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頂き物の小説
第9話「とある魔導師と守護者の休日・二日目」










 子供達との友情を育んだ翌日。僕は実に気持ちよく目が覚めた。



 窓に目をやると、朝焼けが見える。さて、動きますか。





 ……今日も少し早起き。ただし、目覚めた場所は自宅の布団の中だけど。





 アルトのモーニングコールより早く目が覚めた僕は、外に出て、軽くジョギングをしつつ身体をほぐしてから、家に戻る。

 その後、家に常備してある木刀で素振りをこなして、それからお風呂に入り、さっぱりした後、準備をして、朝食にありつく。





 メニューは以下の通り。まず、昨日のうちにセットしておいた炊きたてのご飯。

 それに、インスタントのお味噌汁にすぐ火が通るサイズにカットしたジャガイモやタマネギをぶち込んで鍋で煮込んだもの。



 そして、サトイモの煮っころがし。昨日、家に帰る前に材料を買い込んで、帰ってからさっと作った代物だ。

 味の方も、一晩置いておくことによって味が染みていい感じである。炊き合わせは少し残しておいて、夕飯の時にまた食べるのがミソだ。



 主菜は、半熟の目玉焼きに焼いたウィンナー。半熟の黄身の部分をウィンナーに絡めながら食べるのがまた美味しいのだ。

 多少行儀が悪いと思うので、ひとりで食べている時だけしかしないけど。





 質素と言えば質素だけど、こういう食事を作る時間があるというのが、とても贅沢なものに思えてくるから不思議なものだ。





《よくかんで食べてくださいね》

「わかってますよ。今日はちと長丁場だしね、しっかり食べないと」





 ついついご飯のおかわりなどしてしまって、アルトに呆れられながらも朝食を終了。





 後片づけをしてから、空間モニターを開いて、メールが来てないかどうかをチェック。

 えっと、なのはにヴィヴィオからのお礼メールか。別にいいってのに、まぁ返事書いとくか。





 あとは、シャーリー?





 ……メールで休みのお土産の催促するなよっ! なんでロングアーチ全員分のお土産リクエストが書いてるのさっ!?

 あー、これは無視だ無視。というかリクエストがムチャクチャだし、適当にミッドバナナでもどっかの店で買ってもっていけばいいでしょ。





 それと、はやてか。







『件名:遅くなってごめんな。



 恭文、休みは満喫しとる……ワケないわな。ごめんな、シグナムが面倒なこと頼んでもうて。この埋め合わせは必ずするから、堪忍な?

 まぁ、それはそれとして、恭文が来た時に約束した出向祝い、遅くなってもうたけど送らせてもらうわ。

 夜天の主、八神はやてのドキドキライブラリーからの自慢の一品や。ドキドキするからゆうて、あんま変なことに使わんといてな? フェイトちゃんが悲しむよ。



 ほな、また休み明けに元気な姿見せてな。



 あんたの悪友の、八神はやてより』







 ……うむぅ、やーっと送ってきたか。約束のドキドキスクリーンショット。

 余計な一言さえなければ普通に読めるのに。とにかく、写真データをチェック!





 おぉ、これは、素晴らしい……!





















 ちっちゃい頃のフェイトとなのはがくっついて写っていて、フェイトが顔を真っ赤にして、なのはに微笑みかけている。

 これは確かにフェイト“が”ドキドキなスクリーンショットっ!





















 …………って、アホかぁぁぁぁぁっ!





 ドキドキスクリーンショットって、僕がドキドキするようなスクリーンショットじゃなくて、ドキドキしてるフェイトのスクリーンショットってことかいっ!

 いや、可愛いよ? 今のフェイトとは違う、愛らしさは確かに素晴らしいよ? 見てると『はにゃ〜ん』ってなっちゃうよ?

 だけど、僕はロリじゃないんだよっ! それで変な事とかしないよ興奮しないよっ! 可愛くて萌えちゃうだけなんだよっ!



 アレか? このちっちゃい女の子が大好きな人達が喜びそうな写真のために、僕はあのチビタヌキの手を握ってわざわざおべっか使ったっての?

 ……信じられない。この世には神も仏もプライマスも存在しないのっ!? いや、プライマスは実在するかっ!

 ウソだと言ってよバーニィっ! じぃぃぃざぁぁぁっすっ!











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第9話「とある魔導師と守護者の休日・二日目」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……なんとかショックから立ち直ると、あの亀でもクロでもないのにサギ師でフリーダムな部隊長には、しっかりとした報復をする事を胸に誓った。

 なお、逆恨みではないかという意見はスルーします。



 さて、気を取り直して他のメールもチェックする。

 あれ? スバルからも来てる。





《ラブメールですか?》



 ……絶対違うと思う。アルトの茶々に対してそんな事を考えながら、メールを開ける。







『件名:どうしてる?



 やっほー! 恭文元気してる? なのはさん達との学校見学どうだったかな?

 まぁ、うまくいったとは思うけどさ。メール見たら、どうなったか返事送ってほしいな。



 こっちはね、ティアやマスターコンボイさん、ジェットガンナーやシロちゃん、クロくんと一緒に、ティアのお兄さんのお墓参りすませてきたよ。

 それで今日は、クロくん達は霞澄おばさんのところに顔を出すために別行動。あたし達はこれから、ティア達と一緒に友達の顔を見たりしながらゆっくり帰る予定。

 お土産も用意しているから、期待しててね♪



PS:休みだからって、いい加減に過ごしたらダメだよ? 休みが終わって、シャマル先生の許可が出たら、また模擬戦しようねっ!

 今度は、恭文の戒め全部取り払うくらいにがんばって、絶対に勝つからっ!



 スバルより』







《……おめでとうございますっ!》

「いや、なにがよ?」

《わからないのですか? 女の子が旅行先から、マスターが特に何もしていないのにメールを送ってくる。これはまさにラブメールフロムミッドチルダですっ!
 やはり、初日に立てたフラグの数々はムダではなかったのですねっ!》



 アルト、フラグって言うな。そして数々って言うな。僕が一体何を……したねぇ。N・T式コミュニケーションとか。

 とはいえ、このカン違いは止めておかなければならない。ツッコませてもらいましょうか。



「あー、盛り上がっているところ悪いんだけどさ」

《なんですか?》

「リンディさんやアルフさんや、なのはにフェイトにはやてや師匠達も、同じ感じで送ってきたことあるけど?」

《あぁ、神様。この世には夢も希望もヘチマもないのですか? いや、ヘチマはありますけど》



 毎度毎度こういう会話をする度に思うけど、アルトはホントに普通のAI付きデバイスを超えた反応を見せてくれるよね。



 とりあえず、道が混まない内に出かけますか。



 そんな落ち込んだアルトを首にぶら下げて、厚手のジャケットに皮っぽい素材のパンツを身に付ける。(オートバリア機能付き)

 背中にシグナムさんから預かった荷物の入ったリュックを背負う。



 そして、フルフェイスのヘルメットにプロテクター仕込みのグローブを持って、外へ飛び出す。



 その前に、なのはとヴィヴィオ、スバルからのメールの返事を書くのも忘れない。

 はやては……まぁ、SSに対する文句もつけて、書いておいた。あ、シャーリーは無視ね。あんなの相手してられっかい。





 ……さて、僕がこんな格好をして、ヘルメットにグローブを持って出た時点で、気づいた方もいらっしゃるだろう。





 そう、僕はバイクに乗れるのであるっ! つか、第1話でガスケットに免許取るの手伝ってもらったって言ってたよね?

 理由? 仮面ライダーになりたいからに決まってるじゃないのさっ!





 せっかくの休みだし、例え人から言付かった用事のために出かけるとしても、そこに自分の趣味を加えるのに何の問題があるのだろう?

 まぁ、事故ったらさすがにそうは言えないので、安全運転で行くけど。





 僕は、住んでいる借家の共用ガレージに行くと、保護シートを外し、バイクを押しながら外に出す。

 ガレージの外に出てから、バイクのスタンドを立てて一旦止めてから、まじまじと見てみる。





 ……うん、素晴らしい。何度見ても惚れ惚れする。というか、なんでだろう? なんか見ていると涙が……うぅ。





 感動にも似た気持ちで一杯になる僕の前にあるが、自慢のマイマシンである。










 僕が乗っているのは……僕の故郷・地球のバイク。ホンダ・マシンデンバードっ!










 そう、あの過去と今と未来を守り抜いた“彼ら”が乗っていた、青と白のペイントがとても綺麗なオフロードタイプのバイクである。



 ちなみに、身長のひk……ひく……低い僕の体型に合わせて、タイヤはモタードタイプに交換してある。

 ……一応断っておくけど、色んな意味で本物じゃないからね?





 エンジンと車体は、デバイスの技術を応用した物で作られており、公害対策も施されていて非常にクリーン。

 それでいながらスピードや出力自体もかなりのレベルである……モノホンの設定には敵わないけどね。





 ちなみに、動力源は僕の魔力or高電圧の専用バッテリーのどちらかで動かすことが出来る。

 バッテリーは、家のコンセントでも充電できるのがすごいところ。まるで地球の電気自動車だよ。





 鍵は、当然例の長方形の黒いパスを差し込むことで起動する。ということで……起動っ!





