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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第2話 『何事も最初が肝心』(加筆修正版)



八神はやて・・・・・・時空管理局に所属する女性局員。出身世界は、僕と同じ第97管理外世界・地球。

年は19歳。お仕事は特別捜査官(色々な事件の捜査をする仕事と思ってください)。

現在の階級は二佐。魔導師ランクは総合SS。戦闘スタイルは、後方から広域魔法をぶちこむ支援攻撃型。





そして、言わずと知れた機動六課の部隊長でもある。で、さっきも言ったけどはやては19歳。

そんな年齢で六課のような大規模な部隊の部隊長になるには、大変な苦労があった。

確かに、高い魔力資質やレアスキルを保有している。だけど、それだけじゃない。





それと合わせた優秀な能力故に、二佐という高い階級も保持している。それでも大変だった。

なにしろはやては下っ端局員には明るく、温厚で人当たりのいい人柄からフェイトに負けず劣らず人気者。

・・・・・・なんだけど、上層部(特に地上部隊の連中)にはあまり受けがよろしくないときてる。





この辺りは色々と背景があるそうなのだが、僕は詳しくは知らない。

うん、詳細は知らない。あんま興味もないしね。はやてが僕の友達だってのは、変わらないし。

話が逸れたけど、ようするに『八神はやて』という一人の局員は、局の上層部から嫌われていた。





その存在と資質を、常に疑問視されていた。直接的になにかしら言われていたとも聞いている。

そんな状況で、強力な支援者兼理解者の力添えがあったとは言え、部隊一つ設立。

そこの部隊長として収まるんだから、たいしたもんだよホントに。・・・・・・口には出さないけど。





はやてには、常にうざったい風評の数々が付きまとっていた。

でもその大半は、ある事件を境に一蹴されることとなった。『JS事件』がそれだ。

はやてが指揮する機動六課は、地上本部襲撃を阻止できず、自らの隊舎も壊滅。





ぶっちゃけ、最初の段階こそ賊に遅れを取った。はっきり言えば、負けた。

だけど、それは最初だけ。まず、この事件の中心人物であり主犯でもあるスカリエッティの逮捕。

そして、それに組する戦闘機人達の確保という功績を残している。





そしてなにより、連中が持ち出してきた古代ベルカの遺産である巨大空中戦艦『聖王のゆりかご』。

このむちゃくちゃな巨大戦艦を見事無力化して、ミッドチルダ全土を救ったのが大きい。

聞くところによると、内部に突入した武装局員の救出作業のオプションまで無償でつけたとか。





それだけの事を成したからこそ、六課は『奇跡の部隊』と言われるようになったの。

で、そんな部隊を指揮してきた才女、八神はやてが僕の目の前に居るのだけど。










「いやぁ、いきなりやらかしてくれたなぁ〜。
やっぱ恭文に来てもらって正解やったわ。これから楽しくなりそうやなぁ」

「・・・・・・八神部隊長、お願いします。
頼むから、あの悪夢の時間をこれ以上思い出させるなぁぁぁぁっ!!」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第2話 『何事も最初が肝心』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



機動六課への出向初日、僕は壇上からずっこけるという素晴らしい・・・・・・ホントに素晴らし過ぎる挨拶をかました。

で、そんな痛い空気が蔓延した朝礼が終わってから、逃げるように・・・・・・いや、本気で逃げようとしたんだけど。外にね?

あの時の僕はあれですよ。全力だった。そう、全力で青年だったさ。で、そんな全力青年となっていた僕を察知していたお方に捕まった。





どうやら神様はやっぱり居ないらしい。こんなに可哀想な僕を見捨てるんだから。










「・・・・・・どこへ行くつもりだ。蒼凪」





声は後ろから。若干怒りというか呆れた色を感じさせたのは、気のせいじゃない。

恐る恐る振り返る。そこに居たのは、肩に金属プレートの付いた隊長用の制服を着た女性。

ピンク色のロングの髪をポニーテールにしており、凛々しい顔立ち。



クール&ビューティーを具現化したような人。というか、知り合い。





「いや、その・・・・・・ちょっとトイレに」

「・・・・・・ここにもトイレはあるぞ?」

「嫌だなぁシグナムさん、まるで僕が逃げようとしてるみたいな言い方しないでくださいよ」





・・・・・・この女性はシグナムさん。僕の昔からの友人で、魔導師の先輩。



そして、『古代ベルカ式』と呼ばれる現在では珍しい術式の魔法を使う人。



戦闘スタイルは、剣を用いた近接戦闘である。





「そうか、それはすまなかった。それで、どこへ行こうとしていた」

「何一つ悪いと思ってませんよね、アンタっ!! ・・・・・・僕はただ、トイレに行こうとしただけですよ」



・・・・・・自宅のですが。いや、さすがにそれは冗談だけど。



「残念ながら、君の行動は予測済みですよ」



そう言ってこちらへ歩いてきたのは、背の高い紫の髪に眼鏡をかけた一人の男性。つか、増援っ!?



「そうそう。きっとなぎ君のことだから」



その男性の傍らには二人の女の子。今話したのは、紫髪のショートカットの人。



「『自宅のですが』・・・・・・とか、考えてたでしょ?」



そして、今話した奴が・・・・・・!!



「栗色長髪。眼鏡をかけたオタクな女。つーかオタク」

「・・・・・・なぎ君、私だけ説明が雑じゃないかな?」

「聞こえてたっ!?」

『いや、声に出てたから』





・・・・・・えー、また説明です。まず、男の方はグリフィス・ロウランさん。

そして、紫髪の女の子の方がルキノ・リリエさん。

この二人は、以前に何度か一緒に仕事をして、仲良くなった友達なのだ。



で、あとはシャーリーね。





「だからなんで私だけ説明が雑なのっ!? あ、私はシャリオ・フィニーノです。愛称はシャーリーっ!!」

「・・・・・・蒼凪、シャーリーも誰に話している」



気にしないでください。なお、シャーリーも友達です。



「とにかく、帰ることは許さん」

「いや、だから僕はただトイレに行きたいだけで」



信じてもらえないって・・・・・・悲しいよね。なぜ人はわかりあうことが。



「グリフィス、シャーリー、ルキノ。すまないが蒼凪を部隊長室まで連行してくれ」

『はいっ!!』

「無視ってわりとヒドくないですかっ!? そして連行ってなんですかっ!!」

「シャーリー、ルキノ」



・・・・・・あの、シャーリーにルキノさん、どうして僕と腕を組むの?

というか、ちょっとくっつき過ぎじゃないっ!? なんか当たってるしっ!!



「これで大丈夫かと思われます」

「上出来だ。蒼凪、両手に花で楽しいだろう。そのまま部隊長に挨拶してこい」

「え? ・・・・・・あの、二人ともそんなにガンガン進まないでっ! お願いだから助けてー!!」



く、こうなったら・・・・・・!!



「シャーリーっ!!」

「なに?」

「ガンダムVSガンダムの新型PSP同梱盤で手を打たない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・打たない」

「シャーリーさんっ!? なんで揺らいでるんですかっ!!」

「ルキノさん、元々シャーリーはこういう子だから。仕方ない、そこに年末に発売されるFFの」

「なぎ君も買収しようとしないっ! シャーリーさんも本気で考えて込まないでくださいよっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そうして、部隊長室に引きずられつつ移動。

そこで待ち構えていた八神部隊長に引き渡された。だけど、正直帰りたい。

だって、しょっぱながアレなんてありえませんぜ旦那? いや、やったの僕だけど。





あぁ、そうか。これはきっと全部夢なんだ。

きっとまだ出向前に見ている夢で、起きればいつもの布団の中。

はははは、嫌だなぁ僕は。なーんで出向前にこんな縁起の悪い夢見ちゃったんだろ?





それに気づけばもう大丈夫だ。こうやって目を瞑れば、全ては万事解決。





瞑れば、きっと自宅の布団の中でよだれ垂らしながら寝てるに決まってるんだ。そうだそうに違いない。










「でも、それはただの現実逃避や」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!」



部隊長室に、僕の悲痛な叫びが響いた。・・・・・・あぁ、わかってたよ。わかってたさ。

でもいいじゃないかよっ!! 現実逃避はありとあらゆるすべての事象に繋がる人間の真理だぞこんちくしょぉぉーーーー!!



「すみません部隊長。今日はこのまま帰って自宅警備員のバイトに勤しみたいんですがよろしいでしょうか?」

「あかんで♪」

「大丈夫ですよ。ほんの半年程行ってくるだけですから。マグロ漁船よりは短期間ですよ。うぅ」

「あぁもう。別に泣くことないやろ? うちは面白かったし。大丈夫や。あれで自分は愛すべきキャラとして認識されたはずや」

「・・・・・・そう思うなら、お願い。僕と目を合わせて。
なんで微妙に合わないの? 僕の髪とか耳とか見てるよね」



つーか、おのれが面白くても僕が面白くなきゃ意味無いんだよっ! なぜそこが分からないっ!?



