小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第5話 『仲の良さの基準なんて、誰にもわからない』(加筆修正版)
昨日はすっごく楽しい一日だった。隊舎が復旧して、六課が事件前と同じように動き始めた。
それだけじゃなくて、部隊に新しい部隊員・・・・・・恭文が来た。
その恭文と、パートナーのアルトアイゼンと模擬戦して、友達になって・・・・・・うん、なったんだよ?
だって、部隊の仲間なんだもの。それで一緒にお食事したし、もう友達だよ。
模擬戦は結果的には負けちゃったし、少し考えるところもあった。・・・・・・スペック勝負とか。
だけど、それでも楽しい日になったのは間違いない。私はそう確信していた。
そういうわけなので、ついつい早起きして早朝ランニングなんてしてしまっている。でも、私一人じゃない。
「ちょっとスバルっ! アンタ飛ばし過ぎよっ!!」
「あ、ごめんティア」
そう、ティアと一緒に、隊舎の敷地内を走っている。
なんかこうしてると、あの時の事を思い出してしまう。もっと言うと、StS7話の早朝訓練。
「そーね。でも、今日は簡単なアップだけだからね?
まだ本格的な訓練はなのはさん達の許可が出てないんだから」
「分かってるよー」
・・・・・・そしてその後、ストレッチなんかをして早朝運動終了。
さて、朝ご飯だー! 今日も一杯食べるぞー!!
「今日のメニューはなにかなぁ〜♪」
「あんま食べ過ぎるんじゃないわよ?」
「大丈夫ー!!」
そんな話をしながら、食堂へと向かっていると、自転車が走ってきた。
こんな時間に誰だろ? ・・・・・・あっ!!
「恭文ー!!」
「・・・・・・・・・・・・よし、帰ろう」
「どうしてー!?」
「冗談だよ。・・・・・・おはよ」
私が手を振るのに応えようと、恭文は、自転車に乗ったまま手を振った。
それで少しバランスを崩す。・・・・・・お、持ちこたえた。
やっぱり鍛えてるから、バランス感覚もいいんだね。さすがは空戦魔導師。
今、私が声をかけたのは一人の男の子。と言っても、2歳年上なんだけどね。
私達と同じデザインの陸士制服に身を包み、背丈と体型は私と同じ。
少し暗めの栗色の髪と黒の瞳が印象的な男の子。
そう、私が昨日模擬戦で戦った、魔導師の蒼凪恭文。
そして、その胸元で光り、青い輝きを放つのは、恭文のパートナーデバイスであるアルトアイゼン。
恭文は、私達の前まで来ると、ゆっくりと自転車を止めた。
「いやぁ、危なかった。スバルの行動に乗って手を振ったらあれだもの」
「ホントだよ。見てて怖かったよ?」
「・・・・・・アンタ達、仲いいわね」
「気のせいだよ。まだ他人だし」
「恭文酷いよー!!」
ティアが、少し呆れ気味な顔で私達を見る。というか、恭文も同じく。
それがどうしてか、よく分からない。だって、恭文とは昨日友達になった・・・・・・はず。
あれ、よく考えたら友達ってこんな楽に出来るものだっけ。なんか、違うような。
・・・・・・よし、私ちょっとテンション変なのかも。ちょっと落ち着いていこうっと。
「あ、ティアナもおはよう。・・・・・・早朝訓練でもしてたの?」
「おはよ。まぁ、訓練って言っても、ランニングとストレッチのみだけどね。そういうアンタはこんな早くにどうしたのよ?」
「そうだよ。仕事始まるまでには、まだ時間あるよ?」
時刻は、もうすぐ8時になろうかという時間。こんな早くに来てもやることなんてないはずなのに。
「あーっと実はね。朝ご飯食べにきたの」
『朝ご飯っ!?』
≪昨日はあんな感じで、寄り道もせずに帰ったのです。
でも、帰り着いた後に冷蔵庫を見たら、見事に空でして≫
なるほど。それで、こんな時間に来たんだね。
「それでアンタは朝早くに隊舎の食堂に来て、ずうずうしくも朝食にありつこうと考えたわけだ」
「正解」
「納得した。それで、今日はその自転車なんだね?」
今、恭文が乗っているのは、世間で言うところのママチャリと言われている物。
前に大き目の籠がついているタイプで、これで帰りに買い物をする・・・・・・ってとこかな?
「うん。・・・・・・くそ、真面目に恨むぞ。買い物すら行けないくらいに忙しいって、あり得ないでしょ」
恭文が『クロノさんに呪いの留守電残してやる』とか呟いてるけど、私とティアはそこに触れない。
だって、目が怖いから。こう・・・・・・殺気の隠った目をしてるから、触れたくなかった。
「なら、一緒にご飯食べようよ。ちょうど私達も食べるとこだし。ね、ティア」
「そうね。アレコレ話も聞きたいし、付き合いなさいよ」
≪お二人とも、ありがとうございます。それでは、マスター≫
「うん。じゃあ、悪いんだけど、食堂で席取っててもらってもいいかな?
僕はこれを置いてこなきゃいけないから」
あ、そっか。自転車はちゃんと置き場があるしね。置いていかないとダメか。
「わかった。待ってるからすぐ来てね」
そう言って、私達が隊舎の方へ入ろうとすると・・・・・・恭文から呼び止められた。
「どうしたの?」
「ごめんごめん。これ渡すの忘れてた。・・・・・・はい」
そう言って、恭文から差し出されたのは1つの袋。・・・・・・これ、なに?
「ほら、昨日借りてたスバルのトレーニングウェアだよ。
洗濯して乾燥機にもつっこんだから、もう着れるよ」
「あ、ありがとう。でも、別に借りっぱなしでもよかったのに。また必要でしょ?」
「自分の着るからいい。というか、そこは気にして行こうよ。女の子なんだしさ」
「だから、気にしてないよ? 別にこれを着て恭文がエッチな事考えてても。それは普通のことなんだし」
「「いや、そこは気にしなさいよ」」
どういうわけか、ティアにも一緒にツッコまれた。・・・・・・どうして?
とにかく、私は恭文からトレーニングウェアを受け取って、そこで一旦恭文と別れる。
私達は隊舎に入り、食堂を目指す。・・・・・・ティア、どうしたの?
「なにがよ?」
「少し、考え込むような顔してたから」
「別になんでもないわよ。本当に仲良くなったんだなって思っただけだから」
「そうかなぁ」
私、距離感を測ってる最中だよ? さっき始めたばかりだけど。あんまり馴れ馴れし過ぎるのもダメかなーって。
いくらギン姉と恭文が友達だからって、そこはちゃんとしないといけないなって反省してるもの。
「あ、私ちょっと部屋に戻るね。これを置いてくるから」
「分かった。席は取っておくから、ゆっくりでいいわよ? つか、ちゃんと片付けてから来なさい」
「はーい」
そして、ティアとも別れて、私は自室に戻る。
戻ったら、さっそく袋を開けて、トレーニングウェアを・・・・・・・なにこれっ!!
私は、トレーニングウェアを見てビックリしていた。すごく汚れてたからとかじゃない。
綺麗なんだ。それもすっごく。昨日洗ったはずだからそのせいかもしれないんだけど、とにかく綺麗。
汚れも無いし、アイロンもしっかりかけてあってしわ一つない。・・・・・・恭文って、すっごくマメなんだね。
私の予想だと洗っただけで、ちょっとしわくちゃな感じになってるのかなって思ってたのに。これは予想外だよ。
いや、訓練で使うものだから、別にそれでも問題ないんだけど・・・・・・すごい。
私は少しの間、その綺麗に仕上げられたトレーニングウェアを見て感激していた。
・・・・・・恭文に、あとでちゃんとお礼言わないとだめだよね。
うん、言わないとだめだよ。あの、なんかこう・・・・・・嬉しいかも。
魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝
とある魔導師と機動六課の日常
第5話 『仲の良さの基準なんて、誰にもわからない』
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「・・・・・・お待たせー!」
≪すみません、遅くなりました。全く、あなたがグズグズするから≫
とりあえず、アルトのツッコミはスルーにした。スルーするしかないので、スルーした。
「恭文さん、おはようございます!」
「おはようございます」
「きゅくるー」
僕とアルトが自転車を置いて食堂へ着くと、昨日知り合ったばかりのちびっこコンビが挨拶してくる。
エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ。チビ竜のフリードリヒもスバルとティアナと一緒にいた。
「うん、エリオもキャロも、フリードもおはよう」
≪おはようございます≫
とりあえず、みんなが取っていてくれたイスに座る。
なんと、僕の分のご飯まで確保してくれていた。
「ごめんね。手間かけさせちゃって」
「ううん、大丈夫だよ。それじゃあ全員揃ったからみんな一緒に」
『いただきます』
・・・・・・いやぁ、朝から運動したし、空きっ腹にこのご飯の美味しさが身にしみるわぁ。
≪慌てずに、よく噛んで食べて下さいね≫
「うぃうぃ」
「そうだ、恭文。・・・・・・ありがと」
スバルが、やったら嬉しそうな表情でそう言ってきた。
ん、なに? てゆうか、僕はなんかお礼言われるような事、したかな。
「トレーニングウェア。すっごく綺麗に洗ってくれて、ビックリしたよ。シワ一つないんだもん」
≪昨日帰ってから、一生懸命洗ってましたから。
それから乾かして、アイロンして、匂いが気にならないか丹念にチェックして≫
「そこまでやってくれたんだ。・・・・・・あの、本当にありがと」
いや、借り物だしそれくらいはね。うん、ちゃんとしておきたかったの。
それで女の子の着衣だもの。これくらいは、常識の範疇でしょ。
≪匂いを丹念にチェックしてる辺りに危なさを感じたのは、内緒にしてあげますよ≫
・・・・・・だったら口にしないでよ。いや、自分でも気になってたよ?
