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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Stage10 『Jerk Joke』


美城の状況もどんどん加速する中、私達は恭文さんに呼び出された。

というか、恭文さんのお知り合いに呼び出され、765プロにやってきた。


それで顔を合わせたのは、レティ・ロウランというお母さんくらいの女性。


この女性、なんとその……時空管理局の、提督さんだそうで……!


「――以上がプラフスキー粒子問題での、我々次元世界……管理局側の対処です」


空間モニターというのを開いた上で、かくかくしかじかで説明してくれたのは……今、この世界が割と危険だというお話。

ガンプラマフィア撲滅のこともあるので、杏ちゃんとニルス君のガードは、管理局の方も力を貸してくれる……というものでした。


「それで今回相談したかったのは……あなた達CPの方にも、こちらの護衛人員を回す予定だから」

「きらり、達に?」

「杏ちゃんが無事でも、あなた達が人質にされる可能性もある。
特に三村かな子さん、緒方智絵里さん……あなた達二人は危険よ」

「そんな……!」

「でも、ないとは言い切れないよね。マシタ会長達がやらかしているし」

「うん……」


でも……ガンプラマフィアの脅威度がおかしすぎます! そんな、次元世界の人達にも迷惑をかけるレベルってー!

……これ、やっぱりマシタ会長みたいな小物かもしれないし……過大評価のようにも感じますけど。


「それと島村卯月さん、あなたも」

「はい!?」


かと思っていたら、唐突に私へ注目が……!


「あなたの場合は技術者としてではなく、プレイヤーの観点から。
あなたがあの状況で発現した暴走(オーバーロード)、その力を狙ってこないとも限らない」

「ちょ、それは見境なさすぎじゃん!」

「そうだよ。そんなことを言ったら、今までプレイしてきたファイター達全員危ないし」

「だったら、こう言えば納得してもらえるかしら。
……プラフスキー粒子については、見境なしになるほど何も分かっていない」

「それは……」

「反物質云々だけなら、まだよかったのよ。でもこの粒子は人間の精神を糧として、その力を高めるでしょう?
彼女のオーバーロードが……アシムレイトが起こるのも、その特性ゆえだと考えられる。
それはね、兵器や何かしらの悪事に転用できるような、悪い可能性も秘めているかもしれないの」

「だから本当に、全方位で見境なしの敬意が必要に……」


そう呟くと、レティ提督は困り気味に頷いてきた。


「しかもイースター社という前例もいたから、余計に警戒してしまうのよ」

「…………イースター社が!?」

「この件は管理局には報告していない……恭文君が『第二種忍者として』取り扱った事件を、サポートした形で知ったことよ。
……卯月さん、あなたのお友達が被害にあったおねだりCD……あれは聞いた人間を催眠・心神喪失状態へ追い込む代物だった」

「……えぇ」

「それって、一種の”殺戮兵器”と言えないかしら」

『――!』


レティ提督の言葉に、私達全員から血の気が引いた。

そうだ、それは……考えてみれば当然のことで。


「僕やあむ達がイースター社とやり合っていたのはね、人間の精神を……その心を材料とした、異能兵器を奴らが作りかけていたからだ」


今まで黙っていた恭文さんが、腕組みしながら軽く頭をかく。


「ただそんなもの、模倣犯を出してもアウトだからね。
管理局や警察にも事情説明できず、身内でなんとか止めたって感じなんだけど……」

「卯月は危うく、そんな……危ない代物の被害者になりかけたってこと!?
というか、今回のプラフスキー粒子でも、同じことになるって……そんな……!」

「もちろん私達が今申し立てた心配全てが、たんなる杞憂の可能性もあるわ。
でも……そうじゃないと否定する可能性も、やっぱりどこにもないのよね」

言うなら……前に杏ちゃんが教えてくれた、シュレディンガーの猫状態。

箱を開けなければ、猫が生きている可能性も、死んでいる可能性も等しく存在している。

たとえ中で猫が死んでいようと……そもそも入っていなかろうと、そんなことは関係ない。


私達は見えない箱の中身を前に、手を伸ばしているだけだった。

まだ……そこが精一杯だった。


「そういうわけだから魅音ちゃん、ここは素直に受けてくれないかしら」

「……まぁおじさんや圭ちゃん達だけでもーとは思うんだけど、今西部長達の馬鹿もあるしねぇ。
目は多い方が助かるってのは、正直なところだけど……呼び出した奴、信用できるんだろうね」

「恭文君やランスターさんもそうだし、信頼できる人間にだけ依頼をかけるわ」

「でも条件……いや、アドバイスが一つ」

「アドバイス?」

「せめてレナややすっちくらいには使えないと、おじさん達とはやっていけないと思うよー? くくくくくくく!」


提督さん相手にまた大胆なー!

……でも、その辺りは私達も同感なので、つい笑って頷いちゃう。


「聞いていた通り……かぁ……!」


するとレティ提督は頭を抱え、大きくため息。


「できればその辺りは、こちらの指示に従えないかしら……。
活動ペースについても、極力抑えるようにして」

「とんでもない! こっちはとち狂ったお上の下で仕事してるんだ!
万が一滞りを出したら、みんなそろって傀儡化だよ!」

「命と安全がかかったことなの。
会社の方にもあなた達から上手く説明して、説得というのは」

「あー、それも無理無理。
やすっちから聞いてないの? 美城会長や今西監査部長、とち狂ってるんだから」

「……常識的な判断は一切期待できないと」

「というか、その辺りをツッコんでいくと……だったらシアター計画に組み込めって、押し通してくるだろうね。
当然次元世界やら、魔法のことについても知られる。あの調子なら次元世界でのデビューとかもやりそうだよ」


あぁ、それもありました……!

相変わらず765プロとか、ヤジマ商事にはいろいろツッコんでいるらしいですし。

でもそれを知られると…………ああああ! どう考えても面倒ですよ!


「そもそもその調整と負担を、レナ達や卯月ちゃん達にかけるのは間違っていると思います。
みんなは悪いことなんてしていないのに……そうですよね、レティ提督」

「それは……」

「そうですよね?」

「……分かったわ。そこも……上手く合わせられる人間を」

「頼むよ。
たった一日で出勤不可にならないような、肝っ玉の強い奴をね……くくくくく!」


……それは号令だった。


「ようするに、祭りの時間ってことにゃ……!」

「ロックだねぇ! ベイビー!」

「みりあ、楽しみー!」

「はい! 頑張ります!」

「それで、誰がやる?」

「きらり、一から十までいろいろ教えてあげたいなー♪」


誰が来ても関係ない。

楽しく遊んで、笑っていこうと……だったら頑張ります!


「……………………恭文君ー!」

「何か問題ですか?」

「怖すぎるのよ、この子達!」

「これが部活ですよ」

「……分かったわ。ならあなたのメイドとして御奉仕する中で、その常識を学びます」

『メイド!?』


でもそこで、気になるワードをチェック。

レティ提督、スタイルはいいけど……それが、メイドさん……メイドさん!?


「それならグリフィスさんのところに行けばいいでしょ!? ルキノさんとアレなんだから!」

「息子に御主人様っておかしいでしょ! あなたしかいない……あなたしか頼めないのよ! こんな練習!
お願い……もう、普通の隠し芸はやり尽くして、ネタがないの……!」

「すずかさんのところにでも行ってくだ……ちょ、卯月! レナも待って!
その赤い目は怖い! 睨むな睨むな! これには海よりも深い事情がぁ!」

「嘘だァ!」

「根っこを否定するなボケがぁ!」

「恭文、さん……!」


だったら、その事情もお話しなくては。

だってそうじゃなくちゃ……そうじゃなくちゃ、私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編

Stage10 『Jerk Joke』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


時空管理局、魔法……かぁ。なんだか凄い世界と拘わっちゃってる。

でも魔法。デバイスで戦う。……蒼凪プロデューサーに頼んで、私に使えるかどうか調べてもらおうっと。


(……なんか、魅音さんは魔法資質が凄かったらしいし。ベルカ式とかで空戦SSだっけ?)


