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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Stage11.1 『その男、多忙につきVer2019/PART1』

「笛の音を聞いちまった奴らは、次々伝染し吹き鳴らすか。ゾッとしねぇな……」

「そしてその笛は、CPも吹き鳴らしている」

「ぶぇ!?」


僕もフェイトに倣い、お茶を一口……している間に、フェイトがギョッとして吹き出しかける。

……その辺りの解決策もそろそろ提示していかないと、ヤバいかもよ……魅音。


「ど、どういうことかな! だって……卯月ちゃん達は!」

「そこはおのれも知っていることでしょ。みく達の立てこもりなどのトラブル……その庇い立てで、CPは社内に歪んだ規範を刻んだ。
今西部長があそこまで馬鹿なのも、その規範によって失った信頼やら、統制を取り戻そうとするがゆえだ」

「最初は部門内に融和と理解を望んだ。
それがはね除けられ、査問委員会でも否定されたので……最高権力者に縋った。
ところがそれも、庇った当のCPによってはね除けられた……潰されて、しまった」


海里もやりきれないという様子で、眼鏡を正す。


「ここまでの状況……その発端は、全てCP。
会長達が猛省したところで、歪んだ規範を持ち込んだ罪は消えないわけですね」

「あの、だから……そういうのはないと思うんだ。もう卯月ちゃん達も強くなったし」

「だからおのれはアホなのよ。
……ただの一部門のユニットが、落ち度アリとはいえ最高権力者をたたき落としたのよ?
そうなったら社内の構図としては、CPが一番強い存在になるでしょうが」

「それって……前に、言っていた……!」


そう……勝利することもまた、規範を刻む行為。

なんにせよCPは、当初危惧していたとおり……一応の勝利者になってしまった。


「もっと言えば、美城の改革を望む常務派の筆頭として……そういう感じになるのかな」

「唯世の言う側面もある。……今はまだいい。その常務とも方針が微妙に食い違うところはあるし、そこの決着点も出ていないから。
でも……その内容次第によっては、CPはまた美城を歪める病巣たり得る」

「だからあの、それも……今の卯月ちゃん達なら、大丈夫ってことにならないかな。
……うん、そうだよ。みんな頑張っているし、支配者になるつもりもないなら、きっと周囲も分かってくれて」

「そうやって理解を押しつけていたら、結局今西部長と同じでしょ」

「それは……」

「…………そう、時間は残されていないってことだね」


唯世の言う通りだった。


「CPは……今西部長や会長は、自分達だけが勝者となろうとした。
人情だとか、融和や理解とか、そういうことを言って……会社の仲間を蔑ろにしたせいでな」

「だからここからは、自分達が歪めたルールを壊す戦い……。
それに勝てなければ、島村さん達は文字通り支配者となります」

「……だが、どうすりゃいいんだよ……! それじゃあ舞踏会で成果を出しても、意味がねぇよな! 結局勝者が一番ってことになる!」

「でも出さなきゃ、卯月達もアイドルの未来が壊される」


今西部長が一番恐れたのは、それだ。

だからシアター計画にも粉を出してきた。会長を利用する形でね。

日高舞という伝説……その威光に依存していたのも事実だけど、それ以上に自分が生み出した歪みのことだった。


「ううん、本当の意味で……アイドルになれないって言うべきかな」


CPは今西部長という権力者の庇護を受けることで、犯したミスを帳消しにした。

今西部長は、会長という最高権力者にすがりつくことで、やっぱり自分が生み出した歪みをなかったことにしようとした。

会長は日高舞という伝説をアイドル達に後追いさせることで、失ったものを取り戻そうとした。


経緯は違えど、そのスタートはやっぱり……CPだ。

故にCPには、それを払う義務がある。責任がある。


……その精算をするときは、本当に……もうすぐかもしれない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ライトアップされる中、ゆっくりと振り返り。


「えー、テレビを見ながら食事をする人、いらっしゃいますよね。
お風呂の中で雑誌を読む方、いらっしゃいますよね。ただ……僕からのお願いです」


右手で胸元を叩(たた)き、つい不敵な笑みを浮かべてしまう。


「人を殺すときくらいはどうか、殺人に集中してください」




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編

Stage11.1 『その男、多忙につきVer2019/PART1』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


早朝――シャワーを浴びていたところに、かかってくる一本の電話。


「はい、由良です」


それに応対してから居住まいを正し、ここ≪井沢(いざわ)ホテル≫のレストランへ。


「由良様、おはようございます」

「おはようございます」


スクランブルエッグを食べ、コーヒーを飲み、新聞でチェックするのは都議会委員≪岩田大輔≫氏の報道。

不倫疑惑をすっぱ抜かれたのには苦笑しつつ、食事を終えて改めて自室に戻る。

……その途中、眼鏡・黒髪オールバックな男性と……岩田さん本人と、エレベータールームで遭遇。


彼は朝から疲れ切った表情を見せ、僕の隣に立つ。その無駄な時間が嫌で、またボタンを何度か押してしまう。

二人して同じエレベーターに入ってから、長くはない上昇時間を共有。


「一緒にいるところを、見られたくないんですが」

「今日のことで……相談が」

「……後で部屋に行きます」


そう言って同じ階で降り、少し離れた別の部屋に入る。それから僕は準備を整え、すぐに……人気には気をつけた上で、岩田さんの部屋に。


「今朝の報道は……」

「新聞で拝見しました」

「家内のところにも、レポーターが押し寄せている。もう最悪の事態だよ……」


彼はいわゆる小心者の類いで、立ち上がりそわそわそわそわ……その様子につい苦笑が漏れるが、何とか右手で隠す。


「この時期に記者会見など開いて、やぶ蛇にはならないのか」

「なるほど……隠せば隠すほど、大衆は妄想を膨らませるものですから」

「そういう、ものなのか」

「むしろ思い切って、大衆の前に出てみるべきでしょう。……この際認めましょう、一切合切を」

「ちょっと待て!」

「愛人の存在を認めた上で、公人としての自分をアピールするんです」


慌てて席に戻り、問い詰めようとする彼を宥(なだ)める。


「……大衆を馬鹿にしてはいけません。彼らは本能的に知っているんです――女好きだがやり手の政治家と、身持ちは堅いが無能な政治家。
そのどちらがこの国には必要か。というか、そもそも法律で認められているでしょ、ハーレムは」

「政治家がやるのは前代未聞だぞ!?」

「最初は誰でも前例がないものです。それに……例えば第七回ガンプラバトル選手権」

「それは……」

「日本(にほん)第二ブロックから初出場を果たしたチームとまと。メインファイターの蒼凪恭文君。
彼は若いながらも朝比奈りん、三条ともみ、ほしな歌唄、セシリア・オルコット――有名アイドル達や女性ファイターとハーレム状態です」



夏頃に世界中を賑(にぎ)わせた大イベントだが、その中で……今の岩田氏を説得しうる人間を発見した。彼には悪いけど、少し利用させてもらう。


「しかしファンからもその恋愛事情は応援されているし、修羅場を演じればなぜかほほ笑ましく見られる。
それはなぜか。彼が女性達を蔑(ないがし)ろにせず、潔く現状を認め、その上で彼女達の将来や仕事を尊重しているからです。
……分かりますね? 認めることはマイナスではありません。これはむしろチャンスと思ってください」


