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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第18話 『ワキワキッ! 日々高みを目指し、学び変わるそのこころっ!』



デンライナーの中にも一応レクリエーション的に身体を動かせる場所がある。そんな車両に、あたしは朝早くに来ていた。

ピンクのジャージ姿で前髪を大きな×型アクセサリーでまとめた上で、あたしは正拳打ちを続ける。

もうなんか添い寝断ったもやもやとかそういうのを吹き飛ばすように次々と打ち出していく。それから次は蹴り。



上段・中段・下段を一揃えで連続的に放っていく。もちろん両足それぞれだよ。……最初は上段無理だったなぁ。

モーションが崩れてないかどうか確認もしつつ、最後は右足・左足と続く回し蹴り。これも最初は無理だった。

汗を撒き散らしながら、髪を揺らしながらあたしは空中を少しだけ飛んで……ゆっくりと木目な床に着地。



それから伏せ気味だった体勢を、背を伸ばした直立のものに移行。両拳を腰だめにしながら息を吐いた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あむちゃん、頑張ってるね」

「日々の日課ですからぁ」

「やっぱり恭文君から教わってるから、特別なのかしら」

「最初は筋肉痛とへばりのコンボでよく『無理ー』って言ってたのにねー」





あむちゃん、何気に朝と晩はよくこういう訓練してるんだ。てゆうか、ボクの知る限り毎日。

恭文からイースターと戦ってた時に格闘技を教わって、それをずーっと続けてるの。

あむちゃん自身はそういう戦うのとかさっぱりなとこあるけど、それでもこれは絶対にやめない。



あむちゃんなりに武術の中に楽しさなり目標があるみたい。というか、恭文の影響なのかな。



いつもあむちゃん、戦ってる恭文の事を本当にハラハラしながら目で追っかけてるから。





「……やっぱりやってたか」



車両の入り口の方であむちゃんの事を見てたボク達は、その声に驚いて横を見る。

そこにはボクも何度か見かけた事のある蒼いジャージ姿の恭文が居た。



『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇlっ! いつの間にっ!』

「え」



あむちゃんが間の抜けた声をあげながらこちらに振り向く。すると顔を真っ赤にして少し後ずさった。



「あ、あああああああ……アンタ何してるわけっ!?」

「いや、身体動かしに来たんだけど」

「そ、そう。まぁそれならしょうがないか。んじゃ、あたしもう終わるし」




あむちゃんはそう言いながら凄い早足でこちらに近づいて、車両から出ようとする。



「待った」



でもそんなあむちゃんを恭文は左手で通せんぼしつつ抱える。



「ちょ、なにしてるわけっ!? あたしもう終わりだしっ!」

「ちょうどいいから僕の相手してよ」

「……へ?」

「一人より二人で練習した方が早いしね。ほれほれ、そういうわけだから」



恭文はあむちゃんそのまま抱いて、自分の方が身体が小さいのにどんどん引きずっていく。



「いくよー」

「ちょ、抱きかかえるなー! てゆうかあの、無理っ! あたし汗臭いしっ!」

「大丈夫、僕も汗臭くなるから。大丈夫だって、僕達添い寝もした仲だし」

「そういう問題じゃないしー!」





乙女の微妙な心を色々無視しているけど、ボク達はそれでもあむちゃんに向かって敬礼。



あむちゃんはそんなボク達に『裏切り者ー!』と言いたげな視線を送るけど、ボク達は一切気にしなかった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



うぅ、マジ恥ずかしいし。髪はぼさぼさしてるし汗かいてて……コイツ、絶対分かってる。

あたしがそういうのなんとかしたいと思ってるの分かってて止めてきてるし。そうだ、そうに違いない。

恋愛関係には自分の事で鈍くなるとかそういうお決まりパターンもないしさ。絶対そうだし。



ただまぁ、こういう形でもコミュニケーションしてくれようとするのは嬉しいので、あたしは恭文と対峙して構えた。

いつも通りの打撃・投げ・関節技となんでもありの組み手。腰を落として、右の半身を向けるようにしつつ両手を胸元まで上げる。

恭文もさっき準備運動したから、準備不足で怪我をするとかもない。そこに安心しつつ、あたしは間合いを測る。



距離にして2メートルほど。恭文なら一瞬で飛び込める距離。自然と拳に力が入っていく。

まずは先制で飛び込んで左のジャブで牽制。恭文はそれを右の手の平で受けてくれる。

うん、受けてくれるの。練習だから、あたしの手応えとかそういうの一番に考えてくれてる。



そこが申し訳なかったりありがたかったりしつつ、あたしはどんどん前に押し込んでいく。



だって今は、恭文とあたしだけの時間だから。だからめいっぱい集中していかなきゃ。







『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と彼女の機動六課の日常


第18話 『ワキワキッ! 日々高みを目指し、学び変わるそのこころっ!』









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



こっちの世界に来てから、私は本当に常識が壊れまくっていると思う。というか、常識ってなんだろ。



そんな疑問をさて置く形で、私はヤスフミとデンライナーの食堂車でお昼中。カルノ達にもご飯を食べさせてあげてる。





「カールー」

「カースー」



カルノは大きな口を、カスモはトリのくちばしみたいな小さな口を開ける。

それを見て私達は嬉しくなりつつ、お昼のカレーを二人に食べさせる。



「カルー」

「カスー」

「……でも二人とも、ちゃんと自分でご飯……まぁこれは難しいか」





カレーだから口元汚れちゃうしね。特にカスモなんてジャガイモとかは食べにくそうだし。

ただ基本的に二人とも本当にはしゃぐ子だから、結構世話も大変かも。

昨日なんて食堂車走り回ってたし、その時にケンカして頭突きし合ってたし。



これでも子育て経験者だけど、エリオとキャロがすっごく特殊だったんじゃないかと思うくらいに二人はやんちゃ。

ただそれでも私達はこの二人のお父さんとお母さんだから、言葉が通じなくても頑張っていくの。

でもヤスフミ……うぅ、私もしゅごキャラが見えればなぁ。しゅごキャラ達が通訳してくれてるのは分かるけど、それもさっぱりだもの。





「あー、でもどうしよう」



カルノ達を見ながらヤスフミが少し表情を曇らせた。向かい側に座る私は、首を傾げる。

ううん、それは近くの席で同じようにご飯を食べてたモモタロスさん達もだ。



「ヤスフミ、どうしたのかな」

「あ、カレーお気に召しませんでしたかぁ?」

「あー、違います。カレーは美味しいんです。ただ……あむの事はどうしようかなぁと」



それで私達は納得したように『あー』と声を出した。……そう言えばそこ、かなりスルー気味だった。

というか反省した。向こうの事があらかた片づいてるなら、そろそろそこをなんとかしないと。



「そう言やあんみつ、お前んとこで魔法の事とか勉強するために来てたんだっけな」

「えぇ。でも僕、フェイト共々これじゃないですか。さすがにこれ以上は」

「あむの父ちゃん母ちゃんも心配するわな。てか、ほんまやったらあの子は学校通ってなきゃおかしいやろ」

≪どちらにしても一度家と連絡しなきゃだめなの。特にあむちゃんのお父さんがアレなの≫



ヤスフミの表情がまた困った顔になって頷いた。そうしつつカレーを一口。



「それがあるよねぇ。うーん、あむは一度下車してもらわないとマズいよなぁ」

「ヤスフミ、あむさんのお父さんってそんなに厳しいの?」

「いや、甘い。甘い上にあむとその妹を溺愛しまくってる。
だからこそ僕とかに対して厳しい視線を送るのよ。いわゆる超親バカ」

「……納得しました」



あの、自分の事に照らし合わせたら自然と……子煩悩な人なんだね。



「まぁあむちゃんと相談の上だけど、一度家に戻ってもらうのは僕も賛成かな」

「でもでもー、あむちゃん居ないのさびしいよー」

「リュウタ、そういう事じゃないから」



カメタロス……あ、違った。ウラタロスさんは、右手の指を弄りつつヤスフミの方を見た。



「だってあむちゃんは勉強のために恭文のところに来たんだよ?
でも現時点でそれが出来てない。だったらという事になるわけ」

「あ、そっか。あむちゃんパパとママに嘘ついちゃってる事になるんだよね」

「しかもデンライナーの事なんて当然話せませんからぁ……うーん、これはマズいですね」



……常識が崩れてく衝撃とか一日目のアレとかカルノ達の事ですっかりこの事忘れてたのを反省してしまった。

そうだよそうだよ、どう考えてもそれって相当マズいよねっ!? あむさんの今後にも差し支えるよっ!