難しいお話はあるけど、日常が広がっていく。そんな楽しさで一杯のとき、電撃が放たれた。

それは余りにも大きい、青天の霹靂で。


「え……」

「どういう、ことですか……!」

「今言った通りだ」


魅音さんと、アーニャの三人で、美城常務のオフィスに呼ばれた。

それで一体、どうしたのかと思っていたら……!


「君達には新規事業≪プロジェクトクローネ≫に参加してもらいたい」


常務が前に言っていた、新しいユニット。

既に参加メンバーの発表も少しずつ進んでいるんだけど……。


それに、私とアーニャが選ばれた、らしい。

……私も空戦SSとか、言っている場合じゃなかった!


「誤解のないよう、これだけは言っておく。
渋谷くん、アナスタシアくん、君達はそれぞれのユニット活動があるが」

「そ、そうだよ! 私にはニュージェネが!」

「わたし、ラブライカある! これはできません!」

「落ち着きたまえ。
……それらの活動をやめろとは言っていないし、言うつもりもない。ようは掛け持ちしてほしいんだ」


常務は慌てる私達に、静かに……諭すようにそう告げる。


「こちらでの活動内容については、渋谷くんにはトリオユニットを――。
アナスタシアくんには、ソロでの活動をお願いしようと思っている」

「ニュージェネ以外で、ユニット?」

「わたし、ソロ……ですか? でもミナミが」

「その新田くんも、ソロ曲が完成間近と聞いている。
君には順序も逆になるが、クローネの方でソロデビューしてほしい。
……園崎プロデューサー、ここまでで何かあるか?」

「では、疑問点を幾つか」


動揺する私達と違い、魅音さんは冷静に……前に出て、毅然と対応してくれる。

その姿が頼もしいけど、少し情けなくもあって。


「そのユニットのデビュー時期は」

「今回の定例ライブだ」

「渋谷さんのユニットメンバーは」

「既に内定し、本人達にも打診している。
君達CPとの討議も、私が間に入って行う予定だ」

「その場合、CPの出番についても調整が必要になりますが。場合によっては全体曲や、各々のユニット曲も出せなくなる」

「そこを相談したいんだ。
私の理想としては……そちらのユニットもフルで出してほしいからな」


……その提案はあんまりに意外だった。

だって、間違いなく大変だし、何よりそれだと……常務は、私達が成果を出すことも望んでいるみたいで。


「こちらが控えるのではなく、ですか?」

「フェアじゃないだろう? こんなやり方で、敵の力を削ぐのは」

「「……!」」


アーニャともども、つい笑いかけてしまった。

分かっていたのに、忘れかけていた。


「リン……」

「うん」


そうだ、この人はこういう人だった。

私達とは目指す理想も、未来も違う。だけど……あくまでもプレイヤーで。

そんな自分をどこかで愛してもいて、貫くことが生きることそのものでもあって。


そういう堂々とした人だから、この話自体は……うん、興味がある。それは変わらなかった。


「ただ、そんな個人的趣味趣向以外にも理由がある。
……今回の定例ライブ、その意味は理解しているな」

「一年に一回、各部署の活動成果を査定する場だと聞いていますが」

「その通りだ。それはあくまでも状態観察が目的となっていた。
美城の目玉とも言える大型ライブで、身内同士のゴタゴタを招くことはない……そう考えられてな」

「今回は違うのですか」

「……これだ」


出されたのは、三冊の資料。

魅音さん達と受け取り、中身を確認すると……!


「なにこれ……!」


内容としては、定例ライブの社内用資料だった。

定例ライブの日時とか、参加アイドルとか、スタッフとか……注意事項も書いてある。

……問題は最初の数ページで出てくる特記事項。


今ライブは、各部署の今期中間の成果発表を兼ねる。

なお特定の部署においては、その成果が評価に値しない場合、部署の存続を見直すこととする。

その監査担当者の名前は……今西部長になっていた。


「特定の部署……CPのことですか!?」

「表だって名前は出していないがな。
だがそれも致し方ないことではある」

「CPは今や、アイドル部門の方舟。そこに呉越同舟とはいえ、アンタも乗っかっているからねぇ。
そこまでの一大勢力となると、そりゃあ相応の成果を求めるわけだ」

「それ、向こうのさじ加減一つじゃないかな!」

「だからこそ、完全勝利が求められるんだ」


あぁ、そうか……。

それくらいライブを盛り上げられなかったら、私達は……ここで全部終わっちゃう。


私達の舞踏会も、常務が目指す新しい美城も、全て……!


「私はやはり、奴らとは相いれないようだ。
……渋谷くんには借りもできたしな」

「私が……借り?」

「君のおかげで、今の美城で埋もれていた……私が見過ごしかけていた才能を見つけられた」


常務が書類二枚を、テーブルに置いてくる。

それはプロフィール表なんだけど、映っていたのが……加蓮と奈緒で。


「君のユニットメンバー候補は、この二人だ」

「加蓮と奈緒が!?」

「先日、少しだけ君達三人の歌声を聞かせてもらった」

「歌声……あ、レッスン場で鉢合わせしたとき!」

「え、そんなことがあったの?」

「あったんだ。……君達の方針にも、多少の利がな」


常務は自嘲しながら、私達に背を向け……窓の外を、城下を見下ろす。


「頂点でただ一つ輝くお姫様を探していたが、組み合わせて輝く宝石もあった。
君が彼女達の輝きを引き出したし、彼女達もまた……ニュージェネとは違う可能性を、君から導き出した」

「ニュージェネとは違う、可能性……」

「今回については、君達に協力を依頼する形となる。
同時に約束しよう。今とは違う景色を見せると――」

「違う景色……でも、それは」

「君達はパワー・オブ・スマイルという理想を体現するのだろう? そうして今までの多様性も無駄ではないと示す。
君達に多少なりとも教えられた例として、私も……CPの一員として、その流儀に合わせよう」


かと思ったら私達を見て、真意をただすように問いかけてきた。


「気にすることはない。これは交換条件……私自身とクローネの利も、その上で追及させてもらう」

「やっぱりお互い様……利用し合うってことかな」

「同時に、これは君達への挑戦状でもある」

「挑戦状?」

「ニュージェネ、ラブライカ――どちらも素晴らしいユニットだ。美城の柱足る資質があると認めよう。
だが、それだけか? それだけで留まることが、君達のパワー・オブ・スマイルなのか?」

「「……!」」


それは……そうだ。そんなことない。

笑顔は、可能性は……ニュージェネやラブライカだけで、追いかけられるものじゃなくて。


というか、というかあの……!


「アンタの、言う通りだ……」

「リン……」

「あの、夏のフェスで、美波さんが倒れて……それで蘭子が代役、したことがあるんだ」

「そのライブなら中継で見ていた。実にすばらしいパフォーマンスだったと思う」

「それを反省して、CP内でユニットメンバーを交換して……いつでも代役ができるようにって、練習しているの。
そうすると、卯月や未央達とは違う楽しさや、難しさがあって……それがなんだか、嬉しいって感じて」


あぁ、なんだろう……。

今、何かが強く引っかかっている。

なのに上手く言えない。これはすっごく……すっごく大事なことのはずなのに!


「ならば、そのもどかしさの答えも、我々と一緒に探してみないか?」


すると常務は厳しくも、優しく道を指し示す。

自然と俯いていた顔を上げると、常務は力強く頷いていた。


……まるで、アイツみたいだった。


「無論、今のユニットメンバーともしっかりと話し合い、憂いを断った上でだ」

「常務……」

「私から言えることは以上だ。園崎プロデューサー、何かあるか」

「……常務、感謝します。我々のために、そこまで考えてくださったことを」

「お為ごかしはいい。それで……」

「残念ですが、定例ライブでのCPとクローネの両立は……かなり難しいと思われます」


……それは衝撃だった。

魅音さんはとても冷徹に告げた。


新しい可能性を探すことは……私達と常務のコラボは、成り立たないと……!


