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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第6話 『彼女なりの、『これから』の理由』(加筆修正版)



・・・・・・僕がここ、機動六課に来てもう二週間が経とうとしていた。

季節は11月へと突入して、ミッドの暦の上ではもう冬である。

その間僕は、ロングアーチの仕事の方をきちんとこなす。だって、お仕事だし。





既に日課となったお昼寝などもこなしつつ、平穏に日常を過ごしていた。、疲労の方も解消されていってる。

なので、この調子ならすぐによくなるとのこと。・・・・・・もちろん、ここには条件が付く。絶対に無理や無茶はしないというのが、それ。

・・・・・・しませんよ。ばらされたくないし、シャマルさんに嫌われたくないし。その間にも、ここでは様々な出来事があった。





アルトさんとルキノさんのお茶に付き合って色々とお話したり。

・・・・・・おかげで部隊の色々な事に詳しくなりましたさ。あんま知る必要ないかと思ったのに。

誰が誰を好きとか、誰が誰と仲が良いとか、そういうことを色々とね。





ヴァイスさんや整備員の人達が異常なノリで僕を歓迎してくれたり。

・・・・・・やっぱり、主要メンバーからして女性が多いから、肩身が狭かったらしい。

うん、分かってた。すっごい分かってた。前線メンバーだけで言っても、男エリオだけだもんね。





食事中、リインに生トマトを押し付けようとした。

そうしたら、なのはとフェイトとヴィヴィオに『好き嫌いしたらいけません』と怒られた。

ちくしょお、奴らには優しさがない。是非とも僕を見習って欲しいんですけど?





エリオとキャロに、フェイトとの仲を聞かれた。どうやら、被保護者として色々心配だったらしい。

正直に『姉弟みたいなもんです』という悲しい現状を話したらなぜだか安心された。

その後に『8年片思いだけどね』と言ってワザとらしく落ち込んだら、オロオロと慌て始めた。





・・・・・・ここはいいか。てゆうか、僕はあのちびっ子二人とどう付き合えばいいの?

フェイトにべったりだし、なんかやたら固くて子どもらしくないし、砕けてないしノリ悪いし。

くそ、フェイトの保護児童じゃなかったら遠慮なくさよならコースだぞ。特に、エリオだよエリオ。





フェイトが保護者になった時、フェイトがエリオに怪我させられて、僕は色々と恨み辛みがあるのよ。

エリオの電撃による火傷・・・・・・痕が残らなかったから、問題ないって話じゃないよ。

あー、マジでどうしよう。あんま他所他所しいのも問題だしなぁ。フェイトが気にするのよ。





普通なら、適当に相手するのに。でも、今回はそれが出来ない。

だって、半年常駐なんだもの。フェイトの事どうこうだけじゃないのよ?

適度なコミュニケーションは必要。でも、正直仕事場でベタベタ馴れ合うのもなぁ。





・・・・・・そこはともかく、別の話にしよう。えっと、ティアナに話の流れで『様』付けで呼ぶようにと言われた。

なので、ほんとにみんなの前で大声で『ティアナ様〜♪』と言ったらなぜか逆切れされた。

なぜだろう。僕は悪いことしてないよね? 要望に応えただけだよね? 全く、理不尽な女だよ。





それで、ヴァイス陸曹With整備員の方々が、僕とスバルの模擬戦を賭けにしていた。

シグナムさんに追っかけまわされて、ついでに僕もおっかけまわされて大混乱になった。

なぜだろう。シャーリーも賭けに乗ってて、稼がせてもらったお礼として分け前を頂いただけなのに。





それでヴァイスさん達に、『そういう事なら、事前に教えてください。僕だって乗りたい』と言っただけなのに。

それでシグナムさんに追っかけまわされるんだよ? ありえないよ。しかも、フェイト達もちょっとカンカンだしさ。

『身内を賭けにするなんて』とか言ってたけど、問題ないって。自分に賭けて勝てば、お小遣いガッポガッポなのに。





・・・・・・まぁ、この辺りに関しては、特に語る必要もない普通の出来事だと思うので、割愛することにする。

というわけで、そんな日常を過ごしたところから、今回の話は始まるの。

朝早くに隊舎に来て、なのはを軽くいじめたりした後で仕事をこなしていると、それは突然起きた。





どうやら、神様は本当に意地悪らしい。僕のハードボイルドキャラに色々とご不満があるようだ。










『あー、蒼凪恭文に告ぐ。今すぐ部隊長室に来るように』



ロングアーチのオフィスでぽちぽち書類など打っていると、いきなりこんな感じで呼び出しがかかった。

声は・・・・・・うん、タヌキだ。あの厚顔無恥で恥知らずなところが・・・・・・あれ、同じ意味だね。



『誰がタヌキやっ! そして自分、普通に失礼やなっ!!』



そういう風に思考を感じ取るのがタヌキって言ってるんだよ。



『自分ムカツクなっ!!』

「あの、なんと言いますか。その」

「こう、ついていけないから全体放送と言い争うのはやめない?」



呆れ気味なグリフィスさんとシャーリーがツッコんできた。いや、それならあのタヌキに言ってほしいよ。

僕主導じゃないのよ? ほら、色々とおかしいじゃないのさ。僕、責められる謂れがないし。



『まだ言うかっ!! ・・・・・・そっちがその気なら、仕方ないなぁ。
アンタが持っとたエロい物について語ろうやないか。まず』










その瞬間、僕は走り出した。当然全速力で。なぜかって? 答えは簡単。

想いが今でもこの胸を確かに叩いているから。グレンラガンはすばらしいから。

暇が出来たら、劇場版を見たいから。でも、六課に居たら見れないかなーって思って、ちょっと泣きそう。





そんなわけで・・・・・・あのタヌキ、とりあえずぶっ飛ばしてやるっ!!





僕を誰だと思っていやがるっ! ・・・・・・待ってろよぉぉぉぉぉぉっ!!




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第6話 『彼女なりの、『これから』の理由』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・さて、二人っきりやな。あぁ、ここからロマンスが始まるんやな」

「あぁ、そうだね。というわけでPSPでモンハンしてていいかな? 上位のリオレウスが倒せないのよ」

「やる気ないな自分っ! つか、女の子と二人でいるのにそれは最低やでっ!!」

「だって、フェイトじゃないし」



グサッ!!



「はやて、文句を言うなら今すぐフェイトになってよ。ほら、早く」

「マジで最低な事言ってうちの心を傷つけるのはやめんかっ!? いや、それ以前にその冷めた目はやめんかいっ!!」

「大丈夫、僕ははやてならどんな困難も乗り越えられると信じてるだけだよ?
ほら、局もこういう言い方して、局員に無茶振りするじゃないのさ。何の違いがあるの?」

「アンタ、一度辞書で信頼って言葉の意味を調べた方がえぇなっ! 絶対なんか勘違いしとるわっ!!
そして局のあれこれに関しては全くその通りやなっ! その通り過ぎて、うちなんも反論出来んしっ!!」



・・・・・・コイツ、マジで今のはグサって来たよ? うち、別にアンタに恋愛感情なんて持ってないけど、それでもやで。

そして、恭文はあくびをするな。・・・・・・興味無さげに、うちから目を逸らさんでもらえるかな。うちがなにしたんよ。



「人を思いっ切り荷物持ちにした。てーか、これくらい持てるでしょ」

「うち、か弱い後衛型やから無理やって」

「・・・・・・広範囲の攻撃をカマせる女は、絶対可愛くないと思うんだ」



いやいや、それやったらフェイトちゃんも。



・・・・・・フェイト以外

「何気にフェイトちゃん除くんかいっ! ちょっと恥ずかしげに頬を染めるのはやめてーなっ!!」

「はやて、人は恋をすると、誰だってこうなるんだよ?」

「ならへんよっ! そんなんアンタだけやっ!!」





さて、うちとこの性悪ボーイが一緒にどこにいるかと言うと、時空管理局の本局や。

うちは、もう説明するまでもなく機動六課の部隊長。そして、事件が片付いた後も色々忙しい。

今日も会議のために来たんやけど、恭文もそれについて来てもらった。理由は簡単や。



・・・・・・みんなの努力で完成した詳細な報告書の量が半端じゃなく多くて、無茶苦茶重かったからや。

くぅ、メールでいいやないかっ! なんでペーパーにこだわるんやっ!?