 パスを差し込んで、イグニッションスイッチを押すと、エンジンがあっという間に動き出した。

 うん、しばらく乗れなかったのに、すぐに動いてくれてよかったよ。





「アルト、お願い〜」

《はい、デンバードとシンクロ開始。
 ……マスター、オートチェック完了。特に異常ありません》





 このバイクは、実はかなりすごい。



 アルトとのシンクロ機能をつけることによって、バイク全体を異常がないか随時オートチェックできたり、安全走行のためにナビゲートを行なったりできる。

 果てはアルトのコントロールで、無人の自動走行もできる機能もあるのだ。

 ……うーん、こうやって挙げてみると、やっぱりすごいな、このバイク。





《それを試作品のテストという名目つきではありますが、マスターに使わせてくれているのです。
 あの方達に感謝しなければなりませんね》

「だね」





 実はこのバイク、完全に僕の物というワケではない。

 本局の方で、局員が使用するヘリなどの特殊車両の開発と技術研究を行う部署に所属している友達がいるのだけど、その人達からの借り物なのだ。



 その部署が開発した災害救助用バイクの試作品にあたる。



 なんでも、長期間に及ぶ運用のデータが欲しいとのことで、テスターを依頼されたのだ。

 当然、メンテやらのサポート付きで。場合によっては現場での荒事に使ってもらってもかまわないとの許可ももらっている。





 その友達二人曰く……こういうことだそうだ。





『バイクは車なんかより小回りが効くし、災害現場での要救助者の捜索、または、犯人の追撃などにはとても有効な乗り物なので、作ってみたの。
 まぁ、連中頭硬いから、魔導師に必要ないだろってことで、アレコレ言われたんだけどね。
 あ、そっちは黙らせといたから安心して? もちろん、実力行使で♪ つか、私の趣味に口出しするなんて100万年早いよ』

『笑顔で言うなよっ! ……まぁ、アレだよ。『電王のデンバードって好き?』って突然聞かれて、素直に『大好きですっ!』って即答したお前が悪い。
 で、アルトアイゼンとのシンクロ機能は、やっさんひとりで動かしてケガでもされたらたまったもんじゃないからつけてみた。
 というワケで、アルトアイゼンよろしく。気になるとこがあったらバシバシ言ってくれてかまわないから』





 ……うん、それはいいんだけど、最後のは何ですか? 僕は間違いなく信用されてないし。





 まぁ、あんまり文句も言えないけど。



 実を言うとコレが送られてきたのは、実は去年の僕の誕生日なのだ。なぜかリボンまでかけられていた。

 それを考えると、テスターなんて話にも説得力がなくなるのは気のせいじゃないと思う。



 なんというか、気の合う大事な友人達に、ただただ感謝である。





《ではマスター、そろそろ向かいましょ》

「だね、アルト、ナビゲートよろしくね。それじゃあ、港湾区のボート乗り場へ……」

《レディ・ゴーっ!》





 ヘルメットを被り、グローブをはめて、バイクにまたがると、ゆっくりとアクセルをひねり、クラッチを繋いで発進する。

 時刻は10時になろうという時間。まず、目指すのはハイウェイの入り口。





 そこから、マックスフリゲートへのボートが出ている港湾区まで、僕とアルトはデンバードをかっ飛ばすのであった……





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ティア、ここからだと、あそこまでってどれくらいかかるの?」

「そーね……あと一時間くらいかしら」

「そっか」





 あたしとティア、それからマスターコンボイさんは、お墓参りを済ませた後、近くの宿泊施設で一拍。

 そして今日は、あの子達のいるマックスフリゲートへと向かう予定。



 今は、ハンバーガー屋さんで、少し遅めの朝食中。ここの朝限定のマフィンが美味しいんだよねぇ〜。フカフカしてて塩味が絶妙で〜♪



 あ、ティアが食べている新作マフィンも美味しいんだよ?

 生地の中にメープルシロップが混ぜ込んであって、甘くてフカフカで、これが目玉焼きやチーズやベーコンによく合うの〜♪




 あと、マスターコンボイさんはヒューマンフォームでホットドック。

 オーソドックスな味付けだけど、これもこれでおいしいんだよね〜♪



 ……って、そうじゃなかった。





 あたし達が今から向かう所には、あの子達がいる。

 あの事件で出会って、戦ったナンバーズのみんな。それに母さんの同僚だったメガーヌさんやゼストさんも療養のために滞在している。

 そして、メガーヌさんの娘であるルーテシアもあそこにいる。





 みんなはあそこで、更生プログラムを通じて社会復帰のための勉強をもう一度やり直してる。

 講師がスカリエッティ、っていうのはちょっと不安だったりするけど……いや、前科的な意味じゃなくて、あの人に関して、人に物を教えるってイメージができないし。

 けど、母さんやギン姉が補佐についてくれるし、ノーヴェ達も手伝ってくれてるらしい。

 ナンバーズのみんなも、話してみるとけっこういい人達だったし、きっとみんな、あたし達の仲間や友達になれるよね……?





 マフィンを食べる手を止めて、そんな事を考えていると、突然メールの着信音が鳴り響く。

 えっと、この着信は……恭文だ。

 あたしは、プライベート用に使っている携帯端末を操作して、メールを見る。







『件名:Re:どうしてる?



 スバル、メールありがとね。こっちは元気だよ〜。なのはとヴィヴィオの学校見学の方もうまくいったよー!

 細かい事は休み明けに話すけど、なかなか楽しかったよー。学校の子供達と、ヴィヴィオ共々友達になったりとかしてね。



 そっちも、お墓参り無事に済んだみたいでよかったね。あー、ティアナに運転気をつけるように伝えておいてくれるかな?



 で、無事に帰ってきたら模擬戦やりましょともね。もち、スバルともやるよ? まぁ、簡単に勝たせないけどね〜♪ 僕もアルトも、負けるの嫌いだし。



 それじゃあ、僕も用事ができて今から出かけるところだから行ってくるね。お土産いいのがあったら買って来るから期待しといて〜。



 最後になったけど、ケガしないように無事に帰ってきてね』







 そっか、学校見学上手くいったんだね、よかった。

 でも、そこに通うヴィヴィオはともかく、恭文まで学校の子達と友達になるなんて……なんか、恭文らしいなぁ。





「ね、メール誰からだったの?」

「うん、恭文から」

「蒼凪恭文からか?」

「うん。
 なのはさん達の方、学校見学はうまくいったんだって。
 それでティアに伝言。運転気をつけるようにってのと、無事に帰ってきたら模擬戦しようねって」

「そっか、じゃあアイツ当てにこっちからも伝言頼むわ。
 『心配してくれてありがとうね。それと、模擬戦やるのはいいけど、今度は終わった直後にドクターストップがかからないようにしてくれると助かるわ』って」



 ティアが、フライドポテトを食べながらそう口にする。なんか、ティアらしいな。



「そうだな。
 オレもヤツとは単独でやり合いたいところだからな。その辺りのことも伝えておいてもらえるか?」

「ね、それなら二人が自分でメールしなよ〜。恭文きっと喜ぶよ?」

「ナニ言ってんの? アイツのアドレス知らないのにメールなんて出来ないわよ」

「そういうことだ」





 ……あれ? 二人って、恭文のアドレス知らないの?





「知らないわよ、聞いてないんだから。
 てーかなんでアンタは知ってるのよ? しかも、プライベート用の連絡アドレスでしょそれ?」

「うん。模擬戦の翌日に教えてもらったの。
 何かあった時に連絡が取れるように、って」

「……そうなの?」

「そうだよ?」



 あたしがそう口にすると、ティアもマスターコンボイさんも呆れたような、よくわかんない顔になった……なんで?



