小説
7
鼻歌を歌う目の前の友人は、仕事に来たことを忘れたように、キッチンでパスタを茹でている。トマト持参で作ったトマトソースにパスタを絡めて皿に盛る。バジルを散らしてはい、俺の前に置いた。
「ちょっとすっぱいかもだけど、きっと美味しいよ〜」
「…いや、ありがとう。だがフェリシアーノ、仕事」
「ご飯終わってから」
珍しくキッパリと言い切ったフェリシアーノに俺は思わず頷く。それに俺を真似てファルベが頷けば、いい子、フェリシアーノが頭を撫でる。
「2人にはポケモンフーズをあげよう!」
小さな皿にフーズを盛って、テーブル前で待っていた2人に渡す。2人とも手に持ってそれぞれ食べ始めた。
「ぴぃ」
「美味しい?」
フェリシアーノに聞かれてシルヴィオが頷く。口周りに付いた粉を拭き取って、フェリシアーノは小さく神への祈りを捧げてパスタを食べる。
俺も同様にして口に運んだ。
まず最初に感じたのは酸味。続いて僅かな甘味と塩。爽やかなソースに絡んだパスタはそれはそれは美味しかった。
「旨いな」
「うん、美味しいね」
ぺろりと唇を舐めるフェリシアーノに口元を拭くように言って、かりかりとフーズをかじるファルベに水の入ったコップを渡す。
受け取ったファルベはゆっくりと飲んだ。
「ぶぃ」
「飲めたか?」
「ぶいぶい!」
元気良く返事をするファルベの頭を撫でてやって、俺はフェリシアーノに仕事の話を振る。が。
「俺んとこは食事中に仕事の話はしないの」
「…ここは俺の家だぞ」
「でもお昼ご飯作ったの、俺だよね?」
なんとも納得がいかないが、梃子でも動きそうにないので諦める。仕方がないので、近況を聞いた。
まあ2週前に菊と共に会っているが。
「最近は〜アルフレッドが来て洋服買いに行ったりとか〜」
「ほう?服はリューシュのか?」
「そう!ふわふわスカートとか買ってさ」
ふわふわ、シルヴィオを見れば今日は七分袖の上にデニム生地のスカート。靴はスニーカーで動き易さを重視した服装だ。
確かこの前着ていたスカートがふわふわしたものだったから、ああ言うのを買ったのだろう。
「ほら、前に髪切ったって言ったじゃん?だからレースのブラウスにスカート買って着せてさ。紺のハイソックスにローファー履いて」
「…まあ、なんだ、可愛いのではないか?」
「そりゃ俺がコーディネートしてますから。髪を三つ編みして後ろでバレッタで留めて、ピンクのリップ塗って」
化粧までしたのか?その、少し早いのではないか?
俺の問いにフェリシアーノは瞬いてクスリと笑った。
「リップクリームだよ。今は色付き売ってるの」
「そ、そうなのか?」
「そ。それで上から下まで可愛くしてアルフレッドに返しました。
可愛いねってずっと言ってたよ」
俺の記憶にいるリューシュは伸びた髪にゆるゆるの服装だ。それをシルヴィオのように甘い服装になったと言われてもピンとこない。
一方フェリシアーノは今日のファルベの服装が気になるようだ。
「なんか可愛いね、少し…いや300〜400年くらい古い服装してない?」
「ああ、兄貴が出してきた小さい頃の俺の服らしい」
少女のようなレースのシャツにリボンを結んで下は古臭いスラックス。兄が調子に乗って髪にまでリボンが結ばれている。
極端に髪の短い少女のようだ。
「そう言えばギルベルトは?」
「お前の仕事と被った他の仕事をお願いしている。まあ判をもらう仕事だから難しくもなんともないんだが」
行った先が少し気がかりなだけで、そもそも万一戦闘になってもあの人なら大丈夫だろう。
それに、傍にはアルトがいる。
「あっごめん、被ってるなら俺は後回しでもいいのに」
「いや、久しぶりに2人でゆっくり話したいとも思っていたからいい」
そのために今日1日の休日を作るために時間を調整したのだ。
申し訳なさそうに洗い物を始めるフェリシアーノに大丈夫だからと繰り返し言う。
そもさん本来は俺が食事を作ってもてなさなければならないところを、フェリシアーノがしてくれたから時間が空いた。
ありがとう、礼にふにゃり、フェリシアーノが笑った。
「いいよ〜料理とか好きだし」
「…では、仕事が終わったら俺はクーヘンを作ろう。それまでファルベを見ていてくれないか?」
「わ、いいの?やった、お安い御用だよ!」
じゃあさっさとお仕事終わらそうね!
フェリシアーノの言葉に子供達が嬉しそうな声を上げた。
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