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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのはち 『すうぃと・そんぐす・ふぉえばぁ その力と刃の意味編』



古鉄≪さて、最終決戦です。というか、作者が某サイトで見たOVAの記憶が薄れないうちに幕間そのはちです。
というわけで皆さま、おはこんばんちわちわ。古き鉄・アルトアイゼンです≫

美由希「・・・アルトアイゼン、色々詰め込まれてて訳が分からないよ。皆さん、どうも。高町美由希です。
今回で、とらハOVA話も最後。いや、長かったね〜」

古鉄≪全くリリカルなのはの話ではありませんでしたけどね。あと、私の出番が・・・!!≫

美由希「・・・と、とにかく、幕間そのはち、始まりますっ!!」

古鉄≪次回の幕間は、もっと主役である私に出番をー!!≫

美由希「いやいやっ! 主役は恭文だよねっ!?」

古鉄≪悲しい勘違いですよ≫

???「んなわけあるかボケっ! 主役は僕だよっ!!」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


幕間そのはち 『すうぃと・そんぐす・ふぉえばぁ その力と刃の意味編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・地下3階。コンサート会場の駐車場。





恭也さんと二人で色んなもんを引き連れつつ、ここまで来た。





つか、相当居るな。気配・・・いや、中途半端な殺気がゴロゴロしてる。





ま、そこはともかくだ。










"・・・ということで、ザフィーラさん"

"あぁ、こちらは任せろ"

"お願いします。というか、すみません・・・"



現在、僕を心配して会場に来てくれていたザフィーラさんと念話中。というか、守護騎士メンバー全員に、リインも居るらしい。

うぅ、結局巻き込んだ。なんというか申し訳ないよ。



"気にする必要はない。お前・・・というより、恭也殿の見立て通りなら、事は主にも害が及ぶ"



・・・そう、はやても会場に来ているらしい。



"あと・・・本当ですか? フェイトも来ているって"

"本当だ"



・・・フェイトも会場に来ているそうです。というか、なのはにアリサとすずかさんも。

つか、絶対面倒なことになると思って、僕も恭也さんも招待しなかったのに・・・。ついでに、フェイトは喧嘩中だし。



"来るなと言うのは無理な相談だろう。クリステラ女史は、高町家と付き合いが深いそうだしな"

"・・・それもそうですね"

"蒼凪、それより気をつけていけ。そして必ず果たせ。お前が今、成すべき事をな"

"・・・はい"





そこで念話は終了。静寂が僕を包んだ。あと、殺気の発生源達。





「・・・恭也さん」

「どうだ?」



聞こえるか聞こえないかの小さな声で、僕達は会話する。



「大丈夫です。お昼は、焼き魚じゃなくてお刺身ですよ」

「なら、安心だ」



なんて言いながらも、二人で歩を進める。



「・・・あと、恭也さん」

「なんだ」

「帰ったら、暗器の使い方・・・教えてもらえませんか? 綱糸とか飛針とか」

「おいおい、教えはしないと言ったはずだぞ」



いや、それはそうなんですけど・・・。やっぱあれは自力は無茶かなと。



「確かに、自分で自分を縛ったくらいだしな」

「それは言わないでくださいっ!!」



思い出して、頭が痛くなる。うぅ・・・アレは辛かった。思いっきりがんじ絡めだったし。



「まぁ、考えておいてやる」

「ホントですかっ!?」

「あぁ。ただ・・・」

「分かってます。その前に・・・」





僕達は、揃って足を止める。そうすると、ゾロゾロ出てきた。



車や駐車場の柱の影から、スーツを来て青竜刀やら銃器やら持った奴等が。





「お掃除・・・ですね」

「そうだな」





で、そいつらは妙な仮面を付けていた。



・・・なんですか、アレ。




「中華マフィアの関係だろう」

「なるほど、確かにそれっぽいや」





アルトをセットアップ。腰に差す。恭也さんも、小太刀を抜く。





「・・・御神・不破流を敵に回した不幸を、呪え」

「・・・潰す」










そうして、始まった。いつもとは違う、あの時と同じ戦いが。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



駐車場に響くのは、『パンっ!!』という乾いた音の数々。いわゆる一つの銃声。





その中を、僕と恭也さんは駆け抜ける。恭也さん・・・やっぱすごい。





離れている、もしくは撃ってこようとする敵には飛針を複数投げつけ、動きを止める。動きを止めるのは当然、その全てが命中する。

そして、相手がその痛みで怯んだ所に一気に近付き、斬り、仕止める。

または、綱糸を用いて捕縛。その後に斬る。





その行動の全てが迅速。敵方は誰も恭也さんを捉えられない。ぶっちゃけ、あれは僕も無理。





・・・かく言う僕も、頑張ってはいる。










「・・・はぁっ!!」










低くかがみつつ、アルトを振るう。左からの横薙ぎ。斬り抜けの一閃。

当然身体強化以外の魔法は使えない。そして今回は峰打ちは無し。つか、余裕が無い。だから・・・アルトの刃で斬る。





加減はしてる。急所も外してる。つか、外せる。それでも動きを止められる。きっと、高町家との訓練の成果。

ついでに、こいつらの実力は一山いくらな感じ。これなら、僕でも充分対処出来る。





でも、斬った瞬間溢れ出る血とその匂い。この人を斬る感触はやっぱ慣れない。




・・・ううん、違う。思い出すんだ。それで、怖いんだ。また・・・って、どっかで考えてる。










≪・・・それでいいんです≫



その声は、続けて駐車場を駆け抜け、刃を振るう僕に対してのもの。当然・・・アルト。



≪怖いということは、あなたが変わっていない証拠です。というか、慣れ過ぎてもダメでしょ≫

「・・・そうだね」










慣れなくても、銃弾の雨の中を走る。怖くても、斬る。その度に、血が宙に舞う。

素の身体能力なら、僕はこんな真似出来ない。でも、強化魔法をかければ別。なんとか動ける。





そうこうして居ると、左後方からオートマチック式の銃を構えたのが二人出てきた。僕は・・・跳んだ。

その次の瞬間、僕の居た場所を銃弾が何発も突き抜ける。





僕はと言うと・・・その二人を飛び越え、後ろにまわって着地。二人組が気付いてこちらへ振り向くけど、遅い。

そのまま二人へと踏み込む。そして、アルトを右、左と袈裟に振るう。その連撃で、二人は血を流しながら倒れる。





息つく間もなく後ろに飛ぶ。左の真横から、銃撃。車の影に隠れていた。

そいつが影から出てきつつ僕に撃ってくる。だから、低く屈むようにして銃弾を回避しつつ飛び込み、その右わき腹を斬り抜ける。

・・・また、血が流れる。





そこに飛びかかってきた青竜刀持ちのやつも、上段から撃ってきたのを右に半身になって回避。

アルトを青竜刀の峰に当てる。そうして、そこからの反撃を数瞬防ぐ。・・・その数瞬あれば、十分。

そこから滑らせるようにして刃を相手の胸元へ打ち込み、斬る。それで、相手は倒れる。




恭也さんも、ぶっ飛ばしてる。僕がちょこまかやってる間にその倍は片してた。





でも・・・数が多い。僕も恭也さんも、10人以上は斬ってるのに、まだ減らない。





でも、止まれない。考えつつも、銃弾を避け、走り、アルトを振るう。そうして悪意を潰す。

すると、背中に暖かい感触。・・・恭也さんだった。










「・・・まだ行けるな?」





敵が僕達の前に立ち塞がる。それぞれの獲物を構え、鉄の弾を放つ。





「もちろん」










それだけ話して、僕達はまた飛び出した。・・・まず、新たに出てきた三人っ!!





また低く、床を這うようにして飛び込み、アルトを左から斬りあげ、一番左に居たやつを斬る。

それから、アルトを逆手に持ち変える。その柄尻を、真ん中に居た奴の鳩尾に向かって突き入れるっ!!

その衝撃は、男の内臓器官に直接伝わり、それらを蝕む。すると、男は血を吐きながら、倒れた。





・・・御神流の技法の一つで、表面を傷つけずに内部に直接的に衝撃を打ち込む技。その名も・・・『徹』(とおし)。

訓練の中で盗んだ物の一つ。内部打撃は、中国拳法とかでもあるから、なんとか盗めた。・・・まだ未完成だけど。





でも、油断出来ない。まだ一人居る。僕は、飛び込んだ。





男が構えていた銃を、飛び込みながらも順手に持ち変えたアルトを右上から、斬り下げる。そうして、銃身を斬り落とす。

そのまま、返す刀で相手の腹を・・・薙ぐっ!!