「そういや、アイツはアンタのアドレス知ってるの?」

「あたしがその時に教えたよ。
 何かあったらいつでも連絡していいからって言って」

「プライベート用のアドレスを……か?」

「だって、あたしだけ知ってるのも変でしょ? 不公平だよそんなの」



 あれ、なんで二人とも頭抱えるの? あたし、変な事言ったかな。



「いや、気にしなくていいわよ。
 てーかとっとと食べて出発するわよ? もたもたしてたら、お昼が夕方になって夜になるじゃないの」

「あ、うん。わかったっ!」





 ティアの言葉に促されて、あたしは食べかけの特大マフィンにかぶりつく……美味しいーっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 時刻はお昼前、僕とアルトは無事に到着していた。

 いやぁ、けっこうかかっちゃったねアルト。



《仕方ありませんよ。渋滞している個所がいくつかありましたから。
 むしろ、それを考えると早いくらいでしょう》

「まぁ、確かにね」



 そうして、僕はやってきたその施設を見上げた。





 マックスフリゲート。



 ジュンイチさんとその協力者のみなさんが、“JS事件”中に拠点としていた巨大母艦だ。

 それ自体が人造トランスフォーマーで、高度なAIを備えてパートナーひとりだけでも運用が可能なワンマンオペレート艦。もちろん人造とはいえトランスフォーマーだから、ロボットモードにもトランスフォーム可能。



 現在はスカリエッティ一味の更生プログラム受講用海上隔離施設としてミッド港湾区湾内に停泊。陸との行き来についてはレジアス中将の手配してくれた送迎ボート(なんと揚陸艇! 車とかも運べるようにだとか)による定期便を利用する形になっている。文字通りの“隔離”施設として機能している形なワケだ。



 で、僕はアルトと一緒に、デンバードを引いてそのボートから降りてきたところ。

 ……面会者も車とかバイクはこっちに停めるのね。いや、突発で用意された送迎ボート乗り場に駐車場なんか用意できるワケないんだけど。



 そのまま順路に従って正面エントランスとなっている格納庫へ……最初はどうして格納庫がエントランスなのか不思議だったけど、実際見てみて納得した。

 なるほど。格納庫の一角を駐車場・駐輪場として利用してる――だから、そこからすぐ入れるようにここをエントランスにしたワケか。

 疑問が解けたところで、明らかに間に合わせ感覚で区分けの白線が引かれた駐輪スペースにデンバードを駐車。シグナムさんはダイレクトに訪問かましていいって言ってたので、駐輪場側入り口の端末の前に立つ。

 IDカードで身分照合、しばらくの間隔の後――すぐ脇の扉のロックがカチャリ、と音を立てて解除された。



 そうして僕は、いよいよマックスフリゲートの中へと入っていった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 施設に到着したのはお昼頃だった。



 いやあ、マスターコンボイさん、港まで飛ばし過ぎだよ〜。あたし、ちょっと怖かったよ?



「やかましい。
 貴様がモタモタしてるのが悪いんだろうが」

「あぅー、ひどいよ〜」



 送迎のボートから降りて、ヒューマンフォームのマスターコンボイさんとそんな会話をしていると、ふと気づく。

 エントランス脇の駐輪場の方に、バイクが停まっている。



 あれ……? でもあのバイクって、災担にいた時に資料で見たのと同じヤツだ。カウルとかは違うけど、フレームというか全体の形状が似てる。

 確か……



「オフロードタイプのバイクね。山とか川とかを走るためのヤツよ。
 軽量で車高を高めにして、走破性を良くしたタイプよ。タイヤは違うみたいだけど、基本は同じ」



 そうそう、それだよそれ。確か、災害救助用に使えないかと研究してるって話だった。



 でも、ティアの言うとおり、これってちょっと違うような。

 こう、ヒーローっぽいっていうかなんというか。うーん……



「そんなこといいから、ほら、早く行きましょ? クイントさん達も待ってるんだし」

「かまわん。置いていこう」

「あぁ、待ってよ二人とも〜」



 ティアやマスターコンボイさんに連れられる形で、施設の中に入る。もう何回も来てるから慣れちゃったね。



「そーね。ただひとつ疑問なのは、ここに来てまであんたらとセットに数えられることよ。さっきの警備員の人までそういう目で見てたし」

「あははは、いいじゃん別に。あたしは、ティアやマスターコンボイさんと一緒って思われるのうれしいし」

「アンタがよくてもあたしがイヤなのよ」

「うー、ひどいよティア〜」



 うー、ティアが意地悪だ。

 ……恭文やマスターコンボイさんも意地悪だし、ひょっとして似てるのかな。



「似てないわよ。一緒にしないで」

「そんなことないよっ! ティアも恭文もマスターコンボイさんも、いいとこいっぱいあるよ?」

「そこじゃなくてっ! 『一緒にするな』って言ってんでしょうがぁぁぁっ!」

「い、痛い。痛いよティアー」



 ティアがいきなりヘッドロックをかけてきた。あぅ、痛い痛いっ! これはホントに痛いからー!



「大体っ! あーんな意地悪でひねくれてて素直じゃないヤツと、このあたしのどこがどう似てるっていうのよっ!」

「……へぇ、そんなヤツがいるの」

「えー、いるわよ。あたし達の部隊にいるお騒がせ要員よっ!」

「ふむふむ、そりゃ大変だねぇ」

「大変どころの騒ぎじゃないわよ。アレよアレ、災害よ災害っ! 試しに経歴調べてみると、とんでもないことばかりしてるしっ!
 決して悪いヤツじゃないってのはわかってるけど、それがなおさらムカつく――って、アレ?」

「……どうしたの? 『ムカつく』の先が聞きたいんだけどなぁ〜♪」



 この声……もしかしてっ!



 あたしが顔を上げると、いち早く気づいていたのか、マスターコンボイさんがティアに向かって十字を切るのが見えた。

 ってことは……あぁ、やっぱりそうなんだ。



「な、なんでアンタがここにいるワケ?」



 ティアがあたしをヘッドロックしながら振り向く。声のした方へ。



 すると、そこにいたのはやっぱり……



「そんなことはどうでもいいじゃないのさ。
 それよりティアナ、人がいないと思ってまたずいぶんと好き勝手な事言ってくれてるねぇ〜。
 しかも、勝手に経歴調べるってどういうことさ?
 ……お前、僕に頭冷やされてみる? きっと泣けるよ〜? 答えは聞いてないけど」

《なんというか……ティアナさん、短い付き合いでしたが、あなたの笑顔はきっと忘れません。
 15秒くらい。いや、それくらいしかあなたの笑顔のデータがないんですよ。しかも3回くらいリピート再生で。
 ……とにかく、さようなら》



 にっこりと笑顔で、体中から怒りのオーラを滲ませている恭文だった。そして、胸元であきらめがちに不吉な発言をしているアルトアイゼンがいた。





 ……って、なんで恭文達がここにいるのぉぉぉぉっ!?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……それはこっちのセリフである。



 施設に入ってから、トイレに行きたくなったので、用を足してから歩いていると、ヤツらはいた。

 そう、暴れ回る凶暴怪獣ツインテールと、それにいじめられている豆柴。そしてそれを傍観している(身長の悩み的な意味での)同志がいたのだから。



 しかも、ティアナ様にいたっては、僕の悪口を通路のど真ん中で声高らかに叫んでいるのだから。

 それで知り合いだと気づかない方がどうかしていると思うのですが、その辺りのことどう思います?





 ギンガさん。





「……なるほど、それで貴方達の周りの空気が殺気立っているワケね」

「別に。殺気立ってるとかじゃありません」

「そうですよ〜。別にそんなんじゃありませんよ。
 ただ、ツインテールの凶暴さにか弱い僕としてはびくついているだけですから。ハハハハハ」

「アンタねぇ……!」

「あぁ、ティア押さえてっ! 恭文も刺激しないでー!」

「まったく、こいつらは……」



 すべては、本当に紙一重なタイミングだった。

 軽く、キレかけていたところにちょうどギンガさんが通りかかった。

 で、ギンガさんになだめられつつ歩いているのだけど……この女、ぶっ飛ばしたい。いや、けっこう本気で。



「とにかく、暴力沙汰はやめてね。
 ……もちろん外でもよ? なぎ君」

「ちょっと待ってよ。
 このヘッドロック女はともかく、僕はそんなことしないって。
 僕は自他ともに認める博愛主義者ですよ?」

「……私はツッコまない。
 とにかく、なぎ君からは絶対に手を出さないでしょうね。
 でも、今みたいにティアを挑発して、『向こうから手を出してきたから応戦するしかなかった』なんて状況を作りかねないから、止めてるの。
 ……いいね?」



 ちっ、読まれてたか。そこを狙って全力全開でぶっ飛ばす予定だったのに。

 ほら、僕は挑発のコマンド持ちだし。



「恭文、お願いだからそんなことしないで。
 ティアだって、悪気があったワケじゃないから……ね?」

「あれをどう好意的に解釈すればそうなるのかぜひとも聞きたいんだけど」

「や、恭文っ! 顔近いっ! 近いからーーー!」

《いや、わかりますよ? パートナーとしては、マスターを侮辱されたワケですし、正直アレとかコレとかでぶっとばしてやりたくなりましたし》

「悪いが、今回ばかりはオレもお前らの味方はできんな。
 少なくとも、一方的に廊下の真ん中で言いたい放題まくし立てられた蒼凪恭文は立派な被害者だ。報復の権利は当然だろう」

「アルトアイゼンもお願いだから止めてっ! マスターコンボイさんも、ティアが悪いとしても報復は当然じゃないからっ!
 ……あのね、もしまたティアがこんなこと言ったら、あたしが絶対に止めるから。約束する。
 だから……お願い」



 ……あぁもうわかったよ。だからそんな泣きそうな顔するな。



 申しわけなさそうな、落ち込むような顔をしているスバルを見たら、毒気が抜けた。もうどーでもいいや。



「それじゃあ……」

「もう挑発もしないし、この事で後であーだこーだと言ったりもしない。これならいいでしょ?」



 そう言うと、スバルもギンガさんも、安心したような表情を浮かべた。そこまで危険視されてたんかい僕は。



「よろしい。
 ほら、ティアもよ。あなただって、別になぎ君とケンカしたいワケじゃないでしょ?
 というか、謝りなさい。アナタがなぎ君を不快にさせるようなことを言ったのは事実なんですから。悪いけど、マスターコンボイの言うとおり、今回の件で非があるのは明らかにあなたよ。
 だから……ね?」

《ティアナさん、もしそれが出来ない場合……マスターのパートナーとして、侮辱された報復をしなければなりません。
 具体的に言いますと、あなたから奪わせてもらいます。あなたの未来を、夢を。まぁ、それでもいいのであれば謝らなくていいですよ?》



 アルト、お願いだからそれはやめて。つーかそこまでやるなよおいっ!



