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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory79 『洗礼』


一九七六年――昭和五一年六月二十六日。

この日、日本武道館にて新日本プロレスが企画した『格闘技世界一決定戦』というイベントが行われた。

そう、あの世紀の一戦≪アントニオ猪木VSモハメド・アリ≫の異種格闘技戦だ。


元々アリはビッグマウスというか、罵倒が多かったのも有名で……これも一種のリップサービスなんだけどね?

百万ドルの賞金を用意するが、東洋人で自分に挑戦する者はいないか……と、当時のレスリング協会会長に発言した。

それを聞きつけたアントニオ猪木は、『そこに九百万ドル足して、一千万……当時のレートで三十億を出す』と挑戦状をアリ側に送った。



最初はマスコミ側も実現不可能とタカを括っていたら、なんとアリ側が反応。

その後紆余曲折と盛大な挑発合戦を経て、試合は開催される運びとなった。……まぁ、その結果はさんざんなもので。

はっきり言えば、興行的には失敗したイベントだった。新日本プロレスと猪木側も、多額の負債を背負い、責任者への人事的処罰も下された。


その原因はアリキック――寝ながら、アリの足を蹴り続けるという攻め方だった。

三分十五ラウンド……根ながら蹴り続ける猪木に、ボクシングの技術では対抗できず、攻めあぐねるアリ。

そんな姿を延々見せられれば、それはもう……ギャラリーとしては面白くないでしょ。


ただ、格闘競技者及びファン的には見過ごせないポイントもある。


まず猪木が打ち込み続けたアリキックにより、アリの足は重傷を負うことになった。血栓症を患い、切断する寸前ってレベルだよ。

それどころか血栓が脳や心臓の血管に影響し、死に至る可能性もあった。

アリは試合の五年後に引退するんだけど、このときのダメージが大きく尾を引いたからというのが一説なのよ。


それだけの蹴りを打ち込み続けた猪木も、ダメージは甚大だった。十五ラウンド全てを寝ながら戦うとか、波の体力じゃできないしね。

その上蹴りによって自傷し、スネと足の小指を骨折していたのよ。

何よりこの試合は賛否両論ありながらも、近代にまで続く総合格闘競技のルーツにもなった……歴史的に意味のある試合なのよ。


――それは、僕達にとっても変わらない。

総合格闘技は進化を続けているというけど、未だ……アリキックへの明確な答えは出していないのかもしれない。


停止し、脂汗を滲ませるミウラの姿を見ていると、どうしてもそう感じてしまう。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory79 『洗礼』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


座ったまま待ち構える強敵……さすがに、今のは不用意過ぎました。でもさすがに……油断しすぎです!

左手を開き、魔力集束――術式をしっかり制御した上で。


「ブレイジング――」


構築した魔力弾を放り投げ、一気に蹴り出す爆撃弾≪ブレイジングコメット≫……これなら。


「コメッ」


でもその瞬間、蒼い閃光が走る――。

放り投げた魔力弾が突如として頭上で暴発。爆炎に包まれ、ジャケット越しに身体を叩きつけられる。


「ああああああ!」


なに、今の……爆炎を払いながらミカヤさんを見ると、左人差し指をこちらにピンと向けていて。

……まさか、速射の魔力弾!? でもどんな攻撃がくるかも分からないのに!


「予備動作と構築時間が大きすぎるね。それじゃあ迎撃しろと言っているようなものだ」

「――!」


だったらと再びピーカブースタイルを取り、ウィービングをしながら突撃――!

でもそこで右足を撃ち抜かれ、派手に転がってしまう。


『ミウラ選手、ダウン!』

「ま、まだです! まだいけます!」


慌てて立ち上がり、ファイティングポーズ……レフェリーのチェックを受けながら、ゾッとしてしまう。

今のも見えなかった。というか射撃なんてどうして……この人、抜刀術が専門のインファイターなんじゃ!


「――ボックス!」

『試合再開! しかし、ミウラ選手にとっては二度目のダウン! 判定の点でも厳しい展開になってきましたぁ!』


落ち着け……落ち着け……! 座っている状態から、真正面へ飛び込むのが駄目なんだ。反応が遅れる視覚……背中側なら!

フットワークを使い、ミカヤさんの射程外をグルグル……時計回りに大きく回る。


『ミウラ選手、フットワークで攪乱! 実に柔軟な機動だぁ!』

『えぇ。突進力だけではないのが素晴らしいです』


少しでも目を眩ませた上で……!


(ここ!)


リングを踏み砕きながら、背中を狙って突進! 火力重視で蹴り飛ばして――!?


「――天瞳流抜刀術」


その瞬間、光が……二筋の光が走り、胴体に痛烈な衝撃が走った。


「無月」


何、これ……なんで、天井を見てるの?

踏み込んでいたはずなのに……なんで……ボク……。


斬られちゃってるの……!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ミウラさんは三度目のダウン……! リング外に吹き飛ばされ、派手に転がった。


『ミウラ選手、ダウン! 10! 9! 8――!』


そう……いつの間にか立ち上がり、抜刀していたミカヤさんの剣閃によって。


『正しく神速……正しく極地! これが数少ないチャンスを追い立てる、狩人の強さなのか! 今年のミカヤ・シェベルはひと味もふた味も違う!』

『私も避けられる自信が全くありません』


チャンピオンがそこまで言うなら、本当に相当だよ……! でもそれより重大な問題がある。


『しかも対応を迫られたとはいえ、ミカヤ選手は今まで公式大会では見せたことのない、射撃戦も行っている』

『えぇ!』


そう、そこだよ……そのせいで会場も、私達もザワザワ! 驚くしかない!


「なぁ……ヴィヴィオ」

「スティンガー、だね」

「うん!」


スティンガー……クロノさんが習得している、小さな光弾を速度と貫通力重視で打ち出す魔法。

恭文も覚えていて、ちょいちょいフリーザ様ごっこをやるんだけど……あぁ、そうか……!


「アウトレンジ対策だな……! つーか恭文の奴が教えやがったのか!」

「これ、マズくない……!?」

「かなりマズいです」


あむさんに答えながら、焦った様子のミカヤさんを観察。

もうこれで、ミウラさんは飛び込むしか選択肢がなくなった。今のでダウンを取られたのは、本当に意味が大きい。


「座捕りによるカウンターに依存することなく、あの状態からも攻撃できるってことだもの……! それもミウラさんでも避けきれない攻撃で!」

「このまま手をこまねいていたら、間違いなく判定負け! なら、飛び込んでKOを狙うしかねぇ!」

「幸いミウラさんには、あの強打があります。一発……大きいものが当たれば」

「……そう、なのかな」


でもそこで、あむさんが小首を傾げる。

どうしたのかと思っていると、ミウラさんは何とか立ち上がり……。


『ミウラ選手、4カウントで立ち上がりました! ダメージは甚大ですが、リングに戻り……』


ミウラさんがリングインしたところで、ゴングがけたたましく鳴り響く。


『第一ラウンド終了! クールタイムを挟んだ上で試合継続です!』

『インファイターとして鍛えていた甲斐がありましたね。あの斬撃に対応し、防御を反射的に固めていたんですよ。
ですが……ダメージは次のラウンドまで持ち越しそうですね』


チャンピオンの言う通りだ。ミウラさん、もう虫の息って感じで……フラフラだもの。どっちも応援すると言った関係で、胸の中が締め付けられる。

対してミカヤさんは、前半のダメージが完全に抜けた様子。もう足取りが軽いもの。


「……そういやあむ、何を言いかけたんだよ」


そこでノーヴェが思い出したように、あむさんに問いかけた。それもやや厳しい表情で。


「あ、うん……KOを狙うしかないって話、なのかなぁって」

「どういうことですかぁ?」

「上手く言えないけど……なんか、違和感があるの」

「……ボクも。KO狙いになってしまう……なるしかないってところに、問題があるように感じるんだ」


どうやらあむさんとミキは、何か気づいたらしい。それは決して、ミウラさんにとっていいものではなくて。

そう……ミウラさんにとっても、あそこまで鍛え上げたザフィーラ達にとっても。


今から赤裸々になる事実は、今までの努力を根底から無駄だったと……宣言するほどに痛烈で。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