とにかく、うちはこれから会議。書類の方も、ここまで来ればもう大丈夫。





「そやから、恭文の出番は無くなった。というわけで、気ぃつけて帰りや?」

「・・・・・・せーの」

「書類を鈍器代わりに振りかぶるのやめてーなっ! 冗談に決まっとるやろっ!?」



マジ数キロとかあるんよっ!? そんなもんで頭殴られたら、意識持ってかれるっちゅうねんっ!!



「いや、はやてはいつも本気で全力で生きてるでしょ? だからきっと、本当の事だと・・・・・・信じたんだ」

「そうかっ! それはめっちゃ嬉しいんやけど、友達としてそこは疑いを持つ所やとうちは思うんよっ!!
・・・・・・まぁ、会議言うても報告会みたいな感じやし、2時間くらいで終わるんよ」

「それまで、僕は放置プレイなんだね」

「うん、正解や。そやから、それまでうろついて待っててくれるか?」

「りょーかい。・・・・・・じゃあ、僕はお見舞いでも行って来るわ」



お見舞い? ・・・・・・あぁ、あの子か。そういや、丁度本局やし都合えぇんよなぁ。



「確か、そろそろ退院やっけ?」

「そうだよ。結局、今の今まで一度も行けなかったしね。顔だけでも出しておきたいの」

「そっか。なら、会議終わったらメールするから、適当なところで落ち合おうな」

「うん、それじゃあまたね。・・・・・・あ、新しいあだ名思いついた。ややみぎ部隊長なんてどう?」

「唐突過ぎるわボケっ! あと、そんな微妙なネーミングは却下やっ!!」










うちは恭文とアルトアイゼンと別れて、つまんないのは間違いなしな会議スペースへと足を運んだ。





まぁ、しゃあないやろ。これかて部隊長の立派な仕事や。うん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「これに、これ。あと・・・・・・これもください」





本局の購買施設でお土産を買ってから、僕はある人が入院している病室へと向かう。

その人は、3年ほど前に知り合った僕の友達の魔導師。

だけど、JS事件でとても大きな怪我を負って、しばらくは戦ったりなどは出来ない状態になった。



ま、命が有っただけでもめっけもんか。死にかけたんだし。

そうして、その人の病室の前に着く。目の前には、白い引き戸のドア。

まぁ、これが男なら遠慮なくドアをいきなり開けるところ。



・・・・・・なんだけど、女性なのでそうはいかない。なので、いちおうノック。





「あ、はーい」

「宅配便です。見舞いの品持ってきました」

「・・・・・・あ、すみませんけど今は着替え中なので、ちょっと待ってもらえますか?」

「じゃあ問題ないですね。入りまーす」

「ちょっとっ!?」



冗談だから、そんなに声を荒げないでほしい。さすがにやらないから。



「・・・・・・冗談に聞こえなかったよ?」

「気にしないで。それで、実際はどうなの?」

「本当に着替え中。だから、少し待っててもらってもいいかな」

「りょーかい。ドアの前にいるから、済んだら教えて」



・・・・・・見舞いの品を持って、ドアの前で待つこと数分。ようやく、声がかかった。



「お待たせ、もう大丈夫よ」

「なら、失礼するね。・・・・・・ギンガさん」





僕が中に入ると、ベッドの上に居たのは一人の女の子。なお、僕と同い年。

青い水玉模様のパジャマを着ていて、青色のストレートロングヘアーを、紺色のリボンで纏めている。

今はベッドの上に居るから気にならないけど、立つと僕よりも身長が6cmほど違う。



同い年なのに、この差はなんだと泣きたくなる。

そんな目の前に居る女性は、ギンガ・ナカジマさん。スバルのお姉さんになる。

僕とは、はやて経由で知り合った友達で、結構仲良くさせてもらっている。



僕もギンガさんは、出会ったときにちょっと衝突などしたんだけど、同い年ということもあり、話すようになった。

それからはちょくちょく仕事を一緒にやったり、暴れたりなどして、今に至るというわけである。

まぁ、JS事件進行中の時に、行動方針の違いでちょっとやりあっちゃったんだけどさ。



なんとかそれに関しては、修復完了しているのでもーまんたい。





「なぎ君が、また無茶な事ばかりするからでしょ?
あの方達から聞いたけど、犯罪スレスレのところまでやってたそうだし」

「結果よければ全て良しって言うでしょうが。問題ないよ」

≪そうですよ。世の中は奇麗事ばかりでは通り抜けられないんです≫





そしてギンガさん、一つ間違ってる。『犯罪スレスレ』じゃなくて、モロに『犯罪』だよ。

局の重要施設に無断侵入だしね。命が惜しいから、言うつもりはないけど。

それにだよ。そのお陰で事件の根幹、そして詳細は掴めたのだからいいの。



・・・・・・でも、ギンガさんの視線が怖いので話を変えようか。そうだな、やっぱ明るい話でしょ。





「でも、思ったより元気そうで安心した」

「おかげさまでね。それで、今日はどうしたの?」

「お見舞いに決まってるじゃないのさ。僕は書類の海に溺死しかけてたしね。で、これが土産の品」



フルーツの山盛りである。ギンガさんよく食べるから、量は多め。



「ありがとう。でも、わざわざ気を使ってくれなくてもよかったのに」

「いいのよ。僕も食べるから」

≪すみません、ギンガさん。こういう人なんです≫

「大丈夫。知っているもの」



いいじゃん、お腹すいてるんだし。それに、食べ物あった方が話も弾むのよ。



「ギンガさん、果物ナイフとかってある?」

「うん、そこの引き出しに入ってる」



ギンガさんがそう言って指差すのは、ベッドの脇に置いてあるキャスター付きの小さい小物入れ。

で、そこの引き出しを開けると・・・・・・うん、入ってた入ってた。なんでか二本。



「じゃあ、さくっと剥いちゃうから食べていいよ」

「うん。それなら、いただいちゃうね」










そうして僕はリンゴを一個取り出すと、果物ナイフでするすると皮を剥き始めたのだった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



うーん、やっぱりすごいなぁ。なぎ君のナイフ使いというか、包丁使いというか・・・・・・つい見惚れてしまった。





料理得意だもんね。見ていて危なっかしいところもないし、むしろ感心してしまう。





リンゴの赤い皮が、すごい勢いで剥かれていく。それも、薄く、長く。










「あー、うさぎさんとかにしたほうがよかったかな?」

「もう、私子どもじゃないよ?」

「子どもかどうかは関係ないと思うけど。可愛いじゃないのさ、リンゴのウサギさんは」

「・・・・・・確かにね」





なんというか、トボケた所も相変わらずだね。でも・・・・・・うん、なんか落ち着く。

なぎ君と居ると、構えなくて済む。すっごく自然で居られる。

こんな感覚、結構久しぶりだな。事件が進行中の時は、ちょっとだけケンカしちゃったし。



・・・・・・よかった。こうやってまた話せて。今まで通りで居られて。





「そういえば、六課の方はどう?」

「うん、なんとかやってる」

「でも、出来ればスバルとはもうちょっと仲良くしてくれると、嬉しいかな。聞いたよ、模擬戦したって」





あの子からの悔しさ混じりのメールを見た時は、ビックリした。

まさか初日で模擬戦するなんて、思わなかったから。

あの子、相当悔しかったみたい。最後の最後まで本気じゃなかったんだって。



確かに、なぎ君とアルトアイゼンは強いからなぁ。私も、負けの方が多いし。



ただ、当然と言えば当然なんだよね。単純に魔導師歴でも、私より先輩なんだし。





「あー、うん。やった」

「で、散々可愛がってもらったって聞いたけど?」

「可愛がってないよ。・・・・・・てーか、手札引き出されて反省会だったし」

「ふーん、そうなんだ」



話ではそうらしい。カートリッジ入りの鉄輝一閃で、一発KOだったとか。

というか、さすがに手札完全封印は舐め過ぎだって。スバル、それほど弱くないのに。



「あの、ギンガさん? いくら僕でも、初対面でそこまでのことはかませないから」

「・・・・・・アルトアイゼン振り回して、建物まるまる一つ倒壊させたりしたよね?」

「なぜいきなりそんな話っ!?」

「クレイモアを魔力弾バージョンと言えど、全弾腹に撃ち込んだ事もあったよね。
残念ながら私は、そんな人の言う事なんて、信用できません」



・・・・・・ちょっといじめすぎちゃったかな? なぎ君の、リンゴの皮を剥く手が止まっちゃった。



「でも、スバルはなぎ君と友達になれて嬉しかったって言ってたし、良しとする」

「・・・・・・友達宣言した覚え、ないんですけど」

「いいんだよ。友達って言うのは、気づかないうちになってるものらしいし。私達も・・・・・・あれ、なんだか違うね」

「うん、違うね。・・・・・・ほい、出来た」



そんな話をしつつも、あとちょっとだった皮を全て剥いて、なぎ君はパパっとリンゴを何等分かにする。

それを部屋に置いてあった白くて丸いお皿に乗せて、爪楊枝もつけて、私に差し出す。



「あ、ありがと。・・・・・・うん、美味しい」



食べたリンゴは瑞々しく、甘酸っぱさがまだ疲労の残る体に癒しを与えてくれる。

それでついもう一個・・・・・・もう一個と、パクパクと食べてしまう。



「喜んでくれてよかったわ。でもね、お願いだから僕の分は少しでいいの。
少しでいいから、残してくれるかな?」

「だーめ。なぎ君はお見舞いに来てるんだから、我慢しなきゃだめだよ?」

「自分の分も買ってきてるんですけどっ!?」

「あ、大丈夫」



私は胸を張り・・・・・・なぎ君、ツッコまないであげるけど、女の子の胸を直視はダメだよ?

