[携帯モード] [URL送信]

頂き物の小説
第2話「何事も最初が肝心……その“最初”でつまずいたんですけど」:2



 リインによる“お仕置き”が終了した後、二人してぜーぜー言いながら、六課のフォワード陣と対面していた。

 リインがあれやこれやとしている間に、フォワード陣のデバイスの受け渡しは終わっていたらしくて、現在はシャーリー先導である場所に移動していた。その間に、簡単な自己紹介をするのも忘れない。



 その場所の名は……食堂。



 おそらく、これから先一番お世話になるであろう施設だ。食は大事だからねぇ。





 さて。

 そんなボク達だけど、実はさりげなく人数が増えていたりする。

 ボク達の後からついてきている、4人のトランスフォーマー達だ。

 ……いや、正確には彼らは生粋のトランスフォーマーじゃない。

 トランスフォーマーを模倣した可変ボディを持ち、人格型AIによって自律稼動するデバイス――そう、デバイスなのだ。トランスデバイスというらしいけど。



 ジェット機にトランスフォームする、クールなジェットガンナー。

 レースカーにトランスフォームするロードナックル。
 実は二重人格で、元気なやんちゃ坊主タイプのクロとお子様なシロの二人。今表に出ているのはクロの方だね。

 サメ型のビーストロボットにトランスフォームする、「ござる」口調の侍キャラ、シャープエッジ。

 小型クレーン車からトランスフォームする、彼らの中では唯一のマイクロン――つまり人間サイズのトランスフォーマーね。面倒くさがり屋のアイゼンアンカー。



 同系統の開発系譜に連なる、いわば兄弟な彼らはフォワード陣のパートナートランスフォーマーなんだそうだ。彼らも、スバル達のデバイスと同じくメンテナンスのためにシャーリーのご厄介になっていたとか。



「そういえば、あずささんはもう聞きましたけど、シャーリーさんやリイン曹長とも知り合いなんですか?
 なんか、親しいみたいですけど」

「うん。リインは魔導師になりたての頃からの友達だし、シャーリーはフェイト経由でね。
 デバイスの事とかで相談に乗ってもらってるのよ。あと、オタク仲間」

「なるほど、納得しました」



 あー、なんかやりづらい。

 特にチビッ子二人だよ。本気で何話していいかわからない。



「うーん、みんなかたいなぁ……」

「でも、初めて同士ですから」

「そうですね、これから遠慮がなくなっていきますか。
 というか、なぎくん相手にそんなことしてたら身が持たないですし」

「です」



 こら、リインとシャーリー。そういう話なら聞こえないところでやってもらえませんかね? まぁいいけど。

 一応、互いにあいさつは滞りなく終了している……うん。きっと滞りなく。

 もうすぐ食事時ということもあって、少し早いけど一緒にご飯を食べながら話す事にしたんだけど――







 …………うん。現在進行形で混乱しています。



 目の前には、僕の出身世界……地球でいうところの、ビックバン盛りとか流星盛りとか言われるようなサイズの山盛りパスタにサラダ。

 それが見る見るうちに消えていく。その光景に僕は驚きを隠せなかった。



「あんまり気にしない方がいいですよ?」

「スバルもエリオもマスターコンボイさんも、いつもこれくらい食べるから」

「この量をいつも完食?」



 ポカーンとした表情を浮かべる僕に、補足を入れてくれたリインやシャーリーにひとつ聞いてみる。これを完食しているのかと。

 答えは違う所から帰ってきた。



「当たり前じゃないですかっ!」

「ご飯は残すのはいけないことだって、フェイトさんから教わりましたからっ!」

「盛られた以上は食う。それだけだ」



 ……あぁ、なるほど。それはそれは素晴らしいことで……って、んなワケあるかぁぁぁぁっ!



「まて待てっ!
 マスターコンボイはわかるよ。そんなナリでもトランスフォーマーなんだし!
 けどそっちの二人っ! あなた方はあれかっ! 戦うたびに強くなる野菜の名前の宇宙人っ!?
 リアルでこんなに食う人、久々に見たわっ!」



 あの戦闘民族ならこれくらいの量は充分ありえるけど、普通の人間にこのバカ盛りをいつも完食って!

 てゆーかフェイトっ! 腹八分目って文化も教えなさいよっ! 食べ過ぎは身体に毒だってわかってるっ!?



「蒼凪……だっけ?
 気持ちはわかるけど、気にしたら負けよ」

「大丈夫です。時が経てば、あなたにもこの光景が普通のものに見えてくるはずですから」

「なんか、あなた方悟ってるね」



 心底疲れたような表情でそう口にするティアナ・ランスターさんとキャロ・ル・ルシエちゃん。あなた達も苦労しているんだね。

 こんな話をしている間にも、どんどん皿の上のパスタ&サラダは質量を減らしていく。



 あーうん、アレだよアレ。もう気にするのやめよう。気にしたら、食欲がなくなる。

 しかし、ジュンイチさん達以外でこんなバカげた食いっぷりを見ることになるとは……



 そう思い、ご飯を食べながら別の話をして、気を紛らわせることにした。



「そういえばリイン。
 このメンバーの教導担当って、なのはと師匠って聞いてるんだけど」

「そうですよ〜。
 スバル達は、なのはさん達が鍛えて育てている子達なんですよ♪」



 気持ちを切り替え、話題にするのはみんなとうちの幼馴染達との関係。



「ということは……ウワサになってる機動六課のゴッドマスターってこの子達かな?」

「うん、スバル達だよ」

「なるほど、それで納得できたよ。
 うわさは色々と聞いてるよ〜。なのはと師匠が手塩にかけて育てている未来のストライカー達が、今話題のゴッドマスターだって」



 これはホントの話で、奇跡の部隊である機動六課の事を話す時に必ず出てくる事だ。



 ゴッドマスターというのは、“トランステクター”と呼ばれる特殊なビークルと融合レベルで一体化することで、自分自身がトランスフォーマーになれる適格者のこと。

 そのトランステクターっていうのが、“JS事件”で重要な鍵となった“古代遺物(ロストロギア)”、“レリック”と関係していたことから、今回の事件にも深く関係していたのだ。

