、マスターは管理局の人間なワケですし、しつこいようならそれを持ち出せば問題ないでしょう》



 ……はぁ、仕方ない。引きこもりモードを一時解除して、邪魔者をとっとと追い返すか。

 ひょっとしたら、一部例外の可能性もあるかもしれないし。今思いついたけど。



 そう思いながら、部屋の中でプカプカと待機モードで浮いているアルトを残して、玄関の方へと行き、ドアを開ける。



「何ですか? 宗教の勧誘ならお断りしますが?」

「宗教じゃないよっ! 恭文、おはよー♪」



 ……よし。



「ごめん、ちょっと待ってて」



 とりあえず、開けた瞬間にそう言いながらドアを閉めた。もう一度、しっかりとチェーンも含めて施錠するのも忘れない。



 再び、チャイムが部屋の中に激しく鳴り響くがそれは後だ。とりあえず、念話の回線もシャットアウトしとく。



 なんでかって? いろいろとあるからですよ。



「アルトっ! アルトっ!」

《どうしましたマスター?》

「正直に吐け。僕がここに住んでるって六課の誰かに教えたの?
 なのは達じゃないよ。六課に出向になって初めて会った人間にだからね」

《……はい? いえ、教えていませんが。なぜそんなことを》



 ……そうすると、情報源は……どこのどいつですか? イタズラにもほどがあるぞっ!



《マスター、一体どうしたのですか?》

「あー疑ってごめん……今、ドアを開けたんだよ。そうしたら」

《そうしたら?》



 僕はそこで一旦言葉を止めて、自然と荒くなっていた呼吸を、深呼吸して整える。そして、口にした。目の前にあった真実を。







「……スバルがいた」







《……はい?》

「だから、スバルがいたんだよっ! なんでかわかんないけど、スバルが部屋の前にいるんだよっ!
 あぁ、どうしよ? というか、僕ここの事教えてないよ? なんで、なんでそれであの犬っ子がいるのさっ!?」

《マスター》

「何?」

《私、3時間くらいスリープモードに入りますね》



 ……は?



《いえ、ですから……いろいろとあるでしょうから。私がこのままでいると逢瀬に支障をきたすと思いますので、ここは涙を飲んでスリープモードに入ろうかと。
 あぁ、ちゃんと男の責任は取らなくてはいけませんよ? 一番苦労するのは女性であるスバルさんなんですから》





 ……………………よし。





「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第10話「とある魔導師と守護者の休日・最終日」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……なんで出てくれないの?


 あたしは、ドアの前でインターホンを鳴らしながら少しだけ悲しい気持ちになっていた。

 さっき開けてくれた時、あたしだってわかったはずなのに、『ちょっと待ってて』ってすぐに閉められた……念話しようにも、回線を閉じてるから話せない。



 なんで? なんで出てくれないの?

 宗教の勧誘がどうとかって言ってたけど、あたしなんだから違うってわかったはずなのに……あたし、何か悪いことしたかな?



「スバル、お待た……って、アンタ大丈夫っ!?」

「ティア……マスターコンボイさん……」

「その落ち込んだ表情はどうした? 何があった?」



 あたしは、自分でも気づかないうちに沈んだ表情になってたみたいだった。遅れてやってきたティアやマスターコンボイさんが、そんなあたしを見てあわてて駆け寄ってくる。



「恭文、出てくれないの。さっき開けてくれて顔合わせたんだけど、『ちょっと待って』って言ってすぐに閉められた……」

「なるほどね。ったくアイツなにやってんのよ。わざわざ来てやったってのにっ!」



 あたし達は、ある人から恭文の自宅を教えてもらって、驚かせようと思ったのと、ちょっとした用事のために遊びに来たのだ。

 時刻は11時になるくらいの時間、これくらいなら恭文も起きていると思ってきたのだけれど……



 なのに、顔を合わせたとたんにコレなんてないよっ!

 恭文、開けてよ、恭文ぃーっ!



 恭文に開けてもらいたくて、懸命にチャイムを連打するあたしの視界のすみで、マスターコンボイさんがため息をつくのがチラリと見えて――





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 いやぁ、怖かった。



 ドアが閉じてからチャイムが鳴る勢いが徐々に増していって、ドアを開けるのをためらったもの。スバルはヤンデレの資質があると見た。

 なんでかって?……萌えとはそういうものだからだよ。



 まぁ、ちょっとずさんな対応をした僕が悪かったんだけど、それでも怖いものは怖いのである。



 僕がこの間にただ、スバルの突然の来訪にパニくってたかというと、必ずしもそうではない。

 部屋に、スバルに見られてマズイものがないかをざっとチェックしてたのである。

 とりあえず大丈夫だったので、勇気を振り絞ってチャイムの鳴り響くドアを開けようと玄関に向かい――







 ごすっ! という鈍い音が響くのと同時にチャイムの音が止んだ。







 そして、ズルズルと何かがずり落ちる音――さっきまでとは別種の恐怖を抱きながら、僕は扉を開け……そうだよね、スバルがいるならあなた達もいるよね。



「すまんな、蒼凪恭文。
 うちの相方が迷惑をかけた」



 …………うん、だいたいわかった。



 拳に魔力の残滓を残したヒューマンフォームのマスターコンボイと、その足元で脳天にマンガちっくにタンコブをこさえて崩れ落ちているスバル。そしてため息をついているティアナの姿を見て、今扉の向こうで何が起きていたのか、僕はだいたい察していた。



「って、マスターコンボイさん、ひどいよっ!?」

「近所とコイツに与える迷惑も考えずにチャイムを連打するのはひどくないとでもぬかすつもりか、貴様っ!?」

「だって、恭文が入れてくれないんだもんっ!」

「アポなしで突撃かましておいて、相手に受け入れ態勢が整ってるワケがないだろうがっ! 待たされることくらい前提として考えておけっ!」

「待った待ったっ! 二人して人んちの前でケンカしないでっ!
 で、3人とも、部屋がまだちょっと散らかってんだけど……大丈夫?」



 意外とあっさり復活したスバルと彼女を叱るマスターコンボイをあわてて止める……そして確認。



 アルトは、コンピュータ内の履歴とか消去してもらってる真っ最中。これに関しては、外見上ではわからないので問題なしと判断した。

 そんなワケで、一応大事なとこだけ確認である。もしダメなら3人には近くのファミレスなりコンビニなりで時間をつぶしてもらわないとならない。





「……入っていいの?」



 苦笑いなど浮かべる僕に、スバルが話しかける。いや、なんで確認するのよ?



「だって、いきなり閉められたし」



 すごく、悲しそうな顔をしながらそう口にする……ごめん、やっぱり女の子を家に入れるからさ、ちょっとだけ大丈夫かどうか確認したかったのよ。



「あのね、恭文。理由はわかったけど、あたしもティアも、そんなの気にしないよ?
 いきなり来たのはこっちなんだし、少しくらい大丈夫だから」

「そーよ。てか、アンタは気にしすぎ。男の部屋なんだし、多少のことは目をつぶるわよ。
 とりあえず、スバルに謝っておきなさい。チャイム連打とかはコイツが悪いにしても、それでもショック受けてたんだから」

「はい、ごめんなさい……」



 言われた通りに反省する。そうだよね、二人なら大丈夫だよね。なんというか、そんな感じがする。

 まぁ……マスターコンボイはいいか。そういうことを気にしなさそうという意味で。



「なら、いいよ。あたしもティアも気にしないからっ! それじゃあ、おじゃましまーす♪」

「絶対反省してないし、コイツ……っ!」

「お邪魔するわね。あと、これお土産のお菓子」

「……あ、ありがと」

「別にいいわよそんなの。そこら辺で売ってたし」



 などと言いながら、僕が開け放ったドアから入ってくるスバルとティアナとマスターコンボイ。

 3人が入った後にドアを施錠して、部屋へと案内する。持ってきてくれたお菓子をしっかりと持つのも忘れない。



 まぁ案内と言っても、すぐ近くなんだけど。なんというか……ドキドキする。男のマスターコンボイはともかくとして、なのは達やリンディさん以外で女の子を入れるのは、初めてだから。



 あぁ、後はシャーリーだけど、ノンセクシャルだし、問題外としておくか。つか、平然と寝転がるしくつろぐし。



「何よ、全然汚れてないじゃない」



 ティアナが部屋を見てそう口にする。まぁ、普段から掃除は心がけているしね。といいますか、しないとアルトがうるさいの。

 そして、リビングの真ん中で、宙にプカプカ浮いている青い宝石に、スバルとティアナが話しかけてる。



「偽装工作、大変そうね。アルトアイゼン」

《来ましたか、勇……って、ティアナさんもっ!?》

「アンタもホント大変よね。へタレなマスターを持って」

《もう慣れましたから》



 そんな悲しそうに言わないでほしいよ。心が痛くなるからさ。



 で、マスターコンボイはキョロキョロと周囲を見回している。なんていうか……落ち着かない感じで。



 さては他人の部屋にお邪魔した経験がなかったりする? 性格上自分から訪問するようなタイプとは思えないし。

 とりあえず……そこらへんのクッション使っていいから、座ってたら?