というわけで、メモ帳にしたためておいた原稿を手渡す。その中身を見て、岩田さんはギョッとするわけで。


「スピーチ用の原稿です」

「こ、こんなことを言ったら、反感を買うんじゃ!」

「この国の政治家に足りないのはユーモアです。会見までに覚えてください。
暗記しながら話すのと、メモを見ながら話すのとでは、聞き手が理解する情報量も三倍ほど違うそうです」


念押しで笑顔を送り、戸惑う岩田氏には『以上』と告げる。……するとテーブル上に置いたスマホが鳴り響くので、取って応対開始。


「はいもしもし、由良です」

『朝早く申し訳ありません。346プロの千川と申します』

「あぁどうも」

『今日お約束いただいた、クローネのデビューライブ企画打ち合わせですが、少し変更がありまして』

「はい」


手帳を取り出し、予定変更。メモを取り出し、千川さんの言葉を記入していく。


『時間等は変更なしですが、クローネチーフプロデューサーの武内も常務と御一緒に伺います。そちらは大丈夫でしょうか』

「問題ありません。……それと企画書はできています。
お昼にお届けしますので……恐らく、期待にはお応えできると思いますよ」

『ありがとうございます。常務と武内チーフプロデューサーにも、そのように伝えます。
では、またお昼に』

「はい、よろしくお願いします」


電話を終了――しかして丁寧な応対だな。会議場が変更になっただけで案内とは。

まぁ346プロがかなりの大型ビル群だし、それも鑑みてのことだろう。その気づかいには感謝しなくては。


「相変わらず忙しそうだな」

「では、僕は失礼します」


呆(あき)れるような岩田さんの声には、笑顔を返し立席……そのまま部屋を出ていく。


「……例の件はどうなった」


だが、そこで足が止まってしまう。


「……例の件?」

「君には申し訳ないが、あれじゃあ話にならん。失敗するのは目に見えている……君らしくない」

「その点については、異論はありますが」

「とにかく確実性のない事業に、投資はできない。君には悪いが……規模を縮小しない限り、私は手を引く」


この男は小心者だ。自分より弱い立場の人間には、とことん高圧的。いや、小心者だからこそ……だな。

自分が強いと、自分が勝っていると確信しないと、安心できないのだろう。その様子をあざ笑いながらも振り返り。


「今は御自分の心配をなさった方がよろしいかと。失礼します」


一礼した上で、改めて退室……。


「他に、会見で気をつけることは! レポーターにツッコまれたときは、どうすればいい!」


……本当に弱い男だ。あれだけ説教を垂れた後にこれか……予測はしていたので、奥の手を切る。


「そのときは奥の手を」

「奥の手!?」

「得意のスペイン語で押し通してください」

「スペイン語!?」

「けむに巻くのも一つの方法です。下手なことを喋(しゃべ)って、足下をすくわれるよりはずっとマシです。……テレビ、楽しみにしてますよ」


そう言って今度こそ立ち去り、僕も仕事を始める。荷物を持ってロビーに出たところ。


「由良様!」


総支配人が背筋を伸ばして駆け寄り、一礼。それには礼節を持って返す。


「おはようございます!」

「おはようございます」

「本日を持ちまして、当井沢(いざわ)ホテルは創立十周年を迎えることとなりました!」


携帯を取り出し弄(いじ)りながら、予定の連絡先を確認……よし。


「おめでとうございます」

「あ、例のイベントなんでございますが……今夜九時からの予定でございます。由良様の御予定は」

「夜は部屋で仕事をしています」

「かしこまりました」


総支配人には行ってきますと言った上で、ホテルのメイン玄関を抜けながら電話開始。


「あぁ由良です。遅くなりました」

「由良様、いってらっしゃいませ」


そうしてまた、めまぐるしい日が始まる。リムジンの中で商談を三つほどこなし。


「おはようございます」

「おはよう」


オフィスで出迎えてくれたのは、秘書の篠田さん。新聞を受け取りながら、いつものように軽やかな挨拶を交わす。


「十二時から346プロの美城常務が。そちらはチーフプロデューサーの武内氏達も同席するとのことですが」

「クローネ補佐役の千川ちひろさんから連絡をもらったよ」

「はい。それと十四時からは門松書店の新雑誌企画会議。
十六時からはCXで新番組の企画会議があります」

「了解しました」


篠田さんは更に僕宛(あ)ての手紙も渡してくれた上で、お辞儀して退室……邪魔をしないよう、静かにドアを閉じる。

ここが僕の城……僕の主戦場。まぁ、外にいることも多いんだけど。


とにかく篠田さんが出てから、後ろのダイヤル式金庫を解錠。

慎重に黒いバッグを、中に入れられたケースを取り出し……中身を確認。


……黒塗りの拳銃……自分のやろうとしていること、その先の未来を想像しながら、覚悟を決める。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――十二時の打ち合わせを終え、それなりの手ごたえを得た上で移動。十四時――門松書店本社へ。

担当者の佐田さんは打ち合わせ室のセッティングをしつつ、岩田さんの記者会見を見ていた。


「おはようございます」

「おはようございます。……始まったところですよ、岩田議員の記者会見」

『――話は最後まで聞きなさい! 不倫した事実は認めますが、私はだからと言って責任を取らないとは言いません。
ハーレムをしないとは言いません。政治を疎(おろ)かにした覚えはありません。議会でうたた寝をした覚えもありません。
彼女のベッドで……彼女より先に眠ったことはありますがねー! あははははー!』


そうして会見場内で起こるブーイング。……それはそうだ。日本人が嫌う政治家、そのままの姿をやっているんだから。


「こんなことやったら、嫌われるだけなのにねぇ。ハーレムだって一般的じゃないってのに」

『――――――! ――――――――――!?』

「……何を言ってんだ、この人」

「スペイン語ですね。ある意味自殺行為ですよ」

「議員をやめて、ハーレムを頑張るってことかなぁ」

「だとしたら男らしいですけどね。……始めましょうか」


――時は金なりとよく言ったもので。悩みが尽きることはない中でも、精力的に仕事を進めていく。

十四時の会議も上手(うま)くいき、十六時の企画会議も……まぁ宿題を抱えた上で終了。


リムジンに乗り込んで早々、篠田さんにその辺りを連絡しておく。


『お疲れ様です』

「お疲れ様。明日までにCXの石丸さん宛てに、新番組の企画書を届けることになりました。
至急で悪いんだけど、あとで僕が話す内容を文章に起こして、適当に纏(まと)めてくれるかな」

『分かりました』

「二十一時に、ホテルに電話を」


そしてその日の夜――聖夜市にある井沢(いざわ)ホテルへ戻り、自室≪二〇〇九号室≫にて準備開始。

用意した九ミリ口径のピストルを構え、狙いをしっかり定める……本来なら夜の闇と言うところだろう。

だが今はカーテンを閉じていた。これを見られると、完全犯罪以前の問題だしね。


そうしていると電話が鳴る。

午後九時……実行のタイミングを知らせる音。備え付けの電話を取り、応対。


「由良です」

『篠田です。お疲れ様です』

「お疲れ様です。あぁ……今シャワーを浴びていたので、一分後にかけ直す」


電話を切り、さっとコートを羽織って……手袋もしっかりチェック。


(……よし)