「相変わらずわがままやなぁ。そんなんやと彼女できへんで? フェイトちゃんにゾッコンLOVEやし、もうちょい頑張らんと」

「待て待て19歳っ! 絶対年齢詐称してるでしょっ!? いつの時代の言い回しだよそれっ!!
なんで平成じゃなくて昭和の匂いがするのっ!? おかしいでしょうがっ!!」

「そないなこと気にしたらあかんよ。つか、それを抜いても前にうちが遊びに行った時に、あんなところにあんな本が」



・・・・・・ビク。



「マッテ。その話は止めにしませんか?」

「えぇやんか。恭文かて男の子なわけやし、うちは別に軽蔑したりとかはせぇへんよ?
というか、一緒にその手の同人本読み漁った仲やんか。何を今さら・・・」

「聞こえなかったかな? その話は、止めにしようって言ってるんだけど」

「・・・・・・なぁ。久しぶりに会ったんやから、そんな怖い目で睨むのはやめてな。うち、これでもか弱い女の子よ?」



あはははは、何言ってんだろこの人。これだから出世頭ってのは嫌なんだよ。



「やかましい。僕の中でお前は女性の欄には入ってないのよ。つーかたった今除外した」

「自分酷いなっ!!」

「酷くないわっ! 事ある事にちくちくからかいやがってっ!! さっきの事で僕がどんだけヒドイ目に遭ったと思ってるんだよっ!?」



フェイトのあの時の目を思い出して、僕がどれだけ枕を露で濡らしたとっ!?

二次性徴に理解を示してくれていたはずなのに、なんで・・・・・・いや、今はそこはいい。



「そんなことする暇があったら、あのワーカーホリックな砲撃魔導師を見習って仕事しろ仕事っ! 仕事に溺れろっ!!
もちろん倒れない程度にっ! 倒れられたら僕が困るからっ!! つか、そんな余計なこと考えるからチビタヌキなんて言われるんだよっ!!」



主に、ゲンヤさんと僕に。そう、この女はタヌキだ。それ以上でも以下でもない。八神タヌキなんだ。うんうん



「そういう事言う? せやったら、出向祝いにフェイトちゃんのドキドキスクリーンショットをプレゼントしようかと思ってたんやけど、やめと」

「嫌だなぁ。ほんの出会い頭の小粋なジョークじゃないですか八神部隊長。私はあなたほど素敵な女性と出会った覚えがありませんよ。
タヌキなんてとんでもない。誰ですかそんな事言ったの? 信じられませんよそいつの神経を疑いますね〜」



ホント誰だろ、僕には覚えが無いよ。失礼過ぎて笑っちゃうね。



「まさにあなたは現代のジャンヌ・ダルクっ! ミロのヴィーナスっ! 小野小町か楊貴妃か、さてはクレオパトラかっ!!
・・・・・・もう、こうして貴方の前で立っているだけで胸の鼓動は切なく高鳴っているんですよ?」



はやての手を握り一息にまくし立てる。ハッキリ言えば口からデマカセ嘘八百。

だけど、これも全てはドキドキスクリーンショットのため。若干アレだと思うが我慢だ。



「・・・・・・自分、プライドないな」

「フェイトと自分のプライド、どっちが大事かって言われたら、僕はフェイトを選ぶよ」



ため息吐きつつ、僕の手から自分の手をゆっくりと離す部隊長。

どっか呆れた表情なのは、気にしないことにする。



「まぁ、ちょっとだけえぇ気分になれたから許したるわ」



あんなのでなれるんかい。なんちゅう安上がりないい子ですか、あなた。



「お望み通り、選りすぐりのをメールで送付しとくわ。楽しみにしとき?」

「・・・・・・恩に着るよ」

「まーそれはそれとして、冗談抜きで自宅警備員はホントにやめたほうがいいと思うで? フェイトちゃんやなのはちゃんが悲しむよ。
二人とも今日はおらへんけど、恭文が六課に出向してくるって聞いて、やっぱり嬉しそうやったもん」

「そなの?」



そうなんだ、二人がそんなことを。

あぁ、なのはは別にいいけど、フェイトが・・・・・・!!



「・・・・・・相変わらずなのはちゃんに対する扱いがひどいな」

「気のせいだよ。だって、リリカルなのはの中でなのははこういう扱いがデフォでしょ?」

「うん、それは絶対勘違いやな。つか、覚悟しといた方がえぇよ?」

「なんで?」

「フェイトちゃん、『いい機会だから、部隊の仕事を覚えて、局に入る気になってくれればいいな』・・・・・・とか言うてたし」



・・・・・・マジですか。僕はそんな気ないのに。僕、嘱託の方が気楽なのに。

てかごめん、あんな事件あった後に局員になろうとか思う人間の気持ちが、今ひとつ分からない。無理だって無理。



「マジや。ま、家族としては心配なんよ。アンタの気持ちは分かるけど、少しは理解したり?」



・・・・・・だね。あー、またゴタゴタするのかな。よし、覚悟はしておこう。



「まぁ、それはヴィータやシグナム達もそうやし、うちも嬉しかったよ。・・・・・・来てくれてありがとな」



そう言って、いきなり頭を下げる八神部隊長。それをなんともいえない心地で見る。



「・・・・・・別にいいよ。めんどくなったら、全部放り出すつもりだし」



なんつうか、ちと戸惑うからそういうのはやめて欲しい。僕の好きでここに居るわけだしさ。

きっかけはリンディさんの依頼ではあったけど。といいますか・・・・・・一回断ろうとしたのでなんか辛い。



「うん、それでえぇ。アンタ、そういう冷たい奴やし」



なんて言いながら、ニコニコ笑うのもやめて欲しい。なんか色々見抜かれてる勘がして、更に辛い。



「あと、もううちの事はいつもどおり『はやて』でかまわんで。
恭文に八神部隊長なんて言われたら、なにか気持ち悪くてかなわんわ〜」

「どういう意味だよ」

「そういう意味や。まぁ、これからよろしくな恭文」



・・・・・・手が差し出された。だから、こう返事をする。



「こちらこそ、よろしく。はやて」





そう言って、僕も同じように手を差し出し、硬く握手する。

それは、この半年を自宅警備員などではなく、機動六課の部隊員として生活するという決意の現れ。

この瞬間から、僕の機動六課の生活は始まる。



数週間後、自宅警備員の方がよかったかなと思う事が起きたけど、それはまた別の話とする。





「違うですっ! なに失礼なナレーションつけてるですかっ!?」

「そうよっ! みんな貴方が来るのを楽しみにしてたのにっ!!」

「蒼凪、相変わらずだな」

「・・・・・・いきなり前フリも無く出てきて、揃いも揃って地の文につっこまないでください」



いきなり後ろから出てきたのは、ちっこい妖精サイズの少女にショートカットの金髪美女、それに青い犬。



「狼だ」



ええ、分かってますからその鋭い視線を向けないでくださいよ。怖いじゃないですか。



「恭文さんがいけないんですよっ!! せっかく少しだけ久しぶりに会ったのにいきなりこれですかっ!? ・・・・・・ひどいです」

「頼むからそんな恨めしい目で見ないでよ。僕が悪かったから」

「反省してますか?」

「もちろん、海よりも深く」



はやて、反省してないだろって目で見るのはやめてよ。心が痛いじゃないのさ。



「なら、許してあげるです。気を取り直して・・・・・・恭文さん、ようこそです〜♪」



そういって、少女は僕の胸に飛び込み、抱きつく。



「うん、久しぶりだね。リイン」



僕はそんな彼女を優しく抱きしめる。



「シャマルさん、ザフィーラさんも久しぶりです」

「お久しぶり、恭文くん」

「元気そうで安心したぞ」



今、僕の腕の中にいる子の名前はリインフォースU。

部隊長であるはやての家の末っ子で、僕にとっては妹みたいな存在で一番の友達。



「違いますっ! リインは恭文さんの元祖ヒロインですっ!!」

「お願いだから2話目でそういう発言はやめてくれるっ!? てゆうか、読者置いてけぼりだからっ!!」





・・・・・・実は、僕が魔導師になったのはリインの存在が大きい。

まだ生まれて間もないリインと、数年前に偶然出会った事で、魔法と次元世界の存在を知ったの。

まぁ、この話は長くなるので、機会があれば話すことにする。



で、僕とリインがハグハグしているのを楽しそうに見ている綺麗なお姉さんと。





「あら、イヤだ。恭文くんったら、少し会わない間にずいぶん上手になって。
・・・・・・うん、いいわよ。あなたがその気なら、私はいつだって受け止めるわっ!!」

「・・・・・・『次元世界でナンバーワンの呼び声も高い、自意識過剰な変なお姉さん』と」

「ひどーいっ!」



それはこっちのセリフだよっ! なにしょっぱなから色んなものをぶっちぎってるのっ!? おかしいでしょうがっ!!



