頂き物の小説 第5話「ケンカするほど……とも言うし、仲の良さの基準なんて、誰にもわからない」 昨日はすっごく楽しい一日だった。隊舎が復旧して、六課が事件前と同じように動き始めた。 それだけじゃなくて、部隊に新しい部隊員……恭文が来て、その恭文と、パートナーのアルトアイゼンと模擬戦して、友達になって…… 模擬戦は結果的には負けちゃったし、少し考えるところもあったけど、それでも、楽しい日になったのは間違いない。あたしはそう確信していた。 そういうワケなので、ついつい早起きして早朝ランニングなんてしてしまっている。でも、あたしひとりじゃない。 「ちょっとスバルー! アンタ飛ばし過ぎよ!」 「私の歩幅も考えてーっ!」 「あ、ごめんティア、こなた〜」 そう、ティアやこなたと一緒に、隊舎の敷地内を走っている。なんか、こうしてると、初めてなのはさんに訓練してもらったあの時の事を思い出してしまう。 「そーね。でも、今日は簡単なアップだけだからね? まだ本格的な訓練はなのはさん達の許可が出てないんだから」 「わかってるよ〜」 ティアの声に答え、あたし達の走るコースは敷地内の林の中へ。 と、そこに見知った顔がひとり。 「あ、シャープエッジ!」 「おや、スバル殿。 それにティアナ殿にこなた殿。おはようでござる」 「おはよう、シャープエッジ」 「ひょっとして、ウミちゃんとカイちゃんの朝ごはん?」 あいさつを返すティアのとなりで、こなたが視線を向けるのはシャープエッジの手にした、彼らトランスフォーマーのサイズに合わせた大きさのバケツだ。 「その通りでござるよ。 ウミー、カイー、ごはんでござるよー」 「ぴぃっ!」 「ぴぴぃっ!」 そんなこなたの問いにうなずいて、シャープエッジが林の奥に声をかけて――しばらくして、二羽の雛鳥が姿を見せた。 そう。雛鳥だ――ただし、あたしの腰くらいの背丈はあるけど。 シャープエッジが引き取って育てている、惑星アニマトロスに生息する大型鳥類の雛。名前はウミとカイ。 六課が攻撃を受けて焼け落ちて、一時は聖王教会で預かってもらっていたこの子達も、こうして六課に戻ってこれた。よかったね、ウミ、カイ。 「ぴぃぴぃっ!」 「ぴっ!」 そしてその後、シャープエッジと別れてランニング再開。ストレッチなんかをして早朝運動終了。さて、あたし達も朝ご飯だー! 「今日のメニューは何かなぁ〜♪」 「あんま食べ過ぎるんじゃないわよ?」 「大丈夫ー!」 「まぁ、スバルならそうだろうけどね」 「あー、こなた、それどーゆー意味っ!?」 そんな話をしながら、食堂へと向かっていると、自転車が走ってきた。 こんな時間に誰だろ……あっ! 「恭文ー!」 「お、スバルー! おはよーっ!」 あ、手を離しちゃだめだよ! 危ないんだから! あたしが手を振るのに答えようと、自転車に乗ったまま手を振って、少しバランスを崩す。 ……お、持ちこたえた。やっぱり鍛えてるから、バランス感覚もいいんだね。 今、あたしが声をかけたのはひとりの男の子。と言っても、2歳年上なんだけどね。 あたし達と同じデザインの陸士制服に身を包み、背丈と体型は私と同じ。少し暗めの栗色の髪と黒の瞳が印象的な男の子。 そう、あたしが昨日模擬戦で戦った、魔導師の蒼凪恭文。そして、その胸元で光り、青い輝きを放つのは、恭文のパートナーデバイスであるアルトアイゼン。 恭文は、あたし達の前まで来ると、ゆっくりと自転車を止めた。 「いやぁ、危なかった。スバルのあいさつにノって手を振ったらアレだもの」 「ホントだよ。見てて怖かったよ?」 「気をつけなよ、ホントにもう……」 「……アンタ達、仲いいわね」 ティアが、少し呆れ気味な顔でつぶやく。 え? だって、こなたは元々友達だったみたいだし、あたしだって恭文とは昨日友達になったんだもん。仲がいいのは当たり前だよ。 「まぁ、ギンガさんと似てるとこあるし、それもあると思うな。 あ、ティアナもおはよう……早朝訓練でもしてたの?」 「おはよ。 まぁ、訓練って言っても、ランニングとストレッチのみだけどね」 「そういう恭文はこんな早くにどうしたの?」 「そうだよ。仕事始まるまでには、まだ時間あるよ?」 時刻は、もうすぐ8時になろうかという時間。こんな早くに来てもやることなんてないはずなのに。 「あーっと実はね。朝ご飯食べにきたの」 朝ご飯っ!? 《昨日はあんな感じで、寄り道もせずに帰ったのですが、帰り着いた後に冷蔵庫を見たら、見事に空でして……》 「なるほど。それで、朝早くに隊舎の食堂に来て、ずうずうしくも朝食にありつこうと考えたワケだ」 「……正解です」 「納得した。それで、今日はその自転車なんだね?」 今、恭文が乗っているのは、世間で言うところのママチャリと言われている物。 前に大きめのカゴがついているタイプで、これで帰りに買い物をする……ってとこかな? 「うん」 「なら、一緒にご飯食べようよ! ちょうどあたし達も食べるとこだし。ね、ティア、こなた!」 「大歓迎っ!」 「そうね。アレコレ話も聞きたいし、付き合いなさいよ」 《3人とも、ありがとうございます。それでは、マスター》 「うん。じゃあ、悪いんだけど、食堂で席取っててもらってもいいかな? 僕はこれを置いてこなきゃいけないから」 「わかった。待ってるからすぐ来てね〜」 そう言って、あたし達が隊舎の方へ入ろうとすると……恭文から呼び止められた。 「どうしたの?」 「ごめんごめん。これ渡すの忘れてた……はい」 そう言って、恭文から差し出されたのはひとつの袋……これ、何? 「ほら、昨日借りてたスバルのトレーニングウェアだよ。 洗濯して乾燥機にも突っ込んだから、もう着れるよ」 「あ、ありがとう。でも、別に借りっぱなしでもよかったのに。また必要でしょ?」 「自分の着るからいい。というか、そこは気にしていこうよ。女の子なんだしさ……」 「だから、気にしてないよ? 別にこれを着て恭文がエッチな事考えてても。それは普通のことなんだし」 『いや、そこは気にしなさいよ』 どういうワケか、ティアやこなたにも一緒にツッコまれた……どうして? とにかく、あたしは恭文からトレーニングウェアを受け取って、そこで一旦恭文と別れて隊舎に入って、食堂を目指す……ティア、どうしたの? 「何がよ?」 「少し、考え込むような顔してたから」 「別になんでもないわよ。本当に仲よくなったんだなって思っただけだから」 「そうかなぁ……? あ、そうだ。あたしちょっと部屋に戻るね。これを置いてくるから」 「わかった。席はあたしとこなたで取っておくから、ゆっくりでいいわよ? つか、ちゃんと片づけてから来なさい。散らかしたまま出てきたりしないのよ」 「はーい」 そして、ティア達とも別れて、あたしは自室に戻る。 戻ったら、さっそく袋を開けて、トレーニングウェアを取り出す……何コレっ!? あたしは、トレーニングウェアを見てビックリしていた。すごく汚れてたから……とかではない。 むしろその逆……キレイなんだ。それもすっごく。昨日洗ったはずだからそのせいかもしれないんだけど、とにかくキレイ。 汚れもないし、アイロンもしっかりかけてあってシワひとつない……恭文って、すっごくマメなんだね。 訓練で使うものだから、別にしわくちゃでも問題ないんだけど……すごい。 あたしは、少しの間、そのキレイに仕上げられたトレーニングウェアを見て、感激していた。 ……恭文に、後でちゃんとお礼言わないとダメだよね。うん。 とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 とある魔導師と守護者と機動六課の日常 第5話「ケンカするほど……とも言うし、仲の良さの基準なんて、誰にもわからない」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……お待たせー!」 《すみません、遅くなりました。マスターがグズグズするから》 とりあえず、アルトのツッコミはスルーすることにした。 「恭文さん、おはようございます!」 「おはようございます」 「きゅくるー」 「おはー♪」 僕とアルトが自転車を置いて、食堂へ着くと、昨日知り合ったばかりのちびっこコンビ……とその“お姉ちゃん”。 エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ。チビ竜のフリードリヒにあずささんもスバル達と一緒にいた。 そして―― 「………………ん」 マスターコンボイも同席していた。ヒューマンフォームで、軽く手を挙げてあいさつしてくる。 「エリオもキャロも、フリードにあずささんもおはよう」 《おはようございます》 「マスターコンボイもね」 「おぅ」 にしても……意外にスバル達とつるんでるんだね、マスターコンボイ。言動からして一匹狼みたいなイメージがあるんだけど。 「スバルがしつこいからな。