「こちらも最初に断っておきますが、これはあなたの立てた方針に不服がある……というものではありません。
今あなたが仰ったことは、我々にとっても大きな意味を持つ試金石たり得る」

「では、なぜだ」

「そうだよ! 魅音さん、どうしてかな……何かあるなら教えて!」

「わたし、頑張ります! 解決できるよう全力で!
わたし、やってみたい! あたらしい可能性……探してみたい!」

「それは……」

『それは……』


そこで電流走る――。


「…………………………アンタ達が勉強をサボってたせいだよ! この馬鹿どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


また素のキャラに戻って、魅音さんが……美城中に響くような、大きな叫びを上げたから。


「………………は?」


それには思わず、常務も呆けてしまった。

口をパクパクさせながら、私とアーニャを……珍獣でも見るかのような目で……!


「私、達が……!?」

「そ、そんなことないです! ちゃんと勉強してました!」

「そうだよ! さすがにそんな、アイドルできなくなるほどは」

「嘘こけ! 一学期の成績、ガタガタだったよね! ご両親とも面談したよね! 武内さんが存命時に!」

「ぁ……!」

「そして凛! アンタはイギリスシティだ!」

「がぶ!」


…………そうだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 忘れたかった! というか忘れようとして本当に忘れてたぁ!

勉強がメタメタで、卯月やみんなからもどん引きされてたぁ! ああああ……ああああああ!


でもまさか、それが今ここで足を引っ張るなんてぇ!


「そう言えば、資料で読んだな。
アイドル活動にかまけて、成績が酷く……ご両親から不興を買ったと」

「そうなんだよー! それで定例ライブって、中間考査とどんがぶりでしょ!? だからね、親御さん達からもうツツかれているの!
勉強させてほしい! 勉強の時間を一番にしてほしい! もし一学期みたいな成績だったら、アイドル活動はしばらく休ませるーって!」

「そこに加えて、二つのユニットを同時進行は無理……か」

「ブラック企業になるしね!」

「だ、だったら勉強もちゃんとやるよ! それなら」

「イギリスシティに信用は置けないだろ……」

「ああああああああ!」


頭を抱えてぎったんばったん……。

過去の自分を、勉強しなかった中二病な自分を恨み倒す。


でも全てブーメラン。だって、だって……その結果が私で、今この状況でぇ!


「なのでー、今回の定例ライブ、アーニャと凛は全部そちらにお任せってことで」

「「はい!?」」

「……おい、待て。
それだと彼女達の勉学問題も、全て押しつけられたような気が」

「いやー、さすがは美城常務! 言うことが違うね! おじさんは感服だよ!
これで二人も一気に天才! 果ては東大お大尽ってね! あーはははははは!」

「せめて隠そうとしろ……!」


み、見捨てられた……というか、卯月達に相談もなしでぇ!

さすがにこれは見過ごせない! そうだ、落ち着け……部活で鍛えた力で、抗議! 全力の抗議!


「魅音さん、待って! さすがに、卯月達に相談もなしは……!」

「え、イギリスシティにそんなことが分かるの?」

「魅音さん達のおかげでね! とにかく、相談しようよ! 両立できるかどうかも含めて」

「そっちは相談の余地なく無理!」

「「余地なく!?」」

「……君達は一体、どれだけ学生の本分を投げ捨ててきたんだ」


常務に哀れまれてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 本気で可哀相なものを見る目で、私達のことを見てきてるぅぅぅぅぅぅ!


「いいか……青春は、戻ってこないんだ。
私も何時までも若い若いと思っていたら、適齢期など吹き飛んだからな」


しかも重いよ! 説教されたよ! キャラが崩れるほどに心配されているよ!

これは本気で勉強しないと駄目なやつだよ! そ、それは……あの……。


「「…………ごめんなさい」」


アーニャと二人、ただただ平服……。

全ては私達のせいだと、全力で謝り倒した。


「――だが園崎プロデューサー、さすがに独断が過ぎるとは思うな」

「いや、こっちとしても都合がよかったんだよ」

「どういうことだ」

「確かに全体曲は使えない。でもそれは、オリジナルメンバーでの話だ。
CPと提携を結んでいるアイドル達も交えて、定例ライブ限定Verとか面白いかなーって」

「島村くん達はどうする。
ユニットで出られないとなれば、各々のアピールが弱くなるだろう」


そこで魅音さんは、不敵な笑いを浮かべた。


「常務……さっき自分が言ったこと、もう忘れたの?
美波にはソロ曲があるんだよ?」

「…………なるほど、そういうことか」

「ど、どういうこと……でしょうかー!」

「世界で最も底辺で、愚かなわたし達にも分かるように、教えて……ほしいです……」

「定例ライブで、ソロ曲の初お披露目を行うということだ。
新田くんのみならず、島村くんと本田くんもな」

「「えぇ!」」


卯月と未央……あ、そっか! 夏のときにも言ってた!

卯月の曲も作っている最中だって! でも未央も……不思議に思っていると、魅音さんが全力で頷いてきた。


「というか、アンタのソロ曲も完成しているよ……凛」

「私も!?」

「まずはニュージェネとラブライカ……ユニットを出した順と思ってね。
ただ、やっぱり練習時間が足りないから、今回はお蔵入りだけど」

「あ、はい……ごめんなさい……!」

「では彼女達にも、今回はソロ曲での出演……それで納得はさせられると」

「対策が必要だけどね」


でも、希望に甘えてもいられない。

そう言わんばかりに魅音さんは、手元の資料をパンと叩く。


「ここまで馬鹿にしてくれたんだ。
前々から注意はしていたけど……もっとがっちりいく必要があるかも」

「……そうだな。こちらも警戒を強めるとしよう」

「でも……交渉が楽で助かったよー。
ここで卯月達の出番を踏みつぶしたら、不興買いまくりだしさ!」


それは、私にも分かる。

常務が……権力者が、敵対しているユニットの、査定機会を潰すってことだもの。

今回今西部長達が仕掛けたみたいな、言い訳の立つ言いがかりじゃない。明らかに問題視される。


……あれ。


(問題視?)


今、猛烈に嫌な予感が走ったけど……なんだろう。

……ううん、ここはまた後で考えておこう。


だから私達CPにも、常務にも、キチンとした道筋が……必要なんだよね。

私達はそうやって誰かを踏みつぶさないし、それを良しとしない。

正しい形でチャンスを掴んだのなら、それをまた正しい形で舞台に上げる。それが王道だって……示し続けなきゃいけないんだ。


「君達を出し抜くのであれば、それは悪手打ちだからな」

「よく分かってるじゃんー」

「それに……」


常務は何やら思うように、小さく呟く。


「正直、脱帽している」

「え……」

「私が日高舞という伝説を超えたかったのは、アイドルにはより高い次元の可能性が存在すると示したかったからだ。
君達はその答えを否定した。かと言って今までのやり方に甘えるわけでもなく、各々の部署も大きく変化しつつある。
それも……ひと月足らずの短期間で、大きくだ」


それは紛れもなく賞賛だった。

敵として……ライバルとして、力を認める言葉。


でも同時に、改めての宣戦布告だとも感じた。

だって常務の目は、今までで一番燃え上がっているから。


「だが私も、信じ抜いた意地がある。
君達が笑顔の力を信じるなら、それを超えるしかない」

「常務……」

「無論それは、君達が勝利者となった後の話も含めてだ。
気づいているだろう……園崎魅音」

「もちろん。とっくの昔に」

「そうか……」

「ですがそれは、あなたにも言えることです。……あなたにはもう」

「分かっている」


だから常務は、魅音さんと楽しげに笑う。


「つまるところ私も、君達と立場は変わらなかったわけだ」

「そういうことだねぇ……っと、そうだ。そこで一つ確認。
北条加蓮・神谷奈緒の引き上げを望んでいるのは、再評価の前例を作るためだよね」

「あぁ」

「前例? 魅音さん、それってどういう」

「今部門のトップは、一応今西監査部長ってことになっているでしょ。
それで今回の査定についても、監査部長が責任者だ」

「それは、忘れてないよ。だから完全勝利しかないって」


…………これだ。

さっき引っかかっていた嫌な予感は……だから一気に、怖気が噴出してくる。



「加蓮達のデビューについても、今西部長が茶々を入れてくるってこと!?」

「二人だけじゃなくて、今回の白紙化計画で一旦ストップがかかったスタッフやアイドル……みんなだ。
今西部長が信用ならない以上、その再評価についてもかなり怪しくなるしね」