うし、これで・・・大分少なくなった。もうちょいだ。










「・・・・・・ヤスフミっ!!」





・・・へ?



声が聞こえた。そして、寒気がした。



だって、それは知っている声で、ここに居てはいけない声で・・・。





「・・・フェイトっ!?」

≪というか、高町教導官にはやてさんまでっ!!≫





そちらを見ると、顔面蒼白なフェイトと、同じ感じのなのはとはやてが・・・居た。



で、それを見た近くの奴が三人に銃を向けた。三人も、それを見る。だけど、そこから無反応。

まるで、自分達の状況が分かってないような感じで・・・あぁ、もうっ!!





≪Blilz Rush≫





発動させたのは、高速移動用の魔法。肉体強化の一種でもある。



そして、右足を踏み込む。コンクリートの路面がその力で砕け、僕はいつもより速く駆け出した。

そのまま、アルトを上段から一閃。銃身を真横から斬り落とし、左の手・・・掌底を、そのまま懐に踏み込み、男の横腹に打ち込む。当然、徹で。

男は、先ほどの奴と同じように倒れてくれた。





「三人とも、無事っ!?」

「・・・あ、うん」

「なんとか・・・」



なのはとはやてが、生返事を返してきた。・・・やばい、完全に呆けているし。仕方ない、このままは無理だ。



「恭也さんっ! すみません、一旦抜けますっ!!」

「・・・わかったっ! なのは達を頼むっ!!」










戦いながらも、状況を見ていてくれていたのか、恭也さんが剣を振るいながら答えてくれた。





それを聞いてから僕は、未だに呆けている三人を叱咤して、非常階段へと走った。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・で、螺旋式な非常階段を上に走りながら、事情説明となった。










「・・・フィアッセさんが狙われてるっ!?」

「で、さっきうちらに撃ってこようとしたんがその一味。それで・・・アレか」



僕は、なのはとはやての言葉に頷く。



「なるほどな、せやから恭也さん達はいきなりイギリス行ったわけか」

「そうだよ、恭也さんと美由希さんが、フィアッセさんに護衛を頼まれたの。僕はその手伝い。
・・・つか、なんでなのは達はあんなとこに居たのよ」

「アンタと恭也さん見かけて、追っかけてきたんよ。フェイトちゃんと話させよう思うてな。そしたら、あの映画張りのドンパチや」



・・・くそ、守護騎士メンバー全員に動いてもらってるのが裏目に出たか。普通に観客してると思ってたのに。



「それで、アリサとすずかさんは? 一緒に来てるんだよね」

「二人なら、暇潰しに会場を散策中や。うちらとは別口でな」



・・・そっか、なら・・・だね



「・・・とにかく、話した通りだから、すぐに二人と合流して、安全が確保されるまで会場の外に出てて」

「待って、恭文君はどうするの?」

「なのはちゃん、聞くまでも無いやろ」

「僕は戻る。言ったでしょ? 手伝ってるって」



まだ伏兵が居る可能性は充分にある。そして、美由希さんにエリスさん達はフィアッセさんに回ってる。当然ここは外していけない。

援軍が期待出来ない以上、あの数を恭也さんだけに任せるわけにはいかない。いくら恭也さんでも、数に任せて攻め込まれたら・・・。



「・・・しゃあないな。ただし」

「分かってる。無事に帰ってくるから」

「ならえぇよ。リイン達泣かせんのやったらな」



いや、我が悪友・・・というか、八神家は全員話が速くて助かるよ。おかげで僕も楽が出来る。



「はやてちゃんっ!!」

「いや、しゃあないやろ。なのはちゃんと同じで、止めて聞く奴とちゃうんやし」

「一緒にしないでっ! 私はここまでしないもんっ!!」



まてまてっ! それはどういう意味だよっ!!



「恭文君、お願い。もうやめて。私、また同じことになるんじゃないかって考えたら・・・」

「悪いけど、聞けない。・・・まだ終わってない」



そうなのはに答えた瞬間、端末に着信が来た。・・・恭也さん?



「もしもし」

『恭文、今どこに居る』

「非常階段です。こっちはなのは達をなんとか安全圏までには。ただ・・・」

『なにかあったのか?』

「すみません、全部話しました」

『そうか・・・。いや、そこはいいな』



・・・後が大変だろうけどね。とにかく、恭也さんがこうしてかけてきたって事は・・・。



『あぁ、こちらはなんとか片付いた』



すげぇよ御神の剣士。まだ10分も経ってないのに。僕のさっきの心配をぜひとも返して欲しいよ。



『それよりも問題だ。・・・フィアッセがさらわれた』

「はいっ!?」



まてまてっ! さらわれたってどういうことっ!? 美由希さんもエリスさんも居るじゃないのさっ!!



『美由希は現在交戦中だ。フィアッセには引き続きエリスが付いていたが・・・』

「そこを突かれて・・・ですか」

『そうだ、美由希がやりあっている奴は、相当な手練れ。そちらが片付いても、当然援軍も期待は出来ん。フィアッセは俺達でなんとかするしかない』

「分かりました、すぐに向かいます」





恭也さんに犯人とフィアッセさんが向かったと思われる場所を聞いて、通話を終える。





「・・・アルト」

≪最短ルートの割り出しは完了しています。先回り、いけますよ≫

「ありがと」



・・・助けますから。約束、守るし、守ってもらいますよ。僕はこんな所でお別れなんて、嫌です。



「じゃあ、行ってくる」

「恭文君、待ってっ!!」

「待つ余裕なんてない。今すぐ行かないと」

「・・・・・・げん・・・・・して」



聞こえたのは、声。それで、その場に居た全員が動きを止める。近くにある出入口に走り出していた僕も。

その囁くような、絞り出すような声は、フェイトだった。



「ヤスフミ、いい加減にして。・・・一緒に帰るよ。もう、こんなことはおしまい」

「まだ終わってない」



振り返らず、フェイトの声に僕は答える。そう、まだ終わってない。



「・・・帰るよ」

「嫌だ。つか、何度も言わせないで。まだ」

「なら、終わらせるよ」



・・・見なくても、気配で分かった。フェイト、術式を・・・プラズマランサーをセットした。しかも、複数。

そしてそれを、僕に向けている。フェイトはそうしてまでも、僕を止めようとしている。



「フェイトちゃんっ!!」

「なのは、黙ってて。・・・また、人を斬るの? あんな風に、魔法も使わないで。もしかしたら、また殺してしまうかも知れないのに」

「そうだね」



事実だから、きっちり答える。つか、明らかに目立つ攻撃魔法は使えないでしょ。バレたらどーすんのよ。



「ヤスフミ、思い出して。ヤスフミはあんなことしたくて魔導師になったんじゃないよね。リインを守りたくて、後悔に負けたくなくて・・・」

「そうだね」



事実だから、またきっちり答える。むしろ、したくない。また間違えると思うと、やっぱり怖いから。



「なのに・・・どうしてあんなことするのっ!? あんなの、私達魔導師の戦い方じゃないっ!!
私やなのはにはやて、皆が・・・どんなに心配して、泣きたくなるくらいに悲しいか、どうして分からないのっ!!」

「それでも、守りたいものがあるから」



振り返り、フェイトを見る。そして、向けられた複数の雷の槍を見る。



「目の前の理不尽に抗う力を持たない弱くて・・・だけど、強い人が居るの。だから、その人の心を、その人の歌声を、そんなものから守りたい。
で、僕はそのために戦うって決めた。結果も、全部受け入れる覚悟をして・・・ね」