女の子の服をちゃんとした理由があるとは言え、くんかくんかと匂いを嗅ぐのはどうなんだろうなって。
「で、スバルはなんで僕に顔を近づけるっ!?」
「うーん、恭文いい匂いだよ。朝にお風呂とか入った?」
「あぁ、朝風呂派だから・・・・・・って、匂いを勝手に嗅ぐなっ!!」
この子はホントに犬属性っ!? 一体なにやって・・・・・・あれ、なんかダメだ。
僕、お仕事モードになってないし。ダメダメ、もうちょっとしっかりしなくちゃ。
「そこまで気にするってことは、なにかあるのかなーって思って」
≪ありませんよ。いちおう女性物というのがありましたから、ちょっと神経を使ってたんです≫
アルトがそう言うと、スバルがなぜだか顔を赤くして黙った。・・・・・・いや、変な意味じゃないよ? 本当にさ。
「と、とにかくありがと。私、うれしかったから」
「ううん、僕も昨日はありがとね。ウェア貸してくれて助かっちゃった」
「うん」
そして表情がまた明るくなるねっ! マジでワンコ属性持ちかいっ!!
≪これでフラグ成立ですね≫
「・・・・・・あぁ、アルトは気にしないでね。てゆうか、気にするな」
「いや、あの・・・・・・えっと」
あぁ、スバルは戸惑ってるなぁ。きっと、とても純粋で優しい子なんだよね。
「ほら、街中歩いてるとやたらイチャついてぶっ飛ばしたくなるカップルっているじゃない?
あぁいうのを、軽蔑した眼差しを携えつつ無視する感覚でいけばいいから」
「なにげにヒドイよそれっ!?」
≪全くですよ。優しさが足りませんよ優しさが≫
優しくして欲しいなら、まず僕に優しくしてよ。で、みんなはなんでそんなに僕を見つめるの?
「いや、なんていうかさ。昨日から思ってたのよ。
・・・・・・アンタのデバイス、アルトアイゼンだっけ? 本当によく喋るわよね」
「いや、普通だよ?」
「いやいや絶対普通じゃないから」
≪そんなことは無いとですよ≫
いきなりどこの方言飛び出したっ!? あぁ、なんかポカーンとしてるしっ!!
≪私は世界のスタンダートであり、王道であり至上の存在であると言うだけの話で≫
「ほら、そういうとこよっ! 私達のデバイスはそんなこと言わないしっ!!」
・・・・・・まぁ確かに、アルトは無茶苦茶喋るしツッコむし。
AI付きデバイスの中でもトップクラスって言わんばかりに、感情表現豊かであるのは間違いないわな。
「なにか、特殊なデバイスなんですか?」
「あー、特殊って言えば特殊・・・・・・なのかな」
「もしよかったら、教えてもらえませんか? 興味ありますし」
・・・・・・ちびっ子二人の瞳が痛い。だって、すっごく光輝いているんだもの。
≪といっても、たいした事ではありません。
私は、みなさんより年上・・・・・・稼動年数が26年というだけの話です≫
「26年っ!?」
「ちょっとまって、アンタ18よね? なんでアンタが使ってるデバイスが、アンタより年上なのよ」
「そりゃあそうだよ。だって、アルトは元々僕のパートナーデバイスじゃないもの」
・・・・・・・まぁ、隠す必要があるわけでもないので説明しよう。
お仕事モード、すっかり外してるなぁ。はぁ、我ながら甘い。
とにかくアルトは元々、僕の剣の師匠が一緒に戦っていたデバイスなのだ。
僕と先生が出会って、剣術を教えてもらうことになった直後の事。
剣術経験が無い僕のサポートのためという名目で、僕はアルトを使用して訓練や戦闘を行っていた。
ちなみに、当のアルトはこの事に対してかなり不満タラタラだった。
・・・・・・いや、当然だけどね。だって、自分のマスターの命令とは言えですよ?
戦闘経験がそれほどあるわけじゃない、ズブのトーシローの世話を焼かなきゃいけなくなったんだから。
それが紆余曲折あって、アルトが僕のことを『マスター』と呼ぶようになったの。
それにともなって、元々のマスターである先生の事は『グランド・マスター』と呼ぶことになった。
アルト曰く、やっぱり先生の方が立場は上にしたかったらしい。なので『グランド』。
それから、アルトは正式に僕のパートナーとして戦うことになった。
・・・・・・これは、それからしばらくしてリンディさんから聞いたこと。
どうやら先生はアルトを僕のパートナーデバイスとして受け継いで欲しかったそうだ。
老い先短い・・・・・・いや、今でもピンピンしてるけどさ。殺しても死なないレベルで。
とにかく、老い先短い自分が亡くなった時に、苦楽を共にしたパートナーの今後がどうしても気がかりだった。
それで、大事にしてくれる人間を探していたときに、僕が現れた。
で、いざヴィータ師匠と一緒に、剣術と魔法戦の技能を教えてみた。
すると、戦闘に関して天才・・・・・・と言えるほどではないけど、それなりにセンスもあった。
ということで即決して、その通りになったというわけである。
「・・・・・・なるほど、そういうことだったんだね」
「でもAI搭載型デバイスは、普通は使用年数が増える事にその使用者の専用機体になっていくのによく、あそこまで戦えるようになったわね」
≪そうですね。この人の特性に擦り合わせていくのに、一ヶ月ばかりの時間はかかりました≫
「一ヶ月って、また短い間に合わせられたわね」
「まー、その辺りは事情があってね。先生と僕って、魔力特性が凄く似てたんだよ」
魔力特性というのは、ぶっちゃけちゃえば、どういう魔法が得意かという先天的な適正みたいなものになる。
例えばフェイト。フェイトは魔力の圧縮、先天的に備わっている電気性質への魔力変換を得意としている。
逆に、誘導弾とかは苦手なんだよね。で、それと同じように、僕にも得意とする分野と不得意な分野がある。
僕の資質と先生の資質は、とてもよく似ていたのだ。
先生曰く、そういうのも僕に師匠と一緒に、魔法や剣術を教えようと思った動機らしい。
≪・・・・・・今考えると、その辺りも含めて、最初の段階で私を付かせたのでしょう≫
だろうね。そうじゃなかったら、辻褄合わないもの。
≪なんというか、私の主人はどうしてこうも揃って性悪なのか≫
「失礼な。先生はともかく、僕は違う」
「じゃあ・・・・・・あの、アルトアイゼンさん」
え、ちびっ子その1(エリオ)がいきなりさん付けっ!? どんだけ目上に対して敬いを持ってるのさっ!!
≪なんだ? 我が下僕よ≫
「いきなり下僕扱いするなボケっ! 僕がフェイトに怒られるでしょっ!?
・・・・・・エリオ、あとキャロも普通でいいから。呼び捨てでいいから」
「で、でも・・・・・・こう」
「よし、選択肢をあげようか。アルトの下僕になるか、呼び捨てにして友達関係になるか。どっちがいい?」
「・・・・・・アルトアイゼンでお願いします」
よし、いい子だ。二人とも下僕は嫌だよね? 嫌に決まってるよね? 絶対拒否だよね?
むしろ、楽しいとかいいとかだったら、お兄さんはちょっと泣きながらフェイトに報告してるところだったよ。
「それじゃあ、アルトアイゼン」
≪はい、なんでしょうか?≫
「恭文さんのことを『マスター』って呼ぶようになったのって、なにがきっかけだったの?」
・・・・・・きっかけか。うん、痛かったなぁ。
≪・・・・・・とても簡単です。とある違法行為を行っていたSランク魔導師を相手にしていた時です。
ぎりぎりだったときにこのバカは、擬似的にマスター権限を強行して、私を待機状態に戻したんです≫
「えぇっ!?」
「アンタ、なんでまたそんなことしたのよ!」
とりあえず、視線が痛いから睨むのはやめてくれるとありがたいよ。
ちゃんと説明するから。そしてアルト、マスターをさしてバカって言うな。
≪仕方ないでしょう、バカはバカなんですから。それも年々悪化してますし≫
「・・・・・・おのれは」
「まぁまぁ。それで、恭文はどうしてそんなことしたの?」
「・・・・・・その時のアルトは、先生から預かっていた形だったからさ。
正直、勝つためにちょっと無茶しなきゃいけなくて」
「それでアルトアイゼンをその無茶に巻き込みたくなくて、待機状態に戻したと」
まぁ、それでも勝つ算段はつけられてたからだけどね。そうじゃなきゃしなかったって。
≪・・・・・・なにが算段ですか。相打ち同然に決着をつけて死にかける。
それで二週間意識不明の重体。完治までにはそこから一ヶ月もかかったじゃありませんか≫
うん、死にかけた。これ以上無いっていうくらい。
≪あの時、リインさんやフェイトさんがどれほど心配して、泣いたと思ってるんですか?≫
うん、泣かせたねぇ。すっごく泣かせたねぇ。あははは、ケガの痛みが吹き飛ぶくらいに『痛かった』なぁ。
≪勝つと言うのは、相手を完膚なきまでにぶっ飛ばしても、自分は無傷という結果の事を言うんです。勘違いにも程がありますよ≫
あははは、そこも同意見だわ。あれ、ある意味負けだよね?