「でも、美城常務は」


向こうの手をはね除けたとはいえ、簡単に切り捨てられない立場だよ。

だったら……ううん、だからこそってことかな。


「それを利用して、キチンとした……再評価の場と流れを作る?」

「そういう前例が……規範ができれば、今西部長達だって簡単には覆せない。
前例主義ってのは、どこの仕事場でも大きいからねぇ」

「だから常務、リンに協力を……そういうお話、していたんですね」

「タイミングが遅れたのは失敗だったがな」

「そんなの、理由は一つだよ。
アンタ、まだ一プレイヤーに徹する気持ちができてないでしょ」

「つまるところ、ここからが本番というわけだ――!」

「楽しいよねぇ――!」


そうしてとても楽しげな大人二人。

私達を完全に置いてけぼりにしている様子に、つい苦笑してしまった。


……まぁ、ここは言わぬが花。


「……常務とミオン、やっぱり仲良し……ですか?」


だと思ったら、アーニャが……!


「「……」」


その途端に黙り込んで、顔を背ける大人二人。

どうやら二人の友情がきちんと表現されるのは……遠い未来になりそう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


我が家は今日もどったんばったん大騒ぎ。

僕もいつの間にか、一国一城の主として相応に経験を積んでいて……思えば遠くへ来たものだ。


聖夜市に来てから住んでいたマンションは、買い取った上で不労所得確保したしー。

マンションの一階には、なんか翠屋二号店ができるらしいしー。……僕は宇宙から戻るまで、一切聞いてなかったけど。

可愛い双子に、愛らしいペット達までいるしー。十代の頃は想像できないくらい、生活は激変していた。


ただまぁ、それでも僕の基本は変わらない……それでも変わったことがあるとすれば。


「聖夜市はやはり環境がいいなぁ。
山も近く、走り込みができる場所も多い。何よりご飯も美味いとなれば……」


そう言いながらリビングで意気揚々としているのは、我らがミカヤ。

初戦のミウラを打ち破り、IMCS勝ち抜き爆進中。

同時にうちでの合宿も続けていて……あああああ!


なぜだぁ! ジャンヌが戻ってきたのは嬉しいけど、なぜミカヤまでぇ!


