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君はドラマに釘付け(日英)

日本の家の風呂は狭い割りに湯船の部分を大きく取っている。湯船に浸かると言う文化を持たない俺も、日本の家に着た時はゆっくりと温まる。
そうして風呂から出ると、日本はもふもふとした…言い表すならモチのようなでかい物体を模した抱き枕を抱えて、テレビに見入っていた。
日本の家は愛憎入り交じるドラマが多い。今日観ているのもそう言ったドラマらしかった。
あまりにも真剣に観ているものだからそんなに面白いのかと俺も観てみたら、俺からすれば酷く陳腐でちっとも面白くない。日本はよく観るなぁと感心してしまった。
仕方がないので隣に座り、冷たい麦茶を飲む。香ばしい香りのするそれで喉を潤して、日本を観察する。
本来なら見られることに抵抗を示す日本は嫌がって顔を背けたりするが、今日はドラマに釘付けなので難なく見ていられる。
僅かに潜められた細い眉に、光に依って明るい琥珀にも見える瞳、白い頬に引き結ばれた唇。ドラマの展開に固唾を飲んでいるのか、時折ひくりと頬が震える。
まだ湿気ているのか少し髪がくったりとしている。
自分の髪を摘まんでみる。硬くがさがさとしたくすんだ金髪。対して日本は柔らかな艶やかな黒髪。
なんだが負けた気分だ。

「…おーい、日本ー」

暇に耐え切れなくて日本の名前を呼ぶ。数拍遅れて日本はテレビから目を離してこちらを見た。
はい、答えた日本は不思議そうにこちらを見ている。

「…暇だから、その」

よく考えれば暇だから相手をしろ、なんてかなり図々しいんじゃないか?今さら気が付いて口ごもる。
首を傾げて日本はこちらを見て、それからああ、と頷く。

「飽きてしまわれましたか?」

「いやまあ…」

「大丈夫です、これ録画してあるので」

「あっ、そうなのか?」

ならもっと早く話しかけても良かったのでは?
思わなくはなかったが飲み込む。

「暇でしたら何か遊びますか?トランプでもチェスでも囲碁でも将棋でも…」

「ん…いや、お前と話していたい」

「あら…」

くすくす、日本は笑う。
俺は口を曲げた。

「そんなに笑うなよ…」

「いえ、そんなにお一人になるのがお嫌でしたかと思って」

「…嫌だろ、お前が目の前にいるのに」

少し顔が赤い。日本に見られているのに。日本はきょとんとこちらを見て、はい、と笑った。

「ではどのようなお話がよいでしょうか」

「んー、この前アメリカが家に来てな」

話し出した俺を見つめて、日本は頷く。
秋の夜長に響く声に、ころころと虫が鳴いた。



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あきゅろす。
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