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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第4話 『何事も程ほどが一番』(加筆修正版)



・・・・・・私が隊舎に到着すると、もう日は沈みきっていた。結構時間かかっちゃったな。

ヤスフミ、もう夕飯食べたかな? もしまだなら一緒に食べて、色々話したいな。

ここ半年、本当に色々あったから。うん、本当に色々あった。私もそうだし、ヤスフミにも。





あ、エリオとキャロとも仲良くしてくれてるといいんだけど。初対面だし、ちょっと心配。

そんな事を思って隊舎に入ると、目についた人影がある。

ピンクのポニーテールに、凛々しさを感じさせる表情。





・・・・・・シグナムが、向こうから歩いて来た。










「シグナム」



なので当然、私は声をかける。



「あぁ、テスタロッサ」



シグナムは私の声に気付くとこちらを見て、呼びかけに応えてくれた。



「今戻ってきたところか?」

「えぇ。それであの、ヤスフミ・・・・・・今どうしてますか?」

「医務室だ」



・・・・・・・・・・・・え?



「医務室?」

「そうだ」

「あの・・・・・・怪我とか病気の時に、行く場所?」

「そうだ」

「シャマルさんの城?」

「そうだ」



えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! い、医務室っ!? いったいなにがどうしたっていうのっ!!



「少し事情があって、先ほどまでスバルと模擬戦を行っていてな」

「模擬戦っ!?」

「それで、今は二人一緒に事後検査だ。しかし、なかなかいい勝負だった。
アイツも腕をまた上げたと、感心してしまった」





シグナムのその言葉に、私は言葉を失うしかなかった。

というかシグナム、論点はそこなんですかっ!? なんでそんなに嬉しそうなんですかっ!!

・・・なんでっ! まず、どうしていきなり模擬戦なんて話になるのっ!!



そ、そうだよっ! はやてやみんなは止めなかったのっ!?





「あの、それで大丈夫なんですか?」



主にスバルが。ヤスフミ、全く加減しないから。



「あぁ。問題ない。特にどこかを怪我したという事もない」



そのシグナムの言葉に、一応は胸を撫で下ろす。・・・・・・よかった。



「ただ、蒼凪の方が少しな」

「え?」

「詳しくはシャマルから聞くといい。ロビーでみんな集まって話を聞いているから、お前も行ってこい」

「あ、はい」



一体どうしたんだろ? ・・・・・・ひょっとして、模擬戦でなにか怪我をしたとかっ!?



「そう心配そうな顔をするな。それほど重い話ではない」

「そうですか?」

「そうだ。それではテスタロッサ、また後でな」

「はい、シグナム」










そうして、私は、みんなが居るロビーの方へと、足早に向かった。




でも・・・・・・初日でこれなんて、これからどうなるんだろ。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第4話 『何事も程ほどが一番』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「う・・・・・・・ん」



気だるい感覚が身体を包む。まだ、心と頭と身体のトライアングルのバランスが上手く取る事が出来ない。

目覚めた瞬間特有の感覚。うん、わたし・・・・・・どうしたの?

そう思いながら目をゆっくりと開ける。そこに映るのは真っ白な天井。



まるでどっかの病室を思わせるような天井。・・・・・・あぁ、知ってる天井だ。



とりあえず、起きよう。そう思って、身体をゆっくりと起こす。





「えっと、ここは」

「医務室だよ」

「へっ!? ・・・・・・恭文っ!!」



突然、声をかけられた。そちらを見ると、地上部隊の制服を着た小さな男の子が居た。


恭文が、事務机の傍に置かれているイスに座ってそこに居た。・・・・・・と言うか、いつからそこに?



「さっきからずっと居たよ? そして、誰が豆だ」



誰もそこまで言ってないよっ!!



≪あー、気にしないでください。・・・・・・なお、私も同じく居ました。
どうも私達はスバルさんからすると、存在感がないようですね≫

「は、ははは・・・・・・ごめん」

「別にいいよ。・・・・・・それより、身体の調子はどう?」



そう言われて、もう一度身体チェック。と言っても別に身体を動かしたりするわけじゃない。

自分の感覚を研ぎ澄ませて、身体のどこかに違和感がないかどうかを探る。・・・・・・よし。



「いい感じかな? もう一戦くらいいけそう」

「・・・・・・元気過ぎでしょ。お願いだからもうちょっと落ち着いて」



・・・・・・そうだ。私、負けたんだ。思い出して、ちょっとだけ悔しい気持ちになる。

最後のあの一撃まで、少なくとも本気じゃなかったんだなって。



「うぅ」



というか・・・・・・・むかつくーーー! うぅ、本当に相手になってなかったんだっ!!



「・・・・・・どうしたの?」

≪あぁ、あなたが乱暴にしたから≫

「僕が一体なにしたって言うのっ!?」



・・・・・・大丈夫だよ、大丈夫だから。だから、そんな心配そうな顔、しないでほしいかな。

なんていうか、エンジン入るとあぁなるんだね。あの時と全然雰囲気違うし・・・・・・よく分かったよ。



「そういえば、恭文はどうしてここに?」

「眠り姫が目を覚ますまで待ってたんだよ。さすがにキスして起こすわけにはいかないし」



き、キスっ!? あ、まさか私・・・・・・!!



「・・・・・・初対面で好き合ってるわけじゃないのに、そんなことするわけないでしょうが。お願いだから顔を赤くしないでよ」

「あ、うん」

≪真面目な話、スバルさんが目を覚ますまでついててあげたいっと言って聞かなかったんです。
・・・・・・自分だって、シャマルさんからドクターストップをかけられたというのに≫

「僕はいいのよ。だって僕、強いし」



そうだったんだ。ありがと・・・・・・って、ドクターストップっ!?



「恭文、どういうことっ! ひょっとして、私、なにか変な攻撃しちゃったのっ!?」

「あぁ、違う違うっ!! ・・・・・・うんとね、なんか、過労だって判明したの」

「過労っ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



模擬戦が終わってから、僕はスバルを医務室に運んだ。

そして、シャマルさんによる僕とスバルの検査が行われた。

スバルの方は全く問題なし。攻撃は非殺傷設定で行われていたしね。





もう当然のごとく、なんのダメージも残らないといわれた。

ついついその場のノリというか勢いでぶった斬ったからなぁ。

どうやら責任は取らずに済みそうだと胸を撫で下ろしていたのは、内緒にして欲しい。





まぁ、あの抱き止め方に関して、みんなから散々冷やかされたけど。

で、スバルは寝ていたので、ティアナとエリオとキャロとちょっとお話。

カートリッジやらなんやらを使わなかった訳を、説明した。・・・・・・めんどくさ。





なんですか、これ。部隊常駐ってなると、いっつもこうなの?

ちょっとだけゴタゴタしたけど、そこは時の流れの中においていこうと思う。

てーか、思い出すとめんどくさい。フォロー入れてくれた師匠達には感謝するばかりだよ。





そうこうしていると、シャマルさんから二人で話があると言われた。

なので、他の面々は自室に戻り、医務室には、僕とシャマルさんとアルトだけ。

あと、ベッドでグースカ寝ているスバルだけとなった。










「恭文君、単刀直入に聞きます。あなた、最近あまり寝てないでしょ?」

「へ? ・・・・・・そんなことありませんよ。普通に7時間くらい寝ますって」

「嘘だッ!!」

「なんでいきなりひぐらしっ!?」



・・・・・・お願いです。睨まないでください。

分かりました、ほんとのこと言いますから。ごめんなさい。



「すみません、嘘つきました。出向前日までに三日ほど完徹しました」

≪シャマルさん、すみません。でも、ちゃんと理由があるんですよ。理由が。
想像以上にクロノさんに提出しなければならない書類の方が多くて、どうしようもなかったんです≫



あぁ、シャマルさんの視線が厳しい。でも、たった二週間で出向だったのよ?

それで、あの無茶振り提督のせいでそれくらいやらないどダメだったのよっ! 分かってシャマルさんっ!!



「分かったわ」

「えっ!?」

「・・・・・・どうしてそこで驚くの」

「いや、てっきり『分かりません!』って一蹴されるかと」



うん、何時もはそのパターンだし。なお、自業自得のような気がしなくもないけど、きっと気のせいだ。



「・・・・・・あぁ、そういうこと。大丈夫よ、クロノさんには私から言っておきますから。
あなたは立場上、言いにくいこともあるでしょうから、その辺りも含めてね」





・・・・・・クロノさん、なんというか・・・・・・生きてください。

僕には、満面の笑みを浮かべている今のシャマルさんは止められません。

というか、アレだ。自業自得ですから、自分を恨んでください。



だって、さらば電王・・・・・・グス。クロノさんなんて、ハゲてしまえばいいんだ。





「とにかく、さっきの検査の結果を伝えます。模擬戦でのダメージは特にないから安心して。
それよりも問題なのは疲労の方よ。結構溜まってるわよ?」

「溜まってます?」

「えぇ」



やっぱりか。むむ、リゲイン飲まなかったのは、敗因だな。



「アウトですか? セーフですか?」

「ギリギリセーフってところね。もうちょっと酷かったらアウトだけど」



ふむ・・・・・・つまり、今すぐどうこうなったり、休まなきゃいけない状態ではない。

だけど、疲れが蓄積して抜けきっていない状態ってわけか。



「そうね。やっぱり、ここまで休み無しなのが堪えているのよ。
あなたの場合、身体の成長が一般男性に比べて遅れているのも大きいから」





気にしないようにはしてたんだけど、やっぱりそこに繋がるのか。

これは、前々から、シャマル先生に言われていたこと。

僕の身体は、一応鍛えてはいるものの、身体の元々の作りの問題で、というより体型的な問題。



・・・・・・・・・・・・ようするにちっちゃいってことなんだよっ! なんか悪いかオラッ!!