突き放す方が厄介なことになる。 昨日“あんな目”にあった貴様なら、理解できると思うんだが?」 あー、うん。納得した。 昨日、なんか素直にスバルに協力してたと思ったら、その辺の恐ろしさをよくわかってたからなんだね。 とりあえず、みんなが取っていてくれたイスに座る。なんと、僕の分のご飯まで確保してくれていた。うん、ごめんね。手間かけさせちゃって。 「ううん、大丈夫だよ。それじゃあ全員そろったからみんな一緒に……」 『いただきまーすっ!』 ……いやぁ、朝から運動したし、空きっ腹にこのご飯の美味しさが身にしみるわぁ。 《あわてずによくかんで食べてくださいね》 「うぃうぃ」 「そうだ、恭文。ありがとね」 スバルが、やったら嬉しそうな表情でそう言ってきた……んだけど、何の話? 「トレーニングウェア、すっごくキレイに洗ってくれて、ビックリしたよ。シワひとつないんだもん」 《昨日帰ってから、一生懸命洗ってましたから。それから、乾かして、アイロンをして、匂いが気にならないか丹念にチェックして……》 「そこまでやってくれたんだ……ありがと」 いや、一応借り物だしそれくらいはね。うん、ちゃんとしておきたかったの。 《まぁ、匂いを丹念にチェックしてるあたりに、危なさを感じたのは内緒にしてあげますよ》 ……だったら口にしないでよ。そしてこなたはニタニタするな。 いや、自分でも気になってたよ? 女の子の服を、ちゃんとした理由があるとはいえ、くんかくんかと匂いを嗅ぐのはどうなんだろうなって。 で、スバルはなんで僕に顔を近づけるっ!? 「うーん、恭文いい匂いだよ。朝にお風呂とか入った?」 「あぁ、朝風呂派だから……って、においを勝手にかぐなっ!」 「いや、そこまで気にするってことは、何かあるのかなって思って」 《まぁ、それはないのですが……一応女性というのがありましたから、ちょっと神経を使ってたんです》 アルトがそう言うと、スバルがなぜだか顔を赤くして黙った……いや、変な意味じゃないよ? 本当に。 「と、とにかくありがと。あたし、嬉しかったから」 「うん、僕も昨日はありがとね。 ウェア貸してくれて助かっちゃった。まさかいきなり模擬戦になるなんて思ってなかったから、用意してなかったからね」 「うんっ!」 《これで、フラグ成立ですね》 「恭文、ぐっじょぶっ!」 ……あぁ、アルトとこなたは気にしないでね。 ほら、街中歩いてるとやたらイチャついてぶっ飛ばしたくなるカップルっているじゃない? あぁいうのを無視する感覚でいけばいいから。 「何気にヒドイよそれっ!?」 《全くですよ。優しさが足りませんよ優しさが》 「そーだそーだー。 もっと私達に優しくしろー」 優しくしてほしいなら、まず僕に優しくしてよ。 で、みんなはなんでそんなに僕を見つめるの? 「いや、なんていうかさ。昨日から思ってたんだけど……アンタのデバイス、アルトアイゼンだっけ? 本当によくしゃべるわよね」 「いや、普通だよ?」 「絶対普通じゃないからっ」 《そんなことはないと思うのですが……》 ……まぁ確かに、アルトは無茶苦茶しゃべるしツッコむし。 AI付きデバイスの中でもトップクラスっていわんばかりに感情表現豊かであるのは間違いないわな。 「何か、特殊なデバイスなんですか?」 「あー、特殊って言えば特殊……なのかな」 「もしよかったら、教えてもらえませんか? 興味ありますし」 ……ちびっ子二人の瞳が痛い。だって、すっごく光輝いているんだもの。 《といっても、大した事ではありません。私は、みなさんより年上……稼動年数が26年というだけの話です》 「26年っ!?」 「ちょっと待って、アンタ18よね? なんでアンタが使ってるデバイスが、アンタより年上なのよ」 「そりゃあそうだよ。 だって、アルトは元々僕のパートナーデバイスじゃないもの」 ……まぁ、隠す必要があるワケでもないので説明すると、アルトは元々、僕の剣の師匠と一緒に戦っていたデバイスなのだ。 僕と先生が出会って、剣術を教えてもらうことになった直後、剣術経験がない僕のサポートのためという名目で、僕はアルトを使用して訓練や戦闘を行っていた。 ちなみに、当のアルトはこの事に対してかなり不満タラタラだった。 ……いや、当然だけどね。自分のマスターの命令とは言え、戦闘経験がそれほどあるワケじゃないトーシローの世話を焼かなきゃいけなくなったんだから。 それが紆余曲折あって、アルトが僕のことを『マスター』と呼ぶようになったのだ。 それにともなって、元々のマスターである先生の事は『グランド・マスター』と呼ぶことになった。アルト曰く、やっぱり先生の方が立場は上にしたかったらしい。なので『グランド』。 それから、アルトは正式に僕のパートナーとして戦うことになった。 で……ここからは、僕が魔導師になるきっかけとなった、ある事件が解決してしばらくして、リンディさんから聞いたこと。 どうやら先生は僕のパートナーデバイスとしてアルトを受け継いでほしかったそうだ。 老い先短い……いや、今でもピンピンしてるけどさ。模擬戦でジュンイチさんを笑いながら半殺しにできるくらい元気だけどさ。 とにかく、老い先短い自分が亡くなった時に、苦楽を共にしたパートナーの今後がどうしても気がかりだったそうだ。 それで、大事にしてくれる人間を探していた時に、僕が現れた。 で、いざヴィータ師匠と一緒に、剣術と魔法戦の技能を教えてみると、それなりにセンスもあった。 戦闘に関して天才……と言えるほどではないけど、鉄火場から生きて帰るための力、いわゆる生存能力に関するスキルがズバ抜けていたらしい。 ということで即決して、その通りになったというワケである。 「……なるほど、そういうことだったんだね」 「人に歴史アリ、ってヤツだねー。 いや、この場合はデバイスに歴史アリ、なのかな?」 僕の説明に納得するスバルのとなりで、こなたもうんうんとうなずいている。 ……っと、そうだ、こなた。 「ん? 何ー?」 「僕も昨日からちょっと気になってたんだけど……僕、確か魔法のことってこなたに話してなかったよね?」 「うん。そだね」 「え!? そうなの!? 昨日あんまり普通に話してたから、てっきり知ってるものとばかり……」 そう。 僕もスバルの驚きに同感だ。だから気になった。 だって、僕が魔導師だってことはもちろん、僕からのルートでは魔法のことなんか一切知らされていなかったはずのこなたが、ごく当然のように僕やアルトアイゼンのノリについてこれていたから。 で……どーなのよ、こなた? 「大したことじゃないよー。 医務室に行く前に、模擬戦のことを聞いてビックリした後だったから」 なるほど。すでに予備知識があったワケね。 「けど、アルトアイゼンとすっごく普通に話してたじゃない。 あたしなんか、すごくしゃべる子なんだなー、って驚いてたのに」 「それを言うなら、私のマグナムキャリバーだってたいがい毒舌じゃん? こっちは元々“そういう風”にプログラムされてるせいだけど。 それに……まぁ、何だ……」 スバルの言葉に、こなたは少しばかり苦笑しながら頬をかく。そして、改めてスバルに告げる。 「なんか、会った瞬間“心”友になれそうなシンパシーがありまして」 ……あー、そういえばそうでしたね。 こなたもどっちかって言うと、僕ら側のノリの人間だものね。すぐに意気投合できても不思議はないか。 「にしても、AI搭載型デバイスは、普通は使用年数が増える事にその使用者の専用機体になっていくのに、よくあそこまで戦えるようになったわね」 《そうですね。この人の特性に擦り合わせていくのに、一ヶ月ばかりの時間はかかりました》 「一ヶ月って、また短期間で合わせられたわね」 「まー、その辺りは事情があってね。先生と僕って、魔力特性が凄く似てたんだよ」 魔力特性というのは、ぶっちゃけちゃえば、どういう魔法が得意かという先天的な適正みたいなものになる。 例えばフェイト。フェイトは、魔力の圧縮。そして、先天的に備わっている電気性質への魔力変換を得意としている。逆に、誘導弾とかは苦手なんだよね。 で、それと同じように、僕にも得意とする分野と不得意な分野がある。それと、先生の資質がとてもよく似ていたのだ。 先生曰く、そういうのも僕に魔法や剣術を教えようと思った動機らしい。 《……今考えると、その辺りも含めて、最初の段階で私をつかせたのでしょう。なんというか、私の主人はどうしてこうもそろって性悪なのか》 「失礼な。先生はともかく、僕は違う」 「じゃあ……あの、アルトアイゼンさん」 いきなりさん付けっ!? 《……エリオさん、普通に呼び捨てで構いません。確かに私の方が年上かも知れませんけど、どうにもさん付けは慣れません》 「う、うん。それじゃあ、アルトアイゼン」 《はい、なんでしょうか?》 「恭文さんのことを『マスター』って呼ぶようになったのって、何がきっかけだったの?」 ……きっかけか。うん、痛かったなぁ。 