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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory81 『倒すべき敵は』

前回のあらすじ――ジークリンデ・エレミアが、術の使い手が最強である現状。

その意味を伝えたところ、それはもう……みんなに絶大な衝撃を与えて。


「もちろん最強なんて、かなりあやふやなものだ。
例えば警察機構≪管理局≫が目指すものと、タイマン基本なIMCSの王者が示すもの……これらは当然イコールにならない」

≪警察機構の基本は、その組織力を生かした人海戦術ですからねぇ≫

「そ、そうだよ。だから、そこまで重い話にはならないんじゃ」


そう言いかけるも、フェイトは”違う”と悟り、右手でおでこを叩く。


「……それだけじゃ、なかったよね……!」

「特にジークリンデ・エレミアの場合、イレイザーがあるからね。
高い格闘能力があれば、それは正しく攻防一体の要塞……触れるもの全てを消し飛ばすんだから」

「洒落にならない事実ですよねぇ……」


シオンは珍しく冷や汗を垂らしながら、さっと髪をかき上げる。


「次元世界……それを平定する管理局は、非殺傷設定を前提としています。それを良しとする教育も世界規模でされている。
……なのに、そんな中で生まれているストライク・アーツなどが、殺人術に打ち勝てないとは」

「なぁ馬鹿弟子……」

「なんですか。文句があるなら先生を倒してくださいよ」

「言われなくても、今度顔を見せたらぶっ飛ばすっつーの!
……つーか、そうじゃねぇんだよ。リンディさんはマジでその辺りに」


そう聞きかけるも、師匠ももう分かってる。

だから頭をかいて、自嘲のため息を吐いた。


「気づいているに、決まってるよなー。
あの人が言ってきたことは、裏を返せば”術”潰しだ」

「先ほども少し触れていたが、その辺りは管理局上層部全体に言えることだな……」

「だからヴェートル事件でも手柄を奪ってくれたし、最高評議会もアレだったわけですよ」

「アタシ達的にはそれ、受け入れがたいけどな……!」

「ヴィータ……」

「戦乱の世じゃない、子ども達が夢を繋げて、育てられる平和な世界なんだぞ。
この大会だって、だからこそできるもんだ。なのに……」


師匠の嘆きも理解できる。

そんな大会は夢を育てる場所でもある。その頂き≪最強≫に、過去の遺産が居座っているんだから。

しかも……それは奴ら≪ジークリンデ達≫の領域に深く踏み込むということでもある。


術の使い手と等しくならなければ、そもそも打ち勝つことができないのよ。

……その難易度が高いのは、エリオが打ち負けたことから察してほしい。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory81 『倒すべき敵は』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クロノ君が以前から、恭文くん……ヒロリスさんとサリエルさん、トウゴウ先生を見ていて感じていたこと。

たとえある一側面だったとしても、次元世界の魔法文化が否定され続けている事実。


それは、局員でもあった私からしても、とんでもない衝撃で。


「う、嘘だ……!」


アルフは信じられない様子で、半立ちになり……必死に首を振る。


「そんなの、管理世界では駄目って決まった戦い方じゃないか!
なのにそれを続けている奴らに、数十年経っても勝てない!? あり得ないだろ!」

「古代ベルカの戦乱時代は数百年続いたんだ。当然その中で必要とされた”術”の積み重ねも、同じだけの時を過ごしている。
……僕達の”道”は、まだ熟成を続けている段階なのだろう。だから列強の修羅達に届かない」

「嘘だ! アタシはそんなの信じない!
……そうだ! 術を使う奴らが、みんなやめればいいんだ! それなら」

「真正面から戦うことなく……”どうやっても勝てないから、その手は取らないでください”と頭を下げるわけか、君は」


な、なんてプライドのないたとえ……!


「母さんのように」

「え……」

「クロノ君、どういうこと!? お母さんはそんな…………こと…………!」


そう聞きかけるものの、私も……アルフも気づいた。


母さんの言葉は確かに、家族を心配するものだったのかもしれない。

でも恭文くんはその手を払って、自分なりの道を進んだ。

次元世界だけじゃなくて、この世界で……生まれた世界で戦い抜くためには、”術”の力が必要だったから。


「そして恭文の選択は正しかった。
この世界でも恭文は、そのときどきの協力者達と手を取り合い、幾度も国家存亡の危機を救った」


恭文くんが関わった、TOKYO WARや核爆破未遂事件。最近発生した粒子結晶体暴走事故のことなのは、すぐ分かった。


「次元世界でも数少ない”術者”として、超常的犯罪に対しての切り札となった」


ヴェートルの事件や、JS事件……そうだ、マリアージュ事件でも活躍していたんだっけ。


「今にして思えば……恭文に限らず、そういう術者が……第二・第三の選択を持った人間が、敵側と拮抗できたことが大きかった。
前線での蹂躙が阻止され、こちらの組織力を存分に振るうことができたからな」

「……対等な暴力が振るえなければ、そもそもそれ以外の選択肢は存在できない……」

「そうだ」

「だから……あり得ないだろ!」

「きっと、母さんもそんな気持ちだったんだろう」

「当たり前だ!」



もしかしたら……それは当然の結果だったのかもしれない。


「それじゃあ管理局は……お母さん達は、なんのために頑張ってたんだよ!」


術に対する忌避感。致し方ない感情とはいえ、そこに嘘が混じっていたのだから……。


同時に痛感する。

それすら分からない自分は……それがみんなのためだと曰う自分は……。


本当に、戦い続けているみんなとは、別世界の人間になっているのだと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……でもそれは、道半ばだから……だよね」


エリオは俯かない。

顔を上げて、痛めたはずの拳を強く……強く……何かを刻み込むように、ぎゅっと握り締める。


「僕は恭文やサリエルさん達みたいにはなれない。ジークリンデ・エレミアみたいにも……残念ながらなれない。
だけど、決めたものに価値は感じているし、貫きたいと思っている」

「うん」

「だから進む。
そうしていつか恭文にも、サリエルさん達にも……彼女にも、僕の背中を見せつける! それが僕の道だ!」

「エリオ……」


どうやらエリオは問題ないらしい。自分なりの道を……進みたい未来を見据えた。


「ならもっと頑張らないとね。ヤスフミもそうだし、サリエルさん達だって強くなってるんだから」

「はい! ……差し当たっては来年のインターミドルですね。頑張って鍛え直さないと」

「そのときはまた私がセコンド……あ、駄目かな」

「それは、キャロの進路を優先してもらって構わないよ。植物学の勉強もあるんだし」

「そうじゃなくて……貴音さんがいいのかなーって」


そのとき、電流走る……。


「貴音さんと、食べ歩きデートとかも一杯しているようだし……ね?」


自然と立ち上がり背を向けると、なぜかエリオが僕の左手を掴んで制止してくる。


「恭文」

「離してよ、エリオ……」

「どういうこと……!?」

「そ、そうだよ! どうして貴音ちゃんが!? というかデートって……エリオー!」

「僕は知らないよ! 言う機会もなかったし!」

「エリオ君、私は何でも知っているんだよ?」

「「「怖!」」」


え、何! どっかからバレていたの!?

ヤバい、このままだと僕も巻き添えにされる……だから。


「師匠、ザフィーラさん、ご飯を食べに行きましょう」

「……ミウラー、そろそろ帰り支度するぞー」

「今日はゆっくり休め。反省はその後だ」

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


サラッとミウラのベッドに戻っていたぁぁぁぁぁぁ! ちくしょお、逃げ足だけは年々早くなってー!

あ、ヤバい……エリオの手が、まるで命がかかっているが如く、どんどん力強くなってぇ!