「アルトアイゼンも落ち着いてー!
 ティア、そういうのは抜きにしても、ちゃんと謝らないとダメだよ。
 アルトアイゼンだって、マスターを侮辱されるようなこと言われたら、怒るのは当然だよ?」

「……悪かったわよ。言い過ぎた」



 ……そっぽ向きながら不機嫌そうに言っても伝わるものがないんですけど? あーやっぱムカツク。



《やはり、個人情報の暴露でしょうか。色々とマスターの事を詮索してくれたようですし。目にはパル○でしょう》

「お願い、やめてあげて……とにかく、着いたわよ。というか、パ○スは違うわよ。いろいろな意味で。
 さて、と……今日はなぎくんもいるし、いつもの面会室じゃなくて、大部屋の方で会ってもらうわね」



 ギンガさんが、IDカードをセンサーに通してドアを開く。



 ……ってか、あれ? おかしいな、僕とスバル達、なんで一緒に案内されてるの?



 これいいのかおい。セキュリティ的なアレコレとかでさ。



 そんなことを考えつつ、僕達が通されたのは、かなり広い空間。

 芝生に木に、でっかいモニターって、なんだこの部屋?



「みんなが更正プログラムを受ける時に使ってる部屋のひとつよ。
 この更生プログラムのために、レクルームのひとつを改造して作ったの」

「みんな普段は、ここでお話したり、休憩したり、お兄ちゃんが修行をつけてくれたり、ギン姉や母さんと一緒にお勉強したりするの」



 へぇ、なるほど。リフレッシュルームも兼ねてこの作りってワケか。納得納得。

 …………途中に混ざった余計なのは気にしないでおく。更生プログラムで修行って……

 しかし、実際に顔合わせるのは初めてだな。さて、どうなるか……



《鬼が出てこないことを祈りましょう。
 しかし、どんな方々なんでしょう。やはり不安な面はありますね》

「実際に話してみないと、その辺りは判断できないしね。資料だけじゃあどうにもわかんない」



 人間って言うのはそういうもんでしょ。誰であろうが、それは変わんない。



 ……でも、僕とアルトがそう言うとスバルの表情が、一瞬暗いものになったのを僕は見逃さなかった。というか気づいてしまった。

 ちょっと言い方マズったかなと思い、何かフォローを入れようとした時に、それは起きた。





「……スバルー! ティアー!
 でもって、マスターコンボイーっ!」



 背の高いスレンダーな女の子を先頭に……何人もの白い服を着た女の子達が出てきた。



「元気してるっスか〜!」



 その後ろに、赤毛の髪を後ろでアップにまとめている、明るい印象の女の子。



「ったく、毎回毎回こんなところまで……けど、ありがとよ」



 赤毛で、キツそうな目つきだけどそれ以外はスバルやギンガさんに良く似ていて……多分にツンデレ臭のする女の子。



「……久しぶり」



 どこかもの静かな印象を持った、ショートヘアーで栗毛の……女の子だね。



「元気そうですね」



 スタイルのいい、栗毛のストレートのロング。そして、どこかショートヘアーの子と同じ印象を受ける子。



「なんか、悪いね。忙しいのにいつも来てもらって」



 ロングヘアーの髪を、リボンでひとつにまとめている、どこか大人びた女の子。



「ごぶさたしています」



 桃色がかったブロンドを長く伸ばした、無表情な感じのする女の子。それに……



「3人とも、いつもいつもすまないな」

「元気そうで何よりだ」

「うん、久しぶりね、あなた達」

「スバル、ティア、マスターコンボイ。ごきげんよう」

「元気してたかぁ〜!」



 僕達が入ってきた所とは別の入り口から、その集団はやってきた。というか妙にフレンドリーな空気出してるねおい。

 あの人達、本当に収容者ですか? いや、収容者じゃないけど参加してる子もいるけどさ。



 とにかく、背が高いのから低いのから大きいのからぺったこなのまでバリエーションに富んでいる。

 ……なんか、リインサイズのちっこいのもいるな。



「誰がちっこいだっ!? あのバッテンチビと一緒にするんじゃねぇっ!」



 …………うん。とりあえずこの子がリインと知り合いなのはわかった。そして仲が悪いのもわかった。





 そして――



「スバル、ティアちゃん……マスターコンボイもいらっしゃい。
 あら、恭文くんも来たの?」



 最後にクイントさんが現れた……見覚えのないひとりの女性をともなって。

 プラチナブロンド、とでも言えばいいのかな? キラキラと輝く髪を腰まで伸ばした大人の女性……って、今ふと思ったけど、僕の知り合いの女性陣年上組ってロングヘア多いよね。



《そういえばそうですね。
 ショートの人がいないワケではないですけど、圧倒的にロングの人が多いですね》



 まぁ、それはいいとして……誰?



「フフフ、初めまして。
 私はマグナクローネ。呼ぶ時はマグナでいいわ」

「はい、こちらこそよろしく……」



 ………………ん? マグナクローネ?

 なんだろう。つい最近、その名前を聞いた覚えがあるようなないような……アルト、覚えてる?



《ほら、アレですよ。
 “JS事件”中、情報がほしくて立ち寄った無限書庫で……》



 あー、そうだったそうだった。

 自分も“ゆりかご”関係の検索で忙しかったはずなのにこっちに手を回してくれたユーノ先生に対し、お礼としてちょこっと検索を手伝って……その時に名前を見かけたんだ。

 なんでも、“ゆりかご”を建造して当事の聖王様にプレゼントした、別の王家の“王”だとか……その人と同じ名前なんだ。



 けど、そうやって思い出した僕に対して、マグナさんは突然吹き出して……って、どうしました?



「どうしたもこうしたもないわよ。
 同じ名前とかそういうんじゃなくてね……」









「本人」









 ……………………………………………………はい?









「いや、だから私がそのベルカの“王”本人」













「………………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」







 突然のトンデモ発言に驚く僕に対し、マグナさんは優雅に一礼し、



「では、改めまして。
 先日、仮死状態から無事蘇生を遂げました古代ベルカの“龍王”、マグナクローネ・ヴォルクスといいます。
 以後、お見知りおきを」



「い、いえっ、こちらこそっ!」



 改めて名乗るマグナさんに、僕はあわてて居住まいを正す。





 実を言うと、僕は王族とかそういう立場の人と会うのは初めてじゃない。ヴェートルで出会ったアレクとかね。

 けど……目の前のマグナさんはアレクとは違った。態度こそ明るくてフレンドリーだけど、そこにしっかりと、決して折れない一本の芯が通っているような印象がある。



 アレクとも、あのイカレ公女とも、格そのものが違う……本物の“王”がそこにいた。





「そう身がまえなくてもいいわよ。
 私自身、たまたま龍王家に生まれただけだし……その龍王家ももうないんだもの。
 今の私はただのマグナクローネ・ヴォルクス。そう接してくれると嬉しいわ」



 すいません。そうしてほしいならそのカリスマというか王族オーラというか、その身にまとっているものを引っ込めてはくれないでしょうか? どうしてもかしこまらずにはいられないんですけど。


 うぅっ、僕に対するエリオやキャロもこんな気分だったんだろうか。安易に「気を遣わなくていい」なんて言ってゴメンね、二人とも。





 と、スバル達と話していた白い服を来た女の子達が僕の方へと近づいてきた。そして、まるで物珍しい物を見るかのような目で僕を見る。



「……ね、スバル、ティアナ、この子誰? ……てーかちっちゃっ!」

「ホントっスね。いやぁ、ちっちゃくて可愛いっスねぇ〜♪」

「おいおい、ここはガキの来るようなところじゃないぞ」





 カチン。





「ホントだ……ボクとそんなに変わらない」

「そうですね。むしろ低いです。まだ子供ですね」





 カチンカチン。





「そうだね。背丈だけ見れば、13歳前後って感じかな?
 僕、どこから来たのかな?」





 ほぉ……? お前らいい度胸だな。そんなにアルトの錆びになりたいのか。

 あ、あと最後のあなた、その微笑はとても素敵ですよ。なので、あなたにはやりません。



「あぁぁぁっ、恭文落ち着いてー!」

《そうです。私を錆び錆びにするのはやめてくださいっ!
 ちゃんと魔力を込めて刀身をコーティングして、血が出てもこびりつかないように……》

『ツッコむところが違うからっ!』



 怒気を全力全開で放つ僕に対して、周りがなんか言ってるけど気にしない。



 ……言っておくけど、別にこの子達がナンバーズだからとかそういう理由じゃない。

 昨日から散々『子供』やら『ちっちゃい』やら『豆』やら『ミジンコ』やら言われまくって、いい加減頭に来てるんだよ!