「よし、このままこちらに引っ越すかな」

「家賃は月々三十万になります」

「ヤスフミ、吹っかけすぎだよ! さすがにそこまでじゃないよね!」

「フェイト、しー!」

「すぐバレるよぉ!」


く……! ミカヤはどうしよう……そうだ、後でゲンヤさんに相談しよう。


「しかし、話を聞く限りは面倒だなぁ……ガンプラマフィア」


するとミカヤが急に話を切り替えてきた。

そうして見やるのは、ソファーに座るレティ提督で。


「まだこちらでは、次元間移動の技術も普遍化していないんだろう?
なのに開国準備に入るというのだから……」

「ただ、アリスタがその扉を開いてもいる」

「……レイジ君とマシタ会長……それに今だと、アイラ・ユルキアイネンちゃんも入るのかな」

「うりゅ?」

「そういう意味でも、レティさん達は話をする必要があった……でしたよね」

「……えぇ」


どこまでも警戒が広がっていくって、もはや世の中のがん細胞。

まぁそんながん細胞のことに手も打ちつつ、今日も今日とて双子やぱんにゃ一家のお世話に勤しむわけだけど……。


「……恭文君、シアター計画の絡み……何とかならないかしら。
ガンプラマフィアの件が落ち着くまで、一旦止めるとかは」

「それによりこっちやヤジマ商事が被る損害を、全て賠償してくれるなら」

「そうよねぇ。ああああ……本当に面倒すぎる!」


うちにおじゃましたレティさんが、頭を抱えて苦心していた。

自分が無茶を言っているのも分かるし、かと言って捜査・保護関係の対処も手広すぎて大変という……正しく悪循環に陥っていて。


「全部一度に守ろうとするから駄目なんですよ」

「レティさん、ヤスフミの言う通りですよ。ここはポイントを絞った方がいいんじゃ……」

「そのポイントがそもそも多いんだけど……!」

「だから、もっと……だよね、ヤスフミ」

「杏とニルス、ヤジマ商事周りは当然として……やっぱ346プロ上層部ですね。
今の美城会長と今西監査部長は、奴らから見ると利用しやすい駒でしょうし」

「だから、こっちの公安や内調も網を張っている……765プロはどうかしら」

「こっちはまだ大丈夫ですよ。
政府の監査も入っているし、その監査プロセスもクリーンかオープンだ」


最初からある程度疑われて……というのも、気楽なものでねぇ。

少なくとも変な動きがあれば、すぐ分かる程度にはクリーンだ。社長と専務、ジオさん達も目を光らせているし。


あとはまぁ……その、非常に大変というかー。


≪それと私達が拘わった関係で、古参メンバーは魔法や管理世界についても知っているでしょ?
だからレティさんも今日、春香さんや社長さん達に堂々と名乗りを挙げられた≫

「あぁ……そっか。その辺りでやりやすくはあるのよね。
だったら346プロは……」

「魅音や菜々さん達アイドルを檀家として引き込めましたからね。
レティさん達が思っているより、内情は筒抜けですよ」

「そうなの!?」

「ヤスフミ、それ……スパイとか、業務妨害に取られる可能性が」

「そのためにレティさんや沙羅さんに、依頼を飛ばしてもらっている。
765プロの仕事とは分けて対処するべき、重要案件って形でね」

「あなたが早めに依頼書類を作れって言ったのは、そういうことだったのね……!
というか、よくできたわね。それだと数十人単位じゃない」

「当然でしょ」


何を言っているのかと、軽くお手上げポーズを取る。


「一般市民・同業者を問わず、檀家を作っておくと捜査に大助かり……後藤さんにも教わったことですから」

「そう、だよね。だからヤスフミ、ホームレスさんの檀家さんもいるしね……」

「そうなの!?」

≪そうなんですよ。あなた達本局組にはその辺り、さっぱりな人が多いですけど≫


そう……僕がよく助けられている檀家さんって、本局の中だと作っている人がそう多くない。

まぁフェイトがやっていた次元航行部隊みたいなところだと、そもそも檀家を作っても局地的すぎて、毎回頼れないからねぇ。

だからリンディさんとかもそういうのを馬鹿にしがちだった。例によって例の如く、仲間と家族を信じてうんちゃらかんちゃらーってね。


でもそれこそ勘違い――。

いろいろな場所で、いろいろな流れで出会った人達の力を借りられれば、それは世界中の情報を集められるも同然。

実際サリさんの檀家さん勢も、そういう形で構築された巨大ネットワークなわけで。


ただまぁ、レティさんが面食らうのは、それとは違う意味……なのかなぁ。

この人、専門はデスクワークで、捜査現場に出る人じゃないから。そういうやり方については詳しくないんでしょ。


「もちろんそれは、『気になることがあったら連絡して』って程度のものです。
事件に首を突っ込んで暴れろって意味じゃないので、ご安心を」

「そう……それなら」

「…………早苗さん以外」

「ちょっとー! なによそれ! どうして例外が入るの!」

「あの、早苗さんは元婦警な上に第二種忍者さんで、魔法のことも知っていますから……。
というかほら、核爆発未遂事件で、鷹山さん達と一緒に戦った一人なんです」

「あ、そうだったの!」

「当時はまだピュアでしたけどねぇ……」


本人は認めたがらないけど、真山課長に影響されて……って、そこはいいか。

まぁ早苗さんも、異能力相手やら……エンボディの危険もあるし、注意はしてくれている。一応大丈夫…………いや、油断は駄目だな。


タツヤがそんな感じでやられて、大暴れしたし。ここは念入りにしておかなくちゃ。


「でもヤスフミ、346プロはどうしよう……。
やっぱりもっとこう、動きを封じる形にした方がいいんじゃ」

「私も……まぁ部外者だが同感だ。
このまま四面楚歌になれば、相手は付け入りやすくなるだろう」

「確かに、ねぇ……」


それは考えていた。まぁ凛達にはああ言ったけど、このまま手を出さないのもなしかなぁって。

というか、それは僕達らしくもない。かと言ってシアター計画に巻き込むのもお断りだ。


となれば……。


「レティさん、任せました」

「ちょっと!?」

「というか、仕事をしてくださいよ。元々は例によって例の如く、時空管理局の我がままでしょ?」

「せめて言い方を……でもまぁ、そうよね」


レティさんも自覚があったのか、眼鏡を正し自嘲顔。


「竜宮さんにも言われたけど、あなた達に甘えすぎているかも。
……分かったわ。346プロに協力要請を出せるかどうか、検討してみる」

「お願いします」

「最悪の場合は常務主導でいいかしら」

「状況次第ですけどね」


……クローネの動きが、どうも気になるんだよねぇ。

今のところは問題ないし、美城常務の本心やその資質を示しているとは、思う。


だけど……それが会長や部長達の望む通りかと言われると、ちょっと考えてしまって。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日はなんだか、どっと疲れた……。

とりあえず卯月達に概要は説明して、後日話し合いをしようという流れになった。


そして私は……死ぬ気で勉強することが決定。

本気で、全力で、中間考査は満点を目指さないと……ヤバい……!


「学生の本分……青春は戻らない……がふ……!」


美城常務の言葉を思い出し、改めて自分の不徳を刻み込む。


「でも……」


……夕暮れの中を歩きながら、改めて思う。

やっぱり私達と常務は、とても近いものを見ているんだって。


たとえばクローネ自体も、部署の肩書きに縛られない”コラボユニット”として成り立っている。

というか、常務の提唱した計画では十分あり得た可能性だ。

でも目指すところが違う。平行線で……いつかは決着を…………つける必要があるのかな。


ニュージェネ以外の可能性があるように、答えはたくさんでも、いいのかな。

とはいえ、グダグダとなれ合うんじゃ駄目だし……やっぱり難しいな、アイドルって。


「だけど……」


そうして思い出すのは、アイツの姿。

アイツはそれでも、私達に真っ直ぐ……真っ直ぐ、道を示してくれて。


「今度は私の番、なんだよね」


道を示されるのが当然だと、甘えていた私。

信じられる自分でいようともせず、信じてくれないとごねていた私。


そんな弱い自分に負けないように、もっともっと強く歩いていかなきゃいけない。

そうして今度は、私が道を示す。


「でも、難しいな……私にできるかな」


足を止めて、空を……流れる秋の雲を見上げる。

顔を上げて、アイツのことを思い出しながら。アイツに、語りかけながら。


「アンタみたいに……みんなに、寄り添って」

「…………凛」


……すると、後ろから声をかけられる。

振り返ると、真剣な表情で加蓮と奈緒が立っていて。


「ちょっと、いいかな」


二人に引きつられるまま、ハンバーガーショップへ。

それでジュースなんかを注文して、二階席の一角に座って対面。


「クローネの話、聞いたんだよね」

「うん」

「あたし達はこのチャンスを絶対逃したくない。だから凛にも協力してほしい」

「加蓮、それは」

「お願い」


加蓮は深々と、頭を大きく下げる。

奈緒も同じだった。頼むと……力を貸してほしいと、有無を言わさず。


「どうしても……アイドルになりたいの。一宮さんの評価にも関わる。私達には、ここしか」

「あの、待って。ここでそんな話は」

「お願い、凛……力を貸して」

「……それなら、今は断るしかないよ」


だから冷静に……さっきも感じたことを思い出しつつ、二人に落ち着くよう語りかける。


「私がニュージェネから抜けたら、全体曲もできなくなる。ニュージェネとしての出番も潰す」

「それは、あたし達がステージを盛り上げて……最高のものを見せることで、恩返しする! 譲ってよかったって思わせるくらいに輝くから!」

「……あぁ、そうだ……そうだよな!
あたしも、加蓮も、その覚悟ならある! 絶対後悔させないから!」

「ちょっと待って」

「何かな……」

「聞いてないの? 園崎臨時プロデューサー……魅音さんの提案でね、卯月達も交えた話し合いをしようって決まったの」


……昼間に感じた嫌な予感が、どんどん膨れあがる。


「常務やクローネが、CPの邪魔をする形は避けなきゃいけないから、調整するの。だから」

「ならそれは、凛の一言で一気に纏まるよね」

「加蓮」

「お願い……その会議で、クローネに入るって言って!」


加蓮も、奈緒も、私を見ていなかった。

明らかに、何かに怯えていた。


背中から刃物を持った誰かが、追い立ててくるような……そんな必死さを感じさせて。


「あたし達の覚悟は、今言った通り! 絶対……絶対に後悔させないから!」

「頼む……! あたし達と一緒に、クローネへ入ってくれ!
どうしても助けたいんだ、あたし達のプロデューサーを!」


そんな二人を見ていると、心が痛い。

流されそうになる自分もいる。


だけど……。


「……だったら、それも断るしかない」


それでも私は、みんなを裏切れない。

あんなに楽しそうに笑っていた常務を、魅音さんを……ガッカリさせたくない。


だから毅然と……弱い自分を奮い立たせて、背筋を伸ばす。


「加蓮、奈緒、それなら……キチンとした場で、みんなに認められる形で話をしようよ。
こんな場で、誰かに聞かれていたらどうするの? 明らかにルール違反だよね」

「分かってるよ! だから、頑張る! 全力で……みんなが認めてくれるように頑張るから!」

「そうやって自分だけが必死で、大変だって思っているのなら……悪いけど、二人とはユニットを組めないよ」

「凛!」

「いいから聞いて」


今の、必死すぎる二人には通じないかもしれない。

でも、まずは届ける。目を見て、優しく……落ち着くように語りかけ続ける。


「魅音さんも……二人を見初めてくれた常務も、誰かが譲ったとか、譲られたとか……そういう話にならないよう、頑張ってくれている。
どうしてか分かる? 加蓮と奈緒達以外でも……これからデビューする子がいるからだよ」

「どういう、意味だよ……!」

「その子達がデビューするとき、また誰かが譲る立場になったら?」

「それは、ソイツが頑張って、納得させるものにすればいいだけじゃないか!」

「そうだよ、凛……あたし達が証明する。それはできるし、大丈夫だって」

「……二人が譲る立場になっても、そう言えるのかな」


……そこでようやく、二人の必死さが……強迫観念が、小さく凍り付いた。


「それでまたCDデビューが……もっと大事に思える仕事が吹き飛んでも、二人はそう言えるのかな」

「それは……!」

「答えて」


二人は答えない。

凍り付いたまま、そんな未来を想像して打ち震える。


そうして涙をこぼす。分かっていた答えなのに、それすら見えなかった自分を公開して……泣き続ける。


「私には無理だよ」

「「……」」

「だから考えようよ。
そんな悲しいことを繰り返さない……みんなで進んでいける道を」


――これで、大丈夫。

二人も落ち着いたし、なんとか………………ならないよねぇ!

だって、本当に怖いくらいだったもの! あぁ……やっぱり嫌な予感的中!?