「シャマルさん、マジで落ち着きましょうよ。ほら、部隊の中なんですし」

「なに言ってるのっ!? どこに居ても私はあなたの主治医兼現ち」

「その呼称はお願いだから、今すぐ次元の狭間に捨て去れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」





で、この不満そうな顔をしたお姉さんは、シャマルさん。

はやて・・・・・・八神家の一員で、局に所属を置く医務官。

今、本人が言ったように、僕の長年の主治医でもある。色んな意味で頭の上がらない人だったりします。



なお、シグナムさんと同じく『古代ベルカ式』を習得しており、その中でも回復と補助の魔法を得意とする風の癒し手でもある。





「蒼凪、気持ちは分かるがあまり言ってやるな。シャマルは、お前のことを相当心配していたのだからな」



う。そこを言われると辛い。ここ2ヶ月は色んなものをぶっちぎってたし。



「そうよ。私・・・・・・本当に心配で」

「だからと言って、蒼凪に抱きつこうとするのはやめろ」

「あら、いいじゃ・・・・・・って、なんで恭文くんも逃げるのっ!?」

「身の危険を感じたからですがなにか?」





・・・・・・そして、精悍な顔立ちの青い『狼』は、同じくはやての家族で、ザフィーラさん。

守護獣と呼ばれることもある人(今は狼だけど、人の姿にもなれるのよ)。

で、シャマルさんと同じく古代ベルカ式の使い手。



ザフィーラさんは、防御の魔法を得意としている盾の守護獣。

それだけじゃなくて、人の姿になれば格闘戦も強い。

二人とも、昔から色々とお世話になっている人達なの。





「・・・・・・というかザフィーラさん」

「なんだ?」



ついシャマルさんのバカに乗ってしまったけど、ツッコミたいところがある。



「元気そうってのはこっちのセリフですよ。リンディさんからみんなズタボロだって聞いてたんで」

「日常生活には問題ないレベルには、みんな回復してるわ。ただ」

「我やヴィータ、そして高町など一部の人間は戦闘となると、まだ本調子で行けないのが現状だ」

「・・・・・・そうですか」



そこまでだったのか。ま、しゃあないか。その場にいなかったし、あーだこーだ言うのは間違いでしょ。



「・・・・・・せやな。リンディさんから聞いとるとは思うけど、今の六課主要メンバーの・・・・・・言うよりは、隊長陣の大半はこんな感じや」



全員が全員じゃないってことか。なら、まだいい・・・・・・方じゃないな。一番の爆弾が存在してるし。



「万が一に備えて、恭文には休み返上で来てもらっとるし、残り半年近く、何がなんでも何とかしていかないとあかん」

「はいですっ!!」



半年・・・・・・気合いを入れるリインを見て思った。

結構、長いなと。何か起きるとしたら、充分すぎる期間だもの。



「恭文くん、あなたにはそう言う事情で来て貰っているわけだけど、もちろんあなた一人に全てを押し付けるような事はしないわ」

「もし何か起こったとき、我らにお前の力を貸してほしい。頼みたい事はそれだけだ」

「別に構いませんよ。そのためにここに来たわけですしね。
で、めんどくなったら適当にさようならーってしますし。僕、部隊に常駐とかって趣味じゃないですもん」





・・・・・・ほらほら、みんな笑わないで? ここ、膨れるところだと思うんだ。

なんでザフィーラさんまでにこやかなんですか。

あとは、休みだな。うん、ここ大事。休みすっごく欲しいもの。



それださえあれば、僕は戦える。まだ戦えるんだ。

といいますか、いい加減休まないと体外的にも僕の身体的にも色々とですね。

結局、あの無茶振り提督のおかげで、この二週間もほぼ休み無しだし。



あ、でも昨日一日だけはゆっくり休めたからしばらくは大丈夫かな?



もう一日中布団の中の住人だったよ。





「それはもちろんや。リンディさんからもストライキとか起こされたくなかったら、そこはちゃんとするようにと言われてるしな」

「・・・・・・あの人は僕をなんだと思っていますか?」

「可愛い問題児ってところかしら?」

「蒼凪なら実際ありえるしな」

「です」



よし、ちょっと話を聞こうか。あなたたちも僕のことを、一体なんだと思っていますか?



「まぁ、ストライキ起こせるなら起こしたかったけどさ」

『えっ!?』

「・・・・・・さらば電王、観に行けなかった」





途中で、必死に書類をさばいて、一日休みを確保出来た。

なのに・・・・・あのバカ提督が追加で書類作成を命じて来た。

それがなければ、ちゃんと見れたのに。・・・・・・見れたのに。



昨日? 転送ポートの使用許可がとれなかった。おかげで愚痴もひどかったさ。



・・・・・・ちくしょお、僕が何したっていうのさ。こんな善良な嘱託を捕まえて、なんでこんなひどい仕打ちを?





「あぁ、自分ら好きやったな」

「ね、提督潰しても罪にならないよね? ジャスティスだよね?」

「お願いやからそれはやめてーなっ! 間違いなく罪になるからなっ!? ジャスティスちゃうからっ!!」

「嘘だッ!!」

「嘘ちゃうからっ! なんでいきなりひぐらしっ!? そしてちょっと涙目はやめてくれんかなっ!!
・・・・・・とにかく、休みは善処していくし、さらば電王もディスクでたらプレゼントするから、元気出してくれへんかな?」



・・・・・・僕はその言葉に頷いた。あの提督には、きっちり仕返しをすることを決意した上で。



「はやて」

「なんや?」

「通常版とディレクターズカット版、両方ね? もちろん、初回限定。あと、劇場公開記念のイベントDVDも」

「自分何気に要求レベル高いなっ! てーか、それやったらクロノ君に要求せんかっ!?」



もちろん、クロノさんにも既に要求してますが何か?

アレだよ、自分でも同じセット買って、保存用と観賞用と布教用にするもん。



「・・・・・・それはそうと。三人はどないしたん?」

「はいですっ! フフフっ!!」



なぜかいきなりニヤニヤと笑い出す祝福の風。あの、怖いから用件を早く言ってもらえませんか?



「恭文さん、あなたを生まれ変わった機動六課隊舎見学ツアーにご招待に来たです〜♪」

「「・・・・・・はい?」」



はやてとついハモってしまった。・・・・・・隊舎見学ツアー?



「はいです。私、祝福の風・リインフォースUが責任もってガイドするですよ♪」

「あぁ、つまるところオリエンテーション言うわけやな?」

「ですです」



自信満々に無い胸を張って、そう高らかに宣言する青いティンカーベル。

・・・・・・今、なんか睨まれたけどきっと気のせいだ。



「まぁ、確かに部隊で仕事するなら必要やしなぁ。うし、アンタここはもうえぇから行って来てえぇで」

「そして英断だねオイっ!! ・・・・・・でも、必要か。ちなみにおいおい慣れるってのは」

「出来れば、早急に慣れてくれると助かるんよ。結構仕事溜まってるしなぁ」

「了解。んじゃリイン、お願いね」

「はーいです」



・・・・・・そういや、リインと一緒に来たってことはシャマルとザフィーラさんもツアー参加者?



