小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory82 『勝負に徹するということ』
――IMCS第一試合会場
第一グループ三回戦――アインハルト・ストラトスVSコロナ・ティミル
いよいよこの日がやってきた。
第三回戦……アインハルトさんとの試合が。
『激戦区の予選一組で、三回戦まで上がってきた初参加ルーキー! なんと彼女はゴーレムマイスター!
ここまでの試合では、ゴーレム完成後は相手の攻撃を寄せ付けず、勝利している若き挑戦者――コロナ・ティミル!』
『ご存じの通りIMCSは、プロリーグのような総合魔法戦闘のランクがない関係上、彼女のようなバックヤードスタイルは活躍しにくいんです。
しかしそれもやり方次第……実際ゴーレムに頼り切らない地力もあるようですし、期待ですね』
あはははは……チャンピオンのタカムラさんに褒められると、いろいろくすぐったい。
というか、もうリングに上がっているから、いろいろくすぐったいです。逃げ場がないし……!
『対するは同じく初参加! 古流格闘戦技≪覇王流≫の使い手! ストラトス選手はここまでの試合ではいずれも、ほぼ無傷の1ラウンドKO!』
『ハードパンチャーという武器はありますが、総合格闘技としては都市不相応とも言える高レベルですね。
しかもこの二人は同じ学校の先輩後輩で、同じ事務で研鑽し合う仲……同門対決ということで難しい部分もありますが、頑張ってもらいたいです』
『えぇ! 運命の対決は、はたして――!』
――当然勝ちに行く。
”コロナ、はっきり言うけどおのれはIMCSのスタイルに合わない”
そこで思い出すのは、恭文さんの言葉。
オフトレで物質変換とか……ゴーレム操作の練習を手伝ってもらったとき、そう言われたんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――つーかこのまま出そうとするノーヴェは無能にすら感じるわ」
「そこまで言いますか!」
あんまりな言いぐさに、奇麗な森の中でつい唖然。いや、分かってはいた……分かっていた。
「確かに私の戦闘スタイルだと……でも、IMCSも基本的には総合魔法戦ですし」
「スキルの問題じゃない。おのれの戦闘思考……知略の傾向は、どちらかというと実戦での削り合い向き。
……ルールを守って、奇麗に楽しく試合をするタイプじゃないのよ」
その言葉には自嘲を浮かべてしまう。
……それはもっと、分かっていた。
「思い出すなぁ……空海と会いに正月遊びに来て、桃鉄したときを」
「そ、それについては言わない方向で……!」
「コロナ、おのれは戦いを通じて友情を育むことはできない。むしろ破壊する側だ。それを自覚しよう」
「酷すぎませんかぁ!? というか、それだと恭文さんも同類ですよね!」
「空海への執ようなボンビーなすり付けとカード攻撃を見れば、そうも言いたくなるわ! 精神破壊寸前までヘコませたくせに!」
≪あれはフラグ、折れましたね。今まで立っていた分も含めて≫
「だからそれも含めて同類……いや、あなたはハーレムしていますけど!」
いや、分かっていた! 確かにその……昔から、勝てる手があるのに使わないのは気持ち悪いというか、許せない自分がいて……!
でも、できるだけ大人になろうとしていたのに! 友情を破壊する側だったから自嘲して……していたはずなのにぃ!
「……僕がなんだかんだでIMCSに出なかったのは、そういう部分もあるのよ」
頭を抱えてバタバタしていると、恭文さんは腕組みしながら大きくため息。
「僕も小ぎれいに戦うタイプじゃない。つーかルールってバレないように抜けつつ利用するものでしょ?
それで文句を付けられても面倒だなーって」
「……その部活思考を大会に持ちださなかったのは、英断だったと思います」
≪なの……! IMCSが大混乱に陥っていたと思うの≫
「理不尽だよねー。僕が混乱するわけじゃないし」
「朗らかに笑顔で、とんでもないことを言わないでほしいんですけどぉ!?」
「というか、イレイザーとかぶっ放す奴もいる時点で、もうぐだぐだかなって」
「ですよねー!」
いや、でも……ほら、私はその辺りはこう、上手く折り合う生き方を。
「おのれはそれを確実に、どこかで持ちだすって話をしているのよ。
つーかあのときとかやってること、ほぼ魅音や圭一……」
「う……!」
「なのでまぁ、もし本気で暴れるつもりならちゃんと……最低でもノーヴェには手札は晒すように」
――恭文さんは結局、そこで……友情を育む奇麗な戦い方をするなとは、決して言わなかった。
「これで万が一反則負けなんて取られたら、チーム・ナカジマ全体の評価に響くことだもの。それは分かっているね」
「もちろんです」
「それで上手くすり抜けようか」
「サラッと反則を勧めないでくれますか……!?」
「反則じゃないよ。ただルールの穴を突いて利用しているだけだよ。それが部活だよ」
「部活の話はしてないんです!」
もう嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 反則するなって言うのならまだ分かる! というかこっちの方が分かる!
なのに、なんでこの人、ルールをすり抜けろとか、利用しろとか言うの!? 反則にならなきゃ易いものだって思考なの!?
というか大人じゃないー! いや、それ以前に……私、そんなにやりそうなの!?
確かに……私の戦闘思考、恭文さんよりだとは思うけど……!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……!」
やめよう……思い出したら腹が立って仕方なかった。結局そういう方向に進んでしまう自分に自己嫌悪もして、辛い……辛すぎる。
『――セコンドアウト』
「コロナお嬢様、どうかご武運を」
「ありがとう、オットーさん」
アインハルトさんもセコンドのウェンディさんやディエチさんと一言二言交わして、ニュートラルゾーンに。
私もそれに続き……アインハルトさんはただの格闘馬鹿じゃない。覇王イングヴァルトの戦闘経験と自信の鍛錬により、魔法戦にも幅広く対応できる。
しかも私のゴーレムクリエイト――なんとか習得した物質変換とは相性も最悪。ゴーレムは決定打になり得ない。
物質変換を利用した、肉体への直接破砕も使えない。というか、それはさすがに一発レッドカード。
かと言って格闘戦も相手にならない。あの札もよくて2ラウンド持てばよし。下手をすれば一分も持たない。
つまるところ、私にはアインハルトさんを打破するための決定打が……一撃必殺の技がない。
……なら、使い回していくしかない。
アインハルトさんの性格からくる思考、戦闘スタイル……その全ては入念にシミュレートしてきた。
その上で手札を使い回し、アインハルトさんの思考を硬直化。そうして選択肢を一つ一つ奪い、詰めていく。
大丈夫、そのための手はある。
(アインハルトさんに付け入る隙は三つ。
一つ、覇王の記憶を受け継いでいることそのもの。
二つ、”同門対決”が初めてということ。
三つ……私が、アインハルトさんより弱いこと……!)
『――!』
『今、ゴングが鳴りました!』
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory82 『勝負に徹するということ』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ゴングが派手に鳴り響いた瞬間、足場を砕きながら跳躍――!
アインハルトさんは空破断の構えで、こちらに遠距離牽制……それも読んでいた!
「……!」
読みが外れたと、アインハルトさんが天井を……私を見上げる。
すかさずブランゼルを持った右手を振りかぶり、物質変換発動。
ブランゼルに粒子変換で内臓していた貯蓄部室を使い、右腕を包むように物質変換。
素材の分子構造から拘り、改良したゴライアスの腕部……それを纏い。
(見せます! みんなで練習した格闘戦技と、私のゴーレム創成(クリエイト)――そして恭文さんが見せてくれた物質変換と戦闘思考!)
拳を……巨大な拳を人差し指から小指まで順に握り込み、最後に親指を握り……!
(それらを組み合わせた、私の創成破壊戦技≪マイストブレイクアーツ≫!)