「そ、そうか……そうさせてもらおうか」



 そんなマスターコンボイに苦笑しながら僕は、キッチンへ行ってお土産のお茶菓子を開けて、お皿に盛る。

 和菓子っぽい感じだし、日本茶がいいかな。お茶お茶と……



「ふーん、結構センスいいね。家具もいい感じだし」

「なんていうか、思ってたよりずっと広いわね。てーか、アンタなんでこんないいとこに住んでるのよっ!?」

「いやいや、みんなだって魔導師なんだから、これくらい住めるお給金はいただいているでしょうが」





 ……まぁ、実を言うとオーナーが友達なんで、普通よりかなりの格安賃金で貸してくれているというのもあるのだけれど(もちろん内緒である)。





 僕の部屋は、広めのベランダ付きの2LDKのマンションである。

 広めのダイニングキッチンに、15畳前後のリビング。ここでテレビを見たり、テーブルを置いているのでそこでご飯を食べたりする。

 さっきまでコードギアスを見ていたのはこの部屋になる。



 そこから、ドアなしで繋がっている和室10畳の一部屋。普段はそこで寝起きしている。あとは着替えたりとかね。

 あとは、和室の部屋と同じ広さの書庫。というか保管庫。脱衣所付きで、足をゆったりと伸ばせるお風呂。それとトイレを忘れてはいけない。



 で、この部屋がどこにあるかというと、地上6階。というか、最上階。

 天気のいい日は、ベランダから地上本部がくっきり見えるほどの眺めの良さである。もうないけど。





 以前、ゲーム合宿と称して泊まりにきたシャーリーには、『この部屋なら女の子を連れ込めば最後まで行ける』などと言うワケのわからない太鼓判を押されたりした。

 ……自分だって女の子だろうに。





 もちろん、シャーリーとは何もなかったことを付け加えておく。普通に桃鉄99年プレイしてたさ。

 ……そして大負けしたさ。愛と勇気とキングボンビーだけが友達だったさっ!





 話はそれたけど、このマンションは確かに、ミッドの一般的な賃貸からすればそこそこ高い、しかし、そこは魔導師。一種の危険職である。問題はない。

 当然の如く、戦闘職ならではの危険手当とかその他諸々な賃金保証がつくので、まぁまぁなんとかなるのである。

 それにオーナーの好意に甘えてるってのもあるけどね。





「でも、物もキチンとしてるし、掃除も行き届いてるみたいだし……なんで、さっきはすぐに入れてくれなかったのかわかんないよ」

「そーよ。さっさと入れてれば、怒られることもなかったのに」



 ……仕方ないじゃない。なんていうか、入れるのとまどっちゃったんだから。



「なんかさ、とまどわない?
 普段自分だけしかいない空間……というかテリトリーに、いきなり他の人とか入れるのって。特に、初来訪の相手の場合さ」

「まぁ……確かに」

「アンタ、それ明らかに引きこもり思考よ?
 マスターコンボイもそこは同意しなくていいのよ」

「そーだよっ! もっと開いていかないとダメだよ」



 ……わかっていますさ。いるけれど、やっぱり心の準備が必要なんだから仕方ないじゃないさ。



「……3人とも、お茶入れたよ〜」

「あ、ありがと〜」



 そんな会話をしながらも、お茶を淹れ終わる。それと一緒に、3人にいただいたお菓子を出す。

 お茶は、お菓子がモナカなので、それに合わせて温かい日本茶である。



「うん、このお菓子美味しいわ。スバル、ティアナ、マスターコンボイ、ありがと」

「いいわよ礼なんて」

「オレは金を出しただけだしな」



 いただいたモナカをパクリと食べつつ、お茶をすする……いや、幸せな一時だわ。



「ホントだね〜。でもさ……」

「なに?」

「前にも思ったけど、恭文の淹れたお茶、すっごく美味しい」

「ふふ……一応、お茶淹れるのには自信があるのよ」

《これに関しては、料理上手のはやてさんやジュンイチさんも勝てないとおっしゃるくらいですから》



 スバルの笑顔がなんかまともに見れないので、お茶をもう一口すする……うん、美味しい。



「そうなんだ。何か練習とかしたの?」

「まぁね。翠屋の手伝いしてる時に、桃子さんからいろいろと」

「それって、なのはさんの実家よね?」

「うん、ハラオウン家に居候させてもらってた時は、みんな局の仕事で家を空けがちだったからさ、実質高町家にご厄介になってたの。
 で、そこから魔導師の仕事してたり、翠屋の手伝いしたりしながら生活してたの」

「なるほどねぇ〜」



 スバル、にやけるかモナカ食うかどっちかにしなさい。行儀悪いよ?



「つーか、またアンタそんなにバカ食いしてっ!
 人様のうちに持っていったお土産をそんなに食べてどうすんのよっ!」

「えぇ〜、いいじゃん別に。恭文だってあたし達と食べるために出してくれたワケだし」

「とりあえず、僕はいいけど他の人の家にお邪魔する時は絶対にやめて。
 なんか余波が来そうだから余波が」

「うー……」

「そうか。こういう時は食わない方がいいのか。
 どうすればいいかわからず控えていたのが功を奏したか……」

「そしてマスターコンボイはさりげなく学習してんじゃないよ。
 というか、このくらいのマナーは知ってようよ、社会人としてさ」

《悪いな、ミスタ・恭文。
 うちのボス、人様の家にお邪魔したことないからさ、そういうのよくわかってないんだよ》

「いや、今日のマスターコンボイを見てたらよくわかるよ、そーゆーの」



 まぁ、そんなことを話しつつもモナカを完食。お皿を洗って、棚に戻す。マスターコンボイ達にはゆっくりとお茶を飲んでもらっている。


 で、あらかたの片づけが終わった後、ティアナから突然話を切り出された。



「で、どこにあるの?」

「何が?」

「エッチな本だよ。置いてるんでしょ?」

「よし、お前らとっとと帰って。そして二度と来ないでくれるかな?」



 スバルとティアナが『なんで!?』とか言ってるけど気にしない。

 ……どこの世界に人の家にいきなりやってきてエロ本探そうとするヤツがいるんだよっ!

 目の前に二人いるけどさ。あと、僕の知り合いにも。でも、なんでいきなりそんな事を?



「だって、ギン姉に頼まれたんだもん」



 ……はい?



「ギンガさんに、アンタがどんな生活してるか見てきてほしいって頼まれたのよ。自分はしばらく行けないかもしれないからって」

「で、いかがわしい物があったら処分してほしいって言われたんだ」



 あー、わかった。ギンガさんがこの二人に場所教えたのか。



 そういや、ここで暮らし始めてすぐに、引っ越しましたってメール送ったし。そのメールが残ってれば、住所とか丸わかりのはずだもん。

 ……ちくしょぉぉぉぉっ! これじゃあ昨日と一昨日と同じじゃないですかっ!? まったく休めないってどういうこと? 僕なんかしたかおいっ!



「まぁそういうワケだから、あるならとっとと出しなさい?
 あたし達だって鬼じゃないし、素直に出したら、ギンガさんには上手く言っといてあげるから。スバルから聞いたけど、友達からの借り物だってあるんでしょ?」

「恭文だって、そういうのなくなるのは困るでしょ? エッチなんだし、夜が寂しくなるよ〜」



 ……スバル、にやにやするな。殺意がわいてくるから。

 あと、あなたは仮にも女の子なんだから、そういう事を言わないの。その発言は、明らかにセクハラオヤジだから。



「確かにその手の本……というか、そういう描写が乗った漫画やアニメやゲームはあるよ。けど、それだって成人仕様とかじゃなくて、普通の青年誌レベルまでだよ?
 実写でいかがわしいのもないし」

「あぁ、そんないいワケしなくても……漫画やアニメやゲームっ!? というか、実写ないのっ!?」

「……アンタ、現実の女の子に興味ないの?」



 失礼な、ありますよ年相応には。だからそんな可哀想な何かをみるような視線を僕にぶつけるな。



「じゃあ、なんでないのよ?」

「それはね……」

「あのね恭文。フェイトさん以外にも、女の子っているんだよ? もっと、外に目を向けた方がいいんじゃないかな」



 そして、スバルはこっちの説明にかぶせて口を開くなっ! 話進まないでしょうがっ!