《……とても簡単です。 とある違法行為を行っていたSランク魔導師を相手にして、ギリギリだった時にこのバカは、擬似的にマスター権限を強行して、私を待機状態に戻したんです》 「えぇっ!?」 「アンタ、なんでまたそんなことしたのよ!」 とりあえず、視線が痛いからにらむのはやめてくれるとありがたいよ。ちゃんと説明するから。そしてアルト、マスターを指してバカって言うな。 《仕方ないでしょう、バカはバカなんですから。それも年々悪化してますし》 「……おのれは」 「まぁまぁ……それで、恭文はどうしてそんなことしたの?」 「……その時のアルトは先生から預かっていた形だったからさ。正直、勝つためにちょっと無茶しなきゃいけなくて」 「それで、アルトアイゼンをその無茶に巻き込みたくなくて、待機状態に戻したと」 まぁ、それでも勝つ算段はつけられてたからだけどね。 《……何が算段ですか。 相打ち同然に決着をつけて死にかけて、二週間意識不明の重体。完治までにはそこから一ヶ月もかかったじゃありませんか》 うん、死にかけた。これ以上ないっていうくらい。 《あの時、リインさんやフェイトさんや高町家のみなさんがどれほど心配して、泣いたと思ってるんですか? “勝つ”というのは、相手を完膚なきまでにぶっ飛ばしても、自分は無傷という結果の事を言うんです。カン違いにも程がありますよ》 「ねぇアルトアイゼン、その考え方もどうなのかな?」 「つか、そんな大ケガしてまでやることじゃないわよ……」 「そうでもない」 僕の話にあきれるスバルやティアナにそう答えたのはマスターコンボイだった。 「その時点では、まだアルトアイゼンは蒼凪恭文の師のデバイスであるという矜持を引きずったままだったのだろう? だから、蒼凪恭文と共に戦うことには不満があった。 貴様ら……自分に対して不満むき出しのヤツを相手に、『これから命がけの無茶をするから、貴様も一緒に命を賭けろ』などと言えるか?」 「そ、それは……」 「まぁ、言わんとしてることはわかるけど……」 そう。スバル達へのマスターコンボイの指摘で、当事の僕の心情はだいたい正解だ。 あの時は、アルトは僕と戦うことに関しては、本当に不満タラタラだったし。それで命を賭けろとはいえなかった。 アルトは先生のこと、大好きだしね。 だから……その時の僕には、アルト抜きで無茶をするという選択しか選べなかった。 「それで、アルトアイゼンは恭文さんをマスターって呼ぶようになったんだね」 《キャロさん正解です。色々と不満があったのは確かですが、目の前で死なれても気分が悪いですし。 それに……》 「それに何よ?」 アルトを、みんながじっと見つめる。何を言い出すのかと言わんばかりに。 《マスターがあの時、ケガと無茶をしたのは、私が信頼関係を結ぼうともしなかったからです。 なら、マスターでもご主人様でもおにいたまでもいい。しっかりとした関係を作っていくしかない……同じ間違いを、繰り返したくはありませんでしたから》 「そっか。なんか、アンタも大変だったのね」 《わかっていただけるとありがたいです》 ……みんなが感心してる中、僕はどうしても釈然としないものを感じていた。アルト、おにいたまってなに? 可愛くないからそれはやめて。 「恭文、ホントにダメだよ? こんないいデバイスに心配ばかりかけちゃ」 《まったくです》 「だから、自分で言ったら説得力ないから……」 「それはそうだけど、心配をかけちゃいけないのは間違いないよ? あの時、アルトアイゼンすっごく落ち込んでたんだから」 「そうだな。自分の態度がいけなかったと、お前の目が覚めるまで反省しきりだったからな」 …………え? 突然、後ろから声が聞こえた。僕がよく知る声が二つ。 で、後ろを振り向くと……いた。 「恭文くん、久しぶり……過労だって聞いたけど、身体大丈夫?」 「問題ないよ。てーか、なのはおひさ。なんか元気そうじゃないのさ」 「うんっ!」 そう、そこにいたのは……シグナムさんと、もうひとり。 高町なのはが、そこにいた。 「なのはさんっ! あ、シグナム副隊長もおはようございますっ!」 『おはようございますっ!』 「うん、みんなおはよう」 「みんな、なのはにそんなに気を使わなくてもいいのに……」 「アンタは少しは気を使いなさいよっ!」 「イヤだ」 ……あれ? どうしてみんなそんなビックリしたような顔で僕を見るの? 「あの、恭文。なのはさんって、一応上の立場なんだよ? さすがにそれは……」 「あぁ、大丈夫だよみんな。恭文くんは、どこでもこんな感じだし」 「実際、蒼凪に上下関係を盾に命令すると恐ろしいことになるからな」 「ですね……相変わらずだよ。逆に安心しちゃったよ」 「この二人は、それが相変わらずなんですね」 スバルもティアナもチビッ子コンビも、なんでそんな残念そうな目で僕達を見る? そしてこなたとあずささん。なんで今にも爆笑しそうな感じで腹を抱えて肩を震わせている? で、僕のことはいいよ。なーんでなのはがこんな朝早くにいるのかが疑問だ。 「しかし、またずいぶんと早く戻ってきたね。病院にお泊りだったんじゃないの?」 「うん。でも……恭文くんに会いたかったから」 ニッコリと笑顔でなのはが口にする……そうなんだ。 「僕は……会いたくなかった」 『…………え?』 「だって……若○ボイスで話しかけられてもイヤだし」 「そんな声出ないよっ!」 いや、勝手に変換されてるから。 「されてないよっ!」 「僕とアルトの脳内のことにとやかく抜かすな」 《まったくですよっ!》 「逆ギレっ!?」 「おい、蒼凪恭文」 「ん? 何? マスターコンボイ」 「以前から気になっていたのだが……その“○本ボイス”とは何だ?」 「今度ネタ元のゲーム化してあげるよ」 「む……わかった」 《これでまたひとり布教完了ですね》 「布教しないでっ!」 ……さて、この高町なのはという女性について説明しておこう。 時空管理局の嘱託魔導師で、主なお手伝い先は叩き上げ戦闘集団と言ってもいい“航空戦技教導隊”。ちなみに僕らと同じ空戦魔導師。 僕やはやてと同じ地球の出身で、9歳の時に、とある事件に巻き込まれて魔法の力に目覚めた。 そこからは……途中で大ケガして、リハビリのためにブランクこそあったものの、教導隊に所属した。僕と出会ったのも、ちょうどそれくらい。 そこでどんな仕事をしているかというと……最新鋭の戦闘技術や戦術の構築。新装備の開発などだ。 あとは、要請のあった部隊に赴き、そこの武装隊員に極めてレベルの高い戦闘技術の教導を施したりもしている。そういや、六課でも主な仕事はそれになるのか。 こやつは、そんなエリート街道まっしぐらな生き方をしているために、ミッドでもかなりの有名人。 “エース・オブ・エース”なんていうぶっ飛んだ二つ名まで持っている……そこはうらやましいよ。 ほら、二つ名って憧れるし。僕も“赤い彗星”とか“ライトニング・バロン”とか“阿修羅すらも凌駕する”とか言われてみたいし。 あのジュンイチさんだって“黒き暴君”とか“ジョーカー・オブ・ジョーカー”とか言われてるし。あと、“漆黒の破壊神”とか“隠し技の百貨店”とか“反則技の伏魔殿”とか“超広域型疫病神”とか“生きた理不尽”とか“歩くご都合主義”とか。 ……しかし、それはあくまでも表向きの顔だ。 裏の顔は語るのも恐ろしい。 こやつを一言で言うなら、そう……魔王っ! ちなみに、『冥王』『悪魔』『鬼畜』『作画崩れ』でも正解とする。 こやつの戦闘スタイルは、大量の誘導弾と高威力・高出力の砲撃を用いた遠・中距離戦。 ここまでなら、普通の射撃での支援型だろう。ただし……その攻撃の威力が半端じゃないのだ。 一発撃つだけで大地は割れ、海は避け、そして世界は震える。 どっかの惑星をぶっ壊したことも数知れず。 その純白を思わせるバリアジャケットは、実は敵の返り血を全く浴びてないからというのが通説。 そして……恐ろしいのはその手口だ。 一撃で倒せるはずなのに、じわじわとなぶり殺しにするような手口で戦う。 ……信じられないかもしれない。だけど……これが高町なのはだっ! 「そんなワケないからぁぁぁぁぁっ! というかというかっ! なんでいきなりそんな話になるのっ!?」 「いや、説明って大事でしょ?」 《そうですよ。あなたが誤解されないようにと気を使ったんです》 「使い方が間違ってるよ。それだけじゃなくて、またそんな風に魔王って言うっ!」 「だって、魔王じゃないのさ」 《そうですよ》 「違うもんっ! 魔王は“JS事件”の時にジュンイチさんが名乗ってるしっ!」 「いや、あの人は“大”魔王」 《もしくは魔神ですよ。神。 空にそびえる鉄の城ですよ》 「さらに上がいたっ!? いや、この場合下っ!?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……えっと……ちょっと恭文っ!? 