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
飛び込みながら右ストレート。
アインハルトさんは両腕をクロスさせて、魔法防御も兼ね備えた全力のカード。
でも巨大な拳は……それが生み出した衝撃は、更に直撃した瞬間に生み出した破裂は、それらを全て打ち砕く!
アインハルトさんを下がらせ、更にジャケットを腕の破片で切り裂き……同時に白煙を生み出す。
それは土煙なんだけど、それでアインハルトさんの思考を目くらまし。
(でも完璧じゃない。アインハルトさんは当然警戒しつつ、私を追撃する)
だから着地しながら左指を前に受け……パチンと鳴らす。
――それが生み出した小さな火花。土煙の中で生まれたそれが……一気に燃焼。
こちらに突撃し、煙から脱出してきたアインハルトさんを全方位から焼き払う。
紅蓮の炎がその身体を、ジャケットを不意に抉り、アインハルトさんは衝撃から天井へと吹き飛ぶ。
高く、高く、高く――すぐには復帰できないほどに。
その間にブランゼルを右薙に振るい――。
「出でよ巨神――」
足下に創成魔法陣を展開。魔力を走らせ、リングの一部を素材として、その肉を、鎧を創り上げる。
いつも通りに……時間をかけて、じっくりと。
……その必要もないのに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今のは……そうか、粉塵爆発。
ゴライアス腕部の粉塵を燃焼させ、一流の火炎魔導師にも勝るとも劣らない爆炎を生み出した。
やはり物質の特性を応用した魔法は、コロナさんに一日の長がある。
(……この調子で好き勝手をさせたら……でも)
虚空で身を翻して反転。足下に魔法陣を展開し、それを足場に……一気に跳躍。
行く先々で同じように魔法陣を作り、足場としてジグザグに跳躍。
創成に入っているコロナさんを惑わすように、あえて大きく、無駄に跳び……一気にコロナさんの左サイドを取る。
リングに滑りながら着地し、右拳を握り込み……。
(どれほど高度だろうと、覇王流にマイストアーツは通用しません……コロナさん)
鋭く打ち込んだ右拳を、コロナさんは両腕でガード。
さすがに硬い……しっかりとしたガードだと感心しながら、更に左右の連打。
踏み込み、威圧し、ガードの隙間を縫うように放っていく。
そうして押し込み……。
「創主コロナと魔導器ブランゼルの名のもとに」
そうはさせないと、左ボディブロー。
コロナさんが腹を守り……ガードが下がったところで、顎先を狙ったスマッシュアッパー。
……するとコロナさんは迷いなく頭を振りかぶり、こちらに頭突き。
拳目がけて……シールド魔法を纏わせた頭で防御した? いや、これは……!
「つ……!」
シールドの形状がやや鋭角……中心が杭のように尖っていた。
それで私の小指と中指に圧力をかけ、へし折ろうとした……なんて危ない真似を。
私の拳が……覇王流の拳がその一撃より強くなければ、確かにへし折れていたけど……!
「――コロナァ!」
コロナさんは私の指を痛めた……確かに痛めてくれたけど、折れる程じゃない。
更に衝撃から頭を吹き飛ばし、体勢が崩れた。ここで踏み込み…………!?
踏み出そうとした足が動かない。いや、なにかに包まれている感覚がする。
慌てて確認すると、いつの間にか足下が埋もれていた。
盛り上がった地面に包まれて、足首から下が完全に………………間抜けか、私は!
コロナさんは恭文さんと同じ瞬間詠唱・処理能力ホルダー! 本来なら詠唱など必要ない!
さっきまでの詠唱は全てフェイク! というより、今まで見せてきた創成モーションそのものがフェイク!
(コロナさんはIMCS出場をヴィヴィオさん達と考えていた時点から、同門対決も予測して……わざと”必要ないモーション”も演じていた!?)
一瞬考えすぎかとも思った。でも違う……コロナさんは笑いながら身を翻して着地して。
「叩いて砕け! ゴライアス!」
魔法陣もなしで……ゴライアスはリングの素材を糧として、コロナさんの背後に現出する。
それもとても素早く、幻でも生まれるかのうように、その圧倒的な肉体を見せつけてきて。
『――!』
そしてゴライアスは振り上げた拳を回転させて。
「ギガントナックル!」
≪――――にゃああああああああ!≫
その巨大な一撃を、私に叩き込んできた――。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
拳はアインハルトを押しつぶすように打ち込まれ、それがリングの一部を派手に陥没……衝撃を風として会場内に吹き荒れさせた。
その風に髪をなびかせながら、アタシは半笑い……ただただ半笑い。
……もう笑うしかねぇよ! つーかコロナ……コロナのアホがぁ!
「あのやろ! アタシにも瞬間創成できることを黙りやがって!」
「……いや、恭文を見ていればすぐ分かることだよね」
「言うなぁ!」
オットー、その呆れた目はやめろ! 確かに……恭文もできるけどさぁ!
「だけどコロナお嬢様、よくあれだけ……」
「そこはトーナメントの基本通りってことだ。
それにカイザー・アーツってのは、イングヴァルトのあれこれからも調べられる」
いや、決して情報は多くないんだよ。それに詩的というか、アタシも軽く調べて目眩を覚える程度には……さっぱりって感じで。
ただそれも考えようだ。実際を見せてくれるアインハルトもいるし、コロナは元々ヴィヴィオともども読書関係は大好き。
それなら断片的な情報をアインハルトの行動で肉付けして、より詳細に対策を整えることはできると思う。
……まぁ、それができる知性があればこそだけどな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アインハルトさんのダウンはきっちり取れた。とりあえず判定では……いや、そこに持ち込める余裕はないか。
現に今、できることならって思っていた札を一枚切らされたし。
「……手札、切っちゃったよ」
≪致し方ないかと≫
「そうだね」
ブランゼルの言う通りだった。瞬間創成……もうちょっと取っておきたかったけどなぁ。
そうだ……そこは割り切るしかない。こっちにはなにせ一撃必殺の必殺技なんてないもの。
多少のリスクは飲み込んでいかないと、どうしようもない。
(問題は……あぁ、やっぱり札の見せ方と使い方か)
瞬間詠唱・処理能力ありきの創成を見せたことで、アインハルトさんは警戒をより強める。
ここからが本番……あとはどこまで手札を削って、思考と行動を誘導できるか。
「……ゴライアス」
ゴライアスが拳を引くと、生まれていた土煙が晴れて……膝を突いたアインハルトさんがそこにいた。
≪ストラトス選手ダウン。ティミル選手及びゴーレム、ニュートラルコーナーへ≫
「はい」
全身打撲で、ジャケットもあっちこっちすり切れて……でも左半身は無傷だった。
ジャケットのバージョンアップで、追加された装甲部分……そこを中心に受けたのか、アインハルトさんは立ち上がって……。
「ティオ、助かりました」
≪にゃー♪≫
『コロナ選手、ゴーレム創成成功! そして既に一分経過……ストラトス選手の秒殺記録も途絶えました!』
『さすがに同門対決と言うべきか……コロナ選手、よくストラトス選手を研究していますね。
ゴーレム創成だけでなく、途中のガードもよくできていました』
……でも、想定よりずっとダメージは少なかった。
あの拳破壊も上手くできなかったし、ティオの能力を考えたらすぐに回復する。
(修正……修正……作戦を、現状のデータを組み合わせ、より徹底的に修正)
こちらも痛みを払う必要がある。
そこまでしなきゃ、引き出せない……となると。
(予定変更。最大火力を……オーバキルすれすれを狙う)
……ミウラさんとミカヤさんの試合が先で、本当によかった。
アインハルトさんに大ダメージを与える手段、たっぷりもらえたもの。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日の試合も、ジャンヌやりん、ともみ、ティアナ達と一緒に見に来た…………いや、僕は空海達のセコンドでもあるけどさ。
とにかく今はギャラリーだよ。しかしこれは……。
「アインハルト、普通に立ち上がるか……!」
「HA-Oドライバー……ティオの能力があればこそだね」
りんも舌を巻く打たれ強さ。でも僕は確かに見て取れたよ……。
「命中の直前、ティオがサポートして左半身で受けるように調整していた。
同時に防御魔法も展開……リミッターも全解除じゃないのに、よくやるよ」
「リミッター、あれから幾つ解除されたの?」
「一つだね。魔力攻防の出力でもアインハルトが上だ」
「しかし、コロナもいい動きです。というか……あなたと戦い方が似ているようですが」
「アレが本来のスタイルなんだよ」
ジャンヌ、その厳しい顔はやめてよ。僕は何も悪いことはしていないからね?
