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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory33 『月はいつもそこにある』

≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


「プラフスキー粒子――プラフスキー・パーティクル・システム・エンジニア社、通称、PPSE社が発明した特殊粒子の名称です」

≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Desert≫


ベースとボクの足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。今回は不毛な荒野。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子がボクの前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪VS CPU――BATTLE START≫


アイアンカラーの百式は、粒子によるアームレイカーを押し込む事で出撃。空へ飛び出し……まずはバレルロール。

更にクイックターンも行いデモンストレーション。部屋の隅、デスクに座って興味なさげな教授へアピール。

年相応に寂しい頭にシワが寄り、白ひげが粒子の光で淡く染まる。いや、染まっているはず。


今ボクが見ているのは作られたおもちゃな世界と、それを映すターゲットサイトだけなのだから。

その中で百式は飛ぶ。背部のウイング・バインダーが風を切り、各部の姿勢制御スラスターも過敏とも言える反応を示す。

いわゆるへの字がないすっきりとしたフェイスは、きっと太陽の光を受けて煌めいている事だろう。


「この粒子は、ガンプラの素材となっているプラスチックに反応」


そこで敵機反応……メインモニターがズームされ、その姿を映す。今回の相手はGセイバーの無重力仕様らしい。

アメリカが作ったガンダム……日本では余り好評ではなかったとか。


◆◆◆◆◆


百式

反地球連邦組織『エゥーゴ』の試作モビルスーツで、ガンダムタイプに分類される機体。

しかし金色のカラーリング、スリットのないフェイス、縦一直線のウイング・バインダーなど、独自の特徴を持つ。

『Ζガンダム』ではクワトロ・バジーナの偽名で、エゥーゴに参加しているシャア・アズナブルが搭乗。


『ガンダムΖΖ』では主にガンダム・チームの一員である、ビーチャ・オーレグが搭乗する。

グリプス戦役時においてビーム兵器は既に標準装備であったため、ビームコーティングの施されていない通常装甲では防御が困難な状況にあった。

そこで百式には機体の軽量化に加え、機動性及び運動性の向上によってビームを回避(対応)する、という案が採用された。


回避行動、機体の軽量化においてシールドは不要になったため装備されていない。

また、機体の基礎案からしてみれば必要ではないが、実験機という側面も持っていたため、耐ビーム・コーティングも採用されている。

この機体のもっとも特徴的な、金色の塗装――これが対ビーム・コーティング効果ももつ、エマルジョン塗装の一種である。


耐ビーム・コーティング機体の使用においては、ビームを受けた後に傾いた機体を安定させるバランス制御能力が重要であった。

そのために可変機として完成が可能であったにも関わらず、設計を改めた経緯がある。

高度なムーバブルフレームと十二基の姿勢制御バーニアに加え、バックパックのウイング・バインダーによるAMBACの向上により高い運動性を誇る。


このバインダーはΖプラスシリーズにも継承されており、百式のバックパックは任意に着脱が可能。

武装はビームライフル、サーベル、クレイバズーカと標準的だが、オプションとしてメガ・バズーカ・ランチャーを運用した事もあった。



◆◆◆◆◆


Gセイバー(無重力仕様)

特撮映画及びゲーム『G-SAVIOUR』に登場する機体。この作品は日本とアメリカ合衆国で、共同制作されたものである。

本機最大の特徴は『オリジン』と呼ばれる素体フレームに、装甲を換装する事で『宇宙戦モード』と『地上戦モード』の二種類に変更できる事である。

今回バトル相手となっているのは、Gセイバーの宇宙戦仕様。腰周りと背中に取り付けられた、大型スラスターが最大の特徴。


F91の面影が見られるスラスターにより、高い運動性と加速性を誇る。

また上腕部と大たい部の装甲は完全に排除されているため、フレームがむき出しとなっている。



◆◆◆◆◆


「粒子を流体的に操作する事でふだんは動かないガンプラを、操縦者の意のままに動かす事が可能になります」


Gセイバーが薄いライフルを向け、こちらに水色のビーム粒子を連続発射。急停止し、軽く後退しながらスラローム。

しょせんはCPU……確かに軽く動きは速いが、狙いは正確すぎるが故に読みやすい。

その全てをすれすれで回避しつつ右に大回り。見るからに軽いGセイバーは、風のように距離を詰めてくる。


既に百メートルを切った……そこで動きを先読みした上で、こちらもライフルで一撃。

ライトイエローのせん光が走り、Gセイバーは咄嗟に左腕をかざす。そこからビームシールドが展開し、ビームを防御。

しかし勢いを殺す事ができず、軽い機体ゆえに大きく吹き飛んでしまう。……好機。


「また粒子の変質を利用し、火器から発射されるビームやミサイル、爆発などのエフェクトも再現できます」


加速し飛び込むと、Gセイバーが苦し紛れにけん制射撃。それでライフルを撃ち抜かれるが、それは捨て置き肉薄。

リアスカートのビームサーベル基部を取り出し、ビーム展開。Gセイバーが白兵戦へ入る前に袈裟の斬り抜け。

唸るピンク色の刃は、細い胴体を容易に断ち切る。そして背後で爆散……そんなGセイバーへ振り返り、デモンストレーションは終了。


≪BATTLE END≫


消えていく粒子の中、百式は空中で制止。しかしプラフスキー粒子の効果がなくなったせいで、そのまま落下。

それには構わず、やっぱり不満顔な教授へ向き直る。その時、乾いた音がベースから響いた。百式が落ちたのだろう。


「いかがです? 教授」

「……そんなおもちゃを動かすだけの粒子を、研究テーマにするつもりか。若き天才……アーリージーニアスと呼ばれている君が」


やっぱり納得してもらえないか。ボクならもっと他に……という感じだろう。まぁ予想はしていた。

しかし、次のワードを出せば間違いなく食いつく。なぜなら教授も、尊敬に値するほどの研究者なのだから。


「お言葉ですが教授、このプラフスキー粒子が『反粒子同士の結合』によって生成されているのを、ご存じですか」


予想通りに教授は表情を一変。信じられないという様子で立ち上がり、半歩詰め寄った。


「ほ、本当かね!」

「他分野にも応用可能な技術です。なのにこの画期的な粒子を、PPSE社はおもちゃを動かすためにしか使っていません」


倒れた百式を拾い上げ、教授の言うおもちゃとして見つめる。そこに生まれるのは『もったいない』という感情だった。

研究者として、粒子の可能性を狭める愚行だとも思っている。しかし、だからこそ見える可能性もあるわけで。


「しかもその製造方法は完全に秘匿されています。技術が流出し、悪用されているのを怖れているのか……それとも、ほかの理由があるのか」


考えられる理由は幾らでもある。この技術は安定もしているようだが、同時に生み出すエネルギーによる被害も考えられる。

なにせ反粒子の安定生産が基礎になっている事だ。下手をすれば粒子災害とでも言うべき、大惨事に繋がりかねない。

又は、誰かが『繋がるよう細工する』可能性も考えられる。残念な事に、世界は美しいわけではない。


そういう意味では究極の安全利用とでも言うのだろう。ツツくべきではないのかもしれない。

しかし、この粒子によって今起きている様々な問題が解決する。その芽があるのもまた事実だ。だからこそ。


「教授、ボクはどうしてもこの粒子の秘密を……解き明かしたいんです」


世界は二年前の十一月に起きた、原因不明の行動不能事件によって、少しだけ優しいものへと変わった。

犯罪者達は罪を省みて、愚かな大人は後悔から道を正し、そしてボク達子どもは新しい可能性を感じた。

でもまだだ。まだ、それだけでは解決できない現実もある。だから探してみよう、それがボクの夢なのだから。



魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory33 『月はいつもそこにある』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


高速道路を走るジープ……ラルさん所有のそれに乗せてもらい、僕はついつい優勝の証である、盾状トロフィーを取り出しニコニコ。

透明な分厚いプレートは、大きめの手帳サイズ。表面に銀色のハロレリーフが刻まれていて、これがまたカッコいいんだよ。

後部座席に座っている僕は、なぜかレイジと助手席の母さんに……とても気の毒な視線を向けられていた。


「優勝者の副賞かぁ……ふふー!」

「おいセイ……顔がキモイぞ、顔が」

「いいじゃん別にー」

「セイったら、選手権で優勝してからずーっとこんな調子なの」

「しかし優勝者への副賞が温泉旅行とは……大会を主催しているPPSEも粋な事をする」

「ラルさん、運転お願いしちゃってごめんなさいね」


あ、そうだ。背筋を伸ばし、僕も慌ててラルさんにお辞儀。運転中だから見えないけど、こういうのは礼儀だよ。

母さんがちょっとこう……運転できないので、ラルさんにお願いしたんだ。まぁ、息子としては若干の不安もあったけど。


「いえいえ! 喜んで勤めさせてもらいますよ!」


……ラルさんのテンションがめちゃくちゃ上がっているし。いや、ラルさんに限ってそんな……しかし僕がしっかりしなくては!