「この場合家に戻るか、ヒロさんにお願いするかのどっちかだよなぁ」

「ヤスフミ、予定が変わるならやっぱりご家族と相談する時間からじゃないかな。というか、私達があむさんと相談」

「だよね。うし、あむが戻って来たらちょっと話そうか」

「カルー」

「カスー」





とりあえず今、楽し気に声をあげた二人の言いたい事は分かった。あのね、『おかわりー』って言ってるの。



だって二人とも口の周りをカレー色に染めてるし、大盛りだったカレーライスが話してる間に無くなってるもの。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今日は恭文達とは別行動で、ハナさんと街を散策。てゆうか、あたしもあたしで一人の時間とか楽しむわけですよ。



でもここ、マジであたしの知ってる新宿――都心と同じなんだよね。山手線とかもあるしさ。



そんな中で極々普通にSPDの地球署があったりするのがビックリだし。もうね、色々カオスだわ。





「でもあむちゃん」

「はい?」

「まぁその、アレよね。もうちょっと素直になった方がいいと思うな。
恭文君、普通にフェイトさんにかまっちゃうし、ぐいぐい押し込んでいかないと」

「いきなりなんの話っ!? てか、その慰めるような目はやめてー!」



もしかしなくても前回の添い寝スルーの事ですかっ!?

でも言わないでよっ! あたしだって後悔してるんだしー!



「ハナさん、そこは言わないであげてー? あむちゃんも後悔してるのー」

「せっかくのお誘いでぇ、みんな一緒なら大丈夫だったのに……意地っ張りさんしちゃいましたからぁ」

「成長してないよね。何度もそれで涙を飲んだのに」

「あむちゃん、あいかわらずの残念仕様よね。大事な時に大事なものを逃しちゃうの」

「アンタ達もうっさいっ! てか残念仕様って言うなー!」



ハナさんも軽くあたしの背中撫でないでっ! ホントに……ホントに違うしー!



……ハッ! ハッ!

「そうそうっ! いいぞー!」





みんなの冷たい言葉に絶望してるあたしは、頭を抱えながらも元気の良い声を聞いた。

それはハナさんも同じくらしく、二人して足を止めてたまたま通りがかった公園の中を見る。

そこは都心の中の癒しスポットとでも言いますか、高層ビルが立ち並ぶ中にあった。



芝生に木々に噴水という構成で遊具関係はないけど、のんびり休憩するならきっと素敵な場所。

そんな中、道着姿のあたしくらいの年の子ども達10数人が……あ、アレ格闘技の型だ。

それでそんなみんなの前に赤い長袖の上着と黒のロングパンツを着ている男の人が居る。



髪は栗色で細身で、みんなの周りを見ながら型の練習を見てあげてる。首元には金色の宝玉?





「あ、あれー!」

「ラン、どうしたの?」

「あむちゃん、もっと近くで見ようよー! てゆうか、キャラチェンジッ!」

「へ?」





次の瞬間、あたしの髪の両サイドに付けてある小さな×型のアクセサリー二つがハートマークになる。



そして大きく身体が飛び上がって、空中で身体を二回捻った上であの子達の前に着地。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……アチョー!」





私が止める間もなくあむちゃんは……あぁ、キャラチェンジしちゃってるのね。



それで片足立ちで鶴の舞っぽいポーズを取って、みんなに向かってウィンク。



子ども達はざわざわしながらあむちゃんの事を見る。あの先生っぽい人も同じ。





「お前、なんだ?」

「格闘技ならあたしも大得意っ! さー! 見ててー!」





そこからあむちゃんは構えを取り、鋭く右でのジャブを連続で打ち込む。なお、空気を切り裂く音がこっちまで聴こえる。

その後は左拳でフックを打ち込み、その勢いのままに身体を捻って右足で後ろ回し蹴り。

だけどそれだけで止まらずにあむちゃんは飛び上がって、両足でドンドン回し蹴りを叩き込む。



空中をどこまでも上がっていきそうな旋風脚にあむちゃんは……さすがに見てられなくて私はミキ達と一緒にそちらへ向かう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!

てゆうかこんなのあたしのキャラじゃないっ! これはさすがに出来ないからっ!

そんな事を考えている間にあたしは着地して、芝生の上を回転しながらみんなに向き直る。



それで軽くウィンク。みんなはあたしを見て拍手……だから待ってー!



いや、それ以前に今日あたしミニスカ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!





「あははははははー! やったー!」



胸の内で頭を抱えていると、ようやく身体の感覚が戻ってきた感じがした。てゆうか、アクセサリーが元の×型に戻る。

なのであたしは楽しげに横で笑ってたランを両手でふん捕まえて、思いっきり睨みつける。



「ラァァァァァァンッ!」

「ちょ、あむちゃん待ってー! あむちゃんだって格闘技してるんだからみんなと一緒にやればいいんだよー! それにこの人」

「ラン、噴水って結構深いらしいよっ!? ちょうどそこにあるしどれだけのものかちょっと体感しようかっ!」

「沈める気満々っ!? てゆうかちょっと待ってー! この人凄い人なんだからー!」

「……お前、やるなぁ」



後ろから感心するような視線と声が突き刺さる。それで恐る恐る見ると、先生っぽい人がニコニコしてた。

ヤバい、血の気が引いてる。今までのパターンだとこれはその……や、ヤバい。早く逃げないと。



「うし、お前も獣拳やるか。てゆうか、オレとちょっと組み手してみるか」





きゃー! やっぱりこうなったー! あ、ハナさん……あたしは咄嗟に周囲を見渡した。



それでこちらに近づいてたハナさんさんとミキ達を見つけたけど、みんなはあたしからどうしてか距離を取っていく。



しかも全員揃って合掌……待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! さすがにそれないからっ!





「むむむむむむむ……無理っ! これはその、違うのっ!
てゆうか邪魔してごめんなさいっ! ホントごめんなさいっ!」

「あぁ、無理だろうな。そっちのピンクの奴の力借りなくても出来るって言うならともかく」

「そうなんですっ! ランの力がないとさすがにあたしも」



……あれ、ちょっと待って。今会話おかしくない? てかこの人、なんであたしの両手の中のランを見てるのかな。

てゆうかピンク? ま、まさかとは思うけどこの人しゅごキャラ見えてるんじゃっ!



「それ、しゅごキャラだろ? オレ見た事あるし」

「しゅごキャラの事知ってるんですかっ!?」

「あぁ。旅の最中に、宿主ってのと何回か会ったからな。今のはえっと……キャラチェンジだったか」



またいつもの説明話来ると思ったのに、まさか知ってる人だとは。これは新しいパターンかも。



「……あ、お前は名前は?」

「えっと、日奈森あむです」

「あ、あたしランー!」

「あむとランか、よろしくな。オレの名はジャン――虎の子だ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



訓練はちょうど終わりだったらしく、子ども達は一足早くランニングも込みで帰っていった。

なんかスクラッチっていう会社さんが持ってる道場に帰るらしい。そこはスポーツ商品売ってる会社とか。

あたしはジャンさんとハナさんと一緒に歩きながらそこに向かう事になった。



てゆうか、ジャンさんがあたしに興味持って離してくれなかった。マジで獣拳とやらをやらないかって誘ってきたし。



それでまぁ、一応見学というか獣拳とやらの事を教えてもらう事になって、道すがら説明を受ける事になった。





「まず獣拳ってのは……一言で言うとワキワキだな」

「「ワキワキ?」」

「ワキワキは、楽しいとか好きって事だ」



え、えっと……そんな主観的概要からですか。歩きつつハナさんと困り顔だし。

あの、もっとこう、どういう流派とか説明してくれるものだとばかり思ってたんですけど。



「えっとねあむちゃん、獣拳は獣の心を身体に宿らせて扱う拳法なんだよー?」



なのにランはすっごい楽しそうだし。てーかさっきからテンションがおかしい。両手でピンクのボンボン持って振り回しまくってるし。



「それでそれで、ジャンさんは獣拳戦隊ゲキレンジャーのゲキレッドなんだからー!」

「お、お前よく知ってるなぁ。ちょっとびっくりだぞ」

「えへへー、あむちゃんの妹とテレビ見て……ふがふがー!」



とりあえずあたしはランを両手で掴んで口元を押さえる。てーかあの、今かなりヤバい話をしてたような。



「どうした?」

「あ、いえー。なんでもないですー」



疑問顔なジャンさんはともかくとして、あたしは両手の中のランをまた睨みつける。てーか小声で話す。



「ランっ! アンタその事ぽんぽんこっちの人に言っちゃだめじゃんっ!」



こっちの人はあたし達の世界の事なんて知らないんだし、マジそこだめだって。

……あれ、ちょっと待って。なんで今その話? てかゲキレンジャーがどうとかって。



「ラン、ちょっと待って。この人もまさか」

「そうだよー。この人もえっと……アバレンジャーやデカレンジャーと同じスーパー戦隊の人なの」



マジですかっ!? じゃあその獣拳とかゲキなんとかってんもその戦隊の技……それなんで普通に子どもに教えてるわけっ!?