「つーかあれくらい悪辣にできなきゃ、バリバリ前衛のアインハルトと……クローズドサークルで戦ったりできないよ」
≪それに魔法スロットもかなり努力している。創成魔法や物質頼みの魔法も含め、物質変換で纏めている感じですね。
それで戦い方に応用力を持たせているんですよ。攻防どちらにでも使えるように≫
「スロットに入れた魔法を、ある程度アレンジするのは認められているのですね」
「一応ね」
そう、実はIMCSルールには穴がある。
六つの魔法スロットだけど、ブレイクハウトみたいな応用力の広い……悪く言えば漠然とした魔法は、そのアレンジまで縛りきれないのよ。
だからほら、エリオもサンダーレイジとか、溶断とかいろいろ使っていたでしょ。そこを踏まえると、使える魔法が三つ四つ増えるのよ。
これも総合魔法戦で、コロナやエルスみたいなタイプが勝ち上がるための必須テクニックと言っていい。
「とはいえ、アレンジの仕方にもよるけどね」
ちらりと審判を見ると、なにやら無線で協議している最中だった。
リアルタイムで運営委員会と相談しつつ、あれこれ判断している……ちょっとギリギリかな、あれは。
「特にコロナの場合、物理攻撃に偏っているからね。あまり攻撃に特化しすぎると、物言いが入る恐れもある」
「安全性を考慮して……ですか。そうなると彼女は攻撃手段がかなり限られるのでは」
「というか、ほとんどなくなる可能性もある。アインハルト相手に殴り合いをしろって言われるようなものだしさ」
≪まぁ、それを踏まえないほど馬鹿じゃないようですけどね≫
「だね」
アルトの言う通りだった。コロナもゴライアスの肩に乗っかり、俯瞰視点で審判員をチェックしていた。
それでまた作戦を修正して……うんうん、やっぱりおのれはそういうスタイルだよね。
でもそれでいい。小ぎれいにやって負けて、”全力を尽くしました”と言い切れないのなら……突き抜けるしかないでしょ。
それが本気で、研ぎ澄まされたものなら、嘘偽りのない真実なら……必ず評価されるもの。
『――さぁ! ストラトス選手もダウンから回復! 試合再開です!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
残り一分五三秒――アインハルトさんの防御力、及び行動パターンを再分析。
「ゴライアス!」
その上でゴライアスに指示。右足で地面を蹴り上げ、衝撃波を放つ――!
「グランドゲイザー!」
アインハルトさんは当然右に走って回避……そのまま飛び込んでくるので、左手刀で刺突。
狙い所はよかったけど、アインハルトさんは急停止。身を左に回転させつつ手刀をやり過ごした。
ゴライアスのふとましい指が地面を穿つ中、軽く跳躍し、腕に乗っかってきて……!
(よし……!)
そのまま二度三度と跳躍し、私の前に踊り出て……右手を突きだし、魔力弾発射。
それを後ろに跳んで、回避……肩口に弾痕が刻まれる中、アインハルトさんはその脇に着地して、腰を落として構える。
(狙い通り!)
アインハルトが右掌底を回転させながら突きだしたところで、術式を詠唱――発動!
「空破断!」
空間に固定する形で、局所展開したシールド魔法。
それが打ち込まれた広範囲衝撃波を一時的に……本当に小さく、点の形で防御。
空破断は私の周囲で翡翠の風として吹き抜け、それに後ろ以外の全てを防がれる。
そう、だから退避口は後ろ……! 私の攻防出力じゃあシールドもすぐに砕かれるから、その前に両足でシールド魔法を蹴飛ばし、大きく吹き飛ぶ!
そして、予想通りに防いでピッタリ一秒後……シールド魔法が粉々に砕けた。
同時にせき止められていた中心部にも衝撃波が襲ってくるけど、しっかり丸まって……!
「ん……!」
フィールド魔法も全開にしながら、ブランゼルと、ゴライアスに埋め込んだ触媒を通して術式詠唱・発動!
予定通りフィールド外へと落下しながら、ゴライアスのボディに命令を一つ送る。
余波がジャケットや髪を切り裂く中、アインハルトさんは鋭く踵を返し、足下にベルカ式魔法陣を展開。
右拳を振り上げ、魔力を纏わせて……。
「ティオ、力を借ります」
≪にゃあ!≫
「覇王流――」
足下に……ゴライアスの肩に、拳を叩き込んだ。
「破城槌!」
城すら壊す、振動破砕魔法……なのかな。とにかく物質で構成されたゴライアスを一瞬で砕き、打ち壊す攻撃だった。
……でも、それがトリガー。
衝撃と魔力が破砕を伴いながら、ゴライアスの肉体を叩くその寸前。
≪……にゃあ!≫
アインハルトさんの拳が穿った場所……その部位だけが物質変換で、違う素材に変更。
更に僅かな傾斜を付けることで、アインハルトさんの拳を……指を穿ち、傷付ける。
「……ッ!」
でもまだ終わらない。続いてゴライアスは自らボディを真っ二つにして自爆。
更にその身体の全てが再変換……一ミリ程度の算段となり、アインハルトさんの身体を……落下してゆくあの人を次々と撃ち抜いていく。
アインハルトさんは両腕と両足を畳み、フィールド魔法全開。防御を固めて、必死に耐えていく。
当然防御を抜くつもりはない……というか、抜いたら殺しちゃうもの。
ここで大事なのは、魔力を消耗させること。そのために……そのためだけに全身を次々と滅多打ちにする。
結果大した着地体勢も取れず、アインハルトさんはバランスを崩しながらフィールドに落下。
かく言う私も安全確実に……でもダメージを受けたように見せつつ、フィールドの外に落ちて、横たわる。
≪ダブルダウン≫
「……まだです!」
アインハルトさんはすぐ立ち上がるけど、私は立ち上がらない……カウントギリギリまで休んで、少しでも体力を回復させる。
せっかく……ジャケットも自分から、ちょっとボロボロにしたしね。肩や袖とか、裾とかもう酷い有様。条例に引っかかるよ。
『ストラトス選手、一瞬と言えどダウン! これは……タカムラさん!』
『自爆コードですね。一応相手の防御を抜かないよう、配慮されたものですが……コロナ選手、なかなか強かです』
『えぇ! しかもストラトス選手も無傷ではない! 今まで鉄壁を誇ったゴライアスを砕いた衝撃から、拳を負傷しています!』
よし、バレていない……! 意図的に……拳を潰すつもりで、小さく杭を作ったって……あの視点なら審判からも見えていないし!
『えぇ。本当に……上手ですよ。彼女は』
あ、ごめん。間違ってた。チャンピオンにはバレているかも。
でも……えぇい、迷うな私! もうとっくに選んだんだから!
