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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Stage09 『I pass through』


激動の美城……とはいえ、アイドルの基本を忘れてはいけません。

そう、それは≪友情・努力・勝利≫! ようするにレッスンです!


というわけで美城常務との同盟が結ばれた翌日。

ニュージェネの三人で、自主トレしようと空いているスタジオを探していたところ……。


「やっぱりニュージェネもパワーアップが必要だ……!」

「私は、今までやってきたことを煮詰めていくのが一番だと思うけど」

「だってしまむー、なんか覚醒モードが入ってるんだよ!?」

「あれに対抗は嫌だよ! というか、未央だってビビってたのに!」

「そうだよ! ビビったよ! でも……もしかしてそういうキャラ付け、アリかもしれない」

「ないから!」


未央ちゃんと凛ちゃんが、これからのニュージェネについて議論しまくっていた。
というか、私を見ながら戦々恐々としていました。


「卯月、あの……本当に、後遺症とかないよね……!?」

「凛ちゃん、心配しすぎですよー。平気だって言ったじゃないですか」

「心配するよ! 卯月、ここひと月のことをよーく思い出して!?
アシムレイトだけじゃないからね! アスリートなら地獄かと言わんばかりに負傷しまくってたからね!?
とどめに文字通り目の色が変わるって……それはもう祟りだよ!」

「祟り!?」

「そうだよ! 祟りとしか言いようがないよ!
間違いなく人がワンダース単位で亡くなる祟りだよ!
またはサバトだよ! 卯月の中にはファントムがいるよ!」


凛ちゃんがヒドいことをぉ! というか、さすがにそれは心外……って、未央ちゃんがなんか近い近い!


「未央ちゃん、近いです! 鼻くっついてますからー!」

「目、見えてる!? 私達の顔、見えてるよね……しまむー!
実は全く見えてなくて、聴力と気配察知だけで何とかしてるとか!」

「そこまで超人じゃありませんよ、私」

「「信じられるかぁ!」」

「そこは信じてくださいよ!」


お、おかしい……なんだかみんなが、私を疑うようになっている!

どうして!? 本当に体調は問題ないし、今日の朝ご飯もいっぱい食べられたのにー!


「でもサバトってことは……しまむーも仮面ライダーになれるのか!」

「……シャバドゥビタッチ♪ ヘンシ〜ン♪ シャバドゥビタッチ♪ ヘンシ〜ン♪」

「蒼凪プロデューサーに相談しようか」

「そうだね」

「二人ともー!?」

「〜〜〜〜♪」


どうやって二人を押さえようかと思っていると……どこからか歌声がかかる。

というかこれ、私達ニュージェネのデビュー曲≪できたてEvo! Revo! Generation!≫じゃないですか。


「あれ、これって……」

「CDを流して……いや、違うよね。誰かうたってる」

「……よかったね、卯月。タッチ変身の仲間だよ」

「凛ちゃんは本当に落ち着いてください……!」


気になって、歌が流れているスタジオに近づき、ドアを開く……というか半開きだったので、そのまま入ると。


「……あら、島村さん! それに渋谷さん達も!」

「「――おはようございます!」」

「「「おはようございます」」」


一宮さんと、加蓮ちゃん達が機材を前に立っていた。

どうやら今うたっていたの、加蓮ちゃん達みたいです。


「自主練習中だったの?」

「えぇ」

「だったら気をつけた方がいいよ……ドア、半開きだった」

「そうなの!? ごめんなさい……というか、北条さんー!」

「あ、あはははは……その、弘法も筆の誤り?」

「前にもやったでしょ!」


仲よさげな三人をほほ笑ましく見つつ、機材の画面をチェック。

あぁ……やっぱり私達の曲です。この曲にもいろいろありましたー。


「でも加蓮ちゃん達の歌、聴いた限りではいい感じだったー。ね、しまむー」

「はいー。
と、というか……そんな練習材料にされているって、恥ずかしいですね……」

「同感……デビュー当時、いろいろやらかした分余計に……!」

「やめて、未央……それは、私にも突き刺さる……!」


あれ、おかしい!

気恥ずかしいって話をしたはずなのに、凛ちゃん達が猛省モードで蹲っちゃったぁ!


「「生まれてきてごめんなさい。生まれてきてごめんなさい……」」

「二人とも、しっかりしてくださいー!」

「……話には聞いてたけど、なんか大変だったんだなぁ」

「ま、まぁまぁ……それなら……あ、そうだ!」


いろいろと大変だったあの頃を思い出していると、一宮さんが軽く拍手を打つ。


「渋谷さん、悪いんだけど練習に付き合ってもらえないかしら」

「え……」

「北条さんが島村さんとあなた、神谷さんが本田さんのパートをやっているんだけど、やっぱり三人いないとバランスが悪くて……」

「いや、そりゃそうだろ! 体力がない加蓮が二人分って……倒れるに決まってるよ!」

「既に倒れたみたいな言い方、やめてくれないかなぁ……!」

「分かりました。それなら、加蓮のためにも」

「凛ー!」




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編

Stage09 『I pass through』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そんなわけで、早速凛ちゃんも加わって練習再開。

ダンスはさておき、ボーカルのみでやっていくと……これが、また……!


「「「〜♪」」」

「おぉ……いい感じだよ! しまむー!」

「はいー!」


一宮さんの舵取りがあるとはいえ、一発でこうも気持ちよく合うんですね。

こう、相性とかがいいんでしょうか。これならユニットを組んでも上手く……上手く……。


(……ユニット……ニュージェネ以外のユニット)


凛ちゃんがどうこうじゃない。

そういう風に、活動の幅を広げるのが嫌ってことでもない。

ただ、私自身はそういうとき、どうするのかって……ちょっと考えてしまって。


それはきっと、昨日……今西部長に啖呵を切ったせいもあった。


――島村くん、君はアイドルになりたかったんだろう?
だから養成所で一人ぼっちになっても、必死に耐えて――

――えぇ――


一体なんのために?

アイドルは大事な夢で、憧れだった。

でもそれは、一人ぼっちで頑張る意味があるほど……重たいものだっただろうか。


――だったら、そんなことを言うものじゃないよ。これは君がより輝く道でも――

――だからって”みんな”を踏みつけた……あのときのほしな歌唄やイースターの同類になんて、従えません――


ううん、違う。

それは、みんながいたから進めた道だ。


そう決めたんだよね、私は……。


――それは、違うよ!――

――違いません!――


私が前に進みたかったのは、忘れたくなかったからだ。


――自分の都合でみんなを振り回して、夢や希望も踏みつけて――


確かに輝く夢があった。

大変な毎日だけど、未来を信じて燃え続ける希望があった。


――……あなた達は悪です! それも自分が悪だと気づいていない、もっともどす黒い悪! そんな悪を、私は許しません!――


そんな人達に踏みつけられて、壊れてしまったけど……それでも、あそこにあったことだけは間違いなくて。

今、それを鮮明に覚えているのは……悲しいけど、私とスクールの先生達だけで。

心を壊されてしまったみんなはもちろん、そのお父さん達も、あそこで頑張っていた様子はキチンと分からないから。


だから、忘れたくないって思った。

だから、背負ったまま進みたいって決めた。

私にとってのアイドルは……そういうのを背負った上で、笑顔を張るものになったから。


それができないなら……それが戒められる場所なら、私はアイドルになる意味がない。

そう思って進んできて、ここにたどり着いて……凛ちゃん達と出会って。


……あのとき、私に希望を示してくれた優しい人にも、巡り会うことができた。

それだけじゃなくて、乱暴で我がままだったけど……ちゃんと、好きだって気持ちも伝えることができて。


それが今までの私。

死んだように生きたくない……死ぬまで生きて、前に進み続けると決めた私。


なら今感じている不安は、なんでしょう。もう止まらないと決めたはずなのに。

……ううん、分かっている。

それだけじゃ超えられない壁があるって……本当は、分かっている。


…………臆病という点では、私も……今西部長達と変わらないのかもしれません。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


秋の定例ライブまで時間がない。

様々な企画を並行的に進めなければならないので、目が回る忙しさだった。


ただ、強烈な充足感も同時に感じていた。

一歩ずつではあるが、新しい美城に近づいているという…………いや、これは危ないかもしれない。

季節の変わり目にも差し掛かるし、ちょっと落ち着いて、休養は取るようにしよう。


過労が過ぎると、そもそも疲れを感じ取る能力すらおかしくなるそうだからなぁ……!