 で……目の前にいるフォワード陣の内、あずささんを除く4人がそのゴッドマスター。

 そして、マスターコンボイやトランスデバイス達のボディがそのトランステクター。

 つまり、スバル達はトランスデバイスの4人やマスターコンボイと一体化できる、というワケだ。



 ちなみに、ゴッドマスターはスバル達だけじゃない。

 ジェイル・スカリエッティ側の実戦メンバーだった戦闘機人達はみんなゴッドマスターだったそうだし、機動六課とは別に事件に巻き込まれ、関わっていた民間協力者の子達の中にも、ゴッドマスターがいたそうだ。

 それに、僕の知り合いにもいたりするしね、ゴッドマスター。



 とにかく僕は、リインからのメールでだいたいの話は知っていた。

 だけど実際に会ってみて、またビックリしてる。

 みんな成長期まだ終わってないよね? 今からそれで、この先どこまで伸びるのやら……



「いえ、そんな」

「わたし達なんてまだまだで」



 そう口にするのは、一組の男の子と女の子。

 桃色のセミロングになりかけな髪の女の子は、さっきのキャロ・ル・ルシエ。

 で、赤髪で堅苦しい印象の男の子の方は、エリオ・モンディアル。

 年の頃は10歳前後か。確か、フェイトが保護責任者を務める子達。



 ……しかし、こんなチビっ子まで戦ってたとは。知ってはいたけどお兄さんは驚きだ。



 それもガジェットやら戦闘機人やらディセプティコンやら瘴魔やら、果てはユニクロンを相手に一歩も退かない戦いを見せたって話だし。

 なのはと師匠、どんだけシゴいてるんだ?



「何言ってるですか。恭文さんだって同じくらいの時には魔導師やってたですよ?」



 あー、そうだね。人の事は言えないや。



「なかなかに面白い子が入ってきたって、当時のリンディ提督やレティ提督は喜んでたって、フェイトさんから聞いたけど?」

『そうなんですかっ!?』



 食いついてきたなチビッ子コンビ……というか、あなたがたは兄妹とか双子とかですか?

 すっごいハモリ方しますね。あいさつもアレでしたけど。



「えっと、年は18って言ってたわよね。そうすると、魔導師歴7、8年……あたし達よりずっと先輩じゃない」

「あー、でも、経験だけあるってだけの話で、なのは達やジュンイチさんみたいにすごいワケでもなんでもないから」



 つぶやくティアナに手を振りながら、そう言ってみる。

 謙遜とかじゃなくて心からそう思うし。あやつらは色んな意味で別格ですよ。

 ……ただ、その別格は実力だけにして欲しいと思う。ムチャまで別格じゃあフォローのしようがないって。



「そんなことないと思うけどね〜。
 だって、色々ウワサ立ってるじゃない」

「ウワサ……?」



 ……あるの? いや、覚えはあるんだけど。



「そう、あるのっ!
 ある人曰く……“なのマ○”っ! あ、なのはさんも寝ているなぎくんは起こさないようにまたいで通るくらいに強いって意味ね」

『えぇぇぇぇっ!?』

「……シャーリー」

「何?」



 振り向いたシャーリーの眼前に、にゅっ、っていう感じで手を突き出す。

 伸びようとする中指の先端を親指が押さえつける形で固定する、俗に言うデコピンの形だ。

 そして――気づいたシャーリーが逃げるよりも速く中指を解放。跳ね上がった中指が、シャーリーのおでこを勢いよく弾く。



「うん、フカシこくのやめようか。あんまり過ぎるとデコピンするよ?」

「い、今したよね? 相変わらず容赦ないなぁ……」

「当たり前じゃぼけっ!
 アレが僕をまたいで通るって、どれだけ僕をバケモノにしたいのさっ!?」



 なんですか“なの○タ”ってっ!? そこまでなんかやらかした覚えがないよっ!



「そりゃ、なぎくんは寝てたもん。気づいてなくても当然だよ。
 本当に見たんだよ? なのはさんがアースラのレクルームで寝ているなぎくんを見つけて、起こさないように忍び足で通り過ぎていくのを」

「それ、普通に寝てる僕に気を遣っただけだよね? ひょっとしなくてもそうだよねっ!?」



 心から思う。この眼鏡マイスターはぶっ飛び過ぎだと。



「まぁでも、優秀なのは間違いないから。私も色々見てたし。
 ……ちょっと変わり者だけどね」



 シャーリー、失礼な事を言うな。僕は世界のスタンダードだよ。というか僕が変わり者ならジュンイチさんはどうなる。

 一方、あずささん以外のフォワード組は……呆気に取られてる。まぁ、初対面だしね。

 うん、これから慣れていこうか。僕とシャーリーとかはいつもこんな感じよ?