…………結局、勝つことを選んで……突き抜けるって決めたんだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アインハルトの右拳からは、血が流れていた。ジャケットと皮膚も避け、痛々しく……骨が見えるほどじゃないけど、周囲にアザもできていた。
破城槌は振動破砕も兼ねた魔法だ。今のは足先を通じ、ゴライアスの破砕係数を計測。その上で攻撃を打ち込んでいる。
でも、そこで唐突に……分子構造や形状が変わったら、破砕も上手くいかない。そこを突かれた。
実際アインハルトも冷静を装いながら、焦りを顔に浮かべていた。
ここまで……ここまで執ように、肉体破壊すら厭わず攻撃してくるのかと。
しかもコロナが攻撃を局所的に……ほんの一瞬防御して、直撃を避けたことも理解している。
明らかに今までのコロナとは違う様子に、戸惑いを隠し切れなくなっていた。
「……ヤスフミ、今のは……!」
「明らかに意図的だ」
「反則は取らないのですか!?」
「審判が見えていなかったからね。それにアインハルトの技量不足にも見えるし、ツッコめないって」
≪その上証拠は粉々……チャンピオンも気づいてはいるでしょうけど、何も言わない辺りから”言っても無駄”って感じですね?
「いいのかなぁ、これ……! 確かこの大会、一応非殺傷設定が前提だよね」
ともみの言いたいこともよく分かる。コロナの戦い方は、明らかにアインハルトの安全を度外視している。
それも意図的に……審判に止められないよう、悪辣に肉体破壊を狙っている。どう考えてもマナー違反だ。
ノーヴェがこんな戦い方を許すとは思えないから、完全に……勝手にやってる。
……ただ、逆を言えば……。
「むしろ上手と褒めるべきだよ」
「え……!」
「不利が当然の大会環境で、勝ち抜くために編み出したテクニックだ。
これがプロの格闘競技なら、コロナは同門相手だろうと……”勝って期待に応える”という仕事に徹している」
「プロとして……仕事に……」
「むしろあんな退避を許したアインハルトが甘い」
「あたしも同感。アインハルト、甘く見ていたつもりはないけど……でも、負けるつもりもないって様子だったしね」
確かに相性は最悪。
アインハルト相手に、コロナのゴーレムは長生きできる状況じゃあない。
「……それが甘さだって気づいていなかったんだよ」
でも、それを分からないコロナじゃない。だったらゴーレムすら捨て札にして、覇王流を打ち負かしていけばいい。
現に今の攻撃も、防御は抜けなかったけど……断続的な攻撃を受けたために、魔力もそれなりに削られた。
インターバルで回復するのを見越しても、何発も受けたらアインハルトだって息切れする。
そういうプレッシャーを……ゴーレム破壊にはリスクが伴うと印象づけただけで、十分効果はあった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
コロナのやろぉ……! 無茶苦茶するとは聞いていたけど、ここまでダーティーにやらかすとは思ってなかったぞ!
このラウンドが終わったら、ちょっと説教してやる! 休ませつつだけどな!? そこは、しっかりするけどな!?
『倒れた後輩を静かに見守るストラトス選手! その旨に去来するのは、先輩としての誇りか……はたまた勝利への確信か!』
ばーか。そのどちらでもねぇよ……むしろ戸惑いと焦り、恐怖だ。
コロナが被っていた猫を省き、中の虎を見せてきたんだ。頭の中むしろぐちゃぐちゃだよ。
(……とはいえその戸惑いも、アインハルトが腹を決めれば一瞬で覆される。
アイツ、元々ストリートファイトしていたからなぁ)
勝てば官軍の路上喧嘩で負け知らずだった。当然汚い手を使ってきたやつだっていただろう。
もちろん覇王イングヴァルトの記憶を考えれば、バーリトゥードの戦場経験も生かせる。
いくら知性があるからって、十歳の……実戦経験もないコロナが、同じ土俵で太刀打ちできるとは思わない。
有利なように見えて、実はコロナは……追い詰められつつあった。コロナもそれは感じ取っているはずだ。
あまり手をこまねいていると、全て封殺されるってよ。
「ノーヴェ、コロナお嬢様は!」
「大丈夫だ。直撃じゃねぇし……つーか自分からリングアウトしてただろ!」
「だよね……! でも、どうして」
「……知ってるだろ、アタシ達は……その答えをさ」
正直気づいてはいた。だが健全に、大会の中で強くなっていく道もあるんじゃないかって……思っていたんだが。
「筋力、体力、魔力量……その辺についちゃあ、アイツは五人の中じゃ一番目立たねぇ。
だが、コロナにはピンチのときにも崩れない冷静さがある。勝つための戦術を組み立てる知性もある。
もっと言えば……誰が相手だろうと、どういう状況だろうと、”勝ちにいくなら一切の情と道理を厭わない”冷徹さが」
「それは……!」
「アイツの知性と発想力は、四人の中でもナンバーワン。
同時に……アイツが向いているのは、格闘競技じゃない」
コロナはフラフラと……猿芝居を交えながら、悔しげに身体を起こす。
その様子を見て、どうにもこう、胸が痛くなって……!
「恭文が……古き鉄がくぐり抜けてきたのような、命がけの削り合いだ……!」
コロナ、お前はそっちに……いや、これはアタシの責任だ。お前が悪いわけじゃない。
アタシじゃ、格闘競技の範疇で……お前が望む結果を引き出すだけの手を、戦い方を、力を示せなかった。
全てはアタシの至らなさだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『――リングイン』
コロナさんはフラつきながら……そんなお芝居をしながら、ゆっくりニュートラルゾーンへ。
正直、このラフプレイは予想外。というより、コロナさんに似合わない行動だった。
とはいえもうやられるつもりはない。コロナさんがどのような手で来ようと……覇王流は全てを打ち砕く。
「――」
息吹で気持ちを落ち着けつつ、左半身に構える。左腕は手を開き、胸元に右拳を……いつでも打てるように構えながら、腰を落とす。
防御を中心に……しかしいつでも必殺の一撃が打ち込めるように。
(ワンラウンド、残り二十秒。インターバルで回復させたら、何があるか分からない。
何より、今日のコロナさんは危うい……とても嫌な予感がする)
だから、胸に使命感が募る。
(早めに終わらせよう。
コロナさんには、ヴィヴィオさんのような格闘カウンターはない。
最接近で押し切る……召喚の暇すら与えず!)
「――ファイト!」
試合再開の合図……それが出た途端に踏み込み、コロナさんへと肉薄する。
いつもとは違うコロナさんを止めるために。平和な時代の格闘競技選手として、間違った在り方を打ち砕くために。
それが私に……覇王流に今できる、唯一のことだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――ザンクト・ヒルデの一年生になって、ヴィヴィオちゃんと友達になってから……もう三年とかかぁ。
格闘技をやっているって聞いて、凄くビックリしたっけ。
一緒にいたいから、一緒に練習するようになって……実は、格闘技が好きとか嫌いとかは、よく分からなかった。
というか、勝ちに拘ると……その、先天性部活精神が発症するので……! というか、空海さんにも一度やらかしているしぃ!