こんなことを考えるのも、全部あの老害共のせい……そう結論づけながら、適当なレッスン場を開くと。


「〜♪」

「〜♪」

「〜♪」

「「「〜♪」」」


厚くも軽やかな三重奏が耳に飛び込んでくる。

曲はニュージェネ……だが、うたっているメンバーが違う。


レッスン場を見やると、ニュージェネの三人と……一宮プロデューサー、その担当アイドルが自主練習していた。


「あ……美城常務」

「突然すまないが、この場を借りたい」


……覚えた引っかかりは一旦胸に仕舞い、彼女達にお願いをさせてもらう。


「社内オーディションのために使いたいのでな」

「社内オーディション……」

「はい、了解しました。すぐに片付けますので」

「よろしく頼む」


あの……今うたっていた三人、いい取り合わせだ。

改めて資料を読み込んで、少し考えてみるとするか。


それはそうと……。


「……君の輝きはどこにある」


神妙な顔をして、意気消沈していた島村卯月に……ついそんなことを言っていた。


「え……」

「雲に隠れた星は、もはや無……存在しないのと同じだ」

「……ちょっと、いきなりなんなの」

「そうだよ! それじゃあまるで」

「君はその雲を、自ら払う力があると思っている」


不満そうな渋谷くんは気にせず、彼女に問いかけ続ける。


「だが同時に、君はその力の振るい方を迷っている。
なぜなら”お姫様”には不要なものだからだ」

「常務……」

「考え、定めることだ。
時間が有限なのと同じように、我々の手は二つしかない」


彼女も恐らく、私と同じものを感じ取ったのだろう。

だからこそ渋谷くん達を気にしながらも、困り気味に頷いた。


そうだ、それでいい……私と彼女だけにしか通じないやり取りでいい。

同時にそれができることに、心から安堵もする。


……彼女はちゃんと……自分の欲を、有り様を探そうとしていたからだ。


それは私にも……もちろん会長達にも、できなかったことで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


常務から軽いお叱りも受けた上で、私達は退室……。

でも、あれは……あははは、見抜かれちゃっていたんですね。


それを自重しながらも歩いていると、一宮さんが軽く小首を傾げた。


「さっきのは、松永涼さんと星輝子さん……」

「バンド関係に強い二人だよな! 星輝子さんも大人しいように見えて、メタル系をやらせると凄いらしいし!」

「……凄いというか、二重人格を疑われるレベルで弾けるのよねぇ。
でもそれが社内オーディションってことは……」

「もしかしてあれかな。木村夏樹さんとバンドを組むっていうの!」


へぇ、バンドですか。それは凄い………………え。


「「「バンド!?」」」

「うん。アイドルロックバンドって……ほら、SCANDALさんみたいなガールズバンドもあるし」

「あぁあぁ、ああいうノリか!」

「確かに似合いそうです!」

「それで改革を進めて、あたし達を置き去りに………………って、それももう違うんだよなぁ!」


あ、奈緒さんが頭を抱えちゃいました。

でもその気持ちも分かる……今や常務は、現場の代表みたいになっていますから。


「というか、どうなってんだよぉ! 提携を結んだってことは味方だし……でも会長達は敵!? わけが分からない!」

「まぁ、否定はしないよ……。
思わくが入り組んでいて、私達もちょっと混乱しているし」

「というか、私的にはさっきのアレが一番引っかかる……」


そう言いながら未央ちゃんが見やるのは、私だった。


「一体なんなんだろう……しまむーに駄目だしって感じとはまた違うし」

「というか、卯月には思い当たるフシがある……」

「島村さん、その……一応私達もCPとは提携を結んでいるし、何か悩んでいるなら」

「……私のやりたいことは、アイドルである必要があるかどうか……そういうお話ですよ」


みんなで休憩所のソファーに座りつつ、ついそんなことを漏らしていた。


「悪意ある人達のせいで、養成所の仲間を壊されました」

「……おねだりCDのことだよな。それならあたしらも、ちょろっと聞いてる」

「それが本当にショックで……何もできなかったのも相まって、精神科に通っていたこともあります。
……それでも……あの世界同時行動不能事件をキッカケに、なんとか立ち上がれて」

「それも美嘉さんに聞いてるよ。あの悲しいことを思い出す悪夢の中で、恭文の姿を見たんだよね」

「ふぁい!?」

「アイツがまた運悪く……あの状況で騒動に関わっているのとかを見て、勇気づけられて……しかも一目惚れしたって」

「美嘉さん……!」


ちょっと、抗議しなくては……! か、勝手に人の……人の大事な思い出をバラすなんてー!

いや、それを言えばCPでも割とすぐバレましたけどね!? あのときと同じ衝撃を、もう一度味わうなんてー!


……と、とにかく落ち着こう。話の主軸は、そこじゃないし……!


「そ、それで……養成所の先生とも改めて話して、決めたんです。
……みんなの夢は壊されちゃったけど、夢のために頑張っていたみんなの姿は……絶対に忘れないって」


それは、私の拘りで、我がままで……でも絶対に譲れないこと。


「みんなはその思い出まで捨てちゃったから……もう、私や先生達しかいないから。
私にとってのアイドルは、そんな”みんな”と一緒に進んで、叶えていくもので……そうじゃなきゃ意味がないって、ずっと思ってました」

「卯月……」

「でも……同時に、やりたいこともできたんです」

「やりたいこと?」

「――――力を手に入れる」


小さく呟くと、加蓮ちゃん達が息を飲む。


「……恭文みたいに、忍者とかになって……悪い人達と戦うってことかな」

「……手が届かなかった……それが、すっごく悔しかった。
どうして私が……私みたいに、特別な才能もない子だけが残ったんだろうって、何度も考えました。
私より歌も、ダンスも上手な子はいたのに……たくさん、夢を見て輝いていたのにって……!」

「島村さん……」


そうです……力が欲しいんです!

どんな悪にも屈しない! どんな理不尽にも覆せない!

どこまでも……いつだって、誰にだって届く手! 力!


