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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第12話 『正義という美しい醜さ?』



「・・・・・・ドクター・スカリエッティ。私は別に、アンタに協力するのは構わないわ」

「そうか、それは嬉しいね。君は娘達とも仲良く出来るし、ありがたいよ」

「ただし、条件があるの」

「・・・・・・ほう、なんだい?」

「私のお腹の中には、保険としてお父様のクローンが居る。アンタと同じようにね」



私の娘達の中には、一ヶ月ほどで生まれ、三ヶ月ほどで今の私くらいに大きくなるクローンを仕込んでいる。

古代ベルカの権力者の間ではよく使われた、自己保全のための手法だ。あの男もやっていたか。



「条件はその堕胎か?」

「そうよ。お父様は話してなかったけど、自分の身体だもの。それくらいは分かる。
私の事をバカにしてるから、恐怖で抵抗も出来ずに自分を『産む』と思ってる」



そう、彼にはそういう部分があった。自身より下の存在を見下し、優越する。

なんというか、アレはいただけない。命の素晴らしさを全く理解していないよ。



「もうすぐ私を食い破ってくるこの『害虫』を、私の中から今すぐ取り出して、殺させて。
そして他に『害虫』がないかどうか、アンタの力で調べて。あったらそれも全部殺して」

「それで本当の意味で『父親』を殺す気かい?」

「そうよ。・・・・・・これが、私の復讐。まぁ、あのおチビちゃんに乗っかる形なのがアレだけどね。
てゆうか、ダメだと思わない? 自分のコピーを仕込んでおくなんてさ、タマなしのすることよ」



彼女は、中々に面白い事を言い出した。隣に居たウーノが何か言いたげだが、私はそのまま続けさせる事にした。



「戦いってのは、たった一つしかない命を賭けてやるから意味があるし、楽しいのよ。
あの男は、その前提すら侮辱した。ハッキリ言って、そんな奴には存在する意味すら与えられない」

「あなた、言葉が過ぎます。ドクターに対して失礼な」

「いやいやウーノ、彼女の言う通りだ。・・・・・・そうだな、今の私や彼は自分自身すらも賭けていない。
そんな今の私達にはきっと、存在する意味が無いのだろう。もっと言えばタマなしだ」

「ドクターッ!?」





・・・・・・目からうろこが落ちる想いだよ。確かにそちらの方がこの祭りは楽しくなる。

というより、不公平だな。私もある程度のものを賭けなければ、ゲームのルールを変えた意味が無い。

そう、これはゲームであり祭り。管理局と私達による宴だ。長い歴史の中で、これは一度あるかないか。



だったら、徹底的に楽しまなくてはいけない。そして、この手を取れば更に楽しめると、私に刻み込まれた欲望が告げている。





「堕胎手術は、私が責任を持って行おう。もちろん、それ以外の事は一切しない。
そして、『害虫』駆除も任せてくれ。私が調査し、手の空いた娘達でしっかりとやる」

「あら、意外ね。てっきり洗脳処置でもするかと思ったのに」

「なに、利害の一致だよ。私も彼の存在は少々邪魔だと思っていたからね。
それに、君の考えは実に興味深い。洗脳などして押さえ込む理由が分からないよ」

「なるほど。・・・・・・納得したわ。まぁ、それじゃあお願いね。
そこさえちゃんとしてくれれば、契約通りにしっかり働くから」










・・・・・・そして、すぐに彼女の堕胎手術を行った。あの男のコピーは、彼女の手でしっかりと『処分』された。

なお、他の『害虫』は存在していなかった。念のために彼のアジトは全て壊したので、心配はいらない。

もうこれで、あの歪んだ欲望が日の目を見る事はない。だが、それだけではない。





娘達に仕込んだ私のコピー。その全てを私は・・・・・・処分した。

2番のドゥーエには手が届かなかったが、暗号は送っておいたので、自分でなんとかするだろう。

ウーノとクアットロは不満そうだったが、これはこの祭りを最大限に楽しむための処置として納得してもらった。





なにより、勝てばいい。今までの私からは考えられない、一見愚かとも思える手を取ることで、勝利の喜びは一際強くなるだろう。

現に今、私はとても充実している。そう、今まで感じたことのない感覚が、身体に溢れている。

命を賭ける・・・・・・こんなありふれた言葉がこれほどの高揚感を与えるとは思わなかった。





もしかしたら私は今、本当の意味での生の喜びを初めて感じているのかも知れない。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第12話 『正義という美しい醜さ?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



本日は、八神家一同でおでかけなのです。場所は聖王教会。





守護騎士のみんなのバイタルチェックと、騎士カリムとのお話し合い。





そして、リインは愛する恭文さんの元を少し離れて、みんなに付き添いなのです。










「それではやてちゃん、もうすぐ108からギンガが出向してくるですけど、基本方針はどうするんですか?」

「んー、それに関しては一週間前に恭文とギンガ、マリーさんにゲンヤさんも絡みで話したんよ。で、こないな感じで固まったわ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・で、俺としては、お前さんの意見も聞きたいんだよ」

「意見も聞きたいって・・・・・・専門家のマリエルさんが『確定』って言ってるんでしょ?
なんでそこで僕行くんですか。迷惑なんで退室させてください。そしてフェイトとお話させてください」

「アンタ、そこまでかいな」

「恭文くん、まぁそう言わないで? 私もナカジマ三佐と同じ意見なんだ」



会議室に居る僕達の前に展開されたモニターに映るのは、フェイト達が交戦した戦闘機人の姿。

マリエルさんの解析でも、結果は出たらしい。最新式の技術が導入された連中だとか。



「だから、まずはフェイトとお話させてくださいよ。なんだか今日はいけそうな気がするんです」

「残念ながら、それは錯覚や。てか、アンタ・・・・・・知ってたんやな。ギンガやスバルが戦闘機人って」

「うん」



そう、ついさっきはやてに説明した。僕がギンガさんやスバルの身体のことを知っていたことについて。

スバルもギンガさんも、戦闘機人。身体の作りだけで言うなら、連中と同じ。性根がどうかは知らないけど。



「・・・・・・あれ、話してなかったっけ」

「うちがなんか勘違いしてなければ、多分アンタは話してないやろ。
2年前の一件の時にギンガが居たことも含めてな」

「あら、そうだっけ。いやぁ、年を取ると物忘れが激しくなっていけないね」

「・・・・・・お前、それは俺に対して喧嘩売ってると見ていいのか?」





で、2年前に起きた『幕間そのに事件』についても簡単に説明した。あとはグラース執務官のヘタレっぷりとか。

というか、はやてもゲンヤさんから言われて連れてきたのはいいけど、ワケが分からない状態だったのよ。

その状態だと、ちゃんとお話が出来なかったので、説明したのである。なお、普通にビックリされた。



とにかく、ギンガさん達の意見としては、スカリエッティは戦闘機人を戦力に持ってきているのは確定らしい。





「それでな、お前さんに相談したい案件はいくつかあるが」



いくつもあるんかい。今日はなんだかいけそうな気がするって言うのに、なんつうはた迷惑な。

ちくしょお、マジでヴィヴィオをたらし込んでやる。そしてパパって呼ばせてやる。



「まず、相手方の戦闘機人がこれだけかってことについてだ」

「そんなわけないでしょ」



右手をブンブンと振って、答える。ゲンヤさんもここは当然と思ってたのか、表情は変わらず。



「間違いなく他にもいますよ。ただ単にまだ出てないだけでしょ」

「そうだね、そこは部隊長や私も同意見。スカリエッティは天才的な生体科学者だもの」



ただし、最悪にマッドサイエンティスト属性付きってのが上に付くけど。



「多分、この戦闘機人も自分で造ったものだろうし、戦力をそれなりには揃えてると思う」

「とりあえず、四人出してもそれでこっちが格段に有利になるなんてことはならないだろうね。
他にも隠し玉はたっぷりなはずだよ。・・・・・・こりゃ、単独では戦わない方がいいね」

≪それで正解ですよ。相手がISやAMFを駆使して攻撃してくるのは明白。
相手が一人ならこっちは最低でも二人と言った具合にやるべきでしょ≫





ただ、その処置は単に相手の能力どうこう戦力どうこうの話じゃない。

・・・・・・こっちには相手の獲物が大量に居るのだ。それは、先日の一件で明白。

そんなのが一人で行動なんてしてたら、間違いなく叩き潰された上で捕縛される。



理想は、こちらの駒を一つとして取られずに向こうの駒を総取りすること。ようするに、完全勝利である。





「とりあえず気をつけなあかんのは、ギンガとスバル、エリオとフェイトちゃん・・・・・・それに、アンタか」

「そうだね」





それとヴィヴィオ。この砲撃をヘリが食らった時、レリックと一緒にヴィヴィオもヘリに乗ってた。

にも関わらず、連中は遠慮なく砲撃を撃った。そう、このターンで、連中は矛盾した行動をしているのだ。

賊の地下水路組は、レリックを確保しようと動いていた。だけど、地上の連中は確保しようとはしなかった。



あの状況なら、砲撃を撃たずに自分達が狙ってることを相手方に告げて、脅迫することも出来るのに。

なのは達なら、恐らくそれで足を止める。でも、そうしなかった。撃墜すれば、レリックを確保なんて出来なくなるのに。

でも、こうすれば少しは確保出来る可能性が上がるのに、そうしなかった。その理由が何かなと考えて、一つ気づく。



それが・・・・・・ヴィヴィオの存在だ。もしかしたら、連中にとってヴィヴィオは何かキーになっているのかも。





「てゆうか、はやて・・・・・・ちょっとお願いがあんのよ」

「なんや?」

「正式な辞令を出して、僕をフェイトの補佐官みたいな感じにして欲しいの。
で、常に僕とのコンビで行動して、事件に対処するようにってフェイトを説得して。もち、拒否権無しで」