「あの」


同じく後部座席、レイジを挟んだその隣……どういうわけか、ピンクのキャミ姿な委員長もきていた。

うん、おかしいよね。言いたい事はよーく分かる。でも事情があって。


「わたしても来て、よかったのでしょうか」

「いいのいいの。五名様までご招待って書いてあったし……チャンスよ、チナちゃん」

「な、なにがですか」

「あらー、言っちゃてもいいの?」

「や、やめてください」


はい、五名様まで……だったんだ。誘うならもっと別の人をとも思ったよ。

委員長とよく話すようになったの、つい最近だしさ。さすがに委員長も戸惑っていたし。

一応候補としてはレイジの練習を手伝ってくれた、千早さんや恭文さん達というのもあった。


僕としては特に恭文さんを誘いたかったんだよ。ユウキ先輩絡みのお礼もまだしていなかったから。

ただ恭文さんは同じく優勝で、誘ってもイミフだという結論に。というか、その関係で連絡したら同じ場所に同じ日程で宿泊予定だった。

だったら千早さんかもう一人の方を……というか、リカルド・フェリーニさん!? レイジから聞いてびっくりしたし!


ぜひにと思ったら、母さんが断固NGをかけた。……正直度し難いよ、母さん。委員長になんのプレッシャーをかけてるのさ。


「お、なんだなんだ?」

「な……なんでもないからぁぁぁぁぁぁぁ!」

「なんでいきなり怒鳴るんだぁ!? セイ!」

「僕に振らないで……!」

「はははははははは! 青春! 青春ー!」


でも優勝の副賞……これも優勝したからこそ。いや、当たり前だけどさ。でも今見ている景色は、時間は、僕一人じゃ掴めなかった。

やっぱりレイジには感謝しなきゃ。そうだね、そういう意味では……一番誘いたかった奴は、誘えているわけで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


優勝の副賞……それは海辺の温泉旅館にご招待。なんて豪華なんだろうか。というわけで、僕の運転で……え、中学生?

大丈夫大丈夫、こういう時のために第一種忍者資格、取っておいたんだから。いろいろフリーになってるのよ。

なお僕とリインは固定で……うん、当然だね。チームメンバーだもの。それにフェイトと、アイリと恭介を加えた家族旅行。


一応赤ちゃん連れなのも宿泊先に伝えたけど、感じのいい女将さんで安心していた。

そして到着したのは青い空と海の広がる世界。アイリ達にとっては初めての海です。そして合流したセイ達は。


「いやっほぉぉぉぉぉぉぉ!」


というかレイジは、楽しげに海へ飛び込んだ。アイリ達が揃って両手で顔を押さえるけど、レイジは気持ちよさそうにすぐ浮上。

その音、その様子を指の間から見た二人は、楽しげにパチパチと拍手する。

まだ夏前だけど、日差しもさほど強くないから……二人も緩い感じで楽しめるね。うん、いい事だ。


「う……なんだおい! ここの水しょっぱいぞ! どうなってんだ!」

「海なんだから、当たり前だろー」

「そうなのか? ……海、すげぇな!」


セイのツッコミも軽くすっ飛ばし、レイジはバシャバシャと泳ぐ。ただセイは軽く疑問顔。大尉は笑って受け入れてるけど。


「ははははは! レイジ君、海で泳ぐのは初めてかね!」

「こんなしょっぱいのはな!」

「ラルさん、恭文さん、しょっぱくない海ってあるんですか」

「コロニーならあるかもしれんが」

「若しくは……ほら、レイジって王族だから、海と思えるほど広いプールでしか泳いだ事がないとか」

「なるほど、そういう考え方もあるか。しかし、改めて思うが謎も多いな。レイジ君には」


確かに……アリアンなんて管理・管理外世界はなかったし、あのテレポートの謎もある。

セイに渡したっていう石絡みもあるんだろうけどさ。まぁ、そこはいいか。

興味はあるけど、今はレイジが楽しそうってのがなによりだよ。そうだよね、初体験はどんなものでも楽しいものだよ。


「恭文さん、信じてるんですか!? レイジが王子だって話!」

「セイ、世の中なにがあるか分からないんだよ? それに『ない』って否定するより、『あるかもしれない』って思った方が楽しいでしょ」

「ははははは、確かにな。しゅごキャラもいるくらいだ」



そこで大尉は大きめなお腹を揺らし、僕の周りにいるシオン達を見やる。なおヒカリは早速イカ焼きにかぶりついていた。


「そ、そりゃそうかもしれませんけど……異世界って」

「セイさんは頭が固いですね。タケシさんならすぐ受け入れますけど」

「まぁ父さんなら……ちょ、待って! シオン、父さんと会った事があるの!?」

「あるもなにも、恭文がバトルしてな。まぁ私達が生まれる前の話だが……もぐ」

「ヤスフミにとって、タケシさんは尊敬する大人でありファイターなんだよ。な、ヤスフミ」

「うん。……って、そういうのは僕が話す事でしょうが」


軽くチョップして、三人にお仕置き。全く、ペラペラと……タツヤの絡みもあるし、ここはある程度ぼかしておかないと。


「実はリン子さんの事も、軽くだけど聞いてたんだよ」

「そうだったんですか……え、母さん? なんでまた」

「タケシさん、ほら……ガンプラ作りを教えると、キャラ変わるでしょ。それでリン子さんに怒られるってよく」

「……あぁ、それで」

「お待たせ」


セイが納得したところで、三石琴乃さんボイスが響く。振り返ると……おー、きたきた。

リン子さんとチナ、フェイトにリインがお着替え終了。なおフェイトは黒ビキニで、リインは水色ワンピース。

リン子さんは白にピンクラインが入ったビキニとパレオ、チナはやや恥ずかしげにスポーティーな紺色ビキニを着こなしていた。


チナのは左の胸元に、白い猫マークが入っていてチャーミング。し、しかしリン子さんが凄い。

フェイトと同レベルのスタイルって……そしてリインがアピールするように、笑って一回転。スカート付きなのでそれも軽く揺れる。


「おぉ……フェイト、リイン、素敵だよー!」

「えへへ、ありがとうなのですー♪ リインだって負けてないのですよー!」

「リン子さん……! 素晴らしくお似合いです!」

「ありがと、ラルさん! でも……フェイトさんの隣っていうのはちょっと恥ずかしいわー。とっても奇麗だもの」

「そ、そんな事ないです。リン子さんも、その……よし、がんばろう」


フェイト、そこでガッツポーズはしないで。あのね、不安になる。めちゃくちゃ不安になるから。

なおセイはジト目……視線の先には大尉がいた。大尉、ずっとリン子さんにくぎ付けだから。

まぁタケシさんもいるから、息子としては複雑だよねぇ。そんな視線に気づいた大尉、一歩下がって右手を挙手。


「……分かっています」

「でも私、チナちゃんの水着もすっごくかわいいと思うなぁ……ね、セイ?」

「えぇ!」


リン子さんはチナの両肩に手を添え、視線でプレッシャーをかける。これは……褒めろというサインか! また強烈な!

チナもセイの評価が気になるみたいで、伏し目がちに。でも視線はやっぱりセイに向いていた。


「あ……!」


セイもプレッシャーに気づき、しどろもどろに。両手をまるで蛇の足<セルビエンテ・タコーン>みたいにバタバタさせ始める。


「なんていうかその……材質が良いっていうか! あ、ディテールが細かいって言うかぁ!