それから左手で携帯を操作し、通話開始――。


「由良です。いや、悪いね」

『大丈夫です。あ、こちらはいつでも大丈夫ですので』

「ありがとう」


……ホテルのカメラ体制はチェック済み。現在の基準に比べると甘いものだから、僕の姿が取られる心配はない。

あとは人に見られるかどうかだ。慎重に部屋を出てから、ドアノブに『起こさないでください』と札をかけておく。

人の気配はなし……急ぎ足で。しかし篠田さんに悟られないよう、努めて冷静に左へと進んでいく。


「……CX用新番組企画その一。
ドラマの要素、その一つとして”業界もの”という言葉があります。
今回私どもが取り上げてみたのはタクシー業界です。現在タクシー業界は実に多様化しています。
本業は別に持っていて、副業としてタクシーを運転している人が非常に多い」


事前に考えていたアイディアを話しながら、一歩一歩身を切られる思いで進み……数百メートルの距離を踏破。

二〇〇一号室に到達し、ドアを軽くノック。


「例えば、コンピュータプログラマーとタクシードライバーを、一日おきにやっている人が実在しているんです」


すると中の岩田は慎重にドアを開け、僕の状況を察して無言のままに招き入れてくれる。

あんなとんちき会見をした後だから、実に憔悴(しょうすい)していた。


……そうなるように誘導していたわけだが。


「物語はタクシードライバー達の生活を描きながら、客とのふれ合いを通し、大都会に生きる孤独な人間達を描いていきます。
えー、これついでに、東京(とうきょう)で何台くらいタクシーが走っているか……参考資料としてあげといてもらえますか」


岩田はぶ然としながらもテレビを付ける。

ちょうど会見の様子がニュースでやっていて、それを見ながらも立ち上がり、備え付けの冷凍庫へ。


さっとドアを開け、ビールを取り出す。


「CX用新番組企画その二――ヒットしたドラマの大半はやはり恋愛ドラマ。
そしてシリアスなものより、よりコミカルなものが好まれるのも最近の傾向です。
例えば草薙まゆ子さんの代表作≪侍少年ナギー≫の実写ドラマ・映画版も、そういう要素が受けています。
それも原作が少年漫画にも拘(かか)わらず、それ以外の女性層……それも主婦層の受けもいい」


そういう点からも……窓際で街並みを見ていると、目に付くものがある。

向かいのオフィスビル……高層階の一角。社員らしき男女が抱き合い、熱いベーゼを交わしていた。


「そこで……今回は、かつての人気ドラマ≪奥様は十八才≫に対抗。思いっきり年齢の離れたカップルを主人公に、ドラマを企画しました。
タイトルは≪奥様は四十八才≫。
二十歳の男と結婚した四十八才の女……世間的には親子と見られているこの二人が、実は夫婦だったという意外性」


岩田がソファーへ戻る途中、僕にもビールを手渡してきた。それを右手で受け取ると、奴も自分の分を持ったままソファーに。


……そこを狙って、奴の背後から静かに動く。

ビールを窓際において、代わりにサイレンサー付きの銃を抜き、忍びより。


「主演は十朱幸代と神木隆之介でいきたいと思います。……少し長くなったけど、大丈夫かな」

『はい』

「あー、ちょっとタイム」


テレビに集中する、この不注意な男に銃口を突きつけ。


「ごほ!」


軽くせき払いをすると同時に、引き金を引く。……岩田のこめかみを撃ち抜いた弾丸は、脳内に入り込み、頭蓋の中で反射。

それで終わり……全てが終わり。彼はもう、この世にいる理由がなくなったから。


傷口から噴き出した血もかからないよう、すぐに離れつつ会話を再開する。


『大丈夫ですか?』

「ごめんね。喉の調子が悪いみたいで……ごほごほ!」


もう一発……テレビのチューナーに当てた上で、銃を岩田の手に握らせる。


『もしもし……お部屋、乾燥されているんじゃ』

「みたいだね。ちょっと待って、加湿器を付けるから」


窓際からビールを回収して、冷蔵庫に戻しておく。

携帯を持ったままだから少し面倒だけど、何とか手早く終える。

長居は無用――手早く部屋を出ようと、慎重にドアを開ける。


すると従業員の影……何やらカートの脇で作業をしている。

それも僕の部屋近くで。どうもベッドメイキングか何からしい。仕方ないので岩田の部屋に引っ込む。


「あー、お待たせしました。
……CXには三つ考えるって言ったんだけど、二つしか思いつかなかったよ。篠田さんはどっちが気に入った?」


仕方ないので死んだ岩田と……崩れ落ち、脳髄をまき散らし始めた男と向かい合い、ソファーに座る。


『私ですか? そうですね……』

「遠慮なく聞かせてよ。篠田さんの意見は信頼していますから」

『ありがとうございます! 私はやっぱり……奥様は四十八才です。話が広がって、なおかつ明るくなりそう』

「やっぱコミカルな方がいいか」

『シリアス路線って、ある程度余裕がないと見られないですし。こう、現状そっくりだと突き刺さって辛いんです』

「なるほど……」


……でも不幸中の幸いというのはあるもので。朝に渡したメモが、テーブルの上にそのまま置いていた。

危ない危ない……これが見つかると、岩田との関係がバレちゃうからな。なので岩田のライターを拝借し、サッと燃やしておく。


『あ、それと業務連絡が二つ。和光堂の御主人が明日十時、お見えになるそうです』

「あぁ、五周年の記念イベントか……忘れてたよ」


……でもなかなか燃え尽きないので、同じくテーブル上にあったペンを使い、つついてとっとと崩しておく。


『もう一つは……先日頼まれていた、346プロの内情調査結果。本日の業務終了直前に届きました』

「それで」

『詳細は書類をお渡ししてからになりますが……現在美城は、脱同族経営の動きが加速しています』

「件の美城常務は、会社を引き継ぐつもりがない」

『四十代間近で、自身にも結婚や出産の予定がないことを理由に……。
親族ともその辺りで悶着があったようですけど、今はその修正中といったところです』

「そう……じゃあ、危惧していたような不安はない感じ?」

『そうですね……表面上は、と言うべきでしょうか』


……篠田さんは気になることを、申し訳なさげに呟く。


『プロジェクトクローネの発足時、日高舞の再臨を掲げた美城会長、及び今西部長は更迭処分を受けています。
それは定例ライブ後に予定されている、株主総会での不信任案までの処置となっています』

「そこできっちり判決が下ると……篠田さんは何が気になっている?」

『今西部長の方はともかく、会長の方は……周囲に妙な動きが見られます。
多額のポケットマネーを引き出した形跡も見られますし』

「いくらかな」

『……およそ三億』

「……株を買い占めるって感じかな」

『どうなんでしょう。現時点で、美城の株は親族と美城常務に一極化しています。市場に出ているものもほとんどありませんし……』


それでも無駄な足掻きを続けている……とにかく使い方は不明ということか。


「篠田さん的には、それが不気味な感じ?」

『かなり。……やはりクローネの依頼は断るべきだと思います。
確かに美城常務や武内チーフプロデューサー、千川補佐役は信頼が置けます。
だけどクローネ……一陣営の要に深入りすると、後継者問題に巻き込まれる恐れが』

「……難しいものだ」

『そうですね……難しいんです。常務自身は緩やかな改革……自分が相応の役職に就いた上で、美城の後継者を探すつもりだったそうですから。
それが取りやめになって、流れが強引になっていますし……なにより、会長と今西部長の方が』