「恭文、お願い……助けてぇ!」

「僕に言うなぁ!」


つーか離せぇ! この手を離せぇ! 僕は無関係だぁ! おのれの問題なんだから何とかしろー!

つーか……キャロが本当に怖い! やっぱりこいつ、二代目魔王の資質があるよ!


「僕は黙っていたからね!? 全力で黙っていたからね!?
おのれが迂闊に証拠を残していたせいだからね!?」

「全力で気をつけていたんだけどぉ!?」

「でも、貴音ちゃんは765プロのアイドルだし、ヤスフミがプロデューサーだし」

「もう僕の手を離れて久しいよ! もう赤羽根さんの管轄だよ!」

「あ、そっか。赤羽根さんに聞けばいいんだ。じゃあ早速電話を……」

「「違う、そうじゃない!」」


駄目だ、フェイトは役に立たない! 分かってはいたけど!

とはいえ……そうだ! この場はあの……うん、まず関係性を明らかにしよう! 変なところもないだろうし!


「エリオ、じゃあ……あれだ! 765プロのプロデューサーとして聞くね!? どういう感じの付き合いをしているのかな!」

「いや、あの……貴音さんとは、食のことで気が合うので。ただ一緒にご飯を食べて……それだけで……。
というか、僕だけじゃないよ!? ギンガさんとか……聖夜市にある佐竹飯店とか、よく食べにいくし!」

「それだぁ! キャロ、ギンガさんと佐竹飯店……そこの娘さんにも聞いてみるといいよ! きっと証言してくれるよ!」

「……なぎさんも通っているの?」

「通っているというか、765プロのアイドルなんだよ! ほら、佐竹美奈子……ガンプラバトル世界選手権の会場レポートとか、していたよね!」

「そうそう、その人! 旅に出てから仲良くなったし! いっぱいご飯も食べさせてもらったし!」

「餌付けされたってことかぁ」


怖いよ! 結論が怖いよ! いや、確かにそれ……僕にも突き刺さるけどぉ!


「つまり……ギンガさんとも、その美奈子さんとも……三人で……四人で……ふふふふ……!
そう言えばギンガさんも大きいし、美奈子さんも画面を見る限りは……!」

「あ、美奈子ちゃんは大丈夫だよ? ヤスフミのことを慕って、メイドさんもやってくれているし」

「……エリオ君、そのメイドさんに手を付けているんですよ!」

「ふぇぇぇぇぇぇぇ!? あ、そう言えばギンガもヤスフミのことが好きだし……エリオ、そうなの!?」

「「アホかぁ!」」


しかも凄い妄想しているよ! きっと四人で凄いことになっていたよ!


「恭文、違うから! そんなことしていないから! というか……無理だよ!
ギンガさんとか、一生引きずるって言ってるんだよ!? 無理だよ! 不可能だよ!」


というか、エリオが顔面蒼白で……僕にすがりついてきてぇ! 本気で釈明しているよ!

でもやめて! それ、僕にも突き刺さる! 特に美奈子は……ねぇ!?


「だから他の所も合うかどうか、試したんだよね」

「キャロ!? どんどん話を進めないでぇ!」

「なぎさんみたいに、アバンチュールを楽しんでいたってことかぁ。
あはははは……あははははははは……!」

「だからどういう意味ぃ!? 恭文、なんとかしてー!」

「……分かった!」

「できるの!?」

「もちろん!
……キャロ、一応言っておくよ? 男を縛り付ける女はモテないから」


その瞬間、キャロの黒い笑いが凍り付き、ヒクヒクと頬が震え始める。


「エリオにはエリオの意志があるんだから。そこは上手く折り合って」

「………………分かったよ! だったらハーレムでいいよ! 私、頑張るよ!?」

「「キャロー!?」」

「あ……そう、なんだね。うん、だったら私もアドバイスできると思うんだ。
まずは貴音ちゃんと、ギンガとも話し合って……あとエリオもだよ?
好きになるなとは言わないけど、相手の気持ちも尊重した上で恋愛してほしいな」

「まず僕の気持ちを尊重していない人に、そんなこと言われたくないんですけどぉ!? ……恭文ー!」

「はいはい、おのれは悪くない。悪くないからねー」


さすがに可哀相で、そのまま泣きつくエリオを受け止め、よしよし。

……でもどうしよう! どんどん厄介なことになってる!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ノーヴェさんからされた、術や最強の話は……やっぱ衝撃的で。

もちろん答えは分かっている。腐らず、諦めず、あたし達なりに進んでいくしかないんだって。

でも、その壁が半端なく厚くて、社会や世界的にあと数十年の積み重ねが必要と言われたら……さすがにキツい……!


それでも気持ちを何とか切り替えて、第二試合がスタート。

改めて強くなる意味や、今どうして戦うのか……その意味を刻みながら、拳を振るい。


「――二回戦突破! よくやったぞ、お前ら!」

『はい!』


あたし達チーム・ナカジマと、空海とりま達チーム・ガーディアンは二回戦突破。

今日のスケジュールも終わりなので、みんなで休憩エリアの一角に集合となった。


「で、エリオとミウラについては心配ねぇ。
ミウラはついさっき、ご家族とヴィータさん達が連れて帰ったからな」

「エリオも後遺症が残るような怪我はないよ。明日にはフルパフォーマンスだ」

「……よかったぁ……」

「はいー」


それも心配だったので、ヴィヴィオちゃんと安堵する。


「……スゥがお直ししてもよかったんですけどぉ」

「それは駄目だよ。キャラなりのことがバレたら面倒じゃん」

「そうそう。それにキャラなりには、極力頼らない……こっちに来るときにも決めたよね」

「そうでしたぁ〜」

「あむちゃんが自分から決めたんだよねー。成長したなー」

「うっさいし!」


もちろん、キャラなりやキャラチェンジは大事なもの。スゥ達との絆でもある。

だけど……あたしもそれだけじゃあ駄目かなって、ちょっと思ったんだ。だからミキが言ったみたいに……ね?


………………まぁ、それを早々にすっ飛ばす羽目になったのが、キリエさん達の一件なんだけどさぁ!


「で、次の第三試合だ。
試合は来週――その前にシード選手同士のプライムマッチはあるが」

「アタシはそのマッチで勝った方と対戦ですね!」

「そう。ハリー・トライベッカ選手か、エルス・タスミン選手……どちらも強敵だ」

「頑張ります!」


リオちゃんは第三試合から波乱だなぁ……! あたしも負けていられないと思っていると。


「で、そんなリオとハイランカーのどっちかと、第四試合でりまがぶつかるわけだ」

「りまが!?」

「そう……ならリオ、私のところまで勝ち上がってきなさい」

「そうだそうだー! 待ってるよー!」

「望むところです!」

「アホかぁ! おのれも一回勝ち上がるんだよ!」

「そうじゃん! 初出場じゃん! シードとかないじゃん!」


なのになんで余裕綽々!? おかしくない!? あり得なくない!?

余裕ぶって、髪をかき上げている場合じゃないからー!


「ヴィヴィオはミカヤ・シェベルと対決だ」

「……ミカヤさんかぁ」

「なお、あむは四回戦でそのどちらかとドンパチ」

「りまと同じパターン!?」

「あむさん、待っていてくださいね!」

「ヴィヴィオちゃんもやめて!」


いや、あたしが見下ろす立場みたいになっているの、ほんとやめて!

身長差はそうだけど……今は違うじゃん! 試合の話じゃん!