「ねぇアルトアイゼン、その考え方もどうなのかな?」
「つか、そんな大怪我してまでやることじゃないわよ」
まぁ、あの時は色々あってそう思っちゃったんだからしかたない。
あの時は、アルトは僕と戦うことに関しては、本当に不満タラタラだったし。
それで命を賭けろとは言えなかった。アルトは先生のこと、大好きだもん。
・・・・・・それで、言えるわけがなかった。言えるわけが、ないのよ。
「それで、アルトアイゼンは恭文さんをマスターって呼ぶようになったんだね」
≪キャロさん正解です。色々と不満があったのは確かですが、目の前で死なれても気分が悪いですし。それに≫
「それになによ?」
アルトを、みんながじっと見つめる。何を言い出すのかと言わんばかりに。
≪マスターがあの時、怪我と無茶をしたのは、私が信頼関係を結ぼうともしなかったからです≫
なんか、そういう風に反省したらしい。そんな反省したアルトは、目が覚めた僕に一つの決意を表明した。
それは僕をマスターと認めて、一緒に戦う事。だから、僕もアルトをパートナーとして認めろと言って来たのだ。
≪なら、マスターでもご主人様でもおにいたまでもいい。しっかりとした関係を作っていくしかない。
・・・・・・同じ間違いを、繰り返したくはありませんでしたから≫
それで僕もみんなもビックリして・・・・・・色々討議して、アルトは僕のパートナーになったの。
うん、それからはずっと一緒。ずっと一緒に戦って、笑ったり怒ったりバカやったりしてる。
「そっか。なんか、アンタも大変だったのね」
≪分かっていただけるとありがたいです≫
・・・・・・みんなが感心してる中、僕はどうしても釈然としないものを感じていた。
あのアルト、おにいたまってなに? 可愛くないからそれはやめて。
「恭文、ホントにだめだよ? こんないいデバイスに心配ばかりかけちゃ」
≪全くです≫
「だから、自分で言ったら説得力ないから」
「それはそうだけど、心配をかけちゃいけないのは間違いないよ?
あの時アルトアイゼン、すっごく落ち込んでたんだから」
「そうだな。自分の態度がいけなかったと、お前の目が覚めるまで反省しきりだった」
・・・・・・・・え?
「みんな、おはよ。えへへ、ちょっと早めに戻ってきちゃった」
突然、後ろから声が聞こえた。僕がよく知る声が二つ。で、後ろを振り向くと・・・・・・居た。
「恭文君、久しぶり。・・・・・・過労だって聞いたけど、身体大丈夫?」
「問題ないよ。てーか、なのはおひさ。なんか元気そうじゃないのさ。無駄に」
「うんっ! ・・・・・・ちょっと待ってっ!? 無駄にってなにかなっ!!」
そう、そこに居たのはシグナムさんともう一人。・・・・・・高町なのはが、そこに居た。
「なのはさんっ! あ、シグナム副隊長もおはようございますっ!!」
「「「おはようございますっ!!」」」
「うん、みんなおはよう」
元気よく椅子から立ち上がって挨拶してる。それをなのはは微笑んで、受け止めてる。
「みんな、なのはにそんなに気を使わなくてもいいのに」
「アンタは少しは気を使いなさいよっ! 私達の上司よっ!?」
「嫌だ」
・・・・・・あれ? どうしてみんなそんなビックリしたような顔で僕を見るの?
「あの、恭文。なのはさんって、一応上の立場なんだよ? さすがにそれは」
「あぁ、大丈夫だよみんな。恭文君は、どこでもこんな感じだし」
「実際、蒼凪に上下関係を盾に命令すると恐ろしいことになるからな」
「ですね。・・・・・・相変わらずだよ。逆に安心しちゃったよ」
「この二人は、それが相変わらずなんですね」
スバルもティアナもチビッ子コンビも、なんでそんな残念そうな目で僕達を見る?
で、僕のことはいいよ。なーんでなのはがこんな朝早くにいるのかが疑問だ。
「しかし、随分早く戻ってきたね。病院にお泊りだったんじゃないの?」
「うん。でも、恭文君に会いたかったから」
ニッコリと笑顔でなのはが口にする。・・・・・・そうなんだ。
「僕は・・・・・・会いたくなかった」
『・・・・・・え?』
「だって、若本ボイスで話し掛けられても嫌だし」
そう、高町なのはは声優の若本規夫さんボイスなのだ。すごいハスキーでしょ?
「そんな声出ないよっ! 私は可愛いゆかりんボイスだよっ!?」
なお、ゆかりんとは声優の田村ゆかりさん。どうやら、なのはは自分がその声だと思ってるようだ。
「いや、勝手に変換されてるから」
「されてないよっ!!」
「僕とアルトの脳内のことにとやかく抜かすな。てーか、ゆかりんファンに謝れ」
≪全くですよ。頭を下げて反省しなさい≫
「逆ギレっ!? それ以前に、謝る必要ないよねっ!!」
・・・・・・・さて、この高町なのはという女について説明しておこう。
時空管理局の叩き上げ戦闘集団、『航空戦技教導隊』所属の空戦魔導師。
僕やはやてと同じ地球の出身で、9歳の時にとある事件に巻き込まれて魔法の力に目覚めた。
そこからは・・・・・・途中で大怪我して、リハビリのためにブランクなんてあったりした。
そんなブランクを超えて、無事に教導隊に所属した。僕と出会ったのも、ちょうどそれくらい。
そこでどんな仕事をしているかというと、最新鋭の戦闘技術や戦術の構築。新装備の開発など。
あとは、要請のあった部隊に赴き、そこの武装局員に極めてレベルの高い戦闘技術の教導もこなしている。
そういや、六課でも主な仕事はそれになるのか。スバル達の教導だけ見れば、いつもの仕事なんだよね。
こやつはそんなエリート街道まっしぐらな生き方をしているために、ミッドでもかなりの有名人。
『エース・オブ・エース』なんていうぶっ飛んだ二つ名まで持っている。・・・・・・そこは羨ましいよ
ほら、二つ名って憧れるし。僕も『赤い彗星』とか『ライトニング・バロン』とか『阿修羅すらも凌駕する』とか言われてみたいし。
・・・・しかし、それはあくまでも表向きの顔だ。裏の顔は語るのも恐ろしい。こやつを一言で言うなら、そう・・・・・・・魔王っ!!
『冥王』『悪魔』『鬼畜』『作画崩れ』でも正解。もう若本規夫ボイスなのも納得してもらえると思う。
こやつの戦闘スタイルは、大量の誘導弾と高威力・高出力の砲撃を用いた遠・中距離戦。
ここまでなら、普通の射撃での支援型だろう。ただし・・・その攻撃の威力が半端じゃないのだ。
一発撃つだけで大地は割れ、海は避け、そして世界は震える。いや、世界そのものが砕ける。
スターライトブレイカーという大技を習得しているんだだけど、その名の通りどっかの星をぶっ壊したことも数知れず。
その純白を思わせるバリアジャケットは、実は敵の返り血を全く浴びてないからというのが通説。
そして・・・・・・なにより恐ろしいのは、その手口だ。もっと言うと、戦闘スタイル。
一撃で倒せるはずなのに、じわじわとなぶり殺しにするような手口で戦う。
・・・・・・信じられないかもしれない。だけど、これが高町なのはという人間なの。
「そんなわけないからぁぁぁぁぁっ! というかというかっ! なんでいきなりそんな話になるのっ!?」
「いや、説明って大事でしょ?」
≪そうですよ。あなたが誤解されないようにと気を使ったんです≫
そうだよ。てゆうか、人のモノローグにツッコまないで欲しいな。小説のイロハ知らないの?
「使い方が間違ってるよっ! それだけじゃなくて、またそんな風に魔王って言うっ!!」
「だって、魔王じゃないのさ。『なのは』と書いて『魔王』と読むんでしょ?」
≪そうですよ≫
もっと言うと『なのは』だね。いや、さすがはなのは。そこにシビれる憧れる。
「違うもんっ! というか、どうしてひらがなを漢字で読むのかなっ!? そこからおかしいしっ!!」
「おかしいのは僕達じゃなくてなのはだって」
「うー、またそうやっていじめるっ! いじめっ子な恭文君のバカっ!!」
「あー、バカって言った。知ってる? バカって言う方がバカなんですー」
「くやしー!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・えっと、ちょっと恭文っ!?」
「なにさ豆芝」
「犬じゃないよっ! というか、字が違わないっ!?」
「いや、豆芝を犬扱いも失礼だから、アレンジしてみた」
「アレンジの仕方と言葉の解釈を色々間違ってるよっ!!」
・・・・・・って、そうじゃないっ! 私の事はとりあえずいいのっ!!