美城常務とは仕事を受けてから何度も顔を合わせた。厳しくはあるが、人間的にも信頼できる人だ。

武内チーフプロデューサーも、不器用さは目立つが変わらない。千川さんも明るく優しい人柄だよ。

それを……そんな人達の頑張りをダメにするトップか。彼らは会社経営には向かない人間なんだろうね。


「…………」


一瞬、三つ目のアイディアはこれでいこうかと思ったけど……やめておこう。

アイドル業界の政治劇。それに翻弄されるアイドル達の姿を克明に描くことで、夢とは何かを現代社会に問いかける……昼ドラチックすぎる。

何よりモチーフが思いっきり346プロだから、これで彼らに睨(にら)まれてもつまらない。


……時計を見つめ、いい感じの時間つぶしになったとほくそ笑む。

立ち上がり……ふと思い立って、もう一度窓枠に近づく。


「……篠田さん、三つ目のアイディアなんだけど、今思いついたよ」

『あ、はい……どうぞ!』

「ヒッチコックの≪裏窓≫っていう映画、あったじゃないか」

『えぇ』

「あれの現代版。高層ビルで夜に残って、仕事をしている男がいる。
その男はたまたま、向かいの高層ビルで起こった殺人事件を目撃する――」

『面白そうですね!』


制服を脱ぎ捨て絡み合う彼らには、惜しみない感謝を送り……改めて部屋を出る。


「篠田さんももし何か思いついたら、いつでも言ってよ。恋愛ドラマ系は強そうだし」

『月九黄金期も世代ですから、そりゃあもうー。……ただ今頭に浮かんでいるのは』

「なんだい」

『アイドル業界の政治劇……いや、346プロの状況が頭から離れなくて』

「それは今やると怒られそうだから、十年後にしよ……もしもし、篠田さん? もしもし」


従業員がいないことも確認した上で、さっと自分の部屋に急いで入り込んだ……ところで、電話を切る。


携帯を手持ち無沙汰で弄びつつも、窓の脇でスイッチオン。

自動開閉式のカーテンが開き、再び夜景を映し出す。


……すると部屋電が鳴り響くので、すぐに取って応対。


「ごめん、篠田さん。喉だけじゃなくて、電波も悪いみたいだ」

『いえ、大丈夫です。……それでしたら今日はもうお休みになられてください。明日もまた忙しいんですし』

「そうするよ、ありがとう」

『それではお休みなさい』

「お休みなさい」


短い電話を無事に終了して、行程は全て完了。現在の時刻は九時半すぎ……結構かかったなぁ。

ただまぁ、やりきった充足感はあった。あとはコスモ商会の掌握だけだが、こちらは手はずも売っているし何とかなる。


これで夢は叶(かな)う……そう思いながらソファーにもたれ掛かり、大きく息を吐いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日の昼間、不倫疑惑で騒がれた岩田代議士が会見をした。

それがまぁ、すさまじいトンチキで……僕は腹を抱えて大笑い。


「はははははははははは! あーはははははははははは! フェイト、この人面白いよ! 最高だよ!」

「ヤ、ヤスフミ……さすがに笑っちゃ、駄目だと思うよぉ?」

「いいや、でも僕は好きだなー! ……なのになんで、ブーイングしまくりなんだろう」

「……ハーレムしなかったからではないでしょうか」


あ、ジャンヌから突き刺さる言葉が……僕も……うぅ、気をつけないとぉ。それなりに顔も売れたしさ。


「でもヤスフミ、よくその、ハーレム法案が通りましたよね」

「元々日本人は、側室やらなんやらで一夫多妻制の方が歴史も深かったしね」

「そのおかげで、私達もメイドができるというわけですね」

「ありがとうございます」


ちひろさんが紅茶を煎れてくれたので、受け取り一口……うーん、アールグレイのいい香り…………って。


「………………帰ってくれます?」

「ごめんなさい、無理です……」

「恭文さん、もう言っても無駄なのでは……」

「それはそうだけどさぁ!」


そう……ちひろさんはまだ、うちにいた。

ディードが言うように、もう無駄だった。というか……というか……!


「……御主人様……今日の、ドリルは完了しました……!」

「つ、疲れたぁ……」

「はい……わたし、もう限界……」

「アーニャ、しっかりして。寝るのはその、布団に入ってから……」

「…………文学関係なら、私も力になれるので……明日も、頑張りましょう……」


そう……凛、アーニャ、加蓮、奈緒……文香も、メイド服でうちに……!


「……全て美城常務のせいだ」

「その通りだから否定できないのですよ……」

「ですが、会長も反省している様子がないとのことですし……そうでしたよね、ちひろさん」

「それに今西部長も……本当に昭和魂とやらにすがりついているようで」


ちひろさんは自嘲と悔恨を込めて、大きくため息を吐く。


………………凛達を預かっているのは、美城常務の依頼が原因だった。

臨時株主総会は定例ライブへの影響を鑑みて、その後という形になったのよ。ただ半端に期間が開いたせいで、会長達は更迭状態で宙ぶらりん。

一応社内の権限などは停止しているし、それは各所にも通達している。でも……日本一の総合芸能企業で長年勤めていた人だしねぇ。


顔パス的な影響力や、資金力もそれなりにある。それを使い、強引に自分達の我を押し通そうとする可能性もあった。

それは一極化しつつあった株の買い戻し作業も入る。だから凛達を……というか、加蓮達を預かる形になったのよ。


「でもヤスフミ、実際……そういう強引な圧力ってあり得るの?」

「実際やられたでしょうが。加蓮達が……そして間抜けにも、それを正しいとそこの馬鹿どもは乗っかった」

「「「う…………!」」」

「そして凛とアーニャについては、日高舞を象徴に掲げるリスクも最初はサッパリだった」

「「うぅ……!」」

「いろんな意味で利用されやすいから、こういう形で預かるのは……分かるけどさぁ!」

「……だよねぇ」


まぁ依頼料はそれなりにもらえるし、(魅音が)予定していた勉強会も捗っているからいいけどさぁ。


「しかしあのクソジジイ共……公安からもお説教を食らったのに、まだ納得していないとか」

≪今回は実害も出なかったから、イエローカードで留めてくれましたけど……もっときっちりするべきでしたかねぇ≫

「…………本当に情けないです」

「ちひろさん」

「私自身が、とても情けないんです。……今も、迷い続けていますから。
部長や会長は確かに強引でした。でも……もしも本当に、昭和魂とやらが必要だとしたら」

「だったらその迷いは、今すぐ払ってください」


厳しいようだけど、一刀両断するしかない……フェイトも頷いてくれたしね。


「私も、同感です。お話したように、私と友達も……同じ失敗をしました。
仲間についた嘘を、非礼を、許されて当然のものだと誇って、笑って……そうして全てを嘘にした」

「……嘘の上で何を作っても、結局嘘にしかならない」

「私の母さんはその嘘を……砂上の楼閣を守ろうとして、壊れてしまいました。
今の会長さんや部長さんも同じです」

「……そうですね」


本当にしっかりしないと――そう呟きながら、ちひろさんが頬を叩く。

そうして気持ちを入れ替え、お代わりの紅茶を煎れてくれた。


………………この同居生活も、早く解決できるようになればいいんだけど。


そう強く願った翌朝のこと……事件は、起きるのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二〇一二年・十月後半――あの暑い夏が嘘のように、冷えつつある今日この頃。

聖夜市内にある井沢(いざわ)ホテルに呼び出された。


「…………シオン、今何時だっけ」

「……朝の五時半ですね、お兄様」

「早朝手当、出るかなぁ……」

「さすがに眠ぃ……ふぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「朝食……朝食を、食べるんだ……そうすれば、目が……」


