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頂き物の小説
第十五話『異邦人のもう一人の相棒と古き鉄の巨人』:1



ああ、どうもレイ・カストールだ。あの地獄ともいえる修行という名の虐めから無事帰還した俺は、ラミアを貰いに恭文の所に顔を出した


しかし、なのはに預かってもらっていることを聞いて、すぐに向かい。ラミアを返してもらい預かって貰った礼として、簡単にだがクッキーを渡した


ヴィヴィオと一緒に食べると言って嬉しそうだったからよかった。そのあとは、そのままなのはと一緒に仕事場に向かったけどな


しっかし、俺がレオナのところに行ってる間にハラオウン問題が解決してよかったよかった


まあ、恭文のパパ呼びと、俺のお姉ちゃん呼びは継続するみたいだけどな……。それと恭文はリインと一緒にクリスマスイブに休みを取って、海鳴に行くらしい。フェイトとなのはいわく、いつものことらしい


その翌朝、恭文がはやてをおぶって帰ってきた所をフェイトと一緒に目撃し、恐ろしいオーラをだすフェイトに適当な理由をつけて別れた。あれは真面目に恐ろしい……


そのあと機嫌が直ってたから、恭文がうまく対処したんだろう。そして、正月が過ぎ、1月10日。ようするに試験当日


恭文の試験会場は廃棄都市部。そして、俺は……


巨大な翼竜が飛び交い、地上には獰猛な肉食獣が徘徊する無人世界だったりする……なんでさ?



魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常〜異邦人と古き鉄〜


第十五話『異邦人のもう一人の相棒と古き鉄の巨人』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なのはが試験官で恭文が頭を抱えている頃……


俺は別の意味で頭を抱えていた。試験内容は恭文と同じ、魔導師一人を撃墜せよ。これは、いい。恭文みたいに知り合いってわけじゃないし


でも、場所が問題だ。この世界は取引を禁じられた生物が多数棲息する無人世界。確か名前は『リアスト』だったっけ?


取引が禁じられているのは、この世界の生物を保護する名目の他に、危険だからだ。そこらの魔導師がチームを組んできたとしても、現地の生物に食い殺される確率が圧倒的に高いのだ


過去に調査部隊がいくつか、全滅し白骨化して発見されている。そのどれもが何かに食い散らかされた状態だったらしい


密猟によって生計を立てている犯罪者であろうとも、この世界の生物に手をださないのが、裏の世界でも暗黙のルールになっている


人によっては、良い修行場所になるらしい。俺の試験官もその一人だろう。あとになって知ったんだが、恭文の剣術の師匠であるヘイハチ・トウゴウはこの世界で生活したことがあるらしい


調査ではなくて生活な。この世界の生物と剣一本だけで渡り合って原始的な生活をしていたそうだ。………この試験の数日後に管理局のデータベースで翼竜の丸焼きをバックに撮影された映像を見るはめになるとは、この時の俺は考えもしなかった



さて、いい加減俺の試験官に意識を向けようか……


燦々と輝く太陽の光を照り返す、輝く頭……というかスキンヘッド。赤い眉に逞しい肉体を包む黒のインナーに、銀色の半袖のジャケットとズボンを穿いた厳ついおっさんだ


両腕にはスバルのリボルバーナックルを、さらにごつく大きくしたモノを装備している。あれが試験官のデバイスなのだろう



「がっはっはっはっはっ! 驚いてるな、坊主。ここがわしらのバトルフィールドよ」



豪快な笑いと共に話始める試験官、って名前知らねぇし……



「そりゃ驚くだろ。というか、おっさん誰だ?」


「わしか? わしの名はコウ・ゲンカクつうもんだ。よろしくな!」



自己紹介の時に、笑顔でサムズアップしてきた。というか暑苦しい!! まあ、名前聞いてどんな魔導師か分かったから助かるけどな


コウ・ゲンカク……教導官でありながら誘導弾や射撃魔法を使えない魔導師として有名だ。他に『雷速の拳神』と呼ばれ、拳による一撃粉砕を信条とするパワーファイター。見た目から鈍重そうに思われがちだが、雷速という称号が示す通り、とんでもなく速い


その速さと巨竜をも倒すと言われている一撃。この2つを武器にして数々の実戦を潜り抜けてきた魔導師……いや、戦士



「さて、いつまでも睨みあっててもしょうがねぇ。高町の嬢ちゃんと蒼坊主も始めたことだし、わしらもやろうや」


「そうだな。じゃ、行きますか。ラミア、ヴァイサーガ」


《Vaysaga Set Up》



俺は黒き武者鎧に身を包み、突っ込む!!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「鉄輝……!」



魔力を込め、何時ものように鋭い刃を打ち上げる



「一閃っ!!」



僕は、アルトを上段から打ち込むっ!!



《Round Shield》



だけど、簡単にはいかない。なのはは、右手を前……スティンガーへと向け、左手を後ろ……僕へと向け、シールドを2つ展開


カートリッジを使った上での斬撃と針を、難なく受け止めた


つか、固いっ! あーもうこのバカ装甲がっ!!


斬るのは無理。そう判断して、アルトを引く。で、すぐに術式をえい……


視界の端に桜色が見えた。なので、下がるっ!!


僕が数メートル下がると、それまで僕が居た位置を、2つの弾丸が通りすぎる。くそ、誘導弾を隠してたか。いや、それだけじゃない


レイジングハートが変化した。音叉を思わせる形に。その先を僕に向ける



《Short Buster》



次の瞬間、僕へと砲撃が飛んだ。左へ回避。うわ、ギリだったし。僕のすぐ脇を、桜色の砲撃が通り過ぎた


威力を殺したスピード重視の砲撃か。まず当てることから考えた?


でも、当然それで終わらなかった。レイジングハートから、カートリッジが消費される



《Accel Shooter》



一気に30発もの魔力弾が生まれた。それが、僕へと放たれる


とりあえず、これっ!!



《Stinger Snipe》



またアレンジ版を放つ。だけど……スティンガーに数発のアクセルが殺到。それで潰された。くそ、読まれてるっ!?


さすが、腐っても教導官。簡単にはいかないか。なら……。ここはっ!!


僕はそのまま動かず、殺到するアクセルを……受け入れる


次の瞬間、アクセルが着弾。爆発が空間を支配した



《Axel Fin》



……生まれ変わった青い翼が舞うと、僕はなのはの後ろに移動した


だから……移動しながらカートリッジを3発消費。刀身を包むのは、凍れる魔力


背後はがら空き隙だらけ。上段から、アルトを打ち込むっ!!