よし、ここは仲間に相談しよう。

それが大事なことだって、私は……みんなから教わった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


美城常務との提携、更にコラボユニット構築。

その辺りで話を通すのは、卯月達だけじゃあない。


そんなわけでわたしらは、またまたプロデューサー陣営で食事会。近くの食堂で、唐揚げパーティーをしていた。


ただ、今回呼んでいるのは、竹達・石川・遊佐のお決まりメンバーだけではなくて。


「――という感じで対応予定なんだけど、どうでしょ」

「いや、それなら何も問題は……って、今西部長がいたっすねぇ!」

「それ」

「で……我々にも相談しているというわけか」

「納得しました……」


小日向美穂担当の津田さん。

高垣楓さん担当の早見さん。

二人ともプロデューサーとしてはベテランだし、改めて意見も聞きたくてね。


「「…………んぐ」」


なお、そんな二人はここの唐揚げが気に入ったのか、猿のように食べていた。



「ならよ、お嬢の感想としては」

「分かっちゃいたけど……アイツ、ガキだね」

『うん、知ってた』


大人になり切れない子ども。

欲しいおもちゃを前に我慢ができないだだっ子。

時計の針は待ってくれない、私は気が短い……それも当然だよ。


アイツ、そもそも我慢ってものができないんだから。


「まぁそれは別にいいよ」

「いいのかよ!」

「やすっちや鷹山のおじさま達みたいに、ちゃんと自覚しているしね。自分が”大人”になり切れないってさ。
自覚してなかったら、かなり怖かったけど……ううん」


……ガヤガヤと、酒盛りに勤しむ周囲の客達。

日々の仕事に対する愚痴や、疲れをそうして癒やしている。


「正直、危うい感じが拭えない……ちょっとしたことで転がりそうで、凄く怖い」


そんな空気に触れたせいだろうか。わたしも……ちょろっと漏らしてしまって。


「分かってるんだ。アイツは……本当は悪い奴なんかじゃない。
ただ良い物を作って、家の会社に貢献したい。大きくしたい――そういう親思いな奴だって」

「しかし怖い……彼女が自覚せず、大人として振る舞うことがそんなにも」

「そのうちね、子どもな部分と大人の部分が喧嘩して、心が壊れるほどどでかいミスをするんじゃないかって……ううん、もしかしたらもう」

「お嬢……」

「……なんかごめん、滅茶苦茶だよね」

「言いたいことは、何となく分かります」


竹達さんは、言いようのない不安を受け止め、私のお皿に新しい唐揚げを載せてくれる。


「そんなのあなたの気持ちは、美城常務にも伝わっていますよ」

「そう、かな」

「でなければ、”自分以上の答えを見せてみろ”なんて言うはずがありません。
……彼女は、あなたの事が好きなんですよ。そしてあなたも」


そう言われると照れくさいけど……隠すことなく頷く。


「それより問題は……やっぱり渋谷さん達のご両親でしょうねぇ。
まずは勉強に集中しているところを見せないと」

「なので圭ちゃんとやすっち、唯世達ガーディアン組主導で、地獄の勉強合宿を開催する――!」

「蒼凪プロデューサーまで引っ張るのか!」

「いや、俺は賛成っす。兄さんと坊主達で囲い込めば、マジで逃げ場がないっすよ
……でもその合宿、兄さん達に相談しているっすか?」

「うん、もちろんこれから」

「だと思ったよ!」


……すると、あたし達のテーブルに一つの影が差す。


「……だったらそれ、急いだ方がいいぞ」


影の方を見上げると、疲れた様子の拓海がそこにいて……。


「拓海、お前どうした」

「帰る途中で、ちょっと嫌なものを見ちまってよ」

「嫌なもの?」

「渋谷の奴が、件の北条加蓮達と一緒にいた」


それは、本当に嫌なものだった。

つまるところ加蓮達は、話し合いとかの前に……直接凛を説得していた?


「なぁ、そのユニットの話って向こうさんには」

「……連絡が取れなかったんだよ」

「取れなかった? どういうことだ」

「加蓮達もそうだし、一宮さんの方も電話が繋がらない。
それどころか社内にもいなくて……一応メールはしているんだけど」

「……やられたかもしれませんね」

「やっぱそういうことかぁ!」


かと思ったら、今度は携帯に着信。


慌てて画面を確認すると……凛からだった。

お店の中というのも構わず、慌てて電話に出る。


「もしもし凛!? アンタ今どこに」

『……加蓮達に、クローネに誘われた』

「そうだよ! どこで……はい?」

『ちゃんと話し合いの場でって言ったんだけど、かなりしつこくて……というか、相当焦ってて』

「具体的には」

『……卯月達には出番を控えてもらう。
その分自分達が頑張って、最高のステージにする。
そうしてみんなにも”譲ってよかった”と思ってもらう……その一点張り』


あははははははは……馬鹿じゃないの!?

完全にこっちを踏みつぶす理屈じゃないのさ! それで通ると思っている……いや、違う。

思わせられているんだ。それほどに強力な何かに、背中を押し出された。


凛も同じものを感じたのが分かる。声、ちょっと怖がっている感じだもの。


『魅音さん、一宮さんと話せないかな。
二人にはちゃんと断ったんだけど、変な状況になるかも……』

「……もうなりかけてるよ」


よし、落ち着け。

凛はしっかり対応している。となれば、その正当性を傘にきて、こっちの守りを固めるのが最優先。

その上で……少々残酷だけど、加蓮達が暴走していると、しっかり知らしめるんだ。


「凛、一宮さんと話せるまで、今日みたいなのは絶対なし。
誘われても断って……というか、二人は今」

『もう別れたけど』

「あちゃー!」

『……マズかった?』

「……連絡が取れないんだよ、こっちからは」

『え……!』


そう、知らしめる。

一宮陣営が……ただの裏切り者かもしれないってね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――その日、765プロに激震が走る。

今日のプライムマッチはさすがに見に行けなかった。というか、そんな余裕はなかった。

一応顔見知りということで、事務所にはいなくちゃいけなかったんだけど……そこで次々と来客。


そう、次々と来客な感じになってしまった。まずは朝一番……この人がやってきて。


「もう……どうしていいか、分からないんです……!」

「いや、そう言われましても……」

「お願いします……力を、貸してください……!」


そう、今西部長ともども復職したちひろさんだった。

だから応対した僕達も頭を抱える始末で……。


「ちひろさん……美城常務にも言われたでしょ。事業計画を受け入れてほしいなら、企画書を持ってきてくださいよ」

「それは、分かっています。我々が卑劣だった……でも」

「でも、なんですか」

「今西部長も、それでは止まれないんです……! このままだと本当に」

「まぁ負け犬ですよねぇ」


仕方ないので嘲笑しながら、これだけは……はっきりと断言しておく。


「負け、犬……!?」

「今の方針と、常務の方針、そして会長や自分達の方針……全て取り入れ、新しい道を作る手立てだってあるかもしれない。
実際常務はそうしようとしている。なのに、それをコソコソ壊そうとするんだから……」

「そうね……常務は相いれない相手だったとしても、出された成果は認めてきたわ。
……日高舞さんを超えようとするから、そうやって貪欲に進めるのね」

「そんなことは、ありません! 会長や常務だって……ただ……ただ………………」


ちひろさんは、それ以上反論できなかった。

それは当然だ。会長と部長の行動なんて、今の常務を引き合いに出したら全て潰れる。

それくらいに今の美城常務は……まぁ、なんというかカッコよかった。


徳に伝説を超えてやるーって気概が気に入っている。クローネもそういう空気、びんびんに感じるユニットだしね。


「千川さん……まず、そこから考えてみてはどうでしょうか」

「……私達が、ただ敗者を作りたいか……どうか……」

「それともう一つ。
……あなた達とは違う道を……今の常務を、信じられるかどうか」

「我々は、常務のことすら信じていないんでしょうか」

「私はそう感じました」


ちひろさんは意気消沈したまま、そのまま事務所を出ていった。

しかし可哀相に……骨の髄まで、上の力に毒されちゃって。あれは失脚したとき、相当痛めつけられたんだなぁ。


「僕達も気をつけなきゃいけませんね」

「そうね……。規模が大きくなるということは、やっぱり相応の力を得ることになって」

「古参という点だけで、言葉にボーナスポイントかぁ。嫌だ嫌だ」

「…………あれ、それだと私は…………よし! 今すぐ寿退社するわ!」

「今は困りますよ!?」


ヤバい、一番の古株だからって怖がってる! お局さんに思われると恐怖している!

