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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Stage11.2 『その男、多忙につきVer2019/PART2』

今日もヤスフミはお仕事……緊急のお仕事。

それも朝一番で飛び出していったから、みんなビックリして。というかヤスフミ本人もビックリしてた。


「――それで恭文さん……警察の人に引っ張られていったんですね……」

「うん……まぁ朝練が終わったくらいだったから、たたき起こされた感じではないんだけど」


今日は夜にお仕事絡みな、クローネやアーニャちゃん達。

みんなが洗濯や掃除なども手伝ってくれたので、のんびり午後へ入ることができます。

お昼のサンドイッチももう準備しているし、今はリビングでほっこり……。


だけどなんだろう。文香ちゃんや奈緒ちゃんが、凄く感心した顔をしていて。


「やっぱり蒼凪プロデューサー、凄い人なんだよなぁ……! なんたってあの特車二課第二小隊とも戦ったっていうし!」

「ダー……警察の人が、そこまで力を借りたいなんて、凄いです」

「でも、滅多にあることじゃないんだよね。むしろヤスフミ、偶然巻き込まれる方が多いし……」

「そ、それについては私達もその、申し訳ないです……」


あぁ、ちひろさんが恐縮気味に! クローネの件でも巻き込んだら、心苦しいんだ!


「……しかし困ったなぁ。今日一日は稽古に付き合ってもらおうと思っていたんだが……」


それでまだまだうちに在宅中のミカヤちゃんも、そんなちひろさんを見て困り顔。

でも、晴嵐を脇に置くのは……無理だよねぇ。デバイスだもの。


「あ、それなら私が付き合うよ。うん、剣術も大分慣れているし」


なのでバルディッシュを取りだしガッツポーズ……その途端、異変は起きた。


「「ままぁ……」」

「うりゅ……」


……ベビーベッドのアイリ達がとても不安そうに!

どうして!? もう離乳食も食べているし、さっきまで黒ぱんにゃと楽しそうだったのにぃ!


「ミカヤ師範、それなら私がお付き合いします」

「なら私、応援するねー」

「ありがとう、二人とも」


そしてジャンヌとフィアッセさんが、サラッと入れ替わってー! だ、駄目……横入りはズルいの! ルーラーアウトなのにー!


「フェイトさん、ガッツポーズは……ヤスフミも、不安になります」

「えぇ。それでお皿を割っていましたし。フェイトさんは力みすぎると駄目みたいですから」

「だ、大丈夫……奥さんとしてレベルアップ、するし。
うん、そうだよ……そのためにね、練習しようと思って買ったんだ」

「買った? ……もしかして、さっき届いた通販が」

「うん」


ちひろさんも察してくれて一安心。というわけで、大きめな箱を取りだし……置いてっと!


「ガンプラを買ったんだ。えっと、轟雷っていうの」

「え……」

「あぁ、それで蒼凪プロデューサーに追いつこうと……」

「スキルアップすれば、大会でもいろいろ手伝えますから。うん、だからまずこれを作って」

「あの、フェイトさん……」


あれ、奈緒ちゃんが凄く戸惑ってる。メイド服の裾がプルプル震えるくらいに……どうしたんだろう。

…………あ、そっか。そう言えば……うん、ヤスフミや凛ちゃんから聞いているよ。


「奈緒ちゃんもガンプラとか好きなんだよね。だったら一緒に」

「それ……違う」

「ふぇ?」

「それ、ガンプラじゃ……ない」


…………奈緒ちゃんが真剣な顔で……申し訳なさげに、不思議なことを言いだした。


「フレームアームズって、書いているよね」

「あ、うん。だからガンプラなんだよね。ほら、オルフェンズでもフレームが凄いって」

「全然違うよ! それ、コトブキヤってメーカーが出しているオリジナルシリーズだから!」

「…………え、でも……でもほら……デザインとか」

「似てるよ! エクシアやヴァーチェのデザインをした人も参加しているから!」


ということは、つまり……私、また………………その瞬間、頭の中でぷつんと糸が切れる。


「ふぇぇぇ……………………ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「……いや、でも……フェイトさんが勘違いする気持ちも、分かるわ。
最近だとガンダムって記号的なデザインも、いろいろ変わってきているし……」

「二本角で口がへのへの字だったらガンダムかーってアレだね。
……でも、通販ならちゃんとメーカー表記とかあるはずなんだけどなぁ……!
そもそもガンプラが一大カテゴリーなせいもあって、他のとキチンと分けられているし」

「……つまるところ、奥方に必要なのは注意力か」

「フェイトちゃん、よしよし」

「うりゅりゅー」


うぅ、茶ぱんにゃが……フィアッセさんが慰めてくれる。

でも、でも、どうしよう……もう作るしかないんだけどー!


う、うん……そうだ、作ろう。そうすればスキルアップだし……うん、大丈夫……!




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編

Stage11.2 『その男、多忙につきVer2019/PART2』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


由良さんのお仕事は忙しい――続いてはチョコレートの新商品企画プレゼン。


『――男性が生涯のうち、頻繁にチョコレートを食べるのはいつか。
我が社で独自に調査しましたところ、十才から十五才として、それ以後は緩やかに下降。
六十才を過ぎてまた、上昇カーブを描きます。まるでバスタブのような局面を描くこれを”バスタブ理論”と言います。
えー、実は今までのチョコレートは、そのほとんどがこちらの……十歳前後の曲線を対象に作られていました』


企画を立てる上で一番大切なのはリサーチ。それを由良さんの会社で請け負い、結果と方向性を提示する。

それがプランナーの基本的な動き方みたい。やっぱり由良さんも日々勉強を重ねている人だった。じゃなきゃ、ここまで成功しないよ。

しかし忙しい人だ……事務所に戻ったかと思うと、休む間もなくまた別の方と面談。


「しかし半日付いてみましたけど、とても精力的な方ですね。単純な言い方をすると……カッコいい」

「えぇ」


ちゃんとイメージがあるんだろうね。どういう形で案件に応え、クリアするか。だから迷いなく、最効率で動けるのよ。

それも経験とデータに裏打ちされて、最適解を出していく……普通はね、その圧倒するような量に押しつぶされるよ。

でも一つ一つ、こなしていくところに凄(すご)さがある。僕も見習うべき点が多々ある。


「この調子でどんどん名を上げて、そのうち総理大臣のスピーチ原稿も作りそうですよ」

「どっかの大統領がしているみたいに?」

「それです」

「ありがと。でも……今のところ、そういう要素はないわね。まぁプライベートでは分からないけど」

「そうですか……」


秘書の篠田さんとそんな話をしてからすぐ、またおでかけ――今度はお台場近辺にある、建設中のレストラン。

ただし内装等はほとんど手を付けておらず、まだまだ作りかけといった印象。


「いい眺めだなぁ。フジテレビやお台場の観覧車が一望できる」

「夜になるともっと最高だ。オープンしたら彼女達も含め、招待するよ」

「ありがとうございます。なら僕も、開店記念にお花を贈ります」

「それは楽しみだ」


……でも、招待? このホテルをプロデュースしただけなら……まるで今の言いぐさは、自分がオーナーであるが如(ごと)く。

少し引っかかったので、この店もチェックの必要があると判断。


”アルト”

”西園寺さんにメールしておきますね”

”お願い”

