小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのろく 『すうぃと・そんぐす・ふぉえばぁ ご当地名物食べ歩き編』
≪・・・さて、やってきました無謀な挑戦。というか、この話初の海外ロケですっ! というわけで私、古き鉄・アルトアイゼンですっ!!≫
「あはは・・・。そうとう嬉しかったんだね。あ、どうも。高町美由希です」
≪さて、今回のお話は、マスターが11歳の冬。海鳴での初めての年越し近辺で起こった大事件を描きます。・・・もう、タイトルで分かりますよね?≫
「いや、この時は大変だったよね。色々とさ」
≪ですが、我々にとっては初の海外です。頑張っていきましょう≫
「そうだね。・・・それでは、幕間そのろく・・・どうぞっ!!」
魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝
とある魔導師と機動六課の日常
幕間そのろく 『すうぃと・そんぐす・ふぉえばぁ ご当地名物食べ歩き編』
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きっかけは、本当に些細なことだった。
すずかさんの一件から、付き合いの深くなった恭也さんの一言が、その始まり。
「・・・本格中華?」
「そうだ。恭文、お前・・・最近中華料理にハマっているそうだな?」
朝練を終えて、いつものよう・・・いや、表現おかしいけど。
とにかく、いつものように高町家で朝食を取っていると、恭也さんからそう言われた。
そう、最近僕は中華料理にハマってる。キッカケは、リンディさんとレティさん。
・・・あの二人の酒盛りに付き合って行った中華料理店で出たエビチリや麻婆豆腐に八宝菜などの、本格料理の数々。
いや、絶品だった。うん、中華料理の奥深さを実感したの。
なので、暇を見つけては食べ歩きしたり、我がコミュニケーションの中で料理上手な方々に教わって、自分でも作ったりしてるんだけど・・・。
「・・・でも、フェイトちゃんが『研究熱心過ぎて、どんどんうちのご飯の中華比率が上がってる』って、ぼやいてたよ?」
「・・・なのは、それは知りたくなかったかな」
・・・後日。そこを気遣って、フェイトにだけ別メニューを出したら、なぜか泣いて謝られた。うん、なんでだろうね。
「だから、私達が本格中華を振る舞ってあげるよ。もう、ほっぺたが落ちちゃうくらい美味しいのっ!!」
「・・・いや、それはありがたいんですよ。でも、どこでどう『だから』なのかがサッパリなんですが」
「あー、そこは私が説明するよ」
そう言ってきたのは、士郎さんだった。
それまでのニコヤカな笑みを一旦しまって、少しだけ表情を硬くしてから、僕に話し始めた。
「・・・ある警備部隊で、近々本格的な実戦演習を行うんだ。そして、恭也と美由希がその相手を努める」
ふむ、またその人達も大変だ。恭也さん達、無茶苦茶強いのに。
「そこに・・・君にも参加してもらいたい」
「僕もっ!?」
「お父さん、それどういうことっ!?」
驚いたのは、僕となのはの二人。他は・・・うわ、普通にしてるし。いや、恭也さんと美由希さんは・・・分かりますよ? でも、なんで僕っ!?
「お前は、魔法が使えない・・・というより、アルトアイゼンだけで行う対人戦闘に慣れておいた方がいい。
・・・どうにも見ていると、運が無いらしいしな」
た、確かに・・・。すずかさんの一件もそうだし、試験でフェイトが出てきたのもそうだ。
「実は、私も同感でね。君・・・お祓いも効果無いだろ?」
「・・・士郎さん、お願いですからその哀れむ目はやめてください」
「あー、そうだね。すまない。
・・・とにかくだ。経験値もそうだが、心構えも今のうちから固めておいた方がいい。今でも充分と言えば充分だが・・・」
「一流どころを相手取るには・・・足りないですか」
「そうだな。そこの部隊は、そういう意味ではプロの人間ばかりだ。きっと勉強になる」
そのためにってこと・・・ん、ちょっとまって。
「それと本格中華とどう結び付くんですか」
「・・・恭文君、君・・・一番に気にするのはそこなのか?」
「えっとね、演習先の近くにそういうのが食べられるところが、いっぱいあるの。だから・・・まぁ、ついで? 私も久々に本格中華食べたいし」
なるほど、納得しました。というわけで・・・。
「行きます。・・・いえ、お願いします。参加させてください」
「分かった。向こうには私から連絡しておこう。あと・・・」
「なんでしょ?」
「君、パスポートはあるかい?」
・・・はい?
「・・・いや、無いです。え、待ってください。なんでここでパスポートの話が出てくるんですか」
「そう言えば言ってなかったな。俺達が行くのは・・・」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『香港っ!?』
・・・らしいです。
≪それは確かに本格中華も食べられると、納得しましたね≫
「こちらの世界だと、食の都・・・なんて言われているものね」
とにかく、その日の夜。うちの家族に事情説明。さすがに許可無しはアウトだし。
というか、パスポート取れないし。くぅ、でもまさか、行き先が海外だったとは・・・。
ちょい予想外・・・というか、そんなのとコネクションがある士郎さんって、一体なにもの?
