小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory29 『最強ビルダー』
古鉄≪前回のあらすじ――あの人が無事に勝ち抜けたものの、愛機は相打ち同然に全損。そんなわけでお便りがきています≫
ダーグ「お便りだと? てーかなぜ俺が呼ばれ」
(※???「AGE-1!AGE-1!AGE-1ンンンンンンンン! ううううううわぁぁぁっぁぁぁぁ! あぁああああ……ああ……あっあっー!
あぁあああああ!AGE-1、AGE-1、AGE-1ぅううぁわぁああああ! あぁかっこいい!
かっこいい!やっほい!やっほい! 今回のAGE-1FWもかっこよかったよ!次の試合も楽し……いやぁあああああああああ!
にゃあああああああああん!ぎゃあああああ!ぐああああああああ!今回の試合でFW壊れちゃったじゃん!
あ……つまり次の試合は……AGE-1じゃない? にゃあああああああああん!
うぁああああああああ! そんなぁあああああああああ!いやぁあああああああああ!ちくしょー!
やめてやる!応援団なんてやめ……て……え!?見……てる?AGE-1が俺を見てる?AGE-1が俺を見てるぞ!
AGE-2が、AGE-3が俺を見ているぞ!AGEのガンプラを買ってる人がいるぞ!よかった……世の中まだまだ捨てたもんじゃないんだねっ!いやっほぉおおおおおおおお!
俺にはAGEがいる!やったよユリン!ひとりでできるもん!いやぁあああああああああ!
ううっうぅううう!俺の想いよAGE-1に届け!恭文君のAGE-1へ届け!……どうよ」
団員「ルイズコピペをAGE-1に即興改変する団長まじぱねーっす」)
古鉄≪以上、AGE-1ファンクラブ団長さんからのお便りでした≫
ダーグ「イビツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! なんだよこれ! テンションがおかしすぎるだろ! ルイズコピペってなんだぁ!」
古鉄≪ゼロの使い魔というアニメのヒロインですよ。詳しくはググってください。
まぁこんな悲しみも呼び起こしつつ、あの人は新しいガンプラを制作です≫
ダーグ「作り直しってレベルだもんなぁ。俺も大会が終わったら、ユニコーンを修理しないと」
古鉄≪すぐやらないんですか≫
ダーグ「プラフスキー粒子のサンプルを頼まれてな。修復はしないままって飛燕に釘を刺されてるから、部品はまるごとターミナル行きだ」
恭文「だったら僕も協力するよ。修理は地区予選後の予定だし」
ダーグ「マジか! それは助かるがいいのか!?」
恭文「そういう趣旨だったでしょうが。……あ、でもパーツの一部は確保させてもらうね。あと」
ダーグ「もちろん扱いは厳重にする!」
恭文「ならそれで……というわけで話もまとまったので、本編始まるよー」
古鉄≪AGE-1、安らかに。もちろんユニコーンも≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
東京……関西人は存在そのものや住んでいる人から目の敵にしがちやけど、ワイは違う。
袖すり合うも他生の縁――師匠の教えです。もちろん今載せてもらってる、トラックの運転手さんにも感謝感謝。
東京方面の高速道路上を走りながら、人のいいおっちゃんと世間話。あぁ、もうすぐ夜かぁ。
「しかしその年でバックパッカーとは……学校はいいのかい」
「安心してください。ちゃんと許可は取ってます。それに、乗せてくれたお礼はしますから」
どこからともなく取り出すのは、かなり大きめなガンプラ。これはHGUC【クシャトリヤ】。
機動戦士ガンダムUCに出てきた、ネオ・ジオン軍残党【袖付き】が運用しているニュータイプ専用MS。
ガンダムZZ登場の【クイン・マンサ】という巨大モビルスーツを、火力も維持したまま二十メートル級で実現した機体。
これに乗っていた、マリーダ・クルスというお人がまた美しくてー。アニメCVは銀魂の月詠さんでお馴染みな甲斐田裕子さん。
X字に広がる四枚羽、MSとしては重厚感溢れるどっしりとしたボディに、各部武装もばっちり再現。
まぁでかい分、お値段はちょーっとお高めやけど……東京へつくまでにはちょうどえぇやろ。
「東京に着くまで、楽しみに待っとってください」
もう一度言う、袖すり合うも他生の縁――そやからこそ礼は尽くすもの。ビルダーとしての基本です。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
前回のあらすじ――響と遭遇しました。唯世達と一旦別れ、店内にある休憩用ベンチに二人座る。
結婚式とかでも会ってるのに、こういうのは久々な感じがしていた。と、というかなんかプレッシャーが。
「あの、試合を見てたんだ。そうしたら恭文のガンプラ、派手に壊れてて」
「そうだったんだ、ありがとー」
「そうしたら千早と美希が、『これから勝ち抜くのは厳しいかも』とか言っていて……それで」
「やっぱ見抜かれてるよねぇ。まぁ、普通ならね」
機体は前回言った通り全損で、準々決勝クラスは誰が優勝してもおかしくない。油断したら負けてもおかしくない強敵ばっかりだ。
とにかく響に買ったココアを渡すと、響はさっと開けてそれを一口。
「でもそこは手もあるし、なんとかなるよ。心配しなくていいから」
「……恭文が言うと、本当に準備してるから恐ろしいぞ」
「初登場フラグって強力でね」
「そしてメタい発言も相変わらずだぞ! もう大人なのに……ていうか、自分も大人だし」
響は呆れた様子で、左手で自分の胸を軽く撫でる。身長が近いせいもあり、ついその大きな胸に……駄目駄目。
「あ、あのな」
「うん」
「お嫁さん……増えたんだってな。六人ほど」
響は打ち震えながらとんでもない事を……ついズッコけるけど、すぐに起き上がり手を振る。
「違う! それは違うの! 諸事情で居候してるだけだよ!」
「いや、だからお嫁さん……千早がヤンデレの目になってたし」
「本当に違うって! ……今日試合したダーグ、いるでしょ?
元々知り合いだったんだけど、アレの友達やらが短期ホームステイしてるんだよ」
「じゃあ、ほんとに? でもそのうちの一人がこう、恭文が……変態だぞー!」
「アメリカンジョークです」
「ジョークになってないぞ、それ! ……でも分かった! だったら自分も諦めないからな!」
どういう事!? 響が僕を指差し、鼻息荒く宣言。
「じ、自分はフェイトさんがいるからって頑張ってたのに……歌唄やリインとも仲良くしてるし! もうそういうのやめた! 全力でアタックしてやる!」
「ちゅちゅー!」
「現役アイドルがなに言ってるの!」
「いいんだ! 恭文が馬鹿なせいだー! ……って、大事な事を忘れてたぞ」
そうそう、アイドルだからって辺りを大事にして。
「あずささんと雪歩も気合い入り直したから、頑張ってくれ」
してないー! どういう事なの……いや、考えるまでもない! 六人の嫁って辺りだ!
