小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory48 『スピードレーシング』
――雪の降る街……寒さと、飢えが支配する世界。
それが変わったのは、わたしに特別な才能があったから。
――我々は君の能力を評価している。そしてその能力を、何倍にも高める技術も有している。
あとは君の返答次第だ……アイラ・ユルキアイネン――
――……わたしに何をさせたいの?――
――ガンプラバトルで勝利すること……我々が君の求めるのは、ただそれだけだ――
――……いいわ。好きにしなさいよ――
それからほんと、うざったいくらいの訓練が始まった。
――休むな――
――これ、重い……分かりにくくなるから、外しても――
――そんなわけがあるか。エンボディは我々フラナ機関が作り上げた最高傑作だ――
――だから、ちかちかして見えにくい――
――別に、やめてもいいのだぞ――
――……!――
――お前の代わりなど、幾らでもいるのだ――
とか言うので、ようしゃなく左フック。眼鏡の顔面を殴り飛ばした。
――がひ!?――
――あれれ、おかしいわねー。ついこの間、”お前にしかない才能を強化するものだ”って言ってたのに……嘘をついたのかしら――
――き、貴様……自分が何をしているのか――
――ねぇ、知ってる?――
ストリートチルドレン時代に培った、喧嘩(けんか)テクニック。……それを駆使し、起き上がろうとした眼鏡の股間に蹴り。
更に取り押さえようとした職員二人の腕をすり抜け、尻の穴目がけて左右のハイキック。
悶絶(もんぜつ)したところで後頭部二つを掴(つか)み、眼鏡の顔面にぶつける。
男同士楽しいキスを交わしたところで、悶絶(もんぜつ)する眼鏡に馬乗り。両親指を目の辺りに軽く食い込ませて。
――人間って……眼球を抉(えぐ)り潰すと、痛いのよ?――
――……!――
笑ってあげた。……大人相手にそういう喧嘩(けんか)もしなきゃ、生きられない立場だったから。
――アンタ達のやってることが違法だってことくらい、わたしにも分かるの。
追い出すならどうぞ勝手にすれば? その代わり、この国にいられるとは思わないことね――
――脅すつもりか、貴様……!――
――最初に脅したのは誰……答えなさいよ、ほら――
なお、眼鏡は眼球が軽く飛び出て、ようやく自分の非を認めた。
それからはもう、とても上手(うま)くやってきたわ。アイツの下らないキャラ付けにも付き合ったし。
――アイラ……もう少し、穏やかでクールに振る舞えないのか。程度が知れるぞ――
――アンタって、もしかしなくても変態?――
――馬鹿を言うな! 分かりやすい例を示しているだけだ! それにいいだろ……エヴァンゲリオンは!――
――……馬鹿ばっか――
――それはナデシコだ! いや、それでもいい……ホシノ・ルリも捨て難い――
そう、必死にやった……嫌だったから。また食べるものが、寝る場所がなくなるのは。
あの冷たい路地裏や、マンホールへ戻るのは。安全を確保するために、誰かを傷つける日々に戻るのは。
いえ、やっていることは変わらないのかもしれない。勝って、奪って、食い尽くす。
ドブネズミと同じような生き方。それでも……それでも必死に続けて、ここまでやってきた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
宛(あて)がわれた自室の中、肌着のまま寝転がってずーっと見ているものがある。
大会出場者のデータ……どうせわたしが勝つんだからって、興味なんてなかった。でも。
「レイジ……レイジ」
アイツの名前……偶然から知り合った、ムカつく奴の名前。
「アイツが白いガンプラのファイター」
もやもやしながら、データを消す。携帯もポテチやおでんの袋と同じように、適当に放り投げた。
「アイツ、何が楽しくて、ガンプラバトルなんかやってんだろ」
左側……窓から見える会場のドーム。わたしにとっては、忌ま忌ましい檻(おり)にも見える。
「わたしと当たったら、負けちゃうのに」
ガンプラバトル……生きるために、食べるために続けている遊び。楽しいなんて思ったことはない。
ほんと、馬鹿みたい。あんなおもちゃで本気になって……どいつもこいつも、馬鹿みたい。
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory48 『スピードレーシング』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
前回のあらすじ――怒濤(どとう)のウェポンバトルを制したけど、それでも大会は進む。
全ピリオドで獲得した総合得点によっては……だからどのバトルも真剣勝負。
続く第四ピリオドは【ライフルシューティング】。
これは筋肉番付などにもあった、ストライクアウトの狙撃版。
規定のライフルを用いる、競技性の強い種目。
なお使うのは、08小隊のジムスナイパーが使用していた長距離狙撃ライフルです。
これがまた難しい。かなりの長距離な上、フィールドの環境変化もそこそこ激しいから。
ただこれでも問題なくクリア。なおセイとレイジについては、ファイターと機体を変更。
セイが操縦を担当し、ビルドガンダムMk-IIを使っていた。……それでもクリアできたのには、ちょっと驚いたけど。
第五ピリオドは【球入れ】……はい、そこは呆(あき)れない。
何回か話したけど、ガンプラでは人間の可動を再現できない。
球を持って、狙い通りに投てきする……これも相応の技術が必要。
僕達がふだん無意識でやっていることを、ガンプラにどれだけフィードバックできるか。
それができなければ、玉は絶対に入らないのよ。機体の機能や武装使用も禁止だから。
こちらもフェイタリーを持ちだし、問題なくクリア。僅差だったけどね……一点差だったけどね!
第六ピリオド【スリーオンスリー・チームバトル】
全選手がランダムに分かれ、三人チームを作ってバトル。
うん、そのままだね。セイとレイジは幸いなことに、マオとリカルドが同じチームだった。
そのおかげか、連携もバッチリで快勝。……今のところ全勝か。やっぱり今回の大会、ポイントレースがかなり厳しい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ビルドストライクはまだ出せない状況……かなり不安はあったけど、今回は運もよかった。
マオ君がハイパーサテライトキャノンでフォローしてくれたし、もう感謝するしかない。なので。
「ありがとう、マオ君!」
試合が終わって立ち去ろうとするマオ君に、改めてお礼。
「なんですの」
「フォローしてくれて!」
「……そんな安っぽい感傷とちゃいますよ」
「……潮の満ち引きがどうかしたの?」
「干潮ちゃいますよ! 感傷! 感じる傷!」
「セイ……お前」
あぁ、レイジが哀れむような瞳を! やめて! 僕は多分悪くない!