で、全員がビックリする。そしてこう言うのだ。なぜか涙目になりつつ、ちょっと生暖かい視線を僕に送りつつである。



「なぎ君・・・・・・さすがにそれはどうなの? いくらなんでも、公私混同し過ぎだよ。
フェイトさんを落としたいなら、もうちょっと別のやり口で頑張るべきなんじゃないかな」

「そうだぞ。お前、寄りにも寄って権力持ち手ごまにするっておかしいだろ。もうちょっと考えてから物を言えよ」

「アンタらなに勘違いしたっ!? そっちじゃないわボケっ!!」



こ、こいつらは本当に・・・・・・! 僕だって色ボケするべき時としちゃいけない時くらい見極められるよっ!? いや、マジでだからっ!!



「ようするに、フェイトちゃんが単独で飛び出さんように処置して欲しいっちゅうことやろ?」

「そして恭文くんから見ると、フェイトちゃんが一番攫われる危険度が高い・・・・・・だよね」



はやてとマリエルさんはちゃんと分かってくれたらしい。ただ、たった今気づいた様子だけど。

コイツら、マジでギンガさん達と同じこと思ってたらしいし。てーか、なぜだか僕と目を合わせない。



「フェイトの事だからきっと『私は大丈夫』とか言って、自分へのガードを甘くするのは明白だもの」

「あぁ、ありそうだね。フェイトちゃんやっぱり優しいから、人のことを優先で考えちゃうもの」

「マリエルさんもそう思います?」

「思う思う」



うわ、なんか全力で頷いたし。で、はやても見ると・・・・・・こっちも同じく。



「でも、この場合それはまずいよね」

「えぇ、まずいです」





ギンガさんやスバル、エリオの安全を優先して、自分は単独戦闘の経験やスキルが高いから問題ないとか言うに決まっている。

ただ、今回はマリエルさんの言うようにそれではまずいのだ。別にフェイトのことやフェイトの能力を信用していないわけじゃない。

相手方は、僕達の能力に関して徹底した調査をしている。多分、僕やヒロさん達のことが調べられてるのもその関係。



そう考えると、六課メンバーも同じくでしょ。みんなは能力関係をあんま隠してないからアレだけど、絶対調べられてる。

そうして、こちらの能力や攻撃への対策を立てた上で、攻撃を仕掛けてくる。

例えばフェイトなら、雷撃属性の攻撃に備えて防電対策を施す・・・・・・とか。



てーか、僕なら絶対そうする。もっと言えば、しない理由が分からない。






「向こうが狙ってきてるメンバーは、全員エース級かそれに準ずる相手。強敵なのは間違いないもの」

「だから、今お前さんが上げたメンバーは・・・・・・いや、違うか。
今回の件で前に出るなら、誰でも単独で戦わせたりするような状況は避けなくちゃいけないってことだな」

「はい。現に今日ヴェロッサさんから聞いたんですけど、僕の能力に関して相当嗅ぎ回られていたようなんです。
それがスカリエッティ一味かどうかは確証がありませんけど、向こうが僕達を潰すために能力対策をして来るのは、間違いありません」





例えみんなが局の平均値以上の能力を持っていたとしても、苦戦は確実だ。

そのためにも、必ず誰かが側にいる必要がある。だから、こうやって話しているのだ。

思考を幾度と無くひっくり返し、敵と味方の双方から戦略を考える。



これはサリさんが言ってた予測技術。ようするに、僕達を楽に倒すためには向こうはどうすればいいのか。



そしてそんな相手を楽に倒すために、僕達はどうすればいいか。そこを、ただひたすらに延々考え続けるってことだね。






「マリエル技官、恭文はこう言ってるが・・・・・・実際はどうだ?」

「ありえると思います。例えばフェイトちゃんを例に上げると、フェイトちゃんは電撃を用いた魔力運用が主です」

「そやから、フェイトちゃん捕まえよう思うたら、向こうはまず、その担当の戦闘機人を決める。
で、それに電撃攻撃に対する防御耐性を、外部的な要因で付与する・・・・・・ちゅう感じですか?」

「そうだよ。戦闘機人は、生まれた後も調整を行う事で、防御耐性を付与したりすることは可能だから」



というか、例えば僕達管理局側が出来なくても、スカリエッティなら出来ると仮定したっていいでしょ。

だって、向こうは天才科学者なんだから。それは、とても便利なカードなのよ。



「で、話を戻すね? ・・・・・・分隊員として、エリオキャロは居る。けど、二人は陸戦魔導師で限定的にしか空戦を行えない。
それじゃあフェイトと『常に』行動は出来ない。まず、二人がどう言おうとどう思おうと、二人を護衛役にするのは絶対に却下」

「戦場を空に持ってかれたら、二人は手出し出来ん言うことやな。そして、フェイトちゃんはそれでもやる。
どうも六課設立前から、スカリエッティ逮捕に相当執念燃やしてるようやからなぁ。引く理由ないやろ」



燃やしてるよね。・・・・・・大丈夫だとは思うけど、やっぱり心配ですよ。

だって、想い人で家族で、友達で仲間なんだから。



「そうだよ。だから、この役をやるのは、自力で限定的じゃない空戦が出来ること。
そして、フェイトとある一定以上のレベルの連携が取れることが、最低限の条件」

「あとはお嬢と能力的に別方向のもんが使える奴にした方がいいな。
例えばエリオ・モンディアルだと、お嬢と能力が被る。コイツは却下だ」

「フェイトさんもそうですけど、エリオ君も有効な攻撃が出来ないという事になりますしね」





というわけで、六課フォワード陣は全員外れる。連携や保有スキルはともかく、空戦能力の時点でピンハネされるから。

ギリギリいけてスバルか、六課メンバーじゃないけどギンガさんだよ。ただなぁ・・・・・・それだと問題が出てくる。

連携出来るかどうかということじゃない。階級とか上下関係があると、フェイトは命令でどうこうしようとする可能性があるのよ。



ようするに、フェイトが『ここで待機してて』と命令するのよ。これじゃあ意味が無い。

だから、出来れば目下の人間は避けたい。それを重視するような人間も同じくだ。

つまり、階級的にも年齢的にも下で局員なギンガさんもスバルも×。



で、そうなってくると出てくる人間が居る。それは、六課で空戦出来る人間。

シグナムさんやなのは、師匠にはやてだ。ただ、これらのメンバーもダメ。

確かに、前述の条件はクリア出来る。ただ、別の問題が出てくるのよ。



まず、なのはと師匠はだめ。教導官の仕事があるんだから。

シグナムさんも、交代部隊の隊長してるから簡単には動かせない。

はやても部隊長だから同じく。そうなると・・・・・・僕が一番適任ということになる。





「で、お前さんなら階級どうこう命令どうこうが通用する相手じゃない。
空戦もオーケーだし、付き合い長いからハラオウンのお嬢との連携戦もいけると」

「そしてなぎ君だと、補佐官資格持ちだから、側に居てもそれほど不自然じゃないんだよね。
てゆうか、今までもそれが多かったわけだし、それが本格的になっても特に問題がない」

「そやなぁ。で、他の面々・・・・・・スバルとエリオはフォワードのみんなと一緒に居るし、ギンガももうすぐ六課に出向になる」



どうもそうらしい。先日みたいなことが有った時のために、すぐに協力出来るようにということらしい。

なお、僕はさっき聞いて、普通にビックリした。



「そう考えるんと、一番危ないんはフェイトちゃんとアンタか」

「他に居ればそっちがいいとは思うんだけどね。ほら、僕はちょっとアレだし」

「そやなぁ。アンタ、運悪うて一人でどうこう言うんが多いし。護衛役は向いてないやろ」





いつもの事とはいえ、今回の状況でそれは避けたい。もうここは真面目に・・・・・・いや、待てよ。

そうすると、戦力の分断という手も使ってくる可能性があるな。目的はもちろん、確実な捕縛のため。

現に、ギンガさんが襲われた時はそれをやられた。僕が連中をシバいて色々吐かせてる間、ギンガさんはギンガさんで捕まったもの。



うし、気をつけておこう。同じことをしてくる可能性は、無茶苦茶高い。

この場合、どういう手を使ってくるかも考えておかないとだめだね。

設備関係で隔離というのがまず一つ。ギンガさんの時はそれだった。



あとは・・・・・・あぁ、アレはありえるな。うし、現場に出る時は、注意しておくか。





「二人揃って狙われてるのが少々アレだが・・・・・・お嬢が分隊長でオーバーSランクってことを理由に、一人で無茶してもアレだろ。
八神、ここは恭文の言う通りにしてみろ。相手はイカレた科学者。捕まったら最後、何されるか分かったもんじゃねぇぞ」