「……ガンプラじゃねぇっつーの」


結果、リン子さんがぼそっと……これはバッドコミュニケーションだね、分かります。


「セイさんにはがっかりなのです」

「初対面なのにがっかりされた!?」

「「あう……あー」」

「ちょ、君達までー!」

「しょうがないなぁ。じゃあ僕がお手本を示そう」


そう言うとみんなが身構えるので、すかさずリインに注目する。


「リイン、その水着、リインの髪の色と合ってるよね。翻ると水着と髪の青がキラキラ輝いて、眩しく見えるよ」

「えへへ、そう言ってもらえると一生懸命選んだ甲斐があるのです。嬉しいのですよー」

「フェイトも……やっぱりフェイトはスタイル凄いから、シンプルな方が逆に迫力あるよね。うん、その方がフェイトの魅力がよく分かる」

「う、嬉しいよ。毎日一緒にお風呂とか、添い寝は普通だけど……魅力的に感じてくれるって事は」


そこでフェイトがブツブツと自分の世界へ入り込む。顔を赤くし、もじもじするフェイト……なんて可愛らしいんだ!


「まぁこんな感じだね。ディテールが分かるなら、あとは本人との合わせてどう思うかを伝えればいいのよ」

「え、委員長は……母さんは褒めないんですか?」

「……セイ、アンタ」

「ちょ、なに! みんなで僕を見ないで! 母さん、その悲しげな顔はやめて! 出る!
海の水よりしょっぱいのが、僕の目から溢れるから! 刻の涙が見えちゃうから!」

「おーい、みんな泳がねぇのかー」


そこでレイジが戻ってきた。まぁ泳ぎもせず、遊びもせず固まって談義してるしね。気にならないわけがない。


「ねぇねぇレイジ君、チナちゃんの水着……どう思う?」

「え、どうって言われても……ん?」


レイジは前のめりになり、リン子さんの胸を凝視。その上でチナを見る。……僕とセイ、大尉は凄まじく嫌な予感に襲われた。

次にレイジはフェイトとリイン、またリン子さんを見て、リイン……フェイトを見てからチナ。

全員の一部分をじっくり見比べ、どんどん疑問の色を強めていく。ちょ、やめろ……それは。


「気にする事ねぇよ!」


そしてこの笑顔でサムズアップ……である。レイジはチナに、そしてリインに全力の慰めを送った。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「地雷原に飛び込んだぞぉ!」

「馬鹿かおのれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


そして僕と大尉達は恐怖に陥り、レイジから慌てて離れる。……次の瞬間、鬼の形相でチナとリインが踏み込み、馬鹿な男に天誅を下した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイジはボコボコにされた……というか、あのリインちゃんがやたらと強かった。遠慮なく投げ飛ばしたし。

さすがは恭文さんの妹、ただ者じゃなかった。……僕はそんなレイジを引っ張り、砂浜近くにある磯場へ。

母さんは委員長とリインちゃんの三人で、楽しくビーチバレー。恭文さんとフェイトさんは双子の子守り。


興味津々な二人と一緒に、海辺の小さな変化を一つ一つ楽しんでいた。僕もあんな感じだったのかなと、ついほころんでしまう。

そしてラルさんは体に砂をかぶって、蒸し風呂状態……でも気持ちよさそうにしてるよ。

ただ蒸し風呂にするのもアレなので、僕の方でグフボディに改造したけど。道行く人がぎょっとしているのは、ちょっと楽しかったり。


「……僕ら、本当に優勝したんだね」

「お前、またかよ」

「ありがとう、レイジ」

「なにがだ?」


若干呆れられているけど、気にせずにお礼。青い空に広がる入道雲を見上げながら、素直な気持ちを送る。


「僕のガンプラが優勝するなんて、レイジがいなかったら考えられなかったから」

「なに言ってんだよ、まだぼけてんじゃねぇか。……世界大会ってヤツが待ってんだろ? ビシッとしろよ、ビシッと!」

「あぁ、そうだね!」


レイジと二人見上げる空――改めて、世界大会という未知の舞台に思いを馳せる。

――それからしばらくし、日も暮れ始めたので旅館へ移動。名前は竹屋旅館……なんだけど。


「随分ボロッちぃな」


レイジが失礼だけど、確かにその通りだ。破損しているような箇所が玄関先に見受けられるし、落書きっぽいのもある。

恭文さんも変なものを感じてか、周囲を警戒し始めた。


「おかしいのです。パンフレットには高級旅館って書いてたですけど」

「だ、だよね。ヤスフミ」


広さはそこそこで、二階建ての本館もそれなりの大きさ。なのに……でも母さんはそれに構わず、内玄関を開く。


「旅館の良しあしは、外見じゃなくて中身よ。……ごめんくださーい」

「はいはーい!」


あれ、この声……左側の廊下から飛び出てきたのは、青いハッピを着た……マオ君!? 母さんと委員長、ラルさんと一緒に目を丸くしてしまう。


「ようこそ、おこしやすぅー」

「マ、マオ君!?」

「どうして、ここに」

「なぁ、誰だ。セイの知り合いか」

「選手権の第五ブロックで優勝した、ヤサカ・マオ君だよ」

「あぁ、おのれが珍庵さんの弟子だっていう」


そうそう、ガンプラ心形流の……って、恭文さんは知ってた!? ……いや、当然か。ラルさんとも知り合いだし。


「おぉ、そう言うそちらさんは第二ブロック優勝者の、蒼凪恭文さんやないですか! お噂は師匠からかねがね」


やっぱり……! そこで恭文さんとマオ君の間に、鋭い視線が幾度も交わされる。これは間違いない、ファイター同士の威嚇。


「マリュー・ラミアス友の会では、師匠が大変お世話になっているそうで! 大変でしょう、師匠は基本エロじじいやし!」

「いやいや、お世話になっているのはこちらの方だよ。珍庵さんは変わらずかな」

「それはもう! この間もみかんでマリュー・ラミアスのオパーイを再現しとりました!」

「そりゃよかった」


間違っていたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ついショックで地面に崩れ落ちてしまう。

というかおかしい! マリュー・ラミアス友の会ってなに!? そこで盛り上がる前に、ガンプラで盛り上がろうよ! ガンプラで!


「えっと……ヤサカ・マオ君?」

「はいー。あ、あなたはフェイトさんですな。初めましてー」

「あ、ヤスフミ……というか珍庵さんからなんだね。初めまして。それでえっと、マオ君も優勝者という事は……副賞で?」

「その通りです。他のブロック優勝者は、別の日にくるみたいですけど」

「……それで、どうしてハッピかな」


おぉ、フェイトさんが実にまともなツッコミを! そうだよ、これだと店員だよ! どう見ても……あ、まさか。


「マオ君、またバックパッカーでお金がなくて……それはないかー。副賞だものね」

「さすがにないですわ。いや、その……実は」

「ヤサカさん! なにを」


そこで右側の廊下から、黒髪ロングの女の子が登場。年の頃は僕達よりちょっと年上かな。

ライトグリーンの着物を凛と着こなし、でも物腰は柔らかい感じ。彼女はこっちを見て、慌ててお辞儀してくる。どうやら旅館の関係者さんみたい。


「気づかず申し訳ありませんでした!」

「あぁ、お気になさらずに」

「ここはワイに任せてください」

「ヤサカさんもお客様なんですから、お部屋でゆっくりなさってください」

「そんな硬い事言わんで! ワイ、ミサキちゃんの力になりたいんです!」

「お気持ちだけで、結構ですから」

「やらしてください! ……ワイ」


マオ君は必死に食い下がったかと思うと、ミサキさんという人に背を向けもじもじしだした。え、これなに。


「ミサキちゃんと一緒にいたいんですぅ」

「相変わらず、強引だな。マオ君は」

「でもいいわねぇー」

「青春なのですよー♪」


え、ラルさんと母さんは納得? リインちゃんまで……ちょ、なに! 一体なにが起こっているの! 教えてー!


「セイ、アイツ……本当に世界大会に出場すんの? 冗談だろ」

「ちょ、レイジ!」

「……言わはりますなぁ」


あぁ、マオ君が戦闘態勢を! もじもじしなくなったよ! すっごい陰湿に睨んできたし!