・・・・・・とにかく、普通の男性の魔導師よりはどうしても体力全般で劣る。

そして、疲労の蓄積などに対して、どうしても弱い部分があるのよ。





「だから、あまり無理はしないようにって言っているのにこれだもの。
とりあえず・・・・・・うん、ちゃんと休んでね? お休みも近いうちに必ず出すから」



えぇ、出してください。必ず出してください。お願いしますね? じゃないと、僕ダメになりますから。



「あと、溜まってる疲労が完全に抜けるまで、念のために模擬戦や魔法の使用は原則禁止します。自主トレもダメよ?」

「へっ!?」

「はやてちゃん達にはまだ話してないけど、きっとみんなも同じ意見よ。
・・・・・・少しだけでいいから、しっかりと休んで? 本当に、少しだけでいいから」



シャマルさんの瞳が僕を射抜く。出会った当初から何回もさせている、心配と、不安の混じった瞳。

それを見て僕は、やっぱり申し訳のない気持ちになってしまう。そう、今までと同じように。



「・・・・・・はい。迷惑かけてすみません」

「迷惑じゃないわよ。むしろ、私達が恭文君にかけてるんだしね」



そう言って、シャマルさんは『大丈夫よ』とニッコリと笑ってくれた。正直、それがすごくありがたかった。



「まぁそういうわけだから、言うことを聞いて? じゃないと」

「じゃないと・・・・・・?」

「みんなに言うわよ? 昔、まだ恭文くんが小さかった頃に私と一緒に・・・・・・たって。
そしてその後に・・・・・・たって。それで私がどんな事を感じたかを、事細かに言います。みんな、どう思うかしら〜♪」

「あぁぁぁぁぁっ! どうか、どうかそれだけはご勘弁をっ!!」



若かりし頃の過ちだったんですっ! 出来心だったんですっ!!

ちゃんと言うこと聞いて休みますから、それだけは許してーーー!!



「大丈夫よ、黙っててあげるから。・・・・・・私と恭文くんの二人だけの、大切な思い出だものね」

「・・・・・・そういう言い方するとR18なことしたって誤解されるから本当にやめてください」



せいぜいR12ですよ。・・・・・・いや、じゅう・・・・・・ご、かなぁ?



「えー! それじゃあ恭文くんは、私じゃ嫌なのっ!?」

「どうしてそうなるんですかっ! と言いますか、シャマルさんは別にそんな目で僕のこと見てないでしょっ!?」



あくまで近所のお姉さん的な位置でしょうが、あなたはっ! そ、そうだそうに違いないんだっ!!



「あら、そんなことないわよ。私は出会った頃からずっと恭文くんの事だけを見つめていたのよ?
いつか私の王子様になってくれると、信じているの。そう、だから私は現地」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇっ! その称号はお願いだから捨て去れー!!」










・・・・・・あぁ、六課に居る間はシャマルさんには完全に頭が上がらなくなるのは決定か。





にっこり笑顔なシャマルさんを見て、僕はそんな暗い未来を・・・・・・確信していた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・以上で回想終了です。というか、説明?










「なるほど。・・・・・・って、そんな状態で模擬戦してたのっ!?」

≪問題はないと思っていた私が原因です。いや、この人三度の飯より戦うのが好きですし≫



あー、アルトだけのせいじゃないよ。僕も、一日ぐっすり寝れば大丈夫とか思ってたし。

あと、僕の事を指してそんな風に言うな。僕は極々一般的な平和主義者だっつーの。



「・・・・・・それで、シャマル先生は結論としてはなんて言ってたの?」

「うん、別に怪我とかじゃなくて、ただの疲れ。それも軽めのね」



ただ、念のために疲労が抜けるまでは模擬戦や、魔法戦の訓練の類は禁止。

でも、剣の素振りや、軽めの組み手くらいはやってもいいって許可をもらった。というか、取り付けた。



「そっか、よかったね。・・・・・・ごめん」

「・・・・・・なんで謝るのさ。スバル、なんにも悪いことしてないでしょ?」

「それでも・・・ごめん。やっぱりいきなり過ぎたかなって」



いや、だから謝んなくていいから。なぜにそんないきなりキャラチェン? 内気な乙女モードはやめてよ。

あー、なんか暗い空気だしてるし、どうすりゃいいのこれっ!!



「失礼します」



そんな事を思っていると、医務室のドアが開いた。

入ってきたのは・・・・・・僕が良く知っている一人の女性。



「・・・フェイトさんっ!!」

「スバル、目が覚めたんだね。よかった」





そう言いながら、僕とスバルの方に近づいてくる。

一歩ずつ歩くたびに、煌びやかな金色の長い髪が靡く。

優しい輝きを放つ瞳は、吸い込まれそうなルビー色。



そんな容姿の彼女の名前は、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。

時空管理局本局で、執務官という職務についている優秀な女性。

それと同時に、六課の分隊長を務められるほどの実力を持ったオーバーSランク魔導師。



はやてやシャマルさん達、それにリインと同じく、僕が魔導師になってからの付き合いのある友達。

・・・・・・うん、ちょっと違うな。対外的にはお姉さんって感じになるのかな?

なんというか僕の事をすぐ子ども扱いするし。くそ、身長高いからってそれはないでしょ。





「ヤスフミ、どうかした?」

「あぁ、気にしなくていいから」



と言いますか、気にされると色々とマズくなりそうだし。



「そう・・・・・・?」

≪フェイトさん、ごぶさたしています≫

「うん、久しぶりだねアルトアイゼン。
ヤスフミも・・・・・・少しだけ、久しぶり」

「・・・・・・うん」



なんていうか・・・・・・うん、ドキドキしてしまう。だって、フェイト綺麗なんだもん。

とにかく、話を進めることにする。



「フェイト、どうしたの?」

「二人が模擬戦をして、ここにいるってシグナムからね」

「あー、それで僕やスバルの様子見に来てくれたの」

「うん、それで、シャマルさんからも話を聞いたところ。スバル、身体の方は大丈夫かな?」

「あ、はい。大丈夫です!」



元気イッパイにガッツポーズなどする豆芝。・・・・・・うん、よかった。元気そうだ。



「あの、変なところとかないかな? こう、アザになってたりとか」

「え?」

「フェイト、ちゃんと僕もアルトも非殺傷設定で威力も調整した上で斬ったから」



師匠に念のためにと監修してもらったから、問題はないはず。

いや、調整した上で加減なく斬ったような気がするけど、気のせいだ。



「でも、あんな思いっきり抱きついたら」

「フェイト、仕事あるんじゃないの? ほらほら、早くオフィス戻んないと」

「えっ!? ちょっと・・・・・・ヤスフミっ!!」



とりあえず、両肩を取ってフェイトを180度回転させて、さようならーである。



「あの、抱きつくってなんですか?」

「スバルは気にしなくていいんだよ?」

「気になるよっ!!」



く、こうなったら仕方ない。いい感じのことのように白状しよう。



「いや、スバルを墜とした時に、スバルがバランス崩してウィングロードから落ちたんで、僕が抱きとめたんだよ」

「そうなの?」

≪そうなんです。あなたのような素敵なレディに、怪我をさせるわけにはいかないですから。
ただ、この人も必死だったので、少し乱暴な感じになったんです。まぁ、笑って許してあげてください≫



アルト、いいタイミングだっ! ただ、ちょっと余計な一言増えたけどっ!!



「そうなんだ。あの、ありがと」

「いや、まぁ・・・・・・ねぇ?」



あぁ、心が痛い。スバルの笑顔を直視できない。

神様ごめんなさい。僕は嘘つきです。



”ヤスフミ、どっちにしても映像見られるか、マッハキャリバーが話したらばれるよ?”