「いいえ、私たちは違うわよ」

「別の用件だ」

「別の?」

「恭文さんへの挨拶ですよ」



リインがそこまで言うと、シャマルさんとザフィーラさんが僕の方を向いて、柔らかい表情でこう切り出した。



「恭文くん、機動六課へようこそ。あなたを新しい仲間として歓迎します。そして、来てくれてありがとう」

「まさか休みを返上してまで来てくれるとは思わなかったぞ。
これから色々とあるとは思うが、なにかあればいつでも言ってくれ。必ずや我らが力になる」

「・・・・・・こちらこそ、また面倒かけるとは思いますがよろしくおねがいします」



そうして、まず最初の挨拶を無事に済ませた。

僕は、はやて達に見送られリイン先導のもと、機動六課隊舎見学+挨拶参りツアーへと向かった。



「リイン」

「はいです?」

「これからよろしくね。で、もしなにかあったら・・・・・・頑張ろうか」

「・・・・・・もちろんです。リイン達が力を合わせれば、どんな理不尽も、きっと覆していけるですよ」

「うん」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「しっかし、こうやってみんなでここを歩くのも久しぶりよね」

「そうだね〜。なんか気持ちいいや〜」

「ゆりかご戦の後は事件の報告書の作成や後処理とかで、基本的にはアースラの中でしたし」

「部隊長もおっしゃってましたけど、やっと帰ってきましたね」





そう口々に言うのは、私、スバル、それにキャロとエリオ。・・・・・・あの事件で壊滅した六課本部がやっと復旧した。

事件解決から復旧作業が完了するまでの間、六課主要メンバーは次元航行艦・アースラにそのまま乗艦。

それで、事件の事後処理を行いつつ生活していた。まぁ、アースラでの生活と業務は、特に不自由は無かったのよね。



艦自体が長期間の次元航行での任務を目的として作られているだけあって、ちゃんとしてるもの。

それでも、ここに戻ってきてなんだか嬉しいというか懐かしいというか落ち着くというか。

とにかく、そんな感じだ。なんだか変だな。私、10歳の頃から寮暮らしで、根なし草も同然なのに。





「なんだか私、やっと帰るべき場所に帰ってきたって気がします」

「うん、その気持ち少し分かるよ。僕もなんだかここにいるとすごく落ちつく」



どうやら、ライトニングの二人も同じ気持ちらしい。見てて、ちょっと微笑ましくなる。



「懐かしいのも落ち着くのもいいけど、気を抜いちゃだめよ? まだまだやる事は残ってるんだから」

「「はいっ!!」」



ま、今日くらいは・・・・・・よくないか。あり得ない奴が一人居るし。



「へへへ〜♪」

「なによ、なんかニヤニヤして」



私の隣りでニヤニヤしているのはスバル・ナカジマ。

私の長年のパートナーになる。・・・・・・というか、なんでそんな表情になってるの?



「なんかさー、嬉しいな〜と思って」

「はぁ?」

「だって、隊舎も復活したし、こうしてみんな無事に帰ってこれたし、新しい人も来てくれたし、いいこと尽くめじゃない?」



両手を大きく広げて、そう口にするスバルの言いたい事は、分かる。ただ・・・・・・なぁ。



「隊舎とみんなの無事は解るけど、最後の一つは正直微妙よ。アレはないわよアレは」





言いながら思い出すのは今日の全体朝礼での一幕。

今日から六課で仕事をする事になった一人の男。

身長はスバルと同じくらいで細身の体型・・・・・・って、ちっちゃいわね。



あと、女の子っぽい顔立ちで、栗色の髪と、黒い瞳をしたアイツ。



年は私達と同じくらいよね? 正直そうは見えない。





「あれは、きっと私たちを和ませようとしてくれてたんだよ」

「いや、絶対違うから」



それだけは断言出来る。あれは間違いなく素だ。

てーかホントにそれでアレなら、色々と読み間違えてるから。



「ライトニングはどうよ。朝のアイツについて知ってることある?」



アイツは、八神部隊長やなのはさん、フェイトさんの友達らしい。

だから、二人は私達より詳しいかもしれないと思って聞いてみる。



「すみません、僕達も会った事があるわけじゃないんです」

「そうなの?」

「はい。いちおうフェイトさんから、一緒に暮らしている弟みたいな男の子が居るとは聞いていたんですけど」



・・・・・・へ? 一緒にっ!? つまりそれは・・・・・・えぇっ!!



「あ、そういう意味ではなくてですね。なんでも海鳴の家の方に居候のようなことをしていたらしいんです」

「あぁ、なるほどね」





この二人の保護者で、六課の隊長陣の一人でもあるフェイト・テスタロッサ・ハラオウンという人がいる。

その人は、4年前まで、地球の海鳴という街で暮らしていた。その時に同居してたってことか。

それで弟みたいだって言っていたのか。納得した。・・・・・・ってことは、アイツはハラオウン家の親族かなにかってわけ?



でも、ファミリーネームが違うわよね。出身世界もなのはさん達と同じらしいし・・・・・・うーん。





「フェイトさんからは『前にも言ったけど、ちょっと変わっているけど、真っ直ぐでいい子だから、仲良くしてあげてね』とは言われてるんですけど」

「確かに、変わってはいるかもね」





あの男については、事前になのはさん達から説明を受けている。

なのはさんの友達で、あっちこっちの現場を渡り歩いている優秀なフリーの魔導師だと。

名前は蒼凪恭文。年は私より一つ上。魔導師ランク、A+とかだっけ。



・・・・・・魔導師には、能力を示すランクというものがある。

陸戦・空戦・総合の三つの分類に、上から『SSS・SS・S・AAA・AA・A・B・C・D』と言った風に分けられる。

あとは、0.5ランクを意味する『+』とか『−』が付いたり。



まぁ、あくまでも目安みたいなものなんだけどね。

ちなみに、私とスバル、エリオが陸戦B。キャロがCになる。

で、新入りの空戦A+というのは、うちの隊長陣とまでいかなくても、なかなかに優秀な方になる。



特に空戦・・・・・・飛行技能を持つ魔導師は、ある一定以上の技能や適性がないと、なれないの。

なお、それが先天的なものか、訓練による後天的なものかは一切問わない

とは言うものの、魔導師としての腕前は実際には見てないが正直微妙な感じがする。だって、アレだしね。





「そんなことないよっ! すっごく強いんだからっ!!」

「・・・・・・アンタ、なんでそんなこと言い切れるのよ。つか、知り合いってわけじゃないんでしょ?」



私の諦めも混じった発言は、胸を張って自身満々なうちの相方にあっさり否定された。

・・・・・・また大きくなってる、私なんてまだまだなのに。



「だって、ギン姉から聞いてるんだもの」



捕捉ね。ギン姉というのは、スバルの姉のギンガ・ナカジマさん。局で捜査官をしている人。

スバルの魔導師の先生の一人で、優秀な陸戦魔導師でもある。・・・・・・あぁ、そういえば。



「ギンガさんの友達でもあるって言ってたわね」

「それで、事前に情報収集してたんですね」

「そうだよ。実力はギン姉の折り紙付き。性格はちょっと変わっててクセはあるけど、大丈夫だって、自信満々だったよ」



あのギンガさんがそこまで言うんだから、実力はそれなりってことか。まぁ、そこは見てからよね。うん。



「でもね、ギン姉・・・・・・『会って仲良くなってからのお楽しみ』って言って、あんまり細かい事は教えてくれなかったの。
あー、でも楽しみだな〜。ギン姉の話を聞いてたら、どんな感じか戦ってみたくなってさ。なのはさんたちに頼んで模擬戦組んでもらわないと」

「・・・・・・アイツの意思は確認しときなさいよ? 強引に話決めたら迷惑でしょうから」

「うん、もちろんっ!!」





それはそれとして、今、私たちがどこへ向かっているかと言うと、デバイスルーム。

デバイスマイスターのシャーリーさんに、訓練の再開前に私達のデバイスの調整と整備をしっかりとしておきたいと言われた。

というわけでで一週間程前にシャーリーさんに、パートナー達を預けていた。



そして、部屋の前に到着した。到着して、ウキウキしてるのが・・・・・・一人。





「マッハキャリバー元気かなぁ〜。なんかドキドキしてきちゃった」

「あんた、いくらなんでも大げさよ」



とか言いながら部屋に入る。



「失礼しまーす」

「失礼するなら帰ってくださ〜い」

「す、すみません! 失礼しました!」



そうして、私達は全員失礼しないためにデバイスルームから退出し・・・・・・・って、ちょっと待った!!



「ちょっと邪魔するわよっ!!」



再びデバイスルームに突撃する。そして居た。小さい男の子と。更に小さい小鬼が。



「・・・・・・リイン、なんでそんな怖い顔で睨んでるのかな。ほら、可愛い顔が台無しだよ?」

「なに言ってるですかっ!? 怒っててもリインは可愛いんですっ!!」

「自意識過剰に磨きがかかってるねおいっ!!」

「というかっ! どこの世界にあんな事言って追い出す人がいますかっ!?」



リイン曹長、いい質問ですっ! それ、私も聞きたかったですからっ!!



「え、吉本新喜劇でやってたよ? というか休みの日にいっしょに見たじゃないのさ」

「・・・・・・お仕置きですーーー!!」

「いや、だって、てっきりシャーリーかと思って、本当にお客様とは思わな・・・・・・って、痛い痛いっ! 髪の毛引っ張るなぁぁぁぁっ!!」

「部隊を舐めるなですー! そんな事じゃ、みんなに総スカンされますよっ!?」



・・・・・・よし、大体分かった。分かってないけど、分かったって事にしましょ。うんうん。



”・・・・・・なにこれ?”

”さぁ”

”お仕置き・・・・・・ですよね。でも”

”あんなリインさん、初めて見ました”



同じくよ。・・・・・・とにかく、リイン曹長が新入りの髪の毛をぐいぐい引っ張ってお仕置きしてる。

てか、アイツがなんでここにいるの?