「まさかその」
「ごめん。自分と同じ感じで……一応お話しするけど、こめかみヒクヒクさせてたから簡単には」
「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
広がり続ける誤解、そして増えていく悩み……試合が終わった直後なのに頭を抱え、軽く泣いてしまいました。
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory29 『最強ビルダー』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
家へ戻り……アイツはやや難しそうな顔で、リビングに座っていた。まぁりま達も心配してたからなぁ。
ダーグとの試合には勝ったものの、AGE-1が見事にぶっ壊れちゃって。壊れたっていうか破片って言った方がいい有様だし。
「ヤスフミ、AGE-1は修理できるの? あの、私も手伝うよ。接着剤を付けて……だよね」
「無理」
≪パーツの大半が粉々なんですよ? 物質変換を使わないなら、作り直した方が早いですよ≫
「じゃああの、新しく作り直せばいいのかな。それなら手伝えるよ、作り方も教わったし」
「それも無理。修理ついでにいろいろ仕込んでたから、再現しようと思ったら一週間以上かかる」
「そんなー! じゃあ次の試合はどうするの!?」
「こっちを使って、場を凌ぐしかないでしょ」
アイツが出してきたのは、青くて大きなガンプラ。ユニコーンと同型の翼型スラスターを生やし、右手には長方形型の分厚いライフル。
あれ、これって銃口が二つあるわね。それで銃身下部には薄い刃……複合武器、好きね。
「これは」
「あ、それって大会始まる前に描いてたやつじゃない」
「うん。シナンジュ・オクスタン――ライフルは実弾・ビームの撃ち分けが可能な、ドッズオクスタンランチャーに改造した。
それ以外はフォルムもノーマルなんだけどね。可動域とかを弄っているだけで……あとはF91ナハトとゴーストもあるし」
「そういえば予備機体、作るって言ってたものね。でもそれで如月千早はどうするのよ。あの子、また狙撃機体で一発だし」
「だから場を凌ぐんだよ。……AGE-1を作った経験も込めて、新しいガンプラを作る。それで決勝戦は制覇だ」
なるほど、性能をギリギリまで隠して大暴れと。相変わらず戦略家というか……心配するのが馬鹿らしいくらいいろいろ考えているんだから。
「なら私も頑張るよ。もうすぐアドバンスド・ヘイズルも完成だし」
そこでフェイトさんが全力ガッツポーズ。結果またまたディアーチェに抱かれている、アイリと恭介が不安になるわけで。
「あ、時間がないからそれは大丈夫だよ」
「どうして!? 時間がないからこそ、協力していきたいのに!」
「……フェイトさん、そりゃ駄目ですって。専門的な事をやろうとしてるんですから」
「なぁ、こやつはどうして学習能力がないのだ」
「これでもしっかりしてきてるのよ? 常識の範囲内だけは」
「ふぇー!」
あとガッツポーズはやめてほししい。でもフェイトさん、奥さんとしても力になりたいのかな。ちょっと、羨ましいかも。
「ねぇねぇヤスフミ」
そんなフェイトさんそっくりなレヴィが、アイツの後ろから思いっきり抱きつく。気温が上がっているのもあって、レヴィもキャミと薄着。
そこでフェイトさん張りの巨乳が押し付けられて、思いっきり潰れる。横から見た凄い光景に思わず息を飲んだ。
「なにかな」
「新しいガンプラって、なにを作るのかな。またAGE-1?」
「……いや、使うのは」
アイツが今度はプラモの箱を……マジでどこから取り出しているんだろうか。
とにかくそこに描かれているのは、白黒でX字型スラスターを背負ったガンダム。
ガンプラ選手権を毎週見ているおかげで、ちょっとずつ勉強できてきてるわ。
「クロスボーン・ガンダム? でもそれって」
「だから改造する。言ったでしょ、AGE-1の経験も込めてって。……見えてきてるんだ。
僕に足りなかったもの――アニメ設定に捕らわれない、自分のオリジナル技術が」
「そっかそっか! ならボクも手伝うよ! スプライトで練習相手にもなれるし!」
「いいの!? それは助かるよ! ありがと、レヴィ!」
「えぇ! ど、どうしてかなー! どうして私と態度が違うのかなー! ふぇー!」
どうやら考えはあるらしく、レヴィも安心してハグ……でもアイツ、普通に受け入れてるなぁ。
あれかしら、妹みたいな感じに見てるとかだろうか。いつもなら理性で止めてくるだろうし。
だからこそ妹キャラなディードが羨ましそうに……アンタ、やっぱ頑張りなさい。
……そこでインターホンがなる。なんだろうと思い、立ち上がって壁掛けの電話に出る。
「はい、蒼凪です」
『あ、ティアナさん? ただいま』
「歌唄!? あ、そっか! もう帰国だっけ!」
『ようやく帰ってきたぜー』
『これからはお休みたっぷりなのです! だから戻ってきたのです!』
みんなと一緒に玄関へ。ドアを開けると歌唄にエル&イルが入ってくる。
「「おいーっす!」」
「歌唄、PVロケお疲れ様……ちょっと焼けた?」
「サイパンだったしね。それはそうと」
歌唄が少し頬を赤らめ、目を閉じてくる。なのでアイツはドキマギしながらも、おかえりなさいとただいまのキス。
目の前で起こる魅惑に対し、つい胸が高鳴る。どうしよう……たまらなく羨ましい。
「ん……本当に久しぶりだから元気出てきた。あ、そうだ。唯世から聞いたけど」
そこで照れた様子だった歌唄が、腕組みしながら殺し屋の目……あまりの圧力に、恭介とアイリまでもがビクリと震える。
「また嫁が増えたそうね、六人ほど」
「六人!? アンタ……って、聞くまでもないかー!」
「そうだよ、増えてないよ!? よし、ちょっとリビング行こうか! 誰が誰か覚えがあるけど、誤解だよ!」
「覚えがあるなら事実じゃない。いいから会わせなさい、どんだけものか試してあげるから」
「だから誤解じゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
――アイリ達もいるので、戸締まりした上でリビングへ移動。その間、歌唄の殺気が半端なかったのは言うまでもない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それでかくかくしかじかと説明したところ、歌唄はようやく殺気を収めた。そうして嫁な六人をちら見。
「なんだ、そういう事だったの。でもフラグは立てたのよね」
「あ、そこ否定できないわ。実際レヴィはべったりだし、キリエは見ての通りだし」
「わたし、通い妻になるの!」
「やめてー! ようやく誤解が解けたのに!」
「ところでダーグ、だっけ。その人は」
「あー、ダーグはターミナルと連絡中です。私達がここにいるのは、プラフスキー粒子の調査が目的でしたし」
歌唄が疑問顔だけど、その辺りが進展したから……うん、進展したよ? 進展してるからね、ちゃんと。
試合も終わり、僕が本命になったって感じでさ。身内同士での潰し合いが無事終わったから。
「……おい小僧、こいつは馬鹿ひよこの妹とかではないのか」
「ば、馬鹿ひよこ!? それで妹って……もしかしなくても私の事かな! 私の事なのかな、それはー! 馬鹿ってひどいよ!」
「違う。声や外見もよく似てるけど、他人の空似なんだよ」
「ヤスフミもツッコんでー!」
「そうよ。私はフェイトさんよりはマシよ」
「歌唄ー!? ふぇー! みんなひどいよー!」
「フェイトさん、しょうがないですって。過去でもいろいろやらかしてるんでしょ?」
ティアナのもっともなツッコミ発動。フェイトは背中に鋭いものが突き刺さり、グスグス言いながら頷いた。
「まぁ納得もしてくれたところで……恭文、きて」
「へ?」
「いいから」
歌唄は僕の手を取り、そのまま客間へ引っ張り込む。……なんとなく求める事が分かり、振り返る歌唄と見つめ合う。
歌唄が顔を赤くし、やや恥ずかしがっているので僕から攻撃。歌唄を抱き締め、まずは触れるだけのキス。
また走る強烈な快感を受け入れつつ、歌唄と二人激しく唇を重ねていく。舌も絡め、さっきよりも濃厚に求め合う。
あ、あんまりこういう事を言うの、駄目だと思うんだけど……やっぱり歌唄とは相性がいいみたい。
それから両手でそっと歌唄の胸に触れる。控えめに見えるけど、歌唄が着痩せするだけでボリュームはそこそこ。
手の平にやや余るそれを撫で、もみ上げながらキスも深くする。この感触も久しぶりで、どんどん高ぶってくるのが分かる。
歌唄が苦しげに息を漏らすので、唇をそっと離した。歌唄は顔を赤くしながら、蕩けた瞳で笑いかける。
「……寂しかった」
「僕も。でもさ、学校は大丈夫なの? 出席日数とか」
「わりとぎりぎり……ミュージカル効果で、どうしても外せない仕事ばっかりだったから。
なのでここからは仕事も抑えめに、普通に女子高生よ。アンタともちょくちょく会える」
「よかった」
「なので奴らには負けないわ」
「だから誤解ー!」
ちょ、リビングに殺気を向けないでよ! 落ち着いて落ち着いて! ……もう一度キスをして、しっかり集中してもらう。
それで胸も少しの間いじめて、歌唄の腰が震え始めたところで床に座る。
「あのね、今日……このまま。できれば二人っきりがいい」
「ん、いいよ」
「でもガンプラですかー。恭文さん、好きでしたしねー」
「ていうか歌唄にも前に教えてたもんなー」
久々登場なエルとイルが近づいてくるので、軽く撫でて受け止める。いやー、この安定感はどうしたものか。
……うん、歌唄にもガンプラ作りを教えた事があって。オーディションでどうしても必要だからって事で、基礎だけさ。
「よし、なら私も手伝うわ」
歌唄は甘い表情を一気に引き締め、僕へ更に体重をかけてくる。
「さっき言った通り、控えめな女子高生だから。それに……嫁候補達には負けないわ。第三夫人だもの」
「ありがと」
「素直に受け入れてくれるんだ」
「歌唄ともコミュニケーションしたいしね」
「……ん」
もう一度歌唄と唇を重ね、さっきよりも激しく求め合う。エル達も空気を読んで下がってくれたので、遠慮なく歌唄を押し倒した。