とにかく私は胸をしっかり張り、なぜかちょっとドキドキしつつも、言い切った。



「私なら、これくらい全部食べられるから」

「・・・・・・・うん、そうだね。ごめん、知ってたわ」



知ってたなら問題はないよね。というわけで。



「ナイフ、もう一本あったよね? どんどん剥いて、『二人』で食べちゃおうか」

「そうだね」










でも結局、剥くのがめんどくさくなって、皮付きのままでリンゴも梨もかぶりついちゃったんだけどね。

なぎ君、来てくれてありがとう。・・・・・・私ね、ずっと会いたかったんだよ?

報告書やら始末書ならに埋もれてて、来れないって聞いてたから、少し寂しかった。





その上、六課に出向が決まっちゃったでしょ? だから・・・・・・今、すごく嬉しい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そういえばさ、ギンガさん」



リンゴと梨を食いつくし、ギンガさんとデザートにバナナなんぞ食べながら話は進む。

うん、ちょっと疑問に思ったから聞いてみる。



「退院したあとってどうするの?」

「うん、108部隊に復帰する。と言っても」



ギンガさんは自分の左手を握ったり開いたりしながら、少し辛そうに呟いた。



「しばらくはリハビリだけどね。マリエルさんからも今すぐ魔導師としての復帰は無理だって言われてるし」

「・・・・・・そっか」

「もう、そんな顔しないでよ。大丈夫、すぐになぎ君と模擬戦出来るくらいに回復してみせるから」

「無理はしないでよ? 倒れられても、僕は助けに行けないし」

「・・・・・・うん」



実際、ギンガさんが怪我した時には僕は僕で暴れてたからなぁ。

・・・・・・距離って、意外と色んな障害になるのかもしれない。



「じゃあ、しばらくは捜査専門ってこと?」

「うん。それと平行って形になるんだけど、更生プログラムに参加しようと思ってるの」

「更生プログラム?」





更生プログラムとは、犯罪者が一定のプログラムを受けて、社会復帰を目指すというもの。

と言っても、みんながみんな受けられるわけじゃない。

その時の状況を鑑みて、まだ同情の余地がある人間を対象としていたりする。



てゆうか、更生プログラムは良しとして、誰のプログラムに参加するつもりなんだろう。





「うん。ナンバーズの子達が対象なの」

「・・・・・・え?」



まてまて、今信じられないフレーズが飛び出したぞ?

えっと、ギンガさんが・・・・・・ナンバーズの更生プログラムに参加っ!?



「・・・・・・ギンガさん、本気?」

「本気だよ」





ナンバーズとは、先の事件においてのスカリエッティの咎兵。

変態ドクターの人形となって、アレコレと動いていた戦闘機人の集団を指した呼び名。

そして、機動六課がJS事件で対決した戦闘集団。それが・・・・・・ナンバーズ。



あぁ、それと僕もだね。僕もその内の7女のセッテとちょっと因縁が出来て、やり合った。

なお、その様子は番外編『とある魔導師と古き鉄の戦い』をご覧下さい。

とにかく、連中はJS事件において、スカリエッティの中心戦力として動いていた。



そして、ギンガさんを致傷・拉致したのも、またナンバーズだ。

ぶっちゃけちゃえば、ギンガさんのこの怪我はナンバーズとスカリエッティのせいなのよ。

つまり、ギンガさんとナンバーズというのは、被害者と加害者の関係にあたる。





「あー、ギンガさん。いくつか聞きたいことが出来たんだけど」

「・・・・・・やっぱり、ビックリする?」

「当たり前だよ。こういう言い方したらアレだけど、被害者と加害者の関係だよ? それも、直接的な」



さっきも言ったけど、そのおかげでギンガさんは今の状態。

なんでそれにも関わらず、そんなもんに参加しようとするのか疑問だって。



「別に捕まった連中を、イビってストレス解消とかってわけじゃないんでしょ?」

「もちろんそうだよ」

≪まぁ、察しはつきますが≫

「確かにね」



うん、僕は知ってる。ギンガさんがそうする理由、なんとなく察しが付くのよ。

だからギンガさんは、話し出す。そしてその内容は、ドンピシャで予想通りだった。



「正直ね、複雑って言えば・・・・・・複雑かな。でも、あの子達のリーダーみたいな人が居てね。
その人と色々話をさせてもらったの。それで、必要なんだって思った」

「更生プログラムが?」

「うん。戦うだけの選択肢しか知らない。スカリエッティという家族と世界しか知らない子が大半なの。
なぎ君が戦ったセッテなんて、その代表格だよ。・・・・・・事件後に会いに行ったんでしょ?」

「まぁね。で、聞いた。感情を抑制して、本当に戦機として活動するように調整されてるって」



スカリエッティにとって、ナンバーズは手足であり自身の作品となる生体兵器。

僕が戦ったセッテという女の子は、その中でも最後に生まれた子。それで・・・・・・そういう処置を施したとか。



「だから、まず教えなくちゃいけないと思った。それ以外の行き先を、選択肢を。
戦うだけが、創造主の言う事だけが全部じゃないって、ちゃんと教えなくちゃダメなんだ」

「なるほど。・・・・・・どっか重ねちゃったの?」

「うん」



そっか。無理ないと言えば、無理ないのかな。やっぱ・・・・・・だしなぁ。



「ね、ギンガさん。一つだけ質問」

「なに?」

「もしその『選択肢』を教えて、その上でまたJS事件みたいなこと起こしたら、どうする?」



意地悪な質問だなと、自分でも思う。でもさ、この可能性は多いにあるのよ?