「あ、みんなどうしたの〜」

「あ、シャーリーさん」

「えっと、マッハキャリバーたちを受け取りにきたんですけど」

「あの有り様で」

「なんで、あの方がここにいるんですか?」



シャーリーさんが、部屋の様子を見て納得したような顔になった。そして、こう続ける。



「・・・・・・あぁ、気にしなくていいよ」

「いや、そう言われましても・・・・・・気になりますって」

「さっき、ロングアーチに挨拶に来ててね。なぎ君のデバイスもちょっと見たかったし、ここに連れてきたの。私は今少しだけ出てたから」

「そうなんですか」

「まぁ、どうせなぎ君がなにかしたんでしょ。すぐに終わると思うから、入って入って」



・・・・・・・シャーリーさん、アイツと知り合いなんですか? というかどうしてそんなに慣れてるんですか。

え、この状況って、ひょっとして普通のことなのっ!?



「それじゃああの」

「お邪魔、します」










そうして、私たちは無事(?)にデバイスルームに入室する事が出来た。





・・・・・・これから、不安だわ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



リインによるお仕置きが終了した後、二人してゼーゼー言いながら、六課フォワード陣と対面していた。

リインがあれやこれやとしている間に、フォワード陣のデバイスの受け渡しを完了していた(いつの間に)。

そして、シャーリー先導である場所に移動していた。その間に、簡単な自己紹介をするのも忘れない。





そこの名は・・・・・・食堂。





おそらく、これから先一番お世話になるであろう施設だ。食は大事だからねぇ。










「そういえば、シャーリーさんとリイン曹長とは知り合いなんですか?」

「親しいみたいですけど」

「うん。リインは魔導師成り立ての頃からの友達だし、シャーリーはフェイト経由でね。
デバイスの事とかで相談に乗ってもらってるのよ。あと、オタク仲間」

「なるほど、納得しました」





あー、なんかやりづらい。特にチビッ子二人だよ。本気でなに話していいか分からない。

・・・・・・ねー、聞こえてるよね? ちょっと手伝ってよ。

みんなに愛されるあなたの力が必要なのよ。僕はもう許容量が限界なんですよ。



・・・・・・はい、分かりました。予定通り、自力でなんとかします。



あー、まさかいきなり六課での一番の懸念事項にぶち当たるとは。どうしようかこれ。





「うーん、みんなかたいなぁ」

「でも、初めて同士ですから」

「そうですね、これから遠慮が無くなっていきますか。
というか、なぎ君相手にそんなことしてたら身が持たないですし」

「です」





二人とも、そういう話なら聞こえないところでやってもらえませんかね? まぁいいけど。

一応、互いに挨拶は滞りなく(?)終了している。そして、今の時間はもうすぐ食事時。

そういう事もあり、少し早いけど一緒にご飯を食べながら話す事にした。



なんだけど・・・・・・なんと言うか、若干目の前の光景がおかしい。

目の前には、僕の出身世界・・・・・・地球で言う所の、ビックバン盛り。

もしくは、流星盛りとか言われるようなサイズの山盛りパスタにサラダ。





それが見る見る間に消えていく。その光景に僕は驚きを隠せなかった。





「・・・・・・なんだこれ?」



深い意味はないけど、とりあえず口に出してみる。



「あんまり気にしないほうがいいですよ?」

「スバルもエリオも、いつもこれくらい食べるから」

「この量をいつも完食?」



ポカーンとした表情を浮かべる僕に、補足を入れてくれたリインにシャーリーに一つ聞いてみる。

これを完食しているのかと。答えは違う所から帰ってきた。



「当たり前じゃないですか」

「ご飯は残すのはいけないことだって、フェイトさんから教わりましたから」



・・・・・・あぁ、なるほど。それはそれは素晴らしいことで・・・・・・って、んなわけあるかぁぁぁぁっ!!



「まてまてっ! あなた方はあれかっ!! 胃袋が七つあるどっかの犬顔の宇宙人っ!?」





所ジョージさんに似た声のアイツならこれくらいの量は充分ありえる。

けど、普通の人間にこのバカ盛りをいつも完食ってありえないからっ!!

そしてフェイトっ! 腹八分目って文化も教えなさいよっ!!



食べ過ぎは体に毒だって分かってるっ!? あぁもう、マジで色々甘いんだからー!!





「蒼凪・・・・・・だっけ? 気持ちは解るけど、気にしたら負けよ」

「大丈夫です。時がたてば、あなたにもこの光景が普通のものに見えてくるはずですから」



心底疲れたような表情でそう口にするティアナ・ランスターさんとキャロ・ル・ルシエちゃん。



「・・・・・・あなた達も苦労しているんだね」





こんな話をしている間にも、どんどん皿の上のパスタ&サラダは質量を減らしていく。

あーうん、アレだよアレ。もう気にするのやめよう。気にしたら、食欲が無くなる。

しかし、あの姉さん以外でこんな馬鹿げた食いっぷりを見ることになるとは。



そう思い、ご飯を食べながら別の話をして、気を紛らわせることにした。





「そういやリイン、この四人の教導担当って、なのはと師匠って聞いてるんだけど」

「そうです〜。スバル達は、なのはさん達が鍛えて育てている子達なんですよ〜」



よし、まずはおだててコミュニケーションを取っていこう。必要なのは飴だ。もっと言うと、糖分だ。



「ということは・・・・・・ゆりかごやらスカリエッティのアジトやらで救出作業を行ったのって、この子達かな?」

「うん、スバル達だよ」

「なるほど、それで納得できたよ。・・・・・・噂は色々と聞いてるよ〜。
なのはと師匠が手塩にかけて育てている未来のストライカー達が居るって」





これはホントの話で、奇跡の部隊である機動六課の事を話すときに必ず出てくる事だ。

ゆりかご内やスカリエッティのアジトに閉じ込められた歴戦のエース達。

それを救出したのは、まだ年端も行かない少年少女達だったと。



・・・・・・フラグ、立て損なった。くそ、自業自得とは言え、なんか貧乏クジばかりだよ。

とにかく僕は、事件解決直後のリインからのメールで大体の話は知っていた。

だけど実際に会ってみて、またびっくりしてる。みんな成長期まだ終わってないよね?





「いえ、そんな」

「私たちなんてまだまだで」





そう口にするのは、一組の男の子と女の子。

桃色のセミロングになりかけな髪の女の子は、さっきのキャロ・ル・ルシエ。

で、赤髪で堅苦しい印象の男の子の方は、エリオ・モンディアル。



年のころは10歳前後か。確か、フェイトが保護責任者を務める子達。

そして、六課出向においての最大の懸念事項。

・・・・・・しかし、こんなチビッ子まで戦ってたとは。知ってはいたけど驚きである。



それもガジェットやら戦闘機人やらを相手に一歩も引かない戦いを見せたって話。


なのはと師匠、どんだけシゴいてるんだ?





「なに言ってるですか。恭文さんだって同じくらいの時には魔導師やってたですよ?」

「あー、そうだね。人の事は言えないや」

「なかなかに面白い子が入ってきたと、当時のリンディ提督やレティ提督は喜んでたって、フェイトさんから聞いたけど?」

「「そうなんですかっ!?」」



食いついてきたなチビッ子コンビ・・・・・・というか、あなたがたは兄妹とか双子とかあれですか?

すっごいハモリ方しますね。挨拶もあれでしたけど。



「えっと、年は18って言ってたわよね。そうすると、魔導師暦7、8年・・・・・・私たちよりずっと先輩じゃない」

「あーでも、経験だけあるって話で、なのは達みたいにすごいわけでもなんでもないから」



手を振りながら、そう言ってみる。謙遜とかじゃなくて心からそう思うし。あやつらは色んな意味で別格ですよ。

・・・・・・ただ、その別格は実力だけにして欲しいと思う。無茶まで別格じゃあフォローのしようがないって。



「そんなことないと思うけどね〜。だって、色々噂立ってるじゃない」

『噂?』



・・・・・・あるの? いや、覚えはあるんだけど。



「そう、あるのっ! ある人曰く・・・・・・なのマタっ!!
あ、なのはさんも寝ているなぎ君は起こさないようにまたいで通る位に強いって意味ね」

『えぇぇぇぇっ!!』

「・・・・・・シャーリー」

「なに?」



ベシっ!!



「うん、フカシこくのやめようか。あんまり過ぎるとデコピンするよ?」

「い、今したよね? 相変わらず容赦ないなぁ」

「当たり前じゃぼけっ! あれかっ!? 2話目でこの話終わらせる気だったんでしょっ!!
お願いだからその中途半端なパクリはやめてっ! 権利関係は怖くて痛くてそして強いんだよっ!!」



なんですか、なのマタってっ!? そこまでなんかやらかした覚えがないよっ!!