さ、さすがに久しぶりだから我慢できない。なのでこれから……たっぷりコミュニケーションしようと思う。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
恭文とは去年の誕生日、一昨年のやり直しをした。十六歳だからもう結婚もできるし、問題なんてなにもなかった。
それで分かったのは……私が自分で思っていたより、ずっといやらしい女だという事。
上から抱き締めてくれる恭文を――その温もりに包まれ、受け止めた熱で体が何度も震えた。
やっぱり相性ってあるみたい。初めての時もたくさん求めてくれた。ふだんはヘタレなレベルで気遣うのに、その時は違う。
唇を、胸を、腰を、お尻を……それに繋がりを、キスや愛撫、腰使いで懸命に求めてくれる。
それは私も同じで、それこそ夜が明けて翌日になっても……もちろんそれは今も同じ。
一度繋がって、ノンストップで三回連続……決して離れず、ただお互いの肌と心を触れ合わせる。
そして三回目が終わり、ようやくお互い落ち着き始める。久々なせいもあって、お互い全然離れられない。
小さな体で押さえ込んでくれる恭文、それを見上げながらありがとうのキスを送る。
それで両手は私の胸をずっと……フェイトさんやレヴィ、ティアナさん達に比べると小さな胸。
一応バナナを挟むくらいの事はできるし、ジュースを絞りとる事だってできる。でもみんなを見ていると、自信はなくなるわけで。
両手で揉まれ、歪んでいく胸を見やる。その先も指や手の平で弄ばれ、体にまた快感が走っていく。
底なし沼と言うべきか、一度終わって満足しても欲しくなるというか……足りないのではなく、次が欲しくなる。
恭文も同じみたいだけど、それでも私のキスに返してくれる。余韻を楽しむのも大事……なのよね、分かるわ。
「歌唄、痛くなかった?」
「大丈夫よ。……久々だったからこう、とっても凄かった」
「僕も素敵だった。その……うん」
恭文がやや戸惑っているのは、ハーレムな状況にいろいろと戸惑いもあるせい。甘い男よね。
でもその分いつでも気遣ってくれるから、そういうところはいいというか……でも遠慮なんてしなくていいのに。
「それにね、やっぱりいっぱい欲しがってくれるのは……嬉しいの。私、スタイルだとフェイトさんには負けてるし」
「そんな事ないと思うけど」
「それはアンタが男だからよ。……だからね、嬉しいの。ね、もっと嬉しさ……感じさせてほしいな」
「……うん」
見上げながら笑って、大丈夫と頷く。だからもう一度、遠慮なくお互いの欲望を叩きつけ合う。
もう一度だけ……久々なのを言い訳に、大好きな人を独り占めにする。そうしてまたたくさん、アイツに甘い声を届けた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
三回戦が終わり、次は準々決勝――ビルドストライクの修理も必要だけど、試合が終わった翌日。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
店のカウンター、置かれた青いグフを間近で見て、僕は興奮しっぱなしです。
グフとは初代ガンダムに出てきた、陸戦型MS。青い巨星ランバ・ラルが乗って、ガンダムと幾度となく競り合った。
青いボディにツノ付き肩アーマー。左手は五連装フィンガーバルカンとシールド。
シールドには片刃のヒートサーベルが仕込まれ、手首には電撃を発する収納式ヒートロッド。
ザクとはまた違う敵機だったので、劇中の印象はより強い。あぁ、見える……砂漠で戦うグフの姿が見えるよ。
しかもただ奇麗に塗装しただけじゃない。足回りは砂などによる傷や汚れが塗装で表現され、関節部も同じく。
だからこそ情景がよりリアルに見えるんだ。アニメを読み込み、設定を読み込み、ガンプラを知り尽くしていなければ作れないよ。
「HGのグフですね、ラルさん!」
「その通りだよ、セイ君」
「凄い塗装です! 塗り分けも完璧だし、砂漠用ウェザリングが施されてる!」
更に右手で展開している、鞭状の武器【ヒートロッド】を手に取りクイクイ動かす。
「ヒートロッドもリード線で稼動できるようにしてあるんですね! 本来は固定パーツなのに! かっこいいです!」
「ふははははははははは!ベストメカコレクションとは違うのだよ! ベストメカコレクションとはぁ!
「このガンプラとなら特訓になりそうだ……! ラルのおっさん、俺らと勝負しようぜ!」
「いや、やめておこう」
「は?」
「レイジ君、ガンプラはバトルをするためだけに作るものではない。
このHGグフのように、アニメの作品世界を読み込み、忠実に再現しようとするものもある。
又はアニメにあったシーンをジオラマで再現したり、モビルスーツのディテールを自分なりの解釈で構築したり」
うんうん、そうそう。ついついバトルだーってやりがちだけど、それだけじゃないんだよ。
模型というのは表現する素材であり、模型製作は表現行為なんだ。腕組みして何度も頷く。
「そう――ガンプラには様々な楽しみ方があるのだよ」
「作って眺めるだけで楽しいのか?」
「もちろん!」
疑問なレイジには断言し、目を閉じ宇宙へ飛び込む。あぁ、見える……僕にも刻が見えるよ。
「ガンプラを通して、ガンダムという作品世界への想像を膨らませるんだぁ……!」
「……そんなもんかねぇ」
「けどラルさん、このHGグフは本当に凄いです!」
「なに、私などまだまだだよ。……噂では関西に物すごいビルダーがいると聞いている」
「え?」
「名前は忘れたが……年はそう、セイ君と同じくらいだったかな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ラルさんが気分よく帰ったので、店は母さんに任せる。自宅へ戻り、早速検索検索。
「関西、少年……ビルダー」
ウェブ、画像、リアルタイム……各種検索でヤフってみたけど、結果は芳しくなかった。
膨大な数のサイトやガンプラ写真、ツイートが引っかかって、どれだどれだかさっぱり分からない。
「……だよねー」
「セイ、前のバトルで壊れたガンプラ、直さなくていいのか」
レイジはおやつのどら焼きを大量に抱え……というか皿を抱え、部屋に入ってきた。
「安心して、今週末の準々決勝までにはちゃんと直せるから。というか、直す時ビルドストライクに手を加えたいんだ。
……準々決勝に勝ち進んだら、次の相手は、きっと、ユウキ先輩になるだろうから」
「そうか……ついにアイツとやり合えんのか――あのユウキ・タツヤと!」
レイジはやる気満々かぁ。ただ……机の上、隅に置かれた箱を見る。そこに置いてあるのは、あの時壊れたビルドストライク。
なんだかんだでミホシさんは強かった。パーツが壊れていたら、ほんとどうなっていたか。
……だから余計に不安が募る。このままじゃ勝てない、第二ブロックの試合も見たから余計にそう思う。
「あの時受けた屈辱、今度こそ晴らしてやる! 一族の名誉にかけてな……勝つぞ!」
「……正直に言うけど不安なんだ」
「んあ?」
「一つ、ザクアメイジングは更なるチューンを施されていた事。この調子なら準々決勝でも同じく。
二つ、ミホシさん戦でブースターを見せてしまった事。あれは先輩用の奥の手でもあったから」
「おいおい、そんな弱気でどうすんだよ!」
「三つ目……第二ブロック、恭文さんが戦っていたファイター達のガンプラ。
やや荒削りなところもあるけど、そのどれもがプラフスキー粒子の特性を理解・活用するものだった」
「特性? なんだそりゃ、粒子ってのはガンプラを動かすもんなんだろ」
あぁ、まずそこからかぁ。どう説明したものかと軽く考えるけど、とにかくシンプルな感じでいこうと方針決定。左にいるレイジへ向き直る。
「レイジも知っている通り、プラフスキー粒子はバトルの屋台骨だ。爆発などのエフェクトやビーム粒子にも使われている。
例えばザクアメイジングのナタ、あったよね。あれは刃を熱して斬る溶断武器だけど、その効果も粒子が関係してる」
「知ってる。てーかあれだよな、上手く作ると粒子が……ん?」
「レイジ、続けて」
「上手く作ると、ガンプラの性能も上がる。それって粒子の反応というか、働き方が変わるって事……だよな」
「そう。それがプラフスキー粒子の特性なんだよ。細かい理屈はちょっと分からないけど、そこへ踏み込んだファイターは間違いなく世界レベル。
実際世界大会で戦うガンプラは、そのどれもが粒子特性を独自ギミックに組み込んでいる」
「ビルドストライクは違うのか」
「……ビルドストライクは僕のありったけを詰め込んだ。それは間違いない。でも」
レイジの率直な質問に、言いよどんで視線を戻す。壊れたビルドストライク……ありったけを詰め込んだ、僕だけのガンプラ。
だからこそ迷ってしまう。これ以上なにをすればいいか、なにが必要なのか。それが分からなくて戸惑いばかりが生まれていた。
「それに恭文さんのAGE-1も、三回戦ではそれらしい独自システムを搭載していた。
レイジ、ユウキ先輩との対戦はリベンジだけじゃない。一つの試金石だ」
「野郎のザクは世界大会に出ている、だったな。ここで通用しなきゃ……オレ達は世界大会なんていけない」
「まぁその時は負けたって事だから、通用しないもなにもないけどね。
ラルさんが言っていた人の作品を見れば、なにか分かるかなと思ったんだけど」
レイジはファイターとして全力を尽くしてくれる。でも……僕もそうしたいのに、道筋が見えない。
それが苦しくて、悔しくて……でもちょっとだけ嬉しいとも思っていた。それは、勝った先にある悩みだから。
だから止まっているつもりだけはない。こうして悩める事、それこそが僕の欲しかった時間だと思うから。
「セイ、もっと自分を信じろ――自分のガンプラを」
「レイジは自信がありすぎだよ。なんでそこまで言えるわけ?」
「負ける事を考えてもしゃあないだろ。とにかくガンプラは頼んだ」
レイジは静かに出ていった。どら焼きは一個も食べず、ただ静かに……一人っきりの部屋でまた、ビルドストライクを見つめる。