「それでスクラッチって会社さんも、獣拳の使い手を育てたりしてるんだー。
ジャンさんもその会社さんに所属してる使い手の一人なの」

「そうそう。オレやレツやラン……あ、ランが二人居るな。ならお前、ちびランな」

「ちびってひどいー! ランはちびじゃないもんー!」



ランはジャンさんを見て頬を膨らませるけど、そりゃあしょうがない。だってアンタ、人間に比べたら充分ちびだし。



「とにかくレツやラン……オレの仲間達は今、さっきのみんなみたいな獣拳の使い手を育ててんだ」

「あの、その獣拳ってそもそもなんですか? さっきの説明だと私もちょっと」

「あー、簡単に言えば拳法だな。ただしそこに激気(げき)ってのがつく。
激気は獣を心に感じた時に湧き上がる情熱。その気を用いて戦う拳法が獣拳なんだ」



あたしとハナさんは街の中を歩きながら顔を見合わせて、首を傾げてしまう。

てゆうかあの、だめだ。ランはうんうんって頷いてるけど、さすがに……あー、恭文が居れば楽なのにー。



「まぁ分かんないよな」



隣を姿勢良く歩くジャンさんは腕を組みながらあたしとハナさんを見て、笑ってた。

でもそれは困った感じとかじゃなくて、むしろあたし達に同意してる感じ。



「オレも最初さっぱりだったからなぁ。もう獣拳なんて聞いた事なかったし。
でも見りゃあ絶対分かる。それでワキワキだ」

「……ワキワキ」

「そう、ワキワキだ。俺もお前も、ワキワキ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ご飯を食べ終わって、テーブルの上で寝始めたカルノ達をぱぱっと作ったバスケット型のベッドに寝かせる。



『コイツら自由だ』と思いつつ毛布を二人にかけていると、メールが来た。なので携帯端末で確認。





「……あ、あむからメールだ」

「ヤスフミ、あむさんなんて?」

「えっと、なんか帰りが遅くなるって言ってるな。それで……はぁっ!?」



文面を続けて読みながら、僕はその内容が信じられなくて声をあげてしまう。



「ヤスフミダメだよ、大きな声出しちゃ。カルノ達が起きちゃう」

「あ、ごめん。でもあの……あむとハナさん」



鼻ちょうちんなんて出し始めた二頭を起こさないように、湧き上がる興奮をそのままにフェイトの方を見て笑ってしまう。



「街歩いてたら獣拳戦隊ゲキレンジャーのジャンさんに会って、獣拳教わる事になったってっ!」

「……はい?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文とフェイトさんが心配しないようにメールを送った上で来たのは、やたら高い高層ビル。

そこにジャンさんは顔パス同然で入っていくので、あたしとハナさんも少し身を縮こませながら入る。

そうして白い通路をしばらく進んで案内されたのは、二階建てくらいの高さがある体育館。



そこには誰も居なかったけど、なんか黄色い猫っぽい顔……てーか猫そのままじゃんっ!



なんか赤いコートみたいな上着にマフラーを来た人の体型した猫がそこに居た。というか、服装が全体的にチャイナ服っぽい。





「ネコー!」

「おぉジャン、戻って来たか」



それでジャンさんは普通にその猫に近づいて、右手で喉をゴロゴロ……すると猫はニコニコ顔になる。



「おう、いきなりじゃな。だがこのテクニックは中々……うーん、また腕を上げたのぅ」

「みんなは戻って来てるよな」

「大丈夫じゃー。レツとランが続けて見てくれとるから安心せい。ところで」



ジャンさんに喉を撫でられてた猫が、軽く身を横に傾けながらジャンさんの背中に隠れる形になっていたあたし達を見る。



「そちらのお嬢さん達は? ジャン、お前さんもついにナンパデビューか」

「なんだそれ? コイツらは……獣拳教わりに来たんだ」

「ほう、ならお前さんの新しい弟子か」

「いやいや違うしっ! 確かに教わりに来たけど趣旨が違うしっ! ……てゆうか、猫が喋ってるっ!?」





あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! やっぱりこの世界おかしいしっ! てゆうかあたしようやく理解出来たっ!



前にデカやった時、なんでモモタロスとか普通に歩いててもみんな驚かないのかなって思ってたけどこれが理由なんだっ!



うん、知ってたっ! 宇宙人とか普通に居る世界でそんなの愚問だって知ってたしっ!





「コイツはネコ。獣拳・七拳聖の一人だ」

「……猫が名前なんですか」

「違うぞい。ワシの名はマスター・シャーフーじゃ」



猫さん――シャーフーさんは腰に下げていたトライアングルを左手で取り出して、右手でいつの間にか持ってた棒で鳴らす。



「えっと……マスターシャーフー、私達はたまたまここの人達の訓練を見かけまして。
それで興味があって獣拳の事を教えてもらうために来たわけで」

「とにかく今は弟子とかじゃないからっ!」

「そうじゃったのか。それはそれは……そこのピンクの髪のお嬢さん、名前は」

「えっと、日奈森あむです」



猫だけどどうも年上っぽい上にマスターって言うくらいだからきっと偉い人。なので一応敬語に戻す。

でも……やっぱりあたしの常識削れまくってるかも。フェイトさん、きっとフェイトさんは正しいです。アイツは少しおかしいだけだし。



「私は」

「ハナちゃんじゃろ?」

「えっ!? あ、えっと……そうです。でも、あなたどうして」

「ミルクディッパーで何度か見かけたからのぅ。あそこの愛理ちゃんや良太郎くんと話しとったじゃろ」



それでこの人ミルクディッパーの常連さんっ!? なんか左手で顎撫でながら自信満々に胸張ってるしっ!

そ、そう言えばドギーさんやホージーさんもミルクディッパー通ってるって……あのお店、戦隊な人達の常連多くないっ!?



「……あ、そう言えばこの人よくミルクディッパーに来てたっ!
それでドギーさんとコーヒー飲んでるの見た事あるっ!」

「おー、思い出してくれたかぁ。良かった良かった」

「なんだネコ、知り合いだったのか」

「知り合いっちゅうか、見かけた程度じゃがのぅ。どちらも話したのは今日が初めてじゃ。さて」



ジャンさんが道を譲るように少し横に移動する。それであたしとあのシャーフーさんとの間には誰も居なくなった。



「お主達、獣拳の事が知りたいとの事じゃったのぅ」



シャーフーさんは両手を後ろに組んで、一歩ずつゆっくり近づいて来る。



「まず獣拳とは獣の心を」

「ネコ、そこはオレが話した。てーかそこのちびランも知ってた」

「だからちびって言うなー!」

「む、そうか。ならあとは実技だけじゃな。ジャンー」

「おうー」



ジャンさんがシャーフーさんの声に答えながら、体育館の中央まで歩く。



「獣拳が激気を用いて戦う拳法というのは」

「あ、それは聞いてます」

「うむ。じゃがいきなり激気と聞いても分からんじゃろ。なのでまずそれを見る事からじゃな」



話している間にジャンさんはあたし達の方を向き直って、右の拳を胸元まで上げた左の平手に叩きつけた。



「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





体育館そのものを揺らすような咆哮が響いて、あたしの身体は自然と震えていた。

それでもあたしは両手で肌を突き刺す威圧感を防御しつつジャンさんを見据える。

するとジャンさんの身体から白い湯気みたいなのが出てきた。それが一つの形を取る。



それは赤と黒の縞模様で半透明な巨大な虎になった。その虎はジャンさんとは別の咆哮をあげて、あたし達に踏み込む。

避けようとするけど、反応する前に虎はあたし達の前に来た。それからすぐに半透明の虎は湯気のようなものに戻って消えた。

それに驚いていると、ジャンさんがこちらに微笑みながらやってくる。もうジャンさんは叫んだりしてない。



うん、だからあの雄叫びは消えてるはずなのに……なんだろ、肌がまだ震えてる。ううん、これはこころそのものなのかも。





「今のが激気じゃ」



あたし達の左隣まで来ていたシャーフーさんがそう言うと、あたしのこころがまた震えた。

だから自然と瞳を揺らしながらシャーフーさんを見る。



「激気を高める事で今のようにゲキビーストを実体化させ、操る事が出来る。もちろんこれは出来る事の一端じゃが」

「……あたしでも、出来ますか?」



自然とそう聞いていた。自分でそれに驚いていると、ずっと糸目だったシャーフーさんが目を見開いた。



「あたしでもこれ、出来ますか?」

「修行次第じゃが……というか、やってみたいのか?」

「はい」

「あむちゃんっ!?」

「お前、アツアツでジュワーンになったか」



前から聴こえたジャンさんの声に、あたしは自然と頷いてた。



「はい。ワキワキは分かんないけど……アツアツでジュワーンは、あるかも」





両手を胸元まで上げて、ここに来てからの色々な事を思い出す。てーか全体的に忘れてた。

あたしはこういう事を……まだ自分の知らない新しいあたしのキャラを探してミッドに来たんだ。

なんかもう面倒な事ばかりあってそれに流されてたけど、それじゃあダメなんだ。



ここはあたしのまだ知らない事がたくさんある。もしこれもその一つなら、知る事を躊躇う理由がない。



……あの男の子みたいにそうやってどんどん強く変わっていけたらいいなって、ずっと思ってるんだから。





「うし、ならやってみるか。あー、でもお前の親に獣拳やっていいかーって聞かないとだめ……だよな、ネコ」

「当然じゃ。あむちゃんとやら、まずは親御さんと相談じゃの。家はどこかの」

「あ、そうですよね。それで」



それで……あたしは固まった。てゆうか、ちょっと待とう。あたし、ちょっと待とう。ここはどこ?