と、とにかく……とにかく……格闘技や魔法戦技を辞めちゃったら、ヴィヴィオちゃんと友達でいられなく気がしていたんだ。
それで、ヴィヴィオちゃんみたいに上手くできなくて、楽しくなくて……先天性部活精神を押さえる努力も大変で。
もうやめようかなって……こんなことで友達でいても、駄目なのかなって何度も思った。
あとは……私の、普通とは違う魔法資質。歪なバグ……この世界では不要とまで言われた資質≪瞬間詠唱・処理能力≫。
正直すっごく迷ってた。実際フォン・レイメイっていう凶悪犯罪者も、同じ能力持ちだったし。
それでいじめられたこともあるし、ヴィヴィオちゃんに言うのもすっごく勇気が必要だった。
うん、魔法戦技を続けることの迷いは、それもあった。私みたいなのがいても、ズルじゃないか……駄目じゃないかって。
だけど、続けていくごとに、ヴィヴィオちゃんを……みんなを見ているごとに、何か変わってきて。
格闘技が大好きで、いつかママを守れるくらい強くなりたいって……恭文や電王の人達みたいになりたいって話すヴィヴィオちゃんはいつもすてきで。
春光剣と炎雷魔法をもっとマスターしたいって、頑張っているリオちゃんは、格好良くて、頼もしくて。
ご先祖様の意志と記憶を継いで、本当の強さを手に入れたいって一生懸命なアインハルトさんは……凄く立派で。
あやふやでも、戦う勇気を……変わり続ける勇気をって、未来を恐れないあむさんは目標の一つで。
私と同じ能力持ちだけど、それを受け止め、使いこなしてたくさんの人を助けてきた恭文さんは、私にとっては大先輩で、憧れの存在で。
私はそんなみんなの仲間として、恥ずかしくない自分でいたくて。
そんなみんなと……同じ時間を、いつまでも笑って歩いていたくて。
何より……力を理由に、諦めて……グジグジして、怯えていた自分を変えたくて――だから!
「――ブランゼル」
≪Yes≫
(今さら行く道なんて、引いていられない)
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
(だから、痛くても使う)
打ち込まれるアインハルトさんの右拳。
断空の構えから放たれる必殺の一撃。
(ネフィリムフィスト――!)
術式を発動。ブランゼルは一時的に待機状態へシフト。
そのブランゼルのサポートもあり、私の身体は瞬間的に動く。
打ち込まれた拳を伏せて……肉体に走る痛みの分、鋭く強く……左ボディブロー!
「が……!?」
アインハルトさんのジャケット……装甲をきっちり抜いて、拳を肉にめり込ませる。
その不意を突き、両足に力を込める。こちらも痛みが走るけど、打ち込まれたプログラムのままに身体は動き……その場で跳躍。
両足で地面を踏み砕きながら打ち込んだショートアッパーで、アインハルトさんの顎先を砕かんばかりに叩き、跳ね上げる。
そうしてたたらを踏んだところで……ダウンすら許さず、両腕を構えてピーカブースタイル!
すぐに頭を振り、八の字を描くように揺らめいて……その速度を一気に上げて――同時に術式発動!
そっちは今詠唱したものじゃない! トラップ的に……アインハルトさんが踏み込んですぐ生まれた戒め!
「く……!」
それが効果を発揮していくのと同時に、腰が、背中が、足が軋む。
頭がふらつく……想像以上のダメージに、筋肉が、線維の一本一本が悲鳴を上げる。
(でもそれがどうした!)
だけどそんな悲鳴は、今は振り払う……振り切っていく!
これで決められるならよし! 決められなくても必要な一手! 絶対に打ち込むべき一手!
今ここで”最大火力”を見せつける……それだって今後に必要な見せ札だもの!
そのための痛みなら払う……払い続ける!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
肋が……顎が……砕けんばかりの衝撃で打ち震えていると、ピーカブースタイルでコロナさんが頭を振り回す。
(これは……!)
脳が揺れている。でも、すぐに分かる……これは下がらないと駄目だ。
一度発動したら、巻き込まれたら……嵐のような乱撃に巻き込まれたら、どうしようもない。
なによりこの技は欠点がある。だから震える足を必死に……必死に意識で叩き伏せ、後ろに跳ぶ。
そう、跳んだ……跳ぶために力を入れた。反撃のために拳も構えた。
なのに動かない。私の身体は、僅かにつんのめって停止し続ける。
そこで間抜けなことに気づく。私の足が……腰まで、ダイヤモンドのツタに戒められていることに。
さっきも使っていた物質操作によるバインド……その発展系。
(設置型のトラップバインド……読まれていた!?)
しかもこれでは、アンチェインナックルも打ち込めない。
いや、正確には……間に合わない。
アンチェインナックルで砕くことができても、一瞬遅かった。
コロナさんの拳は再び武装を纏い、私の顔面に迫っていて……!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ちょ、あれぇ!」
さすがにりんも驚いて前のめり。そのときすてきなオパーイの谷間が……って、駄目駄目! 今は試合に集中!
≪にゃ……!≫
ティオがサポートへ入る前に、コロナは全ての準備を終えた。
両腕に限定創成――ゴライアスの拳を纏わせた上で。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
コロナは右フック――。
肉薄しながら、全体重をシフトウェイトで乗せながらの一撃が、アインハルトの頭を捕らえる。
魔力を纏わせたそれで、アインハルトは頭を振り乱され……しかし倒れることも許さず反対側から左フックが飛ぶ。
一撃が放たれるごとに、重さは、速度は増していき。
「デンプシーロール……!」
「ミウラちゃんが失敗した攻撃! コロナちゃんも使えたの!?」
何発も……十何発も! アインハルトは拳を食らい続ける!
ティオもフィールド魔法を……ジャケット出力を高めるものの、焼け石に水!
完全に物理で潰す流れだ! それにアインハルトも顎を叩かれ、意識が定まっていない!
そう……アインハルトは振り子のように頭を、身体を振り乱され……そして二十数発目を食らい、ツタが粉砕。
ダイヤモンドの欠片と一緒に、アインハルトは地面を転がった。
そして……その頭上を、止まりきれなかったコロナの拳が三発通り過ぎたところで。
『OHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――!』
『――ストラトス選手、嵐のような逆襲によりダウンだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
第一ラウンド残り一三秒! コロナ・ティミル選手、ここで猛獣の牙を見せつけた!』
≪カウント――1≫
「――ニュートラルコーナーへ!」
「はい!」
≪2≫
コロナは顔をしかめながらも、身体に走る火花には構わず……ゆっくりとニュートラルコーナーへ戻る。
その逆転KO……そうなりかねない猛攻に、会場も沸き立って……凄まじい叫びがこだまする。
≪3≫
『お聞きください! この大歓声を! 圧倒的ピンチかと思われた中での大逆転! しかも今のは……タカムラさん!』
≪4≫
『デンプシーロール……ミウラ・リナルディ選手が発動に失敗したアレですね』
≪5≫
『それをボディブローからのガゼルパンチ……あの踏み込みながらの、低姿勢からのアッパーなんですが、そこにバインドを合わせ、当てられる状況を作っている』
≪6≫
『同門対決で覇王流のことも、ストラトス選手のこともよく知り、”打ち込める状況”を想定できたティミル選手だからできたカウンターですね』
『なるほど……!』
解説と同時進行で、カウントは進んでいく。でもアインハルトは起き上がらない。
ふらつき、目を見開いたまま停止して……。
「――アインハルト! 起きる! 起きるッス!」
≪7≫
「起きて! アインハルト!」
≪8≫
セコンドについていたウェインディとディエチが、必死にリングサイドを叩き……。
≪にゃあ……にゃあ……にゃあー!≫
「ぁ……ぅ……!」
アインハルトはようやく意識を取り戻したらしい。
それでもふらつき……なんとか、両手に力を入れて……起き上がろうとするけど。
≪9……10.Count out≫
両膝を突いて、まるで頭を垂れているかのような姿勢で……テンカウントが取られた。
『――ここで試合終了! まさかのワンラウンドKO!