そうしても答えは出ない。どうすればいいんだろう、なにか……なにか手は。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
カフェテラスでコーヒーを飲みながら、目当ての美女をさり気なくチェック……バストは九十近く。
青髪ボブロングな彼女はゆったりと読書中。……そんな彼女へ送るため、懐から取り出すのはHGUCVガンダム。
流線型のフォルムに、初代ガンダムのラインも組み込んだ機体だ。しかもミノフスキークラフト標準装備のため、飛行能力もバッチリ。
そうそう、コア・トップ・ボトムの三機に分離変形する関係から、整備性に跳んでいるのも特徴だろう。
そのラインを眺めてから、店員に渡して軽くお願い。さて、ガンプラが届く間にあおとお話だ。
今もテーブル上に座って、腕組みしながら疑問顔だしなぁ。
「ヤスフミが持つビルダーとしての弱点……それは【原作設定に捕らわれすぎている事】だ」
「あお?」
「原作の動きや設定を再現し、応用する事は得意。だが独自の技術を組み込んでいるわけではない。
武装も原作の延長線上であり得るもの……はっきり言えば想像力が欠如している」
「……おー」
「もちろんそれも楽しみ方だ」
あおが言う事も分かる。原作……テレビや漫画、ゲームなどで見た、戦い方や機体に憧れガンプラ製作。
それを徹底追求するのも楽しみ方だ。ヤスフミはそっち方面のビルドファイターとしては、世界クラスと言っていいだろう。
なので俺が言う捕らわれすぎているというのも、ある意味ではお門違い……方針の問題でもある。だが。
「だが【ぼくがかんがえたさいきょうのガンダム】ってのも、同じように一つの楽しみ方であり可能性だ。
そして下手をすれば中二病、誇大妄想とも取られかねないオリジナリティが、超絶機体を生み出す事もある。
……特にプラフスキー粒子の応用は、想像力が必要なんだ。世界レベルの奴らはみんな自分なりの振り切り方をしている」
「あお?」
「ユウキ・タツヤもそうだし……てーかガンプラ塾の連中がいるからな。
……お前と会う少し前、河童カラーでやたらと可愛いゾッグ使いと対戦した事がある。
その上倒したと思ったら、中からSDゾッグが飛び出してきてなぁ。めちゃくちゃ驚いたのと同時に、これが想像力かと感銘を受けた」
「……あおあおー」
「なに、そんなに心配するな。あのAGE-1を見れば分かる。ヤスフミも自分の弱点を理解し、克服しようと」
「――お待たせしました、ガンプラです」
軽く振り返り、青髪・ピンクカーディガンの彼女をサングラス越しにチェック。ほんわかとした笑顔を浮かべ、彼女は首を傾げた。
「えっとー、これは」
「あちらのお客様から」
よし、いいタイミングだ。彼女がこっちを見たので、サングラスを外しウィンク。
「あ、ちょうどよかったー。実は気になっていたんですけど、ヤスフミって蒼凪恭文くんの事ですかー?」
「……へ?」
「あお? おー♪」
更にあおは笑顔で飛び込み、彼女に抱きつきすりすり。ちょ、お前待て! なに九十オーバーの胸に……ちくしょー!
「あらあら、甘えん坊さんね。よしよし……実は私、以前あなたによく似た子と遊んだ事があるの。みうらさんって言ってたんだけど」
「おー♪」
「あら、あなたの彼女なの? うふふ、世界って狭いわねー」
「え、あの……もしかしてあなたは、ヤスフミの」
「あ、申し遅れました。私、三浦あずさと申します。恭文くん――プロデューサーさんとは長い付き合いでしてー」
「あ、ど……どうも。リカルド・フェリーニです。俺もその、大体そんな感じの知り合いで」
マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! まるで奈落に突き落とされた気分だった。
ヤスフミの知り合い……しかもこんな美人で、スタイルも抜群! だったらアイツが落としていないわけもない!
なんなんだアイツはぁ! あんな美人の奥さんだけじゃ足りないってか! そりゃそうだよな、お前はもう運命に逆らえないもんな!
ていうか俺のウィンクとガンプラに揺らがないなら、それはもう本命がいるとしか思えない! ちょ、ちょっと確認してみよう。
「ちなみに……ちなみになんですが」
「はいー」
「こう、ヤスフミとはお付き合いしてたり」
「えっと……片思い継続中、という感じでしょうかー」
事もなげに言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
つい自分のテーブルにうずくまり、運命を嘆いて拳連打。こんな、こんな人に片思いをさせるなんて!
「他三人と一緒に」
更に三人、だとぉ! 信じられず振り向くと、彼女は苦笑いしながら頷いた。……あの罪作りがぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「……おのれ、なに嘆いてるの」
「てーか気色悪いぞー」
右側から声がかかる。あずささんとそちらを見ると、レイジとヤスフミがいた。ついヤスフミに詰め寄ってしまう。
「ヤスフミィィィィィィィィィ!」
「ちょ、なに! おのれどうしたの! ……って、あずささん!? なんでこんなところに!」
「趣味のカフェ巡りですよ。それでさっき、リカルドさんに声をかけていただいてー。
……あ、そうだー。お嫁さんが六人増えたそうですねー。あらあらー」
「なんだ、ヤスフミの知り合い……って事はめちゃくちゃ強いのか、こいつは!」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 今すぐ娶れ!
いいから娶れ! お前にはその義務がある! お前にはその資格がある! あと俺にもその運を分けろぉ!」
「おのれら落ち着け! よし、一旦腰を落ち着けよう! てーかリカルドはなんでそんな荒ぶってるの! 意味分からんわ!」
「……おー♪」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
気分転換に一旦外へ。レイジはきっと恭文さんと……ていうか、あの二人は仲がいいのかな。
この間はクレープをごちそうになったって言うし。こ、今度僕からもお礼をしないと駄目だよね。
一度せっかくお店へきてくれたのに、気付かず無視しちゃった事とかあるし。ほら、レイジに正体を問い詰めた時。
……そこで軽く鬱になってしまう。あの時はこう、ありったけを詰め込んでたんだよなぁ。だから、正直思いつく事がない。
突飛な新機能は当然、既存能力の向上も……どうすればいいんだろう。一体なにがと問い続けていたところ。
「イオリくん」
後ろから声がかけられた。振り返ると、スーパーの袋らしきものを持った委員長。笑顔でさっと僕の左隣を取ってくる。
「委員長。お買い物?」
「うん、夕飯の材料。あ、それと昨日はガンプラ作り、教えてくれてありがとう。もうちょっとでできそう。
でもイオリくんは……その、大丈夫? ガンプラ、壊れちゃったし」
「あー、うん。そっちは大丈夫。大会開始前に、予備パーツや型は取ってるし」
「型?」
「オリジナルパーツの原型って、工程として考えると無駄も多いしね。
答えが見えたものは、複製できるように型を取っておくんだ。たい焼きの焼き板みたいに」
「へぇ……凄いね」
まぁ実際はまた違うんだけど、委員長は初心者だしなぁ。足りないくらいでちょうどいいと思う。
「なにか、悩み事かな」
「うん、ちょっとね。いや、修理の問題じゃないんだ。そこは本当に」
「そっか。ならうちの店に寄っていかない? パパのシャーベットを食べたら、気分転換になるかも」
「シャーベット」
さっきクレープを思い出したからだろうか、歩きながら自然と食欲が湧いてくる。……店?
「店って、委員長」
「言ってなかったっけ。わたしの家、レストランなんだ」
「そうだったんだ。じゃあおじゃまします」
「うん」
――歩いて数分、アーケード街近くにあるお店へ到着。そこは赤いシンプルな看板で、しかもライン上に名前が描かれているだけ。
店内はレンガ調の壁と品もいいテーブル達が並び、そのカウンターで黒縁眼鏡・あごひげなおじさんがいた。
調理服を着たその人は、委員長の髪をやや黒くした感じ。一瞬でお父さんだと分かるくらいに似ていた。
その人は困り顔で前に座る、黄色の帽子にタンクトップ、糸目黒髪な男の子と話していた。
「うーん、困ったなぁ」
「パパ?」
「おぉチナ、お買い物お疲れ様」
「どうかしたの?」
「いや、このお客さんが足りない代金の代わりにおもちゃでかんべんしてくれって」
「「……え」」
委員長と声をハモらせ、テーブルを見る。いや、テーブルっていうかお会計用のカウンターだった。
おサイフ携帯などにも対応した最新型レジ。その脇には組み立てられたおもちゃ……ガンプラがあった。
……ん!? あの後頭部にもガンダムフェイスっぽいものがあり、各部にクリアパーツも仕込まれたガンプラは!
間違いない、ゲーム『機動戦士ガンダム EXTREME VS』に出てきたオリジナルガンダム――エクストリームガンダムだ!
「おもちゃやなんてひどいわー。ガンプラですよ? いい感じでできてますやろー」
「いや、そういう事じゃなくて」
「アレは!」
おじさんを押しのけ、エクストリームガンダムをチェック。青と白のシンプルカラーが映え、一瞬でその美しさに取り込まれる。
「HGのエクストリームガンダム……凄い完成度! このガンプラ、君が作ったの!?」
「あんまり見んといてくださいー。ここでちゃっちゃっと作ったやつから、アラが多くて恥ずかしいわー」
「ここで作った――このガンプラを! そんな馬鹿な! というかこれをレストランの代金代わりってあり得ないよ!」
「そ、そうだよねぇ。おもちゃだし、さすがにこれじゃあ」
「この完成度ならオークションに出せば一万……いいや! 三万円はくだらない!」
「「三万円!?」」
作業環境としては劣悪。ただ組み立てるだけならともかく、塗装に近い処理も行われている。
そうだ、組み立て方は単なる部分塗装の領域。素組みからちょっと発展したくらいだろう。
なのになんだ、この処理は……! 感じる、感じるよ! このガンプラから、この子からガンプラへの愛情を!