人は、変わろうと思えば変われるって言うけど、そんなの簡単じゃないのよ。



「その時は全力で止める。というか、そうならないように、全力であの子達に教えていく」



・・・・・・・なんの躊躇いもなく答えたよ。このお姉さんは、なんつうか・・・・・・なぁ。

僕、もし自分が同じ目に遭ったら、絶対こんなこと出来ないって。まずぶっ飛ばすところからだって。



「そっか。・・・・・・てゆうか、僕がどうこうは言えないよね」

≪言うつもりだったんですか?≫

「全然」



もちろん状況が状況だし、どうなるか心配だった。

だけど、ギンガさんの選択だもの。僕が口出しするの、めんどい。



「でも、本当に無理だけはしちゃだめだよ? 身体もそうだし、心にも」



もちろん、決意した顔で言い切ったギンガさんなら・・・・・・とは思う。

でもさ、こういうのは理屈じゃないもの。殴られたら痛いし、当然その相手を憎むものだもの。


「・・・うん。でも、大丈夫だよ? 途中でやめたりなんてしない。
関わるって決めたから。最後まで、出来るところまで関わり抜くつもり」



・・・・・・・・・・・・左様ですか。



≪なら、応援していますね。あぁ、それと礼を言う必要はありませんよ。
この人は、ただあなたのフラグを立てようと必死なだけですから≫

「アルト、嘘つくのやめようか?」

「ひどいよなぎ君、私を弄ぶつもりだったの?」

「ギンガさんもノらないでっ!!」



・・・・・・なんていう会話をしながら、あっという間に時間は来てしまった。

そろそろ合流地点に向かわないと、はやてを待たせるしさ。・・・・・・行きますか。



「退院ってもうすぐだよね」

「うん。明日のお昼には」

「そっか。その時は来れないから、今度はまた隊舎とかかな」

「そうだね。なぎ君、スバルのことお願いね。私は・・・・・・こんなだから」



そうだね。その上『こんな』なのに、自分を拉致して傷つけた人間と関わろうとしてるんだもの。

ぶっちゃけ、スバルの事までどうこうする余裕は無いでしょ。むしろ、あったらビックリだ。



「僕を動かすんであれば、代価は高いよ? タダじゃ動きません」

「そうだね。それじゃあ」



ギンガさんは左手の人差し指をピンっと立てると、こう宣言した。



「今度、またなぎ君の好きなお菓子、作ってもっていくから。それなら・・・・・・どう?」

「りょーかい。死なない程度にフォロー入れるよ」

「うん、お願いねなぎ君。それじゃあ、またね」

「うん、またね。ギンガさん」



・・・・・・あぁ、そうだ。一つ言い忘れてた。



「ギンガさん」

「なに?」

「手が届けば、ギンガさんにもフォロー入れるから。
・・・・・・JS事件の時は、出来なかったし」

「・・・・・・うん、ありがと」



そうして、ギンガさんの病室を出た。手を振りながら、笑顔で。

ギンガさんも同じくだったのが、ちょっと嬉しかった。やっぱり、友達だもの。



「さて、はやてはもう会議終わったっていうし、待たせちゃだめだよね」

≪そうですね。行きましょう≫

「うん」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・まだかなぁ」





会議が終わって、うちはまた転送ポートの方へ来たんやけど、恭文に待たされてる最中。

まぁ、ちょっとくらいやったら我慢しようか。恭文はギンガと仲えぇし、色々と話し込んでるんやろ。

それに、ギンガも恭文と会いたがってたしな。マジで連れて来てよかったかも。



・・・・・・アイツは報告書と始末書の海に溺れてたから、今まで無理やったけど。

その上、出向決まって・・・・・・あれ、なんかうちちょっと色々落ち込んで来たんやけど。

なんて思っていると・・・・・・お、来た来た。小走りで走って来とるわ。





「ごめーん、はやてお待たせ〜」

「ほんまや。女の子待たせたらあかんで?」



なんて言いつつも、うちも恭文も、実は笑顔やったりする。

なんちゅうか、もうすっかり慣れてもうた。だって、こいつと居るの楽やし。



「なんや、ギンガと楽しくやっとったんか?」

「ま、それなりにね」

「そっか。まぁ、そこは車の中で話聞かせてもらおうか」



そして、うちらは車で隊舎に戻ることにした。転送ポートで、ミッドの中央本部に転送。

で、そこからパーキングに停めとった六課所有の車に乗り込んで、車道に出る。



「・・・・・・そっか。更生プログラムのこと、聞いたんか」

「うん。正直驚いたけどね」



まぁ、うちも聞いた時はビックリしたけどな。なんと言っても、被害者と加害者の間柄。

どうしても負い目やら優越感やら、そういう下世話な感情が出てくるのが正直なところや。



「そう言えば、ゲンヤさんやラッドさん・・・・・・というか、108部隊で全面的に協力していくんだって?」

「そうなんよ」



三佐達は、スバルとギンガの事もあるから、色々理解あるしなぁ。


「なにか有ったら、ちゃんとストップかけていくでしょ。・・・・・・でも、正直僕は真似出来ない」

「そやな。うちもちょお難しい思うわ。うちら、それほど人格者ちゃうし」

「うん」



まぁ、そこは心配せぇへんでも問題ないわな。ギンガはちゃんとしとるもん。

三佐達108のメンバーも同じくや。うん、問題ないはずや。



「あと」

「なんや?」

「スバルのこと、頼まれた。自分はこんな状態だから、なにかあったら助けてやって欲しいって。
全く、こんな状態だからこそ、自分の事だけ考えてればいいっていうのに」

「そっか」



・・・・・・まぁ、ギンガはスバルには甘いからな。前に出向になった時の様子を見るに、相当やったし。



「僕も『会う機会があるか分からない』って言ったのに、写真無理矢理見せられたりしたことあるし。
それも、満面の笑みで。アレ、一種の脅迫だったよ? 正規の局員として、どうなのよ」

「・・・・・・まぁ、そんなギンガから妹のこと頼まれたんや。しっかりせぇへんといかんで?」

「まぁ、それなりにね。てか、完全に六課に骨を埋めろと?」

「うちとしては、そうしてくれると嬉しいわ。ほら、うち部隊長やし」

「バカ言わないでよ」



呆れたように、恭文が左手で頬杖を突きながら窓の外を見る。あ、運転してるのはうちやから。

で、左側の助手席には恭文。恭文はそうしながら、夕暮れに染まる街並みを見る。



「あと半年足らずで解散の部隊に骨を埋めて居場所にしたら、僕まで解散と同時にお亡くなりだよ?
てゆうか、その辺りもフェイトやなのはも分かって欲しいよ。二人も同じような事言うんだもの」

「あー、やっぱりか。てか、最初の時に言わんかったか? 覚悟はしとけって」

「そうだったね」



まぁ、一応聞いてみようか。きっと必要やし・・・・・・うん。



「恭文、なのはちゃんとフェイトちゃん・・・・・・相当言ってきてるん?」

「相当じゃないよ。ただ、外キャラ外してスバル達とかと仲良くして、仲間になって欲しいって言ってきた。
それも、出向初日と二日目にだよ? あり得ないって。どんだけフレンドリーな生き方してるのよ」

「そっかぁ。・・・・・・それ、相当やて」



いや、言うんやないかなとは思うてたんよ。顔見知り多いし、やりやすい方やろうしな。

でも二人とも、それは早過ぎやて。どんだけ無茶振りしてるんよ。



「・・・・・・あぁ、だめだ。僕のハードボイルドが崩れていく」

「何言うてんの。なんやかんやでヘタレな半熟卵のくせして」

「ヘタレ言うなっ! 僕は立派にシリアスキャラだっつーのっ!!」










・・・・・・シリアスキャラは、書類詰まったバックでうちの後頭部を殴ったりはせぇへんよ。

しかし、居場所かぁ。確かにそうなんよなぁ。いやな、ずっと考えてたんよ。

うちも今は部隊長なんてやっとるけど、基本恭文みたいな通りすがりの捜査官やもん。





そやから、仕事で出向する部隊の中で居場所とかそういうんを作れとか言われても、今ひとつピンと来ん。

なのはちゃんとかフェイトちゃんは、なんやかんやで一処に腰を落ち着けてるからそういう事が言えるんよ。

なのはちゃんは教導隊。で、フェイトちゃんは出張多めやけど次元航行部隊ちゅう、居場所があるからなぁ。





うちかて、コイツの立場やったら戸惑うで? あとちょっとで解散する部隊に、自分の居場所作れなんて。

普通そういう場合は、人間関係とかに力入れ辛いって。最初から居るならまだしも、コイツ途中入隊やし。

うーん、ちょっと釘刺した方がえぇかも知れんな。心配なんは分かるんやけど、その発言だけ聞くとちょお放置出来んわ。





恭文は、六課に何しに来たんや? 仲良しの友達作るためとちゃう。事件を超えて、消耗し切ってるみんなのフォローのために来たんや。

そやから部隊長としては、居場所どうこう部隊員との人間関係どうこうの前に、その仕事通してもらわんと困るんよ。

例え恭文が六課メンバー全員に嫌われて、認められなかったとしても、無事に解散にこぎ着けられればそれで正解。





もちろん、そないな状態で無事って言えるかどうかっちゅう問題が残るけどな。





でも、二人もそこの辺りをもうちょい理解して欲しいわ。もう恭文は、子どもとちゃうんよ?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なぎ君がお見舞いに来てくれた翌日の昼。私は、無事に退院した。

青いワンピースに身を包み、お世話になったドクターや看護士さん達にお礼を言って、病室を出た。

・・・・・・さて、父さんが迎えに来てくれているはずだから、すぐに向かわないと。





そう思っていると、突然呼び止められた。私を呼んだ声の主は、この医療施設の看護士さんだった。










「ナカジマさん。退院おめでとうございます」

「あ、はい。ありがとうございます」

「それでね、たった今あなた宛にコレが届いたの。・・・・・・はい」





そう言って渡されたのは、小さな花束。そこに、1つのカードが入っていた。



白や黄色、そう言った明るい色合いの小さな花たちがセンスよく纏められている。



私はそのカードを左手で取って開ける。すると・・・・・・え?