一応、その腕利きで武闘派で法律スレスレだけど無茶苦茶強い警備会社に、高町家の縁者が努めていて、その関係とは言ってたけどさ。
「確かにちょうど仕事も無かったし、嘱託の方は問題はないが・・・うーん」
「・・・ダメ、ですか?」
「ダメって言っても、行くつもりなんでしょ?」
「無理ですよ。パスポート無いですし」
全員が全員、僕を『じゃあ、有ったら行くのか?』と、言わんばかりの目で見るけど、そこは気にしない。
つか、さすがに無許可は出来ないよ。士郎さんに迷惑かけられないし。
「・・・私は反対」
「フェイト・・・」
「だって、ヤスフミは魔導師なんだよ? 魔法無しで、その・・・そういう風に戦える訓練、して欲しくない」
まぁ・・・そう言うよね。うん、分かってた。
「でもね、やっぱり必要なことだから」
「そんなこと」
「あるよ。そういう戦いも出来るようになることは、絶対に」
僕の戦い方は、フェイトやなのはとは違う。どちらかと言えば・・・恭也さん達よりだ。
先生や師匠からも、それを教えられているし。
「・・・うん、やっとかなきゃいけないの。そうじゃなかったら、きっと士郎さんだって言い出さない」
思い出すのは、数ヵ月前の雨の中での死闘。相手は、古えより現れた自動人形。
結果、人知れず付いてしまった黒星。そう、僕は負けた。恭也さんが居なかったら、死んでいた。
あの時から、ずっと感じてた。足りないと。でも、それは力じゃない。
・・・いや、力もだけど、もっと別のなにかが足りなかった。だから、僕は負けたんだと。
そして、試験でのフェイト戦。あれは・・・なんとか勝った。うん、色々アウトゾーンだったけど。
そして、考えてる。二つの勝負と、その結果。この差はどこでついたのだろうと。
・・・もちろん、能力やシチュエーションどうこうの問題はあるけどね。でも、イレインもフェイトも、僕より格上であることは間違いない。
奪う覚悟をしたのに負けて、そういう覚悟はしていないけど勝った。二つの勝負の時僕は、何かが決定的に違っていたのだと思う。
力とか、背負う覚悟、奪う覚悟以外の何かが違った。だから、差が付いたのではないかと。
ここ数ヶ月、ずっと考えてる。でも、答えが見えない。
うん、だから行きたいのかも。行けば、答えが見つかりそうだから。
つか、絶対に見つける。大事な約束も、今も・・・両方守れるように、もっと強くならないといけない。
そのためには、このモヤモヤは払拭しないと。
つーか・・・アレですよ。負けるのは、やっぱり悔しいし、嫌いだ。
「・・・分かりました。次の休みに、パスポート申請しに行きましょうか」
うちの家長から飛び出した言葉は・・・肯定の意味。
それが分かって、つい嬉しくなる。
「ありがとうございますっ!!」
「ただし、恭也さんや美由希さんの指示にはちゃんと従うこと。いいですね?」
「はいっ!!」
・・・うっしゃー! これで海外初上陸だー!!
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"・・・お母さん、いいの?"
"母さんっ! あの、いくらなんでもこれは・・・!!"
・・・うちの妹が非常に不満そうですが。
"仕方ないでしょ? 士郎さんや恭也の言っていることは、間違いではないんですもの。やれることは、やっておくべきよ"
"・・・確かに、そうですね?
"美由希の友達のお祓いでもダメだったしな。その直後の仕事で、オーバーS出てきたし"
アルフ、そこは言わないでくれ。その場に居た僕は色々と辛い。
というか・・・コイツの運の無さは本当になんなんだっ!? いくらなんでもおかしいだろっ!!
"あの、でも・・・"
"フェイト・・・そんなに不安なら、あなたも行ってくる?"
"え?"
"香港よ。休暇も貯まってるようだし、2、3日なら問題無いわよ?"
いや、母さん。さすがにそれは・・・。
"・・・そうですね。行きます"
え?
""えぇっ!?""
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・・・香港。正式名称・中華人民共和国香港特別行政区。
歴史的な事情から3、4年ほど前までイギリスの植民地だった、中国の一角にある都市区。(現在は、中国政府に返還されている)
面積は東京23区の約2倍程度。『アジアの世界都市』とも言われている、人や物の出入りの激しい、世界でもトップクラスで栄えている場所である。
公用語は中国語と英語。ただ、事実上の共通語は、方言の一つである広東語らしい。
そして香港は、自由港としての側面も持つため、金融と流通の要所であり、ショッピングと食通の街として有名。
そのため、年中問わず観光で訪れる人も多いのだ。
そして・・・っ! ついに僕はそんな香港へやってきましたっ!!
近場の空港から、香港国際空港への飛行機に揺られること数時間。
異国の地へ降り立った僕達『四人』は、その足で真っ直ぐにある場所へ。
そこがどこかと言うと・・・『香港国際警防隊』。通称警防のオフィス。
まずは、しっかりと挨拶と言うわけである。
・・・でも、楽しみだな。強い人がワンサカ居るって言うし。うん、いっぱい勉強してかなきゃ。
でも・・・海外か。うん、ドキドキする。
言葉も地理も言語も全部違う。実際、飛行機に降り立った直後から、空気が違った。
だって、二階建てのバスとかが普通に走ってるし、街並みも面白いし。うん、楽しい。
なんだろう、こう・・・冒険してるみたい。どこかを旅してる先生も今、毎日こんな感動に触れてるのかな?
だとしたら、良いなぁ。羨ましい。いつか、僕も・・・。
「・・・ヤスフミ、あの・・・やっぱり見学だけでいいんじゃないかな」
・・・あー、感動が台無しってどういう事だろ。
現在若干一名。移動中のタクシーの中で、未だにゴネておりますが。つか、本当に着いてくるとは・・・。
「・・・フェイト、何回も言ったよね。それじゃあ汲んだりここまで来た甲斐が無いの」
答えを見つけるために来たのだ。何も掴めませんでしたじゃ、意味がない。
「でも、危険なんだよね? それで怪我でもしたら・・・」
「恭也さん美由希さんっ! お願いですからなんとかしてっ!!」
・・・うわ、思いっきり無視されたしっ! てか、なんでこんなことにっ!?
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「・・・蒼凪恭文です。短い間ですが、お世話になります」
とにかく、警防のオフィス(本部でもあるらしい)に到着。当然、ペコリと丁寧にお辞儀だ。
なにごとも最初が肝心。どこぞの横馬のように初対面でバインドなどかけては、健全な人間関係は構築出来ないのだ。
「はい、よろしく。士郎達から聞いているとは思うけど、私が御神美沙斗です」
年の頃だと
「・・・君、女性に年の話はタブーよ?」
「思考を読まないでくださいっ! あと、小説的な説明を否定するのもやめてくださいっ!!」
とにかく、30代こ・・・前半に見えるノーネクタイの朱色のスーツに身を包んだ黒髪ロングなこちらの女性が、高町家の縁者さん。
でも・・・御神? 聞いた時にも思ったけど、御神流となんか関係あるのかな。・・・って、縁者なんだから当たり前か。
現にその証拠に・・・。
「どうしたの?」
「いえ・・・」
さっきから、本能的な警告ベルがなりっぱなしだ。この人は絶対に敵に回してはいけないという風に、僕に語りかけている。
いや、それはこの人だけじゃない。
このオフィスで働いている職員らしき人達の中にも、数人すれ違っただけなんだけど、同じものを感じた。
・・・あれ、なんで僕、訓練のはずなのに生きて帰れる心配し始めてるんだろ。というか、魔導師になってから、こういう勘ばかりが鋭く・・・。
"・・・なんだか、いい人みたいだね。これなら、安心かな"
ゴメン、フェイト。アイアンクローかましていいかな。うん、この状況見てその安堵の表情は、あり得ないよ?
「母さん、久しぶりっ!!」
「えぇ、久しぶりね。美由希」
・・・はい?
