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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Stage11 『Kill Kingdom』


蒼凪君から頼みを受け、僕達ガーディアン組はフル出動。

ただ、余り大げさ過ぎたというか……だって鷺沢さん、大学の授業に出席していたから。

そのおかげでもう、十分も経たずに身柄発見・確保の流れだよ。


それで蒼凪君の家に引っ張り、リビングのソファーに座らせ……相馬君達と取り囲むように尋問開始。


「――現状はお伝えした通りです。
はっきり言えば、島村さんと園崎さんへの裏切り行為ですよ」

「あの、それは誤解です。そのようなつもりではなくて」

「そうとしか見えません」

「そうだよー! 加蓮ちゃん達をCPに入れたの、卯月さん達なんだよね!
それなのに出番を踏みつぶしてOKとか、自分勝手すぎるんじゃないかな!」

「それは、誤解です。……連絡が取れなかったのは、申し訳ないと思っています。
ただ我々も、クローネの準備で忙しいので……」

「ではあなたの方で、北条さん達に連絡を取ってください」


すかさず三条君が、言い訳潰しの踏み絵を掲げる。


「この場で、今すぐに……」

「ですから、忙しいので」

「チームメンバーでしょう?
CPへ連絡を取るように伝えることは、できると思いますが」

「それは……あの、後ほど必ず伝えます。
ですから今日のところは」

「そんな言い訳が成り立つとお思いですか」

「海里の言う通りだ。……文香、お主は何を隠している」


ムサシの……ううん、僕達の視線で、鷺沢さんもようやく気づく。


自分は踏み絵を踏まなかった。適当な言葉で逃げようとした。

だからこそ僕達は確信した。逃げるだけの嘘を……隠し事をしていると。


「どういう、意味でしょうか」

「クローネに参加するのであれば、現メンバーとの話し合いは最優先。
しかしCP側から、そちらが不足していると指摘されたのだ。
……にもかかわらずその訴えを無視するのであれば……なにがあった」

「ですからその話し合いも、渋谷さんとしていると……」

「ハンバーガーショップで……誰彼に聞かれるのも構わない状況で、島村さん達も不在なんですよ? 普通にあり得ません」

「……お願いします。今は……北条さん達を、そして私を信じてもらえないでしょうか。
決して、島村さん達にも迷惑は」

「もう出てるって言ったよね!」

「……文香ちゃん、ややちゃんの……みんなの言う通りだよ」


フェイトさんも見かねたのか、僕達に加わり、文香ちゃんを優しく諭す。


「ネット関係も、凄い噂になってる。これじゃあマスコミにも嗅ぎつけられるよ」

「それの、何が駄目なんでしょうか。
もうクローネのことは社内にも広まっていますし」

「外部への公式発表はまだのはずだよね! 少なくとも凛ちゃんが入ることは、どこにも出ていない!
これは紛れもなく美城常務――クローネ側の不手際だよ! 加蓮ちゃん達も、最初から駄目なアイドルになるの!
……今回デビューする子達も含めて……みんな!」

「そんなこと、あり得ません……! 北条さん達のステージは、まだ始まってすらいないのに」

「だったらこれ!」


結木さんが怒り心頭で見せたのは、new generationsファンのツイート。

それはまだデビューすらしていない北条さん達にとって、劇薬に等しいものだった。


――ほんと何様だよ。例のアイドル候補生達――

――お前ら図々しいんだよ! こんな奴らに卯月ちゃん達が出番譲るとか、マジあり得ないし!
そんなことになったら、もう346プロなんて知らない! クローネなんて誰が応援するか!――

――出番が取れないのは、実力不足だからだよね?(笑)――

――渋谷凛、これで頷いていたらクズ確定だったよなぁ。いや、よく断った! 惚れ直した!――

――こんなのがいるんじゃ、クローネもお先真っ暗……346プロ、しっかりしろよぉ――

「酷い……酷すぎます……! 北条さん達も、ただ真剣に」

「いつまで被害者ぶってんだよ……! アンタ達が恩義も何も踏みつけたせいだろうが!」

「相馬君」


落ち着くように制すると、一歩身を引いてくれた。


「鷺沢さん、教えてください。何を隠しているんですか」

「お願いします……。そもそもこんなことになったのは、情報を勝手に流した人達のはずです」

「そんな人達がいるかもしれない、公共の場で……不用意に社内情報を話した。
その点はきっちりペナルティーを受けるべきです。でなければ誰もあなた達を、仲間と信じられない」

「それも悪気があったことではありません。
ですから、もうしばらく時間を」

「文香ちゃん」


そこでフェイトさんが、焦る僕達の肩を叩き、悲しげに呟く。


「嘘や人を騙した上で出した成果はね、どんなにキラキラしていても……結局全て嘘になるんだよ」

「私達は、嘘など付いていません……!」

「だったらどうして、今この場で、加蓮ちゃん達にメールの一つも送れないのかな」

「それは……二人が、忙しいためで」

「身を削る覚悟もなく、人に信頼だけされようとする。
……それは余りに卑怯だって思う」

「なぜそこまで、私達を否定するんですか……。
もう少しだけ、時間が欲しいだけなんです……そうすれば、きっとみなさんにも伝わります。
我々は決して、間違ったことなんてしていない……全ての真実は、ステージの上にだけあると」

「私も……私とヤスフミの義母もそうやって、たくさんの人を巻き込んで……結局全て壊すだけだったよ」


それはリンディ・ハラオウンさん……今なお老け込み続け、止まってしまった女性のこと。

そしてフェイトさん自身も、その罪を忘れたことは一度だってない。

だからその言葉の重さに、鷺沢さんの言い訳はようやく停止した。


「というか、それは誰の言葉かな」

「――!」

「私もそうやって、母さんの言葉を使って、縋って……自分を否定するものから目を背けていた。
だからね、今ので本当によく分かった。あなた達みんな、とても力のある人達からそう言い聞かされて、みんなを裏切ったんだね」

「違い、ます……! 私達は、裏切ってなんて」

「だったらどうして加蓮ちゃん達は、卯月ちゃん達と向き合おうとしないのかな」

「ですからそれは、お仕事が……!」

「さっき、その口で言ったことだよね。
凛ちゃんとは話す時間を取れたって」


フェイトさんの叱責で、いよいよ逃げ道が封じられる。

もう吐き出すしかない。ううん、僕達が吐き出させる。


「ですから、それは……」

「文香ちゃん、信じられたいなら、みんなを……私達を自分から信じて。
ちゃんと身を削って」

「なら、ライブを見ていただきたいんです。
そうすれば我々が悪意を持っていないと」

「今行動できないのに、結果だけ求めるのは卑怯だよ。もう分かっているよね」

「それは――!」

「文香ちゃん!」


二人の行動は……鷺沢さんの言葉は、最初から欺瞞に満ちていたのだから。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編

Stage11 『Kill Kingdom』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


蒼凪プロデューサーの携帯に着信が入った。

唯世達からの連絡らしく、表情が自然と明るくなったのに気づいた。


「――そう、そう……悪いけどそのまま締め上げといて。
あとは予定通り……うん、お願い」


その表情のまま電話を終了すると、蒼凪プロデューサーはお手上げポーズ。


「文香さん、なんて!?」

「悪気はなかった。連絡が取れないのは、クローネの準備で忙しいだけ。
だから加蓮達を悪く言わないでほしい……その一点張りだよ」

「話にならないな! つーか、文香から連絡を取らせるのは」

「後で必ず……って、今連絡することから逃げてる」

「それ、あり得ないよね……!」

「いやぁ、むしろ有り難いよ」

「ありがたい!?」

「ここまでやってくると、親御さんへの報告が必要だからね」

「呆れた……!」


つまり、保護者強権で脅しにかかると!? CPで以前あったみたいに!