”・・・・・・延命措置を要望します”



とにかく、もしそうなったら・・・・・・ギリギリだったんだと謝り倒そう。うん、たった今、心に決めた。



「スバルは大丈夫そうだね。・・・・・・ヤスフミも、身体の方はどう?」

「あー、うん大丈夫。ただ、疲れが取れるまでは絶対に無茶しないようにって釘を刺されたけど」

「うん、それも聞いてる。こっちの事は気にしなくてもいいから、しっかり休んでね」

「そうさせてもらうわ。てーか、元々気にする予定無かったんだし、するつもりもない」



お手上げポーズで軽く言うと、フェイトの表情が重くなった。そして、こう口にする。



「・・・・・・ごめん」

「謝るな。てーか、謝るくらいだったら最初から呼ぶな。
まぁ、アレだよ。めんどくなったら適当に逃げるし、大丈夫よ?」

「それはあんまり大丈夫じゃないんだけど・・・・・・うん、でも納得した」

「フェイトさん、納得しちゃうんですかっ!?」



しちゃうのよ。伊達に8年とか付き合いあるわけじゃないし。

だから、フェイトだってニコニコとした目で僕を見るのよ。・・・・・・ふん。



「てーか、謝る謝らないなら、謝るのはこっちの方でしょ。救援で来たのに、早速模擬戦で過労だもの」

「・・・・・・そうだね、正直聞いてびっくりした。ただ、それに関してはみんな納得してくれてるから大丈夫だよ?
あと、はやてにはしっかりとお説教しておいた。いくらなんでも・・・・・・色々、無視し過ぎだもの。ヤスフミ、ホントに大丈夫?」

「大丈夫、問題ない。てゆうか、あの程度で問題になるほどヤワな人生送ってない。
スバルはちゃーんと設定守って攻撃してくれたし、反則手使ったわけじゃないんだし」

「確かにそうだね」





・・・・・・・・・・・・僕は、フェイトの事が好き。だから・・・・・・なのかな。

あんまり弱いとことか、ダメなとことか見せたくないの。うん、意地張っちゃう部分はある。

男心は複雑なのよ。誰にも見せられない部分を見せる時もあれば、そうじゃない部分もある。



うん、僕も同じですよ。男は、バカで強い。だから、強がらなきゃ・・・・・・バカしか、残らないもの。





”反則な手なのは、むしろヤスフミの方だよね。スバルに対して、多少行き過ぎた発言はあったし”



く、やっぱツッコんで来たか。あぁもう、このフェアプレイ精神信仰って、執務官としてどうなのよ。



”ヤスフミ、ちゃんと謝ろう? さすがにアレは言い過ぎだよ。
あの模擬戦は、歓迎会の意味もあったんだよ? それなのにアレはない”

”何言ってるの。アレくらいはお遊びの範疇だよ。
てーか、僕がそういう戦い方するって知ってるよね?”

”それはそうだけど・・・・・・でも、スバルは同じ部隊の仲間なんだよ?
あと、さっきもティアとエリオとキャロと揉めたって言うし、ちゃんとしなきゃだめ”

”仲間なんかじゃないよ”



フェイトがアホな事言うのでハッキリ言ってあげる。悲しそうな顔するけど、だめ。

僕はスバルの事、現段階においては仲間とはこれっぽっちも思ってないもの。



”これから、仲間になるかも知れないけど、現段階ではみんな仲間じゃない”

”・・・・・・なるほど。そういう意味なら一応は納得だよ”

”そうだよ。てーか、僕は基本通りすがり。そこまで深く関わる道理はない”

”あるよ。ヤスフミが望めば、ここに居場所を作ることは出来るよ?
新しい友達を作って、ここでの繋がりや仕事での立ち位置が大事になって”

”そんなの興味ない。今興味があるのは、僕の休みが如何に確保されるかという事だけよ”



まぁ、さすがに常駐・・・・・・だしなぁ。いつもの調子で通りすがりも出来ないよなぁ。うぅ、めんどい。



”てゆうか、僕は戦いと仕事の時はハードボイルドで通すって決めてるの”





ハードボイルド・・・・・・語源は、地球の諸外国の探偵小説。フィリップ・マーロウという人物を主人公にしたシリーズ物。

どんな危機にも動じず、冷静沈着に軽めのジョークと挑発なんて飛ばして、危険を回避するタフな男。

強くなければ生きていけない。そして、優しくなければ生きる資格がないという言葉を、地で行く鉄の男。



それがハードボイルド。・・・・・・やばい。改めて言葉にして列挙すると、すっごいカッコいいぞ。





”誰が相手だろうと、状況がどうだろうと、それは変わらない。なので、いつも通りにやるだけ。
僕、別に仲好し小好しをするためにここに来たわけじゃないし。仕事しに来たのよ仕事”

”・・・・・・私は、プライベートの時の柔らかいヤスフミの方が好きだけどな。きっとみんなも同じだよ。
出来れば六課の中では、そういうのは抑えて欲しいんだ。そうじゃないと、馴染めないよ”

”嫌。固茹で卵だって、それなりに味はあるのよ? 柔らかいばかりじゃ、歯が悪くなるし。
てゆうか、ハードボイルドはカッコいいもの。古今東西の探偵やヒーローは、大体それよ?”



松田優作さん主演の探偵物語とかもそうだし、あと仮面ライダーとかもだね。

どこかハードボイルドの匂いがするのよ。あ、平成だとゼロノスの桜井侑斗とか特に。



”それは分かるけど、ここでは誰もヤスフミにそういう風になって欲しいと思ってないよ。
少なくとも、私は思ってない。六課は顔見知りも多いんだし、多少は力抜いていいんじゃないかな”



フェイトの考えを甘いと言う事は、僕には出来なかった。だって、きっとフェイトはそうしてるから。

まぁ、今までの積み重ねがある分、こういう事が言えるんでしょ。僕は無いから、あんま言えないってだけの話で。



”ここに居る間だけでもいいの。私からヤスフミに、少しだけお願い。
力を抜いて、私達の前と同じように柔らかいトロトロなハーフボイルドであって欲しいな。・・・・・・ね?”

”・・・・・・まぁ、善処はする。でも、期待されても困るから”

”うん”

”・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハードボイルド、かっこいいのに。
いいさいいさ、顔見知り以外は外キャラ作って適当に相手してやる”

”そ、それはだめ。・・・・・・うぅ、部隊には部隊のやり方ってあってね?
いつもみたいな通りすがりなやり方はやっぱり・・・・・・あぁ、そっぽ向かないでー”



さて、フェイトが一応納得してくれたところで・・・・・・次だね。

スバルが僕達を見て、ニヤニヤとしてる。なんか空気読まずに楽しそうにしてる。



「スバル、どうした? 気持ち悪いくらいにニヤニヤして」

「え? ・・・・・・だって、恭文がフェイトさんにデレデレで弱いからさ。見ててつい面白くって」



・・・・・・きっと、この子は疲れ目なんだと思った。今の状況を見て、なんでそう思えるのだろう。

アレだよ? 下手したら色々とぶつかり合ってご愁傷さまな状況よ? あり得ないでしょ。



「よし、スバル。目が覚めたんだから早く部屋に戻りなさい。というか帰れ」

「なんでそうなるのっ!? ・・・・・・だって、すっごいラブラブな空気出てたよ? 恭文デレデレだったよっ!」

「ラブラブって言うな。普通の会話だから。つーかデレデレしてないし」



そう、僕はこういうキャラなのよ。一体何の問題があると?



≪そうです。この人は、あれが普通なんです。
フェイトさんの前では基本、『ツン』やら『ヤン』やら『クー』やらは存在しないだけです≫

「黙れやこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



お願いだから、お願いだからフェイトの前でそういうことを言うのは本当にやめてぇぇぇぇぇっ!!

あぁ、これはいつものパターンだと・・・・・・!!



「スバル、私とヤスフミは、そういうのじゃないよ? 前にも言ったけど、姉弟みたいな感じなんだ」





・・・・・・やっぱりか。うん、そうだね。そうなんだよね。

分かってるから、そこは口に出さないでほしい。その言葉と笑顔が心に突き刺さるから。

あー、追記が一つ。ぶっちぎりで片思いです。というか・・・・・・通じてません。



うー、ハードボイルドキャラはダメなのかなぁ。かっこいいのに。理想なのに。





≪・・・・・・強く生きてください≫

「頑張ってね。というか、ごめん」



・・・・・・うん、頑張るよ。フェイトがなんだかポカーンとした顔浮かべてるけど、気にしないことにする。



「よくわからないけど・・・・・・ね、二人ともお腹すいてるよね? 夕食、食べに行こう」

「夕食?」



・・・・・・あー、そういえばまだ食べて無かった。もうお腹ペコペコだよ、結構派手に動いたしなぁ



「せっかくだから一緒に食べよう? 今日の話とか、色々と聞きたいな。私はさっき戻ったばかりだし」










そうして僕達は、少し遅めの夕食にありつくために、六課の食堂へと向かう事となった。





・・・・・・ただ、気になる点が一つ。スバルはその気の毒そうな目で僕を見るのを、止めて欲しい。





そんな気持ちを抱きながら、僕達は廊下を歩いていった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あぁ、でも美味しい」