うわぁ……ミカヤ、奥の手だとか言っていた技のオンパレードだよ。それだけミウラの実力が半端ないってことかぁ。

でもそのおかげか、無駄な抵抗をしていたジークリンデも大分落ち着いて。


「ミカさん……」

「あぁ。去年までと全然違う! お前に勝ちたくて、滅茶苦茶鍛えてきたんだよ!」

「羨ましいよねぇ。あんな美人のお姉さんに追いかけてもらえるなんてさぁ」


ハリーと二人軽く冷やかすと、ジークリンデは少し照れながらも頷く。


「とはいえ……あっちのチビは不運っつーか、なんっつーか」

「だよねぇ。一回戦でこれだもの」

「そういう意味じゃねぇ」


ハリーは急に渋い顔をしながら、焦った様子のヴィータさん達を見やり、軽く舌打ち。


「トレーナーに恵まれなかったな」

「へ?」

「番長、それも失礼かつ早計よ。まだルーキーなんやし」

「だから言ってんだよ。わざわざ茨の道を進ませやがって……あれ、絶対本人は自覚がねぇぞ」


茨の道? 自覚がない? え、何……意味が分からないので、挙手して質問ー。


「ねぇ、どういうこと?」

「……あの子、とんでもない欠点があるんよ」

「このままだと一回戦負けの常連になる……それくらい、デカい弱点がな」

「はぁ!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ぎ、ギリギリで防げたみたい……シグナムさん、ありがとうございます……。

そんな、恭文さん達に劣るなんて嘘です。シグナムさんの協力がなければ……今ので、間違いなく……。


「ミウラ、しっかりしろ!」

「だ、大丈夫です」

「喋らせるな。今は回復に集中しろ」


師匠に頷き、口に水を含み……ゆすいでポットに吐き捨てる。

それから黙って、呼吸を整える……ただただ整える……!


「つーか死角は駄目だろ! 一番狙われやすいって分かる場所だぞ!」

「更に言えば、お前がグルグル回って突撃するより、ミカヤ選手が振り向き攻撃する方が速い」


あ………………そう、かー。うぅ、それじゃあ惑わせた意味がないよね。

……やっぱりあの”結界”を打破しないと、無意味なんだ。それだけのパワーを……速射弾程度じゃ対応できないだけの火力をぶつけないと。


「……とはいえ、あそこまで鋭いのは予想外だが」

「すまねぇ……完全に、想定外だ」


ヴィータさんは悔しげに頭をかきむしり、無力を嘆く。


「手がない……思いつかねぇ! あんなの、アタシ達の経験にも」

「大丈夫、です」


だから……喋るなと言われたけど、黙っていられず、笑って返す。


「種は、撒いています……少しずつだけど、ちゃんと」

「ミウラ」

「……抜くしかない」


決断が遅かった。それは否めない。

経験も、能力も不足している……それも否定できない。


「おい……!」

「我も同感だ。だがその場合」

「分かってます……」


ミカヤ選手の用意した切り札と、真正面から打ち合う可能性がある。それは説明されたことだから、大丈夫と師匠に頷く。


「十分に注意しろ。あとは……もう喋るな。体力回復が遅れる」


それも頷いて答えて、目を閉じる。……呼吸を整え、落ち着きながらも集中力は研ぎ澄ましていく。

懐に潜り込むんだ……師匠達の教えてくれたものを、ありったけを叩きつけて……絶対に勝つ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


三度のダウンに、次のラウンドまで持ちそうにないダメージ。はっきり言えば、試合の大勢はほぼ決まったも同然だった。

でもまだまだ……ミウラとヴィータちゃん達も荒れている様子だけど、目は諦めていない。


「ミウラ選手のコーナー、荒れてるなぁ」

「仕方ないよ。ヴィータちゃんの方針ミスもあるから」

「なのはさん、それは」

「ん……なのはより、のり子ちゃん達の方が詳しいと思うな」

「あ、はい」


そこで断言して、胸を張っちゃうかー。でも楽しそうな笑顔が目を引いて、ちょっとドキドキする。


「あのね、現在ボクシングや総合格闘技界の主流は、回避と防御に重点を置き、ミドルレンジ以上から相手を叩くアウトファイターなの。
長射程かつ速射力のある打撃≪ジャブ≫で手数を増やし、ソフトタッチアタックでポイントを稼ぎつつね」

「ソフトタッチ? いやでも、格闘技なら」

「安全面への配慮を優先して、判定もそういう方向になりがちなんだ。……分からないなら、ミカヤ選手の戦い方を思い返すといいよ」

「あ……!」


ミカヤ選手も手数よりパワーを重視してはいるけど、典型的なアウトレンジファイターだ。

まぁ刀剣を使う結果からだけど、刻んで判定勝ちに持ち込んだ試合も実は結構多いみたい。


……で、問題は……主流を相手取るのに、ミウラ”達”には課題が多いってことだ。


「でも、それならやり方が違うだけじゃ」

「とんでもない!」


のり子ちゃんが前のめりになり、それは違うとガッツポーズを交えて力説。


「アウトレンジから撃たれつつ踏み込んでいくから、ポイント判定では負けがちになる!
つまりインファイター達は、”KOを前提としなければならない”というリスクを常に背負うんだ!」

「なんですって!」

「まぁ格闘ファン的には、そこでどがーんと大技を決めてくれると嬉しいんだけど……やっぱり難しくてね。
だからインファイター向きな小柄な選手でも、長射程打撃……それに準ずる対策を用意することが多い」

「じゃないと、そもそも勝負にならない!? でもミウラ選手は爆撃弾を」

「爆撃弾はハッタリに近い物だよ。主要攻撃じゃない」

「ハッタリ!?」

「自信があるなら、最初から打っているもの」


それなら大丈夫だと、なぎひこ君は思いがちだけど……そうは問屋が卸さない。


「それに魔法スロットによる制限もあるから、何でもかんでも完全に対応は無理」

「だがなのは、ミウラには突進力や打撃力もあるだろ」

「えぇ。近づき、攻撃を当てられるのであれば」

「それも弱点だよ」

「なにぃ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――よく鍛えているね」


ミカヤはリングアウトし、エネルギーで構築された椅子に座る。

すかさず身体の各所を氷袋で冷やしつつ、水も差し出す。まぁこっちは飲むことなく、口をゆすいですぐに吐き出すけど。


「ただ、弱点も多い」

「だね……。師匠達、自分達のやり方を教えるだけに留まっていたのか」

≪確かに近づいて斬れって、奥義ですけど……どうしてベルカ式が一度衰退したのか分かってないでしょ≫

「基本脳筋だもねぇ、ヴォルケンリッター」


これは一度、師匠達に話をしないと駄目かなぁ。ヴィクトーリアにも手伝ってもらってさぁ。


「ヤスフミ、ミカヤも……彼女はそこまで弱いのですか?」

「強いよ。ただ現在の総合格闘競技では、余りに応用力がない」

「しかも最大の弱点は、あの強打と突進力だ」

「はぁ!?」

「カウンターに弱いからね」


さっきも言ったけど、回避と防御を重点に置いて、判定勝ちも視野にいれたアウトファイトが現在の主流だ。

……だからこそ、ミウラの戦い方はあり得ない。


「ミウラの突進力は単なるイノシシではなく、方向転換も柔軟な重戦車。確かに近づかれると厄介なことこの上ない。
でも……突進力が高ければ高いほど、強打が強ければ強いほど、カウンターが決まったときの破壊力は増していく。
同時に高速移動が視野を狭め、カウンターへの対応力を下げていくからね」