いや、ふだんは起きて早朝訓練している時間だからいいんだけど。とにかくVIPも使う豪華ホテルのロビーへ入ると。


「蒼凪さん」

「蒼凪さん!」


僕を待ち受けていたのは、聖夜市警察の西園寺さんと向島さんだった。年下な僕にも礼儀正しく一礼。


「「おはようございます!」」

「おはようございます……」

「「「おはようー」」」

「ヒカリさん達も、おはようございます」

≪それで西園寺さん、向島さんいきなりなんですか≫

≪なのなの。主様も中間試験でいろいろ大変なの≫

「あぁ……宇宙へ行ってらっしゃったとか」

「奇麗でしたよ」


……あの感動は、今なお薄れない。フェイトやアイリ達にも凄い話したけどさぁ。


「国際宇宙ステーション(ISS)から見る月は」

「いいなぁ……自分も、一度見てみたいです!」

「なら、お土産をどうぞ」


ちょうどよかったので、二人に小さな小瓶を……砂の詰まった小さな小瓶を渡す。


「これは……」

「月の砂です」

「つ、月にも行ってらっしゃったんですか!」

「足跡を刻みましたよー」

「偉大な一歩ですね。ですが、本当に頂いても」

「どうぞどうぞ。いつもお世話になっていますし」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます! 家宝にします!」


二人とお辞儀し合い、月の砂はその懐へと大事に仕舞(しま)われる。

そうして簡単な挨拶をした上で、僕達は二人の案内で上層階――二○○一号室に。


「うわぁ、また豪華な部屋……一泊何十万するんだろう」


そんな部屋の窓際とソファーに広がる血痕を見て、ヒカリが嗚咽(おえつ)……しない。


「お姉様、入ってきては駄目ですよ」

「結構グロいぞ、これ」

「わ、分かっている……分かっている……!」


そう、部屋の外で待機してもらっています。じゃないとまた、虹色のモザイクが……!