「……あ、そうそう」


まだまだ工事中なホテル内を見渡しながら、両手で拍手を打つ。……もう一つ、大事なところがあったしね。


「例のオフィスラブ絡みで、一つ実験をしたいんです。細かい階層って覚えてますか?」

「実験?」

「簡単に言うと、由良さんの部屋から本当に見えるかどうか。それでアリバイが立証されるんです」

「そうか……携帯電話では移動できるけど、それが無理になるんだね」

「えぇ」


まぁ見えているとは思うけどね。ただそこもチェックしておかないと、追及そのものができないから。

これはここまでの融和政策を考慮し、飽くまでも”確認”という前提の上でお願いする。


「なので、非常に申し訳ないんですけど」

「力になると言ったのは僕だ。是非協力させてもらうよ」

「ありがとうございます。じゃあ早速連絡しますので、ホテルに戻ったら即実行・即終了コースで」

「それは助かる。戻ってからもまた一仕事あってね」

「え、またお出かけですか」

「いや……プロジェクトクローネって分かるかな。電話でも話していたと思うんだけど」


……分かるも何も、現在その問題に巻き込まれ中なんですけど。

由良さんの朗らかな笑顔には、つい頬を引きつらせてしまう。


「……どうしたのかな。顔色が」

「いえ、実は……クローネというか、346プロのアイドルとはそこそこ縁がありまして」

「あぁ、知り合いなのか」

「えぇ……数人ほど」

「そうなんだ。……まぁ彼女達のデビューライブを手伝うって話が出てね。ホテルの会議場で顔合わせをするんだよ」

「でしたらこちらも遅刻などしないよう、最大限配慮させていただきます」

「それで頼むよ」


クローネについては、今この場では関係のない話だ。なのでそれは置いておき、最大限の配慮を送ると約束する。

まぁでも、大丈夫だよね? この状況でそんな、この間みたいな馬鹿をやらかしたら……油断せずにいくか。

こっちもわざわざ揉めたいわけじゃないし、美城常務にも上手く……大人の牽制を飛ばし、温和に進めることにしよう。


「だとすると心配なんじゃ」

「……美城絡みの動乱ですか」

「それ」


触れない方向でいきたかったのに、由良さんが自ら飛び込んできた……!

ただ本気で僕を心配しているというより、関係者である僕からまた情報を得たい。そんな意図も見受けられて――。


ここで堂々とする話ではないので、ホテルに戻りつつ漏らすことにする。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プロジェクトクローネ――。


美城常務が掲げる思想≪かつての芸能界が如(ごと)きスター性、別世界のような物語性の確立≫を目指したアイドルプロジェクト。

元々346プロアイドル部門は、アイドルの個性を尊重し、それに合わせて育成するスタイルを取っていた。

でも美城常務は、それでは成果を出すのが遅すぎると感じ、白紙化計画を断行。


自らの思想を新しい御旗(みはた)として、各部署に現状の見直しを迫った。

……ただまぁ、その辺りがいろいろと思わくありだったのは、プロデューサーさんや卯月ちゃん達が関わった通りで。


とにかく美城常務は、CPへの提携……それに対する示しも含めて、新人中心のユニットを打ち立てた。

メンバーは十人。二人は渋谷凛ちゃんとアナスタシアちゃんだけど……残り八人も相当に素養が高い。


「……」


青髪ショートで、大人っぽい印象の速水奏。

でも高校生らしい……私よりスタイルもいいのに!


京都(きょうと)出身。クリーム色の髪を短く纏(まと)めた塩見周子。

フランス人とのハーフ……だっけ? 金髪ショートな宮本フレデリカ。

何となく美希に似ている大槻(おおつき)唯ちゃん。


なんと小学生にしてデビューが決まった橘ありすちゃん。

黒髪ロングの可愛(かわい)らしい子なんだけど、キリッとした表情もまた愛らしい。


プロデューサーさんとあむちゃん達と同じ、聖夜学園(大学部)に通う鷺沢文香ちゃん。

文香ちゃんとは、私達765プロメンバーも何回か会ったことがあるんだ。あとははやてさんもだね。

読書が大好きで、叔父さんの古書店で居候しているの。はやてさんもそこの常連だから。


プロデューサーさんとフェイトさん達とは、数年来の知り合いである北条加蓮ちゃん。

そんな加蓮ちゃんと同じ部署にいた神谷奈緒ちゃん。なお、二人ともスタイルはかなりいい……!


とにかくこれに凛ちゃん達を加えたのが、プロジェクトクローネ。その資料を、ソファーで見ながら……ただただ呻(うな)り続ける。


「おはようございますー」


するとティアナさんが制服姿で、そっと入ってきた。


「あ、ティアナちゃんおはようー」

「おはようございますー」

「ん……って春香、それは」

「あははは、やっぱり気になっちゃって」


そう……既に公表された、プロジェクトクローネのユニットデータ。

全員がクール系というか、大人っぽい感じでかっこいい……んだけど。


「まさかアンタ、クローネのライブを見て感想……とか考えてるんじゃ」

「春香ちゃん……!」

「その疑わしそうな顔は、やめてください……!」


嫌だ! この反応が元プロデューサーさんだけじゃないなんて! 裏切りを恐れられるなんて!


「でも、常務さんやみんなは、悪い感じじゃないんですよね。後継者問題についても、親族との関係が修復しつつあって」

「そういうことじゃないのよ。
人気アイドルのアンタが認めるってことは、それ相応の影響があるわ」

「そうよ、春香ちゃん。CPの始末もある話だし、ちょっと落ち着いていかないと」

「……卯月ちゃん達は、本当に間違っていたんでしょうか」


そこが納得しかねていて……つい呟くと、小鳥さんやティアナさんも神妙な顔になってくれる。


「間違っていたのよ」


かと思ったら、ティアナさんが一刀両断……!


「結果論にすぎないかもしれない。でも嘘を積み重ねた以上、その責は背負わなきゃいけないのよ」

「ティアナさん……」

「立てこもりやらなんやらのとき、あの子達にはそれが無理だった。
美城は文字通りのお城で、社のスタッフはお姫様を支える従者や魔法使い……そういう認識だったから。
でも、今は違う。だからあの子達は、自分の手で間違いを払おうとしている」

「だけど、失敗しても……みんなで乗り越えてきました! だったら……」

「乗り越えたんじゃなくて、結局逃げただけだったのよ」


ティアナさんやり切れないという様子で、クローネの資料を拾い上げる。


「今西部長やら会長の籠絡が、それを示した……」

「……ティアナさん、強いんですね」

「機動六課なんて最悪例を見せられたもの」


皮肉に皮肉を返され、何も言えなくなってしまう。

……分かっている。私は結局部外者で、何を言っても無駄だって。

その重さも、その意味も、全部卯月ちゃん達が決めることで。


だけど……やっぱり、見ていて引っかかるものもあって。


「失礼します」


すると事務所のドアが、音を立てて開く。


「あ、はー……い……」


……私達も立ち上がってそちらを見て、息を飲む。


「……今西部長」

「お仕事中、本当に済まない。
だが……どうか君達の力を貸してほしいんだ」


そうして提示されたのは……彼ら笑顔で差し出したのは。


「我々に、シアター計画を預けてほしい」

「……お断りします」

「頼む。今、アイドル部門に……会長に必要なのは……強い輝きなんだ……!」


私達への、降伏勧告だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


リムジンへ改めて乗り込み、聖夜市へと戻る。革張りのソファーに体重を預けて、ついほっこり。

なお由良さんは仕事もある程度落ち着いたようで、パソコンのデータをしっかり保存し、画面を閉じた。


「待たせたね。それでクローネの件だけど」

「……部長達が更迭された理由の一つは、アイドル達の御家族なんです」

「というと?」

「みんながCPの問題を通し、美城の体勢に激怒したんです。
特に未成年組は……結果今の部長達に、子どもは預けられないと抗議が殺到した。
もちろん内密に脅迫を仕掛けた、北条加蓮達……その親御さんは特に」