……だけど。


「ミカヤさんとかぁ……」

「ブレイドフォーム、使うか?」

「ううん。そこは最初に決めた通り」


ヴィヴィオちゃんに迷いはないらしい。

鋭く、みんなに当てないよう軽くジャブを放つ。


「ストライク・アーツで決めてみせるよ!」

≪!≫

「あぁ」


クリスともども気合い十分なので、あたし達も一安心。


………………あたしはできなかった!

だって、四回戦で当たる可能性が大きいじゃん!

それに……ミウラとの試合も考えると、勝ちの割合が大きいのはミカヤさん。


これは、改めて鍛え直さないとヤバい……!


「でさぁ……その四回戦で待っている敵なパターン? もう一つあるのよ」

「はぁ!?」


一人決意を高めていると、恭文が呆れ気味に……空海を見やった。


「俺か!?」

「そう。……第三試合で、シャンテとジークリンデがぶつかるからね。おのれは勝った方と対戦」

「おぉ……! 去年とより早いタイミングか!」

「空海、頑張ろうな!」

「あぁ!」


空海はダイチのエールを受けて、更に燃え上がる。

でも三連続って……! 一体どんだけ因縁塗れなの、今回の大会!


……そう思っていたあたしは、まだ甘かった。


「で……一組第三試合は、アインハルト対コロナ」


因縁はもう一つあって……。


「同チーム内での対決になる」


ジークリンデの試合を見てから、重たい表情ばっかりのアインハルト。

そんなアインハルトを意識して、険しい表情のコロナちゃん。


一方通行な感情の流れが、妙に嫌な感じで……。


「……でだ……」


あれ、話が続く……まさかまた、因縁が!?


「あー、違う違う。試合とは関係ないんだよ。
……恭文、その……かなり驚くと思うんだが」

「僕?」

「あぁ。さっき……お前が医務室に行っているとき、なのはさん達と会ってよ。それで……」

「――あ、いたいた!」


そのなのはさんが、恭文の後ろからとたとたと近づいてくる。

更に脇にはなぎひことリズム、てまり…………あれ、知らない人もいる。

金髪ショートで、パンクっぽい服で……なんか、胸がノーヴェさんや美奈子さんレベルで大きくて……!


その風貌で、全てを察する。


「え……!」

「……お前の知り合いなんだよな、彼女」

「知り合いもなにも」

「――恭文ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


怒りのままに叫び、一気に詰め寄る!

なのにコイツ、すぐ逃げて……だから追いかける!


「逃げるなぁ! またフラグ立てたの!? 結婚してるんだから自嘲しろぉ!」

「違う違う違う! あの子は」

「でもアンタの好みドンピシャじゃん!」

「だから違うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――エリートクラス二回戦は無事終了。

三回戦はまた来週。

選手達はみんな家に帰って、次の戦いへと思いを馳せます。


そんなわけで、ヴィヴィオとあむさんも、自宅に帰って……夕飯前にのんびりです。


「……あの、僕……ここにいて大丈夫でしょうかー」

「大丈夫だよ、パパー」

「ヴィヴィオちゃん!?」

「ヴィヴィオ、やめて! そのプレッシャーは中学生にかけていいものじゃない!」

「そうじゃん! はいはい、遠慮してー!」


娘の切ない願いは、あむさんとママに制止されてしまう。

……というか、あむさんはアレだなー。


「……あむさんに止める権利があるとは、ヴィヴィオは知らなかったなー」

「いきなり何!?」

「だって勘違いで迷惑をかけて」

「ごはぁ!」


吐血し、倒れるあむさんを見ながら合掌――。


……なおあの美人≪福田のり子≫さん、765プロの新計画でスカウトしたアイドル候補生だそうで。

恭文も知らなかったそうなんだけど、次元世界のこととか、魔法のこととかも知っていて……それで観戦に来たんだよ。

だから恭文とフェイトママ達も、のり子さんのお友達に挨拶して、そのまま一緒に変えることになった。


だけどアイドルさん……増えるんだ。

ヤジマ商事と連携するそうだから、資金面は問題ないそうだけど……大丈夫かなぁ。


絶対もう、誰か一人くらいはフラグを立てていると思うんだよね。


「でものり子さん……だったよね。お友達がいるとはいえ、わざわざ乗り込んでくるなんて」

「かなり格闘技が好きみたいだよー。プライムマッチと、来週以降の試合も追いかけるって」

「それは念入りだー」


プライムマッチ、平日……水曜日にやるんだけどなぁ。平日とかお構いなしかぁ。

でも魔法のこととか知っている子がいるのは、恭文的にも助かるよね。今後が楽しみー。


「そう言えばヴィヴィオ……」


ワクワクしていると、リズムがすーっとヴィヴィオの前にくる。


「次の試合はコロナとアインハルト……だったよな」

「そうだよー。同門対決!」

「ヴィヴィオはミカヤ選手と戦うし、リオちゃんは上位選手……チーム・ナカジマ、三回戦は分水嶺だね」

「大変だよー。頑張るよー」

「……あとは、友達でもあるから、気後れしないかどうかだね」


あぁ……ママもそこは心配するんだ。フェイトママとかとはいろいろあったから。


「恭文君辺りは」

――え、なんで迷うの? 目指すは勝利のみでしょ――

「……って、部活理論でぶちかますけど……!」

「……実際三条君とやり合ったときとか、実はその流れでもあったみたいですね」

「いや、アイツは割り切りよすぎるだけじゃん!」

「なんだよねー。実際あむさんも割り切るのは大変で」


あぁ……幾斗さんのことか。確かにデスレーベルとかも大変だった。


「でも、大丈夫とは……思うんだ。
あたしや幾斗とかは命がけだったけど、これは試合だし」

「うん……それは僕も同感。
少なくともコロナちゃんは、試合結果を悪く引きずりタイプじゃない」

「え、それならアインハルトだってそうじゃん。ノーヴェさんや恭文とは」

「…………アインハルト自身は、そうだよね」


なのはママは含みのある形でそう答え、軽くこめかみを押さえる。


「ねぇヴィヴィオ」

「うん?」

「今日……ジークリンデ・エレミアの試合が終わってから、あの子は変じゃなかった?」


……その言葉で、あむさんともどもギョッとさせられる。


「どういう、意味かな」

「変に無口とか……逆に感情を吐き出していたとか」

「…………その無口だった」

「あたしも気づいた。こう、意識がここにないっていうか……」

「原因はエレミアだよ」


エレミア……チャンピオンの生家?

ママは疑問顔なヴィヴィオ達を見ながら、食卓に座る。


「……それって、あれ? 黒のエレミアっていう」

「ノーヴェさんが言ってたんだー。……次元世界最強かつ原初の総合格闘技! 無手を持って列強の王達と肩を並べた一族!」

「彼女も古代ベルカの末えいだったんですか! え、ということは……もしかして……」

「エレミアって、覇王イングヴァルトと関わりがあるの?」

「正確には――」


そしてママは、困り気味でヴィヴィオを……ヴィヴィオの瞳を見つめてきた。


「聖王オリヴィエ」

「……どういう形で?」

「聖王オリヴィエに格闘技を教え、更に彼女の義手を作ったのは……黒のエレミアらしいの」

「マジ!? じゃあ……」

「間接的に、覇王の”後悔”を生み出している」


なるほど……それでアインハルトさん、アンニュイだったわけだ。

アインハルトさん自身はともかく、覇王イングヴァルトの方は試合結果を引きずりまくりだしねー。


「でもそれは、単純な技術ばかりじゃないんだろうね」


かと思っていたら、ママは大きくため息。


「……聖王オリヴィエは、人じゃなかったんだよ」


……そういうことならヴィヴィオも……それに、あむさんとなぎひこさん、ラン達も分かる。


思えば、もっと早くに疑問を持つべきだった。

確かに後悔する状況ではあった。オリヴィエは大事な人だったんだから。

だけど、それは余りにも”深すぎた”。イングヴァルトはその後の生涯も、強くなるために費やし、戦の中で生涯を終えたんだから。


その後悔は子孫に遺伝し、アインハルトさんも引っ張られるほどに大きくくて……。

もう一度言う、もっと早くに疑問をもつべきだった。

ヴィヴィオ達は結果を知ったからこそ、経過と原因に今の今まで思い当たらなかった。

そもそも彼が覇王と呼ばれたのは、ゆりかごの一件が起きた後だもの。


ベクトルが大きいのは、負けた事実ではなくて……”なぜ負けたのか”だったんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


家に帰り着いてから、すぐに今日の試合……チャンピオンとモンディアルさんのログを確認する。

何度も何度も何度も何度も……夕飯を取ることも忘れて、ただ一人で見つめ続ける。


「間違い、ない……」


なぜ今の今まで思い当たらなかったのだろう……!