「ねぇ君、ここの処理はどうしたの!」
「あ、そこはかくかくしかじか――って感じで」
「そんな処理が!?」
「あ、あの……イオリくん、三万円って嘘、だよね。さすがに」
「じゃあここは! ここは素組みだと色が違っていたはずだし」
「よくご存じですな! そこはぺけぺけうまうま――でして!」
「なんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「聞いて、くれない」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
イオリくんは物すごく楽しそうに、その子――八坂真央(ヤサカ・マオ)くんとお話。どうやら三万円は事実らしい。
イオリくんがあんまりに力説するもので、パパも認識を改めた。というか、半分パパが説教される形になった。
結果エクストリームガンダム……だっけ? あの子はうちのお店に飾る事が決定。ケースにも入れて、並べたサイン色紙の近くへ。
シャーベットも誤解を解いてくれたお礼として、マオくんがご馳走してくれた。そうしてお店を出て……ついてきました。
だ、だってその……踏み込むって決めたもの。
「ほんまにありがとうー。店長さんに取り直してもろうてー」
「僕はなにも。お礼は委員長に言ってあげて」
「ありがとう、助かりましたー」
「う、ううん。わたしはなんにも。あのガンプラ、大切に飾っておくね」
心地よいお昼の空気と陽気、それを楽しみながら緑いっぱいな歩道を歩く。両手には作りかけのガンプラを持って、イオリくんの家へ向かう途中。
これも踏み込むって決めたから……なんだろう、この気持ちは。ううん、分かってる。分かっては、いるの。
でもそういう風に思えるのは初めてで、なによりイオリくんは……目標に向かって突き進んでいる最中で。
その邪魔をしそうで、まだちゃんと言えなくもあって。だから、今はまだ。……それはそうとイオリくん、自覚がないんだ。
そんなわけがって様子だったパパに、物すごい勢いで語って納得させたのに。わたし、単なるギャラリーだったんだよ?
「それほどのものでもー。でもほんま羨ましいわぁ、こんな可愛い彼女さんがいはって」
「え」
「あ……うん」
彼女……彼女、かぁ。いい、人。
「ねえ君、言葉遣いからして東京の人じゃないと思うけど…こっちにはなにをしに」
「……いきたいところがあるんです。イオリ模型ってプラモ屋さんなんやけど」
「え、うち!?」
「うちって」
「だから、僕の実家がイオリ模型なんだけど」
足を止めて振り返ると、後ろにいたマオくんがイオリくんへ詰め寄る。それからまじまじと様子を見てから。
「という事はもしかして、あんたがイオリ・セイはん」
「そうだけど」
「そうか……そうなんや」
声を震わせ、右手で鋭くイオリくんを指差す。
「ようやく会えたな、イオリ・セイ! ワイの終生のライバル!」
「「ライバル!?」」
「ワイの名前はヤサカ・マオ! ガンプラバトル選手権、日本第五ブロックの優勝者で!」
自分を右手親指で差し、マオくんはそのまま天を指差し三回転半捻り……両手を広げて見栄きりした。
「世界一を目指しとるガンプラビルダーや! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! イオリ・セイ、ここで会ったが百年目ぇ!」
……迷いなくわたしとイオリくんは、不審者に背を向け歩き出す。そう、止まらず……振り返らず。
「ちょ、ちょちょい! どこへ行きますの!」
「い、いやあ……店番があるんで時間が」
「おな、じく」
「そちらさんの店は遥か向こうでしょ! 彼氏とデート中でっしゃろ、アンタ! そんなら手短に……!
ワイの名前はヤサカ・マオ! ガンプラバトル選手権、日本第五ブロックの優勝者で!」
ちらっと振り返ると……自分を右手親指で差し、マオくんはそのまま天を指差し三回転半捻り。両手を広げて見栄きりした。
「世界一を目指しとるガンプラビルダーや! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「……僕の周りって、変な人達が集まってきてると思う?」
「……それ、わたしも入ってるかな」
「いや、そんな事ない! それは絶対ないよ!」
「ほんとに?」
「ほんとだって! 委員長は、その」
「――イチャつくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! こっちを向けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
よかった。イオリくんとお話しするようになって、そう思われていたら……ショックだし。
やっぱり私は、イオリくんの瞳が――情熱が生み出す、キラキラとした輝きが好きみたいで。
だから出会いと接近を快く思ってくれるなら、それはとても嬉しい事で。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
よく分からないけど、あずささんも一緒にガンプラバーへ。そしてリカルドとレイジはバトル練習開始。
リカルドのVガンダムを早速使い、レイジは軽快に砂漠上を飛しょうする。うーん、さすがはリカルド。三日フルに使って作り上げてるね。
更にあずささんから瘴気が放たれていたので、シオン達と一緒にかくかくしかじか……マジで聞いてないとは。
「そうだったんですか。ごめんなさい、響ちゃんからも聞いてはいたんですけど」
「聞いてたらどうしてあんな瘴気が出るんですか!」
「だって千早ちゃんがあんまりに真剣で」
「ですよねー!」
お、おかしい……フェイトとお付き合いする時、お話はしているはずなのに。これは一体どうすれば。
……バトルに集中しよう。幾つも生まれる粉じん、その中をすり抜け、Vガンダムは右方向へけん制射撃。
上下スラロームを駆使し、狙いを定められないようしっかり動く。うんうん、動きが最初の頃とは格段に変わってる。
右側から走るビーム射撃をすり抜け、粉じんを置き去りにVガンダムは加速し続けていた。
さながらその様子は鳥のよう。これが水中ならばまさしく水を得た魚のよう。
「プロデューサーさん、あの白いガンプラ、フェリーニさんのに比べると小さいような」
「小さいですよ。フェニーチェが十六メートル級、対してVガンダムが十五メートル級ですから。
……ようはあれです、軽自動車に近いんですよ。ただしパワーは既存機体と変わりませんけど」
「小さい分小回りが利いて、動きも速いんですねー」
そこでVガンダムが急停止……からの右へターン。前方に走ったビームをギリギリですり抜け、左腕のユニットからビームシールド展開。
軽く飛び上がりつつビームライフルで高所狙撃。でも一発目……二発目が撃たれた瞬間、反撃の一撃が飛ぶ。
シールドに命中し、衝撃を消せずにシールドは霧散。貫通こそしなかったものの、Vガンダムは吹き飛び地面を滑る。
砂じんが舞い散る中、リカルドのフェニーチェは軽く浮上。レイジが放った二発のビームを飛び越え、近くにある岩の塔へ着地。
バスターライフルカスタムはバックパック右のホルダーへ接続し、膝立ち状態からゆっくりと立ち上がる。
その重量感あふれる動きに、ガンプラとは思えない迫力にあずささんが息を飲んだ。
立ち上がったフェニーチェは左に偏った二翼を広げ、オッドアイを逆光の中輝かせた。むむ……カッコいい。
それは言うなら傷ついた天使の降臨。倒れたVガンダムはその様を見上げ、レイジが悔しげに唸る。
『あおあおー』
セコンドに入ったあおは、『これくらいで勘弁してやろうー』と……なんという上から目線。いや、実際に上から目線なんだけど。位置的にさ。
『だな。もういいだろ、これくらいに』
『まだだ!』
Vガンダムは無手で、震えながら立ち上がる。ビームライフルは吹き飛ばされた時に落とし、左肩からは火花を走らせていた。
シールドが貫通されなかったとはいえ、完成度ならフェニーチェの方が上か。肩接続部にダメージが入ったみたいだね。
あれじゃあ左腕は使えない。でもレイジは諦めず、そして食い下がるようにフェニーチェを――リカルドを睨みつけていた。
あずささんがまた息を飲む。レイジとは初対面だけど、ただ事じゃないなにかは感じ取ってるみたい。
『まだオレは――負けてねぇ! ここでやめるって言うなら、オレの勝ちになるぜ!』
『……この意地っ張りが』