「そんなの、理由にならないよっ! そんな覚悟しても、なにも変わらないっ!! ヤスフミが言ってるのは、周りの気持ちを省みない、ただの傲慢だよっ!!」

「・・・知ってるよ。とにかく、行ってくるわ」





そして、また行くべき道を見据え、歩を進める。





「止まって。じゃないと」

「いいよ、撃ってくれて。それくらいの事してるのは、分かってるから」





また一歩、階段を降りる。





「ヤスフミ、止まって」




また一歩。




「・・・お願い」





またまた一歩。





「・・・・・・止まってって言ってるよねっ! お願いだから、私の言うことを聞いてっ!!」

「・・・・・・・・・・・だから」





また振り返り、フェイトを見る。・・・いや、睨みつける。





「撃ちたいなら撃っていいって言ってんだろうがっ! もし撃つ覚悟も無いって言うなら、んな真似するんじゃないよっ!!」



僕の怒号が、その場に響く。耳が少し痛くなるくらいに。



≪・・・マスター、時間がありません≫

「分かってる。・・・フェイト、一言だけ言っておく」



・・・・・・きっと、必要だから。言葉に、ちゃんとしておく。



「ゴメン」

「え・・・?」

「心配かけてるのも、悲しませるのも・・・分かってる、つもり。でも、止まれないの。取りこぼしたくないの。
手を伸ばす事を、魔導師どうこう戦い方どうこうで躊躇って」





そう口にした瞬間、自分の中で何かが弾けた。そして、分かった。

そう、僕は魔導師だからとか、魔導師じゃないとか、いつもと違う戦い方だからとか、そういうので躊躇いたくもないし、迷いたくもない。



だから・・・なんだ。僕はただ、迷いたくなかっただけなんだ。だって、気持ちは一つだから。





「目の前の人を助けられなかったら、絶対に後悔するし、なにより・・・僕が、嘘になる」










そうして、僕達は走り出した。囚われた歌姫を取り戻すために。





なお、フェイトのプラズマランサーが飛んでくることは、無かった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・行ってもうたな。ま、止められんのは分かっとったから、ここはえぇか。





さて、どないしようか。この落ち込みモードなお姉さんは。










「・・・フェイトちゃん、あの・・・ごめん。お兄ちゃん達のせいで」

「・・・撃てなかった」



フェイトちゃんが、階段にへたりこみながら、なのはちゃんの言葉に答えた。それと同時に、複数セットされてたプラズマランサーも消えた。



「非殺傷設定で、あんな風に直接的に傷つけたりしないって分かってたのに、私・・・撃てなかった。
私を見るヤスフミの目が強くて、鋭くて、だけど・・・なんにも変わってないのが分かったから」

「・・・せやな、アイツは別に変わってへん。うちらの知ってるまんまや」



リインと最初に会った時のまんまや。後悔、また背負うことになっても、手伸ばしたい思うたら、止まれんのやろ。

今のアイツが考えてることは一つ。フィアッセさん何がなんでも守ることだけ・・・全く、ホンマに難儀な子や。



「おかしいよね。私、ヤスフミがあんな風に戦うの嫌なのに、止められ・・・なかった」

「フェイトちゃん・・・」



・・・ま、アレや。



「うちらは、恭文の言うように、アリサちゃん達と合流。安全圏に避難しとこう」

「でも、はやてちゃん。このままは・・・」

「そう言うたかて、ここで魔法は使えん。それでうちらは、魔法取ったら完全にただの人や。それでどないしろ言うんよ」



うちがそう言うと、なのはちゃんが黙った。・・・まぁ、肉体強化くらいはOKやろうけど、それでもうちらはダメや。

理由は一つ。こういうのに全く場慣れしとらん。現に、さっきは恭文おらんかったら危うく蜂の巣やし。



「対処は恭也さん達と、スクールの警護の人達に任せるしか無い。うちらがここに居たら、邪魔なだけや」

「・・・そうだね。悔しいけど、私達、なにも出来ないんだよね」

「そういうことや。ほなフェイトちゃん、いこうか。立てるか?」

「うん・・・」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・とにもかくにも、全力疾走。賊は僕がさっき使っていたのとは別の非常階段を降りて、地下に向かっているらしい。





でも、殺すんじゃなく、連れ去ろうとするとは・・・フィアッセさんをどうするつもりだよ。










≪普通に考えれば・・・遺産を手に入れるためでしょうね。やはり、フィアッセさんがなにかしらのキーになっているんでしょう≫

「そうだね」





これもさっき美由希さんと別れる前に恭也さんから聞いたこと。・・・なんとまぁビックリ。フィアッセさんには、狙われる理由があった。



ただし、フィアッセさん個人に非があったり、その理由があるわけでは決してない。・・・原因は、母親であり故人のティオレ・クリステラさんにある。

恭也さんの話では、ティオレさんがフィアッセさんに残した『遺産』とやらを狙って、今回の事件は起きたそうだ。



そして、ここで重要な事がもう一つ。その遺産の事は、フィアッセさん自身も今回の件が起きるまで、全く知らなかったらしい。

でも、フィアッセさんも知らなかった事を犯人連中はどこからか聞き付けて・・・いや、故人のことをどうこう言うのもアレだけどさ。ちょっと思った。

フィアッセさんのお母さん、もうちょい・・・なんとかならなかったんですか? つーか、これで狙われるのは、ちょい理不尽でしょ。





≪いくら位だと思います?≫



走っている途中で、アルトがそう聞いてきた。



「なにが?」

≪遺産ですよ。普通に考えれば、相当額と思いますが≫

「また無粋な・・・」

≪ですが、ごくごく一般的な考えです≫



・・・確かに。だからこそ、犯人連中だって、フィアッセさんを狙ってきたんだろうし。



「でも、その遺産とやらがお金じゃない可能性だってあるでしょうが」

≪それでも・・・ですよ。話では、ティオレ・クリステラ女史も世界的なシンガーだったそうですし≫



らしいね。なお、当然僕はフィアッセさんから話を聞くまで知らなかった。今度、CD探して聴いてみるかな。



「ま、そこはいいでしょ。遺産がお金だろうが宝石だろうが、フィアッセさんを守ることには変わりないし」

≪・・・やっぱり乗り換えですか?≫

「違うわボケっ!!」










とにかく、僕は速度を上げる。この調子なら・・・恭也さんよりも、早くつけるっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・というわけで、お転婆はここまでだよ。エリス・マクガーレン」





・・・悔しい。目の前に、居るのに・・・!!





「動かないでもらえると、私としても非常に助かる」










そう言って、男は私から離れフィアッセに近づく。左手に持った拳銃の銃口は、以前私を向いている。

黒いコートに銀髪。右手にはトンファー型の刀剣。そして・・・見ているだけで寒気を覚える瞳。

コイツが今回の一連の事件、そして・・・10数年前に起きた、アルバート・クリステラ議員を狙った爆破テロの実行犯。





私も、フィアッセと共にそこに居た。そして・・・子どもだった私は、コイツに会っている。

あの時、キョウヤの父親であるシロウ・タカマチが居なかったら、どうなっていたか。





いや、そこはいいか。とにかく、今の状況だ。・・・悔しい。私では、コイツに対処出来ない。二度も背中を取られた。





悔しい。私は・・・何も守れないのかっ!?





その時だった。おそらく、奴が逃走用に用意していた車だろう。それがいきなり真ん中から真っ二つになり、爆発した。










「・・・え?」










その場に居た全員の動きが、そこで止まる。当然の反応だ。普通ならあり得ない。





そんな私達の反応にはお構い無しで、爆風の熱と衝撃が、この辺り一帯を駆け抜け、支配する。





そして、近くに居た一味と思われる男達が、血を上げながら次々と倒れていく。





その原因は一つ。吹き抜ける風と、そこから生まれる銀の煌めき。それらが、外敵を斬り裂き、排除する。

当然、それは黒いコートの男にも迫る。フィアッセと男との間に割り込むようにして。

男が、その風から生まれる煌めきを、右手の獲物の刃で受け止める。





そこで、風は止み、その姿を表した。










「・・・また面白いものが出てきたな」

「お前が親玉? よくもまぁ、散々好き勝手やってくれたね」





その子は、そう言うと後ろに飛んだ。私は、そこで我に帰り、すぐにフィアッセの元に駆け寄る。





「さて、サムライボーイ。こんな所になにしに来たのかね。お遊戯なら、他でやって欲しいが」

「守りに来た。・・・いや」



その子は笑って・・・そう、不敵に笑いながら、続けて言い放った。



「フィアッセさんを奪い返しに来たのよ。・・・・・・さぁ」



その子は左手を胸元に持っていったと思うと、すぐさま男に向かって指差した。



「お前の罪を数えろ」

「・・・恭文くんっ!!」










そう、ヤスフミ・アオナギだった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ほう・・・。残念だが、それは無理だ」

「と、言うと?」

「彼女は私と結婚することになるからだよ」



・・・・・・マジ?