《Flash Move》



……え? からぶったっ!? つか、なのははどこっ!!



《Divine Buster》


「ディバイン……!」



聞こえてきたのは、足元から。つーか下。確認するより速く、僕は……その声の発生源へと、突っ込むっ!!


発射体制はバッチリ。もう撃てる。というか



「バスタァァァァァッ!!」



放たれたのは、砲撃と言う名の魔力の奔流。……まだ


目前へと、それは迫る。……まだ


奔流の先との距離が、あと1メートルを切った。……今っ!!


僕は、右へと僅かに移動


バスターをスレスレに避けつつ、全速力で突撃っ! バスターがジャケットとフィールドを掠めるけど、気にしないっ!!


現在、なのはは撃ち終わった直後でノーガード状態。これならっ!!



《Protection Powered》



……無駄だよ。何がこようと



「氷花っ!」



そんなの関係無いっ! ただ……ぶった斬るだけだっ!!



「一閃っ!!」



上段から、真一文字に打ち込んだ凍れる刃は、バリアを真っ二つにした。そして、その刃はそのままなのはへと……


次の瞬間、爆発した


その元は、僕が斬ったバリア。挟まれる形で爆発を受け、攻撃がストップした。まさか、バリア・バーストっ!?


その隙を見逃すなのはじゃない。当然、レイハ姐さんを構えて、零距離……いや、少し下がりつつ



《Short Buster》



抜き打ちで、ぶっぱなすわけですよ。普通の回避・防御、暇がない


だから……反射的にアルトを打ち込んだ


スピード重視の砲撃だったから良かった。斬られながらも攻撃する意志を消さない魔力にジャケットを焼かれながらも、僕は砲撃を斬り裂く


……今度はこっちの版だ。一気に懐へと踏み込む


飛び込みながら……カートリッジを3発消費。左手に生まれた青い魔力のスフィアを、撃つっ!!



「クレイモアっ!!」



カートリッジにより、巨大になった青い魔力スフィアが、全て散弾となり、なのはを襲った


そして、爆発。それになのはは、飲み込まれた


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「や、恭文……なのはさんに躊躇いなくクレイモア撃ちましたよっ!?」


《そりゃ撃つだろ。そうでもしねぇと、ボーイは勝てないしな》


「相手はあのエース・オブ・エースだ。躊躇ったら、そこで終わるよ」


「……つか、始まって数分経って無いのにこれ? 心臓に悪いわよ」


「というか、レイさんの居る世界……会場としては不適切じゃ」



……うん、すごく悪い。見ているだけでハラハラする


ここは、六課隊舎のロビー。そこでみんなで、ヤスフミとレイの試験を見ていた。でも……



「まさか高町教導官が来るとは」


「えぇ。つか、アイツはまた……」


「はやても知らなかったの?」



はやては部隊長なのに……



「うち、教導隊の方の要請で、高ランククラス試験の相手勤めるとしか聞いてへんのよ。で、リミッターも限定的に解除するから、それも許可して欲しい言われて……」


「いや、それで……って、無理か。今日試験受けるのは、やっさんだけじゃ無いしね」


「なにより、試験内容が漏れたら大変ですよ……。なぎ君となのはさんは身内ですし」


「……いや、それでも八神部隊長にも知られないように話を進めるって、どんな手使ったんだよ」


《主にも出来る範疇かと。しかし……蒼凪氏の運の無さもここに極まりですね。これはあり得ませんよ》


「いや、それを言うと、レイの方も運無いよ? だって、相手がコウだし……」


《姐御とガチに渡り合えてたしな。おかげで、どっちかが気絶するまで戦うし……》



そこを言われると辛い。なのはは、絶対に加減しないだろうし…………それに、レイの相手をしている人もそんなに強いんだ



《ま、ボーイとねーちゃんはそれでも楽しそうだけどな》


「なぎさん……ちょっと笑ってたしね」


「この状況でも、変わらないんだね……」


《変わるはずがありません。だからこそ、蒼凪氏とアルトアイゼンは強いのです》



サリさんの胸元の金剛の言葉には同意。うん、それがヤスフミらしいというかなんというか……



「ほんとにあのバトルマニアは……」


「ヴィータちゃん、心中察するに余りあるよ」


「いや、だからそう言いながら、私とシグナムさんを見るのはやめてくんないかなっ!?」


「私もヒロリス殿も普通だっ! それを言ったら、テスタロッサはどうなるっ!?」


「私はちゃんと状況を見てますっ! 一緒にしないでくださいっ!!」



……まぁ、ここはいいよね。うん、気にしなきゃいけないのは……



「ヴィヴィオ」


「フェイトママ……」



やっぱり、不安そう。いきなりだもんね、ヤスフミとなのはが、こんな形で戦うなんて



「……ヴィヴィオ」


「大丈夫だよ。ヴィヴィオ、最後まで見てる。恭文とアルトアイゼンの応援するって、約束してるから」


「そっか。うん、なら……フェイトママと一緒に、最後まで見ようね」


「うんっ!!」



……画面の中の状況は、まだ動かない


でも、緊迫感だけは加速度的に上がり続ける


ヤスフミ。ヤスフミは、私の騎士になりたいんだよね?


なら、お願いだから……勝って。勝ち負けで答えを決めるつもりなんて無い。でも、負けて欲しくない


うん、このままアッサリ負けたりするのは……無しだよ?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文となのはさんの戦いも心配だけど、レイさんの戦いも気にかかる


別のモニターでは、レイさんと試験官の人が空中で何度も交差してる……でも、キャロが気になることを言ってた



「ね、キャロ。会場としては不適切ってどういう意味なの?」


「えっとね、エリオ君。レイさんの居る世界って管理局の基準で危険って判断されてるんだ」


「危険?」



どこが危険なんだろう?
自然豊かで、いいところだと思うんだけど……



「あの世界ね。どうして危険なのか調べたことあるの。そしたら魔法耐性の高い危険な獣や竜が生息してるって……」


「え……?」


「過去に調査に出た魔導師のチームが現地生物に食べられる事件が起きて以来、この世界は限られた人しか訪れないようになってるって……」



な、なんでそんな世界を会場に?


僕のそんな疑問は……



「たぶん、コウの奴が指定したんだろうね」



ヒロリスさんが答えてくれた。でもなんで?



「あの世界って、アイツの修行場らしいんだよ。あそこの生物とガチの殴り合いしてるらしいよ。あくまで本人から聞いた話だけどね」


《ま、あのオッサンにとってあの世界は庭みたいなものだっつーことだな》



アメイジアの言葉に僕は納得した。自分の慣れ親しんだフィールドだからか……でも、それだとレイさんにとってかなり不利なんじゃ?