「分かりますよ」



僕がそう言うと、みんながびっくりしたような顔でこちらを見る。だから、そのまま言葉を続ける。



「あの陰険野郎に、身も心もあらゆる意味で陵辱されて、壊される。
そして、最後には自分から『殺して欲しい』と懇願するようになる」



希望も、願いも、夢も、生きている意味も、全部壊される。

そんなの・・・・・・認められるわけがない。



≪・・・・・・あなた、何気にトラウマですか?≫

「まぁね。・・・・・・大丈夫。心は熱く、だけど頭はクールに。
戦ってる時は、どこまでもクライマックス且つハードボイルドで突っ走るから」

≪なら、問題はありません。とにかくはやてさん、私からもお願いします。
この人はこんな感じなんで、どっちにしても止まりませんよ≫

「うん、そうやな。分かった、近日中にフェイトちゃんに通達するわ。で、ゴネるようならビシっと言っとく」



お、さすが部隊長。こういう時はしっかりしてくれるから嬉しい。



「まぁ、それは他のみんなに対してもやな。今は主にフェイトちゃんの事だけ話したけど、フェイトちゃんだけが危ないわけちゃうもん。
でも、これで方針は決まった。うちらの目指す勝利は、駒を何一つ取られん完全勝利。対策を整えまくって、逆に返り討ちにしたらんと」

「そうだね。・・・・・・ギンガさんも、いいね?
何があろうと、絶対に自分から一人で行動なんてしないように」

「あの、大丈夫だよ? ちゃんと分かってるから。うん、無茶はしないよ」



どうだろうか、このお姉さんは無茶やらかすし。



「とにかく、フェイトちゃんがどう言おうと、そこはキッチリするわ。
あ、ギンガもお預かりする以上、同じくですので」

「あぁ、頼むぞ。それで他の細かい部分に関してなんだが」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・それで、細かいディスカッションを繰り返しに繰り返しまくって、ようやく対策草案が出来たわ。ここからまた煮詰めんと」

「はやてちゃん、お疲れさまでし」

「シャマル、お前今噛んだだろ」

「・・・・・・うぅ」



恭文さん、最近はよくはやてちゃんと会議室に篭ったりして、その辺りについてアドバイザーみたいなことをしてるのです。

恭也さんに美由希さんに士郎さん、あとは警防の皆さんや、あのサリエルさんから色々教わった成果なのです。



「うちな、たまに思うんよ。実はアイツ、めっちゃ頭えぇんやないかって。
ナカジマ三佐もよう感心しとったし。なーんでアレが普段では発揮出来んのやろ」

「我が思うに、蒼凪は経験で物を言っているだけかと。ようするに」

「あぁ、うちザフィーラの言いたい事分かったわ。普通に頭動かしてるわけちゃうってことやろ?
なんつうか・・・・・・アイツ、ここまでになるくらいに運が悪いんやなぁ」





うーん、ちょっと心配なのです。普通にフェイトさんとはいい雰囲気です。

だけど、恭文さんは今日隊舎に一人ぼっちなのです。

だからだから、元祖ヒロインのリインはとっても心配なのです。



でも、守護騎士のみんなの健康状態の把握もしたいですし、リインはちょっとお困りなのです。





「とにかくや、みんなも気をつけておいて欲しいんよ。
特にシグナムは、フェイトちゃんとエリオやな」

「はい、心得ています。しかしエリオは」

「ありゃダメだな。護衛対象どうこう以前の問題だって」



確かにエリオはこう・・・・・・恭文さんに敵意むき出しですから。

逆にキャロとはお話するようになったんですよね。もうすっかり仲良しです。



「キャロとは仲良くなったみたいだけど、逆にそれがエリオの感情を逆撫でしてんだよ。
キャロはキャロでそれで構わないって顔してるしよ。なぁリイン、アイツはどんな魔法使ったんだ?」

「えっと、以前恭文さんがお話してたスーパーオールラウンダーの人のおかげですね。
キャロ、その人に興味を持って、恭文さんに聞きに来たですよ」



恭文さんの兄弟子の、サリエルさんなのです。・・・・・・あ、もしかしたら今日会えるかも知れないですね。

ちょっとカリムさんにお願いして、ご挨拶出来るようならさせてもらうですよ。



「納得した。てーか、リンディさんとアルフもどうしてこう余計なことをしてくれんだ?
マジで空気読まねぇし。アタシらの大事な部隊を、バカ弟子の矯正に利用すんなよ」

「ヴィータ、今回ばかりは私もお前と同意見だ。テスタロッサも頭を痛めている。
というより、二人とはその事について話しても無駄と、匙を投げ始めている」

「蒼凪の事を家族として心配しているのは分かるが、今回は行き過ぎだ。
リンディ提督がどうかは知らないが、アルフは完全に思考が凝り固まっている」

「あぁ、ザフィーラはアルフさんと仲えぇもんな。ちょっと話したんか」










そう言えばそうでしたねぇ。





でも・・・・・・今のザフィーラの俯き気味の顔を見れば、結果は分かるです。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『だーかーら、なんでそうなるのさ。別にアタシやお母さんは何もしてないだろ?
エリオはただ恭文の心配してるだけじゃないのさ。アタシは昨日も話したけど、普通だぞ?』

「アルフ、お前・・・・・・それは本気で言ってるのか?」



まずい、蒼凪ではないが回れ右して縁を切ってしまいたい。



『本気も本気さ。大体、お前もそうだけど、はやて達もアイツを甘やかし過ぎだよ。
それで仕方ないから、アタシとお母さんはエリオに協力してもらった上で、何とかしようとしてるわけさ』

「全くなんともなっていない。主と我ら、テスタロッサもリンディ提督とお前の行動には、非常に迷惑してる」

『どうしてそうなんのさ。アイツが無茶苦茶やった方が、もっと迷惑かかってるだろ?』



真面目に回れ右したくなった。というより、コイツは本当に4年前まで実戦の場に立っていたのか?

我も主達も、さすがにアレは無理だと判断したというのに。



「実際問題として、エリオは他の部隊員と溝が出来始めている」

『またまた、ないない。エリオに限って、そんな嫌われるような事になるわけがないし。
あと、フェイトは優しいから恭文を庇ってるだけだよ。でも、あれは間違ってる』

「・・・・・・なぜそう言い切れる」

『だってソイツがどんだけ強いかは知らないけど、なのはやフェイト、はやてに守護騎士が揃っても殺すしかないなんてありえないだろ。
アタシだって分かる事を、どうして恭文が分からないんだよ。大げさ過ぎるって。いいか、アイツは周りを信用しなかったんだよ』





本当に・・・・・・本当に平然と、一応我の友人である使い魔は、言い切った。

普通に腹が立つ。というより、傍観者に責める権利など存在しないだろう。

少なくとも、我に蒼凪とリインを責める権利はない。それを言えば、我は更に罪が重い。



正直、蒼凪の重さなど笑い飛ばせるくらいの数は殺している。覚えている分も、いない分も含めてだ。





『アイツはあのジジイやなのはの家族、あの歌姫の影響なんて無駄に受けて、バカをやり続けてきた。
だから、あんな風になっちまった。その挙句が、あの無意味な行動だ』





アルフは、言い切った。あれが無意味だと。確かに、否定するべき行動だろう。

そこだけは絶対に変えてはいけない。そうだ、変わるはずがない。

だが、例えそうだとしても、我は疑問がある。・・・・・・これが家族の言う事か?