確かに私は、クラウスの記憶を全て受け継いではいない。あくまでも一部に留まっている。


だとしても、これは……この”化物”は、決して忘れてはいけないのに!


「黒い髪と戦衣、漆黒の魔力……それを凝縮した、抹殺の爪」


エレミア……黒のエレミア……。


「エレミア……あなたは……!」


彼女に鉄の腕を与え、無敵の武技を伝え、共にあり続けた友人。

私≪クラウス≫もその日常の中にいた。それはとても幸せな記憶だったと思う。


――オリ……ヴィエ……!――

――ごめんなさい、クラウス――


だけど、エレミアのせいでもあった。

エレミアがいなければ、彼女は戦うことなんてなかった。


――でも、あなたは人です――


エレミアがいなければ……!


――人では……私達≪化物≫には勝てない――


彼女は――”人ならざる獣”など、目覚めさせなかったのに!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プライムマッチもあるけど、今週はそれぞれに特訓の仕上げです。

アインハルトとコロナについては、同門対決もあるので特に別々。

オットーとディエチがそれぞれについて、しっかり面倒を見ているそうで。


ヴィヴィオとあむ、リオについてはコロナだ。


で……それはチーム・ガーディアンも変わらない。


「……ミカヤ・シェベルとミウラ・リナルディ。
この二人の試合から学べることは多い」

「……その本人、お前の隣にいるけどな」

「言うなぁ!」

「そう言われると気恥ずかしいなぁ。……そうか、これがフラグを立てられるということなんだね」

「全然違う!」


仕事や学校も終わって、今日も今日とて夜の訓練。

なし崩し的に、ミカヤも滞在を続けて、一緒に訓練を……ああもうー! なんでこんなことにー!


「と、とにかくだよ……。
ミウラが負けたのは、単純に戦術ミス。
その資質や努力はともかく、IMCSルールでの先鋭化には疑問が残った」

「だな……。何せベルカの末えい達は、その辺りも上手くこなしてやがる」

「だから空海も去年は負けたわけだしね」

「ただ幸い、その手の奴らに対応するノウハウはもう持っている。
あとはその場のノリってところなんだけど……ミカヤ」

「ヴィヴィオちゃんだろう?」

「できればミウラみたいに、サクッと終わらせてほしいところだね」


腕組みしながらそう告げると、ミカヤが苦笑。

……なお、空海とりまが驚き、どういうことかと視線で問いかけてくる。


「ミウラもそうだったけど、近代格闘では”KO前提のファイト”は自殺行為に等しい」

「ミウラはごりごりのインファイターで、その分被弾も多いってことだよな。
……だが、ヴィヴィオはアウトレンジファイターだろ。射撃技も豊富だし」

「同じタイプとは思えないんだけど……」

「確かに。ソフトタッチでポイントを取っていくなら、弱点の攻防出力もカバーしやすい。
でもヴィヴィオは基本どんどん踏み込んでいくでしょ」

「それが問題ってこと?」

「そこはまだいい」


そう、そこはまだいい。


ヴィヴィオはカウンターヒッターだけど、目のよさから自分で打ち込んでいける……それは間違いなく強みだから。


「カウンターに頼り切らず、自分で攻めて、試合の流れを作れるからね。
……問題は、それを変身魔法ありきでやっていくところだ」


ヴィヴィオが作り上げた戦うための手段で、格闘技の練習などにも便利な魔法。

なにより魔法少女的だと楽しんでいるし、そこについては何も言わなかったんだけど……。


「いや、だが……あれはリーチも伸びるし、格闘戦でも有利になるだろ!」

「変身しなかったら、結局ミウラと同じことになると思うけど……」

「……ヴィヴィオが変身したら、百七十前後。
女性としては大柄でリーチもあるから、アウトレンジファイター向きだ。
なのに今は、その体格を百パーセント生かせていないんだよ」

「……使いこなしが甘いってことか!」

「体格を生かした戦い方ができないっていうのは……格闘競技者としては致命的な欠陥だよ。
……その兆候が顕著になったのは、四年生になってから……変身魔法を公にしてからだ。実はオフトレでも気になってた」


……そう、気になっていた。

だって、あの魔法は……!


「あれは、僕が魔導師を始めた頃に考えて、結局お蔵入りにしたものだからね」

「えー! 恭文も大きくなれるのぉ!?」

「ヴィヴィオ達とは形式も違うし、あそこまで完成度は高くないけどね」


クスクスにはお手上げポーズを返し、過去の苦い黒歴史を振り返る――。


「体格が大きくなれば、パワー負けはしにくくなる。
重量も上がるから、弱点である攻防能力もある程度カバーされる。
そう考えて組んでいたんだ。……大人の自分を想像して」

「じゃあやらなくて正解だったじゃない」

「だな……」

「やかましいわ! つーか、僕がお蔵入りにしたのはそういう理由じゃない!」

「……体格が大きくなることで、君が得意とする≪超高精度・高反応の機動戦≫がやりにくくなるから、だね」

「それ」


今から十年も前のこと。

恭也さん達にも事情を説明して、実験に協力してもらったんだけど……散々足るものだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……駄目だな」


道場で十数分間打ち合った上で、恭也さんはそう告げる。

……自分と同じ体格から、いつもの身体に戻る僕を見ながら。


「うん。恭文の持ち味である機動力が殺されている上、細かい部分で制御が追いついていないから……回避力まで落ちている」

「実際お前も持てあましているだろ」

「最高だったのに、今は地獄へ落とされた気持ちです……うぅ……!」

「泣くな……!」


上手くいくと思っていたのに……。

これで誰からも、ちっちゃいとか……そういうことを言われずに済むと、思っていたのに……!