完全に向こうの不手際を利用して……ううん、だからこそなんだよね。

こういう柔軟な戦い方は、私も見習うべきところだ。じゃなかったら部活では生き残れない。


「アルト、加蓮と神谷奈緒、文香の家族に連絡」

≪そう言うと思って、竹達さん経由でやっていますよ。
相当お怒りだそうで……とりあえずロビー活動から始めるそうですよ≫

「そりゃよかった」


うん、生き残れない……生き残れないんだけど、隠す気もなく戦争を始めるのはどうなんだろう。


「文香の反応から、確証も得られたしね」

「同感だ。論破されても無様にしがみついているわけだし、相当強く脅されたと見ていい」

「脅された……!?」

「で、加蓮達や文香さんの言いぐさは、そのまま脅し文句になる」

「……誰が、脅したのかな」

「「今西部長と美城会長」」

『はぁ……』


蒼凪プロデューサーと圭一さんの予測には、大きくため息を吐くしかなかった。

もう、分かりやすすぎて……とくに今西部長なんて、言いそうだもの。


「発破をかけたってところだろうな。
アイツらにとっては、これが最後のチャンス……いや、それだけじゃないか」

≪派閥闘争でどちらに付くか。そういう話もしたんでしょうね。
それなら現トップに揺らいだとしても、おかしくはありません≫

≪……主様、こっちも沙羅さんから返信がきたの。
楽曲に粉をかけてくれたのも、その老害どもなの≫

「本当に、やってくれますね……」


あの、卯月……拳を鳴らさないで?

あと目を赤くしないで……!? それは怖い! 祟り! だから祟りー!


「凛ちゃん、これだけは……はっきり、言っておきます。クローネ入りには賛成できません」

「分かってる。……この件、任せてもらえないかな」

「………………歯を食いしばってください」

「待って! 違う! このまま結論を出すとかじゃないの!
飽くまでも”まず”……私が加蓮達を引っ張ってくる感じにするの」


文香さんも口を閉ざしているなら、味方に引き込むのは難しい。

でも、私なら? 私は二人に取って、目的を達成するための鍵であり、餌たり得る存在。


「……」


……さっきの蒼凪プロデューサーを想像し、深呼吸……一気に考えを纏める。


「私が……ユニット結成のこと、もう一度直接話したいって言ったら、どうなる?
加蓮達としては出てくるしかないよね。そこをとっ捕まえて、締め上げる……」

「だがあまり肯定的な言葉は使うな。揚げ足を取られるぞ」

「分かってるよ。じゃあ早速」

「木刀を用意してきます」

「僕は煙幕とスタン弾を用意してくる」


そう言いながら二人揃って背を向けてくるので、慌てて手を繋ぐ。

というか引き留める……! なんか、ズルズル引かれているけど気にしないー!


「手を離してよ。おのれは僕の恋人じゃないでしょ」

「凛ちゃん、私は女性とそうなる趣味はないんです。いいですね?」

「変な誤解をしないで! というか、鎮圧行動は止めるしかないよね!」

「「ほわい?」」

「暴力禁止ってことだよ! 話し合い……あくまでも話し合いだから!」

「「…………は」」


ちょっと、鼻で笑わないでよ。

というか卯月は本気で落ち着いて。怖い……殺しにかかりそうで、本当に怖いから。


「雛見沢と僕の田舎では、これを話し合いって言うんだよ」

「私の田舎でもそうですね」

「言うか馬鹿ものぉ!」

「圭一、園崎家って物騒な奴らがいてね?」

「魅音の実家については触れてやるな! 園崎組も解体して、警備会社に鞍替えしたからな!」


圭一さん、駄目! 否定してないから! 否定しきれていないからぁ!


「というか、お前らは俺と同じく東京出身だろうがぁ!」

「あ、そうだよ! だったら大うそだよね! 私も東京出身だけど、聞いたことがないし!」

「おのれら、東京は東京でも田舎の方だったんでしょ。
……こっちは天下のカオスタウン≪池袋≫! あの豊島区なんだよ!」

「私は住みたい街ランキング常に上位の≪三軒茶屋≫ですよ!?
渋谷からも電車一本で数分……その力を舐めないでください!」

「こっちはその渋谷ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「俺は白金リーゼだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


駄目だ! この二人を止めるには、私と圭一さんだけじゃあ力不足だ!

特に卯月がおかしい! 知ってはいたけど卯月はクレイジー! やっぱり祟りのせいで壊れているー!

というか未央……そう言えば未央は!? なんで黙りこくっているのかな!


「未央、アンタも止めて! 特に祟られ卯月を重点的に!」

「露出狂に言われたくありません」

「そういうところだからね!? ほら、未央ー!」


慌てて未央の方を見やり……思わず凍り付きそうになった。

未央は天井を見上げ、口元からよだれを垂らし……なにやらぶつぶつと呟いていて。


「……凛、無駄だぜ」


ショウタロスの言う通りだった。

というか、ショウタロスがどん引きだった。


未央、完全に魂が抜けているもの……!


「……ごめんなさい。千葉方面でごめんなさい。団地住まいでごめんなさい」

「未央ー!?」

「コイツ、居住地カーストに嫌な思い出でもあるのか……もぐもぐ」

「本田さん、心が遠くに旅立っていますねぇ……」


居住地カーストって何!? そんな厳しい争いがあるの!?

いや……それはいい! それより飛び出そうとするこの馬鹿二人を、なんとかして止めないと!


「恭文さん、まずは足を潰しましょう。
今西部長と会長の家族構成や過去は」

「既に調べ尽くしてあるよ。
つーかアイツら……馬鹿なのよ! レナや圭一達の過去も調べていてさぁ!
それをスキャンダルとして広める準備までしてくれているの!」

「「はぁ!?」」


なにそれ! というか過去って……なにかあったの!? こう、窓ガラスを全て叩いて割って、盗んだバイクで走り出す的な!


「でもさ、こういう手に出てくれると嬉しいよねー」

≪えぇ。……おかげで、遠慮する必要がないんだから≫

「だから落ち着いてぇ! 圭一さん、どうしよう!」

「……分かった! ならばバレないようアサシン的に」

「諦めないでよ!」


――――というところで、携帯の着信音が響く。


≪The song today is ”君が待ってる”≫

≪なの? これって≫

「赤坂さんからだ」


蒼凪プロデューサーは停止して、携帯を取り出し通話開始。


「はい、蒼凪です……はい、はい。その節はどうも」

「赤坂さん……確か、えっと、公安の刑事さん」

「そうだ。俺達もとっても世話になってる……人なんだが」


圭一さん……というか、部活メンバーと蒼凪プロデューサーが一緒に戦ったとき、協力してくれた刑事さん。

勤務先も正確には≪警視庁公安部第七資料室≫だったよね。

資料室っていうと普通に……本とか捜査資料を保管している感じに聞こえるけど、実際は違うらしい。


そういう荒事とは無縁な部署を装いつつ、かなり強行的に犯罪を取り締まる部署だとか。

だからね、夏の……粒子暴走事故のときも、影ながら協力してくれていたんだ。

自衛隊の……こっちもレナさん達がお世話になった人らしいんだけど、偉い人とも付き合いがあって、避難誘導などの手はずを整えてくれたの。


それで卯月が蒼凪プロデューサー達と……会場から救出されたときも、手伝ってくれて。

あのたくましくも、優しい人柄は……どことなくアイツを思い出したっけ。


「……それ、本当ですか」


すると蒼凪プロデューサーが、妙に声色を堅くする。


「えぇ、えぇ……実はこっちでも把握していて、ちょっと注意しようと思ってたんですよ。
なので僕から話して、自省を促し停止っていうのは。
…………無理なんですね。分かりました。なら身柄確保はこっちで」


身柄確保? え……なんかヤバい話になっていそうな。


「いや、大丈夫です。実はちょうど、その346プロにいるんですよ。
えぇ……それでそっちは、大事になりそうな感じですか?
……僕が黙らせるなら、少人数で……分かりました。なら、早速動きます……はい、待っていますから」


――蒼凪プロデューサーは電話を追えて、すぐに圭一さん達を見やる。


「圭一、すぐ美城常務とレナ達に連絡を取って。とりあえず卯月だけは借りていくから」

「何かあったの?」

「……会長と今西部長、公安から目を付けられてる」

『えぇ!』

「それどころか自衛隊と内調……政府からも」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』


ちょっと待って……まず内調って、あれだよね?