コイツは、蒼凪の事を一体なんだと思ってる。正直、家族と見ているようには感じられない。

トウゴウ殿や高町家の面々、そしてクリステラ女史の存在が、どれほど蒼凪の助けになっていると思っているんだ。

そしてお前が言う『無意味な行動』のおかげで、救われた人間が居る事実を、分かっていないだろう。



少なくとも、遺族や関係者の行き場の無い感情に、決着は付けられた。それは救いだと、我は思う。





『信じて、預ければいいだけなんだ。そうすればみんなが助けてくれるし、きっとやりたい事も通せる』

「・・・・・・だがアルフ、それを今言うのか? お前とて、リンディ提督とクロノ提督、それに主が六課という部隊を作るために、何をしたかを知っているはずだ」

『あぁ、聞いたよ。で、それがどうかしたのか?』



コイツは、それを知っていてなおこう言うのか。もう呆れる事すら疲れてきた。



『管理局・・・・・・世界のために、どうしても必要なことだったんだぞ?
いいか、アタシ達は全員納得して当然なんだ。そして、お母さん達を労って当然』



アルフは話し続ける。我を呆れたような、嗜めるような顔で見続け・・・・・・言葉を続ける。



『お母さん達を責めるのは、組織の人間としての自覚がないって自分で言ってるのと、同じじゃないのさ。
フェイトもなのはも怒ってたけど、アタシがこう言ったら納得してくれたよ? やっぱ分かってるよ』





恐らく、それは納得したのではなく、言っても無駄だと思ったんだろうな。今の我と同じだ。

だが、確かにお前の言う通りだ。我らは組織の人間として、納得せざるを得ないだろう。

そして、それと同じように、理由はどうあれ身内を騙して引き込んだのは事実だ。



それだけじゃない。スバルやティアナのような、我らとは関係のない人間まで、巻き込んでいる。

そして、何も話せない。話せば無用な混乱を起こすからだ。コイツは、本当に分かっているのか?

『組織とはそういう物だ』など、この状況では最低な言い訳だということを。



この戦いで、死ぬ人間が出るかも知れない。それはお前や我の主かも知れないし、エリオやキャロかも知れない。

もしくは、六課に夢や希望を持って、それに近づくためにやって来たティアナのような人間かも知れない。

局は、そして我々は、そんな人間に理不尽に命を賭けさせている事実を、ちゃんと見ているのか?



それも、自分の意思ではなく、強制的に、嘘をついた上でだ。

もしもアルフが見た上で言っているのであれば、まだ許せる。まだ納得が出来る。

だが、分かってない。分かっているのであれば、当然な顔で言うはずがない。



恐らくコイツは会談の場で蒼凪が主や後見人の方々に怒りをぶつけた事すら、非難するだろう。



主や後見人の方々の行いが、例え正当化されるとしても、罪であることに違いはないと、コイツには一生分からない。





「・・・・・・だからお前は局を、世界を、自分達を信じろと言えるのか」

『当然だ。だって、アタシ達は仲間だぞ? 信じられないで、グダグダ言う奴がおかしい』



予想通りに言い切った。それも当然と言わんばかりの顔でだ。



『なぁ、ザフィーラ。マジで頼むよ。アイツは、変わらなくちゃいけない。
アイツはこれからみんなと、同じ道に行かなくちゃいけないんだ』

「なぜだ」

『そんなの決まってるじゃないのさ。フェイトもなのはも、はやてやアンタを含めた守護騎士のみんなだってそうしてる。
母さんやクロノだってそうしてる。みんな世界やみんなのために頑張ってるのに、アイツだけサボってるのと同じじゃん』





ふつふつと湧き上がるのは怒りと失望。4年・・・・・・そう、たった4年だ。

どうやらそれだけあれば、心に無駄な脂肪が付くには十分だったようだ。

この4年で蒼凪は、我が目を見張る程に成長した。特に、ここ2年はそれが顕著だ。



だが、どうやらアルフは目を見張るほどに退化したらしい。サボっているのはアルフの方だ。

今のアルフは肥えた豚と同じだ。鋭い牙も、戦いの本能も、もう無くしている。

既に我らと違う世界の人間になっている。上から、安全なところから傍観者として戦いを見ている。



・・・・・・いや、豚に例えるのもダメだな。豚に失礼だ。





『アタシも前はそうだった。局の中に入って、理不尽なやるせなさを潰して、世界を変えていく。
とても意味があって、やりがいのある仕事だ。それは一生をかけたっていいくらいの価値がある』





そしてそんな今のアルフだからこそ、分かっていない。

価値というのは、相対的なものだと。例えばアルフと蒼凪が一つの石を見たとしよう。

アルフがそれをダイヤモンドに思ったからと言って、蒼凪がそう思うとは限らない。



蒼凪の目から見れば、それはどこにでもある石ころかも知れない。そして、その違いは当然の事だ。

局は絶対ではない。確かに魔法という部分から見れば、一番いい選択だ。だが、それだけ。

傲慢だとしても自分にとってのダイヤモンドでなければ、人は・・・・・・それを大事にすることなど出来ない。





『なのに、なんでアイツだけアレなんだ? 素質もあって、受け入れてくれる人達も居るのにさ』

「蒼凪が決めた事だ。蒼凪は、現状の局の体制を嫌っている」



蒼凪は、色んな意味で今の体制を嫌っている。ただ、我の目から見てそれは自分の事だけではない。

主の事やテスタロッサの事、高町の事。そして色々な人達の事。大事な仲間が組織の都合に利用されている部分があるのが、許せないのだろう。



『それがおかしいんだよ。なんで家族や仲間が楽しそうに働いている場に、そういう感情を持てるんだ? アタシはずっとそこが不満だった。
みんながそれを出来てるって事は、少なくともアタシ達の周りは問題ないじゃないのさ。だったら、それを信じればいいだけだろ』

「本気でそう思うのか」

『思う思う。だからさ、マジでちゃんとしてくれよ。大体、お母さんは後見人だよ?』



最後は権力頼みか。本当に、上から見ているらしい。そして、自分の立場を自覚していない。

お前はもう引退し、牙も無くし、戦う人間ではなくなっているというのに。



『そのお母さんが問題ありって言ってんだから、問題ありなんだよ。
お前らはそれを、部下としてちゃんと修正するべきだ。それが組織ってもんだ』

「アルフ」



・・・・・・もう耐えられん。さすがに耐えられん。色々な意味で、今のアルフは醜悪だ。

だが抑えろ。ここは冷静にだ。いくらなんでも、長年の友人に対して暴言はまずい。



『ん、なんだ?』

「一つ聞こう。エリオにもそう言ったんだな? リンディ提督と一緒に」

『へ? いやいや、お母さんは知らないぞ』



なに? それはどういうことだ。

テスタロッサやエリオの話しぶりだと、リンディ提督も加わっているような口ぶりだったが。



『アタシはお母さんの意思をあの子に伝えただけだよ。お母さんが組織の人間として、母親として今の恭文や六課をどう思っているのかさ。
あの子、なんか六課の先輩かなにかに『何もしてないんだから、責める権利はない』とか言われたんだってな』



・・・・・・ヴァイスのフォローの事だな。恐らく、アルフが話した場には、本当にリンディ提督は居なかったのだろう。



『全く、どうしてそういうバカの勝手を許すんだ?』



ならその後・・・・・・か? エリオが別の機会に話している可能性も捨て切れん。



『で、アタシ達は仲間として、あのバカを止めなくちゃいけない。だから、迷う必要なんてない。そう後押ししてやったんだよ。
そもそも今回六課が取った行動とそれを擁護するような態度は、管理局の理念から外れてる。違うか?』

「そうだな」

『だろ? つまりだ、アタシらは協力して、今の六課を変えていく必要があるんだよ。
このままじゃ六課はダメになる。そして、その原因はアイツだ』





本当に・・・・・・本当の意味で納得した。エリオがあそこまで変化した理由をだ。

コイツやリンディ提督という目上の人間に、後押しされたから、エリオがあれなのか。

正直、急すぎる変化だとも思っていた。我はそれを、不自然とさえ思っていた。



だが、今納得した。保護責任者であるテスタロッサの言葉が通じないのは、これが原因だ。





「ようするにお前は頼んだんだな。エリオに・・・・・・恭文を変えてくれと」

『あぁ。・・・・・・エリオは今の恭文と同じ経験をしている。だから、絶対変えられると思ったんだ。
てゆうか、エリオだって変わって今やBランクの局員だ。ちゃんと皆から認められる形で、仕事をしてる』

「だから、エリオか」

『そうだよ。だって、アンタ達は全然私らの話に納得してくれないしさ。もうこうするしかないじゃん。
アタシはフェイトやはやて、なのは達の夢の部隊を、あんなのに壊されたくないんだよ』





テスタロッサの使い魔で、局員としても魔導師としても先輩であるアルフに頼まれたからだ。

そして六課の後見人で、立場が上であるリンディ提督の存在もそこに加わっている。

それにより後ろ盾が確固足る形になっている。つまり、エリオはとても強い『理由』を手にしている。



だから止められなくなっている。自分の考えが、感じた事が、間違っているかどうか考える機会はあった。

結果など別に蒼凪寄りにならなくていい。考えた上で今のように否定するなら、それでいい。

その答えは間違いなくエリオの物だ。我らが蒼凪を認めたいと思うのと同じように。だが、その機会すら奪われたのか。





「アルフ、お前は一度地獄へ落ちろ」

『・・・・・・は?』

「お前は、蒼凪の家族などではない。いや、主であるテスタロッサの今の気持ちも分からないのだったな。
なら、使い魔ですらない。お前はハラオウン家の使い魔失格だ」

『なんだってっ!?』



・・・・・・我は、冷静にアルフと話す。そう、あくまでも冷静だ。

冷静に、的確に、しっかりと話す。そうすれば、きっとアルフは分かってくれるだろう。



『おい、ザフィーラッ! お前、なんでそうなんだっ!? アタシのやった事が、間違ってるって言いたいのかっ!!』

「そうだ。お前は間違っている。今のエリオの状態を見てなおそれが言えるのは、神経が腐っているとしか思えん。
一体、何を見ている? 蒼凪を、エリオを、テスタロッサを、我らを一体なんだと思っているんだ。人を人形扱いするその様」