「いやいや……ちょっと待てよ! それはマジで」

「そんなの、アイドルのやることじゃないって分かっています。
だけど、だけど私は……今でもやっぱり……」


自分が許せない。

無力だった自分が……手の届かなかった自分が許せない。

悪意ある人達も許せないけど、何より自分が許せない。

そんな自分を変えたい。

でも、”みんな”を忘れてしまうこともできない。

だから夢も叶えたい……そうして進んできたのが今までで。


ううん、もしかしたら一歩も進んでいないのかも。


「卯月……」


すると凛ちゃんが、私の両手を取ってくれる。

痛いくらいに握り締めて……皮を突き破らん限りに震えていた手を。


それでようやく気持ちが落ち着いて……浮かんでいた涙を、首振りで軽く払う。


「……ごめんなさい。その……変な話、聞かせちゃって……」

「あ、いや……こっちこそ」

「……安易に触れていいところじゃなかったね。ごめん」

「いえ……」

「でも納得はできた。常務もそれに気づいていて、さっきの叱責に繋がったのは……。
中途半端に貫けば、アイドル:島村卯月を……それを支える人達を裏切る結果にもなりかねないから」

「そんな! しまむーは人を裏切るような子じゃ」

「結果的にそうなるかもしれない。
というか本田さん、渋谷さん、あなた達も知っていたんじゃ」


どうやらそうらしい。

二人揃って、顔を見合わせ俯いてしまった。


「それは力を振るう立場に回っても同じよ。
……二つしかない手で、きちんと取捨選択をしろってことなのよね」

「……そういや、恭文も言っていたっけ。正義の第一条件は力……思想がどんなに正しくても、力がない奴は正義を張れない。
もし正義が負けちゃったら、それを正しいと信じていた人達が……紡いでいた平和までぶち壊しになっちゃうから」

「……第一種忍者な蒼凪プロデューサーが言うと、マジで突き刺さるなぁ」

「でも事実よ。それこそこの国の行く末を左右するような、そんな戦いを何度もクリアしてきた人だもの。
……そんな状況で、平和と安全を謳う側が負ければどうなるか。私達の想像ができないレベルで突きつけられている」


中途半端……私は、今のままでは中途半端。

力を振るって正義を謳うにしても、アイドルとして夢を叶えるにしても、どれも中途半端。


貫きたいなら、貫き方を……あははは、まさか美城常務に言われるとは思っていませんでした。


「それで、二人とも……」

「……前に、楓さんからそういう話はされた。
卯月が求めているのは……人間を捨て去るほどの力かもしれないって」

「ん、されたね」


人間を捨て去る……あぁ、確かにそうかもしれません。

だってご都合過ぎて、神様にでもなろうかって勢いですし。


……そんなの無理なのに。


「……だからね、しまむー……逃げずに悩んで、考え倒していいよ」

「え……」


自分の限界に打ちのめされていると、未央ちゃんが私の両肩を軽く叩いてくれた。


「今、一宮さんに言われて……本当の意味で腹が決まった。
常務さんもさ、心配してるんだって分かったし」

「中途半端が一番よくない……うん、その通りだ。
それじゃあ今度は卯月が、誰かを傷付ける悪意になるもの」

「凛ちゃん、未央ちゃん……」

「でもこれだけは覚えておいてほしいんだ」


それで凛ちゃんは、一人じゃないと……一緒にいるからと、気持ちを伝えるように、私の手を握り直してくれる。


「私達は卯月がどんな道を選んでも、卯月の友達で……仲間だから」

「そうそう!」

「……!」


その言葉には……加蓮ちゃん達を巻き込んで悪いけど、手を握り返し、感謝を伝える。


……私も、腹が決まりました。

考えて、考えて、考え倒して……答えを出す。


このまま止まっていたくない。死ぬまで生きる……そう決めたことだけは、貫きたいから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


島村卯月――CPとnew generationsのユニットセンターにして、中心人物。

あの三代目メイジン・カワグチの同級生でもあり、彼や蒼凪恭文からガンプラバトルの教授も受けている。


アイドルとしての能力は……ダンス・ボーカル・ビジュアルともに際だったところはない。

よく言えば、どの現場でもそつなくこなせるオールラウンダー。悪く言えば、特化した売りのない器用貧乏。

だが、そんな人物がユニットセンターというのも珍しいことで……それはつまり。


「第四の柱……か」


社内オーディションも終わったので、彼女のことが気になり……改めてオフィスで情報を漁っていた。

そうして思い立つのは、あの日高舞も備えていた資質。


ダンス・ボーカル・ビジュアル……アイドルの三本柱とは別の、人を引きつける魅力。それが第四の柱だ。

ここは一般的に、二つの意味で分かれている。

一つはアイドル個人の特技や興味の方向性。ようはキャラクター性にちなんだ、サブカル的な魅力だ。


もう一つは……日高舞のように、カリスマ性としか言いようがない強烈な魅力。

島村卯月は恐らくこちら側だ。人を屈服させるような威圧感はないが、このユニットでは確かに要となっている。


……ゆえに、父や今西部長のあれこれも多少理解できるわけだが。


「今西が妙にCPを強く庇い立てたのは、こういうことか……」


恐らく二人も気づいているはずだ。

第四の柱……それも日高舞と同じタイプだと。

無論、今の彼女は……まぁ繰り返すようだが、日高舞のようにはなれない。


だが彼女が今後、アイドルにより集中し、その魅力を高めるのなら…………それは、あり得るだろうか。


「力……力……」


つい説教めいたことを言ったと、椅子に体重を預けながら自嘲。


「偉そうなことを言えた義理ではないな、私は」


私も彼女と同じだ。

夢を夢のまま追いかけ、現実にする努力を怠って……その結果がIKIOKUREで、家の存続に危機をもたらす有様だ。


……無論私だってそれなりに場数は踏んだが、まぁ……こういうかわいげのない女を娶る男は、残念ながらいなかったわけで。


だからだろうか。彼女の不安定さを見ていると、どうにも不安が募る。


「園崎プロデューサーにも話しておくべきか……。
ああやって時間を無駄にするのが一番悪い」


もはや、アイドル云々は抜いて、一人の人間として気にかけてしまっていた。

その中途半端さが、単なる甘えならいい。

だが彼女はそういう甘えや、弱さが見受けられない。こうと決めたら貫き通す。


それこそ自分の限界を無視して……だからこそ、アシムレイト・オーバーロードなんて物騒な能力も発現したのだろうが。


そうだな……気になっているんだ。

彼女は余りに生き急いでいる。

そのままズタボロになって倒れて、消えてしまいそうだから。


……だが……それでも彼女は……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――それは、唐突な申し出だった。

この世界を変えるほどの変革が、我々に突きつけられて。


「そんな……そんな話を、信じろと……!?」

「国裂防衛長官……あなたの仰りたいこともよく分かります」

「そうだ! 与太話が過ぎる! 次元世界……時空管理局など!」

「ですがその証拠は、ご覧頂いた通りです」


レティ・ロウラン……時空管理局という組織の人間は、困り気味に眼鏡を正す。

そうしてこの世界のテクノロジーではあり得ない映像や技術を、改めて我々に見せてくる。


……政府筋に通達された、内密な会談。

それはこの世界の外側……次元世界の人間との摂政だった。

というか、さらっとあっちこっちの政府・企業関係者も知っていて、協力体制とか……どっかの映画みたいで怖すぎる……!


と、とにかく我が国の首相も、そしてこの問題に深く関わった少年少女も参加する場が設けられた。

だが彼女は実に堂々としており、格の違いを見せつけるようだった。


……それについては、脇に控えるSPらしき女性達も同じだろうか。


「……あなた方が八月に対処した、プラフスキー粒子の粒子結晶体暴走事故。
それが異世界から持ち込まれたものであり、その結果この世界が別次元……我々の世界への扉を開いたことは、既に判明しています。
もちろんプラフスキー粒子の正体が、反粒子……この世界でも、我々の世界でも製造不可能なオーパーツであることも」