いやあの、ちょっとちょっと、気のせいですか? こう、すごい発言が聞こえたような・・・。
今、確かに美由希さんは、こちらのお姉さまを『母さん』と・・・。で、美沙斗さんも、こう、凄く自然に受け入れて・・・。
あ、フェイトも驚いた顔してる。つまり・・・知らなかったって事だよね。
よし、気にしないことにする。うん、きっと触れたら負けだ。
ほら、見ざる聞かざる言わざるって大事だし。
「・・・あぁ、二人は知らなかったんだね。私、御神の母さんって呼んでるの」
「まぁ、色々あってね」
「「な、なるほど・・・」」
・・・ゴメン、美由希さん。その補足いらなかった。うん、色々深読み出来ちゃうから。
「・・・それで、美沙斗さん」
「あぁ、演習だったわね。
・・・あなた達の準備が出来次第、いつでも行けるわよ。うちの若い連中、スピードと負けん気だけはあるから」
とにかく、僕達はすぐに演習が行われる廃ビルへ、美沙斗さんの案内でゴー。
香港到着から3時間も経たずに、戦闘態勢に移行することになった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
シチュエーションは、僕達がビルに潜入。辺りを警戒している敵を潰し、指令部を押さえられたら、こちらの勝ちらしい。
うん、ブッチギリで僕邪魔だわ。恭也さんや美由希さんレベルで隠密行動なんて出来ないし。
そして、改めて思う。・・・本当に、好意で参加させてもらっているということに。
絶対に土産は手にしよう。手ぶらじゃ、士郎さん達に申し訳が無い。
なお、今回僕はバリアジャケットじゃない。・・・いや、バレたらヤバいし。ジガンもそういうわけでつけてない。
で、どんな格好かというと、恭也さんと美由希さんとお揃いのカーキ色のサバイバルスーツ一式に身を包み、腰にはアルト。
装備・・・アルトだけなんだよね。うん、飛針とか使えないし。
「・・・恭文、緊張してる?」
そう声をかけてきたのは・・・着替え終わった美由希さんだった。
「・・・少し」
負けた時とシチュは同じ。やっぱり・・・思い出す。そして思う。僕、魔法が無きゃただの11歳児だと。
「大丈夫だよ」
美由希さんが、両手を僕のほっぺたにあてて、顔を近づける。というか、真っ直ぐに見る。
「恭文、自分では気付いてないかも知れないけど、強いんだよ? これくらい、楽勝楽勝っ!!」
「そんなこと・・・」
ない。魔法抜きじゃあ、僕・・・。
「あるよ。・・・恭文は、すっごく強いよ。ヘラヘラと、楽しそうに、自由に遊んでるみたいに戦ってる時が、一番強い」
・・・よくそれで、真剣味が無いと怒られますが。同席した武装局員さんとかに。
「とにかく、いつもの恭文らしい戦い方で行けば、大丈夫だから」
「僕らしい、戦い方・・・」
「うん。・・・大丈夫、それが出来れば、きっとクリアしていけるよ。高町美由希が保証する。だから・・・ね?」
励まして・・・くれてるんだよね。目が、何時もより優しいし。だったら、ちゃんと応えるのが、男の子だよね。
「・・・はい。美由希さん、あの・・・ありがとうございます」
「うん」
らしい戦い方か。なら、僕らしい戦い方って、一体・・・。
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・・・そうして僕は現在、香港の廃ビルの中を走り回ってる。
てか・・・やり辛いっ! そして怖いよっ!!
僕は、暗器や陰行術が使えるわけじゃないから、基本的には突っ込んで斬る。これだけ。
なので、恭也さん達とは別行動で囮役。適当に暴れて騒いで敵の目を引き付ける役目だ。
でも・・・てんでだめ。確かに相手はプロだ。狙いも的確。動きも一級。そこらの魔導師よりもキビキビしてる。
で、そんなの相手で弾幕を張られたら、近づけない。うん、魔法無し・・・無理かもしんない。
・・・って、諦められるかぼけっ! わざわざ汲んだり香港まで来て、なんにも出来ませんでしたじゃ済まないんだよっ!!
プロな方々が、的確に放ってくる自動小銃の射撃をなんとか回避しつつ、考える。
そして、決めた。うん、なにも考えずに・・・。
全部、ぶった斬るっ!!
まずは現状の再確認。ここは8階立てのビルの2階。1階は最初の段階で制圧済み。
で、ここと3階にいたのの大半が、廊下とホールで逃げ回っている僕を追っかけてる。てか、現在廊下を疾走中。
このまま逃げ回ってるだけでも、司令部狙いで隠密行動やってる恭也さん達の手助けにはなる。
でも・・・足りないよね。
そうこうしていると、目の前50メートルほど先の曲がり角から、二人来た。当然、待ち伏せの先回り。
連中は自動小銃を構える。だから、踏み込む。
体制を低くし、脚に魔力を込め、肉体強化を施した上での踏み込みは、一瞬で連中との50メートルという距離を縮める。
まさか一瞬で近づかれるとは思わなかったのか、反応が遅かった。なので、当然そのまま攻撃する。
まず・・・腰から鞘ごと抜いておいたアルトを左手に持ち、柄尻を真ん中のやつの腹に、思いっきり突き入れ、吹き飛ばすっ!!
それでそいつは、壁に叩きつけられる。当然脇の二人は、すぐに反応して動こうとする。
でも、これも遅い。
まず左側に居たやつの右の手を、逆手に持った鞘で思いっきり叩く。それによって、銃の照準が僕からずれる。
で、鞘の先を・・・相手の股下に差し込み、思いっきり上げて、叩くっ!!
・・・いちおう、金的攻撃はありなので、OK。うん、手応えから言ってガードは付けてるみたいだし、大丈夫でしょ。
崩れ落ちつつあるのを確認しつつ、鞘を股下から出し、アルトを抜き放つ。
そのまま、もう一人の方へ打ち込む。その刃の先は・・・小銃。
アルトの刃に押されて、僕を狙って放たれた銃弾は、僕の脇の通りすぎる。
そして、左手の逆手で持った鞘を、胴目掛けて打ち込むっ!!
それで、最後の一人も沈んだ。・・・うし、まず三人。
とにかく、僕は金的打ちした奴の鳩尾に悶えて苦しそうだったので、鞘で一撃入れて楽にしてから、元来た道を走る。
・・・先生、鞘も絡めた二刀流での戦い方、今こそ試します。
なお、教えてくれた時に言ってた・・・。
『るろうに剣○の双龍○とか、シグナムちゃんとか見てて、楽しそうじゃったから、つい考案してみた』・・・という発言は、気にしない方向でいきます。
・・・てーかこれ、示現流じゃないと思うんですけどっ! それ以前にパクリなんじゃっ!?