「なんというか、そのツッコミも久しぶりだなぁ〜。私はなんか嬉しくなってくるよ」

「うん、それはいいんだけど本当にやめてね? いや、お願いだからさ」



心から思う。この眼鏡マイスターはぶっ飛び過ぎだと。もうちょっと常識を踏まえて欲しい。



「まぁでも、優秀なのは間違いないから。私も色々見てたし。
・・・・・・私達の輪の中では、ちょっと変わり者だけどね」



シャーリー、失礼な事を言うな。僕は世界のスタンダードだよ。フォワード四人は・・・・・・呆気に取られてる。

うん、これから慣れていこうか。僕とシャーリーとかはいつもこんな感じよ?



「・・・・・・あの、蒼凪さん」



僕の心境などどこ吹く風。いきなりナカジマさんがなにやら神妙な顔で話し掛けてきた。



「はい、なんですかナカジマさん」

「あ、私の事はスバルでいいです。敬語じゃなくても大丈夫ですから」

「そうなの? ・・・・・・なら、僕のことも恭文って呼び捨てでいいよ。敬語も無し」

「いいんですか?」



僕は頷いて答える。まぁ、一応ね。

僕は別に、人から敬語使われたりさん付けで呼ばれるほど立派な人間じゃないし。



「で、話は何?」

「うんと・・・・・・恭文って、私のこと知らない?」

「・・・・・・はい?」



あー、ひょっとしてあれかな? 『前世で恋人同士だった』とかいう電波的な話になるのだろうか。

まさか・・・・・・いきなりそんな濃いアプローチを仕掛けられるとは。



「ほらリイン、だから僕の言った通りでしょ? 自宅警備員の方が、いいかも知れないと思うことになるって」

「スバル・・・・・・また濃いアプローチしますね」

「違うますからっ!! ・・・・・・いや、だから、私のこと・・・・・・ギン姉から聞いてない?」

「聞いてるよ。というか、写真も見せてもらってるし」



コンソメスープを啜りながらそう言うと、スバルの表情が・・・・・・あれ、なんか驚いてる。



「えぇっ!? だ、だってさっきまで普通だったしっ!!」

「当然でしょ。スバルと会うのは初めてなんだから。距離感測ってたのよ」





・・・・・・ギン姉とは、ギンガ・ナカジマ。僕と同じ魔導師で、3年来の大事な友達である。

その人から、六課に以前話した妹が居るから、出向したら仲良くしてあげてねとは言われてたの。



「でも、スバルがギンガさんの妹・・・・・・うん、納得したわ」



ここまで言えばもう分かると思うけど、それがこの子・・・・・・スバル。



「大食いなとことか?」

「あと、妙に距離感が近いというか、強引というか・・・・・・そんな感じがひしひしと」



ティアナ・ランスターさんの言葉に同意する僕。・・・・・・そして、もう一つ納得した。あなたもそれに振り回される人なのね? 仲良く出来そうだよ。

・・・・・・なお、今『振り回しているのはなぎ君だよねっ!?』なんて電波を拾ったけど、気にしないことにする。



「それでね、一つ質問があるんだけど」

「なに?」



あー、そんなに目をキラキラさせてなにが聞きたいんですかアナタは? とりあえず、身を乗り出さないで欲しい。



「うんとね、恭文は魔法はどんなの使ってるの? 具体的な戦闘スタイルは? デバイスは?」



そう身を乗り出して聞くのは、当然スバル。

だから、顔近いからっ! 離して離してっ!!



「というかさ、ギンガさんから聞いてないの?」

「ギン姉は、細かいことは教えてくれなかったの。フロントアタッカーということだけしか」

「なるほど」



ならよかった。初対面で手札知られたくないし。

・・・・・・とはいえ、そこまで期待されたら答えは一つしかない。そう、あれ。



「秘密」



左手の人差し指を唇に縦に当て、そう言い切った。あれ、全員がズッコケた。・・・・・・なんで?



「えー、なんで? いいじゃん教えてよ〜」

「と言われましても、そんなに一度に聞かれても答えられません」

「じゃあじゃあ、一つずつでいいからさ。ね?」



むむ、なら仕方ないなぁ。



「・・・・・・上から75・55・76」



あ、なんか表情面白い。コロコロ変わって、退屈しないね。



「それスリーサイズだよね!? 誰もそんなこと聞いてないしっ! というか、私より細っ!!」

「そなの? ちなみにスバルはいくつかな」

「えっと、上からはちじゅ・・・・・・って、なに言わせるのっ!!」

「だって、僕が答えたんだからスバルだって答えなくちゃ不公平でしょ?」



ハガレン読みなさい? 等価交換って大事だから。



「あ、なるほど・・・・・・って、なんでそうなるのー! てか、なんでそんなに細いのっ!?」

「知りたい?」

「うんっ!!」



頭をブンブン振り、頷くスバル。なので、僕はこう答える。



「ヒミツ」

「どうしてっ!?」

「男は秘密というヴェールを纏う事で素敵になるのですよスバルさん。
・・・・・・というか、そこは察して。いや、本当にお願いしますから」

「・・・・・・あ、うん。その・・・・・・ごめん」



まぁ、からかうのはこれくらいにしといて、こっからは真面目に答えていきましょ。

・・・・・・アー、僕も一つ疑問が出来た。



「スバル、なんでそこまで僕の戦い方に興味があるのよ?」

「ギン姉から色々話を聞いてね。それに、恭文フロントアタッカーなんだよね? 私もそうだし」

「・・・・・・スバル、フロントアタッカーなの?」





僕がそう言うと、スバルが頷く。・・・・・・あぁ、それで納得したわ。

同じポジションの人の戦い方を見るのは勉強にもなるし、なにより楽しいんだよね。

例えばヴィータ師匠とシグナムさん。古代ベルカの技能を扱う騎士二人。



腕前は同じくらいだし、フロントアタッカー同士ではあるけど、使ってる武器がハンマーと剣と違うのがまず一つ。

次に、師匠はオールレンジいける人。だけど、シグナムさんは僕と同じく基本は近接オンリーな人だから、取り回しや動き方がかなり違う。

そんな感じに互いの違う部分を見て、自分に対して生かせる部分を見つけられる時もあるし、実際に戦ってみるとこれが中々に楽しいのよ。





「でしょ? だから、どんな風なのかなって思ってたんだけど」

「うん、それなら納得だわ。とは言っても・・・・・・そんな面白いとこはないよ?
使ってる魔法も近代ベルカ式の比較的単純な物だし。・・・・・・そういや、スバルも近代ベルカだよね」

「そうだよ、シューティングアーツ」

「ギンガさんから教わってたんだよね」

「うんっ!!」





・・・・・・魔導師が使う魔法は、大きく分けて二つの術式がある。

僕、そしてギンガさんとスバルが使用している『ベルカ式』。そして、『ミッド式』の二つだ。

まず、ミッド式は魔力の操作により、様々な事象を起こすことに長けている。



雷を落としたり、高速移動をしたり、大量の誘導弾を撃ったり。

得意レンジは中・遠距離だけど、オールマイティーな特性をもっている。

そして、ベルカ式。これは、ミッドチルダ式のそれとはまた色が違う術式。



攻撃の範囲や射程を犠牲にして、単体・近接戦闘に特化した魔法形態である。

なお、人によります。あくまでも、一般的な認識がこうだって言うのは、覚えておいて?