 そろそろハッキリとした意思表示でもしないとこっちの身が……





「……こらこらお前達、余り小さいやら子供に見えるやら言うもんじゃない。
 この人は間違いなく、お前達やスバルとティアナよりも年上だぞ? いくらなんでも失礼だろうが」





 キレかけた僕の溜飲を下げてくれたのは、後方に控えていた、落ち着きのある空気を漂わせていた3人の内のひとり。まだ幼女にしか見えない背丈の女の子。

 でも、それが彼女の全部とは思わない方がいいというのはすぐわかった。



 なぜなら、彼女の一言で、さっきまで好き勝手言っていた女の子達が、一瞬にして押し黙ったのだ。

 つまり、彼女はこのメンバーの中ではかなりの格上ということになる。



 それに、腕も立つと見た。同じ身長であるスバルはともかく、僕より身長が高いティアナや彼女達も含めて年上だと見抜いた。

 場数の多さゆえの観察眼とでも言えばいいのだろうか? それはかなりのものだと思う。

 ハッキリ言ってこれは、簡単に養えるようなもんじゃない。



 あと、歩き方や身のこなしが、そういう人間と同じ雰囲気を漂わせている。

 例えば……シグナムさんやヴィータ師匠みたいな感じと言えば、わかるだろうか?





「そうなんですよ。
 僕、基本この連中よりも年上のはずなんですよ」

「あぁ、そのはずだ」



 自然と、自分の口調が敬語になっていることに驚いた。本能で見抜いたのだ。

 この人が、僕より上で、敬うべき存在だと。それは理屈ではなく、生物が生物たる所以からかも知れない。



 要するに、イクトさんと同じ感じを受けたのだ――イクトさんは恋敵ということもあって素直に尊敬できないでいるけど。



「初めまして。私は、チンクと言う。こんなナリだが、この子達の姉になる」

「あ、はい。チンクさんですね。初めまして、僕は蒼凪恭文と言います。こんなナリですけど“18歳”でスバルやティアナより年上です」



 ……その瞬間、チンクさんと僕は強く見つめあう。そして理解する。

 相手が、自分と同じ悩みを抱えていることに。これが男同士なら熱い抱擁へと発展するところである。



 ちなみに、チンクさんの妹の女の子達は、そんな様子や僕の一言にバツが悪そうにしている……まぁ、これで我慢しておこう。



「そうか。あなたが……それでは蒼凪殿」

「あー、やめてください。普通に恭文って呼んでくれていいですから」

「そうか、ならば……恭文、妹達が無礼なことを言ってすまなかった。許してくれ」



 そう言って、チンクさんが頭を下げてくる。



「あー、頭を上げてくださいチンクさん。僕は別に気にしてませんから」



 うん、ホントに“今は”気にしてないですから。あなたに頭を下げられてそんな些細なこと気にする奴がいたら是非会いたいですよ。



「そう言ってくれるならありがたい。
 ……ほら、お前達もちゃんと謝るんだ」

「あー、なんていうかゴメンね。ちっちゃいとか言って。
 あたしはセイン。よろしくね」

「あたしはウェンディっスー!
 ……うーん、可愛いってのも含めてホントの事だと思うんっスけど、チンク姉がそういうなら謝るっス。ごめんなさいっス」



 うん、別にいいけどさ。なんて言うか赤髪、というかウェンディ。反省してないでしょ?

 あと、男に可愛いっていうのはやめておきなさい。凹むから。



「……ごめんなさい。ボクはオットー、よろしく」

「私は、オットーと双子でディードと申します。知らなかったこととは言え、失礼しました。お許しください」



 あー、うん。こう言ってもらえるとこっちとしても許す気になるワケですよ。ウェンディとティアナ、あーたら二人はこの人達を見習え。



「あー、何だ……うん、先に名乗っとくか。
 あたしはノーヴェ。悪かったな。ガキ扱いしちまってさ」



 ……うーん、第一印象だとツンデレ臭がすると思ったのに、なんか意外に素直に謝ってきたな。

 けど、この子がノーヴェか……ってことは、クイントさんやスバル達と……



「で、私はディエチ。よろしくね。……でも、ごめんね。
 私もまだまだだなぁ、チンク姉が見抜いたのに、キミが大人だってことを見抜けなかったなんて」



 うん、この人もいい人っぽい。というか、この中で一番好みかな? こう、感じが○である。



「私はセッテといいます。
 先ほどはお姉様達が失礼いたしました」



 そして自己紹介は先ほど僕をミジンコ扱いしなかった人達へと移る――うん。物静かで落ち着いた感じが良し。けど、ちょっと固いかな?



「私はトーレだ。
 まったく、アイツらもまだまだだな……自分達よりも年上だというのに、背が低いからといって子供と決めてかかるとは」



 次はちょっときつめっぽいショートカットのお姉さん……擁護してくれるのはわかるんですけど、背のこと持ち出さないで。せっかく押し込めた殺意がまた吹き出してきそうだよ。あなたが長身だから余計に。

 まぁ、斬らないけど。チンクさんと同じで格上オーラがバンバン出てるし。



「ハァイ。私はドゥーエ。
 妹達がごめんなさいね。けど、根はいい子達だから、許してくれて、ついでに仲良くしてくれると嬉しいかな?」



 そして、包容力あふれる、これぞ「お姉様!」な感じのお姉さん。

 あの、フォローしてるようでやっぱり子供扱いしてません? いや、あなたはホントに年上みたいですけど。



 そして、後二人……ナンバーズの頭脳格、ウーノさんとクソメガネ(ジュンイチさん命名)ことクアットロが加わりナンバーズが勢ぞろいとなる……んだけど、二人は本日不在。

 クアットロは、“ゆりかご”攻略戦で両手足を思い切り砕かれた。文句なしにナンバーズ側で一番の重傷。

 で、その治療のために本日はマリーさんのところへ。ウーノさんはその付き添いだとか。大変だね、いやホント。



「あたしはアギトってんだ。
 ってか、なんかバッテンチビのこと知ってるみたいだけど、ホントにあんなのと一緒にすんなよっ!
 あたしの方が、あんな新米よりもずっとずっと先輩で偉いんだっ!」



 次はリインっぽいと思ったちっこいの。

 ってか、何リインに対して先輩風吹かしてんのさ。本人もいないってのに。よっぽど敵視してるんだなー。

 とりあえずプンスカ怒ってるその顔はなんとかしなよ。せっかくかわいい顔立ちしてるのが台無しだよ?



《マスター、別にマスターの恋人候補を捜しているワケでもなんでもないんですから》

「ホントよ。
 アンタ、一体何しにここに来たのよ?」



 ……はっ! そうだそうだ。完全に忘れてた。あ、それとアルトもティアナも、そろって思考を読むなっ!



「えーっと……ゼストさん、ここにいるんだよね?
 シグナムさんから荷物を預かってるんだけど」

「ゼストの旦那に?
 あちゃー、間が悪いなぁ。今メガーヌの姐さんと一緒に、外の病院にリハビリに行ってんだよ。
 とりあえず、あたしが預かっとくよ。旦那の世話はあたしの仕事だ!」



 言って、喜び勇んで飛んでくるアギトだけど……うん、サイズが違うな。

 とりあえずリュックから出して、そのとなりにいたこの子の友達っていう紫髪のストレートヘアの女の子に渡すことにする。

 そっか、この子がルーテシア・アルピーノか。以前のお見舞いの時にクイントさんから見せられたメガーヌさん写真と……そっくりだね。さすが親子だ。



「……これ、なに?」



 ルーテシアが、キョトンとした顔でそう聞いてくる。僕はそれに対して笑顔で、答える。



「ほら、ゼストさん、指輪持ってなかった?
 その中に、ゼストさんなりに集めてた事件のデータが記録されててさ。
 証拠品として提出されていたんだけど、データの解析も済んで返却されてきたから、仕事でこっちにこれない自分に代わって届けてほしいって、シグナムさんから頼まれたの」

《あと、中に手紙も入っているそうなので、後で読んであげてほしいとお伝えください》

「……そっか、わかった。
 けど……」

 うん。アギトの言いたいことはわかる。彼女と共に、ルーテシアの手の中の箱に視線を向ける。



 …………指輪ひとつ入れるのにどんだけデカイ段ボール箱使ってんのあの人。

 どうせ中身のほとんどは梱包財とか衝撃吸収剤だろうけど、荷物を保護するにも程ってものがあるでしょ。



《きっとほら、アレですよ。
 高町教導官の全力全壊が移ったんですよ》

「あー、ありそうありそう。
 もうほとんどウィルスとか伝染病だよねー。よし、これを“なのは菌”と名づけよう。もしくは“高町なのは症候群”とか」

《魔王ではないのですか?》

「いや、名前が後世に残る方が横馬のためになるでしょ」

「いや、ならねぇと思うぞ。まぢでならねぇと思うぞ?
 っていうか、お前のデバイス、なんかさっきからよく口はさんでくるよな?
 しかも、あたしらとそんなに変わんない様子でしゃべるし」

「ホント、珍しい」



 うーん、他の皆も、もの珍しい目で見ている。

 ……やっぱ変わってるんだってさ、アルト。



《何というか、他の方々のデバイスと同じだと思うのですが》

「まぁ、その辺りも含めてゆっくり話でもしてくれないか? もしよければだが」

「あ、はい。それはかまいません」



 会って数分なのに、すでに上下関係ができ上がってしまってるのは間違いないな。この人には逆らえる気がまったくしない。



 そうして、全員適当なところで腰を下ろし、お話して交流を深めることとなった……





 あれ? 荷物だけ渡したらすぐ帰るつもりだったのに、なんでこんなことに?