「あぁ、それで……」

「しかも346プロについては、タレント寮も併設しています。自分の子どもを上京させ、預けている人達からすれば怖いですよ」


何度か言われていることだけど、アイドルってのは……もちろん765プロも、御家族の理解を得た上で活動している。

未成年なら学業の問題もあるし、余計にそういう信頼関係が重視される。

でも部長達はそれを裏切った。CPを庇うってのは、そういう側面も確かにあった。


公平かつ社会的にも信用のおける判断……処罰も含めたそれができないってのは、その処罰で守られる側以外からすれば理不尽だもの。

それは同時に、美城ブランドに対するひび割れを示す。改善するためには、美城の強大さを示す必要がある。


そのために部長達は、クローネや常務を……でもそれは加蓮達の家族からすれば、言うまでもなく恐怖だ。

だからこそ部長達が”生けにえ”となるしかない。


「日高舞の再臨なんていう妄想を守るために、社員が一丸となる必要がある――それだけを叫んで、知らしめた。
自分達が部門のトップに立つことで、どれほどの危機がもたらされるか……とても雄弁に」

「それでとんでもない利益がもたらされるならともかく、そうじゃないだろうしねぇ」

「えぇ」


フェイト達にも話したけど……アイドルの活動、その舞台は八十〜九十年代から大きく広がっている。

特に大きいのが、SNS発達に伴う……アイドルの神秘性が消失したこと。

もちろん今でも、露出を控え、SNSなどの情報発信を制限すれば、ある程度の水準を保つことはできる。


でも、それで大きく売れるかどうかは賭けだ。それもかなりリスキーな賭け。

見える範囲でもいいから、ダンス・ボーカル・ビジュアル……この三本柱が相当高いレベルじゃないといけない。

個性という共感しやすい針を使わず、実力のみで人を引きつけるわけだしね。実際美嘉がそれをやろうとして、大失敗したわけで。


……あのマネキン撮り直し事件は、日高舞の再臨なんて真似がどれほど愚かかをよく示した一例だと思う。

それがアイドル個人に……美城にただダメージが向かうならいい。でも実際には、取引先への損害も与えることになる。

実際撮り直しなんて簡単に言うけど、一回目に賭けた人件費や印刷代、光熱費……広告を出す全ての費用は損害になったわけだしね。


だから常務も、強引に……適性が薄い人間も含めて、なんでもかんでも型枠に嵌めるやり方は控えている。

クローネについてもそれは変わらなかったんだけど……それをすっ飛ばし、自分の型枠が正しいと曰ったのがおじいちゃん達で。


「彼らは結局、昔の甘い蜜が忘れられず、求めてしまった」

「だから部長達は更迭されたんです。五年後も示せない会社トップとか、自殺志願者と同じですし」


そうじゃなかったら、いくらなんでもいきなり更迭やら、権限はく奪なんて話にはならなかった。


「でも、美城常務は違った……」

「十年前はともかく、そこから今に至るまででいろいろ痛感したらしいですよ。
日高舞の伝説に縋っていては、この会社は駄目になると……」

≪それもちょろっと言ってましたねぇ。
白紙化計画なんて強めの言葉を作ったのも、簡単に言えば綱紀粛正。
美城のなぁなぁで適当なところは、その成功体験を引きずったがゆえではないかと……≫

「うん、そうだね。成功体験を引きずらないのは、ビジネスの基本だ。
特に美城のような、資産が大きな会社は……」

「資産が大きい分、ですか」

「一度の失敗では揺らがない……だからこそ、小さい頃より丼勘定でやりやすいんだよ。資産運用なんかは特にね」

「JALもその辺りでやらかしていますからねぇ……それも繰り返し」

「……ヤスフミ、そうなのか?」

「そうなのよ」


ショウタロスが疑問そうだったけど、ここはもう……ビジネスの常識と言うか。


「そうそう、そうなんだよ」

『……って、見えてる!?』

「実はね。でも三人もいるなんて、また珍しい……」


あれ、そうなると…………あはははははは……これは、いろいろ問題じゃないかなー!

軽く半笑いすると、由良さんは『一本取ったり』という形で、楽しげに笑っていた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


現在、765プロは非常にぴりぴりしています。

夏に起きた大事件の余波も収まり、新たな”遊び”の道も開かれたばかりなのに。

それに沸き立つ余韻すら吹き飛ばしたのは……平然とうちにやって来た、今西部長。


社長がいないということで、応対していたティアナさんと小鳥さんは、頭が痛そうに首振り……私達765プロメンバーも、頭が痛いです。


「――確かに、私は……ミスを犯した。
だが……こんなことになるとは、思っていなかった。
ただ彼女達を仲間として受け入れ、支えてほしい……それだけでいいと……!」

「で、アンタはそんな押しつけを何一つ反省せず、ついには会長ともども切り捨てられる立場になったわけよね」

「頼む……君達の力を貸してくれ。
このままではCPは……美城は、ただ仲間を否定するだけの冷たい場所に成り果てる」

「お断りします。というか、武内さんにも言ったはずなんですけどねぇ」


ティアナさんは頭が痛そうに、こめかみをグリグリ。

そう言えば元プロデューサーさんも同じ仕草を……一緒に暮らしていると、いろいろ似てくるらしい。


「アンタ達のお遊びには付き合えないって」

「頼む……!」


そして今西部長は、土下座……。

慌てて駆け寄ろうとすると、ティアナさんが止めてきた。


「確かに、君達には損をさせる。だがこれは、金の話ではない……人情の話なんだ。
君達が彼女達に、手本を示してほしい。真に情愛溢れる仲間を……その意味を……!」

「今西部長、そんなことをしても無駄です」

「現に島村くんは……何かを悩んでいるらしく、アイドルを辞める算段も建てているんだ」

「え……」

「それも、止めなくてはいけないんだ。私が……部門をそんな場所にしてしまった、この私が……!」

「ちょっと、どういうことですか……卯月ちゃんが、どうして!」

「だから受けられないのよ」


ティアナさん、それは……でもティアナさんは揺らがない。


「アンタは結局卯月達を人質に、押し込み強盗を働いているだけじゃない」

「……!」

「なにより、卯月がアイドルを辞めるとして……その当人とも話そうとせず、勝手にこんなことをするってなによ。
……卯月が道を選ぶ自由を、勝手な押しつけで潰しているだけでしょ」

「………………頼む……私は、会長のことも……みんなのことも、守りたいんだ。
だが私にはもうその力が……もう、君達にしか頼れないんだ……!」

「だったら、CPや卯月ちゃんを敗者に貶めなくていいはずですよね!」


小鳥さんが悲しげに糾弾すると、ようやく……部長さんの言葉が止まって


「今西部長、理解してください……! みんな、あなた達が怖くて仕方ないんです。
あなた達が怖くて……頭がおかしいから! 近づきたくないんです!」

「……」

「……もう帰ってください。あなたは今後、うちのアイドル達とも接触を禁止しますし、事務所への出入りもお断りさせていただきます。
もしこの通達を破り、勝手にアイドル達と会うようなことがあれば、警察に相談させていただきます」

「――」

「……この件は346プロにも伝えて、しっかり抗議させていただきます」


……そうして数瞬経ち……今西部長は立ち上がり、私達に目もくれず……とぼとぼと外へ出た。


「…………ティアナさん」

「卯月ってことなら納得だわ」

「どういうことですか」

「あの子、おねだりCDの被害者だもの」


ティアナさんは疲れた様子でため息を吐いて、ソファーに座り直す。


「私やアイツ……あむ達の手からこぼれ落ちた……私達の罪」

「だから、それがどうして……だって、卯月ちゃんにとってアイドルは夢で……」

「そうね」

「そんな簡単に、諦められることじゃないです。
……もし、卯月ちゃんにそういう目標が必要なら……会長さん達だって」

「だから嘘を吐いていいの? それもみんなが大迷惑する嘘を」


…………その言葉には、首を振るしかなかった。

だからCPも……嘘になったって、言われているわけだしね。


でも、でも……それなら……!