「まぁまぁ。……魔法でいきなり大きくならず、時間をかければOKってことだよ」


美由希さんは僕を宥め、ハンカチで涙を拭ってくれる。


「身体を動かす……簡単なようだが、戦闘での繊細な機動となれば、微細な差が命取りになる。
相手の急所を、的確に狙う相手ならなおさらだ」

「それも日常生活の中で培って……つまり、幸せな時間は十年後に」

「…………そう、だな」

「なぜ顔を背けたぁ!」

「大丈夫だよ、恭文! たとえ恭文の身体が大きくならなくても……私は変わらず受け止めていくから」

「美由希さんはなんか違う……って、抱きつくなぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――だから僕も、おのれらやりま、あむには、変身魔法の類いは教えなかった。
特にりまの場合、その体格を生かす形で訓練した方が、ずっと効率的だからだ」

「それがヴィヴィオの弱点……」

「ただね、それ自体は改善可能なんだ。継続的に使用すれば感覚も追いついてくるし、アウトレンジで一発技を増やすだけで、大分変わってくる」

「弱点を責めろという話ではなく、むしろ改善点として注意を払え……そういう話だね。
ミウラちゃんと私の試合を受けて、ナカジマちゃんが重点的に訓練するかもしれないから」

「そういうこと」


ただ、今日の試合を見る限りは……ほんと困っちゃうなぁ。

僕もそうだし、横馬も最初から気づいていた。横馬はほら、訓練していたこととかも知っているから。

でも何も言わなかった。僕が自然の流れに任せたのは、あくまでも僕の答えだから。


ヴィヴィオにはヴィヴィオの答えがある。それは僕と同じかもしれないし、違うかもしれない。

大事なのは自分で考えて、導き出したことだから。その過程と結果を奪うのはよろしくないと……まぁ、相談していたからね。


……だからなのはも、上手く堪えてくれるといいんだけど。


「じゃあよ、アインハルトやリオはどうなんだよ」

「リオについては未知数かなぁ。
実家の春光拳もかなり凄いところだし、知り合って間もないしね」


今の様子を見ていると長年の親友に見えるけど、リオは初等科三年生の最後ら辺……つまり今年の初め、無限書庫でヴィヴィオ達と知り合っている。

だから僕達もね、知っていることはさほど多くないの。変身魔法についても独自に前々から組んでいたようだし、この課題もクリアしているかも。


「アインハルトについては、全く問題ない。
……覇王イングヴァルトの経験ゆえだろううけど」

「覇王の体格に近いから、使いこなせるってわけ?」

「そういうこと。でも、気にすることはないよ」

「そうね。そこを言っても今更だし……それで私達は」

「今日のエリオは、いい見本を見せてくれたからね」


まさかあれだけやるとは……クロノさんも興奮気味に電話してきて、びっくりしたよ。

今のエリオは、十四歳時の僕やフェイト、横馬……もちろんクロノさんも追い抜いた。

先天資質を……自分の壁を越えて、溶断を構築した。それはね、それだけ凄いことなのよ。


……だから僕も負けていられないと、笑ってあげる。


「空海、おのれは溶断に加えて≪魔力分解≫も仕上げにかかってもらう」

「あぁ!」

「りま、おのれは溶断を中心的に……誰がどう勝ち上がるにせよ、必ず切り札になる」

「特にリオの場合、溶断を使ってくる確率が高いから……よね。分かっているわ」

「よし! じゃあ魔力制御の訓練から始めるよ! ミカヤはいつも通り、僕と斬り合いだ!」

「よろしく頼む。……だが済まないなぁ、君はモンディアル君のハーレム問題でも忙しいというのに」

「言うな……!」


それを言わないでぇ! 事務所も大荒れなんだから! まさかあの貴音に……って大騒ぎなんだからぁ!

しかもさ、エリオも責任を感じて、挨拶に来るとか言ってるんだよ! 完全にお父さんへ挨拶する恋人だよ!


マズい……戦争が起きる! キャロはハーレム上等って気合いを入れちゃったし……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――今日はプライムマッチ開催日。

赤・青のライトが踊るように入り乱れる中、選手ゲートからスモークが噴射。


『さぁ……いよいよ始まります! プライムマッチ第一試合!』


スモークがライトに照らされ、それぞれのコーナーの色に染まっていく。

それを割って入るように登場してきたのは、我らが番長……のライバル!


『ブルゥゥゥゥゥゥゥ! コォナァ! 昨年度都市本戦第八位!
結界魔導師エルス・タスミン!
学校では生徒会長! 制服姿での入場です!』


続いて赤コーナーに光が走る。


『レッドォォォォォ! コォナァ!』


額の鉢巻き。

胸元を包むさらし。

白い特攻服――。


一昔前の暴走族を思わせるような出(い)で立ちに、赤いポニテの髪がよく似合う。そんな彼女の名前は。


『昨年度都市本戦第五位! 背中に描かれた誓いの異世界語≪日本語≫は、たった四文字――一撃必倒!
今年も冴(さ)えるか、必倒の射砲撃! ハリー・トライベッカ!』

「おっしゃあああああああああああ!」


『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


拳を突き出しながらの絶叫に、会場中が呼応――。


「ぐぬぬぬ……人気で声援では負けても、試合には勝ちます!」

「「はい!」」

「魅せましょう! 私の秘密兵器その一……新型防護服≪バリアジャケット≫!」


ニルス選手は、右腕を身体の前で一文字に構え。


「ブラックジャスティス! セットアァァァァァップ!」


服を光に分解して、ジャケットを装着。

黒をベースとした、局員制服っぽい姿になる。

まぁノースリーブでミニスカな上、鎖や手錠があっちこっちに付いているけど。


「正義装着! ――不良生徒は成敗です!」

「ほぉ……!? 面白ぇ! やってみろやぁ! アホデコ眼鏡!」

「応とも! やらいでか! あと私はアホでもデコでもありません!」


そうして始まるのは、リング中央でのにらみ合い。

バチバチと火花を走らせ、際限なく奮起し続ける。


「なら貧乳!」

「あなただって似たようなもんでしょお!」

『おぉっと! 格闘競技者としてだけではなく、同世代の女性としても激突必至!
そんな因縁溢(あふ)れる上位選手同士の試合……間もなくゴングです!』

「……なんでヒドい言い争い」

「ヴィヴィオ、真似しちゃ駄目だからね?」

「リオ!?」


というか、ヴィヴィオにツッコむより……ほら! もっと言うべきところがあるよ!


「ハリー、頑張れー!」


ほらほら……ハリー選手のセコンド、りんさんがいるのぉ! それも特攻服だよ!

あの、Iカップバストがサラシに包まれてすっごいアピールされて……最高だー!


……あれ、これってなんの大会だっけ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――その日、765プロに激震が走る。

今日のプライムマッチはさすがに見に行けなかった。というか、そんな余裕はなかった。

一応顔見知りということで、事務所にはいなくちゃいけなくて……!


「あ、改めまして! エリオ・モンディアルです! このたびは大変なご迷惑をぉ!」

「いやいや! こっちこそごめんね! 貴音がいろいろ引っ張り回しているみたいで!」

「律子、それは違います。エリオとは食の道を進むもの同士……もちろんギンガ殿も」

「一応アイドルってことを自覚してもらえる!? 目撃情報多数だったのよ! デートにしか見えない食べ歩き!」


とはいえ、エリオはティアナ&シャーリーがスカウトされた件で、挨拶も済ませている。

応対した律子さんもその辺りは当然知っているので、実に上手く進んで……僕は特に手出しをすることもなく、様子を窺うだけに留まった。


……問題があるとすれば……もう一人、追加できたことだけど!


「あ、改めまして……ギンガ・ナカジマです!」

「ギンガちゃんもごめんね! お仕事もあったのに!」

「いえ! あの、違うんです! 私の身と心はなぎ君に捧げると決めています!
エリオ君とはそんな関係では……でも、貴音さんの進退にご迷惑をおかけして、すみませんでしたぁ!」


そう、スーツ姿にお菓子の詰め合わせを持って、ギンガさんまでやってきた。

それはいい……よくないけどいい。


問題は……なんであんなアホなことを、平然と言えるかってことだよ!


「……ギンガさーん!? なに平然と凄いこと言っているの! 違うからね! そんな関係じゃないからね!」

「いいの! 私は一生引きずるって決めたの! 心と体全部を使って、誘惑するって決めたの!
でもなぎ君がもらってくれなかったら……ずっと独身だから!」

「重すぎるわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「というか僕、なんか……連鎖的に振られているような……!」


あぁ、エリオがダメージを受けている!