「それで、あなた方はどうしたいのですか」

「分かりやすく言うと……我々はペリーの黒船です。
同時にプラフスキー粒子の扱いについても、改めて討議を」

「お断りします」


そこで鋭く言い放ったのは……プラフスキー粒子の開発者である、ニルス・ニールセン君。

彼と肩を並べる、双葉杏君もその通りだと頷いてきた。


「あれは、ガンプラバトルをするための粒子です。
あなた方の言うロストロギアに認定されるのは、ボク達としても不満です」

「全くだ。一体何のために宇宙へ出向いたと?」

「でもその危険性は、あなた達も知っているはずでしょう?」

「あなた方がそれを、キチンと管理できるという保証はどこですか。
ここ数年の事件で、いろいろと問題が積み重なっているようですが」

「待ちたまえ、ニールセン君……それは」

「実は次元世界や魔法文明については、元々知っていました」


その発言に場がざわつき始める。

というか、双葉君までその通りと頷くものだから……もう……。


「”知り合い”がいるんです。なのであなたのことも伺っていますよ、レティ・ロウラン提督」

「あぁ……大体分かったわ」


どうやらその知り合いは、ロウラン提督とは共通らしい。

提督は困り気味にこめかみをグリグリし、大きくため息。


「ただそれなら余計に、あなた達の行動に伴う結果も知っておくべきだと思うの」

「と、言いますと……」

「粒子結晶体の暴走と、それを持ち込んだと思われる異世界人の転移――。
その影響でこの世界は現在、不安定な状態にあるんです」

「つまり、こういうことですか。
あなた方はその解決に……我々政府筋との連携が必須だと考え、接触してきた」

「だから私が……人事部の人間が引っ張り出されたんです。
地の利がないと市民に悪影響を与えかねない上、人員を動かす場合でも手間がかかりますから」


ロウラン提督は今までの話を前提とした上で、首相の問いに頷き。


「……ちなみに彼女達とその家主も、地球出身なんです」


脇にいたポニテ女性と、金髪ショートの女性を左手で指す。


「紹介が遅れましたが……八神シグナムと、八神シャマル。
シグナムはミッドチルダの地上部隊で働いていて、シャマルは本局医務官です。
元々十年来の付き合いもあったので、非常勤的に今回のサポートをお願いして……シャマル」

「はい。……提督の説明を引き継ぎますと」


シャマルと呼ばれた女性が、携帯を操作。ある波形を見せてくる。

その、空間モニターというもので……これだけでも、次元世界の技術が高いことはよく分かる。


「プラフスキー粒子……アリスタはただ端に、対消滅でこの世界を消しかけただけではありません。
その膨大なエネルギーで、この世界の位相……世界そのものの軸というか、位置を示す領域に爪痕を残しています。
……だからこそ、正体不明の怪物騒ぎなどが起きている」

「……あれは、その……位相とやらが乱れた影響なのか! では、その」

「怪物の正体については……どこかの辺境世界から紛れ込んだものではないか。こちらではそう予測しています」

「レティ提督も先ほど申し上げておりましたが……今回我々がこうして伺ったのは、あくまでも問題解決の協力体制を敷きたかったためです。
元々地球の文化は次元世界への影響も大きく、企業・政府を問わず協力者も多く存在していましたので。
もちろん……プラフスキー粒子の管理についても、何かしらのサポートができればとは」

「ですがニールセン君達の話では、粒子の状態では危険性もないと」

「誰かが結晶体を精製する可能性もあるでしょう」


シグナム某の言葉に、つい頭をかいてしまう。

だからこそ、我々もガンプラマフィアを追い回しているわけで……どうやらそこに嘘はないらしい。


「なので現段階で、プラフスキー粒子をロストロギアとして認定し、封印などの処置をするつもりはありません。
というより……そうして自ら危険性を吹聴し、”粗悪な複製品”を作ろうとする流れができるのは」

「確かに。八月の一件で対処してくれた……第一種忍者の蒼凪くんも、その点があるから慎重だったと聞く」

「杏達もそのために、ガンプラバトルを世界中に普及させておくべき……そう提案したからねぇ」


ガンプラバトルの再始動は、単なるホビースポーツの……日本産のAR(拡張現実)ホビーが生み出す利益の問題ではない。

旧PPSE社会長秘書≪ベイカー≫が確立し、進化し続けてきたバトルシステム。

それが反粒子の完全制御を成す、唯一無二の盾であり矛だからだ。


もしバトルシステムがなくなれば……夏のような一件があっても、我々は何もできない。

なにせそれ以外には止める手立ても、そのためのノウハウもないからな……!


とどめにガンプラマフィアが、PPSE社の裏組織だったという事実……もうその時点で確定だった。

我々はプラフスキー粒子を、それに絡む技術を完全封印などはできないのだと……。


その辺りの事情と難しさは、向こうさんも理解してくれている。それはある種の救いだった。


「じゃあ本当に……あくまでも、その管理についてはこっちに任せてくれると」

「サポートするにしても、あなた達の身辺警護の方が大きくなると思うわ。
……今だってガンプラマフィアの件があるから、ヤジマ商事の庇護下にいるわけだし」

「これ以上の鳥かご状態はゴメンだけどねぇ」

「魔法で攫われるよりはマシでしょう?」


確かになぁ……! プログラム式らしいが、がち異能力でドンパチだぞ! さすがに怖いだろ!

というか、そんな異能力者がわりとこっちでは多いというのが……余の中って、不思議が一杯だぁ。


「じゃあさ、位相の乱れについてはずっと変わらない感じ?」

「いいえ。既に沈静化の流れは生まれているし、このまま……あのときのような大規模暴走がなければ落ち着くわ。
でもそれには数か月……ヘタをすれば数年単位の時間が必要」

「それまではってことかぁ……ニルス、どうする?」

「プラフスキー粒子の管理については、あなたが仰ったように全て任せてもらいます」


ニールセン君はまず……そこは絶対譲れないと、前提を突きつける。


「あとは……」

「ガンプラマフィアね。
そちらも追撃もお手伝いできればいいんだけど……というか、実はですね」

「えぇ」

「我々が危惧しているのは、もしガンプラマフィアに……次元世界の関係者がいたら、というところなんです」


……そうだ……それは考えて然るべきだった!

現にニールセン君も知り合いがいるんだ! そういうのは十分あり得る!


「ロウラン提督!」

「もちろんこちらに逃亡していることも考えています。
……そういう意味でも連携を取りたかったんです。
その場合次元世界の方で、プラフスキー粒子の複製品が作られる可能性も」

「そちらも対処を迫られるから……というか、我々の助けが必要な立場にあると」

「……えぇ」

「でも別世界に逃げていたら、そりゃあ普通には捕まらないよねー。
というか、考えて然るべき?」

「彼らは異世界人ですしね。
実際マシタ会長も、結局アリアンへ戻っているわけで……」

「……お話は分かりました」


渋い顔だった首相は、致し方なしと大きく頷く。


「プラフスキー粒子の管理……その辺りをきっちりお約束してもらえるのなら、協力をお約束しましょう」

「ありがとうございます」

「ただレティ・ロウラン提督……いや、時空管理局という組織に、私は一言言いたい」

「国裂防衛長官?」

「……約束を違えることは、絶対に許しません」

「それはもちろんですが……理由を、お聞きしても」

「我々も不安はあります。今もそれは変わらない」


最初は私も、完全封印を訴えた一人だったからなぁ。

だがそれが無理だと完膚なきまでに示されたとき……こう決めたんだ。


「だが”それでも”と未来を信じ、命がけで戦った若者達がいるのです。
私は防衛長官として……一人の大人として、彼らが示した道筋を踏みにじることだけは、認められない」

「国裂長官……」

「新しい時代を作るのは、我々老人ではないのですから」

「――えぇ、その通りです。
私にも息子が……娘のように可愛がっている子達がいますから」


異世界から持ち込まれた粒子……その影響は余りに甚大だった。

それこそ、我々の世代では手に負えないほどに。

だがそれでも我々は、その扉を開き、希望を信じる……それでもと手を伸ばす。


いつかこの粒子と人類が調和し、本当の意味で使いこなせる日が来る。

そう信じて、遊びの中で粒子と向き合い……そして今日、そんな仲間がたくさん増えた。


今はそう信じたい。

……そうでなければ、子ども達が余りに不憫だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


………………あー、疲れたー!

まさかいきなりこんな話になるなんて……ミゼット提督達から聞かされたときは、腰を抜かしたわよ。

しかもそこに恭文君やランスターさん達まで関わっているとか……あとはその、アイドルさん達?