同門対決を制したのは、コロナ・ティミル選手だぁ!』
『いやぁ、素晴らしい試合でした。柔よく剛を制するというか……しかしティミル選手、まだ手札の半分も晒していませんね』
『まだ余力があったと!?』
『幸運にも助けられた……そう言ったところでしょうか。なんにせよ、次の試合が楽しみですよ』
「さすがは解説役だねぇ。きっちり花を持たせてくるか」
「あの、恭文さん……あれ……あれ……!」
「なぜ彼女がデンプシーロールを!? それに欠陥品では!」
はいはい落ち着け……ともみ、ジャンヌもビックリしたのは分かるけど……あれは理由がある。
「まずデンプシーロールは確かに未完成の領域にある技だけど……今見てもらったように、当てられる状況を作るコンボができるなら、その欠点を補えるのよ」
「今回は、ミカヤ師範のときとは違ったと……」
「それで次に、アインハルトは完全に……格闘戦でのカウンターを警戒していなかった。
ここまでちょいちょいダーティーな手で足を引っ張られたのに、一切だ」
≪はっきり言えば、ここでも甘さが出ています。ゴーレムや物質変換によるカウンターだってあり得たのに≫
まぁここは、コロナのふだんとは違う戦い方に面食らって……動揺したせいとも取れるけどね。なんにせよ油断は油断だ。
で、ここからが重要な点だよ。
「あとは、≪ネフィリムフィスト≫と……おのれらが気にしているミウラの試合だ」
「ネフィリムフィスト?」
「ちょ、待って……確かそれって、禁呪じゃない!」
「「禁呪!?」」
「ティアナ、それは正確じゃないよ。……あくまでも戒めのレベルだ」
しっかしあれだけ派手に使ったら……コロナ、とりあえず自分にかける分はもう使えないと思うよ?
現におのれも気づいている通り、審査員もちょっとザワザワしているしさ。
……嫌な流れにならなければいいけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ははははは……あははははははははははー! やっぱり無茶だったかも! デンプシーロールから続くコンボは!
でもミウラさんの試合で知って、はじめの一歩を見て……カウンターコンボとしてやりたくなったし、仕方ないよね!
それに、あれで正解だった。フィジカルオンリーであれだけの火力を発揮するラッシュは……ヴィヴィオちゃん達の技だと難しいし。
「ふぅ……」
とりあえず……フィスト創成は解除して……っと。
「――すみませんー! 審判員のみなさんー!」
点数稼ぎも兼ねて……アインハルトさんがタンカで運ばれたのも確認してから、声を張り上げる。
「あ……はい! なんでしょう! ティミル選手!」
「ちょっと下がっていてください! リングの修復をしますので!」
「いえ、それでしたら我々が!」
「素材関係も大量に使っちゃったので、ゴライアスだった破片も一緒に修復します! 今のままだと多分修復魔法でも強度不足になるので!」
審判員のみなさんはちょっとザワザワするけど、でもすぐに問題なしとこちらに笑いかけて。
「では……失礼ですが、修理前と修理後の素材状態などもチェックします。それは」
「むしろお願いします!」
「では、よろしくお願いします」
「はい!」
両手をパンと叩いて……リングの縁にそれを当てる。
そのまま詠唱した術式を発動。辺りに散らばる破片なども取り込みながら、リングは一瞬だけ強く輝き……元の姿を取り戻した。
審判員のみなさんは取り出したデバイスでサーチ……幾つかのチェックを終えて、こちらに一礼。
「……はい! 問題ありません! ご協力感謝します!」
「いえ! こちらこそありがとうございましたー!」
『――自身が戦った舞台の手入れまで行えるとは! なんというスポーツマンシップ……あれ、これは違いますか』
『まぁよいことですよ。暴れるだけ暴れて、修理できない魔導師も多いですからねぇ…………僕とか』
『チャンピオンが!?』
あはははは、やっぱりくすぐったい……お為ごかしも辛いものだと実感しながら、とたとたとノーヴェ師匠達のところへ戻る。
「コロナ、お前……!」
なぜかノーヴェ師匠、腕組みして角を生やしているけど。
「まぁまぁノーヴェ師匠……それに安心してください。
”つい”、”咄嗟に”……”自分にネフィリムフィストを使ってしまったけど”、もう絶対やりません」
「それ以外にもオーバーキルっぽい要素があっただろ! 拳をデカくしてガツンとかさぁ!」
「誤解です! あれはグローブです! 魔力を纏わせた上で、非殺傷の前提を守るためにやったことです! 威力はむしろ削がれています!」
「その恭文みたいな理論武装はやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ま、まぁまぁノーヴェ! というかコロナお嬢様も……なんか、煽っていますからね!?」
オットーさん、ごめんなさい。これについてはただ事実を告げているだけなんだけど……だから現実はコーヒーのようにほろ苦いということなんだろうか。
「だけど、いつの間にデンプシーロールを……」
「習得なんてしてねぇよ!」
「はい? いや、でもさっき」
「あれはゴーレム操作だ」
「なんですよね……なのに、咄嗟にやってしまって……反省です」
「まだ言うか!」
ノーヴェ師匠のアイアンクローを左にサッと回避ー!
さすがに今グリグリは嫌だと、警戒している間に……オットーさんがハッとする。
「まさか、コロナお嬢様……!」
ゾッとした様子には、つい苦笑を送ってしまった。
……大丈夫、押し通す自身はある。フラフラと発動するイレイザーに比べたら……全く危なくないもの。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
コロナの試合については、特に審議などが入ることもなく……極々普通に終わった。
で、次の試合までちょっとインターバルが入ったので、空海達の控え室に入りつつ、みんなに軽く説明しておく。
コロナが使った術が、割りと……危ない橋だっていうのを。
「――身体の自動操作?」
「そう。ゴーレムってのは、別に内部にフレームがあって、それで駆動するわけじゃないのよ」
空間モニターに描くのは、粘土の人形……うん、これでいいのよ。今回起きたことを説明するなら十分だ。
「むしろガンプラとプラフスキー粒子の関係に近い。
周囲に駆動用フィールドを……操り人形で言うなら糸を用意して、それを通じて操作するんだ。ゴーレムの総合性能もその糸の性質で決まる。
……ネフィリムフィストはそれを人間に行使するんだよ。巨体のゴーレムを動かすだけのパワーが、人間サイズで打ち込まれれば……」
「正しく巨人の拳というわけですか……」
「更に事前のプログラムにより、特定のカウンターを設定したり、トリガーで自動再生するようにもできる」
「つまり、こういうことか? コロナはアインハルトの攻撃を予測した上で、そのトリガーをセット。
そこから入力した攻撃プログラム……デンプシーロールに繋がるコンボを発動した」
「はい、空海は正解」
≪反応時間ゼロのオートカウンターなの。そりゃあ警戒もせずに食らえばああなるの≫
アインハルトの油断……それを徹底的に利用した形で、最高のラッシュを打ち込んだ。
それもミウラとミカヤの試合を参考に、アインハルトをダウンさせられる……本当に数少ないチャンスを物にできるとした上でだ。
「なにそれ! 滅茶苦茶凄い必殺技じゃん!」
「う、うん……! でも、それがどうして禁呪に」
「なるのよ。アンタ達、ゴーレムを……ゴライアスを動かすようなパワーが、身体にのしかかってノーダメージになると思う?」
「「………………あ……!」」
ティアナの言葉でハッとするりんとともみ。
……そうだね……それが一番の欠点だ。僕もそう教えられたもの。
「そう言えばコロナちゃん、痛そうな顔をしてた……」
「身体の意志……本人の状態もガン無視で、ただ技を打ち込む人形になるもの。当然負担も相応にある。
でもそれだけじゃなくて、身体操作には僅かにロスがある」