『悪いねぇ、しつこくて!』
Vガンダムが背部ツインスラスターを吹かせて加速……左腕がその勢いに煽られ、ブラブラと揺れていた。
更に右腕内部スロットを展開し、そこからサーベル基部がパージ。右手で器用にキャッチし、ビーム刃が走る。
さすがはリカルドだ。HGUCVガンダムだと、あの収納ギミックは再現されてないんだよ、それなのにバッチリだもの。
フェニーチェも左腕外側に設置された、ビームレイピア基部を取り出す。ピンク色の刃を走らせ、滑るようにフェニーチェも突撃。
『本当だぜ……全く!』
『ソイツがオレの――持ち味なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
砂漠の砂が、岩が、照りつける光が二人の激突で際限なく弾けていく。その様子に、本気のガンプラバトルに僕達も、あずささんも見入っていく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな嬉しさをかみ締めながら、イオリ模型へと到着。マオくんはショーケースを眺めながら、とても幸せそう。
「えぇなぁ。奇麗にできとるガンプラを見ると、心洗われますわぁ」
どうもそういう事らしく、糸目の奥をキラキラ……ガンプラが好きな人はみんなこうなのかな。
「ねぇチナちゃん、あの子はセイのお友達?」
イオリくんのお母さんにカウンター越しからそう聞かれても、よく分からなくて首を傾げる。意気投合はしているけど、初対面だし。
「どうなんでしょう」
「なるほど、これからお友達になるのね」
「――ここに並んでるガンプラは、みんなセイはんが作りはったんですか」
「うん、そうだけど」
「なるほどなぁ、確かに師匠の言う通りですわ」
師匠……気になるワードが出てきたので、イオリくんが小首を傾げた。
「ワイな、小さいころからガンプラが大好きで、自分で言うのもなんやけど、かなりスペシャルや思うてました。そやけどワイの師匠が」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そう、あれは旅に出る少し前――第五ブロックも余裕で勝ち抜き、心形流の道場へ報告にきた。
寺の一角にあるそこで、珍庵(ちんあん)師匠はワイのとっておきを見て楽しげに唸る。
「ええ作品や、一目見るだけでよう分かる。腕を上げたな、マオ」
「ありがとうございます、師匠! ようやくワイをガンプラ心形流の継承者として認めてくれはるんですね!」
「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!」
かと思ったら師匠に一喝され、つい尻もちついて後ずさってしまう。
「甘い! 甘いでマオ! 神泉(しんせん)のあんみつぐらい甘い考えやな! なにが心形流の継承者や! うぬぼれるのも大概にせ……げほげほ!」
「師匠!」
「マオ、世界は広いでぇ。ガンプラ心形流を極(きわ)めたこのワシでさえ、脅威に感じた男がおるんや」
「ほ、ほんまですか!」
師匠はビルダーだけやのうて、バトルの腕も超絶級。言うならガンプラバトルの東西南北中央不敗マスター・アジア。
だから信じられんかった。そんな師匠が恐れるものなんて、もはやバンダイとPPSEの倒産くらいしかあり得ん。
「その男の名は――イオリ・タケシ。東京のイオリ模型っちゅうプラモ屋の店主や」
「イオリ、タケシ……第二回世界大会の準優勝者! 超絶クオリティのHGUC初代ガンダム!」
「そう、お前も知っている通り、今なお語り継がれる伝説のビルドファイター。
その男にはセイという息子がおるらしい。お前と同じく、相当な実力者という噂や」
「――!」
「まずはその少年におうてこい。世界の広さを痛感してくるんや」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――それで、はるばる京都からやってきたんです」
「父さん、一体なにをしたの!?」
「嫌やわぁ、世界大会準優勝ですわ」
いや、多分それ以外でって事じゃ……というか知らなかった。イオリくんのお父さんってそんなに凄い人だったんだ。
ていうかガンプラ、心形流? え、そんな武術の流派みたいなものがあるって、ガンプラは……なんなんだろう。
「そんな凄い人に一目置かれてたなんて……さすが私の旦那様! セイ、パパから受け継いだ才能をババーンと見せたんさーい!」
「その必要はありません」
『え?』
拍子抜けすら覚える答え。それを放ちながら、マオくんは哀れみの視線を向ける。それもさっきまで褒めていた、イオリくんのガンプラに。
「ここにあるガンプラを見て、正直拍子抜けしましたわ」
「どういう事かな」
「どうもこうも……今言うた通りです。商品をそのまま奇麗に作っとるだけで、圧倒的に足りてない」
「なにが、なのかな。イオリくんのガンプラのなにが」
「想像力です。プラモを作る過程に置いて、最も重要な想像力――それがない」
想像力……意味が分からない。というか、いきなり馬鹿にされたのが許せない。反論しようとすると、お母さんが私の肩を掴んで止めてくる。
それから視線でイオリくんを指した。……そこで気づく。イオリくん、痛いところを突かれたって顔をしていた。
「……ここに展示してあるのは、商品の見本だから」
「ならセイはんの本気(さくひん)、見せてもらえますか? ワイも修行の末なとっておきがあるさかい」
「ガンプラバトル、するの?」
「そないな事せんでも本物のビルダーやったら、作品を一目見るだけでその優劣がわかります。そうでっしゃろ」
わたしの問いかけに答え、マオくんの糸目がより強く開かれる。その鋭い眼光に思わず身がすくんだ。
「セイはん」
「……分かった、持ってくるよ」
「勝負から逃げんというところは、ほめて差し上げます」
「あの、待って! イオリくんのガンプラ、まだ修理中で」
「大丈夫だよ、予備パーツはあるから」
そういえば言ってた。つい忘れていたけど、それならと納得する。でも想像力……どうしてなんだろう。
そう言われた時のイオリくん、すっごく辛そうだった。その辛さを否定したら、いけないと思うほどに張り詰めて。
――店からリビングに移動し、イオリくんもガンプラを組み直したらしく戻ってきた。そして二人はど真ん中で向かい合い、床に両膝をつく。
その様子はさながら決闘前の侍。お互いいつ刀を――ガンプラを抜き放つかと、ピリピリしている。
「お互い、同時に見せ合いましょう」
「分かった! これが僕の」
「これがワイの」
そして二人のガンプラが床に置かれる。イオリくんのは羽根のある、ビルドストライク。
マオくんのにも羽根がある。V字にたたまれた板っぽくて、背中に細い大砲を背負ってる。
あと両手足や肩にキラキラとした線状のパーツが組み込まれていて、よくできているのは私にも分かった。
「ビルドストライクガンダム! ……!?」
「ガンダムX魔王です! ……!」
二人はそのまま目を見開き、硬直する。身じろぎ一つせず、ただお互いを……ううん、別のところを見ている。
そういえばマオくん、さっき見るだけで優劣が決まるって言ってた。もしかして。
「二人とも、動かない? 一体どうして」
「戦っているんだと、思います」
「へ?」
「イオリくん達の想像力が、ガンプラを動かしている――!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
特訓が終わり、バーのソフトドリンクを二人とあおにおごる。なおあおはフレッシュトマトジュースです。
いや、いいバトルを見せてもらったしね。ただ。
「レイジはあれだ、人のガンプラじゃなく自分のガンプラも作ろうか。練習のたびに壊れるのもアレだしさ」
「……それを言われると弱いな」
レイジもそこは分かるらしく、オレンジジュースを飲みつつ反省顔。
不敵な態度が目立つけど、粗暴なわけじゃないらしく礼儀正しい一面もある。
アリアンって世界に覚えはないけど、レイジが王子様だっていうのは素直に信じられた。
でもガンプラを作るって辺り、素直に聞いているのはそこだけが理由じゃない。
なーんかレイジがいつもより突っ走ってる感じだったから、事情を聞いたところ。
「でもセイ、煮詰まってたんだ」
「あぁ」
セイ、ビルドストライクでタツヤに――世界レベルのガンプラに勝てるかどうか、不安になってたみたい。