そんな歓喜の声を上げるのは、一人の男の子。

こういう時は、本当に嬉しさと幸せに満ちた表情を私に見せてくれる。

私はこっちが本当のヤスフミだと思う。だから、六課の中でもこれで居て欲しい。



ハードボイルドであることは、きっと誰も望んでないから。というか、もったいないよ。



せっかく一つの居場所を作れるかも知れないのに、頑なになってそれが出来ないなんて。





「昼間も思ったけど、六課のご飯ってレベル高いなぁ」

「でしょ? 私が六課に来て、本当によかったって思ってることの一つなんだ〜♪」

「ヤスフミ、スバルも、そんなに慌てて食べたらダメだよ。身体に悪いよ?
・・・・・・ほら、特にスバルは起きたばっかりなんだから」

「・・・・・・はい」



私とヤスフミとスバルは、食堂に移動して夕食を美味しくいただいていた。

それでご飯を食べながら、今日の話を聞いている。私がリクエストした。



「でも、ヤスフミすごいね」

「ん、なにが?」

「だって、移動の最中にみんなにいっぱい話し掛けられてた。
たった一日なのに、もう六課に馴染んでるみたい」



それは嬉しい。・・・・・・歓迎会の意味、きっと有ったんだよね。

はやてにお説教したの、早計だったかな。でも・・・・・・まぁいいか。



「そうかな? 初日に色々とやらかした問題児だから、すぐ覚えられただけだよ」



言いながら、サラダのレタスをパクリ。・・・・・・うーん、まだお仕事モードが完全に外れてないなぁ。

やっぱり今日会ったばかりのスバルの前だからかな。これが二人っきりなら、完全に姉弟になるのに。



「というか、メンバーの大半顔見知りだよ?」

「そうなの?」



スバルも、ヤスフミと同じようにサラダを食べながらそう聞いてきた。

・・・・・・そういえばそうだったね。あぁ、そういうのもあるのか。



「そうだよ」



・・・・・・ロングアーチだと、ヤスフミはグリフィスとシャーリーとは私達と同じタイミングで知り合ってる。

ルキノはアースラでの仕事の時に仲良くなったもの。六課は、ヤスフミを知っている人が意外と多い。



「他の人も、フリーの仕事の時に顔合わせてる人が多いみたいだから」

≪初対面なのは、スバルさん達フォワード陣と、アルトさんとヴァイスさんに整備員の方々くらいでしょ≫

「・・・・・・なるほど」



こんな会話をしつつも、ヤスフミは色んな事を話してくれた。まず、朝礼で壇上から転げ落ちたこと。

・・・・・・そんなことしたんだね。なんていうか、うん、変わってないよ。やっぱり疲れてたのかな。

そうしてその後やってきたシャマルさんにザフィーラ、リインと挨拶。



リイン先導で隊舎の見学+挨拶回りツアーに出た事。そうして挨拶回りをしつつ隊舎を見学。

ロングアーチやバックヤード。それに、スバル達前線メンバーと話す。

それで、六課の雰囲気がとてもいいものだと思ってくれたこと。



そして、スバルと模擬戦の約束をしたら、ほんとに今日やるハメになってしまった事。



それをアルトアイゼンに『迂闊すぎる』と、怒られた事を話してくれた。





「確かにちょっと迂闊だったかもね。スバルは、こうと決めたら一直線ですごく押しが強いから」



みんなも、ヤスフミがどれくらい強くなっているか気になっていたから、余計にマズかったね。



「ご迷惑おかけしました」

≪先ほどの発言を聞くに、本心から思っているかどうかは疑わしいですが≫

「わ、わかってるからそんなこと言わないでよー!!」

「まぁ、押しが強いのは戦ってみてよく分かった。
なんというか、スバルは間違いなくフロントアタッカー向きだわ」

「で、どうだった? スバルと戦ってみて。・・・・・・というか、今日一日六課を回ってみて」



正直に言うと、ヤスフミがもし六課を気に入ってくれなかったらというのが、ずっと気になっていた。

私の言葉に、ヤスフミが少しだけ考える様子を見せる。そして、口を開いた。



「まぁ、上手くやってくよ。仕事だもの。顔見知りが多いって点では、やりやすいだろうし」

≪そうですね、仕事ですしね≫

「そっか」





・・・・・・うぅ、やっぱりお仕事モード入っちゃってるなぁ。ヤスフミは、基本的に優しい子。

なのに、いつもこれなの。お仕事中や戦闘中は、基本的にそれ用のキャラになっちゃう。

さっきヤスフミが言ってた『ハードボイルド』キャラって言うのかな。うん、そんなキャラになる。



親しい人の前では大丈夫なの。でも、スバルみたいな初対面の子の前ではこれ。

こう・・・・・・強がっているというか冷めたフリをしてるというか、そんな感じ。

こういうのも、通りすがりになりやすい嘱託の仕事を長く続けてる要因の一つだったりする。



出来ればここも改善して欲しいな。私の知ってるホントのヤスフミは、すごくいい子なのに。





「きっとすぐに馴染めるよ。六課は、ヤスフミにとって大事な居場所になると思うな。ほら、私達も居るし」

「まぁ、適当にやってく。てーか、解散まで半年切ってる部隊を居場所にしても、無意味でしょ」



・・・・・・また冷めたキャラになってる。ほら、スバルもどう言っていいか分からなくて困ってるし。

うん、もったいない。こういうのは、すごくもったいないよ。このキャラを装うだけでも、色々損してると思う。



「あー、それとね」

「うん?」

「スバルと戦ってみて、なのはや師匠達がすっごく気持ちを込めてフォワード陣を育てているってのは、よく分かった。
・・・・・・真面目に話すと、戒め外さなきゃ勝てるかどうか解んなかったしね。やっぱまだまだだわ。くそ、マジで反省だし」

「・・・・・・あの人は色んな意味で別格だから、比べちゃだめだよ」

「まぁ、鬼か修羅の類なんじゃないかって疑問に思う時あるしね」



ごめん、そこは私も。こう・・・・・・次元が違うというかなんというか。



≪未だ目指すべき高みは遠くにあるということです。頑張っていきましょう≫

「そうだね」

「・・・・・・ねぇ、恭文」



私達が話していると、スバルが少しだけ真剣な表情で話し掛けてきた。・・・・・・どうしたのかな?



「戒めって・・・・・・なに? ひょっとしてカートリッジ使わなかったことと関係が有るの」



私は、小さく息を飲んだ。もしかしてスバルには説明してないのかな。

あぁ、そっか。さっきまで寝てたから無理だったんだよね。今気づいたよ。



「ヤスフミ、ひょっとしてスバルには」

「うん、眠ってたからまだ話してない。まぁあれだよスバル、分からないならググろうか」

「「ググろうってなにっ!?」」



とりあえず私は、ヤスフミに『ちゃんと説明するように』と言った。

あと、念話で『ちゃんとお仕事用キャラは外して?』とも言った。・・・・・・返事は無かった。



「うんとねスバル、僕には、戦い方を教えてくれた先生が二人居るの」



その他にもヤスフミに力を貸してくれた人達は居るけど、基本的に先生となって居るのは二人だけだね。



「一人は・・・・・・もう知ってるよね」

「うん、ヴィータ副隊長だよね」

「そうだよ。それでね」





・・・・・・そう、ヤスフミには二人の師匠が居る。一人は、私達の友達のヴィータ。

そして、恭文が先生と言ったあの人。

ヴィータは、ベルカ式魔法を用いての魔法戦の技術全般を。



あの人は、刀での高度な近接戦闘技術。

それにヤスフミパートナーのアームドデバイス・アルトアイゼンをヤスフミに託した。

二人とも、ヤスフミに想いを込めて、自身が培ってきた戦闘技術を叩き込んでくれた。



そうして出来上がったのが・・・・・・一撃必殺を具現化した今の戦い方。

あと、二人がこう、相手に対して口先で精神攻撃をしながら戦うのは、あの人の影響。

一種のハードボイルドキャラというか、そういう部分も多分同じく。



正直、アレはやめた方がいいと思う。そんなことしなくても、ヤスフミもアルトアイゼンも強いのに。

ハードボイルドキャラも同じくだよ。さっきも言ったけど、色々損してる部分多いよ。

それで戒めというのは、あの人がヤスフミに課した一つの修行方法になる。



アルトアイゼンには、一応私のバルディッシュのように形状変換の機能が備わっている。

そして、カートリッジに関しても、ジガンスクードがある。

でも、あの人は恭文とアルトアイゼンに、それらを安易に使う事を禁じた。



確かに、それらの機能は強力ではある。でも・・・・・・なんだよね。



私もついつい頼りがちで、少し耳の痛いところ。





「『強力な力に安易に頼れば、それは自身を強くする伸びしろを殺す可能性がある。
だが、安易でなければ問題ないので、その時を見極める目と感覚を養うべし』」



ようするに、便利な機能に頼り過ぎちゃうと、機能有りきでしか強くなれないということだね。

あははは、やっぱり耳が痛いよ。なんだかんだで私達、リミットブレイクとかのスペック勝負になってるもの。



「それが、師匠達・・・・・・というより、僕の剣の先生からの教えなんだ」

「それが戒め? ねぇ、恭文、その教え少し無茶苦茶じゃないの」

「どうして?」

「だって、そんなことして、もしどうにもならなくなったら」



うん、まず普通はそこを心配する。でも、心配なかったりする。



「その時は・・・・・・というか、そうなる前に遠慮なくカートリッジなり形状変換なり使う。スバルにやったみたいにね」

「でも、カートリッジや形状変換って、局で言うと、エース級の魔導師クラスだと普通のことだよ。
それに対しても基本的には使わないようにするって・・・・・・やっぱり危ないよ。実戦でもそうなの?」