それについては、ギンガさんと後で話し合って! 僕の手が届かない問題だから!


「……へぇ……あんな、スタイルもよくて、奇麗な人に……へぇ…………へぇ…………!」


ちょ、待って……! 志保! おのれはなぜ怖くなる! なぜ手を震わせる! あれは僕の責任じゃないからね!


「……プロデューサーさん、もっと器を大きくしましょうよぉ」


すると春香がニヤニヤしながら、僕の左肩に腕を載せてくる。


「ほら、世界大会でも修羅場でしたし……頑張って! 応援していますから!」

「春香、鼻フックしようか。それでディスクを作ろうよ」

「アイドルに言うことじゃないー!」

「だからタイトルもあれだよ、『アイドル無理』って」

「アウトォォォォォォォォォォォ! それ、聞いたことがある! なんかある!」

「……へー、春香はいろんなことを知っているんだねー」


朗らかに笑ってそう言い切ると、春香がギョッとして身を引く。

……R18なディスクであるのよ、それっぽいタイトルのが。


「……えぇ、知ってますよ!? 私、大人ですし! AVくらい見ますし!」

『春香(さん・ちゃん)!?』

「……そこで押っ広げになるから、おのれは閣下なんだよ」

「ほんとよ!」

「うぎょ!?」


伊織も見てられず、春香の膝を蹴り……あぁ、無様に閣下が崩れ落ちたぁ。


「……でもアンタも、覚悟を決めた方がいいわよ? ギンガ、間違いなく一生引きずるから」

「何も言わないで……!」

「で……のり子の方はあれよね、ヴィヴィオ達の方に出向いて」

「今更ながら気づいたよ」


そう言いながら取り出すのは、みんなのスケジュール。

ただし春香達ではなくて、志保や美奈子――39プロジェクトのアイドル候補生達のものだけど。


「のり子のお休み予定日、大会スケジュールとドンがぶり……」

≪しかも私達と鉢合わせしたの以外にも、関連大会を網羅しているんですよ≫

「どんだけ好きなのよ!」

「横馬曰く、生き生きしていたそうだからねぇ。……まるで346プロの友紀みたいだ」

「姫川友紀? 確か、アンタと圭一達も友達だったわよね」

「友紀はほら、野球が好きだから……。
最近は球場だけで朝昼晩の食事を賄う≪球場三食≫とかしているし」

「……のり子はそんなこと、していないわよね」


そこについては全く自信がないので、つい顔を背けてしまう。

……あとで、アスミに確認しよう。のり子のプロデューサーってことで、アドレス交換したんだ。


「――すみません、失礼します!」


するとそこで、事務所の中に飛び込んできたのは……黒いワンピースにカーディガンを羽織ったはやてだった。

更にヴェロッサさんも甲斐甲斐しく付き添っていて。


「はやて! それにヴェロッサさんも!」

「恭文、突然ゴメンね。……はやて、慌てちゃ駄目だよ。今が大事な時期なんだから」

「もう……分かっとるよー。そやからロッサ、うちのことをめっちゃ支えてくれとるしー♪」

「当たり前だろう? 君は大事な奥さんなんだから」


……あの…………いきなりいちゃつかないでもらえます!?

というか目的ー! そりゃあ産休にも入っているから、仕事がないのは知っているけど……突然すぎるからね!?


「あの、恭文さん……あの人達は」

「……はやてさん!?」

「え、嘘! アコース査察官まで!」


あぁ、志保がとても疑問そうに! というか、エリオとギンガさんもギョッとしてる!


「紹介するよ。八神・A・はやて……僕の幼馴染み。
あっちは旦那さんのヴェロッサ・アコースさん」

「アイドル関係のお仕事……じゃないですよね、査察官って」

「そうなんだよ。僕達、半民間警備組織の職員でね」


……ヴェロッサさん、さらっと嘘を……いや、管理局とか説明できないけど。


「それより恭文……というか、765プロのみなさんに相談したいことがあってね」

「相談したいこと?」

「そうなんよ! 事務所違いなんは承知しとるんやけど……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――プライムマッチは無事に終了。

ハリー・トライベッカ選手が見事勝利し、リオちゃんとの対戦が確定した。


正直試合も生で見たくはあったんだけど、今はアインハルトさんとの試合に向けて特訓の毎日。

だからいつもの公園で走り込み……何はともあれ、体力勝負です。


「――ゴール!」

「はい……お疲れ様でした、コロナお嬢様」

「ありがとう、オットーさん」


付き添ってくれたオットーから、タオルを受け取り汗を払う。


「いいタイムでしたよ。
少し休憩して、次のメニューに参りましょう」

「うん」


二人でベンチに座って、スポーツドリンクも受け取り啜る。

あぁ……落ち着くぅ。やっぱりポカリスエットって、運動した直後だと美味しいよね。


……それはそうと、一つ聞いてみよう。


「ねぇ、オットーさん」

「はい」

「私、アインハルトさんに勝てると思います」

「そ、それはもちろん」

「うん、普通にやったら勝てないよね」


オットーさん、その”しまった”って顔はしなくていいから。さすがに分かっているし。


「私は普通の初等科四年生で、少し変わった魔法が使えるだけ。
アインハルトさんは才能も、実力もあって、覇王流って言う正統派の技があって――。
しかもそれに溺れることなく、今この瞬間も努力している」

「それは、コロナお嬢様も同じです!」

「……その上覇王イングヴァルトに、ゴーレムの技は相性も悪い」


何せ聖王オリヴィエとの関係性もあるから。

オフトレみたいな屋外戦ならともかく、リング状での勝負となると……だけど。


「でもね、私にしかできない魔法があるって、ヴィヴィオやリオが教えてくれたの」


空を見上げながら……真っ青に広がる世界を見ながら、自然と笑みが零れる。


「ノーヴェ師匠とオットー達が、私のいいところをいっぱい伸ばしてくれる。
ルーちゃんが作ってくれたブランゼルだっている」


ベンチからさっと立ち上がる。

髪をなびかせながら振り返り、オットーさんに解の宣言。


「――だから勝つよ。
三回戦は、私が勝つ!」

「――はい!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二人には応接室に入ってもらう。

というか、エリオとギンガさんの話はもう終わっていたので、譲られた。

とりあえず律子さんにはそのまま同席してもらって……冷静に話を聞いてみたところ。


「プロジェクトクローネ――美城常務の企画に、恭文君とはやてさんのお友達が!? 恭文君!」

「……鷺沢文香っていう子なんですよ。
夏頃、346プロにスカウトされて……それで、そういう誘いを受けているってのは聞いていたんですけど」

「文香ちゃん、それを受けてもうたそうなんよ!」

「マジかー!」


よく考えるようにって聞いていたのに!

常務絡みで美城の内部もゴタゴタしているからって……これ、かなり厄介なことになるんじゃ!