「・・・フィアッセさん」



当然、僕はフィアッセさんの方を見・・・るわけにはいかないので、声だけ聞いてみる。



「あの、違うよっ!? その人が勝手に・・・」

「・・・納得しました。つかさ、おっさん」



僕は、言いながらアルトを正眼に構える。そして、見据える。目の前のやつを。



「フィアッセさんは7年後に、僕がお嫁にもらってラブラブすることが決定済みなのよ。アンタの出る幕は、ない」

「バカじゃないのか君はっ!?」



いや、ハッタリだけどねっ! つーか、何気にエリスさんのツッコミがヒドいんですけどっ!?



「・・・・・・ほう、君が・・・彼女とか」



あれ? なんか食いついてきたし。というか、視線が・・・!!



「とにかく、エリスさん」

「分かってる。・・・さ、フィアッセ」

「うん・・・」



そう言って、エリスさんがフィアッセさんの手を引いて後ろに下がる。僕は、それを庇いながら警戒を緩めない。

さて、どう来る? いきなり切り札切ってくるとか・・・。



「・・・ククク、なるほど。そうか、そういうことか」



いや、お願いだからいきなり一人で納得して一人で笑わないで欲しい。こっちは怖いのよ。



「見ていて妙に距離感が近いとは感じていたが・・・納得した。君と私は恋敵と言うわけか」



なおも笑いながら、言ってきた。だから、本当に怖いのですよ、おじ様。・・・とにかく、僕も。



「・・・バカじゃないの?」

「なんだと?」



至極普通に、いつもの調子で返す。



「敵にすらなってないね。だって僕達、もう不可能どころか、年の差越えてラブラブだし。アレだよ、『恋は盲目。その他諸々眼中にすら無し』ってやつ?
さっきも言ったでしょうが。いい年こいてストーカー紛いなことしてるド三流犯罪者の出る幕じゃないのよ」

「君はこの状況で、一体何を言ってるっ!?」

「そうですっ! 私達、もう心から愛し合っていますっ!! 一緒のベッドで眠れるくらいにっ!!」

「フィアッセもノるんじゃないっ! というより、現在11歳の子どもと心から愛し合っていたら、いくらなんでもマズ過ぎだろっ!! 20代の大人としてっ!!
そして君は、そんなことをしたのかっ!? どうなんだっ! 答えろっ!!」





・・・僕達、まだいけるね。こんなバカがやれるくらいには、余裕あるわ。

つか、エリスさん。してないし出来るわけがないですから。ここで釈明は無理だけど。

あとフィアッセさん、それは無理です。僕が無理なんですよ、はい。



でも、向こう様はちょい違うらしい。フィアッセさんが乗っかってきた途端に、徐々に上がり続けていた殺気が、一気にその量と鋭さを増した。



僕はこれを知ってる。突き刺すような、鋭い刃物のような殺気。魔導師になってから、何度も味わっているから。

こうしているだけで、それで斬りつけられている感覚を覚える。





「・・・そうか。ならば」





目の前のおっさんが消えた。そして、後ろに気配。つーか、殺気。





「死んでもらおう」





おっさんが刃を振るい、右から打ち込んで来てた。それを、しゃがんで避ける。



避けてすぐ、アルトを・・・打ち込もうとしたら、また消えたっ!?





「驚いている暇はないぞ」





おっさんは僕の右に居た。そこから上段で打ち込まれる。それを、左に飛んで避ける。

それを見ておっさんはすぐ、左手の銃を向け、数発撃ってきた。それをまた左に飛び、避ける。



・・・すると、目の前におっさんが居た。いや、現れた。



おっさんはトンファーの柄を、拳を叩き込むようにして、僕に打ち込んできた。

タイミング的に回避・・・無理。僕はそれを、アルトの柄で受け止める。



伝わるのは、そのまま受けていたらアバラをヘシ折られて、沈むんじゃないかと思わせるような衝撃。



その勢いのまま、僕は後方へ飛ばされた。すぐに受け身を取り、迎撃体制を整える。





「・・・ほう、アレを見切るか。良い目をしている」





当然だ。恭也さんの『鬼いちゃんモード』での殺気やら速度やら飛針やら斬撃に比べれば、この程度は充分対処レベル。ついていけない訳が無い。



でも、銃器で撃たれるのはやっぱり怖い。・・・大丈夫、迷うな。絶対に迷うな。





「だが・・・まだまだ甘い」





当然、またおっさんは飛び込んでくる。・・・いや、消える。



僕の死角から、また打ち込んできた。

アルトで刃を受け止める。すると、すかさず銃口を向ける。だから、僕は大きく左に飛ぶ。

おっさんはすかさずその銃口の先を飛んだ僕に向け直し、銃弾を放つ。



次の瞬間、感じたのは熱。それが身体のあっちこっちを掠める感覚だった。



・・・意外と、痛い。右の頬に、脇腹。左の二の腕に右の太もも。銃弾がかすっただけなのに、これだ。



でも、着地してすぐに飛び込む。そして・・・発動。





≪Blilz Rush≫





さっきもここに飛び込む時に使った高速移動の術。それで一気に相手の背後に回り込み、アルトを右の脇腹に打ち込む。



でも、届かなかった。僕の攻撃はむなしく宙を斬っただけ。またおっさんは消えた。



おいおい、まさか・・・高速移動の魔法込みでの移動と攻撃の速度を知覚してるっ!?





「上だっ!!」





そのエリスさんの言葉に、僕は後ろに飛ぶ。すると、前を掠めた。銀に鈍く光る刃が。

おっさんは着地すると、一気に踏み込んで来て、刃を縦横無尽に振るう。それをアルトで弾き、受け流す。



横薙ぎの刃を受け止める。・・・いや、柄だった。

おっさんは身体を僕の左に滑り込ませるように動かすと、アルトを支点に刃を打ち込んでくる。



その刃の行く先は・・・僕の首。ちょうど、後ろから刈り取ろうとするように。



すぐにしゃがんで避ける。・・・次の瞬間、膝が飛んできた。避けようとするけど、まともに腹に受ける。



膝が身体にめり込み、痛みと吐き気が襲ってくる。そのまま、地面に倒れた。



でも、すぐに転がり、おっさんから距離を取る。・・・それで正解だった。僕が居た位置に、また銃弾が打ち込まれたから。





「・・・ふむ、なかなか丈夫だな。アレで意識を奪えないとは」





当然だ。もっと痛いのとキツいの経験してるし。あと、『鬼いちゃんモード』の恭也さんに比べれば・・・。



僕、もしかしたらここ数ヵ月の人生の過ごし方、間違えてたのかも知れない。ふとそう思った。主に、なのはを魔王呼ばわりしたりとか。





「なら、仕方ない」



僕がなんとか立ち上がって居ると、おっさんは左手の銃の弾を入れ換える。そして、笑いながらこう言った。

そう、笑っているのだ。とても薄気味悪く、暗いものを感じさせる笑みを、このおっさんは浮かべている。



「なぶり殺しにするしかないようだ」





そして、また始まった。身体はまだ動く。問題はない。



死角外からの攻撃を基本に、刃付きトンファーと銃で、連続的に仕掛ける。それを、アルトで弾き、避け、対処していく。



でも・・・ヤバいっ! 完全に弄ばれてるっ!!





≪・・・あれ、本当に非魔法能力者ですか?≫





対処を続けながら、思念通話でそう言って来たのは、アルト。



・・・やっぱアルトもそう思う? つか、おかしいよね。色々とさ。





≪そう言いながら、どうして楽しそうなんですか≫





・・・そう見える?