・・・・・・ギンガさんへ。退院おめでと。
一応ね、迎えとか行きたかったけど仕事もあるし、ギンガさんからの『依頼』もあるから、お祝いの花とカードだけ送らせてもらうわ。
報酬に関してはあるとき払いでいいよ。ただし、絶対に無茶だけはしちゃだめだよ?
ギンガさんにまた何かあったら、あの豆芝がピーピー泣くのは間違いないんだから。

・・・・・・恭文より



・・・・・・なぎ君からのお祝いの品だった。なぎ君、昨日帰った後に用意してくれてたんだ。

本当に、こういうところはちゃんとしてるんだから。ありがとう、なぎ君。



「ふーん、ひょっとして恭文君と付き合ってるんですか?」

「ち、違いますっ! ただの友達ですっ!!」

「そうなんですか? ・・・違ったのか。恭文君にも、ようやく相手が出来たと思ったのに」

「えぇ。・・・・・・え?」



え、ちょっと待とうよ。色々待とうよ。これ、なんだか少しおかしくないかな。



「あの、どうしてなぎ君のこと知っているんですかっ!?」

「あぁ、あの子は本局の医療スタッフの間じゃ伝説の患者になってますから」

「伝説っ!?」





・・・・・・看護士さんは、話してくれた。なぎ君が色々な意味で有名な理由について。

なんでも、8年ほど前に3回の入院生活を送ったのが原因とか。

まず、1回目の入院。ここに意識不明で運び込まれて、目が覚めた途端に人質を取った。



そして、どこかの映画張りの脱出劇を繰り広げて、関係者を完全に振り回したこと。

次に2回目。また意識不明の重体で運び込まれて、関係者を驚かせた。

なぜなら・・・・・・前回の入院から、2ヶ月も経っていないから。



それから怪我を完治させるまでに、約1ヶ月かかった。

ただ、その間にリハビリと称してこっそり抜け出したりしたらしい。

というか、色んな意味で医療関係者泣かせの数々の問題行為を起こす。



止めは3回目。これまた関係者を驚かせた。今回は重体ではなかったの。

でも、前回退院してからこれまた1ヶ月経たずに運び込まれたから。

その上、一緒に入院していたなのはさんと共に3日間の間、これまた医療関係者を振り回した。



・・・・・・なぎ君、そんなことをしてたんだ。

リイン曹長と会ってから、すぐに事件に巻き込まれて、死にかけたっていうのは聞いてた。

だけど、まさかそんなことまで・・・・・あぁ、なんだろうコレ。なんで私、謝りたくなるんだろ。





「でも、決して悪い子じゃないから、スタッフはみんな頭は抱えても決して嫌ったりとかはないんですよねぇ。ほら、それにすっごく可愛いし♪」

「いや、なんというかすみません。本当に」



なんで私謝っているんだろう? 関係者だからなのかな。



「あぁ、大丈夫ですよ。みんな、今度入院したら何起こしてくれるんだろうって、楽しみにしてたりしますし」



楽しみにしちゃダメなんじゃないでしょうかっ! ほら、色々と他の患者さんにもご迷惑ですしっ!!



「でも、アレ以来そういうのはめっきりで、みんなガッカリしてるんですよねぇ。
よく顔は見せてくれるんですけど、なんか寂しくて・・・・・・はぁ」





それはどうなんだろう。なぎ君の行動は確かに面白いけど・・・・・・不安にもなる。

あの勢いのまま、いつか手の届かない所に行っちゃうんじゃないかって、少し思う時がある。

だから、少しは落ち着いて欲しい。例えば、そうだな・・・・・・うん、やっぱり局員だよ。



例えば今みたいなフリーの魔導師じゃなくて、どこかの部隊に所属したりとかしてもらいたい。

なぎ君の力は、私が良く知ってる。友達になってから、よく一緒に居たから余計に。

なぎ君なら、すぐに私なんかより出世出来るし、執務官や教導官みたいな資格が必要な仕事も出来る。



とは言え、あの性格で戦闘に関しては思考が過激。というか、別人格って言うくらいに切り替わる。

目的のためなら、犯罪スレスレの手段でもまったく気にしない。その上・・・・・・なんだよね。

パートナーであるアルトアイゼンも、それを止めない。というか一緒にやる。



それで部隊の中で仕事なんて、無理。というか、なぎ君に合わないのは分かるけど、やっぱり不安。





「でも、本当に違うんですか?」

「そうですね。なぎ君は・・・・・・友達です」

「そうなんですか。・・・・・・まぁ、とにかくよかったですね。
あ、これからリハビリは大変だとは思いますけど、頑張ってください」

「・・・・・・はい、ありがとうございました」










どこか釈然としないものを感じながら、私はその場を後にした。当然、なぎ君からのプレゼントを手に。

そんな私を見て、父さんがどこかニヤニヤしていたのが気になったけど、そこはいい。

とにかく、私はこうして家に戻り、翌日から更生プログラムに参加することになる。





私に出来る事、通せる事、どこまでやれるかは分からないけど・・・・・・やれるところまで、しっかりやっていこう。





腕の中にある花束のいい香りに、鼻と気持ちをくすぐられながらも、心から思った。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そんな過去の暴露がされているとは知らなかった今日この頃。





僕は、のん気にお仕事モード。というか、仕事がようやく終わった。










「うし、今日は早く上がったー!!」

「お疲れ様でした。というか、楽しそうですね」



ロングアーチのオフィスの中、グリフィスさんが僕を微笑ましそうに見ている。

なので、軽くサムズアップして答えたりするのだ。




「そりゃもう。早く上がったって事は、当然のように早く帰れる」



うん、大分早く上がったから、早く帰れる。つまり・・・・・・!!



「レイトショーでさらば電王が見られるっ!!」



というか、今日を逃したら放映のスケジュールが変わって、レイトショーがなくなるのよ。

そうなったら、現時点で何時休みが取れるかも分からないし、見れなくなる。それは困る。



「さぁ、劇場へ行くぞー! グリフィスさん、もう仕事ないですよねっ!?」

「えぇ、大丈夫です。君も頑張ってくれてるおかげで、問題はありません」

「うっしゃー! それじゃあ、行っくぞー!!」



そうして僕は席を立ち、端末の電源を落としてオフィスの外へレッツラゴー!!



「お疲れ様でしたー!!」

「はい、お疲れ様でした」



そして、オフィスのドアが開いた。・・・・・・あれ?

そこに居たのは、スバルとデバイス整備をしていたはずのシャーリーだった。



「あ、恭文。ちょうど良かった。あの、ちょっと付き合って欲しいんだ」

「お断りします」

「断らないでよっ! どうしていきなりそうなるのっ!?」

「それはこっちの台詞じゃボケっ! 僕はこれから映画見に行くのよっ!? 邪魔すんじゃないよっ!!」

「悪いけど、また今度にしてもらえないかな。ちょっとみんなでパーティーするんだ」



そうかそうか、よく分かったよ。シャーリーの言う事は、良く分かった。だから、僕はこう言い放つの。



「お断りします」

「「だから、断らないでよっ!!」」

≪・・・・・・また、このパターンですか?≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それでは、ティアの執務官補佐試験終了と」

「遅くなりましたが、なぎ君とアルトアイゼンが私達の新しい仲間になってくれたことを祝って」

『かんぱーい』



そう言って、みんなでコップを合わせて乾杯する。まー、あれですよ。紙コップだから音はでないけどね。

さて、僕が今何をしているかというと、六課隊舎の談話室で、お菓子とジュースでパーティー。



「・・・・・・乾杯」

「・・・・・・恭文、もっとテンション上げようよ。ほら、映画ならまた見られるんだし」

「そうだねっ! 僕に今すぐ休みをもらえれば見られるかも知れないねっ!!
てゆうか、用事あるって言ったのにこっちに引っ張るってどういうことっ!? 空気を読まんかいボケっ!!」

「そんなに怒らなくてもいいでしょっ!? 映画よりも、仲間とのコミュニケーションの方が大事だってっ!!」





メンバーはシャーリーにアルトさんルキノさん。それにスバル達フォワード四人。

・・・・・・くそ、通りすがりなのに。適当にやってく予定なのに、巻き込まれた。

てゆうか、シャーリーは流石に遠慮したのに、スバルが有無を言わせてくれなかった。



シャーリー、スバルを止めてくれなかったのは恨むよ? 僕が仕事でどういうスタンスを取るか知ってるくせに。

いや、それ以前にさらば電王がー! 見たかったのに・・・・・・見たかったのにー!!