「亡くなったのは、都議会議員の岩田大輔氏です! 不倫疑惑で話題になった!」

「……あの人なんですか……!?」

「はい! え、お知り合いで」

「いえ……昨日の会見は最高だったから、これから応援しようと思っていたのに……」

「最高……ですか……!」

「……蒼凪さん、美術センスだけではなく……いえ、なんでもありません」


なんというか、いい人ほど早死にするんだなぁ。僕も気をつけようっと。


「遺体は」

「既に搬送を。そろそろテレビ局が押し寄せてくる頃かと」

「マスコミ対策はお願いします」

「心得ました。……九ミリ口径のピストルを撃ち抜き、凶器も被害者自身が握り締めていました」


西園寺さんが目配せをすると、向島さんが簡単に纏(まと)めた検証結果を出してくる。


「どうぞ!」

「ありがとうございます」


それを受け取り、ぱらぱら……ふむふむ。部屋のソファーに座りながら、西園寺さんと向島さんに確認を取る。


「えっと……銃弾は二発撃たれて、一発は有料テレビのチューナーに当たっていた。機械が壊れた時間もフロントデスクに記録……」

「それが午後九時半。死亡推定時刻もそこから判断しました。遺体からも硝煙反応は出ています」

「その時間はちょうど、昨日の会見がニュースで流れていました! 私も家内と一緒に見ていて!」

「僕もフェイト達と一緒に見て、大笑いしてましたよ。……悪いことしちゃったなぁ」


さすがに申し訳ない気持ちになっていると……ソファーの前、テーブルに置かれた灰皿が気になる。


「それと一つ妙なことが。交換の記録によると被害者は昨日、ホテルのマッサージサービスに電話をしているんですが、担当が出るとすぐ切っているんです」

「あれですか……電話はしたけど、サービスは使わなかった」

「そこが不思議なんです。それも三十分おきに五回も……どういうことなんでしょうか」


テーブルに置かれた手帳。その上にかけられたペンを持ち上げ、その根元をチェック……煤(すす)が僅かに付いてる。これでツツいて燃やしたのか。

あとテーブル上には、蓋の開けられていない缶ビールもある。それが妙に引っかかって。


「……西園寺さん、向島さん」

「はい」

「何かを燃やしていますね」

「えぇ」

「紙か何か、でしょうか」


そう、向島さんが言うように、灰皿の中には紙が燃えたようなカスが……問題はね、ただ燃えただけじゃないの。

こう、ツツきながら崩したような感じなんだ。これくらいのサイズなら、放っておけばすぐ燃えるのに。


……そこから部屋を一瞥(いちべつ)した上で立ち上がり、右側にある寝室へ。

ツインベッドの一つ……その枕元には灰皿。数本の吸い殻が置かれていたのでチェック。

吸い殻は根元まできっちりと吸い込まれ、慌てて消したような後は一本もなかった。


「……これ、他殺ですね」

「も、もう分かっちゃったんですか!」

「さすがです」

「とりあえず……ホテルの内線表、すぐに持ってきてもらえますか」


さて、あとは……内戦表の番号次第だけど。


「あと、今すぐにクリーニングの作業を止めてください」

「クリーニング、ですか?」

「……そちらも了解しました」

「お願いします。手段は選ばなくていいので」

「はい」


察してくれた西園寺さんが素早く駆けだしてくれるので、それを見送り……。


≪エンジンがかかってきましたね≫

「そりゃあもう」


アルトと一緒にお手上げポーズ。


「やっぱ人間」

≪「好きなことをするのが、一番いいね」≫

「はい!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


西園寺さんと向島さんは、今回派手に動かせない……いや、マスコミ対応が大変なのよ。

早朝ということもあって、聖夜市警察も大騒ぎだ。


なので僕も率先して歩き、広々とした朝のレストランへ。

現在は創立十周年の真っ最中で、どこの施設も活気に溢(あふ)れている。

そんな一角で静かに食事を取る、グレースーツのビジネスマンをチェック。


黒髪を品良く整え、銀縁眼鏡のその人は……スクランブルエッグを憎き敵の如(ごと)く細かく叩(たた)き、崩しながら食べていた。

その様子に確信を抱きながらも、コートを翻しながら近づいていく。


新聞片手にながら食いのところ、非常に申し訳ないけど。


「失礼します。……由良さんでいらっしゃいますか」


その人は僕を見上げ、少し怪訝(けげん)そうな顔。

でも同時に提示していた資格証によって、ある程度の警戒を解く。


「……第一種忍者さん?」

「どうも。第一種忍者のデンジャラス蒼凪です」

≪どうも、私です≫


そして頭に乗っかるアルトによって、その警戒が再燃。僕とアルトを交互に見比べ、軽く混乱に陥ったようだ。


「でん……はい?」

「コードネームです。セクシー大下さんから拝命した、由緒ある名前でして」

「あぁ……どうぞ」

「ありがとうございます。失礼します」


向かい側に座らせてもらい、サングラスを外した上で改めて一礼。


「忍者に話しかけられたのは初めてですよ」

「そうですか」

「というか君は……もしかして第七回ガンプラバトル選手権に」

「出場していました」

「やっぱり……テレビで見たよ。凄(すご)い活躍だった」

「ありがとうございます。えー、僕……実はこちらが本業でして」


なので襟をさっと正すけど、由良さんは食事体勢を特には変えない。忙しい人みたいだし、やっぱり密度濃くって感じなのかね。


「それですね、これは内密にしてほしいんですが……事件がありまして」

「事件? なんでしょう」

「都議会議員の岩田さん……御存じですよね、岩田さん」

「ニュースで見るくらいで……面識はありませんが」

「え、そうなんですか! 面識がない!」

「えぇ。何かあったんですか」

「……亡くなられたんです」


……少し黙ってみるけど、それ以上のボロは出ない。いや、今はそれどころじゃないって感じか。

ナイフとフォークで、全力でトーストを細切れにしているもの。そのままかじればいいのに。


「それで、どうして僕のところに」

「あー、そうでした。実はですね、僕……朝から何も食べてなくって」

「それはいけない。何か食べた方がいいよ」

「よろしいですか、御一緒させていただいて」

「どうぞどうぞ」


二人で挙手すると、すっとウェイターさんがやってくる。

朝も早いのに、身なりもキッチリしていて……これが一流サービスか。


「朝食を食べない人間は、食べる人間に比べて寿命が短いそうだよ」

「聞いたことがあります。六十代を過ぎてから差が出るそうで」

「そうそう。……こちらにメニューを」

「かしこまりました」

「お願いします」


ウェイターさんが去っていってから、本題に入るとする……。


「岩田さんですね、交感の記録によると、ホテルのマッサージサービスに電話をかけているんです。それも三十分おきに五回も」

「どうぞ」

「ありがとうございます」


一流サービスゆえに、ウェイターさんは即行でメニューを持ってきた。それを受け取り、さっと確認……うーん、そこそこにお高い価格。


「しかも相手が出ると切っているんです」

「……相手が出ると」

「えぇ」

「不思議ですね」

「不思議です。……モーニングオムレツセットでいきましょう」

「お兄様、価格が二千五百円なんですが……」

「場所代場所代」


オムレツとパン、サラダ、ワンドリンクでそんな価格だよ。まぁこれも忙しい人とお話しする相談料と捉えて――。


「モーニングオムレツセットをお願いします」

「かしこまりました」


さっと注文し、メニューを返した上でお話継続。


「岩田さんがいたずら電話の常習犯じゃない限りは、答えは一つですね」

「というと?」

「岩田さん、本当にかけたい相手と間違えていたんですよ。

ただ携帯電話がありますから、外ではない……ホテル内に知り合いがいたんです」


なお由良さん、今度はゆで卵に着手……親の敵が如(ごと)く、スプーンで叩(たた)きまくっていた。中身ごと潰れそうでちょっと怖い。


「このホテルではマッサージを呼ぶとき、内線で≪二〇〇≫を押すんです。御存じでした?」

「いえ、知りません」

「ではこれは御存じですか。ホテル内の部屋にかける際は、部屋番号の頭に≪五≫を付ける」

「それは知っています」

「岩田さんですね、それを知らなかったのかなと。だから何度かけてもマッサージに繋(つな)がってしまった」

「……なるほど」

「それですね、ホテルに確認をしたんです。二〇〇で始まる部屋番号に泊まっているお客さんを」


由良さんはさっとゆでたまごを崩しながら放り込み、次はコーヒー……零(こぼ)れそうな勢いで、砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。


「ただこの時期はお客さんが少ないようで、岩田さんの部屋を除いたら、埋まっているのは二〇〇九号室」

「僕の部屋」

「そうなんです」

「そういうことだったんだ」

「それで、あなたがこちらで食事をなさっていると聞いたものですから……でも、お知り合いではなかったと」

「残念ながら、面識はありません」

「そうですか」


出されていたお冷やを飲みながら、その焦るような……急ぎ足の食事をじっくり観察。


「なぜ彼が僕にコンタクトを取りたかったのかは分からないけど」

「よっぽど話したかったんですね。何しろ三十分おきに五回もかけていますから」


そうしている間にオムレツセットが届き、僕もそれをさっと頂く。


……でも、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)美味(おい)しかった……!

今度は絶対、フェイトを連れていこう。いつも育児を頑張ってくれているし、息抜きも大事だよね。


――食事が終わった後は一緒にレストランを出て、エレベーターに。

なお由良さん、エレベーターのボタンをかちかち、かちかち……何度も押し続ける。



「由良さんはずっとこちらへお泊まりに」

「仕事が重なったときは利用しているよ」

「都心部ではなくて」

「地方や都心各所へのアクセスも悪くないし、前々から仕事の絡みで付き合いがあるので」

「なるほど……じゃあこの、メディアプランナーというのは具体的にどういうお仕事で」

「そうだなぁ。イベントの企画を立て、新製品開発のお手伝いをして……ようは何でも屋だよ」


そう言いながら由良さんは名刺を渡してくる。


「何かお力になれることがあれば、いつでも」

「ありがとうございます」


そうしている間にエレベーターが到着。由良さんはその中に素早く乗り込むので、僕はお見送り。


「お気を付けて」

「行ってきます」


エレベーターのドアはすぐに閉じられ、由良さんとはお別れ……でも、そこでマスコミ対応に追われていた向島さんが走ってくる。


「蒼凪さん!」

「由良さんと被害者の関係、大至急調べてください」

「分かりました!」

「それとクリーニングは」

「ご指示通りに!」

「ありがとうございます」


……由良さんの存在が分かってから、一つ布石を打っている。それがクリーニングの件だ。

ただ現段階で、由良さんを徹底マークはできない。

なので可能性を提示し、ホテル全体を巻き込んだ上で……それが何かは、後々お話するとしよう。


「つーことは、ヤスフミ」

「間違いなく……あの人が犯人だ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで早速行動開始――訪れたのは新宿(しんじゅく)駅近くにある高層ビル。

その一角に構えている由良さんの事務所を訪ねる。

ちょうど来客中だったようで、お辞儀しながら初老の男性に道を譲る。


その上で事務所に……まずは応接ロビーか。

その奥が由良さんの個室オフィス。決してだだっ広いわけじゃないけど、必要最小限で機能的な佇(たたず)まいだ。


「失礼します」

「あの、あなたは」


すると磯野貴理子さん似の秘書さんが、怪訝(けげん)そうに近づいてくる……でも、由良さんはそれを笑顔で制した。


「あぁいいんだ。……第一種忍者の蒼凪くんだ」

「第一種忍者……えぇ!」

「すみません。二〜三伺いたいことがありまして」

「どうぞ」


改めて笑顔で入りながら、由良さんは秘書の方から書類を受け取り確認。


「ありがとう」

「和光堂の御主人にはなんて言ったんですか?」

「いつものイルミネーションでお茶を濁しといたよ」

「またビルの窓を使うやつですか」

「困ったときのイルミネーションだよりってね」


由良さんはその書類を、自分のデスクに仕舞(しま)った上で、僕に笑顔で提案。


「横浜まで出かけるんですが、よかったら御一緒しませんか」

「是非お願いします」


というわけで車移動……それもリムジンだよ! すげぇ、これが一流メディアプランナーの日常か!

この人、間違いなく僕より稼いでいる! 人生勝ち組も同然じゃないのさ!