「というか、どうしてなのはさんにそんなこと言うのっ!?」
「そんな事って、なに?」
「なにがじゃないわよ。アンタ、よりにもよって魔王って」
「そんなの、なのはが魔王だからに決まってるじゃん」
アッサリ認めないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
「恭文さん、それはヒドイですよ」
「なのはさんは魔王じゃないですよ」
そうだよ。なのはさんはすっごくいい人だよ? ほら、エリオとキャロもちょっと怒ってるし。
でも、そんな私達の様子を見て、恭文は失礼にもため息をはいた。そして、こう言った。
「なのは、シグナムさん、心が痛まないんですか? こんないたいけな子ども達を騙して」
≪そうですよ。良心の呵責というものに苛まれないんですか?≫
「それはこっちのセリフだよっ!!」
「むしろ、それはお前達に言ってやりたいぞ」
本当だよっ! なのはさんの事、さっきから魔王魔王って・・・・・・!!
「じゃあみんなに聞くけど、なのはが魔王じゃないって言い切れる?」
『え?』
「心のそこから、嘘偽りなく、まっすぐに、僕の目を見て、天地天命に誓って。
神やら仏やらにも誓って、そしてなにより己の心に誓って・・・・・・言える?」
なのはさんを魔王じゃないと言い切れるかどうか? そ、そんなの決まってるよ。
なのはさんはStS8話みたいな事があっても、基本砲撃とかが攻撃手段でも・・・・・・ねぇ。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もちろんっ!!』
≪あなた達、どれだけ葛藤してたんですか。というか、エリオさんとキャロさんは目が泳いでましたよ?
それでティアナさんが怯えた目で高町教導官を見始めたんですけど≫
「・・・・・・なのは、みんなに感謝しときなよ? かなり間があったけど言ってくれたんだから。
てゆうか、マジで何があった? さすがの僕もこの反応は予想外過ぎるんだけど」
「みんな、そんな風に思ってたんだね。そっか、そこは・・・・・・知らなかったなぁ」
「こ、これは違うんですっ! 恭文が変な念押しするからで・・・・・・あぁ、泣かないでくださいー!!」
ど、どうしようっ! そういうのじゃないのに・・・・・・絶対そういうのじゃないのにー!!
「・・・・・・お前達も、そういきり立つな」
まぁまぁと言ってきたのは、今まで話を聞いていたシグナム副隊長だった。
「蒼凪のなのは隊長に対しての態度はいつものことだ」
「これ、いつものことなんですかっ!?」
「そうだ。まぁ、この二人なりのコミュニケーションと言ったところだ」
コミュニケーションって言ってもこれは・・・・・・いいの?
とりあえず、涙を拭いたなのはさんを、私達は見る。
「・・・・・・でも、魔王って言うのは本当にやめてほしいんだけど」
「魔王じゃなくなったと判断したら、やめてあげるよ」
「じゃあ、今からやめて? 私、魔王じゃなくて女の子だもん」
その言葉に、恭文が固まる。固まって、次の瞬間に驚きの表情を浮かべる。
「・・・・・・えっ!?」
≪そんなっ!!≫
「あの、何で二人ともそんなにびっくりするの?」
「だって、現時点で魔王なのに今からやめろなんて・・・・・・無茶振りだって。
あれだよ、レベル1で裏ボス倒せって言うのと同じよ? しかも、何の対抗策も無し」
「魔王じゃないよっ! というか、今私が言った事って、そこまで無茶振りなのっ!?」
そうして、なのはさんと恭文とアルトアイゼンは、あーだこーだと言い争う。結構際限なく。
「・・・・・・シグナム副隊長」
「言いたい事は分かる。だが、普通のことだ」
「そう・・・・・・ですか」
「二人なりの、再会の挨拶と言った所だ。それに見てみろ」
シグナム副隊長に言われて、私はなのはさんと恭文をもう一度見てみる。
「なんだか、なのはさんも恭文さんも、楽しそうですね」
「ホントだ」
なのはさんも、怒っている感じはしない。会話してるのが楽しくて仕方ないみたい。
というか、何時の間にか世間話にシフトしてるし。
「ああいう関係だ。正直、私や部隊長達も中々理解出来ない。
だが、これだけは言える。当人達はあんな感じでいいようだ」
「確かにそうみたいですね」
うー、でもやっぱり魔王とかって言うのは納得できないー!!
なのはさんは魔王じゃないよ。・・・・・・ちょっとそれっぽいところはあるけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さて、今はお昼休み。というか、もうすぐお昼休みが来る。
あの後、みんなでご飯を食べてから、僕はロングアーチのオフィスでポチポチ書類など打ってた。
まぁ、これが目的の半分だしね。しっかし・・・・・・こりゃすごいな。
今僕が打っているのは、上への報告書。報告内容は、JS事件の最終局面。
六課が関わったゆりかごの攻略戦やら、首都の防衛戦に関して。
なんでも、暫定的な形では出していたのだけど、さすがにそれだとアウト。
なので・・・・・・今、かなり詳細な物を纏めている最中だそうだ。
その時に、管制をしていたシャーリーにあれこれ解説してもらってる。
そうしながら、その報告書作成の手伝いをしていたのだけど、激戦もいいとこじゃないのさ。
「そりゃそうだよ。みんな頑張ってたしね」
「いや、頑張りようにも程があるでしょ」
特に目を引いたのは、スバル達フォワード陣が主戦力を務めた、廃棄都市部での首都防衛戦。
そこでの、対戦闘機人戦に関しての戦闘記録だ。
その中の、ある廃ビルの中で行われた戦闘。絶望的とも言える状況。
それを持てる技能でひっくり返した女の子の戦い振りに、目を奪われていた。
そう、ティアナである。・・・・・・戦闘機人三人を一人で相手にして勝ったの。
これ、すご過ぎでしょ。それも足を怪我している状態で。
≪ティアナさんが提出したデータを見るに、対峙した三人は決して能力が低いわけではありません。まぁ、戦闘経験は少ないようですが≫
「だね」
戦闘機人・・・・・・というかナンバーズには、互いの戦闘経験を共有するっていう能力があったはず。
よーするに、長女がガチで戦えば、その経験を妹全員に等しくデータとして与えられるというものだ。
とは言え、それはあくまでもデータ。戦いなんて言うのはそれでなんとかなるほど甘くない。
鉄火場に立って、どれだけ敵の弾や斬撃や砲撃を避けて、一撃を入れられたか。
そういうものの積み重ねで、経験って言うのは自分のものになるの。
このティアナとやりあった連中は、その辺りが足りなかったってことでしょ。
で、肝心のティアナはというと・・・・・・うーん、ポジションはセンターガードで、ガンナーなのか。
射撃と・・・・・・幻術? また渋いもん使ってるなぁ。
どういう方向性で育ててるんだろ? あとでなのはに聞いてみるか。
「やっぱり、そういうの気になるの?」
そう聞いてきたのは、ロングアーチスタッフ。アルト・クラエッタさん。
シグナムさんとは昔からの知り合いで、それが縁で六課に参加。ヘリパイロットの資格も持っているとか。
「そりゃあ気になりますよ。いずれ模擬戦なんかで戦う相手なんですから、入手できる情報は多い方がいいですし」
「そういうことなのっ!?」
そういう事なのですよ。正直、これで興味を持つなというのが無理である。
≪それもありますが、やはり特化能力だけならオーバーSを記録出来る戦闘機人を複数相手にして、勝てるほどの実力者ですから。興味は尽きません≫
ちょっと腕に覚えがあって戦うのが大好きな魔導師なら、よだれをたらして戦いたがる。・・・・・・シグナムさんとかね。
「うー、早く訓練再開されないかなぁ。スバルは昨日ので分かったけど、他の3人が気になるよ」
≪スバルさんの実力を考えると、あれと同程度なのは間違いないでしょうが≫
「なぎ君は戦うの好きだもんね」
ちょっと呆れ気味な顔をしているのは、同じくロングアーチスタッフのルキノさん。
クロノさんが艦長を勤めていた次元航行艦・アースラに乗艦していたのが縁で、とても仲良くなった。
・・・・・・まぁ、ルキノさんが艦船マニアなので、すごい話に付き合わされたというだけなのだけど。
なお、ルキノさんは同じくアースラに乗る事が多かったフェイトの推薦で、六課に入ったらしい。
そういうの、六課は多いんだよね。特に主要メンバーは、顔見知りで構成されてるようなもん。
エリオとキャロも六課の求めてる人材に適合したからとは言え、フェイトの関係者でしょ?