うん、ここは地球だね。でもあたしの知ってる地球じゃない。つまりその、獣拳を習ってる間は……あ。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ど、どうしよっ!?
あたしの親めちゃくちゃ遠いところに居るしー! てゆうか獣拳の事とか説明出来ないー!」

「そうなのかっ!?」

「ふむ……まぁ落ち着きなさい。ほれほれ、肉球じゃぞー」

「それでどうにかしようとするの間違ってませんかっ!? ……あ、でも柔らかい」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――という事なんだよ」

「じゃ、じゃあその人達って」

「かなり強いよ? でもあむが獣拳かぁ」



フェイトに説明も終わったので安心してコーヒーを一口。



「ヤスフミ、あむさんって格闘技とか出来るの? さすがにいきなりそんな難しい拳術使えるとは」

「大丈夫。僕が総合格闘技教えてたから」

「そうなのっ!?」

「うん」



フェイトがなんでか驚いて……あー、当然か。だってこの話した事ないしさ。



「なんか自然と興味持ったらしくて……最初は剣使おうとしたんだけどさすがに無理だし。
なので格闘技。だから打撃も投げも関節技も基本的な事は出来る。……練習サボってないなら」

≪主様、それはないの。ミッドに居る間もあむちゃんとそこやってたのー≫

「ですよねー。うん、知ってたわ」





何気にデンライナー乗ってからも、冒頭みたいに運動出来る場を探してやってたしなぁ。



なお、フェイトが知らないのは当然。あむは自主的に練習してたから。



でも僕は気づくって。これでもあむの事はちゃんと見る事にしてるし。





「あ、だからあむさん興味持ったのかな」

「かも知れないね。まぁハナさんも居るし心配はないでしょ」

≪ハナさんは素手で魔法も無しでイマジンと殴り合い出来ますからね。あの人、ヘタすると電王より強いですよ?≫

「あの子そこまでっ!?」



ハナさんの実力を見ていないフェイトが驚いてるので、僕は頷く。それで周りのモモタロスさん達も力強く頷いた。



「おい金髪姉ちゃん、ハナクソ女はやべーぞ。アイツはすげー暴力的だしよ」



てゆうか、モモタロスさんがかなり必死だ。目がマジ過ぎて怖いくらいだし。



「てーかハナクソ女までそのマンジュウ拳っての習わないだろうな? アレ以上強くなられちゃ迷惑なんだけどよ」

「先輩、マンジュウ拳じゃなくて激獣拳。なんでそこ食べ物にしちゃうの」

「まだ腹でも減ってるんとちゃうか? しかし」



キンタロスさんに目を向けると、楽し気に唸りながらあの人は左手で顎を持って首を軽く鳴らす。



「その激獣拳とか言うのをやる奴強いんやろ? 俺も戦いたいなぁ」

「あー、僕もです。てーか教わりたいー。それでそれでもっともっと強くなって」

「……恭文、恭文ならゲキレンジャーのビデオ見るだけで使えるんじゃない?」

「出来そうだよねー。だって恭文僕達の戦い方もそっくりそのまま真似られるし」

「さ、さすがにヤスフミのコピー技能でもそこは……出来ないよねっ!? そんな超絶技出来ないよねっ!」





さすがに劇中の技をそのままなんて無理なので、この後詰め寄ってきたみんなを必死になだめつつここは否定した。



でも、『劇中の気を使う技をそのままは無理だけど動きなら出来る』と言ったら、なぜか全員泣き出した。……なんで?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あたし、なんとか落ち着かせてもらいました。てゆうか落ち着きました。

でも……そうだよそうだよ。あたしすっかり忘れてたけど現状かなりヤバいじゃん。

もうどうしたものかと頭を抱えていると、やっぱりジャンさん達は疑問顔。



それであの……ごめん、全部話しました。それでこのまま獣拳を教わるわけにはいかないとも……うぅ。





「――そっかぁ。それじゃあお前、一度家に帰らないとダメだな」

「じゃのぅ。てゆうか、ワシらの事どうこうの前に絶対そこ必要じゃて」

「もうホントごめんなさいっ! せっかくあんなスゴい技見せてもらったのにっ!」



だからあたしはもうペコペコだよ。ペコペコでショボーン……あれ、こういうキャラじゃないのに。



「あー、そんな謝るなって」



頭を下げ続けるあたしの頭に、優しく手が乗って撫で回された。

それに驚いて頭を上げると、ジャンさんが笑ってあたしの頭を撫でてた。



「てゆうか、それなら今日一日だけでも獣拳やってみるか。それで修行だ」

「へっ!? でもあの、一日だけで身につくものなんですかっ!」

「無理だな」



ハッキリそう言われたので、あたしは軽く崩れ落ちた。えっと、つまり体験入学とか?

確かにそれなら……でもアレは無理かもなんだよね。うぅ、それは残念かも。



「だから修行だ。……修行なんて、いつでもどこでも出来るもんなんだぞ?」



それでも嬉しいのでお礼を言おうとすると、ジャンさんは両腕を組んで笑顔でそう言った。



「オレ達とずーっと一緒に修行は無理でも、お前が頑張れば獣拳は使えるようになる。ここは無理じゃない」



力強く言い切ってから、ジャンさんは少し身体を屈めてあたしに目線を合わせる。



「お前が日々高みを目指して学び、変わろうとする気持ちをなくさなきゃな。大事なのはどこに居るかじゃない。
どこに居てもお前が感じた……獣拳やそれ以外でもそうだ。どんなアツアツもどんなジュワーンも大事にして、ズンズンする事だ」

「……ズンズン」

「もちろんもし出来るようならいつでも来てくれていいしさ。オレはまた旅に出て居ないかも知れないけど」



ジャンさんは身体を起こして、隣のシャーフーさんを見てまた笑う。というか、屈託なく良く笑う人だ。



「ネコやさっき言ったオレの仲間達がいつでも待ってる。絶対の絶対だ。ネコ、それでいいよな」

「もちろんじゃとも。それが無理でも、たまに来て勉強でもよい。しかし、毎日の修行も忘れずにのぅ?」



安心させるように……今日初対面なあたしにそこまで言ってくれる事が嬉しくて、胸が震えた。

それで背中から優しい手の感触を感じた。思わず右隣のハナさんを見ると、ハナさんは笑顔で頷いてくれる。



「……ありがとうございます」



だからあたしはまた頭を下げる。何はなくとも感謝の気持ちはしっかり伝えていく事にした。だから頭を下げる。



「あの、教えてください。それであたし……ズンズンしたい」

「よし、なら早速始めるか。それで一緒にもっともっとアツアツだ」

「はい」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、早速修行開始。まず格闘技の本当に基礎的なところは出来てたのでいきなり応用に入る事になった。

訓練用の背中に爪痕みたいなマークが入ってるシャツと黒ジャージを借りて、体育館で意識集中。

というか、ジャンさん達にビックリされてちょっとむず痒かったっけ。それでその、『獣の心を感じる』ってのを今やってる。



だけど……これ難しいってー! さすがに応用過ぎないかなっ!? てゆうかあの、なんかダメなのっ!



ザワザワというかゾクゾクする感じとか、そういうのを出そうとすると魔力が出ちゃうしー!