 何よりいちいちフェイトの名前を出すな。悲しい目をするなっ!



「つーかなぜにそうなるっ!? 繋がりがわからんわっ! 23区の路線の繋がりくらいにワケわからんわっ!」

「だって……やっぱり毎日考えてるのかなって。
 それで、そういう実写の本やビデオなんて必要なくて、頭の中でフェイトさんのあんな姿やこんな姿を……」



 考えてない。考えてないからっ!



《いえ、毎日ではありませんね。前にも言いましたが偶数日だけです》



 アルト、黙ってくれるかなっ!? つーか、余計な事を言うなっ!



「そうなの?」

《はい。そして今の比率は、大体8:2の割合ですね。数年前までは10:0でしたが。
 ちなみに、スりープモードから目覚めるとマスターは、やけに嫌悪感に満ちあふれた表情です》

「お願いだから黙ってくれるかなっ! いや、ホントにお願いだからぁぁぁぁっ!」



「…………ついていけん……」



 うん、マスターコンボイはついてこなくていい。そのままわかんないままでいて。いやマヂで。



 とにかくっ! うちは、リアルにR18超えちゃってる物は置けないだけだよっ!



「どうしてよ?」

「だって、恭文ってひとり暮らしでしょ? あ、アルトアイゼンがいるからとか?」

《私はマスターのそういった部分には触れないようにしていますから、気にはしません。というか、スリープモードになりますから。
 まー、若いのでいろいろなところでがんばっちゃうみたいですが》



 ……そう思うのであれば、僕のそういった部分についてコメントしないでほしい。

 そして妙なコメントするなっ! ティアナがなんか顔赤くしてキョロキョロしだしたじゃないのさっ!



「と、とりあえず……アンタだって年頃なのにそれはおかしいわよ。どうしてそういうの置いてないの?」

「やっぱりフェイトさんが……」

「違うわボケっ!」



 そんなのは決まっている。それは……







 ピンポーンッ!







 ……よし、今度こそ無s




「アンタ、殴られたいの?」



 うるさいっ! これ以上来客なんかあってたまるかっ!

 今度こそ宗教の勧誘だ絶対そうだ間違いない。



「恭文、もしそうじゃなかったらどうするの?
 今外にいる人は、恭文に居留守使われたらすっごく傷つくんだよ?」



 スバルが、すごく真剣な顔で僕を見る。若干睨み気味に……あぁぁもう!



「出ます、ちゃんと対応します。それでよろしいでしょうか?」



 僕がそう言うと、スバル……なんでかティアナも満足そうな顔になる。おかしい、絶対おかしいよコレ。

 マスターコンボイ、あなただけだよ、同情の視線を向けてくれるのは。でも欲を言うなら同情するだけじゃなくて弁護もしてほしいんだけど。

 そんな事を考えながら、玄関に行きドアに手をかける。





 ちょっと待て。

 けど僕は、すんでのところで思い出す。そう、ここには確か……





 外の様子が確認出来るようにカメラついてたじゃないのさっ!

 そうだよ、さっきだってそれで確認すればこんなゴタゴタしたことには……なんで忘れてたんだ僕はっ!


 自分に悪態をつきつつ、リビングに戻り、壁に備えつけられているパネルを操作して、ドアの前の様子を映し出す……え?





「どうしたの恭文?」

「アンタ、とっとと開けなさい……って、コレっ!」

「……来やがった。一部例外が」

《マスター、ご愁傷様です》





 そう、モニターに映し出された訪問者は、六課部隊長である八神はやてに僕の友達、リインフォースUだった。





「あー、二人ともさっきの質問に僕答えてなかったね。つまり……」



 あやつら……というか、はやてのヤツが、やたらめったら連絡なしに来訪してくるおかげで、下手にその手のものは置けないんだよっ!



 あと、リインも泊まりに来たりするから。

 ……さすがに、リインにそんなもの見せるワケにはいかないし。年齢考えたら、10歳とかそれくらいですよあの子。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うーん、出えへんなぁ」

「はいです。いるのは間違いないと思うんですが……」

「恭文、普段はあんなやけど、家にひとりでいるときは典型的な引きこもりやからなぁ。いつものこと言うても悲しいわぁ〜」

「きっと、コードギアスとか見てるですよ」



 ……あぁ、あのリインにそっくりな子が出てるゆうて、WARAYAからディスク借りて見せてくれたあのアニメやな。



 リイン、悪いこと言うようやけど、あの翠髪の女の子はリインには似てるとは思えへんで? せいぜい髪型と声と大食いなところくらいやな。



 まぁそれはそれとしてや、私らがなんでここにいるかと言うと、夕方くらいまで時間が空いたんで、突撃お宅訪問としゃれ込んだからや。

 なんや昨日は、マックスフリゲートでそうとうハッスルしたらしいからなぁ。慰問も兼ねてやってきたゆうワケや。

 まぁ、『埋め合わせする』と言うたワケやし、夜天の主としては、約束は守らなあかん思うて、昼ご飯の材料など買い込んでやってきたというワケや。





 せやけど……どないしようかこれ?



「リイン、合鍵とかもろうてへんよな?」

「はいです。くださいって言った事があるんですけど『鍵を抱えてフワフワ浮かんでたら危ないでしょ?』と言われたです。
 ……はっ! ひょっとして、リインはぐらかされたのですかっ!?」



 うん、間違いなくそうやな。つか、それではぐらかされるってどうなんや?

 リインは、六課設立前はよくここに来て泊まっとったりしてたから、持ってるかと思ったんやけどなぁ。



 だってこの二人、付き合ってるんやないかと思うくらいに仲えぇもん。

 まぁ、出会った経緯が経緯やし、二人がそろって初めて切れる切り札が切り札やから、繋がりというか結びつきが強いのは当たり前なんやけどな。



「マンションのオーナーの方もおらへんようやしなぁ。つか、ここのオーナーいっつもおらんがなっ!
 ……やっぱ端末で通信かけてしかないかなぁ」

「はいです。私もかけるですよ」

「いや、一緒にかけたら繋がらへんから! 私だけがかけるわ」



 なんつうか、いつもの事とは言え、これはちょい面倒やわ。突然の訪問はまったく対応せーへんもん。

 せやから、『フェイトちゃん以外でもえぇから、彼女を作りーな』と私が口をすっぱくして言うとるのに、全部スルーなんやもん。



 え? なんでそれが引きこもり解決に繋がるのかって? イヤやわぁ、そんなことを女の私の口から言・わ・せ・ん・と・い・て♪



 あー、でもどっかにおらへんかなぁ?

 恭文の引きこもり性質にガツンっと喝を入れられて、可愛くて、性格もよくて……

 その上、私がセクハラしても怒らへんで、シグナムとまでいかなくても、そこそこ巨乳でお胸のさわり心地のいい女の子。

 そんな子がいたらえぇんやけどなぁ。つか、いてほしいわ。



 フェイトちゃんは……見込み0やし。あやつの敗残兵っぷりはもう見とうないしな。あんまりにも哀れすぎる。

 特にアレや、補佐官資格取った時がすごかった。あの凹みっぷりは伝説やで。

 黒魔術やら、呪術やらの本買い漁って惚れ薬作ろうとしてたし。私らは泣いて止めたわ。



 例えば……私らの中やったら、シャマルがえぇかな?

 主治医と患者っちゅう関係やし、仲もえぇし。何より医者として弱みをアレコレ握っとるから、いざという時のアイツのブレーキ役としても機能する。



 あー、フォワード陣やったらティアやスバルもOKやな。本人達の意向は無視してるのがアレやけど。でも、これからに期待やしな。



 あとは……六課以外やと、仲がええのはギンガとかすずかちゃんやけど……二人はジュンイチさんにぞっこんやもんな。というかむしろ敗残兵サイドで恭文と“心”友状態や。



 みんなちょい触ったりしたけど、えぇ仕事しとるんやわ。特にすずかちゃんとギンガはアレやで。フェイトちゃんより大きいんやから……くっ、うらやましいっ!