「うん」



・・・・・・うん、実戦でもそうなんだよね。



≪そうしなければ修行になりませんので≫





もちろん、ヤスフミもアルトアイゼンも、それに拘り過ぎてどうにもならなくなるまではやらない。

二人とも息はピッタリだし、状況判断も私やなのは以上にしっかりしてる。

だから、どっちかが無理だと判断したら、すぐに外して戦える。



なんというか・・・・・・二人とも強かというか、ちゃっかりしているの。

私達はそういう所を信用して、スバルが『危ない』と言った修行法を公認している。

それに、『絶対に泣かせるようなことはしない』って約束してくれているから。



ヤスフミ、自分からした約束は絶対に守る。それはもう、ありったけで守ってくれるの。

アルトアイゼンも、そのために自分のありったけの力を貸してくれている。

まぁ、泣かせないというだけであって、今日みたいに二人してやりすぎちゃうことはあるけど。



というか、出来ればすぐにでも外キャラは外して欲しいよ。だけど、それは絶対約束してくれないの。

つまり、出来ないと思ってる。・・・・・・そんな事、ないのに。

六課は・・・・・・部隊は、ヤスフミが思ってるより優しい場所なのにな。





「というか、その人はそれで戦えるの?」

「スバル、その人はヤスフミと同じ戒めをつけた状態でもすっごく強いの。
少なくとも、全力全開の私となのはの相手を同時に出来るくらいに」





私がそう言うと、スバルの表情が驚きに満ちたものに変わる。

・・・・・・うん、信じられないよね。

実際に模擬戦をするまで私も同じだったから、気持ちはすごく分かるよ。



でも、本当のことなんだ。・・・・・・ヤスフミのもう一人の師匠は、私達もよく知っている人物。

元教導隊出身で、今は局の仕事を引退。あちらこちらの世界を放浪しての武者修行の旅に出ている。

性格は飄々としたつかみ所のない人なんだけど、戦闘となるとそれを感じさせないくらいの強さを見せる。



うん、あの人もヤスフミと同じで普段と戦ってる時やお仕事中とでは空気が変わる。

その温度差が激しくて、最初はなのは共々ついて行けなかった。すごく戸惑ったの。

そしてあの人は、ヤスフミと同じ戒めを自らに課している。



術者自身と信頼できるデバイスの能力がちゃんとしていれば、それだけでどんな相手でも渡り合える。

そんな自分の教えが口先ではないことを、戦いの中で証明するために。

・・・・・・『言ったことの責任は通す。場合によっては命を賭けてでもやる』。



・・・・・・あの人が、ヤスフミに対して幾度となく言った言葉。

そして、あの人はそれを実際の行動として通そうとしている。

なんというか、ヤスフミはあの人の影響を強く受けている。



いい所も悪い所も含めて。剣士としてだけではなく・・・・・・人生の師と言っていいのかもしれない。

まぁ、あんまり見習って欲しくない所までそうなっちゃってるのは・・・・・・ちょっと心配。外キャラの事とかもそうだね。

少し話が逸れたけど、スバルに言った通り、色々な機能や魔法を使わなくてもとても強い。



私やなのはも、全力を出しても勝てるかどうか分からないくらいに。

・・・・・・ごめんなさい、嘘つきました。勝てません、はい。

二人がかりでも・・・・・・勝てません。



カートリッジと形状変換無しなのに。

なのははエクシード、私は真・ソニックフォームの状態なのに・・・・・・勝てません。

完全に動きを見切られるんです。こっちが攻撃しても、全部受け止められるんです。



というか、私達の攻撃が当たらないんです。

それだけじゃなくて、ライオットザンバーであの人の斬撃を受けるんです。

すると、受けたところから刀身が真っ二つにされて、そのまま墜とされるんです。



・・・・・・もう、泣きたい。私、オーバーSとかだけど、もしかして全然弱いのかな。





「なんか・・・・・・信じられないです。だ、だってなのはさんもフェイトさんも、すごく強いのに」

「上には上が居るって事だよ。てーか、なのは達は別に最強キャラでもなんでもないでしょ。
ただ普通の人より魔力が高くて、魔法が上手く使えるってだけ。あとは19歳の女の子よ?」



ヤスフミ、それは色々と違うんじゃないかな。・・・・・・まぁ、上には上が居るってのは同意だけど。



「あ、ひょっとして、恭文が模擬戦の途中で言ってた『スターライトブレイカーを一刀両断する人』って」

「うん、ヤスフミの先生のことだね。私となのはがタッグで挑んだときに、それをやられてね」



あの光景は、今でも忘れられない。本当に・・・・・・凄かったから。



「あの時は僕もびびったよ。まさかそんな真似が出来るとは思ってなかったから」



私も思ってなかったよ。あぁ、なのはがしばらく自信喪失してたよね。あれ斬られちゃうんだもの。



≪と言いますか、その場に居た人間全員がドン引きでした。
いやぁ、その時のギャラリーの様子を録画出来ていれば、是非お見せしたかったです≫

「・・・・・・アルトアイゼン、それは趣味が悪いと思うよ?」



私やなのはは・・・・・・すっごく必死だったのに。



「信じられない」

「なんでそう思うのさ? 教導隊でもトップクラスのレベルだったら、普通のデバイスでそれくらいは出来るよ」



ただ、ヤスフミは当然のように『・・・・・・SLBは斬れないよ?』と付け加える。

ヤスフミ、そこは大事だよ。うん、すごく大事。



「現にフェイトとなのはも昔、先生と教導隊で同期だったファーン先生って人にボロ負けしたって言うし」



・・・・・・はい、負けました。本当に派手に。



「学長にっ!?」



・・・・・・うん。思いっきり、負けたね。能力的なことで言えば私達の方が上なのに、完敗だった。



「なんだ、ファーン先生のことは知ってるんだ」

「だって、私とティアの出身校の学長だよ?」

「あー、なるほど。納得したわ」



そして、ファーン先生があの人と同期で、仲がよかったというのを知ったのは大分後だった。

もちろん、あの人ほど無茶じゃないけど。



≪あの方も負けず劣らず経験豊富で強いですからね。あなた、勝てたことありました?≫

「・・・・・・ない。つか、分かってるんだから聞かないで」





私も・・・・・・実はなかったりする。うぅ、ヤスフミじゃないけど、修行が足りないんだ。

もしかして真・ソニックやライオットやカートリッジに頼り切ってて、伸びしろ殺してるのかな。

殺さなければ、私・・・・・・もっと強くなれるのかも。強くなったら、もうあんなことないのかも。



・・・・・・22話から24話までずっと緊縛プレイなんて、私はもう嫌だもの。





「まぁ、スバルの言うことも分かるよ? 今や敵方も含めて、カートリッジや形状変換は主流。強力なのは間違いない」



うん、そうなの。今話に出た機能は、エース級と呼ばれている人達の間では、普通になっている。

だからそれをあえて封印して戦うなんていうのは、このご時世では古臭くてまともじゃないと思われても仕方ないのかも知れない。



「だけど・・・・・・それでも、そこまでしてでも追いかける価値のある人だって思うんだ」



そこまで言うと、恭文はホットミルクを取って一口すする。・・・あ、幸せそうな顔になった。

そんな表情をすぐに真剣なものに切り替えて、スバルへ話を続ける。



「その持論を口先だけじゃなくて、自分でもしっかりとした形で実践している。
デバイスの特殊な機能や、強大な魔力やレアスキルなんてなくても、ここまで強くなれるってことを」

「そこは、私も同意見なんだ。口先だけじゃないの。ヤスフミの先生は、ちゃんと行動でそれを示してる」

「うんうん、そうでしょ? そのレベルだって半端じゃないんだもの。
僕から見たら、どこに文句をつける要素があるのか分かんないよ」



ヤスフミが、楽しそうに瞳を輝かせながらそう口にする。・・・・・・変わってないね。あの人に対しての憧れは。

でも、温度差やハードボイルドキャラはやっぱり外して欲しい。そういうので引いちゃう人間も、部隊や局の中では多いもの。



「そう・・・・・・なんだ。恭文にとっては、その人の戦い方と強さは目標なんだね。だから、戒めを背負ってるんだ」

「うん。というかさ、なんかムカつくじゃない?
僕、元々フルドライブやリミットブレイクみたいなスペック勝負に走るの嫌いなの」



ウィンナーをパクリと食べて、モグモグとしっかり50回以上咀嚼してからヤスフミは飲み込む。

それで、話を続ける。・・・・・・ちょっとだけ楽しそうに。外キャラ、少し外れたと胸を撫で下ろした。



「魔法があるから、カートリッジがあるから、フルドライブやリミットブレイクみたいな機能があるから強いなんてさ。
自分の限界自分で決めてるみたいで、腹立つの。人間は、どこまでだって強くなれるって先生が教えてくれたのに」

≪ようするに、そういう機能に頼るのが悪いということではなく、それ有りきなのが嫌ということですね≫

「あははは、そっか。・・・・・・あれ、なんか突き刺さるな。私、何かが小さく突き刺さったんだけど」

「気のせいでしょ」





ごめんヤスフミ、それは気のせいじゃないよ。スバルだけじゃなくて、私も突き刺さったから。

ただ、ヤスフミがこう言う理由も分かるの。ヤスフミの魔力資質は、平均レベルだから。

例えばエクセリオンみたいなフルドライブや、私のライオットザンバーみたいなリミットブレイクがあるよね?