「だったら、卯月ちゃんは……それに、全部嘘じゃなかったはずなのに」

「目標が必要……なんていうのが、あの子の本質を理解していない証拠よ。
……あの子には、アイドルと同じくらい……やりたいことがあるだけ」

「アイドルと、同じくらい?」

「ちょうどアイツっていうお手本も近くにあるしね」


アイツ………………プロデューサーさん!?

え、じゃあ卯月ちゃんのやりたいことって……。


「そいうことよ」


そっか……そうだよね。

卯月ちゃん、戦っているプロデューサーさんを見て、立ち直れたって言っていたし。


じゃあ……えっと……。


「ティアナちゃん、もしかして恭文くんから」

「というか、凛からですね。荒事の専門家として、未央ともども相談されて」

「……二人は知って、納得……しているのかしら」

「腹を括っています。
……美城常務から『ちゃんと考えろ』って言われたのも大きいようで」

「美城常務が……」

「最初はどうなることかと思ったけど、アイドルのこともよく見ていますよ。
……じゃなかったら気づけるはずがない。現に春香や今西部長はさっぱりだった」

「う……」

「アンタ、その踏み込み方でどう解決するつもりだったの?」


ぐうの音も出ない反論だった。

結局私は……今の私は、半端者に過ぎなくて。


「だから、いいわね? 一番近い凛達も今言った通りなんだから」

「……卯月ちゃんがどんな結論を出すにしても、邪魔はしない」

「そういうことよ」


うん、そうだ……それじゃあ、誰のためにもならないよね。

プロデューサーさんだって……だから、ああいうスタンスだし。

……だけど、迷いもあった。


そうしてCPを……今までを否定するだけで、本当に……いいのかなって。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


JALは国からも認められた空港会社だったけど、潰れた……思いっきり派手に潰れた。

その原因は全体的にコストがかかりすぎていることとか、いろいろあるんだけど……実は資産運用も入っている。



例えば一九八五年に、アメリカで名門と呼ばれるホテル≪エセックス・ハウス≫を購入した。

なお、買収金額は約四三〇億円。これだけなら副業的とか、JALの海外旅行キャンペーンに絡めての将来的購入と言える。

……問題は正式な鑑定評価をせずに購入したこと。その界わいでは、このホテルにその金額は高すぎるというのが通説だった。


そもそも稼働率が百パーセントになっても、黒字にならなかったそうなのよ。

相手先の言い値で……丼勘定と言われても仕方ない形で購入して、無駄にお金を使ってしまった。


更にそれくらいの時期に、為替予約を行っていた。

これは航空機や燃料購入に必要な、ドルを確保するためにね。

当時の担当者や、天下りしてきた元官僚やらは、そのときの流れ……円安が続くと見込み、十一年の予約を執行。


だけど……そこで襲ってきたのがプラザ合意。

これは先進五カ国主導で発表された、為替レート安定化に関する合意を指す。

滅茶苦茶簡単に言うと、この影響で真逆の流れ≪円高≫が進む。その結果が恐ろしかった。


八五年には一ドル二五〇円前後だったのが、三年後には一二〇円……半分近くに低下した。

その結果JALは大損。最大で二二〇〇億円の大損を生み出した。


……普通の企業ならそれだけで大問題になるんだけど、実はこのあと……バブルに入ってね!

こんな小さな……数千億の損など知ったことかーって勢いですっ飛ばして、その結果負債やシステム的な無駄を重ねに重ね……走り抜けちゃったのよ。


故に、由良さんの言うことは本当に……本当に正しかった。

実際部長も、会長も、美嘉が一度失敗した……その意味を全くと言っていいほど理解していなかったもの。

『一を知り、十を知る』とまでいかなくても、賢者は過去から学ぶ。そういう姿勢がない経営者には、誰もついていかない。


「――そんな酷いことになっていたのかよ……!」

「なっていたの」


ショウタロスには何度も頷き、改めて伝える。


「だからね、歴史ある大企業が潰れるってのは、決して難しいことじゃないのよ。
……大きいが故に時勢の変化を読み切れない……または対応できず、損害を出していくの。
それは一撃で会社を潰すほどじゃないけど、積み重なれば毒のように周り、首を絞めるわけだ」

「じゃあよ、ヤスフミ……美城常務がこう、CP側に躊躇いなく付いたのとか……綱紀粛正にあれだけ強行的だったのは」

「JALなんかの前例があればこそ……さっき言った通りね。
しかも日高舞が活躍していた時代とは、景気の流れも違うでしょ」

「そっか……バブルやらがあったよな。それが弾けてからも、しばらくは大丈夫っぽかったし」

「時代背景が違えば、当然ファンの出資する額……売り上げも変動する。
彼らの再臨や目論見は、そもそも事業計画ですらない妄想というわけだ」


由良さんがサクッと纏めると……というか、嘲笑すら浮かべながら断言して、ショウタロス達も納得する。

……いわゆる永久雇用ってやつが幻想になったのと同じように、大会社が未来永劫存在するというのも幻想。

特にTOKYO WARやら、核爆破未遂事件……ローウェル事件なんかの影響もあったしね。


時計の針は巻き戻らないんだよ。どうやっても……。


「でも常務がそこまでしっかりしているのなら、心配はないのかな」

「揺れているのは事実ですよ。実際武内さんの復帰もありましたし」

「そっちはどういう解釈になっているのかな」

「まず武内さんは、CPが今度行う舞踏会の発案者なんですよ。
で……クローネが提携する上で、どうしても力を借りる必要があるってことで」

「あぁ……そういう……」


割と強引な手ではあるんだけど、由良さんからすれば……納得できるものらしく、何度か頷きが返ってきた。


「常務の建てたコンセプトと相反する部分もある。
でも参加する以上、それを解決しないのはアウトって感じかな」

「同時にCPとの連携や、コラボ企画も視野に入れた運用です。
……それでも強引な復帰劇ではありますし、ここからが正念場です。
ここでCPのときと同じ失敗をすれば、クローネともども潰されることになる」

「勝利と敗北は、等しくテーブルの上にあるわけだ。難しいものだね」

「でも一番面白い状況でもあります」

「確かにね」


由良さんは噛み締めるようにそう呟き、窓の外を見やる。


「アイドル達は難しい事情を理解できないだろうし……彼女達が本気で頑張るのは間違いない」

「えぇ」

「それで通用するのが一番いいんだけど、大人はそれだけじゃあ止まれない」

「由良さんだってプランを提案するとき、理論的なものもきちんと説明されますしね。……バスタブ理論とか」

「そこを抜いたんじゃ、ただのアイディアノート披露だからね」

「それは僕や警察も同じです。屁(へ)理屈という言葉がありますけど、理屈は理屈なんです。それを否定するのは感情ではなく……論理です」

≪それを昭和魂とか、恩義とか感情で押し通すって……完全に駄目な会社ですよ≫

「もちろん合理性のない、業務の差し止めもね」


楽曲の件だって、合理性が皆無だよ。そういうのを当然にしておいて、信頼しろなんてへそで茶を沸かすレベルだ。

……だから、なのかな。


(きっと美城常務は、ああいうものを正したかったんだよね。
それに……六課を作ったときのはやてやフェイト、クロノさん達も……)


そのために組織を動かす……その大変さと、やり甲斐ってやつ? それは最近分かるようになった。

僕とアルト達にはできない戦い方だ。だから尊敬もするし、敬意も払う。


……まぁ、その上で好き勝手はさせてもらうんだけどさ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プロジェクトクローネも本格的に動き出し、定例ライブももう目の前。

私もソロ曲の練習に余念がないです。だって、だって……恭文さんに、聞いてほしいですしー♪

もうチケットも送ったんです! 特等席です! フェイトさん達も一緒です!