「はやてちゃん、それは半分以上はやてちゃんの要望です……」



 それは気にしたらあかんよリイン。

 私は、懐から携帯端末を取り出して、この中にいるであろうサンショウウオに対して通信を……



「あら、はやてさんにリインちゃん。どうしたの?」

「二人とも久しぶりー! ……なになに、ひょっとしてアイツ返事ないのか?」





 通信をかけようとした時、声をかけられた。その声のした方を向くと……神がおった。

 そう、救いの神や。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「だーかーら! ここではやて達を入れるといろいろとマズイでしょうが!」

「どうしてそうなるのっ!? 部隊長達だって恭文に用があるから来てくれてるんだよ?
 ……そんなに他の人を家に入れるのがイヤなの?」

「いや、そういうことじゃなくてさ……」

「そういうことだよっ!」





 あー最悪。つか、どうしてこうなるのさ。



 部屋の外にいるはやてとリインに対する対応でスバルと口論中である。アルトとティアナ、マスターコンボイはそれをただただ見ている。

 呆れ気味な空気が出ているのは気のせいじゃないと思う。

 …………いや、マスターコンボイはただ話についてこれないでいるだけか。ホントに対人関係はダメ……というか無知なのね。



 まぁ、普通の時なら、スバルの言うように入れてしまえばいい、待たせるのもアレだし、はやてとリインは何回も来ているのだから支障はない。



 ……そのためにアレな類な本は置けないけどね。見つかった瞬間に皆にバラされるし。というか、バラされたことがあるし。



 でも、今はその普通の時じゃない。今、部屋の中にはスバルとティアナがいるのだ。それを見てはやてとリインはどう思うだろう?



 別にどっかの高校生みたいに8股とかかけてて鉢合わせするのがイヤとかじゃない。



 だけど、はやては、最近はホントに『フェイトちゃん以外でもいいから彼女を作れ。恋をしろっ!』としつこく僕に言ってくるのだ。

 自分はいないクセにである。この辺りが非常にムカつくので、完全スルーに徹しているのは言うまでもないだろう。

 つか、そう思うんだったらスクリーンショットで僕を動かそうとするなよ。



 とにかく、そんなはやてにこの状況を見せた場合、マスターコンボイをガッツリ無視してありえない誤解をするのは明白だった。

 リインもいるなら騒ぎは二倍から三倍にふくれ上がると思う……そうすると。





「明日には、僕とスバルとティアナが三角関係でどーたらこーたらってのが隊舎中に広まってるよっ! マスターコンボイは華麗にスルーしてっ!
 それでもいいってのっ!?」

「どうしてそうなるの? 部隊長だって大人なんだから、話をすればわかってくれるよっ!」

「『どうして』? そうした方があのタヌキにとっておもしろいからだよっ!
 よーするに、『話をする』って言うけど、その話をする前に広まってゲームオーバーなんだよっ! なんでそこがわからないかなっ!?」



 といいますか、あやつは仕事とシリアスな状況以外では大人じゃないと思う。イタズラ少女かジュンイチさんのオモチャか、まず確実にそのどちらかだ。

 スバル、隊長陣と……少なくともはやてとプライベートなつき合いまったくしてないでしょ? だからそういうことが言えるんだよっ!



 はやてにこの状況を見られれば、悪夢が襲ってくるのは明白。そんなのはイヤだ。



 そして何より、フェイトに誤解されるのがイヤなんだよっ!(ここ最重要)



 とは言うものの、このままスバルと口論してても仕方ない。僕が外に出て、どうにかしてはやて達に話していこう。

 これでいきなりスバルが出てきて、とかならともかく、僕が出て、順を追って説明すれば、大丈夫……なはず。



 からかわれるだろうけど、そこは我慢だ。揉めるよりは数倍マシと思うことにする。



「……わかった、ちゃんと出る。出るから部屋の隅ではやてからは絶対に見えないように隠れてて。
 ティアナもいいね?」

「別にいいけど、そこまでする必要あるの?」

《あります。と言っても、明日六課の方々に、マスターと付き合ってるのかどうかと質問責めにされたくなければですが》

「それでもいいなら隠れてなくてもいいよ? ……後で文句は受け付けないけどね」



 はやてってお祭り好きなところがあるからなぁ、というか、アジテーター? この状況なんて格好のネタになるって、はやてがそうさせる。



 ……このツインテールもプライベートのつき合いなし組かい。つき合いあったらこれくらいは読めるし。

 マスターコンボイは……あるワケないか。日頃からプライベートはこの二人に引きずり回されてばっかりだし、それではやてと付き合いがあるワケがない。ってーかあったら芋づる式にスバル達もはやての本性を知ってるはずだ。



 つーか待て待て。こんなに薄っぺらいつき合い方してたってワケ? こんなんで大丈夫なのか機動六課っ!?



 しかし、ティアナとマスターコンボイはつき合いはなくても、相方と違って空気をしっかり読んでくれた。僕とアルトがそう言うと、素直に下がってくれたのだ。

 うんうん、素直なのが一番ですよ。さ、スバルも……って、スバルどこ行くのっ!?



 いきなりスバルが小走りに駆け出した……まさかっ!





「ちょっと待ったっ!」

「ちょっ! 恭文、離してっ!」



 スバルの手をつかんで止める……離すワケないでしょうがっ! ドアを開けるつもりでしょっ!?



「恭文が出たって、部隊長のこと追い返すだけでしょ? だったらあたしが出るっ!」



 そんなことしないからっ! 頼むからまって待ってホントにまってっ! さっきの話聞いてたでしょ? 妙な誤解されるのはイヤなんだっ!



「ちゃんと開けるからっ! 僕が話すからっ! お願いだから戻ってっ!」

「いいじゃない別にっ! それに、あたしは誤解されてもかまわないよ?」

「僕がイヤなんだよっ! フェイトとおかしいことになったら責任取ってくれるのかおいっ!」

「……恭文、あたし、そんなに魅力ない? 彼女とかそういう風に思われるのもイヤなのっ!?
 確かにフェイトさんには負けるかもしれないけど、そんなのひどいよっ!」

「やかましいわっ! そんなの知ったことかっ! あの人遠慮なく誤解するんだよっ! そして僕が凹むんだよっ!
 頼むからめんどくさいことするなぁぁぁぁぁぁっ!」



 あ、なんか力強くなった。つーか、頼むから落ち着いてくれぇぇぇぇぇっ!



 こんな会話をしながらも、スバルの右手を両手でしっかりと掴んで引きとめようとしてるんだけど……力強っ! ずるずる引きずられてきてるしっ!

 つか、今のスバルめんどくさいっ!



「だったら離してよっ! あたし、もう帰るからっ!」











 ガチャッ。











「というかなんでそういう結論になるんだよっ! そんなこと一言も言ってないでしょうがっ!」

「要するに、あたしがいたら迷惑なんでしょっ!? だったらいいじゃないっ!」

「それにしたって玄関から出たらどの道アウトってことに気づけっ! ちっとも状況わかってないでしょこの豆芝がっ!」



 だぁぁぁぁぁっ! めんどくさいっ! 本気でめんどくさいっ! いることより今のスバルの行動が迷惑だってなぜわからんっ!?



 こうなったらちょっとぶっ飛ばし……って、あれ?

 そこでようやく気づく。玄関のドアが開いているのだ。鍵は閉めたはずなのにである。

 僕が、そしてスバルが何事かとそちらを見ると、開いたドアの前には……みんながいた。





 はやて。





 リイン。





 それと、翡翠色の髪の女性と、犬耳犬尻尾の赤毛の女の子……





 って、さっきより増えてるっ!?





 あと、今の僕とスバルの体勢は、アレですよ。僕が、帰ろうとするスバルを引き止めているみたいな感じ?



 いや、ひょっとしたら……あの痴話喧嘩まがいのことを聞かれている可能性も……!



 それではやて達が何を想像するかなんて、考えたくない。



 ドアに手をかけていた翡翠色の女性は、何かを察したような顔をしてゆっくりとドアを閉じてくれた。





 うん、気遣いありがと……って、んなワケあるかぁぁぁぁぁっ!





 僕は、後ろからポカーンとしているスバルを優しくどかして、外へと全力で飛び出した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……どないしますリンディさん?」

「とりあえず、なのはさん達に連絡ね。これは一大事です。みんなで対策を考えましょう」

「考えるなぁぁぁぁっ!」



 うし、すべり込みセーフっ!

 お願い、お願いだからどこにも連絡しないでくださいっ! ホントにお願いしますから、これ以上事態を悪化させないでっ!



