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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory30 『戦う理由(わけ) 前編』


古鉄≪前回のあらすじ――ライバル役が出場辞退し、広橋涼さんが勝ちました。それはそうとお便りです≫

ダーグ「……またアイツか。送った精神安定剤は飲んでないのか?」


(※ 原作設定に捕らわれていては勝てないだと……ほう、それはつまり原作通りに
150mガーベラを振るう事さえできなかった僕の「パワードレッド」は駄目だと言う事かな?

それでも何とかして150mガーベラを振るいたいと、GNドライブを複数積み込んでまで
パワーと強度を実現しようとした僕の「モンスターズレッド」は見るに堪えない醜悪で
無駄だらけな悪あがきだと言う事かな?

……そこまで言うってことはさ、タクティカル・アームズにミラジュコロイド・ウイルスに
ビームの屈曲誘導にヴォワチュール・リュミエールにマガノイクタチにドラグーンシステム、
もちろん日本刀とパワーシリンダーまで搭載した「全部乗せ」な「レッドフレーム改」も
おちゃのこさいさいで「原作設定どおり」に作れるんだよね

ぷぷぷぷ。凄いなぁ流石はイタリアの伊達男。オーパーツにも匹敵するCE最強のジャンク屋、
ロウ・ギュールのメカニック技術を再現できるとはもはや人間技じゃないねぇ。


オーケー。ならば今日から僕のライバルはメガサイズ・ザクでも戦国アストレイでもない。


今のガンプラバトル界の『王道』が「想像力を詰め込んだトンデモびっくり機体」な
【ぼくがかんがえたさいきょうのガンダム】だと言うのならば

あえて150mガーベラを振るうと言う「原作を再現する為」にすべての技術を
詰み込むと言う『王道ではない道』を歩いてやる。

そして「勝利をこの手に掴む」という最も基本にして最大目的の「原作再現」を
僕のアストレイとロウ・ギュールで実現してやろう!


そしてウイングガンダム・フェニーチェ。おのれはそれだけでは終わらせない。

おのれには渾身の赤い一撃『レッドフレイム』をブチ込んでコックピットに載っている設定の
伊達男に衝撃を食らわせた上、ミラージュコロイド・ウイルスで自爆コード誤作動させてやるからな!

首を洗って待ってろやゴラァァァァ!!)


ディオクマ「……以上、ラジオネームDさんからのメールでした。では次のお便りいっくよー」

ダーグ「落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! そこはほれ、原作効果だと読まれやすいってやすっちも言ってただろ!」

古鉄≪まぁぶっ飛び効果は多いですよね、ガンダムの懐はSDも含めるとカオスそのものですし。
でもあの人はきっとファースト派だったんでしょう。アナザーは認められないんです≫

ダーグ「ウィングガンダム使ってるだろうが! どう見てもアナザー派だろうが!」

古鉄≪さてさて、続いてのお便りはこちらです≫


(※AGE-1が全壊したときのイビツ
イビツ「AGE-1は死んだんだ。いくら呼んでも帰ってはこないんだ。もうあの時間は終わって君も人生と向き合う時なんだ」

クロスボーンにAGE-1のパーツが使われていると知った時のイビツ
イビツ「AGE-1は復活するんだ。悲しみの弔鐘はもう鳴りやんだ。君は輝ける人生の、その一歩を、再び踏み出す時が来たんだ」)


ダーグ「なに達観してんだよ! 怖ぇよ! てーか飲んでないのかよ、お薬送ったのに!」

古鉄≪こちらは【キルミーベイベーは死んだんだ】に絡めたものですね。素晴らしいセンスです≫

ダーグ「え、これ有名なの!? ていうかコイツ、なんで本編に出てない描写を知ってるんだよ! 怖ぇよ!」

古鉄≪当然です。【とある魔導師と古き鉄のお話・支部】にて、そのエピソードと改造経緯は載せていますから。さて、三通目は≫


(※イビツ「そうだこれは夢なんだ。俺は今、夢を見ているんだ。目が覚めた時、大会は始まったばかり。
起きたら団員のみんなと一緒にAGE-1の雄姿を見届けて、警備員さんに注意されて、少し反省した後、大会が終わった後に反省会と称してみんなでどんちゃん騒ぎするんだ」

団員「団長が壁に向かってなんかブツブツ言ってる」)


ダーグ「達観はどうしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

古鉄≪きっとガンダムF91ナハトにがっかりしたんでしょう。というわけで今日も元気にVivid編、スタートです≫

ダーグ「やれるかぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


連絡先くらい聞いておけばよかった。そう後悔しながら走る――月曜の朝一番、聖鳳学園の廊下を走り続ける。

窓からこぼれる朝日、驚く同級生や上級生達の目……学部の違いなどもすっ飛ばし、僕は。


「ユウキ先輩!」


模型部の部室へ入った。矢継ぎ早に昨日のアレを、約束はどうなったのかと見えた背中に問い詰める。


「なぜですか! 地区予選を辞退した理由を教え……て」


でもそこで気づく。その背中がとても申し訳なさげにうなだれていて、力なんて欠片もなかった事に。

いや、それ以前の問題だった。それをユウキ先輩の背中とするなら、それは余りに大きすぎた。


「イオリか」


先輩のそれより低い声が響くと、その人は振り返った。その背中は、ゴンダ先輩だった。

以前僕達とバトルした時よりもずっと、覇気がなく悲しげな表情だった。


「ゴンダ先輩」

「ユウキ会長はここにはいない。模型部部長のユウキ・タツヤも……ここにはいない」

「それって、どういう」

「会長は、学園を無期限に休学された」


……僕達は戦う理由を奪われた。とても大きな目標が、超えなくてはいけない壁が突然いなくなったから。

そしてなんとなしでも悟る。ゴンダ先輩も事情を知らない……いや、恐らく学校の誰も。

だからゴンダ先輩はあんなにも、『僕達』に対して申し訳なくしている。先輩もまた、約束の見届け人だから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


学校が終わり、今か今かと待ち構えていたレイジに対し……僕はゴンダ先輩と同じような事しかできなかった。

ただ申し訳なく、ただ素直に事実を告げる事しかできなかった。そんな僕に背を向け、レイジは部屋のベッドに寝転がっていた。


「ははは、そうかいそうかい」


僕の方は決して見ず、気にしていないかのような体でただカレーの本を読み続ける……逆向きで。


「つまりユウキ・タツヤはガンプラバトルを辞めて、ついでに学校ってとこも辞めたわけか」

「休学した理由を聞いても誰も知らないんだ。先生方も一身上の都合としか聞いてないって」

「尻尾巻いて逃げたんだよ。俺らのガンプラに恐れをなしてな」

「それにしてはおかしすぎるよ。普通学校までは辞めたりしない」

「全くよぉ、そんな腰抜けと戦いたがってたなんてなぁ。そんな腰抜けと戦いたがってたなんてなぁ……自分がバカみたいだ」


逆向きのページを捲り、レイジは強がる。いや、きっと僕が想定以上にヘコんでいるせいもある。

大丈夫だからと、僕のせいじゃないからと、そう暗に言ってもくれている。でも受け入れられない。

その言葉は受け入れられない。僕達の約束は、そして僕達が敵と見込んだあの人は、そんなに弱い人じゃないから。


「レイジ」

「けどまぁ、野郎がいなくなったおかげで優勝がぐぐっと近づいたんじゃね? ははははは!」

「レイジ! ユウキ先輩はそんな人じゃな」


その瞬間、レイジは雑誌を投げ捨てる。そうしてベッドへ立ち上がり。


「アイツは逃げた!」


今まで聞いた事がないくらい張り詰めた叫び。見下されながらそれをぶつけられ、体が竦む。

伝わる……伝わる。レイジの嘆きが、怒りが、悲しみが。そこには愛すらも感じさせていた。


「名誉と誇りを捨てて、俺らから逃げたんだ!」


ただレイジを見上げる事しかできなかった。そうだ、レイジにとってガンプラバトルは……そして戦う理由は。

思い当たってなにも言えなくなっていると、レイジが顔を背けてベッドから降りる。そのまま静かに、部屋の入り口へ。


「セイ、もう二度とアイツの話をするな。――次は準決勝だな、勝つぞ」


そのままレイジは出ていった。一人残された僕は、テーブル上のビルドストライクを見やる。

やや夕焼け気味な光に照らされ、キャラクターホワイトのカラーリングがあかね色に染まる。

いつもとは違う表情にほんの少しだけ……本当に少しだけ、救われたような気がした。


そんな時、携帯に着信が入る。同じくテーブル上の携帯を手に取り、画面を見ると……かけてきたのは恭文さんだった。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory30 『戦う理由(わけ) 前編』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ……どうしよどうしよ。マジでどうしよ。そういう事情なら僕も口を割れないし。