「アンタがレイジはんやったか、冗談かどうか試してみます? ……この旅館にはバトルシステムも置いてありますし」

「おもしれぇ……!」


そして二人は怪しく笑う……でもそんな中恭文さんはガン無視で、右手で挙手。


「とりあえず上がらせてもらってもいいですか?」

「あ、はい! こちらへどうぞ!」

「ヤ、ヤスフミー! 止めなくていいの!? 喧嘩は駄目だよ!」

「いいのいいの。すぐに仲良くなるよ」

「ふふ、そうね。セイもそうだったし」

「あは、あはははははは」


それを言われるとなぁ。ただ直接対決はやらないかも。……世界大会でっていう約束もあるしね。

だけどこの旅館、やっぱり御用達って感じなんだ。表向きの荒廃っぷりはちょっと気になるけど、胸がワクワクしてきた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


夕闇が差し込む和室――窓際の和椅子に座り、ビルドガンダムMk-IIの調整。なお僕達は男部屋と女部屋に分かれている。

いや、さすがに委員長と一緒に寝泊まりは、ちょっとなぁ。予備ライフルにヤスリをかけ、調整……そんな僕をレイジが呆れ気味に見ていた。


「部屋についた途端、これだよ」

「マオ君と再会し、ガンプラ魂に火がついたようだな」

「ま、優勝ボケでにやけてるよりはマシか」

「確かに……世界大会まで後ニか月しかないからな。どれ、ひとっぷろ浴びてくるかな」

「オレも適当にぶらついてくるわ」

「いってらっしゃいー」

「「聴こえてたのか!?」」


いや、当たり前だよ。同じ部屋なのに……凄まじく驚いているなぁ。とにかく二人を見送ってから、またヤスリがけ。

ビルドガンダムMk-IIもいい感じに仕上がっている。ビルドストライクの修復も進んではいる……だけど。

胸の中で渦巻いている不安、それを払えなくて実は悩んでいた。なにかが足りない、そう思い始めている。


でもこの旅館、大丈夫なのかな。ちょっと窓から見たら、壊れた灯籠とかがあるんだけど。

手入れしていないというより、誰かに壊されたような……いや、それを修理していないならやっぱり?

……そこで部屋のふすまがノックされる。あれ、このシルエットは……障子越しに影が見えるんだよ。


「はい」


声をかけると、恐る恐る委員長が入ってきた。


「あ、委員長」

「ごめん、邪魔しちゃって」

「ううん、大丈夫だよ」


一声かけ、委員長を招き入れる。向かい側に委員長が座っているけど、調整はまだ続ける。


「なにしてるの」

「ライフルを少し改造してるんだ」

「へぇ……カッコいい」


面取りをし直したおかげか、ライフルのエッジは際立っていた。それを見て褒めてくれるので、釣られて笑っちゃう。


「でもイオリくんのガンプラ、もうちゃんとできてるのに」

「できてるだけじゃ足りないよ。……ユウキ先輩にも負けたし、このままじゃ世界大会もかなり危うい」

「え……! ど、どうしてかな。だって優勝したよね。それにイオリくん、前に今のありったけを詰め込んだって」


あれ、僕はどうしてこんな話を……話題を変えようかと思ったけど、委員長は気になると言わんばかりに詰め寄ってきた。

近づく距離にドキドキしながらも、ビルドガンダムMk-IIを見やる。本体も取り出してたんだ。

でも夕焼けに染まる機体を見てると、ユウキ先輩が辞退した直後を思い出す。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくんがとても苦しげに、新しいガンプラを見やる。動いていた手を止め、夕焼けに晒されながら……でも見ていない。

夕焼けだけじゃなくて、現実にあるものを見ていない。もちろんわたしも……それが、たまらなく寂しい。



「それでも、足りないんだ。ユウキ先輩のザクアメイジングは、世界大会に出場したガンプラ。
それに負けたって事は、ビルドストライクは……僕のガンプラは、世界大会では通用しないという事になる」

「そんな……考え、すぎじゃないのかな。ユウキ会長がすっごく強かっただけで」

「先輩だけの話じゃない。世界レベルのガンプラはプラフスキー粒子の特性を知り尽くして、独自の改造を施している。
……いっつも大会を見る側だったからね、そこはよく知っている。でも……通用すると思ってた。ファイターが、レイジがいればって」


でも違うらしい。一生懸命作ったのに、あんなに強いのに、それでも駄目なの。どうしてかな。

イオリくんはすっごく頑張っているのに。それでも届かないなんて……なにか、できればいいのに。

わたしはやっぱり無力なままだった。お母さんにも頑張るべきだって言われたのに、旅行にも誘ってもらえたのに。


「それって、難しいの? 今までのじゃ、駄目なのかな。だって一生懸命作ったんだもの。それで駄目なんて」

「駄目だと思う。それに一生懸命なのは……みんな同じだから」


気休めにもならない言葉を紡いでも、届かなかった。それでどう言っていいか迷っていると、イオリくんが慌て始める。


「……って、ごめん! 変な話しちゃって! つまらないよね!」

「う、ううん! そんな事ない! それは……ないから」


必死に取り繕って、二人で慌てて……それがおかしくて、一緒に笑っちゃう。この時間はやっぱり、とても大事。

でも悔しさは残り続ける。わたしは踏み込んでも、どうにもできないところがある。そこは認めなくちゃいけないのに……それがたまらなく悔しい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


アイリと恭介はごきげんそのもの。初めての海に触れて、いつも以上にはしゃいでるもの。

ただ……そんな二人をフェイトに任せ、影で頑張っていた臨時スタッフに声をかける。楽しそうな事をしているので二人で作業開始。

壊れていた灯籠や縁側を手早く直し、次は壁の補修作業。落書きをこれまたパパっと消し去り、二人でニコニコ。


「恭文はん、ありがとうございますー。でもお客さんやのに」

「それはおのれもでしょうが。……まぁあれだよ、僕もフェイト相手にそういう努力をしていた時期があって」

「つまり……先輩ですか!」

「そういう事だな。しかし驚きだ……お前、普通にオレ達見えてるんだよなぁ」

「ガンプラ心形流ですから!」


わーお、理由になってないよ。でもあふれる説得力だよ。


「それに珍庵さんには、京都へ行った時ちょくちょく世話になっていてね。その弟子が頑張っているなら、見過ごせないでしょ」

「師匠には感謝せんといきませんなぁ。ちなみにお世話というのは」

「あんみつを奢ってもらってる。毎回払うって言ってるんだけど、遠慮されちゃって……フェイトもバタバタするのよ」

「あはははは、それは受け取ってあげてください。師匠なりの見栄ですから」

「――ヤサカさん!?」


あのミサキという若おかみが影から登場。バケツを持って物憂げだった表情は、奇麗になった壁と僕達の存在で一気に明るく、驚いたものになる。


「それに蒼凪さんも!」

「ミサキちゃん!」


その瞬間、僕とシオン達は一歩後ろに下がる。ほら、二人の邪魔をしないようにね。

臨時スタッフ……マオも笑顔で立ち上がり、若おかみへ近づく。


「あの修理、もしかしてお二人が」

「応急処置程度です」

「ごめんね。でもああいうの、どうしても見過ごせなくて」

「そういう事は私がやりますから」

「えぇからやらせてください」

「でも、お客様ですし」

「大丈夫です!」


……なんか大事な感じなので、更に下がる。するとマオはハッピの右側を開き、タンクトップの紐を見せる。

いや、性格にはそこへかけていた工具箱をだ。デザインナイフにやすり、瞬間接着剤までばっちり入れてあった。


「ワイ、世界一のガンプラビルダーになる男ですから!」


自信満々の断言に驚くも、若おかみは徐々に破顔。根拠も、理由になっていないような言葉。

それでもその差し出された善意が嬉しいらしく、二人を確かに繋いでいた。お邪魔かと思いそっぽを向いていると、車の駆動音が響く。

左側の裏口から慌てた様子で、銀色のワゴンが入ってきた。更に急ブレーキ……すぐに進行方向上から退避。


車はそのまま壁すれすれで急停止し、運転席から紫色の着物を着た、四十代くらいの女性が出てくる。顔立ちや髪などは若おかみによく似ていた。


「お母さん、どうしたの!」

「ミサキ……お客様を連れて、ここから離れて!」

「もしかして、またアイツらが!?」

「いいから早く!」


そこで走る嫌な予感……慌てて玄関側へ走ると、ちょうど出てきたレイジが目を丸くしていた。

それもそのはず。真正面から減速もなしで、普通トラックが突っ込んできていた。レイジは慌てて右へ飛び、その突撃をすれすれで回避。

結果トラックは玄関を破壊し、そのまま内部へ乗り上げる。その振動で木造の旅館が大きく揺れた。


……少し間を置いて響く鳴き声……頭が痛くなりながら、そのトラックへゆっくり近づく。

すると中から明らかにチンピラな奴らが二人。そしてドズル閣下そっくりな、紫スーツの巨漢が出てきた。


「おい、危ねぇじゃねぇか! ……なんとか言えよ!」

「ガキは黙ってなぁ」


ドズル似の男は、レイジを睨んで威圧。それから気にした様子もなく、トラックの二台をパンパンと叩く。

それで何事かとリインにセイ、チナとリン子さんも飛び出てきた。僕の後ろからマオと若おかみ達も登場。

ドズル似の奴は、紫着物の人――お母さんって言ってたから、女将さんだね。その人に侮辱の視線を向けていた。


「すまんな女将、ブレーキの利きがよくなかったみたいだ。……しかし旅館がこの有様では、当分営業はできそうにないなぁ。
どうだ? いい加減我々に、旅館の権利を譲る気になったかい」

「この旅館を買い取る? ふむ、これは……もぐ」

「典型的な地上げのパターンですね」

「悪い事は言わん。旅館の権利を売るんだ」

「何度来ても同じです。この旅館は先祖代々受け継いできたもの、あなた達のような人たちに売ったりはしません!」

「そうよ帰って!」


大体の事情は察したので、そそくさと前に出る。すると僕を邪魔者だと、取り巻きの一人が前に出てきた。


”ヤ、ヤスフミ……これなに! 地震!?”