≪かなり≫





・・・そうだね。うん、楽しいよ。怖いけど・・・楽しい。



刃を弾く度、至近距離で放たれる弾丸を避ける度、楽しいってどっかで感じてる。命を賭けるの、やっぱ嫌いじゃないらしい。



それで、嬉しいの。魔法無しでも強い人、恭也さんや美由希さん、士郎さんに警防の人達だけじゃないんだって、分かってさ。





≪・・・本当に真性バトルマニアですね。イカれてますよ≫





刃と刃がぶつかり、火花が散る。硝煙が當に漂い、血の匂いと混じって、鼻をくすぐる。



おっさんが刃を振るい、銃弾を撃つたびに、身体に傷が増える。それが髪を掠め、散る。



それでも・・・止まらない。怖いけど、楽しいし、嬉しいから。



そして・・・護りたいから。



背負ってる。命と今と未来を。約束したから。



それで、・・・僕は、覆したいんだ。こんな下らない今を。





≪なぜ、そう思うんですか≫





こんなの、普通じゃない。それで泣いている人が今、目の前に居る。それを助けるのに、助けたいと思うのに、理由なんていらない。



それに、僕には小さいかも知れないけど、力があるしね。だったら・・・頑張りませんと。





≪なら、勝ちましょう。ここで負けたら、本当にあなたは地獄行きですよ≫





・・・うん。





「・・・驚いた。まさか、その傷でここまでやるとは」

「愛の力ってのは、偉大なのよ。・・・あ、訂正」





動きに動いて、荒くなった息を整えつつ、僕はおっさんを嘲笑う。なお、おっさんは息も切らさず平然としてる。





「相思相愛の力ってのは、偉大なのよ」

「・・・・・・そうか」





おっさんの殺気が、また強くなった。もう刃じゃない。無数の針を身体に突き立てられてる感じがする。



ちょっとちょっと、マジでフィアッセさんに惚れてるんじゃないのっ!? いくらなんでもおかしいでしょうがっ! つか、目がつや消しだしっ!!





「ならやはり、君は殺すしかないようだ。そうしなくては、彼女はどれほど時間をかけても、私の物にならない」





・・・そう言って、男が踏み込もうとしてる。多分、避けられないと死ぬ・・・かな?

いや、愛は偉大だね。色んな意味でさ。



とにかく僕は、アルトを鞘に納める。そして、構えた。





「・・・バカじゃないの?」





低く・・・低くかがんで、力を溜める。そして、おっさんの言葉に軽く返す。いつもの調子で・・・らしく。





「女の子を『自分の物』なんて言う時点でアウトだって、なんで気付かないかな」

「・・・抜かせ、小僧」










そして、踏み込んだ。





アルトを抜き放ち、右から襲い来る刃に打ち込む。そうして、アルトの刃と、トンファーの刃が触れる。

これ、相当硬いらしい。アルトと何度も打ち合ってるのに、刃こぼれ一つしない。

だから・・・刃と刃が触れるその刹那、一気に引き斬るっ!!





そうして、おっさんの獲物の刃を、その中ほどから斬り落とした。




そして、おっさんは左手の銃を僕に向けようとする。

その銃身を狙って・・・振り切ったアルトの刃を返し、右から袈裟に斬り下ろす。アルトの刃は、先ほどと違ってなんの抵抗も無く、銃身を斬り落とす。










「・・・瞬・二連(またたき・にれん)」










瞬(またたき)は先生から教わった抜き・・・示現流の居合い。これはその発展技。

でも、まだ未完成だったりする。先生が使っていた完成形は、三連撃だし。





これで獲物は封じた。でも、おっさんは止まらなかった。

中程から斬られて、短くなったトンファーの刃を、僕に突き立ててくる。

腰から咄嗟に左手で鞘を抜いて、その軌道を逸らす。刃は、僕の左の肩の肉を少し斬り裂く。でも、急所じゃない。










「・・・いい加減に」










そうしながらも、アルトをおっさんの左膝に突き刺し、その刃を返す。手から伝わるのは、骨と肉を無理矢理削る感触。

でも、これで終わらない。左手に持った鞘の鞘口に魔力をコーティング。硬度をしっかりと高める。

そこからそのままおっさんの鳩尾に下から抉り込むように・・・徹を打ち込むっ!!










「・・・がは」

「沈んでろ」





そうして、男が崩れ落ちた。崩れ落ちる時に、引き斬りの要領で左肩の傷が深くなったけど、気にしないでおく。少し、痛いだけだ。



そのまま、視線を外さずに後ろに・・・フィアッセさん達のところまで下がる。下がりながらも、膝から引き抜いたアルトを振るい、付いた血を落とす。





「・・・フィアッセさん、エリスさん、大丈夫ですか?」

「うん、なんとか・・・。というか」

「君よりマシだ。あちこち傷だらけだぞ?」





・・・そうですね、また傷だらけだよ。あー、シャマルさんに会うのが怖い。いや、すずかさんも居るんだ。





「・・・まだだ」





声が聞こえた。それは・・・おっさんのものだった。



おっさんは、横たわりながらも、僕達に視線を向けていた。





「・・・まだやる気?」





随分元気だね。徹での内臓破壊に、膝砕きの技も使ったのに。



やっぱ斬って・・・いや、こいつには色々吐いてもらわないといけないから、殺すわけにはいかなかったんだけど。





「彼女を・・・こちらへ渡してもらおうか」



ふらふらと、立ち上がりながらそんな事を言ってくる。



「あのさ、立場分かってる? もうこっちの勝ちだよ」

「それはこちらの台詞だ」





そう言って、男が胸元に右手を伸ばして出してきたのは・・・何かのスイッチ。





「この会場にいくつか爆弾を仕掛けさせてもらった。まぁ・・・ステージは軽く吹っ飛ぶだろうな」

「・・・なるほど。フィアッセさんを渡せば、押さないと」



フィアッセさんとエリスさんの表情が重くなる。そりゃそうだ、会場に来ている人達が人質に取られてるんだから。



「そういう事だ。君は話が早くて助かるよ。個人的には・・・殺したい程に嫌いだがね」

「そりゃ良かった。・・・つーわけで」



僕は、歩を進める。



「押せば?」



進めながら、ニッコリ笑って言い切った。



「なん・・・だと・・・?」

「恭文くんっ!?」

「待てっ! 君は一体何を」

「押せばって言ったんですよ。最悪、二人は僕が守れますし。ただ・・・お前、本当にそれを押して爆発すると思ってんの?」



僕がそう言うと、男の動きが固まった。そして、動揺が見えた。



「どういう意味だ」

「お前、フィアッセさんのお父さんも襲ったそうだね。それも全く同じやり口で。・・・バカでしょ。その時の関係者が多数居るのに」





少なくとも、恭也さんは見抜いてた。実行犯がコイツだと。

そして、考えていた。切り札として、また爆弾を持ち出してくる可能性を。



それを聞いた僕は、恭也さんに許可をもらった上で、ザフィーラさんにあるお願いをした。





「・・・まさか」

「ご名答。いや、察しが早くて助かるよ。個人的には、殺したい程に嫌いだけどね」





・・・そう、会場に爆弾が本当に仕掛けられているか、調べて欲しいと。もしあれば、師匠達と一緒に対処してくれる手はずになってる。





「さて、どうする?」

「どうする・・・だとっ!?」

「せっかくだから、選択させてあげるよ。僕の言うことがホラだって思うなら、押せばいい。でも・・・」



アルトを鞘に納めたまま、また構える。低く・・・屈むように。



「そうした場合、今度は遠慮なく斬る」

「貴様、会場の人間がどうなっても」

「・・・聞こえなかった?」



全く、話の通じないやつである。



「今すぐ選べっつってんだよ。押して、僕に斬られるか、押さずに捕まるか」





構えながら、摺り足でにじり寄る。・・・わずかだけど、おっさんは迷った。僕の言うことがホラかどうか。本当に一瞬だけ。



でも、迷いはすぐに消えた。そう、おっさんは押すことを選んだ。押さずに捕まるよりは、こちらで・・・だ。



僕はそうすることが分かってた。だから、その一瞬の間に一気に踏み込・・・え?





「ぐはっ!!」





おっさんが悲鳴をあげる。理由は簡単、自分の右腕が突然へし折られたから。

・・・爆弾のスイッチを持っている方の腕が。なお、僕じゃない。



そこから突然、こちらへ吹き飛ばされるようにして・・・倒れた。





「・・・全く、お前は本当に無茶をするな」

「気のせいですよ。というか、今のなんですか」





男が倒れたと同時に姿を表したのは、小太刀を持って、返り血だらけの恭也さんだった。なお、スイッチはいつの間にやら確保済み。





「企業秘密だ」

「なら、盗むことにします。見させていただきましたし」

「そうか、楽しみにしてる」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・こうして、犯人グループは制圧完了。爆弾も、師匠達が対処してくれていて、問題なかった。





美由希さんの方も、相当な手練れとやり合ってはいたけど、酷いケガも無く無事だった。





・・・いや、無事じゃなかった。










「・・・ミ、ミユキサン?」

「お前、それどうしたんだ」

「そうだよっ! その・・・バッサリ・・・」



僕が片言だったり、恭也さんとフィアッセさんが少し驚いたようにそう聞いたのには、理由がある。



「・・・あぁ、これ? イメチェンしたの」



イメチェンではあるけど、それは絶対に違うのは、僕でもわかる。



「・・・犯人にやられたそうだな」

「そう・・・ですね」





エリスさんの言葉に、美由希さんが少し落ち込むように答えた。



・・・無いのだ。美由希さんの腰まで伸びる長い髪を結った三つ編みが。

なんと言うか、ショートカットな美由希さんがなんとか会場に戻ってきた僕達四人の目の前に居た。





「・・・もったいないですね」

「まぁね。ずっと伸ばしてたから・・・」



美由希さんが、どこか寂しげに斬られた髪を触るのは、気のせいじゃない。

髪は女の命って言うしね。・・・よし。



「あの・・・」

「なに?」

「三つ編みの美由希さんもいいですけど、今の美由希も・・・綺麗で、素敵です」





そう口にした瞬間、全員がポカーンとした。





「・・・お前、もうちょっと言い方があるだろう」

「し、仕方ないじゃないですかっ! 他に思いつかなかったんですからっ!!」

「いや、君は本当に・・・アレだな」



ちょっとエリスさんっ!? それどういう意味ですかっ!!