でもセイ達の状態は気になるし。とにかく確認したところ、やっぱりというか……タツヤは学校から休学していた。

そしてセイは知っていた、僕とタツヤが友達だって……当然かー。レイジには訓練の時に説明してるもの。


タツヤが戻ってくるかどうかも分からない以上、確定的なところだけは説明しようと思う。

リビングのソファーに座って、僕はセイにちょっとした昔話を始めた。


「セイ、この話はレイジには内緒で口外厳禁。下手したらおのれらの出場停止にもなりかねない……いいね」

『なんですか、その前置き!』

「いいから。おのれ、ガンプラ塾って知ってるよね」

『えぇ。二代目メイジンとスポンサーであるPPSE社が主催・運営していた、世界初のビルダー・ファイター専門育成機関ですよね』

「そう……現在は完全に機能停止しているんだけど、その半年前にある高校生が入塾していた。……ユウキ・タツヤだよ」

『――! ユウキ先輩が、ガンプラ塾の元塾生!? いや、でもそれは!』


見えないけど、右手を挙げて落ち着けとついモーション。僕も冷静じゃないなぁ、行き場のない手をつい軽く泳がせる。


「言いたい事はよく分かる、ガンプラ塾は内外ともに批判の嵐だったしね。虎の穴的な厳しい実習……だけならまだよかった。
でも二代目メイジンの勝利至上主義を崇拝し、そんな教師陣は生徒の対抗意識をひたすら煽り続ける。
結果誰を蹴落としても、誰を踏みにじっても構わず、ただ勝利を目指すという集団が生まれた。
……実際のあそこは、単なる育成機関じゃない。そういった状況を勝ち抜ける、二代目メイジンのコピーを生み出す場だ」

『次期メイジンの育成機関だったというのは僕も聞いてますけど、そんなにひどかったんですか。
確かに先輩のビルダー・ファイター能力は、地区予選の誰とも比較にならない。だけど』

「簡単だよ。タツヤはそんな中でもね、ガンプラを楽しむ心――自分の戦う理由を見失わなかった。
だから塾が機能停止する少し前から、そんな塾内の雰囲気もタツヤを中心に変わっていったんだ。
……ただそんな空気を壊したのは、二代目メイジンやエレオノーラ・マクガバン達だった」

『まさか、強制退塾』

「それならまだよかったかも。機能停止したのにはね、原因があるんだよ。……二〇一一年四月。
僕が聖夜学園中等部に入った直後だ。メイジンは塾内トーナメントを開催した」


セイには言えないけど、あの『地獄』には僕も参加した。エキシビションの件でまぁ、目をつけられてね。

……あの時、それなりに悩んだっけ。フェイトやあむ達にも相談してさ。でも戦って、戦って、戦い抜いた。

その成果が今持っている携帯端末に、メールボックスにたくさん詰まっているわけで。


同時に今こうやって、静かに花開きつつある想像力の糧にもなっている。だから、逃げなくてよかったと確信していた。

さて、賢明な読者ならお気づきだろう。そう、フェイトにも相談していた……なのにダーグから話を聞いた時、アレなのよ。

フェイトには脳トレが必要かもしれない。場の空気を読まずにそう思ってしまった。


「塾生のみならず教師・塾内スタッフは全員強制参加の大イベントだ。そしてトーナメントで負けた人間は……ガンプラ塾を退塾させられた」

『じゃ、じゃあガンプラ塾が機能停止したのは……馬鹿げてますよ! どうしてそんなトーナメントを!』

「そう、馬鹿げている。でもそのトーナメントで一つの結果が出て……タツヤは約束をした」

『約束?』

「タツヤは、その約束を守りに行ったんだと思う。学校も事情を知らず、実家の人達も僕に教えてくれない。
そうなるとトーナメント――PPSE社絡みでなにかあったとしか。……ごめん」


確信がまだ持てないし、これ以上は教えられない。申し訳なくて謝ると、セイが電話の向こうで慌てた声を出す。

同時に理解してくれたはず。口外禁止と言ったのは、タツヤがガンプラ塾の関係者だから。

引いては大会主催であるPPSE社の関係者だ。変に嗅ぎまわったら問題が起きかねない。


それにレイジも……あれはこっちの常識がないから、僕やセイが止めてもPPSE社に乗り込みそうで怖いのよ。

話すにしても僕から様子を見て、その上でなんとかしたい。じゃないとマジで危ない。


『あ、いえ。その約束は……とても、大事なものなんでしょうか』

「物事は先約優先が基本……まぁ、常識だよね。それにね、僕達の友達も絡む事だから」

『そう、ですか』

「行方が分かったら首根っこを掴んで突き出すよ」

『え?』

「言ったでしょ、先約優先が基本って。それを守ったら、次はセイ達の番だ」

『はい……ありがとうございます』


お礼は言ってくれるものの、声は沈んだまま。それが申し訳なくなりつつ、情報交換を密にすると約束し電話終了。

あの壮絶なバトルと苦い終幕を思い出し、目を閉じため息。そんな僕の顔をレヴィとキリエが覗き……気配で分かるよ。


「旦那様、大丈夫?」

「なんとかね」

「ねぇねぇヤスフミ、そのトーナメントでなにがあったのかなー。その子がいなくなったの、それが原因なんだよね」

「それは俺も聞きたいな。……てーかお前も参加したんだろ、そのバトルロワイヤル」


ダーグがなぜ知っている……ついフェイトを見ると、隣のフェイトは慌てて首を振る。


「ちなみに理由は……あれだ。エキシビションマッチってのを見てな。クロスボーン・ガンダムの動きを見て気づいた……アレ、やすっちだろ」

「さすがと言うしかないねぇ。うん、その通りだよ。……まぁエキシビションマッチに参加した理由は、今回とは関係ないからまたいずれ。
とにかくそれで因縁ができてね、関係者でもないのに呼ばれたんだよ。つまり僕は」

「関係者でもないのに塾生達に引導を渡す……か。それが嫌なら負けてしまえと。で……なんだってそんな事をしたんだよ。
塾生達が気に食わなかったわけじゃないよな、今もガンプラ塾は機能停止している」

「簡単だよ。ガンプラ塾は次期メイジンを決める場。つまりトーナメントで勝ち抜けば、それは塾内最強――メイジン候補の証明。
その勝者が二代目メイジンと戦い、勝利し認められれば次期メイジンになっていたんだ」