でも今は困るので、必死に止めて……そうしている間に他のみんなや、本来の来客がやってきた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


律子さんと話し合うため、エリオとギンガさんがようやくやってきた。

それも滞りなく進んでいたところで、いきなりはやてとヴェロッサさんがやってきて。

二人には応接室に入ってもらい、どういうことかと確認したところ……!


「――加蓮ちゃん達もクローネに誘われとるそうや」

「加蓮達が?」

「なんか、えっと……渋谷凛ちゃん? その子と一緒に、クローネ内のユニットを組めーって話になったらしくて」


凛と……!? さすがにそれは信じられなくて、律子さんと顔を見合わせてしまう。

……相談内容は至って単純明快。


346プロが最近勧めている新プロジェクト≪プロジェクトクローネ≫に、僕の友達やら関係者が加入するという……話なんだけどー!


「ちょ、ちょっと待ってください! その話をうちにされても……」

「えぇ、それは分かっとるんです。そやから、止めろどうこうって話ではなくて……」


その返答に、慌てていた律子さんも安堵する。

……基本は外部の話だし、しかもそれは機密事項に当たることだ。

だから僕も今までこっちには漏らさなかったし、胸に秘めていた。


なのに、それを今ここで……直々に話してくるってことは。


「何かあったの?」

「そのユニットの話、外部に漏れているようなんだよ」

「は……!?」

「それも正式発表前や。Twitterでトライアドプリムスとか、渋谷凛って検索してみて」


律子さんは携帯を――。

僕はデバイレーツを取り出し、素早く立ち上げ検索する。


するとまぁ……出てくる出てくる……!


――凛ちゃん、新しいユニットやるんだって! 楽しみー!――

――トライアドプリムス(仮)がリーク!? 美城の新たな戦略――

――肉薄! アイドル達のしゃべり場(ハンバーガーショップ)!――


しかも動画つきのツイートまである。


『常務やクローネが、CPの邪魔をする形は避けなきゃいけないから、調整するの。だから』

『ならそれは、凛の一言で一気に纏まるよね』

『加蓮』

『お願い……その会議で、クローネに入るって言って!
あたし達の覚悟は、今言った通り! 絶対……絶対に後悔させないから!』

『頼む……! あたし達と一緒に、クローネへ入ってくれ!
どうしても助けたいんだ、あたし達のプロデューサーを!』


ハンバーガーショップとかで、話している姿が……コイツらは馬鹿なのぉ!?


「恭文君……!」

「……もう、引きこもりたい」

「気持ちは分かるけど頑張って! と、とにかくあなた方は、鷺沢文香さんから話を聞いて……」

「クローネ自体はされとるし、ネットとかの評判はどないかなーって調べたら……コレなんですよ。
で、改めて調べたけど、凛ちゃんやこの子達の話は出ていなくて」

「情報が漏れたタイミングって」

「昨日の深夜くらいですね。
……最近の美城が改革に動いていたのは、有名な話。
クローネの情報も小出しにして、注目度を上げているようだし……こんな形でバラすはずがない」


さすがはヴェロッサさん……もうその辺りまで情報を集めていたのか。


「恭文、君の方から確認とかは……やっぱり難しいかな」

「あくまでも状況を見つけた”第三者”として振る舞うなら、問題ありませんよ。幸い窓口≪魅音達≫もいますし」

「そう……はやて」

「ほな、お任せしてえぇかな。もう文香ちゃん、純粋やから心配で心配で……」

「実際唯世達も同じだしねぇ……」


しかしこれ、とんでもないよ……!?


最近はバカッター騒動などを鑑みて、機密情報の扱いが滅茶苦茶厳しくなっているのに。

下手をすればこれだけで、契約解除もあり得る状況だ。凛も……CPも巻き添えになりかねない。


まぁ、幸い僕達は見つけた側だし、広めたわけでもないから、第三者的に振る舞って。


「おはよー!」

「あ、翼ちゃん! おはようー」

「おはよう、伊吹さん」

「……ねぇねぇ、聞いて聞いて! 346プロの渋谷凛ちゃんが、昨日ハンバーガーショップでお話してたの!
新しいユニットを組むんだってー!」


なのに――。

そんな平穏を容易く壊す、悲しい声が響いて。


「凛ちゃんが?」

「そうなんですー! 学校の友達とおやつ食べていたら、近くでお話しててー!
なんかシリアスっぽかったけど、いいな……わたしも早くデビューして、モテモテになりたいなー」

「……伊吹さん……アイドルって、モテるためにするんじゃないと思うけど」

「えー! そんなことないよー! 志保ちゃんだってモテたいよねー」

「私はそういうの、ありませんから……」


……何も言わず、身重のはやてを刺激しないよう立ち上がり、応接室から出る。

律子さんもそれに続き、そんな僕達を金髪ショート・童顔なグラマラスボディ少女が見つけてくれて。


「あ、恭文ちゃんー♪ 律子さんもおは……よ……!?」


異変を察したように身を引くので、そんな女の子の両肩を、二人がかりでしっかりホールド!


「翼、その話……お友達の紹介も交えて、しっかり聞かせて」

「ひぃ!? な、なんで……というか、二人とも怖いよー!」

「いいから、聞かせなさい……今すぐに!」

「吐け! 吐け! 吐け吐け! 吐けぇ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


翼のアホをしっかり尋問してから、346プロへと全力疾走。

無事に到着し、幾つかの防護手段を取った上で……CP控え室を強襲。

被疑者渋谷凛にはオフィス机に着席してもらい、デスクライトを向け続ける。


「あの、これは……」

「吐け――」

「蒼凪プロデューサー、もう吐いてる……全部吐いてる……!」

「吐け――」

「信用できないってこと!? というか、765プロがどうして!」

「吐け――」


デスクライトを突き出すと、被疑者は眩しそうに顔を背けた。


「吐け――」

「怖いよ! それ以外に言うことはないの!?」

≪あると思っているんですか? 事情は説明したでしょ≫

「でも吐いてるんだよ! もう言うことがないんだよ!
あとは私が迂闊だったって、謝ることしかできないんだよ!」

≪いえ、方法はありますよ。私のセブンイレブン計画に協力してくれれば≫

「黙れ馬鹿! つーかこの状況……謝って済むと思っているの!?」


デバイレーツを取り出し、ぽちぽち……関連ツイートを見せてあげた。

それはもう、いろんな形で燃え上がっているネット社会をね!


「やっぱり、火消しとか無理……!?」

「ネットのみならず、美城中の噂にもなっているしね」

「それ、マズいですよね! 守秘義務の問題にも触れますし!」

「しぶりん、このままだとクビ!?」

「どうだろうねぇ……。
凛は加蓮達を止めようとしたし、自主的に報告もしたんでしょ?」


確認すると、凛はハッとして、慌てて頷いてくる。


「おのれ……本当にいつから服を着るようになったのよ」

「多分生まれたときからだよ!」

「嘘を付け。知り合ったときは全裸だったよ」

「蒼凪プロデューサーの前で脱いだ覚えがないんだけどぉ!?」

「だから元々脱いでいたんだって……。
そうじゃなかったら、武内さん絡みであそこまで馬鹿にならない」

「そうですよ、凛ちゃん。嘘はいけません」

「なんで私がおかしいのかなぁ! というか卯月ー!」


それほどにヤバいのが、この渋谷凛という女だった。どれくらいヤバいかっていうと、志保くらいヤバい。

……あ、ヤバいヤバいで思い出した。更にヤバい話を。



「まぁそれについては、加蓮と……例の神谷奈緒も同じだけどねぇ。
思えば加蓮も病院で知り合ったときから、全裸だった」

「やめてあげてぇ! 私のせいで記憶改変とか、本当に申し訳ないからぁ!」

「それとおのれらのソロ曲もヤバい」

「…………え?」

「魅音に頼まれて、こっちでも目を光らせていたんだけどね?
そうしたらまぁ……作詞家・作曲家に粉をかける奴らが出てきたよ」

『えぇ!』

「安心していいよ。ソイツらについては営業妨害ってことで、尋問中だから」


なお、担当はPSAの沙羅さん……沙羅さん、企業の汚職問題にも精通しているから。

今回の件がアウトかどうかって、きっちり見てくれている。任せておけば安心だよ。


「というか蒼凪プロデューサーはどうかな。加蓮ちゃん達と連絡は」

「一宮さんともども取れないよ。間違いなく腹に一物ありだ」

「だったら、文香さんはどうですか? 私達もお電話したんですけど……」

「そっちは唯世達に押さえてもらってる」

「唯世君達に? ……あ、そっか!」

「唯世達も聖夜学園……身柄を抑えるには打ってつけってわけだ」


とはいえ、これはもう……バレバレの札だけどねぇ。

この状況でCPに妨害工作をする奴とか、奴らしかいないでしょ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プロジェクトクローネ……美城常務が打ち立てた、王冠の輝き。