だから、我は話す。冷静に、いつもの我としてしっかりとだ。



「まるで、話に聞くプレシア・テスタロッサのようだ」



そうすれば、きっとアルフも分かってくれるだろう。



「もしかしたら、蒼凪やテスタロッサがハラオウン家入りしたのも。
・・・・・・いや、テスタロッサがお前を使い魔としたのも、間違いだったかも知れんな」

『・・・・・・おいザフィーラ。お前、いい加減にしとけよ。言っていい事と悪い事があるぞ。
アタシのどこが、あの女だって言うんだよっ! ふざけんのも大概にしやがれっ!!』

「自覚もないのか。救いようがないな。ということは、プレシア・テスタロッサ・・・・・・以下だ」

『ザフィーラァァァァァァァァァァァッ!!』

「話にならん、我はこれで失礼する」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・4年も戦いの場から引いていると、あぁも平和ボケするものなのかと、頭が痛くなった。
我らやテスタロッサに高町、主が居れば問題はなかったと、平然と言ってのけていた」



え、えぇ。知ってますよ? 今お話聞いてますから。



「それだけではなく、後見人の方々や主のやったことを知ってなお、『自分達を信じろ』と言い切った。
我らは沢山の人間を、身勝手に局や世界の都合に巻き込んでいる悪人だと言うのに」

「そ、そっか。確かにそうだな。・・・・・・なぁ、ザフィーラ」

「なんだ、ヴィータ」

「アタシもそうだけどはやても色々突き刺さってるから、そろそろやめようぜ?
あと、これは冷静な話じゃねぇって。いつものバカ弟子とアルトアイゼンレベルの暴言じゃねぇか」



た、確かに・・・・・・いや、リインも色々ムカムカ来たので分かるのですけど、全然冷静じゃないのです。

そして、ザフィーラは少し固まって、空を見上げます。見上げながら・・・・・・こう呟きました。



「今日の夕餉は一体なんでしょうか」

『なんか思いっきり話逸らしたっ!?』



まぁ、何も言えないですよね。だって、リインだってきっと同じ事を言ってたですから。



「と、とにかく・・・・・・そりゃ相当やなぁ。現にうちらが手出し出来ん状況でやられたっちゅうに」

「なんで実戦でフェイトと一緒に仕事してたくせに、その辺りの事が予測つかないんだよ。
現実なんて、身内信じてどうにかなる事ばかりじゃないだろ?」

「それに関してはリンディ提督もだ。本当に前線で指揮を取っていた方なのか? 後見人としての見解の事といい、行動がおかし過ぎる。
・・・・・・どうやら、実戦から引くと色んな意味で脂肪が付くらしい。レジアス中将が本局を嫌うのも、納得だ。本局内でしか、こういう意見は出ていない」

「ミッドの地上部隊は、全体的な風潮としてこの辺りビシっとやるしなぁ。
てゆうか、上がレジアス中将やもん。ヴァイス君が言うとった『礼儀』を、徹底させとるんやろ」





・・・・・・後見人として、本局上層部の一人として、リンディさんは殺したことは間違いだと言い切りました。

近隣部隊を、仲間を、局を信じ、あの場は撤退するまで持ちこたえるのが正解だと。

同じ能力を持つ恭文さんが居るなら、十分に対抗は出来る。殺せたのならそれも出来たはず。



そして次に出てきた時に、隊長陣と協力の上で確実に捕縛する。・・・・・・そう言っています。

一応ヒロリスさん達が協力してくれた上で作った報告書や、その見解にも目を通しているそうです。

はやてちゃんも話しました。その上でこれです。局の理念には、犯罪者の未来をも守る事も含まれている。



だから部隊に所属しているにも関わらず、ただ一人そんな手を取った恭文さんは・・・・・・間違っている。

同じ事を繰り返さないために、『問題児』にはしかるべき修正を加えるべきだと、平然と言っています。

・・・・・・ムカつくです。確かに、殺すのはいけないことです。恭文さんは、ずっとそう言ってます。



そしてそれはリインだって同じです。だけど、もうこれは、家族どうこうの話じゃないです。

現場はヴァイス陸曹やグリフィスさんのおかげで、纏まって来ています。

殺しは絶対に認めない。だけど、恭文さんを否定も肯定もしない。する権利なんてない。



そういう風になってきているんです。それに、恭文さんも認められなくていいと考えています。

それなのに上がこれです。だから身内も、勝手なことするですよ。

リンディ提督は、六課を・・・・・・私達を、一体なんだと思ってますかっ!?





「あぁもうムカつくなぁっ! 結局は現場に責任を全部押し付けてるのと同じやないかっ!!
しかもどんだけ言っても『六課のスタッフの能力なら、きっと出来たはずよ』って言うばかりやしっ!!」

「確かに六課の人員の充実している部分を引き合いに出されると、反論が出来ません」



少なくとも、他の部隊よりは多いですしね。そこでまず言い訳が立たない部分が出来るのです。



「というより、フォン・レイメイ一人捕縛出来ないようでは予言どうこうなど無理・・・・・・という理屈なのでしょう」

「多分そうやな。てーか、性質悪いわぁ。言ってる事は正論やし、恭文に責められるべき点はある」



はやてちゃん達は、別に庇ってなどないのです。というか、結構普通に触れてます。

とりあえず、ティアナの一件の反省も含めて、結論は各個人の中に任せようとしている感じですね。



「そして、うちらの状況やと、過剰防衛と先走りが成り立つ。
その上、相手はうちより狸で性悪で、上官やから命令は聞くのが当たり前や」

「・・・・・・はやてちゃん、それはもう最悪ですよ」



あの場に居て、一緒にやったリインが言えた義理じゃないですけど、最悪です。

どうしようもないのです。救いようが無いのです。



「ですが主はやて、もうこれは蒼凪どうこうの問題ではなくなっています。
後見人は、私達を・・・・・・そして部隊員を、道具としてしか見ていません」

「シグナムも、そう思うですか?」

「あぁ。・・・・・・確かに組織として、その中に居る人間として、私達のしていることは間違いではない。
いや、むしろこうやって気にする事自体がおかしいのかも知れない。だが、それでもだ」

「いや、シグナム。騎士カリムやクロノ提督が現場よりのスタンスなんだ。
だから、あえて自分は反対派に回っているのかも知れないぞ」



ザフィーラがそう言ったので、みんなで少し考えてみます。

・・・・・・つまり、今の対応はワザとですか?



「・・・・・・恐らく、現場に自分の意思や声が伝わっているかどうか、疑問だったのではないか?
どんな形ではあれ、蒼凪を真っ向から否定する存在は必要だ。だから、自分がそれをやっている」

「なるほど。だからこそ私達にどう思われても、あのスタンスを貫いているということか。
確かに、あの方はそういうところがある。・・・・・・そして、そう考えて少し納得した」

「何をだ」

「蒼凪があぁいう性格なのがだ。私は、トウゴウ殿の影響かと思っていた。
だが実のところ、リンディ提督の影響も大きいのかも知れないな」



・・・・・・そうなのでしょうか。リインには、よく分からないのです。



「まぁ、それやったらちょっとはうちも納得出来るわ。あの親やから、あの子になるんよ。
方向性は違うけど、二人して全く同じ事しとる。なんつうか・・・・・・どっか似てるんよ」

「でも、例えそうだとしても、今回は空気を読んでないのです。
恭文さんはやるにしてもそこの辺り、しっかり読むのですよ」

「そうや。別に、うちらが頭痛める分にはえぇんよ。そういう仕事なんやから。
ただ、その影響を直に現場に受けとるのが一人居る。それがマジ余計なんよ」





考えるまでもなく、エリオです。というか、アルフさんは真面目に余計な事をしてくれたのです。

別に、恭文さんを認めろなんて言いません。ザフィーラの言うように、エリオが自分で考えて、否定するならいいんです。

何度も言いますが、管理局の理念を抜きにしても、否定するべきことなのは、間違いないです。



そうなってるなら、みんなここまで言いません。だけど・・・・・・アレは、そうじゃないです。

今のエリオの言葉が、本当に自分の意思で言っているものか、リインは疑問なのです。

キャロの話を聞いてからは特にそうですね。なんで、あぁなるんでしょう。



・・・・・・やっぱり、生まれの事とかが原因でしょうか。エリオも、色々あったそうですから。





「なんつうか、ティアナの一件と似たり寄ったりやな。
上の人間は下の人間の気持ちなんか分からんし、下の人間もまた同じや」

「・・・・・・そうですね。でも、そういうのを抜きにしても、本気でどうかしてるわ」



・・・・・・今、寒気がしたです。というか、みんな震えてるですよ。



「恭文くんの状態を私からも説明したのに、アレなんて。だめ、本当に許せないわ。
ねぇ、はやてちゃん。二人のリンカーコアを抜いて砕いても、罪になりませんよね」



シャ、シャマルがすっごく怖いオーラを出しながら怖い事言い切ってるですっ! というか、落ち着くですよー!!