「では、先ほど……彼女が思いっきり吹き飛ばされたのは」

「座ったのは体力回復の意味だけじゃない。ミカヤが持ちうる最速の攻撃を放つため……でしょ?」

「ご名答」

「いや、おかしいだろ! ミウラは自分の武器を強化すればするほど、どんどん弱くなるってことか!?」

「おかしくないよ。……格闘競技の没個性化問題は、こういうところでも響いてくるの」


以前も話したことだけど、総合格闘技に対応するなら、打撃・投げ・関節技の三すくみに対応できるよう鍛える必要がある。

まぁ普通なら、ミウラは新人故に鍛え方が足りないーとか言うところなんだけど……そこで師匠達のミスが響く。


「その原因は、あのウィービングによるシフトウェイトだ」

「だがお前、褒めてたじゃねぇか!」

「技能としてだけだよ。……頭を振りながらの振り子運動は、確かにミウラの反応速度と攻撃能力を跳ね上げる。
でも基本は規則正しい振り子運動だからね」

≪実例を示しましょうか≫


そこでアルトが、紐に結わえた五円玉を持って、ぶらんぶらんと振り始める。


「どれだけ速かろうと……一定以上の腕を持つ相手なら」


規則正しく揺れる五円玉の振り子……そこに鋭く、ど真ん中にきたところでデコピンを加える。

そのとき響いた甲高い金属音に、ジャンヌも、不満そうだったショウタロスも全てを察する。


「容易くカウンターを取れる」

「実際さっきも楽だったしね。飛び込むタイミングも、ウィービングの切り替えに注目するだけでよく分かる。
しかもあの状況で、爆撃弾なんて出してくる時点で手札も見えた」

「なにぃ!?」

「僕もだよ。……普通ならあそこは、ミカヤみたいに速射型魔力弾を撃ち込む場面だ。
なのに、チャージで三秒前後使う、中火力範囲攻撃を選択した。ミウラの戦闘スタイルなら、能動的に使えない……噛み合わないものを」

「そうか……ミウラの奴、飛び込んで殴り合いに持ち込むから」

「至近距離では使えないあれは、完全にアウトレンジの使用を前提としたもの。
それも倒すためではなく、爆風で相手の動きを制限し、飛び込むためのものだ」

「それは私にも分かりました。実際彼女は魔法を構築してから、すぐに踏み込むつもりだった」


だからハッタリ……しかもここでもう一つ、ひっかかる要素がある。


「あと、IMCSでは魔法スロットシステムが導入されているからね。ああいうのを何種類も用意することはまずない。
それにもし発射速度重視の攻撃があるなら、初手でぶっ放している」

「それでスタイルと噛み合わない……だったよな。じゃあミウラの遠距離攻撃関係は、あれだけかよ」

「詠唱の様子や威力を見る限り、スロットを多く使わないタイプだしね。
では空いたスロットに何を入れているか……やっぱり、強打を加速させる必殺技でしょ」

「それについては予測もできるよ。……君もそうだろう?」

「まぁね」


ミウラは戦いながら、確かに種を撒いている。……でもミウラ、それは悪手打ちだ。

どうやらこの勝負、結果はどうあれ……師匠達にとっても苦いものとなりそうだね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「なのはから補足させてもらうと、IMCSではより顕著だよ。なにせ魔法があるから……まぁ」


左手で満身創痍なミウラを指すと、なぎひこ君がリズム達ともどもあんぐり……。


「これは魔法じゃないけどね」

「しかも回り込むのも通用しない……本当に、あの姿勢からラグなしで攻撃行動に移れるなんて」

「でもさっきも言ったように、判定勝ちには持ち込めない。試合時間も四ラウンドと短めだから、手をこまねいていたらすぐに終わる」

「たとえ残り三ラウンドが同点でも、判定に持ち込まれたら負け……ここで逆転できたら面白いけど、でもなぁ!」


あぁ、胃が痛い。のり子ちゃんじゃないけどハラハラしちゃう。しかも、しかもね?

この問題、ヴィヴィオにも言えることなんだよ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ミカヤ、プレッシャーをかけるつもりはないけど……ミウラくらいは軽く料理できないと、この後がキツいよ」

「”くらい”と来たよ、この外道!」

「どこがよ」


これのどこが外道なのか……当然のことと曰う僕に驚いたのか、ショウタロスが口をあんぐり。


「似たような弱点を抱えるファイターとは、今後も当たっていくんだ。特に今年はルーキーの活躍が目立ってるしね」

「……筆頭はヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんだね」

「ヴィヴィオ達が!? おい、どういうことだよ! ヴィヴィオは」

「済まないがその話は試合後だ」

『セコンドアウト!』


クールタイムは終わり……ミカヤはさっと立ち上がり、首を軽く回す。


「要望に添えられるよう、頑張ってみるよ」

「ん……」


ミカヤはミウラと同じタイミングでリングイン。優勢は揺らがないけど、油断することなく……晴嵐を腰だめに構えた。


「ですがヤスフミ……そこまでなのですか」


ジャンヌが驚くのも無理はない。実戦経験なら僕以上だし、ミウラの素養も大きく認めていたんだから。


「あれだけのパワーがありながら、それが不利に働くなんて……」

「実戦ならそれでいいんだよ。……でもこれは総合格闘技だ」

≪そのルールの中でより勝率を上げるため、有効な戦術を採っていく……それが先鋭化なんです。
ミウラさんは技術・フィジカル面はともかく、ルールや主流スタイルへの対策が浅い≫

「僕も去年、空海のセコンドについて痛感したよ。スペックが同等でも、そこを小ずるく利用できなきゃハイランカーと同等以上に戦えない。
……あとはミウラが出していない切り札次第だけど……」


その処理に失敗すれば、一気に情勢が傾く。酷評はしたけど、決して油断できるレベルではないのよ。

とはいえ僕とミカヤの予測通りであれば、ミウラが狙う攻撃は……さぁ、どうする。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ごめんね、スターセイバー」


ミウラは右半身を向けた上で、改めて深呼吸。


「無茶しに行くけど付き合って!」

≪All right!≫


ミウラは徹底的に追い詰められていた。でも……その目はとても見覚えのある輝きが宿っていて。


「さっきの斬撃、何とか防いだみたいだが……致命傷レベルだな」

「ダメージも回復してないよね。このままじゃ次のラウンドでは」


これが正真正銘ラストラウンド。それはミウラも分かっているけど、心は折れていない……何かを支えに、必死に立ち上がっていた。


「ミカさんも気づいとるから、慎重になっとる。――なのにどうしてこの子は立ってきて、どうして”まだ勝てる気でいるのか”って」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……などと考えていても埒はあかんな。

この一年、格闘戦技への対策は徹底的に鍛え続けてきた。それもこれもあの子に勝つためだ――。

次元世界最強の十代、ジークリンデ・エレミアに。


これが最後の…………一つ手前のチャンスなんだ。決して逃したくはない。

だからこそ慎重に…………。


「……ふ」


……自分の、守勢に入った気持ちを笑い飛ばす。


そんなことをして、一体なんの意味がある。この一週間、彼を相手に遊んできたのは……踏み込んで勝つためじゃないか。

負けないためではなく、勝つために手を打つ。そうやって踏み込まなければ届かない領域がある。


そうだ、選択肢は常に一つだ。とはいえ……少し確かめたいこともある。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そこで、一陣の風が吹いていた。


ミウラが抜刀するより速く。

ミウラのデバイス≪スターセイバー≫がそのための調整を始めるより速く。


「ミウラ!」


ミカヤ・シェベルは地面を這うように踏み込み……愛刀を投てきしていた。


いや、あれは投てきじゃない。

上半身のバネを使い回転。抜刀のモーションで鞘を突きだし、柄尻から敵に向かって刀を射出する。


あれは、飛天御剣流≪飛龍閃≫……馬鹿弟子の仕込みかぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「……!?」