蒼凪プロデューサーと鷹山さん達が戦った……国家情勢とかの情報を取りまとめるところ!

それや、自衛隊……公安、政府からも目を付けられている!? どういうこと! どういうこと!


それで確保って………………大事件だよね!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


幾度も幾度も許しを乞う。

そうして自分の心を必死に奮い立たせ、彼らに新しい道を……そう、思っていたのに。


「なんだと……!」

『申し訳ありません。ただ、これ以上の継続は』

「なんとかするんだ! 会長の命令なんだぞ!」

『こちらの部署では無理です。では』

「待ってくれ! もう一度話を」


なのに、また罵られる。

監査部長として信頼を説いた部下に……許しをこいた部下に、また裏切られる。


それを示すように、電話からはツーツーという音が響いて……。


「……今西」

「部署が、手を引くと……」

「使えん連中だ……!」


なぜこんなことができるのだろうか。

自分の人生と生活を預けた、大事な会社……そのトップなんだぞ。

なのに、それを平然と踏みにじるなど。会社員としてあるまじき対応だ。


そうだ、あるまじき対応なんだ。

今会長が、我々が望んでいるものは……間違っていないのだから。


「こうなったら仕方ない。例の情報を出せ」

「……了解しました」


こうなれば仕方がない。

彼女達の純真さを歪めた、園崎臨時プロデューサー達を追及する。

その手段ならある。なにせ……彼らそれぞれに、後ろ暗い過去があった。


その上出身地の雛見沢には、陰惨な事件が連発していたらしい。

そんな人間が、アイドルの側にいることそのものが間違っている。


そう訴えれば、もうどうしようもないはずだ。それならば……!


「魅音達の過去をほじくり返すのは、やめた方がいいですよ」


だがそこで、鋭く響く声。

更にドアが突如吹き飛び、部屋の中でバタバタと倒れた。


そうして堂々と踏み込んでくるのは、蒼凪くんと……島村くん!?


「君達は……」

「蒼凪くん! なんだね、いきなり!」

「単刀直入に言います。僕は今回、警視庁公安部から依頼を受け……あなた達を確保しにきました」

「は……!?」

「事情はあります。なので今からする話を、茶々を入れずに聞いてください。質問はそれから受け付けます」


――蒼凪くんの説明は、とても理路整然で……その恐怖をより加速させるものだった。


ローウェル事件の主犯だった千葉大臣は、とある政治結社の首魁でもあった。

大臣はローウェル社に対し、その結社で研究していた風土病……雛見沢症候群の治験データを売り渡した。

その風土病は雛見沢出身者にのみ媒介する寄生虫が生み出す、精神に作用する病気だそうだ。


寄生虫が宿主の脳に干渉し、幻覚や幻聴、妄想を加速させ、人間性すら変化させる……そういう実例は普通の虫にも多く存在しているとか。

雛見沢で起きた事件も、全て雛見沢症候群の感染者が、末期症状まで悪化した結果……錯乱状態で引き起こした”全て偶然の悲劇”。

そしてそんな事件の調査から得られた治験データによって、プラシルは改良され……私も知るプラシルαという麻薬同然の劇薬になった。


結果その薬の流通ルートも、千葉大臣も、東京という組織も壊滅したが……事実は伏せられた。

それは政治的判断や、風土病の特異性……雛見沢出身者への、実行動を伴った差別を防ぐためだそうだ。

そうして五年が経過して……風土病も撲滅し、全てが過去のことになりつつあったとき、掘り返した愚か者がいる。


今なお薬害被害に苦しむ人達の古傷を抉る、愚か者が……。

事件被害者に対し、間違った認識を与えるそれは、社会的にも大問題。


そんな問題を起こしたのが、私達……!


「……レナのみならず、無関係な被害者を巻き込みで傷付けようとしたのに、恐怖や反省一つ覚えない奴らには、お説教が必要ってことだ」

「待って、くれ……我々は、そんなことは知らなかった」

「その通りだ! 全てこの今西が計画したことだ! 私は知らん……コイツの提案通りに人を動かしただけだ!」


……そこで会長が、とんでもないことを言いだした。


「今西、どういうことだ! このような……大規模な事件の被害者を、お前はさらし者にするつもりだったのか!」

「ま、待ってください……会長……私はただ」

「もういい! 貴様は現時点で懲戒免職処分とする!」


――――――――その言葉が、信じられなかった。

私が……懲戒免職?

会長のために……美城のために、蛇蝎の如く嫌われた……私がぁ……!?


「……本当に申し訳なかった。だが、全ての事情は今西が知っている」

「会長、待ってください! 私は……あなたの指示で!」

「言い訳をするな! さぁ、連れていくなら好きにしろ」

「会長!」

「今西部長、本気でミスを取り返したいと思うのなら、卯月達と話し合うべきだったね」


そして彼もまた、私にはなんの同情もできないと、その冷たい瞳で告げていた。


「おのれはCPを庇ったときも、自分の頭だけで考えた結論を、周囲に押しつけてきた。
今度はおのれが押しつけられる番になったんだ。……謹んで受け止めろ」


…………彼は痛烈に批判していた。

仲間のためと言いながら、一人だけで考え、結論を出している私自身のせいだと。


そして今なお、無関係な被害者を傷付けようとしたことに、恐怖すら覚えないのなら……。


「ただね、会長……悪いんだけど、おのれにも事情聴取をする必要があるのよ」

「弁護士を通せ。話はそれからだ」

「だからもう通しているのよ。公安の方で……とりあえず事情聴取は弁護士同席で構わないから」

「なんだと……!」

「あと、今回についてはかなり譲歩してもらっている。本来なら強引に連行も考えていたそうだから。
……PPSE社が最近やらかしてくれたせいで、企業絡みの問題には敏感な時期なのよ」

「…………御託はもういい! いいか、指示に従え! これは命令だ!」


会長は彼の言いぐさが許せないのか、会長はデスクを叩き叱責する。

私を無視して……私を切り捨てたまま、前に進む……進み続ける……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


わーお、笑わせるわ。僕は美城の社員でもなんでもないのに……馬鹿馬鹿しい。


「命令する相手を間違えていない? おじいちゃん……そういうのは社員にやれ」

「御託はもういいと言ったはずだ! 私は今西の暴走に付き合った覚えはない!
いいか……これは大人としての命令だ! 若造は大人しく従え!
そして島村くん、君は今回のライブ出演を見送る!
その代わりにライブではクローネの活動を支援し、その後は小日向美穂くんとのコラボを命じる!」

「は?」

「本来ならペナルティーを与えるところだが……我々は君を評価している。どうかその信頼を裏切らないでほしい」

「お断りします」

「だよねぇ」


卯月と一緒に鼻で笑うと、会長の顔が怒りで赤く染まる。


「命令だと言ったはずだ……!」

「あなたみたいな人でなしの命令は聞けません」
何より……常務は本当に、日高舞さん以上の何かを見つけるかもしれないのに」

「だったら聞かせろ! 我々がどうして、日高舞以上の輝きを貶めたと言うんだ!」

「加蓮ちゃんと奈緒ちゃん……二人はそのままでは、即戦力たり得るとは判断されなかった。
でも凛ちゃんと手を取り合うことで、お互いに輝きを引き出すことができた。
それは、ただ一人の勝者として突き進み続けた日高舞ではできなかったことです」