……それなら殺人の動機もかなり薄くなるんだけどなぁ。

まぁいいや。そこも利用しつつ、まずはこの人のことを知っていこうっと。


由良さんはかたかたとノートパソコンに向き合い、流れる景色には目もくれず仕事中……一分一秒、惜しむように働き続けていた。


「いや、本当にすみません。実は……聖夜市警察の方が、あなたを疑っているようでして」

「僕を?」

「はい」

「え、岩田氏は自殺したんじゃ」


……ビンゴ。いい感じで証言を出してくれたので、調子を掴(つか)みながらも軽く拍手。


「最初はそういう見方でした。頭を銃で撃ち抜き、その銃も右手に握られていた。硝煙反応もしっかり出ました」

「ならどうして……電話の一件?」

「それだけじゃないんですよ。どうも亡くなられた直前、岩田さんは自室で誰かと会っていたようで」

「じゃあ、あれかな。アリバイ確認」

「はい。……もうこういうとき、嘱託は嫌なんですよ。面倒な嫌われ役をすぐ押しつけてくる」

「どこも同じなんだね。でもえっと、死亡推定時刻って言うのかな……それは」

「えっと」


わざとらしくへき易としながら、さっと手帳を取り出し……改めて状況確認。


「午後九時半前後ですね」

「その頃部屋で電話をしていたかな」

「どなたと」

「秘書の篠田さん……ほら、さっき会った」

「あぁ、あのチャーミングな方」

「そうそう」


由良さんは笑いながらも立ち上がり、さっと背広を脱ぐ。その上でネクタイを緩め、新しいものに締め直す。

次の準備らしい……服装まで変えて挑むとは。なんと本格的な。心理的要素ゆえかな。


「篠田さんから電話をかけてきて、僕は部屋でそれを受けた。
電話の会話は記録されているはずだから、正確な時間も分かりますよ」

「あとで確認してみます」


そうこうしている間に横浜へ到着。やってきたのは市内にあるお菓子会社――鷹山さん達に顔見せする余裕はなさそうだな。

そう思いながらも白く明るいロビーを二人で闊歩(かっぽ)。


「それで、これは個人的興味なんだけど……どうして誰かと会っていたって分かるのかな」

「最近の科学技術……その発達は目覚ましいものでして。手袋の跡が残っていたんです」

「手袋?」

「手袋をしていても”触った跡”はつくんです。
指紋のように、個人を特定することはできないんですけど」

「つまりあの部屋には、それがあったと」

「もう至る所にべたべたべたべた……由良さんもお仕事などでホテル住まいは多いでしょうけど、そういうことをしますか?」

「僕は、やらないなぁ」

「えぇ。普通はそんなことしません。
よっぽど潔癖症な人ならともかく、岩田さんにはそう言った様子もなかった」


なら、その跡を付けたのは誰か……当然岩田さん以外の第三者って話になるわけだ。


「岩田さん、夕べ手袋をした人物と会っていたんです。しかもその人物は、左手が”不自由”だったようで」

「左手が? え、それはどうして」

「冷蔵庫の中にあった缶ビール、それに手袋の跡があったんです。どういうわけか分からないんですけど、それを一度仕舞(しま)っているんです。
しかもですね、缶ビールだけじゃなく、冷蔵庫の取っ手にも右手の跡しかついていませんでした」

「どっちの手か分かるものなんだ」

「親指の位置で」


両手をにぎにぎすると、隣を歩く岩田さんも納得。二人でポスターの貼られた廊下を歩き、エレベーターに乗り、別階に上がる。

本当に足が速い……でも疲れた様子は見せず、とても精力的だった。このエネルギッシュさに少し心引かれてもいて。


「つまりですね、右手で取っ手を開け、右手で缶ビールを取り、また閉じているんです。
普通は左手で缶ビールを取る、最悪でも閉じるときに左手を使っているはずです」

「なるほど」

「一体なんの呪(のろ)いかって言いたくなるくらい、部屋の中には右手の跡が一つもないんです。
……これも一応聞かなきゃいけないんですけど……岩田さんのお知り合いで、左手が不自由な人とかいませんよね」

「蒼凪くん、もしかしたら忘れているかもしれないけど……僕は岩田さんを存じ上げない」

「いえ、岩田さんと面識がなくてもいいんです。岩田さんと面識のある人……を、由良さんが知っている場合もあるので。同じ議員の方とか」

「……君はなんというか、いろいろとズルいね」


そう言いながらも由良さんは苦笑し、自分の両手でお手上げポーズ。


「そんな知り合いはいないし、僕自身左手は自由だし、怪我(けが)もしていない。何なら調べてくれて構わないよ」

「えぇ。ただ……この場合、不自由じゃなくても問題ないかもしれないんです」

「おいおい、前提を崩すのは駄目だろ」

「崩してません。そのときだけ不自由だった……使えなかった。そういう解釈も可能なんです」

「……どういうことだい?」


少し興味が引かれたのか、由良さんが前のめりになる。なので廊下の脇によって、男二人でひそひそ話。


「――左手に何かを持っていた。だから右手しか使えなかった……それなら納得がいくんです」

「例えば……」

「携帯電話。歩きながら電話していたのなら、右手しか使えないのも納得です」


……すると由良さんの瞳が衝撃で揺れる。その、一瞬の戸惑いを僕は見逃さなかった。


「なるほど……しかし、そうなると相当大胆な犯人だね」

「えぇ。殺す直前……それどころか、下手をすれば殺している間も、電話し続けていたんですから。こうなるとプロの仕業も考える必要があります」

「……殺し屋ってこと?」

「由良さんは議員さんですから。何らかの汚職に関わった結果……と言う可能性も。
実際PPSE社は粒子関連で、行政への買収行為も行っていましたから」

「TOKYO WARやらなんやらで綱紀粛正が叫ばれ続けているのに……悲しいことだ」

「まぁ、だからこそ上もうるさくなるわけで」

「君も振り回されるわけだ。……っと、そろそろ時間だ」


由良さんは軽く会釈した上で、すたすたと会議場に歩いていく。


「あ、篠田さんにお願いして、会話テープはダビングしてもらったから」

「ありがとうございます……というか、いつの間に」

「メールしたんだ」

「納得しました」


僕も会釈を返し、その場は見送る。……さて。


≪強敵ですねぇ。あなたの融和政策もきっちり見抜いている≫

「うん。でも……敵は強ければ強いほど楽しめる。それに、ボロも出してるしね」

「ボロ? ヤスフミ、そりゃ」

「……ショウタロス先輩、よーく思い出してみろ。あの男、岩田議員が自殺だと知っていただろ」


そう、よーく思い出して……死因の話をしたとき、自分から言い出したでしょ。”自殺”だって。


「でも、お兄様は一度も……自殺だと言っていません。亡くなられたとは言いましたが」

「あ……! そ、それならネットや新聞は!」

「他殺の線もあるから、詳細は伏せている。今は急死って話になっている」

「それだけでしょっ引けないのか!」

「動機もさっぱりなのに?」


会議は二時間くらいかかるだろうから、近くの休憩用ソファーに座ってのんびり。うーん、木漏れ日が気持ちいいー。


「そう……今のままだと、動機が薄いんだよ。あの人、人生の成功者そのものだよ? なんでわざわざ殺人なんて」

「確かに、そうだよなぁ。充実したビジネスマンって感じだぞ。ここまでの地位と名誉を棒に振るわけが」

≪だったら余計に、岩田議員との関係を洗い出すことですね。そこをきっちりしないと追い込めない≫

「うん。とはいえ……そこが突破口でもあるけど」


疑われないためだろうけど、向こうは岩田さんとの関係を徹底否定している。そんな中、それが嘘だと分かれば?