魔力を術者の肉体強化。武器・・・・・・使用デバイスに対する魔力付与による攻撃力の増加に使用する。



そう、ベルカ式は個人戦闘に特化した、体術を駆使して扱う武闘派な術式なのだ。

なお、ベルカ式には『近代ベルカ式』とシグナムさん達の使用する『古代ベルカ式』の二種類がある。

僕やギンガさん、スバルの使う近代ベルカ式は、古代ベルカ式を、ミッド式と掛け合わせて作られた。



その出も、まだ10年とかそれくらいで・・・・・・比較的最近生まれた術式なのだ。






「・・・・・・僕は、普通よ? 普通の近接アタッカー。そんな大したレベルじゃない」

「でも、さっきのシャーリーさんの話だと」

「そんなの大半はホラだから。つか、みんなの方が凄いでしょ。
だって、ナンバーズやらガジェットやらとやりあってなんだかんだで勝ってるんだし」



なのマタなんて比喩とは、違うでしょ。根も葉もないホラより、根も葉もある事実の方が凄いのよ。

とか話しながらパスタを一口パクリ。・・・・・・うん、おいひい〜♪。



「あの、ベルカ式ということは、蒼凪さんは騎士なんですか?」



スバルの次に食いついてきたのは、モンディアル君。・・・・・・フェイトの保護児童、なんだよね。



「エリオで大丈夫ですよ?」



もとい、エリオ君。にこやかな笑みなど浮かべておられますが、目が笑っていません。というかなんか燃えている。



「いや、僕はベルカ式使うけど、師匠達と違って騎士の称号は取ってないのよ」



ベルカ式を使っている人間は、一般的に『騎士』と呼ばれているのだ。ま、個人の自由だけどね。



「そうなの?」

「うん。なんというか、ガラじゃないしね」



つーか、どこの世界に、ドサクサ紛れに初対面の女の子のスリーサイズ聞くような騎士が居るというのか。

どこの世界に・・・・・・スバルがなんか犬っぽいからという理由で、初対面にも関わらず軽くからかったりする騎士がいるというのか。



「というか、僕は魔導師・・・・・・魔法使いの方が好みなの。
ほら、響きがこっちの方がかっこいいもの。だから騎士は、師匠達に任せてる」

「ふーん、そうなんだ。・・・・・・ね、実は一つお願いがあるんだ。私、模擬戦やりたいんだけど」

「スバルと? いいよ〜」



サラダをパクリと食べながらそう答える。・・・・・・お、サラダも美味しい。野菜はシャキシャキで新鮮。

かかっているドレッシングも実に野菜の味を上手く引き立てている。うむぅ、六課のご飯はレベルが高いな。



「いいの?」

「待って、なぜ確認するの?」

「だって、なんか急に素直に答えたし。さっきは『秘密』ってはぐらかしたのに」

「・・・・・・あぁ、そっか。いやだなぁスバル。いじめて欲しかったならそうだっていってくれ」

「怒るよ?」



・・・・・・ごめんなさい。ちょっと調子乗りすぎました。

なので、その拳と単色の目は引っ込めてもらえるとありがたいです、はい。特に拳が痛そうだし。



「でも、なんで急に素直に?」

「別に大した理由じゃないよ? 僕も腕がなまるのは嫌だし、定期的な模擬戦はむしろ歓迎ってだけ」



退屈なのは嫌なのだ。どーせなら、楽しくいきたいのよ。



「ホントに?」

「ホントだよ」

「そっか。恭文、ありがとっ!!」



・・・・・・なんかスバルがすっごく嬉しそうだな。尻尾があったらブンブン振ってそうな勢いだ。

というか、さっきからやたらと僕の魔導師としてのスキルに興味を持ってくるなぁ。いや、エリオもだけど。



「まぁ・・・・・・あれよ、諦めなさい。スバルに興味持たれた時点で、こうなるのは決定事項だから」



諦めろと言わんばかりの表情を浮かべているのは、ティアナ・ランスターさん。・・・・・・リゲイン飲む?



「飲まないわよ。・・・・・・あと、私もティアナでいいわよ」

「思考を読むのはやめない?」

「あ、私もキャロで大丈夫ですから」

「うん、そんなに僕の考えてることは分かりやすいのかな?
・・・・・・いや、答えなくていい。もう分かったから」



・・・・・・さっきも言ったけど、同じポジションの人間の戦い方を見るのは楽しい。実際にやってみるのもこれまた面白い。

だから、スバルと模擬戦するのは、得られる部分も多いはず。しかし、スバルもシグナムさんと同じ人種だったのか。うん、仲良く出来そう。



「どういうこと?」

「だから、戦うのが大好きなバトルマニア」

「違うよー! 私は、戦う事自体は好きでもなんでもないよっ!?」

「嘘だッ! そういうことを本気で思ってる人間はね、初対面の人間と模擬戦やることになったってそこまで嬉しそうな顔はしないんだよっ!!」



ほら、みんな『うんうん』って頷いてる。もう全力で頷いてる。色々おかしいでしょ、これ。



「別に、そういう訳じゃないんだけどなぁ」

「じゃあ、どういうわけなの?」

「うんとね、さっきも言ったけど、ギン姉から色々と聞いてたの。
それで、どんな感じがすっごく気になってて」

「・・・・・・納得した」



つまり、ギンガさんが誇大広告気味なことを教えて、さんざんっぱらスバルを煽ってくれたわけだ。

それも、自称notバトルマニアなスバルのエンジンがかかるくらいに。・・・・・・怪我人じゃなければ色々とお礼をするところなのに。



「ね、それでいつする? 私は今日この後すぐでも大丈夫」

「まてまて、身を乗り出すのやめないっ!? お願いだから落ち着いてっ!!
・・・・・・いくらなんでも、教導官の許可無しでいきなりやるわけにはいかないでしょ」



おじさんは来て早々、問題を起こしたくないのよ。・・・・・・いや、もう遅いけど。



「まずは教導担当のなのはなり、ヴィータ師匠の許可をちゃんと取ってくる事。
許可さえあれば、教導官権限で仕事の方は何とかなると思うし、僕は身体さえ温めれば今日でも動ける」

「わかった。じゃあ、絶対に許可取ってくるから、そうしたら必ず相手してね」

「いいよ〜。約束するからいつでも来なさい。むしろ待ってるから。
あと、許可が出ないようなら僕からもお願いする。双方の意志なら、納得してくれるだろうし」

「いいの? ・・・・・・あの、えっと・・・・・・ありがと」

「どういたしまして」










・・・・・・まぁ、そんなすぐに許可が出るとは思えないけど。

向こうの育成メニューや僕が仕事を手伝うロングアーチの都合だってあるわけだしさ。

僕は、嬉しそうな騎士と女の子を見つつ、のんきにパスタを食べながらそんな風に考えていた。





その後は、みんなでワイワイ言いながら食事を終了。後片付けをしっかりとする。

オフィスでデスクワークに入るという四人とシャーリーを見送り、再び隊舎見学+挨拶回りツアーを再開した。

そして、この後事件は起こる。起こるべくして起こる。・・・・・・僕は甘かった。そして、失念していた。





スバルがギンガさんの妹だという事を。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



時刻は既に夕方。ミッドの湾岸部に設営されている六課隊舎は、当然海に近い。

ここ、六課所有の陸戦演習スペースに関して言えば、海上に設置されているくらい。

海沿いから見る夕焼けは実に感動的で、見ているだけで胸が切なくなるような美しさを放つ。





放ちながらも、太陽はゆっくりと地平線へと沈んでいこうとしている。

もうあと10数分もしないうちに、空は漆黒の闇へと色を変えて、人々を眠りに誘う。

・・・・・・我ながら、詩人だ。でも、疲れるからこういう表現はもうやめようっと。





で、そんな時間になぜ僕がここにいるかというと、別に夕日を見るためでもない。





そして、見学ツアーのコースというわけでもない。・・・・・・原因は目の前の女の子。










「恭文、約束通りヴィータ副隊長の許可を取り付けたよっ! 私は全力で行くから、恭文も全力で来てっ!!」





白のシャツに厚手のズボン。なお、訓練用の服装。

そんな格好をして気合充分なスバルを見て、僕は頭を抱えていた。

なお、僕も同じ格好。・・・・・・あの後、リインに六課の駐機場に案内された。



ちょうどそこに居たシグナムさんとヘリパイロットのヴァイスさん、それにロングアーチスタッフのアルトさんや整備員の方たちに挨拶。

・・・・・・ここまでは平和だった。だけど、突然ヴィータ師匠からのここへの呼び出しがかかった。これが悪夢の始まりだった。

なお、師匠は、病院の定期検診に行ってた。・・・・・・どうりで姿を見かけないと思ったよ。



で、行ってみると既に着替えてそこに居たスバルから自分の予備のトレーニング服を渡された。

サイズは同じだったけど、胸がブカブカだったよ。それで成長具合とかが、色々分かった。

その場で着替えて(というか、着替えさせられました)スバルに促されて、一緒に軽くウォーミングアップ。



で、それが完了すると次の段階へレッツラゴー。シャーリーと師匠が、素早く動く。

海上の無機質な六角形のパネルが敷き詰められた平面状のスペースが、変化を始めた。

一瞬で廃墟の市街地へと姿を変えた。ここで模擬戦を始めると言われたのだ。



・・・・・・なんですかこれっ!? 改めて考えると訳わかんないしっ! てーか状況に流されまくってるよ僕っ!!





「・・・・・・悪いスバル。ちょぉぉぉぉっと待ってもらえるかな?」

「なんで?」 

「いや、これなに?」

「え? 模擬戦」



うわ、さも当然って言わんばかりの顔で言ってきたよあの豆柴。つか、肝心な所が伝わってない。



「なんでいきなり模擬戦?」

「だって、恭文は『教導官の許可さえ得られればいつでも相手になる』って約束したよね。・・・・・・嘘だったの?」



あぁ、もう。頼むからそんな泣きそうな顔はやめてー! 罪悪感が沸いてくるからっ!!

そして、極端過ぎるわボケがっ! アレかっ!! おのれの辞書には、白と黒しかないわけっ!?