「何さ豆柴」 「犬じゃないよっ! というか……どうしてなのはさんにそんなこと言うの?」 「何が?」 「『何が?』じゃないわよ。 アンタ、よりにもよって『魔王』って……」 「恭文さん、それはヒドイですよ」 「なのはさんは魔王じゃないですよ」 そうだよ。なのはさんはすっごくいい人だよ? でも、そんなあたし達の様子を見て、恭文は失礼にもため息をついた。そして、こう言った。 「なのは、シグナムさん、心が痛まないんですか? こんないたいけな子ども達をだまして」 《そうですよ。良心の呵責というものに苛まれないんですか?》 「それはこっちのセリフだよっ!」 「むしろ、それはお前達に言ってやりたいぞ」 本当だよ。なのはさんの事、さっきから魔王魔王って…… 「じゃあみんなに聞くけど、なのはが魔王じゃないって言い切れる? 心のそこから、ウソ偽りなく、まっすぐに、僕の目を見て、天地天命に誓って、己の心に誇って、神やら仏やらプライマスやらにも誓って……言える?」 『……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………もちろん!』 「なのは、みんなに感謝しときなよ? かなり間があったけど言ってくれたんだから」 「みんな、そんな風に思ってたんだね……」 こ、これは違うんですっ! 恭文が変な念押しするからで。 「落ち着け、お前ら」 そんなあたし達をなだめるように口を開いたのはマスターコンボイさん。 そうだよ! マスターコンボイさんならわかってくれる! 10年前の“GBH戦役”でなのはさんと仲良しになったマスターコンボイさんなら、なのはさんが魔王じゃないってわかってくれるよね!? 「ヤツが魔王かどうかなど、今さら論ずるまでもない」 そう言うと、マスターコンボイさんはあたしの両肩を(背伸びして)ポンと叩いた。あたしをまっすぐに見据えて、告げる。 「お前も、防壁をストライクフレームで突き破られたところから至近距離でエクセリオンバスターのフルパワーショットを喰らってみろ。 そうすれば、ヤツが魔王すらも凌駕する存在だとわかるはずだ」 マスターコンボイさんも恭文側っ!? ってゆーか恭文よりひどいっ!? え!? でも実体験付き!? どうフォローすればいいのコレっ!? 「あず姉! あず姉はわかってくれるよね!? なのはさんが悪魔じゃないって!」 「んー、そうだねー……」 あわててあたしが助けを求めたのはあず姉だ。あたしの問いに、あず姉はしばらく考え込むそぶりをした後、 「マスターギガトロンの腹に、ヤクザの鉄砲玉よろしくストライクフレームをブッスリ突き刺した上に、零距離エクセリオンバスターで身体の内側から思い切りブチ抜いたのを“悪魔の所業”って言わないなら、悪魔じゃないんじゃない?」 あず姉も実例付き!? 「まぁ、お前らもそういきり立つな」 そんな中、まぁまぁと言ってきたのは、今まで話を聞いていたシグナム副隊長だった。 「蒼凪のなのは隊長に対しての態度はいつものことだ」 「これ、いつものことなんですかっ!?」 「そうだ。まぁ、この二人なりのコミュニケーションと言ったところだ。 ……まぁ、そこにマスターコンボイやあずさまで乗っかってくるとは、私も思っていなかったがな」 コミュニケーションって言っても……これは…… 「でも、『魔王』って言うのはやめてほしいんだけど」 「魔王じゃなくなったと判断したら、やめてあげるよ」 「じゃあ、今からやめて?」 「……えっ!?」 《そんなっ!?》 「なん……だと……!?」 「ウソ、でしょ……!?」 あの、何でそんなにびっくりするの? 「だって……現時点で魔王なのに今からやめろなんて」 「事実をねじ曲げるなど、このオレの主義に反することができるかっ!」 「事実でも魔王でもないよっ!」 「現実と向き合おうよ、なのはちゃん」 「現実じゃないからっ!」 そうして、なのはさんと恭文とアルトアイゼン、そして乱入する形になったマスターコンボイさんやあず姉は、あーだこーだと言い争う。けっこう、際限なく。 「……シグナム副隊長」 「言いたい事はわかる。だが、普通のことだ。 ……いや、マスターコンボイやあずさが加わっている時点で、ある意味パワーアップしているんだが」 「そう……ですか」 「まぁ……それでも、アレはあいつらなりの再会のあいさつといったところだ。 見てみろ」 シグナム副隊長に言われて、あたしはなのはさん達をもう一度見てみる。 「なんだか……なのはさんも恭文さんも兄さんもあずささんも、楽しそうですね」 「ホントだ」 なのはさんも、怒っている感じはしない。会話してるのが楽しくて仕方ないみたい。というか、いつの間にか世間話にシフトしてるし。 「あぁいう関係だ。 お前らの言いたい事はわかるが、問題はない」 「確かに、そうみたいですね」 うー、でもやっぱり魔王とかって言うのは納得できないー! なのはさんは魔王じゃないもんっ! ……ちょっとそれっぽいところはあるけど。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ さて、今はお昼休み。 あの後、みんなでご飯を食べてから、僕はロングアーチのオフィスでポチポチ書類など打ってた。まぁ、これが目的の半分だしね。 しっかし……こりゃすごいな。 今、僕が打っているのは、上への報告書。報告内容は、JS事件の最終局面。六課が関わった“ゆりかご”の攻略戦やら首都の防衛戦やら、その後の対ユニクロン戦やなのはとジュンイチさんのガチバトルに関して。 なんでも、暫定的な形では出していたのだけど、さすがにそれだとアウトなので……今、かなり詳細な物をまとめている最中だそうだ。 その時に、管制をしていたシャーリーにあれこれ解説してもらいながら、その報告書作成の手伝いをしていたのだけど、激戦もいいとこじゃないのさ。 最凶無敵を地でいくジュンイチさんですら相当の重傷を負っている。脳みそ半分吹っ飛ばされたってナニさ。あの人の身体が人間やめてなかったらその時点でジ・エンドじゃないか。 「そりゃそうだよ。みんながんばってたしね」 「いや、がんばりようにも程があるでしょ」 で……今はその報告書を作るための参考に、みんなの訓練とかそれまでの実戦とかの記録映像を見ているんだけど……その中の、ひとりの女の子の戦いぶりに、僕は目を奪われていた。 ティアナである。 ポジションはセンターガードで、ガンナーなのか。射撃と……幻術っ!? また渋いもん使ってるなぁ。 それに、前衛組ほどではないけどダガーモードを使っての剣術もそこそこ。後からジュンイチさんに鍛えられた時に仕込まれたものだとわかったらしいけど。 どういう方向性で育ててるんだろ? 後でなのはとかジュンイチさんに聞いてみるか。 「やっぱり、そういうの気になるの?」 そう聞いてきたのは、ロングアーチスタッフ。アルト・クラエッタさん。 なんでも、シグナムさんとは昔からの知り合いで、それが縁で六課に参加。ヘリパイロットの資格も持っているそうだ。 「そりゃあ気になりますよ。 いずれ模擬戦なんかで戦う相手なんですから、入手できる情報は多い方がいいですし」 「そういうことなのっ!?」 《それもありますが、結果的に悪手だったとはいえ、その悪手でなのはさんを出し抜いたほどの実力者ですから。興味は尽きません》 記録によれば、ティアナは一度、なのはの教導方針に不満を持って独断で訓練を積み、スバルと二人して自分達なりのフォーメーションでなのはに挑んだことがある。 で、そのことになのはがキレて、そんななのはにマスターコンボイやらスカイクェイクさんやらがさらにキレて、結果大事に発展したりしたらしいけど……そこはいい。 僕らにとっての問題は、ティアナのとった戦術がなのはを出し抜いたということ。 結果だけを見れば、悪くなかったのは作戦だけ。肝心の使った本人達がそのフォーメーションを完全にモノにできておらず、成功するか否かは運任せに近いという、ぶっちゃけバクチ全開な手だったワケだけど……逆に言えば、そんな不完全な悪手で、段違いに格上のなのはを出し抜いたことになる。 正直、これで興味を持つなというのがムリである。ちょっと腕に覚えがあって戦うのが大好きな魔導師なら、よだれをたらして戦いたがる。 ……シグナムさんとか、ブレードさんとかね。 「うー、早く訓練再開されないかなぁ。スバルは昨日のでわかったけど、他の3人が気になるよ」 《スバルさんの実力を考えると、あれと同程度なのは間違いないでしょうが》 「なぎくんは戦うの好きだもんね」 ちょっと呆れ気味な顔をしているのは、同じくロングアーチスタッフのルキノさん。 クロノさんが艦長を勤めていた次元航行艦・アースラに乗艦していたのが縁で、とても仲良くなった。 ……まぁ、ルキノさんが艦船マニアなので、すごい話に付き合わされたというだけなのだけど。 「そうなの?」 「まぁ、嫌いじゃないですね」 命がけで戦ってるのは、楽しいし満たされる。