「うーん、やっぱり激気とは別の力が出ちゃってるなぁ」

「魔力……じゃったかのぅ。まぁしょうがないじゃろ。
この子の中で『気』に等しい力はそっちになるんじゃろうから」

「え、ジャンさん達魔力とかって分かるんですか?」



一旦集中を解いて、片端の二人に驚きながら視線を向けると二人揃って頷いた。



「あぁ。細かいとこはさっぱりだけど、オレやネコの知ってるのとは別の力が出てるのは分かる」

「ワシもじゃ」



な、なんか凄いかも。てゆうかまた常識がガリガリと削れて……世界って広いんだなぁ。



「じゃが一度激気を感じ取れれば、魔力とやらも激気もどちらも引き出せるようになるじゃろ」

「なり、ますか?」

「うむ。お主自身がその違いをしっかりと掴めれば必ずや。……というわけであむちゃん」

「はい」





あたしはもう一度瞳を閉じて、両手を腰だめして構える。それで意識を集中。とりあえず魔力が出てもそこは気にしない。

大事なのはあたしの中の気持ちなんだ。あたしの中にあるザワザワとした……あぁ、そうだよ。

あたしそれ、さっき感じてる。ジャンさんの『虎』を見た時に全身の肌が粟立つようなゾクゾクしたものを感じた。



試しにそれを思い出してみる。あの時の咆哮をあびた時の感覚にちょっとずつ手を伸ばす。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……む」

「ネコ」

「分かっとる。ジャン、邪魔したらだめじゃぞ」

「あぁ。シーだよな」

「そうじゃ」



ジャンに小声でストップをかけた上であむちゃんに改めて注目。……これは驚いた。

この子、僅かずつじゃが自分なりの激気を掴んでいるようじゃの。この子の中から確かに激気が感じ取れるわ。



「いきなりここまでは無理じゃと思ってたんじゃが……魔力の扱いを覚えているおかげじゃな」

「あの、それってどういう事ですか?」



ハナちゃんもワシらの近くに来て、合わせて小声で話してくれる。その上で疑問顔であむちゃんを見る。



「つまりじゃ、激気も魔力も種類は違えどその身体から湧き出るパワー。
あの子の中で、その手の異能とも言うべき力を使う感覚が育ってるんじゃよ」





獣拳を学ぶ者が行き当たる最初の壁は、激気を感じ取る事じゃ。まぁこれは当然じゃのぅ。

ワシかてここは本当に苦労したわい。知識では知っていてもその感覚を掴むのがまた難しい。

激気は本当に簡単に言えば、人の心から生まれるパワーじゃ。当然目には見えない。



目には見えないものを、今まで感じ取った事があってもそれが激気だと分からない者がそこを掴むのは大変じゃ。

じゃがもし、その者が別種と言えど身体の中に内包される力を形にして様々な現象を起こす技術と感覚を持っていたとしたら?

人はまず自分の主観や経験から物事を考える生き物じゃ。だから当然、その感覚から答えを探そうとする。



例えばジャンとレツとラン達トライアングルが以前、究極の激気――過激気を修得した時のように。

現にさっきもそうじゃし今も激気を出そうとして魔力を出しているじゃろ。それがその証拠じゃ。

力を使おうとする意識に身体が引っ張られて、今までの経験から元ある力も意識せずに出してしまうんじゃよ。



あとはしゅごキャラの宿主という事もあるんじゃろ。この子はキャラチェンジやキャラなりも出来るようじゃしのぅ。

こころのたまごから生まれる可能性の力を手にするために、この子はきっと何度も鍵を開けとるはずじゃ。

ならば今ここで激気を引き出せるのも当然と言える。激気を引き出すのにまず必要なのは精神的な部分じゃし。





「ならあむちゃんがいきなり激気を出し始めたのはぁ」

「魔法を使ってる感覚を応用しているのね。さっきから魔力を出していたのも、そのせいかしら」

「そういう事じゃのぅ。もちろん全て同じではないから、激気はちょっとずつ出している状態じゃが」



とは言え、それでも普通はなんとかなるものではないんじゃが……先ほどのジャンのゲキビーストに刺激されたか?



「それならボク、納得かも。あむちゃん、恭文から教わった魔力の使い方の練習ちゃんとやってるから」

「そっか。アイツ、魔法使いの勉強もズンズンなんだな」





確かに先ほど見せてもらった突きや蹴りもにわかではない。特に関節技が凄かったのぅ。

なんでも師に『関節技は格闘技の花』と言う事でかなり重点的に教わっていたとか。

そうやって日々努力し、高みを目指し学び変わろうとする気持ちがあの子の中にある。



その積み重ねが今、あの子の中の獣を呼び起こそうとしているやも知れん。



ふむ……これはかなりの逸材かも知れんのぅ。それに可愛いしのぅ。





「よーし、あむちゃんそのまま」

「ちびラン、ダメだ」



ジャンがそう言ってあの子のしゅごキャラのちびランちゃんを優しく両手で押さえる。



「あむの邪魔するから、今はシーだぞ?」

「ふがふがー」





この調子なら本当に日々の修行を怠らなければ獣拳をマスターするやも知れんのぅ。

だから今は温かく見守る事にしよう。この子が自分の中から答えを探しているなら、それを見守る事も修行じゃよ。

もちろん集中するあむちゃんを声を出して応援しようとしていたちびランちゃんは押さえつつじゃ。



ジャンー、そこはしっかり頼むぞいー。空気を読む事もまた修行じゃー。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



平和且つ幸せを満喫しているであろう向こうはともかく、ミッドはもう大荒れだよ。

あのね、ヴェートルの方がとんでもない爆弾投げて来たんだよ。それで私らもお昼のラーメン噴いたし。

……維新組総大将のレイカ・ミドウとEMPのカイドウ市長が、あの事件の真実をバラしたんだ。



ようするに親和力以外の事――アイアンサイズを主に誰が対処していて誰が止めたのかとかだね。

なんかここ最近の事件で向こうさんは相当切れてるらしくて、管理局をその暴露で殴りに来たんだよ。

だからこその大荒れだ。特に問題とされているのは現機動六課の隊長陣達だよ。



高町教導官が最終局面でEMP分署に砲撃ぶっ放した事も暴露されてるから、余計になんだよねぇ。

あとは事件関係者にこの事を主導で口止めしてたリンディ・ハラオウン元提督もだ。

これら全て含めて、『奇跡の部隊』と持て囃された機動六課は凄い勢いで疑いの目を向けられてる。



てーかレイカ・ミドウがマスコミに言い放った『どうせ連中、1年前と同じように誰かから手柄奪ったんやろ』ってのがあるからなぁ。

ようするに今回の事件も、本当は別の誰かが解決していてそれを……って憶測が広まってるのよ。

当然局は正式に『そのような事実はない』と即行でコメントした。ここはヴェートルのあれこれも含めてだね。



あの事件を解決したのはフェイト・T・ハラオウンや八神はやてであり、公式発表通りってさ。

そうしたら向こうさん、極々普通にそんなみんなが何もしていない証拠を出して来たんだよ。それも即日。

具体的にはその問題の局員達はアイアンサイズとの交戦記録が一切ないと言ってきた。



特にほれ、維新組はアイアンサイズ対策で奔走してたし屯所襲撃されてるでしょ? だから余計にだよ。

アイアンサイズが止められた時、局のエース同士で結界の中と言えど街中で戦った事とかも含めてね。

でも悪魔の証明の話にもあるように、『ある』と証明するのは容易く『ない』と証明する事は本当に難しい。



だから向こうは証拠を出すと同時に、臆面もなくそう言い切った局を挑発してきた。

『こちらで記録していないだけで、交戦記録があるかも知れない。それがあるなら見せて欲しい』……ってね。

それがもしあって本当に確かなものであるなら、非礼を詫びるって言い切ったんだよ。



でも当然そんなものあるわけがない。だってあの事件で隊長陣は誰もアイアンサイズと交戦してないから。

そこはリインちゃんも同じく。アイアンサイズの能力を警戒して、最後の最後まで直接戦ったりはしてない。

やっさんは当然局員じゃないし、GPOと共にアイアンサイズを止めた英雄だと言われているから除外される。



そして証拠を捏造した場合どうなるかは……うん、無理だよね。あんな不祥事やった上に最近のあれこれだ。

それで証拠捏造なんてしてみなよ。局は完全に市民達から信頼されなくなっちゃうよ。

もうここまでフルボッコだから、当然私とサリが所属する特殊車両開発部も大荒れ。局長も頭抱えてる。



今まで持ち上げてた奇跡の部隊がとんだトンビ集団と分かったら、そりゃあなぁ。



なので局長とサリと私と三人で、本局の会議室で緊急会議なんてしちゃうわけですよ。





「……クロスフォード、エグザ、お前達……これは事実か」



銀髪オールバックで口ひげなんて生やした秋元羊介さんボイスな局長は、もう涙目。

てーかそれを私らに聞くってなんですか。まるで私らが関わったみたいに。



「お前達、絶対関わってるだろ。現にあの時もまた勝手に失踪して、帰って来たら包帯だらけと来たもんだ。
本当にお前達は……毎度毎度思うが引退組って自覚ないだろっ! フォローをする俺の身にもなれっ!」