いつぞやのイースター絡みの騒動を思い出す、カオスな大暴れ。

ただ、それが妙に頼もしく感じながらも……国裂長官の言葉も胸に刻みつつ、私達は官邸を出た。


「レティ提督、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。……特にシグナムは管轄外もいいところなのに」

「問題ありません。主はやての代理でもありますし」


そう、シグナムは本来ミッド地上のお仕事があるんだけど……はやてちゃん、身重で産休に入ったでしょ?

だから代理として引っ張ってきたのよ。やっぱり今回のこと、こっちに詳しい人間がいないと纏まらないし。

それならクロノが……とも思うんだけど、クロノはクロノで、アコース査察官達と別の仕事があるから。


「それでも……それでも、かぁ」

「国裂防衛長官が仰っていたことですか」

「……二年前の世界同時行動不能でもそうだったわ。
そのときはあむちゃん達が……誰からの称賛も、栄誉も求めず、未来を信じて戦った。
悲しいこともあるけど……それで諦めたり、間違えることもあるけど、それでもってね」

「そしてプラフスキー粒子の事件では、ただガンプラが……バトルが好きな子ども達や大人が主導で戦って、世界を救った。
……我々のような専門家ではなく……本当に、ただそれだけの気持ちで戦った者達が」

「でも、それこそが私達の根っこでもあるわ。
……本当に、あの方の言葉は違えないようにしないとね」


未来を信じる……欲しい未来を引き寄せるために、あらん限りの努力をする。

それを否定する現実に打ちのめされても、それでもと手を伸ばし、奇跡という階で今と未来を繋ぐ。

……なのはちゃんや恭文君もそうだけど、この世界の人達は……なんだかとってもたくましいのよね。


それで本当に見習いたい。

”それでも”と言い続けられる勇気と……その力強さを。


「それでこの後なんだけど……私、ちょっと恭文君のところへ行ってくるわ」

「でしたら私も」

「シグナムは駄目よ。ミッドで会議があるんでしょ?
……提督には私が付いているから」

「……分かった。シャマル、すまないがよろしく頼む」

「了解」

「特に蒼凪については……今までとまた違うからな」


シグナムも軽く頭を抱えている。

……恭文君もいろいろと新しい挑戦、している最中だものね。


「……恭文くんも新型プラフスキー粒子開発の立役者だものね」

「まぁあの子はその辺り、きっちり防護策を整えているでしょうけど……今は状況が状況だしね。
そこもキチンと話しておくから、心配しなくていいわよ」

「はい」


でも、シグナムが頭を抱える理由もよく分かるわ。

……それでもあの子はきっと、変わらず暴れちゃうんだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――恭文に連れられて……現在アタシは。


「……大下さん、そのまま切ると抉りますよ」

「え、マジ?」

「もう気持ち、一歩引くといい感じです」

「ほんと、お前はこらえ性がないねぇ……」

「タカもさっき、パーツを抉ってたよね?」


765プロのバトルルーム……その一角で、恭文と……ダンディなおじ様二人について、ポットからお湯を出していた。

それでフリーズドライのみそ汁を……ナスたっぷりのみそ汁を三つ作り、三人に渡す。


「ど、どうぞ……」

「お、ありがと!」

「助かる」

「ありがとう、美嘉」

「いえ、どういたしまして……」


三人は一旦工具や、作りかけのガンプラを仕舞う。

それからほっとした表情でお椀を受け取り、お味噌汁を啜る。


「あぁ……生き返るー!」

「やっぱやっちゃんが言った通り、ナスだよナス……フリーズドライのナス、いいよね!」

「でしょ?」

「本当にゴロゴロなんだよなぁ。さすがはワンランク上……!」

「トオルは毎日、こんな美味いみそ汁を食べてやがるんだよなぁ。間抜けな動物のくせに……!」

「あの、待って!」

「「「しー!」」」


意味が分からない!

なのになんで『しー』ってできるの!? というか、自由すぎるー!


「いや、だから……これは何……!?」

「見て分からない? プラモを作ってるんだよ」

「そうそう。HGUC ジェガンっていうのをね」

「古めのキットらしいが、むしろ俺達にはこういうのが合うな」

「そうじゃないー! というか、刑事のやることじゃないじゃん!」

「「「ガンプラマフィアを倒すために必要だから」」」

「論破されたし!」


でもほんと、意味が分からない!

いや、鷹山のおじ様達は……知っているよ!? 静岡のフェスで、顔を合わせたから! 仲良くなったから!

でもなんでプラモ作り……ガンプラマフィア対策かー! でも仕事に見えないのはなんで!?


いや、分かってる……三人とも、年の差なんて関係なく、めちゃくちゃ楽しそうなんだ。


「……そういやさ、蒼凪……ゆかなさんに幽霊だと思われていたって、マジ?」

「がふ!」


ゆかな……あーあー、恭文が大好きだっていう声優さんかー。

それでゲームショーまで追いかけて……その気持ちはよく分かる! アタシも新谷良子さんが目標だし!


でも…………。


「幽霊? え、何それ……」

≪この人が瞳をキラキラさせながら見ていたから、印象に残っていたんですよ。
……でも外見が数年単位で変わらなかったせいで、ゆかなさんや他の声優さんにも”実は幽霊”と思われていて≫

「うわぁ……!」

「初恋は敵わないってことだよ」

「……やっちゃん、強く生きようか」

「慰めるなぁ! だって、だって、だって…………あああああああー!」


……覚えはめでたかったのに、幽霊……悪い意味ってのが、もう辛いなぁ。

しかも本気で辛いらしく、テーブルに突っ伏して落ち込んじゃったし。


≪でもいいじゃないですか。櫻井さん達も面白半分で煽っていた責任を感じて、業界中の誤解を解いてくれたんですし≫

「あ、そうなんだ! だったらよかったじゃん!」

「……美嘉ちゃんは若いなぁ」

「え?」

「……やっちゃんがゆかなさんを好きだって、業界中に広められたってことだから」

「…………あれ?」


そう……その素晴らしい現実に、恭文は。


「……僕、整形手術を受ける」

『まぁまぁまぁまぁ!』

「身長、強引に伸ばす……!」

≪ジャック・ハンマー方式ですね、頑張ってください≫

『まぁまぁ!』


心をへし折られ、痛みを伴う人生改革に走り出した……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文の無謀をなんとか止めつつ、話はようやく落ち着きを取り戻す。


「――で、例の346プロはどんな具合なんだ」

「そうですねぇ……美嘉が僕のメイドさん兼お嫁さんになったから、もうすぐ潰れます」

「嘘を付くのはやめてくれない!?」

「だってご両親からお願いされたんだけど」

「パパー! ママー!」

「というか、石川さんからもお願いされたんだけど。
おのれが僕のことが好きで、お嫁さんになりたがっているって」

「石川ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「どういうこと、かな?」


あれー! なんか尋問されてる! なんか問いただされてる!

アタシが言いだしたわけじゃないのに! ただ、あの……恭文くらいの体型なら、ガバーってされても怖くないって思っただけで……!


「まぁそっちはいいや」

「いいの? やっちゃん」

「あとでしばきますから」


いや、それ……アタシ的には全く大丈夫じゃない……!


「とりあえず今のところ、目立った動きはありませんよ。
……まぁ内部が実に嫌なゴタゴタで、カモフラージュされている可能性は」

「後継者争いだっけ? 大会社はそういうのが好きだよねぇ」

「それもガチすぎて、TOKYO WARの流れを思い出しますよ」


それでなおかつ仕事の話ができるっておかしくない!? これが大人!? 大人なのかなぁ!