「恭文、女の子放り出してくるなんて最低やで?」

「そうだぞ〜? クロノだって、エイミィを仕事だからって放り出した次の日はホントに酷い目にあってたんだからさ」

「そうですよ! スバルが可哀想ですっ!」

「その前に、僕が可哀想だっていう事実に気づいてよっ! てーか、なんではやてとリインだけじゃなくて、二人まで来てるんですかっ!?」



 そう、はやて達に続いて登場してきたこの二人は、僕の古くからの知り合い……というか、僕にとって家族と言える存在である。



 今日はいつもの管理局の制服ではなく、私服のゆったりとしたスカート姿に翡翠色の髪を後ろでひとつに束ねた女性。

 この人は、僕に六課への出向を要請した諸悪の根源リンディ・ハラオウンさん。というか、保護責任者。



 で、もうひとりの犬耳犬尻尾の女の子は、フェイト……というか、高町家の使い魔であるアルフさん。

 元は管理局でフェイト共々あちこち飛び回っていたのだけど、4年前に局の仕事を引退して以来、高町家の家事手伝いをしている。たまにハラオウン家にも出張手伝いに来ていて、僕もよくお世話になった。

 僕とは友達みたいな感じで、よくメールや通信のやりとりをしている。



「今日、お前休みだろ? リンディさんと一緒に様子を身に来たんだよ」

「一応、私が六課への出向を依頼したワケですし、どんな感じか話を聞きたかったの。でも……」

「お邪魔みたいやなぁ。ごめんな恭文、まさかこういう状況とは思わんかったから」

「それじゃあ、リイン達は帰るです。
 恭文さん、何があったかは知らないですが、恭文さんが悪いのは間違いないと思いますので、ちゃんとスバルに謝るですよ?」



 た、頼むから話を聞いて……違うから、僕はスバルとそんな事しようとしてないから。お願いだから誤解しないで。

 そしてリイン、僕が悪いのは間違いないってどういう意味だよっ!



「誤解しないでも何もないやろ? これからスバルと二人っきりでその……あれ……これ……やろ?」

「アホかっ! ギリギリ過ぎるわっ! スバルとはただの友達だぞっ!?」

「ただの友達なのにそういうことしようとしたのか? それは最低だぞ〜。だからあんなふうに拒絶されるんだよ」

「そうですっ! スバルの気持ちを考えるですよ?」



 だぁぁぁぁぁっ! やっぱり聞かれてたぁぁぁぁぁっ!? お願い、違うの。あれは違うのっ!



「恭文くん、リインちゃんの言うとおり、スバルさんの気持ちだってあるのよ?
 ムリに迫ったあなたが悪いんじゃないかしら」

「迫ってないですからっ! お願いだから僕の話を聞いてっ!」

「ま……でも、喜ばしいことよね。ようやくあなたにも、フェイト以外でそういう風になっていきたいと思える相手が出来たんですもの。
 あぁっ! 今日はお赤飯かしらっ!」

「アホかぁぁぁぁぁぁっ! なんでフェイト以外でそんなマネしなきゃいけないんだよっ!?」



 ……なんだこのカン違いスパイラル。いや、原因は僕だけどさ、どうやって止めればいいのさ?



 そしてリンディさん、僕はフェイト以外とそうなる予定もつもりもないです。わかりきってる事項について、ハンカチ取り出して涙ふくのはやめてください。



 ……あぁもう、ホントにどうすりゃいいってのさ、これっ!



「いい? 恭文くん。スバルさんはいい子だもの。ちゃんと誠意をもって付き合えばわかってくれるわ。
 だから、さっきみたいな強引なのはダメよ?」

「あたしは応援してるからな。がんばれよ!」

「じゃ、明日にでも成果は聞かせてもらうからなー」

「ですです」



 だぁぁぁぁぁっ! だからそーやってカン違いしたまま立ち去ろうとすr







 轟っ!







 止めようとした僕の目の前で炎が巻き起こった。まるで鉄砲水のように流れる炎がはやてとアルフさん、リンディさんを押し流していく。



 …………そう、リインだけを無傷でその場に残して。



 こんな僕に対する気遣いあふれる炎の撃ち方をするのは……







「………………とりあえず、お前の大事な“お友達”は避けて吹っ飛ばしたけど……これでよかったんだよな?」





 ギネス級のぐっじょぶです、ジュンイチさん。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 いやぁ、あたしは驚いたね。



 リンディさんが持っていた合鍵で(あたしも持ってる)この引きこもり小僧の部屋のドアを開けたんだよ。すると、あらビックリ。

 半年ほど前にフェイト達と一緒に海鳴の方へ来たなのはの教え子のスバルと、家の末っ子が一緒にいるんだから。

 しかも、エイミィとよく見てる昼ドラにあるような只ならぬ状況ってヤツだよ。



 それを見た時、驚いたのもあるけど、うれしかった気持ちもあった。なにしろ恭文のヤツ、あたしの知る限りフェイト以外の女の子に興味持ったことないんだから。

 家にあげてどうこうなる相手ができたなんて喜ぶべきことだと思ったよ。



 いや、マジメな話本当にうれしかったんだよ。

 ……フェイトはあぁだし、見ていて不憫で不憫で仕方なかったんだから。あたしさ、何回恭文に謝ったかわかんないよ。

 使い魔として、主の責任を、あたしが付き合うとか、恋人になるとか、そういう形で通した方がいいのかとか、本気で悩んだこともあったなぁ……













 ………………よし、現実逃避はこのくらいでいいか。











 現在、あたしとはやて、リンディさんはガッチガチに縛り上げられてる。バインドじゃなくて……ロープで物理的に。

 その状態で、正座させられてる……うん、かなり辛いです。マジメな話。



 で、縛られてはいないものの同じく正座させられているスバルやティアナ、リインと一緒にお説教中。



 その相手はもちろん……









「本局に連絡入れたら、リンディさん今日は休みを取ってミッドだって聞いたから、イヤな予感がして来てみれば案の定。
 いや……むしろ予想よりもひどいぞコレは」







 あたしらを吹っ飛ばした張本人であるコイツ……スバルの師匠兼兄貴で恭文の友達だっていう、うちのフェイトが目の敵にしてる、柾木ジュンイチだ。



 並んで正座しているあたしらを前に、ブイリュウとかいうドラゴン型のパートナー(「使い魔」って言ったら本人に殴られた)を恭文やマスターコンボイに預けて、静かに告げる。







「リンディさん。
 アンタ、出向の話の時に恭文に泣きつかれてるよね? 『休ませてくれ』って」



 腕組みして目を閉じ、落ち着いた口調でそう告げる……けど、本音はちっとも落ち着いてない。トントンとせわしなく床を叩いている右足のつま先が怒りの感情をありありと伝えてくる。





「はやて、リイン、スバル、ティアナ。
 お前ら、恭文がシャマルからドクターストップを喰らってること、そのくらいコンディション悪いこと、知ってるよな?」



 熱い。感情の高ぶりに伴ってあふれ出した力が熱を発してものすごく熱い。“暑い”じゃなくて“熱い”。





「で……休みの初日はヴィヴィオの学校見学に付き合って、二日目はマックスフリゲートに行ってたってことも知ってるはずだよな……?」



 あ、こめかみに血管浮かんだ。そろそろ限界っぽいな。





「そろいもそろって、恭文に休みが必要なのを知ってて……」







「その上で、コイツが休める最後のチャンスに強襲かけるたぁどーゆー了見だっ!」



 ついに怒りが大爆発――怒鳴り声と共に、ジュンイチの放った強烈なプレッシャーが物理的な衝撃となってあたし達に叩きつけられる。



「けどね、ジュンイチくん。
 私はあの子を出向させた身として、あの子の様子を……」

「出向関係で様子が見たいなら職場に来ればいいだろ! 職場のみんなからコメントもらえばいいだろっ!
 何で休みのコイツの家に来るんだよ! しかもアポなしでっ! ワケわからんわっ!」

「で、でも、ギン姉から様子を見てきてほしいって……」

「言い出したのはギンガでも実行したのはお前だろうがっ! 自分がしでかしたことの理由をギンガに押し付けるなっ!
 それから安心しろっ! お前の言うように状況知ってたクセしてお前らをけしかけたんだ。したがってギンガも後日お説教だっ!
 そして何より、アポなしについてはお前らも同罪なんだぞ、わかってんのかっ!?」



 リンディさんやスバルが反論するけど、ことごとく一蹴する。

 ……ってか、話に聞いた限りじゃスバルには甘いって話だったのに、そのスバルに対しても問答無用かよ。こりゃそうとう怒ってるな。



「それだけならまだしも、オレが着いた時、さんざん恭文をいじくり回してたよなぁ、年長者組。
 お前ら、ホントに恭文を休ませる気があるのか? 余計に気苦労与えてどーすんだっ!?」

「それはしょうがないわよ。
 恭文くんが、彼を想う二人の気持ちに対して不誠実な態度を取ってるんだもの」

「だぁぁぁかぁぁぁらぁぁぁっ! 僕とスバルとティアナはそういう関係じゃないって言ってるじゃないですかっ!」



 この期に及んで「恭文×スバル&ティアナ」を持ち出すリンディさんに、今度は恭文が声を上げる。

 いや、叫びたくもなるよな? この“お説教”の前に、さんざん脱線させられながら事情説明してたし。



 っつーか、リンディさん、この状況でよくもまぁさらにこの話を持ち出せるね? 今現在そのことも含めてお説教中だってわかってる?