・・・今、『あくまでもベースなんじゃから、問題ないわい。つか・・・やりたかったんじゃから仕方ないじゃろっ!?』っていう声が聞こえたけど、無視っ!!
つーか、電波が逆ギレってどういうことっ!?
とにかく、元来た道・・・というか、廊下を走っていると、まずは二人来た。当然そいつらは撃ってくる。
なので、また先程と・・・いや、先程よりも低く、まるで身体が地面と平行になるんじゃないかと思うくらいに低く身体を伏せて・・・踏み込むっ!!
銃弾・・・訓練用のゴム弾(当たると凄く痛いらしい)は、僕の頭の上スレスレを通り過ぎていく。
ふん、身長140pをナメんなっ! こういうアドバンテージを利用しない手は無いでしょうがっ!!
・・・泣かないもん。絶対・・・泣かない・・・!!
とにかく、鞘を走りながら順手に持ち変える。それから、また脚に魔力を込め、一歩踏み込む。
そのまま距離を詰め、左に居た奴の胴・・・下腹部に、鞘の先を突き入れる。
ほぼ零距離からの突きに、思いっきり前に吹き飛んで、転げていった。
右の奴も、こちらを振り向く前にアルトを左から振るい、胴に・・・下腹部に斬り上げるようにして打ち込む。
わき腹を下から抉るような一撃に、なんとか沈んだ。
「・・・アルト」
≪はい?≫
「なんか・・・ちょっとだけ分かった。どうしてあの時、負けたのか」
多分、らしくなかった。うん、それが答えなんだ。そして今は、ほぼ同じシチュだけど・・・らしい。
うん、あの時とは違う。フェイトとやり合ってた時に近い。
今の状態が、僕らしいんだ。でも・・・。
≪まぁ、そこはこれから見つけて行きましょう。今は先ですよ≫
「・・・そうだね」
そうして、僕はまた走り出した。少しだけ分かってきた答えを、もっと・・・ちゃんと理解したかったから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・ヤスフミ」
「問題無いわよ。彼、中々に出来る子みたいだし。ちょっと荒いけど」
「そんなことありませんっ! というか、こんな危ない訓練、どうして止めないんですかっ!?」
ゴム弾でも、躊躇い無く銃を・・・質量兵器を撃ちまくって、いつ大怪我しても可笑しくないような状況ばかりっ! こんなの、絶対におかしいっ!!、
士郎さんも恭也さんも美由希さんも、どうしてこんな事をヤスフミに勧めたのっ!?
・・・もう我慢出来ない。今すぐに止めよう。こんな訓練、必要無い。
「やめておきなさい。・・・そもそも、どうやって止めるつもり?」
美沙斗さんに、静かな声で言われて気付く。そう、私には、止める手段がない。魔法が使えない以上、あの中に飛び込んでも・・・。
「ケガするだけよ。悪いけど、さすがにそれは許可出来ないわね」
「お嬢さん、彼女の言う通りだ。訓練終了までここで待つことだ」
「なら、ヤスフミだけでもここに来るように・・・」
私は、ヤスフミにこんなことさせたくない。・・・魔導師なんだから、魔法を使えばいい。
質量兵器を相手にそれも無しに近い状態でやる必要なんて、ない。
「それは無理よ」
「どうしてですかっ!?」
「だって・・・ほら」
美沙斗さんが指を指す。私がその指し示す先を見ると・・・。
「・・・これで、ミッションコンプリート・・・ですよね」
真剣な表情の美由希さんが、ここ・・・司令部に居た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とにもかくにも、実戦演習は終了した。
少しだけど、答え・・・掴めたと思う。僕の、本当の意味でのらしい戦い方ってやつが。
でも・・・。
「・・・まだ、完全には見えていないと言ったところか」
「・・・ですね。こう、触れてはいると思うんです。でも・・・」
美沙斗さん率いる警防の方々に本当に何度もお礼を言った後、僕達は約束通り・・・本格中華を食べに来ましたっ!!
そんな絢爛豪華なお店では無くて、比較的大衆店に近い所なんだけど・・・ここに何度も来ている恭也さん達のお勧め。期待は裏切らないでしょ。
「まぁ、私も恭ちゃんもこれから協力していくし、焦らず考えていけばいいよ。・・・ね?」
「・・・はい」
そうだね。何より今は・・・本格中華だよっ! あぁ、早く美由希さんお勧めの料理の数々、来ないかなぁっ!!
「・・・ヤスフミ」
「うん、どったのフェイト」
「もう、今回だけにしようね。これから先、こういうのは絶対無し」
いきなりだね。つか、なにがよなにが。
「ヤスフミは私やなのはと同じ魔導師だもの」
・・・またそれですか。
「恭也さんや美由希さんや、あの人達とは違う。あんな訓練、絶対に必要ない。私達には無意味だよ」
フェイトは、まるで子どもをたしなめるような顔で、静かに僕の目を見て、そう言ってきた。
「訓練なら、私達が付き合う。だから、もうこんな危ないことは無しだよ。・・・ね?」
「・・・フェイト」
「うん」
「くどい」
フェイトの表情が曇る。でも、気にせず言葉を続ける。
「何回言ったら分かるの? 僕には必要な事なの。現に、とても勉強になった」
おかげで、答えが少しだけ見えたから。で、問題はまだある。
「つか、それ・・・恭也さんや美由希さんや警防の人達、バカにしてるよ」
「ヤスフミ、それは違う。バカになんてしてないよ。ただ、私達は魔導師だから・・・」
「それがバカにしてるって言ってんだよっ!!」
・・・つい出た大きな声で、店内の時間が一瞬だけ止まる。でも、構わず言葉を続ける。
「・・・『魔導師の私達には無意味』だの、『必要無い』だの。どんだけ魔導師バンザイ思考なのさ。ハッキリ言っていい? 不愉快だし、許せない」
恭也さんや美由希さん・・・それに警防の人達は、強い。
戦闘能力もそうだけど、精神面も。本当に少しだけではあるけど、話をさせてもらって、それは強く感じた。
そして思った。あんなギリギリな訓練に身を置いていることも、その要因の一つなんだと。
もちろん、だからって魔導師の訓練が緩いとは言ってない。どっちもジャンルが違うと言うだけで、きっと根っこは同じだ。
ただ、フェイトの今の一言は違う。明らかに見下しているし、区別してる。
魔導師には、魔導師じゃない人達がするような訓練は必要無いと。無意味だと。疑いも無く思っていた。それが許せない。
あー、もう出発前から散々言ってるってのに、どうして分かんないのよ。
もういい。僕はともかく、恭也さんや美由希さん達にまで、この調子は困る。いい機会だし、ハッキリ言っておこう。うん、バシッと・・・。
「ハイハイ、ストップっ! これから美味しい食事だって時に、喧嘩しないのっ!!」
・・・美由希さんに止められたけど。恭也さんも、視線で『やめておけ』って言ってきてるし。