「でも例の美城常務は、まだまともな感じだったんでしょ? だったら安心できるとか」

「その上が最悪なんですよ」

「……だよなぁ」

「バブリーな空気を忘れられないわけだね。僕達も気をつけないと」

「あの……」


そんな中で悪いけと、ちょっと立ち入らせてもらう……というか、お話させてもらう。


「アタシはここにいても」

「何を言っているのよ、美嘉。僕達はもう身も心も結ばれた仲なんでしょ? 一心同体だよ」

「そこまで言ってないー! パパなの!? ママなの!? 二人がそんなこと言ってたの!?」

「おのれがアホすぎて、永久就職を頼まれただけだよ」


最悪だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! というか、やっぱり怒ってる! 滅茶苦茶怒ってるぅ!


「しかも莉嘉ちゃんについては、魅音ちゃん達に鍛えられてるんだろ? 相手が悪かったな」

「そこまでなの、魅音さん達……!」

「そりゃあもう。俺とタカも数年前にR18状態に追い込まれたものだから…………タカァ!」

「思い出すな! 思い出したら……一緒に引きずり出すだろ!
俺達のあられもない姿を見て、笑っていたあの鬼どもを!」

「本当にヒドかったですよねぇ。二人の単装砲が丸出しでも、揃って笑っていて」

「「お前もな!」」


鬼の一人だった恭文が派手にどつかれる中、戦々恐々とする。

もしやアタシは……妹を、なんか関わっちゃいけない系に預けてしまったのでは……!


「まぁおのれが動揺するのも分かるけどねぇ。なにせ怒髪天を衝く勢いだったんでしょ」


それで恭文は平然と復活しないで!? どつかれていたよね! さっきまで床に倒れていたよね!

…………ああ、もういい! なんにせよただ者じゃないメンバーだし、いちいちツッコんでいたらキリがない!


そう、キリがない……だから気持ちを切り替えるけど、どうにも胸が痛くて。


「……正直、今でもまだ分かんないの。
アタシ、莉嘉をそこまで怒らせるようなこと……しちゃったのかな……!」

「怒らせるというか、『お前にだけは言われたくないわ、クソカスが』って心証だったんだろうね」

「ああああああ――!」

「だからアイドルを辞めて、これからは僕に御奉仕三昧ってわけだ」

「だからそれは知らないー! 本当にそんなこと言ってないからぁ!」

「関係ないよ」


断言された……! 断言されたぁ!

関係なく叩き伏せるって断言されたぁ!

ヤバい、未来が見えない……本気で未来が見えない!


「でもそういうの、俺とタカも覚えがあるなぁ」


すると大下のおじ様が、みそ汁を啜りながら小さく告げる。


「……おじ様達が?」

「俺達も上からは睨まれ、五月蠅く言われることが多くてな。クビになりかけたことも……それはもう星の数」

「犯罪者として追われたこともあるし……やっちゃんとはそんな一回で、一緒にドンパチしたし」

「しましたねぇ。
というか僕とアルトなんてアレですよ? 危うく世界中からフルボッコにされかけたこともあるし」

≪そんなこともありましたねぇ≫

「……怖く、なかったの?」


楽しげに……思い出を語るような様子に、つい口が出ていた。


「だって、相手は……権力もあって」

「権力ってのは、歯向かう方が楽しいんだ」

「美嘉ちゃんも一度やってみるといい。癖になるんだな、これが」

「でも、そのために……周りの人が、とっても困ることに、なるかもしれないんだよ!?
それに、その権力を持っている人の方が……正しいかもしれないじゃん!
だったら……そうだよ、だったら、ちょっと我慢したっていいじゃん! 我慢して、頑張って……それで!」

「それで、おのれは結果を出せなかったんだよね」


……そこで恭文が、鋭く胸を射貫いてくる。

まるで、あたしが何も分かっていない……頑張っていないみたいに。


「おのれは何も頑張っていない」


心が読まれた!? というか、断言された!?


「つーか疑問に思うなよ……竹達さんにもだめ出しされたでしょうが。
おのれは今回の仕事で、表現したいことが何もないって」

「う……!」


その通りだった。

実際は周囲の人達に勧められて、コーディネートされて……これで大丈夫だって、撮影に臨んで。


本当にただそれだけ……それで、完璧だって……そう、思いたくて……!


「僕もそうだし、鷹山さんと大下さんも……そのときどきで”通したいこと”があった。
それを通せなきゃ、刑事や忍者でいられても、なんの意味もなかったのよ」

「なんの、意味も……だったら……だったら、アタシだって!」


そうだよ、加蓮達のことも、何とかしたくて……お世話になっていた部署の人達も困っていて。

だから、守りたくて……あるよ! やるべきことが……アタシは頑張って、それで!


「じゃあなんで撮り直す必要があるのよ」

「それは……!」

「なんで莉嘉ちゃんに八つ当たりする必要があるのよ」

「それは……それは……!」

「逆ギレしてんじゃないよ、戦犯」

「――!」


完全に否定、された……。

そんな……遊び半分な子より、嫌でも頑張ったアタシが駄目だって。

それでも頑張り方が足りないのに、逆ギレして最低だって……完全に……!


「ほんと、アイドルなんてやめれば?」


やめて……。

やめてよ……!

そんなこと言うの、やめてよ!


しかもそれは……それはぁ!


「うん、莉嘉ちゃんの真似をしてみた♪」


………………最悪だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

というか心が読まれたぁ! また心が読まれたぁ! なんで! どうして!?


「顔に書いてるんだよ」


だから地の文と会話しないでぇ! あたし、一言も発してないのにぃ!


「まるでやっちゃんがプロデューサーのよう……と思っていたのに、思いっきり落としてきたよ……!」

「孫は成長していないようですよ、おじいちゃん」

「おじいちゃんはタカ」

「どっちもおじいちゃんだって言ったでしょ……」

「「貴様ぁ!」」

「なんですかー!」


またじゃれ合う三人を見て、アタシは敗北感で一杯だった。


身勝手ではた迷惑。疫病神でトラブルメーカー……そう表するのは簡単だった。

でもアタシは、大人になろうとしてもなり切れなくて。

なれないと割り切って、突き抜けるこの人達に比べたら、それはもう小さい存在で。


何より……何より、何より……!


「つーかいいんですよ! もうこれ以上言うこともないですし!」

「……お前、そんなんでよくハーレムできるよな」

「ほんとだよ……!」

「いや、本当にないんですよ! ……だよね、美嘉」


恭文の厳しい問いかけには……。


「うん……」


頷くしかなかった。


……ギャル以外になれない……そんなことは当然だった。

まずアタシが、それ以外の未来を考えようとしていなかったから。

それ以外の可能性を探そうと……探したいとすら思っていなかったから。


だったら、見つかるはずがない。

みんなのためとか、プロだからとか、言い訳だけで進んで……輝けるはずがない。


「うん……!」


そして、その解決には、誰の力も借りられない。

アタシが全部、何とかするしかなかった。

アタシが大丈夫と胸を張って、始めたことだから。


大人のみんなはアタシを信じて、仕事を預けてくれた。だから、アタシがやり通すしかない。


血反吐を吐いてでも、どぶに塗れてでも……その覚悟すらなかったのだと突きつけられ、涙が止まらなくなってしまう。


「――失礼するわね」


すると、そこで滅茶苦茶奇麗な女の人が入ってきた。

年はうちのママと同い年……ううん、少し若い。三十代前半くらい?

紫髪を後ろに一つ結びで纏めて、眼鏡の奥で切れ長な瞳を揺らす。


それともう一人……金髪ショートで、ふわっとした緑のワンピースを着ている人。

どっちもスタイルは、滅茶苦茶グラマラス……これは……まさか!