同時に会長が望む、≪再臨≫のたたき台。その輝きは、常に勝利者でなければならない。

そう会長はお考えになり、訓告をお出しになった。王冠の一角を担う、彼女達にだ。


その効果は絶大……常務もこれで、我々の理想を思い出してくれることだろう。


「そうか……上手くいったか」

「はい」

「では以後も手はず通りで頼むぞ。今西」

「は……」


彼女達にとっては、これもまた試練。

会社の指示に従わないということが、どういう意味を持つか……そろそろ理解していい年頃だろう。

跳ねっ返りの若造に対するお仕置きと考え、どこかで生まれる引っかかりをグッと飲み込み、礼を返す。


(そうだ、これでいい……)


何度も何度も、ぶり返す痛みを飲み込む。飲み込み続ける……。


(私は確かに最低なのだろう。
だが家族がいる……守るべき人達がいる。
そのためには、こうするしかないんだ……!)

「それと島村卯月と本田未央へのフォローは」

「そちらも指示通りに……」

「ならば問題ない。
美城が望む輝き……そのいただきへ足を踏み入れるのだからな」

「は……」


彼女達もこれで、私を許してくれるはずだ。

敗北はする。しかし、大人として正しい形を……アイドルとしての成功を示すんだ。


だから、許してくれ。

どうかもう、許してくれ。

他にどうしていいか、私には分からないんだ。


だから許してくれ。

卑怯な私を受け入れてくれ。

年老いた会長の……共に進んできた仲間へ望む、最後の我がままを許してやってくれ。


(私の全力で、君達を新しいステージに連れていく)


君達にも改めて示そう。会社で生きることの厳しさと……それでも貫くべき矜持を。


(それは絶対だ。約束する……君達はより強い輝きを手に入れられる。だから……)


だから、もう抵抗しないでくれ。

だから、疑うことから抜け出してくれ。


だから、私を……。


(もう許してくれ……!)


(Next Stage『Kill Kingdom』)




あとがき


恭文「というわけで、割とお待たせしてしまって申し訳ない。
何だかんだでいろいろ書きすぎて、構築に手間取った……」

古鉄≪そのせいで次の話、分量で言うと四十%くらいできあがっているんですよね。
なおとまかのの方が関係者いろいろメタメタなノーマルエンドとするなら、こちらはトゥルーエンドくらいの勢いでやっています≫

あむ「どういうこと!?」

恭文「いよいよクローネ本格始動。
……かと思ったら、おじいちゃん達が余計な真似を……!」

あむ「本当に余計じゃん! 常務もちゃんと、仕事として筋を通そうとしているのに!」

恭文「これで確定だわ。奴ら、本当に……身内の常務ですら信じていない」

あむ「だよねぇ……」


(目指すは完全勝利。ただし、完膚なきまでに叩きのめして、自分達だけが勝つ方向で)


恭文「というわけで、これで鮮烈な日常最新話に時間軸も追いついたわけで……」

あむ「あ、そうじゃん! はやてさん達も出ていたし!」

恭文「というわけで、お待たせしました蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。
……でも美城常務と魅音さん、どうなるかなぁ」

恭文「親から家や仕事を受け継ぎ、なおかつ同じ女性。年は離れているけど、才気もあって勝ち気……何だかんだで意識し合ったんだろうね」


(美城動乱編をやる上で、ちょっとずつでも描写したかったこと。本筋とは関係ないけど)


恭文「まぁそれはさて置き……僕は現在、グスタフ・カールの調整中」

あむ「うん、あたしもなんか……このどっしりしたのが気に入って作ってるんだけど。でもアンタはなんで」

恭文「装甲がそこそこ厚くて、機動力と小回りもそこそこ利いて……って、ガンプラバトル強襲で便利なのよ」

あむ「あー、攻撃を受けるのも仕事だから」

恭文「それ」


(つまるところアグレッサーです)


恭文「でね、前にグリモア用に作っていたレールガンを転用して、ビームバスターライフルにしてー。
額はハイメガキャノンを搭載してー。バックパックは穴を開けて、何かミサイルとかをくっつけてー。
シールドはあれだ、ビット的にフワフワ浮いているって設定にしてー」

あむ「あ、あの……それ、なんか見覚えが! 逆手持ちのそのライフルは、見覚えが!」

恭文「そう! グスタフ・カールでなのはを再現したんだ! 名付けて≪横馬号≫!」

あむ「………………ネーミングー!」

恭文「だってほら、流星号とか紫電号とかあったし」

あむ「一緒にしたら失礼じゃん!」

なのは「そうだよ! というかせめてほら……高町号とか、星砕号とか!」

恭文「なのは……おのれ、生きていたのか」

なのは「生きているよ! というかここ最近、そんな死にそうな目にも遭ってないよ!」


(我らが原作主人公、たまたま遊びに来ていました)


恭文「というか、そういうおのれらは何を作っているのよ。
僕のヨコウマオーに文句を付けるからには、さぞかし立派なんでしょうねー」

なのは「だからネーミングー!」

恭文「じゃあコウマオー」

なのは「ちょっとカッコ良くなったけど、また魔王呼ばわりされているよね! 釈然としないんだけど!」

恭文「それより、ほらほら」

あむ「あたしは……腹部を削って、ハイメガキャノンっぽく仕込んだ。
それから左腕のグレネードは、プラズマステークにして……ゲシュペンスト風味!」

なのは「あ、エッジも丸目に研いで、不思議な感じ……というか、昔のイラスト風?」

あむ「そうそう! 漫画とかでこういう画風が多くて、試したくなったんだ!」

恭文「そっか……ゲシュペンストも二十メートル前後だし、体格的にも煮ているのか」


(つまり現・魔法少女、殴るわけです)


あむ「それで、なのはさんは?」

なのは「…………実は…………実はね?」

あむ「うん」

なのは「恭文君とアイディアが被ったのー!」(そう言いながら出すのは、色も塗られた重武装型グスタフ・カール)

恭文「……………………終わった」

なのは「絶望しすぎだからぁ!」


(というわけで、いろいろあるけどグスタフ・カールは元気です。
本日のED:仮面ライダービルドのBGM『さぁ、実験を始めよう』)


かな子「……杏ちゃんはどこ!? 杏ちゃんはどこにいるのかなー!」

なのは「かな子ちゃん!?」

恭文「杏なら突然『インドでニュータイプの修行をしてくる』とか言って出かけていたけど……」

かな子「聞いてよ、恭文くん! 杏ちゃんが酷いの!
グスタフ・カールを見て、私を思い出したーって……!」

なのは「それは酷い!」

あむ「女の子に言うことじゃないじゃん!」

恭文「……かな子、最近ガンプラバトルで使っている機体は?」

かな子「え、セラヴィーの武装を乗っけたグスタフ・カールだけど」

なのは・あむ「「それは仕方ないかも!」」

かな子「仕方なくないよ!」


(おしまい)






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あきゅろす。
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