二人は、保護者であるフェイトの力になりたくて、局員になったし六課にも志願した。
あー、それとスバルも同じか。朝ご飯の時に、聞いても無いのに話してくれた。
4年前に某所で起きた空港火災で、なのはに助けられたらしい。それが縁で、魔導師になった。
そう考えると、フォワード陣は隊長陣と縁と言うか絡みがあるの。そういうのが無いの、ティアナくらいじゃない?
ティアナは単純にスキルとキャリアアップのために、六課に来たそうだから。・・・・・・普通は、そうなんだよね。
なんつうか、だからこのフレンドリーな空気なんだろうね。これ、部隊って言うか学校とかそういう感じじゃないの?
フェイトがやたらとプッシュするのも分かる。これは、居心地がいい。居心地良過ぎて、解散した後に切り替えるの大変そうだけど。
「そうなの?」
「まぁ、嫌いじゃないですね」
命がけで戦ってるのは、楽しいし満たされる。これは、先生にも言われたこと。
あと、とある魔導師仲間にも言われた。完全無欠のバトルマニアだと。
もちろん、そうだからと言って事件が年がら年中起きて欲しいとは思わないけど。
魔導師だったり局員が戦う状況って言うのは、普通に事件が起きてる状況なのよ?
ぶっちゃけ、出番なしで平和が飽和状態になってるくらいでいいと思ってる。戦うことが好きでも、そこは変わらない。
「どういう風に戦えば勝てるか、どういう立ち回り方があるかとか考えるの、すっごく楽しいんですよね」
「なんというか・・・、なのはさん達の知り合いとは思えない発言だよね」
「でも、自重はしてるんです。痛いのはやっぱ嫌いですし」
あと、戦うのは好きだけど、痛いのは嫌いなの。言っておくけど、自分が痛いって話じゃない。
・・・・・・リインやフェイト、はやてになのは達が痛いのが嫌なんだ。
朝に話した怪我の時、みんなにしこたま怒られたからなぁ。
あの時に、ようやく認識出来た。僕が傷つくことで、理屈抜きで心を痛める人が出来たんだってことに。
まぁ、そいつがどうでもいいなら、そんなのは無視するんだけどさ。
でもみんなは僕にとって、そんな軽い存在じゃなかった。
だから、楽しい気持ちは二の次にしているわけである。
「なるほどねぇ」
それでもたまに全速力で振り切る事もあるのが、心苦しいけど。
それを成長してないと捉えるべきか、痛む心こそが成長と考えるべきか。迷うところだよ。
「あー、でもティアナは興味あるなぁ。幻術どんな風に使うんだろ」
幻術って、ちょっと特殊な魔法なのよ。僕は使えない。だから、興味がある。
どういう風にするのかなとか考えていくと、ワクワクが止まらない。うん、楽しいわコレ。
「ね、アルトアイゼン」
≪なんですかアルトさん≫
「なぎ君の言う興味って、魔導師としてだけ?」
≪残念ながら、それがこの人クオリティです。女の子としては持っていないでしょう≫
なにやら分からないことを話しているパートナーは放置。しかし・・・・・・あー、どんな感じなんだろ。
ちなみに、こんな話をしながらも手の動きは止めていない。
目で資料を追い、それを頭の中でまとめて、ブラインドタッチで報告書を纏めていく。
魔導師にとって、これくらいのマルチタスクは出来て当然である。
「・・・さて、もうお昼だね。なぎ君、なのはさんのとこ行くんだよね?」
「うん」
僕は、朝食の時になのはから自分の部屋に来るようにお願いされた。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい〜」
そうして僕とアルトは、隊員寮のなのはの部屋へと向かっていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「シャーリーさん」
「どうしたの、二人してニヤニヤして」
「なぎ君がなのはさんの部屋に呼ばれたのって、アレですよね?」
「アレ・・・・・・だろうね。あー、私も一緒に行こうかな? なぎ君の驚く顔が見てみたいよー!」
「なぎ君、やっぱ驚きますよね」
「驚くだろうね。なんせ、アレだもん」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「失礼しまーす」
≪お待たせしました≫
挨拶して、部屋に入る。まぁ、知ってるとは言え女の子の部屋だしね。
目に映るのは、ソファーが置いてあるリビング。そして、階段。
大体2メートル位の段差の上に、ベッドルームがある。
・・・・・・ここが、フェイトとなのはの部屋か。てゆうか、普通に広い。
ねぇ、これいいの? 僕の知ってる部隊の寮って、もっと質素なはずなのに。
「蒼凪、待っていたぞ」
「あら、いらっしゃい」
僕とアルトを明るい笑顔で向かえてくれたのは、ザフィーラさん。
それと青い髪をショートカットにした、落ち着きのある大人の女性。まぁ、好みかといわれれば好み。
ただ、僕の知り合いにこういう人はいない。というか、ここはなのはとフェイトの部屋のはず。
なのに、なんでこの人は我が物顔で掃除してる? いや、それ以前に誰?
「蒼凪、この方は六課の隊員寮の寮母をしてくださっているアイナさんだ」
「寮母?」
・・・・・・・あぁ、僕は隊員寮使わないから気にしてなかったけど、当然そういうお仕事の方もいるのか。
「えぇそうよ。恭文君でいいかしら?」
「はい」
「私は、ザフィーラさんが紹介してくれたけど、寮母のアイナ・トライトンです。アイナって呼んでね。
まぁ、あなたは寮生活は送らないから、あまり接点はないでしょうけど」
「あ、いえいえ。アイナさん、よろしくお願いします」
≪マスターともどもよろしくお願いします≫
うむぅ、僕の周りには居ないタイプだ。みーんなタヌキっぽくなってきてるしなぁ。
こう、大人の女性という感じがする。うーん、素敵だ。
「なのはさん達なら、すぐに戻ってくるから少しだけ待ってて」
「あ、はい」
というわけで、ソファーに座ってザフィーラさんを撫でたりしてるんだけど・・・・・・あぁ、撫で心地がいい。
だって、ふさふさしてるんだもん。もうだめ、我慢出来ない。
「ザフィーラさん、抱きついていいですか?」
「・・・・・・別に構わんが、お前、我が男だということを忘れていないか?」
「いや、分かってるんですけど・・・こう・・・もふもふしててふさふさしてるんでつい」
「本当に変わっていないな」
≪それがマスタークオリティです≫
うー、そうは言うけどさ。ザフィーラさんの触り心地は最高じゃないのさ〜。
前に、枕にして寝たときなんてもう、幸せがー。
・・・・・・そう口にしようと思ったその時だった。部屋のドアが開いた。
「ごめんっ! 恭文君お待たせっ!!」
「ごめんね。ちょっとかかっちゃった」
なのはとフェイトが走り込んできた。
「あぁ、大丈夫。ザフィーラさん撫でて時間潰してたから」
「そうなんだ、よかった」
「あの、アイナさん、ありがとうございました」
「いいのよ。恭文君とも挨拶できたし」
まー、軽くですけどね。・・・・・・さて、なのは。
「なに?」
≪わざわざここに呼び出した用件はなんですか?≫
「・・・・・・ひょっとして、ついに結婚?」
まぁ・・・・・・アレだよ。なのは。
「フェイトを嫁にしたいなら僕を倒してからにして。
というか・・・・・・なのは、さようなら。なのはのことは30秒くらいは忘れないよ」
「違うからぁぁぁぁっ! 私の存在はそんなに軽いのっ!?」
「そうだよヤスフミ。私となのはは・・・・・・そんな」
・・・・・・・フェイトが顔を真っ赤にしてる。あぁ、この光景を右から左へ流してしまいたい。
「とにかく、結婚じゃないならなに?」
まぁ、想像はつくけど。・・・・・・じつは、部屋に入ってきたのは、なのはとフェイトだけじゃなかった。あと一人だけ居た。
年のころなら、6歳前後。栗色の髪に、翠色と朱色両方の色を持つオッドアイの瞳をした女の子。
栗色の髪は腰まで伸びており、耳の上の両サイドにリボンを使っておさげを作っている。
可愛らしく、見ているだけで穏やかで優しい気持ちになれるような女の子が、フェイト達と一緒に来た。
「・・・・・・なるほど、大体分かった」
えっと、ひょっとしてこの子がなのはに懐いてるって言う子?
スカリエッティに捕まって、助け出されてなのはと一緒に検査入院してたって言う。
とりあえず、立ち上がってその子へと近づいていく。
うーん、ちょっと人見知りする子なのかな? 警戒されてるように感じる。
なので、その子の前までくるとしゃがみこみ、二コリと笑って見せた。
「こんにちは」
さすがに、お子様相手にお仕事モードはないのよ。
てゆうか、この子に僕の仕事の事なんて、関係ないし。
「・・・・・・こんにちは」
女の子は元気に挨拶を返してくれた。それを見て、僕はまたにこやかに笑う。
いや、作り笑いとかじゃなくて・・・・・・本当に楽しくなってきたからだ。
この小さい女の子の笑顔は、大人の心を優しいものにしてくれる。
・・・・・・『子は鎹』とは、そういう意味を含めた言葉かもしれない。
「初めまして。僕は蒼凪恭文って言うんだ。で、こっちが」
僕は、胸元にかけていた相棒を外して、宙に浮かせる。
女の子は、興味津々な顔でそれを見る。
≪初めまして。私はアルトアイゼンと言います≫
「あると・・・・・・あいぜん?」
「うん、そうだよ。僕のパートナーデバイス」
≪まぁ、一応そういうことになってます≫
一応って言うなっ! 何気に8年の付き合いでしょっ!?