≪……姉御、見抜かれてるぜ≫

「みたいだね。でも局長、地の文読まないでもらえる? それちょっと怖いんで」



あと泣かないでくださいよ。私ら別に悪い事はしてませんから。ちょっと昔馴染みと命がけの限界バトルしただけで。



「まぁ仮に俺らがあの件に関わったとしましょう。その上で言うなら……正解ですよ」

「てーか局のエースと言えど、あのチート共に対応出来るわけないでしょ?
現にヴェートル中央本部に居たオーバーSが返り討ちにあってるんだし」

≪そして件の維新組は屯所に襲撃を受けて、対抗する力を失っていました。
EMPDのスタッフでも力不足ですし……六課隊長陣がダメなら、残るは≫

「GPOと蒼凪しか居ないというわけか。なら」



局長は頭を抱えて、身体を震わせながら机に突っ伏した。



「本当にどうすればいいんだっ!? 俺の老後の計画のあれこれはっ! 家のローンはどうなるっ!
田舎に引っ込んでフラダンス習ったりあんなお店で綺麗なお姉さんと遊ぶ夢の計画はっ!」

「……早期退職をお勧めしますよ。もう本当にこれはどうしようもないと思います」

「だよねぇ。いや、そこはホントそうした方がいいって。退職金もらえるうちが花だしさ」





シャレじゃなくそういう状況になってきてるのが怖いよ。もう管理局はどこからも信用されないだろうね。

あのね、うちのパパンとママンも聞いたんだけどクロスフォード財団もスポンサー降りるかも知れないそうなのよ。

普通こういう状況だからこそ、手回しして金払いがよくなるようにスポンサーの傀儡にしようとかって考えるのにね。



あ、これは過去に起きた民間会社の実例だね。でも管理局はそれに適応されないらしい。

だってみんなスポンサー降りて局と縁を切ろうとしてるの、クロスフォード財団だけの話じゃないし。

むしろGPOの方に金をかけようとしてる輩も居るとか。つまりまぁ、アレなんだよね。



管理局はそういう傀儡にする価値すらない組織と思われてしまったんだよ。

なによりそういう形にしたって、中の人間がここまで問題を起こし続けてたらスポンサーのイメージにも関わる。

そりゃあ縁を切りたくなってもしょうがないって。上層部は今てんやわんやだろうね。





「局長、お疲れ様」



だからこそ、局長はそのてんやわんやに巻き込まれる前に早期退職するべきだと思う。私は笑顔で局長を見送る事にした。



「あとは私が局長やるんで安心してよ。いや、これで特殊車両開発部の未来は明るいねぇ」

≪WHY!?≫

「出来るわけないだろっ! しかもお前に任せるっ!? バカを抜かすなっ!
お前みたいなちゃらんぽらんに務まるような仕事なら、俺は女房に泣かれた事などないわっ!」

「それどういう意味っ!? てーか年功序列守るなら私しか居ない……サリも力強く局長に頷いてんじゃないよっ!」

≪……特殊車両開発部の未来は暗いな≫





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヤバい。いや、ほんまにコレヤバいって。シルビィさん帰った直後にコレってないから。

てーかあの後ご飯食べつつニュース見てる時にトンカツ噴いてもうたし。なので部隊長室で全員揃って会議です。

もうマジ頭痛い。でもうちらに言う権利はないわ。ヴェートルの人達が怒るんも分かるし。



……うん、怒ってるんよ。あの人達、恭文の話やと管理局に歩みよってくれようとしてたんやから。

でもそれもパーになったのかも知れん。恭文やフェイトちゃんが頑張って伝えてくれた事は壊れたかも知れん。

うちらは『異星人』同士やのうて、同じ世界に住む同じ人間同士なんやって……マジ、辛いわ。



ここに来て今までの積み重ねが一気に吹き出して暴走してもうてる。局は予言通り、潰れるかも知れん。





「で、早速やけど……うちらはこの件で一切反論は出来んで?」

「知ってるよ、そんなもん。てーかこれで出来る奴なんて居るわけねぇし」

「特になのは、お前はそうだな」

「うぅ、否定出来ません。私分署に砲撃……そう言えば」



なのはちゃんがいきなり首を傾げ始めた。



「あのね、私あの後その事でも処罰されるかと思ってたの。でもそういうのなかったでしょ?
あくまでも私が謹慎を食らったりしたのは、仕事放り出してカラバに行った事だけ」

「改めて疑問に思うたって感じか」

「うん。もしかしてその、GPOの事が隠されちゃった事が原因で」

「もしかしなくてもそうやろうな。もう今回の件でそこは明白や」





てーかエース・オブ・エースが外部組織に砲撃はスキャンダルやもん。

言うならあれよ? JS事件中に聖王教会にアンタがSLBぶっ放すのと同じレベルやもん。

しかも親和力の事は言えんから、当然これはなのはちゃんの意志でって事になる。



いや、そのなのはちゃんの行動かて元はリンディさんの命令や。ここも同様に言い訳が立たん。

GPOから手柄奪った事やその直後にGPOがヴェートルから撤退した事も含めて、こりゃ言いわけ出来んやろ。

特に手柄と撤退の件はなぁ。仮に親和力の事バラしたとしても、この件はそれが解決した後の事やし。





「ほんまどうしようかぁ。クロノ君からもな、場合によっては公式コメントが必要やって言われてて」

「でもはやてちゃん、その……私達は管理局員だよ? 上がそれを当然とするなら従わないわけには」

「そうなるんよなぁ」





なお、ここで言う『上』はクロノ君より上の人間なのは留意して欲しい。なおリンディさんはもう六課とは部外者やから問題ない。



ミゼット提督達はともかくとして、外部から横槍入るのが安易に想像出来てうちらは表情を苦くしてまう。



それくらいに現状は悪いんよ。ここでうちらが無駄に名前売れてしまっている事が騒ぎを大きくする要因になってる。





「それに部隊員のみんなの進路の事もある。私達は隊長として……胸を張るべきじゃないかな。
もう言い切るんだよ。私達はちゃんと事件に対処した。全部ヴェートルの人達のでっち上げだって」

「なのは、お前……ざけんなよ。大体の話は知ってんだろ?」

「でもそのためにスバル達に迷惑をかけていいのかな。だったら当然って顔するべきだよ」





ヴィータは不満そうやけど、うちはなのはちゃんの言いたい事も分かる。

うちらだけの問題やないから、少し慎重になった方がえぇとも言うてるんよ。

例えばこの事を上から『黙れ』言われたのに肯定したとするやろ?



そうなったらスバル達の進路に差し支える可能性もあるんよ。理由はうちらの部下やからや。



それが交換条件になると言うてもえぇ。だからなのはちゃんかて……でもそれはないわ。





「まずなのはちゃんの言いたい事は分かった。ただそれやっても先はないよ」

「どうしてかな。言い方は悪いけど管理局の方がGPOやヴェートルより規模は広い。
それにやっぱりスバル達の事だよ。こうなったらもう嘘を突き通すしかないんじゃ」

「まずアンタの砲撃。アンタは局員としてあそこ乗り込んだんやし、そこを知っとる人間もかなり居るやろ」



なのはちゃんが固まったのは、あのおかしい自分を思い出したせいかも知れん。でもうちは話をやめん。



「それだけやのうてあの分署は陸の孤島みたいなとこにあったわけやないから、目撃者かて相当居る」

「そういうのを第三者が立証しようと思えば出来るって事かな。……あ、でもはやてちゃん達は?
特にフェイトちゃんはGPOとずっと一緒に居たんだし、それで向こうの言い分を証明する事は難しいよ」

「うん、難しいな。でもヴェートルの反論を忘れたらアカンよ。向こうは『こちらに非があるなら謝る』言うてるんや。
単なる言いがかりとちゃう。それは管理局がちゃんとした証拠を提示すれば納得するって事や」



無茶な要求をしとるわけでもない。ただ真実を公にしたいだけ。そしてマトモな方法で交渉しとる。

……傍目だけな。実際は相当にこっちが不利になる話にしとる。あの市長、マジ性格悪いわ。



「つまりその、例えばフェイトちゃんとはやてちゃん達が実際に対処した事を証明するのは」

「こらこら、証明するんはそこだけちゃうよ。そこだけ解決しても意味ないんや」

「え?」

「この話のキモはいくつかあるけど……まず相手方がうちらが実際に対処してない事を証明するのは難しい」



うん、難しいんよ。悪魔の証明の話やないけど、EMP側が何も知らないだけという可能性もあるからな。

そこは向こうも承知しとる。そやからこそ、それを簡単に証明出来る人間にその話を振った。



「そやから『自分達が知らないだけかも知れない』とその難しさを認めた上で、こちらにそれを求めた。
そうしたら話は簡単よ。こっちはうちとフェイトちゃん達が対処した言う証拠を見せるだけで話が終わる」