”地上げ屋がトラックごと突っ込んできた”

”えぇ! ……あ、もしかして庭とかがボロかったのって!”

”鎮圧するから、アイリ達の事はお願いね”

”わ、分かった!”

「そうそう、とっとと罪を認めてお縄についた方がいいと思うなぁ。じゃないと」

「……ち、おいガキ! 引っ込んでろって兄貴が言っただろうが!」


近寄ってきた手下その一に対し右アッパー。それだけで取り巻きは顎を砕かれ、高く舞う。

そして男は左肩から落下し、骨の砕ける音も響く。おー、悪い音だねー。健康的な生活をしておくべきだよ。


「……警察には、一生治らない傷と一緒に行かなきゃいけないよ」

「てめぇ……ふざけやがって!」

「全員その場を動くな。僕はこういう者だ」


第一種忍者の資格証を見せると、ドズル似の男と生き残った取り巻きが仰天。

ついでにリン子さんや女将さん達もびっくり。まさに気分は黄門様だよ。


「な……! 馬鹿な! てめぇみたいなガキが第一種忍者だと! 兄貴!」

「と、というか恭文君……これ、年齢が!」

「諸事情あって、小学生からやり直してたんです。内緒でお願いしますね?」

「ち……構う事はねぇ! ガキ一人だ、やっちま」


ドズル似の男がそんな事を言いかけ、フリーズ。……僕がお怒りなのはよーく理解できたらしい。

体から放出した殺気、僕の視線を受けて奴らは一歩……また一歩と後ずさる。


「ひ……! あ、兄貴ぃ!」

「やめろ、なにもするな! てめぇ、なんだ。その目はまるで、人斬りじゃねぇか――!」

「失敬な。お前らチンピラとは、くぐってきた修羅場の数も、レベルも違うだけだよ」


軽くハッタリをかますと、奴らは観念した様子を見せる。うんうん、素直なのはいい事だ。僕もこれ以上無駄な血は流したくないし。


「へぇ……ヤスフミ、お前すげぇな! 殺気だけで止めやがった!」

「ありがとう。さてお前ら、まだやる? もちろん」


両手で飛針を取り出す。逃げようとした奴らの顔面すれすれを狙い、投てき――結果奴らの頬を抉りつつ、飛針は地面に突き刺さった。

流れる血、肉を引き裂いた痛み、決して消えない傷……まるで獣が、獲物に目印をつけるが如き行動。

今のを遠慮なく投げつける、そんな僕の行動に奴らは恐怖し、尻もちをつく。


抵抗する様子もない自分達に、死ぬかもしれない攻撃をした……その事実は理解を超え、混乱までも引き起こす。


「逃しはしないけど」

「……恭文さん、待ってください!」

「そ、そうです! イオリくんの言う通りで……暴力は駄目です!」

「チナさんは黙っているのです。これは恭文さんのお仕事で、鎮圧行動なのですよ」

「だがチナ君の言う事はもっともだ」


じゃあ……と思ったところで、新しい気配が登場。旅館の中から、何事かと出てきたその人は。


「喧嘩はいかんぞ、喧嘩は」


浴衣姿な大尉だった。それで大尉は、尻もちをついたあの男に厳しい視線を送る。


「大尉、邪魔しないでくださいよ」

「安心しろ、私は奴に言っている。……久しぶりだな、辰造(たつぞう)」

「大尉……ラル、大尉!」

「いや、灼熱のタツと言うべきか。貴様……こんなところでなにをしている!」


やっぱり……大尉だけじゃない、セイも気づいてたから、慌てて近寄ってくる。そして大尉の怒号で、タツは顔を背けた。


「ラルさん、というかセイさんも知り合いなのですか?」

「ちょっと違う。灼熱のタツ……三年前の世界大会に出場していた、ガンプラビルダーだよ。テレビで見た事がある」

「そうや、ワイも思い出しました。そんな通り名のビルダーが確かにいましたわ。……それがなんで地上げ屋なんてやっとるんや!」

「なにがあった、辰造。ガンプラで世界中の人々を熱狂させてきたお前が……なぜ」

「昔の事をペラペラと……!」


タツは立ち上がり、悔しさと屈辱に震えながら絶叫する。落ち目な自分を見られた恥辱、それが魂を震わせていた。


「これが今の! 俺の商売だ!」

「……ヤスフミ、こりゃ」

「ガンプラバトルは趣味の領域……世界大会と言っても、スポンサーがついている人なんてほどんどいない。つまりは、そういう事だよ」


趣味だからこそ、本職が傾いたら余裕もなくなる。トオルがそうだったし、タツヤもその辺りがあるから悩んでいた。

こういう仕事でしか生きていけなくなった、それは哀れだ。でもね……!


「だったらそれを止めるのが、僕の商売だ。……お前がどういう奴かなんざ、正直かけらも興味がない。
今大事なのはたった一つ。お前がただの、薄汚い犯罪者に成り下がったって事だけだ。じゃあ早速」

「待ってください!」


そこで間に入ったのはセイだった。僕に両手を広げ制止してから、タツへと振り返る。


「ガンプラで勝負しましょう!」

『……はぁ!?』

「あなた、ガンプラビルダーだったんでしょ!? なら、ガンプラバトルで決着をつけようじゃないですか!」

「そうや! ワイらが勝ったら、二度とミサキちゃんたちの前に現れるな!」

「ちょ、マオさんまでなに言ってるですか! 決着ならもうついてるですよ!」

「……いいだろう」


そこでタツは立ち上がり、楽しげに笑ってきた。更に倒れた手下へ近づき、抱え起こす。


「ちょっとだけでいい。時間をもらえないか」

「通報して、警察が来るまでの間なら。それでいい?」

「構わない。ガンプラは、トラックの中だ」


リインに視線で合図すると、早速トラックを捜索……かなり大きめなトランクケースを持って出てきた。


「これですか」

「そうだ。安心しろ……女将、こうなっちまった以上もうここには手を出せねぇ。だがガキども、どうしてだ。なんでバトルなんか、今更」

「ガンプラを……世界大会までいけるほど愛している人が、本当に悪い人とは思えないんです!
もし忘れているなら、思い出してほしい! ガンプラバトルをして……輝いていたあなた自身を!」

「ワイはアンタのためやない。これで出所して、逆恨みでもしたらかなわんからなぁ。勝って駄目押しがしたいだけ……それだけや」

「ほんと……なんなんだよ、お前らは」


こうしてやる意味のない、無駄なバトルは始まる。でもそれはあくまでも大局的に、情勢的にだ。

セイが、マオが感じ取ったなにか……それを引き戻すためなら、きっとこれにはやる意味がある。なので僕も参加しようーっと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


旅館内にあるゲームコーナー……そこには、本当にバトルシステムが置いてあった。卓球の代わりにガンプラバトル、これ如何に。


≪――Plaese set your GP-Base≫
 

ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――City≫


ベースと僕の足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。今回はどこまでも広がる市街地だった。


≪Please set your GUNPLA≫





指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が僕の前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