≪仕方ないではありませんか。まだまだグランド・マスターの域には辿りつけませんよね?
それで彼女も出来ませんし、思考はおかしいし、へタレは直らないし≫
「誰がヘタレだよっ! 僕は立派なハードボイルドキャラだっつーのっ!!」
≪勘違いでしょ。ハーフボイルドがいいところですよ。結局スバルさん達にもそんな感じじゃないですか≫
こ、こいつは・・・・・・! てーか、当たってるだけにムカつくしっ!!
「お兄ちゃん、このデバイスさんたくさんおしゃべりするね」
「ん? ・・・・・・あぁ、そうだね。アルトはすっごくおしゃべりなんだ」
≪マスターがへタレだと、嫌でもこうなるんです。
現に、高町教導官のレイジングハートや、フェイトさんのバルディッシュさんはこうではないでしょ?≫
「まだ言うか。ところでなのは、フェイト」
「なに?」
いや、こんな会話をしつつずっと気になってたんだけどさ。
「・・・・・・この子、どなた?」
大体分かった。分かったけど、僕は現在名前すら知らないのよ? そこはなんとかしたいのよ。
≪何を言ってるんですかマスター。高町教導官とフェイトさんのお子さんに決まっているじゃないですか≫
「・・・・・・あぁ、なるほどね。そういうことか。納得納得」
できるかぼけっ! どうしてそうなるっ!? つーか、この子の年齢を考えろっ!!
・・・・・・僕知り合っているはずだよ? 二人のお腹が大きくなったところなんて見たことないし。
≪もちろん冗談です。さすがにそんなわけは≫
「すごい、よくわかったねっ! フェイトちゃん、話してたのっ!?」
「う、ううん。やっぱりなのはとヴィヴィオが居る時にと思って」
≪「・・・・・・・・・・・・え?」≫
なのはとフェイトが、やたら感心した顔で僕とアルトを見る。いやいや・・・・・・いやいや、そんなわけないって。
これで、二人のことをママとか呼んだら信じなくちゃいけないけど。そうじゃないのに僕とアルトは信じませんよ。
「なのはママ、フェイトママ、このお兄ちゃんとデバイスさんがもしかして」
「そうだよ。さっきお話した、なのはママのお友達で、フェイトママの家族なんだよ。さ、挨拶してみようか」
≪「・・・・・・・・・・・・え?」≫
まてまて、今なんて言ったっ!? フェイト『ママ』に、なのは・・・・・・『ママ』っ!?
いやいやいやいや、まてまてまてまてっ! 落ち着けけ・・・・・落ち着いて僕達っ!!
”残念ながら、今回ばかりは私もKOOLです。思わずラップを歌ってしまいそうです”
”あぁ、僕と同じだね。あのキャラソン面白いし”
いや、そうじゃないから。・・・・・・落ち着こうぜ。COOLでいこうさ僕っ!!
まぁ、これくらいは普通じゃない? いくらママと呼んだとしても、本当にそうかどうかなんて分からないわけだし。
まぁ、この子が高町かテスタロッサかハラウオン性を名乗ったら、信じなくちゃいけないだろうけど。
「うん。・・・・・・初めまして、高町ヴィヴィオです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁぁぁぁぁぁぁぁのぉぉぉぉぉぉぉぉぉはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「や、恭文君っ!? どうしたの・・・なんでそんな怖い顔で笑うのっ!?」
「・・・・・・どういうことかな?」
「どういうことって何っ!? それはこっちの台詞だよっ!!」
やかましいっ! 何も間違ってないよっ!? 僕の台詞でいいんだよっ!!
「どうして、この子はフェイトやなのはのことをママって呼ぶのかな? そして、なんで高町性を名乗ったのかな?
この腐れ魔王がっ! フェイトに・・・・・・フェイトに一体何をしたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あの、それは・・・・・・それはねっ!? お願いだから落ち着いてっ! アルトアイゼンをセットアップしようとしないでぇぇぇぇぇっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
僕とアルトは、あの衝撃に満ち溢れたお昼休みを終えて、そこから本日の仕事を無事に終了。
今は、六課隊舎の談話室でくつろいでいる所だった。そうして思い出すのは・・・・・・あの衝撃の時間。
いきなりかまされたダイレクトパンチはなかなかに強烈だったもの。
なんてったって、フェイトはともかく、あの高町なのはをママと呼ぶ少女がいきなり現れたのだから。
『マ』王や悪『マ』なら知ってるんだけど、『マ』『マ』で続けてくるとは・・・・・・・。
しかもカタカナ。決して『魔魔』ではない。もちろん『魔々』でもない。
いやぁ、『事実は小説より奇なり』とはよく言ったもんだよ、うん。
みんなになだめられて、なんとか落ち着いた僕は、その場で女の子とお話。
・・・・・・じゃなかった、ヴィヴィオが何者であるかの説明を受けた。
ヴィヴィオは、もともと自分たちが保護していた少女で、なのはが保護責任者。
フェイトが後見人になっており、それで自分たちのことをママと呼んでいるのだと説明された。
・・・・・・そこは知らなかった。単純に、懐かれて面倒見てるとだけ聞いてたから。
そしてその後、みんなで隊舎に戻って、お互いの仕事を再開した。
「・・・・・・でもアルト、なのはがなんか必死だったけどどうして? すごい勢いで捲くし立てられたよ?」
『絶対に変な誤解しないでね。お願いね。フェイトちゃんは後見人をしてくれているだけなんだよっ!?』って、しつこいくらいに念押しされたし。
≪気のせいですよ。高町教導官はいつもいつでも本気で生きているコイツ達みたいだからそう思えるんです≫
「そっか。それなら納得だ」
≪自覚、ないんですね≫
「なんか言った?」
≪いえ、別に≫
それで、更に詳しいことも説明された。なのはは、ヴィヴィオを養女にするんだとか。というか、したとか。
・・・・・・なんか、ヴィヴィオに『ホントのママになる』って約束したらしい。まぁ、ここはいい。
僕がどうこう言う話じゃないもの。そう、どうこう言うのは高町家の面々の仕事だから。
なんか、これからしばらく電話越しで家族会議の日々だとか。そりゃあなぁ・・・・・・いきなり娘がシングルマザーになるしなぁ。
フェイトはガチで親子じゃないけど、エリオやキャロの保護責任者になる時に、リンディさんとクロノさんとで相当協議してたし。
ん? アルフさんとエイミィさん? アルフさんは肉上げときゃ問題ないし、エイミィさんはその段階ではクロノさんの嫁じゃなかったもん。
で、僕もあれこれ言わなかった。というか、言う前にもう決まってた。・・・・・・まぁ、居候だしね。
あと、ヴィヴィオとはこう・・・・・・友達って感じにした。僕もアルトも、呼び捨てでいいからーって言ってさ。
普通にさん付けしようとするんだもの。逆にこっちが気を使っちゃうよ。・・・・・・あぁ、なんかだめだ。
まだ来てから二日目なのに、色々調子が狂わされてる感じがする。僕、仕事場ではハードボイルドキャラで居たいのに。
≪確かに、濃い二日目ではありましたね。でも、明日からも六課での日々は続きます。
しっかり休んで、明日からも頑張りましょう≫
「へいほーい、頑張るとしましょ。・・・・・・アルト、その返し、明日も続けるつもり?」
≪まぁ、私が飽きるまでは≫
いつ飽きるのかトトカルチョしても面白いねぇ。まぁ、やる相手居ないけど。
そんなことを考えていると、談話室のドアが開いた。そう、白いあのお方の再登場である。
「ゴメン二人ともっ! お待たせっ!!」
「なのは、デートに遅刻するのはマナー違反って知ってる?」
≪全くです≫
「デートじゃないよねこれっ!!」
声を荒げるなのはに、僕はお手上げポーズで答えた。これは、当然の事だから。
「当然でしょ。つか、誘うならもうちょっと気の効いたとこ誘うし」
≪全くです≫
「・・・・・・本当に相変わらずだよね。恭文君もアルトアイゼンも」
なのは、誉めるならもっとちゃんと誉めて欲しいよ。とりあえず、頭を抱えるのはやめて。
「誉めてないから。・・・・・・と言いますか、大事な話ってなに?」
「そうなんだよ。実はすっごく大事な話があってね」
そう、べつにただくつろぐためにここに居たわけじゃない。