…………そっか。

卯月はそういう答えになったか。


迷っているところもあるけど、まずそこだけは……故に、会長とは相いれない。


「下らん……! 我々はそんなもの、求めてなどいない!
今美城に必要なのは、彼女のような圧倒的強者だ!」

「だからあなた達は負け犬なんですよ」

「黙れ! 負け犬は貴様らだ!
個性だなんだとぬるま湯に浸かり、今の……馴れ合いだらけの業界に満足している、貴様らこそ負け犬だ!
我々はそんな貴様らを、伝説に押し上げようと言うのだ! なのになぜ逆らう!」

「今ある手札で戦うことから逃げているだけでしょ。でも私達は違います。
今ある手札と状況を徹底利用して――。
自分の一番強いところも使い尽くして――。
どんな相手だろうと、絶対に勝ってやるって覚悟で戦います」

「そんなことを言うのは、貴様らが日高舞を知らないからだ……!
あの輝きを、圧倒的強さを見ていれば、そんなことは」

「そんなものより強い人達を、私は知っています」

「黙れぇ! 我々は間違ってなどいない!」


なんという駄々っ子プレイ。

会長は何度もデスクを叩き、更に喚き散らす。


「美城には……美城には再び、日高舞が必要なんだ!
いいか、これが最終警告だ! これ以上従えないというのなら……君達には多額の損害賠償を払ってもらう!
美城の業務を多大に妨害した報いだ! まともな生活など今後一切できると思うな!」

「だったら出ていかせてもらいますよ――! あなたのような最低な人間の下でなんて、アイドルはできない!」


それは、社の長に対して、余りに無礼な言葉だった。

でも実に正しい……この場の選択としては本当に正しい。


「つーかさぁ、それはこっちの台詞なんだよ……おじいちゃん。
……お前みたいな底の浅いでくの坊が、僕達の首を取れると思うなよ」


ゆえに制裁の如く、社長が灰皿を投げつけ。


「――馬鹿者がぁ!」


でもその寸前で、常務の一喝が飛ぶ。

会長が灰皿を振り上げたまま停止し、信じられない様子で……飛び込んできた美城常務を見ていて。


「第一種忍者がいる前で、そんなものを投げつけてみろ! たちまち傷害罪で逮捕されるぞ!
……そんなことも分からないくらいに耄碌したか! 美城力也ともあろうものが!」

「親に対してどういう口の利き方だ! そもそもこれは障害などではない!
屁理屈を捏ねて、大人の仕事を邪魔する馬鹿なクソガキ共への仕置きだ!」

「だったら投げればいいじゃないですか。的はここですよ」

「だよねぇ。なに……あれだけ抜かしておいて、自分の手を下す度胸もないの? とんだ腐れだねぇ」

「――貴様ぁ!」

「やめろと言っている!」


常務がそこで更に一喝……。


「会長、駄目です!」


更に今西部長も、縋るように会長を制止する。

それで美城に戻れる……救いがあると、無駄な希望を宿して。


「……………………!」


ゆえに会長は悔しげに……命すら盾に取った恫喝に、無力のまま……灰皿を落とす。


「……本当に、つまらない人」

「ほんとだよ。このクソガキが。お前、そんなんだから愛人にも『へなちん包(ぴー)が』って捨てられるんだよ」

「…………それを娘の前で言うのは、どうなのだろうなぁ……!」

「あなた、恥ずかしくないんですか? そもそも無関係な人達を散々傷付けるような真似をしておいて……謝罪一つないって。
人間としての軸がぶれていますよ。それで大人だって、よく誇れますね。軽蔑します……この包(ぴー)が!」

「ほら、答えてみろークソ会長ー。僕が戦ってきた権力者は、お前よりはもっと歯ごたえがあったぞー。
その包(ぴー)で美城常務みたいな美人の娘も作れたんなら、きっとできるはずだー」

「そうですよー。ほんと……どうしたらこんなに大きくなるんですか! 私なんて、一回りも…………くぅ!」

「だから煽るなぁ! あと私を引き合いに出すな! 恥ずかしいだろうがぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


彼らに、会長への敬意は欠片もなかった。

我々が悪だと……ただそれだけを、徹底的にぶつけてきて……!


「島村くん……蒼凪くんも、やめてくれ……!」

「それは無理ですよ。これはあなた達が始めた戦争です」

「もうやめてくれ!」

「万能最強のカードに頼らず、一つ一つ……伝説を振り払い、歴史を積み重ねた人達がいます。
なのにあなた達は、そんな努力を踏みにじって、唾を吐きかけた」

「いいからやめるんだ! なぜ会長を……仲間を信じてやれないんだね!
そんなに、自分の出番がなくなるのが怖いのかね! だがそれは間違っている!
君は今回のライブには出られないかもしれない! だが……より大きなチャンスを」

「……信じていないのは、あなた達じゃないですか!」


すると彼女は、とんでもないことを言いだした。

いや、それは……私が、我々が……何度も、言われたこと……。


「ライブに出るなというなら……私が邪魔だと言うのなら、別にそれで構いません!
でも……私にそれを命じていいのは! 私の迷いを知って、”徹底的に迷え”と背中を押してくれた美城常務だけです!」

「島村くん……」

「でもあなた達に、そんな権利はない!」

「島村くん、落ち着きたまえ! 我々も同じ会社の仲間だ! だから、その判断を信じてほしい!」

「偉い人なんですよね! この人の父親で、ずっと見守ってきた人なんですよね!」

「その通りだ! だからこそ」

「なのに、どうして歴史を刻んだみんなを! それを守ろうとするこの人を……信じてあげられないんですか!
それでどうして……どうして自分達だけが信じられて、当然って顔ができるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


島村くんは息を荒げ……言いたいことを言い尽くしたと、左拳をスナップ。

それで私達は…………彼女の怒りを受けて、言葉を発することから封じられて。


「まぁそれも、社のスタッフや家族が決めるよ」


そして蒼凪くんは、島村くんの肩を叩き……優しく諫める。


「もうみんな、この話は知っているし」

「なんだと……!」

「――あなた方が命令した部下……記者達が、長山専務達に申告してきたんです」


そうして来訪者は三度現れる。

それは……とても悲しげな顔をした、千川くんで……。


「事実無根のスキャンダルを広めようとするのは、芸能関係者として見過ごせない。
もちろんアイドル達を煽り、問題を起こさせたのも……それは、私もですけど」

「千川くん……!」

「本当に、信じられませんでした……! 蒼凪プロデューサー達にご相談した直後、こんなことになるなんて」

「千川くん……君まで、どうして……」

「今西部長……私達はやっぱり、間違っていたんです!」


千川くんは涙ながらに語る。

震えながら……私達が選んだ道は、間違っていると。


「こんなことを繰り返したら、もう誰も……私達を信じられない!」

「そんな、ことはない……きっと、時間をかければ……みんなは気づいてくれる……!
今この部署に必要なのは、あの懐かしき時代の信頼と人情……昭和魂なんだ!
日高舞の再臨が、それを成してくれる! そうだ、それを成せば……私だって……」

「あなたはもう……美城の社員ですらないじゃないですか……!」


会長を……震えながら、見やる。

会長は痛みに震え、忌ま忌ましげに我々を見るだけ。


………………だから彼らは、我々の頼みを堂々と断ったのか。

では、本当に……社内に、私達の味方は……。


「それと美城会長、あなたには臨時株主総会での、不信任案の裁決も決定しました。
……これは役員会議での決定です。あなたにはそれまで、自宅待機を命じるとのことです。
もちろん会長としての権限も、処分が下るまでは取り上げさせていただきます」

「馬鹿な――! 私は美城のトップだよ! そんな権利が誰にある!」

「でははっきり言います。
――会社全体が判断したんです! トップに立たれていると大迷惑だと!」


会長は千川くんの言葉で……涙ながらの言葉で、完全に言葉を失う。

そして千川くんは、次に私を見て……。


「今西監査部長、あなたも……長山専務達と共謀したことで、更迭命令が出されています……!
大人しく、沙汰を待ってください」

「特に加蓮達へやったのは、未成年への強要……虐待や脅迫になり得る。
僕も第一種忍者として、それは絶対に見過ごせない」

「そしてまた似たようなことをやるなら、常務として……クローネのスタッフとして、貴様らを断罪する。よく覚えておくことだ」

「待ちなさい……待つんだ……!」

「常務、卯月達と一緒に行っていいよ。こいつらは僕が確保するから」


蒼凪くんは私の言葉などをガン無視で、常務達を守るように……立ちはだかってくる。


「だが」

「それで、今の言葉を……ちゃんと加蓮達に話してあげて」

≪この人達がかけた呪(のろ)いを解けるのは、魔法使いだけなんですよ。……頼みますね≫


我々が、呪(のろ)い……!?