『行くぜ! セイ! マオ! ヤスフミ!』

『うん!』

『はいな!』

「OK」

「リインも忘れるなーですー!」


リインが膨れる中、二人でガンプラを――今回使う機体を見やる。それは大会が終わって、大急ぎで作りなおしたガンダムAGE-1。

背部の大型MDユニットは取り外したけど、内部機構を煮詰めて新しい要素も詰め込んでいる。

それとシールドがない事以外は、AGE-1FWリペアと同じ。シールドは今、新しいのを調整中でねー。


さぁ、それじゃあ行こうか。AGE-1の復活劇……スタートだ。


≪BATTLE START≫

『ガンダムX魔王!』

『ビルドガンダムMK-II!』

「ガンダムAGE-1リペアII」

『行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


アームレイカーを押し込み、カタパルトを滑って飛び出す。……が、その直後に嫌な予感が走る。

警告音より早く反応し、左斜め上へ退避。その直後、二百メートルほど先にある大型ビル中心部が融解。

半径五十メートルほどの、すい星の如き粒子砲撃が飛び出してきた。


『え……!』

『なにぃ!』


慌ててビルドガンダムMk-IIも、ガンダムX魔王も退避。砲撃は高層ビル街の真上を突き抜け、そのまま遥か後方に着弾。

フィールドの半分を紅蓮に染め、空の色にまで影を落とした。リインもさすがに驚き、口をパクパク。


『なんて火力や……!』

「く……あの大きさからおかしいとは思ってたですけど!」


リインは慌ててコンソールを叩き、ズーム画像を展開。……そこにいるのは、緑色の殻を被った、横に広がる巨体。

中心部にはザクの頭部があり、その真下にはイエローの巨大砲口。あのフォルム、見間違えるはずがない。


「あれは大型強襲モビルアーマー……アプサラスIIIか!」

『その通り……これが世界を席けんした、究極のガンプラだぁ!』


◆◆◆◆◆


アプサラスIII(アプサラススリー、APSALUS III, APSALUS THREE)

この機体はOVA『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』に登場する、ジオン軍が開発した試作型モビルアーマーである。

これはジオン公国に不利な戦況を覆すべく、ジオン軍技術士官『ギニアス・サハリン』が発案したアプサラス計画に基づく兵器である。


地上基地からミノフスキークラフトを用い、防空ミサイル等の攻撃の及ばない成層圏まで上昇。

その後地球連邦軍の本部ジャブロー上空に降下、強力なメガ粒子砲で奇襲攻撃を掛けるという妄想とも解釈できる壮大な計画であった。

アプサラスIIIはアプサラス型の完成型として製作された。実験機であったアプサラスI及びIIのデータから、数々の改良が施されている。


まずミノフスキークラフトに大電力が必要であったが、ジェネレータの発電能力が足らず、出力が不安定であった。

しかしアプサラスIIIではミノフスキークラフトをニ基装備させ、更に電力はリック・ドムのジェネレータ三基分を搭載する事で解決。

横長なだ円型の機体に、下部には球状の構造物(ミノフスキークラフト)が左右にニ基。


中心に実験機と同じようにメガ粒子砲と、その上にザクIIの頭部がある。通常は浮遊して移動する。

しかし位置を固定する際には、球状の構造物を途中に付けた、細長い足のような降着脚をニ本、補助として後方にもう一本伸ばし、先端を接地させる。

なお、アプサラスIII下部にブースターユニットを装着し、成層圏まで上昇させる案も存在していた(パーフェクトアプサラス)。


また、アプサラスIIIを構成するモジュールには、ALI AladdinIV、AMD-K6+、BSD、Cyrix6x86MX、DirectX SDKなどの名称が付けられている。



◆◆◆◆◆


火力は随一……機動性もミノフスキークラフトがあるから、俊敏とはいかなくてもそれなり。でもモビルスーツには敵わない。

だけど世界大会出場者のガンプラだ。まずはけん制射撃から……アプサラスは設置脚を展開し、機体を固定。

機動戦を挑める状況じゃないし、迎え撃つつもりか。なので僕達は距離を詰めつつ。


『ずう体がデカイからってぇ!』


ビルドガンダムMk-IIは大型ライフルを、ガンダムX魔王はシールドバスターライフルを構え連射。

僕もドッズライフルを構え、渦巻くビーム粒子を三連射。……でもその全てがザクグリーンなボディに到達した瞬間、弾かれ霧散する。

ビルドガンダムMk-IIのライフル射撃も、設置脚を狙ったガンダムX魔王のビームも、直前で発生した粒子フィールドで防がれてしまう。


『弾かれただと!』

『く、Iフィールドかい!』

『そんな……公式設定では搭載されていないのに!』


砲口内で火花が走り、それが収束――再び砲撃が飛ぶので、僕達は散開。

一発、二発とギロチンバーストが続き、平和な街がどんどん焼かれ破壊されていく。


「どうなってるですか、あれ!」

『間違いあらへん……プラフスキー粒子を変異させ偏向! 粒子ビームをはじき返しとる!』

『そうか、これがセイの言っていた……!』

『あのガンプラは間違いなく、世界大会を勝ち抜いた人のガンプラだ!』


ビームを避ける事自体は難しくない。でも不用意な接近は避けたいところ……そう、接近すれば破れるかもしれない。

粒子弾丸や砲撃を弾くだけで、ビームサーベルなどは違うかもしれないから。ここは原因もある。

ビームというのは……まぁ作品ごとに設定が違うけど、水鉄砲に例えられる事が多い。


縮退したビーム粒子を、水鉄砲みたいに吐き出すんだよ。逆にビームサーベルはそれを固定化し、剣としている。

だからIフィールドなども、ビームサーベルには通用しないってのが……でも接近をためらうのは、僕達が世界大会をちゃんとチェックしているせいだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガンプラバトルと聞いてわけ分からなくて、慌てて階下へ降りる。するとバトルスタート……なおアイリ達はとっても楽しそう。

とりあえずラルさんから大体の事情は教えてもらったけど、どういう事なの。

こ、これもトランザムっていうのかな。だってあれもビームを弾いたりしてたし……ふぇー!


「ラルさん、どうしてセイ達のビームが弾かれたの!?」

「ガンプラの表面に特殊加工を施して、プラフスキー粒子を変質させているのだ。
あれではアプサラスIIIと同レベルの火力でなければ貫けない。……さすがは辰造、手ごわい」

「そんな悠長な事を言ってる場合じゃ!」

「じゃ、じゃあえっと……そうだ、近づいて斬ればいいんだよ! ヤスフミ、なにやってるの! 飛び込んでー!」

「……あう」

「ああー」


あれ、アイリ達がすっごく残念がってる! どうして! 私、間違った事は言ってないのにー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ギロチンバーストを避けていくと、次は拡散メガ粒子砲……まぁあれだ、ショットガンみたいな感じだよ。

ただし一発一発の大きさは、AGE-1の全長くらいあるけど。しかも出力・範囲ともに大きいからほぼマップ兵器。

レイジは、マオ君は、恭文さんはそれをなんとかすり抜けるけど、一発当たれば即終わりな状況。


高火力・重装甲なモビルアーマーに、長期戦はどう考えても不利なのに。レイジは下の道路すれすれを飛び、アプサラスの足元からライフル連射。

でも駄目だ。変容フィールドによって、関節部までもきっちりコーティングされている。この作り込み、半端なさすぎる。


『ちょこまかと……!』


そこでアプサラスの機体下部から、ピンク色の粒子が放出。レイジは嫌な予感が走ったのか、反転してマオ君達のところへ機体を戻す。

でも吹き出す粒子からは逃げられず、機体が僅かに巻き込まれる。……その時、ダメージ警告が表示された。


「な……!」

「セイ、どうした!」

「機体表面が僅かに溶け出してる!」

「はぁ!?」

「まさか粒子変容によって、プラスチックや塗装に侵食しているの!?」

「そんなのアリかよ!」


だとしても触れただけでこれなんて……そもそもアプサラスはどうして大丈夫なんだよ!

戸惑いばかりが強くなる。燃え上がる街――灼熱の地獄に閉じ込められた僕達は、ガスを振り払いながらなんとか下がる。

でもそこで頭上に反応。見上げるとそこには、壺形の小型メカ……円形のそれは底から針金を幾つも射出。


そうして着地した僕達を閉じ込める、即席の檻を作った。こ、これは……どうして! 公式設定じゃあ搭載してないのに!


「アッザム・リーダー(磁場発生装置)!?」

「なんだこりゃ!」


レイジがライフルで撃ち抜こうとした瞬間、アッザム・リーダーが起動。形成された放熱磁場によって、ガンプラの動きが戒められる。


『く……!』

「くそ、動かねぇ!」

「まずい……さっきのガスはこのためだったんだ!」


放熱磁場による圧力、それがガンプラの装甲を痛めつけ、亀裂を生み出していく。く、これじゃあこっちの強度対策は無意味だ!