「ご、ごめん! こう、いろいろと高ぶってて!」
「あぁ……今のバトルも、セイはんがメインファイターでしたしなぁ」
「そう、そうなんだよ! ……でも感傷じゃないって」
「お二人さんとのバトルはガチンコでやりたい。どちらが優れたガンプラか、白黒はっきりつけたい。
……その前にどこぞの馬の骨にやられはったら、かないませんから」
「うん……もし戦うことになったら、そのときは」
「全力でたたき潰す!」
「その言葉、そっくりそのまま返させてもらいます」
マオ君はそう言って、笑みを浮かべながら立ち去っていく。……マオ君も全勝組。
戦うとしたらやっぱり、決勝トーナメントかな。残り二つのピリオドを、ちゃんと勝ち残れば……!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして僕はというと――。
『星竜斬!』
セシリアがストライク劉備で切り込み、エピオンを両断。
『そこ!』
タツ……もとい、三代目メイジンがロングライフルで狙撃。空中から襲ってきた、偵察型ムラサメを撃ち落とす。
そこを狙い、フェイタリーで飛び込む。なお相手は、ライナー・チョマーです。
「撃つべし撃つべし!」
バックパックにアーム経由で接続した、ハイパーガトリングとバズーカを連射。
青いビグ・ザムから放たれる、拡散メガ粒子砲をすり抜けながら、ひたすらに突進。
しかしビームと実体が混ざった弾丸は、大型の砲弾は、ビグ・ザムの装甲に貫くことができない。
「です!?」
反撃で放たれたメイン粒子砲を、虚空で跳躍しながら回避。
真下で一直線に振るわれ、市街地を切り裂く奔流……まともに食らったらアウトだな。
そのまま身を翻しながら、奔流での逆風一閃を回避しながら着地。
『ふははははははははは! 甘い……甘いぞ、蒼い幽霊!』
「この手ごたえ、PS装甲……いや、違うな」
『そう! この塗料はプラフスキー粒子に反応し、外部からの衝撃に適した積層分子配列を形成!』
リインが慌てて解析する中、僕が見やるのは、ハイパーガトリングのビーム弾丸を食らった箇所。
『名付けてナノラミネートアーマー! これこそがこの俺、ライナー・チョマーの切り札よぉ! さぁ、恐れぬならばかかって』
そこで背後から走るビーム――ビグ・ザムの正面砲口下部を叩(たた)く光。
直撃を受けたビグ・ザムだけど、その巨大は決して揺らがない。
ビームはナノラミネートアーマーに弾かれ、ビグ・ザムの脇をすり抜けながら霧散する。
『こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!』
『ち……やはり、ビーム攻撃にも耐性があるか』
『その通り!』
「む、むぅ……リインだって分かったですよ! 今! 今分かったですー!」
はいはい、対抗しなくていいから。さすがにガンプラバトルの場数は、アランが上だって。
「仕方ない」
『何か作がありますの!?』
「真正面から潰す」
断言すると、二人は揃って苦笑。でもすぐに、気持ちを整え援護体勢に入ってくれる。
『行け、蒼き幽霊!』
「おうさ!」
『……来なさい、蒼龍の神器!』
セシリア激龍ストライク劉備に換装する中、ハイパーガトリングをパージ。
拳をかざし、人差し指・中指・薬指・小指の順に握っていき、最後に親指を握る。
拳を弾丸として、振りかざしながら加速。粒子エネルギーを一点に集中する。
『無駄だ! このビグ・ザムは機体強度にも拘(こだわ)っている! お前達の火力では』
「忘れてないかなぁ」
『何!』
「僕達には、とびっきりの弾丸があるってことを」
「限界突破<ブラスター>I――リミットリリースなのです!」
リインのトリガーにより、機体出力が急上昇。蒼色のPS装甲が赤く変色し、燃えるようなオーラを放つ。
「もっとだ」
そのエネルギーは、拳を輝かせる。
「もっと」
声に従い、滑るように動く指先に従い。
「もっと――」
何より僕達の心に従い。
「もっと――!」
輝く拳は、弾丸となる。
「もっと――輝けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
『またスクライド!?』
すくい上げるような軌道を描きながら、奴の粒子砲を回避。
放たれるフット型ミサイルも、セシリアとメイジンが次々撃ち落とす。
その爆炎をすり抜けながら、狙いを定める。
さっきメイジンが攻撃した部位……動力部とフレーム中心への最短ルート!
そう、さっきの狙撃は、僕達への道しるべ! 傷はつけられなくとも、狙うべき箇所を示してくれた!
後はナノラミネートアーマーを撃ち抜けるほどの、質量さえあれば……!
「シェル」
拳を更に強く握り、フェイタリーのスラスターを全開にした上で、鋭く回転。
「ブリットォ――!」
そのまま肉薄し、飛び込みながらの右ストレート。
着弾の瞬間、バズーカ以上の衝撃が弾(はじ)ける。
フェイタリー自身が弾丸となり、ビグ・ザムの装甲を突き破った。
そのままフレームを、動力部を貫き、進行方向上の外部装甲も粉砕。
ビグ・ザムと交差した瞬間、その巨体が膝を突く。
「やっぱり……基本は極薄の塗料」
『ば、馬鹿な』
「近接的な衝撃なら、撃ち抜ける!」
『ようやく完成した……切り札がぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
そして爆発四散。それを置き去りにしながら、宙で翻ってビル屋上に着地。感じた手ごたえにガッツポーズを取った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第六ピリオドも無事に終了。お昼に委員長、ラルさんと合流して、一緒にご飯。
選手村の中にも、飲食施設はちゃんとあってね。いわゆる食堂というか……とにかく注文も終えて、しばし雑談タイム。
お昼時ということもあり、それなりの混雑を見せる中、携帯で各選手のポイントをチェック。
「でもイオリくん、凄(すご)いよ。第三ピリオドからはずっと、自分で操縦して、ちゃんと勝って」
「ありがと。でも……レイジ、どういうこと? 怪我(けが)をしたわけでもないのに」
「何、オレが出るほどの舞台じゃないってことさ」
「一体何様!?」
「まぁまぁ。……実際今日のバトルでも、かなりいい動きを見せていたじゃないか。このラル、感服したぞ」
「あ、ありがとうございます」
おかしい……ラルさん、レイジをフォローしているような。
というか委員長もすっごい頷(うなず)いている。僕だけが蚊帳の外状態なので、つい疑いの視線を向けてしまう。
「でもこのままなら、二人とも決勝にいけるよね」
「当然。ユウ……じゃなかった、三代目ともやり合いたいからな」
レイジは僕の視線が厳しくなったのを察し、すぐに訂正。
そうそう……バレバレだけど、内緒にしなきゃね! 面倒はゴメンだし!
「でもレイジ、油断は駄目だよ」
「分かってるって。次からはオレがファイターに戻るし」
「違う。……これを見て」
携帯を取り出し、ここまでの総合ポイント表を見せる。もちろん全選手の……そこでレイジと委員長の表情が変わる。
「……何だこりゃ。同率一位が十二人くらいいるぞ」
「う、うん。イオリくん、これって」
「そう……ここまで全勝している選手は多数いる」
ラルさんはさすがに理解していたみたいで、一気に険しい表情となった。
「ストライク劉備を操る、セシリア・オルコット。現大会最強ファイターと称されている、蒼い幽霊こと蒼凪恭文。
サムライボーイ、ニルス・ニールセン。その彼と近接戦闘で渡り合えるスガ・トウリ。
そして……PPSEワークスチームの看板である、三代目メイジン・カワグチ」
「フェリーニさんも、全勝してますよね。今日の試合でも、イオリくん達と組んでいたし」
「あとは……恭文さんに負けはしたけど、チーム・ネメシスのアイラ・ユルキアイネンさんも、ここまで一勝も落としていない。
もちろんジオさんも……その二人でさえ、トーナメント出場が難しいってレベルなんだよ」
「イオリくん、決勝トーナメントに残るのって毎回こうなの? 一回でも負けたら駄目って」
「こんなことは異例だよ。今年の世界大会は今までに比べて、レベルが跳ね上がっている」
「……なんだ、そりゃあ楽しみだな」
レイジはあっけらかんと言い切り、不敵に笑う。
「そんな中で一番強いって叫べる……その頂きに挑戦できるんだ。ラッキーじゃねぇか、オレ達は」
「ふ……」
「そ、それでいいのかなぁ……」
「いいよ、言うと思ったから」
レイジの言葉で発破をかけられた。僕達はラッキーなんだ。
そう考えて、糧にして……ビルドストライクを万全の態勢に整えよう。ちょうど用意していたものもあるしね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
レイジくんがイオリくんにバトルを……世界大会でのバトルをやらせたのは、確かめたかったらしい。
どうしてイオリくんが操縦下手なのか。あ、それだけじゃなかったか。
ラルさんの車で送られながら、その辺りのことを思い出していた。
「しかし、レイジ君も粋なことをするものだな。セイ君にファイターとして、世界大会の舞台を踏ませるとは」
「はい……そうしたら、操縦も上手(うま)くなるかもって」
「確かに今日のスリーオンスリーでの動き、控えめではあったが悪くないマニューバだ」
「でも、不思議なんです」
やたらとレイジくんが真剣だったから、私も……ラルさんも黙っていた。
あくまでも戦闘に絡まない、操作技術を見る競技ばっかりだったから。
レイジくんも事前に練習させて、大丈夫だと思った上でやらせていたもの。
だからね、とても不思議なの。下手っていうなら射撃とか、玉入れとかも負けているんじゃないかって。
「それじゃあイオリくんの操縦下手、何だか……気持ち的な要素が大きい感じで。というか、戦闘が下手」
「戦闘が下手か。……案外、その通りかもしれんぞ」
「……ラルさん、もしかして何か気づいているんじゃ」
「チナくんやレイジくんよりは、彼というビルダーを……そしてファイターを見ているからね」
でも明確には教えてくれなかった。
どうして戦うことが下手になるのか、その意味は……ううん、これでいいのかも。
それはもしかしたら、イオリくんが自分で気づくことなのかも。もし誰かが教えるとしたら……それは。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
会場脇には、それは大きな屋敷を作っている。私達PPSE社創設メンバーが滞在用として、建設したものでね。
そこで優雅に過ごすのが、ほんと楽しいんだよ。……いつもならね!