 ……アレレ?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 さて、最初こそ色んな意味で腹が立ったものの、話してみると年上組以外の子達もすごくいい子である。



 印象を順番に挙げていくと、まずセインとウェンディは元気で仲が良くて、見ているだけでこちらまで明るくなりそうな勢いがある。



 みんなのムードメーカーってところかな? うん、スバルと同じタイプだ。

 ただ、あやつと違ってKYなところがないから、僕としてはすごく話しやすい感じがする。



「お、あたし達に目をつけるとは、なかなか見る目があるねぇ〜。でも、恭文ダメだよ?」

「そうっスよ、あたし達に惚れたらヤケドするっスよ〜?
 まぁ、仕方ないとは思うっスが、あたしには本命がいるっスからね」



 ……まぁ、自意識過剰な方々は放っておくとしようさ。確かに可愛いとは思うけど、それでも発言がアホ過ぎる。



『ひどい(っス)ーっ!』



 うん。無視だ無視。





 で、そんな二人をため息まじりにたしなめているのがノーヴェ。

 パッと見はキツめな印象があるけど、面倒見はいい方みたいだ……というか、苦労人?

 あー、なんかこういうの見覚えがある気が。ツンデレで苦労人、ってタイプ……



「そこでどーしてあたしを見るのかしら?」

「ってか、あたしがツンデレって何だよ?」



 うん。ティアナもノーヴェも笑いながら拳を握りしめないでもらえるかな? 悪意はないから。ネタにする気はあるけど。





 オットーとディードは、双子だからなのか物静かなところがよく似ている。体型は真逆だけど。

 そして物静かという点ではセッテもだ。あのバカ二人を見た後だからか、3人ともすごくおとなしめな感じがする。

 でも……決して無表情などと言うことはなく、穏やかというかそういう印象を受けた。

 一緒にいると落ち着いてゆったりとした気持ちになれる。うん、いい感じだ。



「ありがとう、恭文」

「そう言っていただけるとうれしいです。
 ただ、私もオットーも……それからセッテお姉様も、もっと感情を出すようにと言われていて、それについてはまだまだ勉強の余地があると思うのですが……」

「まだまだ未熟ということです」

「うーん、その辺りは無理しない程度にやればいいんじゃないのかな?
 そこの自意識過剰コンビみたいに……はいはいそこっ! 二人してにらまないっ!……明るい人もいれば、キミ達みたいに物静かな人もいていいと思うし。
 結局のところは人それぞれだよ。自然体自然体」

「……ありがとうございます」





 トーレさんも物静かな方だけど、落ち着きというよりも厳しさというか、ドッシリとした貫禄を感じる。やっぱり姉としての責任感とかかな?

 で、ドゥーエさんの雰囲気の柔らかさがその厳しさを程よく中和してる感じ。

 トーレさんが引き締めてドゥーエさんがそれを適度なところに留める……いいコンビですね、二人とも。



「ほめてくれてありがとう。
 トーレはマジメなのはいいけど、それが時々行き過ぎちゃうから……」

「そう言うお前は妹を甘やかしすぎだ。溺愛するにもほどがある」

「あーら、ウーノ姉様とグリフィスくんとの交際を未だに認めない子がそういうことを言うのかしら?
 溺愛してるのはトーレも同じじゃないの?」



 …………うん、とりあえず二人にはじっくり話し合ってもらうことにしよう。

 何か聞き捨てならない名前を聞いた気がするけど、その辺の追求は後だ。このやり取りに巻き込まれたくないので。





 ディエチは、うーん、なんというか……好み?



「恭文、そう言ってくれるのは嬉しいけど、私はそういうのには興味ないから」

「あー、別にそんなに重い意味じゃないのよ。ただ、ディエチと話してみたいなってだけで」

「そう……なの?」

「そそ。それはディエチだけじゃなくて、他の子も同じかな?
 いい友達付き合いができれば、それでいいかなと。それならここにいるかいないかっていうのは、関係ないでしょ?」

「なるほどね。
 うん、そういうことなら、これからよろしくね。恭文」

《マスター、なんていうか、キャラが違いますよ。自重してください。
 あぁ、それにディエチさん、すみません。色々とバカなんですよこの人。見ればわかるでしょうけど》

「待て、どういう意味だよアルト?」

「……なんか、キミ達二人ともおもしろいね」





 ……さて、その他のみなさんはどうしてスクラム組んで楽しそうにしてる?

 あと、チンクさんも入れてやりなさい。入れなくてちょこっと寂しそうだから。





「みんなどう思うっスか? なんかディエチにだけ態度違うっスよ」

「おのれ、ヤツも妹を狙う不届き者のひとりだったか……」

「落ち着きなさい、トーレ」

「うーん、でもディエチはそのつもりないだろうしなぁ」

「友達付き合いできればよしとか言ってるし、そういうのじゃないとは思う」

「私達ともと、おっしゃってくれていますから、いいことだと思いますけど」

「あたしにはすっごい意地の悪いことばかり言うくせに……」

「なぎくん、大人っぽくてロングヘアーな人が好みみたいだしね。はやてさん経由の情報なんだけど」

『え、そうなのっ!?』





 ……あなた方、社会に出る上で大事なことをひとつ教えてあげる。

 それは、他の人のことを話す時は、その人の前では話さないことだよ。まぁ、死んでも口にしないのがベターだけど。



 あと、そういう話は僕とディエチに聞こえないようにしてほしい。そして、あのおしゃべりタヌキはいずれ捌いてタヌキ鍋にして食ってやる。



「アンタ、ホントに何しに来たのよ……?」



 やかましい。もうすでになんで来たのかなんて時の彼方に置いてけぼりじゃないのさ。そんなこと今さら気にするな。





 ルーテシアとアギトは……とりあえず、リインとアギトの仲が悪い理由を聞き出した。

 要するに、古代ベルカ生まれのアギトと、現代の技術で生まれたリインとでライバル意識が芽生えてるんだとか。

 僕的にはあまり気にするようなものでもないと思うんだけど、やっぱりユニゾンデバイスにはユニゾンデバイスにしかわからない矜持みたいなものがあるんだろうね。



 あと……アギトについてはおもしろい話を聞いた。



「は?
 アギト、今はブレードさんと組んでるの?」



 ブレードさんというのは、ジュンイチさんの知り合いの……ぶっちゃけ言ってバトルマニアを通り越してバトルジャンキーなお方。

 場の空気も読まず、とにかく強い相手なら敵味方関係なくケンカをふっかけるっていう、はた迷惑極まりないお方なのだ。あの人に比べたらシグナムさんのバトルマニアなんか可愛い方だよ。

 けど……確かに、あの人の斬撃にアギトの炎が加わったら強力かも。いいコンビになれるかもね。



「あぁ。
 けど……お前、六課に出向してるんなら報告書とかで知ってるよな? ゼストの旦那、生き返ってから今までのムリがたたって、けっこう身体ボロボロなんだよ。
 だから、現場復帰するまで、身の回りの世話とかしてやりたくて、アイツの許可もらってここにいさせてもらってるんだよ」

「そっか」





 まぁ、そんな会話を繰り広げつつ楽しく時間は過ぎていった。あ、もちろんチンクさんとも話をした。どんな感じかと言うと……、こんな感じだ。





 みんなの輪から少しだけ離れて、チンクさんと二人で話をしている。結構真剣な話を。



 チンクさんは、ナンバーズの中では古参であり、事件進行中のあれこれも、かなり詳しい。その辺りを話していたのだ。

 なお、トーレさんとドゥーエさんはスバル達がこっちに来ないよう気をそらす役目を引き受けてくれた。バリケード役、ご苦労様です。





《そういえばチンクさん、ひとつ質問があります》

「あぁ」

《あなたは先ほど、マスターのことを知っている口ぶりでした。
 やはり、ジェイル・スカリエッティは、マスターに注目していたのですね》

「その通りだ。
 ドクターは恭文の師であるヘイハチ・トウゴウという男に、強い興味を抱いていたからな。そしてそれは、弟子である恭文も同じだ」



 やっぱりか。まぁ、先生の戦闘能力はすごいからなぁ。レアスキルがあるワケでも、大量の魔力があるワケでもない。

 にも関わらず、エースやストライカーを超えた存在……マスター(達人)としての能力があるし。



《それはマスターも同じですよ。グランド・マスターの域には到達していないとしてもです。
 そして、それゆえに……ですね?》

「そうだ。
 ……とは言え、優先すべき事項が他にあったからな。そのお前達を付け狙った者に情報提供をするだけで、我々が動くということはなかったが。
 恭文、アルトアイゼン、すまなかった。色々と迷惑をかけた。謝ってすむことではないが……すまなかった」