ま、確かになぁ・・・。美味しい中華を前に喧嘩も不粋か。うん、いっぱい食べて、幸せを堪能しよう。
「・・・ま、それもそうですよね。こんなバカな話で、美味しい中華を堪能出来ないなんて、ゴメンですし」
・・・なぜか美由希さんが苦笑いをしているけど、僕は気にせず、この後来る中華に心を満たす事にした。
というか、満たされました。・・・幸せ。
なお、フェイトはどういう訳かこの後、終始黙りっぱなしだったのは全く気にならなかった。うん、キレたし当然。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・で、見事に膠着状態と」
「・・・うん。本当に・・・最初の時みたいに、目も合わせてくれないの。またあんな風に怒鳴られるなんて、思わなかった」
帰国したフェイトちゃんがうちにその挨拶に来た。で、土産話でも聞こうと思うたら・・・これや。
・・・アイツ、恭也さん達に相当世話になっているからな。余計に来たんやろ。これ、フェイトちゃんから折れないときっと納得せえへんよ。
「でも、私達は魔導師で・・・」
「フェイトちゃん、そこはもう口にしたらあかん。・・・恭文のことや。今度は拳が飛んでくる」
フェイトちゃんの事が好きなのは間違いないんやけど・・・アイツはそれで加減するような奴ちゃう。
フェイトちゃんが悪いと思えば、バシッと言ってくる。攻撃に躊躇い持つやつちゃうんよ。
あぁもう、リンディさんが余計な事を言うから・・・。どないするんやこれ。アイツから折れるなんて、絶対ありえへんし。
「・・・それでテスタロッサ、蒼凪はどうした?」
「はい。まだ・・・恭也さん達と一緒です」
「んじゃ、なのはのとこか。・・・つか、本当に恭也さんが好きなんだな、アイツ」
そやなぁ、最初はアレやったのに、ここ数ヶ月でむっちゃ仲良うなってるもん。恭也さんも、まるで弟でも出来たみたいに可愛がっとる言うし。
・・・アイツ、どないな魔法使ったんや? 暗器投げつけられたんが、嘘みたいやで。
「あと・・・恭文くん、本当に一人だったから、きっと嬉しいのよ。一気にお兄さんやお姉さんが沢山出来て」
「・・・だな」
「あの・・・ヴィータ、違うの」
フェイトちゃんが、少し・・・いや、かなり困った顔でうちらにそう言うて来た。
てか・・・今、フェイトちゃんなんて言うた?
「フェイト、違うってどういうことだよ」
「なのはの家じゃないの」
「・・・テスタロッサ」
「はい。・・・実は、ヤスフミと恭也さん達、今」
『今?』
「イギリスに居るんです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・フィッシュアンドチップスって、美味しいですよね」
フィッシュアンドチップス。イギリスが誇る国民食。衣を付けたお魚を揚げたものと、フライドポテトの盛り合わせを指して、こう呼ぶ。
世界初の外食産業はこれという説もあるそうだ。で、イギリスの街を歩きながら、手に容器を持って、じっくり味わって食べている。
誰ですか、イギリス料理はマズイって言ったのは。中々いけるし。
確かに、味付けは全く無いんだけど、ソースをかけて召し上がると、それほど悪くはないのよ。
うむぅ、イギリス料理・・・侮れないね。スコーンみたいなお菓子の方が有名なのは多いけど、ローストビーフやミートパイもイギリス料理だって言うし。
「恭文、凄い適応してるね。というか、普通に初めて来た国の一日目で早速買い食いって・・・」
「美味しい物に、国境は無いんですよ」
まぁ、ちゃんと買えたのは、言語に堪能な恭也さんと美由希さんのおかげだけど。
つか、凄いよなぁ。香港でも、英語に中国語がペラペラだったし、今度はここでもペラペラですよ。なお、イギリスの公用語は、英語です。
「あ、私も一つもーらい」
そう言って美由希さんの手が僕の持っている容器に・・・って、速いからっ! コンマ何秒でどうしてもう口に入れてるのっ!?
「身長差だろう。お前の手の位置なら、俺達には取り出しやすい」
「そう言いながら、恭也さんも取るのやめてくださいよっ! つーか、それ能力の無駄遣いですからっ!!
つーか、身長のことは触れないで欲しいんですけどっ!?」
・・・僕達が汲んだり観光もせずに香港からイギリスに来たのには、ちゃんとした理由がある。
当然、今みたいに三人でフィッシュアンドチップスを食べながら、街を歩くためじゃない。
あのフェイト一人が微妙だった食事の直後、美由希さんの携帯に連絡が入った。相手は、美沙斗さん。
そして恭也さん達に美沙斗さん・・・警防から、ある依頼が持ち込まれた。内容は、要人護衛。
イギリスに拠点を置き、世界一有名らしい音楽学校・・・クリステラ・ソング・スクール。護衛するのは、そこの校長さんだ。
いや、僕はよく知らないんだけど・・・有名らしい。
世界で貧困に喘ぐ人達のために、チャリティーコンサートを、世界ツアーという形で開いたりしてる・・・そうだ。
もちろん、出演者はそこの学校の卒業生さん。その人達も世界的に有名で実力派な方々ばかり。
なので、相当額の寄付金が集まり、それで実際に救われる人達も多いとか。
・・・とにかく、そんなトンデモスクールの校長が、現在・・・何者かから、執拗に脅迫を受けているらしい。
で、その校長は心当たりが無い。そして、間の悪いことに、先程話した世界規模でのチャリティーコンサート・ツアーの開始が、間近に迫っている。
そんな大事な時期に、校長という役職の人に何か起こってはマズイ。
なので、警防に警護依頼が来て、それが恭也さん達に・・・なんで回ってきたんだろ。いや、不思議だ。
で、僕もそれに付き合うことになった。理由は簡単。恭也さんに言われたのだ。
僕が求めている答えを見つける一番の方法は、もう一度・・・あの雨の日の戦いと同じ状況に身を置く事だと。
・・・いや、それだとこの依頼で、そういうゴタゴタが起きるのは確定ってことじゃないですか。なんつうか、不吉だよ。
とにかく、僕はここへ来た。フェイトやら我が家の皆様の反対をいっさい押し切った上で。
≪・・・これで何も掴めなかったらあなた、袋叩きですね≫
一応市街地なため、思念通話で言ってきたのは、頼れる我が相棒。
・・・でも、そうだね。うん、ここまで勝手やったんだ。手ぶらじゃもう・・・帰れないな。
あはは・・・。覚悟だけはしておこうっと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そうしてやってきたのは・・・なんですか、この建物は。
いや、クリステラ・ソング・スクールの校舎なのは知ってる。でも・・・いったいどこの城だよこれっ! つーか、どこの月村邸っ!?