「ではヤスフミ、その候補というのは誰ですか。候補が決まっているからこそ、ガンプラ塾も機能停止……いえ、役目を終えている」


そう言ったシュテルだけど、すぐに頭を振る。もう答えなんて出ているもの、聞くまでもなかったと自嘲の笑みすら浮かべていた。

……シュテルが言うように、ガンプラ塾は機能停止しているんじゃない。役目を終えたんだよ。

トーナメントの結果、塾内最強――候補となる人間が決まったから。それを僕は、アランは、ヤナさん達は見届けた。


「みんなも気づいている通りだよ。メイジン候補は紅の彗星――ユウキ・タツヤだ。
ただまぁ、諸事情あって襲名とかはなかったんだけど、その二代目が倒れた」

「だからタツヤ君が引っ張りだされた? で、でも学校を休学ってやりすぎじゃないかな。タツヤ君の将来にも関わるし」

「二代目メイジンが倒れた事も漏れてないもの。PPSE社も大慌てで、手段を選んでいないってところかな。さて」


携帯を取り出し、ポチポチと操作……あるところへかけてみる。


「ヤスフミ、どこにかけるの? ……あ、タツヤ君のところかな!」

「馬鹿ひよこ、お前は話を聞いていたのか。こやつでも電話が通じないと言っていただろうが」

「また馬鹿って言われたー!」


電話の相手はアラン・アダムス――ビルダー専門ではあるけど、タツヤと同じく元ガンプラ塾塾生。

そしてタツヤの才能と夢にほれ込み、自らの夢へ巻き込むにふさわしいとまで宣言した戦友。

タツヤもまたアランの夢にほれ込み、自分の夢に巻き込むとも言っている。僕ともエキシビションの関係で友達でさ。


現在アランは当初の志望通り、PPSE社ワークスチームの一員となり、日々その才能を遺憾なく発揮している。

……そう、PPSE社だよ。二代目メイジンが倒れた件も絡むなら、間違いなくなにか知っているでしょ。

なんたってアランの夢は……メイジンのガンプラを作る事なんだから。タツヤがメイジンになるなら、会社の命令なんてすっ飛ばしてくるよ。


エキシビション前からタツヤに目をつけ、一緒に戦おうって声掛けしてたくらいだし。……でも繋がらず留守電だった。


「お兄様、留守ですか」

「だねぇ。まぁ着信拒否されてないだけいいか。ストーカーに間違われない程度でいやがらせしてやる」

「理不尽だろうが、それ!」

「もう隠している事前提だな……もぐ」


電話を切り、さっと携帯を仕舞う。あとは……立ち上がって軽く伸びをする。


「じゃあ僕、作業を進めるから」

「あ、ボクもー」

「わたしも手伝うわ、旦那様」

「あの、私も」

「フェイト、その前にアドバンスド・ヘイズルを完成させよう。もうすぐなんだから」

「う、うん……分かった」


レヴィとキリエを伴い、涙目なフェイトもなだめた上で作業室へ。……体が疼いてしょうがない。

戦う理由――予想外だけど消えずには済んだ。でも、セイとレイジはどうしよう。やっぱりタツヤの友達としてはフォローしたいし。

いや、セイはまだいい。セイは元々ビルダーで、ガンプラバトルへの情熱もある。問題はレイジだ。


レイジは戦う理由をタツヤに依存していた……そこで携帯に着信。あれ、響からか。どうしたんだろうと思い、電話に出る。


「もしもし、蒼凪です」

『あ、響だぞー。……恭文』

「うん」

『お願いだ、助けてくれー! 生すかRevolutionで自分とバトルしてくれー!』

「……はぁ!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガンダムAGEのED『My World』をかけながら、ガンプラの最終調整……準決勝前に形ができてよかった。

それはテーブル上で堂々と立っているジムV。ガンダムZZに登場する量産型MSで、地味だけどカッコいいの。

両肩に背負うミサイルポッドや基本ラインはそのままに、内部機能を徹底的に煮詰めている。


とはいえそれほど独創的ではないけど、その分全体の取り回しや汎用性を追求している。

昨今のガンプラバトルのように、過剰火力や重装機体での戦い方ではない。人型兵器の可能性を追求したその名は。


「今の私が持ち出せる想像力、それをつぎ込んだ【ジム・ウンディーネ】。準決勝から頼むわよ」


本来なら世界大会用の機体。それを撫で、願いと思いをもう一度込める。……正直に言おう。

ファイターの技量は美希が上よ。デュナメスでの狙撃戦だけじゃあ対応しきれない。

ほんと、なんでもできるって凄すぎるわよ。でも……負けたくない。私はもう一度世界で、自分のガンプラと一緒に戦いたい。


それで今度は優勝を目指すの。あとは……もしかしたら怒られるかもしれないけど、頼んでみよう。

でもまた明日の話にしよう。まずは美希に勝つ……勝って、その上で。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


火曜日――響に泣きつかれ、放課後に765プロへ。作業もあるのに僕、なにしてるんだろう。

応接に通され、困り顔の赤羽根さんから説明を受ける。なお響だけど、朝から動物番組のロケに出ているのであしからず。


「……765プロ全体の持ち番組である生すかRevolution。
その中の企画である【響チャレンジ】で、響が世界ランカーとバトルしようと」

「そうなんだ。なおいきなり世界ランカーになるのはその、察してくれ。あれってガチャピンが目標だから」

「でもスタッフ内にガンプラバトルを嫌っている……というか、疑問がある人達がいる」

「反対派のみなさんいわく……ほら、やっぱり壊れるだろう? そこを気にしているようで。
ただ実際にガンプラバトル絡みの仕事はちょっとずつ多くなっているし、律子が予測した通り波もきてる。
番組プロデューサーはそこに乗りたいし、世界大会開催前となれば話題性もある。だからなんだが」

「でもスタッフのモチベーションは無視できないレベル。だから実際に響がテストバトル。
それでどういうものか生で見ようと……一応聞きますけど大会映像とかは」

「響の能力確認もあるからな、それじゃあ済ませられない」

「ですよねー」


しかも響はガンプラ制作どころかバトル経験もないまぁそうだよね、動物と仲良く暮らしているものね。

小さなパーツを扱ったり、塗料や接着剤もあるからな。動物達を大事に思っている響には辛いか。


「はははははは……この企画自体が無謀ですよ! 響チャレンジっていうか響無謀ですよ! そりゃあ反対するよ! 響も未経験でしょ!?」

「……実はそこが一番大きな理由だ。ほんとどうしたものかと思って」

「まずガンプラを作るところからでしょ。ていうか僕はバトル相手になりませんよ?
千早という大本命が待ってるのに……ガンプラを、作る所から」


なにかが引っかかって呟いた。響はガンプラ初心者、それで世界ランカー相手のバトルなんてさすがに無茶。


「だよなぁ。律子はこれができればって言ってたが、さすがに無茶だし根っこから考え直した方が……考え、直した方が」


そのどもりで気づく。赤羽根さんも同じ事を考えていた。だから僕達は前のめりになり、お互いを指差し合う。


「赤羽根さん!」

「あぁ! そうだそうだ、逆転の発想だよ! 響が初心者で、ガンプラも作った事がない……それはチャレンジする立派な理由じゃないか!」

「バトルだけじゃなくて、ガンプラ作成も世界ランカーから教わる! その上で師匠越えに挑戦!
時間がかかるなら何回かに分けて放送して、最後の師匠越えだけ生放送でバトルさせれば!」

「響チャレンジ史上最大の企画だ! どうして気付かなかったんだ、俺はー!」

「僕もですよ! あとは依頼して、受けてくれる世界ランカーがいるかどうか!」


でも条件は厳しい。日本に企画終了まで滞在できて、こういう事に協力してくれそうな奴となると……赤羽根さんも壁にぶち当たったからまた悩んでしまう。


「なぁ、世界大会優勝者は」

「カルロス・カイザーですか? 駄目ですよ、あっちはフィンランド予選がもうすぐ始まりますし」

「そっかぁ。噂に聞く二代目メイジンはどうだろう、PPSE社のワークスチームはシード扱いだよな」

「そっちはいろんな意味で駄目ですよ。……これ、オフレコにしておいてください。二代目メイジン、倒れたらしいんです」

「な……それは、本当か」


即座に声を潜めてくれるので、事務所内だけど気配に気をつけ頷いておく。


「本当です。ツテがありまして……とにかく、そんなわけでPPSE社の方は大慌てっぽいです」

「そっか。……やっぱり難しいよな。この企画はひと月とか使うだろうし、それまで日本にいてくれるとなると」

「僕も一応言っておくと無理ですよ? その企画だと、相手はそれなりに名が売れてないと」

「なぁ恭文、それならいるだろ。日本にいて、世界大会出場も決まっていて、更にこういう事へ協力しそうな奴が」

「……うん、僕も今思いついた。赤羽根さん、当てがあります」

「本当か!」


本当なので携帯を取り出し、早速ソイツに連絡。滞在費なども番組が賄うとか言えば、多分OKはしてくれるでしょ。

それにアイツなら、リカルドなら人格的にも信用できる。番組スタッフは赤羽根さんが話してくれるだろうし、僕はリカルドとの交渉だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クロスボーン・ガンダムの改造は着々と進まない。それもこれも響チャレンジが原因。

まずリカルドとの交渉は二つ返事でOKされた。それには心から感謝する。更にその足でTBSへ向かう。

僕もリカルドの知り合いとして、緊急の企画会議に参加。ロケから戻ってきた響にも会議室で説明。


「――ガンプラとガンプラバトル、なぜ模型が壊れるかもしれないのに戦わせるのか。なぜ飾っているだけじゃ駄目か」


そう言いながら会議室のテレビで流すのは、恥ずかしながら僕のバトル映像。能力証明もしとかなきゃアレだしね。


「ビルダーが、ファイターが、プラフスキー粒子が輝く中、しのぎを削るのは一体どうしてか。
みなさんが疑問なのは確かです。ただそれに対して僕は、『まずやってみてほしい』としか言葉を持ちません」