 チンクさんが、心底申し訳なさそうな顔をして、頭を下げてきた。

 あぁ、辛い。別に気にしてないのに……



「チンクさん、頭上げてください。つか、チンクさんが僕の事を狙ってたワケでもなんでもないのに、どうして頭下げるんですか。
 おかしいじゃないですかそんなの」

「しかし……」

「そんなのいりません。
 それに、迷惑って言っても、長期間留守にするせいで、うちの冷蔵庫で置いてた肉やら野菜やらが腐る心配だけでしたから。それもなんとかなりましたし」

《本当に真面目な話、それしか心配してなかったんです。あの愚か者に関しては、出てくればつぶせばいいと考えていましたから。なので、そんな事はしなくていいんです。
 結果的に、私もマスターもこうやって五体満足に生きていられますから》

「そ、そうか。そう言ってくれると、少しだが楽になる。
 ……なんというか、ギンガや柾木から聞いていた通りの人物像だな」



 ジュンイチさん、それにギンガさんも。

 あんたら兄妹は僕のことをどんな風に話していた? まぁいいや、大体想像がつく。





 よし、話をそらそう。こう、明るい話題に。



「チンクさん。話は変わりますけど、スバルやティアナはよくここに?」



 なんか、すっごいフレンドリーだし。本当に被害者と加害者の関係なのかと疑いたくなる。溝が出来てもおかしくないはずなのに。



「あぁ、ここの方にはよく来てくれている。
 妹達も、事件の時のそれはそれとして、二人やあの小さい騎士に召喚師……エリオとキャロとも仲良くなっている。
 ノーヴェやセイン、ウェンディとディードも、そういう意味ではよくやってくれた。事件中から共闘していたあの子達が、ちょうど私達最後までドクターに従った組との間に立ってくれてな」



 なんていうか、知ってはいたけど関わり方がすごい。やれる範囲でこれからずっと付き合っていくつもりとしか思えないよ。



「スバルもティアナも、あの二人もそのつもりだそうだ。
 正直、ありがたくて何度礼を言ったかわからない」



 ……マジですか。なにがあの四人をそこまで駆り立てるのよ? まぁ、なんとなく想像はつくけど。

 それに、あの肉体言語でしか友達作れない、横馬の生徒だからなぁ。当然といえば当然か。



 拳を交えて仲良くなるって、魔法少女じゃないけどね。ジャンプの世界だよジャンプの。



《ちなみに、更正プログラムの方は順調に?》

「あぁ、最初は戸惑う部分も多かったが、クイント殿やギンガやスバル達の協力のおかげで、最近はみんな順応してきてくれている」

「それはよかった」

《えぇ》

「ただ……ドクターが教材作りにこっているのはどうかと思うが。
 フルHD、フル3Dの超高精度動画などは当たり前。今日もプログラムが終わるなり教材準備室にこもってしまって、あの様子では、誰かが引きずり出さない限り夕食時まで出てこないだろうな」



 ……何やってんの、スカリエッティ。

 張り切るのはいいけど方向性完全に見誤ってるでしょ。父親としてがんばりたいなら、もっと娘達とコミュニケーション取りなよ。



「あぁ、そこは心配いらない。
 クイント殿やマグナ殿がよく引きずり出してくれている」



 あ、そっか。あの二人ならちゃんとその辺フォローしてくれるか。



 そうして少しだけ……本当に少しだけ、僕とアルトとチンクさんの間が静かになる。その輪の外から、スバル達が楽しそうに話している声が聴こえる。

 まるで時間が止まったような感覚。でも、それは長くは続かなかった。その静寂をやぶったのは……チンクさんだった。





「……恭文」

「はい」

「もしよければ、また来てくれないか?」

「え?」

「もちろん、アルトアイゼンもだ。
 二人は見ていると色々と楽しいしな。妹達も二人とは仲良くなれそうだ。
 ただ、先ほどの話もそうだが、私達はお前とアルトアイゼンの大事な仲間を、友達を……傷つけた。殺そうともした。
 そんな私達と関わるのが、イヤでなければだが……」

「いえ、イヤじゃありません。
 ……必ず、近いうちにまた来ます」

《私もです。チンクさんと話すのは、とてもいい経験になりますから》





 これは、社交辞令でもなければ軽い口約束でもなく、本心からだった。

 今まで起きたことは、したことは変えられない。でも、これからは違う。

 今までのチンクさん達にこだわって、これからのみんなと仲良くできないのは……きっと、すごく馬鹿馬鹿しい。



 そのためにも、またこうやって会ってみたいと思った。



 もちろん、わだかまりというか……どこか腹立たしい感情がないといえば、それは嘘になる。

 ナカジマ親子は言うに及ばず、ザフィーラさんやシャマルさんにもそうとうやらかしてくれたみたいだし、ジュンイチさんに至っては、生き返れたからいいようなものの、8年前の段階で一度本当に殺されているのだ。

 あいにく、それを笑顔で許せるほど性格はよくない。



 ただ、アレコレ事情は聞いているし、少なくとも全員が全員、根っからの悪人というワケじゃないのは理解している。

 これで、完全無欠にアウトゾーンだったら、適当なことを言ってもう顔を出さないつもりだったんだけど……完全無欠にセーフだったもん。キャラ濃いの多いけど。

 チンクさんに至っては、さっきの通りだし……そりゃ断る理由ないさ。





 と、言いますか……





「実は、クイントさんにもし出来るようなら、更正プログラムに協力してほしいって言われてたんです」

「あぁ、その話は聞いている。だが、本当にいいのか?」



 その言葉にうなずく。お見舞いした時、更正プログラムのことを聞いた時にその話をされた。力を貸してほしいと。

 僕やアルトと話せば、みんなにとってもいい影響になるから……というのが理由のひとつ。



「それに……ジュンイチさんからもこっそりと」

「柾木からも?」

「はい。
 あの……ここにみんなが集められた理由、聞きました」



 少しだけ声のトーンを落とした僕の言葉に、チンクさんはだいたい察してくれたようだ。





 そう。普通なら更生対象の収容や更生プログラム受講者は管理局の隔離施設に収容される。それがどうして、ジュンイチさんの私有戦力であるこのマックスフリゲートに集められているのか?

 表向きは「現行で唯一ナンバーズを止められるだけの戦力を有する機動六課のお膝元に収容するため」と言われているけど、真実はもちろん違う。



 今回の“JS事件”は、ミッド地上部隊の暗部が発端となって始まり、その存在を白日の下に暴きだした。

 その結果局を追われることになったヤツらはひとりや二人じゃない……そういうヤツらにとって、事件の中心に立っていたジュンイチさんやスカリエッティ、ナンバーズのみんなはまさに恨み骨髄の相手。

 それに、きっとまだ残ってる、最高評議会にくっついて甘い汁をすすっていた連中にとっても、自分達のことをバラしかねない目の上のタンコブ――彼女達を狙う動機のあるヤツらなんて腐るほどいるというワケだ。



 ジュンイチさん達と違い、管理局の保護を受けている形のナンバーズは自由に動けない。そういった連中から彼女達を守るために、ジュンイチさんはレジアス中将に動いてもらい、「六課の息のかかった施設に収容する」という名目でナンバーズをマックスフリゲートに保護。同じように事件に深く関わっていたゼストさんやメガーヌさんもここに滞在するという形に持ち込んだのだ。





「僕もその手のゴタゴタに巻き込まれたことがあるんでわかるんですけど、そういうヤツらの報復って本当にタチが悪いんです。
 だから、対処したことのある僕に、それとなくみんなのことを見ていてほしいって……」

「そういうことか……
 まったく、相変わらず手回しのいい」



 チンクさんの言葉にはまったくもって同感だ。

 あの人もあの人で、みんなまとめてずっと守っていく覚悟完了だもの。自分だって一度殺されてるだろうに、大したもんだよ、ホント。



「後は……だったな?」

「そうですね」

「それで、一応確認させてくれ。その事は……には話しているのか?」

「話してないです。というか、どういう機会で話せばいいのかがさっぱりでして……
 とにかく、まぁ、そんな理由なんで、力を貸してくれないかと頼まれまして」



 その時は、『まずは一回会って話す。それからじゃないと、その先までは約束は出来ない』と返事をした。理由もちゃんと説明した上で。

 クイントさんは、苦笑しつつそれでいいと言ってくれたんだけどね。



 でも、こんなに早く、会う機会が来るとは思ってなかったけど。

 スバル達が頻繁に顔出してたのは知ってたから、今度のそれに、くっついていこうとは考えていたけど。



「で、話してみて……みんないい子みたいですしね。もちろん、チンクさんも含めて。
 頼まれたってのを抜きにしても、また会ってみたいって思いました。協力できる事があるなら、協力させてください」

「そうか。
 ……ありがとう、恭文」

「あー、お礼なんていいです」





 近いうちとか、協力したいとは言ったけど、仕事の都合に要相談になっちゃいそうだし。





《でも、私もマスターも先ほど言ったことに嘘偽りはないです。約束します》

「そう言ってくれるのはありがたいが……毎日来られたら六課をクビになったのではないかと心配になってしまう。
 だから、二人に無理のないレベルでかまわないぞ? それだけでも、姉としてはありがたい」



 そう言って、ニコニコと笑いだすチンクさん。

 というか、こういう冗談を言う人だったんだね。ちょっと意外。



「柾木を追いかけ回していればこうもなる」



 あー、あの人の影響ですか。そういえば事件中はライバルみたいなものだったんですって?