そんな、TVと月村邸でしか見たことのないような趣の建物にビビりながらも、恭也さんと美由希さんの後を付いて行く。
とにかく、そうしてある部屋へと通される。そこに居たのは、三人の女性。
なーんかお付きの人っぽいピシッとした感じの人が一人。
壁に背中を預けている、金色ポニーテールなお姉さんがひと・・・あ、なんか睨まれた。
そして、金とブラウンが混じったようなロングヘアーに、白いタートルネックのセーターにストールを合わせて着ている女性が一人。
そしてその人は、とても嬉しそうな顔で、こっちにトタトタと走りよって・・・。
パタン。
・・・見事に、コケた。
・・・とにかく、近くのソファーに座って、お話です。
「・・・フィアッセ、大丈夫?」
「うん、ごめんね。その、つい嬉しくて・・・」
・・・嬉しくてコケるって、どんだけピンポイントな属性持ちですか、あなた。
「・・・お前、キャラ変わったか?」
「えっと・・・大人になったから」
いや、それもおかしいでしょ。
≪・・・また、妙な人が≫(注:思念通話です)
いや、もう何が来ても驚かないよ僕は。どんだけピンポイントだろうと、数ヶ月前のアレとかソレにクラベレバ・・・。
≪フラグ、立てないでくださいよ? もうシャマルさんとすずかさんが居るんですから≫
立てられるかボケっ! つーか、どうしてそういう話になるっ!? そしてあの二人の話はやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
「・・・ところで恭也、その子は?」
「初めまして、蒼凪恭文です。あと、僕は小さくもなければ、チビでもミジンコでもありませんので」
「恭文、誰もそんなこと言ってないからっ! というか、いきなりなにっ!?」
「いや、なんか言われそうだったんで・・・」
うん、初対面だと、僕の印象はまずそこよっ!? ここはきっちり潰していかないとっ!!
「・・・すまん、フィアッセ。見ての通りの少々不憫で可哀想な奴なんだ。暖かい目で見守ってやってくれ」
「ちょっと恭也さんっ!?」
・・・あ、なんかクスクス笑い始めた。
「初めまして、恭文くん・・・で、大丈夫かな?」
「あ、はい」
「私は、ここの校長で、恭也と美由希の友達。フィアッセ・クリステラと言います。よろしくね」
「はい。その・・・よろしくお願いします」
・・・そう言って・・・えっと・・・。
「フィアッセさんで大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
フィアッセさんは、とても明るく、優しい笑顔を僕に向けた。なんつうか・・・綺麗な人だなぁ〜。
物腰が柔らかくて、綺麗でスタイルもよくて、陽の光に煌めく髪がまた綺麗で・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
「・・・校長?」
「そうだよ、私がここの校長」
「えぇっ!?」
こ、校長っ!? この人がこの世界的に有名だって言う校の長なのっ!!
まってまってっ! 校長って、もうプラス30年生きないとなれないんじゃっ!! というか・・・このおねーさん何物っ!?
「恭也、もしかしてこの子」
「そうだ。コイツはここの事も、お前の事も全く知らなかった」
「・・・私達、頑張りが足りないのかも知れないね」
「いや、それは恭文が特殊なだけだから、気にしなくていいよ」
・・・とにかく、話を戻す。フィアッセさんが恭也さん達の友達なら、二人に護衛の話が来た理由も察しが付く。ここはいい。
問題は・・・本当にフィアッセさんはここまで脅迫される覚えが無いということ。
しかも、その脅迫のレベルも妬みやらストーカーの類いをぶっちぎりで越えてるそうだ。
つまり・・・見えるらしい。明らかな悪意ってやつが。
とにかく僕達がやることは・・・。
「そうだ。これから事態解決まで予定通り」
「フィアッセさんの護衛ですね」
・・・あの、ここまで来てなんですけど、本当に僕はここに居ていいの?
「問題は無い。・・・それに、お前まさか、フィッシュアンドチップスを食べただけで、帰国するつもりか?」
「・・・まさか。ヨークシャ・プディングと本場のローストビーフを食べずに帰れますか」
それに・・・答えは掴まないと。でも、それだけじゃだめだ。
なにより、フィアッセさんを守らないと。・・・脅迫されて、怖くないはずが無いんだから。
「ならいい」
なんて言ってると、部屋をノックする音。
それから・・・なにやら大きめの木箱がいくつも運び込まれ、部屋のテーブルに置かれた。
で、恭也さんと美由希さんがその木箱に近づき、中を開けると・・・。
≪・・・どうやって持ち込んだんですか、アレ≫(注:思念通話です)
いや、それは僕が聞きたいから。
「・・・恭也さん」
「なんだ?」
「参考までに質問しますけど・・・銃刀法って、知ってます?」
「知ってるが知らないな」
「・・・左様で」
・・・木箱の中身は、全てがお縄な物だった。
まず目につくのが、何本もの小太刀。
そして、暗器類として小型の服の袖に仕込めるサイズの苦無に飛針に綱糸・・・。
そう、御神流で使用する武器一式だった。
そして思った。また・・・妙な暗雲に巻き込まれたかなと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・脅迫に対する対処と言うものは、意外に難しい。
特にフィアッセさんの場合、間近に控えるツアーもそうだし、スクール関係者に不安を感じさせる行動は控えている。
それがどういう事かと言うと・・・。
「ここのミートパイ、本当に美味しいんだよ? もうね、ほっぺたが落ちちゃうのっ!!」
「あぁ、それは楽しみですっ!!」
「・・・あー、恭文? 目的忘れてないかな。というか、私達はミートパイ食べられないから」
・・・そう、例えば今みたいに、某予約の必要なレストランに、食事に来たりとか。
つまり、普段通りに過ごすということ。もちろん、あまり狙われている人の行動としては、誉められたものじゃない。
でも・・・フィアッセさんは信じているらしい。自分の友達二人の事を。
「もちろん、忘れてませんよ」
僕は右手の人差し指をピンと上にたて・・・言い切った。
「フィアッセさんとデートに来たんです。というか、記念すべき初デートですね」
「全然違うからっ! いちおうツアー関係者との打ち合わせなんだからね、これっ!?」
「・・・私、恭文くんよりかなり年上だけど、大丈夫?」
「フィアッセもなんで乗っかるのっ!?」
・・・なので、フィアッセさんのいつも通りでいようとする調子に、合わせていくことにした。
僕が言うバカな発言一つで、ほんの少しでも気が紛れるなら、いいかなと。晴れることは、事件解決以外に道は無いだろうし。
いや、それでよく睨まれるけどさ。あの恭也さんとフィアッセさんの幼なじみのエリスさん・・・だっけ? うん、視線が相当厳しい。
「というか、恭文・・・。フェイトちゃんはどうしたの、フェイトちゃんは」
・・・いいの。うん、喧嘩しちゃったし。というか、今回は頭来たし。あっちが謝るまでは、口聞きません。
「・・・フェイト?」
「恭文が片思いしてる女の子」
「・・・私は恭文くんにとって、二番目なのかな?」
フィアッセさん、11歳の子どもにそういうことをホントに悲しげな顔しながら言う大人って、結構問題だと思います。
いや、からかってるだけだろうけど。
「いえ、もう一番目です」
「・・・本当に?」
「本当です。もう僕の目には、フィアッセさんしか映っていません」
「なら、よかった」
「いや、良くないからっ! というか、二人とも遊びすぎっ!!」
・・・そう、これは会話の上での遊び。僕はそのつもりだし、フィアッセさんだって同じくだ。
ちょっとした時間の中で出来る、ちょっとしたおままごと。多少悪趣味ではあるけど。
でも・・・それでも、やってしまう。だってさ、見たくないもの。こんな綺麗な人の泣き顔なんてさ。
フィアッセさんには、笑顔が一番似合うから。
だから、どうしても無粋に思えてしまった。
パーンっ!!