アッザム・リーダーは、初代ガンダムに出てきたモビルアーマー【アッザム】が装備している特殊装置。

対象に電磁波を浴びせ、高熱……最大四千度にするとともに、電子回路にダメージを与えて破壊するという兵器だ。


だから灼熱……もしかするとプラを溶かしかけた変容粒子も、酸というよりは高熱なだけかもしれない。


「何か手はないのかよ、セイ!」

「ちくしょお……!」


分かっていたのに、ここにくるまでなんの対策もできなかった。これは、そういう事なのか。

僕のガンプラは、僕のありったけは、ユウキ先輩に……世界に届かない! やっぱり、このままじゃ駄目なんだ!

もし恭文さんがいなかったら、きっと旅館の事も諦めてくれなかった! そうしたらこの旅館は……ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


なにか方法はないのか……そんなのは僕が聞きたい! でも考えろ、考えるんだ!

今できる事を、全力で! どうすれば勝てる! どうすればこの戒めから解放される!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そんな……イオリくんのガンプラが。マオくんのガンプラが……どうして。あんな小さなものが、どうして壊せないの。


「イオリくん!」

「どうして……ラルさん、どうして壊せないんですか! ライフルを向けて、ちゅどーんってすれば!」

「そうよ! おかしいじゃない!」

「アッザム・リーダーによる放熱磁場、それが生み出す圧力のせいだ。アレでは機体駆動による解除は無理だろう」

「そんな……!」


世界大会に出ている人だって、そう言ってた。でもあんな事するなら、きっとイオリくんが、レイジくんが勝つって思ってた。

マオくんや恭文さんも強いし……なのに、負けるの? そこでさっき、イオリくんが吐き出した不安を思い出す。

あれは、本当だったの? どうして……どうしてなの。イオリくんは一生懸命頑張ってる。


なのに、それで届かないなんて。今だってあんなに必死に……そんなの嘘だって思いたくて、首を必死に振る。


『無駄だ、この灼熱地獄からそう簡単に逃れられない。……ちくしょお』


でもそこであの人は、涙をこぼしていた。もうすぐ勝ちそうなのに、後悔の……懺悔(ざんげ)の涙を流して、震えていた。


『こんなに、楽しいのに……楽しかったのに! 俺は、俺は一体なにをしていたんだぁ!』


……そこでフィールドに渦巻くビーム粒子が一つ走る。それはあの壷型メカを横から撃ち抜き、あっさり破壊する。





でも解放されたのはイオリくんのガンプラだけ。マオくんは……ううん、マオくんは大丈夫。

体中のキラキラ光るパーツが、ひときわ強く光る。それだけでワイヤーの檻が、あのメカがねじれて吹き飛んだ。


『な……! お前達、どうやって!』

『馬鹿だねぇ。おのれ、世界大会に出たなら分かるでしょ』


そうしてゆっくり、あのAGE-1が現れる。そうか、さっきのビームは……!


『トーナメントってのは、対策されるの前提で勝ち抜くものだってさ』

『恭文さん! え、でもどうやって!』

『ガスが出た時点で、範囲外に逃げてたの。アッザム・リーダーも撃墜してたから、遅くなっちゃったよ。ごめんね』

『いえいえ、えぇタイミングです。しかし粒子変異でビームを弾く技術が、自分だけのもんやと思うとんのかい……おっさん!』


マオくんのガンプラはビームライフルを捨て、光を放ちながら一番近いビルの上へ。そうしてあの大きいガンプラと真正面から向き合う。

距離は二百メートル以上離れている感じだけど、マオくんは動かない。にらみ合って、逃げる必要がないと言わんばかりに停止している。


『楽しいなら続ければえぇやろ! 罪を償って、やり直して!』

『ふざけるな……今更、今更戻れるわけがない! 俺の人生はもう、壊れちまったんだ!』

『そんなわけない! 思いだせ! 世界大会の途中……ガンプラが壊れた時、アンタはどうしてた!』

『!?』

『そうや、直してた! 作り上げて、壊して、それでもまた直して……失敗もあった! 無理かと思う時もあった!
でもそうして、アンタは自分の心を形にしていった! そのアプサラスかてそうや!』