これは、先生にも言われたことだし、とある魔導師仲間にも言われた。完全無欠のバトルマニアだと。 もちろん、そうだからと言って事件が年がら年中起きてほしいとは思わないけど。 「どういう風に戦えば勝てるか、どういう立ち回り方があるかとか考えるの、すっごく楽しいんですよね」 「なんというか……なのはさん達の知り合いとは思えない発言だよね」 「どっちかって言うとジュンイチさんとか、ブレードさんとかの思考だよね」 「でも、自重はしてるんです。痛いのはやっぱ嫌いですし」 戦うのは好きだけど、痛いのは嫌いだ。 自分が痛いって話じゃない……リインやフェイト、はやてになのは達が痛いのがイヤなんだ。 朝に話したケガの時、みんなにしこたま怒られたからなぁ。あの時に、ようやく認識出来た。僕が傷つくことで、理屈抜きで心を痛める人ができたんだってことに。 まぁ、そいつがどうでもいいなら、そんなのは無視するんだけど……みんなは僕にとって、そんな軽い存在じゃなかった。だから、楽しい気持ちは二の次にしているワケである。 「なるほどねぇ……」 「あー、でもティアナは興味あるなぁ。幻術どんな風に使うんだろ……」 「ね、アルトアイゼン」 《なんですかアルトさん》 「なぎくんの言う『興味』って……魔導師としてだけ?」 《残念ながら、それがマスタークオリティです。女の子としては持っていないでしょう》 何やらわからないことを話しているパートナーは放置。しかし……あー、どんな感じなんだろー! ちなみに、こんな話をしながらも手の動きは止めていない。 目で資料を追い、それを頭の中でまとめて、ブラインドタッチで報告書をまとめていく。 魔導師にとって、これくらいのマルチタスクはできて当然である。 「……さて、もうお昼だね。 なぎくん、なのはさんのトコ行くんだよね?」 「うん」 そんなことをしている間にもお昼休みの時間。 僕は、朝食の時になのはから自分の部屋に来るようにお願いされたのだ。 何でも、ジュンイチさんも交えて話があるんだとか。 とにかく…… 「じゃあ、ちょっと行ってくるね」 「うん、いってらっしゃい〜」 そうして僕とアルトは、隊員寮のなのはの部屋へと向かっていった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「シャーリーさん」 「どうしたの、二人してニヤニヤして」 「なぎくんがなのはさんの部屋に呼ばれたのって……アレですよね?」 「アレ……だろうね。ジュンイチさんも一緒だって言うし。 あー、私も一緒に行こうかな? なぎくんの驚く顔が見てみたいよー!」 「なぎくん、やっぱ驚きますよね」 「驚くだろうね。 なんせ……アレだもん」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「失礼しまーす」 《お待たせしました》 あいさつして、部屋に入る。まぁ、知ってるとはいえ女の子の部屋だしね。 「蒼凪、待っていたぞ」 「あら、いらっしゃい」 …………………………………………………………誰? 僕とアルトを明るい笑顔で向かえてくれたのは、ザフィーラさんと、青い髪をショートカットにした落ち着きのある大人の女性。まぁ、好みかといわれれば好み。 ただ、僕の知り合いにこういう人はいない。というか、なのはとフェイトの部屋のはずなのに、なんでこの人は我が物顔で掃除してる? 「蒼凪、この方は六課の隊員寮の寮母をしてくださっているアイナさんだ」 「寮母?」 ……あぁ、僕は隊員寮使わないから気にしてなかったけど、当然そういうお仕事の方もいるのか。 「えぇそうよ。恭文くんでいいかしら?」 「はい」 「私は、ザフィーラさんが紹介してくれたけど、寮母のアイナ・トライトンです。アイナって呼んでね。 まぁ、あなたは寮生活は送らないから、あまり接点はないでしょうけど」 「あ、いえいえ。アイナさん、よろしくお願いします」 《マスターともどもよろしくお願いします》 うむぅ、僕の周りにはいないタイプだ。みーんなタヌキっぽくなってきてるしなぁ。こう、大人の女性という感じがする。 「なのはさん達なら、ジュンイチさんを迎えに行っているわ。 すぐに戻ってくるから少しだけ待ってて」 「あ、はい」 というワケで、ソファーに座ってザフィーラさんをなでたり……してるんだけど…… あぁ、なで心地がいい。 だって、フサフサしてるんだもん。もうだめ、ガマンできない。 「ザフィーラさん、抱きついていいですか?」 「……別にかまわんが、お前、我が男だということを忘れていないか?」 「いや、わかってるんですけど……こう……もふもふしててフサフサしてるんでつい」 「本当に変わっていないな」 《それがマスタークオリティです》 うー、そうは言うけどさ。ザフィーラさんの触り心地は最高じゃないのさ〜。前に、枕にして寝た時なんてもう……幸せが…… そう口にしようと思ったその時だった。部屋のドアが開いた。 「ごめん! 恭文くんお待たせっ」 「ごめんね、ちょっとかかっちゃった」 なのはとフェイトが走り込んできた。 「おじゃましまーす」 「ちーっす」 そしてジャックプライムやジュンイチさんも。 「あぁ、大丈夫。ザフィーラさんなでて時間つぶしてたから」 「そうなんだ、よかった」 「あの、アイナさん、ありがとうございました」 「いいのよ。恭文くんともあいさつできたし」 まー、軽くですけどね。 ……さて、なのは。 「なに?」 《わざわざここに呼び出した用件はなんですか?》 「……ひょっとして、ついに結婚?」 まぁ……アレだよ。なのは。 「フェイトを嫁にしたいなら僕を倒してからにして。というか……なのは、さようなら。なのはのことは30秒くらいは忘れないよ」 「違うからぁぁぁぁっ! 私の存在はそんなに軽いのっ!?」 「恭文っ! なのはになんてコト言うのさっ!」 「そうだぞ、恭文っ! ジャックプライムの言うとおりだ! なのはに対して『30秒くらい』なんて……15秒程度で十分だろうがっ!」 「ジュンイチさんとジャックプライムくんがひどいよーっ!」 「えっ!? ボクもっ!? ち、違うよ、なのは! ボクが言いたいのはそうじゃなくて……」 「あぁ、『10秒でも長い』と?」 「ぅわーんっ!」 「ちっがぁぁぁぁぅっ!」 「ち、違うよヤスフミ。私となのはは……そんな……」 ………………うん。カオスだ。 自分でネタ振っといてなんだけど、ここまでカオスになるとは思わなかった。さすがはジュンイチさん。 とにかく、結婚じゃないなら何? まぁ、想像はつくけど。 実は、部屋に入ってきたのは、フェイト達だけじゃなかった。あとひとりだけいた。 年の頃なら……6歳前後。栗色の髪に、翠色と朱色両方の色を持つオッドアイの瞳をした女の子。 栗色の髪は腰まで伸びており、耳の上の両サイドにリボンを使っておさげを作っている。 可愛らしく、見ているだけで穏やかで優しい気持ちになれるような女の子が、フェイト達と一緒に来たのだ。 えっと……ひょっとして、この子は…… とりあえず、立ち上がってその子へと近づいていく。 うーん、ちょっと人見知りする子なのかな? 警戒されてるように感じる。 なので、その子の前までくるとしゃがみこみ、二コリと笑ってみせた。 「こんにちは」 「こんにちはっ!」 女の子は元気にあいさつを返してくれた。それを見て、僕はまたにこやかに笑う。いや、作り笑いとかじゃなくて……本当に楽しくなってきたからだ。 この小さい女の子の笑顔は、大人の心を優しいものにしてくれる。“子は鎹”とは、そういう意味を含めた言葉かもしれない。 「初めまして。僕は蒼凪恭文っていうんだ。で、こっちが……」 僕は、胸元にかけていた相棒を外して、宙に浮かせる。 女の子は、興味津々な顔でそれを見る。 《初めまして。私はアルトアイゼンと言います》 「あると……あいぜん?」 「うん、そうだよ。僕のパートナーデバイス」 《まぁ、一応そういうことになってます》 一応って言うなっ! 《仕方ないではありませんか。まだまだグランド・マスターの域には辿りつけませんし、彼女も出来ませんし、思考はおかしいし、へタレは直らないし……》 「誰がヘタレだよっ!」 《マスターです》 こ、こひつは……! 「ふぇ〜。お兄ちゃん、このデバイスさんたくさんおしゃべりするね」 「ん? ……あぁ、そうだね。アルトはすっごくおしゃべりなんだ」 《マスターがへタレだと、イヤでもこうなるんです。 現に、高町教導官のレイジングハートや、フェイトさんのバルディッシュさんはこうではないでしょ?》 「まだ言うか。 ところでフェイト、ジュンイチさん、ジャックプライム……でもってなのは」 「なに?」 「ん?」 「どしたの?」 「私だけ扱いがっ!?」 いや、こんな会話をしつつずっと気になってたんだけどさ。 「……この子、どなた?」 《何を言ってるんですかマスター。 