……もしかしたら最後のステージになるかもしれませんし、ちゃんと……見ていてほしくて。


常務にも約束したとおり、一日一日……一つ一つのお仕事を、レッスンを、悔いがないようにこなしていく。

まずはそこから始めて、改めて考えていく。私のこれから……私の進む道を。


「これは……」

「小日向美穂さんとのコラボユニットです」


……そんな中、突然……クローネ側として復帰したプロデューサーさんに呼び出された。

レナさんにも付き添ってもらい、会議室で顔を合わせて……どうしたかと思ったら。


「……武内さん、その話はお断りしたはずですが」

「会長の提案は高圧的なものでしたが、そのアイディアは利もあります。
長山専務達にも相談して、利の部分のみを拾い上げてみたんです」

「……美城常務も知っていると?」

「反対はされましたが……企画書を見ていただき、提案だけは許可をいただきました」


レナさんの厳しい視線と指摘にも、『偉い人と相談し、許可は取っている』と返す。

それでレナさんも一応納得して、私と一緒に資料を見て……。


「性格や印象的にも似たお二人ですし、ここにもうお一方……お二人と合うメンバーを加えた、トリオユニットを考えています。
渋谷さんにとってのトライアドプリムスのように、島村さんや小日向さん……それぞれの特性を、新しい形で出せるユニットです」

「新しい、形……」

「定例ライブ後の話になりますが、あなたも……新しい一歩を踏み出してみませんか」

「でしたら、お断りします」


有り難い話だけど……美穂さんのことも大好きだけど、断るしかない。

資料をデスクに置いて、静かに告げると……。


「小日向さんと津田プロデューサーにも打診しましたが、小日向さんは快諾していただきました。
なので島村さんも結論を焦らず……ライブが終わるまでに考えてもらって構いません」


プロデューサーさんは納得してくれない。私に踏み込み、問題ないと……迷っていいのだと囁く。


「待ってください……武内さん、美城常務から聞いてないんですか? 卯月ちゃんは」

「定例ライブ後、新規の仕事は控える……今後の身の振り方を考えるためというのは……提案した際にも」

「そうです。でしたら」

「そのためにも自分は、島村さんにも……もう一歩、新しい道を進んでほしいんです」

「…………プロデューサーさん」

「今回のコラボは、その道筋もあるのだと……そう思える結果に繋がると思います。
その上で考えてもらいたいんです。……過去ではなく、今の冒険へ踏み出す道を」


その言葉は、とても……胸に突き刺さるものだった。

私は結局、過去を……失ったものばかりを、見ている。


「あなたにとって、養成所での事件は原動力でもあった。
だが、それだけではないはずです。渋谷さん達という仲間とともに進んできた道もまた、前に進む力となっている。
……過去ではなく、ここにきてから手にしたもので、新しい舞台に挑戦してみましょう」

「武内さん、待ってください。強引過ぎます……卯月ちゃんは考えている最中で」

「島村さんは、ここで止まるべきではありません。
……強引なのは承知しています。ですが、あなたの笑顔をここで失うわけには」

「笑顔なんて、誰にでもできるじゃないですか」


……プロデューサーさんが一番いいところ……そう言ってくれたところ。

でも今は、そうとしか思えない。そう告げるとプロデューサーさんの表情が、強張って……。


「私には歌も、ダンスも……特別なところなんてない。ただ頑張ることしかできない。
だからあのとき……何も……何もできなくて、すっごく悔しくて」

「島村さん……」

「それはCPでトラブルが続いたときも、同じでした。
私は……もっと早く、CPを否定するべきだった」

「落ち着いてください。不愉快な話をしたことは、謝罪します……ですが」

「笑顔じゃない……今は、笑顔じゃない……!」

「あなたの笑顔は誰にでもできるものではありません。自分は」

「誰にでもできるんです!」


また心が荒ぶる。


「私が欲しいのは、やっぱり力なんです……」

「島村さん……」

「どこまでも届く私の手……力!
もう誰も泣かせない! 誰も傷付けさせない!
どんな理不尽も、どんな痛みも払いのける!
……そんな手が欲しいんです! それが私なんです!」


ふだん封じ込めていたものが、簡単に吹き出す。


「アイドルが……キラキラしたものになりたいって気持ちは、何も変わらない! だけど、それだけじゃない!
それだけじゃないのに、どうして……どうしてあなた達は、否定するんですか……!」

「………………」

「私は、アイドルを続けなくちゃいけないんですか……!? 笑顔でいなくちゃいけないんですか……!?
誰のために……なんのために!? ファンのためですか! 会社のためですか! あなたのためですか!
だったら……だったら……そこに”私のため”を入れるのは……そんなに悪いことなんですか!」

「………………」

「黙ってないで答えてください! プロデューサーなんですよね! ほら……ほらぁ!」


最近はいつもこうだった。

考えよう……向き合おうとするたびに、心が痛くて……でも逃げられなくて。


「……武内さん」


そんな私を落ち着かせるように、レナさんが背中を撫でてくれる。


「卯月ちゃんも落ち着いて。気持ちは分かるけど……強引過ぎたら、武内さんと同じだから」


それで自分が俯いていたことも、荒く息を吐いていたことも……空気が凍り付いていたことも、ようやく理解して。

でもごめんなさいとか、そういう言葉は言えなくて。それがまた……溜まらなく腹立たしくて。


「……申し訳、ありませんでした」

「武内さん、もちろんあなたの気持ちは分かります。卯月ちゃんの未来を案じて、ここで止まってほしくないのも……それが本心なのも。
……でも……無神経すぎます」

「……はい」

「とにかく、このコラボについては臨時プロデューサー権限でお断りします。
小日向さんにも、津田プロデューサーにも、あなたの方から全て伝えてください。
私達は一切関わりませんので……それで問題ありませんよね」

「委細、承知しました。ただ……もう一つだけ」


レナさんは視線を厳しくするけど、プロデューサーさんは揺らがず……姿勢を正して、こう告げた。


「今日、クローネの方でライブの打ち合わせがありますが、そちらへの参加は問題ないでしょうか」


……私達には関係ない、打ち合わせに参加しろと……いえ、酷い言い方だとは思うんです。

でも基本的には別ユニットですし、クローネのコンセプトもあるのに……どうして。


「……どういうことですか」

「……もしや、聞いておられなかったのですか?」

「プロデューサー、さん……」

「美城常務からの提案で……CP側から見て、クローネが問題ないか審査してほしいと。特に北条さん達を重点的に」

「レナ達に抜き打ちチェックをしろと?」

「その方が効果的とのことで……表向きの理由としては、CPも提携部署なので、こちらの演出やその意図を確認する形に……なっていたのですが」

「聞いていません……!」


私も聞いてないので、プロデューサーさんには首を振るしかなかった。


「レナさん……!」

「まずは、魅ぃちゃんを問いただそう」

「はい!」


問いただした結果……連絡はしたけど、私達がメールを見ていなかっただけでした。というかレナさん、授業でマナーモードでした。

それは反省しつつ、一応……抜き打ちチェックということなら納得して、打ち合わせに参加させてもらう。


その上で……また、私は考えていく。

辛くても、自分を傷付け続けても……答えを出すために、少しずつ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


我ながらミスだった。

まさか、まさか……この男がそこまで愚鈍だったとはなぁ……!