・・・・・・高町なのはに、ちょっとしたヤボ用があったのだ。
「なのは、正直に答えて。今の身体の調子はどんな感じなの」
「え?」
「僕がここに来た理由、分かってるでしょ?」
そう、僕がここに来たのは、目の前に居るバカが無茶やらかしてくれたおかげだ。
「バカってひどいよっ!!」
「ほう、じゃあバカと言われないようにしっかり配慮した上で無茶したのかな?」
「・・・・・・ごめんなさい。配慮しませんでした。かなり無茶苦茶しました。
謝るからそんな怖い目で私を見ないでください。・・・・・・うぅ」
・・・・・・全く、最初から素直になればいいのである。
「ツインテールじゃないんだから、下手な反撃などしないで欲しいよ。萌え要素無いんだし」
「ワケが分からないよそれっ! お願いだから、もっと優しくしてくれないかなっ!!」
「優しさなら、ユーノ先生から貰えばいいじゃないのさ」
僕が今言ったユーノ先生というのは、現在、本局にある『無限書庫』という半端じゃなくデカイデータベースの司書長。
あ、それだけじゃなくて考古学者という二束のわらじを履いている人なの。だけど、どっちもすっごく優秀なの。
本人はどっかの砲撃バカと違って控えめで温和な性格。僕もその人柄に惹かれて、師匠と先生以外で尊敬し、『先生』と呼んでいる。
つまり・・・・・・教えをこうに相応しい人物として認識している。
「そんなのダメだよ。ユーノ君は友達なんだし」
・・・・・・補足事項を一つ。ユーノ先生は、高町なのはの事が好きです。
ただし、なのは本人は気付いていない。空気化というか、仲のいい友達としてしか認識していない。
「うん、そうだね。ごめん忘れていたよ。ユーノさんだって年頃だし、他に相手居るかもしれないもんね」
「でも、そんな話まったく聞かないんだよね。ユーノ君大丈夫なのかな?」
お前の神経と鈍感さよりはマシだよと思ったそこのあなた。・・・・・・正解です。
「ユーノ先生の今後のことより、自分の身体のこと心配しなよ。で、どうなの?」
「あぁ、それならもう大丈夫だよ。うん、元気元気」
そう言って、なのははガッツポーズなど笑顔でかます。・・・・・・そうか、そうなんだ。それはよかった。
「それならなのは、今から出す選択肢のうちどれか一つを選んで。
通常モードで斬られるか、僕の拳でどつかれるか。さ、どれか一つだけ選んで」
「なんでいきなりそんな話にっ!?」
「当たり前じゃボケっ! 大丈夫の一言で済んだら、僕がここに居るわけないでしょっ!?」
そもそもリンディさんやはやてから出向の話なんで出るわけがないし。
「もし本当にそうなら、今すぐトンズラこいてエーゲ海でバカンスかましたいんだよこっちはっ!!」
そんな対外的なこと聞くために、スーパーのタイムサービス逃してまでここに居るわけじゃない。
ちゃんとしておかなきゃ意味ないのよ。・・・・・・僕が、これ以上無茶させないために居るってこと、忘れないでほしい。
「・・・・・・うん、そうだね。ごめん」
「謝らなくていいから選んで。・・・・・・あぁ、なるほど。『アレ』で吹っ飛ばされるのがお好みなのかな?」
「『アレ』は本当にシャレが効かないからやめてっ!!
・・・・・・うぅ、正直に答えますから、それだけはやめてください」
・・・・・・まったく、最初から素直になっていれば、命だけは助けてやったものを。
「どっちにしろ死亡確定っ!?」
「いいじゃん、人間はいつか死ぬ。これは真理なんだから」
「そんなもっともらしい事言ってもなにも変わらないからっ!!」
・・・・・・・こんな漫才をしつつもなのははちゃんと話してくれた。
いかに自分が愚かでどうしようもなくダメな存在かという懺悔を。
「そんなこと言ってないからっ!!」
「ブラスターシステムやら使って無茶しまくった人間に反論の余地はない。
それもリミット3まで開放して、長時間発動っ!? ばっかじゃないのっ!!」
「うぅ」
≪しかも、話を聞く限り相当無茶な使い方をしていますし。
まぁ、あの後、ヴィータ師匠やシャーリーさん達から詳しい話を聞いたので、事情もある程度は把握しました≫
うん、聞いた聞いた。周りの証言も無いと、ちゃんとした把握は無理だと思ったので、聞きましたさ。
≪ですが、自殺行為もいい所でしょ≫
「そうだよ。まぁ、その場に居なかった僕が言えた義理じゃないけど、そういう無茶は本当に自重して。
なのはがよくても、フェイトや師匠。はやて達が平気じゃないんだから。そして、結果的に僕の仕事が増えるでしょ」
「・・・・・・はい」
本当にそうして欲しい。まぁ、止めてもまたやるべき時になったらやっちゃうんだろうけどさ。
「僕が来た以上、そんなバカな真似したらどんな状況でも後ろからぶった斬って退場してもらうから」
「えぇぇぇっっ!?」
≪当然です。・・・・・・あなた、私とマスターの友達となった彼女を泣かせるつもりですか?≫
「そんなことしないよ」
そう躊躇い無く言い切ったなのはの目を見る。なのはの目はどこか輝いてるようにも感じて・・・・・・あれ?
なんか、僕の知ってるなのはと違う。別に悪い意味じゃなくて、こう・・・・・・なんだろ。強くなった感じがするというかなんというか。
「ヴィヴィオとの約束、守りたいんだ。だから、絶対潰れない」
「・・・・・・なら、一人で突っ走らないで、もっと周りの人間を頼りなよ」
「それは恭文君には言われたくないけど? ・・・・・・フェイトちゃんから聞いたよ。
初日から、いつも通りのお仕事モード通してちょっと揉めたって」
・・・・・・フェイトのおしゃべり。てゆうか、何故に横馬はちょっと視線が厳しくなるのさ。
なお、サイドポニーだから横馬ね? ここは承知しておくように。
「僕は通りすがりだもの。問題ないよ。てーか、仕事の時はこんな感じだって知ってるよね?」
「でも、ここは普通の部隊じゃないよ? はやてちゃんやみんなの夢の部隊。
・・・・・・もう少しだけ、力抜いていいんじゃないかな。そうしたら、きっと色々変わるよ」
なのはが微笑む。人に言う前に、まず自分から力を抜く事にしたらしい。
抜いて、僕に笑いかける。そのまま・・・・・・僕を真っ直ぐに見る。
「みんなの夢の部隊に恭文君も入って、そこで居場所や大事な想い出が出来て・・・・・・うん、そうだよ。
恭文君にも六課の中で沢山想い出や繋がりに居場所を、いっぱい作って欲しいんだ。だから」
「興味ない。てーか、力抜きたくても無茶するバカが居るせいで抜けないのよ」
なのはの微笑むような表情が曇る。それから、小さく唸る。
「横馬はどうせ必要だと思ったら、どうせまたブラスター使うんだろうしさ。
・・・・・・なのは、僕が力抜けない原因の一つが自分だって、自覚ないでしょ」
これからどうこうって話じゃない。現時点でこの横馬は、ダメージ負ってるのよ?
これで力を抜いて油断して、なのはが潰れる? ・・・・・・んなの、ごめんだし。
「・・・・・・それはその・・・・・・うん、そうだね」
「とにかく、僕が通すべき仕事を通すだけ。それは、なのは・・・・・・はどうでもいいな。
うん、どうでもいいや。潰れるなら勝手に潰れてろ」
「ちょっとっ!? それはいくらなんでも傷つくんだけどっ!!」
「通すべき仕事は、ヴィヴィオの笑顔を守ること。
ヴィヴィオの世界の一部であるなのはを・・・・・・守ること」
「え?」
お手上げポーズでため息なんて吐く。我ながら甘いよなーとか、思いつつ。
「それで、みんなの笑顔を守ること。フェイトだったり、師匠だったりね。
だから、力は抜けない。誰かの笑顔を守るってのは、難しいのよ?」
「・・・・・・恭文君」
はっきり言って、僕のプライベートなことなんざ、どうだっていいのよ。僕の意見なんざ、どうでもいいの。
だってさ、戦いの中で傷付くのは、ある意味じゃ当たり前の事なんだから。
その場に居なかった戦いの傷について、僕はあーだこーだは言いたくない。
でも、フェイトやら師匠達が本気で心配していて、辛い顔を浮かべているのは、見てて気分がよろしくない。
それだけじゃなく、アルトが言った通りに、あの可愛らしい女の子が泣くのはアウト。あんな事情があるなら余計にだ。
「それで、師匠やフェイトから色々聞いた。ヴィヴィオの出自とかも全部」
「・・・・・・そっか。あのね恭文君、今のあの子は」
「分かってる。あの子はなのはの娘で、僕の友達。うん、それだけだよ?