高町教導官とフェイトさんのお子さんに決まっているじゃないですか》 「……あぁ、なるほどね。そういうことか。納得納得」 できるかぼけっ! どうしてそうなるっ!? 《じゃあ、高町教導官とジュンイチさんのお子さんということで》 いやいやいやいや、それだってムリあるでしょっ! だって、この子の年齢を考えてみてよ。僕知り合っているはずだよ? フェイトだろーとなのはだろーと、二人のお腹が大きくなったところなんて見たことないわっ! 《もちろん冗談です。さすがにそんなワケは……》 「すごい、よくわかったねっ!」 ………………………………………………………………え? なのはとフェイトが、やたら感心した顔で僕とアルトを見る。 ジャックプライムに視線を向けるけど、どこかあきらめの入った様子で首を左右に振るのみ。いやいや。いやいやそんなワケが…… これで、3人のことをママとかパパとか呼んだら信じなくちゃいけないけど。そうじゃないのに僕とアルトは信じませんよ。 「なのはママ、フェイトママ、パパ。 このお兄ちゃんとデバイスさんがもしかして……」 「そうだよ。さっきお話した、ママ達やジュンイチさんのお友達なんだよ。さ、あいさつしてみようか」 ………………………………………………………………………………………………え? まてまて、今なんて言ったっ!? フェイト……『ママ』に、なのは……『ママ』っ!? でもって……ジュンイチさんが『パパ』っ!? いやいやいやいや、まてまてまてまてっ! おちつけ……落ち着いていこうぜ僕。そしてアルトっ! 《残念ながら、今回ばかりは私もKOOLです 思わずラップを歌ってしまいそうです》 あぁ、僕と同じだね。あのキャラソン面白いし。 いや、そうじゃないから……落ち着こうぜ。COOLでいこうさ僕! まぁ……これくらいは普通じゃない? いくらママと呼んだとしても、本当にそうかどうかなんてわからないワケだし。 まぁ、この子が高町かテスタロッサか柾木姓を名乗ったら、信じなくちゃいけないだろうけど。 「うん! 初めまして、高町ヴィヴィオです」 ………………………………………………………………なぁぁぁぁぁぁぁぁのぉぉぉぉぉぉぉぉぉはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 「や、恭文くんっ!? どうしたの……なんでそんな怖い顔で笑うのっ!?」 「……どういうことかな?」 「どういうことって……」 「どうして、この子はフェイトやなのはのことをママって呼ぶのかな? 何ゆえにジュンイチさんのことをパパって呼ぶのかな? そして……なんで高町姓を名乗ったのかな……? この腐れ魔王が。フェイトに……フェイトに一体何をしたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 「あの……それは……それはね……お願いだから落ち着いてっ! アルトアイゼンをセットアップしようとしないでぇぇぇぇぇっ!」 「高町姓ってだけの理由で、オレに来ずになのはに行くあたりが恭文クォリティだよなー……」 「って、何をそんなのん気なことをっ! あぁっ、ヤスフミ、大丈夫だからっ! 大丈夫だから落ち着いてぇっ!」 「そうだよっ! なんで僕となのはの関係を疑わないのさっ!?」 「ジャックプライムもツッコむところはそこじゃないからっ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 僕とアルトは、あの衝撃に満ち溢れたお昼休みを終えて、そこから本日の仕事を無事に終了。今は、六課隊舎の談話室でくつろいでいる所だった。 そうして思い出すのは……あの衝撃の時間。 いきなりかまされたダイレクトパンチはなかなかに強烈だったもの。 なんてったって、フェイトはともかく、あの高町なのはをママと呼ぶ少女がいきなり現れたのだから。 『マ』王や悪『マ』なら知ってるんだけど、『マ』『マ』で続けてくるとは……しかもカタカナ。決して『魔魔』ではない。もちろん『魔々』でもない。 いやぁ、『事実は小説より奇なり』とはよく言ったもんだよ、ウン。 みんなになだめられて、なんとか落ち着いた僕は、その場で少女……じゃなかった、ヴィヴィオが何者であるかの説明を受けた。 ヴィヴィオは、もともと自分達が保護していた少女で、なのはが保護責任者。フェイトが後見人になっており、それで自分達のことをママと呼んでいるのだと説明された。 でもって、ジュンイチさんは紆余曲折を経て一時期面倒を見ていた時に懐かれ、その流れで『パパ』と呼ばれるようになったんだとか。 そしてその後、みんなで隊舎に戻って、お互いの仕事を再開したのだ。もちろんジュンイチさんも一緒だ。 アルト、なのはがなんか必死だったけどどうして? すごい勢いでまくし立てられたよ? 『絶対に変な誤解しないでね。お願いね。フェイトちゃんは後見人をしてくれているだけなんだよっ!?』って、しつこいくらいに念押しされたし。 《気のせいですよ。高町教導官はいつもいつでも本気で生きているコイツ達みたいだからそう思えるんです》 「そっか。それなら納得だ」 《まぁ、ジュンイチさんもあの場にいた、というのも理由のひとつでしょうけど》 「ん? 何か言った?」 《いえ別に》 そうして、さらに詳しいことも説明された。 「……なるほどね。 なのは……養子にしようとしているワケですか」 「うん。 マスターコンボイさんが言ってくれたんだ。『どれだけ否定したって、ヴィヴィオの母親は高町なのはだ』って。 そこまで言ってくれる人がいるんだもん……中途半端はできないな、って」 「そっか。 ねぇ、なのは」 「何かな?」 「色々と大変だったんでしょ? だったら、ヴィヴィオとの約束、みんなからの信頼をちゃんと守れるようにがんばらないとね。 ま、出来る事があったら手伝うよ。もちろん有料で」 「ありがとうね……って、有料っ!?」 「当然だよ。 僕に対して依頼するなら、美味しいケーキくらいはおごってもらわないとね」 「……そっか。うん、そうだね。 だったら、とびっきり美味しいケーキをご馳走するから、何かあった時には、助けてね」 「りょーかい」 「約束したからね? 破ったら許さないから」 そう言って、なのはは満面の笑みを浮かべてた。 その時のなのはは、すっごく嬉しそう……とは違う、なんかいつものなのはとは違う感じがしたのだった。 そりゃ色々とあるよなぁ。だって、なのはは未婚&未成年。それに輪をかけて、あの女は一回墜ちて大ケガしてるワケだし。 ……それで子どもをひとり引き取ろうっていうのは並大抵の決意じゃない。いざとなったらジュンイチさんとも、って感じでもなかったし。 それをやってのけようとするだから、やっぱり高町なのはという女はすごいよ、ウン。絶対に口に出しては誉めてやらないけど。 《でも、ヴィヴィオさんもとてもいい方でしたね》 「そうだね。素直そうで可愛くて……あー、でもなんとなく強情そうな感じは受けたかな」 《それは仕方ないでしょう。なにしろ、あの高町教導官とジュンイチさんの娘さんなのですから》 その後、改めて僕とヴィヴィオは自己紹介をして、友達になった。それがどんな具合だったかと言うと…… 「……恭文さん、これからよろしくおねがいします」 「うん、よろしくね、ヴィヴィオ。 あー、でも僕のことは呼び捨てでいいよ? 敬語も無し」 「え? でも……」 「僕が年上とか、そういうのは気にしないで欲しいな。 僕もアルトも、ヴィヴィオと友達になりたいしさ。ね、アルト」 《そうですね、私もヴィヴィオさんと友達になりたいです。なので、気軽に呼んでください》 「そうだね。呼び捨てで『恭文』って呼んでくれたら嬉しいな」 「……なのはママ」 「うん、大丈夫だよヴィヴィオ。恭文くんのお願い、聞いてあげてほしいな」 「……わかった。これからよろしくね恭文! アルトアイゼンもよろしくね!」 「こちらこそよろしくねヴィヴィオ」 《よろしくおねがいしますヴィヴィオさん》 「じゃあ、ついでにオレの『パパ』呼ばわりも卒業しようか、うん」 「うん。パパ!」 「ちっともわかってないだろ、お前っ!?」 《…………なるほど。 ジュンイチさんとヴィヴィオさんの力関係はそんな感じなんですか》 以上、回想パート2お終い。 しっかし、こうやって色々と振り返るとホントに色んな事があったよね。なんかちかれた…… 《確かに、濃い二日目ではありましたね。でも、明日からも六課での日々は続きます。しっかり休んで、明日からもがんばりましょう》 「へいほーい、がんばるとしましょー……アルト、その返し、明日も続けるつもり?」 《まぁ、私が飽きるまでは》 いつ飽きるのかトトカルチョしても面白いねぇ。まぁ、やる相手いないけど。 そんなことを考えていると……談話室のドアが開いた。そう、白いあのお方の再登場である。 「ゴメンね二人とも、お待たせっ!」 