「大丈夫さね、レイを信じなよ」



そうだよね。レイさんも恭文もきっと合格するよね


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


くそっ……なんつう速度だよ、このおっさん

ラミアの出力を90%引き出して速度互角って……。つか、きつい。何がきついって?

そんなもん、加速時にかかるGに決まってる。それと、あのおっさんの一撃だよ。一度だけ小細工無しで受けたけど、刀身がミシミシいって、折れるかと思った。そんな軟な金属使ってないんだけど……


今はうまくおっさんの拳をいなして威力を殺してるから普通に戦えてるけど、まともにぶつかれるわけがない。何度も何度も、高速で空中をすれ違い続けてるし、取っ組み合いにならないようにしてる



「どしたどしたぁ―――っ!! その程度か、坊主っ!?」


「うっさい! この馬鹿力!」


「その馬鹿力相手に戦ってる坊主はどうなんだ? だが、わしは嬉しいぞ! このわしと真っ向からぶつかれる相手なぞ、ヒロリスの嬢ちゃん以来だ!」



ああ、確かにヒロなら対処できるだろうね。いや、決してヒロが馬鹿力っていう意味合いじゃねぇぞ?

俺みたいに衝撃を殺したりして戦うと思うし。でも、ヒロも楽しそうに戦うんだろうな、俺もだんだん楽しくなってきたし


俺とおっさんが何度目かの交錯をした瞬間……



『ギシャァァァァァァァッ!!?』



地上から何か巨大生物が2匹、俺とおっさんの目の前に1匹ずつ大口を開けて飛び出してきた。つうか……



『邪魔(だ)っ!!』



俺の斬撃、おっさんの拳が唸り、巨大生物を吹っ飛ばす。期せずして動きを止めることになった俺達は互いに向き合い……



「やるじゃねぇか、坊主」


「そっちもな。じゃ、続きやろうか」


「おう!」



笑い合い、またもぶつかりすれ違う。これを続けるのも楽しいからいいけど、いい加減ワンパターンだな。そろそろ攻めるか……


再度、ぶつかり合い、すれ違う……



「烈火飛刃っ!」


「ぬっ!?」



俺は赤黒い魔力刃を持ち、急速反転し、おっさん目掛けて投擲した――計6発。そのいくつかは外れたが、1発は命中して爆発を起こし煙がおっさんを覆う


追い討ちをかけるように、俺は魔力弾を20発を精製して、煙の中に突っ込ませる


手応えは十分。着弾音も響いたし、あれは当たっただろう。でもあれで終わるはずないよな、どうせ


俺はいつでも対処できるように身構えた。動きはまだない……様子見でもう一回魔力弾を突っ込ませるか?


―――――まあ、これがいけなかった。今までの速度だと思い込んでいたんだからな……なにせ、この時点ですでに……



「轟腕爆砕っ!!」


「なっ!?」



背後に回られていたんだから………



「メテオ・インパクトッ!!」

「―――――がっ!!?」



俺はおっさんの重い拳を受けて、地上に叩き落とされ、地盤を大きく抉りながら、吹っ飛ばされた


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ああ、レイが!?」


「おいおい、なんつう速度だよ」


「テスタロッサより速いのではないか?」



うん、スバルちゃんやヴィータちゃん……シグナムさんも驚いてるな。通常時でもフェイトちゃんの真・ソニックだっけ?

それと同等の速度なんだよね、コウって。でも、アイツもフルドライブはちゃんとある


装備が変わるとか、魔力が増えるとかはないけど……速度と攻撃力が大幅に上がる。この私でも対処が難しいんだな、これが



《姉御……おっさんのアレってフルドライブだよな?》


「そうだね。速度と攻撃力を重点的に強化したコウの切り札だよ。しっかし、レイ大丈夫かね? あれをまともに受けるなんて……」


「さすがにレイでもただじゃ済まないだろ。俺は一回あれで丸1日気絶したしよ」



そうだったね。サリもアレまともに食らって1日ベッドで寝てたっけ……こりゃ、レイも終わりか?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


つぅ〜、効いた。なんだよ、あの威力……
身体強化だけであれだけ出せるものか、普通?


今の俺はでっかい何かの下敷きになってる。多分、崖か何かに激突して、埋もれたんだろ。とにかく、乗ってるもの、どかさないとな



「よっこらせっと……おっも……」


「お、気絶してなかったか。頑丈だな、坊主」


「一応、無事だよ。今の一撃、どんな原理だよ……」


「わしを倒せたら教えてやるよ」



ちっ、そう簡単に喋らないか……大方レアスキルの一種だろ。あ〜、身体がいてぇ……



「加減はしなかったんだがな。てっきり気絶したと思ってたのによ。なにしたんだ?」



なにもしてねぇよ。ただ、あれ以上のダメージなら過去経験したからな、あの時のに比べればまだぬるい


それがなかったら、気絶してただろうけどな



「まあ、いい。高町の嬢ちゃんの方はどうなったかな……ジェイク、モニター」


《あいよ、相棒》



おっさんがモニターを開いて、恭文となのはの試験の様子を見始めた。はあ、今の俺だとあの速度に対応できないのをいい事に、余裕たっぷりだね、おい


俺が対策を考えていると……



『だから、徹底的にいくね。……ブラスター1』



…………へ?



『リミット・リリースっ!!』



まてまてまてまてぇ――――っ!?



「……………なにしてやがんだよ、あの嬢ちゃんはっ!? 自分の身体の事は無視かっ!!」



………俺もおっさんの言葉と同意見だ。JS事件の時に無茶な使い方して後遺症がまだ残ってるってのに、また使うかっ!? なに考えてるんだよ、まったく



『……バカでしょっ! 本気でバカでしょっ!? つーかなにやってるっ!!』


『うん、そうだね。でも……これが私の全力全開だから。恭文君相手だもの、ちゃんとぶつかりたい。私達、ライバル……でしょ?』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……あぁ、そうだったね。僕達は結局」