 とにかく、そんなことを言いながらも、疲れきった表情を浮かべて、恭文は言葉を続ける。



 そう、この件に関しては一言もフォローを入れない“当事者”達に対して……



「あと、そっちで一緒に説教されてる二人も、これについてはちょっとは反論してよっ! 黙ってないでさっ!」

「えっと、その……無理だよ恭文」

「アンタ、どうやって反論しろってのよっ! 相手は今所属している部隊の部隊長に、後見人の提督よ?」

「くっ! ティアナはともかくスバルの役立たずっ!」

「何それっ!? ちゃんと説明したら、みんなわかってくれたんだからいいじゃないっ!」

「ジュンイチさんのプレッシャーがあったからでしょっ!? なかったら絶対こっちの話聞かないぞこの人達っ!
 てーかさっき実際にジュンイチさん来るまで一切聞いてなかったしっ!」



 なるほど、スバルとティアナはそういう事気にするタイプか。

 でもさ、うちのお母さんやはやて相手にそれを気にしたらダメだよ〜。翌日には隊舎でこの話が持ちきりになること請け合いだからさ。しかもキミらの危惧よりもさらに数段進んだ形で。



 あと、スバル。フェイトは本気で誤解するぞ? 今までだってなのはに、はやてに、シャマルに、リインに、シャーリーに、それにそれに……コイツ、泣くよ?



「……みんなお願いだから、スバルやティアナの迷惑を考えて。
 二人がイヤになるような事になったら大変でしょうが」



 まぁ、そうだよな。二人は他に好きな相手とかいるかもしれないしなぁ。

 これで、恋路が邪魔されたとかだったら、大変な事になるし。絶対にそういうのはなしにしないとなぁ。



「そして何より、第一に、何を差し置いてでも世界を敵に回してでも僕の迷惑を考えてっ!
 フェイトに変な誤解されたらどうするんだよっ! 責任取ってくれるってのっ!? どーせ取らないで放置プレイなんだから、変な事しないでっ!」

「アンタは結局そこかっ!」

「実例あるんだから当然でしょうがっ!」

《いや、それ以外に理由ないでしょ》



 膝立ちになリ、拳を握り締め、力強く断言する我が家の末っ子。あたし達は、それを見て涙するしかなかった。

 そう……だよな。アンタ、そういうヤツだったよな……



 いや、なんか安心したよ。全然変わってなくて。そして泣いたよ。スバルやティアナってけっこう可愛いのに、それでもコレなんだな。



「なぁ、新しい恋って必要やと思うんよ。世の中、無駄な事ってあるよ?」

「必要ないっ! つか、あきらめたらそこで終了じゃないのさっ!
 それにはやて、わかってない。恋ってのは……無駄なもので構築されてるものなんだよ。
 無駄にときめき、無駄に泣き、無駄に喜び、無駄に動揺する。言うなれば、それは人生っ! そう、恋ってのは、人生そのものなんだよっ!」

「……深いわね」

「まぁ、漫画の受け売りですけどね。でも、そう思うのです。
 ……はやて、恋を無駄だと言い切る時点で、何も理解してないってことに、そろそろ気づかない?」

「そんな哀れなものを見るような目で私を見んといてよっ! なんか私がかわいそうな子やんっ!」



 はやて、あきらめろ。こいつには勝てない。つか、無駄に口が上手いんだから……

 というか、そろそろこの話切り上げないとまた……





 けど、そんなあたしの危機感はすでに手遅れだった。あたし達全員の耳を掠めるように、ピンポン玉大の火炎弾が駆け抜ける――術者のコントロールを受け、戻ってきたそれらを従えるジュンイチの目は見事なまでの単色モノクロ。



「…………お前ら、今のオレを前によくもまぁ続けられるものだな」



 ………………はい、すいません。悪ふざけが過ぎました。



 この瞬間、全員が悟ったはずだ。

 これ以上余計なことを言えば――たとえそれがスバルであっても、破滅に直結すると。







 そう……悟ったはずなんだけど……







「……ま、まぁ、また誤解されても、大変だしな。
 わかった。変な事は言わないでおくよ。でも、それでフェイトが誤解しても、あたし達は責任取れないからな?」

「それでかまわないです……明らかに恋人前提なこと言わないだけでも、ありがたいです」

「それもそうだな」

「……恭文、あたしは気にしないから大丈夫だよ。というか、フェイトさんのこと気にしすぎだよ。
 それに、さっきも言ったけど部隊長達だって、ちゃんと説明したらわかってくれたんだし、そうすればいいだけじゃないかな?」



 あー、ひょっとしてこの子空気読めない子? せっかくあたしがまとめようとしたのに、そんなことを言うなんて……

 あたしの予想通り、ジュンイチに……そして恭文にも見えない角が生えた。あ、ダメだこりゃ。



「スバル、とりあえず黙れ。つーか空気を読め」

「ちょっと、それどーいう意味? あたし空気読めるよっ!」

「どこが? まったく読めてないでしょうが。
 読もうとはしてるみたいだけど明らかに読み違ってるから。今スバルは『空気』を『くうき』じゃなくて『からけ』って読んでるから」

「ナニそれっ!?
 あたし、今日の恭文すっごく嫌いっ! あたしにも八神部隊長にも全然優しくないんだもん!
 そりゃ、あたし達が悪かったのはお兄ちゃんに叱られてわかったけど、それでもこれはないよっ!」

「やかましいっ!
 そもそもっ! 事情説明だってっ! 結局っ! 僕がっ! ひとりでっ! 必死に説明したんじゃないかよっ!」



 あ、恭文キレた。ジュンイチよりも先にキレた。



「立場気にして、何もフォローしてくれなかったクセに、偉そうな口叩くなっ! そんなこと言えるのが空気が読めてないって言ってるんだよっ!
 タチが悪い。本気でタチが悪いっ! 一貫して黙ってるティアナの方が、数倍マジだぞっ!」

「スバル。今のは明らかにお前が悪い。
 というか、『わかってくれた』とか言うけど、その『わかってくれる』までに恭文がどれだけ苦労したか、今のやり取りを見てただろ。
 それでその発言は、立場うんぬん抜きにしても無神経すぎる。黙れと一蹴されても文句なんか言えるワケねぇだろ」



 ……あー、恭文もジュンイチも、そりゃ言い過ぎだぞ? スバルがなんか落ち込んでるし。

 つか、恭文の周りのこの温度差はどこから来るんだろうね。つき合いの差?

 というか、はやて、大丈夫なのか? どーも話を聞いてると、この子達のアンタやフェイトに対する認識と、あたし達の認識に差が有りすぎる感じがするぞ。



「まぁまぁ、そんな夫婦義兄弟仲むつまじいところ見せつけんで……わかったわ。
 もう言わんから。二人してその殺意に満ちあふれた目で私らを見るのはやめてもらえへんかな? ほんまに怖いわ」



 恭文、そうなる気持ちはわかるけど、お前までそのつや消しの単色アイズはやめとけ。

 あと、横で浮いているアルトアイゼンに手を伸ばすのもだ。ジュンイチも右手を燃やすな。

 リンディさんは『アラアラ』って楽しんでるけど、あたしは怖いし、リインもおびえ始めたし、身体から妙なオーラが吹き出てるからさ。



 ……あ、リンディさん、ジュンイチのオーラに黙らされた。



「今度言ったら、本気でぶっ飛ばすから。いい?
 僕は、フェイトに、妙な誤解を、されたくないの。わかったかな? かな?」

「いや、わかったから……何度も『セットアップ』ってつぶやくのはやめてくれへんかな?」



 ……はやて、本当にやめとこうな。今の恭文ならやりかねない。というかやりかけてるから。

 そして恭文がやらなくてもとなりのジュンイチがやる。つーか殺る。



「とにかく、お前ら全員、今後はちゃんと恭文に連絡入れてから来るように。でなきゃまた今回のドタバタの繰り返しだ。
 もしそれが守られなかったら……わかるな?」



 ジュンイチのその言葉に、全員がコクコクとうなずく。落ち込んでいたスバルでさえも。



「……で、恭文、どうする?
 コイツら、いっそもう叩き出すか?」

「はぁ……もういいよ。いい加減気はすんだ。言いたいこともほとんどジュンイチさんが言っちゃったし」



 とりあえず話を締めくくりはしたものの、ジュンイチは未だ怒りも冷めやらぬ、って感じだ。間違いなく本気で提案するけど……逆にそれが恭文の頭の血を下げたみたいだ。



「みんな……ジュンイチさんの言う通り、今度からはちゃんと事前に連絡するようにして。
 でないと、この人は本気で殺りに来るし……僕だってまたキレない保証はできないから」