「それは、どうしてだろうか」

「簡単です」


挙手したADさんに答えつつ、僕はホワイトボードに書かれたアイディア達を右手で指差し。


「その答えをみなさんも、響自身も探すための長編企画だからです。そう……これはドキュメンタリー!」

『ドキュメンタリー!?』

「その疑問を感じ、つかみ取る! それこそが今回の響チャレンジです! みなさん、なぜ響チャレンジが好評なのかは知っているはずです!
失敗もあるのに、成功率もそこそこなのに企画が続くのはなぜか! それは響がどんな事でも本気で飛び込むからです!
ガンプラを戦わせる意味が! 精魂込めた模型を壊してまで戦う意味が分からない!? いいじゃないですかそれで!
でもやりもしないのは駄目だ! なぜ、どうして……その答えはガンプラとバトルの中にしか存在しない!」


断言した上で息を整え、改めてホワイトボードにリカルドの名前を書き込む。


「では簡単な流れを説明します。まずリカルド・フェリーニ本人の許可は取り付けました。
響はリカルドに弟子入りする形でガンプラを購入し、作り、バトル修行を積む。そうして最後にリカルド本人とのバトル。
購入・製作編を一週。バトル修行を補修作業なども含めて二週……最後の週で生バトルです」

「こちらとしてはその間にフェリーニさん本人の事も紹介していきたいと思っています。
あれです、格闘技の大会であるじゃないですか。選手紹介の時間が。あの流れも同時進行で進め、ゴール地点を意識させるんです。
これなら初心者である響でもできる……いいえ、響でなければ、今の番組スタッフでなければできない挑戦です」

「自分じゃなくちゃ、できない挑戦」

「ちゅちゅー?」

「そうだ。だから言っただろう? 答えを得るドキュメンタリーだってさ」


そうして赤羽根さんと熱弁する事、四時間――スタッフはそれならばと納得し、企画開始。

番組サイドからも改めてリカルドと連絡を取り、僕がその橋渡し役となった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……疲れたー」

「お兄様、お疲れ様でした」

「なんかお前、途中からプロデューサー復帰してなかったか?」

「今更だろ、ショウタロス先輩。しかし……まぁいいか、もぐもぐ」


ヒカリ、そのパンはどっから持ってきたの。後で僕にちょうだいな……そう、四時間だ。時刻は既に午後八時。

夜なせいか通路の照明もひときわ明るく感じ、そんな中僕は休憩所のソファーに座ってグダっていた。

トイレに行った赤羽根さんと響を待ち、あとは家に送ってもらうだけ。あはははは、今日これから戻って作業するの?


でも頑張らないとなぁ。あと明日も早朝から頑張ろう。あー、お腹空いた。夕飯もすっ飛ばしてたからなぁ。


「恭文」


でも響が戻ってきたので居住まいを正す。そうして響はそっと僕の左隣に座り、軽くもじもじ。


「その、ありがとな。当初の予定とはいろいろ変わってきたけど……うん、嬉しかったぞ」

「ううん、ツテを使っただけだし。まぁリカルドも紳士だし、アクもない性格だから上手くやってよ」

「それはもちろんだぞ! 自分も明日挨拶するし! でもあの人、相当強い……って、チャンピオンだもんな」

「世界大会の常連で、なにより機体にほれ込んでるから。好きこそものの上手なれってやつだよ」


好きこそものの上手なれ――リカルドには夢がある、野望がある。フェニーチェがいるからこそ生まれているたまごだ。

だからしゅごキャラも見えるし、こういう事にも積極的に手を貸す。友人でもあるけど、ファイターとしてのリカルドは強く尊敬してる。

同時に戦う理由の一つ、世界大会で会おうって約束もしてるしね。レイジもしていたはず、なんだけどなー。


「そう言えば恭文、新しいガンプラは」

「とりあえず仮組みして、新武装を作って、完成度三割ってところかな。決勝戦までに間に合うかどうかはギリギリ」

「そっか。あの……応援に行くな! 今週は美希ともバトルするし、春香達も見にいくって言ってるんだ!」

「じゃああんま無様なところは見せられないなぁ、機体調整はしっかりしとかないと」

「――プロデューサー」


そこでゾクッとしてしまう。慌てて右側を見ると、俯き涙目な女の子がいた。

水色ブラウスに白いロングスカート、更に明るく品もいいライトブラウンの髪を揺らす。


「「ゆ、雪歩!?」」

「お久しぶり、ですぅ。ところでお嫁さん……増えたって」

「違う違う! メール見てないの!? 誤解だから! 諸事情でホームステイしてるだけだから!」

「そうだぞ! 本当に誤解っぽいからそこは」

「よく、分かりました。だから、だから」


雪歩は涙を零して打ち震えながら、僕をビシッと指差す。


「バトルですぅ!」

「「はぁ!?」」

「私、プロデューサーみたいに戦ったりはできないけど……でもガンプラバトルならできると思って!
だからバトルですぅ! それでそれで、浮気者なプロデューサーさんにはお仕置きなんですぅ!」

「「まるで意味が分からんぞ!」」


こうして雪歩に押し切られ、明日の放課後バトル決定……おかしい、どんどん作業時間が削られていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


水曜日――放課後、唯世達やフェイト達に泣かれながらもまた765プロへ。

バトルって一体どこでやるんだろうと思っていたら、上階へ案内された。

会議室と思われるそこには、七基連結されているベースユニットが……思わず案内してくれた律子さんをガン見。


「律子さん、先走りましたね」

「失礼な事は言わないでよ! ……本格購入じゃなくて、リースだから。そこから購入プランに移行もできるし」

「あ、そう言えばありましたね。で、雪歩なんですけど」


雪歩は真向かいで黒いガンプラ片手にガッツポーズ。一体いつ作ったんだか。


「ごめん、あなたも大会中だからって止めたの。特にほら、メインガンプラが全損でしょ? 予備機があるとしても、試合前なのに」

「正直……まぁ雪歩本人にも言いましたけど、かなり迷惑ですね」

「言ったんだ!」

「響がですけど」

「そっちかー。……それくらい、あなたの事も下ろせないわけね」


あぁ、その言葉が突き刺さる。だから引き受けたし、言えなかったんだけど。予備機が一体だけだったら泣いてたよ。


「律子さん、ごめんなさい」

「別にいいわよ。ただまぁ……頑張って。いや、ほんと頑張って」

「はい……!」

≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Tower≫


ベースと僕達の足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。今回は銀色の塔が建つ平原。

これはガンダム00の軌道エレベーターだね。空にはうっすらとオービタルリングらしきものが映る。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が僕の前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「蒼凪恭文、クロスボーン・ガンダムゴースト――目標を駆逐する!」


アームレイカーを押し込むと、ゴーストは羽織っているABCマントをはためかせながら加速。

カタパルトから走る火花、狭い空間に生まれる空気の流れ、全てを斬り裂き青空へと飛び込む。

そして前方に鉄機反応。キロ単位の距離だけど、カメラが自動的に別ウィンドウを展開。正面モニターに敵機が映る。


それは黒いクロスボーン・ガンダムだった。頭部形状がやや変わり、禍々しい赤い瞳。

鋭いショットランサーを右手に抱え……いや、違う。あれは銃口が増設されたドリルランスだ。

確かコトブキヤの武器セットで似たようなものがあった。でも、まさかクロスボーン・ガンダム同士の対決になるとは。


「X2――ザビーネ・シャルの機体か!」

『ク、クロスボーン・ガンダムX2……いっちゃってくださいー!』


そこでX2のフレキシブルスラスターが可動。背部へと推力を集中させ、青い空に刻まれる黒い線となる。

とても真っすぐに、とても純粋に前を目指す。雪歩の必死さと力強さが込められた突撃……なのですれすれで左に回避。

残念ながらこちらもクロスボーン・ガンダム、機動力には自信がある。


ソニックブーム混じりで加速するX2は、小さな乱気流を生み出しながらもゴーストと交差。

ゴーストの脇を抜け、そのまますぐ小さな点となった。そして方向転換……え、あれ?