あの人の証言は一気に怪しくなるよ。まぁ差し当たっては……例の電話、改めて確認を取るか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


会議は一時間程度で終わり、順風満帆で社を出る……はずが。


「お疲れ様です」

「……お疲れ」


彼は、やっぱり待っていた。まぁ一時間程度だし、仕方ないか。呆(あき)れながらもそんな彼を伴いながら、また歩き出す。


「実は一つ御報告を。お電話の件、秘書の篠田さんからも確認が取れました。あと、ホテルの通話記録でも」

「そう、よかった」

「ただ……電話の流れを確認したところ」

「何か、問題が?」

「篠田さんからかけたのは事実ですけど、あなたが携帯からかけ直したそうですね」


……そこでさっきの会話が頭をもたげてくる。とりあえずここは、軽くとぼけておくか。


「そう、だったかな……」

「そうです。ホテルの通話記録には最初にかけられたものと、一度切れて篠田さんがかけ直したものが記録されていまいた。
でも……篠田さん、すばらしい秘書さんですね」

「え、それはどういう」

「いえね、携帯からってことは、あなたはホテル内を自由に移動できるわけです。電波が繋(つな)がる限りは」

「ちょっと」

「……そう、そういうふうに疑ってしまえる。それを最初の段階で言わないっていうのは、印象が悪いんですよ。
でも篠田さんがこの段階できっちりしたおかげで、それは避けられた」


彼は笑顔で、素直に篠田さんを賞賛。それで僕の反論を合法的に封じる。


「もう感謝しています。決して愉快な話ではないのに、全面的に協力くれたので」

「……ありがとう。本人にも伝えておくよ」

「はい」


どうしよう、逆に話を逸(そ)らされた気がする。なんというかこの子は……あれだな、詐欺師になれそうで怖い。


「でもどうして携帯から? 普通にホテルの電話からでもOKでしょうに」

「そうだな……その辺りは、オフレコにしてもらえると嬉(うれ)しいんだが」

「はい」

「ホテルの電話は通話料金以外に、チャージがつく。
でも携帯は会社の物で、無料通話プランに入っていてね。……まぁ、そんなけちくさい根性だ」

「いえ、すばらしい節制意欲だと感じます。経営者の姿勢としては大事かと」

「君には敵(かな)わないな」


若いのに大した口の上手(うま)さだ。忍者よりも、僕と同じプランナーの方が向いているんじゃないか?

この調子でいろいろ企画を売り歩いて……少々詐欺的になりそうで、やっぱり怖くなった瞬間だった。


そんな未来予想図は気にせず、会社玄関へ。時間通りに待ち構えていた車に乗り込む……前に、彼に質問。


「これからどこまで? 送っていくけど」

「実は今日一日は、由良さんに付いていろと言われまして。……このまま御一緒させていただいても」

「どうぞ」

「失礼します」


この調子でどんどん付きまとわれるんだろうなぁ。まぁ仕方ない……捜査の手がある程度伸びるのは、予測していたことだ。

僕もここでへし折れるわけにはいかない。そちらが融和政策でくるなら、こちらも同じ手段でとことん対抗しよう。


この場合、いら立った方が負け……ボロを出したらアウトと考えよう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


車は横浜から青山(あおやま)へ――。

由良さんは携帯片手に、かたかたとノートパソコンを打ち込み続ける。なお、電話相手は秘書の篠田さんです。


「そう……じゃあ≪奥様は四十八才≫で決まったんだね。そう……はい……これからユニコに向かいます。
はい……あ、それと蒼凪くんがお礼を言っていたよ。捜査に手際よく協力してくれてありがとうってね。
……うん、本人にも伝えておく……はい」


由良さんは篠田さんとの電話を終え、携帯を置き、ネクタイをさっと解く。


「こちらこそありがとう、だって」

「いえいえ」

「でも君、捜査のときはいつも”そう”なのかい? 温和というか、人が良すぎるというか」

「いや、由良さんが紳士的な方だからですよ。無礼には無礼で返す主義なので」

「それは怖い……なら、身を引き締めて協力するとしよう」

「よろしくお願いします」


二人で笑っている間にも、車は進む。……そう言えば一つ引っかかったので聞いてみよう。


「だけどドラマの企画も手がけているんですね。さっきも……高層ビルの殺人を目撃する、現代版ヒッチコックみたいなのとか」

「だからこその何でも屋だよ。……あ、ただしこれは」

「守秘義務は遵守します」

「よろしく頼む」

「正直感服しています。これだけ忙しい最中、よくあれだけのアイディアを出せるものだと」


アイディアを出す、何かを作るってのは基本消耗作業なのよ。続けていけばネタも尽きていく。

そういうのを補充するために、プロの創作者も勉強を続け、目を肥やしていくのよ。


由良さんもそういう努力をしているのかなぁ……と思っていると、苦笑気味に肩を竦(すく)めた。


「いやぁ、そこは苦し紛れのときもあるよ。過去の事例から学び取り、場合によってはアレンジしてね。
そのヒッチコックも……実はさ、たまたまあの……電話の最中に、目撃したんだよ」

「……殺人じゃ」

「まさか。向かいのビルでね、そこの会社員とOLさんが……オフィスラブ? 抱き合って、それはもう猛烈に求め合って」

「あぁ……文字通りの”裏窓”気分だったと」

「高層ビルだと思って油断していたんだよ。蒼凪くんも気をつけないと」

「き、肝に銘じます……」


あぁ、やっぱりだ! 世界大会での修羅場具合とかを知られているから……視線が生暖かいー! 結界とかきっちり頑張ろうっと!


(Stage11.2へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、以前記念小説で書いた古畑ネタ。ただ同人版とは展開が大きく変わってきたので、該当部分を修正してTips的にこちらへ再掲載。
今回は事件の大事なネタ振りということで変更部分もさっくりですが、次回以降はもっと変えていく予定……お相手は蒼凪恭文と」

奏「速水奏です。……いよいよ描かれるのね。私とあなたとの出会い……一目惚れから始まる一夜の物語が」

恭文「ジガン、任せた」

奏「やめて……! あの子、本気で私へ迫ろうとして、ちょっと苦手なの!」


(堅き盾は、蒼い古き鉄以外にはドSなところがあります)


恭文「なお、このお話はクローネの顔見せ的な部分もあります。つまり……宮本かぁ。エピソードサウザンドが」


(『だから違うよー! とまかのを引きずらないでー!』)


恭文「唯に勘違いさせた時点で、慈悲はなし」

奏「あれは酷かったわよね……」

恭文「のっかったおのれが言うなぁ! それより……今日、HGCEデスティニーガンダムが出る! なんかめっちゃ出来がいいらしい!」


(既にレビューが出ているしね)


奏「あぁ……あの、主役級の子が乗っている」

恭文「そこに触れてはいけない」


(というわけで、三話くらいでさくっと終わる予定です。
本日のED:速水奏(CV:飯田友子)『if』)


恭文「今回は僕がメインで修正版なので、今までとは違って日本語タイトルになっています。……つまり凛は中二病」

凛(渋谷)「卯月じゃなくてぇ!?」

卯月「私、中二病じゃありません。脳筋です!」

凛(渋谷)「自慢げに言うことじゃないよ!」

卯月「それより、奏さんと一夜とか……一夜とか…………うぅ……!」

恭文「完全に誤解」

卯月「じゃないです!」

恭文「おのれが否定するなぁ!」


(おしまい)





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