ミウラは咄嗟に両腕でガード。衝撃で火花が走る中、態勢を煽られながらも数歩下がる程度で収まる。


これは直撃しなくてもいい……言わばハッタリに近いものだ。たとえ一瞬であろうと、ミウラの意識は抜剣から逸れてしまう。

刀は回転しながら跳ね返り、ミカヤ・シェベルはそれをキャッチ。右手で逆手に持った上で、ミウラに踏み込んできた。


「マズい……何か隠していると踏んで、決めにかかっている!」

「クソがぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ボクは本当に不器用で……人見知りな上に口下手だし、ドジでおっちょこちょい。何をやっても駄目な子だった。

でもあるとき……まだ八神一家があの家の近くで、青空道場を開いているのを見た。


みんな楽しそうで、笑顔で……羨ましかった。

得意なことがある。それで胸を張れる。それが、とても羨ましかった。


でもそれはある意味いつものこと。

ボクにできないことが、人にはできる。人にできることが、ボクにはできない――本当にいつものことで、それが世界のルール。

だけどそれだけじゃあなかった。突き出される拳に、翻る蹴りに、胸が一瞬で高鳴って。


――こんにちは――


そこで後ろから、優しい声がかけられた。


――格闘技に興味があるん?――

――あれ、うちの道場なのよ。……って言っても、近所の子に教えているだけなんだけど――

――よかったらもっと近くで見てみようか――


……あの日差し出してもらった手が、師匠や格闘競技との出会いが、ボクの始まりで……ボクがここにいる理由。

そうだ、だから怖くなんかない! いつだって、自分の全部を――。

八神家のみんなが、道場のみんなが見つけてくれた、ボクの強さを――。


「……あああああああ!」


ぶつけるだけ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


彼女はあの突進力を全開にして、果敢に踏み込んできた。

右フックを左スウェーで避けて、鞘に納めた晴嵐の柄尻にて刺突。

追撃の左フックに柄尻をたたき合わせ、彼女の拳を叩く。彼女は怯みながらも一瞬下がるも、すぐリングを踏み砕きながら懐に。


飛び上がり反転……虚空に魔法陣を展開し、それを足場として着地。彼女が右ミドルキックで虚空を貫いている間に、零距離で飛び込みながら抜刀。

そのまま彼女と交差してリングを滑るものの、すぐに振り返って晴嵐を盾に構え、飛び込みながらの拳を防御。


……交差の瞬間、打ち込んだ刃をこの手甲で防御したのか。やはりいい反応だ。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


射程距離に捉えた。そう判断したのか彼女は鋭くラッシュ。晴嵐を素早く納め、左手で小太刀を抜刀。

打ち込まれる拳を次々防御しながら、素早く後ろへと下がる。


『ミウラ選手、猛攻! やはりクロスレンジでの乱打は彼女の専売特許かぁ!』


あえてリング際まで追い詰められたところで。


「はぁ!」


彼女はとどめと言わんばかりに右ハイキック……そこ目がけて飛び込みクリンチ。


「え……!?」

『こ、これは……ミカヤ選手、溜まらずクリンチだぁ!』

『いえ、これは……』


いきなり抱きつかれたことで動揺しているねぇ。その隙を狙って……素早く身を翻し、リングへと彼女を放り投げる!


「え……!」


彼女は慌てて着地するも、当然の如く……。


「ミウラ選手、リングアウト!」

「そ、そんなぁ! 今のは、だって……」

「ミウラ、早く戻れ!」


彼女はセコンドの指示を受け、慌ててリングに戻る。もちろん私とは、キチンとニュートラルな距離を取った上で……。

彼女はとても焦れた顔をしていた。それはそうだ……ルールを活用して、君をやり過ごす手もある。そう突きつけたんだから。


ただ、悪いとは言わないよ?


「――ボックス!」


ハイランカーと……大会常連組と戦うというのは、こういうことなんだ。……趣味ではないけどね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あのやろ……! よりにもよって、あんなのありかよ!」


腹立たしくて、リングの際を両手で殴りつけちまう。……あ、痛い……でも我慢……!


『ミウラ選手、クリンチからの放り投げでリングアウトォ! これは痛い……痛すぎる!』

『ミカヤ選手、狡猾ですね。リングアウトを狙うだけではなく、彼女に示したんです。
……自分には、強打をかわす”手段”があると』

『クリンチで、ですか!』

『ミウラ選手のダメージは深刻です。次のラウンドはまともに戦えなくなるでしょうし、このラウンドが最後の勝負。
しかし、ああいうかわし方もあると示されたのでは、慎重にならざるを得ない。もし必殺の一撃があるとしても……』

「あぁ、そうだ……ミカヤ選手は宣言している」


ザフィーラも焦れながら、冷静に努めつつミカヤ選手を睨み付ける。


「自らの切り札を晒すことなく、ミウラを技術のみで打破するとな」

「舐めてくれやがって! それでもハイランカーかよ! まともに打ち合えってんだ!」

「それもまた驕り……彼女が見ているのは、ミウラでもなければ我らでもない。ただ一つの頂点だ」

「ジークリンデ・エレミア……!」

「だからこそ、彼女と同タイプのミウラには……ミウラにだけは、負けるわけにはいかない」


そっちにも意地はあるし、宣戦布告で徹底的にかぁ!? だが……そこには確実な隙が生まれる。

あれは驕りだ。ミウラをやり過ごせると……そう舐めくさった故の驕り。だったら……!


「ミウラ!」

「行きます!」


そうだ、それでいい……ミウラに迷いはない。そのままいけ……いっちまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


彼女は全力で飛び込みながら右回し蹴り。それを下がってすれすれで回避。

……が、右足が鋭く空間を切り裂いた瞬間、ソニックブームが巻き起こる。

その衝撃に煽られ、数メートルほど後ずさる。


(……やはり怖いなぁ)


それに踏み込みも……先ほどよりも速度が上がっている? いや、当然か。

逃げすら揺らさないようにと、意気込むことで身体能力が引き出されているんだ。


「ハンマー」


彼女は私の内臓目がけて、懐に入りながら左ボディブロー。


「シュラーク!」


小太刀の刃面で防御……が、その一撃は今までで一番の衝撃。つい顔をしかめてしまう。

それでも何とか刀身を滑らせ、拳をやり過ごしながら右薙一閃。彼女はそれを鋭く伏せて回避して、その瞳で狙うのは……とても真っ直ぐな子だ。

その瞳で、倒すべき敵である私を見据え、全力で踏み込んでくる。こういう戦いは好みだ。


……だが、同時に青いとも思う。

おかげで狙いが丸見えだからなぁ……!


――局所的にシールドを展開。


ほぼ反射で後ろに仰け反ると、彼女は飛び上がりながらアッパー。

顎先で世界が爆ぜるような衝撃が走り、私は頭を大きく跳ね上げ、私は天を仰ぎ見る。


そう、シールドは設定通りに砕け散り、私は体勢を崩す。


『ミカヤ選手、顎が跳ね上がったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 奇麗なアッパーだぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


私の身体が伸びきったところで、彼女は伏せてサイドウィービング。幾度も幾度も頭を振り、その加重を利用し、全身運動を繰り返す。

その加速もまた今までより鋭く、強くなっていく。あぁ……そういうことか。


まさか……まさかまさか……。


ここまで”予想通り”だとはなぁ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ウィービングを繰り返しながら、ミッド式魔法陣を足下に展開。スターセイバーの制御で、”周囲の魔力素変換”は八割完了。

……今なら一気にチャージできる。意識を術式制御に回しつつ。


「スターセイバー!」

≪Yes!≫


アンクレット部の前面装甲が展開。内部フレームに集められていた魔力が眩く輝きを放つ。

更に、ボク達の周囲に星の光が生まれ、流星となってスターセイバーに集まっていく。


師匠達が与えてくれたのは、全力全開の奥義。

全てを切り裂く絶対の刃。


イメージする……決して砕け得ぬ刃を。

打ち上げる……膨大な魔力を、スターセイバーを軸として固めていく。

研ぎ澄ます……魔力の一変も余すことなく、この強い人を切り裂くために。


そうして生まれた刃は四つ。


「――――――抜剣≪四天星煌(してんせいおう)≫!」


両手足のスターセイバーと一緒に鍛え上げた、ボク達の……最後の切り札!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ウィービングによるシフトウェイト。それを最大限加速させて、無限軌道を描くように頭を振る。

あの距離で……相手に踏み込みながら、振りかざす拳の名は……!