「なのは、デートに遅刻するのはマナー違反って知ってる?」 《まったくです》 「デートじゃないよねこれっ!」 「当然でしょ。つか、誘うならもうちょっと気の効いたとこ誘うし」 《全くです》 「……本当に相変わらずだよね。恭文くんもアルトアイゼンも」 なのは、誉めるならもっとちゃんと誉めて欲しいよ。とりあえず、頭を抱えるのはやめて。 「誉めてないから……と言いますか、大事な話ってなに?」 「そうなんだよ。実はすっごく大事な話があってね」 そう、別にただくつろぐためにここにいたワケじゃない。 ……高町なのはにちょっとしたヤボ用があったのだ。 「ただ……もうちょっと待って。 もうひとり、呼んでる人がいるから」 「もうひとり……?」 僕の言葉になのはが首をかしげた、ちょうどその時、もうひとりの待ち人も現れた。 「来たぞー、恭文」 そう。“白いお方=なのは”に対する“黒いお方”、ジュンイチさんである。 「ジュンイチさんも呼ばれてたんですか?」 「まぁな。 用件はまだ聞いちゃいないんだが……」 うん。だって、まだ二人には用件は言ってないし。 なので、さっさとなのはに対して本題に入ることにする。 「なのは、正直に答えて。 今の身体の調子はどんな感じなの」 「え?」 「だーかーらっ! 僕が六課に来た理由、わかってるでしょ?」 そう、僕がここに来たのは、目の前にいるバカが師匠と二人して無茶やらかしてくれたおかげだ。 「バカってひどいよっ!」 「ほう、じゃあバカと言われないようにしっかり配慮した上で無茶したのかな?」 「……ごめんなさい。配慮しませんでした。かなり無茶苦茶しました。 謝るからそんな怖い目で私を見ないでください……うぅ」 まったく、最初から素直になればいいのである。ツインテールじゃないんだから、下手な反撃などしないでほしい。 そこに萌えはないのだからっ! 「恭文くん、久々なのに随分とひどいね……」 「イヤだなぁなのは。これが僕の愛なんだよ愛」 「もうちょっと優しいのが欲しいよ」 「となりの人から貰えばいいじゃないのさ」 言って、僕が指さすのはジュンイチさん。 うん。どっちもヴィヴィオの“親”なんだし、いっそ“そういう関係”になってしまってもいいと思う。 ……そうすれば、なのはにベッタリなフェイトも少しはフリーになるだろうし。 しかし、そんな僕の提案に対して、目の前の二人は―― 「そんなのダメだよ。 ジュンイチさんの都合だってあるし……」 「別になのはの世話すんのはかまわねぇけどさ、そーゆーのはもっとコイツのこと見てやれるヤツの方がよくねぇか?」 ……………………………………………………うん。わかってた。 ジュンイチさんとなのは、“キング・オブ・ザ・フラグジェノサイダー”と“クイーン・オブ・ザ・フラグブレイカー”の二人がそう簡単に“そう”はならないってことぐらい。 「まぁ、まだ見ぬ誰かさんのことより、自分の身体のこと心配しなよ。 で、どうなの?」 「あぁ、それならもう大丈夫だよ。うん、元気元気!」 そう言って、なのははガッツポーズなど笑顔でかます……そうか、そうなんだ。それはよかった。 なのはの答えに、僕はジュンイチさんと顔を見合わせた。こちらのアイコンタクトが通じたか、ジュンイチさんも無言でうなずき、僕らは二人でなのはに告げる。 「それならなのは、今から出す選択肢のうちどれかひとつを選んで。 通常モードで斬られるか、僕の拳でどつかれるか。見よう見真似のサブミッションをかけられるか」 「それがイヤなら、ゼロブラックがいいか、“ギガフレア三連”がいいか、ブレイジングスマッシュがいいか」 『さぁ、どれ!?』 「なんでいきなりそんな話にっ!? ってゆーかジュンイチさん、何で必殺技のオンパレード!?」 「当たり前じゃボケっ! 『大丈夫』の一言ですんだら、僕がここにいるワケないし、ジュンイチさんも六課への再合流を急ぐワケないし、そもそもリンディさんやはやてから出向の話なんで出るワケがないでしょうがっ! もし本当にそうなら今すぐトンズラこいてエーゲ海でバカンスかましたいんだよこっちはっ!」 そんな対外的なこと聞くために、スーパーのタイムサービス逃してまでここにいるワケじゃない。ちゃんとしておかなきゃ意味ないのよ。 僕が、これ以上なのはや師匠に無茶させないためにいるってこと、忘れないでほしい。 「……うん、そうだね。ごめん」 「謝らなくていいから選んで……あぁ、なるほど。“アレ”で吹っ飛ばされるのがお好みなのかな?」 「“アレ”は本当にシャレが効かないからやめてっ! 正直に答えますからそれだけはやめてください……」 ……まったく、最初から素直になっていれば、命だけは助けてやったものを。 「どっちにしろ死亡確定っ!?」 「いいじゃん、人間はいつか死ぬ。これは真理なんだから」 「力のないヤツは生きていけないのが今の世の中だ。 負けたヤツは勝ったヤツに喰われるのが定めなのだよ。弱肉強食って知ってるか?」 「二人してそんなもっともらしい事言ってもなにも変わらないからっ!」 ……こんな漫才をしつつもなのははちゃんと話してくれた。 いかに自分が愚かでどうしようもなくダメな存在かという懺悔を。 「そんなこと言ってない!」 「ブラスターシステムやら使って無茶しまくった人間に反論の余地はない。 それもリミット3まで開放して長時間発動、しかもそれを2回? ばっかじゃないのっ!?」 「う……」 《しかも、話を聞く限り相当無茶な使い方をしていますし。 まぁ、あの後、ヴィータ師匠やシャーリーさん達から詳しい話を聞いたので、事情もある程度は把握しました。フォローしてくれた方がいるおかげで、最悪の事態は免れることができたということも。 ですが……いずれにせよ自殺行為もいい所でしょう》 僕らにツッコまれ、なのはは小さく身をすくませる――そしてもうひとり。 「あー、一緒になってボケといて何だけど、そこを言われるとオレも辛いんだが。 少なくとも2回目のブラスターはオレが原因みたいなもんだし。 ごめん。マヂごめん」 うん。ジュンイチさんも少しは反省してほしい。 あなたの場合、怒りたいのはそこだけじゃないし。 「ジュンイチさんはさらにひどいよ。 なのはにブラスターを使わせたこともそうだし、最後、責任全部引っかぶって、犯罪者扱いでやられようとしたんだって? カッコのつけ方、明らかに間違ってるでしょうが。ジュンイチさんだって、いろんな人とつながり持ってんのに、それ全部踏みにじるつもりだったんですか?」 《しかもあなたのことですから、それで周りを悲しませてしまうことまで計算に入れていたのでしょう。 だからこそ、フェイトさんを始めとした何人かにはわざと嫌われるような言動を繰り返して、自分に対する反感を維持していた……違いますか? 何似合わないことやってるんですか。罪を背負う覚悟さえあれば何やってもいいなんて、悲劇に酔ったナルシストの言動ですよ》 「………………おっしゃる通りです」 なのはのとなりで、ジュンイチさんも同じように小さく身をすくませる……まぁ、マジメに責めるのはこのくらいでいいかな。 「そうだよ。まぁ、その場にいなかった僕が言えた義理じゃないけど、そういう無茶は本当に自重して。 二人がよくても、周りのみんなが平気じゃないんだから」 『……はい』 本当にそうして欲しい。まぁ、止めてもまたやるべき時になったら二人ともやっちゃうんだろうけどさ。 それでも…… 「僕が来た以上、そんなバカな真似したらどんな状況でも後ろからぶった斬って退場してもらうから。なのはだろうがジュンイチさんだろうが」 「えぇぇぇぇぇっ!?」 「オレもかよっ!?」 《当然です……あなた達、私とマスターの友達となった彼女を泣かせるつもりですか?》 「そんなことするかよっ!」 「そうだよっ!」 「ならなおさらだよ。 まぁ、僕らだって似たようなものだから、『突っ走るな』とは言わない。 けど……その時に自分達だけで、っていうのは絶対にやめて」 ハッキリ言って、僕はいい。戦いの中で傷つくのは、ある意味じゃ当たり前の事なんだから。 その場にいなかった戦いの傷について、あーだこーだは言いたくない。 でも、フェイトやら師匠達が本気で心配していて、辛い顔を浮かべているのは、見てて気分がよろしくない。それが知り合ったばかりのスバル達でもそこは変わらない。 それだけじゃなく、アルトが言った通りに、あの可愛らしい女の子が泣くのはアウト。あんな事情があるなら余計にだ。 六課隊舎が陥落した時、保護されていたヴィヴィオは、危うくスカリエッティにさらわれるところだった。 狙われた理由は、ヴィヴィオが人造魔導師素体。要するに、クローニング技術の応用で、人工的に生み出された存在だから。 それも、元になった遺伝子は……300年前の古代ベルカの時代の人間。 しかも、ヴィヴィオはその時代に存在していた、何かしらの固有スキルまで保持しているそうだ。 