あの子が聖王だろうが魔王だろうが、そこは変えないから安心して?」
「なら、良かった」
・・・・・・・・・これは、ここに来るまでの間に師匠とフェイトから聞いたこと。
なのはがこれだけの無茶をしたのは、ヴィヴィオを助けるためだったそうだ。
僕としては、なのはの無茶の原因が知りたかっただけなんだけどね。全部話してくれたよ。
六課隊舎が陥落したとき、保護されていたヴィヴィオは、スカリエッティにさらわれた。
さらった理由は、ヴィヴィオが人造魔導師素体。
ようするに、クローニング技術の応用で、人工的に生み出された存在だから。
それも、元になった遺伝子は・・・300年前の古代ベルカの時代の人間。
しかも、ヴィヴィオはその時代に存在していた、何かしらの固有スキルまで保持しているそうだ。
というか、聖王と呼ばれる存在なのよ。聖王は、古代ベルカの戦乱時代を終わらせた英雄。
なんでも女性だったらしいんだけど、ヴィヴィオはその女性のクローン。
JS事件で出てきたゆりかごは、聖王とそれに連なる人間にしか動かせない。
遺伝子レベルでの判断だから、誤魔化しは利かない。だから・・・・・・なのよ。
だからこそあの変態ドクター(友達談)は、ヴィヴィオをさらった。ゆりかごを動かすために。
で、その時には母親としての情に目覚めていたなのはは、助け出すために無茶をした。
まぁ、ここはどうでもいいの。大事なのは、今のヴィヴィオにとって世界の大半は、なのはで出来てるってこと。
親って、そういうもんなのよ。ヴィヴィオくらいの年頃だと、特にね。
だから、なのはが傷付くっていうのは、あの子の世界そのものが傷付くのと同意義だと思う。
そうしたら、きっと泣いちゃうよ。子どもの笑顔を守るのは、大人の仕事だから・・・・・・まぁ、ねぇ。
あーもう、こういうの嫌いなのに。どうしてもうちょいビジネスライクにいけないもんか。
「なのは、もう一度言っておく。僕はなのはにフェイトやみんながどう言おうと、居場所どうこうなんて興味はない。
下手にスバル達と馴れ合うつもりもない。僕はここに自分の勝手で、自分のありったけで、守るって綺麗事を通しに来たの」
それが僕の決めた仕事ですよ。とりあえず、目標はみんな笑って解散エンドだしね。
そこに僕は数に入ってなくていいのよ。だって僕、通りすがりの中途入隊だしさ。
「だから、グダグダ言わないで」
「でも、あの・・・・・・ねぇ恭文君、そう言ってくれるのは嬉しいけど」
「分かった?」
視線を厳しくする。僕は有無を言わせるつもりはない。・・・・・・もう、関わっちゃったしね。
あんな小さな子が泣くのは、嫌なのよ。あの子がなのはが好きなのは、本当に伝わったから。
「・・・・・・分かった。というか、ごめん。私・・・・・・迷惑、かけてるよね」
「かけてるね。でも、別にいいよ」
教導官で一等空尉で、エース・オブ・エースな高町なのはなら、僕は見捨ててた。でも、そうじゃないもの。
「なのはは、僕の友達だもの。友達がかける迷惑なら、遠慮なく被るよ。
・・・・・・だから、もうそういうのはいらない。いい?」
「・・・・・・うん」
そうして、なのはとの緊急対談は終了した。
ま、元気そうでちと安心したわ。そうでなくちゃいぢめ甲斐がないし。
なにより、まだじーさんばーさんでもないのに、知り合いの葬式に出席なんてごめんだ。
ちなみに・・・・・・この話にはオチがある。
「・・・・・・・なんにもない」
ここは、うちの近所のスーパー。スーパーなのに、棚ががら空き。
鮮生食品の棚なんて、もうガッラガラ。きっと、数時間前まではひしめいてたのに。
≪仕方有りません。閉店間際ですから≫
なのはと散々っぱら話をしていたおかげで、家の近所のスーパーの食料品が全滅していた。
というか、ほとんど売り切れててめぼしい物がない。せいぜい、インスタント系統の物くらい。
「つまりこれは」
≪明日も食堂で朝ご飯ですね≫
「・・・・・・ちくしょー! 明日も魔王っていじめて憂さ晴らししてやるっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「うーん」
「なのは、どうしたの?」
なのはが、部屋に戻って来てからソファーに座ってずっと唸ってる。
私は、隣に座ってちょっと聞いてみる。なお、ヴィヴィオはなのはの膝の上でぐっすり。
「あ、ちょっと恭文君と話してきたんだ。ただ・・・・・・なぁ」
「怒られた?」
多分、なのはの身体の状態の事だと思ったから。でも、なのはは首を横に振った。
「ううん。・・・・・・宣言されただけ。お仕事キャラは完全に外して欲しいって言ったら、見事に。
自分は通りすがりで、六課の中で居場所なんて作るつもりはないって」
「・・・・・・そっか」
やっぱり、お仕事モードを通そうとするんだね。本当はやめて欲しいのに。
あの、普通なら・・・・・・それでいいと思うの。多分、私達の言ってる事がズレてる。
ただ、余りにも温度差が激し過ぎて引かれる事が多いらしいの。私も、噂程度に聞いてる。
そういうの、少しでも改善というか、良い方向に持っていければなって、ちょっと考えてる。
ここはヤスフミの事を良く知ってる人の方が多いんだし、きっとそれは可能。
一人だけで頑なに強がらなくても、きっといいんだよ。甘くても、柔らかくてもいい。
みんなが一つになって、目の前の事件に対処して解決する。部隊って、そういうものだから。
「ただね、私は何も言えなかったんだ。だって、力が抜けない原因の大半は私だから。
私やフェイトちゃんにヴィヴィオ、みんなが解散の時に笑顔で居られるようにしたいからって言われて」
「ヤスフミ、そんな事言ってたんだ。・・・・・・でもそれって」
「うん。その『みんな』の中には、恭文君は入ってない」
・・・・・・そうなるの。ヤスフミは、多分解散の時に笑ってなくちゃいけない人間の中に、自分を入れてない。
もし入れてるなら、もっとスバル達と距離を縮めてもいいと思うもの。でも、基本的には昨日のままらしいし。
「まぁ、仕方ないよね。だって来たばっかりだし、いきなりは無理だよ」
「そうだね。きっとこれから・・・・・・これから、なんだよね」
よくよく考えたら、私は結果を急ぎ過ぎてるのかも。これは、だめだよね。
私やなのはにみんなにとっては、六課は大事な居場所。でも、ヤスフミはきっとそうじゃない。
いきなり仲間や友達になんて、なれるわけがないもの。私も、なのはとヤスフミとはそんな感じだった。
これから、少しずつ・・・・・・時間が積み重なっていけば、色々変わるのかな。
ううん、きっと変わっていくよね。通りすがりなんて寂しいこと、言わなくなる・・・・・・よね。
(第6話へ続く)
あとがき
古鉄≪・・・・・・ツンデレですね≫
恭文「気のせいだよ。僕はすっごく素直だし」
古鉄≪というわけで、加筆修正版第5話、いかがだったでしょうか。
古き鉄・アルトアイゼンです。いやぁ、普通にハーフボイルドですね≫
恭文「ハードボイルドだってっ!! ・・・・・・えー、どうも。蒼凪恭文です。
しかしさアルト、加筆修正版ってけっこう大変だよね」
(青い古き鉄、そう言いながらため息を吐く)
古鉄≪普通に大幅修正してるからですよ。まぁ、後々の話と色々統合性を鑑みてるからですけど≫
恭文「色々決まった設定あるしねー。やばい、そうなるとマジで加筆修正かも。
あ、誤字報告ありがとうございますー。作者、基本的にバカなので非常に助かってます」
古鉄≪あれですよ。かなり何回か読み直すのに、全然気づかないんですよ。
集中力無いですしねぇ。あれ、なんとかならないんですか?≫
恭文「・・・・・・どっかの通信講座でも受ける? 集中力を高めるさ」
古鉄≪その方がいいんですかね≫
(二人して、深い深い溜息を吐く。吐いて・・・・・・作者に何かが突き刺さる)
恭文「というわけで、次回ですよ。あー、どうなんだろ。加筆修正どうなるんだろ」
古鉄≪基本ラインは、フェイトさんヒロイン押しを強くする方向らしいですけどね。
ほら、フェイトさんがライオットザンバーを持って、作者を脅してますから≫
(『だから脅してないよっ! ちょっとお願いしただけだよっ!? というか、バルディッシュなんて持ち出してないしっ!!』・・・・・・という声がした)
恭文「それでは、そんな次回に期待しつつ今回はここまで。お相手は蒼凪恭文と」
古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンでした。それでは・・・・・・またっ!!≫
(そうして、二人手を振りながらカメラに微笑む。ここもまぁ、高齢な感じ。
本日のED:ジン『解読不能』)
???『・・・・・・で、アンタはピザ食べてると』
???『それもLサイズにチキンにサンドまで付けて・・・・・・豪勢だな』
恭文「半分やけ食いですけどね。全く、居場所居場所って相当なんですから」
古鉄≪色々心配してるんでしょ。あなた、局員になるわけでもないですし、特定の役職に就くわけでもないですし≫
恭文「・・・・・・僕達のコミュの大半、局員しか居ないしね。
なんつうか、アレかね。局員になって部隊に入って、居場所作らなくちゃおかしいのかな」
???『んなこたぁないよ。一番いい選択ではあるから、勧めてるだけだと思うな。
アンタの実力と人柄をちゃんと認めて、それならと思ってるんだよ』
???『しかしやっさん、お前・・・・・・その調子だと、これから苦労しそうだな。
もういつもみたいな通りすがりモードは通せないんじゃないのか?』
恭文「それは言わないでくださいよ。僕自身がかなり思ってるんですから。・・・・・・はぁ」
(おしまい)
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