「まさか、デンプシーロール!?」

「嘘、マジで!?」

「デンプシー……?」


なぎひこ君が首を傾げる中、ついのり子ちゃんとテンション高く叫んで、立ち上がりかけちゃう。

……っと、いけないいけない。他のお客さんに迷惑ー。


「というか、集束系の打撃でデンプシー!? まともに当たれば殺人技じゃん!」

「殺人技ぁ!? というか集束系って……なのはさん!」

「うん……スターライトだ」


アスミちゃん、格闘技だけじゃなくて魔法もちゃんと勉強しているんだね。一発であれを見抜くんだから中々……。


「決まれば一発逆転……KO間違いなしの超必殺技だよ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


頭を振りながら行う、ウィービングによるシフトウェイト。その加重を拳に載せ、打ち込むフック。

それも一発じゃない……無限軌道を描き続ける限り、何発でもたたき込める。全身の力を込めた、全力全開のパンチを。もちろんその速度も折り紙付き。


『ミウラ選手、ウィービングを加速させていくうぅ! どこまで速くなる……そしてどこまで重くなる! その拳はぁ!』

『これは……!』


決して逃がさない……。


『鷹村さん、ご存じなんですか!』


一発当てれば、あとはただひたすらに叩くだけ!


『地球のボクシングヘビー級王者≪ジャック・デンプシー≫氏が開発した、古のフィニッシュブロー≪デンプシーロール≫!』


加速を極限まで高めながら踏み込み――!


「猛打必墜!」


身体が伸び上がり、顎を叩かれ隙だらけなミカヤさん。下がったガードと、さらけ出された頭。

その左頬目がけて……ぎゅっと握りしめた右拳を、叩きつける!


「星煌豪乱刃(せいおうごうらんは)!」


煌めく拳は星の光をまき散らしながら、ミカヤさんの顔にクリーンヒット。


命中する渾身の拳。

ここから続くのは猛打の型。


……でも、その全てががらがらと崩れ落ちる。


「……え」


ボクの拳は虚空を切り裂き、周囲に嵐のような衝撃を巻き起こすだけ。想像していた手ごたえは、何一つなかった。

ミカヤさんは突然鋭く動き、すっと拳を避けたかと思うと……また、ボクの眼前で正座をして……!


まさか、さっきの打撃は……防がれていた!? ボクに必殺技を出させて、隙だらけにするために!


「天瞳流抜刀術――」

「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


静かに抜刀の構えが取られていく。でも、こっちの速度とパワーはとっくにレッドゾーン!

この距離なら……拳一つ分の距離なら、すぐに踏み込め。


「無月」


――その瞬間、ボクの顔面に強烈な一撃が加えられた。

鼻が潰れ、気づくと景色が流線となって流れていき……頭から何かにぶつかってしまう。

天井のライトだけが見えて……体の力が、どんどんなくなっていって……あれ、どうしたんだろう。


見えていたのに……近づいていたのに。

拳一つ分踏み込めれば、ボクが……勝って………………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ミカヤ選手の一撃で、ミウラは大きく吹き飛びリングアウト。

それどころかフェンスに叩きつけられ、鼻から血を流しながら失神。


ミカヤ選手は仕事が終わったと言わんばかりに立ち上がり、晴嵐を……静かに納めて……!


「ミウラァ!」


慌ててレフェリー達が駆け寄り、ミウラの状態チェック。だが、レフェリー達は揃って手を振る。その途端にゴングが鳴り響いた。


『――ミウラ選手、ノックアウト! 勝者――ミカヤ・シェベル選手! 会場唖然! そして慟哭!
圧倒的に思えた集束系打撃を物ともせず、大会最年長の古兵が完全勝利を収めたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「なんだよ、これ……」

「ヴィータ、落ち着け」

「どういう、ことだ……! なんで、ミウラが負けんだよ!」


そうだ、あり得ねぇ……! さすがにあり得なくて、頭をかきむしっちまう。


「アッパーが防がれたのは、まぁよしとするさ! だが最後のはなんだ! 下がって……座って、即座にカウンターだぁ!? 速すぎるだろ!」

「……予測されていたのだろうな」

「馬鹿言うなよ! 初見の技だぞ!」

”……初見じゃないよ”


そこで届くのはなのはの念話。ザフィーラにも届いていたのか、ハッと表情が変わった。……若干呆れ気味なのがまたイラつく。


”ミウラ、何度も使っていたよね”

”どういう意味だ!”

”だから……ウィービングだよ。それを利用した拳打中心の戦い方も”

”あ……!”


…………そこで、自分の間抜けさを思い知る。

そうだ、間抜けだ。ミカヤ選手に八つ当たりする権利なんてなかった。


ただアタシ達が、コーチとして馬脚を現しただけなんだ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「残念ながら師匠達は、格闘競技者のコーチとしては半人前……まだまだ”たまご”ってことなのよ」

「どういう、ことだよ……だって集束系だぞ!? ミカヤだって、アッパーが偶然防げたから」

「予測していたに決まっているだろう?」


そう応えたのは、歓声に応えつつリングアウトしたミカヤだった。


「はぁ!?」

「おのれ、試合を見てなかったの? ミウラは一度集束を邪魔されているでしょうが。となれば?」


自分で答えを出すことも大事。だからショウタロスは戸惑いながらも考え、ハッとする。


「なんとかミカヤの隙を作って、その間に集束するしかねぇ!」

「だったら急所である顎への打撃は、選択肢として入れて当然のものだ」

「身長差も相まって、狙いやすい……そんなところだろうね。ボディはそこへ繋げるための布石だ」

「じゃああれはどうやって防いだんだよ」

「プロテクションバーストとスウェーの合わせ技だよ。私の攻防出力ではまともに受け止められないから、バーストで”手ごたえを演出”。
拳自体は顎へと届く前に、これまた身長差を生かして伸び上がった……まぁ」


そこでミカヤが軽くフラつくので、慌てて脇によって支える。


「師範代!」

「大丈夫……顎先に掠っていたみたいだ。私もまだ甘い」


それで脳が振動状態なのに、きっちり決められるのは……やっぱり背負っているものの違いかぁ。……僕もこの舞台で戦いたかったなぁ。


「でも彼女がそのまま進めてくれて助かったよ。クリンチでプレッシャーをかけた意味はあった」

「おい、待て……それじゃあ」

「そうすれば焦って、攻撃が単調になると踏んだからね」

「心理戦はアリなのかよ!」

「この場合はアリだ。ほれ、さっきも言ったでしょ……前提条件が悪いって」

「自業自得ってことか……!」


ショウタロスは面倒と言わんばかりに頭をかく。……ミカヤは一度検査した方がいいね。次の試合もあるし、ここは念入りにだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