いつもなら……今日の試合も盛り上がったし、喜ぶべきところだよ!
今年はいわゆる新星ファイターも登場して、界わいも盛り上がりそうだしさ! でも問題は、その中に……!
「どゆこと!? どゆこと!? ……どーゆーことぉ!? あのガキども、全勝してるじゃん!
このままじゃ、決勝に出てきちゃうじゃん! 私、それは嫌だよ!? やだよ! やだよ! やーだーよー!」
あのガキどもが……いや、一人は家庭も持っているけど!? でも嫌だー!
しかも蒼い幽霊とカテドラルの関係性、未(いま)だに分からないしさ! どうすりゃいいの、これ!
「……会長はなぜそこまで、イオリ・セイ、レイジ組にこだわっておられるのですか」
「は……そ、それは」
「もしや、”あの件”と関係があるのでは」
「……ベイカーちゃん」
ベイカーちゃんは、私のことをよく知っている。私が決して、褒められた人間でないことを。
それでも引き受けて、”この世界”での居場所になって、こんな大きな会社まで作ってくれた。
私の欲しかった願いを、夢を叶(かな)えてくれた。そんな彼女に……嘘をつくことは、できなくて。
「……彼は、王族かもしれない」
「王族……!? で、では!」
「今更……私を捕まえにきた……! いや、”向こう”では今更じゃないかもしれない!
ほら、あるじゃん!? 精神と時の部屋みたいに、別世界で時間差がーって! そうなったら、私は――」
「……御安心を」
するとベイカーちゃんは、怯(おび)え竦(すく)む私を抱き締める。
「会長の願いは、私が叶(かな)えます」
「ベイカー、ちゃん」
「仮に……もしそれが達成されなかったとしても」
「ちょっと!?」
「会長は、私が守ります」
いきなり弱気になったので驚くと、ベイカーちゃんは私を見下ろしながら、優しくほほ笑んでいた。
「会長のおかげで、私も……いいえ、たくさんの人間が”夢”を叶(かな)えられたんです。それだけは、確かですから」
「ベイカーちゃん……!」
「こういうこともあろうかと、あの男を呼び寄せています」
あの男……あれれ、何だか嫌な予感がー。
「金さえ払えば、どのような依頼でも引き受け……それを完璧なまでに完遂する男」
「え、そんなのがいるの!?」
「その名は……暗号名<コードネーム>C」
おぉ……おぉぉぉぉぉぉ! なんかすっごく強そうな奴だぁ!
よーし、嫌な予感はすっ飛ばして、任せちゃおう! ベイカーちゃん、しくよろー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日の試合が終わってから、僕とフィアッセさんは二人でお出かけ……というかデート。
フィアッセさんはすっごくご機嫌で、僕の左腕に抱きつき、会場近くのシティモールを歩く。
「でもまさか、静岡(しずおか)に来ていたなんてねー」
「何だろう、また事件かなぁ。五十代も後半なのに、まだまだドンパチって」
「……恭文くんが言う権利、一かけらもないと思うよ?」
「フィアッセさんがヒドい!」
「だってドンパチ、好きだよねー」
フィアッセさんはアホ毛をぴくぴくさせながら、僕の顔をのぞき込んでくる。
……それは何とか流しつつ、待ち合わせ場所に到着。
モール内の噴水、その前のベンチに座る男性二人と女性一人。
黒いスーツをさっと着こなす男の二人に、笑顔で声をかける。
「大下さん、鷹山さんー」
見慣れない女性は気になるものの、二人はこちらに気づいて立ち上がる。
女性も続く中、サングラスをサッと外してほほ笑みを返してくれた。
「よぉ、やっちゃん、こてっちゃん」
≪どうも、私です≫
「蒼凪はともかく、ヒカリ達も元気そうだな」
『おーっす!』
そう、この二人はハマの伝説――鷹山敏樹さんと大下勇次さん。
小型核爆弾を巡る事件で知り合って、一緒に大暴れした仲。
二人は今も横浜・港署の刑事として活躍している。五十代後半に突入したけど、今なおあぶない刑事です。
まぁヒカリ達が見えているのも今まで通りなんだけど……問題は一緒にいる女性。
頭上にストフリノロウサ状態で乗っかったアルトと一緒に、小首を傾(かし)げた。
「世界大会、随分活躍しているようだな。トオル達も大喜びしてたぞ」
「特にカオルなんて、逃した魚はでかかったって……おもちゃの猿みたいにぱんぱんしてたぞ」
「僕、狙われていたんですか!? 怖……というか、見境がなさ過ぎる!」
≪……ところで、こちらの方は≫
「初めまして、あぶない忍者さん」
八頭身のモデル体型で、年齢は二十代くらい? 黒髪を品良く分けた女性は、笑顔で会釈。
僕とフィアッセさんもそれに返す。
「浜辺夏海と言います」
「蒼凪恭文です」
≪どうも、私です≫
「あなたのことも聞いているわよ。忍者さんのパートナーだって」
≪いえいえ、この人が私に弄ばれているんです≫
「何ですと!?」
相変わらず容赦がない! でもアルトのことまで話しているってことは……かなり親しい間柄?
あぁ、またドンパチかぁ。大会中はそういうの、ナシにしてほしかったけど……仕方ないだろう。
「でも本当に三人もいるのね、しゅごキャラちゃんが」
覚悟を決めていると、夏海さんがほほ笑ましそうにシオン達を見ていた。
「おぉ、オレ達が見えてるのか」
「あなた達もよろしくね」
「彼女はロスの領事館で働いている、外交官さんで……まぁここで話すのもあれだから」
そう言って、大下さんに先導されて移動開始。
時刻もいい頃合いなので、全員で居酒屋へ。
個室に入り、お通しのひじきを摘まみつつ……まずは清水もつカレーを頂く。
ここの名物で、静岡(しずおか)グルメの一つなんだ。名古屋(なごや)のどて煮をヒントに生まれたソウルフード。
一九五〇年――まだ戦後間もない時期に生まれたから、かれこれ六十年ほどの歴史がある。
それで想像してほしい……カレーにもつだよ!? 美味(おい)しいに決まっている!
鷹山さん達にお酌しつつ、僕とフィアッセさんももつを楽しむ。
なお注文関係の取りまとめは僕です。一番年下だしねー。
「うーん、ここのは若干甘口だが、コクがあって上手(うま)いな。つまみに最適化されているというか」
「Excellentー!」
「しかし蒼凪もいよいよ世界デビューか」
そこで鷹山さんからビールを注(そそ)がれる。お礼を言いつつ受け取ると。
「ありがとうございます」
「ハーレム王として」
「コラ待て、今何を付け加えましたか」
「当たり前だろ」
「なんだよ、あのバトルロイヤルでの痴話げんか。フェイトちゃんやフィアッセさんだけに飽き足らず……貴様ぁ!」
きゃー! また大下さんが血涙をー! 六年……もうすぐ七年か! 七年前とは変わらない、新鮮な赤さが流れていく!
「しかもなんだアレ! リインちゃんに、セシリア・オルコットちゃん!? またゆかなさんボイスか!
その上褐色肌でスタイル抜群のナターリアちゃん! 国際色豊かだなぁ、この野郎!」
「……蒼凪、分かっただろう? 俺の言うことが正しいと」
「根底から間違ってるでしょ! 僕が手を出したみたいに言わないでください!」
「なら私もガンガン押していくねー」
「フィアッセさんー!」
あぁ、また包囲網が……どうしてこうなるの! 僕はただ、純粋に生きていたいだけなのに!