今さら今西部長の気持ちが分かってしまって、軽く頭を痛めてしまう。


ただそれでも冷静に……窓から、夕闇に染まる城下町を見下ろす。


「君がCPで問題を起こし続けていた理由が、本当によく分かった」

「……申し訳、ありませんでした」

「謝って済む問題ではない。
私は提案と打診だけ……本人が断ったらすぐに引けと言ったはずだ。
コラボ企画についてもそのまま保留しておき、今後に流用する道もあった。
……だが、ここまで派手に断絶してしまっては、もうどうしようもあるまい」

「…………全て、自分の責任です」

「そうだ。君の責任だ。CPプロデューサーとしての自分に流され、アイドルという道を押しつけた君が悪い」


さすがに腹も立つので……振り返り、無能プロデューサーを軽く睨み付ける。

ついでに……彼女以外のCPメンバーもだ。全員今日は待機だったので、無事に来てくれた。

もちろん園崎臨時プロデューサーにもきちんと許可を取っている。


……どうしても、私から言っておきたいことがあったのでな。


「彼女を星としよう。ならば、輝きが見えない星にはどう手を伸ばす。それは無と同じだとも言える」

「……例え雲がかかり、見えないとしても……星は輝き続けています。
その雲を晴らせば、きっと」

「Pくんの言う通りだよ! 卯月ちゃんが……………………あれ?」


……どうやら諸星くんは、部活効果で察しもよくなっているらしい。すぐに小首を傾げてくれた。


「ごめん、きらり……勘違いしていたかも」

「諸星さん?」

「だって、雲とか……そういう話はしていないし。星自体が輝いていないって……」

「……わたしも、同じ印象……受けました。常務、それって」

「そこが大前提だ。……星が輝くのは、星が一つの生命体として生き続けようとしているからだ。
その意志がなければ、星は輝かない。私は、その意志が弱いと言っている」

「それも、皆と進んでいくことで獲得していけると……自分は、考えて」

「失敗続きで彼女の足を引っ張り、心労を増やした足手まといとか?」


嘲笑しながら断言すると、奴らの表情が強張った。

もちろん君も含めて……そういう言い方をしたのは、よく理解してくれたらしい。


「無論私も言えた義理ではない。結果論だが……こういう状況なら、とっとと老人達を追い出す手段もあったからな。
……意味が分かるか? 彼女が今に意味を見いだせないとしたら……我々美城の責任だ」

「それは……!」

「……つまり、こういうこと? 莉嘉達と……美城でアイドルをする理由がなくなっているだけ。
他の事務所さんに移って、やり直す形もあるとか……」

「それも一つの道筋だ」

「えー! みりあ……そんなの、嫌だけど……。でも、卯月ちゃんが……そうしたいなら……」

「うん……それは、納得しなきゃいけないよ……。
それで押しつけても……卯月ちゃん、本当に……笑えなくなって……」


……過去はともかく、今の彼女達はきちんと仲間をやっているようだった。

そこを思いやれるのであれば、揉める心配もないと一安心する。


……となれば、納得が行かない大人の方だな。


「だから私は、彼女には冷静に考えろと命じた。美城から移籍するのならば、詫びの一つとして支援する手はずも整えていた」

「待ってください、それは……!」

「彼女にここでアイドルを続けてほしいというのは、結局君達の我がまま……エゴに過ぎない」

「……そうだよ。アンタも……そういうの、もう駄目だから」

「渋谷さん……ですが!」

「エゴならエゴで、自覚して振りかざすべきだよ。……その覚悟もないなら、本当に邪魔だ」


渋谷くんからもだめ出しを食らい、武内くんはようやく妄言を停止させる。


「一応言っておくが、これは彼女に限ったことだけではない。君達アイドルにも……そして我々スタッフ側にも言えることだ。
君達には自由があり、その責任を背負い、反社会的行動に入らないのであれば、どのような選択も許される」

「今回卯月ちゃんは、その自由を行使するかどうか考えていると……」

「責任を背負いきれるかどうかも含めてだな。……なので、いいな。
今回武内がやったような押しつけは、一切しないでほしい。
これは園崎臨時プロデューサーにも確認を取り、了承を得ている業務命令だ」

『――はい』

「ありがとう」


柔軟な彼女達に……そう鍛え上げてくれた園崎臨時プロデューサーには、感謝をしておく。

……これは本当に、島村くんのためだけにする特別扱いでもなんでもない。その最大の目的は印象戦略だ。

最悪例として祭り上げられた会長……父と今西部長。私は思わくありと言えど、奴らに付き従う形を取っていたからな。


多少は道化を演じて、奴らとは違うというところを示さなければならない。もっと言えば前例作りだ。

昨今問題になっているブラック企業問題もあるし、こういうところでの押しつけは本当に……後々痛手となって降りかかりかねない。

だから、今のうちに前例を作る。そんな押しつけを当然とする者≪武内チーフプロデューサー≫は、キチンと叱り処罰するとな。


その前例があれば、似た方針で動いていた会長や今西部長達のような者も、自省で動きにくくなる。

もちろんこの前例は、美城が新社長に引き継がれた後も有効だ。

……そういう意味では今回の展開、私には大助かりな部分ではあるんだが……さすがに、それで喜ぶのは駄目だと自重しておく。


こういう”なぁなぁ”を排除することもまた、私が美城を引き渡す前にやるべき仕事なのだから。


「……でも、一つ疑問」


そこで本田くんが、不思議そうに右手で挙手。


「なんだ」

「常務さん、どうして……しまむーの迷いに気づいたの?」

「それは……」

「というか、なんで日高舞のこととか、割り切りをつけたのかな」

「…………大したことではない」


……そう、大したことではない。

ただ……面と向かって話すのが辛くて、彼女達には背中を向け、夕日を見上げる。


そう言えばあの日も、血のように赤い夕焼けだったと……そう思い出して。


「メアリー・レインジという少女がいた。アメリカ時代、私がプロデュースした一人だ。
……これがとんだ不良娘でな。手が焼けたものだ。
だが、資質は高かった。それに情熱も……徐々に頑張る楽しさにも目覚めてくれてな」

「クローネの先輩って感じかな! 今、その人なにしているの!?」

「自殺した」


ワクワクした様子の本田くんに……みんなにも悪いと思いつつ、結論を端的に告げる。


「実は彼女は、家庭環境が悪かった。
彼女の両親は売春の斡旋などもさせていて……だから美城の法務機関も使い、縁を切らせようとしたんだ。
だが彼女を金づるとして送り出そうとしていた両親は、それに激怒。
仲間内を呼び出し、彼女を監禁。顔に傷を付け……暴行したんだ。彼女はそれで絶望し、拳銃で頭を撃ち抜いた」

『……』

「私はそれを止めようとしたが、間に合わなくてな。危うく続いて連中の餌食になりそうだったが……警察の介入で事なきを得た。
両親や仲間も逮捕されて、実刑判決を受けて……悲しい事件はそれで終わったんだ。彼女の夢も……ぷつりとな」

「………………あの、ごめん……私」

「謝る必要はない。
……会社としてもそんな事件を引きずらないように、資料なども全て処分された。それはアメリカ支社のスタッフも同じ。
日々の仕事に流されて……流されようとして、全てを捨て置く」