違う、そんなことはしていない。

ただ我々は……あの、懐かしき時代を……。


CPが、生き残る道を……提示しようと……。


「……すまない」

「蒼凪プロデューサー、私は……」

「どうぞご自由に。……よく決心しましたね」

「……あなたと、音無さんのおかげです。あの、このお礼は必ず」

「期待せずに待っています」

「まち、たまえ……まだ、話は……」


だが彼らは、我々の制止などガン無視。

そのまま……荒れた会長室など気にせずに、出ていってしまった。


私は頭を抱え、膝を床に突き……一人、片隅で嘆き続ける。


(もう、CPは壊れる)


もう遅いのに。私では止められない。

止めることなどできない。

止めたいと思っても、声を上げることもできない。


(このまま支配者となって……彼女達の未来も、壊される……)


そのための時間は、とっくに使い尽くしてしまった――。

そのために必要な信頼も、いつの間にか失ってしまった。


(そうして突き進み続けるんだ。敵を定め、壊すだけの破壊者として。
美城も歪み続けていく……それが……それが……)


それが…………。


(私が、導いてしまった結末――!)


その通りだった。

ずっと逃げていた……だが、もう向き合うしかなかった。

全ては私のせいなんだ。私が一人で……一人だけで、強い力に縋り、勝手をしたせいだ。


そして私にはもう、その始末を付けることができない。

繰り返して、縋って……向き合う勇気もない、私には……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――あの後すぐ、公安の方々がやってきて……今西部長達、引っ張られたそうです。

反省なしな上、権力による情報操作……それも間違った情報を流そうとしたから、お説教という感じです。

そっちは恭文さんと、増援として呼ばれた早苗さん、亜季さんが引き継ぎしたので、特に滞りはなかったとか。


まぁ会長と部長がやらかしたので、美城的にもダメージですけど……それよりやることがあります。

私達CPとしてはやっぱり……常務命令という強烈なボールによって、呼び出された一宮一派の処遇が問題で。


「――まず今回の件、クローネプロデューサーとして私の目が行き届いていなかったことが問題だ。それについては済まなかった」


常務は私達に……そして一宮さんや加蓮ちゃん達に、まず深々と頭を下げる。


「会長が宣言した島村くんの出演取りやめやコラボ提案だが、当然会長達が問題を起こしたため、無効だ。
その点については長山専務達も了承している。安心してほしい」

「そうですか……」

「君も迷いはあるだろうが、それならば余計に、今の仕事へ全力で打ち込むべきだ。
その中で得られるものも、君が掴むべき答えには必要だと……私は思う」

「ありがとう、ございます」

「礼はいい。借りもできたからな」

「え……」


借り……借りってなんだろう。私、特に変なことはしていないけど。


「それで本来なら、私に叱る資格はないが……あえて言わせてもらおう」


首を傾げている間に、常務が一宮さんを……加蓮ちゃんを、厳しい視線で見始める。


「一宮くん、君はプロデューサー失格だ」

「美城常務……」

「会長と部長から圧力を受けたとき、なぜ私に報告しなかった。
二人の命令は明らかに問題……恣意が絡んだ、非合理なものだったろう。
その結果北条くん達の将来のみならず、クローネ全体の評価を貶めた」

「申し訳、ありませんでした……」

「謝って済む問題ではない。……なのでしばらくの間、君には謹慎を申しつける。
細かい処分は長山専務達と相談の上決定するので」

「待ってよ……それは、それは違う!」


そこで加蓮ちゃんが、前に出て……常務から一宮さんを庇った。

ううん、奈緒ちゃんも同じくで……。


「私達がそうした方がいいって、考えてやったことなの!」

「そうだ! だから……なぁ、みんなも協力してくれ!
凛、一緒にライブに出てほしいんだ! そうすれば何とかできる!」

「呆れた……そんなのお断りにゃ!」

「そうだよ! アンタ達がやらかしてくれたおかげで、危うくこっちは大やけどだったじゃん!」

「でも、今しかないんだ! あたしらは……あたしらを見つけてくれたプロデューサーを助けたいんだ!
アンタ達なら分かってくれるよな! 今西部長の巻き添えで……武内さんが追い出された、アンタ達なら!」

「卯月、未央、お願い! 譲ってくれた分、絶対……絶対良いステージにするって約束する!
後悔なんてさせない! だからお願い……凛も、力を貸して!」

「頼む! あたし達を……アンタ達の仲間にしてくれぇ!」


加蓮ちゃんと奈緒ちゃん、反省なしって……! というかさすがに腹が経っていると。


「お断りだ」

「……って、美城常務ぅ!?」


美城常務が勝手に答えてるー!


「あの、そこは私達ではー!」

「君には私の言いたいことを、散々奪われたからな。お返しというやつだ」

「はいー!?」


も、もしかして借りって……ああああ! なんだかいろいろな意味でやらかした気がー!


「待って、常務……」

「なにより、クローネのプロデューサーとしても、北条くん達にはペナルティーが必要だ。
……君達のデビューは舞踏会開催前後まで延期。今回の定例ライブはCP及びクローネデビューメンバーのサポートに回ってもらう」

「だから、待ってよ! それなら、ステージで頑張る……必ず成果を出す! だから」

「甘ったれるな……!」


……常務が怒りを滲ませ叱責すると、加蓮ちゃんが恐怖で身を引く。


「そもそもこんな事情がありながら、それを……譲ってもらう彼女達にも、巻き込むチームメイトにも説明せず、通そうとした。
そのとき発生する余波は、子どもである君達には覆せないにも拘わらずだ
……ゆえに現時点で君達は、彼女達に謝罪する必要がある。それもせず、なぜ自分の都合ばかり通せると思える」

「……じゃあ、どうすればよかったの!?」

「会長なんだぞ!? アンタより偉い人なんだぞ!?
そんな人にああ言われて……なにをどう抵抗しろってんだよぉ!」

「ねぇ、信じてよ……あたし達のこと、信じてよ! 絶対素敵なステージにする!」


それで二人はまた頭を下げて……なので拳を握り立ち上がると。


「しまむー、ストップ……!」


なぜか未央ちゃんに、必死に肩を掴まれ制止される。


「未央ちゃん、千葉へ帰ってください……」

「無理無理! というか、暴力行為は禁止!」

「それは凛ちゃんに言ってください」

「なんで私ぃ!?」

「あ、うん……その……ごめん」

「未央も謝らないでよ! 私、そこまでクレイジーじゃないし!」


私だってクレイジーじゃないのに……って、それより加蓮ちゃん達です。


「――――それで、返していく! 絶対に……絶対に返すからぁ!」

「頼む……凛も、分かってくれよ! 今だけでいい! 信じてくれ!
あたし達はただ……プロデューサーを助けたいし、アンタ達の仲間にもなりたいだけなんだぁ!」

「……その会長と腰ぎんちゃくの今西部長は、今社会的ペナルティーを受けている最中だろうが」


二人は……常務のアッサリとした言い切りに、呆けてしまう。

そうしてようやく気づく。自分達が縋っていた前提そのものが……明らかに間違っていると。


「結局君達が言っていることは、共謀したことへの責任逃れだ。
会長達のように、罰を受けることから逃げるための……違うか」

「常務……」

「でも、だって……じゃあどうすればよかったんだよ!」

「……困ったとき、どうしようもないと思う袋小路に迷い込んだときはな……仲間に相談するんだよ」


そしてそんな二人の肩を強く……強く、圭一さんが叩く。


「加蓮、奈緒、お前らは会長達を”怖い”と思ったとき、それをやったか?
やってないよな。お前らがやったのは、その怖さを誰かに押しつけることだけだ」

「それは……」

「だからお前らはずっと怖いまま、崩れた前提にしがみついて……凛や卯月達に謝ろうともしない。
……だった俺達は、お前らを信じられない。お前らが誰かを怖がらせる限り……ずっとだ」