それは僕も大会開始前、感じていた不安だからね。セイの気持ちはよく分かるよ。
「だからお前、まずはファイターとしての腕を上げようとしていたわけか」
「パートナーですね、すっかり」
「そんなんじゃねぇよ。アイツのガンプラが強くて、オレが弱い……そんなんじゃ一族のこ券に関わるだけだ」
「ツンデレだな……もぐ」
「まぁ大丈夫じゃないかな」
どうにもできないいら立ちもあるようなので、レイジは軽くなだめておく。疑問顔を向けてきたので、根拠はあると笑ってやった。
「どうしてガンプラを作るのか、どうしてガンプラバトルをするのか……そういう大事な事を忘れなければ」
「野郎に勝つため……は違うか。セイはずっと前からガンプラが好きで、作って楽しんで」
「楽しむってところが一番大事だよ。うん……そうなんだよね」
僕も言ってて突き刺さった。強いガンプラ、凄いガンプラって考えがちだったけど……基本は楽しい事だ。
原作再現にベクトルが向いているのも、僕が楽しいと思う事をやっているから。うん、そうだよね。
その楽しさで今までとは違う、でも今までを捨てるような事もない……新しい翼を広げていけたら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
プロデューサーさんの目が、また星のように輝き始める。この子はいつもそうだ、その輝きに私も恋をし続けている。
今まで言い寄られる事もあった。変な圧力とかではなく、誠実な好意として……でも違う。
私が運命を感じたのは、決して消えない星の輝き。時々懐中電灯みたいに暴走する、そんな自由な煌き。
そこには確かな説得力があって、レイジくんも納得した様子でジュースを飲み干した。でも、ガンプラかぁ。
実は事務所の古参メンバーはやや戸惑っていたところがあるの。アイドル活動になり得るかなとか……私ももう二十代後半だし。
でもプロデューサーさんが目を輝かせ、夢を描いている。だったら私も知っていきたい。
ガンプラ……ガンプラバトル、その先にある可能性を。それでもう一度、ずっとくすぶっていた気持ちをぶつけられたら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
宇宙の海は俺の海……誰が言ったか分からないけど、今この近海にいるのは僕達だけ。
ストライクのコクピット、伝わる操縦かんの感触、戦場の緊張感――その全てを僕達のイメージで形作る。
それもこれもマオくんのガンプラが余りに凄いからだ。できる、あのガンプラはできる。
「あの機体、ガンダムXをベースにした強襲型か!」
『よう分かりはったなぁ! そういうアンタはストライクベースやね!』
モニターに映る機影をチェック。全身に張り巡らされたエネルギーコンダクター、V字に畳まれたリフレクターとキャノン。
基本ボディラインは大きく変わっていないのに、威圧感は原典以上。正しく魔王の存在感だった。
ライフルをチャージし、魔王に発射。でもビームはあっさりすり抜けられ、逆に反撃のビームが飛ぶ。
右手のシールドバスターライフルから放たれる光。それをチョバムシールドで受け止め、なんとか前進する。
これは原典標準装備だ、でも作り込みで威力・射撃精度は桁外れ。シールドでも長くは持たない。
『出力調節のできるライフルにチョバムシールド! そのバックパック、分離して可変するんとちゃいますの!?』
「読まれてる――! けど!」
ライフルは投げ捨て、左腰のサーベルを抜き放ちながら肉薄。魔王もキャノンに装備している大型ビームソードを展開。
お互い袈裟の斬撃をぶつけ合い、ビーム同士が反発して火花を起こす。く、なんて圧力なんだ。
呻いているとダメージ警告発生。魔王腹部に装備している、ブレストキャノン四門が火を噴いた。
連射される実体弾が胴体部に命中。でも幸いな事に、ビルドストライクは傷つく事もなく押し込み続ける。
『出力もなかなか! プラの強度対策もしっかりしとる!』
「すごい――マオ君のこのガンプラ、すごい!」
本来ガンダムXは戦略機であり、砲撃戦用と言っていい。それを装備の作り込みも含め、近接戦闘でもかなりの強さを発揮している。
だとしたら……いや、それでも僕が取れる戦術は一つしかない。距離を開けちゃ駄目だ。離れれば、強化型のサテライトキャノンが来る。
「その目論見(もくろみ)はお見通しです!」
魔王が空いていた左腕を胸元でかざすと、バックラーの如きリフレクターが周囲の粒子を吸収。
そのままま圧縮したそれを放出し、衝撃波としてこちらにぶつけてくる。ビルドストライクは煽られ、そのまま吹き飛んでしまった。
「プラフスキー粒子を圧縮して放出した!? そんな使い方が!」
『そう! ガンプラ心形流の初歩――そしてここからがワイの! ガンダムX魔王の真骨頂!』
ガンダムX魔王が左手で天を指す。そう、天だ……そこには黄金色に輝く、巨大な満月が存在していた。……マズい。
「つ、月が……月が、出ている」
『月にある発電システムから送信された、スーパーマイクロウェーブを受信!」
月から走る光、それを胸元で受け止めつつ、V字型のリフレクターを展開。それは白銀に輝くXとなる。
名前を示す輝き、それは両手足のリフレクターにも伝わり、その眩さで目を細めるほどだった。
『エネルギーに変換する――これぞガンプラ心形流奥義!』
魔王はキャノンを稼働させ、右腕の下に展開。グリップを逆手で持ち、こちらへ砲口を向ける。
『ハイパーサテライトキャノン!』
「……凄いよ、マオくん。素直に認めよう」
『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
「君のビルダー能力は僕より上だ」
白銀は砲口へと収束され、そのまま吐き出される。青白い力の奔流、それは一気に三十メートルほどに広がり、直進する。
迫るそれを前に、僕は自分の敗北を悟る。だから、もう一つの可能性を想像した。……するとどういう事だろう。
飲み込まれるはずだったビルドストライクは、僕が動かしていた時の三倍……それ以上の速度で左へ加速。
奔流をすれすれで避けながら、魔王へと踏み込んでいく。
『なん、やて! なんで避けてはる!』
「僕なら避けられなかった。でもビルドストライクの正式パイロットは――レイジだ!」
想像したのはレイジの姿だった。セコンドから見たレイジの姿、レイジの操縦、それが生み出すビルドストライクの動き。
それをこの世界に叩きつけ、ビルドストライクは生まれ変わる。そうだ、僕達は二人で戦っていた!
「レイジなら戦える! 避けられる!」
マオくんはもう一度キャノンから大型ビームソードを引き抜き、ビルドストライクへと飛び込んでくる。
大丈夫、レイジも接近戦は得意……ていうか大好きだ。このまま押し切って。
――それまでだ!――
そこで第三者の声が走る。一気にイメージの宇宙は、戦場はかき消え、僕達はリビングへと戻ってきた。
恐る恐るマオ君と一緒に右を見ると、そこにはラルさんがいた。ラルさんは右手刀を僕達の間へ振り下ろし、文字通り世界をたたき割っていた。
「この勝負、ラルが預かった! ……二人の想像だけで終わらせるには、余りに惜しい戦いだ。
君たち二人が雌雄を決するのは、想像の中ではなく輝ける舞台――そう! 世界大会こそふさわしい!」
「世界……大会」
そうか、これはあくまでも想像の戦い。ファイターなら、ビルダーなら……ガンプラバトルには矛盾がある。
壊れるのになぜバトルさせるのか、壊すのになぜバトルするのか。戦わない人達はそう罵り、笑う。
でもそれは違うんだ。戦わせるのは、それが楽しいのは証明が成されるから。僕は証明したかった。
自分のガンプラが強いんだって、勝つ事で。でも僕にはそれができなかった、だからレイジと手を繋いだ。
単なる出来を競うだけでは見えない、到達できない深み……僕達の決着はそこでつけなくちゃいけない。
マオ君が第五ブロック優勝者だと言うのなら、世界を賭けた上で証明するんだ。
自分のガンプラが強いんだって、そう叫ぶために。疑いもなく、驕りでもなく、純然たる事実として叫ぶために。
「ふ……どこのどなたか存じませんが、なかなかいい事を仰りますね。お名前、聞かせてもらっても」
「ラルと言う」
「――青い巨星!? 師匠から聞いてます、初めまして! ガンプラ心形流のヤサカ・マオです!」
マオ君が土下座した!? え、師匠からって事は、その凄い人と……どんだけ有名人なの、ラルさん!