・・・こんな音が、突然耳に入ってくるから。
「・・・美由希さん」
「銃声・・・だね」
んじゃ・・・僕は。
「それじゃフィアッセさん、デートはまた後日ということで」
「そうだね。フィアッセ、悪いけど今は・・・」
ここから、美由希さんと一緒にフィアッセさんを警護しつつ避難だ。向こうは恭也さんとエリスさんがなんとかしてくれる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
この3階建てのデカイレストランにいくつもある、安全に外に抜けるための非常口。
それを目指して僕達は走る。うん、結構急いで。だけど、慎重に。
事前に、恭也さんも入れて手はずを整えていたのが大きかった。おかげで、ここまでは非常にスムーズ。
うん、非常口だけに。
「・・・余裕あるね」
「おかげ様で・・・」
・・・あれ?
「恭文?」
美由希さんが声をかけたのには理由がある。僕が、足を止めたから。
「・・・美由希さん」
「正解だよ」
そこは非常口に続く、お店の中の綺麗な通路の一角。なぜか鏡もたくさん置いてたり。
で、薄暗く物陰も多い。まぁ、ここまではいい。問題は・・・そういう箇所から、どうにも嫌な感じがする。
もっと言うと、妙な気配がする。
「・・・フィアッセさん、目・・・閉じててください」
僕の言葉に、フィアッセさんがコクリと頷き、その柔らかな瞼を閉じる。
・・・あんま、これからやることは見せられないしね。これでいいでしょ。
数は、6前後か。いや、もっと多いかも。ここ、結構狭いし、躊躇わず・・・一瞬で、潰す。
一番狙われるのは、フィアッセさん。次が・・・子どもの僕だ。
「・・・来るよ」
その美由希さんの言葉がきっかけ・・・だったのかも知れない。
とにかく、始まった。襲い来る悪意との闘争が。
鏡を割るようにして飛んできたのは、三人の男。手には大振りのナイフ。
通路からも数人沸いてきた。ま、こっちは美由希さんに任せるとして・・・。
僕は、アルトをセットアップ。『障害』位置・・・左、1。右、2。
排除順決定。
行動・・・開始。
アルトを抜き放ち、左に居た奴に居合いで胴に一閃。
・・・ただし、打ち込んだのは刃じゃない。打ち込む直前で、刃から峰に変えて、相手の胴を砕く。
そうして、それからすぐに振り返り、右の奴向かって踏み込む。
そいつの肩口に、袈裟で一閃。咄嗟にナイフで受け止めようとするけど、無駄。アルトの峰は、それじゃ止まらない。
相手の左肩に、アルトの峰がナイフの刃を、骨をへし折り、肉を圧しながら埋まっていく。
そんな、相手を潰し斬るかのような一閃に耐えきれず、そいつの身体は地面に叩きつけられる。
最後・・・僕が叩き伏せたやつの後方に控えて奴が、空いている左手を懐に手を伸ばす。
それを見た瞬間に、踏み込む。魔力による身体強化も込みな踏み込み。距離は一瞬で縮む。
でも、男が左手からオートマチック式の銃を取り出すのも、一瞬。だから、その銃身目掛けて、アルトの『刃』を、左から打ち込む。
生まれたのは、一筋の銀の閃光。それが斬り裂いたのは、黒い悪意。
銃身が、真横からの斬撃に、綺麗に真っ二つになる。
男がその光景に唖然としている所を狙って・・・胴に、左手に持ったアルトの鞘を打ち込む。
男が、そうの一撃であえなく沈んだ。・・・これで、よし・・・か?