「そうだね、今のはちょっとダメかな。女の子の心を分かってないよ」

「フィアッセさんまで・・・」

「あー、私は大丈夫だから、あんまり言わないであげて欲しいな。・・・恭文、ありがと。私、嬉しかったよ」

「いえ・・・」





そう言いながら、美由希さんの笑顔を見ているのが気恥ずかしくなって、目を逸らす。



・・・とにかく、これで憂いは無くなった。あとはコンサートだっ!!





「ヤスフミっ!!」

「なぎ君っ!!」

「恭文さんっ!!」

「恭文くん、また・・・随分とケガしたわね」










・・・憂いあるかも。僕的に。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・フェイト、ゴメン」



そうして、治療を受けつつ糾弾会です。

あの、アリサ。どうしていきなり謝る?



「アタシさ、アンタのこと過保護って言ったけど、撤回するわ。こいつ、いくらなんでも無茶苦茶し過ぎ。そりゃ心配するわよ」

「あのアリサ、大丈夫だよ。うん、気にしてないから」



・・・いや、ちょっとは気にして欲しい。僕の居心地が悪いの。もっと言うと、すずかさんとリインの視線が痛い。



「・・・恭文さん、リインはザフィーラから話を聞いて、本当に本当に、ビックリしたですよ。あとでじっくりお話しましょうね?
特に・・・どうしてヴィータちゃん達には話していたのに、リインには話してくれなかったのかという点について」

「お、お手柔らかに・・・」



理不尽だろとは言うこと無かれ。今のリインの目を見たら、そんなのは見事に吹き飛ぶ。



「・・・お兄ちゃん、お姉ちゃん、あとフィアッセさん。なのはは今回の件で言いたい事が沢山あります。後でじっくりとお話しましょうね」

「「「お、お手柔らかに・・・」」」

「・・・なのは、悪いけどそれはやめて。つーか、恭也さんと美由希さんは悪くないから。もちろんフィアッセさんも」



僕が勝手に飛び込んだのだ。恭也さん達責めるのは、筋違いでしょ。フィアッセさんに至っては被害者よ? その辺りちゃんと考えなよ



「恭文君・・・。あの、でもね」

「でもじゃない。・・・皆も同じ。そういうの無しだよ。ま、僕に言う分ならいくらでも言ってくれていいけど」

「もちろんそのつもりよ。・・・これでよしっと」



そう言いながら、シャマルさんが僕の包帯を巻き終える。・・・随分包帯だらけになったなぁ。



「シャマルさん、なぎ君どうですか?」

「すずかちゃん、そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫よ。傷こそ多いけど、どれも軽傷。すぐに完治するわ」

「よかった・・・。あ、なぎ君、私も後でお話があるんだ。主にフィアッセさんとのことについて。もっと言うと、どうしてあんなに仲良さげなのかなとか」



なんでフィアッセさんっ!?



「すずかちゃん、その話に私も加わって構わないかしら。恭文くんの主治医として、非常に気になるの」

「主治医関係なくないっ!?」



・・・なお、このお話が後に僕にとってはアンオフィシャルな組織を設立するきっかけになるとは、誰も想像していなかった。



「・・・ふーん」

「フィアッセさん、なんで急にニコニコし出すんですか」

「ううん、なんでもないよ。ただ、恭文くんはそうなのかな〜って」



・・・意味が分からないんですが。



「じゃあ、私ちょっと着替えてくるね」





そう言って、フィアッセさんが更衣室に入っていった。・・・もうすぐ、開演だしね。



フィアッセさんの準備が出来たら、すぐにコンサートは始まる。うー、ドキドキしてきたよ。





「・・・ヤスフミ」

「・・・なに?」

「また、こういうことするの? 恭也さんとの訓練とか、魔法無しでの実戦とか」



また・・・か。

よし、正直に答えるか。



「訓練は継続する。それで魔法無しの戦いも、必要なら、やる。手を伸ばすことに、迷うことも躊躇うこともしたくない。手を伸ばしたのに、取りこぼしたくもない」



あの時は、それで取りこぼしかけたしね。恭也さんが居なかったら、アウトだったよ。



「でも、それは私達とは違う。それで躊躇っても、出来なくても、誰もヤスフミを責めないよ」

「そんなの関係ない。・・・僕が僕を責める」



きっと、責める。そして、後悔を背負う。そんなの・・・嫌だ。



「だから、強くなりたい。魔導師だからとか、魔法ありなしとか関係なく、動けるように、戦えるようになりたいの。
・・・ま、わがままだけどね。それでも通したいことなんだ」





そこまで言うと、フェイトが何か言いたげに黙った。でも、その言葉が紡がれることはなかった。



だって・・・。





「お待たせ」

「・・・フィアッセさん?」

「そうだよ」





思いっきりドレスアップしたフィアッセさんが出てきたから。全員が、その美しさに見とれる。



だって、その・・・綺麗で。





「・・・恭文くん」

「・・・はい」

「ありがとう。約束、守ってくれて」

「フィアッセさん、僕は約束・・・守れましたか?」



・・・守れてるか、ちょい自信ない。血生臭いもん見せちゃったし。



「うん、守ってくれたよ。だから、今度は私の番。私の・・・私達の歌、聴いててね」

「・・・はい」










そうして、開演の時間となった。客席は大入り満員。そんな中で、フィアッセさんを筆頭に歌姫達の歌声が響く。





平和や幸せ、夢への願いがたくさん詰まった、そんな歌声が。





僕も恭也さんも美由希さんもエリスさんも、皆も、それに耳を傾けていた。





・・・アルト










≪はい≫





ちゃんと、守れたのかな。





≪きっと、守れましたよ。少なくとも、フィアッセさんとの約束と、あの歌声は≫





そっか。だったら・・・嬉しいな。





≪私もです。・・・答え、見つかりましたか?≫





うん、見つかったよ。・・・あの時ね、きっと忘れてた。背中にすずかさんやファリンさん達が居ること。

今居るのは、フェイトでも、リインでも、あの人でもないのに。過去ばかり見て、今をあんま見てなかった。

背負うことばかり考えて、視野が狭くなって、力みまくりで・・・そんなの、僕らしくないのにね。



うん、色んな意味でやっぱりらしくなかったんだよ。だから、負けたんだ。





≪なら、どうします?≫





どうしようかね。よし、とりあえず・・・。





≪とりあえず?≫





フィアッセさんの歌、聴いてようか。今は・・・そうしてたい。ちと、疲れた。





≪そうですね。私もさすがに・・・疲れました≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・こうして、一連の事件は全て終わりを告げた。