「私も珍庵から聞いているよ。そうか、関西のすご腕ビルダーというのは君の事だったのか。いやはやこのラル、思い当たるのが遅かったようだ」
「恐縮です! ……セイはん」
マオ君は土下座を解除し、すっきりした表情でもう一度僕を見る。どうやらマオ君にも異論がないらしい……分かるんだ、ビルダーだから。
さっきのイメージだって、マオ君がビルダーとして一流だから一緒に構築できた。そう、バトルもまた一人じゃできない。
「ここで終わりにしときましょ」
「うん、そうだね」
「勘違いせんといてください。ガンプラ製作勝負、ワイはセイはんより上やと思うてます」
「大丈夫、僕も同感だから。さっき言ったでしょ?」
「あ、そうでしたな」
「「ど……どこで?」」
母さんや委員長がなぜか戸惑っていた。あれ、どうしてだろう。ラルさんも見えていたようだし、問題ないんじゃ。
「せやけどビルドストライクの正式パイロットであるお人――レイジはん、でしたね。
その人がワイの想像力を上回るとおっしゃるなら、対戦しとうなりますやんか」
「きっと、驚くと思うよ」
想像の世界、そこでの戦いは終わった――そして夕焼けが差し始めた中、お店の前でマオ君をお見送り。
「マオ君、気をつけてね」
「ありがとうございます。……師匠へのええみやげ話ができましたわ! ほな、世界大会でお会いしましょ!」
「またね、マオ君!」
握手を交わし、去っていくマオ君に手を振る。その影が見えなくなるまで、マオ君を。
「ね、私の言った通りでしょう? ――お友達になった」
「はい!」
友達を見送り続けた。ヤサカ・マオ……全国、そして世界にはあんな凄いビルダーがたくさんいるんだ。
そうだ、分かっていたじゃないか。なぜバトルをするか、なぜ奇麗に飾って作るだけじゃ足りないのか。
出会いたい……その人達のガンプラを見てみたい! そしてバトルしたい、僕のガンプラで!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第七回ガンプラバトル選手権――第三ブロック日本代表予選・準々決勝。その日はやってきました。
イオリくん達の相手はオリーブ・ドラブで塗られた、悪人顔のふとましいガンダム。両肩に大きなスラスターを背負い、シールドとバズーカがある。
宇宙を重厚感溢れる加速で飛ぶそれは、隣のラルさん曰く【ガンダムGP02サイサリス】と言うらしい。
バズーカは核砲弾を撃てて、シールドはその爆風と熱を機体から守る冷却装置。核はすっごく強い砲弾で再現できるとか。
ガンダムって、凄い。そう思っていると、GP02が頭部バルカンを連射。ビルドストライクはその火線を容易にすり抜けていく。
凄い……前の試合より動きが速くなっている。ライフルがその、白色で銃口二つの大型になった以外、変わってないのに。
ビルドストライクは左手で腰のサーベルを抜き出し、そのまま左薙の斬り抜け。GP02と交差し、構えられていたバズーカ砲身を両断。
すい星のような鋭さで相手は反応できず、右肩に担いだバズーカを手放すしかなかった。
振り返りつつGP02が左腰からサーベルを抜いた。でもそこでビルドストライクからバルカン連射。
そのまま逃げず、距離をある程度保った上で弾幕展開。バルカンは手首部分を連続で撃ち抜き、派手に爆散させる。
「凄い……!」
「うむ」
『レイジ!』
『おぉよ!』
それから長方形型のバズーカを両手で構え、一気に上昇。バズーカの砲口に光が溜まり、更に銃身上部と下部が点灯。
スリットっぽいところが緑色に輝いて、まるでシグナルみたいに一つ、また一つと付いていく。それが三つ目になったところで、ビームが発射。
二つの砲口から走る赤い火花。今までみたいなピンク色や緑じゃなくて、破壊をイメージさせる赤。
それだけじゃなくて、レイジくんの姿も思い浮かぶ赤。火花が交じり合い、一瞬で大きな奔流となる。
ビルドストライクなんて飲み込めちゃいそうなそれを、GP02は向き直ってシールドで防御。
でもシールドはあっさり撃ち抜かれ、GP02も太い胴体を粉砕……上下半分に分かれながら爆散した。
≪BATTLE END≫
消えていく粒子、勝者と敗者……見慣れる事はない鮮烈な光景。そして胸に生まれるのは、優しい温かな感情。
「イオリ君たちが勝った!」
「ヤサカ・マオ君と出会い、ビルドストライクの完成度に磨きがかかってきたな。そしてレイジ君もいいマニューバだ」
「はい。あの、ガンプラの事はまだよく分からないけど、動きも違っていたのは」
「それを感じ取れるなら、チナ君もいいセンスを持っている。さて、そうなると次は」
「ユウキ先輩」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
新型ビームライフル――出力の問題で砲身は大型化し、サブグリップも装備した。連射性も若干落ちている。
ただ最大出力と射程はより向上。今の僕が想像した、マオ君との戦いで得たものを形にしている。
まぁ砲門一つだと銃身が耐え切れないから、上下二つに分けてるんだけど。通常時は下の砲門でブッパする仕組み。
あとビルドストライク本体も衝動のままにチューン。でも試行錯誤したから、予備パーツのストックがなくなったけどねー。
レイジがどう感じてくれるか不安だったけど、笑顔で右手を振り下ろしてくる。なので僕も笑ってハイタッチ。
「すげぇいい感じに仕上がったじゃん、セイ!」
「うん、これであの人が相手でも」
「……待ってろよユウキ・タツヤ、オレ達のビルドストライクが相手だ!」
(Memory30へ続く)
あとがき
恭文「というわけでMemory30。今回はビルドファイターズ第五話『最強ビルダー』が元となっています」
あむ「ヤサカ・マオがようやく本編登場だね。あとはガンダムX魔王も……それに響さんやあずささんも。でもアンタ」
恭文「というわけでお相手は蒼凪恭文と」
あむ「無視するなー! ……日奈森あむです。まずはアンタの弱点と、歌唄……ていうかなにしてるわけ!?」
恭文「結婚を前提、だから。というか指輪は贈った」
あむ「マジですか!」
(『十六歳の誕生日にね』)
あむ「そういえばアンタ、同人版とかもそうだけどあんまりガチに外観から違うのは」
恭文「元々作者の技量で、再現できるやつをって前提があったしね。そして今日出てきたマオの弟子、サカイ・ミナトが」
あむ「あぁ、今週やってたガンコレかぁ。でもアイツ、リニアで毎回通ってるの?」
恭文「現実よりも交通費が手頃なんでしょ。マオも静岡から道場へ気軽に戻ったりしてたし」
あむ「そっか。あとはお姉さんとベアッガイFが……ていうかちっこい奴が」
恭文「ネタバレは避けるので、とにかく見てください。バンダイチャンネルで見放題ですから」
(アレについてはコメントできない……なぜなら衝撃だから)
恭文「とにかく次回、ついに準決勝……千早も本領を発揮するかも」
あむ「あ、そっか。結局ガンダムデュナメスで狙撃やりまくりだもんね」
恭文「なお僕の新ガンプラについては、【とある魔導師と古き鉄のお話・支部】をご覧ください。幕間として載せていますので」
(まだまだ作っている途中ですが、コンセプトはバッチリです)
あむ「でもどうすんの、六人って誤解が完全に広まってるんだけど」
恭文「そっちは、触れない方向で。響とあずささんは味方につけたし」
あむ「……OK」
(さすがの現・魔砲少女も怖いそうです。そして次回、衝撃の展開が。
本日のED:AIRI『Imagination>Reality』)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――待ってろよユウキ・タツヤ、オレ達のビルドストライクが相手だ!」
「まぁ先輩の試合、まだなんだけどねー」
「だよなー。これで野郎が負けたら、オレ達とんだピエロだよなー」
「「ははははははははははー!」」
この時、僕達はとんでもないミスを犯していた。世の中にはフラグというものがある……そう、あるんだ。
『ただ今より準々決勝・第四試合を始めます』
その相手はサザキだった。サザキなら間違いなく……と思っていたけど、様子がどんどんおかしくなる。
場がざわざわとし、更に試合相手である先輩の姿が見えない。レイジと二人小首を傾げていると。
『準々決勝・第四試合、ユウキ・タツヤ選手が出場辞退を申し出たため、サザキ・ススム選手の不戦勝となります』
信じられない宣告が成される。正式なナレーション、疑う余地などない。
胸が震え、汗が一気に噴き出し、さっきまでの高揚感が全て吹き飛んでしまう。
「や……やったぁ! 僕の勝ちだぁ! 絶対負けると思っていたけど」
サザキがはしゃいでいるのも上手く見えない。ただレイジと一緒に震え、恐怖する。
そう、恐怖だ。先輩はなんて言っていた? それで、僕達はなんのためにここまで。
だから全てが崩れていく。その恐怖が僕達の全身を、心を支配しかけていた。
「ユウキ先輩が、出場辞退……!?」
「どういう事だよ、セイ!」
「そんな事僕に言われたって! でも、どうして」
「ユウキ・タツヤ――逃げやがったのかぁ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第二ブロック・準々決勝――三回戦までのズタボロ具合が嘘のように、F91ナハトは傷ひとつなく快勝。
これであとは準決勝……千早と美希も勝ち上がったし、次回は大荒れだなぁと思っていると。
「なんなの、これ!」
会場隅でただただ驚いていた。第二ブロックの様子を見ていたら、タツヤが出場辞退ときた。
混乱し電話をかけても、全く繋がらない。留守電になる気配も……舌打ちしながら電話を切る。
「お兄様、そう言うという事は」
「なんにも聞いてない!」
「病気や怪我か? ……もぐ」
「又は家の事情とか。アイツの父親、元々ガンプラやるのは反対だったんだよな」
「それなら僕がぶっ飛ばして和解してる!」
ショウタロスに答えながら、ある人へ電話する。その人はタツヤの小さい頃からついている、とっても大きなメイドさん。
眼鏡黒髪なその人は倉持弥奈(クラモチ・ヤナ)さん。僕とも十年来の付き合いで、ある女の子と一緒にユウキ家で暮らしている。
……電話はタツヤのそれと違って、数秒経ってすぐ繋がった。
「あ、もしもしヤナさん、お久しぶりです! 実は聞きたい事が」
『……恭文様、申し訳ありません。それについてはお話、できないんです』
「まさかお父さんが」
『いえ、ボスは恭文様やイオリ・タケシさんの説得もあって、おおらかに認めてくれています』
でもそこで即答ですか。つまりヤナさんも辞退する事情は知っていて、タツヤなりから止められていると。
普通ならそれで納得するところだけど、タツヤとは僕も約束を交わしている。もしなにかあるなら力になりたいし。
『もう一度言います、その件についてはお話しできないんです。ただ』
どう崩そうか考えていると、固かったヤナさんの声が急に柔らかくなる。
『これはあくまでも、噂の話です。私はただうわさ話をするだけ――承知しておいてください』
「なんですか」
『……二代目メイジンが倒れたらしいです』
「な……!」
『PPSE社は世界大会前という事もあり、その事実を隠しているそうですが……噂によると、ガンプラバトルはもうできそうもないと』
二代目メイジンが倒れた、しかもそれくらい状態が悪い。つまりそれは……そうか、そういう事か。
全てを察し、その場で立ち尽くしてしまう。これは、僕にはどうにもできない。タツヤが本来なら立ち向かう事だから。
実は……タツヤは一つ、とても大きな夢を持っている。それは僕とヤナさんが再会できていない、友達との新しい約束も絡む。
タツヤは夢を、先送りにしていたものを受け取りに行った。そう、ただそれだけだった。なら――セイ達は、どうすればいいのだろうか。
(おしまい)
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