「こういうのが、ピッタリなんだよ。こっちの方が楽しいし、分かり合える。それに……約束、してるよね」


「そーだね」



……どんな時でも、ありったけで、全力でぶつかりあって、それを受け止め合って、心を通わせていこう。そう、約束してる



「……なのは」


「うん、馬鹿げてるよ。でも、ここで私のありったけをぶつけないのは、もっと馬鹿げてる」



……8年前、初めて模擬戦した時に言ったセリフと全く同じことを、なのはは口にした


そういや、あの時も復帰直後なのに、エクシード使ったんだっけ


そう、なのはは言ってる。あの時と同じ……いや、それ以上に、全力全開で、ぶつかりあいたいと



「私は、大事な友達との約束を、違えたくなんてない。だから……」


「いいさ。……受け止めてあげるよ」



止めるのが、正解なんでしょ。でもね……それは世界や常識の正解であって、僕となのはの正解じゃない


僕達の……僕の正解は、目の前のバカに付き合うことだ。僕達、そういう付き合い方してんのよ。友達になった時から、ずっとね



「まったく、これで納得出来るってどうなんだろ。……あ、そうだ。なのは、ここから一つルール変更ね」


「ルール変更?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『4分41秒だよ』


『……え?』


『ちょっと準備がいるけどね。でも、それだけもらえりゃ……僕が勝つ。すぐに終わらせてあげるよ。
それを過ぎたら僕の負けでいい。つか、勝手にギブアップするから』


『……本気?』


『もちろん』



その言葉に、また場が騒然となる。だって、今ヤスフミが口にしたのは……



「ブラスターシステム発動中のなのはさん相手に……勝利宣言っ!?」


「それも、5分弱でなんて……」


「む、無茶だよっ! 恭文もうボロボロなのにっ!! 魔力だって、空に近いよねあれっ!?」


「アイツ、本気でなに考えてるのっ!? バカだバカだとは思ってたけど、今回のは極めつけよっ! これはないでしょこれはっ!!」


「……いえ、やれます」



慌てふためくスバル達を抑えるように、静かにリインが口を開いた。強い確信を持って



「恭文さんもアルトアイゼンも、やれます。古き鉄は……この状況で負けたりなんてしません。いつものノリで、ぶっ飛ばすだけですっ!!」



いつも通りに……『最初から最後までクライマックス』……でいけば、大丈夫。うん、きっと大丈夫だよね



『また言ってくれるね。でも、そうしてくれると助かるかな。やっぱキツいし』


『だったら、最初からそんなチート機能を搭載するなよバカっ!!
……まー、いいさ。今から見せてあげるよ』



そう言ってヤスフミは……



「恭文、笑ってる……」


「フェイトママ……」


「大丈夫。……きっと大丈夫だから」



……ヤスフミお願い。本当にすぐに終わらせて。4分と言わずに今すぐに


だって……ヴィータとシャマルさんのオーラが怖いのっ! 長引くと真面目にどうなるか分からないのっ!!



『僕とアルトの新しい変身と……新しいクライマックスってやつをね』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「面白そうだけど……させないよっ! ……バスタァァァァァァァッ!!」



抜き打ちで構えて、なんか撃ってきたので、カードを複数枚取りだし、発動


「無駄だよっ!! ……え?」



結果……なのはの砲撃がかき消され、その進行を留める。うん、一瞬だけね


とーぜんなのはは驚く。で、その間に……僕はそのまま、重力に従い下に堕ちる。で、空気の読めない教導官には



「お仕置きだよっ!!」


《Struggle Bind》



とにかく、バスターの射線外に移動してから、魔法発動


なのはの身体を、青い縄が縛りあげる。なのはのバスターは、そのまま僕の真上を通り過ぎた


……ギリギリだった。さすがにブラスターは手強い



「AMF……!!」



そう、あれはAMFを仕込んだカード。ま、範囲はカードを中心に1メートル程度だけど


でも、複数枚を近距離で同時発動させて、その濃度を重ねがけで上げれば、あれくらいは出来る


……それでも、ブラスターのエクセリオン相手だと、耐えたのは一瞬だけ。やはり、恐ろしい


あと、これの難を言えば、現在の保有枚数が少ないこと。……ちょい手間と魔力がかかるのよ


そして、左手からまたカードを3枚出し、発動を命じると、青い光が身体を包む。先ほども使った回復魔法


……回復魔法を同時に重ねがけ、身体に負担かかるから、ほんとはダメなんだけどね


ま、そんなこと言ってる場合じゃないか。とりあえずこれでここからの4分41秒、全力で動ける



《あなた、お約束くらいは守ってくださいよ。やってることがまるっきり雑魚敵その3ですよ》


「ざ、雑魚敵っ!?」


「そーだよ。そんな不粋な真似しないでさ、おとなしく見てなよっ! 僕達の変身をっ!!」



そして、アルトを鞘に納めてから、右手を上げると、宙から回転しながらカードが出てきた。ただし、マジックカードじゃない


二回りほど大きく、色は全て銀色。表面には、剣を持った巨人のレリーフが刻まれている



「いくよ、アルトっ!!」


《はいっ!!》



僕は、そのカードを自分の前へと放り投げる



《Stand by Ready》



せっと……いや、ここはやっぱこれでしょっ!!



「変身っ!!」


《Riese Form》



そして、カードが回転しながら青く、眩い光を放つ


ボロボロだったバリアジャケットが、アルトも含めた装備が、一瞬でその全てを解除。再構築されていく


まず、下半身は、ジーンズではなく、黒のロングパンツへと変わる。ブーツは……黒色でリインと同型


上半身には、黒の半袖インナー。その上に、白のインナーシャツ……というか、リインやはやて、シグナムさんと同じものを着る


その上からまた、青いジャンパーだ。こちらも、デザインが変わって、多少制服然とした装飾が付いている


そしてジガンスクード。ただし、右手にも同じものを装着する。こちらは、カートリッジ無しのただのガントレットだけど


でも、まだ終わらない。どこからともなく白いマントが現れる。そして……首元には空色の留め金。それを、全ての上から羽織る


最後に、上から鞘に納められる形で回転しながら現れたアルトを手に取り、腰に差すっ!!


これでようやく完成である。これが……僕とアルトの新しい力だ



《「………俺達っ!」》



右手の親指で自分を指す。そして……



《「ようやく参上っ!!」》


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あっはっはっはっ!! 試験中にあんなことするの、多分アイツが初めてだぞ? 楽しい坊主だな!」



そういう反応かい……そこは予想外だぞ?
けど、恭文の行動で対策が思い付いた


ぶっつけ本番だが……アレを………使うか



「まあな、だからこそアイツの友達はやめらんないんだよね。……アイツいわく『戦いは強い方が勝つんじゃなく、ノリのいい方が勝つ』だってよ」


「……はは、その通りだな。どんな状況でも自分らしさを貫ける奴ほど戦って楽しいからな。………で、何する気だ?」


「…………せっかくこんな活きのいい相手なんだ。新機能を試すにはうってつけだと思ってな……」



俺が手をかざすと、赤黒い宝石……レイジングハートとアルトアイゼンと同じ形の宝石が現れ、それを掴む



「ラミア、ブレイク……ユニオンシステム、起動」


《OK.Union System Start》


《Type,W》



バリアジャケットがすべて解除され、ラミアは待機形態である銀の指輪に変わる。そして、赤黒い宝石がラミアにはまる……


そして、俺のバリアジャケットが再構築される……赤いジャケットにズボン。まあ、他の方々に簡単に分りやすく例を上げれば、10年前くらいのクロノ・ハラオウンのバリアジャケットを赤くしただけだ。分りやすいだろ?