あぁ・・・・・・もういい。ここは言っても仕方ない。どうせ今日は、もう見れないんだ。



だって、今上映始まってるもの。どうやったって無理だよ。てゆうか、もっとツッコむべきところがあるし。





「あのさ、フリード」

「きゅく?」



『きゅく』と、頭の上から声がする。そりゃそうだ。僕の頭に、フリード乗っかってるし。



「そろそろ頭から降りてくれない? ほら、ジュースあげるから」

「きゅくー♪」



僕が差し出したオレンジジュースを、嬉しそうにごくごくと飲むと、満足そうにして一鳴き。



「・・・・・・・・・・・・継続かいコラァァァァァァァァァッ!!」

「きゅくきゅくー♪」



アレかっ! 僕が差し出したジュースは飲むだけ飲んで終了かっ!? なんですかそれっ!!



「まぁまぁ。アレだよ、フリードも、恭文とアルトアイゼンが六課に来てくれて、すっごく楽しいんだよ」

「きゅくー♪」

「嬉しさを表現するのに、頭の上に乗るのかこやつはっ!? くそ、これだから豆芝は使えないっ!!」

「何それっ!? 八つ当たりしないでよっ!!」



八つ当たりじゃなくて、適当な乱射ですけどなにか? てゆうか、おのれは八つ当たりされて当然の人間だよね?



「フリード、今すぐ僕にバーベキューにされるか、刺身にされるか、どっちか選んで」

「や、やめてくださいっ! フリードは悪気は無いんですっ!!」

「キャロ、知ってる? 人の頭に乗る奴は、シャナたんを覗いて・・・・・・もとい、除いて大抵悪意があるのよ」

「シャナたんって誰ですかっ!? ・・・・・・ほらフリード、恭文さんの迷惑だから」

「・・・・・・きゅく」



残念そうに、フリードがようやく頭から降りてくれた。あー、首がきつかった。

・・・・・・やばい、僕なんか馴染まれてるっ! あぁ、ハードボイルドで居たいのにー!!



「・・・・・・シャーリーさん、なぎ君が頭抱え始めたんですけど。というか、さっきからどうしたんですか?」

「なぎ君、ちょっと予定があったのに、スバルに強引にこっちに引っ張ってこられたから、ご機嫌斜めなの」

「そうなんですかっ!? ・・・・・・スバル、ダメだよ。予定があるならあるで、来れないのは仕方ないのに」

「えー、でも予定って一人で映画見に行く事だったんだよ? だったら、みんなと居た方が楽しいって。というか、寂しいよ」



スバル、僕の事もしかしなくても嫌いっ!? 寂しいって言うなっ! 僕は一人で居るのも好きなだけだよっ!!



「あと、なぎ君は基本的に仕事場ではプライベートキャラ見せるの無しにしてるから、そのせいだね」

「そうなんですか?」

「うん。本人的には、色々こだわりがあるみたいなんだ。お仕事の時はずっとハードボイルドで通す・・・・・・とか」



そう、そうなのよ。お仕事用のキャラとかあるわけなのよ。プライベートはプライベートで力抜くけど、違うのよ。



「六課ではそういうの通せなくて、辛いみたいなの」

「うーん、別に私は大丈夫だと思うけどな。てゆうか、ずっとお仕事モードなんてつまらないよ?」

「黙れ豆芝。てーかもう地獄へ落ちろよ」

「なんで私に対してだけそんなキツイのっ!?」



とりあえず、薄塩味のポテチをパクリ。というか、もう一つパクリ。・・・・・・くそ、マジでやりにくい。

シャーリーに強めに視線なんて送って抗議するけど、流しやがるし。とりあえず、別の話して適当に終わろう。



「でも、ティアナすごいね」

「なにがよ。てゆうか、いきなりテンション変わり過ぎ」



ふ、そんなの決まってるじゃないのさ。僕には僕なりの考えがあるのよ。



「主役を誉めてとっとと場を切り抜けようと思ってるからですけど、なにか?」

「何気に失礼よねアンタっ! てーか、もうプライベートキャラ出始めてないっ!?」

「だって自己採点だと、満点に近かったんでしょ? アレ、そこそこ難易度高いのに」

「無視すんじゃないわよっ! アンタ、何気に性格悪いっ!?」



アレというのは、執務官補佐資格の考査試験だよ。

なんとまぁこのお姉さんは、合格どころか見事に満点取ったかも知れないとか。



「あくまでも自己採点だけどね。つか、あんなのちゃんと勉強してれば楽勝よ」

「いやいや、あれは難しいって。現に僕はギリギリだったし」

≪あぁ、そうでしたね。あなたは必死に勉強してギリギリでしたから。
それはもう、ドラマティックなレベルでしたね≫



でしょ? 頭の出来の差かもしれないけど、ほんとにあの時は大変で。



「ちょぉぉぉぉっとまったぁぁぁぁっ!!」

「どうしたんですかアルトさん、そんな力んで」

「いや、あの・・・・・・なぎ君。今なに言った?」



どういうわけか、スバル達とアルトさんが僕をじっと見ている。

・・・・・・あぁ、知らなかったんだ。というか、ミスった。言う必要なかったのに。



「えっとねアルト。なぎ君持ってるんだよ」

≪なにをですか?≫

「アルトアイゼンじゃないからっ! というか、今分かってて返事したでしょっ!?
・・・・・・・・・・・・だから、なぎ君は執務官補佐の資格持ってるんだよ」

『えぇぇぇぇぇぇっ!?』



みんなの叫びが休憩室に木霊した。あー、耳痛い。隣のスバルがやたら大声で叫ぶから、余計にだよ。

とにかく、もう隠す事など出来ない。僕は自分のIDカードをみんなに見せる事にした。



「・・・・・・ホントだ、執務官補佐資格って書いてる。というか、恭文すごいじゃん」

「なぎ君、これ、偽造じゃないよね?」

「そんなわけないでしょうがっ! ちゃんと試験を受けて取ったんですっ!! いや、そもそも偽造する意味あるのっ!?」



アルトさんとスバル達が、興味津々に僕のIDカードを覗く。・・・・・・あんま気分のいい光景でもないけど。



「というか、知らなかったんだね」

「私、てっきり知ってるものだと思ってたよ」

≪まぁ、アレですよ。この人の悲しい歴史の1ページと思ってください≫



そうだね。今のところ全く出番の無い資格だよ。あははは、なんか僕はバカだなぁ。



「どうして?」

「まぁ、ねぇ」

「つか、アンタ執務官志望とかじゃないわよね?」

「うん。局の仕事とか役職なんて、興味ないし」



あっさり言い切ると、何故かみんなが苦い顔をする。・・・・・・どうした?



「恭文、どうして興味ないの? 局員だって、楽しいこと沢山あるよ? 現に、六課はとても楽しい部隊だしさ。
部隊の仲間と一緒に頑張ったり、目標に向かって突き進んだり、その中で自分なりの居場所とか作ったり」

「そうだね。スバルの言うように、部隊は楽しい事があるよね。六課は特にそうだよね。
いきなり模擬戦申込まれたり、ホントにやることになったり、予定あるのに強引にここまで連行されたり」

「う・・・・・・」

「なぎ君、抑えて抑えて。スバルには後で私から言っておくから」



まぁ、アルトさんがそう言うなら納得しよう。スバルが若干涙目なのは、きっと気のせいだ。

・・・・・・もしかしなくてもこの子、空気が致命的に読めない? いやいや、そんなわけがないか。



「僕は通りすがりの嘱託でいいもの。色んな状況で、色んな場所で、旅するみたいに戦う。
そのおかげで、普通に階級付きの局員してたら関われない人達とも関われる」





例えば、局以外で治安維持だったり、警察機構に近い活動をしてる外部組織もあるのよ。

聖王教会って言う組織が、その内の一つだね。他にも、次元世界は広いからいくつかそういうのがある。

そういう組織は、局と協力体制を取って有事の際にはそれに対処する。



普通に局員してるとさ、中々そういうのとは関わる機会ないのよ。

どうしても、自分の部隊の中だけの繋がりになるから。

試しにフェイトやなのはに聞いてみても、そういう人達との繋がりはほとんど無いらしいから。





「それは戦いも同じ。普通にこういう風に部隊に常駐してたら関われないようなのと関わる。
そいつと命のやり取りをする。まぁ、頻繁に起こって欲しくはないけど、それだって貴重な経験だもの」