忘れることは美徳かもしれない。

だが私は、それに違和感を覚えた。

未来を……儚くても希望を見いだし、懸命に進んでいたお姫様。


その姿を全て忘れることが、なかったことにするのが、余りに無情で……余りに悲しくて。


「だから私だけだ。彼女が……たとえ一時でも、星のように輝いたのを覚えているのは。
……島村卯月を見たとき、一目で気づいた。彼女も”忘れたくない”と抗っている者だと」

「忘れたくない……」

「守れなかった者達が積み重ねた夢に近づく努力……それを間近に見た目撃者でもあったからな。
だから忘れたくないのだろう。それを忘れてしまったら本当に、そこで彼女達が死ぬ」

「……!」


武内くんが息を飲むのを確かに感じ取りながら、振り返り……いつもの、怖い上役としての顔で彼らを見やる。


「それが嫌なだけなんだろうな……私達は」

「常務……」

「同時に気づいたんだ。私は日高舞に焦がれて、引退も本当に……残念に思っていた。
だがだからといって、彼女と同じようなお姫様を仕立てて、何を取り戻すのか……何を守りたいのかと」


会社のため? いいや、違う……そうじゃない。

親のため? それも違う……そうじゃなかった。


結局私が取り戻したかったことなど、結局たった一つだった。

あのとき、彼女を見上げて焦がれた高揚感。輝くステージと、響く歌声の感動。

そう……なんてことはない。私は自分が魅入られるくらい、素敵なアイドルを見上げたかっただけだ。


「……そう考えたら、急に馬鹿らしくなってな。
だったらいっそのこと、日高舞が悔しがるくらいに素敵なお姫様をプロデュースしよう……そう決めた」

「常務……」


今、日高舞はアイドルではない。

つまり見上げる立場にいるわけだ。

そんな彼女が見上げて、歯ぎしりを建ててしまうくらいのお姫様。


誰もを魅了し、焦がれ、夢を繋いでいく……くしくも島村くんは、答えを引き出していた。

……そういう意味でも借りはあるのだと自重しながら、一応彼女達には謝っておく。


「こちらこそ悪かったな。つまらない話を長々と」

「ううん、そんなことない! ……あの……ありがとう」

「わたしも……ありがとう、ございます。わたし、改めて覚悟……決まりました……!」


気恥ずかしくなっていたところに、渋谷くんは拳を握り、アナスタシアくんも瞳を燃やし、明るく笑う。


「まず、わたし達が……ウヅキに、みんなに見せたいです。
過去も、今も……全部含めたわたし達に、できるステージを」

「それで最高の笑顔を届ける。うん、やろう――!」

「そのためにも君達は、今日の打ち合わせからだ。
北条くん達のこともあるし、しっかりと頼む」

「「はい!」」

「ならなら、きらり達も負けていられないね!」

「提携部署として……同時にライバルとして。お互いいい感じに利用し合って、切磋琢磨ということでよろしくにゃー」

「あぁ。……無論、勝つのは私達だがな」

『こっちだって――!』


本当に、どうしてこうなったのか。

最初の予定では、こんな話をするつもりも……なれ合うつもりもなかった。

……だが、一筋縄ではいかない彼らとのせめぎ合いは……不思議と沸き立つ。


そうだ、それは事実だった。本当に……腹立たしいがな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――未来を危惧しながらも、ホテルへ戻り実験開始――そして終了。

由良さんには重々にお礼を言った上で、今日のところは別れた。


そして、現在夜の五時――ホテルのレストランはディナービュッフェの真っ最中。

でも食事にテンションを上げることもできず、ただただ頭を抱え、天井を仰ぎ見ていた。


「どこまでも、伸びる手……力、か」

『うん』

「まるで映司さんだねぇ」

『……そうだね』


その原因の一つは、レナから届いた電話だった。卯月が武内さんに、ちょっと切れ散らかしたらしい。


『多分その映司さんから言われたことも、原因なんだと思う』

「積もり積もったものが、一気に吹き出して……欲しがるようになった」

『そういう感じをレナは受けた』


火野映司……仮面ライダーオーズ。

あの人も過去に辛い喪失を味わい、欲望が乾いた。

でもただ一つ求めたものがある。それは力……どこまでも伸びる手。


それは、オーズとなったことで叶ったんだけど…………実は、夏に一度会っているのよ。

マーベラス達や火野恭文……火野さんとこっちの世界に来ていてさ。あのときは大変だったー。


……まぁその辺りの話はまた別の機会にするとして……仕方ない。


「なら実際に、手を伸ばしてもらおうか」

『うん……レナもね、それを相談したくて』

「いいの?」

『体験入門って感じ? 実際に関わって、鍛えて……また考えが変わるかもしれないから。
とにかくね、卯月ちゃんに今必要なのは、いろんな刺激と情報だって思うんだ』

「分かった。ちょうど頼れるのもいるし、手はずを整えておく。
……仕事の方は問題ないんだよね」

『常務さんもそういう時間が持てるようにって、気づかってくれているから』


そう、気づかいだった。

卯月への仕事OFFは、いわゆる干されている状況にも見えるけど……そうじゃないんだよねぇ。


『というかね、これはレナの感覚だけど……常務さん、卯月ちゃんにシンパシーを感じているのかなーって』

「シンパシー?」

『自分も日高舞っていう、大きな力を求めたから』

「あぁ、そういう……」

『もちろん常務さんは割り切りを付けた……付けつつあるけどね。
だから余計に、なのかな。迷っている卯月ちゃんのこと、放っておけないんだよ』

「可愛がられているわけだ」

『じゃなかったら、武内さんみたいに言うよ。今のままで……アイドルとしてもっと前にって』


……卯月は幸せものだと思う。

そうやって手を伸ばしてくれる人達がいるんだから。


あとは、卯月がそれにどう答えを出すかだ。僕達ができるのは、そのお手伝いくらいだよ。


『まぁそういうわけだから、もうちょっとだけ……卯月ちゃんをお嫁さんにするのは、我慢してほしいかなーって』

「分かっているよ。大事なときだし……というか、僕がお嫁さんにしたい前提で言うな……!」

『そうだよねー。恭文くんがお嫁さんにしたいのは、レナだもんねー。
だからレナにいっぱい意地悪して、気を引こうとして』

「……………………」

『…………ね、黙らないで? ちょっとしたジョークだったの』

「レナ、魅音の影響を受けたでしょ」

『KYってことかな! かなぁ!』


――そこで電話の向こうから、バタリという音が聞こえる。


『……あ、ごめん。そろそろ時間みたい』

「いいよ。でも仕事なんだっけ?」

『そう。クローネの抜き打ちチェック』

「同時に、卯月が考える材料作り」

『そこもお礼をきっちり言うつもり。
常務さんの意図はどうあれ、卯月ちゃんには勉強になるから』

「気をつけてね」

『うん。恭文くんもね』


そうして電話は終了。デバイレーツの電源を落とし、懐に仕舞って……軽く息を吐く。


(……焦れったいけど、仕方ないよね)