マオくんのガンプラが背負っていた、白い翼が開く。その中から体についているのと同じ、キラキラとしたパーツが現れた。

それがX字を描くと、一際光が強くなる。あれって、サテライト……っていうのかな。決勝戦でもカトウさんが使ってた。


『アンタはやり直せる! もしアンタの心に一かけらも光がないっちゅうなら……これを道標にせい!』

『馬鹿な、月も出てないのサテライトシステムなど』

『ワイを誰やと思うとんねん!』


どうやらサテライトっていうのは、お月様がないと駄目みたい。でも翼はより強く光り輝く。

その光は全身にも回って、まるでマオくんのガンプラがお月様みたいになっていった。


『ワイは世界一のガンプラビルダーになる男――ヤサカ・マオ! ガンプラ心形流の正統後継者や!』

『お前……珍庵の、弟子か!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


サテライトキャノンというのは、ガンプラバトルにおいてもかなり不便……フィールドに月がないと撃てないのよ。

でもガンダムX魔王は違った。自ら月光の力を放ち、展開するサテライトキャノンにそれを込めていく。

タツも焦りながらチャージ……くるよ、最大出力の砲撃が。でも逃げない、マオは決して引かない。


マオにとってこれはただのバトルじゃなかった。ガンプラを通し、僕達はタツの『形』に触れた。

だからマオは放っておけないと思った。光がないなら、自分が光になると。不可能なんてない――限界もない。

自らそれを超えて、道を指し示そうとしていた。だから、逃げる理由なんてなかった。


月はいつでもそこにあった。少なくともマオにとって月は――光は、待ち続けるものじゃなかった。


『ガンダムX魔王――ワイの心を形にしたガンプラ。もしこの灼熱の嘆きを、この男の痛みをほんのひとかけらでも分かるなら』


そうして放たれるアプサラスIIIの砲撃。やっぱりすい星の如く巨大で、鮮烈な一撃だった。

『力を……貸せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


収束された月光は叫びとともに放たれ、それを真正面から迎え撃つ。戦略級と戦略級の砲撃……絶対的な矛が衝突する。

その余波は炎を、未だ残っているビル街をなぎ払い、フィールド全体に破戒の風を生み出す。

本来なら決着をつける事すら憚れる、矛の衝突。その圧力はガンダムX魔王本体をも傷つけ始める。


各部リフレクターはひび割れ、地理となって剥がれていく。少しずつ、少しずつガンダムX魔王から輝きが失われていった。

でも、あえて……あえて言おう。惚れた女の子のために……月光すらも届かない世界で、苦しんでいる男のために、あの男はこん身の力を放った。

その前向きな気持ちが、ただの絶対に負けるわけがない。……アプサラスの砲撃は散らされ、動かぬ巨大の右サイドへ衝突。


粒子変容フィールドが大きく展開し、サテライトキャノンによる一撃は散らされていく。

それでも……その思いを拒絶する事などできず、変容フィールドは突き破られ、本体に大きな穴ができる。

……膝をつき、停止したガンダムX魔王はその場へ残し、僕は加速。ようやく復帰したセイ達も飛び上がり、後を追ってきた。


『みなさん!』

『任せろ!』

『任せて!』

「一気にいくよ!」


すかさずチャージされ、放たれる拡散メガ粒子砲。でもそれからは逃げずに、各部DODSジェネレーターを回転。


「セイ、レイジ! 僕の後ろへ!」

「ドッズフィールド、展開なのです!」


四肢と胴体部、バックパックに仕込まれたパーツが急速回転し、その回転エネルギーがAGE-1に更なる出力を与える。

それを胸元の砲口パーツから吐き出すと、ピンクの粒子が渦巻きながら障壁となる。

本当なら見せるつもり、なかったんだけどねー。マオに煽られちゃったよ。……展開した障壁は、まき散らされた拡散粒子と衝突。


でも揺らぐ事なく、その回転によって全てを散らしていく。そうして真正面から、最短距離で突撃。


『回転する粒子で、ビームを弾いている……だと! 馬鹿な、そんな事で!』

『レイジ、マオ君の開けた穴に!』

『おっしゃ!』


次のチャージまでが勝負……ビルドガンダムMk-IIはスリップストリーム状態に置かれ、その加速は僕から離れても継続。

そのままサテライトキャノンによってできた損傷箇所へ、ビームライフル二丁を突きつける。

僕はドッズライフルを左手に持ち替え、右拳を引く。……今度は機体自身を回転させ、フィールドと合わせてより強いDODS効果を生み出した。


回転――無限の力を生み出す方程式。その力を全て拳へと凝縮し。


『食らいやがれ!』

「さぁ、お前の罪を数えろ」


振りかぶっていた右のアームレイカーを突き出しながら、アプサラスの砲口へと飛び込む。


「衝撃の――ファーストブリットォォォォォォォォォォォォ!」


連射されたライフルの弾丸達は、内部機構に重大な損傷と圧力を与える。それを真横に感じながら、砲口パーツ内部に拳を叩きつけた。

そのまま内部パーツを砕きながら突き抜け、後部装甲を突き破り脱出。するとアプサラスは内部からいびつに膨れ上がり、爆散。

その炎を、残滓を払いながら、僕達は焦がされた空の下……勝利の雄たけびを上げる。


≪BATTLE END≫


消えていく粒子……湧き上がる喜びのままに、リインとハイタッチ。


「やったわ! セイたちが勝った!」

「ヤサカさん……!」

「ありがとう、みなさん!」

「いえいえ。こっちこそワイらのわがまま聞いてくれて、ありがとうございます。……さて」


そう、まだだ。でもタツは……大丈夫みたい。両手をベースにつき、ボロボロと泣いていたから。

それは負けたから悔しいんじゃない。もしかしたら、壊れた今を直せるかもしれない。そんな希望に気づけた、嬉しさの涙だった。


「……大尉」

「なんだ」

「俺は、やり直します。少しずつでも、壊れた今を作り直して……いつか、また」

「月は出ているようだな」

「はい……!」


――手下の奴ら共々、この後すぐ届いた警察に三人は引き渡す。なおタツの自白と証言により、街の悪い奴らが根こそぎ一掃。

天網かいかい疎にして漏らさず、悪の栄えた試しなし……その件から、タツの刑期が短くなるけど、それはまた別の話とする。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


大変だった翌日……なお玄関先などは、恭文さんがこっそり直していた。いや、本当にびっくりしたんだよ。

どうやって直したのかと聞いたんだけど、全然教えてくれなかった。もしかしたら忍者の秘術かもしれない。

そう納得し、朝一番……僕達は旅館の玄関先で、車に乗ったマオくんをお見送り。滞在、今日までだったんだって。なおまたバックパッカーです。


「ほな、一足先に失礼させてもらいます!」

「マオ君」


そこでミサキさんが涙ぐみながら、静かにお辞儀。


「昨日は本当にありがとう……また絶対に遊びにきてね」


更に笑顔でそう言われて、マオ君は本当に嬉しそうな顔で、何度も、何度も頷いた。


「もちろんきます! 来年も、再来年も、予選に勝って絶対来ます!」

「うん、待ってる!」


それで車が出ようと……って、ちょっと待った! 僕も聞きたい事があったんだ!


「そんな事よりマオ君!」

『そんな事!?』

「……セイ、アンタ後で説教だから」

「リン子さん、リインも付き合うですよ」


あれ、なんか敵意を持たれてる! 委員長も視線が厳しいんだけど! え、どうして!

今はもっと大事な事がある……そうだ、みんなも僕の質問を聞けば納得する!


「とにかく! スーパーマイクロウェーブ装置もないのに、どうしてハイパーサテライトキャノンが撃てたの!」

「……私も、ちょっとお説教に参加していいですか? その、あの勢いを見てると自分の馬鹿だった頃を……うぅー!」


フェイトさんが泣いてる!? あれ、どうして! 敵意がより強くなったんだけど! みんなは気にならないの!?

そうだ、ラルさんなら……顔を背けられたー! そんな、嘘だと言ってよバーニィ!


「セイはん、頑張ってください。あと……それは言えません。門外不出です」

「……うん!」


それも世界大会でまた……って感じかな。ワクワクしながら走りだした車を見送ると、なぜかレイジに肩を叩かれた。


「セイ、ガンプラより大事な事も……きっとあると思うぞ」

「いきなりなに!?」

「当たり前だぞ! オレだって空気を読んだんだぞ!? 対戦するって言ったのによ!」


あー、言ってたねー。え、それが空気を読むって事は……よし、なにも知らなかった事にしよう。

うん、そうしよう。じゃないと説教されるだけで泣いちゃいそうだ。


「と、とにかく今はガンプラだって! ……帰ったらすぐ新作に取りかかる。昨日の負けで思い知った」

「負け? 勝っただろうが」

「負けだよ。僕はビルダーとして、辰蔵さんにも、マオ君と恭文さんにも……負けたんだ」


自嘲の笑みを浮かべながら、見えなくなった車を――そこに乗ったマオ君を思い出す。やっぱり今のままじゃ足りないんだ。

レイジは僕のために、必死になって特訓してくれていた。そうして強くなってくれた。

きっとこれからも……僕も強くならなくちゃいけない。そうしなきゃ、レイジの努力も無意味になる。


空は昨日と同じように青く澄んでいるのに、今の気持ちはとても憂鬱なものだった。……変われるのか、僕は。


(Memory34へ続く)







あとがき


恭文「というわけで今回はアニメ第七話『世界の実力』が元になっています。そしてAGE-1が復活!」

リイン「でもまだ本仕様じゃないのです。追加武装があるですよね」

恭文「うん。それも合わさって、新しいAGE-1も完成って感じかな」


(まぁ追加武装と言っても、新しいシールドですけど)


恭文「というわけでお相手は蒼凪恭文と」

リイン「リインフォースIIなのですよー。えっと、恭文さんがいたのと、世界大会出場者というところも込みで」

恭文「いろいろ変化していたりします。具体的にはマオの男っぷりが上がる感じで」

リイン「それはそうと恭文さん、セイさんは大丈夫なのですか」


(実際を知って、わりと煮詰まっています)


恭文「知らない。だって次回は出番ないだろうし」

リイン「投げやりなのです!」


(むしろ問題は次々回です)


リイン「まぁそっちは愛の力でなんとかなると信じて……えへへ、久々に恭文さんと旅行なのです。楽しいのですよー♪」


(ぎゅー)


リイン「ん……やっぱり恭文さんのぬくもり、ドキドキが嬉しいのです」

恭文「よしよし……なので離れて」

リイン「どうしてですか? リイン、やっぱり子どもっぽいから嫌なのですか」

恭文「首、決まってる……!」

リイン「あ、ごめんなのです!」


(首は蒼い古き鉄でも弱点です。そして今回のサブタイ、ガンダムX最終回からとなります。
本日のED:ROmantic Mode『DREAMS』)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イギリス――我が愛すべき祖国へ戻り、一年が経過しました。ここは歴史あるだけでなく、ガンプラバトルも盛ん。

それも世界大会の常連であるジョン・エアーズ・マッケンジー卿のご活躍があればこそ。

マッケンジー卿――准将は二代目メイジン最大のライバルであり、ガンプラ塾最強と謳われたあの方の祖父。


わたくしもイギリス貴族として、ガンプラビルダーとして常々尊敬しております。

……そのジョン・エアーズ・マッケンジー卿もイギリス第一ブロックを突破。

第二ブロックもわたくしが制して、これでイギリスの世界大会出場者は出そろいました。


でもそんな中気になっていたのは、あの小さな殿方。今年の世界大会に出場すると聞いて……庭先でお茶を飲みつつ、またそわそわ。

そんな様子をメイドのチェルシーに笑われ、つい膨れてしまいます。


「お嬢様、蒼凪恭文さんも無事予選を突破されたご様子です」

「そうですか」

「データはこちらに」


チェルシーからタブレットを受け取り、試合映像を確認……クロスボーン・ガンダムの改修機体、ですか。少し残念に思ってしまう。


「……『蒼い魔導師』ではないのですね」

「そのようです」

「できればまたアレと戦いたかったのですけど、致し方ありませんわね。ですがこれで、ガンプラ塾トーナメントでのリベンジが果たせそうです」

「それでしたら、大会でなくてもよろしいのに」

「こういうのは舞台が大事なのです。晴れ晴れとした大舞台で、劇的に再会して……こらチェルシー、どうして笑うのですか!」


青い空の下、幼なじみ兼親友でもあるメイドにからかわれ……それでも世界大会への準備を着々と進める。

待っていなさい、蒼凪恭文。宣言した通り、家の名誉にかけて今度こそ勝ってみせます。


(おしまい)





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あきゅろす。
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