そして、長大な刀身が二股に割けた大剣が現れ掴んで完成だ



「ほう……それが坊主のフルドライブか?」


「いや……本当のフルドライブはここからだ。ラミア、ブレイク!」


《Consent of Dust To Dust.Type,Brave》



俺の叫びに呼応して、ラミアと融合したブレイクカリヴァー・バースト……いや、ブレイクが応えた


赤かったバリアジャケットが黄金へと塗り潰され、両方の拳を覆っていた金属の手袋の甲に赤黒い宝玉が埋め込まれる……さらに2本の小太刀が鞘に納められた状態でそれぞれ掴み腰に差しながら、後方に飛び退き、おっさんから距離を取る


そして最後に、俺の髪も黄金へと染まる……これが俺のフルドライブ、というか限界突破


これが今の俺に出せる“魔導師”としての全力全開だ



「……こりゃ派手だな」


「まあね……」


「わくわくして来たぜ……ん? なんだこの曲……」



俺の姿を見て楽しそうにしていたおっさんが呟く。どこからか……っておっさんが開きっぱなしにしていたモニターから聞こえてくる音楽は『Climax Jump the Final』………恭文の奴、ノリに乗ってるな



「あの坊主が流してんのか、いいねぇ。ジェイク、そのまま流しとけよ、俺もリズムにノルぜ!」



やれやれ、恭文のおかげで苦労しそうだ。まあ、おっさんのノリ補正……楽しませてもらうぞ


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「時間の波を捕まえてー♪」


「たどり着いたねー♪」


『約束の場所ー♪』


「ヒロ、ヴィヴィオちゃんっ! それ危ないからストップっ!!」


「以心伝心♪ もーう」


「リイン、アンタもやめてーなっ! つか、アイツなにしとるんやっ!?」



あのベルトから流れだした曲。私は、それが何かを知っている



「この曲……。ヤスフミ、ホントに好きなんだ」


「そりゃ、電王だしね。……でも、ファイナルでカウントダウンとは、やっさん分かってるじゃないのさ。私は、熱くなってきたよ」


「俺もだ。第28話でパワーアップだし、この話に合わせた言い方すると……『やりすぎ、ノリすぎ、ふざけすぎ』……ってか?」


「レイさんも、パワーアップしてるよっ!!」


「あの……ここだと15話……」



そう、でも……なんだ。やりすぎようがノリすぎようがふざけすぎようが、自分のノリを通せるなら……勝つ


だって戦いは、ノリのいい方が勝つから



《その通りです。新しき古き鉄、それに金色の夜叉へと変貌した鬼姫は、誰にも止められません》


《ボーイズもねーちゃんも、ラミアも……いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!》


「ノリノリで、ぶっ飛ばすですよー!!」



ヤスフミが生まれ変わったアクセルを羽ばたかせると、一瞬でなのはの正面に。そして、斬撃がなのはを襲う。……しっかりとガードしたけど


距離を取って、そこからまた攻防が始まった。でも……



「……うそ、速いっ!!」



勝負は、あの曲が流れ始めてから、一気にヤスフミのペースになった。なのはが砲撃を撃つ。アクセルを撃つ


でも、そのどれもが当たらない。だけど、逆にヤスフミの攻撃は、的確に当たり続けてる。いや、なのははキチンと防御してるけど


レイさんの方は、私でも認識するのが難しい速度でぶつかり合ってる。というか、私の真ソニックより速いよね、アレ!? それにクロノと同じバリアジャケットだし


そうして、桜色の光と青い軌跡が廃棄都市部の空で、金色の光と銀の軌跡が密林の空で線を描きぶつかり合う。まるで、何かの絵を書いているように



「……あの、あれホントにエクセリオンとかじゃないんですよねっ!?」


「そうだよ、通常状態の騎士甲冑。私とフェイトさん、リイン曹長に皆で作ったの」


「つまり、あれは本当に曲とか聞いてるノリだけで……」


「なぎさんとアルトアイゼンのノリ補正、チート過ぎるよ……」



まぁ……いいよね。うん。とにかく、なのはの身体を考えると手早く終わらせないといけない。この際、なんだっていい


多分、ヤスフミもそれで時間制限をつけたんだ



「勝っても負けても、なのはさんの身体に負担が極力残らないように……ですよね。どうせ使用が止められないなら、決着自体を早くする」


「なぎさん、そこまで考えてたんだ。自分の試験なのに……」


「だからこその恭文さんですよ。それに……」


「蒼凪とアルトアイゼンも、本気で時間内で倒すつもりだろう」



そこは間違いない。勝つ気満々な挑発してたしね



「でも、それでも速すぎません? 今までのアイツとは、全く別物じゃないですか」


「そりゃそうだ。高速型のフェイトちゃんのジャケットがベースだしね」


《そうやって今までのボーイのジャケットに更なる『速さ』をプラスしたんだ。いや、苦労したぜ》


「蒼凪の今までのジャケットの魔力消費量を維持した上で、それプラス全体性能の若干の底上げだったからな」


《いっそのことフルドライブにしようという話も出ていたんですが……》



でも、それだと魔力量が並みのヤスフミはすぐにガス欠を起こす。それで、みんなで苦労して……



「あの形に仕上げたと……」


「そういうこと。でも私さ、やっさんに追加報酬請求しようかどうか、悩んでるのよ」


「あ、俺も。あの働きはお中元じゃあ足りないし」


「な、なんというか……すみません」


「でも、それだと……」



私の隣に居たヴィヴィオが、モニターの中のヤスフミと私を見比べる。すごく疑問顔で



「ヴィヴィオ、なにか気になるですか?」


「恭文とフェイトママ、お揃いのジャケットってこと?」


『……………………………………………………………え?』


「だって、リーゼフォームはフェイトママのジャケットがベースで、マントも付いてるし。というか、あれフェイトママのマントと同じだよね?」



瞬間、場が凍りついた。……ヤスフミ、お願い。早く終わらせて。みんなのニヤニヤした視線が辛いのー!!