・・・・・・僕は戦うのは好きだけど、さすがに毎日それは嫌なのよ。でも、そういうのが楽しいとは思ってる。

命を賭けるのも、やり取りするのも心が踊る。ソイツが強くて、マイノリティであればあるほどその価値は増す。



「てゆうか、居場所とか仲間とか、そういうのにこだわるの嫌いだもん」



少しだけ、嘘をつく。居場所はともかく、仲間ってのにこだわってなかったらここには居ないから。

でも、シャーリーやルキノさんはともかく、他は今のところ他人だからこういう風に言う。うん、言うの。



「こだわったら、きっとこういう楽しさはもう得られないだろうしさ。僕、こっちの方が大事なの」

「・・・・・・そっか」



まぁ、みんな納得してくれた様子なのでこれでよし。シャーリーとルキノさん以外が苦い顔なのは、なんでだろう。



「で、そんなアンタがどうして補佐官の資格なんて取ったのよ」

≪そこに触れますか。・・・・・・泣きますよ、この人が≫

「泣かれると困るけど、いいから答えなさい。気になるじゃないのよ」





ちびっ子二人も同じらしいので、説明することにする。・・・・・・話は、4年ほど前に遡る。

フェイトが中学校を卒業する少し前、僕も暇な時は、その仕事を手伝っていた。

だけど、どうしても不満が出てきた。これは、当然といえば当然の理由。



執務官や補佐官の権限がないと、触れない書類というものがあるの。

ちょうど使い魔兼助手であり、補佐官資格も取っていたアルフさんが引退した直後。

それで、フェイトの仕事量も半端じゃなく多かった。でも、僕ではそれを解消できなかった。





「あ、ひょっとしてそれで取ろうと思ったの?」



スバルの言葉に頷いて答える。そう、僕は決意した。頑張って、補佐官資格を取ることにした。



「・・・・・・フェイトに内緒で」

「なんで内緒なのよ」

「いや、ビックリさせたくて」

≪あれですよ、その時にアレコレやりたかったんです≫





とにかく、クロノさんの補佐官でもあったエイミィさんが協力してくれた。

そのおかげで秘密裏に勉強をし、試験を受けて・・・・・・みごと合格した。

まぁ、フリーの魔導師をやめる気はなかったけど。だって、僕は通りすがりがいいんだし。



だけど、フェイトの忙しさが緩和されるまでは付き合う気満々。

それで意気揚揚と、フェイトに合格の報を伝えようと思った。

ところが・・・・・・ある一つの、驚愕の事実を告げられた。





「補佐官、スカウトしたって」

「えぇっ!?」





そう、フェイトはとっくに補佐官をスカウトしていた。

もちろん、そこで苦笑いなんぞしている、僕のオタク友達であるシャーリーだ。

当然といえば当然だけど、当のフェイトがそんな事態を問題に思わないはずはない。



それを解消する手段を打ち立てるのは、当然だった。





「で、でも補佐官は何人も抱えてOKなんだし」



うん、そうなのよ? 執務官によっては、十数人って人数を抱えてる人も居る。

だから、僕が二人目の補佐官になるのも、オーケーだったのよ。



「・・・・・・断られた」



その瞬間、全員が口をつぐんだ。



「・・・・・・え、えっと・・・・・・マジ?」

≪マジです。だから言ったじゃないですか。触れない方がいいって≫





全員が、悲しい何かを見るような目で僕を見始めたのは、気のせいじゃない。



もちろん僕も補佐官は何人居てもいいと言って、仕事を手伝うと話した。



だけど、フェイトに断られた。ちなみに理由としては・・・・・・うぅ、泣きたい。





≪『あの、もちろん手伝ってくれるのはすごく嬉しいよ? それは本当に。
でも、私のことは気にしないで、自分のやりたい事をやって欲しいな』・・・・・・ですね≫

「それ、ガチに100%の気遣いじゃないのよ。
他ならいざ知らず、フェイトさんはあんな人だから絶対気遣いよ?」

≪奇遇ですねティアナさん、私もそう思いましたよ≫



・・・・・・それで、結局僕は負けた。椅子取りゲームに負けた。

シャーリーに負けた。思いっ切り負けた。すっごく負けたの。



≪この人を、自分の都合で事務仕事をさせている事。それがやはり心苦しかったんでしょう≫

「フェイトさん、優しいですから。恭文さんは問題なくても、迷惑かけちゃってると思ってたんですね」

「そうだね、100%善意だったよ。疑いようなんて、無かったよ。で、逆にへコんださ」

「で、でもっ! 困ってるときには、資格もあるし助けてあげられるよっ!?」



スバルのフォローが、なぜか遠く聞こえる。あぁ、それか。大丈夫だった。だって・・・・・・ねぇ。



「あははは・・・・・・ごめん」



そう、シャーリーが補佐官だったからだ。



「スバル、シャーリーと半年近く付き合いがあるなら、知ってるはずだよ?
シャーリーは、とっても優秀なの。本当に・・・・・・このチート女がっ!!」

「私チートじゃないよっ! 全部努力の賜物だよっ!?」

「じゃあアレだっ! 漫画にありがちな『努力の天才』とかって言うチート属性だよっ!!
それさえ有れば最終的には地球割れてもいいとか思ってんでしょっ!? ほら、怒らないからハッキリ言えっ!!」

「思ってないからっ! お願いだからその涙目はやめてっ!!」





・・・・・・シャーリーの能力は半端ではなかった。というか、凄まじかった。

事務や渉外関係のみならず、デバイスマイスターとして、バルディッシュのサポートなどもこなせる。

そんなシャーリーに、戦闘バカの僕が勝てるはずがない。てゆうか、きっとフェイトはこういうのが欲しかったんだと思う。



もちろんワーカーホリック気味だったフェイトの職場環境が、一気に改善されていったのは言うまでもない。

そして鉄火場でも、フェイトほどの戦闘能力があれば、大抵の事はなんとかなった。

フェイト、優秀だもの。現地の部隊とも、ちゃんと協力体制を結んだりもしてたしさ。



なので、今の今に至るまで、スバルが言ったような事態に、なるわけもなかった。



かくして、僕が取得した資格は・・・・・・いい感じでIDカードのコヤシに・・・・・・!!





「・・・・・・もう嫌だ。人生なんて・・・・・・人生なんて。てゆうかさ、ハードボイルドで通すって決めてるのになんですかコレ?
なんで僕は古傷をシャーリーやみんなに晒してるの? アレですか、僕はMですか? 違うよ、僕はドSだよ。ドSの星のドS王子だよ」



あぁ、崩れていく。僕のお仕事場での基本スタンスが崩れていく。ちくしょお、シャーリー恨んでやる。

そしてスバルも恨んでやる。恨んで恨んで恨み尽くして、お前ら二人を『IKIOKURE』にしてやる。



「なぎ君、元気出してっ!? ほら、きっといいことあるからっ! そうだよ、あるに決まってるよっ!!」

「ま、まぁ・・・・・・あれよ。私が執務官の試験に合格したら、雇ってあげるわよ」

「おのれに雇ってもらって僕の傷が癒えるとでも?」



癒えないよ。この傷は癒えないよ。一生消えないよ。消えない傷だよ。



「・・・・・・胸の奥ー深くー♪ 潜むこの傷はー♪ 癒される事はないー♪」

「だったらどうしろって言うのよっ! 他にフォローのしようがないでしょっ!? あと、歌うなっ!!
・・・・・・とにかく元気出しなさい。アンタだって、いちおう今日の主役なんだからね?」

≪いえ、この話の主役は私ですけど。この人は主役の資質無いじゃないですか≫



グサッ!!