「それから……今日のことについて改めて頭下げとけ。
 事実上迷惑かけたんだし、そこは絶対だ」

「う、うん……ごめんね、恭文」

「あたしも……ちょっと無神経だったわ。
 それに、結局止めなかったワケだし……うん。ホントにごめん」



 ジュンイチに言われてスバルとティアナが謝った。で、続いてあたしやはやても。

 けど……リンディさんはそれでも渋い顔してた。「親(=保護者)が会いに来るのにそんな他人行儀な……」とか言ってたけど、結局ジュンイチにまた殺気をぶつけられて頭を下げることに。



 うん、リンディさん、マジメにここは反省しよう? 仮にその意見を通すにしても、今回みたいな状況じゃただの悪手にしかならないんだから。そのくらいはあたしにだってわかるんだからさ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて……そんじゃ、オレも矛を収めるとしますかね」



 全員が謝ったのを確認して、ジュンイチさんは殺気を収める――ついでに怒気も。



 ジュンイチさんの、こういうところ、状況に従ってきっちり気持ちを切り替えられるところは正直見習いたいと思う。

 というか、見習って、実践してる。まだちょっと引きずっちゃったりもするけど。



「結局コイツらを追い返さないとなると……メシの方を何か考えなきゃな……」



 あー、そういやそんな時間か。頭に血が上ってたせいかちっとも気づかなかったよ。



「恭文、ちょっと冷蔵庫見せてもらうぞ」

「あぁ、それはいいけど……」

「……って、うわ、なんにもないなコレ!」

「うん。そういうこと。
 今日は引きこもる気満々だったし、食材は昨日で丁度使い切ったから……」



 今朝買ってきたパンで今日一日しのぐつもりでいたからなー。それでこの人数のお腹を満たせるはずがない。スバルとジュンイチさん、マスターコンボイという大食い組がいるからなおさらだ。



「…………いや、マヂでコイツら叩き出そうか?
 で、オレも帰ってお前は引き続き引きこもる……これがベストだと思うんだけど」

「もうこうなったら毒皿だよ。
 仕方ない。買い物するしかないよね、コレ」



 頭を下げてくれて、僕もさっきまでのアレコレを水に流した以上、今のみんなはお客様なのだ。その辺りはきっちりしておきたいのだ。



「そんなワケで、買い物に行こうか……ほら、いくよタヌキ」

「誰がタヌキやねんっ! つーか、私もゆっくりしたいんやけど?」

「ダメ。また家捜しされても困る。
 そういう意味じゃ、リンディさんやアルフさんも危険だけど……二人ならある程度一線守ってくれる。ギンガさんに頼まれてきたっていうスバル達もそこは同じだけど、はやてはホント容赦ないから。家捜しした後片づけないし」

「信用ないなぁ。私、そこまでするように見えるか?」

「見えるから言ってるんだけど?」







 ピンポーンっ!







 ……いや、今度は誰が来たってのさ?



「あー、オレが出るよ。
 お前が出てもまた話がややこしくなりかねないし、オレが出れば来客中ってことも伝わるだろ」



 玄関に向かおうとした僕を制して、ジュンイチさんが代わりに応対する。モニタで来客を確認して……あれ、ため息?

 そのまま、スタスタと玄関へと歩いていき、扉を開けて一言。









「どーして、お前らが一番最初に来てくれなかったんだ……」



『………………はい?』



 いるとは思ってなかったジュンイチさんの登場、そしていきなりのその発言に――









 なのはやフェイト、ヴィヴィオは思わず目を丸くして疑問の声を上げていた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 えっと、今非常に驚いています。

 今日の朝、ヴィヴィオが『恭文どうしてるかな〜?』と言ったのがきっかけだった。

 それで、恭文くんのお家へプライベートACSを発動させて一緒に来たところまではよかったんだけど……









「……なんというか、大変だったね」

「恭文、大丈夫?」

「あー、うん。大丈夫だよヴィヴィオ……疲れてるだけ。
 すっごく疲れてるだけだし……怒るところは一通りジュンイチさんが怒ってくれたから」



 なんでも、私達が到着する直前、ジュンイチさんがかなり激しめに雷を落としたらしい。

 恭文くんの休みをジャマしたみんなに対して怒ったらしいんだけど……聞けば、日頃から甘やかしてるスバルにまでそんな調子だったとか。

 それ……よっぽど頭に来たってことだよね? スバルにまで雷を落とすくらいなんだから。



「ねぇ、神様ってどこにいるかな? 今ならぶち殺せそうな気がするんだ。
 ほら、『とある』繋がりで右手で触れれば消し去れるよ。僕の右手は幻想を殺す手だしね」

「お願いだからそんな怖いこといわないでっ! そしてそれは間違いなく錯覚だからっ!
 恭文くんの右手は、普通の手だよっ!」

「嘘だッ!」

「嘘じゃないからぁぁぁぁぁぁっ!」



 恭文くんとそんな話をしながら、チラリと前を行くジュンイチさんへと視線を向ける。

 今だって、疲れてる恭文くんを気遣って同行してる……よっぽど恭文くんのことが気にかかるんだね。

 きっと、ジュンイチさんにとっての恭文くんは、あたしにとってのフェイトちゃんやはやてちゃんなんだ。

 何に代えても守りたい、大切な友達……



「あ、あのね……ヤスフミ、買い物は私達がしてくるから、今から戻って、部屋で休んでてもいいんだよ?」

「いや、このまま行かせて。もう、あそこは僕が平和に過ごせる場所じゃなくなってるから。
 つーか、今はみんなの顔見たくない。見てるとイライラしてくる。
 せっかくジュンイチさんが怒って、まとめてくれたのに、それを台無しにしちゃいそう……なのはじゃないけど、頭冷やす時間が少しは欲しいの」



 ……うん、その気持ちはわかるけど。



「それに……」

「それに?」



 恭文くんは、黒いオーラを一端閉まって、フェイトちゃんを見上げながら、こう口にした。

 ちょっとだけ、顔を赤くしながら。



「しばらく、フェイトとこうして一緒に買い物とか、そういうのってなかったからさ。その、フェイトと一緒に行きたい……ダメかな?」



 あぁ、そういうことだったんんだね。うん、そうだね。やっぱり……そうなんだよね。



 恭文くんは、フェイトちゃんといる時特有の表情で、言葉を口にしている。

 優しくて、ちょっとだけ気弱で、だけど、強い想いの込められた瞳で、フェイトちゃんを見ている。



 それは、恭文くんがフェイトちゃんを好きだという証拠。誰がいても、心を占めるのは……フェイトちゃんなんだね。



 フェイトちゃんは、そんな恭文くんに見つめられて、笑顔で、言葉を返す。まぁ、ここに悲しい行き違いがあったりするんだけど……





「ダメなんかじゃないよ。そう言ってくれて、すごくうれしい」

「そっか、ならよかった」

「でもヤスフミ、スバルとは、ちゃんと話さないとダメだよ?
 スバルだって、悪気があったワケじゃないから……」

「……わかってるよ。
 でもさ、はやてのプライベートをまったく知らなかったくせに、あーだこーだ口出ししてきたんだもん。正直ムカつく」

「うーん……」

《はやてさんのプライベートでのイタズラ好きな一面というか、そういうのを知らないように感じましたね。あの人、たまに本気でヒドイのに》

「でしょ?
 隊長陣とフォワード陣はどういう付き合い方してるのさ。正直、不安を覚えたよ」

「確かに、それはあるかな」

「ヤスフミの言うとおり、プライベートで深い付き合い方は、してないかも。
 私達も、スバル達も、お互いにつながりを持とうとはしてるんだけど……やっぱり、仕事や訓練が中心になっちゃうから。
 結局、できても私やシグナムとエリオとキャロ、なのはやヴィータとスバルとティアナ。で、それぞれのパートナー……あとはそのメンバーのごちゃまぜ、くらい……それが限界な感じ」



 とは言え、はやてちゃんは恭文くん相手だと特に加減がないから、そういうのもあるんだけど。



「……一緒に暮らしてるようなもんなのに、どうなのさそれ。
 まぁ、今まで見てても思ったけど、隊長陣とフォワード陣って、その枠だけで固まりすぎてない?
 もしくは、さっきフェイトが言ったとおり分隊ごとのグループ」