「……なのはちゃん、覚悟は出来てるでしょうね」


「バカ弟子、アタシが許す。最強物とかふざけてるとか萎えるとか、そんな戯言を言いたい奴には言わせておけ。
……それでもいいからっ! とっととそのバカをぶっ潰して、止めやがれっ!! つーか、アタシが直接……」


「ダメですヴィータ副隊長、落ち着いてくださいー!!」


「あぁ、ヤスフミっ! お願いだから、早くなのはを止めてー!!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「う〜ん……」


「どうしたんですか、シャーリーさん」



レイさんがフルドライブを使い始めてずっと唸っているシャーリーさんが気になり僕は声をかけた



「えっとね、DTDについてはレイさんからデータを見せてもらったことがあるの」


「そうなんですか?」


「うん……」



どうしたんだろう、なにか歯切れが悪い。というか暗い?



「なにか気がかりでも?」


「………あの機能……ユニオンシステムを使ったフルドライブの併用は負担が大きくなるからやめてもらった、はずなのよ」


「……えぇっ!? でも、レイさん……」


「うん、使ってる。最後に見せてもらったスペックデータには載っていなかったから、やめてくれたと思ってたんだけどね」



じゃあ、なのはさんも危ないけど、レイさんも危ないんじゃ……僕が内心あわあわしていると、背筋がいきなり凍りついた……



「シャーリー? その話、詳しく聞いても?」


「しゃ、シャマルさん?」



笑顔だけど、目が笑ってないシャマルさんが、シャーリーさんの肩を掴んでた……シャーリーさん、頬がかなり引き攣ってる


レイさん、試験後が一番大変だろうなぁ……


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「………ブラスタービットっ!!」



だーかーらーっ!!



「無駄っ!!」



出てきたビット達は、アルトで真っ二つにする。そして、またアクセルを羽ばたかせ、突っ込むっ!!


……負けるわけがない



「シュゥゥゥゥットっ!!」



なのはが唱えた直後、出てきた大量のアクセルシューター


だけど、それらはここまで溜め込んでおいた虎の子のAMFカードで壁を作り、消し去る


で、残ったまばらなのは



《High Blade Mode》



アルトを大太刀に変化させて、一閃。それだけで、全ての魔力弾が撃墜出来る。そして、また動き出す


……僕は、一人じゃないから



「これにはねっ! リインにヒロさんサリさん、アメイジアに金剛っ!! シャーリーにシグナムさんに師匠とレヴァンティンとグラーフアイゼンっ!!
それにバルディッシュと……………」



なのはの、効果的な機動を絡めた誘導弾を、砲撃を、全て足を止めない形で防御・回避していく


普通ならちょい難しい。でも、カードを使えば楽勝。魔力も消費しないしね


そうして廃棄都市部の空に、銀色のカードと桜色の魔力が何度も飛び交い、何度もぶつかり合う


青い空の中を、僕達は翼を広げ、羽ばたかせ、激しく舞い、ぶつかり合う


もう、出し惜しみする必要はない。全部切っていくだけっ!!



「フェイトの想いがこもってんだっ! みんなが力を貸してくれて、初めて生み出せたっ!! 始められたっ!!」



そう、僕一人の力じゃない。だから……!



「絶対に負けらんないんだよっ!!」


《コーヒーが無くても、心はてんこ盛りです。もう、私達は誰にも止められませんよ》



そして、レイジングハートをこちらへ向ける



「それでも……」



……ち、まだビット残してたのか。後ろから沸いてきた



「止めるよっ!!」



そして、ビットが僕の回りを周回する。お尻から、桜色の縄を出して。それだけじゃない。またバカみたいに砲撃の発射体制整えてるし


だから……邪魔っつってんでしょうがっ!!



「はぁっ!!」



縛り上げられる前に、大太刀アルトを、左から横に素早く一閃。ビット2つと発生途中のバインドを斬り裂いた


つーか、やばい。速めに決着つけないと……


言っておくと、時間制限のことじゃない。さっきから妙なプレッシャーを感じて仕方ない。なんか背中や肩に紅くて翠の重いオーラを感じる


……絶対にスターライトとか撃たせる前に潰さないと。僕はヴィヴィオが泣くとこなんて見たくないし


つーか、これ以上は時間をかけるなと、本能が告げてる。いや、告げられてる



「……もうめんどいからさ、射撃も砲撃もビットもバインドもついでに正月太りも……全部、斬るわ」


「正月太りは関係ないよねっ!?」


「細かいことをガタガタ抜かすなっ! おのれをとっとと潰さないと……」



大太刀アルトを肩に担ぐ。そして……ブーストっ!!



「僕にまで飛び火しそうなんだよっ!!」



なのはの砲撃、誘導弾による迎撃の全てを、回避していく


いや、大太刀アルトを上から、横から、全力で振るいながら、自らの道を切り開いて行く


……やっぱり、感謝だ。今までよりも速く、自由に空を駆けていけるから


でも、当然エース・オブ・エースはそれで接近なんて許さない。接近出来るコースを、全て潰していく


……誘い込まれてる? なんかこう、距離が中途半端



《正解のようですね》



次の瞬間、なのはが突っ込んできた。つか……A.C.S.っ!?


レイジングハートの先端部から、魔力の杭を出し、こちらに一直線に猛スピードで突っ込んできた


そして、その周囲には魔力弾。だからそれに対して真正面から突っ込んで……


カードをまたもや複数枚、魔力弾に向かって放り投げる


次の瞬間、カードを中心に青い雷撃が発生する。……訂正『雷撃もどき』が発生した


前々から研究していた雷撃の形だけを再現した魔法。……フェイトの魔法の派手さが羨ましくて、作ってみたの


で、その青いイナズマがなのはの周りの魔力弾を撃墜する。でも……なのはは健在。こちらにそれでも突っ込んでくる


しゃあないか。派手さ重視で、威力あんまないし。あくまでも、魔力弾の広範囲迎撃用だ


で、当然これは僕も予測済み。だから……!



「チェストっ!!」



大太刀アルトを打ち込むっ!!