美由希さんの方は、とっくだし。とりあえず・・・。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
僕が二番目に潰したのが、空いてる手を懐に入れようとしてたので、その腕を踏んで、へし折る。
・・・まだまだだね。仕止めきれなかったか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とにかく、今回の一件はなんとかなった。うん、襲撃者は全員確保出来たし。
ただ・・・恭也さんとエリスさんが対処したやつが問題だった。
薬物操作されていたらしい。それによって、傷を負っても止まらなかったとか。
で、当然・・・。
「・・・ツアーは、中止すべきだ」
・・・と、事後処理が終わりなんとかスクールへ戻ってきた僕達にそう言ってきたのは、エリスさん。
いや、まぁ・・・なんつうか当然だと思う。だって、実際これだし。
『恭也さん達いるから安心』みたいなレベルを、越えてるでしょ。
「悪いけど、警護のプロとしても安全は保証出来ない。いくらなんでも、危険が大きすぎる」
「・・・いえ、ツアーは行います」
・・・フィアッセさんの決意は硬かったけど。
なんでも、この世界ツアーはもうお亡くなりになっているフィアッセさんのお母さんで、スクールの前校長。ティオレ・クリステラさんの意志でもあるらしい。
元々紛争地帯で生まれ育ったティオレ・クリステラ女氏は、そういった現実をよく知っていた。それは、自身が歌姫とまで呼ばれるようになってもだ。
そんな現実を少しでも変えたくて、このチャリティーツアーを始めたらしい。
実際に、そう言った紛争地域でコンサートを行うこともあった・・・というか、あるとか。
だから、やめるわけにはいかない。自分がそれに参加しないのもいけない。
受け継いだもの、自分がやっていきたいものを、通したい。一回でもこんな事で中止してしまったら、意味が無い。
そう、フィアッセさんは言ってた。とても・・・強い瞳で。なんつうか、すごい人だよ、本当に。
とにかく、ツアーは始まる。僕達は当然それに同行。事態解決まで、フィアッセさんの警護に回る。
なお、僕の衣食住と渡航費用は、クリステラ・ソング・スクールが責任を持って面倒を・・・。
速く解決して欲しい。だって、ツアーのスケジュールを聞いたら、年単位だったし。
で、忘れちゃいけない事が一つ。ツアーの最初の目的地だ。
まー、話が話だったから、どこに行くことになるかなと思ったら・・・。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・というわけで、それくらいの日程で戻りますんで」
『そう。・・・それで、こっちでのコンサートが終わったら、どうするつもり?』
そう、なんと海鳴市だった。なので、リンディさんに一応の帰還報告を。
「・・・どうしましょうね」
なお、リンディさんにも全部は話していない。つーか、話せるわけがない。
ただ・・・妙に気に入られて、見聞を広げ、社会勉強のためにツアーに同行しないかと誘われていると。
『まったく・・・。まさかうちで暮らし始めて1年も経ってないのに、トウゴウ先生みたいになるとは思わなかったわ』
「あはは・・・すみません。まぁ、そこはうまーく話していきます」
さすがに魔導師のお仕事ほったらかしもどうかと思うので・・・と、付け加えておく。
『あと・・・あなた、フェイトのことはどうするの?』
「向こうが謝るまで、話しません」
『・・・即答はやめて欲しいわ。でもね、あの子がそう言いたくなる気持ちも、分かってあげてくれないかしら。
話を聞くに、そうとう苛烈な訓練だったようですし』
「残念ながら、分かりません。つか・・・真面目にムカつきましたし」
なお、フェイトとは膠着状態が継続中。うん、僕からは連絡してない。
『・・・ねぇ、一ついいかしら?』
「はい」
『どうして、そこまで恭也さん達に肩入れするの? フェイトのセリフではないけど、彼らと私達とは違う部分が大きすぎる』
・・・まぁ、そうだよね。うん、魔導師と恭也さん達御神の剣士を比べたら、そりゃあ色々と。
『そして、あなたは魔導師。私達と同じくよ? 剣士として、彼らに親近感を持つのは分かるけど・・・』
「・・・そういうのじゃないです。ただ、考えるだけですよ」
うん、今抱えているモヤモヤとはまた別に、恭也さんや美由希さんを見ていて、一つ考えてることがある。きっとそれだけ。
『考える?』
「・・・リンディさんも、魔導師ですよね」
『えぇ』
「考えたこと、ありません? もし・・・自分から魔法っていう力が無くなったり、一時的でも、使えなくなったらって」
僕がそう口にしただけで、リンディさんには充分だったらしい。何かを納得したような顔になった。
『・・・そのために、なのね?』
「はい。それで、恭也さんや士郎さん達にも話してます。で、教えはしないけど、盗めるなら盗んでいけと」
『盗めそうなの?』
「・・・3つだけですね」
人の技を盗むのなんて、楽じゃない。
まず、どーも僕には飛針や綱糸類を使う才能はないということが分かった。うん、さっぱりだった。
使ってる武器の系統そのものが違うから、小太刀でのやりようをそのまま持っていくのは無理だしね。ここはまだ要練習だよ。
そしてあの身のこなし・・・これは、今すぐはどうにもならない。
これからじっくり訓練していかないと、いきなりは無理。無茶苦茶して、横馬の二の舞はゴメンだ。
でも、ここ数ヶ月恭也さん達の鍛練に付き合って、盗みつつあるものがある。
一つは、二刀流での戦い。元々教わってた物の完成度が、ここで急速に高まってきてる。
もう一つは、反応速度というか、反射というか、死角外からの攻撃察知能力。うん、そういうの、なんか前にも増して分かってきた。
そして、もう一つが・・・。
「・・・ちょっと見ててもらえます?」
僕は、近くにあったビスケットの袋に手を突っ込み、その内の三枚を取り出す。
そして、それ近くのテーブルの上に重ねた状態で置く。そして、深呼吸。
・・・はぁっ!!
ビスケットに勢いよく手刀を落とす。すると・・・。
『これは・・・!!』
「ま、成果は一応あったということで。・・・未完成ですけど」
・・・準備は、着々と進行中。ただし、それは向こうも同じく。
そう、互いの手札を見せ合う時は、着々と近づいていたのだ。
(幕間そのななへ続く)
あとがき
≪・・・さて、海外ロケ話、いかがだったでしょうか? 私、さすがに出番がすくなかった古き鉄・アルトアイゼンです≫
「・・・そうだね、さすがに地球だとね。あ、皆さんご無沙汰しています。高町なのはです。さて、今回のお話は・・・アレだよね」
≪アレですね。とらハ3のOVA版のお話となっております。マスター視点が主でしたが≫
「事件どうこうより、恭文君の悪戦・・・苦闘? そういうのが多かったような・・・」
≪そこが今回のお話のテーマ・・・というか、根っ子です。『幕間そのご』での敗戦からどう学び、学習し、成長するかを描くお話です≫
(青いウサギ、どこか力が入り気味。耳までピクピクしている)
≪あと、マスター視点が主だったのには、理由がありまして・・・≫
「なに?」
≪作者、長編でマスター視点固定のお話を書こうかどうか考えてるんですよ。ほら、リインさんとの過去話です。それの練習も含まれていたり≫
「なるほど・・・。でも、難しくないかな」
≪難しくはあったようです。状況説明やなんやかんやをどうしたものかと。ただ・・・面白くはあるかなと感じたようです。
まぁ、ここはよしとして、次回ですね≫
「次回はこの続きだよね?」
≪はい。まぁ、ここは見てのお楽しみということで。それでは、本日はここまでっ!
お相手は、古き鉄・アルトアイゼンと・・・≫
「高町なのはでしたっ! それでは、また次回にー!!」
(カメラに向かって、二人手を振りながらフェードアウト。
本日のED:『OVAのテーマソング』)
(おしまい)
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