「……あの、蒼凪さん」



 そんな僕の心境などどこ吹く風。いきなりナカジマさんが何やら神妙な顔で話しかけてきた。



「はい、何ですか? ナカジマさん」

「あ、あたしの事はスバルでいいです。敬語じゃなくても大丈夫ですから」

「そうなの?
 なら、僕のことも恭文って呼び捨てでいいよ。敬語もなし」

「いいんですか?」

「いいよいいよ。というか、そうしなかったら返事しないよ♪」



 僕は別に、人から敬語使われたり「さん」付けで呼ばれるほど立派な人間じゃないし。



「で、話は何?」

「うんと……恭文って、あたしのこと知らない?」

「……はい?」



 スバルの言葉に、僕は顔を上げた。

 となりに座るリインと顔を見合わせ、スバルへと視線を戻す。

 あー、ひょっとしてアレかな? 『前世で恋人同士だった』とかいう電波的な話になるのだろうか。

 ……いや、一概に電波とも言えないか。僕らの身近にその“実例”な人達、いたりするし。



「ほらリイン、だから僕の言った通りでしょ? 自宅警備員の方がいいかもしれないと思うことになるって……」

「スバル……一目ぼれってヤツですか?」

「違いますからっ!
 いや、だから、あたしのこと……お兄ちゃんから聞いてない? もしくはあずささんからとか」

「聞いてるよ」



 自分の分のスパゲッティを口に運びながらそう言うと、スバルは目を丸くした。

 うん。驚いてる驚いてる。



「えぇっ!?
 だ、だって、さっきまで普通だったしっ!」

「当然だよ。
 スバルと会うのは初めてなんだから、距離感測ってたの。
 みんながみんな、ジュンイチさんみたいにオールタイム距離感ゼロな付き合い方するワケじゃないんだから」



 そう簡単に相手を信用しないクセに、その反動なのか一度“身内”のカテゴリに含んだ相手には無条件で踏み込んでいくからなぁ、あの人は。



「それに、ギンガさんからも聞いてるし」



 ギンガさんというのは、ギンガ・ナカジマ。僕と同じ魔導師で、3年来の大事な友達である。

 そして、スバルと同じジュンイチさんの妹分……本人的にはもっと進んだ関係になりたいらしいけど。

 ともかく、その人からもスバルのことは頼まれていたのだ。妹がいるから、出向したら仲良くしてあげてね的な感じで。



「でも、ジュンイチさんやギンガさんの妹か……色々と納得した」

「大食いなとことか?」

「あと、妙に距離感が近いというか、強引というか、独自路線というか……そんな感じがひしひしと」



 ティアナ・ランスターさんの言葉に同意する僕……そしてもうひとつ納得した。

 あなたもそれに振り回される人なのね? 仲良くできそうだよ。



 ……なお、『振り回しているのはなぎくんだよねっ!?』なんて電波を拾ったけど、気にしないことにする。



「それでね、ひとつ質問があるんだけど……」

「何?」



 あー、そんなに目をキラキラさせて何が聞きたいんですかアナタは?

 とりあえず、身を乗り出さないでほしい。行儀悪いし。



「うんとね、恭文は魔法はどんなの使ってるの? 具体的な戦闘スタイルは? デバイスは?」



 そう身を乗り出して聞くスバル。だから、顔近いからっ! 離して離してっ! あと、ぜんぜんひとつじゃないよね、聞きたいことっ!



「あ、ボクもソレ聞きたい!」



 そしてロードナックルの……えっと、シロくんの方っ! 人格交代してまで便乗してくるなっ!



 というか……ジュンイチさんから聞いてないの?



「お兄ちゃん、細かいことは教えてくれなかったの。フロントアタッカーってことだけしか……
 ギン姉は、恭文と知り合いって知らなかったから聞いてない」

「なるほど」



 ならよかった。初対面で手札知られたくないし。

 ……とはいえ、そこまで期待されたら答えはひとつしかない。



 そう――あれだっ!





「秘密」



 左手の人差し指を唇に縦に当て、そう言い切って――あれ、全員がズッコケた。何で?



「えー、なんで?
 いいじゃん教えてよ〜」

「と言われましても、そんなに一度に聞かれても答えられません」

「じゃあじゃあ、ひとつずつでいいからさ。ね?」



 むむ、なら仕方ないなぁ。



「……上から75」

「へ?」

「55」

「え?」

「76だよ」



 あ、なんか表情面白い。コロコロ変わって、退屈しないね。



「それスリーサイズだよね!? 誰もそんなこと聞いてないしっ! というか、私より細っ!」

「そなの? ちなみにスバルはいくつかな」

「えっと、上からはちじゅ……って、何言わせるのっ!」

「だって、僕が答えたんだからスバルだって答えなくちゃ不公平でしょ?」



 ハガレン読みなさい? 等価交換って大事だから。

 ……まぁ、あの名作を挙げるまでもなく、求めることに対する対価を用意するのは交渉における基本だよ。



「あ、なるほど……って、なんでそうなるのー! てか、なんでそんなに細いのっ!?」

「知りたい?」

「うんっ!」



 頭をブンブン振り、うなずくスバル。

 大食いだったり男に対しても距離感近かったりしても、細さに食いつく辺りはそこはやっぱり女の子だね。むしろその食べっぷりと強引さに男らしさすら感じていたから、ちょっと安心した。

 なので……





「ヒミツ」

「どうしてっ!?」

「男は秘密というヴェールをまとうことで素敵になるのですよスバルさん。
 ……というか、そこは察して。いや、本当にお願いしますから」

「……あ……うん、その……ごめん」



 よかった。察してくれたらしい。

 うん。気にしてるのよ、すっごく。自ら言葉にするのもはばかられるくらいに。

 まぁ、からかうのはこれくらいにしといて、こっからは真面目に答えていきましょ。

 ……あー、けど、その前に、僕もひとつ疑問が出来た。



「スバル、なんでそこまで僕の戦い方に興味があるのよ?」

「だって……お兄ちゃんがもったいつけるから、気になっちゃって。
 それに、恭文フロントアタッカーなんだよね? 私もそうだし」

「……スバル、フロントアタッカーなの?」



 僕がそう言うとうなずくスバル。

 あぁ、それで納得したわ。同じポジションの人の戦い方を見るのは勉強にもなるし、なにより楽しいんだよね。



「でしょ? だから、どんな風なのかなって思ってたんだけど……」



「うん、それなら納得だわ。
 とは言っても……実際のところ、そんな面白いとこはないよ?
 使ってる魔法も近代ベルカ式の比較的単純な物だし……そういや、スバルも近代ベルカだよね」

「そうだよ、シューティングアーツ」

「ギンガさんとジュンイチさんから教わってたんだよね」

「うんっ!」

 僕の問いに、元気にうなずくスバル――よほど二人の教えを誇りに思っているんだろう。その笑顔はとても輝いて見える。

「……で、戦闘スタイルも剣術ベースの近接戦だけど、シグナムさんみたいに使えるワケじゃないし。
 あ、そういうワケだからパートナーデバイスも剣だね」

「でも、さっきのシャーリーさんの話だと……」

「そんなの大半はホラだから。つか、みんなの方が凄いでしょ。
 だって、ナンバーズやらガジェットやらディセプティコンやらとやりあって、なんだかんだで勝ってるんだし。“なの○タ”なんて比喩とは違うでしょ」



 とか話しながらパスタを一口パクリ。……うん、おいひい〜♪



「あの、剣術ということは、蒼凪さんは騎士なんですか?」



 スバルの次に食いついてきたのはモンディアルくん。



「エリオで大丈夫ですよ?」



 もとい、エリオくん。にこやかな笑みなど浮かべておられますが、目が笑っていません。

 というかなんか燃えております。一体何が彼をそうさせているのよ……?



「いや、僕はベルカ式使うけど、師匠達と違って騎士の称号は取ってないのよ」



 ベルカ式を使っている人間は、一般的に“騎士”と呼ばれているのだ。ま、個人の自由だけどね。



「騎士ではない……となると、侍でござるか?」

「こらそこ、刀持ってるからって自分の同類にカテゴライズしない」



 さらに乱入してきたのは侍キャラのシャープエッジ。すかさず釘を刺し、ウィンナーを口に運ぶ。



「なんというか……騎士とか侍とか、ガラじゃないしね。
 どっちの考え方も、まぁわからないでもないんだけど、それよりもどっちかっていうと魔法使い――魔導師の方が僕の好みだから。
 何より、騎士なら師匠達がいるからね。ぶっちゃけ間に合ってるかな、と」

「はぁ……」



 僕の言葉にエリオくんがとまどいがちにうなずいていると、



「あのさ……恭文」



 そんな僕に向け、不意に口をはさんできたのはスバル。

 だけど、その声色はなんていうか……さっきまでの力がない。

 まるで、親に言い出しにくいお願いをする時の子どものような……



「ひとつ、お願いなんだけど……
 私、恭文と模擬戦やりたいんだけど……いいかな?」

「スバルと? いいよ〜」



 サラダをパクリと食べながらそう答える。

 お、サラダも美味しい。野菜はシャキシャキで新鮮。いい食材を使ってるよ。

 それにかかっているドレッシングも実に野菜の味を上手く引き立てている。六課のご飯はレベルが高いな。



「……って、いいの?」

「待って、なぜ確認するの?」

「だって、なんか急に素直に答えたし。さっきは『秘密』ってはぐらかしたのに」

「……あぁ、そっか。いやだなぁスバル。いじめてほしかったならそうだって言ってくれないt」

「怒るよ?」



 ……ごめんなさい。ちょっと調子乗りすぎました。

 なのでその拳と単色の目は引っ込めてもらえるとありがたいです、はい。

 特に拳が痛そうだし。シューティングアーツの使い手ってことは一撃必殺屋さんなんだよね?



「恭文くんが普通に相手すれば、スバルだってそんな事しないよ?」

「あず姉の言うとおりだよ〜。
 ……で、なんで急に素直になったの?」

「別に〜。僕も腕がなまるのはイヤだから、定期的な模擬戦はむしろ歓迎、ってだけ」



 退屈なのはイヤなのだ。どーせなら、楽しくいきたいのよ。



「ホントに?」

「ホントだよ」

「…………ホントに?」

「やめてもいいけど?」



 ものすごい勢いで首を左右に振ってくれました。



「まぁ……そんなワケで、僕としては模擬戦は望むところだよ?」

「そっか。恭文、ありがとっ!」



 ……なんかスバルがすっごく嬉しそうだな。尻尾があったらブンブン振ってそうな勢いだ。

 というか、さっきからやたらと僕の魔導師としてのスキルに興味を持ってくるなぁ。いや、エリオもだけど。



「まぁ……あれよ。あきらめなさい。
 スバルに興味持たれた時点でこうなるのは決定事項だから」



 あきらめろと言わんばかりの表情を浮かべているのは、ティアナ・ランスターさん……リゲイン飲む?



「飲まないわよ。
 ……あと、私もティアナでいいわよ」

「思考を読むのはやめない?」

「あ、私もキャロで大丈夫ですから」

「うん、そんなに僕の考えてることはわかりやすいのかな?
 ……いや、答えなくていい。もうわかったから」



 とにかく、模擬戦の話ですよ。……さっきも言ったけど、同じポジションの人間の戦い方を見るのは楽しい。実際にやってみるのもこれまた面白い。

 しかし……スバルもジュンイチさんやシグナムさんと同じ人種だったのか。うん、仲良く出来そう。



「どういうこと?」

「だから、戦うのが大好きなバトルマニア」

「ち、違うよ! あたしは、戦うこと自体は好きでもなんでもないよっ?!」

「嘘だッ!
 そういうことを本気で思ってる人間はね、初対面の人間と模擬戦やることになったってそこまで嬉しそうな顔はしないんだよっ!」



 だって、明らかに違うテンションだったよ? 遠足前日の子どもみたいなウキウキ具合だったよ?

 そのまま知恵熱出すんじゃないかって心配になるくらいに。



「別に……そういうワケじゃないんだけどなぁ」

「じゃあ、どういうワケなの?」

「うんとね、さっきも言ったけど、お兄ちゃん、ちっとも恭文に関して教えてくれなかったから、どんな感じがすっごく気になって、それで……」



 あぁ、それで納得できた。

 つまり、ジュンイチさんがわざと焦らすような物言いで、さんざんっぱらスバルをあおってくれたワケだ。

 それも、自称notバトルマニアなスバルのエンジンがかかるくらいに。



 よし。あの人が六課に来たらオシオキしてやる……平気で応戦してくる人だけど。



「ね、それでいつする? あたしは今日この後すぐでも大丈夫っ!」

「待てまて、身を乗り出すなっ!
 ……いくらなんでも教導官の許可無しでいきなりやるワケにはいかないでしょ」



 お兄さんは来て早々、問題を起こしたくないのよ……いや、ある意味もう遅いけど。



「まずは教導担当のなのはなり、ヴィータ師匠なりの許可をちゃんと取ってくる事。
 許可さえあれば、教導官権限で仕事の方は何とかなると思うし、僕は身体さえ温めれば今日でも動けるから」

「うん、わかった。
 じゃあ、絶対に許可取ってくるから、そうしたら必ず相手してね」

「いいよ〜。
 約束するからいつでも来なさい。むしろ待ってるから。
 あと、許可をくれないような雰囲気だったら、僕に話してくれるかな?
 僕からもスバルと模擬戦やってみたいって言えば、多少は何か変わるかもしれないから」

「……いいの?」

「……まぁ、やると言った以上は少しは協力しないとね」



 コホンと咳払いしつつ、スバルにそう言った。



 それを聞いたスバルは、一瞬キョトンとした表情を浮かべるが、意味がわかるとすぐに笑顔になった。

 それはもう、まぶしくて……僕がフェイト一筋じゃなかったら恋に落ちてたんじゃないかというくらいの、素晴らしい笑顔に。



「うん、ありがと恭文っ!
 ……秘密とか言わずに、いつもそういう風に優しくしてればいいと思うよ」

「気にしないで」



 そうして、僕とスバルはお互いに笑顔で模擬戦の約束をしっかりと交わしたのだった。

 ……うーん、こうして話してると、やっぱりスバルってやっぱり犬っぽいんだよなぁ。笑ってるとことか見ると、尻尾や犬耳が連想出来るのよ。



「あたしは犬じゃないよっ!」





 ……まぁ、そんなすぐに許可が出るとは思えないけど。

 向こうの育成メニューや僕が仕事を手伝うロングアーチの都合だってあるワケだしさ。

 僕は、嬉しそうな女の子を見つつ、のんきにパスタを食べながらそんな風に考えていた。





 その後は、みんなでワイワイ言いながら食事を終了。

 後片づけをしてから、オフィスでデスクワークに入るという4人とシャーリーを見送り、再び隊舎見学+あいさつ回りツアーを再開した。

 けど――



 僕はここでもっと深く考えておくべきだったんだ。





 彼女が……スバルが、誰と誰の妹なのかという事を……



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 時刻はすでに夕方。

 ミッドの湾岸部に設営されている六課隊舎は、当然海に近い。ここ、六課所有の陸戦演習スペースに関して言えば、海上に設置されているくらい。



 海沿いから見る夕焼けは実に官能的で、見ているだけで胸が切なくなるような美しさを放ちながら、ゆっくりと地平線へと沈んでいこうとしている。

 もうあと十数分もしないうちに、空は漆黒の闇へと色を変えて、人々を眠りに誘うことだろう。





 ………………で。

 なぜ僕がそんな詩人っぽいことを考えながら、そんな時間にここにいるかというと、別に夕日を見るためでもない。そして、見学ツアーのコースというワケでもない。







 ……原因は目の前の少女だ。





「恭文、約束通り許可を取り付けたよっ!
 あたしは全力で行くから、恭文も全力で来てっ!」



 白のシャツに厚手のズボン。訓練用の服装だ。そんな格好をして気合充分なスバルを見て、僕は頭を抱えていた。

 まぁ、僕も同じ格好なんだけど。



 あの後、リインに六課の駐機場に案内された。

 ちょうどそこに居たシグナムさんとヘリパイロットのヴァイスさん、それにロングアーチスタッフのアルトさんや整備員の方達にあいさつ。



 ……と、ここまでは平和だった。

 だけど、突然ヴィータ師匠からのここへの呼び出しがかかった。これが悪夢の始まりだった。

 なお、師匠は、病院の定期検診に行っていたそうだ……どうりで姿を見かけないと思ったよ。



 で、行ってみるとすでに着替えてそこに居たスバルから自分の予備のトレーニング服を渡された。

 サイズは同じだったけど、胸がブカブカだった点は追求しないことにする……うん。いろいろわかってしまうから。

 その場で着替えて(むしろ着替えさせられました)スバルに促されて、一緒に軽くウォーミングアップ。



 で、それが完了すると、海上の無機質な六角形のパネルが敷き詰められた平面状のスペースが、一瞬で廃墟の市街地へと姿を変えた。

 そして、ここで模擬戦を始めると言われたのだ。

 そう……模擬戦を、今、これから。



 ……何だよこれっ!? 改めて考えるとワケわかんないしっ!

 てーか状況に流されまくってるよ僕っ!





「……悪いスバル。ちょぉぉぉぉっと待ってもらえるかな?」

「なんで?」 

「いや、これナニ?」

「え? 模擬戦」


 うわ、さも当然って言わんばかりの顔で言ってきたよ、この豆柴。

 っていうか、これは、肝心な所が伝わってないなぁ……



「……なんでいきなり模擬戦?」

「だって、恭文は『教導官の許可さえ得られればいつでも相手になる』って約束したよね。
 ……ウソだったの?」



 あぁ、もう。頼むからそんな泣きそうな顔はやめてー。罪悪感がわいてくるからっ!

 そして、そんな顔をジュンイチさんが見たら僕が泣かせたと思うだろうから。人間関係ややこしくなるのはごめんなのよ、こっちはっ!



「違う違うそうじゃないよっ!
 ……そうだね、約束したよね。
 ただ……こんなにすぐにやることになるとは思わなかったけどね」

「でしょ? だから、やろうよ模擬戦っ!」



 ……機嫌は直ったけど、ますます後に引けなくなった。



「うん……もうこうなったら、やること自体はかまわないんだけどさ」



 何かが色々と間違っているような気がしないでもないけど……よし、スバルの発言に関しては気にしない方向で行こう。気にしたらきっと負けだ。



「さっきから気になってたんだけど……アレはなに?」



 そう言って、僕は指を指す。方角は隊舎の方。

 そこには、人数にすると数十人というギャラリーがひしめいている。

 フォワードの残りに、はやてにリイン、グリフィスさんにルキノさん、ついでにシャーリー。

 さっきまで一緒にいたアルトさんとヴァイスさん、ライトニング分隊副隊長のシグナムさんにシャマルさんとザフィーラさん。

 トランスフォーマー組もビッグコンボイはもちろん、シグナムさん達のパートナーであるスターセイバー、フォートレス、アトラス……ヴァイスさんのパートナーのスプラングに、ガスケット達のチームメイトのシグナルランサーと勢ぞろい。

 あとは……バックヤードスタッフの人達に、駐機場に居た整備員の人達かあれは? 仕事はどーしたアンタらっ!?



 とにかく、結構な人数がこの演習スペースに視線を集めている。というか、ここからでも楽々視認出来るくらいの大型モニター立ち上げてるし。



「みんな、恭文と戦うって言ったら、応援してくれるってっ!」

「あぁ、“応援”……ですか」



 どことなく、宴会というかお祭り騒ぎなノリが感じられるのは気のせいではないと思う。

 ガスケットやその相方のアームバレットなんか、日の丸ハチマキと日の丸センスで盛り上げモード全開だし。



 ……もしかしなくても、あいつら……楽しんでやがるっ!?

 頼むから仕事してよエリート部隊っ! なんで復活初日にこんなお祭り騒ぎを傍観してるんだよっ!?



 つーか止めてよっ! 具体的に言うとシグナム副隊長にグリフィス部隊長補佐っ! そうだよあなた方だよっ!

 部隊長がアテにならないのはわかってるから、あなた方しかいないのよっ!












 ……視線そらされたぁぁぁぁぁっ!?





『うし、それじゃあそろそろ始めるぞ。二人とも準備しろ』

「はいっ!」

「師匠……」



 いきなり発動した空間モニターに映る顔は、僕の魔法戦闘の先生であり、機動六課スターズ分隊の副隊長。ヴィータ師匠だ。

 そして――この模擬戦の許可を出した人物でもある。



 お願い師匠。もう師匠しか居ないんです。

 色々と手遅れな気がするんだけど、なんでもいいから助けて。怪我のこと黙ってたのはもう何も言わないからー!



『バカ弟子、いきなりで悪いがあきらめろ。つーかお前が悪い』



 師匠まで毒されてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!



「つか、なんで僕が悪いってことにっ!?
 か弱い子羊いじめて、なにが楽しいんですかっ!」

『うっせぇバカタレっ! つか、お前らはか弱くもなければ子羊でもねーだろっ!』

「ジュンイチさんより弱いです」

『アイツを比較基準に持ってくんなっ! 規格外もいいトコなんだからっ!』

 まぁ、それはそうなんですけど。

『ってか、どーしてもこうなる理由が分からないなら、教えてやるよ。
 ……スバルに、アタシやなのはの許可さえあれば、別に今日でもかまわないって言ったそうだな?』



 えぇ、言いましたがそれが何か?



『アイツ、普段はちっとばかし気が弱いクセして、こうと決めたら異常に押しが強いんだよ。
 アタシが何言っても今すぐやりたいって聞きやしなかったぞ?』

「……本当ですか?」



 副隊長……というか、直属の上司である師匠の話を一切合財押し切って、ここにまで持ち込んだっていうの?

 待って待ってっ! どんだけ押しが強いんだよスバルっ!?

 いや、あのジュンイチさんやギンガさんの妹なんだから、ひょっとして当然だったりする?



『しかも、厄介な味方まで引き入れやがって……』



 は? 味方?



「オレだ」



 僕の疑問に答え、すぐ目の前、スバルのとなりに進み出てきたのは、僕よりも背が低くて、どこか偉そうな男の子――



「マスターコンボイ……?」

『そういうこった。
 ソイツも、あたしらの入院中は教官代行しててな。六課内限定ではやてから教導官権限を認められてんだよ。
 その権限フル活用して、こっちを押し切りやがった』



 マジですか。



『おぅ、マジだ。
 ……ったく、こっちは検査帰りだってのに、ソイツらの相手に模擬戦の準備でメチャクチャ疲れたぞ』



 すみません。知らなかったとはいえ苦労かけしました。

 で、スバルの方を見ると、笑顔でマスターコンボイとハイタッチなどかましてるし。

 だぁぁぁぁっ! くそっ、余計なこと言わなきゃよかったぁぁぁぁっ!

 てか、シャーリーもリインも、知ってたはずなんだからそういうことは早く言ってよっ!



 ……と言いますか。



「師匠。この話聞かされた時から気になってたんですけど」

『なんだ?』

「……どうしてそんな『してやったり』って言わんばかりの悪い顔してるんですか」

『気のせいだ』

「いや、気のせいじゃないでしょっ!? 今、頬が明らかに緩んだしっ!」

『……ま、正直に言うとだ。アタシとしてもお前とスバル達をやらせたかったからな』



 あぁ、そういうことですか。

 で、スバル達からいい感じで話が来たからここでやっちゃおうと。

 うん、僕の都合とか完全無視なのがアレだけどもう慣れた。本当に慣れたから。



 とにかく、こうなったらやるしかないか。約束はしてるワケだし、それはちゃんと守らないと。





『そういうこった。
 それに、お前だってこないだまでガシガシやってたろ。ヴェートルじゃジュンイチともつるんでたって話じゃねぇか。
 師匠としてはそういうの抜きにしても、その中でどれだけ腕上げたか気になるんだよ。
 つーワケだから見せてくれよ。期待してるからな?』

「……まぁ、師匠の期待に応えられるかどうかは分かりませんけど、スバルとは約束しましたから。それはきっちりとやらせてもらいます。
 あ、それとひとつ確認です」

『なんだ?』



 ……一応ね。敵ってワケじゃないから確認。



「いつものノリでいいんですよね?」

『かまわねーぞ。ま、簡単にはいかねーとは思うがな』



 また楽しそうに笑う師匠を見て、僕は気を引き締めることにした。

 ……相当自信ありげってどういうことだろ。何にしても、油断は禁物かな。



「それだけ聞ければ充分です。
 んじゃま……行って来ます師匠」

『おう、キバっていけよ』





 そして、空間モニターが消える。

 残るのは、夕暮れ時の独特な空気……あんま待たせてもアレだよな。うん。



 そして、僕はスバルの方に向きながら気持ちを切り替える。



 そう、戦うための気持ちに。今日出会ったばかりだけど、なかなかに面白い友達候補との約束を守るために。

 全く……こっちは休みなしだというのに。まぁ仕方ないか。





「もう、大丈夫かな?」



 自分の方に向き直った僕を見ながら、彼女は笑顔でそう言葉をかける。



「いや、ごめんね待たせちゃって。昔っからエンジンかかるの遅いのよ」



 僕もそれに笑顔で応える。というか、苦笑い?



「だめだよ、こんな可愛い女の子を待たせるなんて」

「自分で自分のことを『可愛い女の子』なんて言うな」



 それより……



「なんでマスターコンボイもそこにいるワケ?」



 そう。先ほど会話に乱入しながら現れて、マスターコンボイはスバルのとなりに並び立ったままだ。

 これからするのは僕とスバルの模擬戦なんだけど……



「わかっている。
 だからオレもここにいる」



 いやいやいやいや。話がつながってないんだけど!?

 なんでスバルと僕の模擬戦にマスターコンボイがからんでくるのさっ!?



「察しが悪いな。
 昼間、ゴッドマスターについて話を振ってきたのは貴様だろうに」



 ………………あ。



 理解……できてしまった。

 どうして……というか、何のためにマスターコンボイがここにいるのか。



「そういうことだ」

《Human Form,Mode release》



 そして、そんな僕の目の前で、マスターコンボイが姿を変える――ヒューマンフォームの彼の身体が光に包まれると、その光がみるみるうちに大きくなっていく。

 やがて光が消え――そこに立っていたのは僕よりも小さな男の子ではない。身長6mは超えていそうな、グレーの装甲を身にまとった重量級トランスフォーマーだ。

 あれがマスターコンボイの本当の姿。トランスフォーマーとしてのロボットモードってワケだ。

 と、さらにマスターコンボイが動く――腰のツールボックスから取り出したのは一枚の金属製のカード。

 そしてスバルも懐から、青空を思わせるような色合いの六角形のクリスタルを取り出した。

 なるほど。あれがスバルとマスターコンボイの相棒ってワケか。



「そうだよ。あたしの大事な相棒。……でもそれは、恭文だって同じでしょ?」

「まぁね」



 大事な相棒っていうか……なんていうか……ねぇ?



 僕もそれに釣られるように、首からかけていた相棒を取り出す。

 丸い、球体状の宝石。形状はなのはのレイジングハートとほぼ同じ。色はスバルのパートナーと同じ青色。



 でも、この子の色はスバルのパートナーよりも深い青色になっている。青空というよりも、深い海の色を思わせる青さだ。



「お先にどうぞ」

「いいの?」

「ウワサのゴッドマスター、じっくり見せてもらおうかな、って」

「ありがと」



 僕の答えにクスリと笑うと、スバルはマスターコンボイと視線を交わす。

 そして二人が叫び、二人の相棒を解き放つ。



「マッハキャリバー!」

「オメガ!」

『Set up!』



 その叫びと同時、スバルの身体にバリアジャケットが装着されていく。


 首から胸元を包み込む紺のインナーの上には、どこかで見たようなデザインの白い長袖のジャケット。

 下は短パン。腰元に白いフード……でいいのかな? 根元に白い装甲をかぶせたそれを装着する。



 というか……ヘソ出し。誰の趣味ですか、アレ。

 そして武装は、ローラーブーツに……右のリボルバーナックル。そういえば右手用はスバルが使ってるってジュンイチさんやギンガさんが言ってたっけ。



 一方、マスターコンボイはすでにロボットモードに変身していた分だけシンプルだ。

 行なわれるのは武装としてのデバイスの顕現、ただそれだけ――頭上に集まった光が両刃の大剣に姿を変え、落下してきたそれをマスターコンボイがキャッチする。



 一見するとこれで二人の戦闘準備は完了――けど、僕は知識だけとはいえ知っている。

 これがまだ、彼らにとっては戦闘準備の途中でしかないことを。



「やるぞ、スバル」

「うん!」



 そう。本番はここから――マスターコンボイの言葉にスバルがうなずき、二人は同時に叫ぶ。





『ゴッド、オン!』





 その叫びと同時、スバルの身体全体が光に包まれた。

 それはさっきのマスターコンボイの変身みたいに大きく広がって、そのままマスターコンボイを包み込むと、まるで染み込んでいくかのようにマスターコンボイの中に消えていく。



《Wind form》



 電子的なナビゲート音声、それに伴い、マスターコンボイの装甲がその色を変えた。グレーだった部分が、まるで内側から塗料を流し込んでいくみたいに空色へと変化していく。どこのPS装甲ですかソレは。

 と、マスターコンボイの右手の大剣が彼の手を離れ、変形――真ん中の峰を境に二振りの片刃剣に分離すると、それぞれがマスターコンボイの両腕に峰を添わせるように合体する。

 変身に伴って一時輝きを失っていたカメラアイに光がよみがえる――意識を取り戻し、スバルと一体化したマスターコンボイは改めて僕と対峙する。



 そう。これがゴッドオン。

 ゴッドマスターが、トランステクターと一体化すること――今、スバルはマスターコンボイのボディとして使われているトランステクターに一体化しているのだ。

 つまり、今の二人はスバルでありマスターコンボイ。二人でひとりのコンボイってワケだ。



「待たせたね、恭文」

《これで一応は一対一だ。
 本当はさらに上位の形態があるんだが……その制御に必要なサポートビークルがオーバーホール中でな。
 つまり、これが今のオレ達がなれる、最高位の戦闘形態――先のスバルの宣言どおり、全力でいかせてもらうぞ》



 そう告げるスバルとマスターコンボイ――マスターコンボイの声がどこか電子的な感じ。今はスバルが主導権を握ってる感じかな?



《それとも、まさか相手がトランスフォーマーじゃ勝ち目はない……とかほざくつもりではあるまいな?》

「まさか。
 そんなぜいたく言ってたら生き残れないのよ、こちとら」

《うむ。上等》



 さて、スバル達の準備もすんだし、今度は僕の番だね。

 気を取り直して、僕の“相棒”を目の前にかざす。


 そして叫ぶ。この戦いの始まりを。







「アルトアイゼンッ!」











「セットアップッ!」





 ……こうして、僕とスバル、そしてマスターコンボイの戦いは始まった。





 結果がどうなるかなんてわかんない。



 ただ、どっちが勝ったとしても、この戦いが楽しくなりそうな予感はしていた。





 …………いや、“楽しくなりそう”じゃない。







 せっかくなんだし、思い切り楽しむよっ!







(第3話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!



恭文「マスターコンボイって、スバルとゴッドオンするとボディの色が変わるんだね」

Mコンボイ「その通りだ。
 スバル以外のヤツとのゴッドオンでも、基本的に相手の魔力光の色に変化する」

恭文「魔力光の色に……
 じゃあ、もし仮に、なのはとゴッドオンできていたら、マスターコンボイのボディの色って……ピンク色?」

Mコンボイ「………………キャロ・ル・ルシエが同色だ……!」

恭文「………………ご愁傷様」

キャロ「どういう意味ですかっ!?」

なのは「二人がひどいよーっ!」





第3話「本気と全力は似ているようで違う……あなたのご注文は、どっち!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《さて、第2話です。
 セリフはないけど登場できました。ミスO改めオメガです》

Mコンボイ「基本無口設定だからな、貴様は……っと、マスターコンボイだ。
 今回も楽しんでくれただろうか……とりあえずうちの作者にはウソでもいいから『楽しかった』と言ってやってほしいところだが」

オメガ《今回は大きく盛り上がる展開を前にした嵐の前の静けさ……といったところでしょうか。
 何しろ次回はいよいよミスタ・恭文と我々の模擬戦ですし》

Mコンボイ「前回、そして今回とどうにも本家『とまと』の流れから抜け出せずにいたが、次回はさすがにその心配もないだろう。
 何しろ、蒼凪恭文の相手となるスバルはこのオレとゴッドオンしているのだからな」

オメガ《条件がガラリと変わりますからね。大筋は変わらずとも、攻防の流れなどは確実に変わるでしょうね。
 ミスタ・恭文VSボスにゴッドオンしたミス・スバル。ただでさえ否定しようのなかった体格差がさらに絶望的になってますし……
 けど、手を抜くつもりなんかないですよね、ボス?》

Mコンボイ「当然だ。
 やるからには勝つ――その方針は変わらん。
 もっとも、それは蒼凪恭文も同じはず……スバルではないが、確かに次回の対戦は楽しみだな」

オメガ《えぇ。全力を尽くさせていただきましょう。
 ……さて、それでは前回に引き続きボスのフォームのひとつを紹介して、今回の締めとさせていただきましょう。
 今回は、話の中でも登場したミス・スバルとのゴッドオン形態、ウィンドフォームです》





マスターコンボイ・ウィンドフォーム

基本カラー:空色(スバルの魔力光の色)

基本付与属性:風

オメガの形態:アームブレードモード

備考:マスターコンボイがスバルとのゴッドオンによってフォームチェンジした姿。
 スバルの戦闘スキルに合わせて地上走破能力と格闘能力が向上し、さらにスバルのウィングロードも使用可能。
 また、今回の話では使用していないが、両足にローラーユニット“レッグダッシャー”を展開可能。マッハキャリバーにそのコントロールを譲渡することで生身でのスバルの戦闘スタイルをほぼ完全に再現することが可能となっている。
 オメガは二つに分割され腕部装着型のブレード形態に。刃としての使用はもちろん、殴った衝撃で打ち出し、パイルバンカーのように相手に突き立てることもできる。





オメガ《ウィンドフォームの基本設定は以上ですね。
 どのような戦い方をするのかは、まぁ次回のお話を見ていただければ良いかと。
 ……おや? そういえば私の紹介はないのですか?》

Mコンボイ「あぁ……次回以降のあとがきのネタにとっておくそうだ」

オメガ《ぅわ、前回私を期待させておいてソレですか、あの作者。
 この、本作における真・ヒロインたるこの私をさしおいて》

Mコンボイ「いや、誰が真・ヒロインだっ!?
 そのあたりはフェイト・T・高町あたりに任せておけっ! 本家『とまと』のメインヒロインなんだからっ!」

オメガ《いえ、だからこその下克上を》

Mコンボイ「狙うなっ!
 ともかく次回はオレ達とスバル、そして蒼凪恭文の模擬戦だ。
 本気で勝ちに行かなくてはな……全開で飛ばしていくぞ」

オメガ《当然です。
 では、本日はこれにて。お付き合いいただきありがとうございました》

Mコンボイ「うむ。また会おう」





(おわり)




 

[*前へ][次へ#]

6/40ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!