一瞬で斬撃とそれは交差。……左の肩のジャケットが破れた。だけど、向こうも同じ



「フレームがっ!?」



先端の魔力フレーム、斬ってやったもんね♪


んじゃ、締めだ。そろそろ時間だしね。……僕は、アルトを通常モードに戻して、鞘に納める


ジガンから、カートリッジを3発消費。刀身に、凍れる魔力が宿る



「……エクセリオン……!!」



振り返りつつ、僕に抜き打ちで近い形で、レイジングハートを向けてくる


……遅い


集中する。世界が少しだけ静かになり、世界がゆっくりと動いていく。別に御神の奥義じゃないだろうけど、それでもそうなる


斬る。砲撃も、なのはも、全てだ


そうしようと思って斬れないものなんて……なんにもない。そうだ、ここは今までと変わらない。僕はそうやって……


今をっ! 覆すっ!!



「……いくよ、密かに暖めていた新必殺技」



僕は、踏み込む



「氷花……」



背中のアクセルも羽ばたかせ、一気に零距離に近づく



「一閃っ!!」



そして……アルトを抜き放つ


真下から真上に勢いよく振り抜かれたそれは、発射寸前のエクセリオンを真っ二つにした


……一つ


それだけじゃない。踏み込み、手首……刃を返し、やや袈裟斬り気味に打ち込む


それは……レイジングハートに打ち込まれ、その穂先を強制的に下にした。というより、地面に叩き落とした


……二つ


まだ終わらない。最後に、がら空きになったなのはの上半身に向かって……左斜め下から斬り抜けながらの一閃


……三つっ!!


時間にすれば1秒にも満たない一瞬の間に僕が生み出したのは、三つの斬撃


それが……魔力を、デバイスを、魔導師の三つを、一瞬で斬り裂いた



「……瞬・極(またたき・きわみ)」


《いわゆるひとつの……パートVです》



示現流の剣術にも、居合いがある。滴り落ちる水滴を、一瞬で三度の斬撃を放ち、斬り裂くほどのスピードの居合いが


もちろん、その全てが一撃必殺。一太刀防げても、意味がない


……自身の防御と回避を捨て去り、相手より速く一太刀浴びせる事だけを、その一撃で相手を確実に倒すことを追及した剣術。それが、示現流だ


そう、これはどんな攻撃も防御も回避も意味をなさない神速の三連撃。『一撃必殺』と『先手必勝』。その二つを同時に具現化した一つの形


……先生が、僕達の剣術の奥義というか一つの到達点と言っていたものだ


今までは二連が限度だった。でも、今は違う。今は、撃てる。偶然とかじゃなくて、自分の意思で



「……終わりだよ」


《Struggle Bind》



僕の斬撃、そしてエクセリオンの爆発を受けて、勢いよく吹き飛ばされたなのは


その身体を、青い縄が縛り上げる。というか、がんじがらめ


なのはの身体が僕とは少し距離を開けて、縄の発生源である空中に浮かんだ青いベルカ式魔法陣の上で、固定される


左手を上げると、そこにはいつの間にか、カードが2枚握られていた



「で、続ける?」


「……そう言いながら、どうして詠唱してるのかな」


「悪いけど」



僕は、なのはを斬った直後から詠唱を開始してた。もうすぐ、星の光の刃は打ち上がる


そして、2枚のカードを下に投げる。それは程なく、地面に僕が叩き落としたレイジングハートに接触すると、それを氷の中へと閉じ込めた



「意識、落とすまでボコることにした。……咄嗟にフィールド出力上げて、ダメージ軽減させてるのは分かってる。まだピンピンしてるよね」



全く、僕の先ほどの説明が嘘になるじゃないのさ。どーしてくれんのよ



「……で、下に墜落する振りして、レイジングハートを回収……とか企んでたでしょ」


「ちょっと違うけど……ほぼ正解。よく分かったね」


「手応えが鈍かった。あと……これでも、高町なのはの研究は怠ってないんでね。この程度でどうにかなるなんて、思えない」



……レイジングハート無しでも魔法戦が出来るように訓練してるのは知ってる。武器を落として終わり? んな甘くないよ


僕が何度模擬戦でぶっ飛ばされたと? それでどんだけこやつの戦い方を研究したと? ……それでも届かなかった。それが、高町なのはだ



《Starlight Blade》



アルトに降り注いでいた青い流星が、止まった。そう、星の光の刃は打ち上がった。あとは……斬るだけだ



「……恭文君」


「なに?」


「次は負けないから」


「りょーかい」



でも、これからは違う。届かせる。新しい自分を始めたから



「……いくよ、アルト」


《はい、必殺技ですね》



変わることはもう恐れない。だけど、変わらないものも大事にする。そうして、今よりも強くなるから


……今、ちょうどそこなのよ


とにかく僕は、正眼にアルトを構え直す。そして、踏み込み



《必殺っ!》


「新しい僕達の……必殺技っ!!」



上段から、真一文字に打ち込むっ!!



《「クライマックスバージョンッ!!」》



……なのはを真っ二つに斬り、ぶっ飛ばすと、曲が終わった


ギリギリだけど、僕達はなんとか……勝利をこの手に納めることが出来たのだった


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「がははははは、やるじゃねぇか、坊主。俺のフルドライブについてこれるだけじゃなく、真っ向から対抗するか!」


「そっちこそ、その巨体でその速度は異常だ、ぞ!」



おっさんと俺の拳がぶつかり合い、すれ違い交差する。それを何度となく繰り返す。ほぼ互角……だけど



「どうした、坊主! 速度が落ちてるぞ!」



だんだんと速度負けしてきた。というよりも、おっさんの一撃の重さが増してきた?

それに身体が少し重い……ブレイク、なにか異常がないかサーチ。ラミアはおっさんの動きを出来る限りトレース及び予測して俺の補佐



《了解だ、マスター》


《オッケ〜♪ 頑張っちゃうよ〜♪》



早くしてくれよ、ブレイク……チッ、掠った。ってあぶなっ!?


どんどん、おっさんの速度が増し、ラミアの補佐があっても追い付かなくなってきた。ちょうどその時……



《我々の周りだけ、重力異常を感知。当初の重力と比べるとその差、5倍……6倍。徐々に増えているぞ》



重力が増す? 俺の周りだけ? まさかっ!?