「どうもその辺り、加蓮ちゃんとそのお友達も絡んでいるそうや。ほら、デビューが白紙になってもうたから」

「そのせいか……」

「恭文君、北条加蓮って……確か、その子もあなたのお友達」

「文香をスカウトしたの、加蓮のプロデューサーさんなんですよ。
その子ともう一人の子は、白紙化計画発表直後にデビューが潰れちゃって」

「……その子達のデビューに繋げるため、かぁ」

「というか、その加蓮ちゃん達もクローネに誘われとるそうや」

「加蓮達が?」

「なんか、えっと……渋谷凛ちゃん? その子と一緒に、クローネ内のユニットを組めーって話になったらしくて」


凛と……!? さすがにそれは信じられなくて、律子さんと顔を見合わせてしまう。


「ちょ、ちょっと待ってください! その話をうちにされても……」

「えぇ、それは分かっとるんです。そやから、止めろどうこうって話ではなくて……」


その返答に、慌てていた律子さんも安堵する。

……基本は外部の話だし、しかもそれは機密事項に当たることだ。

だから僕も今までこっちには漏らさなかったし、胸に秘めていた。


なのに、それを今ここで……直々に話してくるってことは。


「何かあったの?」

「そのユニットの話、外部に漏れているようなんだよ」

「は……!?」

「それも正式発表前や。Twitterでトライアドプリムスとか、渋谷凛って検索してみて」


律子さんは携帯を――。

僕はデバイレーツを取り出し、素早く立ち上げ検索する。


するとまぁ……出てくる出てくる……!


――凛ちゃん、新しいユニットやるんだって! 楽しみー!――

――トライアドプリムス(仮)がリーク!? 美城の新たな戦略――

――肉薄! アイドル達のしゃべり場(ハンバーガーショップ)!――


しかも動画つきのツイートまである。


『常務やクローネが、CPの邪魔をする形は避けなきゃいけないから、調整するの。だから』

『ならそれは、凛の一言で一気に纏まるよね』

『加蓮』

『お願い……その会議で、クローネに入るって言って!
あたし達の覚悟は、今言った通り! 絶対……絶対に後悔させないから!』

『頼む……! あたし達と一緒に、クローネへ入ってくれ!
どうしても助けたいんだ、あたし達のプロデューサーを!』


ハンバーガーショップとかで、話している姿が……コイツらは馬鹿なのぉ!?


「恭文君……!」

「……もう、引きこもりたい」

「気持ちは分かるけど頑張って! と、とにかくあなた方は、鷺沢文香さんから話を聞いて……」

「クローネ自体はされとるし、ネットとかの評判はどないかなーって調べたら……コレなんですよ。
で、改めて調べたけど、凛ちゃんやこの子達の話は出ていなくて」

「情報が漏れたタイミングって」

「昨日の深夜くらいですね。
……最近の美城が改革に動いていたのは、有名な話。
クローネの情報も小出しにして、注目度を上げているようだし……こんな形でバラすはずがない」


さすがはヴェロッサさん……もうその辺りまで情報を集めていたのか。


「恭文、君の方から確認とかは……やっぱり難しいかな」

「あくまでも状況を見つけた”第三者”として振る舞うなら、問題ありませんよ。幸い窓口≪魅音達≫もいますし」

「そう……はやて」

「ほな、お任せしてえぇかな。もう文香ちゃん、純粋やから心配で心配で……」

「実際唯世達も同じだしねぇ……」


しかしこれ、とんでもないよ……!?


最近はバカッター騒動などを鑑みて、機密情報の扱いが滅茶苦茶厳しくなっているのに。

下手をすればこれだけで、契約解除もあり得る状況だ。凛も……CPも巻き添えになりかねない。


まぁ、幸い僕達は見つけた側だし、広めたわけでもないから、第三者的に振る舞って。


「おはよー!」

「あ、翼ちゃん! おはようー」

「おはよう、伊吹さん」

「……ねぇねぇ、聞いて聞いて! 346プロの渋谷凛ちゃんが、昨日ハンバーガーショップでお話してたの!
新しいユニットを組むんだってー!」


なのに――。

そんな平穏を容易く壊す、悲しい声が響いて。


「凛ちゃんが?」

「そうなんですー! 学校の友達とおやつ食べていたら、近くでお話しててー!
なんかシリアスっぽかったけど、いいな……わたしも早くデビューして、モテモテになりたいなー」

「……伊吹さん……アイドルって、モテるためにするんじゃないと思うけど」

「えー! そんなことないよー! 志保ちゃんだってモテたいよねー」

「私はそういうの、ありませんから……」


……何も言わず、身重のはやてを刺激しないよう立ち上がり、応接室から出る。

律子さんもそれに続き、そんな僕達を金髪ショート・童顔なグラマラスボディ少女が見つけてくれて。


「あ、恭文ちゃんー♪ 律子さんもおは……よ……!?」


異変を察したように身を引くので、そんな女の子の両肩を、二人がかりでしっかりホールド!


「翼、その話……お友達の紹介も交えて、しっかり聞かせて」

「ひぃ!? な、なんで……というか、二人とも怖いよー!」

「いいから、聞かせなさい……今すぐに!」

「吐け! 吐け! 吐け吐け! 吐けぇ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


彼女の名は伊吹翼――僕が先日、池袋サンシャイン60にてスカウトしたアイドル候補生。

ボーカル・ダンス・ビジュアルともにハイスペックだけど、今一つやる気が感じられないのは美希と同じ。

実際アイドルになるのも、『男の子にモテモテになりたいから』という……それでも連れてきたの、僕だけどね!


そうしたらまぁ……まぁ……まぁまぁまぁまぁまぁ!


「「――この、大馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

「ひゃい!?」

「翼、機密事項の取り扱いは説明したよね! お仕事の情報とか、ネットなんかに漏らすのは駄目なの!」

「ネ、ネットとかでお話してないよ! ここだけ! ここだけだからー!」

「同じことだぁ!」

「あなたもアイドルなんだから、ちゃんと自覚を持ちなさい! そんなんじゃ絶対モテないわよ!」

「がーん!」


あぁ、その論法が効くんだ。

さすがは鬼軍曹律子さん……僕も見習おうと思います。


「……まさか恭文が、それを言う立場に回るとは……成長やなぁ」

「むしろ言われる立場の人間だったのにねぇ」

「全く同感です……」

「なぎ君……でも、いいの。局員になってくれなかったのは寂しいけど、なぎ君が幸せなら」


ちょ、顔見知り連中は黙って! 僕のことはいいの! 僕よりこの……ボケナスの方だから!


「……まぁ、今回はあなた発信で実害もなかったけど」

「だったら許してくれる!?」

「許すわけがないでしょ! 実害が出たら完全にアウト! 損害賠償だってあり得るんだから!」

「ごめんなさーい!」

「で、翼……友達の口止めは」


翼には説教前に『友達に話したかどうか確認しろ、今すぐに』と言って、LINEを送ってもらっていた。


「それならちゃんと送ったけど……」


というところで、タイミング良く返信が届く。


「あ、きたよ! えっと………………え、Twitterに書き込んでるの!?」

「ちょっとー!」

「動画は……まさかあの動画、撮影したわけじゃないよね」

「…………」

「翼?」

「一人、『証拠として動画を撮って、アップしたけど』……って」

「ゆとり世代がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


とてつもない絶望が襲ってきて、頭を抱えてしまう。


「一体この国のIT教育はどうなってんだよ! いや、遅れているよね! 当然だよね!
盗撮にもなり得る危険行為だよ! 下手すれば犯罪だよ! 346プロが訴える可能性だってあるよ!」

「そうなの!?」

「そうだよ! おのれ、ハンバーガーを食べて友達と話している姿を、勝手に撮影されて、ツイートされたらどう思う!?」

「それは、嫌だけど……」

「自分がされて嫌なことは、人にしない! 戦い以外では常識だよ!」

「…………そう付けるところが、なぎ君だよねぇ」

「相変わらず手段を選ばないんだよね」

「ほんま何時も、この馬鹿がご迷惑をおかけして……!」

「ぼ、僕も弟分として、その……申し訳ありませんでしたぁ!」


だから知り合い連中は黙れぇ!

何、授業参観なの!? この感覚、ガーディアン時代に覚えがあるんだけど!