彼に抱き留められている間に、震え続けていた脳が何とか落ち着きを取り戻す。ふらついていた足もしっかり力を取り戻し、大地を踏み締めていた。


「我がままを言って済まなかったね。何とか勝ったよ」

「ん……」

「それと」


晴嵐を待機状態に戻した上で、彼に全力の抱擁。

不意打ち気味だったので、しっかりと……その小さな体を抱き留め、私のものにした。


「あらまぁ……」

「恭文、やっぱりか」

「まぁそうだよな。じゃなかったら一緒に寝泊まりなんてしないよなぁ」

「ちょ、おのれらぁ! というかミカヤー!」

「ありがとう」


別に、そういうのじゃない。ただ……私のわがままを、私の願いを受け入れてくれた彼へ、心を伝えたいだけ。


「おかげで……ずーっと残っていた心の棘が、ようやく抜けた」


あぁそうだ。

私は一緒に……この万雷の喝采を、厳しくも温かい舞台を、彼と一緒に楽しみたかった。

ただ一緒に、遊びたかっただけなんだ。


……馬鹿だなぁ、私。恨みつらみなんて最初からなかった。

最初から私の独り相撲。一緒に遊べなくて、拗ねていた子どもだったわけだ。


でも、もう終わりにしよう。


私が踏み込めば、私が勇気さえ出せば……楽しい舞台はどこにでもあるし、一緒に遊べる。

こうやって肌を触れ合わせて、心を伝えることもできるんだから。


もうそれだけでいい……あぁ、それだけでいいんだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ミカヤが勝利……なんだけど、あたし的には一つ疑問もあって。


「ねぇ、なんでミカヤはデンプシーがくるって分かってたの?」

「……姐さん、あれはいいのか?」


ハリーが指差すのは、やっぱりミカヤと恭文のラブシーンで……。


「問題ない。……ミカヤのオパーイはあたし好みだ!」

「警備員さんー!」

「こらチャンピオン! なんで人を呼ぼうとするの!?」

「そんなんセクハラやぁ!」


そんな自分を守ろうとしなくてもいいのに! 大丈夫、同性だから許されるんだよ!

そしてあたしは自分が触られるのも覚悟しているよ! ……え、駄目? やっぱり?


「あと、デンプシーが来るのは分かり切ってるぜ? ミウラ選手はこの試合、蹴り技主体では戦っていないだろ」

「使ったのはさっきの一回くらいだよねぇ……」

「それは重い打撃を、より高い回転率で叩き込むためだ」

「拳での打撃はそのために最適。更に懐へ入ってしまえば、アウトレンジ主体のミカさんには対応が難しいもんなぁ。
……それ自体は正解や。集束系打撃はあの子が持つ札の一つ。本当の切り札は、その強打をコンスタントに押しつけられることやもん」

「それならあたしも分かる。小さいのでも重いってのが武器なんだよね」

「そうそう」


あの突進力で、コンスタントに重い打撃を押しつけ、試合の流れを作っていける。それも大ぶりしなくてもだよ。

むしろ必殺のフックやストレート、キックより、小ぶりのジャブこそミウラの持ち味であり真骨頂。

それを生かし切れば、二人がさっき触れた逆行問題にも上手く対処できるかもしれない。

現にジークが似たようなファイティングスタイルだけど、多様な技能を生かしてチャンピオンだもの。


「向こうはミカさんとのレンジ差と”切り札”を警戒し、デンプシーを切り札にした。でもそれが間違いなんよ。
ウィービングによるシフトウェイト……それを軸としたデンプシーは、アウトレンジファイターであるミカさんとの相性が最悪やもん」

「実際ミカ姉やオレ達は、ウィービングを加速させたことでデンプシーの全容に気づいたしなぁ。
……だが難しいよなぁ。ウィービングはようするに”腰を入れて殴れ”ってことだからさ。インファイトの訓練で自然と身につく技術なんだよ」

「そうなの!?」

「デンプシーについても、そういう技術の極地……基礎の基礎として受け止められているよ。弱点は多いけどな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ミウラが……でも、なんでだ! あんな凄いラッシュを、どうして……拳一つ分下がっただけで回避できるんだよ!

さすがに分からなくて混乱していると、アインハルトが手を自分の顔にかざし、近づけて、離し、近づけて、離し……。


「あぁ、そういう……」

「何やってんだ、お前」

「ミウラさんが打ち込もうとした……デンプシーロールでしたね。確かに決まれば回転力も相まって、必殺の乱撃となったでしょう。
ですが逆を言えば、その回転の外にさえいれば無害です」

「でも、だからミウラさんも、ウィービングしながらずどーんって!」

「その前にカウンターを飛ばします……飛ばせてしまうんです」


リオにそう答えながら、アインハルトは動かしていた手を止め、じっと見つめる。


「あのパンチは至近距離で打ち込まれると、拳自体も身体に隠れて、打つタイミングもかなり分かりにくいはずです。
ですが一歩でも離れると、視野全体で相手の動きを見据えることができる。結局ただのフックになるんです」

「それで見切って、ミカヤはカウンターを決めたのか……!」

「静と動の移行……”居る”ことを重視するのが居合いの極意。ミカヤさんならば、拳一つ分進む時間があれば十分です」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「でもそれだけじゃない。追撃するにしても、ウィービングによるシフトウェイトは継続しなきゃいけない。
規則正しい振り子運動を……そうなればやっぱりカウンターの餌食」

「……リスクが大きすぎませんか……!?」

「もちろんその欠点を埋める手立てはあるよ? 相手をグロッキーにして、カウンターを取りにくくするとか。でも今回は無理だった」

「ミカヤ選手、攻撃をうまく捌いていましたしね……」

「でもあのコンビネーションは、本当に……理想的に、集束とデンプシーへ持っていく流れだった。その点は評価されるべきところだよ」


まぁ……それでなお決められなかったというのが、大問題ではあるんだけどね。

そこまで制限が多いが故に、ミカヤ選手に攻撃パターンをも見切られていたから。


「あとね、そもそもの話……デンプシーロールはその根源から未完成の技なの」

「「未完成!?」」


のり子ちゃんの言葉で、なぎひこ君ともどもギョッとさせられる。


「ヘビー級では小柄な体格だったジャック・デンプシーは、この必殺技で並みいる強豪を次々倒した。
でもね、当のデンプシー本人ですら、百パーセントの形では使いこなせていなかったんだ」

「な、なのはさん!」

「それはなのはも知らない! のり子ちゃん、どういうこと!?」


いや、デンプシーロールは、はじめの一歩で知っているよ!? でも未完の技ってのは初耳ー!


「デンプシーロールのキモは、ウィービングによるシフトウェイト……全身の重量を載せたパンチのラッシュ。
でもそのためには強靱な足腰を軸とした≪体幹の完全制御≫が必要とされているんだ。
ちょっとでもバランスが乱れればパンチの威力は削がれるし、当然カウンターの餌食になりやすい」

「だから使いこなせなかった……。のり子さんから見て、ミウラ選手は」

「確かにミウラ選手の足腰は尋常じゃない仕上がりだし、小柄な体格でバランスも比較的取りやすいだろうけど、それでも……まだ」

「考えて然るべきだった……!」


あんな凄い速度でウィービングしながら、殴り続けるんだよ? 身体への負荷だって半端ないし、難易度だって高い。

少なくともなのはには無理だよ……! バランスを整える前に、身体全体が振り回されて転げちゃう。

でも同時に納得したよ。幾ら弱点が多いとは言え、ああまで見事にカウンターを取られた理由。


技自体が未完成の領域じゃあ、そりゃあ……隙だって大きくなるよ!