「うん……そうだよ……圭一さんの言う通りだよ、二人とも!
それってつまり、そもそも二人が仲間になろうとしない……誰も信じようとしないってことでしょ!?」

「「――!」」

「……信じてほしいなら、自分から……その人を信じるべきだよ。
みく達はそれができなくて、たくさん迷惑をかけた……でも、だから分かるの」


未央ちゃんとみくちゃんの言葉は、総意だった。

だって……私達は……。


「みくも……みく達もそうやって、いろんな人を怖がらせた。
アイドルの夢が、そうしなきゃ叶えられないものだって示した」

「だから、Pくんも……責任を取ったんだもん。うん、だから……絶対に駄目!
莉嘉達は、その罪を数えたの! 間違いだって……そんなの嘘だって!
そんな嘘と、それを当然とするものと戦い続けるって……もうとっくに決めた!」

「……私達も、加蓮ちゃん達が怖いとき……何も、気づけなかった。それは……悪かったって思います。
でも……だからって、それを免罪符にしないで……! 怖いものを怖いまままき散らすだけじゃ……本当に、誰も仲間になれないから……!」


みくちゃん、莉嘉ちゃん、智絵里ちゃんの言葉で、二人が打ち震え、涙をこぼす。

恐怖を、懺悔を、痛みを吐き出す……脆い鎧が壊れたことを示す、幾つもの雫。


それを見て一宮さんも、涙をこぼした。


「………………そう、ですね」


一宮さんは圭一さんと入れ替わるように、二人と向き直る。


「北条さん、神谷さん、この処分……ちゃんと受けましょう」

「一宮さん……!」

「待って、くれよ……駄目だよ! だって、それじゃあ一宮さんが!」

「私達だけが守られて、譲られる道なんて無意味なんです!
私は……あなた達に、そんなアイドルになってほしくない!」

「「………………」」


――そうして二人は何も言えなくなり……ただ無言のまま、ボロボロと泣き崩れる。


「……この様子じゃ、今日は冷静に話すのは無理ね」


それで美波さんにも、しっかり左肩を掴まれて……私、どんだけ危険人物に思われているんですかぁ!?


「一宮さん、私達はあなたや加蓮ちゃん達のことを、完全に許したわけじゃありません」

「えぇ、それは……分かっています。
ですから一日、時間をもらえないでしょうか。
改めて北条さん達とも……鷺沢さんともお話します」

「……では、正式な処分通達は、CPへの謝罪後……改めて行うとしよう」

「……はい」

「なら、三人には私がついています。……卯月ちゃん、みんなも……お話は改めてで、いいかしら」

「そっちも、大丈夫です」


――こうして一宮さんとちひろさんは、泣きじゃくる二人を引っ張り。


「ひとまず蒼凪プロデューサーの家で、揃ってメイドとして働いてもらうとするか」


でもその途中、美城常務がとんでもないことを言いだして……つい全員でずっこけてしまう。


「…………常務ぅ!?」

「どうした……なぜ驚く。城ヶ崎美嘉くんについても、同じ方法で持ち直しただろう」

「お姉ちゃんが前例!?」

「まぁそれだけではないがな。……鷺沢くんの件で、あちらのご家庭にも迷惑をかけたと聞く。
それは千川くんも同じくだ。その償いはキチンとするように……いいな」

「「「「は……はい……」」」」

「ちょっとー! そんなの認めませんよ!? それでもし先を越されたら……ああああ……ああああああああああ!」


でも、言っても無駄だった。だって私、恭文さんの家族でもなんでもないし。

そんなわけで加蓮ちゃん達は、改めて……控え室から出ていって。

それでようやくトライアドプリムス関係の騒動は、終了と言いますかー。


「…………私、常務とは仲良くなれそうにありません」

「私の判断を信じてくれるとのことだったが?」

「あんなことしたら、ライバルが増えるじゃないですか……!」

「結婚している時点でアウトだ。というか、同じ階には高垣くん達もいるだろう」

「……常務の言う通りだよ。卯月、むしろアタックを認めてくれるだけ……ね? 有り難いと思わなきゃ」

「そうですけどー!」

「しかし…………困ったときは、仲間に……か」


三人の背中を廊下に出てまで見送っていた常務が、ぽつりと呟く。


「まるで青春ドラマだな」

「でも、一人で抱えていても結局……加蓮ちゃん達みたいになっちゃうんです」


皮肉めいた言葉だった。

自分もそれに同調している……そう言わんばかりの自重に、レナさんが優しくそう告げる。


「レナもそうでした。常務さんが聞いた茨城での事件も……雛見沢で、うちのお父さんが結婚詐欺に遭いかけたときも」

「結婚詐欺……」

「タチの悪い女の人に引っかかって、いろいろ貢いでいたんです。それこそ将来の蓄えすら切り崩す勢いで。
……あのときレナ、その人のことを……殺してやろうって本気で思っていました。
レナがお父さんを、家庭を……平穏な生活を守るんだって考えて。
それで、殺人計画も立てたんです。こうすれば間違いない……完全犯罪になって、誰も傷つかず、お父さんも救われるって」


レナさんが……慌てて圭一さんを見やると、その通りと頷きが返ってきた。


「でも、圭一君や魅ぃちゃん……恭文くんに相談したら、そんな必要どこにもなくて。
お金は戻ってこなかったけど、それでも……家族は、生活は守られた」

「……話すことで……その勇気を持つことで、か」

「もちろん一人二人じゃ駄目なこともあるけど、それならもっとたくさんの……いろんな視点から声を集めればいい。
……常務さんだって気づいていますよね。加蓮ちゃん達にも、まず仲間に嘘を吐いたことが駄目だと叱っていますし」

「…………私も子どもということか」


常務さんはそう自重してから、歩き出す……慌てて私達も廊下に出て、それを見送った。


「常務さん」

「君達に倣い、勇気を出せるようにしよう。……感謝する」

「……いえ」


きっと新しい仲間と……クローネの人達と、改めて話し合おうとする、あの人の背中を。

それがなんだか嬉しくなりながらも、私達は改めて控え室に戻る。


「……常務さん、どんどんカッコ良くなってるにぃー♪」

「夢に向かって一直線って感じだよねー」

「みりあも、あんな大人になりたいなー」


盛り上がっている凸レーションの三人はそれとして……。


「お前も、キチンと答えを出さないとな」


一人考え込みかけていると、笑いながらレナさんと圭一さんが脇に立ってきて。


「卯月ちゃんはきっと、”みんな”を下ろせない……だったら、後は背負い方だよ。
……常務さんにもちゃんと、答えを示したいんでしょ?」

「……はい」


私も答えを探そう。

自分と向き合って……閉じこもって潰れそうなら、仲間を信じて相談して。

私の夢は……私の背負い方は、どちらを向いているのか、見つめ直していく。


…………CPの行く先と、同じように。


「ならまずは……メイドさんになります!」

『そうそう………………って、こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「それで誘惑です!」

「違う、そうじゃない!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


しかしアホな奴ら……ただ本人に脅しをかけるだけじゃなくて、スキャンダルに仕立て上げようとしていたとは。

こういう動きは予測していたから、実は赤坂さんからの情報以前に察知はしていたんだけど……予想以上に馬鹿だった。


「――じゃあ、会長さんと部長さん、そのまま連れていかれちゃったの!?」

「それでお説教だよ。まぁ自業自得だね」


家に帰り、フェイトとフィアッセさん達とただいまのキスとお帰りなさいのキス……うぅ、我ながら業が……。

と、とにかく夕飯もいただき、双子も寝付いたので……その様子を優しく見守りながらも、フェイトに本日のトラブルについて報告。


なお……その関係から、本日は唯世達もお泊まりで。


で……納得しがたいことが一つあってー!