「まぁな」

「そして今はあの人のヨメだってうちのタヌキが言ってました」

「…………すまないが何かしらオシオキを頼めるか? 内容は任せる」

「了解」



 ……うむぅ、完全に上下関係が決まったなぁ。不満なワケじゃないけど。





《マスター》



 何さアルト?



《マスターより下の立場の人間がいるんですか?》










 …………………………………………………………………………………………………………










 あー、チンクさん。腹抱えながら笑い堪えるのやめてもらえますか? すっごい悲しくなってくるんで。



 その様子に気づいたスバル達に、チンクさんに何をしたのかと問い詰められたりするのは、また別の話となる……





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……そんなこんなで、僕とアルトは『また必ず来るから』と約束をして、その場を後にした。

 そして、来た時と同じようにデンバードに乗って、家への帰路につく。

 スバル達は、近くの宿泊施設で一夜を明かした後、またあちこち寄りながら帰るそうだ。



 月のきれいな夜空の下、ハイウェイをひた走る。もちろん、湖の騎士さんに怒られたり暴露されたりするのはイヤなので、アルトのナビゲートのもと細心の注意で走っている。

 やはり、時間的に帰宅ラッシュに重なったのがまずかったのか、渋滞を潜り抜け家に帰り着いた時には時刻は夜の7時を回っていた。ちかれたー。



《そうですね。さっと行ってさっと帰るつもりが、ホントに長丁場になりましたから》

「なんていうかさ、アルト」

《なんですかマスター?》

「明日は、というか明日こそは……ダメに過ごしたい」

《そうですね。それでいいと思います》





 幸か不幸か、明日はなんの予定も入っていない。

 溜まってるアニメチェックしようっと。そんなことを思いながら、疲れた身体に鞭を打って夕飯を作る。



 朝に作って、残しておいたお味噌汁と例のサトイモを軽く暖めて、ご飯を茶碗に入れる。



 主菜は、帰りの途中に買ってきたブリの切り身(タイムセールで半額)を、照り焼きのタレに絡めてさっと焼く。

 けっこう手抜き感が漂っているが、いいじゃない。ホントに疲れたんだもの。その分楽しかったけどさ。



 手抜きと言えど、味はそこそこ。そんなちょっと遅めな夕飯をしっかりと食べて後片付けしたあと、お風呂に入る。





 ゆったりと足を伸ばして疲れた体をリフレッシュ。

 ……うーん、入浴剤も買って来ればよかったな。バスクリンとかさ。



 お風呂に入りながら、今日一日起きた事を考える。



 ……なんか、チンクさん達と色々と話せたのは大きかったかもしれない。

 六課でやってく上でってのもあるし、自分の中での色々なことってのもあるし。










「戦闘機人、かぁ……」










 お風呂の中で、ひとりつぶやいてみたりする。

 なんというか、はやてがきっかけで、ギンガさんやゲンヤさんと関わるようになって、“JS事件”終結までの間に、やたらと絡むことになったなぁ。

 なんか縁があるのかしら? いや、間違いなくあると思うけどね。





 にも関わらず、失言をしてしまった。そして、それに反応してたスバルに、しっかりとフォロー入れられなかったのは失敗だったな。



 入れる余裕がなかったというのもあるけど、それでもミスだったと思う。多分、スバルのこと傷つけた。



 うーん、どうしようかなぁ。僕からアレコレ言うのも変だしな。かと言ってこのまま黙ってるってのも……頭痛いよ。



 程よく温まった所でお風呂から上がり、昔から愛用しているパジャマに着替えて、布団を敷いて寝る準備をする。

 ……っと、一応メール送っとかないと。





 シグナムさんに、今日の首尾を説明したメールを、送信……っと。これでよし。









 ……アレ? メールが来たや。誰だろ。





「……ウワサをすればなんとやらとはよく言ったもんだ」

《スバルさんからですか?》





 アルトの言葉にうなずきつつ、モニターを操作してメールを開く。







『件名:無事に帰りついた?



 恭文、無事に帰りついた? 途中でコケてケガとかしてない?

 あたしもティアもマスターコンボイさんも、今日泊まるところにちゃんとついて、今はそこの部屋の中だよ。

 料金安いけど、結構いい部屋取れたんだ〜。景色もいいし、もう最高だよ。

 けど、マスターコンボイさん自分で別の部屋とってそっちに行っちゃったんだよね。こんないい部屋なんだから、あたし達と一緒なら楽しいのに。

 今はね、ティアはお風呂入ってるんだ。あたしは後にしてもらってメール打ってるってワケ。



 ……お風呂の話したからって、エッチなこと考えちゃだめだよ?』





「いやいや、考えないからっ! スバルのヤツ何考えてるのっ!?
 そして何マスターコンボイ巻き込もうとしてるっ!? アイツ男でしょーがっ!」





 あー、つい声に出してしまった。一度、僕のイメージがどうなっているのかを詳しく聞いてみたいものである。



 ……まぁ、続き読むか。





『うんとね、恭文にまたメールしたのは、ちょっと聞きたい事があったんだ。



 ……どう切り出したらいいのか、色々考えたけどいいの思いつかなかったから、単刀直入に聞くね。



 ナンバーズのみんなのこと、どう思った?

 恭文は、戦闘機人とかのことについても多少は知っているよね? それに、“JS事件”でのナンバーズ達の行動も。

 そういうのを含めて、今日、みんなと会って、どんな風に思ったのか……聞かせてくれないかな?



 その、確かにあの子達は、みんな……悪い事をしたよ? でも、それはある意味では仕方……なくないんだけど、でも、どうしようもない部分があったんだ。

 あの子達も……自分達の“明日”がほしかっただけなんだから……



 だから、嫌わないでほしい。恭文、みんなにずいぶん気に入られたみたいだし、また来てほしいし……あぁ、ごめん。うまく言えない。





 とにかく、今の恭文の気持ち、正直に話してほしい。

 返事は、いつでもいいから。ちゃんと考えがまとまってから、聞かせてほしいな。



 それじゃあ夜更かししないで早く寝るんだよ?



 スバルより』







 ……やっぱ気にしてたのか。というか、ムチャクチャ気にしてるね、これ。



 それは別にして、実は戦闘機人については、多少どころか出自から現状まで、分厚い詳細レポートを作れるくらいに詳しかったりするんだけど……

 ギンガさんやゲンヤさんから、その辺りは聞いてないみたいだね。



《そうですね。……それで、どうするんですかマスター》

「うーん……」



 この場でメールで、この返事送ってもOKなワケだけど、なんかそれもなぁ。大事な話なら直接ってのが定石だし。



「いいや、簡単にはなっちゃうけどすぐ返事しちゃおう。
 今はとりあえず大丈夫だってことだけわかってもらって、後日改めてお話、と。これでいこう。
 ここで引きずって面倒になるのはイヤだし……何より、ここで無視したらスバルのことだもの。同じメールがものすごい勢いで大量送信されてきそうだ」

《それがいいかもしれませんね。
 とりあえずマズイ表現がないか、私が後でチェックしますから》

「ほいほい、りょうかーい」



 というワケで、メールの返事を打つ。

 ……これでいいかな? アルトに打った文面のチェックを頼む。



《……ふむ、マスターにしては上出来でしょう》



 マスターにしてはってのはすごく気になるんだけど、まぁ古き鉄・アルトアイゼンのお許しが出たってことで、メールをスバル宛てに……送信っと。



「これでよしっと」





 そんなことをやっていたら、すでに時刻は10時を回っていた。



 ……すっごく眠い。こんな時間を夜更かしと言ってしまえるような早寝早起きが完全に染みついているのは、若者として喜ぶべきか嘆くべきか。



 まぁそれは置いておいて、とにかく寝よう。アルトを枕元において、布団に入る。

 あー、布団のふかふかが気持ちいいー。すっごく気持ちよく眠れそうだわ。





《それではマスター、おやすみなさい。よい夢を……》

「うん、おやすみアルト……」





 そうして僕は、目を閉じるとすぐに眠りへと落ちていった……










 明日こそ……ゆっくりできま……すように……









(第10話に続く)






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あきゅろす。
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