「おっさん、まさか重力変換持ちかっ!」


「お、ようやく気付いたか、坊主。そうさ、わしは魔力を重力へと変換できる先天資質持ちだ。しかし、驚いたぞ……8倍の重力下でもまだそこまで動けるのにはな」


すでに8倍にまでなってるのかよ……いかんな。このままだと押し負ける……



「このまま、押し切らせてもらうぞ! 重力10倍だ!」



ぐっ、重……だが、負けるかよ!
使いたくなかったが、やるしかあるまい。ラミア、ブレイク……付き合ってもらうぞ



《ふっ、私はどこまでもマスターと共に……》


《アレ? アレやっちゃうの? いいぞ〜♪ どんどんやれ〜♪》



………ラミアの返答が少し引っ掛かるが、まあ2人とも付き合ってくれるみたいだし、いきますか……



「コード・ATA。起動!」


《Consent of》


《Ash To Ash》



ラミアとブレイクが俺の要請に応える。黄金色だったバリアジャケットが銀色へと変わっていく。変化はそれだけではなく、髪も黄金から銀色へ……


重くのし掛かっていた重力の負荷が嘘のように身体が軽くなる。その目に見える変化と見えない変化に、おっさんは即座に攻撃に転じる……


さっきまで対処するだけでいっぱいいっぱいだった俺の動きは明らかに変わる。おっさんの拳を身体を沈み込ませることにより避け、懐に潜り込み……



「破っ!!」


「ぐふっ!?」



一発掌底を叩き込み、距離を離す。そして……意識を研ぎ澄ませる。集中力を意識的に高め、脳裏に何かが弾けるイメージが浮かぶ


同時に周囲の時間感覚がゆっくりとしたものに認識できるようになり、状況をはっきりと把握することができるようになった。おっさんの息遣いから魔力の流れ、眼球の動きまでしっかりと……


そして、今までよりも鋭く……そして速く! おっさんの動きに追い付く、いや……凌駕する!



「くっ、やるじゃねぇの!」


「……まあな!」


「もっと、もっと楽しもうぜ!」


「断る。負担が激しいんでな……さっさと終わらせる」



すでに周囲の景色など、紙に絵の具をぶちまけたように、視認することが難しくなっている。そこまでの速度で、俺とおっさんはぶつかり合う


さすがは、雷速の拳神と呼ばれるだけはある。この形態の俺と互角だもんな……まあ、ヒロなら慣れで対応してきそうだけど。それは恭文にも言えるか



とにかく……早々に決めないとヤバい。俺が、じゃない……ラミアとブレイクが、だ。今は大丈夫だが、長時間の使用はこいつらにとって取り返しがつかなくなる



「はは、強気な坊主だ。これでもその強気、維持できるかな? ……重力さらに10倍!」



ぎィッ……100倍かよ。でも、それで止められると思うなよ!
俺は、なおも突っ込み、拳と拳をぶつけ合う。どうにか動きを止めないと決着がつけれない……


どうする、って賭けに出るしかないか……。俺は交差しすれ違ってすぐ、右腕に魔力を込める。ただの魔力じゃない……凍結変換の魔力だ


凍れる息吹を纏った俺の拳。喰らえ!



「雪華崩拳っ!!」



俺の一撃はおっさんのがら空きの左胸に向かう。でも、そうやすやす食らってくれるはずもなく……左のガントレッドに防がれる。反って俺の左胸のところが空く……そこを見逃すほど、おっさんは甘くない



「メテオ・インパクトッ!!」



そこに俺を叩き落とした渾身の右ストレートが放たれる。―――仕掛けはもうわかってる……拳に重力をかけ、威力を高める。そのかけられた重力が半端なくデカイのがこの異常な威力の理由


それを俺は受け入れた。次いで、おっさんの顔が驚愕に染まる


俺の左胸に打ち込まれた腕を、俺はがっちりと掴んでいる


なにが起きたかは簡単だ。相殺した、ただそれだけ。単純だからこそ、対策も単純……かけられた重力を相殺できるだけ、軽くすればただの右ストレートに変わる


変換資質がなくても、重力を操る術はあるんだよ……。まあ、局員でも使う奴なんて、幻術魔法以上に居ないんだけどな……



「ごほっ……捕まえたぞ。こっからは俺のターンだ」


「チッ!!」



おっさんが無理やり拘束を解こうともがく、それを俺は素直に外してやる。力を込めた所になんの抵抗もなく外れたもんだから、おっさんは体勢を崩した


そこを狙って俺は、詠唱しておいたバインドをぶつけ拘束する。でも、それだけじゃすぐに破られるのは目に見えてる


だから、今拘束しているバインドが時間を稼いでる間に……俺が知りうるすべてのバインドを最短で発生させる


そして、最初のバインドが破られるのと同時に、おっさんにバインドの束が殺到する



「なっ!? くそっ、千切れん!?」


「…………そう簡単に千切れてたまるか」



あのバインドの中にはストラグルバインドも混ざってるから、力ずくじゃ外れない



「さて、これで終わりだ」



うん、これでホントに終わりだ。がんじがらめに拘束されたおっさんの傍に浮かぶモニターには、恭文も終わらせようとしている


でも、その映像を見て、少し笑う。だって状況が似てるからな


バインドで拘束してとどめ、だもんな。なら、決めの魔法も合わせるか……


俺はおっさんから距離を離し、右腕をかざして詠唱に入った



《「世を乱す者たちに滅びの洗礼を……」》



こればかりは、俺だけじゃなくラミア達との同時詠唱じゃないとな。徐々にだが、バインドが千切れ始めてる……素で馬鹿力だし



《「紅き浄化の灯火が集い……」》



かざした腕の先に、おっさんの赤い魔力、俺の赤黒い魔力。その2つが混ざり合い巨大な魔力球を生み出す。その光景は星の光が集まるようだ


これは俺の切り札である集束魔法。スターライトを基に俺が組み上げ名を与えた魔砲。周囲に漂う使用済みの魔力カスと、俺の残った全魔力。それを統合し、すべてを薙ぎ払う殲滅魔砲



《「全てを滅ぼす光となれ!」》



それは一度限りしか撃てない。後のことなんて考えない。眼前の敵をただ、撃ち滅ぼすことだけを目的とした一撃……


だからこそ、最後を……フィナーレを飾るのに相応しい



《「貫け魔光! アクトレイズ・ブレイカーッ!!!!」》



集め、膨張する巨大な魔力塊。それが、今……解き放たれた。極太の圧倒的な暴力が、磔にされたおっさんを呑み込む……


叫び声すら許さず、緑豊かな大地を穿ち、蹂躙する……



そして、放出しきり、余波もなくなった時……砲撃跡には竜巻が通過したように大地が抉れ、木々がなぎ倒され、その途中にコウ・ゲンカクが力なく倒れ伏していた



「これで……終いか……。――っと」



まあ、当然といえば当然だが、ラミアとブレイクが強制的に待機状態になり、飛行魔法を維持するだけの魔力など残されてない俺は落下するのだが……


おっさんが気絶したか確認する暇もなく、それどころか大地に叩き付けられるのを認識する前に………俺の意識は暗転した





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