「……フェイト、なんで加蓮達がいるの?」


そう……メイド服姿の一宮さんと加蓮、神谷奈緒……文香とちひろさんが、脇に座っていて……。

特に文香は、家に帰したはずなのにー!


「えっと、常務さんから……うちにも迷惑をかけたから、メイドさんとして御奉仕してこいって言われたそうなの」

「あのハイミスはぁ!」

「……恭文……いえ、御主人様。あたし達は誠心誠意、尽くす所存です」

「が、頑張るよ……だって、ようやく分かった。あたし達が馬鹿だったんだって……みんなを信じてなかったって。
……その償いになるなら……やってやるさ! なんでも言ってくれ、御主人様!」

「目の前から消えてくれない? 今すぐに」

「「「「「……!」」」」」


おい、やめろ。その捨てられた子イヌのような目をするな。

つーか……あの常務はぁ! ちょっと抗議してやる! どういうつもりか問いたださないと!


「あの、蒼凪プロデューサー……いえ、御主人様」

「ちひろさんも言い直さないでください! というか、ほんと帰ってー!」

「それについてはまた、常務からご説明があると思うので……ひとまず三日ほど、このままで」

「だったら先んじて説明しろぉ!」

「大丈夫です! 学生の頃……当時付き合っていた男性が裕福で、メイドのバイトをしながら逢瀬を重ねていましたので!
メイド好きと評判の蒼凪プロデューサーにも、きっとご満足いただけると思います!」


つーかちひろさん、何言ってるのぉ!? しかもそれはバイトじゃなくて、ただの給料泥棒だしぃ!


「そ、そうなんですね。じゃあ……今日は私と一緒に、ヤスフミへ御奉仕を」

「やめろぉ! ちひろさんも、その赤裸々な経歴アピールは求めていないです! いいから帰れぇ!」

「いや、常務からの頼みもありますので……それは」

「だったらせめて普通にしていてぇ! メイドじゃなくていいからぁ!」

「でもメイドさんは好きなんですよね」

「それはね!」

「ヤスフミ、流されてるぞ! 肯定するのは駄目だぞ!」


ショウタロスの言う通りだった……ちひろさん、それならばって目を輝かせてー!

駄目だ、ちひろさんもアテにならない! となれば……!


「唯世、みんなからも何か」

「でも本当に馬鹿としか言いようがないわね……」

「三条君、やっぱりあれかな。スキャンダルにしようとしたのは、政治的戦略で」

「それですね」

「無視しないでー!」

「あの、私は大丈夫だよ? 家のこととかもやってくれるし……アイリ達のこともよく見てくれて」

「フェイトー!」


ちくしょお! 家主のはずなのに……ああもう、仕方ない。

ちひろさんの言いぐさだと、また意図があるっぽいし……後で確認しよう。


「なぁ、それってどういうことだよ」

「ほら、園崎さん達を登用したのって、親戚筋からの推薦だったでしょ?
ようはそれで引き受けた重役……反常務派達に、責任を押しつけようとしたんだよ」

「更に言えば、僕にも責任を飛び火させるつもりだった。
それでシアター計画を奪い取るのが狙いだったんだよ」

「あぁ、そういう……じゃあ実際に記事が出ていたら」

「もちろん真逆のことが起きていました。ローウェル事件の被害者……及び雛見沢出身者全てが、社会的差別に晒されるわけですから」


そういう意味では自爆に等しかった。まぁ信頼調査ってだけならまだ理解できたんだけど……そこでスキャンダルを結びつけるのは、ねぇー。


「でもでも、それなら余計に裏付けを取っておけばよかったのにねー」

「……そうしても結局政府に目を付けられるんでちから、災難と言えば災難でちけどね」

「では蒼凪さん、実際の処罰としては……」

「実害は出なかったけど、間違いだらけで反省なしって点は明らかにマイナスだ。
部長や会長がこれから何をしても、四面楚歌でほぼ無力化……信頼性ゼロだもの」

「同時に美城縁者からすれば、会長による治政とその運営が悪だと証明されて万々歳。
美城常務は既にその血族運営から脱却を公表していますし……悪くはない流れですか」

「あとは今度のライブで、相応の成果が示せるかどうか……初期からの手の平返しもあるし、これからだね」


……でも、これで一つ加速したものがある。

もう時計の針は止まらない……ゴールまで突っ走るしかない。


そう考えると、つい思い出した逸話があって。


「まるでハーメルンの笛吹きだよねぇ。
どこぞの機動六課を思い出すよ」

「……うん」


フェイトと一緒にお茶を啜り……はぁっと一息。


「……それ、童話だよな。どんな話だったか……」

「空海は勉強不足だなー。
……ハーメルンっていう街でネズミによる公害に悩まされたとき、笛吹きの旅人がやってきたんだー。
旅人は報酬後払いを約束されて、笛の力でネズミを全て誘導……川に落として、ネズミを全て溺死させちゃうの!
でも街の人は約束を破って、お金も払わず旅人を街から追い出しちゃうんだ!
それに怒った旅人は、住民が教会にいる間に、街の子ども達を笛で操って……洞穴へ入り、内側から岩へ塞いじゃう!
……それで街は百三十人近い子ども達を失い、笛吹き男を追いかけることも出来ず……そのまま終わったんだー」

「……嘘は身を滅ぼす……か」

「ところがこのお話、実話っていう資料も幾つかあるんだってー。
実際ボウケンジャーでも、そういう体でハーメルンの笛が出てきたしー」

「あったねー。吹いた音色で人を操れるのよ」


そう……この話、マジで実話かもしれないの。

ただまぁ、明確にいつ頃、こんな事件が起きたって資料はなくてね。

そのためいろいろな断片的資料から、事件を推測する人達もいる。


笛吹きはいわゆるロリコン趣味で、前代未聞の小児性愛による犯罪だったとか。

子ども達は植民地で自分の村を作るため、自らの意志で両親とハーメルンを見捨てたとか。


……実はこの植民地への移民説、現在ではかなり有力な話なんだ。僕も現地に行って、思いを馳せたことがある。


「機動六課で私達も、笛を吹いた。
六課の活動は素晴らしいもので、付き従うことで……未来に繋がる。
そういう希望を嘯いて、理不尽に命を賭けさせた……」


フェイトはぐっすりなアイリと恭介を見守りながら、改めてお茶を一口。


「私は、それを認められない会長と部長さんの気持ちも分かるんだ。
……認めてしまったら、これまで積み重ねたものが壊れそうで……怖いんだよ」

「でも逃げてしまってはもっと傷跡が広がるだけですよね。
実際鷺沢さん達は……彼らのその姿から学び、復唱していた」

「笛の音を聞いちまった奴らは、次々伝染し吹き鳴らすか。ゾッとしねぇな……」

「そしてその笛は、CPも吹き鳴らしている」

「ぶぇ!?」


僕もフェイトに倣い、お茶を一口……している間に、フェイトがギョッとして吹き出しかける。

……その辺りの解決策もそろそろ提示していかないと、ヤバいかもよ……魅音。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クローネメンバーともきっちり話し合った上で……私はある料亭に訪れていた。