「アンタ黙っててくれないっ!? そういう話は、全くしてないんだからっ!!」

「そうだよね。僕なんて・・・・・・主役じゃないんだよね。だって、アルトに負けてるんだし。そうだよねそうだよね。
てゆうか、これ当然だよね。だって冒頭で僕も同じような事してるし。因果応報なんだよね。うん、分かってた」

「アンタも暗くなるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










・・・・・・・・・・・・こうして、なんか自分がダメだなと思いつつ歓迎会は恙無く終了した。





なお、人の古傷に触れてしまった自分達が自業自得だと思ったのか、みんなは僕を生暖かく見守ってくれた。





それがなんだか嬉しくて、また泣いた。・・・・・・はぁ、なんか疲れた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・ヤスフミ、相当だったの?」

「相当でした。うぅ、私も考えが甘かったなぁ。もう大丈夫だと思ってたのに、傷になっちゃってるみたいで」



夜、ちょっと遅い時間にルキノから呼び出された。それで、寮内の談話室でお話。

・・・・・・さっきまで行われてた、ティアとヤスフミを主役としたパーティーの燦々たる有り様を聞いた。



「ルキノ、私ヤスフミの事・・・・・・傷つけてた、かな」

「いや、そういう訳では・・・・・・フェイトさんもなぎ君も、もちろんシャーリーさんも誰も悪くないんですよね。
互いに気遣いに気遣い合って、色々行き違っちゃったわけですし。というか、どうして断ったんですか?」



ヤスフミの補佐官になるのを、断った理由・・・・・・うん、ある。それは、ヤスフミがみんなに話した通り。



「一つは、ルキノが知ってる通り。・・・・・・なんだか、嫌だったんだ」

「嫌?」

「ヤスフミ、私の事を本当に助けてくれるの。でも、その分自分の事が疎かになりがちなの。
自分のやりたい事とか、そういうのを二の次にして補佐官をやる気がして、なんか・・・・・・ダメだなって」





あと・・・・・・私もミッドに引っ越す事が決まってたし、それも理由かな。

少しだけ距離を取って、私を助けるためとか、そういう思考から離れて欲しかった。

そうしたら、もしかしたら嘱託や私の補佐官だけじゃない可能性も、見えてくるかなと思ってた。



例えば局の中でやりたい事が見つかって、そのために局員になって、部隊に入って・・・・・・一生懸命に頑張る。

頑張って、その中で居場所や信頼出来る上司や仲間に出会う。その居場所やその人達を信じて、自分を預ける。

組織やみんなから認められて、その居場所はヤスフミにとって本当に必要なものになって・・・・・・と、考えてた。



私もそうだったから、それが大事だって分かるの。局や母さんやみんなが認めてくれて、初めて私は私になれたから。

・・・・・・現状で、色々と大変だったヤスフミを六課に呼びつけた私が、言えた義理はないけどね。

いや、それ以前にJS事件は局の不正行為が原因で起きた事件だもの。こういうの、あんまり言えないか。



・・・・・・うん、私の考えは間違ってた。ヤスフミ、ずっと嘱託だから。ずっと通りすがりのまま。

高い能力もあって、信頼してくれる人達も居るのにそれなの。魔導師になってから8年もの間、ずっと。

ヤスフミ、やってみたい事とか目標とかってないのかな。・・・・・・ヘイハチさん以外でだよ?



もっとこう、現実に根差して実際の役職の中で、理想や夢を描いて欲しい。



きっとそれが大人の行動だと思うし、生き方だと思うから。





「なるほど・・・・・・って、すみません。私が口挟む事じゃないのに」

「ううん、ありがと。ヤスフミの事心配してくれて」










そうだね、やっぱり心配だよ。まだお仕事用キャラで通そうとしてるし。・・・・・・色々遅いと思うのに。

本当にいい機会だから、色々と考えて欲しいな。そうだよ、ヤスフミはちゃんと出来るんだよ?

組織の中で、通りすがりなんて寂しい事はやめて、自分の居場所を持つ。持って、その場所に自分を預ける。






そして、その中でみんなから認められる生き方をする。そんな・・・・・・みんなと同じように大人に、なれるの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・アルト」

≪なんでしょ≫



あの鬱屈とした歓迎会を終えて、家路を急ぐ。ミッドのネオンに目を奪われつつも、確実に足を進める。

もう嫌だ。もう今日はアレだ、自業自得で因果応報な日なんだ。とっとと帰って眠ろう。



「僕ってさ、みんなから局に入れとかってよく言われるじゃない?」

≪言われてますね≫



僕達のコミュでは、局員が大半。魔導師の能力があれば、出世も見込めるしね。

現に、フェイトだったりなのはがそれなのよ。あ、スバル達もそれなのか。



「やっぱ、僕には合わないわ」

≪でしょうね。グランド・マスターもそんな感じでした≫

「てゆうかさ、これで上手く解散まで持ったら、またなんか言われそうなんですけど」



そうだ、ここを考えてなかった。足を進めながらも僕は頭が痛くなってくる。

部隊の中で半年間上手くやれるってことは、僕も部隊員に・・・・・・局員になれるという確証を一つ作る事になる。



「・・・・・・まさかリンディさん、このために僕に頼んだんじゃ」

≪ありえますね≫



まぁ、リンディさんが僕の能力とかそういうの認めてくれて、その上で言ってくれるのは嬉しいのよ。

きっと局の矛盾点とかも、僕なら変えられる。チャレンジしてみるべきだとまで、言ってくれる。



「最悪だね」



なお、リンディさんじゃない。僕の選択、マジで色々早計だったかも知れないから、自分の判断に対して言ってる。



「逃げ道は0。というか、逃げるわけにはいかない」

≪もう、通すと決めましたしね≫

「うん。だけど、通したらこれまで以上の勧誘が来る可能性がある。
・・・・・・引き受けたの、短慮過ぎたかな」

≪今更でしょ。・・・・・・解散したらすぐに失踪する準備でも、しておきます?≫

「そうしようか」










・・・・・・スバル、ずっと苦い顔で僕の事見てたな。でも、しゃあないのよ。

僕、局も局員の立場も、正直嫌いなの。興味もないの。

てゆうか、ついこの間あんな事件起こったばっかりよ? 入る気なんて、起きないって。





・・・・・・『雲水、一処に止住せず』って言う言葉がある。雲や水は、流れていくの。そうして変わり続け、旅を続ける。

先生が教えてくれたの。そうやって、色んなものを含めて流れ続けたいって言ってた。

僕、出来るならそういう生き方がしたいもの。一処に溜まった水は、淀んで腐るだけだろうしさ。





もちろん、スバル達やフェイトが腐ってるなんて言うつもりはない。ただ・・・・・・僕は自分が腐らない自信、無いから。




















(第7話へ続く)




















あとがき




古鉄≪・・・・・・どうも、古き鉄・アルトアイゼンです。なお、6話と7話の修正版はかなり変えております。
なので、元の話と色々被って、タイトルも交換状態ですけど・・・・・・すぐに7話の修正は出しますので、少々お待ちを≫

恭文「というか、マジで大修正になってきてるし。大丈夫なの、これ?
あ、主役の蒼凪恭文です。・・・・・・ねぇアルト、なんで僕達はここに居るわけ? つーか、その格好はなに」

古鉄≪ノロイウサギです。私も体を取り戻しまして≫



(DJっぽい机に座る恭文。それに対面する形で、ひとつのぬいぐるみが置かれている)



恭文「取り戻す身体じゃないでしょそれっ! つーか、アルトの身体は日本刀だよっ!!
あと、僕が聞きたいのは、そういうことじゃない。なんでそのぬいぐるみから、アルトの声が聞こえるんだよっ!!」

古鉄≪よく分かりましたね。正解ですよ≫

恭文「あぁちくしょう、やっぱりかっ! つーか、デザインが凶悪になってるのはどうしてっ!? とくにその額っ!!」



(恭文は指差す。それを追っていくと、ノロイウサギはヴィータが所有するものと、デザインが変わっていた。一部だけだけど。目は青く。額にまるで邪○のようにアルトアイゼンが埋め込まれている。
それだけで、ぬいぐるみの可愛らしさは消え、全身から邪なオーラが溢れ出す)



古鉄≪気にしたら負けですよ。それで・・・・・・これ、楽しいから今後も続けません?
あのアホ作者は、もう出なくてもいいじゃないですか≫

恭文「いや、僕達でやるっておかしくないっ!? まぁ、楽しいけどさ」

古鉄≪というわけで、本日はここまで。お相手はこの話の主役である私と、脇役でした≫

恭文「だから、僕が主役だよっ!? 脇役扱いはやめてー!!」










(一人の男とぬいぐるみが、あーでもないこーでもないと話しつづける。どんどんフェードアウトしていって・・・画面は、消える。)




















???『・・・・・・段々セーブポイントみたいになってきてるな。俺らとの会話』

???『だね。で、どうしたのよ。いきなり空気の読めない相手との対処はどうすればいいかって』

恭文「どうも空気が読めない人間が、近くに居るみたいなんです。いや、まだ疑いの段階ですけど」

???『・・・・・・そっか。うん、大体分かった。何があった?』

恭文「さらば電王見に行こうとしたら、強引に歓迎パーティーに引っ張り込まれて、古傷をさらすハメになりました」

???『まぁ、アレだよ。そういう時はやっぱATフィールドだって。心の壁を張って対処だって』

恭文「それ、無理っぽいんですけど。・・・・・・あぁ、僕とフェイトとリインを残して世界なんて滅びればいいのに」

???『何恐ろしいこと言ってんだよっ! てか、ハラオウン執務官とあの子は込みかよっ!!』










(おしまい)





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