「というか、小柄な体格って辺りが引っかかるよね……それはリーチの短さに繋がるから、余計に距離を取られた場合の隙が大きくなる」

「そんな技をヴィータさん達は切り札として仕込んだ……なのはさん」


アスミちゃんの纏めに戸惑いながらも、なぎひこ君がこっちを見るけど……。


「ベルカ式の≪届く距離まで近づいて斬れ≫は、時代遅れってことなのかなぁ」


そう、つまるところ……やっぱり方針ミスなんだよ。


ミウラにデンプシーロールを、切り札として教えていたことも……。

それを前提として、組み立てていた戦術も……。

少なくともそれは、この大会の古兵に通用するレベルではなく、その将来性もかなり危ういものだった。


だから、この敗戦の意味はとても大きい。


「でも、それなら蹴り技に持ち込めば……もし、それができたらどうなっていましたか?」

「……ああいう破り方をされた上でなら、なのはは無理だと思う」


そう言いながら指差すのは……。


『ミウラ選手、セコンドに付き添われてタンカにて運ばれていきます! みなさん、古兵相手に健闘した、新たな新人に大きな拍手を!』


その声に会場は応えて、ミウラの健闘を称える。でも……届いていないよね。

ヴィータちゃんとザフィーラさん、敗北感に満ちた顔をしていたもの。


「ナギー……」

「ヴィータさん達、心が折れているね」

「ミウラさんも気絶はしていますけど、とても悔しそう……」

「なぎひこ君、覚えておくといいよ。必殺技っていうのはね……出すだけでリスクがあるの。
それを心のよりどころとしていた場合、破られるだけで戦局が著しく悪化する」


のり子ちゃんの言葉が突き刺さる。これは、実戦でも……ううん、実戦よりも重さがあるかも。


「何日も……何ヶ月も、下手をすれば数分で終わる試合のために、骨身を削るように努力して……そうして磨いた技が砕かれる。正直きついよ」


正しくこれは洗礼だった。

ミウラは……ヴィータちゃん達は、IMCSのトップには食い込めないという、残酷な洗礼。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ミウラVSミカヤ戦については、いろいろな要素があったと纏めた上で。


「……ひとまずは自分の試合に集中っすか」

「そやね」


ハリーも、ジークも、ミカヤが勝利したことは点火を意味する。


「……なんかこういうの、覚えがあるなぁ」

「お姉さんが?」

「アイドルもオーディション絡みではいろいろ複雑だからね」


友人で、でもライバルで……だけど仲良しで。勝負は勝負として、ノーカンで付き合えるっていうのは素晴らしいことだった。

やっぱりさ、勝ち負けの結果ってのは……人によって受け止め方が違うしね。


「つーか、大将とミカ姉は、その……」

「どうなんだろうねー。まだまだお友達って感じだけど」

「いや、でも、くっつきすぎやと思うんよ。あんな……ぎゅーって……ぎゅーって……」

「そっか……じゃあ」

「くっつくことは求めてないー!」

「えー」

「というか、集中させてー! ……四回戦で、ちょっと気になる子とも当たるかもやし」


気になる子……もしやと思い、ハリーが対戦表を見ている横で聞いてみる。


「アインハルト・ストラトス?」

「お姉さん、知り合い……って、当たり前かぁ」

「大将ともども、チーム・ナカジマの奴らと仲がいいもんなぁ」

「……一応ね、アンタもいろいろ面倒なものを背負っているとは聞いている。でも」

「それなら大丈夫」


するとジークは、驚くほどにスッキリした顔で言い切る。


「過去云々とちゃうんよ。……今のあの子に、気になることがある」

「だったら、テメェも腹を括れ。今のままじゃ言う権利ねぇぞ?」

「う……番長が厳しい」


あぁ、そういう……それなら私も分かる。というか、恭文やスバル、ティアナ達も気にしていたよ。あとはあむもかな?

あの子……アインハルト・ストラトスには、未だ乗り越えられていない壁がある。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――第二会場・女性シャワー室


……どこからか、ジークの声が聞こえたような。まぁそれは気にしなくていいかしら。


「そう……ミカヤさん、勝ったのね」

『えぇ』


さすがに大浴場はないんだけど、それでも……あぁ、生き返る。温かいお湯というのは、どうしてこれだけで心安らぐのかしら。

なお、エドガーからの通信は音声オンリー。さすがにビデオ映像も交えて話すほど来るってはいません。


『ただ……相手は新人≪ルーキー≫、集束系魔法を使う格闘系強打者≪ハードストライカー≫だったのですが』

「集束系魔法? じゃあ」

『ご安心を。いろいろと粗の多い選手だったので、怪我一つしていません』

「……そう」


こういうとき、妙に辛く感じるのはどうしてか。気持ちは常に挑戦者のつもりだけど、経験故に見上げられる立場でもあって。

でも、IMCSに置いてそれは憧れだけを指すものではない。対戦相手となった新人を、無慈悲に下していく側に回ることもある。

それにより格闘競技に興味を失う……何らかのスランプに陥る子もいる。というか、新人時代にそういうのはよく見てきた。


更に言えば……無自覚に心を折っていく子も。


『リンネ様を思い出しますか』

「……まぁね」


かけていたバスタオルを取り、シャワーを終了。

さっと身体を拭いて、胸元からタオルを巻き付けておく。同じ女性同士とはいえ、さすがに身体を晒すのは……躊躇いが。


「ミカヤさん、ジークと戦いたがっていたけど、何とか叶いそう?」

『恐らくは』

「私も自分の試合に集中しないと、足下を掬われかねないわね。それで第一会場、他に動きは」

『なかなかに面白い動きをしているところです。まずは一回戦の結果からですが』


するとエドガーからまた別のデータを送ってくる。邪魔にならないよう通路の脇に寄りつつ、試合結果をチェック。


「へぇ、これは……」


チーム・ナカジマのメンバー、いい感じで勝ち抜いているみたい。


リオ・ウェズリー(予選五組)……りまと同じ組だけど、三ラウンド・三分五秒でKO勝利。

コロナ・ティミル(予選一組)……二ラウンド・二分二四秒でKO勝利。

高町ヴィヴィオ(予選四組)……一ラウンド・二分一二秒でKO勝利。

日奈森あむ(予選四組)……一ラウンド・三分二秒でKO勝利。

アインハルト・ストラトス(予選一組)……一ラウンド・〇分五八秒でKO勝利。


初出場としては華々しい結果で、つい笑みが零れてしまう。


『それとりま様とクロスクラウンも、試合開始早々の早撃ちでヘッドショット。一秒足らずのKO勝利となりました』

「……空海と同じで、全力で潰しに行くタイプなのね。でもこれなら第一会場は」

『ルーキーへの洗礼も吹き飛ばす勢いで、彼女達の台頭に沸いています。そちらは第二会場も変わらずでは』

「まぁそうね。こっちには魔女もいるから」


私とは別の組だけど、あの子もかなり気になっているのよね。……なんで大会に出てきたのか……とか。

それも覇王の末えいと同じタイミングというのが。


『ですがそれは後にしましょう。……もうすぐ始まりますよ』

「……ジークの試合ね。相手は」

『強敵です』


煽るようにそう告げて、エドガーは赤髪の少年を画面に映し出す。


『エリオ・モンディアル――ハラオウン元執務官の被保護者であり、機動六課ではフォワードを務めた才児。
戦闘スタイルは先天的電撃変換を活用した、突撃槍での機動戦。現在は休職中で、IMCSには初出場です』