そこも行程を書くと分かりやすいので、ワードパットでさらさらと……これでよしっと。
――状況判断→設定発動→身体操作準備→実行動――
「自分ですぐ身体を動かすより、本当に僅かに……コンマ何秒かの遅れが出る。
しかも自分が練習していない……技能として身体に叩き込んでいない動きだと、余計にね。
それはコンマ一秒で状況も、予測も覆されていく格闘戦では命取りだ」
「そもそも動きを読まれちゃったら、対応するのも時間がかかると……」
「禁呪……というか戒めにされているのもね、そのせいらしいのよ。
なんかゴーレム操作を教わる最初の段階で、”やっちゃ駄目なこと”として伝えられるって……」
「僕もそんな感じ。だからコロナも、長期戦だと相当危なかったよ」
アインハルトと技能的な相性が悪いのもあったけど……それになにより。
「……聖王オリヴィエが使っていた技能でもあるしね」
『はぁ!?』
「……って、なんでティアナが驚くのよ」
「いや、あたしは……危ないってことしか聞いていないのよ! 士官学校の同期からね!?」
「それでか……。
あのね、聖王オリヴィエって小さい頃に事故で、両腕を亡くしているじゃない?」
「その義手を作ったのが、黒のエレミア……あ、そういうことか!」
「そうそう」
……と言ってもりん達には分かりにくいだろうから、さっくり結論に触れよう。
実際、どういうことかってすっごい首を傾げているし……。
「ようするにね、その義手を動かしていたのがネフィリムフィスト……ゴーレム操作と近い技術なんだよ」
「あぁあぁ……あたしにも分かった!」
「確かにそれなら……アインハルトちゃんのご先祖様、聖王に勝とうと四苦八苦していたんだよね。対策も……当然……」
「その腕自体が頑強な武装でもあるからね。次のラウンドに持ち込まれていたら、本当にどうなったか分からない」
「なら恭文、それを……コロナの奴は」
「知っていたに決まっているでしょ。僕もゴーレム操作を教わったとき、ネフィリムフィストと一緒に聞いたもの……その話」
「マジで部活精神でぶっ飛ばしたってことかよぉ!」
「……コロナ、絶対尻に敷くタイプだな……」
ダイチ、よく分かったね。ならその勢いで、空海にも教えといてよ……コロナはあれが本質だって。
……そう、部活精神だ。あそこでネフィリムフィストを使ったのは、必殺のためだけじゃない。
「ヤスフミ、それは……いえ、ミオン達のやり口に近いものなのは、理解できたのですが……!」
「万が一アインハルトが立ってきたとき、ネフィリムフィストを見せ札に……過去の記憶から動揺を引き出し、思考を硬直化させるのも狙いだったのよ。
……もしそんな欠陥魔法を使い続けていたら、アインハルトはどうしたと思う?」
「……それを突きつけるため、できるだけ早く試合を終わらせようとする……でしょうか」
「コロナの身を案じつつね。あとはそういう強力でも単調な攻撃に、ネフィリムフィストを抜いてカウンターを取ればいい。
……序盤のルールをかいくぐる”らしくもない行動”も、ネフィリムフィストに頼っているせいだという印象を与えていただろうからね」
「本当に部活精神じゃないですか! 心理戦も執ようって!」
「逆を言えば、それだけして……そこまでして、ようやくアインハルトの牙城を崩せる」
ジャンヌも唖然とした様子だったけど、僕がそう纏めると……すぐに落ち着きを取り戻す。
粛々と視線を落として、少し困った様子でため息。
「記憶継承者……特に戦闘経験を継承している相手との戦いは、そういうレベルの話なのですね」
「コロナがバックヤードってのもあるけどね」
「でもまぁ、理屈はどうあれ……アインハルトにとっては厳しい結果だねぇ……」
「それも乗り越えなければどうにもなりません。負けは負けなのですから」
りんの前にシオンがふわりと……りんは両手でそれを受け止め、優しく親指で頭を撫でてくれる。
その敗北も力に変える……そういう繰り返しの上で、チャンピオンやハイランカー達も今の舞台にいるから。
「というわけで空海、雛見沢で修行しようか」
「部活精神は嫌になるほど知っているんだが……!?」
「でもおのれ、このままだと……絡め取られるよ?」
「何にぃ!?」
「毎日三〇分ごとのメールが欠かせなくなるよ?」
「それあのアイドル≪ほしな歌唄≫だろうがぁ! つーか待て! 待ってくれ……俺の未来には一体何が待ち受けているんだぁ!」
きっと絶望……はたまた希望。
そんなことしか言えなくて、僕は……りんとともみ、ジャンヌ、ティアナ、ショウタロス達も、ただただ合掌――。
『……』
「やめろぉ! その死者を見送るような、荘厳な感じを出すなぁ! つーか試合前なんだよ、俺はぁ!」
「空海、強く生きろよ……」
「ダイチ、お前もかぁ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……コロナがやべぇ。
具体的には滅茶苦茶狸だ。猫を脱いだら、詐欺師が顔を出してきやがった。
ヴィヴィオとリオの控え室に戻り、頭を抱え……ついその辺りを愚痴ってしまった。
「……それでコロナ、審判員の人を追い返したの?」
「追い返したっていうか、自分から謝って納得させやがった……強引に……!」
最初は……あぁ、こんな感じだったんだ。
選手じゃないのにベンチへ座って、頭を抱えながら……あの悪夢を思い出す。
それは本当についさっき……試合場から控え室に戻る道すがら。試合を見ていた審判員とは別の、役員っぽいじいちゃんと鬼三に話しかけられた。
――ティミル選手、ナカジマコーチ……ちょっとよろしいでしょうか――
――あ、はい……――
――よかった……実は、ちょうどお話に伺おうと思っていたところで――
――コロナ!?――
――ネフィリムフィストの件ですよね。自分に使っちゃったから――
アイツ、疑いをぶつけられる前に、自白してきやがったんだよ! それも心底失敗したと……後悔している様子で!
――あ、あぁ……それで、話を聞こうと思ったんだが――
――本当にごめんなさい! 本来はあれ、人間サイズのゴーレム用に調整したものだったんです!――
――人間サイズ!?――
――ネフィリムフィストの欠点を補うにはどうしたらいいかと考えて……それなら、技量を存分に生かせるサイズのゴーレムならOKかなって――
――あぁ……なるほど……――
あぁ、そうだな。練習していたよな。
実際練習場であたしをぶっ飛ばしてくれたのも、その人型ゴーレムだよ……! しかも恭文の技を使う奴が十体!
――それでノーヴェ師匠にも、試合前に完成度を見てもらって……ですよね、ノーヴェ師匠――
――だ、だなぁ……あとは加減とかもできるように、ダウンした相手に追撃しないプログラムも加えてもらって――
――では、あの攻撃は……本当に咄嗟のことだったと……!?――
――ごめんなさい! とりあえずオーバーキルだけはしないように、フィストで非殺傷設定は守る形にしたんですけど……! 私、なんてことを!――
嘘つけぇ! それも含めて計算ずくじゃねぇか! その後悔して打ち震える様子はやめろぉ!
つーかそれは……恭文か! 恭文のやり口なのか! そうなのかお前ぇ!
――そうだったのか……。まぁ、重大な危険行為になり得たことだと自覚があるのは……うん、よかったのだが――
――失格、でしょうか。いわゆる反則負け――
――そうだなぁ……君が今後、ネフィリムフィストを……咄嗟にでも自分に使わない。
そう約束してくれるのなら、今回は厳重注意に留めよう――
――アイロン理事、よろしいのですか?――
――相応の配慮もしていたし、オーバーキルも避けていた……それは審判員の証言もあるからな。
ただ、対策ができなければやはり……――
――……ブランゼルに禁止事項として止めてもらう設定にすれば、大丈夫です。ノーヴェ師匠にも監督してもらいますので――
――ならそれで頼む――
そしてコロナは理事相手に堂々と……つーかアイロン理事って、あれだよ。
IMCS運営委員会切っての良識派で、チャンピオンのイレイザーにも苦言を呈している一人……つーか筆頭だった!