「アホっ! そんなんあかんに決まってるやろっ!? というか、それやろアルフさん死んでまうやろっ!!」



あ、はやてちゃんが恐怖の余り『それやろ』と噛んだです。



「いいや、それ以前の問題として、その怖い目はやめてーなっ! アンタ、そないに恭文が好きなんかっ!!」

「当然ですっ! もう私の全てを恭文くんのものにして欲しいと思うくらいに、私はあの子が好きなんですっ!!
だから・・・・・・許せませんっ! 恭文くんが局に入らないのも、ちゃんと理由があるからなのに、それを全て頭から否定なんて、おかしいですっ!!」

「確かに・・・・・・って、シャマルっ!? それはダメですっ!!
恭文さんはリインの・・・・・・あの、リインの・・・・・旦那様なんですからっ!!」

「リインっ! アンタ何を・・・・・・あぁ、なんや、世界がぐるぐる回る〜」



そ、そうです。リインはもう覚悟を決めているのですよ? 確かに私はデバイスで、赤ちゃんとかは産めないです。

だけど、『キャー』な事は出来ますし、いっぱいいっぱい恭文さんに尽くすのです。だから、シャマルには渡さないのですよ。



「だから、リインもシャマルもそんなことを大声で言うなっ! ほら見ろ、何事かと思って人が見てるだろっ!?
あぁ、はやてしっかりしてっ! ・・・・・・って、口から泡吹いてるしっ!!」

「・・・・・・蒼凪、リインはともかく、シャマルに一体何をしたんだ?
初対面のバストタッチと手を繋いでの逃走だけでは、これは説明がつかん」

「そうだな。だがザフィーラ、私はこう思うんだ。そこを知っても、きっと私達は楽しくない」

「シグナム、お前もたまにはいい事を言うな」

「あぁ。・・・・・・たまにはとはなんだっ! たまにはとはっ!!」










というわけで、騒がしくも聖王教会の敷地をみんなで進みます。





空はとっても青くて、8月なのに今日は少し涼しいです。あー、絶好のお散歩日和ですねー♪





・・・・・・そうでも考えないと、色々と気分が重くて辛いのです。リインは、とっても繊細なのですよ?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うぅ」



ゾクッ!!



「やばい、なんか凄まじい寒気がした」

≪またですか?≫

「うん、まただよ。なんだろう、今日は何か起こるのかな」



まぁここはいい。起きたら起きた時だもの。

今僕が気にしなくちゃいけないことはここじゃないので、今の悪寒は置いておくことにする。



「アルト、どうしよう。あれからあっという間に一週間が経ったよ」

≪そうですね、やばいですよ。未だに有効手を打ててないじゃないですか≫

「なぎ君、もしかしなくてもかなり追い詰められてる?」

≪実はかなり≫





とにかく、フェイトとのお話を終えてから一週間。本日の僕のお仕事内容は、隊舎で書類整理。

なお、フェイトはエリキャロと一緒に警備部回り。まぁいいさ。もうこの調子だと今回は絡まないっぽいけどいいさ。

はやてもまだ話してない様子だし、ここはいい。まずははやてから話してもらった方が、話はすんなり行くもの。



さっき聖王教会にリインや師匠達と行く前に『はよ話せ、この地デジカならぬ遅タヌキが』って圧力かけたからここもいい。



てゆうか、今の段階で僕がそこに付き合っても、ロクな事にならない。なので、ここは自粛する。で、現在何をしているかというと。





「坊主、お前は絶対機を逃してるな。この間こっちに来たナカジマ三佐も言ってるだろうが。『兵は詭道なり』ってな」

「だからそれ意味が違いますからっ! そして、アンタはどこからそれを見てたっ!?」

「なに、ヘリの整備がてらスコープでちらちらとな」



げしぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!



「ヴァ、ヴァイス陸曹大丈夫ですかっ!? ・・・・・・ちょっと君っ! いきなり蹴るなんてどういうことっ!?」

「やかましいっ!? 大体、ゲンヤさんとこの話したの、なのはとフェイトの部屋のまん前なんですけどっ!!」

「そんなの関係な・・・・・・え? それをスコープでちらちらってことは」



そう、そういうことなのだ。ようやく栗色の髪をショートカットにしたお姉さんは分かってくれたらしい。

だからヴァイスさんをすっごい目で見るのである。それはもう酷い目ですよ。



「ヴァイス陸曹・・・・・・どういうことですか? なるほど、隊長達の部屋を覗いてたわけですか」

「ま、待てアルト。誤解だ誤解。俺はあの時、たまたま通りがかって聞いただけなんだよ。
スコープでチラチラってのは、冗談だって。決してなのは隊長達の部屋を覗いてたわけじゃ」

「なるほど。通りがかって、チラチラと覗いてたわけですね」

「ち、違うっ! その勝手な翻訳はやめ・・・・・・頼む、足はやめろっ!!
二人して足を俺に向けるのはやめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて、ヴァイス陸曹は蹴り潰したし、お茶会を再開しようか」

「ですね」



・・・・・・とは言え、マジでどうしたもんか。



「フェイトやなのは達とも相談してるけど、さっぱりなんですよ」

「君、そんな事してるの?」

「してますよ。アルトさんのご存知の通り、原因の一端はありますから。
・・・・・・全く、別にどう思われてもいいってのに、なーんで介入なんて」

「・・・・・・ね、それどういう意味かな」



なぜ視線が厳しくなるんだろう。僕、間違ったことは言ってないのに。



「殺しなんて最悪手で、最低な行為。どんな理由があろうと、それは事実ってことですよ。
それを取った人間を認めるかどうかは、自分で決める事でしょ。なんで僕が言う権利あるんですか」

「・・・・・・なるほど、確かに。ね、ルキノ。この子って、こういう子?」

「うん、こういう子だよ」



左手に持ったティーカップに入っている、紅茶をごくり。なお、中身はレモンティー。パック式のやつだね。



「でもなぁ、あの潔癖症は病気だと思っても罪じゃないよね?
あんなんじゃ武装局員なんて出来ないって。全員揃って魔導師辞めるべきだって」

≪そうですね。あんまりにヒド過ぎでしょ≫

「ねぇ、そういう言い方はないんじゃないかな。ハッキリ言うけど、人殺しなんてやっぱり」

「じゃあ他なら問題ないんですか? 例えば生体兵器や暴走した原生生物とか。
いや、殺すという選択に限らず・・・・・・誰かを魔法で人を攻撃する事も」



アルトさんに本気で疑問という顔を僕は向ける。それを見てアルトさんは・・・・・・ハッとした顔になった。



「・・・・・・確かにそうだね。ごめん、今のは私が悪かった」

「分かってくれて嬉しいです」





アルトさん、色々と察しのいい人らしい。・・・・・・正直さ、『人を殺した』だけを問題に出来るわけがないのよ。

そうなると究極的に言えば、魔法の力でガジェットなりさっき言ったような存在を傷つける事にも、かなり疑問が出てくる。

こういう仕事をしてるなら、きっと向き合って背負わなくちゃいけない矛盾だよ。守るために力で他者を踏みつけてる。



罪を数える必要があるのは、犯人だけじゃない。力を振りかざして事態を解決している僕達も同じって事でしょ。





≪それにあなたが適当な相手をしているとかではなく、スバルさん達も距離感を計りかねてますしね≫



いや、計りかねてるっつーか、取られてるでしょ。

どうやら、向こうから見ると僕はそうとう異常者に見えるらしい。視線で分かるもの。



「でもなぎ君、キャロとは上手く話せたんでしょ?」

「えぇ。僕は特に何かしたわけじゃないんですけど、なんとか」

「それも凄いよねぇ。ね、どんな魔法使ったの?」

「あいにく使ってません。しいて言うなら、友人の力を借りたんです」



とりあえず、またクッキーをパクリ。・・・・・・うん、美味しい。

てゆうか、ヴァイスさんはそろそろ復活しないのかね。いつまでも倒れてる状態はアレだって。



「時間が解決してくれるとか言うけど、今回はそれは無理かぁ。
というか、スバル達もちょっと引いてるくらいらしいし、無理だよね」

「そうですね。・・・・・・うし、『とールガン』撃つか。それでストレス解消だ」

「そうだね・・・・・・って、いきなりなにっ!? そして撃つってなにを撃つのっ!!」

「『とある魔導師の超電磁砲レールガン』の略称です。長いので略称決めました」



やばい、さすがにフェイトとも『肉体言語は最終手段でよくない?』みたいな話で纏まったのに、その手を取りたくなる。

もしかしたら、僕達はもうその手を取る段階に居るんじゃないかと、色々思ってしまう。



「なぎ君、相変わらずネーミングセンス0だね」

「ルキノ、この子のこれは相変わらずなんだ」

「うん。なぎ君は、コレさえなければいい子なんだけど」



むむ、なんかアルトさんもルキノさんも普通に失礼だ。てーか、なんでそうなる。



「えー、かっこいいじゃないですか。というか、フェイトの意見を参考に変えてみたのに」

「「かっこよくないよっ! そしてフェイトさんは一体どんなアドバイスをしたのっ!!
・・・・・・とにかく、話を戻すと距離感は確かにそのままだよね」」

「お前ら、なんでハモるんだよ」



あ、ヴァイスさんが復活した。うーん、さすが元魔導師。身体は頑丈だね。



「「いえ、なんとなく」」

「そ、そうか。・・・・・・あ、そういやお前、ティアナのやつとずいぶん仲良くなったみたいじゃねぇか」

「気のせいですよ」

「いやいや、気のせいじゃないだろ。よく二人で戦術の事についてあれこれ話してるしよ。
・・・・・・いや、覗いてないぞっ!? 見かけただけだっ! 頼むから俺を蹴ろうとするなっ!!」