「違う違う、そうじゃないよ。・・・・・・そうだね、約束したよね」



こんなにすぐにやることになるとは思わなかったけどね。



「でしょっ!? だから、やろうよ模擬戦っ!!」



うわぁ、マジで白と黒しか無いんだ。あのねスバル、人生にはグレーゾーンって必要なのよ?

そういうのを許容することが、大人になることだと僕はちょっと思うんだ。



「うん、やるのは構わないんだけどさ」





何かが色々と間違っているような気が、しないでもないけど。



・・・・・・・よし、スバルの発言に関しては気にしない方向で行こう。気にしたらきっと負けだ。



きっと、あれなんだよ。やっぱりこの子、ちょっとだけ電波なんだ(失礼)。





「あーそれとさ、さっきから気になってたんだけどアレはなに?」





そう言って、僕は指を指す。方角は隊舎の方。

そこには、人数にすると数十人というギャラリーがひしめいている。

フォワードの残り三人に、はやてにリイン、グリフィスさんにルキノさん、ついでにシャーリー。



さっきまで一緒にいたアルトさんとヴァイスさん、ライトニング分隊副隊長のシグナムさんにシャマルさんとザフィーラさん。

あとは・・・・・・バックヤードスタッフの人たちに、駐機場に居た整備員の人たちかあれは?

ちなみに、整備員の人達はみんな気が良くていい感じの人たちだった。・・・・・・女性には、縁が無さそうだったけど。



とにかく、結構な人数がこの演習スペースに視線を集めている。



というか、ここからでも楽々視認出来るくらいの大型モニター立ち上げてるし。





「みんな、恭文と戦うって言ったら、応援してくれるってっ!!」

「あぁ、応援・・・・・・ですか」





どことなく、宴会というかお祭り騒ぎなノリが感じられるのは気のせいではないと思う。

・・・・・・もしかしなくても、あいつら・・・・・・楽しんでやがるっ!?

頼むから仕事してよエリート部隊っ! なんで復活初日にこんなお祭り騒ぎを傍観してるんだよっ!?



つーか止めてよっ! 具体的に言うとシグナム副隊長にグリフィス部隊長補佐っ!!

・・・・・・そうそう、そうだよあなた方だよっ! 今僕と目が合ったおのれら二人だよっ!!

部隊長がアテにならないのは分かってるから、おのれらしかいないのよっ!!



・・・・・・流されたっ!? なんか『諦めろ』ってオーラ出されたしっ!!





『うし、それじゃあそろそろ始めるぞ。二人とも準備しろ』

「はいっ!!」

「師匠」





いきなり発動した空間モニターに映る顔は、僕の魔法戦闘の先生。

そして、機動六課スターズ分隊の副隊長。ヴィータ師匠だ。

まぁ、無慈悲にもこの模擬戦の許可を出した人物と言える。



お願い師匠。もう師匠しか居ないんです。色々と手遅れな気がするんです。



でも、きっとそれは気のせいですよねっ!? もうなんでもいいから助けてっ! 怪我の事黙ってたのは、もう何も言わないからー!!





『バカ弟子、いきなりで悪いが諦めろ。つーかお前が悪い』



師匠まで毒されてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「つか、なんでそうなります!? か弱い子羊いじめて、なにが楽しいんですかっ!!」

『うっせぇバカタレっ! つか、お前らはか弱くもなければ子羊でもねーだろっ!!』

「師匠よりはか弱いですよ」

『よし、もうお前地獄へ行けっ! つーか、アタシが叩き落としてやるっ!!
・・・・・・どーしてもこうなる理由が分からないなら、教えてやるよ』



ほう、だったら教えてもらいましょうか。僕が何したって言うんですか? 何もしてないでしょ。基本的に頑張っただけだし。



『スバルに、アタシやなのはの許可さえあれば、別に今日でも構わないって言ったそうだな?』

「えぇ。言いましたけど、それがなにか?」

『アイツ、普段はちっとばかし気が弱いクセして、こうと決めたら異常に押しが強いんだよ。
アタシが何言っても今すぐやりたいって聞きやしなかったぞ?』

「・・・・・・マジですか?」





副隊長・・・・・・というか、直属の上司である師匠の話をいっさいがっさい押し切って、ここにまで持ち込んだっていうの?



待って待ってっ! どんだけ押しが強いんだよスバルっ!?



いや、あのギンガさんの妹なんだから、ひょっとして当然だったりする?





『そうだ。・・・・・・ったく、こっちは検査帰りだってのに、アイツの相手に模擬戦の準備でむちゃくちゃ疲れたぞ?』



すみません。知らなかったとは言え苦労かけしました。スバルの方を見ると、笑顔でガッツポーズなどかましてるし。

だぁぁぁぁっ! 余計なこと言わなきゃよかったぁぁぁぁっ!! てか、シャーリーもリインも、知ってたはずなんだからそういう事は早く言ってよっ!!



「・・・・・・と言いますか、師匠。この話、聞かされた時から気になってたんですけど」

『なんだ?』

「どうしてそんな『してやったり』って言わんばかりの悪い顔してるんですか」



僕の問い掛けに、師匠は遠慮なく答える。さすがは師匠。とっても大人だから、僕の欲しかった答えを。



『気のせいだ』



・・・・・・くれなかった。



「いや、気のせいじゃないでしょっ!? 今、頬が明らかに緩んだしっ!!」

『・・・ま、正直に言うとだ。アタシとしてもお前とスバル達をやらせたかったからな」





あぁ、そういうことですか。で、スバルからいい感じで話が来たから、ここでやっちゃおうと。



うん、僕の都合とか完全無視なのがアレだけどもう慣れた。本当に慣れたから。



とにかく、こうなったらやるしかないか。約束はしてるわけだし、それはちゃんと守らないと。





『そういうこった。それに、お前だってこないだまでがしがしやってたろ』



やってましたねぇ。非常にめんどい感じでがしがしと。



『師匠としてはそういうの抜きにしても、その中でどれだけ腕上げたか気になるんだよ。
つーわけだから見せてくれよ。期待してるからな?』

「・・・・・・まぁ、師匠の期待に応えられるかどうかは分かりませんけど、スバルとは約束しましたから。
それはきっちりとやらせてもらいます。あ、それと一つ確認です」

『なんだ?』



・・・・・・一応ね。敵ってわけじゃないから、確認。



「いつものノリでいいんですよね?」

『かまわねーぞ。ま、簡単にはいかねーとは思うがな』



また楽しそうに笑う師匠を見て、僕は気を引き締めることにした。

・・・・・・相当自信ありげってどういうことだろ。なんにしても、油断は禁物かな。



「それだけ聞ければ充分です。んじゃま、行って来ます」

『おう、キバっていけよ』





そして、空間モニターが消える。残るのは、夕暮れ時の独特な空気。

・・・・・・あんま待たせてもあれだよね。そして、僕はスバルの方に向きながら気持ちを切り替える。

そう、戦うための気持ちに。今日出会ったばかりだけど、中々に面白い友達候補との約束を守るために。



全く・・・・・・こっちは休み無しだというのに。まぁ仕方ないか。





「もう、大丈夫かな?」



自分の方に向き直った僕を見ながら、彼女は笑顔でそう言葉をかける。



「いや、ごめんね待たせちゃって。でも、もう大丈夫。ここからは・・・・・・エンジンかけていくから」



僕もそれに笑顔で応える。というか、苦笑い?

・・・・・・昼間の食事の時と同じだけど、それは違う。どこか不思議な感じが辺りに漂っている。



「そっか。なら、よかった」



そう言って、スバルが懐から取り出したのは、青空を思わせるような色合いの六角形のクリスタル。

なるほど、あれがスバルのパートナーってわけか。



「そうだよ。私の大事な相棒。・・・・・・でもそれは、恭文だって同じでしょ?」

「まぁね」





大事な相棒っていうか、なんていうか・・・・・・ねぇ?

僕もそれに釣られるように、首からかけていた相棒を取り出す。

丸い、球体状の宝石。形状はなのはのレイジングハートとほぼ同じ。



色はスバルのパートナーと同じ青色。

でも、この子の色はスバルのパートナーよりも深い青色になっている。

青空というよりも、深い海の色を思わせる青さだ。



それを前にかざす。そして叫ぶ。スバルも一緒に、この戦いの始まりを。





「マッハキャリバーッ!」

「アルトアイゼンッ!」

「「セットアップッ!!」」










・・・・・・こうして、僕とスバルの戦いは始まった。結果がどうなるかなんてわかんない。





ただ、どっちが勝ったとしても、この戦いが無茶苦茶楽しくなりそうな予感はしていた。





つーか、せっかくだし楽しむよっ! じゃなきゃ、来た意味ないしっ!!




















(第3話へ続く)





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あきゅろす。
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