なのはちゃんもさすがに分かって来たらしく、表情が驚いたものに変わってきた。



「そして向こうさんは、こっちに自分達の発言がただの間違いだと否定する事――そう証明される事も求めてきてる。
これはこっちを潰したいどうこうやのうて、『遺恨を残さんためにハッキリさせましょ』いう話なんよ。ここを解決せんと」

「また同じ事が……ちょっと待ってっ! もう完全な丸投げだよねっ!? それズルくないかなっ!」

「ズルくないよ。うん、何一つズルくない。てーかそれが道理やろ。
うちらが自分の言うてる事正しいって証明するなら、どっちも必須や」



この段階に来るまで局は言い切ってたんやから、当然誰もかれもこちらにそれがあると思うわ。うちかて相手方の立場なら思う。



「そこはヴェートル側だけでなく、市民も同じでしょうね。ですが局はそこからコメントを控えてしまっている」

「だから余計に疑いの目が強くなるんだよな。簡単に終わる話なのに引きずるのはおかしいーってさ。
証拠だったら簡単に出せるはずだぞ。例えばバルディッシュやアイゼン達に記録された戦闘映像とか」

「なら……あ、GPO! GPOはあの場に居たんだからそれで協力してもらおうよっ!
今回の事は全然違うってっ! スバル達を守るためにもなんとかしてもらって」

「ダメに決まってんだろ。アタシらがそれやったら、マジで恭文に殺されかねないぞ」



なのはちゃんは真剣にそう言い切ったヴィータを信じられないと言いたげに見るけど、ヴィータはそれでも頷いた。



「てーかGPOの人間の証言は意味がねぇよ」

「どうしてっ!? だってGPOは当事者なのにっ!」

「いいか、この証明は局そのものに求められているものだ。なにより忘れたのかよ。
EMPも局から口止めされてたって話になってんだぞ。GPOも当然同じくだ」

「……あ、そっか。それでGPOが否定しても」

「当然疑いは消えない。いや、むしろ強まるだろうな。改めて圧力かけたんじゃないかーってな」





もしこの話にズルいところがあるとしたら、相手方がうちらの黒いとこを知った上で話を振った事だけや。

そうや、『ない』ものを『ある』と証明するのは難しい。向こうとベクトルは違う悪魔の証明をうちらは迫られてる。

証明するべき要素はさっきも言うたように二つ。まずうちらの言うてる事が正しいものだと証明する。



そして二つ目は、向こうの言い分がただの勘違いである事を証明する事。でもそれらは無理や。

まずうちらが対処した事実は『ない』。でもGPOと恭文が戦って対処した事実は『ある』。

そしてその目撃者も『ある』。でもうちらが実際に交戦した記録や目撃証言は全く『ない』。



次に局がEMPに対して口止めした事実は『ある』やろうな。ここには向こうさんの協力が不可欠や。

でもうちらにはそれを嘘だと証明する手立てが『ない』。向こうさんかてその時の記録くらい取ってるやろうし。

それと問題はまだある。確かに局が現状に対処しようとした事実は『ある』んよ。それはHa7や。



クロノ君がユーノ君に内密に頼んで、現場の恭文の情報も合わせてようやく見つけたアイアンサイズに対しての切り札。

魔法全盛なこの社会に置いて驚異以外のなにものでもない悪魔を排除出来る聖なる力。でも、この話は表に出せん。

その原因は親和力で操られたリンディさんがその切り札を自分の権力を使って排除した事や。その事実が『ある』。



さて、現状でこの話を出したらどうなるやろうか。当然話はHa7が現場で使われたのかという話になるな。

ではこれを『使った』と言ったとすると、それで話は済むやろうか。当然ながらノーに決まってる。

絶対にそれを使ってアイアンサイズを止めたという事実を証明する必要が出てくるわ。それが出来ないなら……もう分かるな?



局はなぜそれを使わなかったのかという疑問に答える必要が出てくる。結果リンディさんの暴走を話す必要もある。

親和力の事は当然話せんから、周囲はリンディさんの暴走の結果だけを見る。それがまた批難対象になる。

だって凶悪な犯罪者を止めるためのものを局の人間が圧力かけて破棄させたんよ? 完全にテロリストの仲間やんか。



そこでなんで事件後1年も普通に仕事が出来たのかって疑問も出てくるし……この話を出すのはリスクが高い。

そやからHa7の話は絶対に出せんのよ。その存在そのものを『ない』ものにするしかない。

つまりよ、うちら局にとって不利な『ある・ない』ばかりが積み重なってるんよ。まぁ当然やけど。



でも向こうさんは『これが事実』やと声をあげるんやのうて、その真逆の答えをうちらに求めてきた。

うちらに全ての答えを真逆にした上でみんなが納得する証拠を出せって脅迫しとるんよ。

それも本当に至極当然な形で、傍から見る分には問題ないようにや。……向こうの方がずっと上手や。



この話をバラされた時から勝敗は決まってた。うちらが肝心な部分を『ある』と証明出来ない時点でな。

向こうさんはあくまでもうちらを断罪するためではなく、疑問を解くための融和の姿勢を貫き通すやろ。

その場合、どちらが黒く醜い存在に見えるかはもう言うまでもないと思う。てーかこれで局が綺麗に見えたら奇跡や。



そして当然事実の捏造も出来ん。ここまで局の評判が悪くなってるのに、そんなリスクを背負うような事出来んわ。



ボロが出る可能性だって高いよ? 全員がそこを考えてヴェートルも市民も徹底的に疑ってくるやろうからな。





「つまりこの場合、上がどう言おうと私達が取れる手は」



なのはちゃんも経緯はともかく、きっと結論は最初から分かってた。

それでも困り顔なのが辛くなりつつも、うちは頷く。



「全部認めるしかない。ここで下手に胸張ったら、今度こそ機動六課は終わる」

「なら……上からのフォローは? やっぱり私達だけで勝手はダメだよ。スバル達の事だってあるのに」

「ないやろうな。上かていい加減分かってるやろ。フォローしたらするだけ墓穴掘る事になるってな」



この状況でそれでなんとかなる思うとるんは、現在絶賛暴走中なリンディさんみたいな人だけよ。

それこそマスコミ関係弾圧するくらいの事せんと意味ないって。ほんま……あー、頭痛い。



「まぁここはクロノ君とも相談の上で慎重に決めようか。
なのはちゃんの言うように部隊員達の事もあるしな」

「……うん」





でも、もう遅いかも知れんな。うちらは自業自得とは言え、現在進行形でガタガタや。



しかも後見人の一人やったリンディさんがアレやし、部隊員達の進路……ヤバい。これはマジでヤバい。



なんとかしてみんなの進路だけはちゃんと保証せんと、うちらはあの時犯した罪にみんなを巻き込む事になる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今までとは違うザワザワというかゾクゾク……あ、やっぱりうつっちゃってるな。

とにかくそんな感覚をちょっとだけ掴めたその日の夜、あたしとハナさんはデンライナーに戻る時間になった。

なんだかんだで集中してかなり遅くなっちゃったし、早めに帰ろうと思いつつスクラッチ本社を出る。



それで前の道路まであたし達を見送ってくれたジャンさんとシャーフーさんに改めてお礼。





「あのジャンさん……シャーフーさんも、本当にありがとうございました」

「構わんぞ。ワシも面白い話が聞けて楽しかったしのぅ」

「オレもだ。あむ、昼間も言ったけどまたいつでも来てくれていいからな。それで」



ジャンさんは少ししゃがんであたしの頭を右手で撫でてから、ガッツポーズを取る。



「鍛えたお前のズンズン、オレやネコ達に見せてくれ」

「はい」



あたしも笑顔で同じようにガッツポーズを取った。



「あたしのアツアツでジュワーンなズンズン、もっともっと鍛えていきます。……日々高みを目指し」

「学び、変わる。忘れるなよー?」

「はい……って、頭くしゃくしゃだめー! 髪型崩れるからー!」



それでも笑顔のジャンさんの手が離れて、あたしは少し寂しくなった。

それでもちゃんと、あたしはお別れの挨拶をする事にする。



「それじゃあジャンさん、また」

「あぁ、またな」

「いつでも歓迎するからのー」



シャーフーさんのトライアングルの音を合図に、あたしは二人に背を向ける。それでも手を振り続ける。

二人はあたし達が曲がり角に入るまで、ずっと手を振ってくれてた。



「あむちゃん、お疲れ様」

「いえ……あ、ごめんなさい。なんか凄い付き合わせちゃって」

「あー、いいからいいから。てゆうか」



ハナさんが足を止めて、両手を腰だめに構える。



「私もちょっと勉強させてもらったし」

「へ?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



突然あがった叫びを合図に白い湯気がハナさんの身体から……って、これまさかっ!