なんか偉そうなちょび髭のおっちゃんに見えるけど、滅茶苦茶いい人だった!
その人をいい感じで踊らせて、我を通すコロナ……なんて恐ろしい奴だ!
――……チャンピオンのイレイザーもそうだが、危険行為は単純に……相手選手に対して非礼というだけではないんだ。
試合を見て、それを模倣する魔導師が出てくる可能性もある。それで大けがでもして、何らかの夢が潰れることは絶対に避けなければならない。
……君も思うところはあるかもしれないが、協力してくれるだろうか――
――大丈夫です。ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした――
――いや、こちらこそ試合の直後で疲れているところ、すまなかった。
……次の試合も頑張ってくれ。君達若手の活躍には期待しているからね――
――はい!――
「審判員っていうか、理事さんじゃないですか……!」
「あとで恭文と話をする必要が出てきた……」
絶対アイツの影響も受けている。つーか猫を被るのも……うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!
あの野郎、仕返ししてやる! ウェンディと一緒にメイドさんとか言って、修羅場を起こして嫌がらせしてやる! 覚悟しておけぇ!
「ノーヴェ、そこは部活精神に則る形で」
「それだけは駄目って言ってきたはずなんだよ! アタシはぁ!」
「……きっとノーヴェの声は、誰にも届かないくらい無力だったんだよー」
「朗らかに死刑宣告してんじゃねぇよ! アタシを殺すつもりかぁ!」
「ノーヴェさん、落ち着いてください! 冷静に……冷静にー!」
あの野郎共がぁぁぁぁぁぁぁ! つーか魅音と圭一、レナもか!? 絶対なんか修行してる……絶対なんか悪いことを教え込んでいる!
よく考えたら、アイツらとも三年近く付き合いがあるしさぁ! 間違いなく……あああああ!
「どうしてこうなったんだぁ! ヴィヴィオだけならまだ何とかなっていたのにぃ!」
「ヴィヴィオを問題児みたいに言わないでよー!」
「自覚を持てぇ! つーかその年で愛人とか言い出す時点で、お前は狂ってるんだよ!」
「……ヴィヴィオ、ノーヴェ師匠が正しい。ちゃんと謝ろうか」
「どうしてー!?」
≪!≫
なのはさんにはまた相談しよう。頭を抱えながら、強く決意した瞬間だった。
「それでノーヴェ師匠、コロナは……アインハルトさんもですけど」
「コロナはオットー付き添いで、一旦メディカルチェック。
あとは厳重注意を受けつつ、改善型ネフィリムフィストの術式も見てもらってる。
アインハルトの方は……ウェンディとディエチが付いてくれているから、ひとまず安心だ。もう意識も戻ったしな」
「そっかぁ……」
「よかったー」
「なのでお前達も心配するな。まず自分の試合に集中しろ」
「「はい!」」
……ただまぁ、アインハルトにとっても課題が残る試合になったけどな。
ダーティーなところは抜かしても……同門対決で、より勝負に徹した方が勝った。そういう図式で……いや、それはあとでいいか。
アタシ達は挑戦者で、そういう課題を突きつけられながら……より先を目指すために、この大会に出たんだ。
うん、アタシもだよ。アタシも指導者として……コロナやアインハルトと、一緒にやりたいことができたから。
だから、ここだけは確信できる。
これから続く戦いも、ヴィヴィオにとって、リオにとって……未来へ進む大事な足がかりになるって。
「……っと、その前にシャンテだよ!」
一人思いに耽っていると、ヴィヴィオがハッとしながら拍手。
そうだそうだ……忘れちゃいけない大一番の真っ最中だったと拍手を打つ。
「第二会場だったよな。それで勝った方が空海と……つーか空海が勝たないと駄目なんだが」
「そうだよー」
「アタシ達的にはいろいろ厳しい……! 因縁の対決で言えばヴィクトーリア選手だけど、お世話になった人で言えばシャンテさんに勝ってほしいし!」
「どこまでシャンテがKYにいられるか……それで勝負が決まるね」
≪!?≫
「んなわけあるかぁ!」
とりあえずこのフリーダムにはゲンコツを食らわせ……試合の様子を中継で見てみる。
……シャンテも実力的には高いが、ハイランカー相手となると……だが、それも対策次第では、もしかしたら。
(Memory83話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、久々のVivid本編。同人版よりさっくりした形で終わり……全てデンプシーが悪いんや」
あむ「それはどうなのかなぁ!」
(さすがに普通のカウンターはチャンスの無駄遣いだった)
恭文「なお、これでダウンせず続いた場合、コロナの用意した戦術がフルバースト……そちらは同人版でということで」
(うん、この流れで進めばよかったんだ。今さらだけど思い知った)
恭文「つまりアインハルトは」
あむ「それ以上駄目だから! ……と、とにかく日奈森あむと……」
恭文「蒼凪恭文です。……もうすぐ八月……誕生日がくる!」
あむ「……だからみんな、厳戒態勢なんだよね。また何かあるから」
恭文「何もないから!」
(とりあえずFGOの夏イベはあります)
恭文「それがあったかぁ! つーか……BBめぇぇぇぇぇぇぇ!」
BB「去年あれだけ滅茶苦茶反撃してきたのに、まだ怒ってるんですかぁ!?」
あむ「いや、当たり前じゃん。復刻で……ほら」
BB「あれについては私のせいじゃありませんー! というか、ほら……卯月さんと瑞樹さん、楓さんがアバンチュールしたいって」
恭文「BB、『ワシら純情放火団ごっこ』しようか。お前増田役な」
BB「あー、はいはい。いつものあれですね? 分かりましたよ。犯人役として叩きのめされれば」
恭文「いやいや、犯人は僕だから」
BB「…………へ?」
恭文「おのれ、ヒーロー側。というか犯人を逮捕してカッコ良く決める人」
BB「私がヒーローでいいんですか!? というか、え……実は途中で台本変更で、私が負けるとか」
恭文「おのれが勝利者だってー。まぁ変身する人じゃないけど、主役のエピソードだから」
BB「もう、センパイったらー♪ 結局私のことが好きだから、可愛がりたくなってるだけなんですね。
でもそういうのはいいですよー。意地悪なツンデレ男子なんて、BBちゃんの趣味じゃありませんし」
恭文「よし、やるよ。徹底的にいくからね。ガチで演技してもらうからね」
BB「もうどんとこいですよ!」
あむ「あれ……確かその話って……聞いた覚えが……!」
(そして数時間後、あまりに無情な展開に、蒼凪荘のBBも絶句することとなった。
本日のED::LAST ALLIANCE『HEKIREKI』)
BB「…………なんなんですか、このお話ぃ! 救いがないんですけどぉ! 悪いやつがなにも変わってないんですけどぉ!」
恭文「なにを言っているのよ。おのれ、ちゃんと犯人を逮捕できたでしょうが。放火犯をさぁ」
BB「これじゃあこっちが悪者みたいな空気だって言ってるんです! というかこれ、子ども番組でやったとか嘘ですよね!」
恭文「ディスクで見せたでしょうが」
古鉄≪この辺りの特撮、刑事ドラマとか書いていた人がそっちのノリでシリアスにぶっ飛ばした話が多いんですよね。
BBさんが言うような子ども向けとは思えない……正義と悪が分かりにくい話≫
恭文「よし、このシリーズでいこう。えっと、次は見えない巨人とかどうかなぁ」
BB「もう遠慮したいんですけど……。というかBBちゃん的にはこの美貌を生かして、セクシーアクションドラマを」
恭文「……おのれ、今時その路線って大体パンチラとか下着とか……場合によってはトップレスも」
BB「シリアス社会派特撮で生きましょう!」
恭文「よろしい」
(おしまい)
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