なお、あのおっさんストーカー・・・ファンを雇って、フィアッセさんを狙っていた連中がまだ残ってたけど、こちらも問題は無い。





内密に今回の件を調査していた美沙斗さん達警防と関係組織によって、僕達がフィアッセさん達の歌声に耳を傾けているのとほぼ同時刻にお縄。

これにより、完全決着という運びになった。





でも、僕はコンサートが終わったあと、少し大変だった。





・・・事態を知った関係者の方々に、怒られまくったから。

我が家では、高町家での訓練や、警防への演習参加をやめさせると言う話が出た。

だけど、緊急家族会議を経て、なんとか納得してもらったのを付け加えておく。





いや、あんまりにアレな発言が飛び出したりして、僕もアルトもキレて全員(口で)叩き伏せたからだけどさ。

何故かクロノさんとアルフさんが鬱モードに入ったのは、僕のせいではなく、自業自得として欲しい。





それとこの後、恭也さんは約束通り暗器類の使い方を僕に叩き込んでくれた。

・・・ま、これなら大丈夫とお墨付きをもらったのは、これから3年も後だけどさ。





そんな未来の話はさておき、とにかく僕はボロボロになりながらも、再び日本を飛び立った。当然、コンサートツアーに付き合うため。

事件は解決したけど、関係者に与えた衝撃は図り知れない。その辺りを鑑みて、僕も恭也さんも美由希さんも、もうしばらく付き合う事になった。





そして、一月という時間が経ち、その爪痕も癒えかけた頃・・・別れの時が来た。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・それじゃあフィアッセさん、ツアー、頑張ってください」

「うん。・・・恭文くん、色々ありがとうね。私、この数ヵ月一緒に居られて、本当に楽しかった」



空港で、フィアッセさんを向かい合い、見上げながらお話。恭也さんと美由希さんは、向こうでエリスさんとお別れの挨拶をしてる。



「あの、僕もです。フィアッセさんとこうして仲良くなれて、色々お話出来て・・・楽しかったです」

「ならよかった。・・・あ、メールアドレス大丈夫だよね」

「はい。登録してます」

「なにかあったら、いつでも気軽に連絡してね。というか、私が送るよ」





なお、メアドと電話番号は交換済み。ま、お友達ですので。



・・・なお、この後フィアッセさんとは非常に長い付き合いになるのだけど、そこはまた別の話に。





「あと・・・フェイトちゃんとまだ・・・だよね」

「いやぁ、また叩いてしまったんで・・・」



家族会議でゴタゴタしたしね。



「ダメだよ。ちゃんと仲直りしないと・・・って、巻き込んじゃった私が言うのも違うか。ご家族の方にも、心配かけちゃったしね」

「あの、フィアッセさんのせいじゃないですから。僕の勝手で飛び込んだだけですし。・・・帰ったら、みんなと少し話します。
僕は・・・どんな状況でも、飛び込むことを迷うのも、それで取りこぼすのも、嫌だ。だから、もっと強くなりたいんだって」





僕は、フェイトやみんなのように『魔導師だから』で考えられない。

あの雨の日や、今回みたいに魔法が使えない戦いでも、勝ちたい。もう負けたくなんてない。



ま、みんなにはお土産用意してるし、フォローはしとくか。





「・・・うん。あ、結果が出たら教えてね。メールでもいいから」

「はい、必ず」





・・・どうしよう。話したいこと、まだあるのに・・・上手く、話せないや。





「あのね」

「はい」

「7年後・・・もしも、フェイトちゃんと上手くいかないようなら、私がまだ独身だったら・・・期待してもいいかな?」





・・・・・・え?





「どうかな。私、その頃には30代だし、やっぱり・・・無理?」

「あの、無理じゃないです。・・・僕みたいのでいいなら」

「大丈夫だよ。私は、恭文くんがいいな」





そう言って、フィアッセさんが右手を出してきた。だから僕も右手を出して握手する。





「フィアッセさん、あの・・・」

「うん」

「また会いに行きます。フィアッセさんのことも、フィアッセの歌も、好きに・・・なりましたから」

「・・・ありがと。私も恭文くんのこと、好きになったよ。だから・・・また会おうね」

「はい」










・・・そうして、フィアッセさんとエリスさんは旅立っていった。





沢山の願いの詰まった救いの歌声を、世界中に届ける為に。





・・・付いて、行きたかったとちょっと思ったのは、気のせいじゃない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・恭文、青春だね〜。あれかな、本当の意味での初恋ってやつかな?」

「バカモノ」



ゴチン。



「恭ちゃん痛いよー!!」

「少しそっとしといてやれ。・・・恐らく、初めてなんだろうしな」



初めて?



「親しい人間との、しばしの別れと言うやつだ。アイツの育ってきた環境、忘れたわけじゃないだろ」



そこまで言われて、気付く。・・・そう言えば、なのはも含めて、フェイトちゃんや魔法関連の子はみんな海鳴だから、そういうの・・・今まで無かったんだ。



「恭ちゃん」

「なんだ」

「ちょっと思った。恭文、あの時イギリスに連れてきて・・よかったのかな」



・・・結果として、私達は人をあの子に斬らせた。先には続いていくし、また会えるけど、少しだけ悲しい別れも経験させた。

ちょっとだけ、考えてしまった。



「どうだろうな。ただ、それはこれからのアイツと、俺達で決めていくことだ。違うか?」

「・・・そうだね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・やっと、帰れますね」

「そうだな」

「長かったね」



フィアッセさん達を見送った少し後、僕達は海鳴へと足を向けた。懐かしの帰るべき街へ。



「旅って、楽しいですよね」

「え?」

「色んな事があって、とても自由で」

「・・・そっか、3ヵ月とかだものね。うん、私達、旅してたんだ」





・・・・・・いつか、先生みたいに自由に世界中を見て回りたいと、強く考えた。

そうしたら、また色んなものが見れて、色んな人とも出会えて・・・きっと、楽しいよね。



夢、一つ見つかったのかも。





「でも、恭文はまた私達と一緒にだね」

「何でですか?」

「だって、またトラブルに巻き込まれて・・・」

「それを言わないでー!!」





なんて話しながら、外に出る。すると・・・ロータリーに一台の車が居た。



そこに、見知った顔が数人。それが、こちらに走って・・・いや、訂正。



空色の髪の子が飛び込んできた。





「恭文さん、お帰りですー!!」

「うん、ただいま。リイン」





それを、なんとか抱き止める。というか、そこから濃厚ハグ。



リイン・・・キツい。力強いからっ!!





「だってだって、寂しかったです。ラブラブしたかったです」

「ラブラブは違うよねっ!?」

「・・・恭文、私今、刺される未来が見えたよ」

「美由希、奇遇だな。俺もだ」



いや、なんでっ!?



「ま、畜生だからじゃない? ・・・お帰り、恭也」

「あぁ、ただいま。忍」



・・・見なよリイン、あれが本当のラブラブなんだよ。くっつかなくても、空気が甘いんだよ。



「・・・そうですね、凄いです」

「ま、そこはともかく・・・」



リインを下ろして、僕はある人を見る。金色の髪と、ルビー色の瞳の女の子を。



「・・・ただいま、フェイト」

「・・・お帰り、ヤスフミ」



フェイトは、僕の言葉に笑顔で返してくれた。いつも通りの優しい笑みを。



「やっと帰ってきたね」

「ま、ご存知の通り色々あってね」

「・・・あのね、ヤスフミ」



・・・・・・うん。



「私、やっぱり納得出来ない。・・・分かってる。あの時は私が悪いってこと。でも、また同じ事をして欲しくないの」

「・・・そっか」

「だから・・・」



だから?



「知りたい。ヤスフミがどうしてそうしたいのか。どうしてそうなっていきたいのか。あの時の言葉だけじゃ足りないよ。教えて・・・くれるかな?」

「・・・いいよ。ただし、また魔導師万歳な発言したら、クロノさんとアルフさんみたいになるよ?」

「あ、アレはやめてっ! ヤスフミはまたツアーに付いて行っちゃったから知らないかも知れないけど、私達みんな、本当に大変だったんだからっ!!」










そうして、僕達は再び歩きだした。





自分達の帰るべき場所へと、一歩ずつ・・・だ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そうして、それから少しだけ時間が経った。

どれくらいかと言うと、美由希さんの髪が伸びて、また同じ長さの三つ編みに出来るくらいに。

僕もちょこっと・・・本当にちょこっとだけ、身長が伸びた。





そんな時間が経ったある日、僕と恭也さんと美由希さんは、再びフィアッセさんとエリスさんによって、イギリスに呼び出された。





用件は、皆様気になっているであろう、今回の事件の最大の謎・・・ティオレ・クリステラさんの遺産に関してだった。










「・・・君は、身長が変わってないな」

「・・・エリスさん、久々に会って開口一句それって、おかしいでしょ。つか、これでも会った時に比べたら14pは伸びてるんですよっ!!」

「だが、そこから何年も変わってないんだろ?」



グサっ!!