そういう機能を使うと、魔力消費も当然のようにいつもより増えるの。

でも、魔力量が私やスバル、エリオやティアより下のヤスフミは、この手の機能に頼れない。

・・・・・・頼りたくても、頼れないの。使ったらすぐに魔力が尽きるのは明白だから。



そういうのも、ヤスフミの言う『スペック勝負』嫌いに拍車をかけてる。なんだか、少し辛い。

お姉さんとしては、そういうのちゃんと分かってあげたいのに・・・・・・無理かなとか、思ってる。

私はそれに頼れる人間だから。頼ってなんとか出来る人間だから・・・・・・違うのかなって、ちょっとだけ。





「でもさ、先生もそうだけど、師匠にはまだ一回も勝てないんだよね。
うぅ、だめだ。僕も全然だめだ。結局今回も、カートリッジでスペック勝負に走ったし」

「あの人に関して私もだよ。でも、いつか勝てるように頑張らないとね」



というか、いくらなんでも甘く見過ぎ。試合の様子見せてもらったけど、本当に手札完全封印だったもの。

あんな状態でヤスフミがスバルに勝ったら、私達隊長陣は全員揃って反省会議になっちゃうよ。



「・・・・・だね」



すごく楽しそうに、だけど、少しだけ悔しそうな顔をしつつ、ヤスフミがウィンナーをまたパクリ。

・・・・・・今度はご飯が美味しくて幸せそうな顔になってる。良かった。外キャラ外れ始めてる。



”外れてないよ。僕は仕事場ではハードボイルド通すの”

”どうして考えてる事が分かったのっ!?”





今度はむすっとした顔になりながら、サラダをパクリと食べてる。

でも、一口進むごとにまた幸せで楽しそうな顔を見せてくれる。

・・・・・・一緒にお食事は、正解だったかな。ちょっとずつだけど、力が抜けてる。



だから、表情が変わる。私は、なんだか嬉しい気持ちでそれを見つめていた。





「あ、フェイト、トマト好きでしょ? あげるね」

「ダメだよ。好き嫌いしちゃ」



そんなヤスフミにも、苦手な物がある。それは・・・・・・生トマト。

生のトマトが、ヤスフミは嫌いな食べ物なんだ。出会った頃からずっと。



「・・・・・・スバル〜♪ 疲れてる時にはトマトがいいそうなんだよ」

「ちゃんと自分で食べる。というか、疲れてるのは恭文でしょ? 私やフェイトさんに押し付けないの」



満面の笑みでサラダに入っていたミニトマトをあげようとするヤスフミを、私達は静止する。

表情は変わっても、昔から生のトマトを食べられないところは変わらないんだよね。



「・・・・・・食べなきゃだめ?」

「ダメだよ。そんなんじゃ、エリオやキャロ達に笑われちゃうよ?」

「フェイト、保護者としてそれはどうなの? 人を指差して笑う人間に、子ども達を育てていいのかな」

「そういう言い方をされると、私は反論出来ないけどそれでもだめっ! というか、理論武装で誤魔化すのやめないっ!?」



でも・・・・・・あぁ、そうかも。よ、よし。

保護者として、二人がそういう事をしない子になるように頑張ろうっと。



「そうだよ恭文。食べられないと、その先生みたいに強くなれないよ?」

「先生はセロリ嫌いだけど」

「そうなのっ!?」

「ヤスフミ、嘘つかないのっ! あの人セロリを生で美味しそうに食べたよねっ!?」



結局、ヤスフミは『うぬぅ』と唸りながら、意を決してトマトをパクリと食べる。



「丸呑みしないで、よく噛まないとね」

「・・・・・・ほへん。ほへあえははんへんひえ」



涙目になりながら、トマトを飲み込むヤスフミ。すぐにホットミルクを飲んで口直ししてる。

知ってはいたけど、まだダメなんだね。うーん、ここも改善したいなぁ。



「当たり前だよー。あの、生のトマトの水っぽい風味がなんとも言えず・・・・・・うぅ、思い出すのも嫌だ」

「そんな落ち込まなくても・・・・・・。ほら、私のポテト少しあげるから元気だして?」

「え? いいのっ!? フェイトありがとうー!!」



・・・・・・・・・・・・そんなに辛かったんだ。ヤスフミ、多分今はハードボイルドキャラじゃないよ?

というか、これは結果的に良かったかも。さっきよりずっと、お仕事用のキャラが外れてる。



「じゃあ、私のウィンナーも一本あげるね」

「あぁ、なんでだろう? スバルが女神に見える」

「・・・・・・大げさだよ」



私からポテトを、そしてスバルからウィンナーを受け取ると、幸せそうにそれをかみ締める。

これから、どうなるんだろう? ・・・・・・きっと楽しくなるよね。そうに決まっている。



「ヤスフミ」

「ん、どしたのフェイト?」





ウィンナーを食べ終えて、今はポテトを堪能中のヤスフミに話しかける。

私、笑顔だ。自分でも分かるの。楽しくて、嬉しくて・・・・・・期待で笑ってる。

大事な・・・・・・すっごく大事な、弟みたいな男の子が来てくれたことが嬉しいんだ。



それで、色々変わっていく予感で、胸が一杯になってるの。





「これから色々大変かもしれないけど」

「うん?」

「一緒に頑張ろうね。ヤスフミ」

「・・・・・・まぁ、適当にやってくよ」



ちょっとツンとした感じでそう答えたヤスフミを見て、私は苦笑する。スバルも・・・・・・同じ。



「もう、そうやってまたお仕事用のキャラになる。もっと普段通りにして欲しいな」

「嫌。僕はここに仕事しに来たんだもの。別に仲好し小好しするためじゃないし」

「そうかも知れないけど、きっと色んな事が変わっていくよ。・・・・・・絶対、変わっていくから」










食事はこんな感じで楽しく終わった。だけど・・・・後でお兄ちゃんに連絡取らないと。

ヤスフミやアルトアイゼンから、二人に、この二週間の間に振った仕事の内容や量を聞いた。

けど、いくらなんでも多すぎるよ。出向だってわかってたはずなのに・・・・・・ホント、仕方ないなぁ。





クロノ、少し・・・・・・頭冷やそうか?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「しかし、振り返るとホントに色んな事があったよね。なんかちかれた」

≪確かに、濃い初出勤ではありましたね。でも、明日からも六課での日々は続きます。
しっかり休んで、明日からも頑張りましょう。というか、頑張ってお仕事ですよ≫

「へいほーい、頑張るとしましょー」





僕とアルトは、フェイトとスバルとの夕飯を終えると、すぐに帰路についた。

なお、僕達はフェイト達と違って自宅からの通勤組です。

食事が終わった頃には、既に夜の八時を越えていた。



だけど、疲れた身体に鞭を打って、こうして歩いているわけです。

・・・・・・あのね、『人生は666ページの本』って言葉があるのよ。

今日の体験をページに書き綴ると何ページくらいになるんだろうね?



30はいきそうな感じがするんだけど。それくらいに、今日と言う日は濃厚だった。





≪多すぎでしょう、それは。せいぜい、4ページ程度ですね?
いや、ひょっとしたら1ページ未満かもしれませんね≫



マジですか。・・・・・・だとしたら、人生ってのは果てしなく長いね。

これで埋まらないのは、おかしいって。



「・・・・・・でも、ほんとに色んな事があったよね。
それで、きっと楽しい一日だった。きっと、これからずっとこんな感じだよ」

「フェイト、それ本気で言ってる? てゆうか、ずっとだとダメじゃん」

「そ、そうだね。ずっとは困るよね。それだと毎日模擬戦だし」

「そうそう」



ここは、隊舎の敷地内の歩道。フェイトが、僕達のことを敷地の入り口まで見送ると言った。



「別に大丈夫って言ったのに。てか、帰りは夜道一人じゃないのさ。それはどうなのよ」

「何言ってるの? 過労の状態で模擬戦するような無茶な人を、放っておいたりなんで出来るわけないよ。
それに、ここは隊舎の中だよ? 私が一人夜道を歩いてても、問題ないよ」