これは僕にも経験があることだった。先生やアルト、師匠達が……戦う道を示してくれて、だからここにいる。

卯月も苦しいだろうけど、自分で決めなきゃいけない。僕達ができるのは、本当に……材料を集めることだけだ。

まるで花木に水を撒くように。咲く花が……開く未来が、卯月にとって素晴らしいものになると信じて。


「……ヤスフミ」

「ん……」


卯月のことはこれでよしとして、思考を事件に戻す…………こっちも問題続きだからねぇ。


「マジでどうするよ」

「どうするも何も、そこは予測してたでしょ」

「だなぁ。ほんと、ばっちりって言うくらいに見えてたしよぉ……!」


そう、バッチリ過ぎるくらいに見えていた。品のいい茶のカーテンは左右に分かたれ、しっかりとオフィスの光景を……小さくだけど映し出した。

ホテルとオフィスビルの間には遮蔽物もなく、昨日は雨や天候不良もなかった。つまり、目撃は十分に可能。


向こうの会社に話を通すのが大変だったけど、実験自体は大成功だ。……そう、大変だったのよ。

オフィスラブしていたカップルを見つけ、協力させるのも大変だった。社内の評価にも関わるしね。


でもここは、全力で説得したよ。あなた達の存在が証明できないと、とある男性(由良さん)の人生が台なしになると。

えん罪をかけられ、そのまま刑務所送りにされる可能性もある。そんなお涙頂戴も交えた結果、とても精力的に協力してくれた。

なお二人は明るい関係であったらしく、これをキッカケに男性がプロポーズ。


とても円満な世界が生まれましたとさ。イイハナシダナー。


「でも意味はあるよ。……”もう一つの部屋”からもオフィスラブは目撃可能だ」

「そして別の階層からは、角度の問題で微妙に見えづらい……あの階だけが、くっきりとした形で確認可能。
なら由良は携帯電話で篠田さんと話しながら移動――そのまま殺害に移ったわけか。だが銃声は」

「サイレンサーなりでごまかせるしね」

「で、問題はどうやってそれを証明するか……だよなぁ。移動距離が短すぎるから、GPSでの証明は無理」

「監視カメラの映像も空振りだったしなぁ。つーかVIP階層だからって、配慮しすぎでしょ……」

「蒼凪さん!」


そこで慌てた様子で、向島さんが駆け寄ってくる。警官服の男性が飛び込んできたので、周囲の客もギョッとする……でも気にしないー。


「西園寺さんからの言付けです! 蒼凪さんの読みが当たりました!」

「ありがとうございます」


向島さんから渡された書類を確認……本当にいい仕事をしてくれる。つい嬉(うれ)しくて笑ってしまった。


「ほんと、二人揃(そろ)っていい仕事をしてくれます。これで動機は繋(つな)がりました」

「はい! これで、決まりでしょうか!」

「あと一手欲しいですね。銃を持って、撃っただけじゃあ今回の事件と繋(つな)がるかどうか……」


下手をすればとぼけられる可能性もある。346プロも関わるなら、こっちも徹底しないと。

……いや、346プロが悪いって話じゃないのよ。やっぱり司法部門も優秀な人を囲っているからさ。

そう言う人が弁護に出た場合、半端な証拠じゃあ覆されるもの。だからキチンと……それも理路整然とね。


「ところで、ヒカリちゃんは」


そう考えて気持ちを入れ替えたところで、向島さんがきょろきょろ……でも何となく察しているようで、その表情はほころんでいた。


「あのエンゲル係数大魔王なら」

「――ここは天国か!」


……戻ってきたよ。山盛りの皿を持って……ふわふわとさぁ。

ヒカリは皿をテーブルに置いて、そのままポテトサラダにかぶりつき御満悦。


「御覧の通り、ビュッフェを堪能中です……!」

「お、向島! お疲れ様だな!」

「お疲れ様です! ……また大胆な食べ方だねぇ。ちょっと羨ましいかも」

「大胆にもなるぞ! 何せ十周年記念でイベント目白押し! 昨日も十周年記念のイルミネーションで盛り上がったそうだぞ!」

「あ、それは自分も聞いたよ! ビルの窓を使った大胆なものだって!」

「いいときに来たなぁ……! 恭文、フェイトとアイリ達も早めに連れてきてやれ。きっと喜ぶぞ」

「だね。でもイルミネーション……」


イルミネーション、イルミネーション、イルミネーション……人差し指で眉間を何度か叩(たた)き、思案。


「蒼凪さん、どうされました」

「いや、由良さんの事務所でも、そんな話をしていて」

「言ってましたね。ビルの窓を使ってライトアップ――”困ったときの”と付け加えていましたし、相当対効果が高いんでしょう」

「でも分かるなぁ。自分もそういうのはつい目を引かれるんですよ。
あ、そう言えば昔……バブル時代に先輩が、それでプロポーズをしたって話を聞いたことが!」

「あぁあぁ……そういうサービスもありますよね。僕は陣内智則さんのコントで知って」

「自分もそれ、見た覚えがあります! 面白いですよねー!」


……そこで強烈に引っかかるものがあり、慌てて右側を見る。

井沢(いざわ)ホテルの『井』の文字を示す、白いモニュメントを。


「ヤスフミ、どうした」

「ヒカリ、向島さん……お手柄だよ」

「「はい!?」」

「んぐ? どうした……お前もローストビーフが食べたいのか」

「違う違う」


……一つ妙案を思いついた。もしかしたらと思いながら、慌てて向島さんにお願い。


「――向島さん、大至急調べてほしいことが」

「何なりと!」

「昨日のイベント詳細が知りたいんです。それとホテルの見取り図もお願いします」

「分かりました!」


聞き返しもなしで飛び出していく向島さん……その姿に感謝しながらも、右指を鳴らす。

そうして辺りの照明が落ち、僕のみがライトアップ。その状況でさっと一回転して、少しずつ歩みを進める。


「えー、由良さんを逮捕するためには、犯行時刻……あの部屋にいなかったと証明する必要があります。
しかし僕の推理が正しければ、今度こそ尻尾を掴(つか)んだはずです。では」


右指を鳴らし、ズームアップされていくカメラを指す。


「由良さんが犯したミスとは何か。……解決編はこの後。蒼凪恭文でした」


(Stage11.3へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、今回は書き下ろし部分たくさんだー。
梅雨入りして雨だけど、頑張ろうと思う蒼凪恭文とー」

白ぱんにゃ「うりゅりゅ、うりゅ……うりゅー!」


(ふわふわお姉さん、蒼い古き鉄の膝上に座り……窓の外を見上げる)


白ぱんにゃ「うりゅ……」

恭文「ここからは、雨とも上手く付き合っていかないとね。
まぁ卯月が徐々に不安定になっていくのとか、常務の過去がサラッと明かされたのとかはさて置き……」

白ぱんにゃ「うりゅ?」

百合子「雨の日はやっぱり読書です!」

白ぱんにゃ「うりゅ!?」


(突然登場……ケボーンダンスが得意な七尾さん)


百合子「それは私の中の人ですー! いえ、踊れますけど!」

白ぱんにゃ「うりゅりゅ、うりゅー」


(白ぱんにゃ、膝上でバタバタ……どうやら踊れるらしい)


百合子「というわけで、今日は白ぱんにゃちゃんにも分かるように絵本も持ってきました。
……これで、のんびり本の世界に浸りましょう。もちろんフェイトさん達も一緒に」

白ぱんにゃ「うりゅりゅ?」

百合子「うん。晴耕雨読って言ってね……」

恭文「僕達、なんだかんだで悠々自適に暮らしているしねー。うん、やろう」

カルノリュータス「カルカル?」

カスモシールドン「カスカスー♪」

どらぐぶらっかー「くぅー」

らぎあくるすs『ぎあー♪』

百合子「うん、みんなもおいで。じゃあ私は……恭文さんを受け止めて」

恭文「待て」


(雨の日は雨の日の楽しみ方があるのです。
本日のED:山根麻衣『THE REAL FOLK BLUES』)


百合子「ん……♪」(蒼い古き鉄を抱えながら、一緒に読書)

恭文「なぜだ……身長は同じくらいなのにぃ!」

フェイト「ヤスフミ……百合子ちゃん、ちょっと大きくなっているよ?」

恭文「う、うそだぁ。成長期とか都市伝説」

フェイト「それはないから!」

百合子「はいー! ……もっともっと覚醒していきますから、見ていてくださいね」



(おしまい)





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