「ところでえっと、夏海さんは……領事館の方でしたよね」
「えぇ。今回は休暇で」
「なんですか、また事件ですか? ロスのテロ組織でも潜り込みましたか」
≪三人揃(そろ)えばドンパチ……今までのパターンですね≫
「こてっちゃんも入っているからね、それ」
≪……あなた達と一緒にしないでくださいよ。撃ちますよ?≫
「「「ひど!」」」
何、コイツ! 自分だけ離れて……距離を取り始めた! 夏海さんの背中に隠れ始めた!
夏海さん、抱き締めてよしよししている場合じゃない! アルトには言いたいことが山のようにある!
「でもお話通りなのね。孫とおじいちゃんって言って差し支えない年齢差なのに、ノリが全く同じ」
「それは誤解だ。蒼凪の方が格段に”あぶない”」
「同じよ?」
「え……そ、そんなこと、ないんじゃ」
「同じ」
鷹山さんが言い切られて、視線を泳がせてる。というか本気でショックを受けてる……そんなに嫌なんかい!
言っておくけどね、僕がやったことは大体鷹山さん達もやってるからね!? 何にしても同じくらい”あぶない”よ!
でも気になる……年齢差で言えば、夏海さんも娘と父親ってレベル。
それでため口? しかもこの場に連れてくるってことは……どんどんこの人が気になってくるわけで。
「大下さん」
「皆まで言うな。……聞いて驚け見て驚け! なんと彼女は……だらららららららららら」
「ドラムロールはいりま」
「タカの婚約者なのさぁ!」
「あ、ささっと切り上げたし! でも婚約者……あぁ、それで」
「納得しましたー」
フィアッセさんと二人納得して、もつを一口。それでもぐもぐもぐもぐ……しっかし咀嚼(そしゃく)してから。
「「「……ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」
「あらまぁ」
「年の差カップルだったか……もぐもぐ」
同じようにしてかみ締めた言葉の意味を察し、驚愕(きょうがく)の叫びを上げる。
≪婚約者……婚約者……あ、検索したらヒットしましたね≫
「……言葉の意味から疑いを持つなよ」
「えっと……」
鷹山さんがアルトにツッコんでいるところで、僕から質問が。
「同姓同名のそっくりさんでは」
「鷹山敏樹は俺だけだ」
「舘ひろしさんでは」
「あちらもダンディだが、違う」
「タカ、それは猫ひろしさんじゃないよね」
「マラソンはしないぞ!? そっちはお前……てーか、なんでお前まで確認してるんだ! いの一番に紹介しただろ!」
「「「……おめでとうございます!」」」
「「「おめでとう!」」」
ようやく全ての事実を認識し、受け入れ、感動の拍手。
そっかそっか……ついにゴールインかぁ! 還暦が見えてきた年齢で……よかったー!
フィアッセさんとヒカリ達、それに大下さんと拍手をしていると、なぜか鷹山さんがこめかみをグリグリ。
「ありがとう。でもさぁ、そこまで確認してからって……そんなに信じ」
「信じられませんよ! トオル課長に紹介してもらった、チューリップでさえ枯らしていたのに!」
「やめろ! それは言うな……それには触れるな!」
「チューリップ? それは詳しく聞きたいなぁ」
おぉ、夏海さんはノリもいい人だね。笑顔で乗ってきたよ。なので瞬時に、大下さんとアイサイン。
「気にするほどのことじゃないさ」
「いや、話せば長くなるんですけど……課長にチューリップのような女達を紹介してもらって」
「なのにタカ、ダンディ過ぎてサボテンみたいな世話しかしないから……みんな愛情という水分に飢えて」
「揃(そろ)って説明するなよ! なんだお前ら! そんなに俺の幸せが妬ましいのか!」
「「そんな、まさかー」」
「その顔は嘘だな! 特にユージ……やめろ! 血涙を流すな! お前には音無小鳥ちゃんがいるだろ!」
そうそう、僕が紹介したもの……小鳥さんも出会いを求めていたから。
その辺りは割と緩やかなため、大下さんもせき払いで顔を背ける。そうして下手な口笛が響いた。
「でもどこで知り合ったんですか。まさか合コンに参加したわけでもなし」
「鷹山さんが事件捜査でロスに出張した際、捜査協力で知り合ったの。そこから……まぁこんな感じに」
「そう言えば一年くらい前に、出張とかって言ってたような……あれか!」
「それ。で、実は今回も少し仕事絡みでな」
≪やっぱりドンパチですか≫
「今回はお前達の領域になるかもしれない」
そう前置きされて、鷹山さんにタブレットを渡される。それを起動して、内部フォルダを確認。
そうして出てきたのは、緑のトレンチコートに帽子をかけた、ブロンドヘアーのおっちゃん。
「暗号名<コードネーム>C? あれ、コイツって」
「やっぱやっちゃんは知ってたか。……ガンプラマフィアってやつなんだろ?」
「えぇ。ガンプラバトル国際運営委員会からも指名手配されている、悪い奴ですよ」
「ガンプラ……マフィア? 恭文くん」
「先日説明しましたよね。ガンプラバトルによる利益を求めて、悪いことをする奴らもいるって」
アシムレイトやら、バーサーカーシステム絡みの話だね。フィアッセさんも思い当たったのか、すぐ頷(うなず)いてくれる。
「公式も認めていない、多額な掛け金などを費やす裏バトル。又は公式大会そのものをネタとしたギャンブル。
そういうのを運営する側(がわ)や、参加者も含めて”ガンプラマフィア”と言っているんです」
「じゃあこの人が、そのマフィア」
≪ただPPSE社が粒子製造技術を独占している関係で、裏バトルなどの規模はかなり小さいんです。
もし問題があるとすれば……今この人が言った、非合法ギャンブル。そちらはバトルシステムが手元になくてもできますから≫
「まぁそれも世界同時行動不能事件以来、やっぱり減少傾向にあるんですけどね。
ただ八百長などの問題にも絡みますし、PPSE社としても厳しい対応を取っています」
悪銭は悪銭に近づく――そういう賭け事が、一種のマネーロンダリングになり得る場合もあるからさ。
警察にも協力してもらって、全開で潰している。……暗号名Cみたいな奴もいるしね。
≪暗号名Cはその辺りの調整役として、何度か大会出場者を攻撃したことがあります。
大会競技中、違法な装置を使ってバトルフィールドに介入。又は競技者への直接的暴行、使用ガンプラの破砕≫
「それは……ヒドいね」
「その男が最近、ロスから日本(にほん)に入ったと連絡がきたの。その行き先は横浜だったんだけど」
「横浜には、飽くまでも立ち寄っただけらしい。だが奴が何やらデカい山を抱えて、日本(にほん)にきたのは間違いない」
「そういうことか。……ありがとうございます」
タブレットの電源を落とし、鷹山さんに返しておく。
「俺達も半分休暇だし、お前達は大会でのドンパチを楽しんでくれ」
「そうします。……実を言うと決勝トーナメントに上がれるかどうか、かなり微妙なところなんですよ」
「あらら、また弱気な。ここまで全勝してるってのに」
「次の試合内容によっては、順位が大きく変動すると思います」
「だったら余計に集中しないとな。あぁ、大丈夫……今回こそは、大丈夫さ。また三人でドンパチなんて……なぁ」
「……ユージ、そこまで言うと振り」
「振り?」
「「振り(です)」」
鷹山さんと一緒にツッコむと、夏海さんがクスクスと笑い出す。
そんな笑顔に見守られながら、ささやかな宴会は続く。
仕事混じりとはいえ、それにかこつけ応援に来てくれた……大事な師匠達に感謝しながら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日――第六ピリオドが終わっても、まだまだ油断はできない。そのため今日のお休みも、自室にこもって作業三昧
ただそれは一時中断。キララさんからの、第七ピリオド発表があるから。
なおリインは抱きかかえながら……抱きかかえながら……離れてくれません。
『はい……皆さん、こんにちはー! ガンプラアイドルのキララでーす! ――キララン☆』
「ねぇともみ、あたしが”りんりりん♪”って挨拶をしたら」
「絶対流行(はや)らない」
「……だよね」
『先ほどガンプラバトル世界大会主催者側から、第七ピリオドの内容について、発表がありました!
その種目は……ワクワク、ワクワク、ワクワク、ワクワク……!」
キララさんのは背後にある、巨大バトルシステムにフィールドが形成。
それは巨大なレースコース……途中池やトンネルなどもあるそこは、F1サーキットを思い浮かべる。
『スピードレーシング!』
≪去年もやったアレですね≫
≪なの≫
『コースはこのようにライトで表示されており、途中幾つかのゲートが用意されています。
競技者はこのゲートをくぐりつつ、コースを三周します一レースごとに十機のガンプラが出場し、全九レースが行われます!』
なお番組内の字幕で、時間もきっちり告知される。
――明日、午前十時スタート!――
『優勝者には四ポイント、二位以下はノーポイントという非情なレース!
予選を突破するためにも……このレースは絶対、勝たなければなりません!』
「ですです」
「明日は大きく、順位変動するね」
そう……この試合で勝てるのは九組だけ。現在の全勝組が十二人だから、一気に絞られるよ。
もちろん予選落ちギリギリな組も頑張るだろうし、相当熾烈(しれつ)になる。しかも……今回の試合は。
『なおレースに使用するガンプラは、何を選んでも自由。
ベースジャバーやドダイなどの支援機はもちろん、戦闘機や戦車での出場も認められています!
そして……ここからが重大項目! 何と、レース中に銃火器の使用が認められているんです!』
「……ちょっと、恭文」
「うん」
去年のレースでは、攻撃行為は禁止だった。あくまでも”アクシデント”としてなら、ギリギリセーフだったけど。
つまり……驚いてしまうけど、同時に勝利への道筋が広がっていく。
『スピード重視で純粋にレースをするか! それともほかのガンプラをすべて倒して勝利をもぎ取るかぁ!
出場ファイターのガンプラチョイスと、戦略が見所です!』
「……千早、明日のレース予測ってアンタでも」
「……正直つかないわ。去年のスピードレーシングは、攻撃禁止だったのに」
「だよねー。やっぱ今年は十年目だから、派手にいってるのかな」
「大丈夫」
そう、大丈夫。僕達はこの手のレース、初体験ってわけじゃない……だって。
「僕、マリオカートは得意なんだ」
「そうきたかぁ!」
僕達には不朽の名作、マリオカートがあるじゃないのさ! りんと千早が呆(あき)れ気味だけど、それは誤解だ!
マリオカートは攻撃とレースを融合した、十年の歴史を持つ競技! ビバ任天堂!
「……恭文さんのマリオカート……すっごくエグくなりそう」
「なってたわよ。あむとややが涙目だったから」
≪この人、それと桃鉄、ドカポンとかはトップレベルで上手なんですよ。常時ボンビーがついているのに≫
「やかましいわ!」
常時貧乏神とかくっつくから、上手になったんだよ! 頑張ったんだよ! なのに……ふふふふふ!
さぁ、見せてやるよ! 明日のバトルも大騒ぎだー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チナとラルのおっさんには、いろいろ気を使わせたなぁ。……ウェポンバトルからずっと、セイを前に出してた件。
事情は軽く話していたから、協力してくれて助かった。というわけで礼をしようと外に出て、菓子を買ってきた。
日持ちはする奴だから、明日にでも渡しておこう。
夕暮れの街をノンビリ歩きながら、両手いっぱいの菓子を見てにんまり。
「セイの奴、基本的な技能は丁寧なんだよなぁ」
その一部……もとい、別口で買ったクッキーをもぐもぐしながら、ここまで見たものを思い出す。
「戦闘に関わりさえしなければ……なら下手なのはどうしてだ」
一枚食べきってから、しっかりと口を閉じる。あとは夕飯の後だな。
「アイツがガンプラを動かすとき、一番引っかかっているのは……もう、答えなら出ているか」
ラルのおっさんは言っていた。ガンプラはしょせん遊び。
しかし……だからこそ、人はバトルにも、ガンプラにも真剣になれる。
そして真剣だからこそ、引っかかるものもあるんだろう。
今は……言わなくていいよな。もう少しだけ、気づいたものが変わっていくまで。
「でも待てよ。そうしたら、オレはお役御免か?」
元々アイツの……そこでつい、笑ってしまう。
「んなわけねぇか」
そうしたら、また楽しみが一つ増える……それだけのことじゃないか。あぁ、それだけでいいんだ。
だったらまずは明日の試合をきっちり勝って、決勝に出て……それで優勝だ!
「レイジ」
自然と早足になっていると、後ろから声をかけられた。
この声は……軽く驚きながら振り返ると、あの銀髪女がいた。
「お前、なんでオレの名前を……は、ストーカーってやつか!」
「違うわよ!」
違うらしいので、ちょっと場所を移動。
バス停のベンチが置いてある、海辺の道路。潮風が心地よく吹き抜けて、夏の暑さを払ってくれる。
「テレビで見た。……ガンプラバトルの大会に出てるんでしょ」
「まぁな」
「案外子どもなんだ。あんな遊びに、真剣になっちゃって」
「知ってるかー。子どもって言う奴が子どもなんだぞー」
「アンタ、ほんとムカつくわね!」
「無礼には無礼で返すったろ」
「聞いてないわよ、そんな理屈!」
あれ、言ってなかったっけ。……まぁいいか、今言ったなら。
「それにだ、遊びだから真剣になれるんだよ」
「……え」
「お前もやってみようぜ。……案外楽しいぞ」
不敵に笑ってやると、アイツは不機嫌そうに立ち上がる。
「お、おい!」
そのまま背を向けて、勢いよく立ち去っていった。……なんだありゃ、腹でも減ってたのか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
何よ……何よ何よ何よ! そりゃあ、確かに悪かったわよ!
初っぱなから馬鹿にした態度で話したし、そりゃあ……でも、何よ。
やってみればって……やってるわよ。もう何年も……何年も……これでご飯を食べてる。
その結果で言ってるのよ。その結果で、分かってるのよ。
「楽しくなんかないわよ。苦しいだけよ……」
真剣になるのは、生きるため。遊ぶためじゃない。よく、分かった。
やっぱりわたしはアイツと、他の出場者とは違う。
遊ぶためだけに参加しているような奴らに、絶対負けない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
というわけで、今日は楽しいバトルレースの幕開けだ。
響く歓声の中、俺はあおを頭に乗せ、フェニーチェとバトルホッパーを飛ばし――。
『――さぁ、いよいよ第三レースもファイナルラップ! 今のところ一位は』
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「あおー!」
『イタリア代表、リカルド・フェリーニが操るウイングガンダムフェニーチェ!
専用SFSバトルホッパーによる、華麗なライディングを披露しています!』
ふはははははははは! 一輪ドリフトー! 連続カーブもワイディングー!
スリップすれすれの、膝アーマーをこするくらいのコーナリングに、全世界の女子がメロメロさー!
「俺の勇士……見ているかい、キララちゃん!」
というわけで、モニターをちょこっと操作してライブ映像チェック! きっと実況席で、キララちゃんもどっきどき。
『以上、第二レースの勝者――ヤサカ・マオ君のインタビューでしたー!』
「いぇい!」
「見てないしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「あおー!」
はいはい、バトルに集中するよ! 頭をぱちぱちしないでくれ! 悲しくなるからさぁ!
つーわけでバランスを立て直して、最終コーナー前……ん?
『ふふふふ……』
前方三百メートル先……青いロトが、MA<戦車>形態で止まっていた。
ロトってのはガンダムUCに出てきた可変MSで、この時代にしては珍しい十二メートル級の小型機。
なんとこの機体、後にF91やクロスボーンを作るサナリィによって開発されていて、ガンタンクR-44の御先祖様。
それが増設された砲門やら、ミサイルポッドをこちらに向けていた。
「チョマー……お前」
『周回遅れになって、待っていたぜ……フェリーニ。どうせ俺は予選落ち……しかし! 俺はここで終わる男では』
何の躊躇(ためら)いもなく、バスターライフルを一発ぶっ放す。
メテオホッパー内のカートリッジがロードされ、イオンビームが放射。
『な……いぃぃぃぃぃ!?』
ビームは地面を融解させながら、チョマーのロトを飲み込み、跡形もなく消し去る。
軽く方向転換し、そんな爆炎と破壊の痕をすり抜けつつ直進。最終コーナーへと入って、抜けていく。
『跡形なしぃ!?』
「おー」
あおも呆(あき)れる中、チェッカーフラッグを受けてフィニッシュ。ふ……勝利とは虚(むな)しいものだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日のレース、いろいろ考えたが……やっぱりシンプルかつ効果的に行こうと思う。
そんなわけで、ケンプファーアメイジングはウェポンバインダーを両足にも接続。
合計四機の推力を持って、全開飛行を行ってもらう。その暴れ馬状態に、さすがのカワグチも呆(あき)れ気味。
「出力にモノを言わせた、ピーキーな仕様だ」
「君なら操れると思ってね」
「ふ……メイジンならば当然!」
『余裕こいてんじゃねぇぞ!』
……そうして僕達は、現実逃避をしていたのかもしれない。
背後から迫る、150Mガーベラを。その刀身に乗って、サーフィンの如(ごと)く飛ぶモンスターズレッドを……!
『まだだ、飛べ……ガーベラ! そして突き抜けろ、モンスターズレッド!』
「……アラン」
「見なかった……ボク達は、何も見なかった。いいね」
「それでいいのか……!」
「いいんだ!」
すまん、今回に限っては理解できない! あの状態で……あれで! カーブを曲がるんだぞ!?
飛行物体として存在しているんだよ、150Mガーベラが! ホバーボード状態なんだよ、ただの刀剣が!
何だろう、太陽炉の不思議だろうか! 粒子応用の結果だろうか! いずれにせよ、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)悔しい!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日もセイ君達の試合……しかも全勝しても、全く油断できない状況。
なので最初から、ちゃんと見なければ……と思っていたんだが。
「いや……すまんね、チナ君」
現在、チナ君を乗せて移動中……今度は私達が遅刻だぁ! というか私が寝坊だぁ!
あぁ、チナ君が焦(じ)れったそうに……私を責めないよう気づかっているのが、また辛(つら)い!
「また寝坊してしまった。寄る年波には勝てんな」
「ラルさんってお幾つなんですか?」
「三十五だが」
「え?」
「え?」
チナ君に小首を傾(かし)げられながらも、会場の地下駐車場に到着。
ジープを降りて、戸締まりをしっかりして……よし。
「ラルさん、早く!」
「あぁ」
……そこで視界の端に映るのは、分厚いスーツ姿の男。
この夏にトレンチコートとサングラスという出(い)で立ちで、更にアタッシュケースを持っていた。
「……チナ君、悪いが先に行ってくれ」
「え……あ、ラルさん!」
チナ君を置いていき、あの男の跡をつける。あの男……なぜだ。
国際指名手配もされているような”ガンプラマフィア”が、なぜこんなところに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第九レース……出場者は十組。
その中にはゴーストボーイとセイ・レイジ組がいて、今回はつぶし合う流れ。
それが楽しくてもう、VIPルームで飲む酒が美味(うま)い美味(うま)い。
「いやー、いいねー。ゴーストボーイと一緒に、あの二人も海の藻くずかぁ! いや、池の藻くず!?」
「いえ。ゴーストボーイについては、手出しできない……したくないと」
「はい!?」
ベイカーちゃんの発言が信じられず、目を丸くする。
「ちょ、それってどういう」
「彼は第一種忍者でもありますから」
「あぁ……そう、いう」
「……実際彼は、敵対した人間に過剰攻撃を仕掛けることも多いそうで。
入手した情報によれば、敵対組織を皆殺しにしたこともあると」
「皆……!」
殺しって……いや、忍者だし!? 荒っぽいこともOKなら納得だけど! でも……お、恐ろしい……!
「更に言えば、彼はガンプラマフィア撲滅にも手を貸しています。そちらはイオリ・タケシ氏の要請も大きいようですが」
「……大丈夫だよね。そんな奴が出場するレースに攻撃って」
するとベイカーちゃんは顔を背けた。とても気まずそうに……小動物みたいに打ち震えながら。
「ちょ、ベイカーちゃん!? ……なんで! それじゃあなんで一緒の組にしたの!」
「ぐ、偶然に」
「調整してなかったのぉ!?」
あぁ、ヤバい! ガンプラマフィアに頼っちゃったわけだし、下手をすれば……いやぁぁぁぁぁぁ!
地獄だ、地獄が待っている! どうしてこううまく行かないの!? ボクが何をしたって言うのさー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第七ピリオドのスピードレーシングは、順調に進む。
第一レースはセシリアが勝利。なお蒼龍の神器に乗って、すっごい楽しそうに飛んでました。
第二レースはマオが勝利。Gファルコンでかっ飛ばしつつ、最後方からのサテライトキャノンはアリだと思います。
第三レースはリカルドが……メテオホッパー、やっぱいいなー。
第四レースはタツヤとアラン……でも、ウェポンバインダー四機接続とは、また大胆だなー。
ジオさんのモンスターズレッドと接戦を繰り広げ、傷だらけの勝利となった。
第五レースはキュベレイパピヨン――アイラ・ユルキアイネン。
なお攻撃が許されているので、スタート直後にファンネルを散布……一気に敵をせん滅してきました。
第六レースはルワン・ダラーラさん。アビゴルバインの武装、強固を活用した堅実な戦いだった。
第七レースはニルスが勝利。風雲再起で走る姿はカッコいい。
第八レースはトウリさんとイビツのコンビが勝利。エストレアで最高速のかっとび……見応えがあったよ。
『……はい! ただいまより、第九レースを行います!』
そして第九レース……セイ達と、本気のバトルかぁ。
わくわくしながらも、早速出番となったあの子をセット。
『各選手は指定されたスタートポジションにて、スタンバイお願いします!』
「いくよ、りん」
「OKー!」
あぁ、見たくない! ウェディングドレスっぽい、白いドレスは見たくない!
リインやともみ達の視線も怖かったし……と、とにかく頑張ろう!
「蒼凪恭文」
「朝比奈りん!」
「カテドラルガンダム――目標を駆逐する!」
アームレイカーを押し込み、カテドラルと一緒にカタパルトを飛び出す。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ベイカーちゃんがアホだ……と思っていたら、ワインをビンごと倒す羽目になった。
「ぶべぼぼぼぼぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「な……!」
「べ……ベイカーちゃん! あれぇ!」
「カテドラル……ガンダム! やはり、ゴーストボーイが!」
「ちょっと、どうするのぉ! 止めて! 今すぐ止めてぇ!」
「無理です! 止める理由がぁ!」
「そうだったぁ!」
結果二人で大混乱……ちょっとちょっと、どうするの!
いや、待て……そうだ、カテドラルは返してもらえばいいんだ!
その理由付けも、この間話した通りにしてさ! よし、それでいこう!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
レース会場をさっと見渡しながら、他の選手と一緒にスタートポジションに着地。
それぞれのガンプラが横並びに整列する中、りんがモニターで周囲に注目。
「恭文、スタービルドストライクが」
「SFSもなく……か。戦法は見えたね」
「どうする?」
「これまでの様子から見て、フル出力で全て走りきるのは無理だ。勝負は最後の一周」
「分かった」
ただスタービルドストライク以外にも、強力選手は多い。
緑のバクゥを元とした、重戦車<タンク>型の改造MS……それを操るレナート兄弟もそう。
それにみんな、レース向きの機体を用意しているからなぁ。
モンザレッドのキュリオス。
ガンダムマックスター……あ、サーフィンします。
アインラッドに乗ったデナンゾン。
ベースジャバーに乗るヅダ。
メビウスゼロ。
ジムを入れていると思われるGアーマー。
ガブスレイ。
みんな高速移動に適した変形機体、又はモビルアーマーだ。
でも……ふふふ、マリオカートで負けなしの僕を前に、それは愚策というもの!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ラルさんはどうしたんだろう……気になりながらも、観客席に到着。
イオリくん達のレースはこれからみたい。スタービルドストライクもいるし……でも、会場が騒然としていた。
レースが始まるから、じゃない。ビルドストライクの隣にいる、白金のガンプラに注目している。
『ちょ……何よ、あのガンプラ!』
『カテドラル……ここでチームとまと、新機体を投入してきた! 一体どのような力が秘められているのか!』
チームとまと……恭文さんのガンプラ? 凄(すご)い……イオリくんはスタービルドストライク一体でやっとなのに、あんなにたくさん用意して。
でもフェイタリーとか、パーフェクトAGE-1とどう違うんだろう。詳しそうな人達が、ガヤガヤしてる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
恭文さんが取り出したガンプラ……今まで見せていなかった、白金の機体。
カテドラル……その響きに、出場者専用の観戦ルームはざわめいていた。
「おいおい……マジかよ。ヤスフミ、ソイツは」
「あお……!」
「えぇ。あれはとんでもない完成度です。見ているだけで、寒気がするほどに」
「それも、フェイタリーやパーフェクトAGE-1とは一線を画する。別人が作ったのではと思うほどに」
ニルスさんの言う通りです。恭文さん独特の筆塗装でもありませんし、何かが激しく食い違っている。
いや、別に……それはいいんです。セイさん達のようなパターンも多いですし。
問題は『自分の好きなものを作って、戦って勝つ』というスタンスの方が、そんな機体を持ちだしたこと。
いえ……そうじゃない。そうじゃ、ないんです。わたくしの何かが、警鐘を鳴らしている。
あの機体には何か覚えがある。それもとてもよく知る何かが、込められていて。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれがカテドラル……二代目メイジンが、文字通り魂を削って作ったガンプラ。
見ているだけでゾクゾクする。きっと隣にいるセイ君達や、他の出場ファイター達はプレッシャーッスよ。
「恭文君、ついに来たッスね」
「……AGE系……もう出さないのかなぁ。ぐす……ぐす……」
「イビツさん、泣かなくていいッスよ。大丈夫ッス……自分達で使っていくッス」
パーフェクトAGE-1で、大金星を上げたのに……しかしこのレースで、カテドラルッスか。
速度重視の軽量機体なんだろうか。それとも……あれ、嫌な予感がする。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
カテドラル……その名を聞いて、寒気が走った。
アランも同じくのようで、半立ちになる。そしてすぐに、右手で顔を覆う。
「やっぱりヤスフミが持ってたのか……!」
「ではアレが」
「あぁ……君に話した通り」
PPSE上層部は”座”を探していた……メイジンが倒れる前、最後に作ったガンプラを。
自分達の都合に合わせた、使いやすいメイジンを生み出すためだと聞いていた。
だがそれは失われていた。PPSE社でも行方が分からず、襲名式にも姿を現さなかったが。
「だがなぜだ。なぜ恭文さんが」
「似たものを見つけたんだろ」
……そこで左側から気配。慌ててそちらを見ると、右手を挙げてくる男がいた。
「よう、暫定メイジン」
「ミスタージオウ……!」
「まさか君が」
「渡したのは”おじさん”だ。俺は聞いただけ」
ついサングラスの奥で視線を厳しくするが、彼は肩を竦(すく)めるだけ。
「さてどうする。あっちは二代目直々に、”座”を渡された相手だ」
「決まっている」
「ほう」
「相対するならば、叩(たた)き伏せるのみ――!」
なぜ恭文さんが、あの機体をこのタイミングで持ちだしたか。その意味は何となくだが分かる。
これは……私に対する挑戦状だ。PPSE社も恐らくは黙っていまい。理由をつけて、カテドラルを回収するはず。
だがあの人が、それで納得するはずもない。理論武装で打ちのめされるだろう。そのための手はずも整っている。
何より……私に言っている。座<カテドラル>と対峙(たいじ)し、打ち勝つ覚悟があるのか。
メイジンの座を自らつかみ取る、その覚悟があるのか――ならば乗ってやる。私は決して逃げない――!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
カテドラル……恭文さんが持ちだした新機体。
その完成度に威圧されると同時に、強い違和感を覚えていた。
違う、これは今までの機体と”違う”。恭文さんが作ったものじゃない……!
「なぁセイ、あのキンキラキン」
「凄(すご)いなんてもんじゃない……恐ろしい。ボクは、あのガンプラが恐ろしい……!」
「ビビってんのか」
「違う! 戦うのが怖いんじゃない……恐ろしいのは」
そうだ、恐ろしいのはガンプラの性能じゃない。
「あれを作ったビルダーだ。分かる……分かるよ。行程の一つ一つが、血を滲(にじ)ませるような気迫の積み重ね。
理想を形にするため、限界を突破し続けた極地。僕達ビルダーにとっての理想郷だ――!」
「……だが、ヤスフミが作ったものじゃねぇ」
「そんなもの、普通はほいほい託せない。それを託したってことは」
「勝つぞ」
レイジは髪をなで上げ、気持ちを入れ替える。
「やっぱ予想通り、楽しめそうじゃねぇか――!」
「あぁ!」
「作戦通りでいいんだな」
「頼むよ、レイジ!」
『これより第九レースを開始します! 全員、スタートランプに注目!』
横並びになっている、ランプの一つが点灯。まずは左端の赤いランプ。
『レース』
二つ目が点灯……そして、三つ目の緑ランプが点灯する。
『スタート!』
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
レイジはフルスロットルで、ビルドストライクを加速――。
一斉発信したガンプラ達を突き抜け、先頭に踊り出る。
『速い!?』
『させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『撃て! 撃て撃て撃て……撃てぇぇぇぇぇぇぇ!』
すると後続機体が次々と砲口を構え、ビーム発射……よし、狙い通り!
反転してから、一発、また一発とアブソーブシールドで吸収。
『駄目だよ』
でもキュリオスが、ガブスレイが……僕達への攻撃に入った、ガンプラ達が次々撃ち抜かれ、破砕する。
「何……!」
それを成したのは恭文さん……あのカテドラルが動いていた。
右脇に抱えた大型ライフルを向け、最小出力での連射。
デナンゾンやヅダ、メビウスゼロ、Gアーマーも撃ち抜き、その爆炎をすり抜けながら迫ってくる。
もう後に残るのはスタービルドストライクとカテドラル、レナート兄弟のバクゥタンクだけ……!
「そんな!」
『チャージなどさせるものか』
「な――!」
「おい、今誰の声だ! 他に誰かいるのか!?」
嘘……作戦が読まれていたのか! どうして! というか、今声が変わった!
モモタロス……モモタロスの声になったよ! いや、違う! これは木原マサキだー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
恭文さんのガンプラが、イオリくんを助けた……そっか、友達だものね。
やっぱりちゃんと、正々堂々レースで勝ちたいから。
『おぉっとこれはぁ! カテドラル、最後方からの射撃で、スタービルドストライクとバクゥタンク以外のガンプラを撃破したぁ!』
『うわぁ……あのおチビちゃん、やっぱエグいわぁ』
なのにミホシさんは、苦笑気味にカテドラルを見やる。
『スタービルドストライクが粒子チャージできないよう、手助けした奴らは皆殺しって』
「え……!」
『キララちゃん、というと』
『あの盾でビーム粒子を吸収して、そのエネルギーで必殺技を発動……そういう流れなのは、もう皆様御存じの通り。
つまりスタービルドストライクは”あえて”前に出て、集中砲火を浴びたかったのよ』
『なるほど……ビーム攻撃ならば盾で防いで吸収! 実弾だとしても、レイジ選手のマニューバならば回避可能! となれば』
そう、となれば……恭文さんが攻撃した相手を、どんどん撃ち抜いていったのは。
『溜(た)めたエネルギーは翼にして、独走状態へ入るってわけ。それを阻止したのよ』
「そん、な……」
イオリくん達を妨害するため……!? これじゃあスタービルドストライク、あの翼とか……砲撃も使えないのに!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チビ二人が分かりやすい作戦で突き抜ける……と思ったら、そこでカテドラルが動く。
最後方に陣取り、攻撃の瞬間を狙って次々当てやがった。途中で気づいて、回避行動を取った奴もいたってのに。
大会最強のファイター……その実力は伊達(だて)じゃないか。ありゃあ実際に見てるな、”戦争”ってやつを。
「ヒュー! やるな、蒼い幽霊!」
「あちら側だと思っていたが、また違うようだな」
「どうする兄貴、こっちにも仕掛けてくるかもだぜ!」
「それがどうした?」
弟――フリオに軽く返すと、奴からも軽快な笑いが返ってきた。
「だよなぁ!」
あいにく、ビームで撃たれるくらいの対策は整えている。
それすらもない奴らがふるい落とされた……すばらしいことじゃないか。
奴らは”戦争”をやる気概がなかった、腑(ふ)抜けどもさ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あのやろ……なんで分かったんだ!」
『当たり前でしょうが』
更に恭文さんの呆(あき)れた声が響く。
『すぐ戦略が読まれる、アホな装備編成にするんだから』
「――!」
そうか、今までのバトルで……くそ、前提が崩れた!
チャージできたのは二十パーセント程度。向こうはシールドを手放さない限り、ビームによる射撃を仕掛けてこない。
いや、それでも……今更プランは変えられない! 現状、残っているのはスタービルドストライクとあの三機だけ!
タンクは明らかに武装も多いし、カテドラルも未知数! 共闘状態の二体を相手に、レースなんて無理だ!
「セイ!」
「構うな……ディスチャージ!」
「おう!」
ユニバースブースターと脚部コンデンサのクリアパーツが輝き、吸収した粒子エネルギーを放出。
同時にビルドストライクも、バクゥから放たれたミサイル包囲網から脱出。
カテドラルが加速して追いつきかけるけど、それも何とか振り払う。
後ろで生まれる爆風を追い風に、前進するビルドストライク。その眼前で黄色い粒子のエンブレムを描く。
凝縮した粒子の扉、そこを突き抜け、その力を全身に纏(まと)いながら錐揉(きりも)み回転。
背部に粒子の翼を、再出現したパワーゲートを背負い、その力を羽ばたかせながら飛ぶ。
後続を置き去り、攻撃が届かない距離へと抜けていく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そう、セイとレイジの作戦は見てもらった通り……後続からのビーム攻撃を防ぎつつ、粒子をチャージ。
それであの翼を出して、一気に独走状態へ入ろうって話よ。でもなぁ……本人達にも言ったけど、手が読みやすいって。
「……さて、今のは大体二割ってところかな。せめて一割程度に抑えられたら」
「仕方ないよ、みんな世界大会出場者なんだし……まぁそれなら、ビームじゃない方をお願いしたかったね!」
「レース中心で考えていたし、仕方ないよ」
「でも恭文、よかったの?」
機体の出力制御に回っているりんが、小首を傾(かし)げていた。
……僕が躊躇(ためら)いなく、ディスチャージを邪魔したのが疑問らしい。
「全力勝負しても」
「よかったんだけどね。でもほら、一応コーチ役だし」
「駄目なことは叱るわけか」
「そういうこと。この辺りはレイジだけじゃなくて、セイの弱点でもあるね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あお?」
「セイさんも温厚そうに見えますが、実のところかなりの突撃思考。男の子らしいと言えばそうなのでしょうが」
そう……セイさんとレイジさんには、バディとして大きな弱点がある。
ある意味ではほほ笑ましいのですけど……それだけに留(とど)められないのが辛(つら)くて、ついこめかみをグリグリ。
「ですがそれゆえに、レイジさんが短慮を起こしても止められない。……第二ピリオド、ルワン・ダラーラさんにやられたように」
「あお……!」
「レイジは”腕だけ世界級”とも言える奴だ。ガンダムやガンプラ、バトルの総合的な知識、経験は初心者だからなぁ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「本来であれば、セコンドのセイ君が手綱を握って、バトルの流れを制御するべきよ」
「今よりも強くってことよね」
「えぇ」
「だから第二ピリオドみたいなことも起こるし、戦略上のミスがあってもそのまま押し通すわけですね」
今回はお留守番なリイン……突き抜けるスタービルドストライクを見ながら、つい肩を竦(すく)めるです。
「もちろんそれゆえの相乗効果もあるし、爆発力という点ではプロデューサー達以上だとも思うのだけど」
「そうね……あの子達もあむと同じ。何かを動かして、突き抜けるパワーがあるわ。
千早さんが言う欠点も分かるけど、大事なのはそこじゃないかしら」
「……確かにね」
さて、ここからはどうなるですかね。恭文さんもコーチ役として”お仕置き”したから、簡単にはいかないですよ。
でも何だろう……嫌な予感もしているです。上手(うま)く言えないけど、底冷えするような予感が。
(Memory49へ続く)
あとがき
恭文「幕間第48巻は絶賛発売中……ご購入頂いたみなさん、ありがとうございました」
(ありがとうございました)
恭文「というわけで、鮮烈な日常第48話です。今回はビルドファイターズ無印第十四話から。
ライナー・チョマーさんが時代先取りで、ナノラミネートアーマーとか使ってますが……僕は元気です」
あむ「手紙!? それで次はスピードレーシング……新OPに変わってすぐ、これだったよね! 今思い出してもムカつくし!」
恭文「でもアイツら、馬鹿だよねー、これでCが捕まったら、とんだスキャンダルだよ!」
あむ「あ、確かに」
(きっとCは口が固かったのだろう)
恭文「そんなCを追う形で、休み半分な鷹山さん達も静岡に。なお捕まえたら、そのままお休みに入って観戦モードだそうです」
あむ「……ねぇ、またドンパチになるんじゃ。アンタも入れて三人揃ったら……!」
恭文「僕を入れないで! 僕はいたって普通の忍者なの!」
あむ「アンタは自覚しろ!」
(『ホントだよ! 俺達こそいたって普通のお巡りさんなの!』
『そうそう! もう八十年代や平成初期のノリでは暴れられないんだよ! いろいろうるさくてさ!』)
あむ「そんなの関係なしでドンパチしてるじゃん! で……ここで鷹山さんの婚約話か」
恭文「さらば あぶないDの前振り話となります。いい人だったんだよ。
奇麗で、聡明で、チャーミングで……シオン達のことも可愛がってくれて」
あむ「……うん」
(二人とも、ちょっとしんみり)
恭文「それはそれとしてあむ、今日は」
あむ「ハロウィン……!」
恭文「今年もジャックランタン達が、カボチャランタンを作ってくれて……奇麗だねー。ありがとう」
ヒメラモン「毎年のことだから、オレも大分手慣れてきた。今年は会心の出来だ」
ジャックランタン・ジャックフロスト「「ヒーホー♪」」
(ジャックコンビ、大はしゃぎでぴょんぴょん。ヒメラモンも尻尾をフリフリ)
恭文「ところでさ」
フィアッセ・ぱんにゃ&茨ぱんにゃ「「うりゅりゅー! うりゅりゅりゅ、りゅー♪」」
酒呑ぱんにゃ「うりゅ……♪」
卯月ぱんにゃ「うりゅー♪」
白ぱんにゃ「うりゅー♪」
黒ぱんにゃ「うりゅ……?」
恭文「……卯月は結局ぱんにゃのコスプレにしたんかい!」
あむ「そう言えば! ていうか酒呑童子までー!」
酒呑童子「いやぁ、これがやってみると結構楽しいんよ。鬼の本能が目覚めるというか」
恭文・あむ「「それはアウトォォォォォォォ!」」
(なお酒呑童子が最近打ち立てた目標は『孫悟空に勝つ』だそうです。
本日のED:じん ft. メイリア from GARNiDELiA『daze』)
恭文「ならば僕も……以前拍手でやったアレを!」
(ぽん!)
蒼ぱんにゃ「うりゅー!」
あむ「アンタもぱんにゃになるなぁ! ていうか術!? 変化の術!?」
白ぱんにゃ「うりゅ……りゅりゅりゅ! りゅー♪」(嬉しそうに、蒼ぱんにゃにすりすり)
茨ぱんにゃ「むむ、そうきたか! だがそれ、コスプレというやつじゃないだろ!」
あむ「うん、その通りだ! ただの変化だし!」
フェイト「ふぇ……ふぇ……前が見えないよー。ふぇー」(なんか熱くなって危ない携帯のコスプレで登場)
ラン「……あむちゃん、あっちにツッコまなくても」
あむ「あたし一人でツッコみきれるかぁ!」
ラン「だよねー」
スゥ「みんなぁ、パンプキンパイが焼けましたよぉ」(ニコニコしながら、パイを持ってくるほんわかクローバー)
(おしまい)
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