それを狙って、スカリエッティはヴィヴィオを狙った。 幸い、その時は直接スカリエッティの手に落ちることは避けられたものの、それでも六課からはぐれてしまったヴィヴィオはジュンイチさんに保護された。 けれど、事件も終盤になり、結局ヴィヴィオはスカリエッティの手に落ち、その時には母親としての情に目覚めていたなのはは、助け出すために無茶をして……ということだそうだ。 一方、そんななのはよりもさらにド派手にやらかしてくれたのがジュンイチさんだ。 今回の“JS事件”、実質の黒幕を突き詰めていくと、最終的にぶち当たるのはミッド地上本部の最高評議会……そう。管理局のお偉いさんだ。 そしてそのことに、六課のみんなは気づけなかった。スカリエッティにディセプティコン、瘴魔にユニクロン軍……目の前の敵に手一杯で、黒幕にまで目を向けられなかったのだ。 もっとも――気づけたとしても、管理局の、地上部隊の中の一部隊でしかない機動六課にはどうにもならなかったと思うけど。 だが――ジュンイチさんは迷うことなくそんな現状に風穴をブチ開けにかかった。 スカリエッティ達の起こす事件を逆に利用し、地上本部を弱体化させ、最高評議会をあぶり出そうとしたのだ。 まず、地上本部攻防戦では地上本部ビルを斬り倒して、それ自体を武器代わりにした。これによって地上本部ビルは崩壊。物理的なダメージを与えた。 さらに間髪入れず、戦闘終了後には水面下で集めていた地上部隊官僚の不正の情報をネットワーク上にばらまき、社会的な信用を失墜させた。 そして極めつけ――何年もかけて地上部隊のスポンサー企業の株を片っ端から買い占め、いつでも乗っ取れるよう準備を整えたことで、経済的にもノド元に刃を突きつけた。 けど、そこまでやってただですむはずがない。 最高評議会を追い詰めるために、ジュンイチさんは地上本部を真っ向から敵に回した。 結果、ジュンイチさんは世界の敵として追われる身になったりもして――ところがどっこい。それで終わらないのがジュンイチさん。 むしろそれを利用して、すでに根っからの悪人ではないと見抜いていたスカリエッティや戦闘機人達の罪までまとめてかぶり、世界の敵として討たれようとした。そのためになのはと戦い、なのはに2度目のブラスターを使わせた。 ホント、無茶もここに極まれりだよ。ルルー○ュ気取りもいいトコだよ。 まったく……なのはもジュンイチさんも、自分を大切にしないにも程がある。 そんなことで、何かあったらヴィヴィオはどうするのさ。 今のヴィヴィオにとって世界の大半は、なのはとジュンイチさんでできている。二人が傷つくっていうのは、あの子の世界そのものが傷つくのと同意義だと思う。 そういうワケだから…… 「僕の平穏とフェイト達の笑顔、それに何より、ヴィヴィオとの約束を本気で守りたいと思うなら、二人とも無茶は絶対に控えて。 まぁ、言った以上は僕もアルトも、何かあったら必ず助けるし、守るから。 これは六課にいる間だけじゃない。解散した後もだよ……OK?」 「……うん。わかった」 「お前にそこまで言わせちゃ、な」 《なら、問題ありません》 「……恭文くん、アルトアイゼン。来てくれてありがとう。正直、心強い」 そんなこと言うなんて……バカじゃないの。 「当然でしょうが。友達なんだからね」 「うん!」 そうして、なのは達との緊急対談は終了した。ま、元気そうでちと安心したわ。そうでなくちゃいぢめ甲斐がないし。 何より、まだじーさんばーさんでもないのに、知り合いの葬式に出席なんてごめんだ。 ちなみに……この話にはオチがある。 「……なんにもない」 《仕方ありません。閉店間際ですから》 なのはと散々っぱら話をしていたおかげで、家の近所のスーパーの食料品が……全滅していた。 つまり、これは…… 《明日も食堂で朝ご飯ですね。マスター》 「……だね」 「それか……ウチ、来るか? 時間も遅いし……メシ風呂寝床、一晩くらいなら面倒見てやるけど?」 ………………うん。 買い物に付き合ってくれたジュンイチさんの言葉を聞きながら、僕はひとり決意した。 とりあえず、明日になったらあの横馬をもう一回いぢめよう。 そうしないと……このストレスは晴らせないんだぁぁぁぁぁっ! (第6話へ続く) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 次回予告っ! なのは「うぅっ、私は魔王なんかじゃないもん……」 恭文「だったら魔王って呼ぶのはやめてあげるよ」 なのは「ホント!?」 ジュンイチ「代わりに、新しい呼び名を次に挙げる中から選んでもらおうか」 1.織田○長 2.セ○ 3.メカ沢○一 4.ビク○リーム 5.やっぱり魔王でいい 恭文&ジュンイチ『さぁ、どれっ!?』 なのは「なんだかすごく究極の選択なんだけどっ!?」 第6話「彼なりの、彼女なりの『これから』の理由」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ (あとがき) オメガ《さて、3話と少しを使った初日と違い、たった1話で片づいた二日目です。 もっとカオスになってもよかったと思うオメガです》 Mコンボイ「やめておけ。あれ以上はなのはの頭がオーバーフローするだけだ」 オメガ《むしろさせるべきでは? 『とまと』ワールドにおける彼女は“エース・オブ・エース”ではなくただの弄られ要員じゃないですか》 Mコンボイ「いや、いくら何でもそんなことは……いや、あるのか? 本家『とまと』でヤツがガチバトルした回数を考えると……」 オメガ《納得していただけて何よりです》 Mコンボイ「納得……するべきじゃないんだろうなぁ。フォローの言葉が見つからんが。 それはともかく、今回の話だが……」 オメガ《ボスとミスタ・ジュンイチが、分担してミスタ・恭文のミス・なのは弄りを加速させたお話です》 Mコンボイ「ミもフタもないな、おいっ!?」 オメガ《まぁ、それは冗談ですが。 むしろ本命は、ミス・ヴィヴィオの『とまコン』初登場ですね。 これに比べれば、ボスやミスタ・ジュンイチのボケ倒しなんて飾りですよ、飾り》 Mコンボイ「その通りなんだが……前座扱いかオレは」 オメガ《仕方ありませんよ。 今回のポイントはミス・ヴィヴィオの登場と、彼女の“親”に対するミスタ・恭文のお説教なんですから。 主流に乗り損なったボスはおとなしく引っ込んでいてください》 Mコンボイ「ぐぅっ…………」 オメガ《さて、それでは、主役になり損なったボスはほっといて、恒例の『GM』シリーズの紹介に移らせていただきます。 今回紹介するのは『らき☆すた』からのクロス出演組筆頭、泉こなたです!》 Mコンボイ「といっても、版権キャラだからな。 基本設定は原作そのままとして、ここでは『GM』シリーズオリジナル設定の紹介に留めさせてもらおう」 名前:泉 こなた 登場作品:らき☆すた 基本プロフィール:原作準拠。高校3年生時点の設定 魔導師ランク:ランク試験未受験、炎熱変換資質有り 使用トランステクター:カイザージェット(SFジェット型) 備考:『らき☆すた』キャラの中では一番最初にゴッドマスターとして覚醒。そのまま仲間内で構成されたゴッドマスターチーム“カイザーズ”のリーダーとなる。コールサインは“カイザー1”。 かつて教わった格闘技の師というのがジュンイチであり、スバルやギンガにとっては姉弟子にあたる。その縁から“JS事件”では六課合流後スバルやマスターコンボイとトリオを組んでいた。 恭文とは秋葉原で知り合ったオタク仲間。ちなみに恭文曰く「ノンセクシャルな友達」とのこと。 オメガ《『とまコン』でミスタ・恭文と友達という新たな設定が加わってますね。 ミスタ・恭文が言うには、残念ながらフラグは立っていないようですが……》 Mコンボイ「いいことではないか。 蒼凪恭文の本命はフェイト・T・高町なのだろう?」 オメガ《だからじゃないですか。 ただでさえ、『とまコン』におけるミスタ・恭文のフラグは本家『とまと』に比べて減少しているんですよ。 ここらでフラグを補充して、ミスタ・恭文とミス・フェイトの周辺をもっとにぎやかにしなければっ! 主に私やアルトお姉様の楽しみのためにっ!》 Mコンボイ「せめて『蒼凪恭文のため』とか言ってやれよっ! 『フェイト・T・高町とのフラグの成就しないヤツを思いやって』とか理由つけてっ!」 オメガ《イヤですよ、面白くないっ!》 Mコンボイ「一片の迷いもなく言い切った!?」 オメガ《当然ですよ。私とお姉様の明るい未来のためなんですから。 では、今週はこれまでです。お付き合い、ありがとうございました》 Mコンボイ「次回は、もっと目立てるといいんだが……」 オメガ《あ、次回はボスの出番はさらに減りますよ》 Mコンボイ「何だとぉっ!?」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |