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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory34 『逢(あい)戦士たち』

我がスポンサーは湖畔に浮かぶ別荘におられた。わざわざボートに乗っていかなければならないのは、まぁ面倒だろう。

しかし時期はそれなりによかった。夏間近という事もあり、水辺を切りながら進むのはそれなりに心地よかった。

これが商談の前でなければ、まだ楽しめたというのに。……別荘に常駐していた執事に挨拶し、しばし待つ。


そうして通された部屋はやはり立派なものだった。見るからに高価な調度品と酒。それに孫らしき子どもと写っている写真立て。

ソファーに座りながらこちらを見やる旦那様に、まずは礼儀としてお辞儀。……白髪オールバックの、険しい顔つきの老体。

これがメタンハイドレートの発掘王と称される、ネメシス会長だ。とてもガンプラバトルに興味があるタイプとは思えん。


「失礼します。旦那様にはご機嫌も麗しく」

「能書きはいい、早く会わせろ」

「承知しました。……入れ」


一声かけた上で脇に下がると、奴がすっと中に入って一礼。


「初めまして、フラナ機関からやって参りましたアイラ・ユルキアイネンです」

「どういうつもりだ!」


挨拶もちゃんとしているので安どしていると、旦那様がいきなり怒りだした。持っていたグラスをテーブルに叩きつけ、そのまま立ち上がる。


「どう、とは」

「我がネメシスが欲しているのは、最強のガンプラファイターだ!
そのためにお前らごときにばく大な投資もした! その成果がこれか!」


あ、マズい。アイラが不機嫌顔に……しかし旦那様は少々勘違いをなさっているので、堂々といこう。


「失礼ですが旦那様、ガンプラバトルに性別と年齢は関係ありません。
……アイラこそ我がフラナ機関の最高傑作、人類最強のファイターです」

「会長、私の能力をお疑いなら、実際見て判断していただくのがよろしいかと」

「……なるほど」


おいアイラ! なにを勝手な……旦那様も納得してしまったぞ! く、ここまで強気に出た以上、今更下がる事はできん。

どうなるかヒヤヒヤしていると、旦那様が右手で端末操作。


『はい』

「ガウェインを呼べ、バトルをする」

「しかし、今日は専用のガンプラを持ってきておりませんので」

「バトルルームにある物を使え、人類最強なら問題ないだろ?」


そうくるか。せめて日時をとも思ったが。


「問題ありません」


アイラの念押しで吹き飛んだ……まぁしょうがあるまい。能力証明としては十分な相手だ。

ただアイラにも釘を刺さなくてはいけないので、軽く耳打ち。


「相手はガウェインだぞ」

「存じ上げません」


だろうなぁ! お前はそういう奴だ! 全く、拾った甲斐などなかったと思わせるな!


「……チーム・ネメシスのメインファイターで、世界レベルの実力者だ」

「ではちょうどいいですね」

「まぁ、そうだな」


そう、ちょうどいい。さっきも言ったが、能力証明にはちょうどいいんだ……ガンプラがちゃんとしていればの話になるが。

冷や汗が止まらなくなっていると、金髪ソフトモヒカンでフォーマルスタイルな男が登場する。


「ガウェイン、バトルだ」


ガウェインは私を、そしてアイラを見くびるように笑う。さて、出資者は無茶を仰るもの。

それは想定していたが……いや、ここは賭けるしかあるまい。そうしなければ、私も道がない。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory34 『逢(あい)戦士たち』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


アメリカ・ロサンゼルス――アメリカ合衆国カリフォルニア州にあり、同州最大であり全米有数の世界都市。

ニューヨークに次いで人口の多いこの街へやってきました。なおよく分からない人は、ハリウッドやザ・バレーを思い出して。

……そこがある街なんだよ。その理由はリカルドのスケジュールにある。あれからリカルドと響のガンプラレッスンはスタート。


響もベアッガイIIを作り上げた……んだけど。


「――というわけで自分とリカルドはアメリカ地区予選決勝を観戦するため、ロサンゼルスにきたぞー! そしてここはハリウッドだー!」

「ちゅちゅー!」

「でもリカルド、どうして海外に?」

「ガンプラバトルはもはや世界の共通言語だ。特にアメリカ――欧州ではeスポーツの影響もあるからな。
日本の地区予選よりも派手な扱いとなっているんだ。そういうのを勉強するのも大事な事さ」


そんな会話をハリウッドサインの前でしつつ、赤羽根さんがハンディカメラで撮影。はい、僕達は二人の付き添いです。

英語に堪能で、現地の事も知っているから……と頼られました。赤羽根さんもハリウッドには一時期研修へ出ていたので詳しい。

そして生すかスタッフは現在、同時進行で進めている幾つかの企画があるので動かせない。なんという自転車操業だろう。


「いーすぽーつ……あ、コンピューターゲームのスポーツ・競技化だっけ。前にちょっと勉強したぞ」

「それだ。だから日本の地区予選と比べて見てほしい。国民性の違いが、イベントの規模や盛り上げ方にも関わってくるとよく分かるはずだ」

「分かったぞ! でもそれ、アイドル的にもすっごく気になるぞ! 楽しみさー!」

「ちゅちゅー!」

「……はい、カット! 二人ともお疲れ様でした!」


赤羽根さんがカットをかけると、二人はほっとした息を吐く。それからあおがとたとたと走り、リカルドへジャンプ。


「あおー♪」


あおはリカルドを受け止め、その頭を優しく撫でる。


「こんな感じでいいのかい、シロウ」

「もう上出来です。あとは軽く観光なども必要ですけど、まずは……えっと、グレコ・ローガンさんのところへ」

「すまないな、俺の都合に付き合わせちまって」

「いえ。フェリーニさんのおかげで本当に助かっていますので」

「それに生すか的にも嬉しい取材だしね。お互い様って感じだよ」

「はは、そうか。あとヤスフミ」


そこでリカルドは僕の両肩を叩き、なぜか至近距離で睨んでくる。逃げようとしても全然離れない。


「お前はやっぱり責任を取れ……!」

「おのれはちょっと落ち着け! それ出発前から何度目!?」

「やかましいわ! お前、世界大会では覚えていろよ! ボコボコにしてやるからな!」

「うわ、それフラグだわ。果たされないフラグだわ。リカルド、来年頑張ろうか」

「フラグなんざ知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


その念押しもフラグ――そう心に刻みつつ、僕達は町中へ移動。そんな中、とある高層マンションへやってきた。

チャイムを押すと、中から白髪ソフトモヒカンでシュワルツェネッガー張りのお兄さんが出てきた。

部屋へ入れてもらうと、お兄さんはリビングでリカルドとしっかり握手し、ハグ。


「おお、リカルド――リカルド・フェリーニ!」

「久しぶりだなグレコ、去年の世界大会以来か」

「ああ、そうなるな」

「あおー♪」

「あ、コイツはあおだ。最近一緒に旅をしているブラザーさ」

「……恭文」


実は日本語で会話中なリカルド達、それが気になったのか響が軽く聞いてきた。

この人がグレコ・ローガン――去年、アメリカ地区予選を制覇し、リカルドとは世界大会で死闘を繰り広げた人だよ。


「ガンダムのアニメとかで、日本語はペラペラらしいの」

「……アニメ、凄いな」

「本当に共通言語だよねー」


ガンプラはガンダムという作品があり、生まれたもの。だからね、アニメとかで日本語を覚えたファイターはかなりいる。

ガンダムに限らず、漫画やアニメは分かりやすい異国語の教科書なんだよ。好奇心から自然と覚えていけるってのは凄い。


「それで彼らは」

「メールしたと思うが、今日本でテレビ企画を手伝っていてな。まずこっちは」

「……ヤスフミ・アオナギだな! 噂通りの男だ!」


あははは、すっごく気になる事を言い出したぞー! リカルドには視線で『後で説明しやがれ』と念押し。


「お会いできて光栄です、ミスター・グレコ。去年の世界大会、とても感動しました」

「ありがとう。しかし君もリカルドとタメを張れる、希代のニュータイプと聞いているぞ。
決戦前でなければ、是非バトルしたかったんだが」

「それだったら問題ないぞ。ヤスフミも今回の世界大会に出場するからな。お前が勝ち上がれば自然と」

「対戦する機会もあるというわけか。それはなによりの朗報だ」


そう言ってもらえるとこう、照れくさいというかなんというか。

え、でも僕ってニュータイプなの? タケシさんにも言われた事があるんだけど。

自分ではあんまりそういう感覚がなくて……っと、ここはいいか。


グレコさん、僕の脇にいるシオン達を楽しげに見始めた。これってつまり。


「ところでそこにいるしゅごキャラ達は」

「恭文のしゅごキャラだ。私はヒカリ」

「シオン……世界を照らすしゅごキャラの太陽です。そしてこっちはショウタロス先輩」

「パンを買ってこさせる時に役立つ奴だ、世界中どこでも呼びつけるといい」

「お前らはオレをワールドワイドにする気かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あとショウタロウだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「はははは、愉快な奴らだな。よろしく頼む」


相変わらずブレない奴ら。でもグレコさん、普通にしゅごキャラ……見えてるよなー。凄いよ、世界ランカー。


「あ、彼女は日本のアイドルで我那覇響。この人はその所属事務所のチーフプロデューサーで、赤羽根志郎さんです」

「「初めまして!」」

「初めまして!」


その後しっかり拍手とハグを交わす。響と赤羽根さんもそれに続き……なお響はちょっと恥ずかしそうだった。


「しかし日本のアイドルというのはとてもチャーミングなんだな。不勉強だったよ」

「ちゃ、ちゃ……あ、ありがとうだぞ」

「ちゅちゅー」

「グレコ、そのあたりにしておけ。ヒビキは首ったけな男がいてな」

「ちょ、リカルドー! 自分アイドルだから! そういうのは言っちゃ駄目だから!」

「なんだそうなのか、それは失礼した」


そこでグレコがいきなり謝ったので、響と赤羽根さんが面食らう。いや、赤羽根さんはすぐに思い当たり、拍手を打った。


「あ、なるほど」

「や、恭文……なんか凄く納得されたんだが! え、どういう事だ!」

「ここも海外文化からだよ。というか響、前に説明したでしょうが。海外ではアイドルやタレントの恋愛もオープンだって」

「あ、そうだった! うん、言ってたよな! ……じゃ、じゃあ自分が彼氏持ちでもおかしく、ないのか」

「ちゅちゅー」


あ、あれ……なんかプレッシャーが。響がこっちを見ているのが、辛いんですけど。

するとグレコさんが察したような表情。ちょ、なにを察したの! サムズアップするのはやめて!? なんか泣きたくなる!


「しかしいきなりどうした。番組企画に参加中、こんなところまできていいのか」


グレコさんはそのままキッチンへ入り、お酒を取り出す。それで僕はリカルドに促されソファーへ座った。

勝手知ったるなんとやらと言うべきか。……しかし広くていい部屋だなー。掃除も行き届いていて、なにより景観も最高。

ロサンゼルスの市街地がよく見渡せるよ。脇にダンベルなどのトレーニング器具も置いてあるのが、男の一人暮らしっぽくていいね。


「予選の決勝は明日だろう? 激励してやろうと思ってな。あとは番組の大会取材だ」

「世界大会への出場を決めてる奴は余裕だなぁ」

「嫌みを言うな。……ん?」


そこでリカルドが気づいたのは、ソファー前のテーブルに置いてある端末。僕達は自然と顔を背けたけど、リカルドは問題なく見ていた。


「これが今年のニューモデルか。なるほど、良い出来だ」

「過去二回の世界戦で、お前に受けた借りを返したくてな」

「リ、リカルドさん……それ見ちゃってもいいんですか! 設計図とかじゃ!」

「構わんよ。ソイツは昔から無作法な奴でな」

「おいおい、それはお前だろう? いきなり宿泊施設に乗り込んで、酒盛りとか言い出すしよ」


それくらい気心しれた仲らしい。戦い、通じ合った戦友とでも言うべきか。

グレコさんはこっちへ戻ってきて、チーズなどのおつまみと一緒にウィスキーも持ってくる。

そうして僕達にそれぞれ一杯ずつ注ぎ……いや、響だけはやめた。あー、未成年って思われているな、これは。


「頂きます」

「では俺も……すみません、いきなり押しかけたのに」

「問題ない。俺も気分転換がしたかったからな。ヒビキとシオン達は、ジュースで我慢してくれ」

「ありがとうだぞ。……あ、日本からおみやげも持ってきてたんだ。もしよかったら」


響に預けておいた小包を取り出すと、グレコさんは満面の笑みで受け取った。


「リカルドからのアドバイスで、イカの塩辛とアジの干物を」

「私も味見したが、どちらもいい味わいだったぞ」

「お姉様、その発言には少々おかしいところがありますけど」

「ほんとだよ! いつだよ! まさかつまみ食いしたんじゃないだろうな!」

「なに……君はまるで女神だ! 大好物なんだが、こっちではなかなか手に入らなくてね! ありがとう、ヒビキ!」

「おいおい、俺のアドバイスだって言っただろうが!」


――そして器用に干物を焼くグレコさん……すげー、これもガンダムのおかげだろうか。

そんなお魚もつまみにして、昼酒を楽しむ僕達。なお響も未成年じゃないと分かると、グレコさんは遠慮なく勧めてきた。

豪快で気持ちのいい人だねぇ。リカルドと気が合ったのもよく分かるわ。


「それで決勝の相手はスコットか? それともカーター」

「いや、初出場の少年だ」

「なら楽勝だな」

「そうとも言えん」


そこで今まで楽しげだった、グレコさんの表情が少し曇る。あおも僕の頭に乗っかって、少し首を傾げる。


「あお?」

「相手のガンプラ暦が三か月だと聞いてしまえばなおさらだ」

「さ……!」

「三か月、ですって!」


響と赤羽根さんもそれで察する。相手は……少なくともただ者ではない。その戦いぶりは、グレコさんが脅威に思うほど鮮烈なのだと。

僕も忙しくて、アメリカ大会の試合はチェックできてないんだけど。


「その少年、名前は」

「ニルス――ニルス・ニールセン」

「ニルス、ニールセン!?」


一体どんな奴かと思っていたら、とんでもない名前が出てきた。馬鹿な……どうしてそんな子がガンプラバトルの大会に!


「恭文、知り合いなのか?」

「一度だけ顔を合わせた事がある。……お父さんの『アルフレッド・ニールセン』とは面識があってね、その流れで」

「アルフレッド・ニールセンなら、俺も聞いた事があるぞ! 確か、世界的な名探偵だよな! ……あ」


赤羽根さん……なにを察したの! ちょ、リカルドもなんか慰めるみたいに、肩を叩いてきたし!

とにかく……それだけじゃなくて、ニルス・ニールセン本人も凄い経歴なんだよ。

飛び級で大学へ進学し、博士号を三つも取得してる。そりゃ、強敵だわ。明日の決勝戦、荒れるね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いよいよ決勝戦……くるところまできたと言うべきか。畳敷きな私室に正座し、改めてここまでの試合映像を確認。

……グレコ・ローガン、二十七歳。ガンプラ暦二十年で、過去にニ回世界大会に出場。最高位はベスト十六。

今大会使用するガンプラは、トールギス・ワルキューレ。元はガンダムWのトールギス。


形状はトールギスIだが、ドーバーキャノンのみIIIのメガキャノンへ切り替えている。

しかし大出力の火力と重装甲、そしてそれを扱うに余りある推進力……さすがは世界大会経験者と言うべきか。

そしてファイターの能力も高い。去年の世界大会、彼はリカルド・フェリーニとベストバウト賞に輝いている。


世界大会の最終トーナメントまで勝ち残った彼は、その初戦でフェリーニ氏と対戦。しかし制限時間になっても勝負はつかず。

結局攻撃を先に、一発でも当てた方が勝ちという延長戦へ突入。しかしそれも二時間以上に及ぶ、壮絶な戦いとなった。

それだけの勝負に耐えうる精神力だけでも特筆すべきものだ。決して甘く見ていい相手ではない。


――ガンプラバトル選手権に出場する?――


そこで思い起こすのは、教授に『ではどうやって、プラフスキー粒子について調べるか』と問われた時の事。


――はい。プラフスキー粒子の情報を手に入れるために、選手権を勝ち抜き、世界大会出場を目指すのが確実です。
世界大会にはPPSE社のワークスチームも参加しますし、創設メンバーも会場に訪れる。
出場選手になればレセプションやらで、彼らに接触する機会も増えますから……上手くいけば――

――しかし下手をすれば産業スパイすれすれだぞ――

――もちろん合法的に。そこは順守しますので――


そう、そこは順守する。表立ってプラフスキー粒子の事を明かせなければ、本当に意味がないんだ。

これはボクの夢を叶えるためでもあるから。とは言ったものの。


「決勝の相手……ミスターグレコは、今までとはレベルが違う。それに対抗するためには」


立ち上がり、振り返って壁際の収納扉へ。それに両手をかけ、少し深呼吸。


「できれば、世界大会まで温存しておきたかったが」


それでも全力でなければならない。ボクの全てを、信念を持って……道を開いてみせる。

そう決意し、観音開きの戸を開けた。……中にいるのは、座禅を組む赤きガンプラ。

骨のようなフレーム部を露出させ、一部は白き甲ちゅうで覆っている。ボクの研究成果、その情熱を注(そそ)ぎ込んだガンプラ。


夢への道を開く勇ましき武者は、二本の日本刀を前に眠っていた。しかし目覚めてもらうよ、戦国アストレイ頑駄無。

此度の戦で相まみえるのは、君の初陣にふさわしい猛者だ。……勝ちに行こう、全力で。


◆◆◆◆◆


トールギス

『新機動戦記ガンダムW』に登場する、戦闘用MS全ての原型となった機体。

名称の由来は降霊術師(Theurgist、テウルギスト、サージスト)から。

『重装甲の機体を超大推力で制御する』というコンセプトで開発され、背部にニ基の大型スラスターユニット『スーパーバーニア』を搭載。


その推進力は劇中で『殺人的な加速だ』と言わしめるほど苛烈なもので、直線的な軌道では一瞬にして、十五G以上の加速度をたたき出す。

最高速度は空戦用MS『エアリーズ』のマッハニ を遥かに超えて計測不能という速度を持ちながらも、旋回性能は三倍以上。

動き回りながらバレルロールや鋭角的な軌道も可能。最初のMSでありながら、既に最強と呼ばれるほどの機動性と戦闘力を有していた。


装甲の強度も同様だが、その性能は操縦する人間の肉体的限界を大きく超えており、その多機能さと大型化した機体サイズも量産には不適当とされた。

結果試作機一機の完成と、数機分の予備パーツの製造をもって開発は中断された。

武装は長砲身を持つカートリッジ式ビーム兵器【ドーバーガン】と、円形シールドを両肩のアタッチメントに懸架。


更にビームサーベルをシールド裏面に二基搭載している。



◆◆◆◆◆

メガキャノン

『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』に登場する、【トールギスIII】のメイン装備。

右肩アタッチメントに懸架される大型ビーム砲で、通常射撃でもトールギスI及びIIのドーバーガンを上回る。

更に砲身をニ分割した最大出力モードとなる事で、ウイングゼロのツインバスターライフルにも匹敵する破壊力を発揮する。



◆◆◆◆◆


OZ-00MSVa トールギス・ワルキューレ

グレコ・ローガンが第七回ガンプラバトル選手権用に製作した、トールギスの改造機。

ミリタリーグリーンのカラーリングが特徴で、トールギスIIIのメガキャノンを装備している。


原典の特徴である重装甲と高機動をそのままに、グレコの確かな戦闘技能によって猛威を振るう。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヤスフミ、今頃響ちゃんと……そ、そうだよね。二人で観戦だもの。夜も一緒だろうし、そうなっちゃうよね。

あの、私は大丈夫。奥さんとして頑張るし……でも響ちゃん、二十歳になってまたスタイルがよくなったような。

やっぱり大きいから……ヤスフミ、いっぱい触っちゃうよね。大きい胸、本当に好きみたいだし。


私もたくさん揉まれちゃうし。それだけじゃなくてこう、胸でのご奉仕も……すると反応が嬉しそうだもの。

で、でも響ちゃんは経験ないみたいだし、やっぱり私がアドバイスを……よし、メールしよう。

それでいっぱい応援するんだ。うん、奥さんとして頑張るの。そ、それにヤスフミはいっぱいする方だし。


私にもその、最近毎日……だし。もちろん私もそれは嬉しくて……わ、私もついていった方がよかったかな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ケンプファーアメイジング――ボクが主導で、メイジンのために作り上げたガンプラだ。

本当に、本当に長かったよ。感動もひとしおで、ラボの窓から階下――実験スペースを見下ろす。

現在あそこのバトルフィールドでは、メイジンがケンプファーアメイジングのテスト中。


水中動作を試しているところだが、予想通りの数値が出続けている。それには両脇の部下二人も嬉しそうだった。


「粒子変動率、九十九・九七パーセント……各武装に搭載したエネルギーパックの粒子圧縮率、二十四パーセントで安定しています」


だから興奮気味な言葉が続く。その間にケンプファーアメイジングは界面から飛び上がり、夜の湾岸地帯へ着地。

ジャーマングレーに塗装されたボディは、各所に突撃用スパイクを装備……あれはヒートホーンも兼ねていてね。

武装の特徴は背負っているウェポンバインダー二基。武装を搭載するコンテナであり、機動力を強化するスラスターでもある。


うん、我ながらいい仕上がりだ。そもそもタツヤもマーキュリーレヴ、νガンダムヴレイブなどで、多種多様な武装を扱う事に長けている。

搭載した武装は現地でのパーツ交換も視野に入れているけど、タツヤなら問題なく使いこなせる。


「各部関節に使用したハイポリキャップも正常に機動」

「リモーションペイントの剥離、ありません。……水中でも地上と同等の数値を出しています」

「アラン主任の設計通りですね」

「いや、PPSE研究所の技術力あってこそだ。しかも、ファイターはメイジン・カワグチだ」


テストは順調そうなので、そのまま二人を引き連れラボから出る。いや、気にはなるんだ、ずっと見ていたいんだ。

しかし世界大会前なので、他に仕事が……! 宮仕えの辛いところだ。あとで収録してもらっている映像、何回も見直そう。

ようやく……ようやく夢が叶ったからなぁ! 世界デビューはもう少し先だが、今はワクワクしっぱなしなんだよ!


……だからだろうか、二人がボクを見てほほ笑ましそうに……いかんいかん、主任としてしっかりしなくては。

廊下を歩きつつ、せき払いするももはや無意味だった。く……これが若さか。


「世界大会への布石は盤石ですね」

「まだ気掛かりな事はある」

「……ネメシス、ですか」

「あぁ。メタンハイドレートの発掘王が率いるチーム……また世界大会出場を目論んでいると噂されているが、果たして」


資金力だけで言えば、一般企業をも超えかねないチームだ。問題はガンプラの開発力とファイター。

高性能の機体を作っても、ファイターが優秀でなければ使いこなせない。その逆もまた然りだ。

そしてネメシスであれば、ツテさえあれば揃えられる。現にガウェインという優秀なファイターは抱えているんだ。


しかし生半可な事では、彼らは世界大会に出場できない。現に去年も、その前も無理だった。

それもツテがないからとか、そんな理由ではなくて……さて、今年はどう出てくる。


◆◆◆◆◆


PPMS-18E ケンプファーアメイジング

PPSE社の研究班が、総力を挙げて製作した【HGUC ケンプファー】の改造機。

三代目メイジン・カワグチに与えられ、第七回世界大会本戦に投入予定。

高い機動性を実現する新素材【ハイポリキャップ】、水中でもその機動性を維持可能な【リモーションペイント】など、PPSE社の最新技術が多数投入されている。


結果極めて高いスペックと多機能性を獲得し、まさしくワークスモデルと言うべきガンプラに仕上がっている。

しかしその代わり扱いも難しくなり、決定力のある強力なシステムや、それに準ずる武装は搭載されていない。

そのため操縦者に相応の技量と実力が求められる、玄人志向の機体になっている。


背部に装備されたニ基の【アメイジングウェポンバインダー】は、機体の推進器も兼ねた武装コンテナ。

不要になるとデッドウェイト化を避けるために投棄され、脚部のハードポイントにも同型のバインダーを最大ニ基装備可能。

更にバインダー自体を取り外し、手持ち火器として使うこともできる。


武装であるバインダーに内蔵されたビーム短銃【アメイジングピストル】は、バレルの追加・交換で性能変化。

長距離に適応した【アメイジングライフル】【アメイジングロングライフル】としても使用可能。

腰のホルスターには接近戦用の【アメイジングナイフ】ニ振りが収納。原典からビームサーベルも引き継いでいる。


各武装にはプラフスキー粒子を貯蔵可能な、エネルギーパックも内蔵されており、その出力は折り紙つきとなっている。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


旅行を終えてから、新作に取りかかった……取りかかったまではいいけど、完全に煮詰まっていた。

ビルドストライクの修復は終わっていたので、ビルドブースターも含めて改良……でもピンとこない。

やっている事は全て今までの延長線上。これじゃあ駄目なんだ、もっと……もっと根本から変えないと。


「……セイ」


後ろから声がかかるけど、気にせずヤスリがけ。世界大会までもう時間がないんだ、取っ掛かりだけでも今月中に掴まないと。


「ねぇセイ……もう休みなさいよ。一旦ガンプラの事は忘れて」

「駄目だよ、世界大会まで時間がない」

「でもガンプラ、ちゃんとできてるじゃない」

「今のままじゃ全然駄目だ。母さんだって見ただろ? タツさんのアプサラス……ううん」


そこで思い出すのは、旅館でのバトル……やっぱり足りないものがあるとまた突きつけられ、手元が忙しくなる。


「マオ君のガンダムX魔王にも、恭文さんのガンダムAGEリペアIIにも負けていた。これじゃあ世界大会優勝なんて目指せない」

「セイ……心配しすぎよ。ちゃんと地区予選だって勝ち上がれたし、あの戦いだってなんとかなったじゃない。
……大丈夫よ! レイジくんだっているんだし、彼と自分を信じて頑張れば……だから母さんの言う通りに、ね?」

「無理。ザクとボルジャーノンの区別もつかない母さんだもの」

「なによそれ! いいから休みなさい……セイー!」


そう、信じられない。今のままじゃ……レイジの信頼に応えられないんだ。だから強くなるんだ。

今度は僕がレイジのために、僕自身のために。ありったけじゃどうしても足りない。

底の底から可能性を引き出し、形にするんだ。だから今は、止まってなんていられない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


旦那様のバトルルームは、まるでワインセラーだ。空調もきっちり整えられた、地下の一室――だが幸運だった事はある。

それは地下のガンプラ、そのどれもが高クオリティだった事だ。アイラの意見も交え、チェックした上でジェガンを渡したt。

本来ならガウェインには勝てないガンプラだ。その完成度で言えばやはり……部隊はギアナ高地。


ガウェインのデビルガンダム最終形態が、両肩上部の巨大アーム【デビルフィンガー】を展開。

アイラを捕まえようとギアナ高地の空気を斬り裂く。さすがに動きが速い、巨体の一部とは思えないぞ。

しかしジェガンは余裕でその下をかいくぐり、右手でサーベルを抜きつつ右薙一閃――アームを中ほどから斬り落とした。


アイラは余裕の笑みを浮かべ、対してガウェインは焦る。先ほどから一撃も当てられていないのだ、それも当然だが。

結果がデビルフィンガーと左腕の損失だ。さすがにDG細胞の再現はできなかったらしい、再生する様子もない。

しかしこれで終わるのであれば、ガウェインは世界レベルと言われたりしない。……そこで股間部のガンダムヘッドが口を開く。


瞬間的に膨大な粒子砲撃を発射するが、やはりアイラは先読みで上昇。ビームを問題なく回避する。

砲撃はギアナの森を一直線に、数キロに亘って焼き払い、更に上へと流れる。砲撃粒子は超高度で拡散し、降り注ぐ拡散粒子弾丸となった。

ジェガンなら一発当たれば終わり……そんな雨の中、アイラのジェガンは生き残っていた。


傷を負う事もなく、クモの糸に近い生存ルートを進み続ける。ピンク色の雨をすれすれでかわし、追撃の砲撃も再上昇でたやすく回避。

それからジェガンは右サイドアーマーのウェポンラックから、ハンドグレネード三発を射出。

本来なら投げる武装だが、ああやってミサイルの如く射出する事もできる……しかし、本来なら左腰のはずなんだが。アレンジか?


ここでアイラが驚異的なのは、この雨の中直撃できるという事だ。途中で撃墜されてもおかしくない状況、しかしアイラは見えている。

それができるコースとタイミングを……だからこそデビルガンダムは回避もできず、頭部付近に全て直撃をもらう。

それでやられればいいが、デビルガンダムの装甲は硬い。ほぼ無傷で、生まれた爆炎の中ジェガンを探しキョロキョロ。


『くそ、どこに』


答えは……後ろだった。ジェガンはいつの間にかデビルガンダムの両肩に着地し、ビームサーベルで後頭部から顔面にかけえ串刺し。

……そこで暗かったギアナに朝日が生まれた。輝く太陽に照らされるジェガンは、アイラの勝利を印象づけてくれた。

アイラはサーベルを持ち上げ、頭部を強引に引き剥がす。そうして生まれた傷に、左腕に懸架したシールドを向ける。


残念だがジェガンの攻撃では、デビルガンダムの装甲を貫く事は難しい。しかし、内部ならどうだろうか。

シールドミサイルが全弾発射され、傷から炎という血が噴き出す。ジェガンがゆっくり離脱すると、デビルガンダムは朝日よりも眩しく爆散した。

≪――BATTLE END≫


粒子が消失し、バトル終了。ガウェインはその衝撃から後ずさり、躓いて尻もちまでしてしまう。脇から見ていて、失礼だが面白いと思った。


「馬鹿な……ジェガンで、ガウェインのデビルガンダムを」

「な……なんなんだ、お前はぁ」


そこでアイラはドヤ顔……おい馬鹿やめろ。出かかっているぞ、お前の悪いところが。


「いかがでしょう、会長」

「見事だ。だがその前に一つ確認を……彼女専用のガンプラというのは」

「こちらです」


データだけは持ってきていたので、タブレットを旦那様に渡し、スペックなどを確認してもらう。


「……モビルアーマーではないのか」

「はい。確かに昨今の世界大会では、重火力・重装甲のモビルアーマーが席けんしております。
しかし……時代は移り変わるもの。これからはプラフスキー粒子をより独創性溢れる形で扱える、汎用モビルスーツの時代です」

「なるほど、だからジェガンだったのか」

「えぇ」


アイラ、こっちをジト目で見るな。これもまた方便だ、方便。……とにかく偶然もあったが、これでプロモーションは成功。

制作ガンプラの事で無茶を言われる心配もないだろう。既に恐竜化は陰りが見え始めている。

これからは今まで培った技術を、コンパクトにまとめていく段階。そうして昇華される時代だ。


だからこそ、ジェガンでデビルガンダムに勝った事は……アイラの能力を見せつけた事は大きな意味がある。


「よし、チームのメインファイターは彼女に一任しよう」

「ありがとうございます」


その言葉でようやく安どでき、旦那様には敬意と感謝を込めてお辞儀。


「しかし侮るなよ」

「……分かっております。ここ、フィンランド予選には彼が出てくる」

「そうだ。去年の世界大会優勝者――カルロス・カイザーがな」


そう、それこそがネメシス最大の障害。ガウェインも決して弱いファイターではないが、カルロス・カイザーは世界大会常連。

だからこそ旦那様は期待というエッセンスも加え、出資者として厳しい視線をアイラに送る。


「勝てるか、アイラ・ユルキアイネン」

「……ご命令とあらば」


アイラは問題ないと、会長にお辞儀。また暴走しないかとひやひやしたが、さすがに空気は読むようだ。

さぁ、これで準備は整った。心置きなく暴れさせてもらおうか……これもフラナ機関のためだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして時は訪れた――アメリカ地区予選決勝、まるでプロ野球の試合かと言わんばかりに人が集まり、盛大に騒いでいる。

そんな中僕とリカルドは、赤羽根さんと響を連れてVIP席から観戦。もうね、凄いよねー。

会場からスタジアム級だもの。日本の地区予選みたいに、公共体育施設とか使ってないんだもの。


『Hey! 全世界六十五億のガンプラファンに、至福のときが訪れたぜぇぇぇぇぇ!』


お、始まったか。試合会場上部の備え付けモニターに、富野監督そっくりな司会者さんが登場する。

その横には金髪を品よく整えた、穏やかそうな……この二人、アメリカだと有名なゲーム実況者です。

eスポーツの大会とかでもMCをやっている二人でね、めちゃくちゃ人気があるのよ。


『今宵(こよい)、ここラビアン・ローズガーデンで行われるのは……ガンプラバトル選手権世界大会出場を決める、アメリカ地区予選の決勝戦だぁ!』


そして会場中から歓声が響く。階上のVIP席まで揺れかねない勢いなので、響がぎょっとして身を引く。

そんな様子も赤羽根さんと一緒に撮影……いや、一応二人が観戦している様子も必要なんだよ。


『実況は私、ラルフ・ジャクソンと!』

『解説、ザカリー・クーパーでお送りします。この熱い戦いを、完全生中継でお送りいたします』

『ハッハー! 興奮するねー!』

『あぁ、もちろんだよ。ワクワクするね。……決勝戦は去年世界大会に出場した、あのグレコが登場する。
彼の実力は折り紙つきだよ。でも、対戦相手のニルスも侮れないよ?』

『彼はまだ十三歳で、しかも初出場って聞いたけど』

『ガンプラバトルの実力に、キャリアは関係ないさ』

「……その通りだ」


リカルドは注文したカクテルを飲みつつ、静かにそう返した。誰に言っているわけでもない、自分のうちに言い聞かせるような声。

わりとピリピリしてるのは、グレコさんが親友だからでもある。うん、だからピリピリじゃなくてハラハラだね。

なのであおもちょっと遠慮して、僕に抱かれてほっこり観戦していたりする。


「……あおー」

「蒼凪君、どっちが勝つと思う?」

「正直分かりません。ニルスの試合も確認したけど、操縦技術は高いです。ただ……使っていたのはアイアンマンカラーの百式。
完成度もかなりのものだけど、特筆すべきところがあるかと言われると微妙ですよ」

「機体性能で言えば、間違いなくローガンさんのトールギス・ワルキューレが上です。普通にやっても勝てないでしょう」

「この場合は前評判倒しか、牙を隠していたか……もぐもぐ」


そしてヒカリは食欲を隠そうともせず、幸せそうにでっかいハンバーガーをかじっていた。……おのれはぁ。

呆れていると、会場の照明が落とされる。そうして各所で火柱が上がり、巨大モニターに。


――Defendeing Chanpion.Rageing Bull――


と表示。重々しいサビ色のロゴを打ち破るように、CGでできたバッファローの群れが走り抜ける。


『きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 我がアメリカが誇る、最強の暴れ牛が登場だ!
しかしその豪胆なあだ名とは裏腹に、その戦いは繊細かつ緻密! 前回予選優勝者』


また火柱が走り、試合ステージ右側の通路からグレコさんが登場。マッスルポーズでアピールしつつ、中央のベースへと歩いていく。

そんなグレコさんを歓声が、みんなの拍手が出迎えていた。その様子を見て、響が目をぱちくり。


『グレコ! ロォォォォォォォォガン!』

『いいね、気力がみなぎってる。きょうの彼はやるつもりだよ』

「……リカルド、なんかK-1とかの試合になってるんだけど」

「チャンピオン――世界ランカーはそれだけでヒーローだからな。
まぁこの国の人々がお祭り好きなのもあるだろうが。……だからこそ、対戦相手にも敬意を払う」

『ん……おぉっと! 反対側からチャレンジャーの入場だぁ!』


今度のPVは和のテイスト盛りだくさん。鮮やかな絵屏風(びょうぶ)が次々と開かれ、その合間にシルエットが仕込まれる。

小柄な少年のシルエットと、シャーロック・ホームズっぽいシルエット、更に道着を着込んだ女性のシルエットだ。


『年齢はわずか十三歳! しかしスキップ(飛び級)して、アメリカナンバーワン大学に進学! 既に博士号を三つも取得している若き天才!』

――particle physics.(素粒子物理学)high-energy physics.(高エネルギー物理学)Euclidean space physics.(ユークリッド宇宙物理学)――


更にその合間合間に、博士号の名称が……全部エネルギー関連のものなんだよねぇ。知ってはいたけど、改めて見ると凄いラインナップ。


『世界的名探偵の父を持ち、母親は武術の達人という異色のスーパーボーイ――ニルス! ニィィィィィィィィィルセン!』


グレコの反対側から、花吹雪とともにニルスが登場。編みこんだ黒髪に褐色の肌、凛とした瞳がライトアップされる。

道着の上から羽織を着こみ、ニルスは静かに両手を合わせてお辞儀。最後に会ったの、五年とかそれくらいだっけ?

アルフレッドさんに、自宅でのご飯をごちそうになってさ。その時話してから、随分大きくなったもんだ。


『きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ニルスお得意のサムライ・ハローだ!』

『ニルスは母親の影響で武術に精通してるんだ。カラテ、ジュウドウの有段者だと聞いているよ』

『これは楽しみな戦いだぁ!』

「あれが……でも、なんだろう。体格とかならグレコさんが強そうなのに」

「ヒビキも気づいたか。あの少年、やはりただ者じゃないぞ。この状況に動じもせず、落ち着き払ってやがる」


冷静さはお父さん譲りとも言うべきか。さて、ここで勝てばニルスはいろんな意味でスター化だ。

グレコさんはリカルドとの延長戦もあって、その実力は折り紙つき。アメリカ国内でも人気のあるファイターだ。

そう、これこそがアメリカン・ドリームだよ。僕も同じような事はしたはずなのに、お国柄って残酷だよねー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いよいよこの日がきた。ミスター・グレコ……目の前にすると、荘厳な方だ。武術の達人にも通ずる気迫がある。


「楽しみにしていた。【アーリージーニアス】と呼ばれる君とのバトルを」

「恐縮です」

「だが世界大会には行かせん。向こうで待っている男がいるんでな」


リカルド・フェリーニ氏ですか。ですが……羽織を右手で掴み、さっと脱ぎ捨てる。


「負けられない理由は、ボクにもあります――!」

「なら、どちらの思いが強いか試すとしよう」

「望むところです」


≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Moon≫


ベースとボクの足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。今回は月面地帯か。

低重力な状況だが、山々も多い。地形には気をつけておいた方がいいだろう。

……立ち上る粒子を見ながら、改めて決意する。プラフスキー粒子……その秘密を解き明かせば、きっと。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子がボクの前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そこでリカルドとつい目を見張る。和風の甲ちゅう、刀を装備した……ガンダムアストレイ?

でもただ者じゃない。モニター越しでも、ここからでも分かる。あれは準決勝までの百式とは根本的に……なにかが違う。


「なんだあれ、赤いガンダム? でも刀だけで銃とかは」

「ガンダムアストレイ、レッドフレームの改修型か。やはりグレコとの対戦に合わせ、機体を変えてきたな」


ガンダムアストレイは、ガンダムSEEDの外伝作品にて登場した主人公機。本編に登場したM1アストレイの試作型と言うべきか。

特徴はむき出しにされているフレームとその軽量性。『当たらなければどうという事はない』を地でいく機体だよ。

最初に登場した二機、中盤から登場したもう一機は、それぞれの陣営で独自の改良を施されていった。


レッドフレームは刀も使うけど、それに則ったものとも思えない。むしろこう、アメリカから見た侍的な印象もあるけど。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『……それでこそ倒し甲斐がある!』

≪BATTLE START≫

『トールギス・ワルキューレ、出るぞ!』


深呼吸した上で、アームレイカーを押し込み。


「戦国アストレイ――参ります!」


戦国アストレイとともに、月面へと飛び出す。地表へ着地しつつ、そのままホバリングへ行こう。

迎え撃つワルキューレへ接近していく。とはいえ距離はキロを切ったばかり……ワルキューレは飛行していたが急停止。

メガキャノンでこちらを狙い、ビーム砲撃を連射する。そう、連射……最大出力でもないのに、現時点で砲撃レベルだ。


『さぁ、ついに決勝戦の開始だぁ!』


さすがは世界大会出場者、外見的にはそのままでも、中身は徹底チューンされている。

それに攻撃も的確だ。戦国アストレイは見るからに近接戦闘型で、遠距離火器も持ちあわせていない。

まずは得意レンジで、こちらの手札を引き出そうというところか。しかし甘い……アームレイカーを素早く動かし、回避行動を取りつつ前進。


残念だがこの連続砲撃、母の突きに比べたらいささか甘い。問題なく見切っていける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「嘘、砲撃レベルなのにどんどん避けてくぞ! しかもすれすれ!」

「武術でいうところの見切りか」

「……蒼凪君、ガンプラであんな事ができるのか」

「可能です。実際僕もやってますから」


これもまた人機一体だよ。確かな操縦技術によって、持っている経験をガンプラにフィードバックさせている。

半端な距離からのけん制じゃ、間違いなく足止めにもならない。そこでグレコさんは両脇の岸壁に連続砲撃。


『ならば!』


岸壁の表面が派手に砕け、大小様々な破片がはじけ飛ぶ。戦国アストレイはその中でスラロームし、余裕の回避。

……とはいかなかった。数が多いのと、視界が防がれる事を危惧してかある程度進んで上昇。

すかさずメガキャノンの連射……でも両肩後ろのメインスラスターが火を噴き、高速スウェーを繰り返しまたもかわされる。


さっきも言ったけど、アストレイは基本軽量機体。最近出たHGCEのプラモだと可動範囲がどっかのフィギュアレベルになってる。

戦国アストレイも基本ラインは変わっておらず、だからこそ体捌きによる回避も筋金入り。


『くそ』


グレコさんは業を煮やし、砲身レールを伸長。メガキャノンを最大出力モードとし、砲口を向けながらチャージ。


『フルバーストで!』


着地しつつ放たれた、さっきまでとは違う高出力砲撃。黄色い奔流が射線上の岩を融解させ、戦国アストレイへと迫る。

さぁどうするのかと思ったら、戦国アストレイは抜き身で搭載している、両肩上の二刀に手をかけ。


『――はぁ!』


裂ぱくの気合いとともに、銀色の刃でバツの字斬り。


『こ、これは凄い! 戦国アストレイが、グレコのビームを両断しているぅ!』

『いやぁ、にわかには信じ難い』


砲撃斬り……いや、これは違う!


「これは……!」

「な、なんだってぇ!」


刃を振り抜いて、砲撃を斬り裂く。でも僕が魔導師戦でやってるみたいに、そこで砲撃そのものが爆発などしない。

……刃の軌道に刻まれた、粒子の斬撃波。それがビームを受け止め、斬り裂き続ける。


「粒子斬撃……ですか」

「だが……おいおい、ちょっと待てよ! 戦国アストレイならたやすく飲み込めるサイズと出力なんだぞ!」

「それを斬り裂けるという事は、少なくとも直接的破壊力は……恭文」


そこで思い出されるのは、ニルスの経歴――博士号。やっぱり考えて然るべきだった。

ニルスは――戦国アストレイは、プラフスキー粒子の特性を論理的に理解した上で活用している! じゃなきゃ、この威力は出せない!

……そしてフルバーストはそのすべてを吐き出し霧散。粒子斬撃もさすがに威力を削がれ、ワルキューレへ届く事もない。


すかさず戦国アストレイは身を縦に翻し、砲撃の残滓(ざんし)を払いながら加速する。

トールギス・ワルキューレはたまらず大きく後ろへ回避するも、そこで右刃で袈裟、左刃で逆袈裟の斬撃。

剣本体は届かなかった。でも再び切っ先から斬撃波が生まれ、トールギス・ワルキューレを襲う。


ワルキューレは左腕のシールドで一撃目を防御するも、そこにニ撃目の逆袈裟一閃が重なり……一瞬両断されるかと思った。

でもワルキューレは斬撃に逆らわず吹き飛ばされ、更に縦の角度を変えてやり過ごす。

斬撃波はワルキューレの頭部モヒカンを僅かに斬り裂きつつ、そのまま虚空へ。


斬撃波の下にはじき飛ばされたワルキューレは、岸壁に衝突し……その衝撃で岩全体が崩壊。

その破片が次々とワルキューレに落下していく。岩塊に埋もれ、ワルキューレは姿を消した。


「グレコ!」

「あお!」


リカルドも立ち上がって叫ぶも、声は当然届かない。


「しかし、こりゃどっちを褒めるべきか」

「蒼凪君、それは一体」

「フルバーストを斬り裂ける斬撃……それをなんとか捌いた、グレコさんの操縦技術か。
又はそんなワルキューレを追い込める、戦国アストレイの斬撃波――ニルスのビルダー能力か」

『勝負ありました』

『まだだ!』


そう、まだだ。誰もが終わったと思ったけど、みんなここが月だって忘れてたでしょ。

月は低重力……結果破片落下のダメージも最小限であり、トールギスは元々重装甲なモビルスーツ。

岩塊をはじき飛ばし、ワルキューレはややボロボロになりながらも立ち上がった。ただ……メガキャノンは潰されたみたい。


懸架アームからパージして、無事だったシールド裏のビームサーベルを取り出す。まだ、暴れ牛は突撃が足りないみたい。


『まだ勝負はついてないぞ!』

『降参して……いえ、これは無礼ですね。あなたは去年も決して諦めず戦い続けた』

『あぁ……そうだ! 絶対に勝ちたい奴がいるんだ』


ワルキューレはスーパーバーニアを展開・点火――最大加速で戦国アストレイに飛び込む。既に射程距離、ならば機動性で……という算段らしい。


『こんなところで負けるわけにはいかん!』

「よし、砲撃はともかく斬り合いならいけるぞ!」

「……いや、それじゃあ無理だ」


十数メートルの距離を一瞬で埋め、暴れ牛という名の通り、鋭く角を――サーベルの切っ先を突き立てる。

戦国アストレイはその一撃も見切り、左刃で刺突。とても恐ろしく正確で、素早い一撃だった。

刃は掠るなんて半端な事もなく、ただ真っすぐにビーム粒子の刃を貫いた。


ワルキューレは突撃の勢いから避けられず、右腕をサーベル基部ごと断ち切られる。


「なにぃ! お、おいヤスフミ!」

「分からないの、ショウタロス」


すかさずワルキューレは、シールドから予備のサーベル基部をパージ。左手でそれを掴み、更に踏み込み袈裟一閃。

ビームが展開されながらの斬撃……でもそれに合わせ、今度は右の刃での左切上一閃。

ビームをたやすく斬り裂き、腕が真っ二つにされてしまう。そう、またビームは通用しなかった。


「あの刀にビームは通用しない」

「あの斬撃波が出せるならと。……もぐ」


実はシールドで防げる云々って、もう一つ見方があるのよ。……斬撃波自体の威力はさほどじゃないって話。

ではなぜフルバーストを斬り裂けたか。ここで思い出してほしいのは、灼熱のタツとバトルした時の事。

あの時僕達のガンプラ、ビームライフルを撃ってもすべて弾かれていたでしょ。つまりはアレと同じなんだよ。


砲撃粒子……それを斬り裂き、弾く粒子変容が斬撃波の正体じゃないかって思うんだ。

もちろんそれを起こせる刀本体も、斬撃波を出していなくても同じ特性がある。でもグレコさんだってそこは分かっていた。

例え腕二本を犠牲にしても倒れなかったのは、前へ踏み込んだのは……二刀が振り切られた、この一瞬を狙うため。


だからワルキューレは倒れる事なく、再びバーストを吹かせる。ほぼ至近距離での体当たり……それでようやく、戦国アストレイを捉えた。


『この距離なら自慢のソードも使えまい!』

『く……!』

『このまま岸壁に叩きつける!』


グレコさんの考えは正しかった。戦国アストレイは刀二本を月面に突き刺し、止めようとする。

もちろんメインスラスターも吹かせるけど……そこでスーパーバーニアの一部が展開。


『無駄だ!』


ちょ、増加バーニア!? よく仕込めたね、スペースほぼないだろうに! でもこれで加速は更に上昇。

戦国アストレイは刃を手放し、間近な岸壁まで百メートルを切った。ワルキューレの加速力なら、このままいける。

誰もがそう思ったし、歓声もグレコさんの勝利を望んでいた。でも僕は……なに、この悪寒は。


まだなにかある。あの刀だけじゃなくて、もっと別のなにかが。その予感が最高潮に高まった時、戦国アストレイの肩アーマーがパージ。

いや、両肩横の黒い甲ちゅうは、アーム接続された第三・第四の腕となる。その左腕でワルキューレを殴打した。

そんな苦し紛れにしか見えない攻撃。それを食らい、スーパーバーニアが一瞬で機能停止する。


そのまま戦国アストレイも動きを止め、二機は静けさを取り戻した月面でその鼓動さえも消し去っていた。


『ミスター・グレコ、世界大会へ行く前に、あなたと戦えてよかった』

『……どうした!』

『あなたの強さ、勝利への執念――その全てに敬意を表します』


グレコさんの焦った声が響く、その次の瞬間……ワルキューレのスーパーバーニアを全て吹き飛んだ。

更に胴体部も内部から破裂し、地面も二人の足元以外――三百六十度が抉れ、ドーナツ状のクレーターとなる。


「あ……お?」

「お、おい……おい!」


あおも口をあんぐりし、赤羽根さんも言葉なく叫ぶしかない。リカルドも恐怖で震え、響に至っては吐息しかもらせない。

あれだけの歓声が一瞬で静まり返り、僕達はただ、見守るしかなかった。


『な、なんだ』


ゆっくりとクレーターへ落ちていく、トールギス・ワルキューレを。


『なにがが起こった――!』


わけが分からず、声を上げるしかないグレコさんを。


『なにをしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

≪BATTLE END≫


生まれた爆炎と、勝利の宣言。そして消えていく粒子の行く先を……ニルスのサムライ・ハローを。


『――ありがとうございました』

『バ……バトル終了ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! ニルス・ニールセンの前に、暴れ牛グレコ、ごう沈!』

『いやぁ、にわかに信じ難い』

『アメリカ予選の優勝者、そして世界大会への出場者が決定! その名はサムライボーイ――ニルス・ニールセン!』


司会者による勝利者宣言で、ようやく観客が事態を知る。……ここからがこの国のよいところだった。

グレコさんの執念を、それに敬意を払いつつも勝利した、ニルスの強さを歓声と拍手で祝う。

勝敗は大事。でもそれ以上に、本気と本気がぶつかり合う、熱いバトルを――最高のショーを見せてくれた事。


その感謝を大きなうねりとして、二人に送った。だから二人も改めて近づき、お互いに握手を交わす。

僕とシオン達もそれに乗っかるけど、リカルド達はぼう然としていた。完全に予想以上の……ワンサイドゲームだったしね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やすっち達、アメリカで……これを見てるんだよな、生で。しかし羨ましいというか、衝撃が強すぎて心配になるレベルだぞ。

はい、俺達も生中継という事で、蒼凪家のリビングで試合を見ていた。ディアーチェに抱かれている双子達もあ然とする内容だった。


「おいおい、こうまで一方的な試合になるのかよ。てーか刀がビーム無効だとして、あの隠し腕での攻撃はなんだ」

「そ、そうだよ! アレ反則じゃないのかな! きっと爆弾とか使ってるんだよ!」

「ヘイト、それなら問題ないよねー。ほら、ガンダムだし」


よし、フェイトは気にせずいこう。しかしアレを見ると、俺達のガンプラ……もっと強くなれるんじゃと思うぞ。

実際アミタは燃えているらしく、なにやらブツブツと……まぁそうだよな。世界大会に出られないからって、やめるには面白すぎる。


「予測はできますが……ただ一つ言える事があります。ニルス・ニールセンは、プラフスキー粒子を完全に理解し、使いこなしている」

「その上博士号は全て粒子学に繋がるもの……って、相当よねー」

「まさしくニュージェネレーション……革新とでも呼ぶべきガンプラ。恭文さんは、勝てるんでしょうか」


ユーリが不安げに呟くが、羨望の眼差しもあのガンプラに――ニルス・ニールセンに向けていた。

だがこれだけじゃ、ないんだよな。世界は広い……世界中からきっと、新世代のファイター達が続々登場するはずだ。

もちろんPPSE社にこもっているであろう、ユウキ・タツヤも含めてな。……こりゃ調査予定をまた変えないとやばいな。


やすっち頼みにはできんだろ、試合に集中してもらわないとさすがに悪い。その辺りもまた整えようと決意した。


(Memory35へ続く)





あとがき


恭文「というわけでアニメ第八話です。ニルスとアイラが登場……でも奴らはまだ本気を出していない」

あむ「えっと、ニルスが立花慎之介さん――ジャスティス立花と同じ声だっけ」

恭文「そうそう。だからこそ本気を出していない」

あむ「どういう事!?」


(二人は相方がいて、初めて本領発揮できるタイプです)


恭文「というわけで幕間第三十巻、販売開始です。みなさん、なにとぞよろしくお願いします」


(よろしくお願いします)


恭文「お相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。でもアメリカ、派手だなぁ」

恭文「エンターテイメントの先進国でもあるしね。ハリウッドにも行ったし、楽しかったんだけど」

あむ「だけど?」

恭文「あの試合は衝撃的すぎた……!」

あむ「あー、うん」


(蒼い古き鉄、ちょっとテンション上がっています)


恭文「でも響にはいい影響が出たよ。世界レベルの試合を生で見るってのは、それだけでいい勉強になるし」

あむ「じゃあ取材は成功?」

恭文「もうばっちり。あとはほれ、芸能人として考えても、海外のエンターテイメントに触れるのはいい事でしょ」

あむ「あ、なるほど」


(そう締めくくり、影が薄かった今話で少しでも目立とうとしているようです)


恭文「やかましいわ! ……あ、そうだ。次はフィンランドに行かないと」

あむ「フィンランド!? え、なんで!」

恭文「世界大会優勝者、カルロス・カイザーの試合があるんだよ。フィンランドもガンプラバトルが盛んでね。
というか……自国から優勝者が出た翌年の地区予選はどうしてもね。連覇はできるのか、それとも新しい新星が生まれるのかって注目度が高くて」

あむ「あぁ、そういうのも含めて取材する感じなんだ」

恭文「そうそう。楽しみだなー、一応インタビューもできる予定でさ」

あむ「なんか凄い企画になってるじゃん!」


(というわけでフィンランド予選編、スタートです。
本日のED:T.M.Revolution『Zips』)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フィンランドの地区予選決勝――日本から遠く離れた異国だが、カルロス・カイザーの試合となれば見る価値はある。

フィンランドを代表するガンプラファイターで、三十ニ歳。七歳の頃、SNSで知り合った日本の友人達を通じ、ガンプラについて知った。

そうしてガンダム及びガンプラに熱中し、とある名言『足なんて飾りです』に感銘を受け、以後足のない機体を愛用。


ジオングやザクレロ、更にはビグ・ラングなどを使っていたほどだ。

そんな大型機体を愛用する大艦巨砲主義でもあり、その戦い方からファンも多い。

今年もきっとパワフルかつ魅力ある戦いをしてくれる事だろう。……おっと、いそがないと決勝戦が始まってしまうな。


慌てて走り、試合会場へと入る。フィンランドもガンプラが盛んな国だから、その会場は日本と比べ物にならないほど大きい。

しかし皮肉だな。ガンダム、ガンプラ発祥の日本では、まだまだ遊びの大会として認識されている。

海外ではここやアメリカのように、エンターテイメント性溢れるスポーツとして捉えられているのにだ。


先進国と言われているが、日本には遊ぶ心が足りないのかもしれん。が……そんな感慨はコンマ何秒かで吹き飛ぶ。

試合は……既に終わっていたんだ。ステージを形作る粒子もなく、壊れたガンプラが横たわっていた。

それは紫色のα・アジール……カイザーのガンプラだった。あまりの事に驚き、カイザーの姿を探す。


するとカイザーはベースに両手をつき、絶望の汗を垂れ流していた。これは、どういう事だ……なにがあったというのだ!

会場には活気も、歓声もなかった。世界チャンピオンが打ちのめされる様を、ただ呆然と見ていた。

そんな中、一つの影を見つけた。なんという偶然だろう……あの二人は。


「ん……ヤスフミ君! フェリーニ!」


階段を駆け下り、最前列の席へと近づく。すると見慣れない男性と黒髪ポニテの少女もいたが、まずはこの二人だ。


「大尉……あぁ、見にきてたんですね」

「少し遅れてしまったが。これは、どういう事なんだ。試合はまだ」

「始まって一分経たずに終わりましたよ。……α・アジールがファンネルを展開し進軍したら、次々ボディを撃ち抜かれて」

「しかも対戦相手のモビルスーツ、ぱっと見だと攻撃した様子もないんですよ。はっきり言えば、カイザーが自爆したとしか」


そこで改めて驚く。世界レベルのフェリーニが、そのフェリーニやユウキ君と同レベルなヤスフミ君が……冷や汗を流していた。

大胆不敵なシオン君が絶句し、食いしん坊でマイペースなヒカリ君もフリーズ。ショウタロス君は落ちた帽子を拾おうともしない。

そんな彼らが見やるのは、当然対戦相手。機体は大型ランスを持つ、HGUCのキュベレイ。


だが顔は幅広のマスクを付け、バインダー形状もかなり変更されていた。青緑のカラーリングは原典より妖しさを増している。

それを操るファイターは……コスプレ、か? 黒のボディスーツを纏い、バイザーヘルメットで顔を隠す。

だがスーツを押し上げる豊かな胸、魅惑的な腰とお尻のラインから分かる。あのファイターは、見まごう事なき。


「お……乙女だ!」


(おしまい)





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