「……そう見える?」

「かなりね。
 つか、訓練以外で……もっと言うと六課の敷地内で、僕とかがいない時にみんなで今言った組み合わせ以上に交じり合って話してる図を見た記憶がないもん。
 ロングアーチとなんてシャーリー達三人娘としかつるんでないし」

《アレですよアレ。仕事上だけのお付き合い的な色が見える時がありますね》



 にゃははは……二人は鋭いなぁ。ちょっとだけ耳が痛いです。

 とにかく、今はそれはいい。問題は恭文くんとスバルだもの。



「とにかく、お願いだからスバルとちゃんと話してほしいな。
 スバルだって落ち込んでたし、あのままは絶対にダメ」

「わかってるよ。いざとなれば僕の右手で……」

「それはもうやめてっ!」







 ……たまたま外回り中で時間が空いたので様子を身に来たフェイトちゃんと、マンションの前でバッタリ。

 それで、部屋の前まで行ってインターホンを押すと……なぜかジュンイチさんが出迎えてくれた。

 ビックリしている私達が部屋に入ると、リンディさんにアルフさんにはやてちゃんにリイン、それとここを知らないはずのスバルとティア、マスターコンボイさんまでいてさらにビックリした。



 それで、ジュンイチさんの先導で、私とフェイトちゃんとヴィヴィオ、それにイライラ混じりな恭文くんも含めた5人で買い物に行くことになった。

 ついでに事情説明も受けて……それで今の状況になっている。





「でも、ここまでタイミングが重なるなんて……ある意味すごいね」

《さすがはマスターです》

「そんなの誉められてもうれしくないからっ!」

「まぁまぁ……」





 そんなことを話していると、声が聞こえた。





「恭文ー! なのはさーん!」

「フェイトー! ヴィヴィオー!」





 私達を呼ぶ声。突然その場に聞こえてきたのは、私やフェイトちゃんを呼ぶ声。

 ……スバルとアルフさん?



「……やっと追いついたよー!」

「恭文、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。ほら、僕の右手は幻想殺しですから」

「……とりあえず、それでスバルを消そうとしても無駄だからな?」



 うん、無駄だよ。だから……その殺気のこもった目でスバルを見るのはやめてあげて? スバルが怖がってるから。



「アルフ、スバルも、どうしたの?」

「アルフさん、何かあったんですか?」



 口々に聞くのはフェイトちゃんと私。買い物は、私達だけのはずなのに……



「うんとね、ティアに『アンタが一番多く食べるのは間違いないんだから、手伝ってきなさい』って言って追い出されたの」

「……家主じゃないんだから追い出すなよ。あそこ僕の家だよ?」

「にゃはは……それで、アルフさんはどうしたんですか?」

「あたしは、リンディお母さんに頼まれて、スバルと同じく援軍〜。
 あと……フェイトと一緒にいたかったしー!」

「もう、アルフ……」



 フェイトちゃんに抱きついて、尻尾をブンブン振りまくるアルフさん。

 ……事後処理やらなんやらであんま会えなかったしね。これも恭文くんのおかげかな。ね?



「どうしたの?」



 恭文くんが、フェイトちゃん達を見ながら、ちょっとだけ考え込んでいる表情になっている。どうしたの?



「あ、恭文もフェイトさんに抱きつきたいの? それはいくらなんでもダメだって」

「んなワケあるかボケっ! つーか、うるさいっ! どーやらまだ叩き足りないみたいだね……」

「ご、ごめん……」

「まぁまぁ。それでどうしたの?」

「いや、アルフさんとスバルがここにいるってことは……」





 やっぱり、まだイライラが完全に解けてないのか、いつもより棘のある恭文くんの言葉にヘコんでいるスバルを慰めながら、話を聞いてみる。

 ということは、何?





「僕の家、今ごろ大変なことになってるんじゃ? ほら、抑止力になる人間ひとりもいないし」

《……確かにそうですね》



 あー、そうだね。はやてちゃんとリンディさんか。うーん、ティアとリインじゃ止められない……というか丸め込まれそうだしなぁ。

 マスターコンボイは止めそうにないしなぁ……そういう気遣いゼロ、というかその手の気遣いの仕方からしてわかってないから。



《マスター、ご愁傷様です》



 アルトアイゼンのその言葉に大きな、とても大きなため息を吐くのは、小さな男の子。それはそう、自分の自宅が危機に瀕しているのだから。

 ……うん、がんばっていこう? もしカオスな事になってたら、私もフォロー入れるからさ。



 けど……そんな私の想いとは裏腹に、恭文くんは……笑ってた。



「あー、必要ないわ……どーせあのタヌキは苦虫噛み潰してるだろうしね。
 これで憂さも少しは晴れるってもんだよ。いや、楽しみだねぇ〜♪」





 ……恭文くん、ヴィヴィオもいるから念話になっちゃうけど、お話聞かせてね。

 いったい、ナニ仕掛けてるの?
























(まだまだ続くよ最終日っ!)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

アルフ「お前かぁーっ! フェイトを事あるごとにいじめてんのはっ!」

ジュンイチ「そーれ、取ってこーい♪」(骨を放り投げる)

アルフ「わーい♪
 ……って、そうじゃなくてっ! なんでそううちのフェイトを……」

ジュンイチ「そーれっ♪」(フリスビーを投げる)

アルフ「よっしゃぁぁぁぁぁっ!」

Mコンボイ「…………所詮は犬か」





第11話「とある魔導師と守護者と暴君の休日・最終日」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《さて、せっかくの休み最終日に自宅襲撃を喰らい、ミスタ・恭文が涙目になってしまった第10話でした》

Mコンボイ「蒼凪恭文も難儀なことだな」

オメガ《あの、襲撃者の中にボスも入ってることわかってます? 今のところ彼に不利益な行動を取っていないというだけで。
 ……というか……ボス、私はあなたを見損ないましたよ》

Mコンボイ「な、何がだ?」

オメガ《せっかくサブタイトルにも名前が挙がっているこの話で、何ミスタ・ジュンイチに見せ場を持っていかれているんですか。
 おかげでまた私が目立てなかったじゃないですか》

Mコンボイ「まぁ……今回のエピソードは、次回の話への布石のようなものだし……メンツが集まる過程を描くのが目的なワケで、本格的な話は次回だろ。
 というか……出番云々を言うなら、今回貴様にもセリフはあったんだ。十分じゃないか」

オメガ《いえいえ、まだまだ足りませんよ。
 もっともっと私の素晴らしさを世に広めて、ハリウッド進出を果たすそれまでわっ!》

Mコンボイ「…………あー、少なくともその夢は絶対に叶わないから安心しろ?
 さて、それでは、今週の『GM』シリーズ紹介コーナーだが」

オメガ《今回はこの子。
 ミスタ・ジュンイチの元祖パートナー! 何気に私よりもセリフの多い、ブイリュウです!》

Mコンボイ「…………悔しいんだな、自分より出番が多いこと……」





ブイリュウ

種族:擬似生命体“プラネル”

分類:ドラゴン型

性別:男

身長:30cm前後

好きな食べ物:ジュンイチの作るものなら何でも

嫌いな食べ物:あずさの作るものなら何でも

一人称:オイラ

声のイメージ:野田順子(ブイモンのような感じで)

備考:ジュンイチの巨大戦戦力である大型ロボット生命体“ブレイカービースト”の一体、ゴッドドラゴンがその巨体ゆえに常に行動を共にできないジュンイチのために作り出した擬似生命体“プラネル”の一体。
 ゴッドドラゴンの姿をモチーフにしているためドラゴン型。背中の翼でも飛べるが、人間の歩行速度と同程度のスピードしか出せず、がんばっても走っていく常人についていくのがやっと。

 前作『MS』においては本体であるゴッドドラゴンがスカリエッティに囚われていたため、最終決戦まで出番が一切なかった不遇のキャラ。彼の出番のなさに比べたら扱いの不遇を嘆くなのはやはやてなどかわいいものである。





オメガ《まぁ……こんなところですか》

Mコンボイ「キャラクター紹介で出番について触れるなよ……」

オメガ《しかたないですよ。前作にほとんど出られていなかったんですから。
 とまぁ、彼の境遇にちょっとだけ他人事とは思えないものを感じながら、今週はお開きとさせていただきましょう。
 それでは来週までごきげんよう。お相手は私、オメガと――》

Mコンボイ「マスターコンボイでお送りした」





(おしまい)






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あきゅろす。
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