というかエリオはやめろぉ! おのれが謝ると、なんかこう……僕が凄まじく駄目な奴になるぅ!


「……お兄様、とりあえず伊吹さんのお説教は後にして」

「だよねぇ……!」


シオンに宥められながら、算段を立てて……よし、これでいこう。


「翼、今すぐ友達をここに呼び出して。
律子さんから、ITリテラシーについて説教をしてもらう」

「えぇー!」

「反論する余地があると?」

「は、はい……えっと、LINEして」

「電話しなさい。引きずってでも、ここに連れてきなさい……下手をすれば損害賠償だってね!」

「はいー!」


翼が必死に連絡を始めたので、そこは律子さんにお任せして……。


「律子さん、僕は346プロに行ってきます」

「気をつけてね」

「アルト」

≪唯世さん達にはもう動いてもらっています。
文香さん、今日は大学部の方ですから……すぐ捕まるかと≫

「助かる」

「魅音ちゃん達には、私から話を通しておくわ」

「ありがとうございます」


小鳥さんにも感謝しつつ……っと。

そうだそうだ、このままはやてを放置はできない。ふだんならともかく、身重だもの。


「はやて、できるようなら文香にも直接話すから、今日のところはもう大丈夫だよ」

「なら、そっちは私とエリオ君もついているから」

「はい」

「恭文、悪いけど……頼むな」

「任せて」


何せ翼の友達がやらかした件も、上手く纏めないと……連鎖的に765プロが悪者にされかねないしね!

だから全力で事務所を飛び出て、346プロへと走っていく。僕なら電車やタクシーより、走る方が早い――!


でも、手遅れだった。

ミッドでプライムマッチが盛り上がった頃……346プロもまた、とんでもない爆弾を破裂させかけていて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――第三回戦の前日

ミッドチルダ市内 魔法練習場



夜も遅いため、この魔法練習場もアタシとコロナの独り占め。

コロナの鋭い拳をミットで受けながら、次々と捌いていく。


「お前達の試合、いよいよ明日だな」

「はい!」

「お前のセコンドはアタシとオットー。
アインハルトにはディエチとウェンディ。
まぁセコンド対決にはならねぇな、アイツらは単に保護者役だから」

「はい――!」


心地いい左ストレートが決まったところで……ミットを下げる。


「この辺にしておくか。
今日までに教えたことで、アインハルトとは十分戦えるよ」

「戦えるだけじゃ嫌ですよ? 勝ちたいです」

「そりゃもちろん」

「勝つための作戦も、ちゃんとあるんですよ」


……その言葉に、どうにも嫌な予感が走る。

振り返るとコロナは、どこか無機質に笑っていて。


「コロナ……?」

「構えてください。ちょっとだけお見せします」


言われるがままにミットを構え、コロナの拳を受け止める。

……さっきまでと変わらない行動。変わったとすれば、その力強さ。


「――!」


半端ない威力の衝撃を、大地を踏み締め……ギリギリと削りながら、必死に耐える。

……手に残った衝撃と、コロナが見せた技。

その力強さがそのまま悪寒へと直結し、呼吸が止まりそうになる。


「おい……!」

「今のは一瞬だけですけど、後先を考えなければもう少しできます」

「こんな技を教えた覚えはねぇぞ! 身体への負担がデカすぎる!」

「それはそうですよ。最初に教わることですし」

「はぁ!?」


ミットを外しながら駆け寄ると、コロナは当然という顔で言い切る。


「ゴーレムマイスターは、とある偉人とともに……必ずこの術を教わるんです。禁呪として」

「どういう、ことだ……とある偉人って」

「……聖王オリヴィエ」


その名前が出たことで、強烈な寒気が走る。


「どう考えても、これくらいやらないと勝てそうにないんです」

「だとしても、身体に危険があるような技は、コーチとして容認できねぇよ!
つーか分かってんだろ! 聖王オリヴィエ絡みなら、アインハルトの奴には」

「それ、私が必殺技として使うのなら、ですよね」

「そうだ!」

「そんなつもり、最初からありませんよ」


…………コロナの目は、本気だった。

だが意味が分からねぇ。

これだけの大技を、必殺技として使わない?


何か、使い方があるのは分かる。

だが何考えてんだ、コイツ……!


「いや、でも……それでも……!」

「……チーム・ナカジマの中で、私一人がいろんな能力で劣っていること……自分が一番分かっています」

「コロナ」

「でも、だからってアインハルトさんやヴィヴィオちゃん達に、気を使われたくないんです。
みんなのこと、大好きだからガッカリされたくないんです。
……証明したいんです。私だってチーム・ナカジマの一員で、アインハルトさんとだってちゃんと戦えるって」


あぁ、そういうことかぁ。

仲間として、ライバルとして……対等でいたいってことかぁ。

理屈じゃない、プライドの問題だ。そういう気持ちは、ちょっと分かる気もする……が!


「……だからって、今みたいに危険な技を『好きに使え』なんて言えねぇのは分かるよな」

「見せ札ですよ?」

「同じことだ!」

「……分かりました。じゃあノーヴェさん、セットアップしてください」


……コロナはすっと下がり、あたしを厳しい視線で射貫く。


「今のが見せ札な理由、ちゃんと教えます」

「それでなんでセットアップなんだよ」

「怪我すると思いますから」

「……言ってくれるじゃねぇか」


何が狙いか分からないが、それなら……。


「ジェットエッジ!」


素早くセットアップし、右拳をぎゅっと握りしめる。

……すると、コロナはにこっと笑い。


「――いきます!」


その瞬間、両手をパンと合わせて練成ポーズ。

……そこで、勘違いを悟る。


(おい、これは――!)


コロナが地面に両手を当て、力を発動してピッタリ二十秒後……。


「が……!」


あたしは空へと吹き飛んでいた。

二つの月を仰ぎ見て、落下しながら痛感する。


コロナがこの試合に、とんでもない熱量を注ぎ込んでいると――。


(Memory81へ続く)






あとがき

恭文「というわけで、プライムマッチは丸々カット! どう考えても同人版と丸かぶりになりそうだったから!
その代わりに765プロの様子を描いて……この騒動の顛末は、後の美城動乱編で」

古鉄≪そしてコロナさんに着々と積み重なる敗北フラグ≫


(『積み重ねてないよ!』)


恭文「でもあれはヤバいよ……まぁこれで負けても腹立つ流れなのは否定しないけど」

古鉄≪どうにも不穏な空気を漂わせながら、次回は同門対決となります。どうも、私です≫

恭文「蒼凪恭文です。幕間リローデッド第22巻は絶賛販売中。みなさん、ご購入頂きありがとうございました」


(ありがとうございました)


恭文「今回もあむが大活躍。まさかキラキラのラブマジックがまた見られるとは……」

古鉄≪最高でしたね。それは今回の話もですが≫

あむ「嘘を付くなぁ! あたしの出番なんてほとんどなかったじゃん!」

恭文「……おのれはだから天使になれないんだよ」

あむ「理不尽すぎるし!」


(いつもの調子でした)


あむ「でももう、十一月かぁ……」

恭文「もうすぐ終わりだよ、今年も」


(あと二か月です)


恭文「その前にオニランドを遊び尽くさなくては……! オーロラがー!」

あむ「あ、うん……」


(オーロラは貴重なのです。というか、スカディ様が……。
本日のED:abingdon boys school『潮騒』)


古鉄≪さて、果たして二人の対決はどうなるか……そしてミウラさんはどうなるか≫

あむ「……そう言えばすっ飛ばしてる!」

恭文「他のキャラもいるしねー」


(おしまい)




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