それもこれも、蒼凪家が北条加蓮達を預かってくれたおかげだ。

急な頼みだったのに、快く引き受けてくれた奥方には感謝しかない。


ただ……彼女が趣旨を理解しているか、非常に不安だが。というか、ちゃんと説明してくれているだろうか。

その辺りは後日また説明しようと思いながら、ある男との面談に望む。


「――君に頼みたい仕事としては、以上になる」


うちの社員……まぁふがいない男だが、それでもボディガードの真似事くらいはできる。

そんな男を呼びつけ、美味い飯に舌鼓を打ってもらいつつ……内密の辞令を出す。


……CPというがん細胞を、切除するために。


「簡単だろう? CPのような失敗をせず、美城の一員足るアイドルに育て上げるんだ。
それが歪んだ規範を生み出した、愚かなシンデレラの歴史に終止符を打つ……その一因になるだろう」



そう、あくまで一因だ。

それは残念ながら、私やクローネの力だけでは到達できないからな。

他のアイドル達やスタッフの力が……忌ま忌ましいことに、CP当人の力も必要になる。


……伝説を歴史が超えられるというのなら……恐らく、これがベターだ。


「自分には……できません」


だが彼は迷う……惑い続けていた。

自らの手で作ったCPが、アイドル達が未来を失うと考えている。


「やるんだ」


それが余りに情けなくて、つい語気を強め命令してしまった。


「お願いします……全ての責任は、自分が取ります。
どうか今西部長とCPには、温情を……!」

「そうしてまた、ただ一つの勝者を作るつもりか。君は」


深々と頭を下げようとした男には、しっかり檄を飛ばす。

……そんなことでは、なんの責任も取れないと。


「北条くん達は君の被害者でもある。
今西部長の庇護をよしとし、周囲に強いたことで……彼女達という後継も作ってしまった。
もちろん他のアイドル達も、CPのような前例がある限り……それが否定されない限り、その落とし穴にハマる危険がある」

「それは……」

「悔いるのであれば、君の手で歪みを正せ。それこそが責任の取り方というものだ」

「しかし、それでは……園崎さん達も巻き添えになります!」

「彼女達も承知している」

「なんですって……!」

「本当に……ただ者ではないよ。既に今後の方針も定めて、申告してくれたからな」


その辺りは改めて彼女達と相談予定だそうだが……少々の腹立たしさも感じながら、炊き合わせを摘まむ。


……得に園崎魅音だ。このまま集中すれば、プロデューサーとしても有能に花開くだろう。

そうしていずれ、彼女が作ったユニットと対決……というのも面白そうだと思ったんだが。


(……いや、それは……違うな)


追いかけて冷や酒を食らい、熱の入った頭を冷静にさせていく……。


(あぁ、違う……違うんだ)


結局のところ、生き方……進む道の違いだ。

私は彼女の資質に目を付け、それが同じ道で生かされないことに……逆ギレしているだけだ。

彼女には背負いたいものがあり、作りたい未来がある。家を、村を……街を発展させるという、やり甲斐のある仕事だ。


私が美城を、その将来を大きなものにしたいと、願うように……だったら私が今考えたことは、間違いだ。

それを阻むことも、へし折ることもできないと、私自身が一番理解しているんだからな。


……では、改めて不安そうな彼に約束しておこう。

私が進むべき道のために……十年後を見据えて、しっかりとだ。


「無論未成年である彼女達に、君達の後塵を被せるようなことはしない。
あくまでも必要なのは、”勝利者のいない闘争”だ」

「……あなたは、それでよろしいのですか」

「不服だ。だが……私の個人的な拘りなど、この際どうでもいい。
今重要なのは、美城が新たな一歩を踏み出せるかどうかだ」


彼は……武内くんは、渋い顔をしながらも数秒思案。


「………………分かりました」


逃げ道はないと、さっきとは違う……戦う決意に満ちた様子で、私に頭を下げてきた。


「クローネ担当プロデューサーのお話……お引き受けします」

「頼むぞ。それと重ね重ねにはなるが、不審者……関係者の予定にない接触には気をつけてほしい。
私の方針は既に通達しているが、情勢的にも不安定だからな」

「それも、了解しました」


これで話は纏まった。

彼には今回の件で不安を覚えた、クローネメンバー……特に北条くん達のフォローを入念にしてもらう。

それもさっき言ったように、責任を取るという意味だ。あとは…………あぁ、あれもあったな。


「もう一つ。島村卯月については、特に何もしなくていい」

「と……言いますと」

「今後のプロデュースや、新しい仕事を振る……そう言ったことはしなくていい。
あくまでも今受けている仕事を、高い水準でこなすことだけに集中してもらう」

「待ってください、それは」

「彼女にはその前に、超えるべき壁がある」


……彼女についても、園崎魅音と同じだ。

いや、意味合いは違うがな。彼女の場合は、道を定めていない。

ゆえに……仕事先などで迷惑が発生しないよう、配慮する必要がある。


面倒かつ迷惑この上ないが、これも大事な仕事だ。


「私はまだ、その答えを聞いていない。
……アイドルとしての未来を示すのは、それからだ」


アイドルとしてこのまま前に進むか――。

それとも別の道で、痛みから学んだ教訓を貫くか――。

それもまた彼女の選択だ。それを……私や周囲のエゴで潰すわけにはいかない。


あぁ、エゴだ……エゴなんだよ。

あれだけの資質がありながら、なぜアイドルとして邁進しないのか……上を目指そうとしないのか。

なぜ過去に縛られ、それが生み出す可能性とやらによそ見をするのか。


そういういら立ちは、彼女を見ていて感じることがある。だがそれでは、駄目だと……今日の件で痛感した。


――信じていないのは、あなた達じゃないですか!――


……彼女の歴史を踏みにじるわけには、いかないだろう。

それが信頼を受けた私が……借りを作った私がやるべき返礼というものだ。


(Next Stage『Law of the Krone』)





あとがき

恭文「というわけで、さくっとボケを噛まして自爆したお爺ちゃん達はさて置き……いよいよ顔を出してきた、CPが支配者たり得るルート。
今後はこの破壊と、常務とCPの決着点……更に卯月の未来が主軸となります」

フェイト「ふぇ……なんだか大変なことにぃ」

恭文「メイドを差し出してきた馬鹿がいるしね!」


(『反省はしている』)


恭文「やかましいわ! ……というわけで、お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと……今日は卯月ちゃんがまた常務さんと仲良くなって……」

恭文「常務的に見て、いろいろ気になっている感じかぁ」


(この辺りも実は理由が……あるといいなぁ)


恭文「それは作っておけ! ……そして未央は、居住地カーストに悩むことに」

フェイト「主にヤスフミと卯月ちゃんのせいだからね!」

卯月「大丈夫です! 私、頑張ります!」


(そこで登場……島村さんメイドVer)


恭文「……本当に対抗しにきたぁ!」

卯月「はい! だから……御奉仕、ですよ?」

フェイト「うん、分かった……なら私も負けないように」

恭文「おのれもツッコめぇ!」


(今日の島村さんは、マジです。
本日のED:KNOCK OUT MONKEY『RIOT』)


卯月「でも……押しつけは駄目ですよね。
はい、だから……恭文さんがしてほしいこと、ありますか?」

恭文「うーん……じゃあ、この間作ってくれたポテマカサラダ、美味しかったから……また作ってほしいな」

卯月「はい! 頑張ります!」

茨木童子「あれかぁ! ポテトサラダにマカロニを入れた単純なものかと思ったら……食感の妙があって最高だった」

白ぱんにゃ「うりゅりゅー♪」

フィア「そう言えばあれ、どうやって思いついたのだ?」(白ぱんにゃを撫でながら)

卯月「スーパーのお総菜であったんです。実際に食べてみたら、思いの外美味しくて……実は得意料理です♪」


(おしまい)





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