「・・・・・・それに関してはもう言わないでください。お願いします。
あと、問題はあるでしょ。ほんの2ヶ月前に間抜けにも襲撃されて」

「そこには触れないでっ!? あの、その・・・・・とにかく大丈夫だからっ!!」



もうさぁ、シャマルさんだけで充分なんです。うん、真面目に充分。

・・・・・・はやて達は苦笑して『大丈夫だから』って言ってくれたけど、ほんとに勘弁して。



「そっかぁ、危機管理がなってないよねぇ。一度襲撃されて、壊滅してるのに『大丈夫』なんて。
・・・・・・これだから局員も局も嫌いなんだよ。どいつもこいつも三流ばっかりだし」

「そ、そこは言わないで? というかあの・・・・・・嫌わないで欲しいな。
特に六課ではやめて欲しい。ここは、みんなの居場所だから」

「嫌だ。僕の居場所じゃないし、関係ないし」

「これからなっていくよ。六課は・・・・・・私達の夢の部隊で」



うん、そうだね。はやてとなのはとフェイトの夢の部隊だよ。そこは知ってるよ。



「僕の夢じゃないから、どうでもいい。てーか、六課のせいで休みがパーになってるのよ?
好きになる理由ないじゃないのさ。ハッキリ言えば、潰れててくれた方が僕は助かった」

「それはその・・・・・・うん」



僕は、少しだけ表情を崩す。困ったような顔のフェイトが可愛くて、楽しくなる。

うぅ、フェイトをいじめるのは楽しいなぁ。反応がすっごく可愛いの。



「でもあの・・・・・・ヤスフミ、スバルとちょこっとでも仲良くなれてよかったね」



少し話題を変える事にしたらしい。ここに触れても、互いに楽しくないと思ったみたい。



「・・・・・・ギンガさんから、相当言われてるしね。多少はいい顔しないと」

「もう、またそういうこと言う。もうお仕事モードは外して欲しいな。
というか、ギンガとは仲良いんだよね」

「うん。・・・・・・仲良いのに、お見舞いにも行けないと来たもんだよ」



ギンガさんは現在、JS事件で大怪我をした影響で本局の医療施設で入院している。

なので、ついついため息を吐くのよ。・・・・・・この調子だと、退院前に顔合わせるのは無理かなぁ。



「ごめんね。クロノには私からもちょっと話しておくよ」

「話してもどうにもならないでしょ。てーか、上下関係はどうしたのよ」

「それでもだよ。・・・・・・ヤスフミ、何気にお疲れモードだし」

「大丈夫だよ。きっちりやることはやる。そのためにここに来たんだもの。
・・・・・・それでフェイト、今日は顔見せなかったあのバカの調子、どう?」



二人っきりだから、こういう話も出来る。なお、フェイトも僕も周りを警戒してる。

してるから、念話に切り替わるのよ。切り替わって・・・・・・話す。



”また詳しく話すけど、あまり良くない。相当無茶したから”

”あれだっけ。六課で保護した女の子、助けたんだよね”



JS事件中、六課である女の子を保護した。・・・・・・ということだけしか、知らないけど。

詳しくは、『とある魔導師の戦い』をご覧下さい。・・・・・・いやいや、これ何の宣伝っ!?



”うん。今日居なかったのも、その子と一緒に検査入院だったんだ。
また明日の昼くらいには戻ってくるらしいけど”

”そっか。・・・・・・全く、これだからスペック勝負に走るバカは嫌いなんだよ。
魔力出力上げれば、何でも出来るとか思ってやがるし”

”うぅ、耳が痛いです。私も真・ソニック使ったりしたから”

”フェイトはまだ大丈夫よ? 真・ソニック、消耗は激しいけど後遺ダメージとか無いじゃん”



この辺り、フェイトのパートナーデバイスであるバルディッシュの尽力が大きい。

バルディッシュがフェイトの体調や魔力の状態を鑑みて、しっかりとフォームをコントロールしてるから。



”でも・・・・・・真・ソニックはやめない?”

”それはその・・・・・・スペック勝負と言われたら正直反論出来ないけど、でも私の速度を活かすために”

”あぁ、違う違う”





真・ソニックは、フェイトのリミットブレイク用のフォーム。

バリアジャケットの装甲を極限まで薄くして、機動性を高めてるの。

フェイトは、高速機動が得意な魔導師。そのためにこのフォームなの。



正直、性能どうこう消耗どうこうで文句言うつもりはない。むしろ、かっこいいとさえ思う。





”僕が言ってるのはデザインだよ。・・・・・・だって、水着じゃん”



ただ、デザインが・・・・・・薄着なの。ボディライン丸出しだし、ちょっとお尻見えてるし。

今年20歳になるのに、それはアウトだと思う。だから、僕はこう言うのだ。家族としては・・・・・・ねぇ?



”違うよっ! どこが水着なのっ!? ただ装甲が薄いだけだよっ!!”

”なんで自覚ないのっ!? 装甲どころか生地が薄めじゃないのさっ! フェイト、露出高過ぎっ!!”



あぁぁぁぁぁぁぁっ! マジで自覚持ってっ!? あれは目に毒だからっ! すっごい毒なんだからっ!!



”てーか、僕だけじゃないのよっ!? クロノさんやリンディさんにアルフさんとエイミィさんだって、同じなんだからっ!!”

”嘘だよっ!!”

”嘘じゃないよっ! 今度みんなに聞いてみなっ!? みんな同じこと言うからっ!!”





後日、フェイトは本当に聞いた。そして、涙目で『・・・・・・ヤスフミの言う通りだった』と言われた。

それから2年ほど、フェイトは真・ソニックに変わる新フォームについて、悩み続けることになる。

装甲を薄くしないと、スピードが出ない。でも、薄くするとジャケットまで薄着になる。



そんなジレンマで悩みに悩み続けるけど・・・・・・それはまた、別の話である。





「というか、そう言うヤスフミはどうなの? 私だけダメ出しなんて、ズルイよ」

「僕?」



フェイトが、念話から普通の声の会話に切り替えて、聞いてきた。



「うん。フルドライブやリミットブレイクは無理としても、新フォームとか考えないのかな。
ほら、ずっと同じジャケットだし、装備や形状変換も基本的に同じだし」



始まって4話目で何をとんでもない話してるんだろ。フラグ立つの、早過ぎでしょうが。

ただ、そう思いながらも僕は歩を進めつつ、答える事にする。実は、考えてるのがあるのよ。



「うーん、実はあるんだ。ジャケットはまぁ、今のが気に入ってるからいいの。
ただ、アルトの形状変換で搭載したいものがある」

「あ、そうなんだね。ねぇ、どんなの?」

「7本の剣」

「剣?」

「うん。えっとね、FF7ACって言うフルCGの映像作品があるのよ。
で、その主人公のクラウドが、合体剣って言うのを使うの」





簡潔に説明した。ファースト剣と呼ばれるものをベースに、長剣3本と短剣2本が合体していくと。

で、全部が合体すると、大きめのバスターソードになる。それも含めて7本の剣ですよ。

6本の剣は背中の大型ホルダーに収納して、それをしっかりと背負って行動。



状況に応じて、ホルダーから取り出して斬りつける・・・・・・って、感じ?





「映像見てて、剣を分離させて瞬間的に二刀流にしたり、合体させて剣の重さを増したりしてたの。
こういうのならフルドライブとかリミットブレイクとかに関係ない感じで、作れるかなーと」

「なるほど。それは全部実体剣なのかな」

「うん。あと、これなら魔法なしとか有りきじゃないし、戒めに接触する部分も少ないかなーってさ。
こう、やっぱり魔力や魔法有りきなフォームって考えられないの」



というか、僕じゃあ活用出来ないもの。僕の魔力量は、フェイトやスバルより下。

当然のように最大出力も負けてる。だから、それを活かした戦い方は出来ない。



「なるほど。・・・・・・それなら、AMF内部でも変わらずに対処出来るね。
私のライオットやザンバーみたいに、それで威力が変動する心配もない」

「あ、そっか。バルディッシュのモードは魔力刃使うから」



AMFというのは、アンチ・マギリング・フィールドの略。簡単に言えば、このフィールドの中では魔法が使いにくくなる。

というか、対策を整えた魔法じゃないと魔法を構築する魔力結合が解除されて、無効化されるのだ。



「うん。スカリエッティのアジトで、やっぱり威力や魔力消費量に影響が出ちゃったから」



フェイトはJS事件の最終局面で、主犯であるスカリエッティのアジトに乗り込んで、逮捕したの。

その時、アジトにはAMFが高いレベルで発生してたから・・・・・・それでなんだね。



「でも、それだと変則的な七刀流だよ? 使いこなせるのかな」

「そこは要練習だろうね。でも、使いこなせばきっと強い。
少なくとも、AMFの影響は出ないもの。斬るのに魔力使わなければね」

「確かにそうだね」





・・・・・・映像見て、かっこよかったしなぁ。後半のハイウェイでのバイクチェイス中とかは特に。

空中に居る時に双方向から攻撃が来て、短剣を分離させるの。

それを左手に取って、攻撃を受け止める。受け止めてから、身を回転させて敵を斬る。



アレはかっこいいのよ。使いこなすの難しそうだけど、それでもよ。





「ヤスフミとアルトアイゼンの形状変換は、やっぱりそういう方向なんだね。
通常モードもそうだけど、ハイブレードモードも同じだし」

「そうだね。僕には魔法資質に任せた力押しは、無理だもの。
それに頼らない戦い方も出来ると言うのが、目指すところだね」

「その代わり、扱いは難しめ・・・・・・なんだよね。
ヤスフミのフィジカルでの技量がちゃんとしてることが、前提だから」



あー、そうなるのか。魔法なしでの戦闘も視野に入れてるから、当然だけどさ。

魔法が無かったらなまくら刀になるんじゃ、搭載する意味もないもの。



「なら、シャーリーに相談してみようか。ほら、丁度ここに居るんだし」

「あー、そうだね。・・・・・・でも、解散するまでに仕上がるかなぁ。
お昼に色々話聞いたけど、通常業務の状態でもシャーリー忙しいんでしょ?」

「・・・・・・そう言えばそうだね。シャーリーって、ヤスフミも知ってるけど色々出来るでしょ?
そのおかげでロングアーチでも通信主任で、私達のデバイスの整備も請け負ってるし」