「ミッドチルダを救った英雄部隊の一角……」

『同時に、局の汚職に深く食い込んだグレーゾーンの人物』

「エドガー?」

『事実でしょう。実際リンディ・ハラオウンは、その件が理由で局を追われた』

「まぁね……」


実際機動六課の活躍はプロパガンダ的に広まっているけど、疑問視する声も大きい。

局トップと内通していたスカリエッティやレジアス中将達が、なぜ六課を初期段階から止めなかったのか……とか? もちろん最高評議会も同じく。

だから機動六課の元メンバーには、そういう疑いの目が今なお掛けられているのよ。出世している人も多いから余計にね。


その大きな原因は……リンディ・ハラオウン元提督にある。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


お母さんはハラオウン一派と呼ばれるコミュニティの女帝であり、最高評議会とも接触を持っていた重役だった。

……なんでも闇の書事件の際、最高評議会から褒められたそうなんだよ。私やクロノ君もそこは知らなかった。

というか、その辺りでまたいろいろと五月蠅かったらしいけど……それもこれも大体最高評議会のせい。


「……ハラオウン一派は危険視されていた」


そう語るのは、私やアルフと一緒にIMCSの試合を観戦中のクロノ君。まぁ自宅のテレビでなんだけど。

……なおお母さんについては、カレルとリエラともども高町家へ遊びに出てもらっています。じゃなきゃこんな話はできないよ。


「機動六課の活躍により、その賛同者は相応の権限と力を持つに至った。
それが第二第三の最高評議会になるのではと……そのプレッシャーについては、母さん自身が一番感じていたんだろう」

「だからこそ一派の結束と力を強く纏め、潔白を晴らし……恭文くんにしつこく、局への恭順を迫っていたのもそのせい」

「実際ヴェートルの一件で、切り札となる特効薬を破棄させたこともあって……母さんの評価はかなり低くなっていたらしい」

「だったら……お母さんはやっぱり、みんなを守ろうとしたんだよな! それなら、アイツが頷いてさえくれれば」

「アルフ」

「……分かってるよ」


やっぱりと口にしたアルフは、しょぼんとしながら俯いてしまう。


「局員になったら、アイツがやりたいことは何もできなかった。実際……ガンプラバトルの世界大会で、アイツは滅茶苦茶楽しそうでさぁ」

「IMCSにも出られなかった……まぁ、こっちは諸々の事情で無理だったが」

「もっと言えば、765プロでのお仕事もいろいろ発展しているんでしょ?」

「新しいアイドルのスカウトやら、アイドル達へのガンプラバトル教授も行っているからな。
……高木社長やスタッフの方々ともお話させてもらったことがあるが、僕達よりアイツの扱い方をよく心得ている」

「……そこに加えて、エリオの件……だよなぁ」


そう、分かってる……なぜこんな振り返りを交えるのか。だからアルフは頷き、高町家がある方を自然と見やった。


「あれでまた落ち込んでたから……なぁクロノ、エリオが休業したのって、本当に局員が嫌になったとかじゃ」

「ずっと局に関わり、その中で生きてきた子だからな。外の世界に興味が出てもいい年頃なんだよ」

「以前の恭文と同じで、自分探しの最中……。そのフォローが必要なのは、あたしも分かってる」

「……母さんの考えていたことは、確かに正しかったのかもしれない。とくになのは達への責任感は大きかったはずだ」

「なのはちゃん達が局入りしたのも、お母さんと私達がジュエルシード事件でこっちに顔を出して……だしね。
でも、手段を間違えた。……一応聞くけど、今更責任問題が勃発ーとかではなくて」

「そちらの方が、まだマシだったかもしれない」


それは、家族的には聞き逃せない言葉。でもクロノ君がやたらと真剣で、私とアルフは何も言えなくなって。


「以前ユーノから聞いたことがあるんだが……チャンピオンであるジークリンデ・エレミアは、≪黒のエレミア≫と呼ばれる一族の末えいらしい」

「黒のエレミア?」

「古代ベルカ戦乱時代……まだ総合格闘技の概念すらなかった頃に、無手を持って戦い、数々の王や猛者達を相手にしながらも、未だ不敗を続ける修羅の一族」

「修羅……」

「試合映像も確認したが、彼女の中には確かに、人ならざる者が棲み着いている……恭文と同じように」

「エリオなら大丈夫さ! なんたって機動六課の元フォワードで、世界を救った一人なんだぞ!
幾ら格闘競技のチャンピオンだからって、実戦経験者に比べたら」


アルフが大丈夫と胸を張ると、クロノ君の表情が重くなる。


「クロノ君?」

「……もしエリオが負けることになれば、母さんにまた負荷がかかるかもしれない」

「そんなに強い相手なのかな。いや、チャンピオンなら当然だけど」

「エリオが……時空管理局の局員が負けるということは」


私達も前線から引いて久しいから、勘が鈍っていたのかもしれない。


「管理局が創設以来貫いてきた信念そのものを、その根底から否定されかねない――!」

「はぁ!?」

「ど、どういうことだよ!」


戦乱時代から磨き上げられた技が、一体どういうものなのか。

それを管理局の魔導師とぶつけ合い、勝利したとき、意味するものがなんなのか。


ジークリンデ・エレミアに挑み続けてきた格闘家達が……そして、ミカヤ・シェベルとミウラ・リナルディの試合が、その答えを示していたのに。


(Memory80へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、同人版とは違う結果となりました。これも元にまたアップデートを……」

あむ「どこがぁ!? ミカヤさんが勝ってるじゃん!」

恭文「違うでしょうが。……ミウラ、頑張ったけど全く届いてない!」

あむ「あほかぁ!」


(ごめんなさい……全てはジークリンデ・エレミアがいけないんだ)


あむ「なんでジークリンデ!?」

恭文「ミカヤが勝つのは、この後のエリオ対ジークリンデ絡みもあるからなんだよ……。天会的にも勝つしか道がないんだよ……」


(というわけで、次回は同人版には載らない戦い)


恭文「エリオ、頑張って! おのれが勝たなきゃ、誰が貴音の食べ歩きに付き合うんだ! ……次回、エリオ死す!」

あむ「ただのネタバレじゃん!」


(本当に死ぬほど追い詰められる可能性が……)


あむ「え……!?」

恭文「……ジークリンデについては、ブレイザー以外にもアレがあるからなぁ……」

あむ「アレって何!? ……そうそう、アレと言えば……アレについても聞きたいんだけど」


(現・魔法少女が指差した先は……)


Five-seven(ドルフロ)「あら、あなたがアタシの指揮官なの? 優しくしてね。すぐにでも好きにさせる自信はあるよ」


(Five-seven(ドルフロ)『https://wikiwiki.jp/dolls-fl/Five-seven』)


あむ「何! あの銀髪巨乳なお姉さんは! アンタ、またフラグを……!」

恭文「…………僕が使ってたFN Five-seveN」

あむ「拳銃じゃん!」

恭文「でもホントなんだって! さっき見たら、あんな感じに……感じにー!」

あむ「涙目になるなぁぁぁぁぁ! というか説教だから! ほんと馬鹿じゃん!?」

リューネ・マト「私達みたいに、精霊化したんでしょうか……」


(そして今日も、蒼凪荘はカオスに大騒ぎです。
本日のED:abingdon boys school『アテナ』)


恭文「ビルドダイバーズも終盤……まさか有志連合相手にバトルを挑むとは」

古鉄≪まだジェガンブラストマスターとか、出ていない機体やギミックもここで一気に披露っぽいですね。楽しみです。
……そうそう、ジェガンブラストマスターと言えば、もう購入されている方々もいて≫

あむ「あ、それ気になってたんだ。ジェガンってやたらと派生機体が出てるじゃん。BFでもゴーストジェガンがあるし」

恭文「まず素のジェガンで汲むことはできないんだけど……新規パーツがたっぷりな上、プレバン中心なD型ジェガンのパーツもあるとか。
それと基本はABS関節なんだけど、股関節は改善。最近の主流である三ミリ軸棒の関節になったっぽい」

あむ「あ、それいいじゃん! 可動範囲とか変わるよね! 他の機体とも互換性が出て!」

恭文「あと、サテライトキャノンユニットはパーツ構成の妙で、グローバル規格≪三ミリ軸棒二本で接続≫。いろいろ応用できるよー」

古鉄≪説明書にもグリモアレッドベレーへの接続が例として示されていましたしね。
改造用パーツ取りはもちろん、既に出ているジェガンバリエーションと組み合わせ、オリジナルジェガンを作ることもできます。お勧めですよ≫


(おしまい)






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