というか、アレもおかしい。なんで僕アレをニックネーム呼びするようになってんだろ。

てゆうかさ、小説が行間を読むものと言っても、これは読みきれないって。なにがあったっての?



「・・・・・・なぎ君、やっぱりこの間の事だけじゃなくて、最初のアレとかが効いてるんじゃないの?」

「でしょうね。だから余計に・・・・・・かぁ。だが、私は謝らない。
確かにライダーシステムに不備はあった。だが、それでも私は謝らない」

「「「いやいやっ! ライダーシステムってなにっ!?」」」





給湯室で、お茶菓子食べつつ作戦会議です。なお、どういうわけかルキノさんに捕まってそういう話になった。

で、そこにアルトさんやヴァイスさんまで参加して、ガチにお茶会になっている。・・・・・・仕事はいいのかな。

とにかく、スバルとエリオとの関係改善も出来るようなら頑張るとフェイトに言ったので、対策を考える。



ルキノさんは、昔からの知り合いということで結構普通に接してくれる。というか、普段どおり。

正直、ありがたい。というか、今もまた頭を撫でてくれるのがちょっと気になるけど、それでもありがたい。

というか、かなり気になるな。普通にアルトさんが見て・・・・・・あれ、なんか手を伸ばし始めた。



あの、二人で撫でるのやめてもらえます?





「わぁ、触り心地いいね。こう、髪質もあるんだろうけど、癒されるよー」

「でしょ? なのは隊長達がなぎ君の頭をよく撫でるのは、ここが理由なの」

「なるほど〜」



・・・・・・ヴァイスさん、笑うのやめてもらえます?

なんかまた蹴りたくなるんで。てーか、普通に動物扱いは嫌なんですけど。



「なぎ君、このお菓子どう?」

「あ、美味しいです。てゆうか、どうしたんですかこれ」

「ふふふー。通販ー♪ いやぁ、入手するのに苦労したんだよ」

「・・・・・・あ、私思い出した。確かコレ、最近流行ってるお店のだよね」



とにかく、美味しいクッキーを食べつつも考えよう。・・・・・・でも、本当に美味しい。

外はサクサクで中はしっとり。派手さは無いけど、暖かさを感じるホームメイドタイプのクッキーだ。



「けどよ、ルキノ。その苦労して手に入れたクッキーを、俺らと食べていいのかよ」

「いいんです。というか、最近なぎ君とはあんまりお話出来てなかったし、コミュニケーションは必要なんですから。
というか、私達すっごく仲良しなんですよ。前に乗っていたアースラの方で意気投合しちゃって、それからの付き合いなんです」



それがルキノさんが配属したての頃だから・・・・・・もう5年とか6年とか前?

うわ、そう考えるとやっぱり管理局は就労年齢が低いなぁ。ちょっとおかしいって。



「あぁ、ルキノが前に言ってた職場だよね。確か、クロノ提督が乗ってた船。
・・・・・・あぁ、そっか。君がフェイトさんの弟的な立ち位置だから、その関係でなんだね」

「そんなところです。・・・・・・でも、グリフィスさんとか誘えばよかったんじゃ」



なお、ルキノさんはグリフィスさんにお熱である。ただ、若干内気な人のため、中々踏み込めない。



「うぅ、そう思ってたんだけど勇気が出なくて・・・・・・! 一応本人の前までは行ったのにー!!」

「本人だけ誘うからダメなんじゃないですか?
ほら、他の人間を誰かしら誘って、おすそ分けって言えば」

「あ、なるほど。よし、今度はそれで行こうっと」

≪気づいてなかったんですか、あなた≫





なお、現在グリフィスさんは108のゲンヤさんと色々お話中で、呼び出せない。なので、そこにはツッコまないで欲しい。

部隊長であるはやても、交代部隊の隊長であるシグナムさんも、捜査主任のフェイトも居ないから、グリフィスさんが頑張るのである。

そして、ぜひともルキノさんにも頑張って欲しいと思いつつ、話をあのバカ二人に戻そう。



まぁ、エリオにはフェイトも話してはくれている。スバルの方も、なのはが聞いてくれたとか。





「うん、一応お礼は言った。だけど、やっぱり・・・・・・なぁ。道化をやるしかないの?」

≪道化をやっても無意味ですよ。そもそも、あなたはエリオさんが望んでいる答えを出せないでしょ≫

「出せないねぇ」





正直スバルはともかく、エリオがどういう展開を望んでいるのかは予測出来る。

なお、ここで重要なのはエリオは僕と話すこと自体を望んでるわけじゃないということだ。

それはあくまでも通過儀礼の一つ。エリオが望んでいるのはその先のゴール。



で、僕は当然そんなゴールはクソ喰らえなので、軋轢が出来るわけですよ。





「アルトアイゼン、エリオ達が望んでいる答えってなに?」

≪ようするに、エリオさん達はマスターに反省して欲しいわけですよ≫

「・・・・・・やっぱそういう方向かよ。あのガキどもは本当に」





そう、ここが全くアレな事態になっている最大の原因。で、僕もそこをフェイトに話した。

スバルはともかく、エリオがそう考えている可能性について聞いた。

キャロはその可能性を肯定した。そして、フェイトも苦い顔をしてその可能性を肯定した。



エリオもそうだし、スバル・・・・・・は大丈夫らしい。なのはにまたお礼を言ったっけ。

・・・・・・あー、ようするに、僕は人を殺したわけですよ。犯罪者であろうと、それは事実。

エリオはそれは絶対にいけないことで、あの場での僕の判断は間違っていたと思ってる。



ようするにエリオは僕が『守るための力』である魔法を殺すために、壊すために使ったことを反省して欲しいのだ。

そして、自分達と同じように、自分の力を守るための力だと思うようになるのを、望んでる。それがさっき言ったゴール。

僕がその過程を通って反省をして、考えを変えて、初めて自分達の仲間として認めるという寸法だ。



それで、『エリオの中では』ハッピーエンドになるわけである。そう、あくまでもエリオの中では。

だけど、僕はそんなつもりはない。・・・・・・勘違いしないで欲しいのは、行動が間違ってるどうこうじゃない。

てか、人殺しなんてぶっちぎりで間違ってるでしょ。今更どうこう言うことじゃない。



僕がそんなつもりがないのは、魔法を守るための力だと言う点。悪いけど、ここは譲れない。

力は、力。そして、僕は自分の力を壊す力だと思ってる。この前提は、譲れない。

つーか、現に壊してる。きっと、僕が死ぬまで変えられない、変えちゃいけない事。



これを変えて『自分の力は、守るための力だ』なんて嘘を吐くくらいなら、死んだ方がマシだ。





「・・・・・・いや、さすがにそれは」

「ルキノさん的には無しですか?」

「ごめん。正直さ、私もありえると思う。今の様子を見ると、その話はすごく説得力がある。
というか、本人は気づいてないんじゃないかな。それがなぎ君への押し付けだって」