X2、あのまま大回りしようとしてないかな。ブースターの推力位置を弄らず、飛行機みたいに。


『あ、あれ……曲がらない! どうしてー! 止まってくださいー!』

「雪歩、フレキシブルスラスター! 推力位置を拡散して!」

『え、えぇ!?』


雪歩が戸惑っている間に、X2はフィールドを突き抜ける。粒子により構築された世界線結界を飛び出て場外へ。


≪BATTLE END――FIELD OUT≫


慌ててコクピットから飛び出し、飛び込みながら両手を伸ばす。そのまま床を滑って、一メートルほど停止。


「プロデューサー!?」

「恭文君!」


消えていく粒子、停止するゴーストはとりあえず気にせず、手の中にある突き刺さる感触を見やる。

突き刺さっていたのはドリルの先。貫通とかはないけど、手の肉を軽くツツいていた。


「よかったー。X2は無事だよ」

「……あ」


立ち上がって近寄ってきた雪歩に渡すと、雪歩は丁寧に受け取りしっかりお辞儀。


「あ、ありがとうございますぅ」

「ううん。ていうか雪歩、おのれ……もしかしてバトル経験は」

「実は、初めてでぇ」

「あぁ、だから自爆した……馬鹿じゃないの!? それで恭文君に勝てるわけないじゃない!」

「ごめんなさいー!」


やっぱりかー。まぁあんな突撃するくらいだし、そうじゃないかとは思った。

僕もフィールドで横たわるゴーストを回収し、傷などがないかしっかりチェックする。よし、問題なし。


「でも雪歩、そのガンプラ」

「ドリルを持ってたから……でもドリルじゃなかったから、それらしいものを買って作ったんです」

「……恭文君、翻訳お願い。ていうか、恭文君のと同じなんだけど」

「まずクロスボーン・ガンダムは本編だと計三機が登場、後の続編で『三機目』が発見されています。
ただ実験機でパーツ供給がやや安定せず、それぞれの頭部形状やメイン装備も違う有様。
雪歩が使ったX2は、ショットランサーと呼ばれる長槍をメインに使っていたんです。それがドリルと思ったんでしょ」

「あ、なるほど。じゃあこれは」


そっちは武器パーツ……と説明しかけたところで、律子さんが僕を見て怪訝な表情。


「……え、三機目? でも劇中だと三機って」

「僕が使っているゴーストは、現在連載中の続編で登場したものなんです。
本来ならこれが三機目だったけど、運搬中の事故で消失していたという設定で。
その後に本編だとX3と呼ばれる機体が送られ、登場した流れなんです」

「や、ややこしいわね。ていうか後付け?」

「いいえ、蛇の足<セルビエンテ・タコーン>です」

「蛇足!?」

「クロスボーン・ガンダムの特徴は、背部のフレキシブルスラスター四基。ようはスラスターを動かす事で、より柔軟な機動性を獲得しています。
単純に横移動もそうですし、雪歩みたいに突撃する事も可能です。まぁ適切な推力調整が必要ですけど」


そこで律子さんが注意深くスラスター観察。四基あるから、その推力を一点に集めて……という辺りは理解したようで、納得しつつ眼鏡も正す。


「とりあえず雪歩、今の調子だとあれよ……勝負にならないから。というかちょっと落ち着きなさいよ。
本当にホームステイしてるだけっぽいし、恭文君だってメイン機体が壊れてるのに」

「……ごめんなさい。私、やっぱり駄目駄目ですぅ」


そして雪歩は背を丸め、俯いてグスグス……受け止める事も大事、かぁ。

そんな雪歩の背中を軽く叩いて、コクピットベースが展開していた場所まで戻る。

雪歩がきょとんとするけど、気にせずにGPベースを取り出し手渡した。


「訓練モードも使えるから、練習してみようか」

「「え?」」

「クロスボーン・ガンダムならよく知っているもの。大丈夫、クセは強いけど視野さえしっかり持てば扱いきれるよ」

「ちょ、恭文君!? こっちはいいから! 試合に集中してくれていいから!」

「なに言ってるんですか。律子さんが僕に依頼したんでしょ? みんなにガンプラとバトルを教えてくれって」


あっさり言い切ると、律子さんの表情が呆れたものになる。でも好意的に背中を押してくれてるのは分かったので、戸惑う雪歩に笑いかけた。


「ほら、雪歩」

「プロデューサー」

「大丈夫だよ。……ごめん、不安にさせて」

「私こそ、ごめんなさい。あの……よろしく、お願いします」

「任せて」


そして水曜日――夜が来るまで、みっちり雪歩の訓練。雪歩もX2は気に入っているようで、かなり効率的に進んだ。

その上で改めてバトル。とりあえず、ゴーストの修理も必要になったと言っておく。あと、雪歩の気持ちも改めて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


準決勝――この日がようやくやってきた。作業は予定通りに進まず、わりとヤバい段階になっている。

正直笑うしかない状況だけど、レヴィやキリエも手伝ってくれているからなんとか。それに無駄ではない。

響と雪歩の事で確かにこう、予定通りには進まなくなった。だけど。


「プロデューサーさん!」


みんなより遅れて会場入り……一人足早に歩いていると、会場入り口付近で声をかけられる。

振り返ると雪歩と響、あずささん……それに春香・真・伊織・亜美・真美・やよいが駆け寄ってくる。

みんな、四年前より背が伸びて……亜美と真美、やよいに見下ろされる日々がくるとは思わなかった。


「「兄ちゃんー♪」」


更に二人が抱きついてくるので、しっかり受け止める。おー、よしよし。高校生になっても甘えん坊は変わらずだなぁ。


「プロデューサーさんー!」

「やよいー!」


なので二人を放り出し、やよいとハイタッチ。ツインテールだった髪を下ろし、大人っぽくなったやよい。

でも天使なのは変わらない。そう、変わるはずがない……変わるわけがないのだよ!


「うっうー♪」

「ちょ、兄ちゃん酷い!」

「真美達が激励してるのにー!」

「アンタ……あいかわらずやよいを可愛がりすぎでしょ」

「……プロデューサー」


そして髪が肩まで伸びた真は真剣な表情で詰め寄り……深々と頭を下げてくる。いきなり本気の謝罪を受け、シオン達と一緒に軽く下がった。


「その、ごめんなさい! 雪歩が迷惑をかけちゃって! ぼくからも謝ります!」

「ごめんなさいですぅ!」

「そこはいいって。雪歩のおかげでいいアイディアも思いついたし」

「「ほんとですか!?」」

「ほんとほんと」


そこは嘘じゃないので、不安げな二人には胸を張って笑ってやる。


「あ、でも千早には内緒ね? 向こうも真剣勝負を望んでるだろうし」

「みたいね。アンタと雪歩がバトルしたって聞いても、内容に興味なさそうだったもの。
……でもどういう因果かしら。こんな形でアンタが千早なり美希とやり合うなんて」

「それがガンプラバトルの面白いところだよ。そういや貴音は」

「朝にインタビューが入ってて、少し遅れるわ。でも試合には律子と一緒に駆けつけるって」

「そっか。しかし春香」


そこで放置気味だった春香を見やる。春香はやや髪が長くなり、雰囲気が大人っぽくなっていた。

まぁもう二十歳超えてるしねー。お酒も飲めるし、結婚だって自分の判断でできるし。

でも天真らん漫な明るい笑顔は変わらず、今も僕を見てドギマギし始める。


「な、なんですか? いやー、あれですか。久々に見る春香さんは大人っぽくなってて素敵ーとか」

「相変わらず閣下だよねぇ。そろそろIKIOKUREでしょ」

「むかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! そっちこそ相変わらず意地悪ですよね! そもそも私は閣下じゃないー! ね、みんな!」


すると素晴らしい連帯感……みんなは春香を大きく避け、無言で会場へ歩き始めた。なので僕もついていこう。


「あれ、なんで引いちゃうの!? カムバック! 温かい絆カムバックー!」

「さ、行くぞ行くぞー。恭文だって試合あるんだし」

「そうねー。でも楽しみだわー、千早ちゃんと美希ちゃんがバトルだものー」

「私にも注目してー! うぅ……プロデューサーさんの馬鹿!」

「僕は悪くないと思うなぁ」

「悪いですよ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


試合時間がやってきた。だから緊張もしているし、正直不安もある。そのせいで早めに会場入りしてしまった。

なおプロデューサーのF91ナハトは問題なく勝利。相手はMGのガンダムMk-II(Ver2)だったけど、サイズ差を物ともせず快勝だった。

ヴェスバーでのギロチンバースト連発は凄かったわね。これでプロデューサーは決勝進出。胸が躍りながら試合開始時間を待っていると。


「ちーはーやーちゃん」


一階部分の入り口から、春香が明るくやってくる。そうして横目で、ガンプラを回収しているプロデューサーも見やった。


「春香……わざわざごめんなさい、忙しいのに」

「謝るのなんてなしなし。ほら、せっかくの試合だもの。見逃すのは逆につまらないよ」

「……ありがとう」

「うんうん」


春香は嬉しそうに笑って、私の右隣へ。それに気づいたプロデューサーさんも、手を振りながらこっちにやってくる。


「ねぇ千早ちゃん」

「えぇ」

「正直に言うとね、アイドルを辞めるって聞いた時……信じられなかった」

「私も。……これは本当よ、私にとって歌は全てだったから。それで、優のため……優に歌が届けばと」

「亡くなった、弟さんだね」

「でもね、ガンプラ作りにハマって、バトルの楽しさを知って考えたの。もっと新しい事に挑戦したい。
優や家族のためとかじゃなくて、自分のわがままでなにかをやってみたい。……もちろん優の事は大事。
それだけは絶対に変わらないわ。でもこれ以上歌で、優にできる事は……もうないかもって。悔いが、ないのよ。なにも」


それに気づいた時はがく然とした。うたわなきゃ、うたわなきゃって思っていたのに……そういうものがいつの間にか消えていた。

忘れたわけでもない、どうでもよくなったわけでもない。ただ受け入れ、そこにあるものだと思えるようにあっただけ。

それがなんでだって悩んで、ちょっとだけお酒に頼って……合わないと思って一日でやめたけど。


だって、アルコール度の低い梅酒を一杯飲んだだけで頭がグラグラして……!