「・・・2年くらいですね。牛乳飲んでもダメでした」

「ミユキ、なにが原因なんだ? 彼の年齢なら、160は余裕でいきそうだが」



グサグサっ!!



「正直、恭文はその辺り思い当たる節が多すぎて・・・。私達と会う前に、大怪我して死にかけてもいますし」

「・・・そうか」

「ダメだよ、エリスも美由希も。恭文くん、身長低いの気にしてるんだから。あ、でも大丈夫だよ。こうしたら・・・」



そう言って、フィアッセさんがハグ・・・って、いきなりなにをっ!?



「よくわかるでしょ? 初めて会った時は私の胸元くらいだったのに、今は肩だもの。うん、大きくなったよ」

「えっと、あの・・・フィアッセさん」

「・・・フィアッセ、そろそろ離してやれ。恭文がゆでダコになりかけている」

「大丈夫だよ、恭文くんとは結婚の約束してるし」



・・・え、アレ有効なのっ!? てっきりいつもの調子のお話だと思ってたのにっ!!



「私も未だにだし、フェイトちゃんともさっぱりでしょ? 当然有効だよ」

「あ、あははは・・・」



よし、話を逸らそう。どういうわけか恭也さんが『鬼いちゃんモード』に入りかけてる。気配で分かるもん。



「あの、フィアッセさん。それで用件の方は・・・」

「あ、そうだね。・・・この間の誕生日にね、ママからビデオレターが届いたの」





それの中に、例の遺産の詳細が納められているらしい。なお、ビデオレター自体は数年に渡って信用のおける所が保管・管理。

フィアッセさんが一定の年齢を迎えるか、結婚した時に渡される手はずになっていたそうだ。



そして、そのビデオレターを一緒に見ることになった。・・・ちょっと待ってっ!!





「僕が居ていいんですか?」

「・・・嫌?」

「嫌とかじゃなくてですね、恭也さんやエリスさん達と違って、幼なじみでもなければ、スクール関係者でもないですし・・・」

「・・・あのね、恭文くん。私達はみんな、君にも見る権利が・・・ママの遺産について、知る権利があると思ってる。だから、大丈夫だよ」










一応恭也さんやエリスさん達も見る。・・・みんな、フィアッセさんと同意見という目をしていた。なので、納得することにした。





とにかく、映像がスタートして・・・画面に映るのは、ブラウンの髪をバックに品良く流した妙齢の女性。

僕は初めて見るけど、恭也さん達はどこか懐かしそうに、少し寂しげに、その女性を見る。





そう、この女性がティオレ・クリステラさん。フィアッセさんのお母さんだ。





まず、ビデオはフィアッセさんや恭也さん達へのメッセージから始まった。その言葉の一つ一つに、皆は喜び、泣き、そして笑い・・・。

そんな皆の思い出を共有出来ないのが、少し寂しかった。ま、しゃあないんだけどさ。










『・・・それで、そろそろ遺産の話に入るわね。願わくは、あなたがこれを見る時、生涯の伴侶を見つけていてくれると嬉しいのだけど・・・』










すみません、ティオレさん。そういう非常に余計な事は言わないでいただきたかった。皆の視線が痛いの。





・・・・・・結論から言えば、遺産と言うのはお金や宝石の類いじゃなかった。





遺産の正体は・・・家。フィアッセさんの両親が結婚前に一緒に暮らしていた小さな別荘。それがティオレ・クリステラの遺産だった。

なお、今も近くの管理人の手によってしっかりと手入れされ、使用可能だそうだ。

別荘自体の資産的価値はさほどでもない。でも・・・フィアッセさんにとっては、宝物になるらしい。





だって、フィアッセさん、それを聞いた時、本当に嬉しそうだったから。










『それじゃあ最後に、あなたが最初に歌った時の気持ちを忘れないように。ステージや会場が無くても、歌声を届けられることを、覚えていられるように・・・』










画面の中のティオレさんがそこまで言うと、映像が切り替わった。





映るのは屋外。そしてそこに立てられたたくさんにテント。そこに、人だかりがある。





その中心に、二人の人物が居た。誰かは、僕でも見てすぐにわかった。





先ほど映っていた時よりも幾分若く見えるティオレさんと、子どもの頃のフィアッセさんだった。





二人が、ステージもない場所で、青空の下で歌っている。





その歌声に辺りの人々が聞き入り、笑顔になる。





・・・中にはケガをしているのか、包帯をしていたり、松葉杖の人も居るのにだ。





それは、僕達も同じ。画面の中の歌声に耳を傾けていた。





ビデオが終わるまで・・・ずっと。





その歌声は、きっと世界中に響いている。ティオレさんから、フィアッセさんに受け継がれて。





そうして今も・・・歌い続けられている。





沢山の願いと想いが込められた歌は、今も。




















(本編へ続く)




















あとがき



古鉄≪さて、OVAを元にしたら普通に感動ものっぽい終わり方をしてしまいました。・・・この話らしくありませんね。
ということであとがきです。私、古き鉄・アルトアイゼンと・・・≫

すずか「・・・どうも、月村すずかです」





(新ヒロイン、なぜかいきなりダウナーでおはこんばんちわ)





古鉄≪あの、テンション上げてもらえますか? というか、どうしてそんなに暗いんですか≫

すずか「・・・ね、アルトアイゼン」

古鉄≪・・・なんですか≫

すずか「私、なぎ君とあんな風にラブラブしたことないんだ」

古鉄≪あぁ、フィアッセさんですか。いや、あれは仕方ないんですよ≫

すずか「・・・ごめん、どう仕方ないのか、分かんない」





(青いウサギ、新ヒロインからヤバい匂いをビンビン感じている。ということで、話を変える事にした)





古鉄≪さて、今回出てきた魔法や技の紹介です。その間にすずかさんには落ち着いていただきましょう≫

すずか「私にもっと出番をー!!」




















ブリッツラッシュ



フェイトから教わった高速移動系魔法。術者の動き・・・腕の振りやフットワークなどを加速させる。

そのため、外見からだと魔法を使っている感じがしない。










徹(とおし)



御神流の基本技法の一つ。表面を傷付けずに内部に衝撃ダメージを直接打ち込む技法。

熟練者は、手のみならず蹴りなどでも使用可能。

なお、とらハでは説明のために、三枚のおせんべいを重ねて手刀を落とし、下の二枚だけを粉砕するというシーンがあったそうな。




















すずか「・・・なぎ君、こういうの覚えてたんだね」

古鉄≪普段は使いませんけどね。下手すれば殺しちゃいますし、味方内に使う技でもありませんから≫

すずか「なるほど・・・。あ、そう言えば」

古鉄≪はい、なんでしょ≫

すずか「次の幕間はどうするの? もうOVA話は終わっちゃったわけだし」

古鉄≪まぁ、現在8話で止まっている電王クロスとギンガさんルートの2話を仕上げて・・・また海外ロケですね。
恐らくですが、八神家メインのお話で、A’sなあの方々が、『とまと』では初登場します。あと、フィアッセさんもそこに少しだけ再登場予定です≫





(新ヒロイン、その言葉に一気に固まる)





古鉄≪・・・アリサさんと同じ反応ってどういうことでしょ≫

すずか「アルトアイゼン、少し違うよ? ・・・作者さん、私も出番が欲しいんですけど。どうして私じゃなくてフィアッセさんなんですかっ!?」

古鉄≪感想しだいですね。もう既にフィアッセさんルートの要望も来ているほどですし。
ということで、今回はここまでっ! お相手は古き鉄・アルトアイゼンと・・・≫

すずか「私も出番が欲しいですっ! もっと言うとなぎ君とラブラブしたいですっ!! 月村すずかでしたっ!!」

古鉄≪それでは、またっ!!≫










(二人で手を振っている様子を映しつつ、カメラフェードアウト。
本日のED:『とらハ3OVA最終巻のED』)




















恭文「・・・フィアッセさん」(溜め息)

リイン「・・・恭文さん、センチ過ぎです」

恭文「だって・・・」

リイン「大丈夫です。また会うって約束したですよね? だったら、大丈夫ですよ」

恭文「・・・そうだね、ゴメン」

リイン「謝らなくても大丈夫ですよ、別れは寂しいものですし。というわけで・・・」

恭文「というわけで?」

リイン「リインがその寂しさを癒してあげますっ! さ、いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぱいっ!! ラブラブするですよ〜♪」

恭文「・・・・・・いやっ! なんでそうなるのっ!?」










(おしまい)






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