シャーリーは、元々執務官であるフェイトの補佐官。フェイトと一緒に、そのまま六課に出向って感じなの。

そして、何気に才女なのよ。デバイスマイスターの資格があるから、デバイスの整備も出来る。

それでフェイトの補佐官として渉外活動や事務関係に現場でのオペレーション活動も出来る。



それでそれで、何気にすごい女なのに高飛車な所がなく、フレンドリーで誰とでもすぐに友達になれる。



・・・・・・シャーリー、やっぱすごい。というか、普通に非戦闘要員では一番仕事量多いんじゃ。





「・・・・・・他の友達の技術者に頼った方がいいかな。
さすがに今の状況でシャーリー頼るの、ちょっと躊躇うよ」

「でも、シャーリーは頼ってくれなかったらきっと膨れるよ?」

「そうだね。そして、すっごい楽しそうな顔で引き受けてくれるよね」



それが、シャーリー・・・・・・シャリオ・フィニーノという人間なのよ。

デバイスマイスターの資格取ったのも、元々そういうの好きだかららしいし。



「それで、仕事量増えるんだよね。・・・・・・だめだ、やっぱだめだ」



歩きながら、右手で顔に手を当てる。これで倒れられたら、普通に困る。

僕も困るし、六課メンバーも困る。よし、シャーリーに頼むのはナシだ。



「うし、他に当てがあるからちょっと頼んでみる。フェイト、シャーリーにはこの事内緒ね?」

「あの、そこまでしなくていいんじゃないかな。シャーリーも仕事量はちゃんと考えるだろうし」

「これでなんかあっても、僕や六課メンバーが困るでしょ。ただでさえ仕事溜まりに溜まってるのよ?
シャーリーも何気に無理する方ではあるんだし、負担かけたくないのよ」

「・・・・・・そっか」



あの、フェイトさん? なんでそんな嬉しそうな顔するのよ。てゆうか、普通にニコニコする話じゃないでしょ。



「ヤスフミ、ちゃんとシャーリーや六課の事考えてるんだね。うん、安心した」

「別に。これで色々文句言われても嫌ってだけの話」

「もう、またそういう事言う。もうちょっとだけ、素直になって欲しいな」

「あいにく、僕はずっと素直よ」



・・・・・・なんて話している間に、隊舎敷地の玄関まで来た。なんか、話してるとあっという間だ。

フェイトとは、ここでお別れ。ミッド特有の二つの月は空で白く輝きながら、僕達を見下ろしてる。



「それじゃあヤスフミ、また明日ね。・・・・・・というか、これからよろしくね。
あの、本当に・・・・・・一緒に、頑張りたいの。だって私達、友達で仲間で・・・・・・家族、なんだから」



僕は、フェイトの実家であるハラオウン家にずっとお世話になってる。だから、フェイトは僕を『家族』と言う。

友達で仲間で・・・・・・まぁ、片思いしてる身としては色々複雑ではある。でも、それでもなの。



「分かってる」



それでも、僕は笑顔で応える。今は僕とフェイトだけだから。二人だけだから・・・・・・満面の笑みで、フェイトの気持ちに応える。



「一緒に、頑張ろうか。仲好し小好しするつもりはないけど、それでもさ」

「・・・・・・うん。それじゃあお休み、ヤスフミ」

「うん。お休み、フェイト」





・・・・・・・・・・・・こうして、六課でのお仕事初日は終わりを告げた。ただ、僕はまだ終わらない。

だって、スバルから借りた訓練着を洗濯しないといけないもの。一応ね、持って来てるの。

スバルは大丈夫って言ってたけど、ちゃんとしたかったの。借りたわけだし、そこはね。



でも・・・・・・機動六課、か。まぁいいか。僕はどうせ通りすがりだし、4月には解散する部隊だ。

それまではきっちりやるだけ。僕は僕の仕事を、道理を通すだけ。

心は熱く、頭はクールに。そして、どこまでもハードボイルドにね。





≪何カッコつけてるんですか≫

「気にしないで。てか、今までなんで黙ってたの?」

≪大事な二人だけの時間に茶々を入れるほど、私はKYじゃありませんよ。あぁ、それと≫

「なにさ」



次のアルトの声が、少し小さなものになった。というか、トーンが落ちた。



≪色々思うところはあるでしょうけど、漏らしちゃいけませんよ?
最初から居なかった私達には、言う権利がありません≫

「・・・・・・・・・・・・分かってるよ。でも、またなんかあるようなら遠慮なく言ってやる」

≪それでいいでしょ。だって私達、結局巻き込まれてるんですから≫

「そうだね。それで、自分で選んで飛び込んだ。なんつうか、バカだよねー」

≪今更ですよ≫










家路を急ぎながら、僕は空を見上げる。見上げて映るのは、二つの白い月。





その色を見ながら、決意を固める。飛び込んだなら、通すだけだと・・・・・・強く。




















(第5話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで・・・・ようやく初日が終わりましたー! ばんざーいっ!!
皆さんどうも。蒼凪恭文です」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンです。いや、長かったですね≫

恭文「修正しつつだしね。というか、普通に大きくシーン切り替わってるし。
スバルとのあれこれ、全部パーになってフェイト中心になってるのが大きいね」

古鉄≪あれですよ、フェイトさんから圧力がかかったんです≫

恭文「嘘っ!!」

古鉄≪ホントですよ。『・・・・・・同人誌化に向けて加筆修正するなら、私のヒロイン要素を強くしてっ!?』と、ザンバー片手に作者に迫ったとか≫





(『そんなことしてないよっ! ただちょっとお願いしただけだよっ!?』・・・・・・と声がするけど、気のせいだ)





古鉄≪とりあえず、JS事件話やこの後の電王クロスのフラグも含めつつですね。
この時は、スバルさんヒロインかギンガさんヒロインかで色々迷ってた時期ですし≫

恭文「ちと不安定ではあったんだよね。あー、でも懐かしいなぁ。
というか、僕のキャラが・・・・・・あれ? なんで外キャラ全開?」

古鉄≪色々な状況を鑑みた結果、こんな形になりました。
まぁ、StS・Remixのようなリミットブレイクではありませんけど≫





(現在、2010年2月12日です)





恭文「とにかく、次回も楽しんで頂ければと思います。お相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪今回は短めな古き鉄・アルトアイゼンでした。それでは・・・・・・また≫









(カメラに二人で手を振り、フェードアウト。
本日のED:『スバルのキャラソン』)




















恭文「・・・・・・という感じなんですけど」

???『あ、楽しそうだね。うんうん、是非協力させてもらうよ』

???『まぁ、こっちも仕事があるから時間はかかるぞ?
あと、お前ももうちょっとレベルアップする必要があるな』

???『その辺りは心配ないでしょ。六課には優秀な人間が大量だし』

恭文「そうですね。訓練相手には不自由しないですね」

???『で、どうよ。初日終えてさ』

恭文「とりあえず・・・・・・フェイト、綺麗でした。あぁいいなぁ。
うぅ、仕事場だからハグ出来なかったのが辛かった」

???『それだけっ!? アンタ、六課に何しに行ったのさっ!!』

恭文「仕事ですけど何か? てゆうか、仕事場でそんな特別な事なんて、そうそう起きませんよ。
せいぜいギンガさんの妹のスバルと模擬戦やって、相当派手に暴れたくらいで」

???『それだけやらかせば充分だろうがっ! いや、その前にお前そっちを話せよっ!!
・・・・・・とにかく、気をつけろよ? 隊員達の状態はともかく、六課がなんかあった時頼られるのは間違いない』

???『てゆうか、普通に休ませるつもりならアンタを送るわけがないもの。
例のモードも、私らでコツコツ準備だけはしておく。・・・・・・マジでしっかりしなよ?』

恭文「・・・・・・はい」

???『てゆうかさ、私らの『???』は何時取れるのかね』

古鉄≪18話まで取れる予定ないですけど≫

???+???『『マジっ!?』』










(おしまい)





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