「レティさん……シャマルさんも、どうしたんですか!」

「ちょっとあなたに話が……って、あら」


その人達は半泣きのアタシを見て、納得が行ったように御主人様を見やる。


「……恭文君、結婚したのにまたお嫁さんを増やすの?」

「違う!」

「そ、そうじゃん! というかお嫁さんって……恭文、この人達こそ恭文のお嫁さんだよね!」

「それも違う!」

「違わないし! だってどっちもアンタの好みドンピシャだし!」

「恭文くん……若い子がいいの? でも、でも……私だって負けてないんだからー!」


ほら! フラグが立っているっぽいし! しかも滅茶苦茶頷いているし!


「そうね……いくらなんでも酷いわ。
一緒にお風呂へ入って、触れ合った仲なのに」

「私だってそう………………え、レティてい……レティさんが!?」

「それでお母さんのように甘えてくれたの」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


とりあえず美嘉には退室してもらって……というか追い出して、改めてレティさん達とお話です。

いや、正確には……詰め寄ってきた鷹山さん達から、詰問……!


「だ、だから……レティさんとは子どもの頃、何度かお風呂に入っただけで……」

「私は聞いてないわ! しかもお母さんのようにってことは……あ、あれね……あれなのね!
いきなり凄い甘え方をしてきたからビックリしたことがあったけど、レティさんとしてたから……恭文くんー!」

「子どもの特権全開で、いろいろ触れ合ったってわけか……!」

「この……俺達にできないことを平然とぉ!」


というか、シャマルさんがー! シャマルさんが凄い加速して、首根っこ掴んでくるー!


「でも甘えてくれただけじゃないわよね」

「え?」

「……夫もいなくて、寂しがっていた私を……小さな身体で懸命に受け止め、慰めてくれた」

「レティさんも言い方ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「おい、待て……その言い方だと」


すると鷹山さんが、僕の首根っこを掴んで締め上げ……!


「お前……幾ら何でも早すぎるだろぉ!」

「そうそう……というかやっちゃん、それは犯罪」

「そうですね、私も冷静ではなかったと思います。
だけど浴室ですっころんで、頭を打ちそうになった私を、ぎゅっと抱き締め守ってくれて……。
その力強さについ甘えてしまって、その後も何度も……」

「「「何度もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」」」

「だから言い方ぁ! ……というかレティさんに、そんなことを言う権利があったとは……確か、リンディさんのアホに絡んで暴言を」

「……分かったわ! 私もメイドとして御奉仕して、自分の罪を数えます!」

「それはいいから目的を話せぇ!」


駄目だ、この人もおかしい! というか、グリフィスさんに話そう!


「もちろん、恭文くんと一緒にいるためよ……! 私、これから一緒に暮らすから!」

「シャマルさんも落ち着けー!」

「……あぁ、でも……ほんとごめんなさい。私もちょっと、冷静じゃなくて」


自覚はあったのか……それに驚愕していると。


「なにせもうすぐ、地球は管理世界入りするかもだし」

「はぁ!?」

≪なの……え、どういうことなの?≫

「レティさん……いや、レティ提督とお呼びした方がいいんでしょうか」

「名前で呼んでください。あなた達の方が目上ですし」


僕を解放する鷹山さんや、身を正す大下さんに、レティさんは笑顔で応え……軽くせき払い。


「恭文くん、粒子結晶体暴走事故によって、地球近辺の次元が安定しないのは……知っていたわね」

「……位相の乱れってことなら、オーナーからも聞いていたので」

「それは管理局の方でも観測していて……そこから、アリスタの詳細と危険性も掴んでいたの」

「……嘘ぉ」

「言いたくなる気持ちは分かるけど……さすがにあれは、バレるわよ」

「ほんと空気を読まない組織」

「それについてはいろいろ覚えがあるけど、今回は許して……!」


そりゃそうかー。派手な事故な上、ガンプラバトル自体はミッドからも注目されていたし……ねぇー。


「ただ余りに詳細がぶっ飛びすぎているし、ガンプラマフィアの例もあるから……その扱いは地球のみなさんに一任する形となったわ」

「ロストロギア認定もなしと」

「そこまでやったら、逆にバレかねないって理由でね。
……だけど次元間の乱れは見過ごせない。
そのため私が顔役という形で、各国政府と連携。問題に対処することが決定したの」

≪いや、あなた人事部の人間……だからですか。
まだ開国宣言する状況じゃないから、内密に人を動かすならと≫

≪シャマルさんがいるのもそのせいなの?≫

「シグナムもさっきまでいたわよ? とりあえず政府筋と……ニルス・ニールセン君達には状況も説明し、了承を得られた。
もちろんプラフスキー粒子の扱いは、さっき言った通り……あなた達の”それでも”に賭ける形でね」


どうやらその辺り、結構悶着したらしい。

でも悪い方向ではないらしく、レティさんは苦笑していた。


「今回は本格的な開国申し入れじゃないから、あくまでも緩い形で収まっている。
……だけど、今後起きるであろう事件に対処するつもりなら注意して」

「やっちゃん、大会出場にオルフェンズの現場にも出入りして、世界的に有名人だもんなぁ……」

「ヘタな行動をとれば、そういうのが全部パーか……ただまぁ、コイツに言っても釈迦に説法だろうが」

「鷹山さんと大下さんだけには言われたくない……!」

「……それについては同感だわ。あなた方も相当無茶苦茶をしているそうですし」


そこでレティさんがシャマルさんを見やると。


「えぇ、それはもう……! 恭文くんのクレイジーさが加速したのは、間違いなくお二人や魅音ちゃん達のせいで」

「「いやいや……俺達は普通の刑事で」」

「普通の刑事は核爆弾解体とかやりませんよ!? それは恭文くんもだけど!」

「それは言うなー!
……まぁ、大体分かりました」


ついレナみたいに断言してしまうけど、話が逸れないうちに気を取り直す。


「ありがとうございます」

「いいえ。それで一応聞くけど……怪物騒ぎって」

「イマジンです」

「……こっちの領域でもなく、むしろ良太郎君達と……」

「ですねぇ……ただ、出現頻度はかなり低いようなんですよ。
むしろこれから、レティさん達寄りになっていくかもしれません」

「そうならないよう注意していくわ。現地の観測スタッフも用意する予定だし。
もちろんあなたが動きやすいよう、クロノとアコース査察官も調整しているから」

「クロノさん達が?」


いや、次元航行艦隊の領域でもあるだろうし、出張ってくるのも分かる。

アコース査察官も査察官として、この提携をチェックする必要があるのも……でも、僕のためって。


「一応は様子見という部分が大きいけど、それでも備えは必要ということよ。
それに……地球サイドからも、”開国”に向けた準備がしたいと提案されてね」

「その辺りの話も込みと」

「なのでまぁ、もしこっちの領域よりで動くときは、私の権限で依頼を出す形にするから……あまり無茶はしないようにね」

「分かりました」


「……じゃあ、私からの難しい話は以上になるけど……」


レティさんは両手をパンと叩き、なぜか笑顔でお願いのポーズ。


「メイド服、あるかしら」

「は……!?」

≪興味があるんですか、あなた……≫

「だってー! 今年の忘年会で、隠し芸やることになってね!?
もう、コスプレで笑い飛ばすしかないかなーって思ってて……」

「提督としてどうなんですか!?」

「提督だからこそすっ飛ばすのよ!」


なんて力強い言葉! 偉い人だからこそ、馬鹿をやるときには率先してってことかぁ!

……でもなぜだろう、これは駄目だ……きっと僕が練習台にされる! それでまたフェイトが勘違いをする!


「それなら、私も頑張るわ! さっきの……美嘉ちゃん!? あの子には負けないから!」


そしてシャマルさんが対抗意識を燃やしてくる! ここ最近は落ち着いたと思ったのにー!