そう、ルキノさんの言うようにそれは押し付け。それも全く自覚がないと来てる。でも、どうしようかなぁ。

だって、普通に僕の考えを認めろと言っても、それもまた押し付けなんだから。

・・・・・・スバルはともかく、エリオはもう自分の事実の中に入っちゃってる。



きっと自分の望んだもの以外なら、誰の言葉も通用しない。現にフェイトがそれだ。

だからって僕は考え方を曲げるつもりはない。なにより、本当に必要と思ったら、多分またやるだろうし。

・・・・・・僕はもう、選んでるもの。選んで、突っ走ってる。止められるわけがない。



てーか、リンディさん達はマジでなにやってる? 何か言いたかったら、僕に直接言えばいいでしょ。



なのに、なんであれから一度も連絡もして来ないで、エリオに行くのさ。なんにしたって、まずそこからおかしいでしょうが。





「ただ、そう思うのも無理ないんですよ」

「「「というと?」」」

≪・・・・・・なぜ、三人でハモるんですか≫

「スバル達、なのはだったりフェイトに助けられて局に入ってますから。
それが余計にその感情に拍車をかけてるんですよ」





みんなは見事に納得してくれた。うんうんと頷いてさえいる。・・・・・・みんな同じようにしてる。

守るための力を使って、それで沢山のものを助けてる。だからこそ、僕という存在が異質に見えるわけですよ。

全く、みんなも暗い部分はしっかり教えておけっての。僕はまぁ別にいいよ。慣れっこだもの。



でも他の嘱託やら局員と仕事した時にこれじゃあ、ウザったいことこの上ないでしょうが。





「スバルは、多分そうありたいと思ってる。なのはと同じですよ」





ただ、スバルがそう思う理由は分かる。多分、自分の身体のことだ。

ギンガさんは、自分の身体・・・・・・戦闘機人の身体を、『壊すために生まれてきた』と言っていた。

妹で、同じ身体のスバルがギンガさんと同じように思っていても、不思議じゃない。



ギンガさんの話だと、スバルはなのはに助けられる事で自分の力の使い方とか目標とか、そういうのを見定めたそうだし。





「出来れば、それが壊れるような真似はしたくないなぁ」

「なにがだ?」

「あ、いえいえ。こっちの話です」





そして、それだけじゃない。なんでも、スバルはティアと一緒にミッド地上の災害対策の部隊に居たとか。

志望もそっち方向だから、あの子は根っからのレスキューウーマンなわけである。

傷ついて、消えそうな命を助ける事、守ることに、自分の力の使い道を見出している。



つまりだ・・・・・・口にはしないけど多分、人の死ってやつにそれなりに触れてる。



だからこそ、壊す力など、そのために力を振るう人間など、余計に認められないのだ。





「そういう意味で言うと、エリオも同じくだね」

「ですね、キャロは少し違うみたいですけど」



キャロともアレから仲良くなったので、少し色々と話した。

キャロはどっちかって言うと僕に近い。うん、あの年ですごいリアリストなのよ。



「アレだな、隊長達や局の理念って奴の影響が一番強いのは、エリオだ。
アレ、本格的な部隊は六課が初めてなんだろ?」

「そうですね。エリオって訓練校を出たばかりですから」

「だから、そういうのもあんだよ。お前ら、思い出してみろ。訓練校を出た直後の事を」



ヴァイスさんが真剣な目でそう言うと、ルキノさんとアルトさんが天井を見上げながら、考え出す。

なお僕は蚊帳の外。だって、訓練校なんて出てないし。



「志望した理由はどうあれ、これからは正式に局の一員として仕事をしていくんだって思うと、張り切るだろ」

「それは・・・・・・うん」

「確かにそうですね」

「で、そんな中で現実にぶち当たって、徐々にそういう新鮮な気持ちがなくなっていくわけだ。
俺の経験上、せいぜい1ヶ月が限度だな。それだけ持てば上出来だろ」



なるほど、そうしたところで5月病ですか。・・・・・・そう考えると、納得だ。



「ところがだ、アイツはまだ子どもで小せぇから、そういうのをずっと継続してた。てーか、無駄に生真面目だろ?
局の理念や、理想が正しいと信じてたわけだ。幸か不幸か、フェイト隊長って言う見本も近くにあるからな」

「で、そこに僕が色々とどデカイ爆弾かますもんだから、新鮮な気持ちで反発したと」

「そうだ。まぁ、それでも俺の言った事は伝わった様子だった。ただ、男ってのは・・・・・・アレだ。
やっぱり自分の道理や願いに誇りってもんがあるからな。簡単には譲れねぇもんなんだよ」

「あー、分かります分かります」





アレだよね、この辺りは今までの行間で読み切れる範囲だよね。・・・・・・そう、男って悲しい生き物なのよ。

なんかの漫画で『・・・・・・男はバカで強い。だから、強さを抜いたらバカしか残らない』って言う名セリフがある。

なお、そう言って『だから、強がらせてくれよ』という台詞に繋がるのである。僕はこのセリフ大好きだね。



それくらいに男という生き物はバカなのよ。強くなくちゃ、バカしか残らないって言われるくらいにバカなの。

僕もそこが分かるから、あんまエリオには言わなかった。だって、エリオだって男なんだから。

もちろん言う権利がないって言うのもそうだけど。ただ、今は後悔している。それが完全にミスジャッジだったと、かなり。





「それだけならまだよかったが、話によると後見人のリンディ提督と、フェイト隊長の使い魔が余計な事したんだろ?」

「しましたね。それもかなりですよ」



ここが後悔の理由。二人の『善意の応援』のおかげで、エリオは考える事をやめたと思われる。

迷いを切り捨てられ、あの状態・・・・・・ありえない。普通にありえない。どうしてあぁなるのさ。



「そこで、折れかけていた男のプライドが復活したんだよ。で、俺の経験上そういう時は絶対頼み事かなにかしてるな。
アレだ、『道を間違えたあの子の力になって欲しい』的なアレだよ。ただアイツはアレだ、真面目過ぎるだろ」



過ぎますねぇ。フェイトに似たのか、堅苦しいところがあります。もっと言えば、子どもらしくない。



「で、色々考えてあの態度になったんじゃないのか?
いや、もしかしたら自然と誘導されたのかも知れないな」

「エリオを後見人の提督やフェイト隊長の使い魔がですか? あのヴァイス陸曹、さすがにそれは」

「甘いなアルト、女ってのはな・・・・・・リアリストでありながら、重度の理想主義者。
そして、エゴイストなんだよ。まだまだガキであるお前には、分からないかも知れないがな」



・・・・・・いや、ヴァイスさん? アルトさんは女の子だから。立派な女性だから。

あぁ、アルトさんの頭から角が・・・・・・!!



「坊主、俺ぁその提督や使い魔と会ったことはないが、そういう感じだろ。
こう、現実に居ながら理想を貫く事が絶対的に正しく素晴らしい道だと思っているような」

「・・・・・・正解です。で、なぜにそこまで分かるんですか?」

「昔付き合ってた女がそんな感じだった。で、そういうのに限ってやたらと自分の道理を物差しにして、批評したがるんだよ。
やれこうだからダメ。こうだからいい・・・・・・って感じだな。その上そんな自分に酔ったりもするから、性質が悪い」



・・・・・・納得しました。とりあえずアレですよね、ヴァイスさんがそういうのにトラウマ持ちなのは分かりましたよ。

もうこの話をこのまま続けさせたら、朝が来るんじゃないかって勢いですもの。ビックリですよ。



≪ぶっちゃけ、子どもですよね≫



そう言って遠慮なくぶった斬ったのは、我が相棒。さすがに容赦がない。



≪世の中の人間・・・・・・というか、味方内全てが自分と同じなわけがないじゃないですか。
あの人、ガジェットばっかぶっ飛ばしてるから、その辺り分からなくなってるんじゃないんですか?≫



・・・・・・さすがに容赦がないな。確かにその通りだよ。



≪というか、そこはリンディさんとアルフさんもですよ。
その無駄な正しい思想のおかげで、六課は大迷惑じゃないですか≫

「確かにそうだね。エリオはスバル達との距離感も微妙だし、他の部隊員も気にしてるらしいし」

「なによりアレですよ、僕達はともかく、エリオに迷惑ですって。
だって、僕の方には一度たりともその用件で話が来たことはないですし」

「・・・・・・おいおい、それであれか? ありえねぇだろうがよ。お前さんが無視してるとかならともかくよ」



てゆうか、二人もまた余計な事を。僕だけじゃなくてフェイトやなのはまで同じ意見ってのは、おかしいでしょ。



「いっそ模擬戦かな。もうめんどいし、一発勝負でぶっ飛ばして納得させる」

「いやいや、なぎ君。さすがにそれは」

「・・・・・・・・・・・・いいよ」



ほら、本人もオーケー出して・・・・・・・・・・・・え?

待って待ってっ! オーケーってなにさっ!!



「私もね、ちゃんと話さなくちゃいけないって思ってたんだ。
でも、こう・・・・・・どう言ったらいいのか分かんなかった」



僕もルキノさんも、アルトさんとヴァイスさんも、その声に固まる。固まって・・・・・・そちらを見る。

すると居た。話に出てきた内の一人が。そして、そのパートナーと上司が苦笑いして僕達を見てた。



「だから、やろうよ模擬戦。多分、それが一番いい」

『ス、スバル・・・・・・!!』










こうして、突然の模擬戦は開催の運びとなった。あはははは、なんでこうなるんだろ。





とにもかくにも、時間は1時間ほど後に飛ぶ。なお、その様子は・・・・・・次回です。




















(第13話へ続く)






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あきゅろす。
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