「ま、まさかハナさん」

「それはぁ……!」



ミキとスゥが驚いている間に、白い湯気は半透明で大きい白と黒のパンダになった。



『嘘ぉっ!』



そのパンダはすぐに消えちゃったけど、あたしとラン達はもう開いた口が塞がらないというか……いや、ありえないしっ!

だってこれ、激気だよねっ!? しかも今のゲキビーストだしっ! なに普通に出してるのかなっ!



「いや、なんでもやってみるものね。あむちゃんの邪魔にならないとこでやってみたら出来ちゃったわ」

「出来ちゃったって……いつの間にっ!」

「ホントだよっ! ボク達も気づかなかったのにっ!」

「これでモモ達がバカな事しても、今まで以上にあっさり止められるわね。……よし」



ガッツポーズを取ってから、楽し気に鼻歌なんてうたい出しつつ歩いて行くハナさんを見てあたし達は半笑い。

てゆうか、激気を覚えても使い道そこって……ハナさんらしいというかなんというか。



「あむちゃん、どうしたの?」

「あー、なんでもないですっ! 今行きますんでっ!」





足を止めてこちらに振り返ってたハナさんを追いかけてあたし達は足を進める。

それでまた一緒に並んで歩く。空を見上げると、都心の中なのに星が綺麗に見えた。

……『日々高みを目指し、学び変わる』かぁ。今のあたしに絶対必要なものだよね。



最近のゴタゴタでちょっとだけ忘れてた基本を取り戻せたのは、もちろんあの人達のおかげ。

それで獣拳の訓練は家に戻る事になっても続けて、必ず近いうちにお礼に行こうっと。

その時はお菓子とか作って持って行こうかな。あ、でもネコってお菓子……まぁ大丈夫か。



あたしはまたこの世界に来れて本当に良かったと思いながら、星空を見上げてズンズン歩いてく。



今日見つけたアツアツでジュワーンでワキワキな事を胸の中に大事に抱えて、あたしはあたしの道を進む。





「……あれ」



ハナさんが足を止めたのが分かった。なので自然とあたしも足を止めてハナさんを見下ろす。



「どうしました?」

「いや、アレ」



ハナさんが右手で前を指差すと、そこには……あ、恭文と良太郎さんだ。てーかカルノも居る。

あたし達は顔を見合わせてから、何かを探すように周囲を見渡す二人に近づいて声をかける。




「恭文っ!」

「良太郎っ!」



二人はあたしの方に気づいて、こちらを向いて驚いた顔をした。てゆうか恭文の腕の中のカルノも同じく。



「ハナさん、それにあむちゃんも……あ、お出かけしてたんだっけ」

「うん。てゆうか、二人ともどうしたの?」

「そうじゃんそうじゃん。恭文も今日は一日デンライナーでのんびりするって言ってたのに」

「……イマジンが出たっぽいのよ」



恭文が困ったようにそう言うと、カルノが一鳴きした。あー、これは翻訳が無くても分かる。きっと『そうだよー』とかだね。



「……カルノの奴、『お腹空いたー』って言ってるな。コイツの胃袋は底なしか」

「えぇ。先ほど大盛りお子様ランチを平らげたばかりだと言うのに」



全然違ったしっ! てゆうかさっきそれって……食い気張り過ぎじゃんっ!

あとヒカリ、アンタが言う権利ないっ! アンタ基本的にいっつも食ってばっかりだしっ!



「モモタロスが匂いを嗅ぎつけて、それで僕も念のためにって事で」

「そうだったんですか。なら……ハナさん」

「えぇ。二人とも、私達も探すの手伝うわ。あむちゃんは」

「あたしも行きます。てゆうか、放っておけないし」





きっとイマジンが出てきたら、恭文だって戦う。言い訳はいくらでも出来るのに突っ込む。

それで……あぁ、そっか。あたしが変わりたいって思う理由の一つは恭文なのかも。

恭文が戦って傷ついて……それでも諦められない自分を続けたいって思うなら、その背中を押したい。



でもコイツ、マジでどんどん進んじゃうからあたしもそれなりに強くなくちゃだめなんだ。



恭文を見ながらあたしは自然とズンズンでありたい理由を感じ取ってた。





「……あむ、どうしたのよ」

「へ?」

「なんかこう……雰囲気が違うというかなんというか。スクラッチで獣拳見学してた時に何かあった?」



恭文が怪訝そうな顔をするので、あたしはそんなアイツをからかうように笑った。



「あったよ。アンタを見習ってちょっとアバンチュールしてたし」

「はぁっ!?」

「ほらほら、とっととイマジン探すよ。というか、モモ達は?」

「あー、フェイトと別口で捜索……って、ちょっと待てっ!
アバンチュールってなんですかっ!? 見学してたんじゃないんかいっ!」





あたしは何も答えずに、笑ってまた足を進めていく。……ちょっとはヤキモチ焼いてくれるかな。



それならマジ嬉しいかな。あたしだってアンタの事、めちゃくちゃ独り占めにしたいしさ。





(第19話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、2011年4月の17日の16時頃に380万Hit発生。
……いや、ごめんなさいね? EPISODE YELLOW話やろうと思ってたんだけど」

シルビィ「よく考えたらあむちゃんの今後の扱いをスルーしてたので、そこも絡めて話を描く必要があると気づいたわけです。
そんなわけでもうネタ振りしちゃったから次回はEPISODE YELLOW編突入。今回のあとがきのお相手はシルビア・ニムロッドと」

恭文「蒼凪恭文です。……というわけで、ゴーカイジャー的にゲキレンジャーなジャンさんとシャーフーさんが登場です」

シルビィ「でもあむちゃんが獣拳……ヤスフミ、これって設定とかって」

恭文「ぶっちゃけ未定だね。てゆうか、今後あむがこの話に出るかどうかも決まってない」



(現状だとあそこに残る事そのものがアウトだしなぁ。どんな形であれ一時的に退場は考えてます。
てゆうか、このままあそこで話進むようならもうそうするしかないと言った方が正解。だってまだ中学生だし)



恭文「僕みたいに学校通ってなかったとかそういうのじゃないしね。
それに親御さんも多少なりとも僕を信頼して預けてくれたわけだし」

シルビィ「だから……と。うーん、でも寂しいわよね。あむちゃんあってのこの話でもあるし」

恭文「うん、だって主役の僕より人気ある感じだしね。人気投票でいっつもトップ3入りだしね」



(何気に蒼い古き鉄、驚異を感じているらしい)



シルビィ「でもヤスフミ、あむちゃんにもうちょっと構ってあげたら? ほら、本編でも」

恭文「本編でそれやるのダメでしょうがっ! てーか構うとしたら僕じゃなくてあのバカだってっ!」



(『……なんだ、呼んだか?』)



恭文「でも獣拳……いいなー。僕もやりたいなー。それでスーパーゲキレンジャーになれば空飛べるしー」

シルビィ「ヤスフミ、あなた……いえ、なんでもないわ。あなただったらきっと出来ちゃうのよね」



(蒼い古き鉄、そういう事に関しては才能以上に情熱が凄い。ただそれでもハナには叶わない)



恭文「とにかくあむの今後の扱いも考えつつ、次回こそはいよいよアイツが登場です」

シルビィ「ミッドの方はそれとして、あむちゃんのお話はちゃんとやったから後は……どうする?」

恭文「とりあえず次の話を考えてからだね。それでは本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

シルビィ「シルビア・ニムロッドでした。それではみなさん、SEE YOU AGAIN♪」





(でも今後どうしようかなぁ。このままだとマジでShinkengerやるしかないけど。
本日のED:谷本貴義『獣拳戦隊ゲキレンジャー』)










あむ「……ねぇ、あたししばらく退場ってマジ? ほら、マジでラブラブとかしてないし」

恭文「……添い寝くらいは頑張りますのでそれで許してください」

あむ「まぁしょうがないか。うん、それくらいならいいよ。あんま過激な事してもパパとママ達驚かせちゃうし」

恭文「一体何するつもりですかっ!? お願いだからおのれも自分の年齢を鑑みてー!」

りま「そうよあむ、あなたは引っ込んでなさい。恭文は私というろりきょぬーがお気に入りなんだから」

恭文「おのれも引っ込めっ! てーか年齢を鑑みてもらえますかっ!?」





(おしまい)





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