ならばどうするどうする……そうだ! 謎は解けた!


「……鷹山さん、大下さん、よかったですね。メイドさんが増えましたよ」

「やっちゃん、俺達そもそも……メイドさんなんていないから」

「そうそう。というか、それは最低だと思うよ?」

「ここでレティさんをメイドさんにしたら、本当に最低だと思うなぁ!」

「………………あ!」


そうそう……ほら、レティさんも気づいてくれたよ。

さすがにね、その……グリフィスさんにも申し訳ないし。


「そうか……私は、リンディにメイド服を着るように言うべきだった」

「は……!?」

「ああ、一生の不覚だわ! きっとリンディが暴走したのも、寂しかったからなのよね。
彼女になるかどうかは別として、そういう寂しさを埋める付き合い方を示せれば……」


よく分からない後悔だけど、続けるとマズいことは理解した。

なのでレティさんの頭を、ハリセンでどついて……御主人様として説教です!


「……恭文くん!」


でもそこで、唐突に飛び込む影……というか、美奈子だった。


「城ヶ崎美嘉さんをメイドにしたって……どういうこと!?
恭文くんには……御主人様には、私の御奉仕があるのにぃ!」


………………よし、纏めて説教でいいや! けってーい!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして、あっという間に三日後……なぜか佐竹美奈子から敵意を向けられながらも、メイド生活は終了。

それでどうしようと思っていると……朝一で魅音さんに引っ張られた。


「魅音さん、あの……」

「し。収録中だから」

「それは、分かるけど」


というかこれ、例のとときら学園だよね。

愛梨さんも………………愛梨さん、いないけど。


きらりと、なんでか楓さんがいるけど……!


「――はい。というわけでかえきら学園の生徒さん達をご紹介しまーす」

「みんなー、元気よくお願いにぃ〜」

『はーい!』

「あの、魅音さん……愛梨さんは」

「あれ、聞いてない? 愛梨、休業したんだよ」

「は……!?」


え、ちょ、待って……なんで!? だってそんな理由が……まさか、美城常務の体勢に絡んで。


「最近起きた殺人事件で……昔お世話になっていたお姉さんが逮捕されてねぇ。しかも計画殺人」

「え……!」

「その精神的ショックが大きくて、仕事ができる状態じゃないから……というか、本当に知らなかったんだ。社内はこの噂で持ちきりなのに」

「な、なにも……」


あぁ、でもそっか……分かった。よく分かった。

アタシが自分のことばっかで、周囲を見ていなかったから……。


「――赤城みりあです!」


そこでハッとすると、みりあちゃんが笑顔でガッツポーズ。


「最近お姉さんになったので、お姉さんキャラで頑張ります!」


そう言えばみりあちゃん、CPに入ったくらいから妹ができたんだっけ。

なんだか自分を見ているようで懐かしくなっていると、莉嘉が立ち上がり。


「城ヶ崎莉嘉です! キラキラアーティスティックを目指して頑張ります!」


そう言いながら、両手を広げてウィンク。

というか、ネイルを……しっかりアートされたネイルを見せてきて。


「わぁ、莉嘉ちゃんは奇麗ね」

「ほんとだにぃ〜」

「ガンプラ制作で鍛えた塗装・工作技術の賜だよー」

「「なるほどー」」


園児服なのに、ギャルテイストのネイルアート。

でも違和感はない……反するはずのものを、莉嘉はしっかり着こなしていて。


「何を着ていても、自分は自分……」


ぼう然とするアタシの背中を、ぽんと……魅音さんが叩く。


「そう割り切ったんだよ」

「魅音さん……」

「アンタはどうする?」


それは、逃げも込みの問いかけだった。

どうするか、どうするか……現場を出て、いよいよ再撮影の場に入っても迷い続けて。


でも、そんな暇はもうないと、腹を括るしかなくて。


「――では、撮影始めます!」

「はい。よろしくお願いします」


あの衣装を着て、大人っぽいメイクもして……スタッフさんに囲まれ、深呼吸。

……そのまま……いつものアタシらしく、前のめりに笑顔でピースサイン!


「え……あの、それはコンセプトとは」


すかさずうちの部署からきた、水先さん(女性)が止めようとする。

石川に怒鳴りつけられたときみたいに、怯えた顔で……。


「いいや、これでいこう」


でもそれを逆に制止したのは、カメラマンさんだった。

険しい表情だけど、変わらずにシャッターを切ってくれる。


「強い意志を感じる……一回目とは段違いにいい」

「駄目です! あの、一回目と同じでお願いします! じゃないと」

「だったらなんのための撮り直しだ」

「……!」

「城ヶ崎くん、その調子でもう二〜三ポーズ……頼むよ」

「は、はい!」


――どんな服を着ていても、どんなメイクをしていても、アタシはアタシ。

少なくとも今すぐ大人になれるわけじゃなくて、変わっていく自分が見えるわけじゃなくて。

半端な背伸びしかできないなら、今この瞬間を、やりたいように突き抜けるのが……アタシにできることで。


だから笑顔で……うたって、踊って。


本当の意味でアタシは、新しいアタシに近づいていく。


(NextStage『Jerk Joke』)







あとがき


恭文「というわけで……明日(2018/12/31)、幕間リローデッド第24巻が販売開始。みなさん、何卒よろしくお願いします」


(よろしくお願いします)


恭文「今回は卯月の課題。
粒子結晶体暴走事故で変化していく世界。
更に美嘉の悲惨な末路……非常に重い話で、構築が大変だった美城動乱編です」

古鉄≪美嘉さん、まさか……遺言もなく、突如胴体が真っ二つにされるなんて≫


(さっきまで命だったものが転がる)


恭文「こんな退場を誰が予想したのか……そして莉嘉ちゃんは復讐という狂気に刈られ、次回大暴れを」

美嘉「待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇ!」

恭文・古鉄≪「あ、生きてた」≫

美嘉「驚くなぁ! 末路って何!? 生きてるから! 死んでないじゃん!」

恭文「だってクビでしょ? これ」

美嘉「ならないから!」


(『………………当初のコンセプトとは随分違うが、まぁいいだろう』)


恭文「あぁ……最初がアレだったしねぇ。ところでマネキン」

美嘉「扱いが酷くない!?」

恭文「そりゃあもう……だって僕達、毎日愛し合うような関係なんでしょ?」

美嘉「パパー! ママー! どういうことなの!? アタシにも覚えのない情報が飛び込んで混乱状態なんだけどー!」


(どこからか情報を仕入れたようです)


恭文「まさか美嘉が、ちょっと危ないな展開を本編に持ち込みたいとはなぁ。そっかそっか、知らなかったよー」

美嘉「それはない……というかあの、アタシとそういうこと……したいの?
だ、だからそうやって話を持ちだして……様子を見ているとか」

恭文「そんな馬鹿な」

美嘉「……」

恭文「そんな馬鹿な」

美嘉「いや、二度も言わなくていいから……! 聞いてないとかじゃないから!
というか、それならなんなの!? もはやセクハラの領域なんだけど!」

恭文「……フェイトまでもが誤解して、応援モードなんだよ!」

美嘉「本当にごめんー!」


(後日、両家による家族会議がなされたそうです。
本日のED:サイキックラバー『タギルチカラ』)


恭文「そろそろあれだ……どうして未来世界でテディが普通に歩けるとか、そういうことをちゃんとやりたい」

古鉄≪まぁ同人版でもちょいちょいやっている話となりますが、少しずつ針を進める予定です。
それはつまるところ……子育てや勉強で日常よりだった私達の冒険と戦いが、また激しさを増すということで≫

恭文「良太郎さんの世界もジューランドと融合とかしちゃうし、大変だぞー」

良太郎「それって前に拍手で来ていた……って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


(おしまい)





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