「そこでもう一つ気づいたの。なにかを続けていると、悔しいと思う事があるわよね。
こうなったとかああなったとか言い訳しちゃう事もある」

「うん」

「でもね、言い訳があるのは大事なのよ。悔しさって大事なのよ。それは次へ進むための原動力になる。
現状に納得してないから、抗う――戦う理由になる。私にはもうなかったの、歌で戦う理由が」

「なら、ガンプラバトルは?」

「そっちにはあった。だからまた、世界を目指している。でもそれだけじゃなくて」


戻ってきたプロデューサーを春香と二人迎える。そうして改めて、この小さくて強い人を見下ろした。

やっぱり私はこの人が好き……とても愛おしい。私が歌だけに縛られない生き方をできたのは、この人のおかげだから。

だからフェイトさんがいても、気持ちは変わらなかった。でもそれだけじゃないの。


とても強いこの人と真正面から、全力で戦える。そんな場が待っている……だから、それも戦う理由になるわけで。


「決勝で待ってるよ」

「美希には言わないんですか?」

「残念ながら、僕が戦いたいのは美希じゃない」

「酷い人です。でも……光栄です」


そのままプロデューサーと右手でハイタッチ。脇を抜け、決戦の場へと赴く。


「場を温めておいてください、奪いに行きますから」

「それはこっちの台詞だ」

「千早ちゃん、頑張って!」


応援してくれる春香にそのまま手を振り、ベースの前に立つ。勝つ……なにがあろうと、絶対に勝つ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


むむ、やっぱり千早さんには春香かぁ。まぁそうだよね、大親友だもん。でも美希だって負けてない!


「ハニー……んー」

「馬鹿!」


応援のキスを求めたのに、ハニーにチョップを食らって止められちゃう。それがちょっと嫌で膨れてると、美希の頭が思いっきり撫でられた。

うん……ハニーも最初から応援にきてくれたの。大事な準決勝だからってね、それがとっても嬉しい。


「むー、こういう時に応援するのが夫だと思うな。ていうか、家ではいっぱいしてくれるのに」

「美希、頼むから外ではもうちょっとこう……な?」

「ホントよ! アンタ、相変わらず馬鹿なんだから!」


そこで右脇から近づいてくるのは。


「わぁ、デコちゃんー!」

「デコちゃん言うな! あとくっつくな!」


デコちゃんだったので飛び込んだら、アイアンクローで止められた。む、むぅ……結婚式ぶりなのに切ないのー。

でもでも、デコちゃんが美希の応援ってのは分かるから、押し切っていっぱいハグ。でも試合時間がきたから、すぐに離れた。


「で、勝算は」

「結構厳しいかなーって思ってる。千早さん、ここまで手の内を全く見せてないんだ。狙撃ビームでちゅどーんなの」

「あとは実戦でのアドリブか。まぁ、頑張んなさい」


デコちゃんに背中を押され、そのままトタトタと駆け出す。そう……千早さんと一緒に。


「ありがと! じゃあ行ってくるね!」

「えぇ」

「ファイトだぞ、美希!」

「なの♪」


さぁいくよ……今日のためにオリジナルのファンネルストライカー、作ったんだから。絶対絶対、千早さんに勝ってやるの!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ベース越しに私も美希と対じ。先へ行く……私には戦う理由があるから。そう、プロデューサーと戦う理由が。


≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。ベースにPPSEのロゴが入り、更に私の名前が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Factory≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。海辺の工場地帯……ガンダムSEEDに出てきた、オーブ近海ね。

半分は海だけど、飛行可能な私達にとっては余り関係のないフィールドよ。あとは地形をどう生かすか。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前で前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。


同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「如月千早――ジム・ウンディーネ、狙い撃ちます!」


スフィアを押し込むと、ジムがカタパルトを滑り空の中へ飛び出す。……まずは工場地帯に隠れましょ。

美希には意味がないかもだけど、こちらも機体情報は極力与えたくない。まずは身を隠しつつ攻め立てる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


両肩に載せた大型ミサイルポッド、モールド控えめなすらっとした直線的デザイン。しかしやや鈍くささも感じるような、ふとましいフォルム。

両足は大型スラスターも装備しているためふとましく、バックパックはガンダムMk-IIと同型。

あの機体は工場地帯の陰に隠れて、海から進軍してくるストライクを待ち受ける。


「あれは……ジムVの改造機体? やっぱりガンプラを変えてきたか」

「プロデューサーさん、それって」

「ガンダムZZに出てくる量産型機体だよ。ミサイルも搭載した事で、全レンジ対応可能。量産型としてはかなり強い方だ」

「なるほど……でもどうしてだろう。設定関係はさっぱりなのに、なんだか千早ちゃんらしく見える」

「ガンプラ選びってのも、人柄が出るものだしね」


ぱっと見、フォルムはあんまり変わってない。でもライフルの形状が違うな、ただあれで狙撃?

銃身も短めだし、サブマシンガンのたぐいだと思ってたんだけど。……なにか仕込みがあるのかな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


千早さんの姿が見えない……レーダーにも反応なしってのが辛いの。しょうがないので工場の陰に隠れて一旦停止。

狙撃は基本、直線上に障害物のないところでやるもの。でもそんな場所は早々ないの。だからえっと、高いところだね。

モビルスーツが隠れられそうな大きな場所で、更に高いところ……マップを軽くサーチして、二箇所発見。


だったら陰に隠れつつ燻り出しだね。一つは二時方向で、もう一つは十時方向。死角から死角から撃たれる心配もないの。

深呼吸してから倉庫の影から出て、まずは二時方向にあるタワー頭頂部へ射撃。数百メートルの距離だけど、美希のライフルなら十分?

頭頂部を緑のビームが撃ち抜き、外壁を爆散させる。反応なし……じゃあ十時方向。


今のであぶり出しってバレたかもしれないけど、構わずにビーム発射。それはさほど経たず命中し、先ほどと同じように二つ目のタワーを直撃。

灰色の爆煙が頭頂部二つを包むけど、千早さんのガンプラは出てこない。おかしい……デュナメスなら反撃しても。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ジム・ウンディーネをMSドッグの一つに隠し、膝立ち状態でライフルを構える。両手で持って、二キロ先にいる美希を狙う。

姿は見えないけど、レーダーによるスキャンで位置はバッチリ。……でもこのままじゃあさすがに狙撃は無理。

短銃身だから威力や速度が足りない。なのでビームコンテンダー、狙撃モードオン――銃口下部のスリットから光が生まれる。


それは粒子で構築された球体状ビットとなり、十数個が出現。ジムの頭より小さいそれらは前方へ広がり、それぞれつながり合って円を作る。

まるで魔法陣のようにモールドが走り、合計五つのそれらはゆっくりと回転。

更に流体化している不可視粒子と繋がり、十メートルほどの【ライフル】と化した。


「PPL(プラフスキー・パーティカル・ライフリング)、展開完了。……行くわよ、美希」


呼吸を整え、トリガーを引く。銃口から走る桜色の弾丸は回転し、それは粒子のライフリングでより加速。

より鋭く、杭のような形状になりながら射出。倉庫外壁を容易に撃ち抜き、ソニックブームも発生させながら加速した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――!?」


そこで鳴り響く警告音。慌ててジャンプすると、ストライクが背にしていた倉庫が撃ち抜かれる。

そして次々と、一直線上に起きる爆煙。なにこれ……! 高いところじゃなくて地面に潜んでた!?

く、思考の裏を突かれた! 千早さんは……姿は爆炎にまぎれて見えない。それでもシールドを構え、右へ移動する。


とにかくビームが飛んできた方向から、大体の位置は予測できる。大きく回り込んで接近すれば……!

するとまた警告音。今度は頭上から放物線を描いて、合計八個のミサイルが襲ってくる。

慌ててイーゲルシュテルンで迎撃……でもそのうち二個は撃ち漏らして、連続発生した爆炎を突き破って出てきた。


一旦急停止し、一気に左へ加速。すれすれに誘導ミサイルを避けると、二つのミサイルは地面に着弾・爆発する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おい恭文、今のはなんだ!」

「……発想としては砲撃魔法などで用いる、制御用の輪状魔法陣? 粒子によるバレルで狙撃銃身を用意した」

「銃身を、用意!? プロデューサーさん、そういうのって長くなくちゃいけないんですか!」

「銃身の長さで弾道が安定したり、威力が増したりするしね。ただ欠点として取り回しが悪くなるのよ」

「銃本体が大きくなるからと。確かにあれなら」


春香も驚がくな狙撃術……千早、僕が魔導師だってのは知ってるけど、魔法技術に関しては全然教えていない。

だから自分の独力であの狙撃方法を確立したんだよ。さすがは世界大会経験者……一筋縄じゃいかない。

しかも粒子技術によるものなら、銃身の取り外しや携行が必要なくなる。場合によっては瞬間装着も可能かも。


「しかも美希が見ていないところでってのがミソだね。当然美希はスナイパーライフル的なのを想像する。
でも千早のジムはそんなの持っていないから……そういう心理戦を仕掛けてるんだよ」

「じゃあその布石をどう利用するか、ですか」

「美希の位置もバレてるわけだし、次の一手が重要だ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あ、危なかったの……あれ? 狙撃じゃなくてミサイルだよね、それも上からって事は……自然と回避先を見た。

そこには肩にミサイルポッドを背負った、ごついジム……だよね。とにかくジムが出現。

右手にはビームサーベル……とっさにシールドをかざし、袈裟に振るわれるサーベルを防御した。


シールド表面のコーティングと、ビーム粒子の刃が激しく衝突。バチバチと火花を走らせていた。

でもどういう事なの? ミサイルは両肩で分かるけど、ライフル……持ってないし。


『さすがね、美希! あれを避けるなんて!』

「千早さんこそ! 今のはちょっと」


強引に刃を払ってから、機体の身を捻って右飛び蹴り。ジムには吹き飛んでもらって、そのままライフルを構える。


「怖かったの!」


そこから右薙にギロチンバースト……また撃たれたミサイル八発を、発射直後に全部なぎ払っちゃう。

百メートルほど距離を取った上で着地し、海上へとUターン。爆炎の中、ばら撒かれるビーム弾丸をすり抜け上昇する。

爆炎に隠れていたジムを見つけ、ライフルを両手で構えて狙撃準備。千早さんはライフルを持っていない。


あるのはサブマシンガンだけ……だったらこっちが狙撃してやるの。……そう思っていたら、ジムがライフルを両手で構える。

それに構わずまずはこっちの一撃。そうしたらジムのライフル下から、ビームビットみたいなのが出てきた。

それが輪っかに変化し、千早さんも射撃。すると一発だけ撃たれたビーム弾丸がギュインと回転し……高速射出。


美希の撃ったビームをかき消しながら、こちらに迫ってくる。慌ててシールドをかざしながら右へ退避。

シールドに着弾――衝撃により破壊され、機体も大きく右に飛ぶ。なんなのアレ……! ビットの輪っかを通って加速した!?

工場を取り囲むように存在している、崖上へ落ちていくストライク。そんなストライクにまたもミサイル八発が射出。


放物線を描いて迫るそれは……えぇい、こうなったらオリジナルストライカー、発動なの!


「ファンネルなの!」


セットしていたファンネル六基が、開いた台座から次々射出。それらは美希の前で四方八方からビーム射出。

網の目でミサイルを撃墜し、その間に崖上へ着地する。……続けてファンネルと一緒に千早さんへ突撃。

あんな高威力な射撃を持っているなら、近づかないと危ないの。それでライフリング展開もさせない。


稲妻のように鋭く動くファンネルは、あっという間にジムを取り囲み射撃開始。どう逃げるかと思ったら……千早さんはサーベルを持って突撃。

重そうな体からは信じられない加速力で、ビットによる網の目攻撃をたやすくすり抜けた。

慌ててビットを操作し、後ろから攻撃。でも肩のミサイルポッドをパージし、ファンネルからのビームを全て遮る。


ポッドの爆発を背に千早さんは、ライフルを仕舞ってまたサーベル抜刀……左斜め上に退避。

なんとか避けた……と思った瞬間、右手で持ったライフルが爆発。切っ先がかすめていたの!?

着実に武装を奪われてる……でも美希にはファンネルがある! 反転し千早さんへ突撃しながら、美希も腰のサーベルを抜刀。


右薙の斬撃をぶつけ合って、地上すれすれに浮かびながら互いに押し込む。


『エールストライカーじゃなくてもその機動性なんて!』

「上から目線なの!」


二機は錐揉み回転しながら工場地帯上へと飛び、お互いに刃を振りきって離れる。そこでファンネルで追撃。


『それにファンネルも凄く正確――!』


とか言いながら千早さんは急上昇。ファンネルも稲妻機動は変わらず追撃すると。


『でも』


かと思ったら千早さんはサーベルを投てき。ビームだしっぱなサーベル基部は、回転しながらファンネルへと飛んでいく。

甘いの。そんなのは軽く避けて……でもそこで千早さんは、左腕の二連ビームライフルを発射。


『純粋すぎるわ、そのプレッシャー!』


三連射されたビームが、回転するサーベルに衝突。そうしたらビームの波動が周囲に広がり、ファンネル全基へ衝突した。

それでコントロールができなくなって、千早さんを目前にしながらみんな停止。その上続く第二・第三の波動に流されて爆散した。


「なの!?」

『これがビームコンフューズよ!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「プロデューサーさん、今のは! ビームのがバーンって! バーンって!」

「……ビームコンフューズ。劇場版機動戦士Ζガンダム第三作で、カミーユがやっていた技だよ」

「お兄様と一緒に見て、出てきたアレですね」

「あの唐突に出てきたやつかよ! よくできるな!」


サーベルを投げ、ライフルのビームを直撃。そうしてIフィールドの反発力を利用し、ビームの波動を拡散するのよ。

それで遠隔誘導されているファンネルを撃ち抜き、爆散させるという荒業。前置きもなく出てきたから、めっちゃ驚いたっけ。

これで美希はサーベルとバルカン以外の武装全てを奪われた。当然落ち込む暇も与えられず、千早へ突撃するしかなく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


袈裟・逆袈裟・右薙・唐竹――次々と斬撃をぶつけ合いながら、美希と何度もせめぎ合う。

こっちのライフルは抜かせずというのが方針みたい。そして動きもかなり鋭い……!

左腕のシールドライフルは根本から切り落とされ、向こうのイーゲルシュテルンでボディやメインカメラが叩かれる。


でもそれはこちらも同じ。左肩アーマーを刺突で落とし、反撃で胸元を浅く斬られながらもバルカン連射。

向こうの頭部を中心に攻撃し、右のイーゲルシュテルンを粉砕する事に成功する。

それで喜んだ隙を突き、美希がジムの胸元へ蹴り……それをおとなしく受け吹き飛ばされると、美希が持っていたサーベル投てき。


慌てて左腕を盾にして防ぐけど、粒子の刃は腕を貫通、更に左胸元も浅く抉る。美希は衝撃に揺れるジムへ迫り、突き刺さったままのサーベルを掴み。


『もらったの!』


このままジムを断ち切ろうとする。……今度はこちらがストライクを蹴り飛ばし、強引にサーベルを抜かせる。

振るわれる前に距離を取って着地すると、一瞬ジムの動きが止まる。ストライクは身を翻し、また突撃。


「……しょうがないわね」


サーベルを唐竹に振るい投てき。迫るそれを斬り払い、美希はジムへ肉薄――刃を突き出してくる。

冷静に……本当に冷静に、リミッター解除した上でビームコンテンダーを取り出し、片手で構える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


千早さんはライフルで迎撃……それは判断ミスだよ。サブマシンガンなんかじゃ今の美希は倒せない。

サーベルの切っ先が銃口へ触れるか触れないかという刹那、美希は勝利を確信する。

……そしてごう音が響く。その瞬間を美希は、一生忘れられないと思う。それくらい鮮烈で、強烈だったから。


銃口から放たれたビーム弾丸……変哲もないはずのそれが、サーベルの切っ先に衝突。

でも美希のサーベルだって強化してる、だから貫けると思った。なのに弾丸は、回転しながらサーベルの粒子を散らしていく。

更にサーベル基部を、持っていた腕を抉り、そのまま肩関節へ到達。更に胴体部にも派手な大穴を開け……視界が一気に揺れ動く。


着弾の衝撃でストライクが吹き飛んだんだと気づいた瞬間、あんなに近かったジムとの距離が一気に離れた。


「なん、なの」


勝っていた、勝つつもりだった。千早さんには結局アイドルでは勝てなかったけど、バトルなら……なのに。


「なにが、起こったの! なにをしたの……千早さん!」


そしてストライクは派手に爆発。そのごう音が耳をつんざき、モニターの視界が一気に黒くなる。

わけの分からなさと悔しさが一気にこみ上げて、瞳から軽く涙がこぼれた。


≪BATTLE END≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あれで決まるかと思ったら、奥の手を出してきたよ。サーベルを投てきし、ほんの少しだけ突撃の勢いを殺す。

その上でライフルを構え、超高出力のビーム弾丸をぶっぱなした。大きさはそれほどじゃないけど、圧縮率が半端ない。

フィールドと同じく物質化しているんじゃないかってレベルだよ。それがサーベルをいとも簡単に散らし、右腕と胴体部を完全粉砕。


結果ストライクは吹き飛び爆散だよ。見ていて寒気のする威力だった……あれは、多分ナタだと斬れない。


「プロデューサーさん、あれ……!」

「見ての通り、超高出力・高圧縮した粒子弾丸だよ。考えれば当然の事だよ。
粒子ライフリングの生成に、狙撃弾丸生成。更にマシンガン的な軽量弾丸も撃ち分けられる」

「出力調整式のライフル、ですか。その振り幅を徹底的に高めた感じでしょうか」

「棄権したザクアメイジングと同コンセプトだな。遠中近に対応した、万能人型兵器……勝てるのか、お前」

「勝つしかないでしょ」


ヒカリにはそう答え、目を閉じ深呼吸。これで手の内が全て……とは思わない方がいい。

あのガンプラから発せられているオーラはそんなレベルじゃない。新しいクロスボーン・ガンダム……絶対に仕上げてやる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


危なかった……まさか、コンテンダーモードまで使わされるなんて。来週までにチューンが必要ね。

それでも予想していたよりは損傷軽微。ジム・ウンディーネにはお礼を言って、しっかり回収する。


「千早さん」


ストライクを回収した美希が、不満そうに頬を膨らませた。その仕草だけ見ると出会った頃となにも変わらない。


「なんなのあれ! さすがにわけが分からないから教えてほしいのー!」

「企業秘密よ。来週の決勝戦があるもの」

「ならなら、それが終わったら! いいよね!」

「口外しないならいいわよ?」

「約束するの! ……ありがと、楽しかったよ」


少し困っていたんだけど、どうやら遺恨はできないらしい。全力で戦って、楽しくて……だから私達はしっかりと握手した。


「私こそ。でも初めてなのよね、こんな風に勝負は」

「だね。千早さん、あんまり勝つとか興味ない人だし……だから勝ちたかったんだけどなぁ」

「美希、なにを言っているの。あなたは勝ち組じゃない。素敵な旦那さんもいて、そんなに大きくて……くっ」

「千早さん、落ち着いてほしいの! 美希が悪かったと思うから! 深呼吸……深呼吸なのー!」


プロデューサー――ようやくですね。私、この時をずっと待っていたんです。最高の決勝戦にしましょう。それで……私が勝ちます。


(Memory30へ続く)








あとがき


恭文「というわけでついに登場したジム・ウンディーネ……全領域対応のモビルスーツとなっています。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと、ウンディーネのプロフィールはこんな感じで」



(ジム・ウンディーネ


HGUCジムVをベースとして作った、如月千早のオリジナルガンプラ。なお外見は胸元と両ソールが青く塗られたジムV。

外見上の差異はオリジナルビームライフル『ビームコンテンダー』と、今回使用した二連ビームライフルのみ。

頭部形状や胸部装甲も若干変わっているが、これは過剰変更による体捌き悪化を考慮したためである。


ジムが持つシンプルな装甲形状をそのままに、可動部や内部構造には徹底的に手を入れている。

最大の特徴はビームコンテンダーにあり、粒子バレル展開による狙撃モードの遠距離戦。

ライフル・マシンガンモードによる中・近距離戦と全領域で対応可能。本体も取り回しを重視したため、あらゆる状況に対応可能。


中でもコンテンダーモードは強力無比で、ビームシールドやIフィールドなどの貫通も視野に入れている。


武装:頭部バルカン砲×2

ビームコンテンダー×1

二連ビームライフル×1

ビームサーベル×2

肩部ミサイルポッド×2)


フェイト「とにかく質実剛健なんだね」

恭文「ある意味量産型にあったコンセプトだよ。ジムV自体がミサイルのおかげで支援能力も持って、全領域対応型だし。
そしてこちらの方、とある魔導師と古き鉄のお話・支部で製作途中の様子などを掲載しています」

フェイト「簡単な感じなんですけど、よければご覧ください。完成版はまた……バックパック塗ってないんだっけ」

恭文「うん」


(のんびりしてたらこのザマだ)


フェイト「それでそれで……どうしよ! タツヤ君がー!」

恭文「その辺りもまた次回……ガンプラ塾のアレこれに関してはまぁ、ドキたま/すたんぷ同人版でもやったんだけど」

フェイト「エキシビションに関しては第三巻を参考にー」

恭文「そしてトーナメントはあれだね、最近販売されたビルドファイターズA第三巻のお話。そして僕が参加する意味は全くない罠」

フェイト「完全に嫌がらせだよね」


(そんな事もありました)


恭文「一応次の幕間として予定してたんだけど、こっちで番外編的にやってもよさそうだよね。
エキシビションはあれだ、ダイジェストでこんな感じでしたーって話もして」

フェイト「次のっていうか、HP版の幕間?」

恭文「それでもいいし、本編でこう……ワンピースやNARUTOがやってる感じで。
そこをやっとくと、アランやタツヤの行動もまた見方が変わってくるし」

フェイト「あ、うん。あんなノリだね。なにかリクエストなどありましたら、また拍手等いただければ……参考にもなりますし」


(回想疾風伝)


恭文「特にアランは漫画版だと熱いしねー。テレビのアランもいいけど、漫画版はまた一味違う」

フェイト「あとは同人版でも出る予定の、響チャレンジ絡みの話だね。こっちはこっちでこんな感じに」

恭文「その分響へのプレッシャーも半端ないけど、まぁ頑張ろう。そして次回、いよいよ地区予選決勝戦。
でもその前にセイ達の準決勝。相手はビルドファイターズ編の最初でも戦ったサザキ」

フェイト「トライだと妹さんが出てるよね。そして盾……やっぱり盾」

恭文「この時はまさか、サザキがここまで影響あるキャラになるとは思わなかった」


(まさかブースター系のプラモまで出て、Rギャギャも出るとは。サザキ兄妹恐るべし。
本日のED:我那覇響(CV:沼倉愛美)『ハッピー☆マテリアル』)


唯世「……なんなの、あの強さは。僕にも分かる、如月さんは強い。今まで見た試合の、誰よりも」

ダーグ「いやぁ、それはちょっと違うな。如月千早と、ジム・ウンディーネ……両方合わせて強いんだ」

キリエ「操縦技術で言えば美希って子もかなりのレベルだものね。やっぱり機体特性……それを扱いきれるかどうか」

海里「如月さんは一見地味にも見えますが、あえてシンプルにする事で扱いやすさも重視していると思われます。
現状の世界大会、その中で勝ち抜いたガンプラの逆をいくコンセプト……旧世代? いや、一回りして新世代と言うべきか」

りま「恭文はあんなのと戦うの? どうするのよ、まだ決勝戦用のガンプラは仕上がってないのよね」

りっか「え、そうなんですか?!」

アミタ「その、少々トラブルが続きまして。現状の完成度は五割いくかいかないかという感じで」



ひかる「おいおい、全損から二週間でそれなのか? マズいだろ」

やや「そうだよー! F91ナハトとかも強いけど、それで足りる感じがしないよー!」

フェイト「ど、どうしよ……そうだ。私がこういう時、頑張らないと駄目だよね。あの、奥さんとして」

レヴィ「へいとは駄目ー! ドジだからー!」

フェイト「どうしてー!? ふぇー!」


(おしまい)






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